特許第6924069号(P6924069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6924069
(24)【登録日】2021年8月3日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】柑橘果皮からの香気成分の回収
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/02 20060101AFI20210812BHJP
   A23L 27/12 20160101ALI20210812BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20210812BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20210812BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C11B9/02
   A23L27/12
   A23L2/00 B
   C12G3/06
   C11B9/00 J
   C11B9/00 C
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-91041(P2017-91041)
(22)【出願日】2017年5月1日
(65)【公開番号】特開2018-188535(P2018-188535A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】西堀 友之
(72)【発明者】
【氏名】浦井 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】長尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 卓哉
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−031622(JP,B1)
【文献】 特開平11−178537(JP,A)
【文献】 特開2004−018737(JP,A)
【文献】 特開2001−152180(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/001943(WO,A1)
【文献】 特開2002−105486(JP,A)
【文献】 特開2007−167005(JP,A)
【文献】 MENZI, H. et al.,The spinning cone column - an efficient separator of aroma volatiles froma liquid.,Lebensmittel-Wissenschaft und -Technologie,(1989) Vol. 22, No. 6,pp. 324-328
【文献】 CUEVAS, F. J. et al.,Assessing a traceability technique in fresh oranges (Citrus sinensis L. Osbeck) with an HS-SPME-GC-MS method. Towards a volatile characterisation of organic oranges,Food Chemistry,(2017), Vol. 221,pp.1930-1938,DOI:10.1016/j.foodchem.2016.11.156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00− 9/02
A23L 1/00− 3/54
A23L27/00−27/60
C12G 3/06
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類分解酵素を用いて柑橘果皮を酵素処理してスラリーを得る工程と、
向流接触装置を用いてスラリーから、香気成分を含む水層を回収する工程と、
を有する、柑橘果皮から香気成分を製造する方法であって、
回収した水層がヘキサナールと1−ヘキサノールを含んでおり、ヘキサナールと1−ヘキサノールの合計に対する1−ヘキサノールの重量比が0.5以上である、上記方法
【請求項2】
ヘキサナールと1−ヘキサノールの合計に対する1−ヘキサノールの重量比が0.8以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多糖類分解酵素がヘミセルラーゼを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
柑橘果皮が、レモン果皮、グレープフルーツ果皮、オレンジ果皮の少なくとも1つを含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
柑橘果皮が、レモン果皮を含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記スラリーの濃度が55重量%以上である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
柑橘果皮として、5cm以下の大きさにした柑橘果皮を用いる、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
向流接触装置としてスピニングコーンカラムを用いる、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ヘキサナールと1−ヘキサノールの合計に対する1−ヘキサノールの重量比が0.5以上である、請求項1〜のいずれかの方法によって水層として得られた、柑橘果皮由来の香気成分を含む回収物。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかの方法によって回収された、柑橘果皮由来の香気成分を含む水層を配合することを含む、飲食品の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜のいずれかの方法によって回収された、柑橘果皮由来の香気成分を含む水層を配合した飲食品。
【請求項12】
請求項1〜のいずれかの方法によって回収された柑橘果皮由来の香気成分を飲食品に配合することを含む、飲食品の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の果皮(柑橘果皮)から効率的に香気成分を回収する技術に関する。また、本発明は、柑橘果皮から回収した香気成分を配合した飲食品およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柑橘類から呈味成分や香気成分を抽出し、抽出したエキスなどを飲食品などに配合することが行われてきた。例えば、特許文献1には、柑橘類の果皮をペクチナーゼで酵素処理することによって果皮の繊維質(ペクチン質)を分解して、効率的に果皮加工品を製造することが提案されている。また、特許文献2には、呈味を強化した果汁を果実から抽出し、それを飲料などに配合することによって、飲料などに自然な味わいを付与し、香味を増強することが提案されている。
【0003】
例えば、柑橘類の果汁を原料として、香気成分を濃縮したアロマを得ることが知られている(非特許文献1)。また、有機溶媒を用いて柑橘果汁から香気成分を抽出することの他に、加熱によるフレーバーの変化を抑制しつつ低沸点部を効率よく補集するために、SCC(Spinning Cone Column)などの向流接触装置を用いて香気成分を抽出することも知られている(特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−093111号公報
【特許文献2】特開2016−154520号公報
【特許文献3】国際公開WO90/02493
【特許文献4】特公平7−22646号公報
【特許文献5】特開2001−152180号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem. 1990, 38, 2181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
柑橘果皮は、リモニンなどの苦み成分、ヘスペリジンなどのフラボノイド、食物繊維など風味のもととなる香味成分を豊富に含んでいるものの、主にペクチン質から成る比較的硬い繊維質を多く含むため利用することが難しく、廃棄される場合が多かった。
【0007】
また、柑橘果皮にはリモネンを含む様々な香気成分が含まれているが、果皮を圧搾することによって得られる精油には主に脂溶性の香気成分が含まれており、水溶性の香気成分はほとんど含まれない。そのため、精油だけでは天然の柑橘果実が有する香気を再現することは非常に困難である。
【0008】
一方、柑橘類の香気成分には熱により分解、酸化しやすいものが多いため、濃縮する際には熱による負荷が少ない濃縮法が使用されることが多い。しかしながら、香気成分の多くは分子量が小さいため、例えば限外濃縮膜(RO膜)を使用した場合でも香気成分を完全に残留液側に回収することは困難であり、一定量は透過液側に流出してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題について鋭意検討したところ、本発明者らは、多糖類分解酵素を用いて柑橘果皮を酵素処理してから向流接触装置により香気成分を抽出することによって、柑橘果皮から優れた香気成分(果皮アロマ)が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
これに限定されるものではないが、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 多糖類分解酵素を用いて柑橘果皮を酵素処理してスラリーを得る工程と、向流接触装置を用いてスラリーから香気成分を回収する工程と、を有する、柑橘果皮から香気成分を製造する方法。
(2) 向流接触装置を用いて香気成分を含む水層を回収する、(1)に記載の方法。
(3) 向流接触装置を用いて香気成分を含む油層を回収する、(1)に記載の方法。
(4) 前記多糖類分解酵素がヘミセルラーゼを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 柑橘果皮が、レモン果皮、グレープフルーツ果皮、オレンジ果皮の少なくとも1つを含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 柑橘果皮が、レモン果皮を含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記スラリーの濃度が55重量%以上である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 柑橘果皮として、5cm以下の大きさにした柑橘果皮を用いる、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 向流接触装置としてスピニングコーンカラムを用いる、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10) (1)〜(9)のいずれかの方法によって得られた、柑橘果皮由来の香気成分を含む回収物。
(11) (2)の方法によって回収された、柑橘果皮由来の香気成分を含む水層。
(12) ヘキサナールと1−ヘキサノールの合計に対する1−ヘキサノールの重量比が0.5以上である、(11)に記載の水層。
(13) (3)の方法によって回収された、柑橘果皮由来の香気成分を含む油層。
(14) (1)〜(9)のいずれかの方法によって回収された、柑橘果皮由来の香気成分を含む水層および/または油層を配合することを含む、飲食品の製造方法。
(15) (1)〜(9)のいずれかの方法によって回収された、柑橘果皮由来の香気成分を含む水層および/または油層を配合した飲食品。
(16) (1)〜(9)のいずれかの方法によって回収された柑橘果皮由来の香気成分を飲食品に配合することを含む、飲食品の香味向上方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柑橘果皮を原料として効率的に果皮アロマを得ることができる。本発明に係る果皮アロマは脂溶性香気成分だけではなく、グリーンあるいはウッディな香りの特徴を有する水溶性香気成分を含有するため、これを飲食品に配合することによって、従来の精油を使用した場合とは異なる独自の風味を飲食品に与えることができる。また、スラリー比を向上させて向流接触させることにより、濃縮せずに力価の高い果皮アロマを得ることができる。
【0012】
さらに、本発明によれば、柑橘果皮を原料として優れた果皮アロマを得ることができるため、果皮を資源として有効活用することができ、廃棄物削減の観点からも特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実験1(1)の柑橘果皮スラリーの外観写真である(左:酵素処理なし、右、酵素処理あり)。
図2図2は、実験1(2)で回収した香気成分の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
柑橘果皮
本発明は、向流接触装置を用いて柑橘類の果皮(柑橘果皮)から香気成分を回収する技術に関する。本発明においては、柑橘果皮を多糖類分解酵素で酵素処理する工程と、酵素処理した柑橘果皮スラリーから向流接触装置を用いて香気成分を回収する工程と、を含む方法によって柑橘果皮から香気成分を回収する。
【0015】
本発明においては、原料として柑橘類の果皮を使用する。柑橘類とは、ミカン科ミカン亜科ミカン連(カンキツ連)のミカン属(シトラス)、キンカン属、カラタチ属などに属する植物であり、例えば、ミカン、シークヮーサー、ポンカン、マンダリン、タンカン、ユズ、スダチ、キンカン、ザボン、ブンタン、ナツミカン、ダイダイ、ライム、レモン、カボス、オレンジ、グレープフルーツなどが好ましく、レモン、オレンジ、グレープフルーツが特に好ましい。本発明においては柑橘果皮を使用するが、果皮としては、最表層である外果皮、最内層である内果皮、これらの中間に位置する中果皮のいずれをも使用することができる。原料となる柑橘果皮は、柑橘果実から果肉部分や種子を除去して得ることができるが、果肉や果汁が含まれても構わない。本発明において用いる柑橘果皮は、凍結したものであってもよい。
【0016】
本発明においては、まず、柑橘果皮を物理的に処理することが好ましいが、物理的処理の方法や程度は特に制限されない。柑橘果皮を物理的に処理してから酵素処理することによって、酵素をより効率的に果皮に作用させることができる。柑橘果皮は、切断や破砕、磨砕、粉砕などの物理的処理によってダイス状、チョップ状、パルプ状、粉末状などにすることができる。好ましい態様において、ミル、石臼、ミリング装置などを用いて柑橘果皮を物理的処理することができる。物理的処理後の果皮の大きさは5cm以下になっていることが好ましいが、4cm以下に粉砕することがより好ましく、3cm以下がさらに好ましく、1cm以下がよりさらに好ましく、5mm以下や3mm以下にまで物理的処理してもよい。物理的処理後の果皮の大きさの下限はないが、0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましい。本明細書においては、果皮の大きさがこのような範囲であると、ハンドリング性が向上し、また、酵素処理が効率的に進行するため好ましい。
【0017】
本発明においては、柑橘果皮を多糖類分解酵素、好ましくはヘミセルラーゼによって酵素処理する。柑橘果皮を酵素処理することにより、果皮に含まれる香味成分が溶出しやすくなるとともに、柑橘果皮が崩壊して果皮スラリーの流動性が高くなるため製造上、特に有用である。酵素の使用量は、特に制限されるものではなく、使用する酵素の力価、使用する柑橘果皮の種類や粉砕の程度など、処理条件により異なり一概には言えないが、柑橘果皮に対して0.001〜6重量%の範囲で使用することが好ましく、0.01〜5重量%がより好ましく、0.1〜4重量%がさらに好ましい。
【0018】
本発明で用いる酵素は、ヘミセルロースなどの多糖類を加水分解する酵素であれば特に制限されず、公知の酵素を使用することができる。ヘミセルラーゼは、キシラン、アラビノキシラン、キシログルカン及びグルコマンナンなどの多糖類であるヘミセルロースを分解するものであり、キシラナーゼやガラクタナーゼが知られている。
【0019】
本発明の酵素処理においては、多糖類を加水分解する酵素を使用するが、複数の酵素を併用してもよい。例えば、キシラーゼ、マンナナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼなどの酵素をヘミセルラーゼと併用してもよい。併用する酵素の使用量は特に制限されるものではなく、使用する柑橘果皮の種類などに応じて調整することができるが、例えば、柑橘果皮に対して0.001〜6重量%、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.1〜4重量%である。
【0020】
一般に、原料スラリーの流動性を向上させるためにペクチナーゼなどで酵素処理することがあるが、本発明においては、ペクチナーゼ処理は必ずしも必要ではない。また、多糖類分解酵素で処理することにより上清が清澄化したり、得られる香気成分が増加したりする利点もある。
【0021】
酵素処理の際、柑橘果皮を含むスラリーに使用する水は、特に限定されず、風味に悪影響を与えない限りあらゆる水が使用できるが、水道水、イオン交換水、軟水、硬水、蒸留水、純水のほか、これらの水を脱気処理した脱気水などが挙げられる。柑橘果皮を含む水性スラリーの濃度は特に制限されないが、流動性や処理効率などを考慮すると、20〜90%であることが好ましく、30〜85%がより好ましく、35〜80%がさらに好ましい。
【0022】
本発明においては、酵素反応を効率的に進行させるため、原料である柑橘果皮を複数回に分けて添加してもよい。添加する回数に制限はないが、例えば、1〜10回とすることができ、1〜5回としてもよく、2〜4回に分けて原料の果皮を添加してもよい。
【0023】
また、酵素反応を効率的に実施するため、撹拌しながら処理することが好ましい。撹拌装置に特に制限はなく、例えば、縦軸撹拌装置、横軸撹拌装置、マグネチックスターラー、振とう機などを用いることが可能である。また、酵素反応を効率的に進行させるため、加熱装置により反応液の温度を15〜70℃などに調整することが好ましい。加熱装置は特に制限されないが、例えば、スチーム加熱機、電熱加熱機、ウォータージャケット加熱機、電磁加熱機などを挙げることができる。処理時間は特に制限されないが、例えば、1〜24時間とすることが好ましく、2〜18時間がより好ましく、10〜16時間としてもよい。反応液の温度が低ければ処理時間が長くなり、高ければ短くなるため、適宜反応温度と反応時間を調整することができる。例えば40℃での処理であれば2時間程度で反応を終了させることができる。
【0024】
本発明においては、酵素処理を終了させるために高温をかけて酵素を失活させてもよい。例えば、80℃を超える温度まで反応液を加熱することによって酵素を失活して反応をコントロールすることができる。失活させるための時間は特に制限されないが、例えば、30秒間〜1時間処理することができ、好ましくは1分間〜30分間であり、より好ましくは10分以内の時間で処理することができる。酵素の耐熱性により条件は異なるが、例えば、80℃で30分、95℃で5分、100℃で1分などの条件で酵素活性を失活させることができる。酵素失活にはプレートヒーターや向流接触装置を使用することができるが、向流接触装置を用いると、酵素失活と同時に好適な香気成分を回収することができるという利点がある。
【0025】
本発明においては、柑橘果皮を含むスラリーを酵素処理した後に、向流接触装置を用いて柑橘果皮スラリーから香気成分を回収する。(気液)向流接触装置を用いた蒸留は、水蒸気蒸留の一種であり、向流接触装置としてはスピニングコーンカラム(SCC)などを好適に使用することができる。向流接触装置を用いて柑橘果皮スラリーから香気成分を回収することによって、沸点より低温度で香気成分を留出でき、低沸点成分の蒸発を促進するとともに、高温による香気成分の変質を防ぐというメリットがある。本発明によれば、柑橘果皮に含まれる香気成分を低沸点成分はもちろんのこと、高沸点の香気成分までも、温度による変質の影響を受けず、効率よく回収することができる。
【0026】
向流接触装置を用いた香気成分の回収は、それ自体既知の各種の方法で実施することができ、装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に運転条件を選択することができる。好ましい態様において60〜120℃で蒸留を行うことができ、80〜110℃や90℃〜105℃で蒸留を行ってもよい。ストリッピング比も特に制限されないが、例えば、3〜30%とすることができ、5〜20%や8〜15%としてもよい。向流接触装置においては、例えば、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する回転円錐上に、液状またはペースト状のスラリーを上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収することができる。
【0027】
向流接触装置を用いて回収されたものは、一般に用いられている分離方法によって油層と水層に分離することができる。例えば、回収物を静置したり、デカンテーションや遠心分離により分離したりすることが可能である。
【0028】
このようにして回収された油層と水層は、柑橘果皮に由来する好ましい香気成分を含んでおり、飲料などの飲食品に配合すると、柑橘風味を付与する素材、すなわち香味付与剤として好適である。香味付与の対象となる飲食品としては、例えば、コーヒー、紅茶、清涼飲料、乳酸菌飲料、無果汁飲料、果汁入り飲料、栄養ドリンクなどの飲料類、チューハイなどの酒類、スナック類、栄養食品、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、ゼリー、プリン、羊かん等のデザート類、クッキー、ケーキ、チョコレート、チューイングガム、饅頭等の菓子類、菓子パン、食パン等のパン類、ラムネ菓子、タブレット、錠菓類などを挙げることができる。
【0029】
本発明によって回収されるアロマである水層は、酵素処理をせずに回収された水層と比較してヘキサナールが少なく、ヘキサノールが多く含まれる。好ましい態様において、本発明によって回収される水層は、ヘキサナールと1−ヘキサノールの合計に対する1−ヘキサノールの重量比、すなわち、(1−ヘキサノール)/(1−ヘキサノール+ヘキサナール)が0.5以上であり、0.8以上である。一方、本発明によって回収される油層は、酵素処理をせずに回収された油層と比較してリモネンが少なく、テルピノレンが多い。
【0030】
飲料
柑橘果皮から回収した香気成分は、飲食品に配合することができるが、特に飲料に配合することが好ましい。香気成分を含む油層や水層は、特に制限されないが、それぞれを飲料に対して配合してもよいし、油層と水層の両方を飲料に配合してもよい。また、好ましい態様において、本発明によって回収した香気成分を配合した飲食品は、ヘキサナールと1−ヘキサノールの合計に対する1−ヘキサノールの重量比が0.5以上や0.8以上であってよい。飲料としては、アルコールを含有するアルコール飲料であっても、アルコールを含有しない非アルコール飲料であってもよい。ここで、飲料におけるアルコールとは、特に断らない限り、エチルアルコール(エタノール)を意味する。
【0031】
アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料のことであり、必要に応じて、水、果汁、香料、糖類、甘味料、酸味料その他の原料を混合して製造される。アルコール飲料としては、例えば、チューハイ、カクテル、フィズ、ワインクーラーなどのスピリッツ類、リキュール類などを好ましい例として挙げることができる。アルコール原料としては特に限定はないが、例えば、醸造アルコール、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎(連続式蒸留しょうちゅう、単式蒸留しょうちゅう等)等が挙げられ、さらには清酒、ワイン、ビール等の醸造酒類でもよい。これらのアルコール原料については、それぞれ単独又は併用して用いることができるが、その香味を生かすようなアルコール原料を選択することが好ましい。アルコール飲料のアルコール濃度は特に制限されないが、30v/v%以下が好ましく、20v/v%以下がより好ましく、10v/v%以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明に係る飲料は、果汁を含有してもしなくてもよい。果汁を配合する場合、果汁の配合量は、ストレート果汁換算で0.01〜30%とすることが好ましく、20%以下、さらには10%以下としてもよい。果汁の種類も、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、あるいは濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよい。また、混濁果汁を使用することもでき、果実の外皮を含む全果を破砕し種子など特に粗剛な固形物のみを除いた全果果汁、果実を裏ごしした果実ピューレ、或いは、乾燥果実の果肉を破砕もしくは抽出した果汁を用いてもよい。
【0033】
本発明に用いることのできる果汁は特に制限されず、1または複数の果汁を用いてもよい。好適な果汁としては、例えば、柑橘類果実(例えば、レモン、グレープフルーツ(ホワイト種、ルビー種)、ライム、オレンジ類、うんしゅうみかん、タンゴール、なつみかん、甘夏、はっさく、ひゅうがなつ、シイクワシャー、すだち、ゆず、かぼす、だいだい、いよかん、ぽんかん、きんかん、さんぼうかん、オロブランコ、ぶんたん)、核果類果実(例えば、あんず、さくらんぼ、うめ、すもも類、もも類)、漿果類果実(例えば、マスカット、リースリング、デラウエア、巨峰、ピオーネ)を挙げることができる。柑橘果皮に由来する香気成分を含む本発明の飲食品においては、柑橘果汁を配合することが好ましく、特にレモンやグレープフルーツ(ホワイト種、ルビー種)などの果汁を配合することが好ましい。
【0034】
本発明の飲料は、ぶどう糖をはじめとする糖類を含有してもよい。本発明の飲料は、天然甘味料や人工甘味料を1または複数使用することができる。その種類は特に制限されないが、天然甘味料としては、例えば、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、砂糖(白糖、三温糖、黒糖、和三盆、等)、メープルシロップ、モラセス(糖蜜)、水飴、ステビア末、ステビア抽出物、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などを挙げることができる。また、人工甘味料としては、例えば、スクラロース、アセスルファムK、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどを挙げることができる。本発明の飲料においては、果糖、ぶどう糖、ショ糖のうち1種または2種以上を配合することが好ましい。
【0035】
本発明において好適に使用できる糖類としては、例えば、リボース、キシロース、アラビノース、グルコース、フラクトース、ラムノース、ガラクトース、1,3−ジヒドロキシアセトンなどの如き単糖類;シュークロース、ラクトース、マルトースなどの如き二糖類などを挙げることができ、これらの糖類の1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0036】
本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様、各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、酸味料、香料、ビタミン類、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を挙げることができる。
【0037】
増粘剤を使用することも可能であり、例えば、ペクチン(LMペクチン、HMペクチンなど)、アルギン酸ナトリウム、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、セルロース類、アルファー化澱粉類などが挙げられ、これらは、所望する粘性などの違いにより、適宜選択し、組み合わせて用いることもできる。増粘剤の使用量は、使用する増粘剤の種類などにより異なり一概には言えないが、0.01〜3質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内を例示することができる。
【0038】
本発明の飲料は、容器詰飲料として好適に提供される。ここでいう容器詰飲料とは、PET容器、缶、瓶、紙容器などの容器に収容した飲料をいい、希釈せずに飲用することができる。容器詰飲料は、調合工程で得られた調合液を容器に充填して製造される。
【0039】
本発明の飲料を充填する容器としては、アルミ缶、スチール缶などの金属製容器、PETボトルなどの樹脂製容器、ガラス瓶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができるが、一つの態様において透明容器(例えばPETボトル、ガラス瓶)を充填容器として使用してもよい。また本発明においては、低温で無菌充填を行う態様としてもよい。
【0040】
本発明の容器詰飲料は容器から直接飲用するものだけではなく、たとえばバックインボックスなどのバルク容器、あるいはポーション容器などに充填したものを飲用時に別容器に注ぐことによって飲用に供することもできる。また、濃縮液を飲用に供する際に希釈することもできる。
【0041】
好ましい態様において本発明の飲料は、常温で長期保存しても、製造直後の風味を維持した飲料である。常温で長期保存するために、飲料の製造時には加熱殺菌処理を行う。ここで、本発明の好ましい態様において飲料は高温殺菌処理されるが、本明細書における高温殺菌とは、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法などである。高温殺菌の条件は、乳入り飲料の調合液の特性や使用する保存容器に応じて適宜選択すればよいが、UHT殺菌法の場合、通常90〜150℃で1〜120秒間程度、好ましくは100〜140℃で1〜90秒間程度の条件であり、レトルト殺菌法の場合、通常110〜130℃で10〜30分程度、好ましくは120〜125℃で10〜20分間程度の条件である。
【0042】
本発明の容器詰飲料は、好ましい態様においてブリックス値が3〜9である。糖度計や屈折計などを用いて得られるブリックス(Brix)値によって可溶性固形分濃度を評価することができ、ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である。単位は「°Bx」、「%」または「度」で表示される。
【0043】
本発明の飲料は、可能性固形分濃度の低い低溶質飲料であってもよく、「糖類ゼロ」、「糖質ゼロ」、「カロリーオフ」等と表示される、いわゆるカロリーオフタイプ飲料の態様を包含する。なお、「糖類ゼロ」、「糖質ゼロ」、「カロリーオフ」等の表示は、健康増進法の規定による栄養表示基準に定義されている。例えば、「糖類ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)の量が、飲料100gあたり0.5g未満のものに対して付されるものである。また、「糖質ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖質の濃度が0.5g/100mL未満である場合に表示される。糖質は、3大栄養素の炭水化物の一つであり、炭水化物から食物繊維を除いたものの総称である。
【0044】
また、本発明の飲料は、無色および/または透明であることが好ましい。一般に、飲料が水のように無色透明な外観であると塩味が感じられやすくなり、特に飲料とするとその傾向が強くなるところ、本発明によれば、香味バランスに優れ、爽快感が維持された飲料を得ることができる。また、本発明の飲料は、PETボトルのような開口部の狭い容器から直接に飲んだ場合であっても、優れた味わいを感じることができる。
【0045】
ここで「飲料が透明である」とは、いわゆるスポーツドリンクのような白濁や、混濁果汁のような濁りがなく、水のように視覚的に透明な飲料であることをいう。飲料の透明度は、例えば、液体の濁度を測定する公知の手法を用いることにより、数値化することもできる。例えば、紫外可視分光光度計(島津製作所製UV−1600など)を用いて測定した波長660nmにおける吸光度が、0.06以下であるものを「透明」と呼ぶことができる。本発明に係る飲料は、波長660nmにおける吸光度が0.02以下であるとより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。
【0046】
また、「飲料が無色である」とは、視覚的に認知できる色がついていない飲料であることをいう。飲料の色は、例えば、物体の色差を測定する公知の手法を用いることにより、数値化することもできる。例えば、測色色差計(日本電色工業製ZE2000など)を用いて純水を基準として測定した際の透過光のΔE値が3.5以下である場合を「無色」と呼ぶことができる。
【0047】
本発明の飲料は、長期保存や微生物汚染の観点から、好ましい態様においてそのpHを酸性側に調整すると好ましい。具体的には、飲料のpHを2.0〜5.5とすることが好ましく、pH3.0〜5.0がより好ましく、pH3.3〜4.7とすることがさらに好ましい。
【0048】
また本発明の飲料の酸度は、クエン酸換算で0.05〜0.3g/100mlとすることが好ましく、0.06〜0.25g/100ml程度がより好ましく、0.07〜0.2g/100ml程度がさらに好ましい。このような範囲であると、適度な酸味によって特に飲みやすい飲料とすることができる。なお、飲料の酸度は一般的な滴定法によって測定することができる。
【0049】
酸味料としては、例えば、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、リン酸などの酸またはこれらの塩を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。酸味料の使用量は、使用する酸味料の種類などにより異なり一概には言えないが、飲料の0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内を例示することができる。
【0050】
本発明の飲料は、炭酸ガスを含有する炭酸飲料としてもよい。炭酸ガスの添加は、当業者に通常知られている方法を用いればよく、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を含む炭酸水を配合しても良いし、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合して炭酸ガス含有飲料としてもよい。
【0051】
一つの態様において本発明の飲料を炭酸飲料とすることも可能であるが、その場合、炭酸ガスの圧力は、炭酸ガスに由来する爽快感が感じられる程度の圧力であることが好ましく、具体的には0.5〜5.0kgf/cm、より好ましくは1.0〜4.5kgf/cm、さらに好ましくは1.5〜4.2kgf/cmが好適である。
【0052】
飲食品の製造方法
一つの態様において、本発明は、飲料をはじめとする飲食品の製造方法と理解することもできる。本発明の飲料は柑橘果皮に由来する香気成分を含有するが、本発明に係る飲料の製造方法は、柑橘果皮から回収した香気成分を配合する工程を含むものである。容器詰飲料を製造する場合は、飲料を調製する工程、調製した飲料を容器に充填する工程を少なくとも備える。
【0053】
本発明の飲料は、従来公知の方法を用いて製造することができる。当業者であれば、配合方法、必要に応じ殺菌方法、容器充填方法の条件を、適宜設計することができる。
また別の態様において本発明は、柑橘果皮に由来する香気成分を配合することによる飲料の呈味向上方法と理解することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、具体的な実験例を示しつつ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0055】
実験1:柑橘果皮からの香気成分の回収
(1)柑橘果皮スラリーの調製
搾汁機(Polycitrus、Fratelli Indelicate社)を用いて、レモン果実から約3mm厚さの果皮を回収した。このレモン果皮を高速粉砕機(MICRO-MISTER 3M7-40、増幸産業)を用いて約2mmの大きさに裁断してから、水を添加して種々の濃度のレモン果皮スラリーを調製した。ここで、No.2のサンプルは、回収したレモン果皮を凍結させてから約2mmの大きさに裁断した。
【0056】
次いで、多糖類分解酵素を添加し、40℃で2時間、撹拌しながら酵素処理した。この実験においては、ヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ90」、天野エンザイム)を、果皮重量あたり1w/w%の濃度になるように添加した。
【0057】
酵素処理しない場合、果皮スラリーの流動性が低く、後続のスピニングコーンカラム(SCC)による向流接触処理に適するのは、スラリー濃度が50%程度のものまでだった(No.1〜No.3)。一方、酵素処理した場合、果皮スラリーの流動性が高くなるため、スラリー濃度が70〜80%であっても、後続のSCC処理に適した流動性を有する果皮スラリーを得ることができた(No.4〜No.5)。
【0058】
(2)柑橘果皮スラリーのSCC処理
上記(1)で製造した柑橘果皮スラリーをスピニングコーンカラム(SCC、フレーバーテック社製)に通して、向流接触によって香気成分を回収した(図2)。SCC装置内での滞留条件は、いずれも、100℃、1分間である(ストリッピング比:約10%)。
【0059】
SCC装置から回収した香気成分について、油層および水層の重量比、水層のブリックス値を測定したところ、下記のとおりであった。
【0060】
【表1】
【0061】
柑橘果皮を酵素処理したスラリーを原料として用いると、SCC処理による回収物において、酵素処理しない場合と比較して油層(オイル)の重量割合が2倍以上も大きくなった。これは、果皮の酵素処理によって、果皮の油胞などに含まれるオイル分が回収されやすくなったものと考えられる。
【0062】
また、柑橘果皮を酵素処理したスラリーを原料として用いると、SCC処理によって回収された水層のBrix値が有意に高くなった。すなわち、酵素処理をしない場合(No.1〜No.3)、SCC処理で回収された水層のBrix値は0.05〜0.10であったのに対し、本発明に基づいて酵素処理した場合、回収された水層のBrix値が大幅に増大した(No.4のBrix値:0.34、No.5のBrix値:0.44)。
【0063】
このように、本発明によれば、柑橘果皮からSCC処理によって回収できる香気成分について、油層の収量が大きく向上することに加えて、水層のBrix値(アロマ力価)が増大するため濃縮する手間やコストが低減されることになる。
【0064】
なお、No.1とNo.2を比較すると柑橘果皮を凍結後に処理しても得られる油層、水層の重量割合、水層のBrixはほぼ同等であることから、酵素処理サンプルにおいても凍結した柑橘果皮を使用しても非凍結柑橘果皮を使用した場合と同様の果皮アロマが得られると予想される。搾汁後の柑橘果皮は変質しやすいため、凍結して保管し、随時粉砕、酵素処理スラリー化することにより随時フレッシュな果皮アロマを調整することが可能である。
【0065】
(3)回収した水層に含まれる香気成分の化学分析
上記(2)で回収したサンプルのうち、No.3(酵素処理なし)の水層とNo.5(酵素処理あり)の水層について、香気成分をガスクロマトグラフィーによって分析した。分析結果を下記に示すが、SCC処理で回収した水層には、βフェランドレンやtrans−3−ヘキセン−1−オール(トランス−3−ヘキセノール)など、グリーンでウッディな香気成分が比較的多く含まれていた。また、柑橘果皮を酵素処理することによって、SCC処理で回収した水層に、プレノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノールなどの香気成分が増大することが確認できた。柑橘果皮を酵素処理することによって果皮の細胞壁が破壊されて、特定の香気成分が回収しやすくなったものと考えられる。
【0066】
一方、柑橘果皮を酵素処理することによって、SCC処理で回収した水層のヘキサナール、βミルセン、トランス−2−ヘキセナール(アルデヒド)などの成分が減少した。40℃、2時間で酵素処理した際に香気成分が揮発したことが考えられる。
【0067】
また、No.3(酵素処理なし)の水層とNo.5(酵素処理あり)の水層を比較すると、No.3の水層は若干の青臭さが感じられたが、No.5の水層は青臭さがあまり感じられなかった。酵素処理によって、ヘキサナール(グリーンな香り)が減少し、ヘキサノール(ハーブ的でスパイシーな香り)が増加したことが関連していると考えられる。
【0068】
【表2】
【0069】
(4)回収した油層に含まれる香気成分の化学分析
上記(2)で回収したサンプルのうち、No.3(酵素処理なし)の油層とNo.5(酵素処理あり)の油層について、香気成分をガスクロマトグラフィーによって分析した。分析結果を下記に示すが、柑橘果皮から回収した油層には、リモネンやシトラール、テルピノレンなど、レモンに特徴的な香気成分が含まれていた。
【0070】
No.3(酵素処理なし)の油層とNo.5(酵素処理あり)の油層を比較すると、No.3の油層にはリモネンが多く含まれる一方、No.5の油層にはテルピノレンが多く含まれていた。一般に、リモネンとテルピノレンは酸性条件化で相互変換するため、酵素処理などの際に相互変換された可能性が考えられる。
【0071】
【表3】
【0072】
実験2:柑橘果皮から回収した香気成分を配合した飲料
(1)非アルコール飲料の製造と評価
柑橘果皮から回収した香気成分について、非アルコール飲料に配合して、飲料の香味に与える影響を評価した。具体的には、実験1のNo.4で回収した水層と油層を、下記の各種飲料1000mLに配合して、容器詰め飲料を調製した。水層(Brix値:0.34)については飲料1000mlに対して0.13ml、油層については飲料1000mlに対して0.004ml添加した。
・ミネラルウォーター(pH:約7、南アルプスの天然水、サントリー食品インターナショナル)
・炭酸水(pH:約4.1、ガス圧:約4.1kgf/cm、南アルプスの天然水スパークリング、サントリー食品インターナショナル)
調製したソフトドリンクの香味について、専門パネラー3名により常温で官能評価を行った。具体的には、まず、「たち香(オルソネーザル)」のみを評価した後に、飲料を口に含んで「口中香および戻り香(レトロネーザル)」で香りを評価した。また、口に含んだ際に感じる味覚の変化についても評価を実施した。その結果、香気成分を配合しない場合と比較して、本発明の香気成分を配合した飲料について、下記のような評価が得られた。
(水層を配合した飲料)
実験1で回収した水層を配合すると、いずれの場合にも、グリーンな香味や好ましいエグ味が感じられ、飲料に飲み応えを付与することができた。
(油層を配合した飲料)
実験1で回収した油層を配合すると、いずれの場合にも、飲料にレモンの香味を付与することができた。
(水層と油層の両方を配合した飲料)
実験1で回収した水層と油層の両方を配合すると、いずれの場合にも、飲料にレモンの香味を付与することができた。油層だけを配合した場合と比較して、ナチュラルなレモンまるごとを再現したような香味が感じられ、飲料の飲み応えも向上した。
【0073】
(2)アルコール飲料の製造と評価
柑橘果皮から回収した香気成分について、実際にアルコール飲料に配合して、飲料の香味に与える影響を評価した。具体的には、実験1のNo.4で回収した水層と油層を、下記の各種飲料1000mLに配合して、容器詰め飲料を調製した。実験2(1)と同様に、水層(Brix値:0.34)については飲料1000mlに対して0.13ml、油層については飲料1000mlに対して0.004ml添加した。
・焼酎(無果汁、アルコール度数:20%、pH:約4.7、スーパー樹氷20、サントリースピリッツ)
・酎ハイ(無果汁、アルコール度数:9%、pH:約3.5、ガス圧:約2.0kgf/cm、−196℃ストロングゼロDRY、サントリースピリッツ)
調製したアルコール飲料の香味について、専門パネラー3名により常温で官能評価を行った。具体的には、まず、「たち香(オルソネーザル)」のみを評価した後に、飲料を口に含んで「口中香および戻り香(レトロネーザル)」で香りを評価した。また、口に含んだ際に感じる味覚の変化についても評価を実施した。その結果、香気成分を配合しない場合と比較して、本発明の香気成分を配合した飲料について、下記のような評価が得られた。
(水層を配合した飲料)
実験1で回収した水層を配合すると、焼酎および酎ハイのいずれの場合にも、グリーンな香味や好ましいエグ味が感じられ、飲料に飲み応えを付与することができた。
(油層を配合した飲料)
実験1で回収した油層を配合すると、焼酎および酎ハイのいずれの場合にも、飲料にレモンの香味を付与することができた。
(水層と油層の両方を配合した飲料)
実験1で回収した水層と油層の両方を配合すると、焼酎および酎ハイのいずれの場合にも、飲料にレモンの香味を付与することができた。油層だけを配合した場合と比較して、ナチュラルなレモンまるごとを再現したような香味が感じられ、飲料の飲み応えも向上した。
図1
図2