特許第6924379号(P6924379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6924379
(24)【登録日】2021年8月4日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】ガラスフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/09 20060101AFI20210812BHJP
【FI】
   C03B33/09
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-172935(P2017-172935)
(22)【出願日】2017年9月8日
(65)【公開番号】特開2019-48734(P2019-48734A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 直弘
(72)【発明者】
【氏名】村田 憲一
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157639(WO,A1)
【文献】 特開2016−102048(JP,A)
【文献】 特開2003−002677(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/208677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/00 − 33/14
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送方向に搬送される帯状のガラスフィルムにレーザ光を照射することにより前記ガラスフィルムを割断する割断工程を備えるガラスフィルムの製造方法において、
前記割断工程は、開口部を有する定盤によって前記ガラスフィルムの下面を支持するとともに前記開口部によって前記ガラスフィルムを吸引する工程と、前記開口部に吸引される前記ガラスフィルムに対して前記開口部の範囲内で前記レーザ光を照射する工程と、を備え
前記割断工程は、所定のパスラインを有する搬送装置によって前記ガラスフィルムを搬送する工程を備え、
前記定盤は、前記ガラスフィルムを支持する支持部を備え、
前記支持部は、前記開口部よりも前記搬送方向の上流側に位置する支持部と、前記開口部の幅方向外側に位置する支持部と、前記開口部よりも前記搬送方向の下流側に位置する支持部と、を含み、
前記支持部の上面は、前記パスラインよりも上方に位置することを特徴とする、ガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記割断工程は、前記開口部よりも下流側で前記支持部に支持される前記ガラスフィルムに向かって冷媒を放出する冷却工程を備える、請求項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記割断工程は、前記開口部における前記ガラスフィルムの吸引力を調整する工程を備える、請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記割断工程において、前記ガラスフィルムが前記開口部を通過する場合における前記ガラスフィルムの上下動の振幅が50μm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記開口部の吸引による前記ガラスフィルムの変形量が0.3mm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記定盤の前記開口部は、一定の幅を有しており、
前記開口部の前記幅は、3mm以上30mm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば帯状のガラスフィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)に用いられる板ガラス、有機EL照明に用いられる板ガラス、タッチパネルの構成要素である強化ガラス等の製造に用いられるガラス板、更には太陽電池のパネル等に用いられるガラス板は、薄肉化が推進されているのが実情である。
【0003】
例えば特許文献1には、厚みが数百μm以下のガラスフィルム(薄板ガラス)が開示されている。この種のガラスフィルムは、同文献にも記載されるように、いわゆるオーバーフローダウンドロー法を採用した成形装置によって連続成形されるのが一般的である。
【0004】
特許文献1に開示されるガラスフィルムの製造方法において、オーバーフローダウンドロー法により連続成形された長尺のガラスフィルムは、その搬送方向が鉛直方向から水平方向に変換された後、搬送装置の横搬送部(水平搬送部)によって継続して下流側に搬送される。この搬送途中で、ガラスフィルムは、その幅方向両端部(耳部)が切断除去される。その後、ガラスフィルムは、巻取りローラによってロール状に巻き取られることで、ガラスロールとして構成される。
【0005】
ガラスフィルムの幅方向両端部を切断する技術として、特許文献1では、レーザ割断が開示されている。このレーザ割断方法では、ガラスフィルムを搬送しつつ、ダイヤモンドカッタ等のクラック形成手段によりガラスフィルムに初期クラックを形成した後、この部分にレーザ光を照射して加熱し、その後、加熱された部分を冷却手段により冷却する。これにより、ガラスフィルムに熱応力が生じ、この熱応力によって初期クラックが進展することで、当該ガラスフィルムの幅方向端部が割断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−240883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
厚みが200μm以下となる超薄型のガラスフィルムを搬送しながら上記のレーザ割断方法によって切断する場合、ガラスフィルムの搬送中に当該ガラスフィルムに無数の皺が生じ得る。従来のレーザ割断方法において、この皺がレーザ光の照射位置に重なった状態でガラスフィルムの割断が行われると、割断後のガラスフィルムの端面(断面)に、皺に起因する不良部分が残存するという問題があった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたものであり、レーザ割断によってガラスフィルムを切断した場合における端面不良の発生を防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、所定の搬送方向に搬送される帯状のガラスフィルムにレーザ光を照射することにより前記ガラスフィルムを割断する割断工程を備えるガラスフィルムの製造方法において、前記割断工程は、開口部を有する定盤によって前記ガラスフィルムの下面を支持するとともに前記開口部によって前記ガラスフィルムを吸引する工程と、前記開口部に吸引される前記ガラスフィルムに前記レーザ光を照射する工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、割断工程において、搬送方向に沿って搬送される帯状のガラスフィルムの一部を定盤の開口部によって吸引することで、吸引されたガラスフィルムの部分おける皺の発生を防止でき、或いはガラスフィルムに発生していた皺を消滅させることが可能になる。ガラスフィルムの吸引部分にレーザ光を照射して割断を行うことで、割断面(端面)における不良の発生を確実に防止できる。
【0011】
また、前記割断工程は、所定のパスラインを有する搬送装置によって前記ガラスフィルムを搬送する工程を備え、前記定盤は、前記ガラスフィルムを支持する支持部を備え、前記支持部の上面は、前記パスラインよりも上方に位置することが望ましい。このように、定盤における支持部の上面をパスラインよりも上方に配置することで、搬送装置によって搬送されるガラスフィルムは、定盤を通過する際に支持部によって押上られる。これにより、定盤を通過する際におけるガラスフィルムの皺の発生を効果的に防止できる。
【0012】
上記の方法では、前記支持部は、前記開口部よりも前記搬送方向の下流側で前記ガラスフィルムを支持するように構成されており、前記割断工程は、前記開口部よりも下流側で前記支持部に支持される前記ガラスフィルムに向かって冷媒を放出する冷却工程を備えることが望ましい。
【0013】
開口部に吸引されるガラスフィルムは、レーザ光の照射により局部的に加熱された後に、その下流の位置で冷媒によって冷却される。レーザ光の加熱による膨張と、冷媒の冷却による収縮とによって、ガラスフィルムに熱応力が発生する。この熱応力によるクラックの進展により、ガラスフィルムは精度良く割断される。この場合において、冷媒は開口部の下流側でガラスフィルムに接触する。この位置では、支持部は、冷媒の圧力で変形しないようにガラスフィルムを支持する。これにより、ガラスフィルムの変形による端面不良の発生を防止できる。
【0014】
前記割断工程は、前記開口部における前記ガラスフィルムの吸引力を調整する工程を備えることが望ましい。開口部によってガラスフィルムを吸引する場合、その吸引力が強すぎると、ガラスフィルムの搬送を阻害するおそれがある。割断工程において、開口部の吸引力を調整することにより、ガラスフィルムを好適に搬送しながらその割断を行うことができる。
【0015】
前記割断工程において、前記ガラスフィルムが前記開口部を通過する場合における前記ガラスフィルムの上下動の振幅が50μm以下であることが望ましい。このように、ガラスフィルムの上下動の振幅を可及的に小さくすることで、ガラスフィルムの割断面の端面不良の発生を抑止できる。
【0016】
開口部の吸引が過剰になると、ガラスフィルムの変形量が過大となり、割断後のガラスフィルムの端面不良の原因となる。このような端面不良の発生を防止するために、前記開口部の吸引による前記ガラスフィルムの変形量が0.3mm以下であることが望ましい。
【0017】
上記の製造方法において、前記定盤の前記開口部は、一定の幅を有しており、前記開口部の前記幅は、3mm以上30mm以下であることが望ましい。これにより、開口部は、好適な力でガラスフィルムを吸引できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザ割断によってガラスフィルムを切断した場合における端面不良の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ガラスフィルムの製造装置を示す側面図である。
図2】ガラスフィルムの製造装置の一部を示す平面図である。
図3図2のIII−III線断面図である。
図4】定盤の平面図である。
図5図2のV−V線断面図である。
図6】ガラスフィルムの製造方法を示すフローチャートである。
図7】割断工程におけるガラスフィルムの態様を示す断面図である。
図8】割断工程におけるガラスフィルムの態様を示す断面図である。
図9】割断工程におけるガラスフィルムの挙動を示す断面図である。
図10】吸引装置の他の例を示す平面図である。
図11図10のXI−XI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1乃至図9は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法及び製造装置の一実施形態を示す。
【0021】
図1に示すように、製造装置1は、帯状の母材ガラスフィルムGを成形する成形部2と、母材ガラスフィルムGの進行方向を縦方向下方から横方向に変換する方向変換部3と、方向変換後に母材ガラスフィルムGを横方向に搬送する第一搬送部4と、母材ガラスフィルムGにおける幅方向端部(耳部)を切断する第一切断部5と、耳部が除去されたガラスフィルム(以下「第一ガラスフィルム」という)G1をロール状に巻き取って第一ガラスロールGRL1を構成する第一巻取部6とを備える。
【0022】
さらに製造装置1は、第一ガラスロールGRL1から第一ガラスフィルムG1を取り出す取出部7と、取出部7から取り出された第一ガラスフィルムG1を横方向に搬送する第二搬送部8と、第一ガラスフィルムG1の一部を切断する第二切断部9と、第二切断部9により切断されてなるガラスフィルム(以下「第二ガラスフィルム」という)G2をロール状に巻き取って第二ガラスロールGRL2を構成する第二巻取部10とを備える。
【0023】
成形部2は、上端部にオーバーフロー溝11aが形成された断面視略楔形の成形体11と、成形体11の直下に配置されて、成形体11から溢出した溶融ガラスGMを表裏両側から挟むエッジローラ12と、エッジローラ12の直下に配備されるアニーラ13とを備える。
【0024】
成形部2は、成形体11のオーバーフロー溝11aから溢流した溶融ガラスGMを、両側面に沿ってそれぞれ流下させ、その下端部で合流させてフィルム状に成形する。エッジローラ12は、この溶融ガラスGMの幅方向収縮を規制して所定幅の母材ガラスフィルムGとする。アニーラ13は、母材ガラスフィルムGに対して除歪処理を施すためのものである。アニーラ13は、上下方向複数段に配設されたアニーラローラ14を有する。
【0025】
アニーラ13の下方には、母材ガラスフィルムGを表裏両側から挟持する支持ローラ15が配設されている。支持ローラ15とエッジローラ12との間、または支持ローラ15と何れか一箇所のアニーラローラ14との間では、母材ガラスフィルムGを薄肉にすることを助長するための張力が付与されている。
【0026】
方向変換部3は、支持ローラ15の下方位置に設けられている。方向変換部3には、母材ガラスフィルムGを案内する複数のガイドローラ16が湾曲状に配列されている。これらのガイドローラ16は、鉛直方向に搬送される母材ガラスフィルムGを横方向へと案内する。
【0027】
第一搬送部4は、方向変換部3の進行方向前方(下流側)に配置される。第一搬送部4は、ベルトコンベアにより構成されるが、この構成に限定されず、ローラコンベアその他の各種搬送装置を使用できる。第一搬送部4は、無端帯状のベルト4aを駆動することにより、方向変換部3を通過した母材ガラスフィルムGを下流側へと連続的に搬送する。
【0028】
第一切断部5は、第一搬送部4の上方に配置される。本実施形態では、第一切断部5は、レーザ割断により母材ガラスフィルムGを切断する。第一切断部5は、一対のレーザ照射装置17aと、当該レーザ照射装置17aの下流側に配置される一対の冷却装置17bを含む。第一切断部5は、搬送される母材ガラスフィルムGの所定部位に各レーザ照射装置17aからレーザ光Lを照射して加熱した後、冷却装置17bから冷媒Rを放出して当該加熱部位を冷却する。
【0029】
第一巻取部6は、第一搬送部4及び第一切断部5の下流側に設置されている。第一巻取部6は、巻芯18を回転させることで、第一ガラスフィルムG1をロール状に巻き取る。このようにして構成される第一ガラスロールGRL1は、取出部7の位置まで搬送される。取出部7は、第一巻取部6によって構成された第一ガラスロールGRL1から第一ガラスフィルムG1を引き出して、第二切断部9に供給する。
【0030】
第二搬送部8は、取出部7において第一ガラスロールGRL1から取り出された第一ガラスフィルムG1を横方向(以下「搬送方向」という)Xに沿って搬送する。第二搬送部8はベルトコンベアにより構成されるが、この構成に限定されず、ローラコンベアその他の各種搬送装置を使用できる。第二搬送部8は、無端帯状の複数のベルト8aを駆動することにより、第一ガラスフィルムG1を下流側の第二巻取部10へと搬送する。
【0031】
複数のベルト8aは、第一ガラスフィルムG1を略水平姿勢に維持するように、上下方向の位置が設定される。すなわち、複数のベルト8aは、第一ガラスフィルムG1との接触部8bの上下方向位置(高さ)が一致するように設置される。これにより、水平方向に沿うパスラインPLが構成される。
【0032】
第二切断部9は、第二搬送部8の中途部に位置する。第二切断部9は、第一ガラスフィルムG1を吸引する吸引装置19と、第二搬送部8の上方に配置される一対のレーザ照射装置20と、一対の冷却装置21とを備える。
【0033】
吸引装置19は、第一ガラスフィルムG1の下面に接触する一対の定盤22と、定盤22の支持部材23と、定盤22に接続される吸引ポンプ24とを備える。
【0034】
定盤22は、図2及び図3に示すように、第二搬送部8における複数のベルト8aの間に配置される。定盤22は、金属製の板部材により構成される。定盤22は、所定の長さLP及び幅Wを有する長方形状に構成されるが、この形状に限定されるものではない。定盤22の長さLPは、80mm以上260mm以下とされるが、この範囲に限定されない。定盤22の幅Wは、30mm以上60mm以下とされるが、この範囲に限定されない。
【0035】
定盤22は、厚さ方向に貫通する孔25と、第一ガラスフィルムG1と接触する支持部26a〜26cとを有する。
【0036】
孔25は、図4に示すように、第一ガラスフィルムG1の搬送方向Xに沿う直線状の長孔として構成される。定盤22は、この孔25の上部における開口部25aを通じて第一ガラスフィルムG1の下面を吸引する。開口部25aは、第一ガラスフィルムG1の搬送方向Xに沿う所定の長さLA、及び搬送方向Xに直交する方向における一定の幅WAを有する。開口部25aの長さLAは、40mm以上80mm以下に設定されることが望ましい。開口部25aの幅WAは、3mm以上30mm以下に設定されることが好ましく、より好ましくは、3mm以上20mm以下である。
【0037】
支持部26a〜26cは、樹脂製のシート部材により構成されるが、この材質に限定されるものではない。図5に示すように、支持部26a〜26cは、その上面が第二搬送部8のパスラインPLよりも、上方に位置する。支持部26a〜26cの上面と、パスラインPL(ベルト8aの上部)との高さの差Hは、0mm以上3.0mm以下とされることが望ましく、0.5mm以上3.0mm以下とされることがさらに望ましい。
【0038】
支持部26a〜26cは、第一支持部26aと、第一支持部26aの下流側に位置する第二支持部26bと、第二支持部26bの下流側に位置する第三支持部26cとを有する。第一支持部26aは、定盤22の上流側端部から開口部25aまでの範囲に設けられる。第一支持部26aの長さL1は、10mm以上50mm以下に設定されることが望ましい。第一支持部26aの幅W1は、定盤22の幅Wと等しい。
【0039】
第二支持部26bは、定盤22の孔25の幅方向外側(両側)に位置する。第二支持部26bの長さL2は、孔25(開口部25a)の長さLAと等しい。第二支持部26bの幅W2は、1mm以上15mm以下とされるが、この範囲に限定されない。
【0040】
第三支持部26cは、開口部25aよりも下流側に位置する。第三支持部26cは、冷却装置21から放出される冷媒Rにより冷却される第一ガラスフィルムG1の一部を支持する。第三支持部26cの長さL3は、10mm以上160mm以下とされるが、この範囲に限定されない。第三支持部26cの幅W3は、定盤22の幅Wと等しい。
【0041】
支持部材23は、定盤22の下部を支持する。支持部材23は、例えば金属によりブロック状に構成される。この支持部材23と定盤22との間には、支持部材23の外部の空気を吸引する開口部(隙間)23aが形成されている。支持部材23は、定盤22の孔25に連通する内部空間Sを有する。支持部材23の下部には、吸引装置19の一部が接続されている。
【0042】
吸引ポンプ24は、第二搬送部8の近傍位置に設けられる。吸引ポンプ24は、接続配管27を介して支持部材23に接続される。これにより、吸引ポンプ24は、接続配管27、及び支持部材23の内部空間Sを通じて、支持部材23の開口部23a及び定盤22の開口部25aから空気を吸引する。
【0043】
レーザ照射装置20は、搬送方向Xに沿って移動する第一ガラスフィルムG1の所定部位にレーザ光Lを照射することにより、当該部位を局部加熱する。レーザ照射装置20は、図3に示すように、複数のレーザ照射部20aを有する。各レーザ照射部20aは、定盤22の開口部25aの上方に配置される。これによりレーザ照射部20aは、開口部25aを通過する第一ガラスフィルムG1の複数箇所にレーザ光Lを照射する。各レーザ照射部20aからのレーザ光Lの照射位置Oは、第一ガラスフィルムG1の搬送方向Xにほぼ平行な直線上に位置するように設定される。
【0044】
冷却装置21は、第一ガラスフィルムG1の搬送方向Xにおいて、レーザ照射装置20の下流側に配置される。冷却装置21は、第一ガラスフィルムG1において局部加熱された部位に冷媒Rを放出して当該部位を冷却する。
【0045】
第二巻取部10は、第二搬送部8及び第二切断部9の下流側に配置される。第二巻取部10は、第二搬送部8から搬送される第二ガラスフィルムG2を巻芯28によって巻き取ることで第二ガラスロールGRL2を構成する。
【0046】
上記の製造装置1により製造される第二ガラスフィルムG2(第一ガラスフィルムG1)の材質としては、ケイ酸塩ガラス、シリカガラスが用いられ、好ましくはホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、化学強化ガラスが用いられ、最も好ましくは無アルカリガラスが用いられる。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本発明におけるアルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0047】
また、第二ガラスフィルムG2(第一ガラスフィルムG1)の厚みは、10μm以上300μm以下とされ、好ましくは30μm以上200μm以下であり、最も好ましくは30μm以上100μm以下である。
【0048】
以下、上記構成の製造装置1を使用して第二ガラスフィルムG2(第二ガラスロールGRL2)を製造する方法について説明する。図6に示すように、本方法は、成形工程S1と、耳部除去工程S2と、第一巻取工程S3と、取出工程S4と、割断工程S5と、第二巻取工程S6とを備える。
【0049】
成形工程S1では、成形部2における成形体11のオーバーフロー溝11aから溢流した溶融ガラスGMを当該成形体11の両側面に沿ってそれぞれ流下させ、その下端で合流させてフィルム状に成形する。この際、溶融ガラスGMの幅方向収縮をエッジローラ12により規制して所定幅の母材ガラスフィルムGとする。その後、母材ガラスフィルムGに対してアニーラ13により除歪処理を施す(徐冷工程)。支持ローラ15の張力により、母材ガラスフィルムGは所定の厚みに形成される。
【0050】
耳部除去工程S2では、方向変換部3及び第一搬送部4によって母材ガラスフィルムGを下流側に送りつつ、第一切断部5において、レーザ照射装置17aからレーザ光Lを母材ガラスフィルムGの一部に照射して加熱する。その後、加熱した部位に冷却装置17bによって冷媒Rを吹き付ける。これにより、母材ガラスフィルムGに熱応力が生じる。母材ガラスフィルムGには、予め初期クラックが形成されており、このクラックを熱応力によって進展させる。これにより、母材ガラスフィルムGから耳部が除去され、第一ガラスフィルムG1が形成される。
【0051】
続く第一巻取工程S3では、第一ガラスフィルムG1を巻芯18に巻き取ることにより、第一ガラスロールGRL1を構成する。その後、第一ガラスロールGRL1は、取出部7に移送される。取出工程S4では、取出部7に移送された第一ガラスロールGRL1から第一ガラスフィルムG1を引き出し、第二搬送部8によって第二切断部9へと搬送する。
【0052】
割断工程S5では、第一ガラスフィルムG1の一部は、第二搬送部8によって搬送されることにより、定盤22の支持部26a〜26c上を通過する(搬送工程)。吸引装置19は、吸引ポンプ24を常時作動させており、定盤22の開口部25aによって当該定盤22上の第一ガラスフィルムG1を吸引する(吸引工程)。図7及び図8に示すように、第一ガラスフィルムG1は、定盤22の第二支持部26bにより支持されるとともに、開口部25aに吸引されることで当該開口部25aの範囲内において凹状に変形する。
【0053】
割断工程S5では、第一ガラスフィルムG1を移動させつつ、開口部25aにより吸引させて、開口部25aの範囲内で当該第一ガラスフィルムG1を変形させる。この場合における第一ガラスフィルムG1の変形量Dは、0.1mm以上0.3mm以下とされることが望ましい。上記の変形量Dは、第一ガラスフィルムG1を10m搬送した場合において、連続的に0.1秒毎に測定した値の平均値である。変形量Dの測定は、レーザ光Lによる熱膨張の影響を排除するために、レーザ光Lを照射していない状態で測定する。割断工程S5では、第一ガラスフィルムG1の変形量Dを可及的に小さくすべく、吸引装置19の吸引力が調整される。すなわち、吸引ポンプ24における吸気量を調整する他、支持部材23に形成される開口部23aを通じて吸気が行われることにより、開口部25aの吸引力が調整される(吸引力調整工程)。開口部23aは、閉塞部材を使用することにより、その開口面積が調整される。
【0054】
第一ガラスフィルムG1は、第二搬送部8によって搬送されながら開口部25aに吸引されるが、その吸引力が調整される(吸引力が弱められる)ことで、微小な上下動(振動)を生じ得る(図9参照)。開口部25aの吸引力を調整することにより、第一ガラスフィルムG1の上下動幅(振幅)Aを可及的に低減できる。具合的には、第一ガラスフィルムG1の上下動幅Aは、10μm以上50μm以下とすることが可能である。すなわち、第一ガラスフィルムG1を10m搬送した場合において、連続的に0.1秒毎に測定した上下動幅Aの値の最小値が10μm以上、最大値が50μm以下とされることが望ましい。なお、上下動幅Aは、公知のレーザ変位センサを用いて測定する。上下動幅Aの測定は、レーザ光Lによる熱膨張の影響を排除するために、レーザ光Lを照射していない状態で測定する。
【0055】
吸引力の調整において、吸引量を大きくすると、上述の変形量Dが大きくなるが、上述の上下動幅Aは小さくなる傾向にある。逆に、吸引量を小さくすると、上述の変形量Dは小さくなるが、上述の上下動幅Aは大きくなる傾向にある。従って、許容可能な上下動幅Aの範囲内で変形量Dを可及的に小さくすることが好ましく、吸引力は、開口部25aにおける風速が1m/s〜6m/sの範囲であることが好ましい。上記風速は、公知の風速計を用いて測定する。
【0056】
割断工程S5では、上記のように第二搬送部8によって第一ガラスフィルムG1を搬送するとともに、レーザ照射装置20のレーザ照射部20aから複数のレーザ光Lを第一ガラスフィルムG1に照射する(レーザ照射工程)。レーザ光Lは、定盤22の開口部25aの範囲内を通過する第一ガラスフィルムG1の一部に照射される。
【0057】
上記のようなレーザ光Lの照射により、その照射位置Oにおいて第一ガラスフィルムG1が加熱される。その後、第一ガラスフィルムG1において加熱された部分は、開口部25aを通過し、冷却装置21によって冷却される(冷却工程)。すなわち、定盤22における第三支持部26cの上方に位置する冷却装置21から、下方に冷媒Rが噴射される。レーザ照射装置20の局部加熱による膨張と冷却装置21の冷却による収縮とにより第一ガラスフィルムG1に熱応力が生じる。第一ガラスフィルムG1には、予め初期クラックが形成されており、この熱応力によって当該クラックを進展させることで、第一ガラスフィルムG1の幅方向端部が連続的に割断される。これにより、第二ガラスフィルムG2が形成される。第二ガラスフィルムG2は引き続き第二搬送部8によって下流側の第二巻取部10へと搬送される。
【0058】
第二巻取工程S6では、巻芯28によって第二ガラスフィルムG2が巻き取られる。所定長さの第二ガラスフィルムG2が巻き取られることで、第二ガラスロールGRL2(ガラス物品)が構成される。
【0059】
以上説明した本実施形態に係るガラスフィルム(第二ガラスフィルムG2)の製造方法によれば、吸引装置19における定盤22の開口部25aから第一ガラスフィルムG1を吸引することにより、開口部25aを通過する第一ガラスフィルムG1における皺の発生を防止できる。加えて、定盤22を通過する前に第一ガラスフィルムG1に皺が生じていたとしても、開口部25aによる吸引によって当該皺を消失させることができる。したがって、開口部25aを通過する第一ガラスフィルムG1にレーザ光Lを照射し、その下流側で冷却装置21による冷媒Rを接触させることで、第二ガラスフィルムG2の割断面に不良を発生させることなく、第一ガラスフィルムG1を精度良く割断できる。
【0060】
また、定盤22の開口部25aとは異なる位置に存在する開口部23aから空気を吸引することにより、定盤22の開口部25aにおける第一ガラスフィルムG1の吸引力を調整できる。これにより、定盤22の開口部25aが第一ガラスフィルムG1を強く吸引することによる当該第一ガラスフィルムG1の搬送不良の発生を防止できる。
【0061】
図10及び図11は、吸引装置の他の例を示す。図10図11に示すように、定盤22は、複数の孔25を有しており、各孔25は、レーザ光Lがその範囲内に照射される第一開口部25a1、および第一開口部25a1から定盤22の幅方向に離れて配置される一対の第二開口部25a2を備える。
【0062】
第一開口部25a1は、図3および図4に示す定盤22の開口部25aと同じ機能を有する。第一開口部25a1は、一対の第二開口部25a2の間に配置される。定盤22に第二開口部25a2が形成される場合、第一開口部25a1の長さLA1は、40mm以上80mm以下とされることが望ましい。また、第一開口部25a1の幅WA1は、3mm以上5mm以下とされることが望ましい。
【0063】
第一開口部25a1の下流側端部DEは、第二開口部25a2の下流側端部DEよりも下流側に突出する。第一開口部25a1の下流側端部DEにおける突出量P1は、5mm以上20mm以下とされることが望ましい。
【0064】
一対の第二開口部25a2は、第一開口部25a1よりも長く、かつ幅広に形成されるが、この構成に限定されない。第二開口部25a2の長さLA2は、40mm以上80mm以下とされることが望ましい。第二開口部25a2の幅WA2は、8mm以上10mm以下とされることが望ましい。第二開口部25a2の上流側端部UEは、第一開口部25a1の上流側端部UEよりも上流側に突出している。第二開口部25a2の上流側端部UEにおける突出量P2は、10mm以上20mm以下とされることが望ましい。
【0065】
定盤22の第二支持部26bは、第一開口部25a1と第二開口部25a2とを定盤22の幅方向に離間する。定盤22の幅方向における第一開口部25a1と第二開口部25a2との離間距離、すなわち、第二支持部26bの幅W2は、1mm以上3mm以下とされることが望ましい。
【0066】
定盤22は、第一支持部26a乃至第三支持部26cに加え、第四支持部26dを有する。第四支持部26dは、第二開口部25a2よりも幅方向外方側に位置する。第四支持部26dの長さL4は、40mm以上80mm以下とされることが望ましい。第四支持部26dの幅W4は、3mm以上5mm以下とされることが望ましい。
【0067】
図11に示すように、第一開口部25a1及び第二開口部25a2は、支持部材23の内部空間Sに連通している。これにより、第一開口部25a1及び第二開口部25a2は、同一の吸引ポンプ24を介して第一ガラスフィルムG1の下面を吸引する。吸引ポンプ24の吸引量が少なければ、レーザ光Lを第一ガラスフィルムG1に照射していない状態において、第一開口部25a1での第1ガラスフィルムG1の変形量D1が、第二開口部25a2でのガラスフィルムG1の変形量D2よりも大きくなる傾向にある。逆に、吸引ポンプ24の吸引量が多ければ、レーザ光Lを第一ガラスフィルムG1に照射していない状態において、図11に示す通り、第一開口部25a1でのガラスフィルムG1の変形量D1よりも、第二開口部25a2でのガラスフィルムG1の変形量D2のほうが大きくなる傾向にある。図11に示す通り、第一開口部25a1でのガラスフィルムG1の変形量D1よりも、第二開口部25a2でのガラスフィルムG1の変形量D2のほうが大きくなるほうが、レーザ光L1による第一ガラスフィルムG1の切断の安定性が増すために、好ましい。尚、レーザ光L1をガラスフィルムG1に照射すると、レーザ光L1による熱の影響により、吸引ポンプ24の吸引量が多い場合であったとしても、第一開口部25a1でのガラスフィルムG1の変形量D1のほうが、第二開口部25a2でのガラスフィルムG1の変形量D2よりも大きくなる傾向にある。
【0068】
本例では、定盤22の第一開口部25a1及び第二開口部25a2から第一ガラスフィルムG1を吸引することにより、第一開口部25a1を通過する第一ガラスフィルムG1における皺の発生を防止できる。加えて、定盤22を通過する前に第一ガラスフィルムG1に皺が生じていたとしても、第一開口部25a1及び第二開口部25a2の吸引によって当該皺を消失させることができる。また、第二開口部25a2を定盤22に設けることにより、第一開口部25a1の開口面積(特に幅WA1)を可及的に小さくできる。これにより、第一開口部25a1を通過する第一ガラスフィルムG1の変形量D及び上下動幅Aを低減でき、第一ガラスフィルムG1を精度良く割断できる。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0070】
上記の実施形態では、オーバーフローダウンドロー法により、母材ガラスフィルムGを成形する例を示したが、これに限らず、母材ガラスフィルムGを他の成形法により成形してもよい。
【0071】
上記の実施形態における第二切断部9において、吸引装置19により第一ガラスフィルムG1を吸引しながら割断を行う例を示したが、これに限らず、第一切断部5において母材ガラスフィルムGを吸引装置により吸引してもよい。吸引装置19は、第一切断部5及び第二切断部9の一方又は両方に設けられる。
【符号の説明】
【0072】
22 定盤
23 支持部材
25a 開口部
25a1 第一開口部
26a 第一支持部
26b 第二支持部
26c 第三支持部
G1 第一ガラスフィルム
L レーザ光
X 搬送方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11