【実施例】
【0058】
実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
(緻密下地層の形成)
成形断熱材(大阪ガスケミカル(株)製DON−1000−H、かさ密度0.16g/cm
3)を、100×100×50に切断した。この成形断熱材の面積が100×100の一表面に、液状のレゾールタイプの熱硬化性フェノール樹脂99質量部と、天然の鱗状黒鉛粉末(平均粒径30μm)1質量部と、を混合してなる緻密下地層形成液1.3gを刷毛を用いて押し込むようにして含浸させた。
【0060】
緻密下地層形成液が含浸された成形断熱材を、熱処理炉に入れ、窒素ガス雰囲気中、800℃で1時間熱処理し、フェノール樹脂を炭素化させた。
【0061】
焼成後、上記緻密下地層形成液0.3gを、上記と同様に含浸させ、その後熱処理を行った。この処理によって、成形断熱材の表面に緻密下地層が形成された。また、緻密下地層形成液は、約800μmの領域に含浸された。
【0062】
(表面被覆層の形成)
骨材としてのアモルファスカーボンの球状粒子(平均粒径15μm)6.8質量部及び炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル(株)製S−242(平均繊維長0.37mm))1.2質量部と、熱硬化樹脂としての粒状フェノール樹脂10質量%と、溶剤としての工業用メタノール82質量部と、を混合して、表面被覆液を作製した。
【0063】
緻密下地層に、液の含浸領域の厚みが約400μmになるように表面被覆液を塗布した。こののち、不活性雰囲気下2000℃で5時間熱処理して、熱硬化性フェノール樹脂を炭素化させて、実施例1にかかる成形断熱材を作製した。つまり、本実施例では、厚みが400μmの緻密下地層と、厚みが400μmの表面被覆層と、の2層構造の表面層が成形断熱材に形成されている。
【0064】
(実施例2)
液状のレゾールタイプの熱硬化性フェノール樹脂と、天然の鱗状黒鉛粉末の質量混合比を95:5とした、緻密下地層形成液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2にかかる成形断熱材を作製した。
【0065】
(実施例3)
液状のレゾールタイプの熱硬化性フェノール樹脂と、天然の鱗状黒鉛粉末の質量混合比を90:10とした、緻密下地層形成液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3にかかる成形断熱材を作製した。
【0066】
(実施例4)
天然の鱗状黒鉛粉末に代えて、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル(株)製S−242)を骨材として使用した緻密下地層形成液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4にかかる成形断熱材を作製した。
【0067】
(実施例5)
液状のレゾールタイプの熱硬化性フェノール樹脂と、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル(株)製S−242)の質量混合比を95:5とした、緻密下地層形成液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5にかかる成形断熱材を作製した。
【0068】
(実施例6)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行ったこと以外は、実施例4と同様にして、実施例6にかかる成形断熱材を作製した。
【0069】
(実施例7)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行ったこと以外は、実施例5と同様にして、実施例7にかかる成形断熱材を作製した。
【0070】
(実施例8)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8にかかる成形断熱材を作製した。
【0071】
(実施例9)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行ったこと以外は、実施例3と同様にして、実施例9にかかる成形断熱材を作製した。
【0072】
(実施例10)
表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして、実施例10にかかる成形断熱材を作製した。
【0073】
(比較例1)
実施例1で使用したDON−1000−Hを比較例1にかかる成形断熱材とした。
【0074】
(比較例2)
表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例4と同様にして、比較例2にかかる成形断熱材を作製した。
【0075】
(比較例3)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行い、且つ、表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例4と同様にして、比較例3にかかる成形断熱材を作製した。
【0076】
(比較例4)
表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例5と同様にして、比較例4にかかる成形断熱材を作製した。
【0077】
(比較例5)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行い、且つ、表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例5と同様にして、比較例5にかかる成形断熱材を作製した。
【0078】
(比較例6)
表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6にかかる成形断熱材を作製した。
【0079】
(比較例7)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行い、且つ、表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7にかかる成形断熱材を作製した。
【0080】
(比較例8)
緻密下地層形成液の含浸と焼成を1回のみ行い、且つ、表面被覆液の含浸とその後の焼成を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして、比較例8にかかる成形断熱材を作製した。
【0081】
上記実施例1〜10、比較例1〜8に係る成形断熱材について、以下の条件でガス透過率を測定した。この結果を下記表1に示す。
【0082】
(ガス透過試験)
ガス透過試験装置100は、
図3に示すように、平板状の台42上にキャップ状の容器41が載置されており、これにより一次側空間20が形成されている。一次側空間20には透過セル21が備えられている。また、台42の中央部には貫通孔が設けられ、ここに配管35が接続されている。この台42よりも下方の空間が、二次側空間30である。また、ガス透過試験装置100は、一次側空間20及び二次側空間30の圧力を測定する圧力計31を備えている。
【0083】
また、一次側空間20内部にガスを供給する吸気管23が設けられるとともに、ロータリー式真空ポンプ34にそれぞれ接続され、一次側空間20又は二次側空間内部のガスを排気する排気管25,33が設けられている。これらの管にはそれぞれバルブ22,24,32が設けられている。
【0084】
上記の成形断熱材を長さ6cm、幅6cm、厚さ約2cmの大きさに切断して試験片10とし、ガス透過試験装置100の透過セル21内に設置した。この試験片10は、ガス漏れが発生しないよう周囲がシリコーンゴム11で目止めされており、且つ上下面にはシリコーンゴム製のOリング12が設置されている。これにより、一次側空間20内部のガスは、透過セル21内部の試験片10を経由しない限り、二次側空間30に移動することはできないようになっている。
【0085】
測定は次のようにして行った。まず、バルブ24,32を開け、真空ポンプ34により、一次側空間20及び二次側空間30が一定の真空値になるまで減圧する。次いで、バルブ24,32を閉じ、真空ポンプ34の作動を停止する。そして、バルブ22を開けて一次側空間20に窒素ガスを一定のガス圧で供給する。窒素ガスは、一次側空間20から試験片10を透過して二次側空間30へと移動し、これにより、二次側空間30の圧力が上昇し始める。その圧力上昇率を、圧力計31を用いて測定した。この圧力上昇率から次の式(3)、(4)を用いてガス透過率(K)を算出した。
【0086】
K=(Qh)/(ΔPA)・・・(3)
Q={(p
2−p
1)V
0}/t・・・(4)
ここで、Kは窒素ガス透過率、Qは通気量、ΔPは一次側と二次側の圧力差、Aは透過面積、hは試験片の厚さ、p
1は二次側の初期圧力、p
2は二次側の最終圧力、V
0は二次側の容積、tは測定時間である。
【0087】
このとき、次の式(5)式が成り立つような平均圧力P
m(一次側空間と二次側空間の圧力の平均値)の範囲で測定するため、平均圧力P
mが約50〜110kPaとなる範囲で測定を行った。表2に示しているガス透過率は平均圧力P
mに対してガス透過率Kを3点以上プロットした際の最小二乗法による近似直線において、P
m=100kPaのときの値を示している。
【0088】
K=aP
m+b ・・・(5)
ここで、a、bは定数である。
【0089】
(体積分率の測定)
実施例1〜10、比較例1〜8にかかる成形断熱材の表面被覆層における骨材(鱗状黒鉛、アモルファスカーボン粒子、炭素繊維ミルドの合計)の体積分率を求めた。まず、骨材の見掛け密度をn−ブタノール浸漬法で求めた。ここでいう見掛け密度とは、n−ブタノールが骨材に浸透する開気孔を除いた密度をいう。骨材の体積は、骨材の質量に見掛け密度を除して求めた。各々の体積分率は、各層中の骨材の体積を各層の体積で除して求めた。
【0090】
【表1】
【0091】
この結果から、実施例1〜10と、表面被覆層を全く形成していない比較例1を比較すると、約7倍以上ガスを透過し難くできることが分かる。
【0092】
また、液の含浸回数が1回以下の比較例1,3,5,7,8は、ガス透過率が1.3×10
4cm
2/s以上と、ガス透過を十分に抑制できないことが分かる。
【0093】
また、液の含浸回数が2回であっても、表面から100μmまでの領域の骨材の体積分率が1%未満である比較例2,6は、ガス透過率が1.4×10
4cm
2/s、6.5×10
3cm
2/sと、不十分であることが分かる。
【0094】
また、表面から100μmまでの領域に、骨材として炭素粒子を含まない比較例4は、この領域の骨材の体積分率が2.69%と高いものの、ガス透過率が7.8×10
3cm
2/sと、不十分であることが分かる。
【0095】
これらのことは、次のように考えられる。ガスの透過を抑制するためには、ガスの通過する経路の径を小さくすることが重要である。ここで、液の含浸回数が1回以下であると(比較例1,3,5,7,8)、十分に経路の径を小さくすることができない。
【0096】
また、骨材はガスが通過する経路を局所的に埋め、熱硬化樹脂の炭素化物は炭素繊維の表面や骨材の表面を覆うようにガスが通過する経路を埋めるため、骨材のほうが経路の径を小さくする効果が大きい。このため、特にガス遮断に寄与する効果が大きい表面から100μmまでの領域における骨材の体積分率が過小である比較例2,6では、ガス遮断効果が不十分となる。
【0097】
また、炭素繊維ミルドは成形断熱材を構成する炭素繊維に沿って配向しやすく、経路の径を小さくする効果が炭素粒子よりも小さい。このため、特にガス遮断に寄与する効果が大きい表面から100μmまでの領域において炭素粒子が含まれない比較例4では、ガス遮断効果が不十分となる。
【0098】
これらに対し、液の含浸回数が2回又は3回であり、表面から100μmまでの領域の骨材の体積分率が1%以上であり、且つこの領域に炭素粒子が含まれる実施例1〜10では、ガス透過率を1.9×10
3cm
2/s以下と十分に小さくできる。
【0099】
図1に、実施例1に係る成形断熱材の表面層近傍の断面顕微鏡写真を示す。この写真からわかるように、繊維間の空隙が少ないシート1、2と、繊維間の空隙が相対的に多いシート3とが、剥離することなく接合されていることが分かる。この繊維間の空隙が少ないシートのうち、表面側から表面被覆層1、緻密下地層2であり、繊維間の空隙が相対的に多いシートが成形断熱材本体3である。
【0100】
図2は、実施例3にかかる成形断熱材の断面顕微鏡写真であって、
図2(a)は加工前の成形断熱材、
図2(b)は緻密下地層形成後の成形断熱材、
図2(c)は表面被覆層形成後の成形断熱材をそれぞれ示す。この写真からわかるように、加工前の成形断熱材においては、多数の炭素繊維が多数の空隙(繊維間の空隙)を保持しつつ存在していること、空隙から内部(奥)の繊維をみることができ、奥まで空隙である領域(合焦範囲内には繊維等が存在しない領域)も多くみられることがわかる。そして、緻密下地層形成後においては、奥まで空隙である領域は少なくなっていること、表面被覆層形成後においては、空隙を埋める多くの粒子状物が見られることがわかる。
【0101】
このように、炭素繊維間の空隙を粒子状物が局所的埋める(塞ぐ)ことにより、ガスが通る経路径が極めて小さくなり、ガス透過性が小さくなる。
【0102】
なお、上記実施例では成形断熱材を構成する炭素繊維は平均直径13μmとしたが、この太さに限定されることはない。ただし、繊維の直径は、製造される成形断熱材の断熱性能やかさ密度等に影響を及ぼすので、目的とする断熱性能・かさ密度に応じて直径等を選択すればよい。