特許第6924748号(P6924748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6924748熱硬化性樹脂組成物、硬化膜及びその製造方法、ならびに硬化膜付きフレキシブルプリント基板及びその製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6924748
(24)【登録日】2021年8月4日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、硬化膜及びその製造方法、ならびに硬化膜付きフレキシブルプリント基板及びその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20210812BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20210812BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20210812BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20210812BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20210812BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20210812BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20210812BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C08G59/42
   C08F20/18
   C08F20/06
   C08G18/08 019
   C08L63/00
   C08K5/49
   C08K7/16
   H05K1/03 610L
   H05K1/03 610S
   H05K1/03 670A
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-514566(P2018-514566)
(86)(22)【出願日】2017年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2017016059
(87)【国際公開番号】WO2017188155
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-86773(P2016-86773)
(32)【優先日】2016年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】好田 友洋
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 勇志
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−071325(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/008995(WO,A1)
【文献】 特開2014−120578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
C08F 20/00− 20/70
C08G 18/00− 18/87
C08L 63/00− 63/10
C08K 3/00− 13/08
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:エポキシ樹脂、(B)成分:硬化促進剤、(C)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物、及び(D)成分:酸性官能基を有し重量平均分子量が1000以上の化合物を含み、
(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計100重量部に対して、(A)成分を5〜60重量部、(B)成分を0.05〜15重量部、(C)成分を10〜40重量部、(D)成分を10〜80重量部含み、
全固形分100重量部に対する光重合開始剤の含有量が0.05重量部未満であり、全固形分100重量部に対する熱重合開始剤の含有量が0.05重量部未満である、熱硬化性樹脂組成物(ただし、マレイミド誘導体を含むものを除く)
【請求項2】
さらにリン系難燃剤を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン系難燃剤がホスフィン酸金属塩である、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに有機球状ビーズを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機球状ビーズが架橋ウレタンを含む、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)成分が、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物からなる硬化膜。
【請求項8】
前記(C)成分の少なくとも一部が未反応で残存している、請求項7に記載の硬化膜。
【請求項9】
緩和時間が1000秒以下である、請求項7又は8に記載の硬化膜。
【請求項10】
金属配線上に、請求項7〜9のいずれか1項に記載の硬化膜を備える、硬化膜付きフレキシブルプリント基板。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成する工程;及び
前記塗布膜を加熱することにより前記熱硬化性樹脂組成物を硬化して硬化膜を形成する工程、
を含む、硬化膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物をフレキシブルプリント基板の金属配線形成面に塗布して塗布膜を形成する工程;及び
前記塗布膜を加熱することにより前記熱硬化性樹脂組成物を硬化して硬化膜を形成する工程、
を含む、硬化膜付きフレキシブルプリント基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、硬化膜及びその製造方法、ならびに硬化膜付きフレキシブルプリント基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電子機器に用いられるフレキシブルプリント基板の回路上には、絶縁信頼性を維持するため、絶縁性の硬化樹脂膜が設けられている。近年、スマートフォンやタブレットに代表される電子機器の小型化、薄型化が進んでおり、電子機器に用いられるフレキシブルプリント基板には、小型化、薄型化に対応した仕様が要求されている。例えば、配線板の回路ピッチのファイン化が進み、微細な組み込み性が求められている。
【0003】
紫外線硬化性樹脂は柔軟性が乏しいため、微細組み込みによる高い折り曲げ性が要求されるフレキシブルプリント基板の硬化樹脂膜には熱硬化性樹脂が使用される。特許文献1には、エポキシ樹脂と二塩基酸無水物を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、ポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとの反応で形成されるウレタン結合を有し1分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリウレタンと、エポキシ樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−75032号公報
【特許文献2】特開2006−117922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2等に開示されている従来の熱硬化性樹脂組成物は、硬化膜の耐熱性と柔軟性との両立が困難である。また、フレキシブルプリント基板等の可撓性基板上に硬化膜を形成すると、硬化後の加工における熱履歴によって基板が大きく反り、基板の取り扱いが困難となったり、工程検査等における作業上の問題が生じる場合がある。さらには、反りに起因して、基板上に部品を実装する際の位置合わせ精度低下が問題となる場合がある。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、加工熱履歴によっても基板の反りが小さい硬化膜、及び硬化膜形成のための熱硬化性樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化促進剤、(C)(メタ)アクリロイル基を有する化合物、及び(D)酸性官能基を有し重量平均分子量が1000以上の化合物、を含む。熱硬化性樹脂組成物は、さらにリン系難燃剤、有機球状ビーズ等を含んでいてもよい。熱硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤及び熱重合開始剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0008】
上記熱硬化性樹脂組成物の熱硬化により、硬化膜が得られる。例えば、上記の熱硬化性樹脂組成物を、フレキシブルプリント基板の表面に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を加熱することにより、硬化膜付きフレキシブルプリント基板が得られる。本発明の硬化膜は、熱硬化性樹脂組成物中の上記(C)成分の一部または全部が未反応で残存していてもよい。熱硬化膜の緩和時間は1000秒以下が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
(A)熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂、(B)硬化促進剤、(C)(メタ)アクリロイル基含有化合物、及び(D)酸性官能基含有化合物を含む本発明の熱硬化性樹脂組成物は、硬化膜形成後の加工熱履歴によっても、基板の反りが小さい。従って、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線板等の種々の回路基板の保護膜として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂、(B)熱硬化促進剤、(C)(メタ)アクリロイル基含有化合物、及び(D)酸性官能基含有化合物を含む。以下、各成分の詳細について順に説明する。なお、以下の各成分は、それぞれ、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
<(A)熱硬化性樹脂>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)成分(熱硬化性樹脂)としてエポキシ樹脂を含む。熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる絶縁性硬化膜に耐熱性を付与できると共に、金属等の導体や回路基板に対する接着性を付与することができるため、(A)成分のエポキシ樹脂としては、1分子中に2以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0012】
多官能エポキシ樹脂とは、分子内に少なくとも2つのエポキシ基を含有する化合物であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、ウレタン、ゴム、キレート、ダイマー酸等による変性エポキシ樹脂でもよい。(A)成分のエポキシ樹脂として、市販のエポキシ樹脂をそのまま用いてもよい。
【0013】
エポキシ樹脂の中でも、(A)成分としてダイマー酸変性エポキシ樹脂を用いた場合に、硬化膜の緩和時間が減少し、硬化膜が形成された基板の反りが低減する傾向がある。ダイマー酸変性エポキシ樹脂とは、多官能エポキシ樹脂をダイマー酸構造中の少なくとも一つのカルボキシル基と反応させたものである。ダイマー酸とは不飽和脂肪酸の二量体である。ダイマー酸の原料となる不飽和脂肪酸としては、オレイン酸やリノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸が好ましく、例えば、炭素数18の不飽和脂肪酸を主成分とする植物由来油脂の重合によりダイマー酸が得られる。ダイマー酸の構造は、環状、非環状のいずれでもよい。ダイマー酸変性エポキシ樹脂の市販品としては、三菱化学(株)製の「jER871」、「jER872」、新日鐵化学(株)製の「YD−171」、「YD−172」等が挙げられる。
【0014】
硬化膜の耐熱性及び耐薬品等の観点から、エポキシ樹脂のエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む化合物の質量(g))は2000以下が好ましく、1500以下がより好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量は、150〜3000程度が好ましく、200〜2000程度がより好ましい。
【0015】
<(B)硬化促進剤>
硬化促進剤は、上記(A)成分の熱硬化を促進する化合物である。(B)成分としては、エポキシ樹脂の硬化促進剤を制限なく用いることができる。硬化促進剤は、分子量900以下の低分子量化合物が好ましい。熱硬化性樹脂組成物のポットライフを確保する観点から、(B)成分としては、加熱硬化型の硬化促進剤が好ましい。
【0016】
加熱硬化型の硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン等のホスフィン系化合物;テトラフェニルホスホニウム等のホスホニウム塩;トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラエタノールアミン等のアミン系化合物;テトラフェニルボレート等のボレート塩;イミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;2−メチルイミダゾリン、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン等のイミダゾリン類;2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン等のアジン系イミダゾール類;ジシアンジアミド等が挙げられる。
【0017】
<(C)(メタ)アクリロイル基含有化合物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(C)成分として、(メタ)アクリロイル基含有化合物を含む。(メタ)アクリロイル基含有化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つ有する化合物であり、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれでもよい。本明細書において、(メタ)アクリルはアクリル又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリロイルはアクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
【0018】
(メタ)アクリロイル基含有化合物の具体例としては、ビスフェノール EO変性(n=2〜50)ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性(n=2〜50)ジアクリレート、ビスフェノールS EO変性(n=2〜50)ジアクリレート、ビスフェノールF EO変性(n=2〜50)ジメタクリレート、ビスフェノールA EO変性(n=2〜50)ジメタクリレート、ビスフェノールS EO変性(n=2〜50)ジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、テトラメチロールプロパンテトラメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、β−アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、ラウリルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス[4−(アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2−ヒドロキシ−1−アクリロキシ−3−メタクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、メトキシジプロピレングリコールメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、1−アクリロイルオキシプロピル−2−フタレート、イソステアリルアクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルアクリレート、ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、1,6−メキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールメタクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、2,2−水添ビス[4−(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシ・ポリプロポキシ)フェニル]プロパン、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、エトキシ化トチメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トチメチロールプロパントリアクリレート、イソシアヌル酸トリ(エタンアクリレート)、ペンタスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ペンタスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、イソシアヌル酸トリアリル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアリルエーテル、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジン、トリアリル1,3,5−ベンゼンカルボキシレート、トリアリルアミン、トリアリルシトレート、トリアリルフォスフェート、アロバービタル、ジアリルアミン、ジアリルジメチルシラン、ジアリルジスルフィド、ジアリルエーテル、ザリルシアルレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、1,3−ジアリロキシ−2−プロパノール、ジアリルスルフィドジアリルマレエート、4,4’−イソプロピリデンジフェノールジメタクリレート、4,4’−イソプロピリデンジフェノールジアクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート化合物、エポキシ(メタ)アクリレート化合物、ポリエステル(メタ)アクリレート化合物、アクリル(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。(C)成分は、市販の(メタ)アクリレート化合物をそのまま用いてもよい。
【0019】
硬化膜の絶縁信頼性の観点から、(C)成分の(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を含むものが好ましい。特に、(C)成分としてウレタン(メタ)アクリレート化合物を含む熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化膜は、柔軟性に優れ、基板の反りを低減できるため好ましい。
【0020】
(C)成分は、硬化膜中で可塑剤的に作用し、応力緩和に寄与し得る成分である。そのため、(メタ)アクリロイル基含有化合物は、低揮発性または不揮発性であることが好ましく、低分子量又は中分子量のオリゴマー又はポリマーが好ましい。(メタ)アクリロイル基含有化合物の重量平均分子量は、150〜20,000程度が好ましく、200〜15,000程度がより好ましく、300〜10,000程度がさらに好ましい。
【0021】
<(D)酸性官能基含有化合物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(D)成分として、酸性官能基含有化合物を含む。酸性官能基含有化合物とは、分子内に少なくとも1つの酸性官能基を有する分子量が1,000以上の化合物である。酸性官能基としては、(A)成分のエポキシ基と反応するものが好ましく、カルボキシル基、フェノール性ヒドロキシ基等が挙げられる。エポキシ樹脂との反応性や保存安定性の観点から、酸性官能基含有化合物は、カルボキシル基を含むものが好ましい。酸性官能基は、カルボン酸無水物基でもよい。
【0022】
酸性官能基含有化合物の酸価は、5〜200mgKOH/gが好ましく、10〜150mgKOH/gがより好ましく、15〜100mgKOH/gがさらに好ましい。(D)成分としての酸性官能基含有化合物が適切な酸価を有することにより、(A)成分としてのエポキシ樹脂との架橋密度が高められ、硬化膜の耐熱性、絶縁信頼性および耐薬品性を向上できる。
【0023】
酸性官能基含有化合物の重量平均分子量は、ポリエチレングリコール換算で、1,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜200,000がより好ましく、3,000〜100,000がさらに好ましく、4,000〜50,000が特に好ましい。酸性官能基含有化合物の重量平均分子量が上記範囲内であれば、熱硬化性樹脂組成物の粘度をスクリーン印刷等による塗布に適した範囲に調整でき、かつ硬化膜の柔軟性や耐薬品性が向上する傾向がある。
【0024】
酸性官能基含有化合物の具体例としては、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマー、カルボキシル基含有ビニル系ポリマー、酸変性ポリウレタン、酸変性ポリエステル、酸変性ポリカーボネート、酸変性ポリアミド、酸変性ポリイミド、酸変性ポリウレタンアミド、酸変性ポリウレタンイミド等が挙げられる。硬化膜の柔軟性、絶縁信頼性、耐薬品性等の点で、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系共重合体、酸変性ポリウレタン、酸変性ポリアミド、酸変性ポリイミド、酸変性ポリウレタンアミド、酸変性ポリウレタンイミドが好ましい。
【0025】
(D)成分としての酸性官能基含有化合物は、各種公知の方法により得られる。重合は、溶液重合及び無溶媒重合のいずれでもよいが、反応を制御する為には、溶液重合が好ましい。溶液重合の有機溶媒としては、モノマー成分及び重合後のポリマーの両方を溶解できるものを特に制限なく用いることができる。溶液重合における溶媒量は、溶液濃度が5〜90重量%、好ましくは20〜70重量%となるように調整すればよい。
【0026】
カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステル、ならびに1分子中にカルボキシル基及び重合可能な二重結合を有する化合物を、モノマー成分として含む共重合体である。カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、2−(メタ)アクリロイオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイオキシエチルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、アトロパ酸、けい皮酸、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ−Y−リノレン酸、エイコサトリエン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸、2,2,2−トリスアクリロイロキシメチルコハク酸、2−トリスアクリロイロキシメチルエチルフタル酸等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0027】
カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、カルボキシル基含有モノマー及び(メタ)アクリル酸エステルに加えて、共重合成分として、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド、アクリロニトリル及びビニル−n−ブチルエーテル等のビニルアルコールのエステル類、スチレン、ビニルトルエン等を含んでいてもよい。カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば上記のモノマー成分のラジカル重合により得られる。ラジカル重合は熱重合でも光重合でもよい。ラジカル重合には、重合開始剤を用いてもよい。カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、好ましくは、熱重合開始剤として、アゾ系化合物、有機過酸化物、過硫酸塩、過酸化水素等を用いた溶液重合により得られる。
【0028】
酸変性ポリイミドは、例えば、ジイソシアネート化合物とテトラカルボン酸二無水物との反応により得られる。テトラカルボン酸二無水物をジイソシアネート化合物の当量よりも過剰に加えることにより、末端にカルボン酸無水物基を有するイミド化合物が得られる。末端にカルボン酸無水物基を有するイミド化合物に、水及び/又はメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の第一級アルコールを反応させることにより、末端にカルボキシル基を有するイミド化合物が得られる。ジイソシアネート化合物は、脂環族ジイソシアネート化合物及び脂肪族ジイソシアネート化合物のいずれでもよく、末端にイソシアネート基を有するウレタン化合物でもよい。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物のいずれでもよく、芳香環にカルボン酸無水物基が直接結合している芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0029】
酸変性ポリアミドは、アミド酸構造を有する化合物であり、例えば、ジアミノ化合物とテトラカルボン酸二無水物との反応により得られる。
【0030】
(D)成分としての酸性官能基含有化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基やビニル基等の重合性不飽和結合を有していてもよい。酸性官能基を有し、かつ分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、(C)成分とも(D)成分ともいえるが、(D)成分に該当するものとする。
【0031】
熱硬化性樹脂組成物が(D)成分として分子内に酸性官能基及び重合性不飽和二重結合を有する化合物を含む場合は、(D)成分が、(A)成分のエポキシ基に加えて(C)成分の(メタ)アクリロイル基とも反応するため、硬化膜の架橋密度が高められ、耐熱性や耐薬品性が向上する傾向がある。
【0032】
分子内に酸性官能基及び重合性不飽和二重結合を有する化合物としては、エポキシ樹脂と不飽和モノカルボン酸とを反応させて得られるエステルに、飽和又は不飽和の多価カルボン酸無水物を付加して得られるエポキシアクリレート;エチレン性不飽和基及び/又はカルボキシル基を有するジオール化合物と、ジイソシアネート化合物との重合物であるウレタンアクリレート;カルボキシル基及び重合可能な二重結合を有する(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルエステル等との共重合体の側鎖のカルボキシル基の一部をグリシジルメタクリレート等の(メタ)アクリル基とエポキシ基を有する化合物のエポキシ基と反応させて得られる(メタ)アクリル化(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記エポキシアクリレートの合成に用いられる飽和又は不飽和の多価塩基酸無水物としては、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、マレイン酸、コハク酸、トリメリット酸等の無水物が挙げられる。
【0033】
<各成分の含有量>
熱硬化性樹脂組成物中の(A)成分としてのエポキシ樹脂の含有量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは1〜80重量部、さらに好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。熱硬化性樹脂組成物は、(A)成分としてのエポキシ樹脂に加えて、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含有していてもよい。熱硬化性樹脂組成物中の(B)成分としての硬化促進剤の含有量は、全固形分合計100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1〜5重量部である。熱硬化性樹脂組成物中の(D)成分としての酸性官能基含有化合物の含有量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは10〜80重量部、より好ましくは20〜50重量部、さらに好ましくは25〜45重量部、特に好ましくは30〜40重量部である。(A)成分、(B)成分及び(D)成分の量を上記範囲内に調整することにより、硬化膜の耐熱性及び耐薬品性が向上する傾向がある。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物中の(C)成分としての(メタ)アクリロイル基含有化合物の含有量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは、5〜30重量部、さらに好ましくは7〜25重量部、特に好ましくは10〜20重量部である。(C)成分の量を上記範囲内に調整することにより、硬化膜に起因する基板の反りが低減する傾向がある。
【0035】
熱硬化性樹脂組成物中の(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計を100重量部とした場合の各成分の好ましい含有量は、下記の通りである。(A)成分の含有量は、5〜60重量部が好ましく、10〜50重量部がより好ましく、15〜40重量部がさらに好ましい。(B)成分の含有量は、0.05〜15重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましく、0.5〜5重量部がさらに好ましい。(C)成分の含有量は、5〜60重量部が好ましく、10〜50重量部がより好ましく、15〜40重量部がさらに好ましい。(D)成分の含有量は、10〜80重量部が好ましく、20〜70重量部がより好ましく、30〜50重量部がさらに好ましい。
【0036】
熱硬化性樹脂組成物は加熱により硬化する。そのため、熱硬化性樹脂組成物には光硬化のための光重合開始剤を含める必要がない。熱硬化性樹脂組成物が光重合開始剤を実質的に含まないことにより、保管環境の光(例えば蛍光灯の紫外線)等に起因する(C)成分の反応を抑制でき、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性を向上できる。また、樹脂組成物の熱硬化後に光硬化を行わないことにより、(C)成分の一部を未反応で残存させ、硬化膜に起因する基板の反りを抑制できる。熱硬化性樹脂組成物中には、(D)成分の重合等に用いた光重合開始剤が未開裂で少量残存していてもよい。具体的には、熱硬化性樹脂組成物の全固形分100重量部に対する光重合開始剤の含有量は、0.05重量部未満が好ましく、0.01重量部未満がより好ましく、0.001重量部未満がさらに好ましい。
【0037】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱ラジカル開始剤や熱カチオン開始剤等の、(C)成分の(メタ)アクリロイル基の熱硬化を促進する熱重合開始剤を実質的に含まないことが好ましい。熱重合開始剤を実質的に含まない樹脂組成物の熱硬化により得られる硬化膜は、硬化後の加工等により加熱された場合でも硬化収縮が生じ難く、基板の反りが抑制される傾向がある。また、熱硬化性樹脂組成物が熱重合開始剤を実質的に含まないことにより、保管環境における熱に起因する(C)成分の反応を抑制でき、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性を向上できる。熱硬化性樹脂組成物中には、(D)成分の重合等に用いた熱重合開始剤が未開裂で少量残存していてもよい。具体的には、熱硬化性樹脂組成物の全固形分100重量部に対する熱重合開始剤の含有量は、0.05重量部未満が好ましく、0.01重量部未満がより好ましく、0.001重量部未満がさらに好ましい。
【0038】
一般的に、(メタ)アクリロイル基含有化合物を含む熱硬化性樹脂組成物は、熱重合開始剤を含んでおり、(メタ)アクリロイル基のラジカル化またはカチオン化を促進することにより、加熱硬化速度を高めている。これに対して、本発明の熱硬化性樹脂組成物では、(B)成分としての硬化促進剤の存在下において、(D)成分の酸性官能基が(A)成分のエポキシ基と反応して硬化が進行する。そのため、組成物中に熱重合開始剤が含まれておらず、(C)成分のラジカル化またはカチオン化による重合が進行しない場合でも、組成物の熱硬化が進行する。
【0039】
(メタ)アクリロイル基含有化合物及び熱重合開始剤を含む一般的な熱硬化性樹脂組成物においても、熱硬化性化合物の一部が未反応のまま硬化膜中に不可避的に残存する。硬化膜を形成後の基板が、素子の形成や熱プレス等の加工において加熱されると、未反応で膜中に残存している熱硬化性化合物の熱硬化反応により硬化収縮が生じ、基板の反りが大きくなる傾向がある。
【0040】
一般的に、過酸化物等の熱重合開始剤の不存在下では、(メタ)アクリロイル基の熱エネルギーによる反応速度は、(A)成分のエポキシ基と(D)成分の酸性官能基との反応速度に比べて小さい。そのため、熱硬化性樹脂組成物が熱重合開始剤を実質的に含まない場合は、加熱により(A)成分と(D)成分との反応が優先的に進行し、熱重合開始剤を含有する場合に比べて、硬化膜中の未反応の(C)成分の量が増加する。本発明の熱硬化性樹脂組成物の熱硬化により得られる硬化膜は、未反応の(C)成分が可塑剤的に作用するため、低弾性及び応力緩和効果を発現し、基板の反りを抑制できると考えられる。
【0041】
[その他の成分]
熱硬化性樹脂組成物は、上記の(A)〜(D)成分に加えて、必要に応じて、下記の(E)成分、下記の(F)成分、及び溶媒等を含有していてもよい。熱硬化性樹脂組成物は、さらに、充填剤、接着助剤、消泡剤、レベリング剤、着色剤、重合禁止剤等の各種添加剤を含有してもよい。添加剤の含有量は適宜設定すればよい。
【0042】
<(E)リン系難燃剤>
硬化膜への難燃性付与等を目的として、熱硬化性組成物は、(E)成分としてリン系難燃剤を含有していてもよい。リン系難燃剤とは、分子内に少なくとも1つのリン元素を含有する化合物であり、赤リン、縮合リン酸エステル系化合物、環状有機リン系化合物、ホスファゼン系化合物、リン含有(メタ)アクリレート系化合物、リン含有エポキシ系化合物、リン含有ポリオール系化合物、リン含有アミン系化合物、ポリリン酸アンモニウム、メラミンリン酸塩、ホスフィン酸金属塩等が挙げられる。中でも、硬化膜に優れた難燃性を付与できると共に、硬化膜からの難燃剤のブリードアウトが少なく、接点障害や工程汚染を抑制できることから、ホスフィン酸金属塩好ましい。ホスフィン酸金属塩は、下記式で示される化合物である。式中、R及びRは、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分枝状の炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基であり、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群から選択される金属であり、tは1〜4の整数である。
【0043】
【化1】
【0044】
ホスフィン酸金属塩の中でも、高い難燃性が得られることからアルミニウム塩が好ましく、トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスメチルエチルホスフィン酸アルミニウム等が特に好ましい。
【0045】
熱硬化性組成物がリン系難燃剤を含む場合、その含有量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは1〜80重量部、さらに好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。リン系難燃剤の含有量が上記範囲内であれば、熱硬化性樹脂組成物の塗布性を良好に保ち、硬化膜に難燃性及び絶縁信頼性を付与できると共に、硬化膜の耐折れ性の低下や難燃剤のブリードアウトを抑制できる。
【0046】
<(F)有機球状ビーズ>
熱硬化性組成物は、(F)成分として球状有機ビーズを含有することができる。球状有機ビーズとは、炭素原子を含むポリマーの球状粒子であり、楕円状のものも含まれる。球状有機ビーズとしては、ポリメタクリル酸メチル系球状有機ビーズ、架橋ポリメタクリル酸メチル系球状有機ビーズ、架橋ポリメタクリル酸ブチル系球状有機ビーズ、架橋アクリル系球状有機ビーズ、アクリルコポリマー系球状有機ビーズ、架橋スチレン系球状有機ビーズ、架橋ポリアクリル酸エステル系有機ビーズ、ナイロン系球状有機ビーズ、シリコーン系球状有機ビーズ、架橋シリコーン系球状有機ビーズ、架橋ウレタン系球状有機ビーズ等が挙げられる。中でも、特に分子内にウレタン結合を含有する架橋ウレタンを含む架橋ウレタン系球状有機ビーズを用いることが、硬化膜の柔軟性向上及び硬化膜に起因する基板の反り低下の観点から好ましい。球状有機ビーズは、表面が親水性又は疎水性のシリカで被覆されていてもよい。
【0047】
球状有機ビーズの平均粒子径は、例えば0.05〜20μm程度である。粒子径の大きいビーズは絶縁不良の原因となるため、分級された球状有機ビーズを用いることが好ましい。具体的には、粒子径が15μm以下である個数割合が99.99%以上であることが好ましい。粒子径は、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所製の型番LA−950V2)により測定でき、体積基準のメジアン径(積算分布値50%に対する粒子径)を平均粒子径とする。
【0048】
熱硬化性組成物が球状有機ビーズを含む場合、その含有量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは1〜80重量部、さらに好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。球状有機ビーズの含有量が上記範囲内であれば、充填効果により、硬化膜の応力緩和効果や破壊靱性の向上により柔軟性が向上し、硬化膜に起因する基板の反りが低下する傾向がある。
【0049】
硬化膜中に球状ビーズが含まれていることは、断面の走査型電子顕微鏡観察(例えば倍率1000倍)により確認できる。反射電子検出(組成モード)では、観察領域の平均原子番号の差がコントラストに強く反映されるため、重元素が存在する領域が明るく(白く)、軽元素が存在する領域が暗く(黒く)観察される。そのため、炭素、水素、酸素、窒素等の軽元素から構成される有機球状ビーズは、暗い(黒い)円形領域として観察される。
【0050】
<溶媒>
熱硬化性樹脂組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、上記(A)〜(D)成分を溶解できるものを特に制限なく用いることができる。溶媒としては、スルホキシド類、ホルムアミド類、アセトアミド類、ピロリドン類、ホスホルアミド類、ラクトン類、エーテル類、アセテート類等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、(D)成分の重合や、各成分の希釈用溶媒がそのまま含まれていてもよい。
【0051】
[熱硬化性樹脂組成物の調製]
熱硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、上記の(A)〜(D)成分、及び必要に応じて、(E)成分、(F)成分、溶媒及びその他の添加剤等を混合すればよい。熱硬化性樹脂組成物に(F)成分を含める場合は、組成物中に粒子を均一に分散させるために、3本ロールミル等を用いてもよい。
【0052】
[熱硬化性樹脂組成物を用いた硬化膜の形成]
本発明の硬化膜の一実施形態は、上記熱可塑性樹脂組成物の熱硬化膜からなる。例えば、熱硬化性樹脂組成物を基板上に塗布して加熱硬化することにより硬化膜が形成される。フレキシブルプリント基板の金属配線形成面上に硬化膜を形成することにより、硬化膜付きフレキシブルプリント基板が得られる。フレキシブルプリント基板は、例えば、ポリイミドフィルムと銅層とを張り合わせた銅張積層板を用いて、サブトラクト法により銅層をパターニングして回路(金属配線)形成をすることにより得られる。ポリイミドフィルム等の可撓性基板上にセミアディティブ法により金属配線を形成してもよい。金属配線の表面は粗化処理されていてもよい。金属配線の表面には、防錆処理、プライマー処理等が施されていてもよい。
【0053】
基板への熱硬化性樹脂組成物の塗布は、スクリ−ン印刷、ローラーコーティング、カ−テンコーティング、スプレーコーティング、スピンナーを利用した回転塗布等から選択すればよい。膜厚制御のし易さからスクリーン印刷が好ましい。塗布厚みは、配線厚み等を考慮して決定され、例えば硬化後の厚みが2〜50μm程度となるように塗布厚みを設定すればよい。塗布膜を加熱することにより、硬化膜が得られる。配線等の酸化を防ぎ、配線と基材との密着性を低下させないことを目的として低温で加熱して硬化させることが望まれている。加熱硬化時の最終加熱温度は100℃以上250℃以下が好ましく、120℃以上200℃以下がより好ましく、130℃以上190℃以下が特に好ましい。
【0054】
硬化膜の緩和時間が小さいほど、硬化膜を設けた基板の反りが小さくなる傾向がある。硬化膜の緩和時間は1000秒以下が好ましく、800秒以下がより好ましく、200秒以下がさらに好ましく、100秒以下が特に好ましく、50秒以下が最も好ましい。硬化膜の緩和時間τは、熱硬化性樹脂組成物の硬化膜の単層の引張試験の応力緩和測定より得られる応力緩和曲線から単純マクスウェルモデルに基づいて算出され、応力σが、σ/eとなるまでの時間である。σは初期応力、eは自然対数の底(2.72)である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0056】
[合成例]
以下の合成例1〜4では、酸性官能基を有するポリマー(D)−1〜(D)−4を重合した。合成例1〜4で得られた溶液及びポリマーの特性は、以下の方法により評価した。
【0057】
<固形分濃度>
JIS K 5601−1−2に従って測定を行った。乾燥条件は170℃×1時間とした。
【0058】
<ポリマーの重量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件で測定を行った。
使用装置:東ソー HLC-8220GPC相当品
カラム:東ソー TSK gel Super AWM-H(6.0mm I.D.×15cm)×2本
ガードカラム:東ソー TSK guard column Super AW-H
溶離液:30mM LiBr + 20mM H3PO4 in DMF
流速:0.6mL/min
カラム温度:40℃
検出条件:RI:ポラリティ(+)、レスポンス(0.5sec)
試料濃度:約5mg/mL
分子量標準品:PEG(ポリエチレングリコール)
【0059】
<ポリマーの酸価>
JIS K 5601−2−1に従って測定を行った。
【0060】
(合成例1)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、及び窒素導入管を備えた反応容器に、重合用溶媒としてメチルトリグライム(1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン)100.0gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃に昇温した。これに、室温で予め混合しておいた、メタクリル酸12.0g(0.14モル)、メタクリル酸ベンジル28.0g(0.16モル)、メタクリル酸ブチル60.0g(0.42モル)、及びラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.5gを、80℃に保温した状態で3時間かけて滴下漏斗から滴下した。滴下終了後、反応溶液を攪拌しながら90℃に昇温し、反応溶液の温度を90℃に保ちながらさらに2時間攪拌を行い、分子内にカルボキシル基を含有するアクリル系ポリマーの溶液(D)−1を得た。溶液の固形分濃度は50%、ポリマーの重量平均分子量は48,000、酸価は78mgKOH/gであった。
【0061】
(合成例2)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、及び窒素導入管を備えた反応容器に、重合用溶媒としてメチルトリグライム30.00g及びノルボルネンジイソシアネート10.31g(0.050モル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃に加温して溶解させた。この溶液に、ポリカーボネートジオール(旭化成株式会社製、商品名:PCDL T5652、重量平均分子量2000)50.00g(0.025モル)及び2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸3.70g(0.025モル)をメチルトリグライム30.00gに溶解した溶液を1時間かけて滴下漏斗から滴下した。この溶液を80℃で5時間加熱攪拌して、分子内にカルボキシル基を含有するウレタンポリマーの溶液(D)−2を得た。溶液の固形分濃度は52%、ポリマーの重量平均分子量は5,600、酸価は22mgKOH/gであった。
【0062】
(合成例3)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、及び窒素導入管を備えた反応容器に、重合用溶媒としてメチルトリグライム40.00g及びノルボルネンジイソシアネート20.62g(0.100モル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃に加温して溶解させた。この溶液に、ポリカーボネートジオール50.00g(0.025モル)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸3.70g(0.025モル)及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート13.02g(0.100モル)をメチルトリグライム40.00gに溶解した溶液を1時間かけて滴下漏斗から滴下した。この溶液を80℃で5時間加熱攪拌して、分子内にカルボキシル基及びメタクリロイル基を含有するウレタンポリマーの溶液(D)−3を得た。溶液の固形分濃度は52%、ポリマーの重量平均分子量は8,600、酸価は18mgKOH/gであった。
【0063】
(合成例4)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、及び窒素導入管を備えた反応容器に、重合用溶媒としてメチルトリグライム35.00g及びノルボルネンジイソシアネート10.31g(0.050モル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃に加温して溶解させた。この溶液に、ポリカーボネートジオール50.00g(0.025モル)をメチルトリグライム35.00gに溶解した溶液を1時間かけて滴下漏斗から滴下し、80℃で2時間加熱攪拌した後、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸二無水物15.51g(0.050モル)を添加し、190℃に昇温して1時間加熱撹拌した。その後、80℃に冷却して、純水3.60g(0.200モル)を添加し、110℃に昇温して5時間加熱還流し、分子内にカルボキシル基を含有するウレタンイミドポリマーの溶液(D)−4を得た。溶液の固形分濃度は53%、ポリマーの重量平均分子量は9,200、酸価は86mgKOH/gであった。
【0064】
[実施例1〜12、比較例1〜9]
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
一般的な攪拌翼を備える攪拌装置で表1に示す配合で組成物を混合し、3本ロールミルで2回パスして均一な溶液として熱硬化性樹脂組成物を調製した。グラインドメーターにて(F)成分を含む組成物の粒子径を測定したところ、いずれも10μm以下であった。
【0065】
<硬化膜の評価>
(i)反り評価
厚み25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製 商品名:アピカル25NPI)上に、熱硬化性樹脂組成物を、ベーカー式アプリケーターを用いて最終乾燥厚みが20μmになるように100mm×100mmの面積に流延・塗布した。150℃のオーブンで30分加熱して硬化させ、ポリイミドフィルム上に熱硬化性樹脂組成物の硬化膜を形成した。比較例9の樹脂組成物のみ、熱硬化後にDEEP UV LAMPを用いて積算光量100mJ/cmの紫外線を照射して光硬化を行った。硬化膜が形成されたポリイミドフィルムを50mm×50mmの面積に切り出して、常態時の反り量、及び170℃のホットプレート上で5秒加熱処理後の反り量を測定した。反り量の測定は、平滑な台の上に硬化膜が上面になるように硬化膜付きポリイミドフィルムを置き、台とフィルムの端部との距離を測定することにより行った。
【0066】
(ii)緩和時間測定
フッ樹脂フィルム(日東電工株式会社製 商品名:ニトフロンNo.900UL、厚み0.1mm)上に、上記(i)と同様の方法で20μm厚みの硬化膜を形成した。フッ素樹脂フィルムから硬化膜を引き剥がし、1.5cm×20cmのサイズにカットし、引張り試験機で応力緩和測定を実施した。応力緩和試験の条件は以下の通りである。
【0067】
引張り幅:10cm
引張り速度:50mm/sec
引張りひずみ:1%
初期応力:引張りひずみ1%直後の応力
緩和時間:単純マクスウェルモデルより算出
【0068】
(iii)難燃性
プラスチック材料の難燃性試験規格UL94に従い、以下のように難燃性試験を行った。25μm厚みのポリイミドフィルムの両面に、上記(i)と同様の方法で25μm厚みの硬化膜を作製した。両面に硬化膜を形成したポリイミドフィルム(75μm厚み)を、50mm幅×200mm長さに切り出し、長さ方向に125mmの部分に標線を入れ、直径約13mmの筒状に丸め、標線よりも上の重ね合わせ部分(75mmの箇所)及び上部に、隙間がないようにポリイミドテープを貼り、難燃性試験用の筒を作製した。それぞれの実施例及び比較例について、難燃性試験用の筒を20本用意し、そのうち10本は(1)23℃/50%相対湿度/48時間で処理し、残りの10本は(2)70℃で168時間処理後無水塩化カルシウム入りデシケーターで4時間以上冷却した。これらのサンプルの上部をクランプで止めて垂直に固定し、サンプル下部にバーナーの炎を10秒間近づけて着火し、10秒間経過したらバーナーの炎を遠ざけて、サンプルの炎や燃焼が何秒後に消えるか測定した。
OK:条件(1)及び(2)の合計20本の全てのサンプルにつき、サンプルからバーナーの炎を遠ざけてから10秒以内に炎や燃焼が停止し自己消火したもの
NG:合計20本のサンプルの中に、10秒以内に消火しないサンプル、または炎がサンプル上部のクランプまで上昇して燃焼するものが、1本でもあるもの
【0069】
(iv)電気絶縁信頼性
厚み25μmのポリイミドフィルムと厚み12μmの電解銅箔とをポリイミド系接着剤により張り合わせたフレキシブル銅張積層板の銅箔を、ライン幅/スペース幅=100μm/100μmの櫛形パターンにエッチングし、10容量%の硫酸水溶液中に1分間浸漬して銅箔の表面処理を行った後、純水で洗浄してフレキシブルプリント基板を作製した。その後、上記(i)と同様の方法でフレキシブルプリント基板の櫛形パターン上に20μm厚みの硬化膜を形成し、硬化膜付きフレキシブルプリント基板を作製した。85℃、85%RHの環境試験機中で試験片の両端子部分に100Vの直流電流を印加し、1000時間後に絶縁性の評価を行った。
A:10Ω以上の抵抗値を示し、マイグレーション、デンドライト等の発生が無いもの
B:10Ω以上10Ω未満の抵抗値を示し、マイグレーション、デンドライト等の発生が無いもの
C:マイグレーション、デンドライト等がみられたもの。
【0070】
(v)耐熱性
上記(iv)と同様にして作製した硬化膜付きフレキシブルプリント基板を、260℃の溶融半田浴に、硬化膜形成面面が接する様に浮かべて10秒後に引き上げ、外観観察を行い、半田耐熱性を評価した。
OK:試験前後で外観変化が無いもの。
NG:試験後、硬化膜が膨張し、フレキシブルプリント基板から剥がれていたもの
【0071】
実施例及び比較例の熱硬化性樹脂組成物の配合ならびに硬化膜の評価結果を、表1に一覧で示す。表中の各成分の数値は、(A)〜(F)成分の合計(固形分)を100重量部とする配合量(重量比)であり、各成分の詳細は以下に示す通りである。(D)成分の配合量はポリマー固形分の量であり、有機溶媒であるメチルトリグライムの量は、ポリマー溶液(D)−1〜4に含まれる溶媒も含めた全溶媒量である。
【0072】
【表1】
【0073】
<1>三菱化学株式会社製 商品名:jER152;フェノールノボラック型エポキシ樹脂(平均分子量420、エポキシ当量175)
<2>三菱化学株式会社製 商品名:jER828;ビスフェノールA型エポキシ樹脂(平均分子量370、エポキシ当量190)
<3>三菱化学株式会社製 商品名:jER872;ダイマー酸変性型エポキシ樹脂(エポキシ当量650)
<4>三菱化学株式会社製 商品名:DICY7;ジシアンジアミドの微粉砕粉体
<5>日立化成工業株式会社製 商品名:ファンクリルFA−321M;EO変性ビスフェノールAジメタクリレート(平均分子量804)
<6>ダイセル・オルネクス株式会社製 商品名:EBECRYL 4491;脂肪族ウレタンアクリレート(平均分子量7000)
<7>ダイセル・オルネクス株式会社製 商品名:EBECRYL 3700;ビスフェノールA型エポキシアクリレート(平均分子量500)
<8>日本化薬株式会社製 商品名:KAYARAD UXE−3000;酸変性エポキシアクリレートのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート希釈液(平均分子量10,000、酸価60mgKOH/g)
<9>大塚化学株式会社製 商品名:SPB−100;シクロフォスファゼンオリゴマー
<10>クラリアントケミカルズ株式会社製 商品名:Exolit OP935;ジエチルホスフィン酸アルミニウム
<11>根上工業株式会社製 商品名:アートパール TK−800T;架橋ウレタン系球状有機ビーズ(平均粒子径6μm)
<12>アイカ工業株式会社製 商品名:ガンツパール GB−05S;架橋ポリメタクリル酸ブチル系球状有機ビーズ
<13>東京化成社製 アゾイソブチロニトリル
<14>BASF社製 商品名:OXE−02;オキシムエステル
<15>共栄社化学株式会社製 商品名:フローレン AC−2000;ブタジエン系消泡剤
【0074】
実施例1〜12は、常態時及び熱処理後の反りがいずれも5mm以下であり、かつ良好な耐熱性および電気絶縁信頼性を有していた。(D)成分を含まない比較例7では、反りは5mm以下であったが、耐熱性及び電気絶縁信頼性に劣っていた。これは、樹脂組成物中に酸性官能基含有化合物が含まれていないため、硬化膜の架橋密度が低いことに関連していると考えられる。
【0075】
(C)成分を含まない比較例1〜4では、実施例に比べて常態時および熱処理後の反りが増大していた。実施例1の樹脂組成物から(C)成分を除いた比較例5、および実施例10から(C)成分を除いた比較例6においても、硬化膜の緩和時間が増加し、反りが増大していた。これらの結果から、熱硬化性樹脂組成物が(C)成分((メタ)アクリロイル基を有する化合物)を含むことにより、フレキシブルプリント基板の反りを低減できることが分かる。
【0076】
実施例1の樹脂組成物に熱重合開始剤を添加した比較例8では、硬化膜の緩和時間が増大し、常態時および熱処理後の反りが増加していた。実施例1の樹脂組成物に光重合開始剤を添加し、熱硬化後に光硬化を実施した比較例9においても、緩和時間および反りが増加していた。比較例8および比較例9において、(C)成分を含まない比較例1〜6と同様に硬化膜に起因する反りが大きかった原因として、重合開始剤の作用により、(C)成分の(メタ)アクリロイル基のラジカル重合反応が進行したことが考えられる。
【0077】
以上の結果から、(C)成分を含みかつ重合開始剤を含まない実施例では、硬化膜中に(C)成分の一部が未反応で残存していることが、反りの低減に寄与していると考えられる。
【0078】
実施例1〜4の対比から、(D)成分として分子内にカルボキシル基を含有するウレタンイミドポリマーを含む場合に、特に絶縁信頼性が向上する傾向があることが分かる。実施例5〜7の対比から、(A)成分としてダイマー酸変性型エポキシ樹脂を含む場合に、硬化膜の緩和時間が小さくなり反りが低減する傾向があることが分かる。実施例7〜9の対比から、(C)成分としてウレタンアクリレートを含む場合に、緩和時間が低下し反りが低減するとともに、絶縁信頼性が向上する傾向があることが分かる。また、実施例8と実施例10との対比から、樹脂組成物中に含まれるビーズの種類も反り量に影響を与え、架橋ウレタン系球状有機ビーズを用いた場合に反りが低減する傾向があることが分かる。
【0079】
以上、実施例と比較例との対比から、(A)〜(D)成分を含む本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化後の熱加工によっても硬化収縮に起因する反りが生じ難く、フレキシブルプリント基板等の硬化膜の材料として適していることが分かる。