(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸水率や空孔率がフェライトからなる基体の吸水率や空孔率を上回る基体の空孔部分は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10〜25%の金属粉の成形体であることを特徴とする請求項1記載の電子部品。
前記電子部品は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1乃至2に記載の電子部品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電子部品の電極形成方法について、実施形態を示して詳しく説明する。
ここで、本発明に係る電子部品の電極形成方法は、所定の吸水率、又は、所定の空孔率を有する多孔質の基体の表面に、電極材料や電極接合材料の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングすることでガラス材料もしくは樹脂材料よりなる層を形成し、多孔質の基体の表面の空孔部分にガラス材料もしくは樹脂材料よりなる層の一部を充填する下地処理を施した後、電極を形成することを特徴としている。
【0017】
まず、本発明に係る電子部品の電極形成方法が適用される多孔質の基体について説明する。
本発明に係る電子部品の電極形成方法が適用される電子部品は、吸水率が概ね1.0%以上、又は、空孔率が概ね10〜25%の多孔質の基体を有している。具体的には、電子部品の基体として、例えば鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には、当該軟磁性合金粒子が酸化した酸化層が形成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して、上記鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士が当該酸化層を介して結合された、金属粉の成形体を良好に適用することができる。なお、本実施形態において、上記鉄よりも酸化しやすい元素としては、クロム(Cr)やアルミニウム(Al)等を適用することができる。
【0018】
ここで、軟磁性合金粒子の組成や含有率等を適宜調整することにより、高い飽和磁束密度Bs(例えば1.2T以上)と高い透磁率μ(例えば37以上)を実現することができるとともに、100kHz以上の周波数においても、粒子内で渦電流損失が生じることを抑制することができる。したがって、このような磁気特性を有する多孔質の基体を、インダクタ等の電子部品のコア部材として良好に適用することができる。
このような多孔質の基体を有する電子部品において、電極を形成する方法の実施形態を次に示す。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、本発明に係る電子部品の電極形成方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。
第1の実施形態に係る電子部品の電極形成方法は、
図1に示すように、概略、ガラススラリー準備工程S101と、ガラスコーティング工程S102と、脱バインダ工程S103と、ガラス焼き付け工程S104と、電極形成工程S105と、を有している。
【0020】
ガラススラリー準備工程S101においては、バインダ樹脂及び溶剤に所定の比率でガラス粉末(ガラスフリット)を混合したものを、ボールミルにて所定時間攪拌させて、ガラススラリー(スラリー状のガラス)を生成する。具体的には、ガラススラリーに使用されるガラス粉末は、平均粒径が例えば0.1〜10μm程度であり、軟化点が概ね800℃以下であることが好ましい。また、バインダ樹脂としては、例えばポリビニルアルコールやその変性体を良好に適用することができる。また、溶剤としては、水を含んでいることが好ましく、さらに例えばエタノールやイソプロピルアルコール等の水溶性のアルコールを一定割合で混合したものであってもよい。また、ガラススラリー中のガラス粉末及びバインダ樹脂からなる固形分量は、例えばガラススラリーの重量に対して、0.1〜20wt%程度に設定されていることが好ましく、さらに、ガラス粉末及びバインダ樹脂の合計重量に対するバインダ樹脂の重量は、例えば1〜20wt%程度に設定されていることが好ましい。ボールミルによる攪拌時間は、例えば16時間程度に設定される。このようにして生成されるガラススラリーの粘度は、例えば0.001〜0.01Pa・s程度に設定される。
【0021】
ガラスコーティング工程S102においては、上述したような電子部品の多孔質の基体を温調バレルスプレー装置のバレル内に投入し、当該バレルを所定の回転数で回転させつつ、基体にガラススラリーを吹き付けて基体表面に薄いガラス塗膜を形成する。具体的には、バレル内に例えば10000〜20000個の電子部品の基体を投入し、スプレー法により120ccのガラススラリーを30〜50分程度吹き付ける。ここで、基体にガラススラリーを吹き付ける際の、ガラススラリーの温度は、溶剤の組成にもよるが例えば40〜100℃程度に設定される。
【0022】
脱バインダ工程S103においては、ガラス塗膜が形成された基体を焼成炉内で所定の温度で熱処理することにより、ガラス塗膜に含まれる樹脂成分を除去(脱バインダ処理)する。具体的には、基体の脱バインダ処理は、例えば600℃で120分程度熱処理を行う。
【0023】
ガラス焼き付け工程S104においては、脱バインダ処理された基体を焼成炉内で所定の温度で熱処理することにより、基体表面にガラス膜を形成(ガラス焼き付け処理)する。具体的には、ガラス焼き付け処理は、大気中又はN2ガス雰囲気中で、例えば700〜800℃で20分程度熱処理を行う。これにより、少なくとも基体の電極形成領域にガラス膜が形成される。すなわち、これにより、少なくとも基体の電極形成領域には、ガラス材料よりなる層が形成され、多孔質の基体の表面の空孔部分にはガラス材料よりなる層の一部が充填される。
【0024】
電極形成工程S105においては、ガラス焼き付け処理された基体の所定の領域(電極形成領域)に、電極を形成する。具体的には、電極は、上記基体に、例えば電極材料にガラスを添加した電極ペーストを塗布し、所定の温度で焼成して得られる焼成電極を良好に適用することができる。また、電極の他の形態としては、例えば電極材料からなる導電性の板状部材(フレーム)を接着剤を用いて基体表面に接着して形成される電極フレームも良好に適用することができる。また、電極のさらに他の形態としては、例えば電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて、基体表面に金属薄膜を形成して得られる電極膜も良好に適用することができる。ここで、上述した焼成電極においては、電極材料として、例えば銀(Ag)、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の合金、銀(Ag)と白金(Pt)の合金、銅(Cu)等を良好に適用することができる。また、上述した電極フレームにおいては、電極材料として、例えばリン青銅板等を良好に適用することができ、基体に接着するための接着剤として、例えばエポキシ系の樹脂を良好に適用することができる。さらに、上述した電極膜においては、電極材料として、例えばチタン(Ti)や、チタン(Ti)を含む合金等を良好に適用することができる。さらに、電極として、上述した焼成電極や電極膜を適用する場合には、その表面に電解メッキにより金属メッキ層が形成されているものであってもよい。
【0025】
なお、本実施形態においては、電子部品の基体へのガラスコーティングの方法として、回転するバレル内で、基体にガラススラリーを吹き付けて、基体の全面にガラス塗膜を形成する手法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、基体にガラス塗膜を形成する手法としては、上述したようなスプレー法のほか、印刷やローラー、刷毛塗り、真空含浸、ポッティング等の種々の手法を良好に適用することができる。そして、このような手法により、基体の全面、もしくは、少なくとも電極形成領域にガラス塗膜を良好に形成することができる。すなわち、このような手法により、基体の全面、もしくは、少なくとも電極形成領域には、ガラス材料よりなる層が形成され、多孔質の基体の表面の空孔部分にはガラス材料よりなる層の一部が充填される。
【0026】
<第2の実施形態>
図2は、本発明に係る電子部品の電極形成方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
第2の実施形態に係る電子部品の電極形成方法は、
図2に示すように、概略、樹脂溶液準備工程S201と、樹脂含浸工程S202と、乾燥工程S203と、硬化工程S204と、電極形成工程S205と、を有している。
【0027】
樹脂溶液準備工程S201においては、所定の比率の樹脂材料を含む樹脂溶液を準備する。ここで、樹脂溶液は、固形フィラーの添加がない、もしくは、添加が微少の有機系樹脂材料(例えばシリコン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)や無機系材料からなることが好ましい。具体的には、例えば30wt%のシリコン樹脂をトルエンで希釈したものを樹脂溶液として良好に適用することができる。このような樹脂溶液には、適宜硬化剤等が添加される。
【0028】
樹脂含浸工程S202においては、多孔質の電子部品の基体を樹脂溶液に浸し、基体を真空状態にすることにより、基体の内部の空気を追い出し、樹脂溶液を含浸(真空含浸)させる。具体的には、真空含浸時の圧力は、例えば20Torr(26hpa)以下まで減圧することが好ましい。
【0029】
乾燥工程S203においては、基体を乾燥処理して、表面及び内部の樹脂溶液を乾燥させる。具体的には、例えば1時間程度、自然放置することにより、基体表面及び内部の樹脂溶液を風乾する。
【0030】
硬化工程S204においては、基体を所定の温度で熱処理することにより、基体に含浸した樹脂溶液を硬化させる。具体的には、湿気雰囲気中で、例えば200℃、1時間程度、基体を熱処理する。熱処理後、例えば30分以上、基体を放置して自然冷却する。これらの一連の工程(S201、S202、S203、S204)によって、基体の表層の電極作成領域の表面は、樹脂材料による層が形成された状態とでき、基体の表層の電極作成領域内部の空孔部分は、樹脂材料による層の一部が充填された状態とできる。
【0031】
電極形成工程S205においては、樹脂溶液が含浸、硬化した基体の所定の領域(電極形成領域)に、電極を形成する。具体的には、電極は、上記基体に、例えば電極材料からなる導電性の板状部材(フレーム)を接着剤を用いて基体表面に接着して形成される電極フレームを良好に適用することができる。また、電極の他の形態としては、例えば電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて、基体表面に金属薄膜を形成して得られる電極膜も良好に適用することができる。ここで、上述した電極フレームにおいては、電極材料として、例えばリン青銅板等を良好に適用することができ、基体に接着するための接着剤として、例えばエポキシ系の樹脂を良好に適用することができる。また、上述した電極膜においては、電極材料として、例えばチタン(Ti)や、チタン(Ti)を含む合金等を良好に適用することができる。さらに、電極として、上述した電極膜を適用する場合には、その表面に電解メッキにより金属メッキ層が形成されているものであってもよい。
【0032】
なお、本実施形態においては、電子部品の基体への樹脂溶液の含浸方法として、基体を樹脂溶液に浸して真空含浸させ、基体の全面に樹脂溶液を含浸させる手法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、基体に樹脂溶液を含浸させる手法としては、スプレーや印刷、ローラー、刷毛塗り、ポッティング等の種々の手法を良好に適用することができる。そして、このような手法により、基体の全面、もしくは、少なくとも電極形成領域に樹脂溶液を良好に含浸させることができる。すなわち、このような手法により、基体の表層の電極作成領域の表面は、樹脂材料による層が形成された状態とでき、基体の表層の電極作成領域内部の空孔部分は、樹脂材料による層の一部が充填された状態とできる。
【0033】
また、本実施形態においては、樹脂溶液としてシリコン樹脂を適用した場合について、説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば75wt%のエポキシ樹脂を樹脂溶液として適用するものであってもよい。この場合、硬化工程における熱処理は、例えば180℃、1時間程度に設定される。
【0034】
また、本発明においては、さらに他の樹脂溶液として、例えばシリコン樹脂の原料となるアルコキシシラン化合物を主成分とした無溶剤1液型の無機系封孔剤(例えば株式会社ディーアンドディ製の「パーミエイト HS−100」(商品名))を良好に適用することもできる。この種の無機系封孔剤は、アルコキシシラン化合物又はその部分加水分解縮合物と、無機顔料、無機添加剤、硬化触媒からなる。
【0035】
そして、このような無機系封孔剤を樹脂溶液として使用した場合の、電子部品の基体への含浸方法は、まず、無機系封孔剤と基体を真空中で5〜10分程度、脱泡処理したのち、真空中で無機系封孔剤と基体を混合する。次いで、真空状態を解除させて、基体に無機系封孔剤を含浸させる。その後、基体の脱液処理を行い、湿気雰囲気中に例えば24時間放置することにより、基体に含浸した無機系封孔剤を良好に硬化させることができる。
【0036】
(作用効果の検証)
次に、上述した各実施形態に係る電子部品の電極形成方法における作用効果について説明する。
【0037】
ここでは、本実施形態に係る電子部品の電極形成方法における作用効果を検証するために、比較対象として、電子部品の基体が周知のフェライトからなり、上述した各実施形態に示したような下地処理を施していない場合を示す。なお、フェライトからなる基体を有する電子部品は、例えばインダクタ等をはじめとして、既に一般に市販されて種々の電子機器に搭載されているものであって、固着強度をはじめ、様々な信頼性試験において、市場の高い評価を受けているものである。
【0038】
図3は、本実施形態に係る電子部品の基体に適用される金属粉の成形体とフェライトとにおける、樹脂溶液の含浸に関する特性を示す図である。ここで、
図3(a)は、本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける吸水率、密度(見かけ密度、真密度)、空孔率の違いを示す表であり、
図3(b)は、本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける吸水率の違いを示す図である。また、
図4は、本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける表面近傍の断面を示す模式図である。
図4(a)は、本実施形態に係る基体における表面近傍の断面を示す模式図であり、
図4(b)は、フェライトからなる基体における表面近傍の断面を示す模式図である。
図5は、本実施形態に係る基体における表面近傍の断面を説明するための拡大模式図である。
【0039】
上述したように、本実施形態に係る電子部品の基体に適用される金属粉の成形体は多孔質であるため、
図3(a)、(b)に示すように、緻密な結晶構造を有する周知のフェライトと比較して、吸水率や空孔率が高い。具体的には、本実施形態に係る基体においては、真密度が7.6g/cm
3の基体が見かけ密度6.2g/cm
3のとき、吸水率が2%、空孔率が18.4%と高い値を示す。これに対して、フェライトからなる基体においては、真密度が5.35g/cm
3の基体が見かけ密度5.34g/cm
3のとき、吸水率が0.2%、空孔率が0.2%と、本実施形態に係る基体に比較して概ね1/10以下の低い値を示す。この状態を
図4、
図5に示す。
【0040】
すなわち、
図4(a)に示すように、本実施形態に係る基体においては、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有しているため、基体表面から内部にかけて略同様に、金属粉間に比較的大きな空孔が存在する。これに対して、
図4(b)に示すように、周知のフェライトからなる基体においては、緻密な結晶構造を有しているため、基体内部には空孔が略皆無の状態になっている。
【0041】
上述した各実施形態においては、このような多孔質の基体に対して、電極形成工程に先立って、ガラス又は樹脂を含浸又はコーティングし、焼き付け処理又は硬化処理を施すことにより、空孔部分にガラス又は樹脂が浸透して充填され、少なくとも基体の表面又は表層における多孔質性が改善される。
【0042】
次に、多孔質の基体に電極を形成した場合の固着強度について検証する。
図6は、第1の実施形態に係る電子部品の電極形成方法を適用した場合の固着強度の測定結果を示す表であり、
図7は、第2の実施形態に係る電子部品の電極形成方法を適用した場合の固着強度の測定結果を示す表である。
【0043】
まず、固着強度の測定方法について説明する。
まず、基体の表面に電極を形成し、例えばガラス−エポキシ樹脂基板上に形成された銅箔からなる実装ランド上に、上記電極を半田接合することにより、基体を基板上にして実装した。ここで、基板上への基体の実装方法は、基板上にクリーム半田を印刷した後、実装ランド上に基体を搭載し、245℃に加熱してリフロー半田付け処理して実装した。そして、基体が実装された基板に対して、基体の側面から基板の上面に平行な方向に剥離強度試験装置の治具で基体を加圧して、その剥離強度を測定し、これを固着強度として評価を行った。
【0044】
次に、第1の実施形態に係る電極形成方法を適用して得られた電極を有する基体の固着強度について、
図6を参照しながら検証する。ここでは、多孔質の基体として金属粉の成形体を適用した場合について、下地処理の有無と固着強度、及び、基体として金属粉の成形体を適用した場合とフェライトを適用した場合の固着強度について検証した。
【0045】
第1の実施形態に示したように、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理としてガラスコーティングを行い、銅(Cu)からなる電極材料を所定の焼成条件(焼き付け温度、焼き付け雰囲気;
図6参照)で焼成して、焼成電極を形成した場合の、基体の固着強度は、291Nであった。これに対して、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理を行わず、銅(Cu)からなる電極材料を所定の焼成条件(焼き付け温度、焼き付け雰囲気;
図6参照)で焼成して、焼成電極を形成した場合の、基体の固着強度は、54N、95Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、下地処理を行わなかった場合に比較して、概ね3倍以上の固着強度を有していることが確認された。
【0046】
また、基体としてフェライトを適用し、銀(Ag)又は銅(Cu)からなる電極材料を所定の焼成条件(焼き付け温度、焼き付け雰囲気;
図6参照)で焼成して、焼成電極を形成した場合の、基体の固着強度は、それぞれ、244N、336Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、フェライトを適用した場合と比較して、同等程度の固着強度を有していることが確認された。
【0047】
次に、第2の実施形態に係る電極形成方法を適用して得られた電極を有する基体の固着強度について、
図7を参照しながら検証する。ここでも、多孔質の基体として金属粉の成形体を適用した場合について、下地処理の有無と固着強度、及び、基体として金属粉の成形体を適用した場合とフェライトを適用した場合の固着強度について検証した。
【0048】
第2の実施形態に示したように、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理としてエポキシ樹脂の含浸を行い、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、141Nであった。また、同様に、下地処理としてシリコン樹脂の含浸を行い、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、139Nであった。これに対して、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理を行わず、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、69Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、下地処理を行わなかった場合に比較して、概ね2倍以上の固着強度を有していることが確認された。
【0049】
また、基体としてフェライトを適用し、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、142Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、フェライトを適用した場合と比較して、同等程度の固着強度を有していることが確認された。
【0050】
このように、上述した各実施形態に係る電子部品の電極形成方法によれば、電極形成前に、基体にガラス又は樹脂材料を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、ガラスや樹脂材料が多孔質の基体の空孔部分に浸透して充填されるため、基体の表面又は表層の多孔質性が改善される。これにより、電極形成時に電極材料や接着剤(電極接合材料)等が基体に浸透してしまい、基体と電極の接合性や密着性が低下することを抑制することができるので、概ねフェライトを基体に適用した場合と同等の固着強度を実現することができ、このような電子部品を搭載した電子機器の信頼性の向上に寄与することができる。
【0051】
(適用例)
上述した各実施形態に示した電極形成方法は、例えば面実装型のインダクタ等の電子部品に良好に適用することができる。以下、適用例について簡単に説明する。なお、ここで示す構成は、本発明が適用可能な一例を示すものであって、これに何ら限定されるものではない。
【0052】
図8は、本発明に係る電極形成方法を適用可能な電子部品の第1の構成例(第1の適用例)を示す概略斜視図である。ここで、
図8(a)は、本適用例に係る電子部品を上面側(上鍔部側)から見た概略斜視図であり、
図8(b)は、本適用例に係る電子部品を底面側(下鍔部側)から見た概略斜視図である。
図9は、第1の適用例に係る電子部品の内部構造を示す概略断面図である。ここで、
図9は、
図8に示したA−A線に沿った電子部品の断面を示す図である。
【0053】
第1の適用例に係る電子部品は、
図8、
図9に示すように、ドラムコア構造を有する巻線型インダクタ10であって、コア部材11と、該コア部材11に巻回されたコイル導線12と、コイル導線12の端部13A、13Bが接続される一対の端子電極16A、16Bと、上記巻回されたコイル導線12の外周を被覆する、磁性粉含有樹脂からなる外装部材18と、を有している。
【0054】
コア部材11は、
図8(a)、
図9に示すように、コイル導線12が巻回される柱状の巻芯部11aと、該巻芯部11aの図面上端に設けられた上鍔部11bと、巻芯部11aの図面下端に設けられた下鍔部11cとを備え、その外観はドラム型の形状を有している。ここで、コア部材11は、上述した各実施形態に示した基体に対応し、例えば、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成される多孔質の成形体が適用される。特に、本適用例に係る巻線型インダクタにおいては、上記鉄よりも酸化しやすい元素として、クロム(Cr)を2〜15wt%含有した軟磁性合金粒子を使用することにより、優れたインダクタ特性(インダクタンス−直流重畳特性:L−Idc特性)を実現することができる。
【0055】
また、
図8(b)、
図9に示すように、コア部材11の下鍔部11cの底面(外表面)11Bには、巻芯部11aの中心軸CLの延長線を挟んで一対の端子電極16A、16Bが形成されている。ここで、底面11Bには、一対の端子電極16A、16Bが形成される領域(電極形成領域)に、例えば
図8(b)、
図9に示すように、溝15A、15Bが形成されているものであってもよい。
【0056】
コイル導線12は、
図9に示すように、銅(Cu)や銀(Ag)等からなる金属線13の外周に、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等からなる絶縁被覆14が形成された被覆導線が適用される。そして、コイル導線12は、上記コア部材11の柱状の巻芯部11aの周囲に巻回されるとともに、
図8(b)、
図9に示すように、一方及び他方の端部13A、13Bが、絶縁被覆14が除去された状態で、上記端子電極16A、16Bにそれぞれ半田17A、17Bにより導電接続されている。
【0057】
ここで、コイル導線12は、例えば直径0.1〜0.2mmの被覆導線が、コア部材11の巻芯部11aの周囲に3.5〜15.5回巻回されている。コイル導線12に適用される金属線13は、単線に限定されるものではなく2本以上の線や、撚り線であってもよい。また、該コイル導線12の金属線13は、円形の断面形状を有するものに限定されるものではなく、例えば長方形の断面形状を有する平角線や、正方形の断面形状を有する四角線等を用いることもできる。また、上記端子電極16A、16Bが溝15A、15Bの内部に設けられる場合には、コイル導線12の端部13A、13Bの直径が、溝15A、15Bの深さよりも大きくなるように設定されていることが好ましい。
【0058】
一対の端子電極16A、16Bには、コイル導線12の両端部13A、13Bが、絶縁被覆14が除去された状態で、それぞれ半田17A、17Bにより導電接続されている。ここで、端子電極16A、16Bは、上述した各実施形態に示した電極に対応し、基体である多孔質のコア部材11の底面11Bに、上述した各実施形態に示した電極形成方法を用いて形成される。すなわち、端子電極16A、16Bの形成工程に先立って、ガラス又は樹脂を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、多孔質のコア部材11の空孔部分にガラス又は樹脂が浸透して充填され、少なくとも電極形成領域のコア部材11の表面又は表層における多孔質性が改善される。ここで、端子電極16A、16Bは、上述したように、コア部材11の電極形背領域に電極ペーストを塗布し、所定の温度で焼成して得られる焼成電極や、導電性の板状部材を接着剤を用いて接着する電極フレーム、電極材料をスパッタリングや蒸着により薄膜形成して得られる電極膜を適用することができる。
【0059】
なお、端子電極16A、16Bとして、銅(Cu)や銀(Ag)の焼成電極を適用する場合、又は、純銅、リン青銅からなる電極フレームを適用する場合にあっては、コア部材11として、例えば粒度6〜23μmの金属粉(例えばアトミクス株式会社製の4.5Cr3SiFe)を成形(例えば6.0〜6.6g/cm
3→理論空孔率22〜13%)、研削、焼き付けしたものを用いることにより、上述した作用効果の検証に示したように、コア部材11と端子電極16A、16Bとの高い固着強度を実現することができる。
【0060】
図10は、本発明に係る電極形成方法を適用可能な電子部品の第2の構成例(第2の適用例)を示す概略構成図である。ここで、
図10(a)は、第1の適用例に係る電子部品の概略斜視図であり、
図10(b)は、
図10(a)に示したB−B線に沿った電子部品の断面を示す図である。
図11は、第2の適用例に係る電子部品の分解斜視図である。
【0061】
第2の適用例に係る電子部品は、
図10、
図11に示すように、積層型インダクタ20であって、直方体形状の部品本体21と、該部品本体21の長さ方向の両端部に設けられた一対の端子電極24、25と、を有している。
【0062】
部品本体21は、
図10(a)、(b)に示すように、直方体形状の磁性体部22と、該磁性体部22によって被覆された螺旋状のコイル部23と、を有しており、該コイル部23の一端は端子電極24に接続され、他端は端子電極25に接続されている。
【0063】
磁性体部22は、
図11に示すように、例えば計20層の磁性体層ML1〜ML6を積層して一体化した構造を有している。ここで、磁性体部22は、上述した各実施形態に示した基体に対応し、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、クロム(Cr)を含有する軟磁性合金の粒子群から構成される多孔質の成形体が適用される。
【0064】
また、コイル部23は、例えば銀(Ag)粒子群を主体として構成され、
図11に示すように、複数のコイルセグメントCS1〜CS5と、該コイルセグメントCS1〜CS5を接続する中継セグメントIS1〜IS4とが、螺旋状に一体化してコイル構造を有している。
【0065】
各コイルセグメントCS1〜CS4は帯状を有し、
図11に示すように、それぞれ所定の平面パターンを有している。また、各中継セグメントIS1〜IS4は磁性体層ML1〜ML4を貫通する柱状を有している。そして、
図10(b)、
図11に示すように、最上層のコイルセグメントCS1は、連続的に形成された引出部分LS1を介して端子電極24に接続され、また、最下層のコイルセグメントCS5は、連続的に形成された引出部分LS2を介して端子電極25に接続されている。
【0066】
一対の端子電極24、25は、コイル部23と同様に、例えば銀(Ag)粒子群を主体として構成され、
図10(a)、(b)に示すように、部品本体21の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に形成されている。ここで、端子電極24、25は、上述した各実施形態に示した電極に対応し、基体である多孔質の部品本体21の長さ方向の両端部に、上述した各実施形態に示した電極形成方法を用いて形成される。すなわち、端子電極24、25の形成工程に先立って、ガラス又は樹脂を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、多孔質の部品本体21の空孔部分にガラス又は樹脂が浸透して充填され、少なくとも電極形成領域の部品本体21の表面又は表層における多孔質性が改善される。
【0067】
以上のように、上述した各適用例によれば、回路基板上への面実装が可能な各種のインダクタにおいて、電極形成時に電極材料又は電極接合材料又は接着剤等が基体であるコア部材や部品本体に浸透してしまい、端子電極の接合性や密着性が低下することを抑制することができる。したがって、インダクタの基体と端子電極との高い固着強度を実現することができるので、このようなインダクタを搭載した電子機器の製造歩留まりや信頼性の向上に寄与することができる。
【0068】
なお、上述した適用例においては、インダクタの端子電極に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る電子部品の電極形成方法は、多孔質の基体を有する電子部品に、電極材料や電極接合材料を用いて電極を形成するものであれば、他の電子部品であっても良好に適用することができる。