(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新たな歯科矯正手法に応じた歯科矯正装置および当該歯科矯正装置の取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一態様として、口蓋の骨の正中口蓋縫合近傍に埋め込まれた2つ以上のスクリューに固定されるベース部材と、前記ベース部材に接続される第一接続部および歯の口蓋側近傍に位置する第二接続部を有する腕状のアーム部材と、弾性を有するワイヤ材からなり牽引対象となる歯を牽引する牽引部材と、を備える歯科矯正装置であって、前記牽引部材は、前記第二接続部に固定される牽引基部と、前記牽引基部から離れて位置する前記牽引対象に固定されたブラケットに掛止された牽引固定部と、前記牽引基部と前記牽引固定部との間に位置して、前記牽引固定部を介して前記ブラケットに、後方への牽引力および前方回転力または前方への牽引力および後方回転力を付与する牽引力発生部と、を有し、前記牽引固定部は、歯列に沿って延びる前記ワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲する屈曲部を有し、前記ブラケットにおいて口蓋側に突出する突出部に前記屈曲部は掛止されることを特徴とする歯科矯正装置を提供する。
【0008】
一具体例として、前記牽引基部は第1大臼歯よりも後方に位置し、前記牽引力発生部は、前記ブラケットに後方への牽引力および前方回転力を付与し、前記屈曲部は、前方に延びる前記ワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲したものであってもよい。
【0009】
本発明の他の一態様は、上記の歯科矯正装置の取付方法であって、弾性を有するワイヤ材からなり牽引対象となる歯を牽引する牽引部材を、ブラケットにおいて口蓋側に突出する突出部に係止する際に、連結部で回動可能な一対のプライヤ本体を有し、前記一対のプライヤ本体の一端部には作用部が位置し他端部には把持部が位置する歯科矯正用プライヤを用いて、前記ワイヤ材を塑性変形させるとともに切断し、前記歯科矯正用プライヤは、前記一対のプライヤ本体の一方である第1プライヤにおける前記作用部の咬合面は、前記連結部から前記把持部が延びる第1方向に対して所定角度で反る第2方向に沿うように設けられ、前記作用部では、前記ワイヤ材を折り曲げて屈曲部を形成する折曲げ部と、前記屈曲部よりも先端側で前記ワイヤ材を切断する切断部と、切断により形成されたワイヤ片を保持する保持部と、が、前記切断部を中央にして前記第2方向に沿って前記咬合面に並ぶものである。
【0010】
かかる歯科矯正用プライヤは、咬合面が第1プライヤが延びる第1方向に対して所定の角度(例えば45度)で反っているため、口腔内で前方に突出するように配置されたワイヤの突出方向に第1方向を合わせるように第1プライヤの作用部を配置して、歯根側に配置された第2プライヤの作用部が第1プライヤの作用部に近接するように把持部を握ることにより、ワイヤの先端の一部を切断するとともに、切断部よりやや後方の位置においてワイヤの先端部を第2方向に沿うように折り曲げることが容易に実現される。
【0011】
通常、口腔内において、ワイヤの先端が前方に突出しつつ先端近傍で折れ曲がった状態で配置されることはないが、次の本発明の他の一態様に係る歯科矯正装置では、ワイヤが上記の状態で口腔内に配置される。すなわち、本発明の他の一態様に係る歯科矯正装置は、口蓋の骨の正中口蓋縫合近傍に埋め込まれた2つ以上のスクリューに固定されるベース部材と、前記ベース部材に接続される第一接続部および臼歯の口蓋側近傍に位置する第二接続部を有する腕状のアーム部材と、弾性を有するワイヤ材からなり牽引対象となる歯を牽引する牽引部材と、を備え、前記牽引部材は、第1大臼歯よりも後方に位置して前記第二接続部に固定される牽引基部と、前記牽引基部より前方に位置する前記牽引対象に固定されたブラケットに掛止された牽引固定部と、前記牽引基部と前記牽引固定部との間に位置して、前記牽引固定部を介して前記ブラケットに、後方への牽引力および前方回転力を付与する牽引力発生部と、を有し、前記牽引固定部は、前方に延びる前記ワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲する屈曲部を有し、前記ブラケットにおいて口蓋側に突出する突出部に前記屈曲部は掛止される。
【0012】
上記の構成によれば、牽引固定部は、ブラケットに対して後方への引張力と前方への回転力を与える。ブラケットが牽引対象となる歯の重心よりも歯冠側に位置することにより、ブラケットを介して牽引対象に対して加えられる牽引力は、牽引対象を後方に移動させるとともに歯自体を後方に回転させるが、上記のとおり、牽引固定部ではブラケットに対して前方への回転力が付与されるため、牽引力に起因する後方回転力が相殺され、牽引対象となる歯は、後方への移動のみが生じることとなる。
【0013】
上記の歯科矯正装置では、ブラケットに牽引力および前方回転力を付与できるように牽引固定部が弾性変形して、後方側かつ歯根側に付勢された状態で前方に突出するワイヤの先端をブラケットの前方側かつ歯根側に当接させて、その状態を維持する必要がある。具体的には、口腔内で前方に突出するように配置されたワイヤの先端部を、ワイヤがブラケットのスロットに引っ掛かるように折り曲げ、折曲げにより形成されたワイヤの屈曲部(ブラケットのスロットに当接している部分)より先端側の適当な位置でワイヤを切断することが必要となる。
【0014】
ところが、従来の歯科矯正用のプライヤでは、口腔内で前方に突出するように配置されたワイヤの先端を歯根側に折り曲げることは極めて困難である。本発明の一態様に係る歯科矯正用プライヤであれば、上記のとおり、前方に突出するワイヤの一部を歯根側に折り曲げるとともに、屈曲部よりも先端側の所定の位置で切断することが容易である。
【0015】
上記の歯科矯正用プライヤにおいて、前記切断部よりも前記連結部側に前記保持部が位置してもよい。
【0016】
前記作用部において、前記折曲げ部の咬合隙間は、前記保持部の咬合隙間より広いことが好ましい。
【0017】
前記作用部では、前記ワイヤの折り曲げ機能と前記ワイヤ片の保持機能とを有する折曲保持部が、前記切断部を挟んで前記咬合面に2つ並んでいてもよい。前記ワイヤの先端が前記切断部よりも前記連結部に近位に位置する場合には、前記連結部から遠位の前記折曲保持部が前記折曲げ部となるとともに、前記連結部に近位の前記折曲保持部が前記保持部となり、前記ワイヤの先端が前記切断部よりも前記連結部に遠位に位置する場合には、前記連結部から遠位の前記折曲保持部が前記保持部となるとともに、前記連結部に近位の前記折曲保持部が前記折曲げ部となる。
【0018】
前記連結部の回動軸に直交するとともに前記第1方向を面内に含む第1面を対称面として、前記作用部は、前記咬合面を2つ有し、それぞれの前記咬合面において、前記折曲げ部と前記切断部と前記保持部とが前記第2方向に沿って並んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、牽引対象となる歯を後方回転の影響を抑えて後方に移動させることが可能な歯科矯正装置が提供される。また、本発明によれば、かかる歯科矯正装置の取付方法も提供される。この取付方法において使用される歯科矯正用プライヤは、後方に変位しつつおよび歯根側に傾くように付勢された状態で口腔内で前方に突出配置されたワイヤについて、歯根側に折り曲がる屈曲部を形成するとともに、この屈曲部よりも先端側にて切断することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0022】
図1(a)は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る歯科矯正用プライヤの正面図である。
図1(b)は、第1実施形態に係る歯科矯正用プライヤの背面図である。
【0023】
図1に示されるように、第1実施形態に係る歯科矯正用プライヤ100(ベンドカッター)は、連結部30で回動可能な一対のプライヤ本体(第1プライヤ10、第2プライヤ20)を有する。第1プライヤ10の一端部には第1作用部11が位置し、他端部には第1把持部12が位置する。第2プライヤ20の一端部には第2作用部21が位置し、他端部には第2把持部22が位置する。
【0024】
第1作用部11の咬合面(第1咬合面11A)は、連結部30から第1把持部12が延びる第1方向D1に対して所定角度で反る第2方向D2に沿うように設けられている。
図1に示される歯科矯正用プライヤ100では、第1方向D1と第2方向D2とがなす傾斜角θは45度である。傾斜角θは、30度から60度の範囲で設定されうる。
【0025】
このように第1咬合面11Aが反っているため、
図3で説明するように第1咬合面11Aを、患者の口腔Mの内部に位置するワイヤWMに近づけるときに、第1把持部12が口腔Mの歯に衝突しにくい。それゆえ、ワイヤWMを折曲げ・切断する施術が容易になる。
【0026】
第2作用部21は、上記の第1作用部11の形状に応じて、第1方向D1よりも把持部(第1把持部12、第2把持部22)側に起き上がっている。第2作用部21がこのような形状を有しているため、患者の口腔Mの内部にてワイヤWMよりも歯根側に位置する第2作用部21の配置自由度が高くなる。
【0027】
図2に示されるように、第1作用部11では、ワイヤWMを折り曲げて屈曲部BPを形成する第1折曲げ部111と、屈曲部BPよりも先端側でワイヤWMを切断する第1切断部112と、切断により形成されたワイヤ片WCを保持する第1保持部113と、が、第1切断部112を中央にして第2方向D2に沿って第1咬合面11Aに並ぶ。
【0028】
第1作用部11に対応して、第2作用部21においても、第2折曲げ部211、第2切断部212、および第2保持部213が、この順番で第2方向D2に沿って配置されている。
図2では、第2切断部212に突出した刃が設けられ、第1切断部112は凹部の開口に刃が設けられているため、第1作用部11と第2作用部21とが近接すると、第2切断部212の刃が第1切断部112の凹部に収容されながら、第1作用部11と第2作用部21との間に位置するワイヤWMを剪断することができる。
【0029】
折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)は、第1方向D1に沿って位置するワイヤWMを第2方向D2に向けて屈曲させる部分であり、折り曲げる際には、第2プライヤ20の第2折曲げ部211を支点として、第1プライヤ10の第1折曲げ部111を作用点とする。折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)の咬合隙間は、ワイヤWMの直径に対して、1.1倍から1.5倍程度の長さとすることが好ましい。ワイヤWMの最大直径が0.9mmよりも若干大きい程度(たとえば0.036インチ)である場合には、折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)の咬合隙間は1.2mm程度であることが好ましい。ワイヤWMが折曲げされたとき、ワイヤWMはこの咬合隙間において多少撓んだ状態となる。
【0030】
保持部(第1保持部113、第2保持部213)は、切断部(第1切断部112、第2切断部212)により切断されて生じたワイヤ片WCが口腔M内に落下しないように、ワイヤWMを折り曲げている間にワイヤ片WCを保持している必要がある。このため、保持部(第1保持部113、第2保持部213)の咬合隙間は、折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)の咬合隙間よりも狭いことが好ましく、具体的には、ワイヤWMの直径(例えば0.9mm)と同等であることが好ましい。また、第2切断部212に設けられた刃の突出幅は、保持部(第1保持部113、第2保持部213)の咬合隙間よりも大きいことが好ましい。これにより、切断部(第1切断部112、第2切断部212)よるワイヤWMの切断が完了してから保持部(第1保持部113、第2保持部213)によるワイヤWMの保持が行われるため、ワイヤWMの切断が不適切に行われる可能性を低下させることができる。
【0031】
図3は、第1実施形態に係る歯科矯正用プライヤの動作説明図である。
図3(a)に示されるように、まず、口腔M内で前方に突出するように配置されるワイヤWMの突出方向と歯科矯正用プライヤ100の第2方向D2とが揃うようにしつつ、歯科矯正用プライヤ100の第1作用部11をワイヤWMの上方(歯列の歯冠側)に配置する。このとき、第1方向D1に延びる第1把持部12が歯に衝突することはない。
【0032】
次に、
図3(a)に示される状態から、第2作用部21が第1作用部11に近づくように、第2把持部22を回動させて第1把持部12に近づける。これにより、
図3(b)に示されるように、第1切断部112の刃と第2切断部212の刃とにより、ワイヤWMは切断されて、ワイヤ片WCが生成する。生成したワイヤ片WCは、保持部(第1保持部113、第2保持部213)により保持され、口腔M内に落下することはない。
【0033】
続いて、
図3(c)に示されるように、折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)に位置するワイヤWMを折り曲げる。第2折曲げ部211の先端を支点として、第1把持部12を第2把持部22とともに押し下げる(歯根側に移動させる)ことにより、第1折曲げ部111が作用点となって、ワイヤWMは歯根側(舌側)に折り曲がる。ワイヤWMの屈曲部BPは、第2折曲げ部211の支点に接する部分から第1折曲げ部111に接する部分までとなる。ワイヤWMを折り曲げたとき(
図3(c))における第1方向D1は、ちょうど
図3(a)に示される状態の第2方向D2の位置にあるため、第1把持部12が歯に衝突することは回避されている。
【0034】
図4は、本発明の他の一実施形態(第2実施形態)に係る歯科矯正用プライヤの正面図、左側面図および平面図である。構造が理解しやすいように、
図4では、第2プライヤ20についてハッチングを施してある。
【0035】
第2実施形態に係る歯科矯正用プライヤ110は、連結部30の回動軸Oxに直交するとともに第1方向D1を面内に含む第1面S1を対称面として、作用部は咬合面を2つ有する。
【0036】
第1面S1は、第1プライヤ10における連結部30が位置する部分(第1連結部31)と第2プライヤ20における連結部30が位置する部分(第2連結部32)との摺動面に位置する。この第1面S1を挟んで、第2実施形態に係る歯科矯正用プライヤ110は2つの作用部を有する。以下の説明を容易するために、以下、一方の作用部を「右側作用部41」といい、他方の作用部を「左側作用部42」という。右側作用部41の構造および左側作用部42の構造は、歯科矯正用プライヤ100の作用部(第1作用部11、第2作用部21)の構造と、本質的に共通である。すなわち、右側作用部41の咬合面においても、左側作用部42の咬合面においても、折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)と切断部(第1切断部112、第2切断部212)と保持部(第1保持部113、第2保持部213)とが第2方向D2に沿って並んでいる。
【0037】
以上の歯科矯正用プライヤ110の構造を歯科矯正用プライヤ100の構造との対比で換言すれば、歯科矯正用プライヤ110は、歯科矯正用プライヤ100の作用部(第1作用部11、第2作用部21)が左右に突出した構造を有する。このような構造を有することにより、口腔M内において、作用部(右側作用部41、左側作用部42)を側方からワイヤWMに近づけることが容易となるため、歯科矯正用プライヤ110ではワイヤWMと第2方向D2とを揃えることが容易である。
【0038】
図5(a)は、本発明の別の一実施形態(第3実施形態)に係る歯科矯正用プライヤの作用部の構造説明図である。
図5(b)は、第3実施形態に係る歯科矯正用プライヤの動作説明図(その1)である。
図5(c)は、第3実施形態に係る歯科矯正用プライヤの動作説明図(その2)である。
【0039】
図5(a)に示されるように、第3実施形態に係る歯科矯正用プライヤ120は、歯科矯正用プライヤ100との対比で、作用部の詳細構造が相違している。すなわち、歯科矯正用プライヤ100の作用部(第1作用部11、第2作用部21)では、折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)と切断部(第1切断部112、第2切断部212)と保持部(第1保持部113、第2保持部213)とが第2方向D2に沿って並んでいるが、歯科矯正用プライヤ120の作用部(第1作用部11、第2作用部21)では、切断部(第1切断部112、第2切断部212)を挟んで、実質的に構造が等しい折曲保持部が2つ並んでいる。理解を容易にするため、以下、連結部30に近位の折曲保持部を「内側折曲保持部51」といい、歯科矯正用プライヤ120の先端側に位置する(連結部30に対して遠位な)折曲保持部を「外側折曲保持部52」という。
【0040】
内側折曲保持部51および外側折曲保持部52は、いずれもワイヤWMの折り曲げ機能(折曲げ部が有する機能)とワイヤ片WCの保持機能(保持部が有する機能)とを有する。
【0041】
切断前のワイヤWMの先端が切断部(第1切断部112、第2切断部212)よりも連結部30に近位に位置する場合には、連結部30から遠位の折曲保持部である外側折曲保持部52が折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)となる。そして、連結部30に近位の折曲保持部である内側折曲保持部51が保持部(第1保持部113、第2保持部213)となる。すなわち、
図5(b)に示されるように、切断後のワイヤWMの先端が歯科矯正用プライヤ120に対向するように位置する場合には、内側折曲保持部51は保持部として機能し、外側折曲保持部52は折曲げ部として機能している。
【0042】
一方、ワイヤWMの先端が切断部(第1切断部112、第2切断部212)よりも連結部30に遠位に位置する場合には、連結部30から遠位の折曲保持部(外側折曲保持部52)が保持部(第1保持部113、第2保持部213)となる。そして、連結部30に近位の折曲保持部(内側折曲保持部51)が折曲げ部(第1折曲げ部111、第2折曲げ部211)となる。すなわち、
図5(c)に示されるように、切断後のワイヤWMの先端が歯科矯正用プライヤ120とは反対向きを向くように位置する場合には、外側折曲保持部52は保持部として機能し、内側折曲保持部51は折曲げ部として機能している。
【0043】
図6は、本発明の一実施形態に係る歯科矯正装置に用いられるベース部材の説明図である。
図7は、本発明の一実施形態に係る歯科矯正装置の説明図である。なお、
図7は、本発明の理解を容易にするため、特許文献1の
図2などをベースにして患者の口腔を描き、従来技術に対する相違を明確にしている。
【0044】
図6に示すベース部材300は、第1ベース部311、第2ベース部312、第3ベース部313および第4ベース部314を有する。各ベース部には係合孔hが設けられる。第1ベース部311、第3ベース部313および第4ベース部314の係合孔hは第3方向D3に伸びる長孔になっている。これらの係合孔hのそれぞれは、スクリュー350の多角柱頭部に対して係合される。
図7では、口蓋の骨の正中口蓋縫合近傍に、4つのスクリュー350のねじ部が埋め込まれており、係合孔hを挿通する多角柱頭部の中心には雌ねじが設けられており、この雌ねじにボルトが締め付けられることにより、ベース部材300はスクリュー350に対して固定される。
【0045】
ここで、第1ベース部311と第3ベース部313との間、および第1ベース部311と第4ベース部314との間にはそれぞれ可撓性を有する接続部320が設けられている。これにより、口腔の内部に予め埋め込まれたスクリュー350の多角柱頭部352に4つ(第1ベース部311〜第4ベース部314)の係合孔hを嵌め込むことが容易になる。
【0046】
すなわち、第3方向D3に並ぶ第1ベース部311の係合孔hおよび第2ベース部312の係合孔hのそれぞれに多角柱頭部352を挿通させたのち、第3ベース部313の係合孔hおよび第4ベース部314の係合孔hのそれぞれに多角柱頭部352を挿通させればよい。2つの接続部320は可撓性を有しているため、第3ベース部313の係合孔hおよび第4ベース部314の係合孔hの位置を口腔M内で移動させることが容易である。
【0047】
図6に示すベース部材300は、第1ベース部311の外方(口腔M内の前方)に接続された第1固定部331、第1ベース部311と第2ベース部312との間に設けられた第2固定部332、および第2ベース部312の外方(口腔M内の後方)に接続された第3固定部333を有する。
【0048】
図7に示す歯科矯正装置1000のベース部材300では、第2固定部332にアーム部材360が取り付けられている。アーム部材360は、第3方向D3に交わるように延びる本体部360bと、第2固定部332に対して固定されるための第一接続部361と、臼歯(第2大臼歯T2)の口蓋側近傍に位置する第二接続部362を有する腕状の部材である。第一接続部361は固定ねじ355により回動不能に第2固定部332に対して固定されている。
【0049】
第二接続部362には牽引部材370が取り付けられ、牽引部材370は第二接続部362において固定されて弾性変形する。このため、この弾性変形の応力がアーム部材360の第二接続部362に発生し、ベース部材300の第2固定部332には、ベース部材300を口腔M内で回転させたり捻ったりする外力が付与される。
【0050】
しかしながら、上記のとおり、ベース部材300は3カ所以上、具体的には4カ所でスクリュー350に固定され、しかも、第3ベース部313および第4ベース部314は、第1ベース部311における係合部および第2ベース部312における係合部の並び(第3方向D3)からずれた位置において、スクリュー350に対して係合している。このため、ベース部材300の第2固定部332に強い外力が付与されても、ベース部材300が変位する可能性は適切に抑制されている。
【0051】
牽引部材370は弾性を有するワイヤ材からなり牽引対象となる歯(
図7では第1大臼歯T1)を牽引するものである。ワイヤ材は例えばゴムメタル(登録商標)からなり、アーム部材360を構成する材料よりもヤング率が低い。具体的には、アーム部材360を構成する材料は例えばステンレスSUS316であって、そのヤング率は150GPa以上(200GPa程度)である。これに対し、牽引部材370を構成するワイヤ材の一例であるゴムメタルは100GPa以下(40GPa〜80GPa)である。このため、牽引部材370を付勢した状態で固定すると、アーム部材360は実質的に変形せず、牽引部材370のみが弾性変形する。
【0052】
牽引部材370は、牽引基部371と、牽引固定部372と、牽引力発生部373とを有する。牽引基部371は、第1大臼歯T1よりも後方に位置してアーム部材360の第二接続部362に固定される部分である。この位置に牽引基部371が配置されることにより、牽引対象となる歯(
図7では第1大臼歯T1)を後方に牽引することが容易となる。
図7では、牽引基部371において、ワイヤ材が屈曲して、第二接続部362に掛止し、牽引部材370が前方に移動することが抑制されている。
【0053】
牽引固定部372は、牽引基部371より前方に位置する牽引対象(
図7では第1大臼歯T1)に固定されたブラケット380に掛止されている。第1大臼歯T1に取り付けられたブラケット380は、アーチワイヤ390を受容してアーチワイヤ390に対する相対位置を固定するための第1スロット381と、牽引部材370と係合して牽引部材370に対する相対位置を固定するための第2スロット382とを有する。第2スロット382においてブラケット380に対して掛止されることで牽引部材370の牽引力はブラケット380に伝達され、第1大臼歯T1を後方に牽引するとともに、第1スロット381に固定されたアーチワイヤ390を介して、第1大臼歯T1よりも前方の歯(前歯)を後方に牽引する。
【0054】
牽引力発生部373は、牽引基部371と牽引固定部372との間に位置するTループ374を有する。
図7では、Tループ374が開かれるとともに、Tループ374と牽引固定部372との間のワイヤ材をTループ374から離れるように撓ませた状態で固定されている。このため、牽引力発生部373は、牽引固定部372を介してブラケット380に、後方への牽引力および前方回転力を付与している。牽引力発生部373において牽引力を発生させる部分はTループ374に限定されない。Lループや円形のループであってもよい。
【0055】
この牽引力および前方回転力が適切にブラケット380に伝達されるように、牽引固定部372は、前方に延びるワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲する屈曲部BPを有し、ブラケット380において口蓋側に突出する突出部(実質的に第2スロット382)に対して、屈曲部BPは掛止されている。
【0056】
ブラケット380は牽引対象となる歯(第1大臼歯T1)の歯冠に取り付けられる。これに対し、歯の重心は、歯冠よりも歯根側に位置する。このため、ブラケット380を用いて歯を単純に後方に移動させる力だけを付与すると、歯冠が後方を向く回転(後方回転、遠心回転)が不可避的に発生する。
【0057】
そこで、牽引力発生部373は、Tループ374が閉じる力により後方への牽引力を発生させるだけでなく、ワイヤ材の撓みが戻る力により前方回転力を発生させることにより、牽引対象となる歯(第1大臼歯T1)が後方に移動する際に生じる後方回転力をキャンセルし、牽引対象となる歯(第1大臼歯T1)が実質的に回転することなく後方に移動することを実現している。
【0058】
従来技術のように、ワイヤをコイルバネやゴムで牽引する場合には、延ばされたコイルバネやゴムが元の長さに戻る際に後方に移動する力を付与できるが、ブラケット380に対して前方回転力を付与することは不可能である。牽引部材370はワイヤ材からなることにより、牽引力のみならず、様々な方向の力を同時に付与することができ、結果、牽引対象となる歯を適切に移動させることができる。
【0059】
このように、歯科矯正装置1000では、口腔M内で牽引部材370を構成するワイヤ材が前方に突出し、ワイヤ材の前方の先端近傍にブラケット380に対して掛止する屈曲部BPが設けられて、牽引固定部372が形成されている。この牽引固定部372の屈曲部BPにおいてブラケット380に対して牽引力および前方回転力が加えられているため、歯科矯正装置1000が適切に機能するためには、口腔M内で前方に突出するワイヤ材の先端近傍を歯根側に屈曲させることが必要となる。前述の本実施形態に係る歯科矯正用プライヤ100、110、120は、この目的を果たす観点から有効なツールである。
【0060】
図8は、本発明の一実施形態の一変形例に係る歯科矯正装置の説明図である。
図7に示される歯科矯正装置1000は、アーム部材360が口腔M内で左右に展開し、2つの第二接続部362を有するが、
図8に示される歯科矯正装置1001は、アーム部材360は口腔M内で一方側にのみ展開し、第二接続部362は1つのみである。このような場合には第一接続部361からベース部材300に対して強い回転力が付与されるが、前述のように、ベース部材300は3つ以上、具体的には4つのスクリュー350により強固に固定されているため、ベース部材300の緩みは生じにくい。
【0061】
図9は、本発明の一実施形態の他の一変形例に係る歯科矯正装置の説明図である。
図8に示される歯科矯正装置1001は、第2固定部332に取り付けられたアーム部材360が口腔M内で左側に展開し、1つの第二接続部362を有するが、
図9に示される歯科矯正装置1002は、第2固定部332に取り付けられたアーム部材360と、第1固定部331に取り付けられたアーム部材360とを有する。
【0062】
第2固定部332に取り付けられたアーム部材360には、牽引部材370が取り付けられている。牽引部材370は、牽引基部371から離れた位置にある左の第1大臼歯T1を牽引対象とする。牽引固定部372は、歯列に沿って前方に延びるワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲する屈曲部BPを有する。牽引力発生部373が有するTループ374を弾性変形させた状態で、牽引対象である左の第1大臼歯T1に取り付けられたブラケット380において口蓋側に突出する突出部(第2スロット382)に、屈曲部BPは掛止される。これにより、牽引部材370は、ブラケット380の第2スロットに対して後方への牽引力および前方回転力を付与する。この反力として、アーム部材360の第二接続部362には、牽引部材370から、前方かつ外側へ移動させる力が付与される(白矢印)。
【0063】
第1固定部331に取り付けられたアーム部材360にも、牽引部材370が取り付けられている。牽引部材370は、牽引基部371から離れた位置にある右の第1大臼歯T11を牽引対象とする。牽引基部371が取り付けられるアーム部材360の第二接続部362は、右の第1大臼歯T11よりも前方の歯の口蓋側に配置される。牽引固定部372は、歯列に沿って前方に延びるワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲する屈曲部BPを有する。牽引力発生部373が有するTループ374を弾性変形させた状態で、牽引対象である右の第1大臼歯T11に取り付けられたブラケット380において口蓋側に突出する突出部(第2スロット382)に、屈曲部BPは掛止される。これにより、牽引部材370は、ブラケット380の第2スロット382に対して前方への牽引力および後方回転力を付与する。この反力として、アーム部材360の第二接続部362には、牽引部材370から、後方かつ外側へ移動させる力が付与される(白矢印)。
【0064】
このように、歯科矯正装置1002では、2つのアーム部材360を介して、ベース部材300には時計回りの回転力が付与される。しかしながら、前述のように、ベース部材300は4つのスクリュー350により強固に固定されているため、ベース部材300の緩みは生じにくい。
【0065】
なお、上記に本実施形態およびその具体例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、上記の説明では、第1切断部112は凹部を有し、第2切断部212は突出した刃を有していたが、第1切断部112が突出した刃を有し、第2切断部212が凹部を有していてもよい。
【0066】
また、前述の実施形態またはその具体例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、
図4に示される第2実施形態に係る歯科矯正用プライヤ110は、対称面である第1面S1の法線に沿った方向に並ぶように2つの作用部(右側作用部41、左側作用部42)が側方に突出しているが、これに限定されない。第1面S1の法線に対して前方に傾いた線に沿うように、2つの作用部のそれぞれが側方に突出していてもよい。作用部をこのようなに配置することにより、口腔内でワイヤを曲げる施術が容易になる場合もある。
【解決手段】ベース部材300と、アーム部材360と、牽引部材370と、を備える歯科矯正装置1000であって、牽引部材は、第二接続部362に固定される牽引基部371と、牽引基部から離れて位置する牽引対象に固定されたブラケット380に掛止された牽引固定部372と、牽引基部と牽引固定部との間に位置して、牽引固定部を介してブラケットに、後方への牽引力および前方回転力または前方への牽引力および後方回転力を付与する牽引力発生部373と、を有し、牽引固定部は、歯列に沿って延びるワイヤ材が塑性変形して歯根側に屈曲する屈曲部を有し、ブラケットにおいて口蓋側に突出する突出部382に屈曲部は掛止される。