特許第6925188号(P6925188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6925188プレキャストコンクリート基礎の構築方法、およびプレキャストコンクリート造の基礎構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925188
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート基礎の構築方法、およびプレキャストコンクリート造の基礎構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/01 20060101AFI20210812BHJP
【FI】
   E02D27/01 102A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-133932(P2017-133932)
(22)【出願日】2017年7月7日
(65)【公開番号】特開2018-21445(P2018-21445A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2020年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-142005(P2016-142005)
(32)【優先日】2016年7月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】稲田 博文
(72)【発明者】
【氏名】河合 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】河本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清仁
(72)【発明者】
【氏名】市川 創
(72)【発明者】
【氏名】木村 壮男
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悟士
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−266226(JP,A)
【文献】 特開昭53−078630(JP,A)
【文献】 特開2003−213915(JP,A)
【文献】 特開平04−005331(JP,A)
【文献】 特開平04−089926(JP,A)
【文献】 特開平11−247202(JP,A)
【文献】 特開平08−085959(JP,A)
【文献】 特開平08−189044(JP,A)
【文献】 特開2011−207650(JP,A)
【文献】 特開2002−339375(JP,A)
【文献】 特開2016−216958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材を複数設置し、当該基礎部材同士を連結して構築されたプレキャストコンクリート基礎の構築方法であって、
地盤面上にコンクリート層を構築する工程と、
前記コンクリート層上にセルフレベリング材を流し込んでセルフレベリング層を構築する工程と、
当該セルフレベリング層上に前記基礎部材を載置して、当該基礎部材同士を連結する工程と、を備え
前記セルフレベリング材は、屋外環境下で打設した際のフロー値が220mmを超えて250mm以下の流動性を有し、外気温、水温、およびセルフレベリング材の温度に基づいて加水量および練混ぜ時間が調整されて混練されていることを特徴とするプレキャストコンクリート基礎の構築方法。
【請求項2】
前記加水量は、25kgの前記セルフレベリング材に対して6.3L以上6.75L以下であることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート基礎の構築方法。
【請求項3】
前記セルフレベリング層を構築する工程では、前記セルフレベリング材の乾燥を抑制する養生手段を設け、
前記養生手段は、前記セルフレベリング材の表面に塗布されて当該セルフレベリング材表面からの水分の逸散を防止する膜養生剤、または、前記セルフレベリング材の打設後に当該セルフレベリング材の表面を覆うフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載のプレキャストコンクリート基礎の構築方法。
【請求項4】
前記セルフレベリング材は、宇部興産株式会社製の屋内床下地調整用の床レベラーG、または太平洋マテリアル株式会社製の屋内床下地調整用の太平洋SL材であり、
前記セルフレベリング層を構築する工程では、前記コンクリート層上に桟木を設置し、当該桟木で囲まれた範囲内に、当該桟木の上面の高さまで前記セルフレベリング材を流し込むことで、前記セルフレベリング層を構築することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプレキャストコンクリート基礎の構築方法。
【請求項5】
地盤面上に形成されたコンクリート層と、
当該コンクリート層上に形成されたセルフレベリング層と、
当該セルフレベリング層上に設置されて互いに連結されたプレキャストコンクリート造の基礎部材と、を備え
前記セルフレベリング層は、屋外環境下で打設した際のフロー値が220mmを超えて250mm以下の流動性を有し、外気温、水温、およびセルフレベリング材の温度に基づいて加水量および練混ぜ時間が調整されて混練されたセルフレベリング材で形成されていることを特徴とするプレキャストコンクリート造の基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材同士を連結して基礎を構築する基礎の構築方法、およびプレキャストコンクリート造の基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の基礎の施工方法として、工場にてプレキャストコンクリート造(PC造)の部材を製作しておき、これらPC部材を現場に搬入して、互いに接合することで、基礎を構築する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
具体的には、PC部材を設置する場合、地盤面上に略水平にコンクリートを打設し(捨てコンクリート)、この捨てコンクリート上に金属製の板材であるライナープレートを設置して、このライナープレート上にPC部材を載置する。その際、捨てコンクリートとPC部材との隙間にグラウト材を充填する。
特許文献3には、セルフレベリング(自己水平)材を用いて勾配を形成するコンクリート床構造体の施工方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3443739号公報
【特許文献2】特開平7−268883号公報
【特許文献3】特開2013−108339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2のようなPC部材の重量は20トン以上となる場合が多く、このような高重量のPC部材をライナープレートの上に設置する場合、ライナープレートや捨てコンクリート層が薄いと、PC部材の重量が捨てコンクリートに局所的に加わることになり、捨てコンクリートに押抜きせん断破壊が生じるおそれがあった。そこで、対策として、ライナープレートや捨てコンクリートの厚みを大きくし、捨てコンクリートの強度が十分に発現した後にPC部材を設置することが考えられるが、この場合、工事費が高額となるうえに、工期が長期化する、という問題があった。
また、特許文献3のようなセルフレベリング材を屋外環境下でPC部材の設置工事に使用した場合、セルフレベリング材が硬化中だけでなく硬化後も太陽光の照射を受けるうえに、セルフレベリング材の表面に風が当たるため、セルフレベリング材に有害な乾燥収縮ひびわれが発生するおそれがあった。
【0005】
本発明は、屋外環境下であってもセルフレベリング層を短時間に構築でき、かつ、このセルフレベリング層上に基礎部材を確実に設置できる、プレキャスト基礎の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、屋内床下地調整用の速硬性のセルフレベリング材を捨てコンクリートの上面に流し込んで、基礎部材を載置する設置層とすることで、コテ均し作業をほとんど行わなくても、略水平な設置層を形成できる点に着目し、当該セルフレベリング層上に設置されたプレキャストコンクリート基礎の構築方法を発明するに至った。なお、速硬性のセルフレベリング材としては、例えば、床レベラーG(宇部興産株式会社製)が挙げられる。この床レベラーGは、屋内にて床用張り物の下地調整財として使用した場合、夏期においては施工後約3時間で軽歩行可能となり、冬期であっても施工後約5時間で軽歩行可能となる程度に速硬性に優れており、他のセメント系セルフレベリング材に比べて、強度発現が早い。
【0007】
第1の発明の基礎の構築方法は、複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材(例えば、後述の柱部材10、20、基礎梁部材30、40)を複数設置し、当該基礎部材同士を連結して構築されたプレキャストコンクリート基礎(例えば、後述の基礎1)の構築方法であって、地盤面(例えば、後述の地盤面61)上にコンクリート層(例えば、後述の捨てコンクリート60)を構築する工程(例えば、後述のステップS1)と、前記コンクリート層上に速硬性のモルタルまたはセルフレベリング材を流し込んでセルフレベリング層(例えば、後述のセルフレベリング層62)を構築する工程(例えば、後述のステップS2)と、当該セルフレベリング層上に前記基礎部材を載置して、当該基礎部材同士を連結する工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明の基礎の構築方法は、複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材(例えば、後述の柱部材10、20、基礎梁部材30、40)を複数設置し、当該基礎部材同士を連結して構築されたプレキャストコンクリート基礎(例えば、後述の基礎1)の構築方法であって、地盤面(例えば、後述の地盤面61)上にコンクリート層(例えば、後述の捨てコンクリート60)を構築する工程(例えば、後述のステップS1)と、前記コンクリート層上にモルタルまたはセルフレベリング材を流し込んでセルフレベリング層(例えば、後述のセルフレベリング層62)を構築するとともに、当該セルフレベリング材の乾燥を抑制する養生手段を設ける工程(例えば、後述のステップS2)と、当該セルフレベリング層上に前記基礎部材を載置して、当該基礎部材同士を連結する工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
ここで、セルフレベリング材とは、高い流動性および速乾性を有し、自己水平性が高い薄塗り用セメント系床下地調整材である。セルフレベリング材としては、床レベラーG(宇部興産株式会社製)のように速硬性を有するものと、太平洋SL(太平洋マテリアル株式会社製)のように速硬性を有しないものと、がある。このセルフレベリング材を流し込んで簡単に均すだけで平滑な表面を形成できる。
【0010】
この発明によれば、プレミックス材を用いてセルフレベリング材を混練する際、温度などの屋外環境を考慮して、プレミックス材に対する加水量および練混ぜ時間を調整する。よって、屋内環境用のプレミックス材を用いた場合でも、屋外環境下で打設直後から太陽光や風を受けるにもかかわらず、所定の薄層を維持した状態で高い流動性を確保できる。
【0011】
また、必要に応じて、セルフレベリング材に適切な養生手段を施し、セルフレベリング材表面の乾燥を抑制することで、屋外環境下であっても、セルフレベリング層表面の乾燥に伴う乾燥収縮ひびわれを防止できる。
また、硬化したセルフレベリング層は、表面の凹凸が少なく、かつ薄層でありながら、略均一な剛性と強度を有する。具体的には、セルフレベリング材を流し込んだ後、1〜3日後には、10N/mm程度の圧縮強さを確保できた。この詳細については、後述する。
また、セルフレベリング層の表面にプレキャストコンクリート造の基礎部材を載置することにより、基礎部材の下面の大部分が、略均一な剛性および強度を備えたセルフレベリング層に面接合して、基礎部材の重量が略均一に捨てコンクリートに伝達される。その結果、捨てコンクリートの厚みを大きくしたり、捨てコンクリートの強度が十分に発現するまで待ったりする必要がなく、工期が長期化するのを防止できる。
【0012】
第3の発明の基礎の構築方法は、前記養生手段は、前記セルフレベリング材の表面に塗布されて当該セルフレベリング材表面からの水分の逸散を防止する膜養生剤、または、前記セルフレベリング材の打設後に当該セルフレベリング材の表面を覆うフィルムであることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、養生手段として、硬化前のセルフレベリング層の表面に膜養生剤を塗布したり、硬化前のセルフレベリング層の表面をフィルムで覆ったりすることで、屋外環境下で打設したセルフレベリング材であっても、乾燥収縮ひびわれが発生するのを確実に防止できる。
【0014】
第4の発明の基礎の構築方法は、前記セルフレベリング層は、屋外環境下で打設した際のフロー値が220mmを超えて250mm以下の流動性を有する、加水量および練混ぜ時間を調整して混練された前記モルタルまたは前記セルフレベリング材で形成されていることを特徴とする。
【0015】
ここで、フロー値は、JASS 15M−103(セルフレベリング材の品質基準)に基づいて測定する。
この発明によれば、プレミックス材を用いてセルフレベリング材を混練する際、温度などの屋外環境を考慮して、プレミックス材に対する加水量および練混ぜ時間を調整する。よって、屋内環境用のプレミックス材を用いた場合でも、屋外環境下で打設直後から太陽光や風を受けるにもかかわらず、所定の薄層を維持した状態で、高い流動性を確保できる。具体的には、異なる屋外環境下において、複数のセルフレベリング材の施工性確認実験を行い、屋外環境下における好ましいフロー値の範囲を得た。
【0016】
第5の発明のプレキャストコンクリート造の基礎構造は、地盤面上に形成されたコンクリート層と、当該コンクリート層上に形成されたセルフレベリング層と、当該セルフレベリング層上に設置されて互いに連結された複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材と、を備えることを特徴とする。
この発明によれば、屋外環境下に形成させたルフレベリング層上に、複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材を設置して互いに連結することで、短時間でプレキャストコンクリート造の基礎構造を構築できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の基礎の構築方法によれば、屋外環境下であってもセルフレベリング層を短時間に構築でき、かつ、このセルフレベリング層上に基礎部材を確実に設置して、基礎を迅速に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の基礎の構築方法により構築された基礎の部分斜視図である。
図2】実施形態に係る基礎の1スパン間の斜視図である。
図3】実施形態に係る基礎を構成する柱部材の斜視図である。
図4】実施形態に係る基礎を構成する基礎梁部材の斜視図である。
図5】実施形態に係る基礎の1スパン間の構築手順のフローチャートである。
図6】実施形態に係る基礎構造の構築手順の説明図(その1)である。
図7】実施形態に係る基礎構造の構築手順の説明図(その2)である。
図8】実施形態に係る基礎構造の構築手順の説明図(その3)である。
図9】本発明の基礎に用いられるセルフレベリング層近傍の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、プレキャストコンクリート造の基礎部材が設置されるモルタル層(セルフレベリング層)の高さ調整をほとんど行うことなく、屋外環境下においても、表面に凹凸度の少ないセルフレベリング層を短時間で構築することができ、このセルフレベリング層の上面に複数の基礎部材を設置して、それらの基礎部材同士を連結させた基礎の構築方法、およびプレキャストコンクリート造の基礎構造(例えば、図1)である。
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基礎の構築方法により構築された基礎1の部分斜視図である。この図1では、後述の梁接合部50について、現場で打設したコンクリート体の部分の表示を省略している。
【0021】
基礎1は、コンクリート層としての捨てコンクリート60上に設けられた複数の柱2、3、4と、捨てコンクリート60上に設けられて柱2〜4同士を連結する基礎梁5、6と、を備える。
柱2は、鉄筋コンクリート造(RC造)であり、基礎部材としてのプレキャストコンクリート造の柱部材10の上にプレキャストコンクリート造の柱部材10Aを接合することにより構築される。
【0022】
柱3は、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)であり、プレキャストコンクリート造の柱部材10の上に図示しない鉄骨部材を接合し、この鉄骨部材の周囲にコンクリート体を打設することにより構築される。
柱4は、鉄骨造(S造)であり、基礎部材としてのプレキャストコンクリート造の柱部材20の上に、図示しない鉄骨部材を接合することにより構築される。
【0023】
基礎梁5は、柱部材10同士の間に設けられ、水平方向に連結された複数のプレキャストコンクリート造の基礎部材としての基礎梁部材30、40と、これら基礎梁部材30、40と柱部材10、20との間あるいは基礎梁部材30、40同士の間に現場で構築された梁接合部50と、を含んで構成される。また、基礎梁部材30、40には、人通孔7が適宜形成されている。
【0024】
基礎梁6は、柱部材10、20同士の間に設けられ、基礎梁5と同様の構成である。基礎梁6の上面の高さは、基礎梁5の上面の高さに略等しいが、基礎梁6の梁せいは、基礎梁5よりも低くなっている。
【0025】
図2は、基礎1の1スパン間の斜視図である。
以下、一例として、基礎1の1スパンについて説明する。この基礎1では、柱部材10が一対配置されている。図2中左側の柱部材10の上には、柱部材10Aが接合される。
捨てコンクリート60上にセルフレベリング層62が打設されており、このセルフレベリング層62上に一対の柱部材10が配置され、この一対の柱部材10の間には、基礎梁部材30、40が並んで配置される。
【0026】
ここで、基礎梁部材30は、一直線上に複数並んで配置され、基礎梁部材40は、これら基礎梁部材30の一端側に配置される。これら柱部材10および基礎梁部材30、40については、鉛直方向の据付け精度を1/1000以下とするため、後述のように、これら部材10、30、40が設置されるセルフレベリング層62の表面高さの均一化を目指した。
以上のように、プレキャストコンクリート造の基礎1は、地盤面上に形成された捨てコンクリート60と、この捨てコンクリート60上に形成されたセルフレベリング層62と、このセルフレベリング層62上に設置されて互いに連結された複数のプレキャストコンクリート造の柱部材10、10Aおよび基礎梁部材30、40と、を含んで構成される。
【0027】
図3(a)は、柱部材10の斜視図である。
柱部材10は、鉄筋コンクリート造であり、水平断面が矩形状で、鉛直方向に延びている。この柱部材10には、柱主筋11、この柱主筋11に巻き回された図示しない帯筋、基礎梁下側主筋12、基礎梁上側主筋13、および、アンカーボルト14が埋設されている。
【0028】
柱主筋11は、柱部材10の上端面から上方に突出している。基礎梁下側主筋12は、柱部材10の側面の下側から水平方向に突出しており、基礎梁上側主筋13は、柱部材10の側面の上側から水平方向に突出している。アンカーボルト14は、柱部材10の上端面でかつ柱主筋11の内側から突出している。
また、アンカーボルト14に吊り上げ治具を取り付け、この吊り上げ治具を介して柱部材10を揚重することで、柱主筋11や基礎梁下側主筋12、または柱部材10本体に損傷を与えることなく、柱部材10を容易に所定位置に設置することができる。
【0029】
図3(b)は、柱部材10Aの斜視図である。
柱部材10Aは、柱部材10と同様の構成であるが、基礎梁下側主筋12および基礎梁上側主筋13が設けられておらず、柱部材10Aの下端面には、柱部材10の柱主筋11が挿入されて接合される継手部15が埋設されている点が、柱部材10と異なる。
【0030】
柱部材20は、柱主筋11が柱部材10の上端面から上方に突出していない点が柱部材10と異なり、その他の構成については、柱部材10と同様である(図1参照)。
【0031】
図4(a)は、部材内に継手部32、34が設けられた基礎梁部材30の斜視図であり、図4(b)は、部材内に継手部が設けられていない基礎梁部材40の斜視図である。
基礎梁部材30は、鉄筋コンクリート造であり、直方体形状である。この基礎梁部材30には、基礎梁下側主筋31、基礎梁下側主筋31が接合された継手部32、基礎梁上側主筋33、基礎梁上側主筋33が接合された継手部34、およびこれら基礎梁主筋31、33に巻き回されたあばら筋35、が埋設されている。
【0032】
基礎梁下側主筋31は、基礎梁部材30の長さ方向の一端面の下側から水平方向に突出し、基礎梁上側主筋33は、基礎梁部材30の長さ方向の一端面の上側から水平方向に突出している。
あばら筋35は、基礎梁部材30の上端面から露出している。
【0033】
継手部32、34は、筒状であり、一端側に基礎梁主筋31、33が挿入されて接合されている。この継手部32、34の他端面は、基礎梁部材30の長さ方向の他端面に露出しており、隣接する基礎梁部材30、40の基礎梁主筋31、33、または、これら基礎梁主筋31、33に連結した継手調整鉄筋(図示せず)が挿入される。
【0034】
基礎梁部材40は、継手部が埋設されておらず、基礎梁主筋31、33が延長されて基礎梁部材40の他端面から突出している点が、基礎梁部材30と異なり、その他の構成は基礎梁部材30と同様である。
【0035】
このように、基礎梁部材30は、一端面である梁端部から基礎梁主筋31、33が突出しており、他端面には、継手部32、34が埋設されている。また、基礎梁部材40は、両端面である梁端部から基礎梁主筋31、33が突出している。
【0036】
基礎梁部材30、40同士は、一方の基礎梁部材30、40の端面から突出した基礎梁主筋31、33を他方の基礎梁部材30の継手部32、34に挿入して接合する。あるいは、一方の基礎梁部材30、40の端面から突出した基礎梁主筋31、33に図示しない継手調整鉄筋を取り付けて、この継手調整鉄筋を他方の基礎梁部材30の継手部32、34に挿入して接合する。
また、基礎梁部材30同士は、後述する梁接合部50において、機械式継手51により基礎梁主筋31、33同士を連結して接合する(図1参照)。
【0037】
図2に戻って、梁接合部50では、柱部材10の基礎梁主筋12、13と基礎梁部材30、40の基礎梁主筋31、33とが、筒状の機械式継手51を用いて接合されている。あるいは、梁接合部50では、基礎梁部材30、40の基礎梁主筋31、33同士が機械式継手51を用いて接合されている。なお、機械式継手51に限らず、重ね継手により接合してもよい。
【0038】
具体的には、機械式継手51の一端側には、柱部材10の基礎梁主筋12、13が挿入されて、これら基礎梁主筋12、13が機械式継手51に接合される。また、機械式継手51の他端側には、基礎梁部材30、40の基礎梁主筋31、33が挿入されて、これら基礎梁主筋31、33が機械式継手51に接合されている。
【0039】
この梁接合部50では、基礎梁主筋12、13同士を接合した後、梁接合部50の両側面に図示しない型枠材を設置し、型枠材の間にコンクリートを打設して、梁接合部50を挟んで配置された基礎梁部材30、40および柱部材10、20、あるいは、基礎梁部材30、40同士を一体化させる。
【0040】
以下、上述の基礎1の1スパン間を構築する手順について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、図6に示すように、掘削した地盤面(根切底)61上に捨てコンクリート60を打設し、この捨てコンクリート60上に、柱部材10および基礎梁部材30、40の位置出し(墨出し)を行う。
【0041】
ステップS2では、図6に示すように、この捨てコンクリート60上でかつ柱部材10および基礎梁部材30、40の直下となる位置に、セルフレベリング材を流し込んで、セルフレベリング層62を構築する。このとき、セルフレベリング層62の上面が、柱部材10および基礎梁部材30、40の下端面の高さとなるように、セルフレベリング層62の高さ位置を調整する。セルフレベリング層62は、セルフレベリング材に限らず、セメントペースト、モルタル、グラウト材を用いて形成してもよい。
また、セルフレベリング層62上に、柱部材10および基礎梁部材30、40の位置出し(墨出し)を行う。
【0042】
ステップS3では、図6に示すように、柱部材10を設置する。具体的には、柱部材10を図示しない揚重機で吊り上げて、セルフレベリング層62上に吊り下ろして載置する。このセルフレベリング層62については、後に詳述する。また、このとき、セルフレベリング層62と基礎梁部材30との間に僅かな隙間が生じた場合は、この隙間にグラウト材を充填してもよい。
【0043】
ステップS4では、図7に示すように、柱部材10に最も近い基礎梁部材30を設置する。
具体的には、基礎梁部材30を図示しない揚重機で吊り上げて、セルフレベリング層62上でかつ本来の設置位置に吊り下ろす。
【0044】
次に、図7中の梁接合部50において、基礎梁部材30と柱部材10とを接合する。その際、機械式継手51を用いて、柱部材10の基礎梁主筋12、13に、基礎梁部材30の基礎梁主筋31、33を接合する(図2図8参照)。このとき、セルフレベリング層62と基礎梁部材30との間に僅かな隙間が生じた場合は、この隙間にグラウト材またはセメントペースト材を充填してもよい。
【0045】
ステップS5では、既に設置した基礎梁部材30に隣接する基礎梁部材30を設置する。具体的には、基礎梁部材30を図示しない揚重機で吊り上げて、セルフレベリング層62上でかつ本来の設置位置に吊り下ろす。
【0046】
または、図8に示すように、基礎梁部材30を既に設置した基礎梁部材30の方向に摺動させて、当接させる。そして、既に設置した基礎梁部材30の継手部32、34に、今回設置する基礎梁部材30の基礎梁主筋31、33を挿入して接合する。このとき、セルフレベリング層62と基礎梁部材30との間に僅かな隙間が生じた場合は、この隙間にグラウト材またはセメントペースト材を充填してもよい。
【0047】
ステップS6では、ステップS5と同様の手順で、残りの基礎梁部材30、40を設置するとともに、ステップS5と同様の手順で、柱部材10を設置する。
【0048】
ステップS7では、各柱部材10と基礎梁部材30、40との間に、現場打設によるコンクリート造の梁接合部50を構築する。すなわち、柱部材10の基礎梁主筋12、13および基礎梁部材30、40の基礎梁主筋31、33に、図示しないあばら筋を取り付けて、その後、側型枠を建て込んで、コンクリートを打設する。
【0049】
上述のセルフレベリング層62は、セルフレベリング材を流し込んだ直後から、表面に太陽光が照射したり風が当たったりする屋外環境下で構築される。また、セルフレベリング層62上に底面が1m×5m程度の基礎梁部材30、40を設置した場合でも、セルフレベリング層62に所定の水平度を確保する必要がある。そこで、このようなセルフレベリング層の形成に最適なセルフレベリング材、セルフレベリング材の混練方法、養生方法の組み合わせを決定するため、以下の施工性確認実験および部材設置実験を行った。
【0050】
(施工性確認実験)
施工性確認実験の手順は、以下の通りである。
図9に示すように、地盤(コンクリート)上に敷砂利を100mmの厚さで敷いて、この砂利の上に、捨てコンクリートとして、50mmの厚さでFc15(設計基準強度が15N/mm)のコンクリートを打設する。コンクリートを打設した72時間後に、このコンクリートの上に、セルフレベリング層の試験体としてセルフレベリング材を15mmの厚さで打設する。
【0051】
打設するセルフレベリング材の物性について、外気温、セルフレベリング材の配合割合、練混ぜ時間、およびフロー値、圧縮強さを測定する。
また、セルフレベリング材の打設後1日目に、セルフレベリング材の表面の高低差を計測して、セルフレベリング材のレベル精度を確認する。
【0052】
具体的には、以下の表1に示すようにセルフレベリング層の試験体を10体製作した。
試験体は、セルフレベリング材の種類、セルフレベリング層の下地コンクリート面に塗布するプライマー材の有無、プライマー材の種類、および打設後の養生手段を実験パラメータとした。また、各試験体の大きさは、長辺長さ270cm、短辺長さ110cm、厚さ15mmとした。
【0053】
【表1】
【0054】
試験体No.1〜No.3のAタイプのセルフレベリング材には、屋内床下地調整用の床レベラーG(宇部興産株式会社製)を用いた。床レベラーGは、速硬性を有するセルフレベリング材であり、カタログ値では、材齢7日の圧縮強度が20.9N/mm、材齢28日の圧縮強度が24.2N/mmであり、流動性(フロー値)が210mm±10mmである。
【0055】
また、試験体No.1〜No.3のCタイプのプライマー材には、UプライマーG(宇部興産株式会社製)を用いた。
【0056】
試験体No.4、No.5のBタイプのセルフレベリング材には、屋内床下地調整用の太平洋SL(太平洋マテリアル株式会社製)を用いた。太平洋SLは、一般的な(速硬性を有していない)セルフレベリング材であり、カタログ値では、材齢7日の圧縮強度が18.5N/mm程度、材齢28日の圧縮強度が26.5N/mmであり、流動性(フロー値)が210mm±10mmである。
【0057】
試験体No.4〜No.5のDタイプのプライマー材には、太平洋SLプライマー(太平洋マテリアル株式会社製)を用いた。
試験体No.2、No.5の養生手段は、膜養生剤としてキュアキーパー(太平洋マテリアル株式会社製)を用いた。膜養生剤とは、セルフレベリング材の表面に塗布されてセルフレベリング材表面からの水分の逸散を防止するものである。
【0058】
試験体No.3の養生手段は、フィルムであり、セルフレベリング材の打設完了後に、このセルフレベリング材をフィルムで覆った。
【0059】
表2に、各試験体に用いたセルフレベリング材の混練作業について、外気温、セメント温度、水温、練混ぜ時間、セルフレベリング材の温度、およびフロー値を測定した結果を示す。なお、セルフレベリング材のフロー値は、JASS 15M−103(セルフレベリング材の品質基準)に基づいて測定した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、外気温、セメント温度、水温、およびセルフレベリング材の温度について、それぞれ所定範囲内でばらつきはあるものの、概ね、外気温が20℃程度の場合、Aタイプでは一袋(25kg)当り6.3L、Bタイプでは一袋(25kg)当り6.75Lの水を加えて3分間混練した。その結果、セルフレベリング材のフロー値は、220mmを上回り、概ね250mm以下となった。
【0062】
よって、本実験結果より、屋内床下地調整用のセルフレベリング材に、外気温等を考慮して水量を調整して配合し、その後所定時間混練することで、所定範囲内の流動性を確保できることが確認できた。この所定範囲とは、セルフレベリング材のフロー値が、220mmを上回り250mm以下の範囲である。
屋外環境下で用いるセルフレベリング材は、打設直後より太陽光の照射や風が作用し、屋内環境下で使用した場合に比べて水分の蒸発が早いため、屋外環境よりも早期かつ広範囲に拡がるように調整配合する必要があった。
【0063】
表3に、セルフレベリング層の天端面(表面)の高低差を測定した結果を示す。具体的には、セルフレベリング層の天端面の9箇所について高低差を測定し、平均値、最大値、最小値、および標準偏差を求めた。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より、セルフレベリング層の下面にプライマー材を塗布した場合には、プライマー材を塗布しなかった場合と比べて、9点の絶対値およびその標準偏差がともに小さく、セルフレベリング層の天端面の高さのばらつきが少ないことが確認できた。特に、宇部興産株式会社製の床レベラーGを使用した場合に、天端面の高さのばらつきがより小さかった(最大値と最小値との差で概ね1mm以内)。なお、乾燥に対する養生を実施しなかった試験体No.1および試験体No.4については、天端面の高さのばらつきは養生を実施した他の試験体と同等であったが、乾燥により表面にひび割れが生じ、そのひび割れ幅の最大値は、試験体No.1では0.05mm未満に留まったが、試験体No.4では0.3mmを超えていた。
【0066】
プライマー塗布有りの試験体No.2および試験体No.3は、天端面高さのばらつき(標準偏差)がきわめて小さかった。よって、速硬性のセルフレベリング材を使用し、さらにセルフレベリング材打設後のセルフレベリング層表面の養生方法として、試験体No.2のように膜養生剤を塗布したり、試験体No.3のように表面をフィルムで覆ったりする手法が有効であることが判る。
【0067】
圧縮強さについては、セルフレベリング材として床レベラーG(宇部興産株式会社製)を用いたNo.1試験体と、セルフレベリング材として太平洋SL(太平洋マテリアル株式会社製)を用いた試験体No.4とを測定した。
具体的には、試験体No.1、No.4のそれぞれについて、40mm×40mm×160mmの供試体形状のテストピースを12本採取し、各試験体No.1〜No.5とともに養生を行った後、JIS R 5201セメントの物性試験に基づき、圧縮強さ(N/mm)を測定した。これらテストピースを用いて、打設後24時間、3日、7日、28日に圧縮試験を実施した。
【0068】
このJIS R 5201セメントの物性試験は、モルタル等を対象とした圧縮強さの測定方法であり、コンクリートを対象とした圧縮強さの測定方法であるJIS A 1108コンクリートの圧縮強度試験方法とは異なる。
【0069】
表4に、試験体No.1、No.4のテストピースについて、打設後の圧縮強さの試験値を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4に示すように、試験体No.1については、打設1日後には28日後の57%程度の圧縮強さを示し、打設後3日目には28日後の75%程度の圧縮強さを示した。
【0072】
また、試験体No.4については、試験体No.1より強度の発現が遅く、打設1日後には28日後の21%程度の圧縮強さを示し、打設後3日目には28日後の66%程度の圧縮強さを示した。
【0073】
以上より、セルフレベリング材としては、宇部興産株式会社製の床レベラーGが好ましく、必要に応じて行う養生方法は、作業性の面から、セルフレベリング材表面に膜養生剤を塗布する方が、セルフレベリング材表面をフィルムで覆うより好適であることが判った。
【0074】
(施工性確認の追加実験)
床レベラーGについて、施工性確認の追加実験を実施した。すなわち、捨てコンクリートの上にセルフレベリング材として床レベラーGを打設し、この打設するセルフレベリング材の物性について、外気温、セルフレベリング材の配合割合、練混ぜ時間およびフロー値を測定する。また、セルフレベリング材の打設後1日目に、セルフレベリング材の表面の高低差を計測して、セルフレベリング材のレベル精度を確認する。
具体的には、以下の表5に示すように、セルフレベリング層の試験体を2体製作した。
試験体は、加水量により調整したフロー値を実験パラメータとした。いずれの試験体でも、セルフレベリング層の下地コンクリート面にUプライマーGを塗布し、打設後の膜養生剤やフィルムによる養生は行わなかった。また、各試験体の大きさは、長辺長さ300cm、短辺長さ120cm、厚さ20mmとした。
【0075】
【表5】
【0076】
表5中、表1と同様に、セルフレベリング材のAタイプは、宇部興産株式会社製の床レベラーG材である。プライマー材のCタイプは、宇部興産株式会社製のUプライマーG材である。
表6に、各試験体に用いたセルフレベリング材の混練作業について、外気温、セメント温度、水温、練混ぜ時間、セルフレベリング材の温度、およびフロー値を測定した結果を示す。なお、セルフレベリング材のフロー値は、JASS 15M−103(セルフレベリング材の品質基準)に基づいて測定した。
【0077】
【表6】
【0078】
表6に示すように、一袋(25kg)当り6.3Lの水を加えて3分間混練した試験体No.6については、セルフレベリング材のフロー値は、上述の試験体No.1〜No.3と同様に、220mmを十分に上回っていた。一方、一袋(25kg)当り5.67L(6.3Lに対して1割低減)の水を加えて3分間混練した試験体No.7については、セルフレベリング材のフロー値は、220mmを下回る結果となった。
表7に、セルフレベリング層の天端面(表面)の高低差を測定した結果を示す。具体的には、セルフレベリング層の天端面の15箇所について高低差を測定し、平均値、最大値、最小値、および標準偏差を求めた。
【0079】
【表7】
【0080】
表7より、フロー値が220mmを十分に上回っていた試験体No.6では、15点の絶対値およびその標準偏差がともに小さく、セルフレベリング層の天端面の高さのばらつきが小さい(最大値と最小値の差が概ね1mm以内)ことが確認できた。一方、フロー値が220mmを下回っていた試験体No.7では、セルフレベリング層の天端面の高さのばらつきが大きくなった(最大値と最小値の差が3mm程度)。なお、いずれの試験体についても、乾燥による表面のひび割れは見られなかった。
試験体No.1〜No.5の試験結果に、以上の試験体No.6、No.7の試験結果を併せて、さらに、上述の試験体No.1のひび割れ幅は0.05mm未満であり、防水性などの観点から有害なものではなかったことを考慮すると、速硬性のセルフレベリング材を使用すれば、初期の乾燥が抑制されて有害なひび割れは生じないと考えられる。さらに、必要に応じて膜養生剤やフィルムによる養生を実施すれば、外気温や太陽光および風といった環境条件が特に厳しい場合でも、ひび割れを確実に防止できると考えられる。
【0081】
(部材設置実験)
次に、部材設置実験を行った。この部材設置実験では、施工性確認実験と同様に、屋外環境下で捨てコンクリート(Fc15)を打設し、捨てコンクリートを打設した72時間後に、この捨てコンクリート上にセルフレベリング層を構築した。このとき、セルフレベリング材表面に膜養生剤を塗布して、セルフレベリング層を養生した。セルフレベリング層を構築した24時間後に、セルフレベリング層の上に、柱および梁の実物大の試験体を載置した。
ここで、セルフレベリング材として、施工性確認実験にて好適であると判明した床レベラーG(宇部興産株式会社製)を使用した。また、下塗りプライマー材として宇部興産株式会社製のUプライマーGを使用し、膜養生剤として太平洋マテリアル株式会社製のキュアキーパーを使用した。
また、セルフレベリング層の試験体として、1〜3シリーズの3体を製作した。
【0082】
1シリーズの上に載置する柱の実物大の試験体は、底面が1.1m×1.1mで、高さ2.45mのプレキャスト鉄筋コンクリート体であり、重量が8.1tonfである。
また、2シリーズの上に載置する梁の実物大の試験体Aは、底面が1.1m×2.8mで、高さ2.45mのプレキャスト鉄筋コンクリート体であり、重量が20.4tonfである。3シリーズの上に載置する梁の実物大の試験体Bは、底面が0.7m×5.0m、高さが1.8mのプレキャスト鉄筋コンクリート体であり、重量が17.1tonfである。
【0083】
表8に、打設するセルフレベリング材の物性について、外気温、セメント温度、水温、練混ぜ時間およびセルフレベリング材の温度の測定結果を示す。
【0084】
施工確認実験と同様に外気温が20℃程度であったため、セルフレベリング材(床レベラーG)に施工性確認実験と同じ量(一袋当たり6.75L)の水を加えて3分間混練し、捨てコンクリート上に流し込むことで、施工確認実験と同様にひび割れのない平滑な載置面を形成した。
【0085】
【表8】
【0086】
本発明と異なり、例えば、厚さ50mmの捨てコンクリートの上に100mm×100mmのライナープレート4枚を介して試験体を載置した場合、最も重量の小さい柱の実物大の試験体(8.1tonf)であっても、計算上捨てコンクリートに押抜きせん断破壊が生じることになる。
しかし、この部材設置実験では、平滑なセルフレベリング層を載置面とすることで、試験体の重量がセルフレベリング層、さらには捨てコンクリートに略均一に伝達されるため、セルフレベリング層および捨てコンクリートに沈下や損傷などの問題は生じず、部材の鉛直方向の据え付け精度1/1000を確保できた。
【0087】
この部材設置実験より、屋外環境下に構築されるセルフレベリング層に、セルフレベリング材として床レベラーG(宇部興産株式会社製)、養生手段として膜養生剤を用いることで、セルフレベリング層にプレキャストコンクリート造の部材を載置しても、十分に耐えうることが確認できた。また、底面が比較的大きな部材であっても、セルフレベリング層上に所定の鉛直方向の据え付け精度を確保した状態で設置できることが判った。
【0088】
屋外環境下で使用するセルフレベリング材は、太陽光の日射や風の影響によって有害な乾燥収縮ひびわれが発生しないように、速硬性のセルフレベリング材を使用し、さらに外気温に基づいて加水量を調整して混練し、フロー値として220mmを越えて250mm以下を確保することが好ましい。
【0089】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)セルフレベリング層62の表面にプレキャストコンクリート造の柱部材10、20および基礎梁部材30、40を載置することにより、柱部材10、20および基礎梁部材30、40の下面の大部分がセルフレベリング層62に面接合して、柱部材10、20および基礎梁部材30、40の重量が略均一に捨てコンクリート60に伝達される。その結果、捨てコンクリートの厚みを大きくしたり、捨てコンクリートの強度が十分に発現するまで待ったりする必要がなく、工期が長期化するのを防止できる。
また、屋外でセルフレベリング材を打設する場合であっても、速硬性のセルフレベリング材を使用することで、セルフレベリング材表面の乾燥に伴う有害な乾燥収縮ひびわれを防止できる。
【0090】
(2)養生手段として、膜養生剤またはフィルムを用いることで、屋外で打設したセルフレベリング材の乾燥収縮ひびわれを確実に防止できる。
【0091】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
また、上述の実施形態による施工性確認実験と部材設置実験による配合調整を行ったセルフレベリング材のフロー値、セルフレベリング層天端面の測定値、およびセルフレベリング層の圧縮強さは、屋内床下地調整材であるセルフレベリング材に対して配合調整を行った後、所定時間、混練した結果である。よって、各実験の測定値は、セルフレベリング材単体の性能評価を行ったものではない。
【符号の説明】
【0092】
1…基礎 2、3、4…柱 5、5A、6…基礎梁 7…人通孔
10、20…柱部材(基礎部材) 10A…柱部材 11…柱主筋 12…基礎梁下側主筋 13…基礎梁上側主筋 14…アンカーボルト 15…継手部
30、40…基礎梁部材(基礎部材) 31…基礎梁下側主筋 32…継手部 33…基礎梁上側主筋 34…継手部 35…あばら筋
50…梁接合部 51…機械式継手
60…捨てコンクリート(コンクリート層) 61…地盤面 62…レベリング層 63…機械式継手
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9