【実施例1】
【0012】
本発明における実施形態のシステム構成の一例を
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の複数バンクOD行列を推定する方法におけるシステム構成とデータの流れの一例を示した図である。
【0013】
利用者のエレベーター乗り継ぎに関わる複数のエレベーター群(バンク)100、101にはそれぞれ、エレベーターの乗降人数や各ボタンの押下タイミングから例えば特許文献1の方法などで予測された各バンクのサービス階におけるOD行列のデータであるバンク内OD行列102、103、104、105、106、107の情報が記録されている。
【0014】
なお、
図1のバンク内OD行列データ102、103、104、105、106、107ではバンク数はバンク1100、バンク2101の2つであるが、バンク数は3つ以上でもよい、かつバンク内OD行列の数も図に示した数から上下してもかまわない。
【0015】
まず、各バンクのバンク内OD行列102、103、104、105、106、107は、乗り継ぎが行われる階床およびバンクのデータである乗り継ぎ階情報108とともに、抽出マッチング部109に入力される。
【0016】
抽出マッチング部109では、入力された各バンクのバンク内OD行列から、乗り継ぎ階が共通する乗り継ぎ関連バンク内OD行列が抽出され、その中から、乗降人数情報が記録されたODデータを抽出し、乗り継ぎ移動パターンごとに、乗り継ぎ階を到着階とするODデータと、乗り継ぎ階を出発階とするODデータと、を一つずつ割り当てた、乗り継ぎ関連ODデータ110を生成する。
【0017】
また、抽出マッチング部109によって抽出されなかったODデータを、乗り継ぎ非関連ODデータ111として別に出力する。
【0018】
出力された乗り継ぎ関連ODデータ110および乗り継ぎ非関連ODデータ111は、推定ステップ112に入力される。推定部112では、乗り継ぎ関連ODデータ110からエレベーターを乗り継いで移動する利用者のODデータを推定し、乗り継ぎ非関連ODデータ111と組み合わせることで、複数バンク全体のOD行列である複数バンクOD行列113を生成、出力する。
【0019】
以下では本構成におけるデータおよび処理の詳細について説明する。
【0020】
本発明の構成として使われているデータについて説明する。
【0021】
まず、乗り継ぎ階情報108について
図2を用いて説明する。乗り継ぎ階情報108はどのバンクとどのバンクがどの階床で乗り継ぐことができるかを示すものであり、例えば、
図2のように、各エレベーターバンクのサービス階および、乗り継ぎ階床を示すもので与えられる。
【0022】
バンク1201、バンク2202、バンク3203に示される各バンクのサービス階はサービスの有無204、205により分類される。また、バンク1とバンク2が乗り継ぎ階床3階で乗り継げるという情報207と、バンク1とバンク3が乗り継ぎ階床3階で乗り継げるという情報208が格納されている。乗り継ぎ階情報108についての説明は以上である。
【0023】
次にバンク内OD行列102、103、104、105、106、107について
図3を用いて説明する。バンク内OD行列114は各バンクのサービス階における利用者の乗車階と降車階を記載した行列データのことである。例えば、成分309からは08:01に1階を出発したエレベーターに対し、1階から3階に向かった人が3人乗車していたことが読み取れる。バンク内OD行列303、304、305、306、307、308のようにバンク内OD行列はエレベーターの出発時刻と紐付けられた状態で与えられる。このような時間の紐付け方になるのは、エレベーター運行データからOD行列を算出する際にエレベーターの上昇や下降ごとにそれぞれOD行列を算出するからである。
【0024】
このように、一回の運転ごとに算出されたOD行列のことを本発明では所定時刻OD行列と呼ぶ。一方で、時間データの紐付け方はこの通りではない。例えば『08:30-08:35』というように、特定の時区間ごとに移動人数を集計する方法がある。このような紐付け方法は、当該時間帯に含まれるOD行列を足し合わせることで可能である。このように特定時区間に紐付けられたOD行列を本発明では特定時区間OD行列と呼ぶ。また、本発明では、OD行列の一部の成分を抜き出したものをODデータと呼ぶ。
【0025】
続いて、本実施例にて行われる処理について説明する。
図1に示したとおり、大まかな処理は抽出マッチング部109および推定部112の2つの処理である。以下ではそれぞれの処理の詳細について説明する。
【0026】
まず、抽出マッチング部109について説明する。抽出マッチング部では、前述の通り、入力された各バンクのバンク内OD行列から、乗り継ぎ階におけるODデータを抽出し、各乗り継ぎ移動パターンに乗り継ぎ階を到着階とするODデータと乗り継ぎ階を出発階とするODデータを一つずつ割り当てた、乗り継ぎ関連ODデータ110を生成するということを行う。これにより、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータを推定するために必要な乗り継ぎ階に到着する人のODデータおよび乗り継ぎ階を出発する人のODデータがセットで得られるため、複数バンクOD行列113を推定する準備が整う。
【0027】
抽出マッチング部109の処理の詳細を
図4を用いて説明する。処理は合成部401、抽出部402、マッチング部403の3つの処理により構成される。
【0028】
まず、合成部401について説明する。合成部401では特定時区間内の所定時刻バンク内OD行列114を合成して特定時区間バンク内OD行列を作成する。例えば、バンクOD行列303、304、305、306、307、308が与えられたとし、特定時区間を08:00から5分刻みに取るとする。この場合、08:00〜08:05にあるバンク内OD行列を各バンクで足し合わせるという処理を行う。つまり、行列303と行列304、行列305と行列306、行列307と行列308をそれぞれ足し合わせるということを行う。
【0029】
結果、
図5の特定時区間バンク内OD行列500、501、502がそれぞれ得られる。以上の処理により、所定時刻バンク内OD行列が特定時区間OD行列に変換される。なお、時区間は等間隔に取る必要はなく、各バンクのエレベーターの一回の運転のデータ同士を組み合わせられるような短い時区間を取っても良い。合成部401の説明は以上である。
【0030】
次に抽出部402について説明する。抽出部402では、合成部401で得られた特定時区間バンク内OD行列から、乗り継ぎ階におけるODデータと、乗り継ぎ階以外のODデータと、を分離するということを行う。
【0031】
例えば、
図5の特定時区間バンク内OD行列500、501、502にこの処理を行うとする。乗り継ぎ階情報として、
図2より、バンク1とバンク2が3階で乗り継がれるという情報207と、バンク1とバンク3が乗り継ぎ階3階で乗り継がれるという情報208が与えられているとする。この下で、乗り継ぎ階床3階でのデータとそれ以外のデータを分離するということを行う。その結果を
図6に示す。行列500を例にとると、3階を降車階にしているデータ503、504および、3階を乗車階にしているデータ505、506を乗り継ぎ階におけるデータ601、602として分類する。一方、それ以外のデータ507、508に関しては、乗り継ぎ階以外のデータ603、604として分類し、乗り継ぎ非関連ODデータ111として推定ステップ112に出力する。以上の処理により、乗り継ぎ階におけるODデータが抽出されることで、乗り継ぎ移動を推定するためのデータとそれ以外のデータを分離することができた。抽出部402の説明は以上である。
【0032】
続いて、マッチング部403の説明を行う。マッチング部403では、乗り継ぎ階情報108により決まる各乗り継ぎ移動パターンに乗り継ぎ階を到着階とするODデータと乗り継ぎ階を出発階とするODデータを一つずつ割り当てる。
【0033】
例えば、抽出部402にてデータ600が得られたとする。まず、乗り継ぎ階情報108に基づき、乗り継ぎ移動のパターンを列挙する。今回の例では、バンク1→バンク2、バンク1→バンク3、バンク2→バンク1、バンク3→バンク1の4パターンである。次に、この乗り継ぎパターンそれぞれに、乗り継ぎ階を到着階とするODデータと乗り継ぎ階を出発階とするODデータを一つずつ割り当てる。
【0034】
ただし、同一バンクが複数の乗り継ぎパターンで使用されている場合は、当該バンクのデータを分割して割り当てる。これをデータ600に適用した結果として、
図7のデータが得られる。例えばバンク1→バンク2の乗り継ぎパターン700を例に取ると、乗り継ぎ階を降車階にするデータとしてバンク1のODデータを、乗り継ぎ階を乗車階するデータとしてバンク2のODデータを割り当てる。
【0035】
すなわち、バンク1のデータからデータ601を、バンク2のデータからデータ606をそれぞれ割り当てる。ただし、乗り継ぎ階3階を降車階とするバンク1のデータはバンク1→バンク3でも使用される。
【0036】
したがって、バンク1のデータはこの乗り継ぎパターンとで分割することになる。分割の手段は、例えば乗り継ぎ階を乗車階とするバンクの合計移動量の比をとればよい。つまり、乗り継ぎ階3階を出発階とするバンク2の合計移動量はデータ606より6人、バンク3の合計移動量はデータ607より6人であることから、今回の例ではデータ601を1:1の割合でバンク1→バンク2、バンク1→バンク3に割り振ればよい。
【0037】
以上の処理を施すと、データ704、データ705がバンク1→バンク2という乗り継ぎパターンに割り振られる。同様の処理をすべての乗り継ぎパターンに対して行うと、乗り継ぎ関連ODデータ110が得られる。なお、ここでは乗り継ぎ階を降車階とするODデータを到着ODデータ706、乗り継ぎ階を乗車階とするデータを出発ODデータ707と呼ぶ。これを推定ステップ112への出力とし、マッチング部の処理は完了である。以上の処理により、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータを推定するために必要な乗り継ぎ階に到着する人のODデータおよび乗り継ぎ階を出発する人のODデータがセットで得られるため、複数バンクOD行列113を推定する準備が整う。マッチング部403の説明は以上である。
【0038】
次に推定部112の説明を行う。推定部112では、抽出マッチング部109にて出力した乗り継ぎ関連ODデータ110を元にエレベーターを乗り継ぐ移動のODデータを推定し、これを抽出マッチング部112で出力した乗り継ぎ非関連ODデータ111と組み合わせることで、複数バンクOD行列113を生成する。
【0039】
処理の詳細を
図8を用いて説明する。処理は振り分け部801と生成部802の2つの処理により構成される。
【0040】
まず、振り分け部801について説明する。振り分け部801では、抽出マッチング部109で得られた乗り継ぎ関連ODデータ110から、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータを推定する。
【0041】
推定方法には、例えば、到着ODデータ706の比に基づき、出発ODデータ707の値を割り振る方法を使えばよい。これをデータ704、データ705に適用すると、
図9のデータ904の推定結果が得られる。データ904から読みとれる通り、データ705の4階および5階のデータ3人が、データ704の人数比4人:2人に基づき、配分されている。同様の操作を乗り継ぎ関連ODデータ110すべてに行うと、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータ908が得られる。振り分け部801の処理は以上である。
【0042】
次に生成部802について説明する。生成部では、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータ908と乗り継ぎ非関連ODデータ111を組み合わせて複数バンクOD行列113を生成する。
【0043】
図6、
図9における例では、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータとしてデータ904、905、906、907と、乗り継ぎ非関連ODデータとしてデータ603、604、609、610と、を組み合わせて、
図10の複数バンクOD行列113を得る。データ904、905、906、907、603、604、609、610をそれぞれ対応する階床のデータとして割り当てている。なお、乗り継ぎ階である3階を乗車階および出発階とする人はいないものとしている。
【0044】
また、乗り継ぎ階情報108として、バンク2とバンク3は乗り継がれないとしているため、バンク2のみのサービス階である4階5階とバンク3のみのサービス階である6階との間に移動はない、つまりデータ1001、1002、1003、1004は0であるとしている。得られた複数バンクOD行列113を出力して、生成部802の処理は終了である。
【実施例2】
【0045】
実施例2では、抽出マッチング部109の処理に一部追加を加えることにより複数バンクOD行列113の推定精度向上の効果を見込むものである。推定部の処理は実施例1と同様のため、説明を省略する。
【0046】
抽出マッチング部109の処理を
図11を用いて説明する。
図11の処理では、実施例1の
図4に示す処理と比べて、データ分離部1100およびデータ調整部1101を追加している。その他の、合成部401、抽出部402、マッチング部403に関しては実施例1と処理内容が同等のため、説明を省略する。
【0047】
データ分離部1100の内容を説明する。データ分離部1100では、新たに入力として加える乗り継ぎ階における離脱人数および発生人数をあらかじめ各バンクのバンク内OD行列から差し引きすることで、乗り継ぎ階において、乗り継ぎを行う人とそうでない人を分ける処理をする。以下では例を用いてその処理内容を説明する。合成部401の結果、
図12の1200、1201のようなデータが得られたとする。また、乗り継ぎ階3階における時区間08:00〜08:05での離脱人数は6人、発生人数は4人というデータが与えられたとする。データは乗り継ぎ階に展望台や店がある場合は、それらから得られるデータを用いればよい。
【0048】
まず離脱人数の配分を行う。離脱人数6人が関わる可能性があるのは、バンク1、バンク2のOD行列において、3階を降車階としているデータである。
図12においてはデータ1202、1203、1208、1209がこれに該当する。このデータの比に基づき、離脱人数を配分する。すなわち、12人:6人:0人:0人という比に基づき、離脱人数6人を4人:2人:0人:0人と割り振る。割り振った離脱人数はバンク内ODデータ1200、1201から差し引き、
図13のデータ1301、1302のように乗り継ぎ非関連ODデータ111として出力する。
【0049】
同様の処理を発生人数に関しても行う。発生人数の割り振りでは、乗り継ぎ階3階を乗車階としているODデータに着目する。
図12ではデータ1204、1205、1206、1207がこれに該当する。このデータの比0人:0人:4人:12人に基づき、乗車人数4人を0人:0人:1人:3人と配分する。配分した乗車人数はバンク内ODデータ1200、1201から差し引き、
図13のデータ1303、1304のように乗り継ぎ非関連ODデータ111として出力する。
【0050】
以上の処理を終えると、バンク1、バンク2のOD行列として、
図14の行列1400、1401が得られる。これらのバンク内OD行列における乗り継ぎ階のODデータ1402、1403、1404、1405、1406、1407、1408、1409は、乗り継ぎ階での離脱数1301、1302や発生数1303、1304を抜いたものとなっているため、すべて乗り継ぎに関わるデータとして処理することができる。データ分離部1100の処理は以上である。
【0051】
この処理により、最終的に得られる複数バンクOD行列113は乗り継ぎ階におけるODデータも持つことになる。したがって、乗り継ぎ階に展望台や店などがあり、乗り継ぎ階ですべての人が直ちに乗り継ぎを行わないような場合に、複数バンクOD行列113の推定精度が向上すると考えられる。データ分離部1100の説明は以上である。
【0052】
次に、データ調整部1101について説明する。データ調整部1101では新たに入力として加える各バンクの一周平均時間を参考に、乗り継ぎ階での出発ODデータ707の値を調節する。具体的には、一周平均時間が各ODデータの持つ時区間に占める割合だけ、出発ODデータ707の値を前の時区間に移行させる。このようにすることで、乗り継ぎ移動に関する人の発生を正しい時区間に分類できる確率が上がり、エレベーターを乗り継ぐ移動のODデータ908の推定精度が向上すると期待される。
【0053】
以下では数値的な例を用いてその処理を説明する。マッチング部403終了時点で、
図15のデータ1502、1503、1504、1505が得られたとする。時区間データ1500、1501から読み取れる通り、08:00-08:05と08:05-08:10の二つの時区間でそれぞれ到着ODデータ1502、1504と出発ODデータ1503、1505が割り当てられたものである。ここで、バンク1の一周平均時間が1分と与えられた場合、08:05-08:06に乗り継ぎ階である3階を出発した利用者はその1分前である08:04-08:05に1階や2階に出現していたと考えられる。ODデータは発生時刻を基準に推定するため、このような利用者のデータは08:00-08:05の時区間に分類しなおす必要がある。
【0054】
したがって、08:05-08:10の時区間の出発ODデータ1505に関して、一周平均時間1分がODデータの時区間5分に占める割合1/5だけ前の時区間である08:00-08:05の出発ODデータ1503に移行させる。この処理を施したものが、
図16である。出発ODデータ1603、1605を見ると読み取れるように、08:05-08:10のデータの1/5が08:00-08:05のデータに移行されている。
【0055】
これにより、各乗り継ぎ移動における出発時刻をより正確に捉えた状態でエレベーターを乗り継ぐ移動のODデータ推定が行えると考えられる。調整後の到着ODデータおよび出発ODデータの組を乗り継ぎ関連ODデータ110として推定ステップ112に出力することでデータ調整部による処理は終了である。以上がデータ調整ステップの説明である。