特許第6925237号(P6925237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925237
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   A01D 34/64 20060101AFI20210812BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   A01D34/64 A
   F16H7/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-209334(P2017-209334)
(22)【出願日】2017年10月30日
(65)【公開番号】特開2019-80514(P2019-80514A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】柴田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】高岡 将樹
(72)【発明者】
【氏名】籠 樹
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−021331(JP,U)
【文献】 カナダ国特許出願公開第01241213(CA,A1)
【文献】 特開平08−172839(JP,A)
【文献】 特開2013−207845(JP,A)
【文献】 特開2005−068743(JP,A)
【文献】 米国特許第05346018(US,A)
【文献】 登録実用新案第3043772(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/00 − 43/077
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体フレームの前部に原動部が備えられ、
その原動部の前端側に、出力軸部を機体前方に向けたエンジンが設けられ、
前記出力軸部と、PTO軸の入力部と、にわたって伝動ベルトを巻回してある作業機であって、
前記出力軸部に、前記伝動ベルトを巻回した出力プーリへの動力伝達を断続する電磁クラッチが設けられ、
前記電磁クラッチが、前記伝動ベルトよりも機体前側の前記出力軸部の軸端部に設けられ、
前記電磁クラッチに対する導電用のハーネスが、前記伝動ベルトよりも機体後方側の電力供給部から、前記伝動ベルトの巻回範囲の外側を迂回して、前記電磁クラッチの機体前方側から挿抜可能に接続されている作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体フレームの前部に原動部が備えられ、その原動部の前端側から外部出力用の動力を取り出して、機体後方側へ導くようにPTO軸を備えた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原動部の前端側から外部出力用の動力を取り出して、機体後方側へ導くようにした作業車としては、次のような技術がある。
機体フレームの前部に原動部が備えられ、その原動部に備えたエンジンの前側の出力プーリと、下方位置に備えたPTO軸の入力プーリとにわたって伝動ベルトを巻回し、エンジン動力が伝動ベルトを介してPTO軸に伝達されるように構成したもの(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−284112号公報(段落番号「0019」、「0020」、図4、5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載の作業機においては、機体前部の原動部よりも前方側からPTO軸への動力を導出できるので、簡単な伝動構造で、かつメンテナンス作業も行い易いところの、PTO軸への動力伝達構造を得やすい点で有用である。
しかしながら、この構造のものでは、PTO軸の入力プーリからPTO軸への伝動箇所に、PTO軸への動力の断続を行うための油圧操作式の作業クラッチが設けられていたので、次のような問題があった。つまり、PTO軸への動力伝達構造を機体前部に設けた場合、油圧操作式の作業クラッチが機体後方側の圧油の供給源から遠くに離れて位置することになり、圧損が増大することによる動力ロスを招く傾向がある。また、PTO軸への伝動が不要である場合に、作業クラッチが切り操作されても、出力プーリとPTO軸の入力プーリとにわたって掛け渡された伝動ベルト自体は回転され続けるので、ベルトの損耗による耐久性低下を避けられない、という点で改善の余地がある。
また、上記のような油圧操作式の作業クラッチに限らず、テンションプーリを用いた手動操作式のクラッチ体を備えた構造のものにおいても、エンジン側の出力プーリからPTO軸の入力プーリへの伝動ベルトと、駆動回転する前記出力プーリ又は従動側の入力プーリと、の間での相対回転が生じるので、同様にベルトの損耗による耐久性低下は避けられない。
【0005】
本発明は、作業クラッチの配置による動力ロスの発生を回避するとともに、動力伝達機構で用いられる伝動ベルトの損耗を低減させて耐久性の向上を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における作業機は、機体フレームの前部に原動部が備えられ、その原動部の前端側に、出力軸部を機体前方に向けたエンジンが設けられ、前記出力軸部と、PTO軸の入力部と、にわたって伝動ベルトを巻回してある作業機であって、前記出力軸部に、前記伝動ベルトを巻回した出力プーリへの動力伝達を断続する電磁クラッチが設けられ、前記電磁クラッチが、前記伝動ベルトよりも機体前側の前記出力軸部の軸端部に設けられ、前記電磁クラッチに対する導電用のハーネスが、前記伝動ベルトよりも機体後方側の電力供給部から、前記伝動ベルトの巻回範囲の外側を迂回して、前記電磁クラッチの機体前方側から挿抜可能に接続されている、という特徴構成を有している。
【0007】
本発明によれば、機体前部に設ける動力伝達機構の作業クラッチとして、電磁クラッチを採用したものであるから、圧油供給源の存在位置に関係なく機体前部に配設してメンテナンス等の作業性を向上させながらも、作業クラッチとして油圧操作式のクラッチを採用した場合のような圧損による動力ロスを生じさせる虞少なく、効率の良い作業を行うことができる。
そして、その作業クラッチの存在位置がエンジンの出力軸部であるため、PTO軸への動力伝達が不要である場合に、作業クラッチを切り操作すると、出力プーリの回転も止められる。このため、出力プーリやPTO軸の入力部に対する伝動ベルトの相対回転をなくして、伝動ベルトの摩耗が発生することを回避でき、耐久性の向上を図り得るものである。
【0008】
【0009】
また、本構成によれば、各種伝動関連機器が錯綜する伝動ベルトの巻回範囲から外れた位置であるところの、伝動ベルトの巻回範囲の外側を迂回して、機体前方側から挿抜可能であり、動力伝達機構のメンテナンス作業に関連した導電用のハーネスの脱着作業等をも簡便に行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】乗用型草刈機の全体側面図である。
図2】動力取り出し機構を示す正面図である。
図3】動力取り出し機構の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面の記載に基づいて説明する。
尚、本実施形態での説明における前後方向及び左右方向は、特段の説明がない限り、次のように記載している。つまり、本発明を適用した作業機の作業走行時における前進側の進行方向(図1における矢印F参照)が「前」、後進側への進行方向(図1における矢印B参照)が「後」、その前後方向での前向き姿勢を基準としての右側に相当する方向が「右」、同様に左側に相当する方向が「左」である。
【0012】
〔乗用型草刈機の全体構成〕
図1には作業機の一例である乗用型草刈機の全体側面が示されている。この乗用型草刈機は、走行機体1における機体フレーム10の前側に左右一対の操向操作自在な前輪11,11を備え、後側に左右一対の駆動自在な後輪12,12を備えて自走するよう構成されている。
機体フレーム10の下方で、前後方向における前輪11と後輪12の間に、リヤディスチャージ型式のモアー装置4が昇降操作可能に吊り下げ装着されている。その走行機体1の後方側に、モアー装置4で刈り取られた刈草を収容する集草装置5が設けられている。
【0013】
図1及び2に示すように、走行機体1の機体フレーム10上には、その前部に原動部2が設けられ、原動部2の後部側に搭乗運転部3が設けられている。
原動部2では、エンジン20が、エンジンボンネット21に内装された状態で機体フレーム10に搭載されている。エンジン20の後方側から取り出された動力が主伝動軸22を介して後方位置のミッションケース23に入力され、ミッションケース23内で変速された動力が後輪12の駆動系等へ出力される。
【0014】
エンジン20の前方側からは、作業用の動力が取り出し可能に構成されている。つまり、エンジン20の前側に、ベルト伝動機構によって構成された動力取り出し機構6が設けられ、この動力取り出し機構6に備えたPTO軸25を介して、エンジン20の動力がモアー装置4に伝達されている。
【0015】
原動部2の後方側における搭乗運転部3には、エンジンボンネット21の後方側に連なる操縦パネル30、及びステアリングホイール31等を備えた操縦部3Aが設けられている。そして、操縦部3Aの後方側には、足元に位置する搭乗ステップ32の上側に運転座席33が設置され、その運転座席33の後部箇所にロプス34が立設されている。
【0016】
ロプス34は正面視で門形に形成され、機体フレーム10の後端部に一体に備えた左右一対のロプスベース(図示せず)に対して、左右両側における柱状脚部34a,34aの下端側が連結固定されている。左右の柱状脚部34a,34aの上端部側は門形の上部枠34bで連結され、運転座席33の上方側を覆う状態に設けられている。
【0017】
機体フレーム10の前部には、機体前部の保護部材となるガードフレーム10Aが設けられている。
このガードフレーム10Aには、複数個のバランスウェイトを装着可能な、バランスウェイト取付部14が、設けられている。
【0018】
〔モアー装置〕
モアー装置4は、前リンク13a及び後リンク13bの対を左右両側に備えたリンク機構13を介して、機体フレーム10に対して昇降可能に吊り下げ支持されたハウジング40を備えている。
リンク機構13のうち、前リンク13aの上端部には、モアー昇降シリンダ43が連結されている。このモアー昇降シリンダ43の伸縮作動に伴ってハウジング40の機体フレーム10に対する上下高さ位置を変更することができる。
【0019】
ハウジング40内には、左右一対の回転ブレード41,41が配設されている。各回転ブレード41は、上下軸心回りに回転し、その回転軌跡の一部が互いに重複した状態で、等速回転駆動されることにより、草類の刈り取りを行うとともに、その回転運動で生起される搬送風によって、ハウジング40の後部に形成された排出口から刈草を後方へ向けて排出するように構成されている。
【0020】
〔集草装置〕
図1及び図2に示されるように集草装置5は、刈草を収容する集草容器50と、その集草容器50を走行機体に対して昇降作動及び刈草排出作動が可能であるように操作する昇降駆動機構51とを備えている。
集草容器50は、モアー装置4側から搬送ダクト42を介して供給される刈草を受け入れる受入口(図示せず)を前端側に備え、後端側に排出用の排出口50aと、その排出口50aを覆う開閉蓋50bとを備えている。
【0021】
昇降駆動機構51は、走行機体1の後方側に設けられたロプス34に対して集草容器50を連結する昇降リンク52と、その昇降リンク52をロプス34に対して昇降作動させるリフトシリンダ53(油圧アクチュエータに相当する)と、昇降リンク52に対する集草容器50の姿勢を、水平に近い回収姿勢の状態から後下がりの後傾姿勢に変更して、集草容器50の開閉蓋50bを開閉作動させるためのダンプシリンダ54(油圧アクチュエータに相当する)とを備えている。
昇降リンク52は、左右一対のアッパーリンク52aと、左右一対のロアーリンク52bとを備え、各アッパーリンク52aとロアーリンク52bの前端側がロプス34の上部に着脱可能に連結され、後部側が集草容器50の後端側近くの下部に連結されている。そして、油圧シリンダで構成されているリフトシリンダ53の上端部はロアーリンク52bに対して連結され、リフトシリンダ53の伸縮作動によって、昇降リンク52が揺動し、集草容器50の昇降作動が行われる。
【0022】
油圧シリンダで構成されたダンプシリンダ54は、集草容器50の後端側の下方に配置されている。このダンプシリンダ54の伸縮作動によって、集草容器50をひっくり返すように後傾させた排出姿勢と、水平に近い状態の回収姿勢と、に切り換え操作することが可能であるように、ダンプシリンダ54の一端部を周知のダンプ操作機構(図示せず)に連結させている。
上記のリフトシリンダ53及びダンプシリンダ54も左右一対備えられていて、左右で同時作動するように油圧回路に配備されている。
【0023】
〔動力取り出し機構〕
動力取り出し機構6は次のように構成されている。
図1及び図2に示されるように、動力取り出し機構6は、エンジン20の前側から前向きに延出された前出力軸24(出力軸部に相当する)に外嵌する出力プーリ60(出力軸部に相当する)と、機体フレーム10よりも低い位置に設けたPTO軸25と一体に回転する入力プーリ61と、アイドラー62と、前記出力プーリ60、入力プーリ61、及びアイドラー62に亘って巻回された伝動ベルト63と、前記前出力軸24の前端部を支持する電磁クラッチ7と、を備えている。
【0024】
出力プーリ60は、前出力軸24にボールベアリング24aを介して相対回転自在に枢支されている。入力プーリ61は、機体固定部に軸受支持されたPTO軸25の軸端側に支持されている。
アイドラー62は、機体固定部に揺動可能に取り付けられた揺動アーム64の端部で、支軸65に支持されている。揺動アーム64は、前後軸心p1回りで左右揺動可能に、かつ調節ロッド66により、揺動角度位置を変更調節可能に構成されている。この揺動アーム64の揺動角度が変更されることにより、アイドラ−62の位置が変更され、伝動ベルト63の張り状態を変更することができる。
【0025】
図3に示すように、電磁クラッチ7は、外部ケースを兼ねるフィールド70と、フィールド70に内装されたコイル71と、前出力軸24と一体に回動するロータ72と、アーマチュア73と、を備え、アーマチュア73が入力プーリ61に回転動力を伝達可能に連係されている。
フィールド70は、機体フレーム10側から連設された固定ブラケット15によって回り止め状態で支持されている。また、フィールド70の下部に入力端子70aが設けられ、この入力端子70aに、導電用のハーネス74の接続端子74aが挿抜可能に接続されている。このハーネス74は、伝動ベルト63よりも機体後方側のバッテリ(図示せず;電力供給部に相当する)から、伝動ベルト63の巻回範囲の外側を迂回し、その接続端子74aが、機体前方側の下方から入力端子70aに挿抜可能であるように配設されている。
【0026】
この構造によれば、コイル71が励磁されることにより、アーマチュア73が磁気によってロータ72に吸着され、ロータ72と一体に回転駆動される。アーマチュア73の回転は、板バネ75及び連結部材76を介して、その連結部材76と一体の入力プーリ61に伝達される。これにより、エンジン20の動力が、動力取り出し機構6を介してPTO軸25に伝達されるクラッチ入り状態となり、モアー装置4が駆動される。
コイル71への励磁が解除されると、アーマチュア73は板バネ75によってロータ72から離れる側に操作され、前出力軸24から入力プーリ61への動力伝達が断たれたクラッチ切り状態となる。このとき、入力プーリ61が回転を停止した状態となるので、伝動ベルト63も回動されず、伝動ベルト63が常時回転を継続するような場合に比べて摩耗の進行を抑制できる。
【0027】
〔別実施形態の1〕
実施の形態では、電磁クラッチ7を、エンジン20から機体前方側へ突出する前出力軸24に対して、出力プーリ60よりも機体前方側へ配設した構造のものを例示したが、この構造に限られるものではなく、例えば、出力プーリ60よりも機体前方側へ配設した構造のものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0028】
〔別実施形態の2〕
実施の形態では、出力軸部として、エンジン20から機体前方側へ突出する前出力軸24と、前出力軸24に外嵌させた出力プーリ60との組み合わせで構成された構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限られるものではない。
例えば、図示はしないが、エンジン20から機体前方側へ突出する前出力軸24とは別の回転軸に出力プーリ60を嵌合させ、前出力軸24と回転軸とをギヤ連動など、適宜の連動手段で連動させるようにしてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0029】
〔別実施形態の3〕
実施の形態では、動力取り出し機構6の伝動ベルト63を、出力プーリ60と、入力プーリ61と、アイドラー62と、の三者を巻回する状態で設けたものであるが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。例えば、伝動ベルト63を、出力プーリ60と、入力プーリ61とに掛張し、伝動ベルト63の巻回範囲の外側から、別途テンションプーリを設けるなど、適宜の構造を採用することができる。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0030】
〔別実施形態の4〕
実施の形態では、導電用のハーネス74を、伝動ベルト63の巻回範囲の外側を迂回して設けた構造のものを示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではなく、例えば、伝動ベルト63の巻回範囲の内側を通して電磁クラッチ7に挿抜できるようにしてもよい。
また、導電用のハーネス74は、それ自身がある程度の保形性を有していて、伝動ベルト63との干渉を避けられるようにしているものであるが、より確実性を増すために、ハーネス74の内部に形状を維持し易い何らかの補強部材を挿入するなどして、位置保持し易く構成したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、作業機として例示した乗用型草刈機に限らず、トラクタや運搬車など、動力取り出し機構を機体前部に配置可能な各種のものに適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 走行機体
2 原動部
6 動力取り出し機構
7 電磁クラッチ
10 機体フレーム
20 エンジン
24,60 出力軸部
25 PTO軸
63 伝動ベルト
図1
図2
図3