特許第6925245号(P6925245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タイガースポリマー株式会社の特許一覧

特許6925245組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物及び組電池の耐火断熱部材
<>
  • 特許6925245-組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物及び組電池の耐火断熱部材 図000003
  • 特許6925245-組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物及び組電池の耐火断熱部材 図000004
  • 特許6925245-組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物及び組電池の耐火断熱部材 図000005
  • 特許6925245-組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物及び組電池の耐火断熱部材 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925245
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物及び組電池の耐火断熱部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/293 20210101AFI20210812BHJP
   H01M 50/291 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/143 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/278 20210101ALI20210812BHJP
   H01M 50/282 20210101ALI20210812BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20210812BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20210812BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20210812BHJP
【FI】
   H01M50/293
   H01M50/291
   H01M50/107
   H01M50/121
   H01M50/124
   H01M50/143
   H01M50/204 401F
   H01M50/278
   H01M50/282
   C08L81/02
   C08K5/524
   H01M10/658
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-231415(P2017-231415)
(22)【出願日】2017年12月1日
(65)【公開番号】特開2019-102253(P2019-102253A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島 嗣典
(72)【発明者】
【氏名】江草 史典
【審査官】 川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−211907(JP,A)
【文献】 特開2011−238374(JP,A)
【文献】 特開昭62−275158(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/090751(WO,A1)
【文献】 特表2016−519010(JP,A)
【文献】 特開2017−179194(JP,A)
【文献】 特開2006−257118(JP,A)
【文献】 特開2007−031707(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20−50/298
H01M 50/40−50/497
H01M 50/00−50/198
C08L 81/02
C08K 5/524
H01M 10/658
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の2次電池セルを含む組電池において、2次電池セルの一つが発火した際に周囲への火炎や熱の到達を抑制するための耐火断熱構造に使用される樹脂組成物であって、
樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含むと共に、
ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、亜リン酸アルミニウムを50〜300重量部含み、
かつ、樹脂組成物が絶縁性である、
組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物は、さらに、臭素系難燃剤もしくはフッ素系樹脂を含む、
請求項1に記載の組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂組成物は、さらに、補強繊維を含む、
請求項1もしくは請求項2に記載の組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物により形成された、
組電池の耐火断熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の2次電池セルを含む組電池の耐火断熱構造に用いられる樹脂組成物に関する。また、本発明は、組電池に用いられる耐火断熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
2次電池などの電池セルを複数組み合わせた組電池が、多様な用途、例えば、携帯型の電子機器や、電動自転車、ハイブリッド自動車や電気自動車等に使用されている。2次電池セルは電気エネルギを高密度で蓄えているため、破損等により短絡したりすると異常発熱して発火し、火災となることがある。また、組電池において2次電池セルの1つが発火すると、発生する高熱により隣接する2次電池セルが加熱されて、連鎖的に発火し類焼することが起こりうる。
【0003】
組電池における類焼を防止するために、2次電池セルの間に耐火性の隔壁を設ける技術が知られている。たとえば、特許文献1では、マイカ等の耐火材料により2次電池セルの間に耐火壁を設けた隔壁構造が開示されており、かかる隔壁構造により他の電池セルに対する類焼を防ぎうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−218210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるマイカやセラミクス等による耐火壁は、加工性や成形性に劣り、組電池への適用が難しい場面も多い。そこで、成形性等に優れる樹脂組成物により特許文献1のような耐火壁が構成できないかどうかが検討されるに至った。
【0006】
しかしながら、組電池に使用する耐火構造部材は、短時間ではあるが500℃を越える高温のガスや炎にさられることもあり、樹脂組成物によりこのような高温に耐えて部材の形状を維持することは難しいと考えられていた。
【0007】
また、建物の耐火構造等においては、樹脂組成物に熱膨張性黒鉛を含有させることにより、耐火性及び断熱性が高められることが知られているが、熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物は火炎に曝されて膨張すると導電性を示すため、絶縁性が要求される組電池への適用ははばかられる。
【0008】
本発明の目的は、絶縁性であり、かつ、2次電池セルの一つが発火した際に、部材の形状を維持しながら耐火性と断熱性を発揮し、周囲への火炎や熱の到達を抑制可能な、組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物や耐火断熱部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、鋭意検討の結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂に亜リン酸アルミニウムを特定割合で配合すると、電池火災時の火炎や熱の到達を抑制可能な樹脂組成物となりうることを知見し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、複数の2次電池セルを含む組電池において、2次電池セルの一つが発火した際に周囲への火炎や熱の到達を抑制するための耐火断熱構造に使用される樹脂組成物であって、樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含むと共に、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、亜リン酸アルミニウムを50〜300重量部含み、かつ、樹脂組成物が絶縁性である、組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物である(第1発明)。
【0011】
第1発明において、好ましくは、樹脂組成物は、さらに、臭素系難燃剤もしくはフッ素系樹脂を含む(第2発明)。また、第1発明において、好ましくは、樹脂組成物は、さらに、補強繊維を含む(第3発明)。
【0012】
また、本発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかに記載の組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物により形成された、組電池の耐火断熱部材である(第4発明)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物(第1発明)によれば、2次電池セルの一つが発火した際には高温にさらされた樹脂組成物が膨張しながら固化し、耐火性と断熱性を備える層を形成する。また、部材等の形状もおおむね維持される。したがって、樹脂組成物により周囲への火炎や熱の到達を抑制することができる。また、本発明の樹脂組成物は、成形性に優れると共に絶縁性であり、組電池周辺への使用に適している。
【0014】
さらに、第2発明のように、臭素系難燃剤もしくはフッ素系樹脂を含むようにした場合には、加熱された樹脂組成物から発生するガスを不燃化もしくは難燃化することができ、周囲への火炎の到達をより確実に予防できる。
また、第3発明のように、補強繊維を含むようにした場合には、加熱された際にも元の形状が特に維持されやすくなり、火炎や熱の伝達がより確実に抑制できる。
【0015】
また、第4発明のように、上記樹脂組成物により形成した耐火断熱部材は、組電池に適した絶縁性や耐火断熱性を備え、効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の樹脂組成物により形成された耐火断熱部材を、組電池のカバーに適用した使用例を示す断面図。
図2】第1実施形態の樹脂組成物により形成された筒状の耐火断熱部材により、組電池を構成する2次電池セルを取り囲むようにした使用例を示す断面図。
図3】第1実施形態の樹脂組成物により形成された波板状の耐火断熱部材を、2次電池セルが挟持するセパレータとして使用した例を示す断面図。
図4】耐火断熱部材の評価試験の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照しながら、複数の2次電池セルを含む組電池に使用される樹脂組成物や耐火断熱部材の例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0018】
第1実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分としてポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。また樹脂組成物は、亜リン酸アルミニウムを含む。
【0019】
樹脂組成物の樹脂成分としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の樹脂が含まれていてもよいが、耐火性を向上させる観点からは、ポリフェニレンスルフィド樹脂が主体とされることが好ましい。
【0020】
樹脂組成物に含まれる亜リン酸アルミニウムの配合量は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、亜リン酸アルミニウムを50〜300重量部である。亜リン酸アルミニウムが100〜280重量部であることが好ましく、150〜250重量部であることが特に好ましい。亜リン酸アルミニウムが所定量配合されることにより、樹脂組成物が加熱された際に、樹脂組成物が膨張して耐火性と断熱性を有する層が形成されうる。亜リン酸アルミニウムとしては、例えば、太平化学産業株式会社の「APA−100」等が使用できる。亜リン酸アルミニウムの膨張温度が380℃〜480℃であり、10倍以上の膨張率を有するものが好ましい。
【0021】
樹脂組成物は絶縁性である。ポリフェニレンスルフィド樹脂に亜リン酸アルミニウムを配合した樹脂組成物は絶縁性であり、加熱されて膨張しても絶縁性を維持する。したがって、樹脂組成物に導電性を有する他の物質を配合しなければ、樹脂組成物は絶縁性になる。樹脂組成物を絶縁性にするため、樹脂組成物は熱膨張性黒鉛や金属粉、金属繊維を含まないことが好ましい。
【0022】
樹脂組成物は、さらに、臭素系難燃剤もしくはフッ素系樹脂を含むことが好ましい。これらの好ましい配合量は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、5重量部〜50重量部である。
【0023】
また、樹脂組成物は、さらに、補強繊維を含むことが好ましい。補強繊維としては難燃性の繊維が好ましく、例えば、ガラス繊維やアラミド繊維、シリカ繊維、バサルト繊維などが例示される。補強繊維は、導電性を有さない繊維、例えばガラス繊維やアラミド繊維であることが特に好ましい。補強繊維の好ましい配合量は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、10重量部〜80重量部である。
【0024】
上記実施形態の樹脂組成物は、溶融させたポリフェニレンスルフィド樹脂に所定量の亜リン酸アルミニウムや他の配合材料等を混練することにより製造することができる。
【0025】
上記実施形態の樹脂組成物は、複数の2次電池セルを含む組電池において、2次電池セルの一つが発火した際に周囲への火炎や熱の到達を抑制するための耐火断熱構造に使用することができる。たとえば、上記実施形態の樹脂組成物を射出成形して、組電池用の耐火断熱部材を製造し、組電池周りの耐火断熱部材として使用できる。あるいは、上記実施形態の樹脂組成物を板状もしくは棒状に押出成型して、組電池用の耐火断熱部材を製造し、組電池周りの耐火断熱部材として使用できる。成形の具体的方法は特に限定されない。
【0026】
上記実施形態の樹脂組成物により形成された組電池用の耐火断熱部材は、火炎等に曝されて加熱された際に、所期の形状をあまり崩すことなく、配合された亜リン酸アルミニウムが膨張し、耐火性と断熱性を示す。特に、2次電池セルが複数組み込まれた組電池において、短絡等により2次電池セルの一つが異常発熱して発火した場合などに、火災が他の2次電池セルに類焼したり、組電池のケースなどが溶損・発火したりすることを抑制する。
【0027】
上記実施形態の樹脂組成物により形成された組電池用の耐火断熱部材の組電池における使用形態の例について、以下に具体的に説明する。
【0028】
図1は、第1実施形態の樹脂組成物により形成された組電池用の耐火断熱部材1を組電池のカバーに適用した使用例を示す断面図である。図1の例では、略直方体状の形状を有する電池集合体40が、金属製(鉄製やアルミニウム製)のケース32の中に配置されて組電池が構成されている。電池集合体40は複数の2次電池セルを含んでいる。ケース32の開口部を覆うように合成樹脂製のカバー31が設けられ、ケース32とカバー31の中に、電池集合体40が収容されている。上記第1実施形態の樹脂組成物により形成された組電池用の耐火断熱部材1は、平板状に形成されていて、カバー31の内側を覆うように、カバー31に一体化されている。耐火断熱部材1の成形は、射出成形や押出成型により行うことができる。
【0029】
電池集合体40に火災が発生し、火炎や熱が樹脂製のカバー31に達すると、カバー31が溶損したり発火するおそれがあるが、耐火断熱部材1が設けられることにより、カバーに伝わる熱を耐火断熱部材1により抑制し、カバー31の溶損や発火を抑制できる。
この場合、図示しないが、耐火断熱部材1を覆うように、ポリイミド樹脂フィルムを組電池に面するように積層して設けてもよく、火炎の遮蔽をより確実に行う上で好ましい。ポリイミドフィルム等は、火炎等に曝されても、連続した面を維持するので、火炎の透過の抑制に貢献する。
【0030】
耐火断熱部材1は、樹脂製のカバー31の内面全体を覆うように設けられることが好ましいが、電池集合体において異常発熱する箇所や発火する箇所、火炎が生ずる箇所が特定の箇所に限定できるのであれば、そうした箇所のみを覆うように耐火断熱部材1を設けてもよい。また、平板状の耐火断熱部材1の厚みは一定である必要はなく、火炎の噴出が予測される箇所や、過熱して膨張する電池集合体40に直接接触しやすい箇所を比較的厚く形成し、他の箇所を比較的薄く形成するようにしてもよい。
【0031】
なお、この実施形態のように、ケース31が金属製とされていて火災や伝熱等の問題が生じないのであれば、ケース31と電池集合体40の間には、耐火断熱部材1を設ける必要はない。ケース31の外周面に近接して電子機器などが配置されるような場合には、そうした部位では、ケース31と電池集合体40の間にも耐火断熱部材1を設けて、熱の伝達を抑制することが好ましい。要するに、電池集合体40とケース32もしくはカバー31の間で、断熱や火炎の遮断が必要な部位に、耐火断熱部材1を設ければよい。
【0032】
図2は、第1実施形態の樹脂組成物により形成された組電池用の耐火断熱部材11、11を2次電池セルの間の断熱に適用した使用例を示す断面図である。この実施形態の例では、円筒状の2次電池セル41,41が並んで配置され、これら複数の2次電池セル41,41が対をなすカバー部材51,52により収容されている。
【0033】
この実施形態においては、上記実施形態の樹脂組成物を円筒状に押出成形して、耐火断熱部材11、11が製造され、使用に供される。なお、このような耐火断熱部材を射出成形を利用して製造してもよい。耐火断熱部材11、11の内側に2次電池セル41,41のそれぞれが収容された状態で、これら2次電池セルがカバー部材51,52の中に配置されている。
【0034】
このような構成であれば、2次電池セル41の1つが異常発熱したり発火したりしても、その2次電池セルの周囲に設けられた筒状の耐火断熱部材11、11が膨張して耐火断熱層となることにより、火炎や熱が隣接する他の2次電池に伝達されることが抑制されて、組電池中の2次電池セルの類焼を抑制できる。
耐火断熱部材11,11は、2次電池セル41,41が互いに近接する部分で比較的厚く、他の箇所で比較的薄く形成されていることが好ましい。
【0035】
また、電池から吹き出す火炎を遮断すると共に、酸素の供給を断って火炎の発生を抑制するとの観点からは、本実施形態のように、耐火断熱部材11が、2次電池セル41の外周面に密着するように配置されることが好ましい。
【0036】
なお、この実施形態では、耐火断熱部材11,11を、それぞれの2次電池セル41の周囲を取り囲むように円筒状に形成しているが、これは必須ではなく、類焼や異常発熱の連鎖が予防できるのであれば、耐火断熱部材11,11は、互いに隣接する2次電池セル41,41の間を遮断するように設けられていれば良く、例えば、特許文献1における耐火材63と同様の形状や配置で板状に設けられていてもよい。
【0037】
図3には、第1実施形態の樹脂組成物により形成された組電池用の耐火断熱部材13,13を、2次電池セル42,42の間に配置されるセパレータ部材として用いた例を示す。図3の例において、耐火断熱部材13,13は、全体が折れ曲がった波板状に形成されている。このような耐火断熱部材は、射出成形を利用して成形することができる。この凹凸折り曲げ構造により、電池の間に冷却風を流すことができる。2次電池セル42の一つに火災等が生じた場合には、耐火断熱部材13,13が膨張して、隣接する他の2次電池セルへの火炎や熱の伝播を抑制し、2次電池セルの類焼が抑制される。
【0038】
上記実施形態の樹脂組成物の作用及び効果について説明する。
組電池中の2次電池の一つが発火したような場合のように、樹脂組成物が炎や高温の物質に接触するなどして、樹脂組成物が加熱されると、ポリフェニレンスルフィド樹脂と亜リン酸アルミニウムを含む樹脂組成物が膨張して、耐火性と断熱性を発揮する。樹脂組成物に含まれる亜リン酸アルミニウムは加熱により分解し、新たなリン酸塩となって結晶化することにより膨張する。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂に亜リン酸アルミニウムが所定量配合されることにより、樹脂組成物が高温にさらされても、引火や発火をしにくくなると共に、所期の形状が維持される。この作用により、加熱された樹脂組成物は形状があまり崩れることなく、耐火性を有する断熱層として機能する。樹脂組成物が十分に耐火断熱性や形状維持性を発揮するよう、樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し亜リン酸アルミニウムを50重量部以上含む。この観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対する亜リン酸アルミニウムの配合量は150重量部以上であることが特に好ましい。
【0039】
また、上記実施形態の樹脂組成物は絶縁性であり、加熱され、膨張した後においても、絶縁性が維持され、2次電池セルを含む組電池の火災の発生や拡大の抑制に特に適している。また、上記実施形態の樹脂組成物は、樹脂の成型方法、例えば射出成形や押出成形などを利用して、所望の形状に成形することができ、上記樹脂組成物により、所望の形状の耐火断熱部材を効率的に製造することができる。樹脂組成物が良好な成形性を有するとの観点から、樹脂組成物におけるポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対する亜リン酸アルミニウムの配合量は300重量部以下である。同様の観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対する亜リン酸アルミニウムの配合量は250重量部以下であることが好ましい。
【0040】
発火した2次電池から周囲への火炎の到達をより確実に抑制するとの観点からは、樹脂組成物が臭素系難燃剤もしくはフッ素系樹脂を含むことが好ましい。これらを配合した場合には、加熱された樹脂組成物から発生するガスを不燃化もしくは難燃化することができ、樹脂組成物に由来して火炎が発生することが未然に抑制されるからである。
【0041】
好ましい臭素系難燃剤としては、例えば、ポリ臭素化ビフェニル(PBB)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)、; 2,4,6-トリブロモフェノール(TBP)などが例示される。
好ましいフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などが例示される。
【0042】
また、樹脂組成物が補強繊維を含むようにした場合には、樹脂組成物が加熱されて膨張する際に、樹脂組成物や耐火断熱部材の形状が崩れずに、所期の形状、例えば、板状や筒状の形状が確実に維持され、火炎や熱の遮断がより確実なものとなる。この観点から、補強繊維は、亜リン酸アルミニウムの膨張温度を越える500℃程度まで、繊維が焼損や溶損しない繊維、例えば、ガラス繊維やアラミド繊維、バサルト繊維などであることが好ましい。
【0043】
また、上記実施形態の樹脂組成物により形成した耐火断熱部材は、効率的に製造できると共に、組電池における2次電池の類焼防止に適している。
【0044】
類焼の予防効果を高めるためには、耐火断熱部材(1,11,13)の厚みを厚くすれば良い。2次電池セルの発火事象における火炎の発生時間は、10秒程度であることが多いので、このような用途であれば、典型的には、耐火断熱部材(1,11,13)の厚みが1mm程度であっても、類焼や隣接する2次電池の異常発熱を抑制できることが多い。
【0045】
また、上記実施形態の耐火断熱部材(1,11,13)は、複数の2次電池セルを含む電池集合体がケースとカバーの中に配置された組電池において、電池集合体とケースもしくはカバーの間を遮蔽するよう配置されることで、ケースもしくはカバーの類焼を予防でき、組電池の火災の発生や拡大が抑制される。
【0046】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0047】
上記実施形態の樹脂組成物は、他の成分、例えば、添加剤として、酸化防止剤や安定剤、充填材などを含んでいてもよい。充填材は、繊維状、板状もしくは粉粒状であってもよい。また、必要に応じて、他の添加剤として、離型剤や滑剤、着色剤、可塑剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
【0048】
実施形態の樹脂組成物により形成される耐火断熱部材の形状は、上記実施形態で説明したように、平板状や筒状など、面状に広がる形態であることが好ましい。このような面状の形態は、火炎や高温のガスの遮断性に優れている。なお、耐火断熱部材の形状は、面状を呈する形態に限定されず、棒状や粒状(ペレット状)であってもよい。このような形態の耐火断熱部材は、押出成型を利用して簡単に製造することができる。また、このような形態の耐火断熱部材は、所定の空間に並べて配置したり、所定の空間に詰め込んで配置することにより、組電池の耐火・断熱用途に利用できる。
【0049】
また、上記樹脂組成物により形成された耐火断熱部材が使用される組電池の2次電池セルの種類は、特に限定されず、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンポリマー電池等であってもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により、上記実施形態の樹脂組成物の断熱効果等を示す。表1に、各実施例、比較例の配合、並びに試験結果を示す。
【0051】
(樹脂組成物の調整及び成形)
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS:DIC株式会社製 FZ−2100)に対し、所定量の亜リン酸アルミニウム(APA:太平化学産業株式会社製 APA−100)、及びフッ素系樹脂やガラス繊維、アラミド繊維等の添加材を混練し、各実施例の樹脂組成物を得た。各成分の配合(重量部)を表1に示す。得られた樹脂組成物を射出成形して、厚み2mmの短冊状に成形して各実施例の試験サンプルとした。
同様に、ポリカーボネート樹脂(PC:三菱ケミカル株式会社製 ユーピロン(登録商標))に対し、フッ素系樹脂や亜リン酸アルミニウムを配合し、同様に試験サンプルを作成して各比較例とした。
【0052】
(実施例1及び実施例2)
実施例1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し亜リン酸アルミニウムを150重量部配合した実施例であり、実施例2は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し亜リン酸アルミニウムを250重量部配合した実施例である。
【0053】
(実施例3)
実施例3は、ポリフェニレンスルフィド樹脂80重量部に対し、フッ素系樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末)を20重量部、亜リン酸アルミニウムを150重量部配合した実施例である。
【0054】
(比較例1)
比較例1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂80重量部に対し、フッ素系樹脂を20重量部配合した比較例である。
【0055】
(実施例4及び実施例5)
実施例4は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し亜リン酸アルミニウムを150重量部配合し、さらに、ガラス繊維(繊維径11μm、繊維長3mm)を30重量部配合した実施例である。また、実施例5は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し亜リン酸アルミニウムを150重量部配合し、さらに、アラミド繊維(繊維径7μm、繊維長3mm)を30重量部配合した実施例である。
【0056】
(実施例6)
実施例6は、ポリフェニレンスルフィド樹脂80重量部に対し、フッ素系樹脂を20重量部、亜リン酸アルミニウムを150重量部配合し、さらに、ガラス繊維(繊維径11μm、繊維長3mm)を30重量部配合した実施例である。
【0057】
(比較例2)
比較例2は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し亜リン酸アルミニウムを150重量部配合した比較例である。
【0058】
【表1】
【0059】
(耐火断熱試験)
各実施例、比較例のサンプルに対し、以下のような試験を行い、耐火性と形状保持性及び断熱性を評価した。
図4に示すように、難燃性材料で構成された試験台の上に、短冊状の各試験サンプルSを、円柱形状の2次電池セルを模した金属管(直径20mm)B1,B2で挟むようにして静置した。図4は円柱状金属管の中心軸に沿って見た断面模式図である。試験サンプルSは、試験台に対し、立った状態で保持される。なお、金属管B1,B2が転がらないように、金属管の外側にウェート(図示せず)を置き、金属管の間に試験サンプルが挟まれた状態が維持されるようにした。
一方の金属管B1の中には、ヒーターHが設けられている。常温から試験を開始し、ヒーターの温度が800℃に達するまで一方の金属管B1を加熱し、試験サンプルの状況を観察した。
【0060】
(耐火性評価)
上記試験を行った際に、試験サンプルが発火するか、燃焼するかを観察して、耐火性の評価を行った。発火も燃焼もしないものを◎とし、加熱により発生するガスが一瞬発火するが持続して燃焼しないものを○とし、樹脂組成物が発火し、燃焼してしまうものを×とした。評価◎が耐火性が最も高く、評価×が耐火性が最も低い。組電池に使用する耐火断熱部材では、評価は◎もしくは○であることが求められる。
【0061】
(形状保持性評価)
上記試験を行った際に、試験サンプルが試験台に対し立った状態を維持できるかどうかを観察して、形状保持性の評価を行った。試験サンプルがまっすぐに立った状態が維持されるものを◎とし、試験サンプルがやや反るものの、倒れないものを○とし、試験サンプルが溶け落ちたり、倒れたりするものを×とした。評価◎が形状保持性が最も高く、評価×が形状保持性が最も低い。組電池に使用する耐火断熱部材では、評価は◎もしくは○であることが求められる。
【0062】
(断熱性評価)
上記試験を行った際に、金属管と金属管の間の部分で高温にさらされた試験サンプルがどのように残っているかを観察して、断熱性の評価を行った。樹脂組成物が高温にさらされて変化した耐火断熱層が厚く残っているほど断熱性が高い。試験サンプルが加熱された部分が2倍以上に膨張したものを◎とし、試験サンプルの肉厚減少がなく、厚みの膨張度合いが2倍未満のものを○とし、試験サンプルが溶け落ちたり、燃焼したりして、試験サンプルの肉厚が減少したものを×とした。評価◎が断熱性が最も高く、評価×が断熱性が最も低い。組電池に使用する耐火断熱部材では、評価は◎もしくは○であることが求められる。
【0063】
各試験サンプルでの試験結果を表1に示す。
【0064】
実施例1、実施例2と比較例1、比較例2を比較する。実施例1、2では、耐火性、形状保持性、断熱性共に、組電池用の耐火断熱部材として必要な性能評価(○もしくは◎)が得られ、これら性能を両立できている。実施例1,2では、試験後には、金属管により加熱された部分が膨張して、耐火断熱性の物質になっていた。一方、亜リン酸アルミニウムが配合されていない比較例1では、一方の金属管B1の温度が高まるに従い、試験サンプルが溶けて流れ落ちてしまい、形状保持性、断熱性の評価が×となった。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いない比較例2では、一方の金属管B1の温度が高まると、試験サンプルが発火して燃焼してしまい、耐火性、形状保持性の評価が×となった。なお、比較例2では、亜リン酸アルミニウムの残滓が所定の厚みで残ったので断熱性評価は○となっているが、耐火断熱部材自体が発火し、燃焼してしまっているので、隣接する部材に直接火炎や熱が伝わってしまうため、実質的には、断熱性評価は×である。
【0065】
この試験結果から、ポリフェニレンスルフィド樹脂と亜リン酸アルミニウムとを組み合わせ、両者を所定の配合比で混練した樹脂組成物とすることにより、耐火性、形状保持性、断熱性という、組電池の耐火断熱部材に求められる性能が両立できることが示された。また、実施例2のように、亜リン酸アルミニウムの配合が多い方が、樹脂組成物により形成される耐火断熱部材がよく膨張して耐火断熱層を形成し、断熱性が高められる。
【0066】
また、実施例3や実施例6のように、樹脂組成物にフッ素系樹脂を配合すると、樹脂組成物の樹脂成分が熱分解して発生するガスが不燃化、難燃化され、樹脂組成物が高温にさらされても、発火しにくくなり、耐火性の評価が◎になった。
【0067】
また、実施例4や実施例5、実施例6のように、樹脂組成物に補強繊維を配合すると、樹脂組成物の樹脂成分が軟化、分解する過程でも、補強繊維により、耐火断熱部材としての形状維持が助けられる。すなわち、これら実施例においては、一方の金属管が加熱されても、試験サンプルは試験台に対しほぼ直立した形状を維持したまま、耐火断熱性の物質になり、形状保持性の評価が◎になった。補強繊維が配合されていない実施例1,実施例2,実施例3では、試験サンプルにやや反りが生じ、評価は○となった。すなわち、補強繊維が配合されることにより、耐火断熱部材の所定の形状がより正確に維持されることになり、火炎や熱の遮断がより確実なものとなりうる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
組電池の耐火断熱構造用の樹脂組成物は、2次電池を含む組電池の耐火断熱構造に使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0069】
1 耐火断熱部材
31 カバー
32 ケース
40 組電池
図1
図2
図3
図4