(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925334
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/46 20060101AFI20210812BHJP
【FI】
A61F2/46
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-525457(P2018-525457)
(86)(22)【出願日】2016年11月16日
(65)【公表番号】特表2018-535763(P2018-535763A)
(43)【公表日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】GB2016053574
(87)【国際公開番号】WO2017085478
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2019年8月27日
(31)【優先権主張番号】1520467.0
(32)【優先日】2015年11月20日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509282125
【氏名又は名称】マコー サージカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント,グレアム リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ボウズ,マイケル アントニー
(72)【発明者】
【氏名】デ スーザ,ケヴィン
【審査官】
細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−518645(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/110282(WO,A1)
【文献】
特表2008−529624(JP,A)
【文献】
特表2005−501315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋骨格関節に関連する解剖学的データを生成するための、コンピュータ実施される方法であって、当該方法は、
筋骨格関節疾患によって引き起こされる対象の筋骨格関節の経時変化を表す変動データを入力として受信するステップであり、前記変動データは、前記筋骨格関節疾患によって引き起こされる前記対象の筋骨格関節の形状の経時変動の指標を含む、ステップ、
現時点における患者の前記対象の筋骨格関節を表す患者データを入力として受信するステップであり、前記対象の筋骨格関節を表す患者データは、前記患者の前記対象の筋骨格関節の形状の表示を含む、ステップ、及び
前記解剖学的データを生成するために、前記変動データ及び前記患者データを処理するステップであり、前記解剖学的データは、前記現時点と異なる所定の時点における前記患者の前記対象の筋骨格関節を示すデータを含む、ステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記筋骨格関節疾患は、変形性関節症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記解剖学的データは、前記患者の前記対象の筋骨格関節のための人工補綴物の生成に適したデータを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記変動データは、前記患者以外の個人に関連するデータのトレーニングセットに関連する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記患者の前記対象の筋骨格関節の形状の表示は、前記対象の筋骨格関節のパラメーター表現に基づく、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記患者から得られた画像データを受信すること、及び
前記パラメーター表現を生成するために前記画像データを処理すること、
によって、前記患者データを生成するステップ、
を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象の筋骨格関節の形状の表示は、前記対象の筋骨格関節の形状の複数の主成分を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記解剖学的データを生成するために、前記変動データ及び前記患者データを処理するステップは、前記変動データに基づいて前記患者データによって表示される形状を変動させることを含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変動データはベクトルを含み、前記変動データに基づいて前記患者データによって表示される形状を変動させることは、前記対象の筋骨格関節のパラメーター表現に対して前記ベクトルを適用することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象の筋骨格関節のパラメーター表現に対して前記ベクトルを適用することは、
前記患者データと平均的な形状との間の関係を決定すること、及び
決定された関係に基づいて前記患者データによって表示される形状を変動させること、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
対象の解剖学的領域は、股関節、及び膝関節から成る群から選択される身体の関節である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記解剖学的データは、前記筋骨格関節疾患の影響が低減された前記対象の解剖学的領域の表示を含む、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記解剖学的データに基づいて前記患者のための人工補綴物を製作するステップを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記変動データを生成するステップを更に含む、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記変動データを生成するステップは、
複数の対象の筋骨格関節の平均経時変化を決定すること、
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記解剖学的データは、前記患者の前記対象の筋骨格関節のために医療介入を提供することに適したデータを含む、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法をコンピュータに実行させるように構成されたコンピュータ可読な指令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項18】
請求項17に記載のコンピュータプログラムを保持する、コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
筋骨格関節に関連する解剖学的データを生成するためのコンピュータ装置であって、
プロセッサ可読な指令を保存するメモリ、及び
前記メモリに保存された指令を読み取り実行するように構成されたプロセッサ、
を有し、
前記プロセッサ可読な指令は、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法を実行するようにコンピュータを制御するように構成された指令を含む、
コンピュータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋骨格関節に関連する解剖学的データを生成するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(Osteoarthritis)(“OA”)は、関節が経時的に(with time)退化し、関節の痛み及び運動性の困難を引き起こす変性関節疾患である。人口の高齢化とともに変形性関節症は一般的になっており、英国内で約800万人、米国内で約2700万人が変形性関節症を患っている。
【0003】
OAの原因はよく理解されていないが、膝のような特定の関節における疾患発症の可能性に寄与する多くの要因が知られている。そのような要因は、高い肥満度指数、靭帯及び半月板に対する外傷性損傷、膝の外反配置、及び関節が日常活動で使用される方法を含む。
【0004】
膝変形性関節症は、骨、軟骨、半月板、靭帯、嚢及び滑膜組織を含む、膝の組織の全てを巻き込む。個々の患者は、これらの組織のいくつか又は全てに損傷を有するかも知れず、特定の時点で、各々の患者の膝は、損傷組織の如何なる組み合わせも包含し得る。診断は、典型的には、骨変化(骨棘及び骨損傷)及び(関節でつなぐ骨の表面から軟骨が失われていることを示す)関節腔狭窄の放射線撮影スコアリングによるものである。骨棘は、膝の各骨の軟骨板の周りで成長し、同様に、経時的なそれらの進展において非構造化され且つ不規則であると通常は考えられ、診断は典型的には骨棘(osteophytes)の重度を考慮に入れる。
【0005】
巻き込まれる組織の範囲が広いこと、及び疾患の可能性に寄与すると知られている様々な要因のために、OAは、各個人についての組織損傷の軌跡(trajectory)に関して異質であると広く考えられている。
【0006】
Neogiら“Magnetic Resonance Imaging-Based Three-Dimensional Bone Shape of the Knee Predicts Onset of Knee Osteoarthritis”は、放射線撮影膝変形性関節症の発症を予測することが可能であるかどうかを調べ、三次元骨形状の特徴は、後の放射線撮影変形性関節症の発症を予測するために使用され得ると結論付けている。Neogiらの研究は、OAを有する集団とOAを有しない集団との間の差異を考慮し、全体としての二つの集団の間の骨形状の全体の特徴的な差異が変形性関節症の将来の進展の予測因子として使用され得るどうかを考慮する。
【0007】
変形性関節症のための様々な医療介入及び外科的介入が存在する。例えば、現代の整形外科手術は、関節の定型の外科的修復を可能にし、時には関節形成術と呼ばれることもある。関節形成術は、より効果的に動作する関節を提供するために、現存している関節面及び骨を変更することによる関節の再形成を伴い得る。最近数十年において、人工補綴物(プロテーゼ)を用いた関節又は関節表面の外科的置換は、関節形成術の最も一般的かつ成功した形態であり、変形性関節症の一般的治療法となっている。特定の関節のための人工補綴物は、典型的に、関節の標準的な形状に基づく。患者の間での変動の理由のいくつかは、典型的に、患者に適合する(fit)ように選択され最も適切なサイズを有する、ある範囲のサイズにおいて利用可能な特定の関節のための人工補綴物によって提供される。米国特許出願公開第2008/058947号明細書もまた、女性患者の身体の解剖学的構造により近接して対応するように設計された遠位大腿膝人工補綴物のセットを記載している。
【0008】
しかしながら、筋骨格関節のための医療介入及び外科的介入の提供における改善の必要性は、残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/058947号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Neogiら“Magnetic Resonance Imaging-Based Three-Dimensional Bone Shape of the Knee Predicts Onset of Knee Osteoarthritis”
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様によれば、筋骨格関節に関連する解剖学的データを生成するための、コンピュータ実施される方法であって、方法は:ある状態によって引き起こされる対象の筋骨格関節の経時変化を表す変動データを入力として受信するステップ;現時点における患者の対象の筋骨格関節を表す患者データを入力として受信するステップ;及び解剖学的データを生成するために、変動データ及び患者データを処理するステップであり、解剖学的データは、現時点と異なる所定の時点における患者の対象の筋骨格関節を示すデータを含む、ステップ、を含む方法が提供される。
【0012】
上で述べられたように、肥満度指数、靭帯及び半月板に対する外傷性損傷、膝の外反配置、及び関節が日常活動で使用される方法を含む、個人間で有意に変動する多数の要因が、筋骨格関節の進展に寄与すると理解される。本発明者らは、驚くべきことに、状態の経時変化は特徴付けられることができ、特徴的な経時変動は、将来又は過去の状態における患者の対象の筋骨格関節の指標を提供する、患者の対象の筋骨格関節についての解剖学的データを生成するために使用されることができることが、可能であることを実現した。特に、本発明者らは、変形性関節症を有する患者の関節の形状に影響を及ぼす最も重要な要因は、個人間で有意に変動し得る他の要因よりもむしろ変形性関節症それ自体であり、集団に由来する一般的な特性変動(general characteristic variation)は、その集団のうちの特定の患者についての変動の正確な指標を提供し得ることを実現した。
【0013】
解剖学的データは、医療介入を提供するために使用されてもよい。例えば、過去の状態における患者の対象の筋骨格関節の指標(indication)を決定することは、患者の関節自体に基づいてその患者に適合させられた外科的介入を可能にする。例えば、外科医を指導するため又は自動化された外科用器具を案内するために適した外科手術計画(surgical plan)が、解剖学的データに基づいて生成されてもよい。外科手術計画は、例えば、関節を非疾患状態に戻すために、外科手術手技(surgical procedure)によってどのように関節が修正されるべきかを示すデータを提供してもよい。代替的に、解剖学的データは、患者自身の関節であるが疾患の影響が除かれたものに基づいて、患者のためのカスタマイズされた人工補綴物を生成するために使用されてもよい。
【0014】
解剖学的データは、追加的又は代替的に、薬剤の有効性の分析、理学療法(physiotherapy)又は状態を緩和するために使用され得る任意の他の医療介入のような非外科的介入のために使用されてもよい。その状態は、変形性関節症であってもよい。解剖学的データは、患者の対象の筋骨格関節のための人工補綴物の生成に適したデータを含んでもよい。
【0015】
変動データは、状態によって引き起こされる対象の筋骨格関節の形状の経時変動(variation with time)の指標(indication)を含んでもよい。変動データは、患者以外の個人に関連するデータのトレーニングセットに関連してもよい。
【0016】
患者の対象の筋骨格関節を表す患者データは、患者の対象の筋骨格関節の形状の表示を含んでもよい。
【0017】
患者の対象の筋骨格関節の形状の表示は、対象の筋骨格関節のパラメーター表現(parameterisation)に基づいてもよい。方法は、患者から得られた画像データを受信すること;及びパラメーター表現を生成するために画像データを処理すること:によって、患者データを生成するステップ、を更に含んでもよい。
【0018】
対象の筋骨格関節の形状の表示は、対象の筋骨格関節の形状の複数の主成分を含んでもよい。解剖学的データを生成するために、変動データ及び患者データを処理するステップは、変動データに基づいて患者データによって表示される形状を変動させること(varying)を含んでもよい。変動データはベクトルを含んでもよい。変動データに基づいて患者データによって表示される形状を変動させることは、パラメーター表現に対してベクトルを適用すること(applying)を含んでもよい。パラメーター表現に対してベクトルを適用することは:患者データと平均的な形状との間の関係を決定すること;及び、決定された関係に基づいて患者データによって表示される形状を変動させること、を含んでもよい。平均的な形状は、変形性関節症がないときに患者から得られる平均的な形状であってもよい。
【0019】
対象の解剖学的領域は、股関節、及び膝関節から成る群から選択される身体の関節であってもよい。解剖学的データは、状態の影響が低減された対象の解剖学的領域の表示を含んでもよい。方法は、解剖学的データに基づいて患者のための人工補綴物を製作するステップ(manufacturing)を更に含んでもよい。方法は、変動データを生成するステップを更に含んでもよい。変動データを生成するステップは、複数の対象の筋骨格関節の平均経時変化(average change with time)を決定すること(determining)を含んでもよい。解剖学的データは、患者の対象の筋骨格関節のために医療介入を提供することに適したデータを含んでもよい。
【0020】
本発明の第二の態様によれば、人工補綴物データ(prosthesis data)を生成するための方法であって、方法は:ある状態によって引き起こされる対象の解剖学的領域の変化を表す変動データを入力として受信するステップ;患者の対象の解剖学的領域を表す患者データを入力として受信するステップ;及び人工補綴物データを生成するために、変動データ及び患者データを処理するステップであり、人工補綴物データは患者の対象の解剖学的領域のための人工補綴物の生成に適している、ステップ、を含む方法が提供される。
【0021】
本発明の複数の態様は、組み合わせられてもよい。例えば、第一の態様の文脈において上で記述された複数の特徴はまた、第二の実施形態の文脈において使用されてもよい。
【0022】
本発明の複数の態様は、如何なる任意の便利な形態で実施されてもよい。例えば、本明細書において記述される方法を実行するためにコンピュータプログラムが提供されてもよい。そのようなコンピュータプログラムは、適切なコンピュータ可読媒体に保持されてもよく、この用語は、適切な有形の記憶装置(例えば、ディスク)を含む。本発明の複数の態様はまた、適切にプログラムされたコンピュータとして実施されてもよい。
【0023】
本発明の複数の実施形態は、これから、添付の図面を参照して、単なる例として記述されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】患者の対象の骨格筋関節を示す解剖学的データを生成するためのシステムの模式図である。
【
図2】
図1の画像化装置のコンピュータを示す模式図である。
【
図3】患者の対象の骨格筋関節を示す解剖学的データを生成するための処理を示す流れ図である。
【
図4】
図3の処理での使用に適した変動データを生成するためのシステムの模式図である。
【
図5】
図3の処理での使用に適した変動データを生成するための処理を示す流れ図である。
【
図6】変形性関節症を有する及び変形性関節症を有しない、男性集団及び女性集団における大腿骨の形状の分布を示すサモンプロット(Sammon plot)である。
【
図7】多数の個人の大腿骨の形状の変化を示すサモンプロットである。
【
図8A】患者の大腿骨の形状の、実際の変化及び予測された変化をグラフィカルに表示する。
【
図8B】患者の大腿骨の形状の、実際の変化及び予測された変化をグラフィカルに表示する。
【
図8C】患者の大腿骨の形状の、実際の変化及び予測された変化をグラフィカルに表示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1を参照すると、コンピュータ1は、疾患状態(diseased state)にある患者の対象の筋骨格関節を含む対象の解剖学的領域に関連する患者データ2を受信するように構成されている。患者データ2は、対象の解剖学的領域の特徴が特定されている三次元画像データに基づいて生成される患者の対象の解剖学的領域のパラメーター表現に関連する。例えば、三次元画像データは、X線コンピュータ断層撮影画像データであってもよく、パラメーター表現は、患者データ2の主題である対象の解剖学的領域と同じ種類の対象の解剖学的領域の画像のトレーニングセットに基づいて作成されている、アクティブアピアランスモデル又はアクティブ形状モデルのような統計モデルを三次元画像データにフィッティングすることによって生成されてもよい。モデルは、トレーニング画像内の変動の如何なる統計モデルであってもよい。統計モデルは、例えば、画像のトレーニングセットを処理して、平均モデル(mean model)及びトレーニングセットのその平均モデルからのある範囲の変動を生成することによって生成されてもよい。パラメーター表現は、画像データ内に表示された対象の解剖学的領域の特徴を示し、従って、表示された対象の解剖学的領域の特徴を特定するために使用されることができる。一つの適切なモデルフィッティング技術は、国際特許出願公開第WO2011/098752号明細書に記載されており、その内容は参照により本明細書に取り込まれる。
【0026】
コンピュータ1は、変動データ3を受信するように更に構成される。変動データ3は、以下で更に詳細に説明されるように、変形性関節症の存在下での対象の解剖学的領域の経時的な変動と関連し、変形性関節症を有する患者の対象の解剖学的領域の経時的な分析に基づいて生成されてもよい。本発明者らは、変形性関節症の存在下での対象の解剖学的領域の変化は典型的なパターンに従い、患者における対象の解剖学的区域(area)の変化を示す患者データの分析は、典型的にそうであるように、例えば患者における対象の解剖学的区域の変化を示すデータが利用可能でない場合に、患者について履歴の変化(historical change)の指標(indication)を生成するために使用されてもよく、或いは、対象の解剖学的区域の未来の変化を予測するために使用されてもよいことを実現した。
【0027】
患者データ2は、解剖学的データ4を生成するために、変動データ3に基づいて処理される。解剖学的データ4は、患者データ2が患者から得られた時点と異なる所定の時点における対象の筋骨格関節の指標を提供し、その関節の以前の状態又は未来の状態であってもよい。解剖学的データは、例えば、そのモデルから、患者のためにカスタマイズされた対象の解剖学的領域のための人工補綴物が生成され得るモデルを提供する。
【0028】
例えば、患者データ2は、変形性関節症によって影響を及ぼされている患者の膝の三次元画像データであってもよく、変動データ3は、変形性関節症を有する患者の膝の変動を示すデータであってもよく、解剖学的データ4は、変形性関節症の影響の少なくともいくらかがない状態における患者の膝を表示するか、又は変形性関節症の更なる影響を有する膝を表示する、患者の膝のモデルを提供してもよい。
【0029】
解剖学的データは、医療介入を提供するために使用されてもよい。例えば、過去の状態における患者の対象の筋骨格関節の指標を決定することは、患者の関節自体に基づいてその患者に適合させられた外科的介入を可能にする。例えば、外科医を指導するため又は自動化された外科用器具を案内するために適した外科手術計画が、解剖学的データに基づいて生成されてもよい。外科手術計画は、例えば、関節を非疾患状態に戻すために、外科手術手技によってどのように関節が修正されるべきかを示すデータを提供してもよい。代替的に、解剖学的データは、患者自身の関節であるが疾患の影響が除かれたものに基づいて、患者のためのカスタマイズされた人工補綴物を生成するために使用されてもよい。
【0030】
解剖学的データは、追加的又は代替的に、薬剤の有効性の分析、理学療法又は状態を緩和するために使用され得る任意の他の医療介入のような非外科的介入のために使用されてもよい。非外科的介入の有効性の分析は、例えば、介入なしでの関節の未来の状態を示す、予測された解剖学的データを生成すること、並びに、生成された解剖学的データを用いた医療介入に続いて関節のデータを比較して、その介入が予測された解剖学的データと異なる方法で関節を変化させるかどうかを決定することによって実行されてもよい。
【0031】
図2は、更に詳細にコンピュータ1を示す。コンピュータは、ランダムアクセスメモリの形態をとる揮発性メモリ1bに保存された指令を読み出し、実行するように構成されたCPU1aを有することが理解され得る。揮発性メモリ1bは、CPU1aによる実行のための指令及びそれらの指令によって使用されるデータを保存する。例えば、使用中に、
図1の変動データ3及び患者データ2は、揮発性メモリ1bに保存されてもよい。
【0032】
コンピュータ1は、ハードディスクドライブ1cの形態の不揮発性記憶装置を更に有する。変動データ3及び患者データ2によって生成されたデータは、ハードディスクドライブ1cに保存されてもよい。コンピュータ1は、コンピュータ1と関係して使用される周辺装置が接続されるI/Oインターフェイス1dを更に有する。より具体的には、ディスプレイ1eは、コンピュータ1からの出力を表すように構成される。ディスプレイ1eは、例えば、患者データ2及び解剖学的データ4の表示を表してもよい。入力装置もI/Oインターフェイス1dに接続される。そのような入力装置は、コンピュータ1とのユーザ対話を可能にするキーボード1f及びマウス1gを含んでもよい。ネットワークインターフェイス1hは、他のコンピュータ装置から又は他のコンピュータ装置へのデータを受信及び送信するために、コンピュータ1が適切なコンピュータネットワークに接続されることを可能にする。CPU1a、揮発性メモリ1b、ハードディスクドライブ1c、I/Oインターフェイス1d及びネットワークインターフェイス1hは、バス1iによって一緒に接続される。
【0033】
図3は、解剖学的データ4を生成するために実行される処理を示す。
図3のステップS1において、患者データが受信される。上で示されたように、患者データは、疾患状態にある患者の対象の解剖学的領域のパラメーター表現に関連する。ステップS2において、変動データが受信される。変動データは、変形性関節症の存在下における、対象の解剖学的領域の経時的な変動に関連する。ステップS3において、患者データ及び変動データは、患者の対象の解剖学的領域に関連する解剖学的データを生成するために処理される。
【0034】
変動データは、変形性関節症によって経時的に引き起こされる変化が、変動データによって示されるように患者の対象の解剖学的領域の形状を変動させることによってシミュレートされ得るように、変形性関節症の存在下での対象の解剖学的領域の経時的な変化がモデル化されることを可能にする。解剖学的データは、従って、変形性関節症の影響の不存在下の対象の解剖学的領域をモデル化するため、又は変形性関節症の更なる影響の存在下の対象の解剖学的領域をモデル化するために、使用されてもよい。解剖学的データは、従って、例えば、変形性関節症の影響が除かれた患者自身の解剖学的構造に基づく、対象の解剖学的領域のカスタマイズされた人工補綴物を生成することによって、医療介入を提供するために使用されてもよい。
【0035】
上で示されたように、変動データは、変形性関節症の存在下における、経時的な対象の解剖学的領域の変動に関連する。変動データは、例えば、ある期間を超える変形性関節症を有する患者から得られた対象の解剖学的領域の画像のトレーニングセットの分析によって生成されてもよい。
図4は、
図3の処理での使用に適した変動データを生成するためのシステムの模式図を示す。
図4に示されるように、コンピュータ5は、複数の患者に関連するデータを受信するように構成されており、そのうちの二人の患者に関連するデータ6,7が示されている。データ6,7に関連する患者の各々は、
図3の処理を使用して人工補綴物データが生成されるべき患者に関連する、同じ疾患を有する。
【0036】
データ6,7の各々は、ある期間にわたる複数の異なる時点における、それぞれの患者から得られる対象の解剖学的領域の複数の画像を含む。例えば、データ6は、10個の画像の各々が、変形性関節症の進展の間に10年間にわたって年の間隔で第一の患者から得られている、10個の画像を含んでもよく、データ7は、同じ間隔で第二の患者から得られた、対応する10個の画像を含んでもよい。コンピュータ5は、疾患の存在下における、経時的な対象の解剖学的区域の変動を示す変動データ8を生成するために、受信された患者データを処理する。変動データを生成するために受信された患者データを処理することは、これから
図5を参照して記述されるであろう。
【0037】
図5のステップS5において、患者データが受信される。上で示されたように、患者データは、各患者p(数式1)について、r個の画像a
p1,...,a
prを含み、
【数1】
ここで、各画像a
piは、その間に患者が監視されかつその間に対象の解剖学的領域が変形性関節症の結果として変化する期間内のある時点iに関連している。患者pに関連するr個の画像の各セットは、従って、経時的な、患者pについての対象の解剖学的領域の変化の指標を提供する。ステップS6において、患者データの各画像は、画像化された対象の解剖学的領域の特徴を特定するためにパラメーターで表記される(parameterised)。パラメーター表現は、
図3のステップS1における受信された患者データのパラメーター表現に対応する方法で実行される。
【0038】
ステップS6において生成されるパラメーター表現は、対象の解剖学的領域の特徴の一般的なセットをベクトル空間の中にパラメーターで表記する。如何なる適切なパラメーター表現が使用されてもよいことが、明確に理解されるであろう。例えば、各パラメーター表現は、対象の解剖学的領域を記述し、解剖学的に対応させられる、すなわち各画像上の同じ解剖学的な場所にある、解剖学的3D点のセットの各々のx値、y値及びz値についてのパラメーターを有してもよい。代替的に、パラメーター表現は、主成分分析のような標準的な次元縮退法(standard dimensionality reduction methods)によって生成された、解剖学的3D点のセットの各々のx値、y値及びz値の低次元の表現であってもよい。いずれのパラメーター表現が使用されても、パラメーター表現は、解剖学的に対応させられる解剖学的データの実例(instance)、例えば
図6のような骨の解剖学的構造(bony anatomy)の形状を提供する。
【0039】
ステップS7において、カウンターiは値1に初期化され、ステップS8において、患者iについてのパラメーターで表記された患者データは、患者iの対象の解剖学的領域の経時的な変化を示すベクトルv
iを生成するために処理される。例えば、ベクトルv
iは、各画像に関連する時間に対してプロットされた各画像a
p1,...,a
prに関連するパラメーター表現の回帰分析を使用して生成されてもよい。例えば、各パラメーター表現は、解剖学的点のセットの各々の各x値、y値及びz値に関連する次元(dimension)、並びに時間に関連する更なる次元を有するベクトル空間内の点あってもよく、各患者の対象の解剖学的領域の変化を示すベクトルは、その患者についてのパラメーター表現を通した最良適合ベクトル(best fit vector)を含んでもよい。しかしながら、そのようなパラメーター表現は、典型的に多数の点を含むことが、明確に理解されるであろう。例えば、大腿骨の頭部の一つの典型的なパラメーター表現は、30000個の点のオーダーから構成され、そのため、パラメーター表現の各点についての次元を有するベクトルは、生成及び処理するために計算的に高価であり得る。そのため、各画像についてのパラメーター表現は、複数の主成分を決定するために主成分分析を使用して新たなパラメーター表現を形成するように処理されてもよく、ベクトルは、主成分の経時的な変化を示してもよい。主成分の典型的な数は70個であることが見出されており、そのため各患者についてのベクトルv
iは、70の次元を有するベクトルであってもよい。
【0040】
変形性関節症が進展する方途を与えられて、ベクトルv
iに関連する方向は、集団(population)内で線形である時間方向における動きを提供することが見出されている。追加的に、形状空間におけるベクトルの方向は、集団から得られたデータから生成されたベクトルが個体(individual)の変動を有意義に(meaningfully)予測するために使用されることができる集団内で、十分な対応を有することが見出されている。
【0041】
変形性関節症は、集団の大部分において予測可能な方途で進展するが、しかしながら、少数の集団、例えば膝における過剰な外反角(“ノック膝(knock-kneed)”)も線形的であるが、形状空間内の異なる方向に進行し、そのため変動データは、何人かの個人についてはその個人の所定の特性に基づいて選択されることが要求され得ることが、見出されている。そのため、いくつかの実施形態において、ある患者についてその患者の特性に基づいて変動データを選択するために前処理が実行され、変動データは可能な変動データのセットから選択され、変動データの各々は関連する特性を有する。例えば、ステップS5においてトレーニング画像が受信される各患者は、特質(property)又は複数の特質を変動データが使用されるべき患者と共有してもよい。このようにして、特定の患者についての解剖学的データの生成における使用のためにカスタマイズされた変動データが、生成され得る。
【0042】
ステップS9において、カウンターの値iが患者の数sよりも小さいかどうかを決定するために、確認が実行される。もしiがsよりも小さいと決定されたならば、そのときはより多くの患者が処理されるために残っており、ステップS10においてカウンターiは増加させられ、ステップS8の処理が次の患者について繰り返される。もしステップS11において各患者pについてのデータが処理されていると決定されたならば、そのときはステップS11において、患者pについての平均的な変化を示す変動データvを生成するためにベクトルv
pが処理される。変動データvは、例えば、全ての患者にわたる平均的な変化を示すベクトルであってもよく、如何なる好都合な方法で、例えば複数のベクトルv
pに最良適合するベクトルを決定するための回帰分析を使用して生成されてもよい。
【0043】
上で述べられたように、変形性関節症によって引き起こされる変化は、変動データによって示されるように患者の対象の解剖学的領域の形状を変動させることによってシミュレートされてもよい。ベクトルvは、変形性関節症の存在下における、経時的な対象の解剖学的領域の形状の平均的な変動の指標を提供する。驚くべきことに、ベクトルvによって示される平均的な変動は、患者の対象の解剖学的領域の形状の実際の変化と強い相関性を提供する解剖学的データを生成するために、患者データの形状に適用されてもよいことが見出された。骨関節炎を有する患者の集団は、患者が変形性関節症を発症する可能性があるかどうかを予測するために使用され得る特徴的な形状を有することが以前から示されているが、その特徴的な形状が集団から決定されることができ、続いて医学的介入において使用され得るデータを提供するために個々の患者に対して適用されることができるということの実現(realisation)は、驚くべき結果である。
【0044】
図6は、Osteoarthritis Initiativeに参加した45−70歳のボランティアからの全9,437の膝の形状分布を示す。全ての膝は、上述された形状モデルを用いてフィッティングされ、パラメーターで表記された。その図面は、パラメーター表現を二次元に低減するサモンプロットであり、600の膝を残すように、形状空間に近かった形状を除去することによって表示目的のために間引かれた。図面は、OAを有する及びOAを有しない、男性及び女性についての95%信頼楕円を示している。OAの存在は、形状の変動性に有意に寄与し、変形性関節症の特徴的な形状を示すことが理解され得る。
【0045】
図7は、変形性関節症を有する個人のセットの形状の変化のサモンプロットを示す。
図7から理解され得るように、二次元における全ての個人の形状の変化は、高い対応を有し、全ての個人についての形状の変化は、概して同じ特徴的な方向に従うことを示している。
【0046】
患者の対象の解剖学的領域に関連する現在のパラメーター表現Pから解剖学的データを生成するために、ベクトル(数2)は、新たなパラメーター表現P’を生成するためにパラメーター表現Pに適用されてもよい。
【数2】
ここで、(数3)は、変形性関節症の存在下での変動を示す単位ベクトルであり、スカラー値αはベクトルに沿った許容距離を制限する。ここで、αは多くの方法で推定されることができる。
【数3】
一つの実施形態において、Pを含み、(数3)に対して平行なパラメーター空間内の無限線Lを考慮する。Mを、非変形性関節症の平均形状のパラメーター表現のLの上への投影(projection)として定義する。Mは、Pと一貫する非変形性関節症の平均形状に最も近い形状を示し、変形性関節症の変動によって表される部分空間で許容される。そのとき、αの推定値は、MとPとの間のユークリッド距離によって制限される(すなわち、(数4))。
【数4】
一つの代替的な実施形態において、グラフィカルユーザーインターフェイスが、理想的な非変形性関節症の結果と実際的な外科的及び解剖学的な制約とを比較考量しなければならない外科医によって決定された、変化及びαを視覚化するために使用されてもよい。
【0047】
ステップS11において生成された変動データvは、
図1の変動データ3を提供し、解剖学的データを生成するために
図3を参照して上で述べられたように処理されてもよい。上で述べられたように、解剖学的データは、患者から患者データが得られる時点とは異なる、ある時点の状態における対象の解剖学的領域の表示を提供し、また、そのモデルから、患者のためにカスタマイズされた対象の解剖学的領域のための人工補綴物が生成され得るモデルを提供する。人工補綴物データは、人工補綴物を生成するために如何なる好都合な方法で、例えば既知の三次元印刷技術を使用して処理されてもよい。
【0048】
図8A乃至
図8Cは、上述された方法を使用して大腿骨の形状の変化を予測する能力を示す。
図8Aは、変形性関節症の如何なる影響も受ける前の個人の大腿骨を示し、
図8Bは、8年後のその個人の大腿骨の実際の形状を示す。
図8Bにおいて、暗い影の付いた区域は、
図8Aに比較して骨性の物質(bony material)が増加した区域を示す。矢印によって示される区域は、変形性関節症によっても引き起こされる、
図8Bに比較した収縮及び平坦化を含むと理解されることができる。
図8Cは、
図8Aの形状に基づくが、試料形状の集団に基づいて上述されたように生成された変動データを使用して修正されている、大腿骨の予測された形状を示す。
図8Cの予測された形状は、
図8Bの暗い影の付いた区域に密接に対応する、骨性の物質が増加した区域を示す暗い影の付いた区域を含むことが理解され得る。追加的に、
図8Cの矢印は、同様に
図8B内の収縮及び平坦化の区域に対応し、収縮及び平坦化を含む区域を示す。
図8A乃至
図8Cから理解され得るように、
図8Cに示される、個人の母集団から生成される変動データを使用して個人について予測される形状変化は、
図8Bに示されるような実際の形状変化に密接に一致する。
【0049】
対象の解剖学的領域は、疾患によって影響を受ける如何なる筋骨格関節であってもよい。例えば、対象の解剖学的領域は、大腿骨、脛骨及び膝蓋骨を含む膝関節であってもよく、又は大腿骨及び骨盤の寛骨臼を含む股関節であってもよい。
【0050】
上記では変化が変形性関節症によって引き起こされる説明されてきたが、上述の方法は、経時的な筋骨格関節の特徴的な変化を引き起こす他の疾患を有する患者について筋骨格関節を表す解剖学的データを生成するために使用されてもよいことが明確に理解されるであろう。
【0051】
本発明の特定の実施形態が上述されているが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、記述された実施形態に対する様々な変更が行われうることが明確に理解されるであろう。すなわち、記載された実施形態は、全ての点で例示的かつ非限定的であるとみなされるべきである。特に、特定の処理のために特定の形態が記載されている場合、そのような処理は、適切な出力データを提供するように構成された任意の適切な形態で実行されてもよいことが明確に理解されるであろう。