特許第6925344号(P6925344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6925344細菌感染症の治療に有用な双性イオンプロパルギル結合抗葉酸剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925344
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】細菌感染症の治療に有用な双性イオンプロパルギル結合抗葉酸剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/49 20060101AFI20210812BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20210812BHJP
   C07D 405/06 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20210812BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210812BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210812BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20210812BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C07D239/49CSP
   A61K31/505
   C07D405/06
   A61K31/506
   A61P43/00 111
   A61P31/04
   A61P31/10
   A61P33/00
   A61K45/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】13
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2018-535383(P2018-535383)
(86)(22)【出願日】2017年1月9日
(65)【公表番号】特表2019-504834(P2019-504834A)
(43)【公表日】2019年2月21日
(86)【国際出願番号】US2017012702
(87)【国際公開番号】WO2017120575
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】62/276,494
(32)【優先日】2016年1月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501315876
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ コネチカット
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライト デニス
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン エイミー シー
(72)【発明者】
【氏名】スコッケラ エリック
(72)【発明者】
【氏名】ガミューディプーンディ ダヤナン ナレンドラン
(72)【発明者】
【氏名】ケシペディー サントシュ
(72)【発明者】
【氏名】リーブ ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ロンバード マイケル エヌ
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−532729(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0225353(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/00
A61K 31/00
C07D 405/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物
【化1】

(I)
(式中、
Rは、C〜Cアルキルであり、
、R、RおよびRは、それぞれであり
AおよびBは、H、および〜Cアルキルから独立して選択され、
VおよびWのうちの一方がメトキシであり、他方はH、およびC〜Cアルコキシから選択され、
JおよびMは、それぞれであり
WおよびMは一緒になって、2個酸素原子を含む5員の複素環式環を形成していてもよく、
Ar環は、メタ位またはパラ位に1つの−COOH基または−CHCOOH基で置換されていフェニル環である)
またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
Rがメチルまたはエチルであり、
Aが水素であり、
Bが水素またはC〜Cアルキルであり、
VおよびWのうちの一方がメトキシであり、他方はHであることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
Rがメチルまたはエチルであり、
Aが水素であり、
Bが水素またはC〜Cアルキルであり、
WおよびMが一緒になって、2個の酸素原子を含む5員複素環式環を形成していることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物または塩であって、
AがHであり、Bがメチルであることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
前記化合物が、式
【化2】

の化合物であり、
前記化合物が
化合物14:A=H、V=OCH、W=H、M=H、Ar=m−COOHフェニル
化合物15:A=H、V=OCH、W=H、M=H、Ar=p−COOHフェニル
化合物16:A=H、V=H、W=OCH、M=H、Ar=p−COOHフェニル
化合物29:A=S−CH、V=OCH、W=H、M=H、Ar=p−COOHフェニル
化合物30:A=R−CH、V=OCH、W=H、M=H、Ar=p−COOHフェニル
化合物31:A=R−CH、V=H、W=OCH、M=H、Ar=p−COOHフェニル
化合物32:A=S−CH、V=H、W=OCH、M=H、Ar=p−COOHフェニ
化合物35:A=CH、V=H、W,M=−O−CH−O−、Ar=
【化3】

化合物41:A=S−CH、V=H、W,M=−O−CH−O−、Ar=p−COOHフェニル
化合物42:A=R−CH、V=H、W,M=−O−CH−O−、Ar=p−COOHフェニル
化合物52:A=H、V=H、W=OMe、M=H、Ar=
【化4】

化合物58:A=R−CH、V=H、W=OCH、M=H、Ar=p−COOHフェニル
化合物59:A=H、V=H、W=OCH、M=H、Ar=p−COOHフェニ
に列挙されている化合物から選択されることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
前記化合物が、
【化5】

であることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
前記化合物が、
【化6】

であることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
前記化合物が、
【化7】

であることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物または塩であって、
前記化合物が、
【化8】

であることを特徴とする、化合物または塩。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項11】
患者における細菌感染症を治療するための、請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物または塩。
【請求項12】
請求項11に記載の化合物または塩であって、
前記細菌感染症がグラム陰性菌感染症であることを特徴とする、化合物または塩
【請求項13】
請求項11に記載の化合物または塩であって、
前記細菌感染症が黄色ブドウ球菌感染症であることを特徴とする、化合物または塩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌感染症の治療に有用な双性イオンプロパルギル結合抗葉酸剤に関する。
【背景技術】
【0002】
必須代謝酵素のジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)は、腫瘍学および感染症徴候の両方のために首尾よくかつ広範にわたって標的にされているタンパク質であり、メトトレキサート(MTX)、トリメトプリム(TMP)およびペメトレキセド(pemetrexed)(PMX)などの有効な薬物がもたらされている。その天然基質である葉酸またはジヒドロ葉酸は、弱塩基性プテリン環と負に荷電したグルタミン酸伸長部とを有し、これらは酵素の結合に重要である。異なる種のDHFRとのいくつかの結晶構造から、メトトレキサート(図1)およびペメトレキセドなどの古典的抗葉酸剤が、活性部位において酸性残基と強い接触を形成する塩基性窒素環と、塩基性アミノ酸(黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)DHFR中のArg57)と広範なイオン相互作用を形成するグルタミン酸部分とを有し、これらの基質のモチーフを模倣していることが明らかである。基質模倣物として、古典的抗葉酸剤は、多くの場合、DHFRに対して非常に高い親和性を有する。例えば、メトトレキサートは、ヒト、大腸菌(Escherichia coli)および黄色ブドウ球菌DHFRを、それぞれ3.4pM、1pMおよび1nMのK値で阻害する。
【0003】
しかし、これらの古典的抗葉酸剤は、生理的pHでは高度に負に荷電しているので、受動的に拡散しないと思われ、能動輸送によりヒト細胞膜を通過させて生理的濃度を得る必要がある。さらに、それらは、その後、最適な細胞保持および酵素親和性のために、細胞内でポリグルタミル化される。現在、承認されている全ての抗癌DHFR阻害剤は、古典的抗葉酸剤として分類されている。対照的に、細菌は、葉酸補因子のデノボ合成に依存しているので、葉酸輸送体を有しない。したがって、古典的抗葉酸剤は、受動拡散によってのみ細胞膜を通過して抗菌効果を達成することができ、したがって、非常に強力な酵素阻害剤であるMTXの野生型グラム陰性大腸菌に対するMIC値は、1mMを超える。排出ポンプが遺伝子的に削除されても、MIC値は64〜256μMであり、その化合物が排出基質であることに加えて、限られた透過性しか有しないことが示されている。同様に、グラム陽性メチシリン耐性(methicillin−resistant)黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して、メトトレキサートは、20μg/mLのMIC50または100μg/mLのMIC90を有する。対照的に、より弱いDHFR阻害(IC50値23nMおよび20nM)を有する、弱塩基性の非古典的抗葉酸剤トリメトプリム(図1)は、実際にはMRSAおよび大腸菌の両方に対する強力な抗菌剤であり(MIC値0.3125μg/mL)、スルファメトキサゾールと共に、グラム陰性感染症およびグラム陽性感染症の両方に対する第一選択薬である。
【0004】
細菌ジャイレースを標的とするフルオロキノロン(図1)または微生物リボソームを標的とするテトラサイクリンなどの、単一の酸性官能基を有する双性イオン化合物は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して有用性を示すことが認識されている。これらの化合物の活性は、それらのより低いclogD7.4値(オフロキサシンについては−1.35)、および中性条件下での極性の増加へのより大きな寄与に関連している可能性がある。
【0005】
プロパルギル結合抗葉酸剤(PLA)は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対し、DHFR阻害剤として作用する。発明者ら他は、MRSAおよび化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に対する非常に強力なMIC値を有するPLA(フレイ,K.M.(Frey,K.M.)ら、Am.Soc.Microbiol.(2012)56(7):3556〜3562、ケシペディ,S.(Keshipeddy,S.)ら、Synfacts(2015)11(10):1026;ヴィスワナサン,K.(Viswanathan,K.)ら、PloS One(2012)http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0029434)、および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の良好な阻害を有するPLA(ラム,K.M.(Lamb,K.M.)ら、Am.Soc.Microbiol.(2014)58(12)7484〜7491)を、以前に報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】フレイ,K.M.(Frey,K.M.)ら、Am.Soc.Microbiol.(2012)56(7):3556〜3562
【非特許文献2】ケシペディ,S.(Keshipeddy,S.)ら、Synfacts(2015)11(10):1026
【非特許文献3】ヴィスワナサン,K.(Viswanathan,K.)ら、PloS One(2012)http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0029434)
【非特許文献4】ラム,K.M.(Lamb,K.M.)ら、Am.Soc.Microbiol.(2014)58(12)7484〜7491
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する高い効力を有するDHFR阻害剤の必要性が存在する。本開示は、このような阻害剤および追加の利点を提供し、これらについて以下で論じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、式I
【化1】
(I)
の化合物およびその薬学的に許容される塩を提供する。
【0009】
式Iにおいて、変数、例えば、R、R〜R、A、B、J、M、V、WおよびArは、以下の定義を有する。
【0010】
Rは、H、ヒドロキシル、C〜Cアルキル、またはC〜Cアルコキシである。
【0011】
、R、RおよびRは、H、C〜Cアルキルおよびシクロアルキルから独立して選択される。
【0012】
AおよびBは、H、ヒドロキシル、C〜Cアルキル、およびC〜Cアルコキシから独立して選択される。
【0013】
VおよびWのうちの一方がメトキシであり、他方はH、C〜Cアルキル、およびC〜Cアルコキシから選択される。
JおよびMは、H、ハロゲン、ヒドロキシル、ニトロ、シアノ、−COOH、−CHO、−CONH、シクロアルキル、またはC〜Cアルキルから独立して選択され、C〜Cアルキルでは任意のメチレン(−CH)がO、NH、N(C〜Cアルキル)、S、SO、C(O)O、OC(O)、またはC(O)と任意に置き換えられており、C〜Cアルキルはヒドロキシル、アミノ、またはハロゲンで任意に置換されている。
【0014】
WおよびMは一緒になって、5員もしくは6員の炭素環式環、または、N、O、およびSから独立して選択される1、2もしくは3個のヘテロ原子を含む5員もしくは6員の複素環式環を形成していてもよい。
【0015】
Ar環は、少なくとも1つの−COOH基または−CHCOOH基で置換されていて、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜CハロアルキルおよびC〜Cハロアルコキシから独立して選択される1つ以上の置換基で任意に置換されている、フェニル、ピリジルまたはピリミジニル環である。
【0016】
本開示は、式Iの化合物またはその塩、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
本開示は、DHFRを式Iの化合物またはその塩と接触させることを含む、インビトロまたはインビボでジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害する方法を提供する。
【0018】
本開示はまた、治療有効量の式Iの化合物またはその塩を患者に投与することを含む、患者における細菌感染症、真菌感染症または原生動物感染症を治療する方法を提供する。
【0019】
本開示は、式Iの化合物またはその塩が第1の活性薬剤であり、式Iの化合物または塩ではない第2の活性薬剤と組み合わせられるか、または共に投与される、組合せ製剤および治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】関連する生理的特性を有する、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に対して有効な抗菌剤を示す図である。従来のPLAであるUCP1021を、COOH−PLAと比較している。
図2A】NADPHおよび化合物15または化合物16のいずれかと結晶化した黄色ブドウ球菌DHFRの図である。図2Aは化合物15に結合した黄色ブドウ球菌DHFRを示す図である。
図2B図2Bは化合物16に結合した黄色ブドウ球菌DHFRを示す図である。
図2C図2Cは化合物15に結合した黄色ブドウ球菌DHFRの複合体の溶媒曝露された表面を示す図である。
図2D図2Dは化合物16に結合した黄色ブドウ球菌DHFRの複合体の溶媒曝露された表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[用語]
化合物は、標準的命名法を用いて記載する。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。文脈と明らかに矛盾しない限り、各化合物名は、化合物の遊離酸または遊離塩基形態ならびに化合物の全ての薬学的に許容される塩、溶媒和物および水和物を含む。
【0022】
「式I」という用語は、あらゆるエナンチオマ、ラセミ体および立体異性体、ならびにそのような化合物の全ての薬学的に許容される塩、溶媒和物および水和物を含む、式Iを満たす、全ての化合物を包含する。「式I」には、この語句を使用する文脈と明らかに矛盾しない限り、式Iの全ての亜属群(subgeneric group)が含まれる。
【0023】
「a」および「an」という用語は、量の限定を表すのではなく、参照された項目のうちの少なくとも1つの存在を表す。「または」という用語は、「および/または」を意味する。非限定移行句「〜を含む(comprising)」は、中間的な移行句「〜から本質的になる(consisting essentially of)」および限定移行句「〜からなる(consisting of)」を包含する。これらの3つの移行句の1つを記載している、または「含有する」または「含む」などの代替的移行句を用いる請求項は、文脈または技術によって明らかに排除されない限り、任意の他の移行句を用いて記述することができる。値の範囲の列挙は、本明細書で特に明記しない限り、単にその範囲内に含まれるそれぞれの別個の値を個々に示すのを省略した方法としての役割を果たすに過ぎず、それぞれの別個の値は、あたかも本明細書に個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。全ての範囲は、その範囲内に端点を含み、これらの端点は独立して組み合わせることができる。本明細書において特に指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本明細書で記載されている全ての方法は、好適な順序で実施することができる。あらゆる例、または例示語(例えば、「など」)の使用は、単に説明のためのものであり、別段の請求がない限り、本開示の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいずれの文言も、特許請求の範囲に記載されていない要素が、本明細書で使用する本発明の実施に不可欠であることを示すものと解釈するべきではない。他に定義されない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0024】
式Iの化合物は、任意の位置に同位体置換を有する式Iの全ての化合物を含む。同位体には、原子番号は同じであるが質量数が異なる原子が含まれる。一般的な例として、水素の同位体としては、トリチウムおよび重水素が挙げられ、炭素の同位体としては、11C、13C、および14Cが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、任意の1つ以上の水素原子が重水素原子により置き換えられる。
【0025】
「活性薬剤」とは、単独で、または別の化合物、元素、もしくは混合物と組み合わせて患者に投与された場合に、直接的または間接的に対象に生理学的効果を与える、化合物(本明細書にて開示された化合物を含む)、元素、または混合物を意味する。間接的な生理学的効果は、代謝産物または他の間接的なメカニズムを介して起こり得る。「活性薬剤」はまた、他の活性薬剤を増強するか、またはより活性にすることがある。例えば、式Iの化合物は、他の抗菌化合物と組み合わせて投与される場合、例えば他の抗菌化合物のMICを低下させることによって、細菌を死滅させるかまたは細菌増殖を阻害するために直接作用するか、または他の抗菌化合物の活性を増強することがある。
【0026】
2つの文字または記号の間にないダッシュ(「−」)は、置換基の結合点を示すために使用する。例えば、−C(O)NHは、ケトC(O)基の炭素を介して結合している。
【0027】
「アルキル」は、特定の数の炭素原子、一般に1〜約8個の炭素原子を有する分枝鎖または直鎖の飽和脂肪族炭化水素基である。本明細書で使用するC〜Cアルキルという用語は、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有するアルキル基を示す。他の実施形態には、1〜6個の炭素原子、1〜4個の炭素原子、または1または2個の炭素原子を有するアルキル基、例えば、C〜Cアルキル、C〜CアルキルおよびC〜Cアルキルが含まれる。アルキルの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、3−メチルブチル、t−ブチル、n−ペンチルおよびsec−ペンチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を有する飽和炭化水素環基である。単環式シクロアルキル基は、典型的には3〜約8個の炭素環原子または3〜6個(3、4、5または6個)の炭素環原子を有する。シクロアルキル置換基は、置換窒素原子、酸素原子もしくは炭素原子のペンダントであってもよく、または2つの置換基を有してもよい置換炭素原子は、スピロ基として結合したシクロアルキル基を有してもよい。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが挙げられる。
【0029】
「ハロ」または「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードのいずれかを示す。
【0030】
「ハロアルキル」は、特定の数の炭素原子を有し、ハロゲン原子の最大許容数までの、1個以上のハロゲン原子で置換された、分枝鎖および直鎖の両方のアルキル基を示す。ハロアルキルの例としては、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、2−フルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチルおよびペンタ−フルオロエチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
「ハロアルコキシ」は、酸素架橋(アルコール基の酸素)を介して結合した、本明細書で定義されるハロアルキル基を示す。
【0032】
本明細書で使用する「置換された」という用語は、特定の原子または基上の任意の1つ以上の水素が、特定の原子の通常の原子価を超えない限り、示された基から選択されたもので置き換えられることを意味する。置換基がオキソ(すなわち=O)である場合、原子上の2個の水素が置き換えられる。オキソ基がヘテロ芳香族部分を置換する場合、得られる分子は、時には互変異性形態をとることができる。例えば、2−または4−位でオキソにより置換されたピリジル基は、ピリジンまたはヒドロキシピリジンとして記載されることがある。置換基および/または変数の組合せは、そのような組合せが安定な化合物または有用な合成中間体をもたらす場合にのみ許容される。安定な化合物または安定な構造とは、反応混合物からの単離およびその後の有効な治療剤への処方に耐える、十分に頑強な化合物を示すことを意味する。特に明記しない限り、置換基はコア構造に対し命名される。例えば、アミノアルキルは、この置換基のコア構造への結合点がアルキル部分にあることを意味し、アルキルアミノは、結合点がアミノ基の窒素への結合であることを意味する。
【0033】
「剤形」とは、活性薬剤の投与単位を意味する。剤形の例としては、錠剤、カプセル、注射剤、懸濁液、液体、エマルジョン、クリーム、軟膏、座薬、吸入形態、経皮形態などが挙げられる。
【0034】
「医薬組成物」とは、式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物または水和物、またはプロドラッグなどの少なくとも1つの活性薬剤と、担体などの少なくとも1つの他の物質とを含む組成物である。薬学的組成物は、1つ以上の、追加の活性薬剤を任意に含有する。指定される場合、医薬組成物は、ヒトまたは非ヒト用薬物の米国FDAのGMP(適正製造基準(good manufacturing practice))基準を満たす。「薬学的組合せ」とは、単一の剤形に組み合わせるか、またはグラム陰性菌感染症などの障害を治療するために、活性薬剤が一緒に使用されるべきであるという説明書と共に別々の剤形で一緒に提供することができる、少なくとも2つの活性薬剤の組合せである。
【0035】
「薬学的に許容される塩」には、開示される化合物の誘導体が含まれ、誘導体は、親化合物の無機および有機の非毒性の酸付加塩または塩基付加塩を生成することによって親化合物を修飾したものである。本発明の化合物の塩は、従来の化学的方法によって塩基性または酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般に、このような塩は、遊離酸形態のこれらの化合物を、化学量論量の適切な塩基(Na、Ca、Mg、またはKの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩など)と反応させるか、または遊離塩基形態のこれらの化合物を、化学量論量の適切な酸と反応させることにより調製することができる。そのような反応は、典型的には、水中または有機溶媒中、またはその2つの混合物中で実施する。本発明の化合物の塩には、化合物の溶媒和物および化合物塩の溶媒和物がさらに含まれる。
【0036】
薬学的に許容される塩の例としては、アミンまたは窒素含有ヘテロアリール環(例えば、ピリジン、キノリン、イソキノリン)などの塩基性残基の無機酸塩(mineral acid)または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される塩としては、従来の非毒性塩および例えば非毒性無機酸または有機酸から形成される親化合物の第4級アンモニウム塩が挙げられる。例えば、従来の非毒性酸塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸から誘導されるもの、および、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、メシル酸、エシル酸、ベシル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸、HOC−(CH−COH(式中、nは0〜4)などの有機酸から調製される塩が挙げられる。追加の好適な塩のリストは、例えばG.ステッフェン ポーレクーン(G.Steffen Paulekuhn)ら、Journal of Medicinal Chemistry 2007、50、6665、およびHandbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection and Use、P.ハインリッヒ スタール(P.Heinrich Stahl)およびカミール G.ワームース(Camille G.Wermuth)編、Wiley−VCH、2002に見出すことができる。
【0037】
本開示の医薬組成物/組合せに適用される「担体」という用語は、活性化合物が提供される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを意味する。
【0038】
「患者」は、医学的治療を必要とするヒトまたはヒト以外の動物である。いくつかの実施形態では、患者はヒト患者である。
【0039】
「提供する」とは、供与、投与、販売、頒布、譲渡(営利目的または非営利目的)、製造、調合、または調剤することを意味する。
【0040】
本明細書で使用される「治療」には、式Iの化合物などの本開示の化合物を、唯一の活性薬剤として提供するか、または(a)疾患を阻害する、すなわちその発症を阻止するのに十分である、ならびに(b)疾患を軽減する、すなわち、疾患の退行を引き起こす、および細菌感染症の場合には、対象における感染の病原性を排除または減少させるのに十分である、少なくとも1つの追加の活性薬剤と共に提供するかのいずれかで提供することが含まれる。「治療する」および「治療」とはまた、本開示の化合物の治療有効量を、唯一の活性薬剤として、または少なくとも1つの追加の活性薬剤と共に、細菌感染を有するかまたは細菌感染しやすい対象に提供することを意味する。「予防的治療」には、疾患の素因があるかもしれないが疾患を有しない対象における疾患の発生の可能性を有意に減少させるのに十分な量の、本開示の化合物を投与することが含まれる。
【0041】
医薬組成物/組合せの「治療有効量」とは、対象に投与された場合に、細菌感染症に関連する罹患率および死亡率を減少させるおよび/または治癒をもたらすなど、治療効果を提供するのに有効な量である。特定の状況において、微生物感染症に罹患している対象は、感染の症状を示さないことがある。したがって、化合物の治療有効量はまた、対象の血液、血清、他の体液または組織中の微生物の検出可能なレベルを有意に低下させるのに十分な量である。本開示はまた、特定の実施形態において、予防的治療および治療的処置において本開示の化合物を使用することを含む。予防的治療または防御的治療の文脈において、「治療有効量」は、細菌感染症の発生率または細菌感染症に関連する罹患率および死亡率を有意に減少させるのに十分な量である。例えば、嚢胞性線維症または人工呼吸器患者のように、対象が細菌感染のリスクが高まっていることが知られている場合には、予防的治療を施してもよい。有意な減少とは、スチューデントのT検定などの統計的有意性の標準パラメトリック検定において統計的に有意である(p<0.05)、任意の検出可能な負の変化である。
【0042】
[化合物についての説明]
本開示は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方のDHFRの阻害剤として、プロパルギル結合抗葉酸剤(PLA)を提供する。PLAは、受動的に拡散して膜を通過し、DHFR酵素を強力に阻害する弱塩基性非古典的抗葉酸剤として特徴付けられ、多くの場合、サブマイクロモルのMIC値により細菌細胞の増殖を阻害する。本発明者ら他は、MRSAおよび化膿レンサ球菌に対する非常に強力なMIC値および肺炎桿菌の良好な阻害を以前に達成している。本開示は本発明者らが設計した、細菌細胞透過性を維持または増加させながら、負に荷電したグルタミン酸尾部により典型的に接触が行われる、双性イオンPLAおよびエナンチオマ的に純粋な化合物を提供する。黄色ブドウ球菌DHFR酵素についての酵素阻害および高分解能結晶構造の評価は、カルボン酸部分が活性部位でアルギニン残基と重要な相互作用を形成することを明らかにしている。この新規な高親和性接触の組み込みはまた、既知の耐性を付与する変異の効果を相殺するための代償的相互作用を提供し得る。この開示の特定の化合物は、MRSAを強力に阻害する。例えば、本開示の特定の化合物は、これらのMRSAに対しておよそ1ng/mLのMIC値を示す。本開示の特定の化合物はまた、10μg/mL以下のMIC値で大腸菌を阻害する。本開示の特定の化合物はまた、優れた薬物様特性を有する。これらの特性としては、例えば、ヒト細胞株の増殖を阻害しないこと、CYP3A4およびCYP2D6などの重要なCYP酵素を阻害しないこと、およびミクロソーム安定性アッセイにおいて長い半減期を有することを挙げることができる。
【0043】
中性pHでは、本開示の双性イオンPLAは、2つの主要種に分配される:両者は、カルボキシレート基で脱プロトン化される。ピリミジン環は、種の35%においてプロトン化され、双性イオン阻害剤を形成する、残りは中性のピリミジン環を有し、負に荷電した分子を生じる。特定の実施形態では、カルボン酸は、活性部位において、保持された酸性残基(黄色ブドウ球菌DHFR[SaDHFR]中のAsp27)およびアルギニン(SaDHFR中のArg57)とそれぞれ水素結合を形成する。本開示は、COOH−PLAに、プロパルギル位置で非置換またはメチル置換のC−エチルジアミノピリミジン環を、およびビフェニル系に2’または3’−メトキシ置換基のいずれかを提供する。プロパルギル置換で合成したいずれの阻害剤も、エナンチオマ的に純粋な成分として調製した。
【0044】
カルボン酸基の配置の構造−活性分析は、オルトおよびメタ配置がヒト酵素に対して最大の選択性を生じたが、パラ位に配置すると病原体酵素に対して最も高い親和性を生じることを示している。SaDHFRでは、COOHをパラからメタまたはオルトに移動すると、活性がそれぞれ5分の1および12分の1に低下する。EcDHFRに対する活性は、カルボン酸がパラ位からメタ位に移動すると、6分の1に減少するが、オルト位に移動した場合には、2.2分の1に減少する。
【0045】
MIC値は、野生型株とポーリンノックアウト株(ΔompFおよびΔompC)との間で維持され、化合物が受動的に細胞内に拡散していることを示していた。グラム陽性菌における異常な活性は、メトトレキサートの場合と同様に、負に荷電した官能基を分子に組み込んで、細胞浸透を損なうことなく酵素との重要な接触を作り出すことを示している。あるいは、グラム陰性菌において、高度に陰性のリポ多糖バリアは、静電反発により、PLAの負に荷電した集団の浸透を軽減し得る。
【0046】
本開示の特定のPLAは、ヒト結核菌(Myobacterium tuberculosis)(Mtb)DHFRに対して活性である。DHFRは現在、結核治療のために用いられていない。臨床的に承認された抗葉酸剤であるメトトレキサート、ピリメタミンおよびトリメトレキサートは、MtbDHFR酵素の強力な阻害剤であるが、おそらく脂質が豊富な細胞壁に浸透できないため、Mtbの増殖を阻害しない。この開示の特定のPLAは、MtbDHFR酵素活性を阻害し、また生存しているMtbの増殖を阻害する。いくつかの化合物は、1μg/mL未満のMIC値で、Mtbの増殖を強力に阻害する。本開示の特定の化合物は、MDR−およびXDR−TB株の増殖の非常に強力な阻害剤であり、他の知られているメカニズムとの交差耐性を受けない。
【0047】
本開示の特定のPLAは、トリメトプリム−スルファメトキサゾール耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染、特に市中感染型MRSAに関連するものに対して活性である。
【0048】
トリメトプリムはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害するが、スルファメトキサゾールはジヒドロ葉酸合成酵素を阻害する。これらの両必須酵素は、代謝における一炭素供与体の生成に重要な葉酸生合成経路に関与する。この組合せは非常に成功している一方で、耐性株が一般的になっている。dfrB染色体遺伝子の変異は、トリメトプリム耐性の主要様式である。追加の耐性メカニズムとしては、S1 DHFRとも呼ばれる遺伝子dfrA、dfrGおよびdfrKによってコードされるプラスミドコードトリメトプリム耐性DHFRの獲得が挙げられる。dfrBにおける点変異により、MIC値≦256μg/mLで耐性を付与し、S1 DHFRの獲得により、MIC値≧512μg/mで、より高いレベルの耐性を付与する。
【0049】
いくつかの耐性臨床分離株の分析は、変異F98Yは、特に二次変異H149RまたはH30Nと組み合わされて、非常に一般的であることを示している。TMPのIC50値は、Sa(F98Y)酵素で約400倍に増加し、補因子であるNADPH、および基質であるジヒドロ葉酸に結合したF98Y変異を有するSaDHFR酵素の結晶構造が報告されている。S1 DHFRタンパク質は、TMP感受性の表皮ブドウ球菌と比較して、98位のチロシン、ならびに2つの他の重要な変異:G43AおよびV31Iを生来的に含む。G43AおよびF98Yの組み込みは、TMP耐性を付与することを示している。全体として、耐性株の研究は、黄色ブドウ球菌DHFRを標的とする新世代の抗葉酸剤が、野生型酵素に加えて、染色体変異体およびプラスミドコード耐性形態を含む酵素の変異形態を阻害しなければならないことを確証している。
【0050】
黄色ブドウ球菌のPLA耐性の一段階変異体および二段階変異体の完全な特性評価は、重要な臨床変異であるF98Y、H30N、H149R、F98Y/H30NおよびF98Y/H149Rの獲得により、より低い変異頻度ではあるが、またTMPに耐性を付与することを示す。本明細書に開示した特定のPLA化合物は、単一および二重変異型酵素ならびに野生型および変異型黄色ブドウ球菌株の両方を非常に強力に阻害する。
【0051】
まとめると、この一連の新規な化合物は、古典的抗葉酸剤に共通する重要な相互作用のうちの1つを模倣するカルボキシレート部分の使用を、標的酵素であるDHFRにアクセスする能力を損なうことなくプロパルギル結合抗葉酸剤の構造(architecture)にどのように組み込むことができるかを示す。8つの阻害剤の調製および評価は、これらの化合物が、以前のPLAと比較して、高い酵素親和性を有し、MRSAおよび大腸菌に対する抗菌活性を増加させることを示している。黄色ブドウ球菌DHFRを用いた2つの化合物の高分解能結晶構造は、活性部位におけるカルボキシレートとArg57との間の水媒介接触によって、親和性が増強することを明らかにしている。追加のプロファイリングは、抗菌候補物としてのこれらの化合物の開発を支援する。
【0052】
本開示は、式Iの化合物およびその薬学的に許容される塩を提供する。
【化2】
(I)
【0053】
式I中の変数(例えば、r、R〜R、A、B、W、MおよびJ)は、発明の概要のセクションに記載の定義を有することができる。さらに、これらの変数は、以下に記載の定義のいずれかを有することができる。
【0054】
本開示は、安定な化合物が形成される限りにおいて、本明細書に記載される変更可能な定義の全ての組合せを含む。本開示は、以下の実施形態を含む。
【0055】
(1)Rはメチルまたはエチルであり、Aは水素であり、Bは水素またはC〜Cアルキルであり、VおよびWのうちの一方はメトキシであり、他方はHである。
【0056】
(2)R、R、RおよびRは、Hである。
【0057】
(3)JおよびMは、H、ハロゲン、ヒドロキシル、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜CハロアルキルおよびC〜Cハロアルコキシから独立して選択される。
【0058】
(4)AはHであり、Bはメチルである。
【0059】
(5)JおよびMは共にHである。
【0060】
(6)Ar環は、パラ位において1つの−COOH置換基で置換されており、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜CハロアルキルおよびC〜Cハロアルコキシから独立して選択される1つ以上の置換基で任意に置換されている。
【0061】
(7)Ar環は、メタ位において1つの−COOH置換基で置換されており、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜CハロアルキルおよびC〜Cハロアルコキシから独立して選択される1つ以上の置換基で任意に置換されている。
【0062】
(8)Ar環は、オルト位において1つの−COOH置換基で置換されており、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜CハロアルキルおよびC〜Cハロアルコキシから独立して選択される1つ以上の置換基で任意に置換されている。
【0063】
(9)Ar環は置換フェニル環である。置換フェニル環は、他の実施形態に列挙されているAr環の置換基のいずれかを有してもよい。
【0064】
(10)Rはメチルまたはエチルであり、Aは水素であり、Bは水素またはC〜Cアルキルであり、WおよびMは一緒になって、2個の酸素原子を含む5員複素環式環を形成している。
【0065】
(11)本開示は、以下の式Iの化合物およびそれらの薬学的に許容される塩を含む。
【0066】
(12)本開示は、式I−Aの化合物またはその薬学的に許容される塩を含み、この化合物は、表1に列挙されている化合物から選択される。
【化3】
(I−A)
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
[医薬組成物]
本開示は、活性薬剤として少なくとも1つの式Iの化合物を、薬学的に許容される担体と共に含有する医薬組成物を含む。
【0070】
本開示の医薬組成物としては、眼用製剤、経口製剤、経鼻製剤、経皮製剤、密封有りまたは無しの局所製剤、静脈内製剤(ボーラスおよび注入の両方)、吸入製剤、および注射剤(腹腔内、皮下、筋肉内または非経口)が挙げられる。この組成物は、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、顆粒、リポソーム、滅菌眼用溶液、非経口用溶液または懸濁液、計量エアロゾルまたは液体スプレ、滴下、アンプル、自動注入デバイス、または座薬などの投与単位で、眼に、経口的に、鼻腔内に、舌下に、非経口的に、または直腸に、または吸入もしくは吹送によって投与するためのものであってもよい。
【0071】
本開示の組成物を含有する剤形は、選択された投与経路により、治療効果をもたらすのに必要な有効量の活性薬剤を含有する。組成物は、本開示の化合物またはその塩形態を約5,000mg〜約0.5mg(好ましくは約1,000mg〜約0.5mg)含んでもよく、選択された投与方法に好適な任意の形態に構成することができる。剤形は、遅延放出または持続放出を含む即時放出または制御放出用に、処方することができる。医薬組成物は、式Iの化合物を唯一の活性薬剤として含んでいてもよく、または1つ以上の追加の活性薬剤と組み合わせてもよい。特定の実施形態では、医薬組成物は、式Iの化合物および少なくとも1つの直接作用性抗生物質(インビボで病原菌を死滅させるのに有効な化合物)を含む。
【0072】
[治療方法]
本開示は、本開示の1つ以上の有効量の化合物を、細菌感染のリスクがある対象または細菌感染症に罹患している対象に投与することによって、対象における細菌感染症を治療する方法を含む。本開示は、式Iの化合物を、細菌感染症を治療するために使用する治療方法、および化合物を使用して、細菌を抗菌剤に感作させる方法を含む。この実施形態では、式Iの化合物は、細菌感染症を有する患者に、治療有効量の抗菌剤と同時にまたは連続して投与する。式Iの化合物は、多くの場合、MICを低下させることによって、他の抗菌剤の有効性を高める。
【0073】
ヒト患者の治療が特に企図されている。しかし、非ヒト対象の治療は、本開示の範囲内である。本開示は、魚類、両生類、爬虫類または鳥類における微生物感染症の治療または予防を含むが、本開示の好ましい実施形態は、哺乳動物の治療を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、細菌感染症または抗生物質耐性(antibiotic−tolerant)もしくは抗生物質耐性(antibiotic−resistant)感染症は、グラム陽性菌によって引き起こされる。
【0075】
いくつかの実施形態では、細菌感染症または抗生物質耐性(antibiotic−tolerant)もしくは抗生物質耐性(antibiotic−resistant)感染症は、グラム陰性菌によって引き起こされる。
【0076】
いくつかの実施形態では、細菌感染症はヒト型結核菌(Mtb)である。いくつかの実施形態では、ヒト型結核菌は、多剤耐性株、例えば、アミカシン、カナマイシンおよび/またはカプレオマイシン耐性株である。本明細書に開示する特定の化合物は、1μg/mL未満のMIC値でMtbを阻害する。
【0077】
本開示の方法のいずれかの実施形態では、微生物感染は、病原菌感染の結果である。病原菌の例としては、エアロバクター属(Aerobacter)、アエロモナス属(Aeromonas)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、バチルス属(Bacillus)、バクテロイデス属(Bacteroides)、バルトネラ属(Bartonella)、ボルデテラ属(Bordetella)、ブルセラ属(Brucella)、ブルクホルデリア属(Burkholderia)、カリマトバクテリウム属(Calymmatobacterium)、カンピロバクター属(Campylobacter)、シトロバクター属(Citrobacter)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、エシェリキア属(Escherichia)、フランシセラ属(Francisella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ハフニア属(Hafnia)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、レジオネラ属(Legionella)、リステリア属(Listeria)、モルガネラ属(Morganella)、モラクセラ属(Moraxella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シゲラ属(Shigella)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、トレポネーマ属(Treponema)、キサントモナス属(Xanthomonas)、ビブリオ属(Vibrio)、およびエルシニア属(Yersinia)内の細菌が挙げられるが、これらに限定されない。このような細菌の具体例としては、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリチカス(Vibrio parahemolyticus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、大腸菌、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿レンサ球菌、肺炎桿菌、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、および黄色ブドウ球菌が挙げられる。
【0078】
いくつかの実施形態では、感染はカンジダ・アルビカンスなどの酵母感染である。
【0079】
いくつかの実施形態では、感染は、多微生物感染、例えば、2つ以上の微生物(organism)を含む感染である。いくつかの実施形態では、感染は、上記に列挙した微生物の少なくとも1つ、例えば、シュードモナス、例えば、緑膿菌、クレブシエラ、例えば、肺炎桿菌、および/またはアシネトバクター、例えば、A.バウマンニのうちの1つ以上を含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、方法はさらに、本開示の化合物と組み合わせて、これらに限定されるものではないが、ペニシリン、セファロスポリン、カルバセフェム、セファマイシン、カルバペネム、モノバクタムなどのβ−ラクタム、フルオロキノロンを含むキノロンおよび類似のDNA合成阻害剤、テトラサイクリン、アミノグリコシド、マクロライド、糖ペプチド、クロラムフェニコール、グリシルシクリン、リンコサミド、リポペプチド、ダプトマイシンなどのリポデプシペプチド、およびオキサゾリジノンからなる群から選択される抗生物質などの、追加の活性薬剤を投与するステップを含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、細菌感染症は、上気道および下気道感染症、肺炎、菌血症、全身感染症、敗血症および敗血症性ショック、尿路感染症、胃腸感染症、心内膜炎、骨感染症、髄膜炎などの中枢神経系感染症、または皮膚および軟部組織の感染症である。
【0082】
いくつかの実施形態では、対象は、哺乳動物、例えばヒトまたは非ヒト哺乳動物である。いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の細胞、例えば培養皿中の細胞を処理することを含む。
【0083】
一態様では、本開示は、対象におけるグラム陰性感染症の治療方法であって、本明細書に記載の化合物の治療有効量を、そのような治療を必要とする前記対象に投与することを含む、方法を特徴とする。
【0084】
いくつかの実施形態では、グラム陰性感染症は、緑膿菌によって引き起こされる。
【0085】
他の実施形態では、本開示は、表皮ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌によって引き起こされる感染症の治療を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、対象は、外傷患者または火傷または皮膚創傷に罹患した熱傷患者である。
【0087】
さらなる態様では、本開示は、対象における細菌の耐性を低減させる方法であって、本明細書に記載の化合物の治療有効量を、前記対象に投与することを含む、方法を特徴とする。
【0088】
いくつかの実施形態では、この方法は、抗菌剤治療に耐性のある細菌による感染症に罹患している前記対象を同定することをさらに含む。
【0089】
本開示は、本開示の化合物または組成物が、経口的に、局所的に、静脈内に、または非経口的に投与されるか、または吸入される治療方法を含む。
【0090】
本開示の化合物は、1日当たり約1〜約5回投与してもよい。毎日の投与または定期的投与を行うことができる。投与頻度はまた、使用する化合物、治療する特定の疾患およびその疾患を引き起こす細菌により変化してもよい。しかし、任意の特定の対象の具体的な用量レベルは、使用する特定の化合物の活性、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、および排泄率、薬物の組合せおよび治療を受けている特定の疾患の重症度を含む種々の要因に依存することが理解されるであろう。
【0091】
[PLA DHFR阻害剤の抗結核効果]
発明者らは、細胞増殖阻害のためのメカニズムとして、DHFR阻害を確立している。本開示の特定の化合物についてはまた、2つの異なるプロモータの制御下でDHFRを過剰発現する2つのM.スメグマチス(M. smegmatis)株における抗菌活性について試験した。UCP1066を除く全ての化合物は、両菌株において少なくとも32μg/mLのMIC値を有意に増加させ、これは抗菌活性がおそらくDHFR阻害に起因すると思われることを示している。この化合物は過剰発現株において4μg/mLのMIC値を有し、この値は、エルドマン(Erdman)株に対するその値と同じである。
【0092】
発明者らは、結核菌DHFR(MtbDHFR)タンパク質を発現させ、精製し、340nmで補因子NADPHの酸化を分光的にモニタする標準的な手順を用いて、酵素阻害を測定した(表6、実施例10を参照)。実験は3連で実施し、2つの異なる日に検証した。アッセイで試験した阻害剤の多くは、MtbDHFR酵素に対して適度に強力であり、70〜600nMの範囲のIC50値を有する。IC50値の範囲は、MIC値の範囲よりも比較的狭く、これは酵素に対する活性が、抗菌効力を引き起こす要因の1つに過ぎないことを、ここでもまた示唆している。表6は、ほとんどの化合物がヒト酵素に対して非常に類似したIC50値を有することを示す。潜在的なヒト細胞毒性を調べるために、これらの有力な化合物の細胞毒性効果を、ヒト皮膚線維芽細胞であるHepG2およびMCF−10細胞において評価した。全ての場合において、細胞の増殖は、500μM未満の化合物濃度で阻害されない。
【0093】
本開示のPLAはまた、5つの多剤耐性株であるTB株、Mtb365株、Mtb276株、MTb352株、Mtb56株およびMtbC−31株、ならびに1つの超多剤耐性(XDR)株であるMtb5を評価した。表7の実施例10を参照されたい。全体的に、各菌株は、0.25〜4μg/mLの間のMIC値で、INHに耐性である。菌株のうちの3つ、Mtb5、Mtb365およびMtb56もまた、それぞれ8、64および32μg/mLのMIC値で、リファンピンに高度に耐性である。これらの菌株は、エタンブトール、ストレプトマイシンおよびモキシフロキサシンを含む様々な他の薬剤に対しても耐性である。PLAは、わずかに低下したレベルであるが、大多数のMDR株に対して活性である。この化合物は、C−31株に対して活性を示さなかった。興味深いことに、化合物58および59は、MDR株(Mtb352)およびXDR株(Mtb5)に対して非常に活性であり、それぞれMtb352に対して0.06または0.5μg/mLのMIC値、Mtb5に対して0.25および2μg/mLのMIC値である。
【0094】
[略称]
【表3】
【実施例1】
【0095】
[一般的方法]
Hおよび13C NMRスペクトルは、400MHzでBruker機器にて記録した。化学シフトはppm単位で報告し、DMSO残留溶媒を基準とする、Hおよび13Cについてはそれぞれ、2.50および39.51ppmであった。高分解能質量分析は、University of Connecticut Mass Spectrometry Laboratoryが、DART源を備えるAccuTOF質量分析計を用いて行った。旋光度は、589nmのJascoP−2000偏光計で測定した。TLC分析は、Sorbent TechnologiesシリカゲルHL TLCプレートで行った。全てのガラス器具をオーブン乾燥し、アルゴン雰囲気下で冷却した。無水ジクロロメタン、エーテル、およびテトラヒドロフランを、Baker Cycle−Tainersから直接入手して使用した。無水ジメチルホルムアミドをAcrosから購入し、アルゴンでパージすることによって脱気した。全ての試薬は、特に明記しない限り、商業的供給元から直接入手して使用した。Pd(PPhCl中のCuI(10%/w)−(Pd/Cu)の予混合不均一混合物を、薗頭カップリング用に使用した。
【0096】
<実施例1>
[双性イオンPLAの合成]
本開示の化合物は、鈴木反応により、t−ブチルベンゾエートを好適なB環ベンズアルデヒド1にカップリングさせ、続いて鎖延長およびジアミノピリミジン頭部基を用いて薗頭カップリングを行うことによって調製した。強酸性条件下でのt−ブチルエステルの最終脱保護は、スムーズかつ良好な収率で進行した(スキーム1)。
【0097】
スキーム1.双性イオンPLAの合成
【化4】
【0098】
(a)Ar−B(OH)またはAr−Br、Pd(PPh、CsCO、ジオキサン:HO、90℃、(b)メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロリド、NaOBu、THF、0℃、(c)NaI、TMSCl、MeCN、−20℃、(d)ジメチル(1−ジアゾ−2−オキソプロピル)ホスホネート、KCO、MeOH(e)ヨードエチルジアミノピリミジン、Pd(PPhCl、CuI、KOAc、DMF、50℃、(f)TFA、DCM。
【0099】
<実施例2>
[メチル分枝鎖同族体の合成]
既知の方法を用いて、15および16のメチル分枝鎖同族体を調製した。(ヴィスワナサン,K.(Viswanathan,K.)ら、PloSOne(2012)http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0029434))PLAエナンチオマの合成は、先に報告した、鈴木カップリングにより4−メチルベンゾエートボロン酸にカップリングされた非対称チオエステル(17〜20)から開始した。ラセミ合成と同様に、最後の合成工程としてメチルエステル開裂を達成することができ、化合物29〜34を得ることができた。
【0100】
スキーム2.双性イオンPLAの不斉合成
【化5】
【0101】
(a)PdCl(PPh、4−メトキシカルボニルフェニルボロン酸、ジオキサン:HO、90℃、(b)10%Pd/C、EtSiH、DCM、(c)ノナフリルフルオリド、P−t−Bu−トリス(テトラメチレン)ホスファゼン塩基、DMF、−15℃〜室温、(d)ヨードエチルジアミノピリミジン、Pd(PPhCl、CuI、KOAc、DMF、50℃、(e)LiOH、THF:HO、32℃。
【0102】
<実施例3>
[(S)−4−(6−(4−(2,4−ジアミノ−6−エチルピリミジン−5−イル)ブタ−3−イン−2−イル)ベンゾ[D][1,3]ジオキソール−4−イル)安息香酸の合成:(化合物41)]
【化6】
【0103】
撹拌子を備えた20mLのスクリューキャップバイアルに、エチル−ヨードジアミノピリミジン(0.57mmol、0.15g、1当量)、Pd/Cu(0.05mmol、0.03g、0.08当量)、およびKOAc(5.7mmol、0.55g、10当量)を添加した。アルゴンでパージした無水DMF(0.05M、11.3mL)を加え、次いでアルキン(0.73mmol、0.25g、1.3当量)を加えた。反応混合物をアルゴン下で15分間撹拌し、凍結脱気法により1回脱気した。バイアルをアルゴン下で密閉し、60℃に加熱し、反応をTLCでモニタした。反応の最後に暗赤褐色の溶液を濃縮し、生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィ(粗混合物(10%/wのシステイン中のSiO−1.5g、NH2末端保護されたSiO−1.5g)の予備吸着、カラム用SiO 13g、2%MeOH/CHCl)で精製し、カップリングしたピリミジンを淡褐色の固体として得た(0.2g、収率72%)。TLC Rf=0.4(5%MeOH/CHCl)。0℃に冷却したd−CHCl(0.02M、2mL)中のピリミジンカップリングt−ブチルエステル生成物(0.0411mmol、0.02g、1当量)を、トリフルオロ酢酸(TFA)(8.22mmol、200当量、0.63mL)を用いて脱保護した。滴加後、反応混合物を室温にした。反応の終わりに、NMRによりモニタし、反応混合物を20℃で回転蒸発させ、真空下に15分間保持して過剰のTFAを除去した。少量のTFAを含有する生成混合物に、シリカゲル(1g)に予備吸着させるために無水CH2Cl2を添加した。フラッシュカラムクロマトグラフィを最初に100%EtOAc、続いてEtOAc中の0.01%TFAで行った(5gシリカゲル);TLC Rf=0.3(0.01%TFAを含む10%MeOH/CHCl)。清浄な画分を20℃で回転蒸発させ、溶媒が確実に完全除去されるようにした。油性TFA塩をpH7のリン酸緩衝液で中和した。得られた白色沈殿物を緩衝溶液と共にエッペンドルフチューブに移し、遠心分離して水を沈殿物から分離した。水層をデカントした後、白色沈殿物をジエチルエーテルおよびメタノールですすぎ、水を除去した。ピンク色を帯びた乾燥した白色固体(0.01g、収率57%)を特性評価および生物学的評価に付した。1H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ 8.03 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.86 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.28 (s, 1H), 7.09 (s, 1H),6.28 (広幅, 2H), 6.18 (s, 2H), 6.12 (s, 2H), 4.12 (q, J = 7 Hz, 1H), 2.55 (q, J = 7.6 Hz, 2H), 1.54 (d, J = 7.1 Hz, 3H), 1.11 (t, J = 7.6 Hz, 3H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d) δ171.5, 167.1, 164.2, 161.1, 148.1, 143.4, 139.5, 138.4, 129.8, 129.7, 127.5, 120.2, 118.8, 107.3, 101.2, 100.5, 87.8, 76.0, 32.0, 28.8, 24.6, 12.4; HRMS (DART, M+ + H) m/z 431.1708 (C24H23N4O4の計算値, 431.1719); [α]24 +3.3o (c, 0.146, DMSO).
【0104】
<実施例4>
[(R)−4−(6−(4−(2,4−ジアミノ−6−エチルピリミジン−5−イル)ブタ−3−イン−2−イル)ベンゾ[D][1,3]ジオキソール−4−イル)安息香酸の合成]
【化7】
【0105】
撹拌子を備えた20mLのスクリューキャップバイアルに、エチル−ヨードジアミノピリミジン(0.45mmol、0.12g、1当量)、Pd/Cu(0.04mmol、0.025g、0.08当量)、およびKOAc(4.47mmol、0.44g、10当量)を添加した。アルゴンでパージした無水DMF(0.05M、8.9mL)を加え、次いでアルキン(0.58mmol、0.20g、1.3当量)を加えた。(S)エナンチオマと同じ処理後、(R)エナンチオマを淡褐色固体として得た(0.164g、収率75%)。TLC Rf=0.4(5%MeOH/CHCl);0℃に冷却したd−CHCl(0.02M、3mL)中のピリミジンカップリングt−ブチルエステル生成物(0.062mmol、0.03g、1当量)を、トリフルオロ酢酸(TFA)(18.50mmol、300当量、1.42mL)を用いて脱保護した。上記と同じ脱保護処理を繰り返し、(R)カルボン酸を、ピンク色を帯びた白色固体として得た(0.015g、収率56%)。TLC Rf=0.3(0.01%TFAを含む10%MeOH/CHCl)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ 8.03 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.87 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.27 (s, 1H), 7.09 (s, 1H),6.26 (広幅, 2H), 6.15 (s, 2H), 6.12 (s, 2H), 4.11 (q, J = 7 Hz, 1H), 2.56 (m, 2H), 1.53 (d, J = 7.0 Hz, 3H), 1.11 (t, J = 7.5 Hz, 3H); 13C NMR (100 MHz, DMSO-d) δ171.6, 167.0, 164.2, 161.1, 148.1, 143.4, 139.5, 138.4, 129.8, 129.7, 127.5, 120.2, 118.8, 107.3, 101.2, 100.5, 87.8, 76.0, 32.0, 28.8, 24.6, 12.4; HRMS (DART, M+ + H) m/z 431.1708 (C24H23N4O4の計算値, 431.1719); [α]24 -5.2o (c, 0.143, DMSO).
【0106】
<実施例5>
[DHFR阻害アッセイ]
PET−41a(+)中の組換えSaDHFRおよびEcDHFRを、大腸菌BL21(DE3)(Invitrogen)細胞で過剰発現させ、ニッケルアフィニティークロマトグラフィ(5Prime)を用いて精製した。タンパク質を、PD−10カラム(GE Healthcare)を用いて、20mM Tris pH7.0、20%グリセロール、0.1mM EDTA、2mM DTTを含む緩衝液中で脱塩し、分注して−80℃で保存した。
【0107】
(黄色ブドウ球菌MIC)
最小阻害濃度は、Isosensitest Broth(Oxoid)中の5×105CFU/mLのATCC株43300の最終接種物を用いて、標準微量希釈ブロスアッセイのためのClinical and Laboratory Standards Instituteのガイドラインに従って測定した。MICは、増殖を視覚的に阻害する阻害剤の最低濃度として定義した。37℃で18時間培養した後、A600で増殖をモニタした。Presto Blue(Life Technologies)を用いて比色分析によりMICを確認した。
【0108】
(大腸菌)
最小阻害濃度を、大腸菌(ATCC 25922)およびIsosensitest Broth(Oxoid)中の1×105CFU/mLの接種物を用いた微量希釈ブロスアッセイを用いて測定した。Alamar Blueアッセイを用いて、A600で増殖をモニタし、MICは、増殖を完全に阻害する阻害剤の最低濃度として定義する。
【0109】
黄色ブドウ球菌(Sa)、大腸菌(Ec)およびヒト(Hu)DHFR酵素の阻害((IC50値)について化合物13〜16および29〜34を評価し、データを表1に示す。340nMの吸光度でDHFRによるNADPH酸化速度をモニタすることにより、酵素阻害アッセイを行って、両SaおよびEcDHFR酵素のIC50値を測定した。反応は、20mM TES pH7.0、50mM KCl、0.5mM EDTA、10mM MEおよび1mg/mL BSA、0.1mM NADPHおよび2μg/mL酵素を含有する緩衝液中で、室温にて行った。DMSO中の阻害剤を酵素/NADPH混合物に添加し、5分間インキュベートした後、50mM TES中の0.1mMジヒドロ葉酸を添加した。SaDHFRおよびEcDHFR IC50カラムの括弧内の数字は、ヒトDHFR酵素の阻害に対する倍選択性を表す。
【0110】
黄色ブドウ球菌(Sa)、大腸菌(Ec)およびヒト(Hu)DHFR酵素の化合物阻害(表2および表3)を示す。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
<実施例6>
[構造研究]
双性イオン化合物15および16に結合したSaDHFRの構造を、X線結晶学によって測定した。
【0114】
(SaDHFR:NADPH:15)
18mg/mLタンパク質の精製SaDHFRを、ハンギングドロップ法により、DMSO中の2mM NADPHおよび1mM阻害剤15と共結晶化した。タンパク質と補因子との混合物を、氷上で3時間インキュベートした。等体積のタンパク質溶液を、0.1M MES、pH5.5、0.2M酢酸ナトリウム、17%PEG 10,000および12.5%γ−ブチラクトンを含有する最適化された緩衝溶液に添加した。4℃で保存すると、通常は7日以内に結晶が形成される。結晶を採取し、25%グリセロールを含有する抗凍結(cryo−protectant)緩衝液中で凍結した。データは、SLAC National Accelerator LaboratoryのStanford Synchrotron Radiation Lightsourceにてビームライン7−1で遠隔収集した。HKL2000を使用してデータを指数付けし、スケーリングした。プローブとしてPDB ID:3F0Qを使用して、Phaser結晶学ソフトウェア(マッコイ A.J.(McCoy、A.J.)ら、J.Appl.Cryst.、(2007)40:658〜674)を使用して分子置換溶液を同定した。CootおよびPhenixを使用して、許容されるRWorkおよびRFreeが達成されるまで、構造を精密化した。
【0115】
(SaDHFR:NADPH:16)
精製SaDHFRを、ハンギングドロップ法により、DMSO中の2mM NADPHおよび1mMの16と共結晶化した。結晶化の詳細は、緩衝液を0.1M MES、pH5.0に変更したことを除いて上記で使用したものと同様であった。Connecticut大学のProtein X−Ray Crystallography FacilityのRigaku Highflux Homelabシステムで、データを収集した。Structure Studio(dTrek)を使用してデータを指数付けし、スケーリングした。上記と同様に、Phaserを使用して分子置換を行い、Coot(エムズリー,P.(Emsley,P.)およびコウタン,K.(Cowtan,K.)、Acta Crysta.、(2004)D50:2126〜2132)およびPhenix(アダムス,P.D.(Adams,P.D.)、Acta Cryst.、(2010)D66:213〜221)を使用して、構造精密化を行った。
【0116】
NADPHおよび阻害剤15または16と複合体を形成したSaDHFRの結晶は、それぞれ2.24Åまたは1.81Åまでの回折振幅を生じた。構造は、モデルとしてPDB 3F0Q(フレイ,K.M.(Frey,K.M.)ら、J.Structural Biology(2010)170(1):93〜97)に基づいて、分子置換法を用いて解明した。両方の構造は、結合した抗葉酸剤および、β−NADPHとその代替のα−アノマ(化合物15を有する構造は閉環した互変異性体状態のα−アノマを示す)との二重占有(フォックス,K.M.(Fox,K.M.)およびカープラス,P.A.(Karplus,P.A.)、Structure(1994)2(11):1089〜1105)、またはα−アノマ(化合物16を用いた構造)の全占有のいずれかを特徴とする。化合物15に結合した構造は、カルボン酸とArg 57の側鎖との間の水分子の配位を示す(図2A)。化合物16(図2B)を用いた構造は、16のカルボン酸と、Arg57上のアミノ基およびLeu28のカルボニル酸素との間で配位した、少なくとも4つの水分子を含む広範な水ネットワークを示す。水ネットワークは、Asn56およびThr36の側鎖とのさらなる水素結合相互作用を含むように拡大する(図2B)。阻害剤の結合様式は、阻害剤15および16を有する結晶構造における有意差を示す。化合物15のR位におけるメトキシ置換はビアリール系1.2Åを溶媒曝露表面にシフトさせ、これは化合物15と16との間の観察される水ネットワークの差異の原因となるようである(図2C)。
【0117】
両方の構造は、補因子結合部位においてNADPHのα−アノマを特徴とする。SaDHFR:NADPH:15の構造は40%の占有率を示し、SaDHFR:NADPH:16の構造は100%占有率を示す。α−アノマは、β−NADPHのニコチンアミドホスフェートと、α−NADPHの環化リボース部分が占有するようになる、Asn18の側鎖との間で配位した水分子を置換する。α−NADPH構造では、3つの水分子が、ニコチンアミドアミドと、Phe92、Ile14およびAla7の骨格との間で配位される。
【0118】
NADPHおよび化合物15、またはNADPHおよび化合物16を用いた、SaDHFRの結晶についてのX線結晶学的測定およびデータ収集および精密化統計を、表4に示す。
【0119】
【表6】
【0120】
<実施例7>
[COOH−PLAの細胞活性]
p−COOH PLAは、大部分のMIC値が0.0098〜0.625の範囲のSaDHFR酵素および黄色ブドウ球菌に対して、高いレベルの活性を示す(表1)。この化合物は野生型大腸菌に対して活性が低下し、化合物31および32は10μg/mLのMIC値を示した。グラム陰性菌に対する活性に対しての主なバリアのうちの2つは、外膜を通過する透過性および排出による阻害剤の能動的除去である。固有耐性の手段としての透過性を精査するために、外膜アセンブリに必須のタンパク質をコードするimp遺伝子にインフレーム欠失を含む、操作された株であるNR698に対するMIC値を測定した。化合物15、16、および29〜32を用いたNR698株に対する阻害濃度は、およそ2,000分の1〜4,000分の1の減少を示し、これは、外膜を通過する浸透の減少が、大腸菌におけるPLA活性を制限することを示している。
【0121】
COOH−PLAが共通のAcrB排出ポンプによって排出されるかどうかを調べるために、我々は、親大腸菌株のMIC値を、AcrBが欠失した菌株(JW0451)のMIC値と比較した。JW0451株に対するMIC値は、NR698株ではなく、親株と類似であるので(表5)、化合物は、AcrBによる排出の影響を受けない可能性が高い。
【0122】
【表7】
【0123】
MIC値は、ΔacrB株、ΔmacB株、ΔemrB株、またはΔacrF株においてもシフトされなかったので、AcrBは生じない可能性が高く、主要ポンプAcrBに対する排出活性が生じない可能性が高いことが、さらに実証された。
【0124】
<実施例8>
[ヒト細胞に対する開示の化合物の効果]
(COOH−PLAは、優れた薬物様特性を有する)
本開示のCOOH−PLA化合物の薬物様ポテンシャル(drug−like potential)を調べるために、一連のインビトロアッセイにより、ヒト細胞に対するそれらの効果、重要なCYPアイソフォームのそれらの阻害およびミクロソーム安定性アッセイにおけるそれらの寿命を精査した。COOH−PLAは、HepG2およびMCF−10および細胞に対して測定可能な細胞毒性(IC50>500μM)を有しない。低い細胞毒性を有するグラム陽性菌細胞に対する強力な活性を結合することにより、高い治療指数(>500,000)が得られる。
【0125】
<実施例9>
[CYP酵素に対する開示の化合物の効果]
出願人は、本開示の特定の化合物について、シトクロムP450阻害も測定した。最も一般的なアイソフォームのうちの2つである、CYP3A4およびCYP2D6に対する化合物15の活性を測定した。両酵素の阻害は、50μMを超える濃度を必要とし、このことは、化合物が、他の同時投与される治療剤の代謝を妨げないと予測され得ることを示す。
【0126】
<実施例10>
[ミクロソーム安定性]
ミクロソーム安定性アッセイにおける化合物15の寿命を測定した。化合物の半減期は、UPLCを用いて親化合物を追跡することによって測定した。フェーズIの半減期は99分であり、フェーズIIの半減期はおよそ87分である。これらのインビトロ実験の結果は、COOH−PLAの優れた薬物様プロファイルを示す。
【0127】
<実施例11>
[ヒト結核菌DHFRおよびヒトDHFRに対する化合物の阻害効果]
(薬物)
イソニアジド(INH)は、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO.から購入し、このイソニアジドを−20℃で凍結する前に、100%ジメチルスルホキシド(DMSO)に1mg/mlの濃度で溶解した。DHFR阻害剤を、100%DMSOに20mg/mlの濃度で溶解した。
【0128】
(分離株)
結核菌ATCC 35801エルドマン(Erdman)株は、the American Type Culture Collection、Manasas、VA.から入手した。臨床分離株は、SUNY Upstate Medical University、Syracuse、NY(Betz Forbes提供)、University of Stellenbosch、South Africa(Tommy Victor提供)、National Center of Tuberculosis and Lung Diseases of Georgia、Tbilisi、Georgia(Natalia Shubladze提供)、National Jewish Center、Denver、CO(Leonid Heifets提供)から入手した。
【0129】
マイコバクテリア分離株を、改変ミドルブルック7H10ブロス(Middle brook 7H10 broth)(pH6.6、寒天を有し、マラカイトグリーンを省いた7H10寒天配合物)中で、10%ミドルブルックオレイン酸−アルブミン−デキストロース−カタラーゼ濃縮物(Difco Laboratories、デトロイト、MI)および0.05%Tween80を補充して、回転シェーカー上において37℃で5〜10日間、増殖させた。この微生物を、7H10ブロスで1クレット単位(約5×10CFU/ml当量)に希釈して、光電比色計(Manostat Corp.、New York、NY)をブロス希釈アッセイに使用した。
【0130】
(マイクロタイターブロス希釈MIC試験)
ポリスチレン96ウェル丸底マイクロタイタープレート(Corning Inc.、Corning、NY)を50μlの改変7H10ブロスで満たした。化合物は、試験する最大濃度の4倍で調製し、次いで、第1のウェルに添加してその後連続的に2倍に希釈した。INHは、8μg/ml〜0.008μg/mlの範囲の濃度を用いて試験した。DHFR阻害剤は、32μg/ml〜0.03μg/mlの範囲のものを用いて試験した。各菌株に使用する接種物を滴定によって測定し、7H10寒天プレート上にプレーティングして実際の接種物を決定した。7H10寒天プレートを37℃で4週間インキュベートした。50μlの接種物を、化合物を含有する各ウェルに添加して、約2.5×10CFU/mlの初期濃度を得た(試験した種々の分離株の範囲は1.25×10CFU/ml〜8×10CFU/mlであった)。マイクロタイタープレートをSealPlate接着密封フィルム(Exel Scientific、Wrightwood、CA)で覆い、周囲空気中、37℃で14〜21日間インキュベートして、その後結果を読み取った。各分離株を2連で試験した。MICは、目に見える濁りを生じない抗菌剤の最低濃度として定義した。
【0131】
(結核菌およびヒトDHFRの発現ならびに精製)
BL21(DE3)コンピテント大腸菌細胞(New England BioLabs)を、GenScriptによって構築されたdfrA遺伝子を保有する組換えpET−41a(+)プラスミドで形質転換した。形質転換した細胞を、30μg/mLのカナマイシンを追加したLB培地において、37℃で、OD600が0.6〜0.7に達するまで増殖させた。細胞を、1mM IPTGを用いて20℃で20時間誘導し、8000rpmで15分間スピンダウンした。湿った細胞ペレットの各グラムを、200μg/mLリゾチームおよび1mM DNaseI(Thermo Scientific)を追加した1×BugBuster試薬(Novagen)5mlに、再懸濁した。穏やかに回転させながら細胞懸濁液を室温で30分間インキュベートした後、18,000rpmで30分間遠心分離し、上清を回収した。若干の非標的タンパク質を沈殿させるために、40%硫酸アンモニウムを細胞溶解物に加え、4℃で一晩撹拌した。18,000rpmで15分間遠心分離した後、上清を0.22μmフィルターに通し、4CVの平衡緩衝液A(20mMトリス−HCl、50mM KCl、2mM DTT、0.1mM EDTAおよび15%(v/v)グリセロール、pH7.5)で予め平衡化したメトトレキサート−アガロースカラムにゆっくりと充填した。カラムを、3CVの洗浄緩衝液B(20mM トリス−HCl、500mM KCl、2mM DTT、0.1M EDTAおよび15%(v/v)グリセロール、pH7.5)で洗浄した。酵素を、3CVの溶出緩衝液C(20mM トリス−HCl、50mM KCl、2mM DTT、2mM DHF、0.1mM EDTAおよび15%(v/v)グリセロール、pH8.5)で溶出した。DHFR酵素を含む画分を収集し、濃縮し、1CVの平衡緩衝液A(pH8.5)で予め平衡化したHi−Prep26/60Sephacryl s−200 HRカラムに充填した。タンパク質溶出を、AKTA UV/visダイオードアレイ分光光度計を用いて280nmでモニタした。純粋な酵素を含む画分をプールし、10mg/mlに濃縮し、液体窒素中で急速凍結し、−80℃で保存した。
【0132】
(酵素阻害)
酵素活性および阻害アッセイを、DHFR酵素によって触媒されるジヒドロ葉酸のNADPH依存性の減少をモニタすることにより行った。NADPH酸化速度を、20mM TES pH7.0、50mM KCl、10mM 2−メルカプトエタノール、0.5mM EDTAおよび1mg/mLウシ血清アルブミンを含有するアッセイ緩衝液中で、340nmで分光光度的に測定した。全ての測定は、純粋な酵素(2mg/mL)、100μMのNADPHおよび100μMのDHFを緩衝液に添加して、室温で行った。阻害アッセイのために、100%DMSOに溶解した阻害剤を混合物に添加し、5分間インキュベートしてDHFを添加した。平均IC50値および標準偏差を3連で測定した。
【0133】
特定のPLA化合物についてのMtbおよびヒトDHFRに対するIC50値およびMtb MIC値を、表6に示す。非DHFR阻害抗生物質であるトリメトプリム(TMP)を陰性対照として使用した。DHFR阻害剤イソニアジド(INH)およびトリメトレキセートを陽性対照として使用した。
【0134】
【表8】
【0135】
本開示の特定の化合物を、ヒト結核菌の多剤耐性分離株に対する抗菌活性について評価した。種々の菌株のMIC値を表7に示す。
【0136】
【表9】
【0137】
<実施例12>
[化合物Aに耐性のMRSA菌株の生成および特性評価]
化合物Aによる阻害を克服するための黄色ブドウ球菌43300株の潜在的耐性メカニズムについての最初の研究は、以前に報告されている(フリーブキシィ,K.(Freabxy,K.)ら、J.Struct. Biol.(2010)170:93〜97)。
【化8】
(化合物A)
【0138】
これらの研究は、2つの変異体、DHFR遺伝子中のF98YおよびF98Iが、低い変異頻度(10−10)で選択されたことを示した。プロパルギル結合抗葉酸剤の耐性プロファイルをさらに特性評価するために、一段階および二段階選択試験を実施し、得られた菌株を特性評価した。一段階試験では、6×MICで化合物1に供されたATCC品質管理株43300を用いた変異体選択により、臨床的に観察された3つの変異、すなわち、F98Y、H30NおよびH149R、ならびに3つの新規変異、すなわち、F151S、F151CおよびD142Yが生じた。化合物AおよびF98YまたはH149Rを有する前駆細胞株を用いた2回目の耐性選択により、一連の新規および臨床的に関連する二重変異体の両方を得た(表8)。H30N/F98Y変異体およびF98Y/H149R変異体を含む菌株が臨床的に単離されたので、単一変異体対応物(F98Y、H30NおよびH149R)を含む、これらの変異型酵素および細菌の適応性の完全な特性評価が、生化学的レベル、構造的レベルおよび細胞レベルで行われた。
【0139】
6×MIC 1を含有するIsosensitest(Oxoid)寒天プレート上の前駆細胞株の一晩培養物(およそ1012CFU/mL)100μLをプレーティングし、37℃で18時間インキュベートして、耐性菌株を選択した。単一のコロニを単離し、コロニPCR産物を直接配列決定して、dfrB遺伝子を同定した。コロニPCRのために、0.1Mトリス、pH7.5中の1mg/mLリゾスタフィンおよび20μg/mLプロテイナーゼKを用いて、細胞を溶解させた。標準的PCR条件に従って、センスプライマ(5’−ATGACTTTATCCATTCTAGTTGC−3’)、アンチセンスプライマ(5’−TTATTTTTTACGAATTAAATGTAG−3’)およびrTaqポリメラーゼ(Takara)を用いて、遺伝子を増幅した。PCR産物をPromega Wizard SV GelおよびPCR Clean Upシステムを用いて精製し、センスプライマを用いて配列決定した。
【0140】
変異頻度1は、得られたコロニの数を、各前駆細胞株の総接種物(1×1011CFU/mL)で割って決定した。特異的変異の頻度は、阻害剤−菌株対の変異頻度に、特異的変異を含む配列決定されたコロニの数を掛けることによって決定した。
【0141】
(最少阻害濃度(MIC))
最小阻害濃度は、Isosensitest Broth(Oxoid)中の5×10CFU/mLの最終接種物を用いて、標準微量希釈ブロス20アッセイのためのClinical and Laboratory Standards Instituteのガイドラインに従って測定した。MICは、増殖を視覚的に阻害する阻害剤の最低濃度として定義した。37℃で18時間培養した後、A600で増殖をモニタした。Presto Blue(Life Technologies)を用いて比色分析によりMICを確認した。10μg/mLのチミジンを追加したIsosensitestブロスを使用して、全てのオフターゲット抗菌活性を測定した。
【0142】
(増殖曲線)
LB培地(50mL)に一晩培養物1mLを接種した。30分ごとに、A600で増殖をモニタした。倍加時間は、増殖曲線の直線部分から以下の式によって決定した:
【数1】
【0143】
(Sa(F98Y、H149R)およびSa(H149R)DHFR酵素の生成、発現および精製)
Sa(F98Y)、Sa(H30N)およびSa(F98Y、H30N)DHFR酵素の生成、発現および精製については、先に報告している15,16。Sa(H149R)およびSa(F98Y、H149R)DHFRプラスミドの生成は、pET−41a(+)構築物中のSa(WT)およびSa(F98Y)を使用し、QuikChange Lightening Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)により、センスプライマ5’−CTAGATGAGAAAAATACAATTCCACGTAC−3’およびアンチセンスプライマ5’−CGAATTAAATGTAGAAAGGTACGTGGAAT−3’を、製造者の指示に従って使用して実施した。変異誘発は、配列決定により確認した。組換えSa(H149R)およびSa(F98Y、H149R)酵素は、先に報告した手順により、1mM IPTGを含む大腸菌BL21(DE3)(Invitrogen)細胞で過剰発現させた。1xBugBuster(Novagen)およびDNaseA(ThermoFisher Scientific)を用いてペレットを溶解し、ニッケルアフィニティークロマトグラフィ(5Prime)を用いて精製した。タンパク質を、PD−10カラム(GE Healthcare)を用いて、20mM Tris pH7.0、20%グリセロール、0.1mM EDTA、2mM DTTを含む緩衝液中で脱塩し、分注して−80℃で保存した。
【0144】
【表10】
【0145】
化合物Aに曝露された各菌株全体の変異頻度平均は、6×MICで化合物1の濃度を有する複数のプレート上に現れる接種物およびコロニの数に基づいて計算した。Sa43300は、2.96×10−10の非常に低い頻度で化合物Aに対するMICの上昇を示す。全体の変異頻度は、F98YおよびH149Rを有する前駆細胞株に対して6.56×10−11および3.75×10−11の比率で、さらに低くなる。次いで、特定の変異頻度を、特定の変異を有する配列決定されたコロニの数に基づいて計算した。二重変異体の生成が段階的な方式で起こる場合、組み合わせられた変異の頻度は、10−21と低い可能性がある。倍加時間で測定した細菌の適合度の評価は、倍加時間を維持したか、またはわずかに改善したSa(F98Y/H149R)を除いて、大部分の変異株が、増殖時間においてわずかな損失(野生型の1.08−1.2倍の倍加時間)のみを示すことを示している。(表8)。全体的に、これらの研究は、野生型と比較した場合、変異株が比較的適合していることを示している。
【0146】
組換え変異体DHFR酵素は、野生型酵素の部位特異的変異誘発によって生成し、アフィニティークロマトグラフィを用いて精製した。Michaelis−Menten反応速度論は、先にフレイ(Frey)らが公表したアッセイ条件(2010)を用いて、各酵素について測定した(表9)。全体として、Sa(H149R)以外の全ての酵素は、野生型値のおよそ2倍以内のkcat/K値を有する。Sa(H149R)は、有意に低下したkcat/K値(6分の1に減少)を有し、これは、DHFおよびNADPHの両方についてより高いK値を有する結果である。興味深いことに、Sa(F98Y/H149R)酵素により、DHFおよびNADPHのK値がほぼ野生型の値に回復するので、二重変異体Sa(F98Y/H149R)は、単一Sa(H149R)変異体の低効率を補う。この補償的関係は、二重変異体Sa(F98Y/H30N)でも観察される。単一H30N変異は、NADPH K(31.21〜79.89μM)の有意な低下を被り、このK値は、二重Sa(H30N/F98Y)変異体において野生型に近い値に復元する。
【0147】
【表11】
【0148】
<実施例12>
[変異型黄色ブドウ球菌のPLA阻害剤]
表10に示す化合物を、変異型黄色ブドウ球菌の阻害剤として評価した。化合物A〜Fは、先に開示されている。
【0149】
【表12】
【0150】
表10の化合物の阻害効果を、以下のDHFR結合アッセイを用いて測定した。酵素阻害アッセイを、20mM TES、pH7.0、50mM KCl、0.5mM EDTA、10mM β−メルカプトエタノール、および0.1mM NADPHおよび2μg/mL 酵素を用いた1mg/mL BSAを含有するアッセイ緩衝液中で、室温で340nmの吸光度により、DHFRによるNADPH酸化速度をモニタして行った。DMSO中の阻害剤を酵素:NADPH混合物に添加し、5分間インキュベートした後、50mM TES、pH7.0中の0.1mM DHFを添加した。阻害剤濃度および体積は、酵素活性の50%低下をもたらす条件に基づく。
【0151】
酵素反応速度論は、DHF KおよびVmaxについては20μMのNADPHを伴う12.5〜100μMのDHFを使用する、またはNADPHのKについては50μMのDHFを伴う12.5〜100μMのNADPHを使用する酵素活性アッセイによって生成したLineweaver−Burkeプロットによって決定した。K値は、GraphPadを用いた非線形回帰分析によって決定した。表11は、WTおよび変異体DHFR酵素に対するPLA化合物の阻害定数K(nM)を開示する。
【0152】
【表13】
【0153】
表10の全ての化合物は、野生型と比較してほんのわずかの損失で、単一変異酵素Sa(F98Y)およびSa(H30N)に対して良好な効力(15nM未満のK値)を示す(表11)。化合物Bは、Sa(H30N)酵素に対する親和性の損失が最大で、12.6倍の損失であった。しかし、単一変異体Sa(H149R)に対する活性は、より損なわれた。TMPは、Sa(H149R)変異体に対して活性を69倍失う。PLAは、この酵素に対して、185nMのK値を有する化合物12から1649nMのK値を有する化合物Bまでの範囲の親和性を有する。興味深いことに、拘束されていない3’および4’メトキシ基を有する化合物3は、化合物Bと比較した場合、妥当な親和性(144nM)を維持し、柔軟性が変異酵素に対する親和性にとって重要であり得ることを示した。二重変異体Sa(F98Y、H30N)に対して、TMPの親和性の損失は、30倍である。一般に、ジオキサラン化合物(BおよびF)ならびに化合物C〜Eは、Sa(F98Y、H30N)二重変異酵素に対して親和性を有意に失う(180〜300倍の損失)。
【0154】
化合物15〜16、29、31〜32の設計は、保持されるアルギニンとの可能な相互作用を前提として、これらの変異酵素における補償的相互作用を提供する。喜ばしいことに、化合物29、16および31〜32は、二重変異体Sa(F98Y、H30N)酵素に対して、16〜45nMの範囲のK値を有し、はるかに大きな親和性を示す。化合物A〜F、60および15およびTMPは、107〜2059nMのK値を示すので、二重変異体Sa(F98Y、H149R)酵素に対する活性を維持することが明らかにより困難である。しかし、化合物31および32は、それぞれ、69および55nMのK値で、この酵素に対する有意な阻害を示す。ここでも、イオン化されたカルボキシレートの存在は、複合体の他の場所での接触の減少を補償するために、重要な追加の相互作用を提供することができるようである。
【0155】
黄色ブドウ球菌の野生型株および変異株(Sa(F98Y)、Sa(H30N)、Sa(H149R)、Sa(H30N、F98Y)およびSa(F98Y/H149R))の増殖の阻害についても試験した(表12)。TMPの抗菌活性は、単一の変異によっても明らかに損なわれ、二重変異株に対して50〜100μg/mLのMIC値に達した。PLA A〜F、60、15および29は、TMPより野生型株に対してより強力であり、多くは単一変異体に対してより強力であった(0.078〜5μg/mLの間のMIC値)。しかし、PLA A〜F、60、15および29も、DHFRの二重変異を有する株に対して有意な損失を被った。PLA16、31および32は、野生型株ならびに単一および二重変異体の両方を有する株に対して、優れた活性を有する。
【0156】
【表14】
図1
図2A
図2B
図2C
図2D