特許第6925555号(P6925555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6925555
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】針
(51)【国際特許分類】
   D05B 85/02 20060101AFI20210812BHJP
【FI】
   D05B85/02
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2021-65008(P2021-65008)
(22)【出願日】2021年2月16日
【審査請求日】2021年4月28日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】720000122
【氏名又は名称】橋崎 幸江
(72)【発明者】
【氏名】橋崎 幸江
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−319998(JP,A)
【文献】 実開平4−121877(JP,U)
【文献】 特開平11−347278(JP,A)
【文献】 実開昭61−176266(JP,U)
【文献】 特開平5−106088(JP,A)
【文献】 特開平7−34293(JP,A)
【文献】 米国特許第4667860(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00−97/12
B21G 1/00− 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金からなる針であって、陽極酸化処理により針穴周辺部が青紫色又は黄金色に着色され、照度計で測定した反射光の反射率が未処理の針に対して青紫色で20〜40%、黄金色で75〜90%であり、かつ針穴から針先にかけてグラデーションを有することを特徴とする針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫い針又はミシン針などの針に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシン針や縫い針などに用いる針は鉄系の鋼を素材として用いられている。一般に縫い針やミシン針はメッキを施されるのが普通であり、銀色(=単色)の針であるが、使用する場合には糸通しの際、針穴が周囲に同化され見えにくい。そのため針に糸を通すのが困難であり、また針を落とした場合その針の発見も難しいのが現状である。さらに針は一般的には単色であり、針の種類を直感で見分けることもできず、使用する針を探し出すにも手間がかかる等、多くの問題点がある。また一般的な針の素材はは鉄系の鋼であるため錆が発生するなどの問題点があった。また素材としてチタンを用いた針も存在するが、やはり針穴に糸を通す時には針穴が見にくくて、糸を通しにくいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−319998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
針として使用する際に糸通しのための針穴が見やすく、かつ、多数ある針について直感的に色やグラディエーションによる判別が可能で、かつ落とした場合にも見つけやすい針を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
チタン又はチタン合金からなる針であって、陽極酸化処理により針穴周辺部が青紫色又は黄金色に着色され、照度計で測定した反射光の反射率が未処理の針に対して青紫色で20〜40%、黄金色で75〜90%であり、かつ針穴から針先にかけてグラデーションを有することを特徴とする針
である。
チタンを素材とする場合、またはチタン合金を素材として針を形成することができる。チタン合金としては90%チタン、6%アルミニウム、4%バナジウルのものが良く知られていて、その構造は六方稠密構造と体心立方構造が共存しており、そのため加工が容易なだけでなく、強度が高くて使いやすい合金である。このような合金は、既存の鋼製の針と異なり製造過程での熱処理を必要とせず、そのまま縫い針やミシン針として使用することが可能であり、かつ陽極酸化も容易に施すことができることが知られている。また、現在はそれぞれの用途に合わせて多様なチタン合金が開発・使用されており、縫い針やミシン針の必要な強度に合わせ、多様なチタン合金を選ぶことができる。本発明はこのようなチタン又はチタン合金を用いて陽極電極酸化により針穴付近に特定の反射率を有する青紫色又は黄金色に着色し、かつ針全体にグラディエーションを施した針である。
針の形状や寸法は一般的に用いられる鋼製あるいはチタン製のものでよい。
【0006】
陽極酸化方法は公知の方法が用いることができ、青紫色又は黄金色に針穴部分をとなるよう着色する。陽極酸化に用いる装置については公知のものを用いることができる。この時、用いる電解質や濃度、時間はこのような色となるように適宜調整することができる。
チタン又はチタン合金の針を陽極酸化する方法は例えば図1の装置を用い、最終的な形状に加工されたチタン製の針をフッ酸等で表面処理し、複数の針の集合体にまとめて吊るし、陽極板2に接続した後、チタン線4に接続し、容器6中のリン酸等を主成分とする陽極酸化水溶液5に沈め、チタン線4を定電圧電源7の+端子に接続する。さらに、陰極板3もチタン線4に接続し、陽極酸化水溶液5に入れ、定電圧電源7の−端子に接続し、通電する。定電圧直流電源の電圧調整と目視により所定の色に到達したら、電源を切り、縫い針やミシン針(=複数)のセット1を電解研磨液から取り出し、良く水洗する。
【0007】
グラディエーションの付与方法は例えば図2に示すように、複数のチタン又はチタン合金の針を針穴を下にして吊り下げて陽刻酸化処理を行い、順次針を引き上げながらグラディエーションを与え、最終的に針穴部分を青紫色又は黄金色に着色する。また、針の種類に対応するグラディエーションをあらかじめ決めておくことにより瞬時に目的とする針を選択することができる。
この時、電解液は20%のリン酸水溶液で、電圧は0〜90ボルトで行った。
最終的に目的とする色が発現できるよう条件を調整すればよい。
グラディエーションを付与した針についての例を図3に示す。針の形状についてはどのようなものであってもよい。
【0008】
またグラディエーションの段数については3段階以上が好ましく、それぞれの針を容易に識別することができる。また床上に落ちた場合を想定しても容易に認識して拾い上げることができる。グラディエーションの段数については6段階以下が好ましい。理論上は6段階を超えても付与可能であるが、段数が多いと針の長さとの関係からか、区別がつけにくくなる問題があるためである。3〜6段であればそれぞれの針が混合したとしても容易に区別できて、目的とする針を容易にピックアップすることができる。
【発明の効果】
【0009】
針穴周辺部を青紫や黄金色の干渉色で発色させることにより、周囲に同化することなく容易に針穴を目視することができ、高齢者であっても容易に針穴に糸を通すことができる。また、グラディエーションがあることで針自体の区別がつけやすく、色とグラディエーションをあらかじめ決めておくことにより目的とする針を瞬時に選ぶことができる。更に針を落とした場合も見付け易く、探しやすいという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】 陽極酸化処理の方法を示した図である。
図2】 針にグラディエーションを付ける方法を示した図である。
図3】 針穴付近を濃くしたグラディエーションが付いた針の図である。
図4】 照度測定の方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施例でもって説明する。
【0012】
〔実施例1,2〕
[グラディエーション針の製造方法]
定電圧電源7のスイッチを切った状態で、図2のように、針穴を下にして全てをセットし処理物1とする。次に定電圧電源7の電圧を0Vに設定し、処理物(針の集合体)1を陽極酸化水溶液5に針先が少し出る所まで沈め、スイッチを入れ通電し、徐々に(a)から(d)のように処理物を引き上げて行く。それに同期させながら設定電圧を0Vから徐々に上げて行き、針先に近い部分では約10Vにして黄金色に、針の中央部では15V〜20Vにして濃茶色にし、最後に針穴の部分だけが陽極酸化水溶液に入っている状態になった時に丁度設定電圧が25V(または、30V)にすると青紫なるようにする。このように1本の針の長さ方向の陽極酸化皮膜の厚みが異なり、異なる発色即ちグラディエーションを付け、かつ針穴部分を青紫の干渉色にすることができる。
【0013】
また、同じような操作をしながら定電圧電源7の設定電圧を0Vから上げて行き、針先に近い部分で約10Vにして黄金色に、引き上げながら15V〜20Vにして濃茶色に、また針を引き上げ中央部分では約25Vにして青紫、更に針を引き上げ60V〜70Vにして水色から緑色にし、最後に針穴の部分だけが陽極酸化水溶液に入っている状態になった時に丁度80V(または、90V)にすると、針穴部分が金色の干渉色の針を得ることができる。
【0014】
[反射率の測定方法]
図4に示す位置関係にて測定した。試料のチタン針は、長さ50mm 最大直径1mmで、その針を一つの条件(=種類)に対しそれぞれ50本用意し、それを隙間なく並べ、針束50mm×50mmを試照度測定の試料とした。それらを未加工品、青紫色、黄金色と3種類用意した。また、照度計は周囲の影響を受けるため、それぞれの針束に対し照度が変化しない背景色の紙を選び、その背景色の紙の上に針束を置いて反射率を測定した。本測定の光源はPanasonic製 型番 SQ−LC526、照度計は名称DIGITAL LUX METER 型番 LX−1010Bを使用した。この時、照度計を上向きにして測った照度は1,324ルックスであった。
針束を蛍光灯の下に置き、それぞれ反射光を測定する。敷紙として白段ボール紙を用いた場合、下地に対する照度は467ルックス、未加工品の照度は405ルックス、黄金色は360ルックス、青紫色は108ルックスであった。即ち、未処理のチタン針に対して黄金色は約89%、青紫色は約27%であった。
【0015】
[針穴糸通し性評価]
市販の木綿針と、チタン針に陽極酸化でグラディエーションを施しかつ針穴を黄金色及び青紫色に着色した針で糸通し性を評価した。使用した糸は白色木綿糸30/3である。
40から80歳台の女性9名を集め、それぞれの針と糸を用いて糸通しに必要な時間を測定した。
その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
この測定は、1,880ルックス下で行った。
市販の針では、針穴の縁と糸がぶつかり、糸先がほずれてしまう結果が多く見られた。また、表中の0は0秒で即糸が通った事を示し、「−」は糸を通すことが出来なかった事を示す。
市販の針に糸を通す時間の平均値は、糸を通せなかった項(−)を除いて求めた。
このように、陽極酸化を施したチタン針は、市販の針より遥かに容易に糸を通すことができる効果は顕著にみられる。
【0018】
この方法により陽極酸化した針の例を図3に示す。
(a)針穴が濃くなるように途中からグラディエーションを持つ陽極酸化処理された針
(b)針穴が濃くなるように全領域でグラディエーションを持つ陽極酸化処理された針
(c)針穴と溝部分が濃くなるように陽極酸化処理されたミシン針
(d)針穴が濃くなるようなグラディエーションを持つ陽極酸化処理されたミシン針
である。
3段階にグラディエーションを付けた針はそれぞれ別のグラディエーションを付けた針と混合しても一見して区別ができ、床上においても簡単に識別することができた。
【符号の説明】
【0019】
1 処理物(縫い針又はミシン針)
2 陽極板
3 陰極板
4 チタン線(陽極酸化される金属線)
5 陽極酸化水溶液
6 容器
7 定電圧電源
8 蛍光灯
9 照度計
10 試料
11 背景
【要約】      (修正有)
【課題】針として使用する際に糸通しのための針穴が見やすく、かつ、多数ある針について直感的に色による判別が可能で、かつ落とした場合にも見つけやすい針を提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金からなる針であって、陽極酸化処理により針穴周辺部が青紫色又は黄金色に着色され、照度計で測定した反射光の反射率が未処理の針に対して青紫色で20〜40%、黄金色で75〜90%であり、かつ針穴から針先にかけてグラデーションを有することを特徴とする。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4