(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のモータは前記リングギアに接続されており、前記第2のモータは前記サンギアに接続されており、前記プロペラは前記キャリアに接続されていることを特徴とする請求項1記載の船舶推進装置。
前記プロペラの出力が相対的に小さい低出力領域では、前記第1のモータのみで前記プロペラを駆動し、前記プロペラの出力が相対的に大きい大出力領域では、前記第1のモータ及び前記第2のモータで前記プロペラを駆動するように制御を行う制御部を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の船舶推進装置。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には船舶推進装置の発明が開示されている。この発明の船舶推進装置は、それぞれ入力軸を有する船舶用の推進装置としての内燃機関及びモータジェネレータと、出力軸に設けられたプロペラを有し、これら2本の入出軸と出力軸を接続する遊星歯車機構のギヤボックスを備えている。この発明によれば、負荷トルクと基準値を比較し、その結果に応じてジェネレータモータによる発電量を制御し、またジェネレータモータのアシスト出力を制御する。この発明によれば、船舶を推進する内燃機関の出力トルクを一定に保持して燃費を向上する効果が得られるものとされている。
【0003】
下記特許文献2には可変側装置の発明が開示されている。この発明の可変側装置は、ポンプなどの一般産業機械における可変速装置であり、遊星歯車を用いて2入力軸、1出力軸の構成例や、1入力軸、2出力軸の構成例が開示されている。各軸とも回転速度が可変であり、変速機構として流体継手を備えており、遊星歯車と流体継手を組合わせることにより効率を向上させることができるものとされている。また、回転速度範囲を変えるために滑り率を制御可能なクラッチを設けている。この発明によれば、最適設計を容易にし、従来以上に効率を高めることが可能とされている。
【0004】
特許文献3には船舶推進装置の発明が開示されている。この発明の船舶装置は、プロペラを駆動するため、インバータにより回転制御する副電動機と、スリップクラッチにより回転制御を行う電動機の2つの電動機を有する。プロペラ回転速度が所定回転速度未満の場合には、低出力の副電動機を小容量の汎用インバータにより制御してプロペラを回転させる。その際、主電動機駆動系統において、on−offクラッチを遮断することでスリップクラッチ入力軸には回転を伝達しない。プロペラ回転速度が所定回転速度以上になった場合には、駆動源を副電動機ら主電動機切り換えてon−offクラッチを連結し、回転速度をスリップクラッチより制御してプロペラを回転させる。
【0005】
また、従来の船舶推進装置において、可変ピッチプロペラと比べて制御が不要で安価な固定ピッチプロペラを採用した場合、プロペラの回転速度を0から定格回転までの全領域で制御して推進力を可変とする技術としては、上述した特許文献3のような電動機駆動による電気推進が知られていた。電動機駆動による電気推進においては、プロペラの回転速度を変えるために電動機を可変速制御する必要があり、そのためにはインバータが必要となる。船舶のプロペラを駆動できるような大出力を得ることができ、且つ船舶の船内電源を安定化する為には、フィルタのような高調波抑制手段が必要であり、このような高調波抑制手段を有するインバータは汎用品としては取り扱われておらず、特注品として取得せざるを得ず高価である。このため、プロペラと内燃機関を直結した船舶推進装置に比して、電気推進の需要は少ないという現状があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された船舶推進装置は内燃機関を用いており、この内燃機関は任意に変速することが可能であるのに対して、内燃機関とプロペラの間に変速機構の遊星歯車を介することにより歯車の分だけ効率が悪くなる。本文献では内燃機関とモータに遊星歯車を用いることで、プロペラの回転速度の全領域で効率よく制御する手法が記されていない。
【0008】
特許文献2に記載された可変速装置によれば、変速機構として遊星歯車のみを採用した場合には、入力軸を一定速とするとプロペラの回転速度を0から定格回転速度までの全領域において効率よく制御することができないため、変速機構として、流体継手や、滑り率が制御できるスリップクラッチを用いているが、流体継手もスリップクラッチもスリップロスが発生するため効率の良い制御を行うことはできなかった。
【0009】
特許文献3に記載された船舶推進装置によれば、電動機駆動による電気推進であるが、前述したような特注品のインバータは必要ではないが、運転時には高負荷領域で主電動機の回転速度をスリップクラッチで制御してプロペラに伝える構造であるため、スリップロスが発生して効率が悪くなるという問題があった。
【0010】
本発明は以上説明した先行技術における課題を解決するものであり、高価な特注品のインバータを必要としない2台のモータを駆動源とし、遊星歯車機構を介してプロペラを駆動する構造を採用することにより効率的な駆動制御が行える安価な船舶推進装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された船舶推進装置は、
互いに係合するリングギアと、サンギアと、キャリアに搭載されたプラネットギアとを有する遊星歯車機構と、
前記リングギアと前記サンギアと前記キャリアの何れかに接続されてインバータで駆動される第1のモータと、
前記リングギアと前記サンギアと前記キャリアのうち、前記第1のモータに接続されていないものに接続されて一定速度で駆動される第2のモータと、
前記リングギアと前記サンギアと前記キャリアのうち、前記第1のモータ及び前記第2のモータに接続されていないものに接続されたプロペラと、
を具備することを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載された船舶推進装置は、請求項1記載の船舶推進装置において、
前記第1のモータは前記リングギアに接続されており、前記第2のモータは前記サンギアに接続されており、前記プロペラは前記キャリアに接続されていることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載された船舶推進装置は、請求項2記載の船舶推進装置において、
前記第2のモータに設けられたクラッチと、前記クラッチと前記サンギアの間に設けられたブレーキとを有することを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載された船舶推進装置は、請求項2記載の船舶推進装置において、
前記第2のモータに設けられたクラッチと、前記クラッチと前記サンギアの間に設けられた逆転防止機構とを有することを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載された船舶推進装置は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の船舶推進装置において、
前記プロペラの出力が相対的に小さい低出力領域では、前記第1のモータのみで前記プロペラを駆動し、前記プロペラの出力が相対的に大きい大出力領域では、前記第1のモータ及び前記第2のモータで前記プロペラを駆動するように制御を行う制御部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び2に記載された船舶推進装置によれば、次のような効果が得られる。すなわち、フィルタ等の高調波抑制手段を有する特注品のインバータはサイズが大きく、相応の設置スペースを確保する必要があるが、一定速度で駆動する第2のモータについては特注品のインバータは不要であり、このためスペース確保が不要となり、そのスペースを他の用途(例えば作業船であれば荷物を置くスペースなど)に使える。また、2つのモータを使用し、プロペラ出力に応じた効率的な制御を行うことにより、電動機を駆動する発電機関の燃料消費量が削減出来る。
【0017】
請求項3に記載された船舶推進装置によれば、第2のモータにクラッチを設け、クラッチとサンギアの間にブレーキを設けたため、プロペラの駆動動力が途切れず、安定的な航行が可能である。
【0018】
請求項4に記載された船舶推進装置は、第2のモータにクラッチを設け、クラッチとサンギアの間に逆転防止機構を設けたため、プロペラの駆動動力が途切れず、安定的な航行が可能であるとともに、プロペラを正回転の方向にのみ駆動することができる。
【0019】
請求項5に記載された船舶推進装置によれば、低出力領域では第1のモータのみでプロペラを駆動し、大出力領域では第1のモータと第2のモータでプロペラを駆動するため、プロペラ出力に応じた効率的な制御を行うことが可能となり、電動機を駆動する発電機関の燃料消費量を一層削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態である船舶推進装置の概略構成図である。
【
図2】実施形態の船舶推進装置の駆動系統の概略構成図であり、低速時の駆動力伝達状況を示す図である。
【
図3】実施形態の船舶推進装置の駆動系統の概略構成図であり、高速時の駆動力伝達状況を示す図である。
【
図4】ソラー型の遊星歯車機構と、プラネット型の遊星歯車機構と、ソラー型の遊星歯車機構とプラネット型の遊星歯車機構を組み合わせた差動型の遊星歯車機構の各構造を示す模式図である。
【
図5】差動型の遊星歯車機構においてリングギアとサンギアが分担する動力の比率を一例として示すために、数値例におけるソラー型の遊星歯車機構のリングギアが分担する動力等と、プラネット型の遊星歯車機構のサンギアが負担する動力等を一例として示した計算例の表図である。
【
図6】実施形態の舶推進装置におけるプロペラ出力と軸回転速度の関係を示すグラフである。
【
図7】実施形態の舶推進装置におけるプロペラ回転速度とプロペラ出力の関係等を示すグラフである。
【
図8】実施形態の舶推進装置と比較例の船舶推進装置におけるプロペラ回転速度と発電機電力量の関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の第2の実施形態である船舶推進装置の概略構成図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態である船舶推進装置の駆動系統の概略構成図であり、低速時の駆動力伝達状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を
図1〜
図10を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の船舶推進装置1は、動力を伝達する垂直軸2を中心に水平なプロペラ軸3を旋回させて推進方向を設定する所謂アジマススラスターに係り、特に2台のモータ(電動機)A、Bをギアボックス4内の遊星歯車機構5を介してプロペラ軸3に接続し、プロペラ6の出力に応じてモータA、Bを切り替えて効率的な制御を行うことができる船舶推進装置1に関するものである。
【0022】
主として
図1〜
図5を参照して本実施形態の船舶推進装置1の構成を説明する。
図1に示すように、船舶の船尾の台床7の上面には減速機8が取り付けられている。減速機8の内部には、水平な伝達軸9と、伝達軸9の略中央部分の下方に設けられた垂直軸と、垂直軸2の一端側(上端側)と伝達軸9を連動連結する減速ギア10が設けられている。
【0023】
図1に示すように、台床7の下面側には、船舶の下方で旋回可能となるようにストラット11とケーシング12が取り付けられている。ストラット11及びケーシング12は図示しない旋回駆動機構で旋回させることができる。
【0024】
図1に示すように、垂直軸2は台床7及び船舶の船底を貫通してストラット11及びケーシング12内に配設されており、垂直軸2の他端側(下端側)には、変向機構13を介して水平なプロペラ軸3の一端側が連結されている。プロペラ軸3の他端側はケーシング12の外に突出しており、プロペラ軸3の他端側にはプロペラ6が取り付けられている。プロペラ6は固定ピッチプロペラである。なお、ケーシング12にはプロペラ6を囲む略円筒形のダクト14が取り付けられている。
【0025】
図1に示すように、船舶の内部には、第1入力軸21、第2入力軸22及び出力軸23を外方に突出させたギアボックス4が設けられている。出力軸23は減速機8の伝達軸9の端部に連結されている。
【0026】
図1に示したギアボックス4の内部には、
図2及び
図3に示すような遊星歯車機構5が収納されている。遊星歯車機構5は、リングギアRと、サンギアSと、キャリアCに搭載されたプラネットギアPとを備えており、これら3種類のギアが互いに噛み合っている。また、リングギアRには外歯が設けられており、外歯には駆動ギアDが噛み合っている。
【0027】
図2及び
図3に示すように、第1入力軸21の一端は駆動ギアDに連結されている。また、第2入力軸22の一端はサンギアSに連結されている。また、出力軸23の一端は、プラネットギアPが搭載されたキャリアCに連結されている。第1入力軸21の他端は、第1のモータとしてのモータAに連結されている。また、第2入力軸22の他端は、第2のモータとしてのモータBにクラッチ15を介して連結されている。第2入力軸22には、クラッチ15とサンギアSの間にブレーキ16が設けられている。
図2及び
図3に示すクラッチ15とブレーキ16は、
図1に示したギアボックス4の内部に設けられている。
【0028】
図2及び
図3に示すように、この遊星歯車機構5は、リングギアRと、サンギアSと、プラネットギアPと、キャリアCがすべて動作可能な差動型である。
図2に示すように、クラッチ15をOFF、ブレーキ16をONとしてサンギアSを固定すると、モータAが駆動ギアDを介してリングギアRを回動すれば、プラネットギアP及びキャリアCが回動して、プロペラ6が設けられた出力軸23が回動する。また、
図3に示すように、クラッチ15をON、ブレーキ16をOFFとした状態では、モータAが駆動ギアDによりリングギアRを回動し、モータBがサンギアSを回動することにより、プラネットギアP及びキャリアCが回動して、プロペラ6が設けられた出力軸23が回動する。運転の詳細は後述するが、低速時には
図2に示すようにモータAのみで運転し、高速時にはモータAの回転速度を下げるとともに、ブレーキ16を解除してクラッチ15を繋ぎ、モータBを一定速度で運転するとともに、モータAによって運転速度を調整する。
【0029】
図1に示すように、ギアボックス4の第1入力軸21には、モータAが連結されている。モータAは、高調波対策であるフィルタを含む汎用のインバータ17で制御されるインバータモータである。ここで汎用のインバータ17とは、インバータメーカーより標準的な製品として提供されるインバータであり、一般に入手可能な容量の範囲内のものが利用可能である。モータAはインバータ制御ではあるが、汎用のインバータ17でよいので価格は安くなり、フィルタも小さいため盤サイズは比較的小さく、設置スペースも小さくて済む。
【0030】
図1に示すように、インバータ17には抵抗器18が接続されており、プロペラ6がブレーキ16として作用し、モータAが発電する場合は抵抗器18でエネルギーを吸収する。
【0031】
図1に示すように、インバータ17は配電盤19に接続されており、配電盤19は1台以上の主発電機関20が接続された給電系統に接続されている。
【0032】
図1に示すように、ギアボックス4の第2入力軸22には、モータBが連結されている。モータBは、
図2及び
図3に示すように起動器25(スタータースイッチ)を備えており、この起動器25で起動すると三相交流により一定速度で駆動される交流モータである。
【0033】
図2及び
図3に示すように、本実施形態の船舶推進装置1は制御部30を備えている。この制御部30は、プロペラ回転速度を直接的または間接的に計測する図示しない回転速度センサに接続されており、回転速度センサからプロペラ回転速度の計測値を取得するように構成されている。
【0034】
図2及び
図3に示すように、制御部30は、モータAのインバータ17、モータBの起動器25、ブレーキ16及びクラッチ15に接続されており、取得したプロペラ回転速度に基づいてこれらを制御することができる。
【0035】
図4は、ソラー型の遊星歯車機構5aと、プラネット型の遊星歯車機構5bと、差動型の遊星歯車機構5の各構造を示す模式図であり、特に、差動型の遊星歯車機構5が、ソラー型の遊星歯車機構5aとプラネット型の遊星歯車機構5bを組み合わせたものであることを、加算の数式を比喩的に用いて示している。
図4では、プラネットギアPは1個のみを図示しているが、通常は複数個、例えば3〜4個である。また、
図4中の矢印は作動の方向を示しており、
図4ではプラネットギアPを搭載するキャリアCは図示していないが、プラネットギアPの中心から伸ばした矢印で公転(キャリアCの回転)を示している。
【0036】
図4の数式の左辺に示すように、ソラー型の遊星歯車機構5aは、サンギアSが固定であり、リングギアRと、プラネットギアPと、キャリアC(
図2及び
図3参照)が動作可能である。この状態は、モータAのみがリングギアRを駆動し、サンギアSに連結された第2入力軸22がブレーキ16で固定され、クラッチ15が切り離されてモータBが停止した状態であり、本実施形態ではモータAのみを駆動する低速時の状態に相当する。
【0037】
また、
図4の数式の左辺に示すように、プラネット型の遊星歯車機構5bは、リングギアRが固定であり、サンギアSと、プラネットギアPと、キャリアC(
図2及び
図3参照)が動作可能である。この状態は、モータAが停止してリングギアRが固定され、モータBがサンギアSを駆動してプラネットギアPとキャリアC(
図2及び
図3参照)を駆動しようとする状態であり、本実施形態ではモータBの駆動を開始する低速から高速への切り替え時の状態に相当する。
【0038】
図4の数式の右辺に示すように、本実施形態の差動型の遊星歯車機構5は、リングギアRと、サンギアSと、プラネットギアPと、キャリアCがすべて動作可能である。この状態は、モータAでリングギアRを駆動し、モータBでサンギアSを駆動し、キャリアC(
図2及び
図3参照)の回転によって出力軸23を回転させている状態であり、モータBを一定速度で駆動し、モータAで速度を調整している高速時に相当する。
【0039】
図5は、本実施形態の差動型の遊星歯車機構5において、ソラー型とプラネット型の各遊星歯車機構5a,5bの歯数を例示し、この歯数例に基づき、2つのモータA、Bに接続されたリングギアRとサンギアSがそれぞれ分担する動力の比率を算出して一例として示したものである。
【0040】
図5に示すように、ソラー型及びプラネット型の各ギアの歯数を、一例としてサンギアS70枚、プラネットギアP30枚、リングギアR130枚とする。これらの歯数から速度を算出すると、ソラー型の場合、サンギアSが0、プラネットギアPのキャリアCが588min
-1、リングギアRが904min
-1となる。また、プラネット型の場合、サンギアSが1750min
-1、プラネットギアPのキャリアCが612min
-1、リングギアRが0となる。従って、ソラー型とプラネット型を組み合わせた実施形態の差動型の遊星歯車機構5では、出力軸23であるプラネットギアPのキャリアCの速度は、ソラー型及びプラネット型の各遊星歯車機構5a,5bの各プラネットギアPのキャリアCの速度の合計であり、588min
-1+612min
-1=1200min
-1となる。そして、所望の出力を仮に100kWとした場合、この例では、ソラー型の遊星歯車機構5aのリングギアRの動力は49kWとなり、プラネット型の遊星歯車機構5bのサンギアSの動力は51kWとなる。従って、実施形態の差動型の遊星歯車機構5のリングギアRを駆動するモータAの動力は49kWとなり、サンギアSを駆動するモータBの動力は51kWとなり、サンギアSを駆動するモータBの動力の方がやや大きい。
【0041】
図6〜
図8を参照して本実施形態の船舶推進装置1の作用を説明する。
図6は、実施形態の船舶推進装置におけるプロペラ出力と軸回転速度の関係を示すグラフである。
図6に示すように、実施形態の船舶推進装置では、プロペラ出力が始動時の0kWから低出力領域では、
図6中に太実線で示すように、制御部30がモータAをインバータで駆動して船舶を推進する。この間、クラッチ15を切ってモータBは停止しており、ブレーキ16は作動してサンギアSが回動しないように第2入力軸22が固定されている。
【0042】
図6に示すように、プロペラ出力の低出力領域と高出力領域の境界に達すると、制御部30は、モータAの回転と出力を所定値まで落とすと共に、起動器25で始動したモータBを、
図6中に細実線で示すように所定の一定回転速度(実施形態では1750min
-1)で駆動し、モータAの低下した出力をモータBに負担させるように制御する。そして、高出力領域において、制御部30は、太実線で示すようにモータAをインバータで制御することにより、太破線で示すようにプロペラ出力を調整する。
【0043】
本実施形態によれば、モータBが駆動を開始した後において、モータAは、モータBの駆動に対してブレーキ16として作用することがない。本実施形態で採用した遊星歯車機構5によれば、プロペラの出力または軸回転速度によっては、モータAをモータBと反対方向に駆動しないと、プロペラが正方向に回転を上げていくことができない領域が生じてしまう場合があるが、本実施形態によれば、低出力領域と高出力領域で使用するモータの種類・組合せを適切に切り替えて駆動しているため、全回転領域においてモータAとモータBの出力の合計がプロペラの出力となっている。
【0044】
なお、低出力領域から高出力領域への移行におけるモータA,Bの切り替えは、以下に説明するように、ブレーキ16とクラッチ15を適切に制御することにより、安定的に行うことができる。すなわち、仮にクラッチ15がないとすると、モータBは常時サンギアSに連結されていることとなる。そうすると、低出力領域から高出力領域へ移行する際には、停止しているサンギアSに連結されたモータBが大きな慣性に抗して始動しなければならない。従って、モータBの出力軸23に負荷が連結されていない状態に比べれば、サンギアSに連結されたモータBが所定の一定回転速度にまで立ち上がるためには、より大きな電力を要する。ところが、本実施形態では、モータBの出力軸23とサンギアSの間にはクラッチ15がある。このため、低出力領域から高出力領域へ移行する際には、移行前に、クラッチ15を切った状態でモータBを必要最小限の電力で始動させ、必要な回転速度にまで立ち上げておくことができる。そして、移行のタイミングでブレーキ16を解除し、クラッチ15を接続して、モータA、Bからプロペラへ動力を円滑に伝達することができる。
【0045】
図7は、実施形態の舶推進装置におけるプロペラ回転速度とプロペラ出力の関係等を示すグラフであって、プロペラ回転速度に対するプロペラ出力のグラフと、モータAとモータBの出力と、効率を示している。プロペラ出力が始動時の0kWから低出力領域では、制御部30がモータAをインバータで駆動してプロペラ出力を制御している。プロペラ出力が低出力領域と高出力領域の境界に達すると、一定の回転速度でモータBを駆動し、モータAをインバータで調速してプロペラ出力を制御している。その結果、プロペラ出力はプロペラ回転速度に対して所謂三乗特性の関係となり、プロペラ回転速度が0から定格回転速度に至る全領域で遊星歯車の効率が98%前後の高値となり、燃料消費率が向上する。
【0046】
図8は、実施形態と比較例の各船舶推進装置におけるプロペラ回転速度と発電機電力量の関係を示すグラフである。ここで、比較例とは、[背景技術]の項で説明した「特許文献3」の船舶推進装置に相当し、インバータにより回転制御する副電動機と、スリップクラッチにより回転制御を行う電動機の2つの電動機を有するタイプの装置である。
図8のグラフから理解されるように、比較例の場合、プロペラ負荷が大きくなるにつれてスリップロス分が大きくなるため発電量が多くなり、しかも中途の回転速度で発電量が急増する不連続領域があって運転制御の円滑性に欠ける。しかしながら、本実施形態ではロスが少なく比較例よりも効率が良く、モータを駆動するための電力を発生させる発電機関の燃料消費量がより少なくて済む。
【0047】
図9は、本発明の第2の実施形態である船舶推進装置の概略構成を示す図である。第2実施形態では、第1実施形態の減速機8に替えて、遊星歯車機構5を内蔵するギアボックス4を台床7上に設け、遊星歯車機構5の出力軸23を垂直軸2に連結した。その他の構成は第1実施形態と同様である。第2実施形態によれば、駆動機構を縦型に配置したため、船内に配置する機器類の省スペース化を図ることができる。
【0048】
図10は、本発明の第3の実施形態である船舶推進装置の駆動系統の概略を示す構成図である。この図は、低速時の駆動力伝達状況を示す図であって、第1実施形態の
図2に相当する図である。第3実施形態では、第1実施形態のブレーキ16に替えて逆転防止機構としてのワンウエイクラッチ40が設けられている。ワンウエイクラッチ40の外輪を固定とし、内輪を駆動軸とすることで、プロペラ6の正回転の方向にのみ駆動軸が回転可能となっている。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、2基のモータ(電動機)A,Bで船舶を推進する船舶推進装置1において、一方のモータBを汎用の交流電動機として一定速度で駆動することとし、他方のモータAを小さい汎用のインバータ17で駆動する交流電動機として速度を制御するものとし、さらに両モータA,Bとプロペラ6の連結のためにブレーキ16とクラッチ15を含む遊星歯車機構5を用いたので、特注品の高価なインバータが不要であり、設置スペースの節約が可能となり、プロペラ6の駆動動力が途切れない安定的な運転とプロペラ出力に応じた効率的な制御によってモータA,Bを駆動する発電機関の燃料消費量を削減することができる。
【0050】
なお、以上説明した実施形態では、モータAはリングギアRに接続されており、モータBはサンギアSに接続されており、プロペラ6はキャリアCに接続されていたが、必ずしもこの構成は必須とは言えない。遊星歯車機構5のリングギアRと、サンギアSと、プラネットギアPを搭載したキャリアCの何れかをプロペラに連結し、のこりの2つをモータA及びモータBに連結してもよい。