特許第6925967号(P6925967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6925967セルフロッキング光電子ピンセット及びその製造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925967
(24)【登録日】2021年8月6日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】セルフロッキング光電子ピンセット及びその製造
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20210812BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20210812BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210812BHJP
   G02B 21/32 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C12M1/26
   C12M1/42
   C12M1/00 A
   G02B21/32
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-508505(P2017-508505)
(86)(22)【出願日】2015年8月14日
(65)【公表番号】特表2017-525358(P2017-525358A)
(43)【公表日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】US2015045387
(87)【国際公開番号】WO2016025901
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年8月14日
(31)【優先権主張番号】62/038,150
(32)【優先日】2014年8月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/181,627
(32)【優先日】2015年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤジア・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ユフェイ・マオ
(72)【発明者】
【氏名】ペイ−ユ・イー・チオウ
(72)【発明者】
【氏名】チ・オン・チュイ
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−537729(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/074367(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0258383(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0101960(US,A1)
【文献】 Lab on a Chip, 2013, Vol.13, No.12, pp.2278-2284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルフロッキング光学ピンセットデバイスであって、以下:
第1の電極及びオンとオフを光学的に切り替え可能である複数の環状及び/または非円形のフォトトランジスタを備える基板であって、外部の電圧源によって前記デバイスの基板への電圧を印加すると、前記環状または非円形のフォトトランジスタで負の誘電泳動(DEP)力が発生し、細胞または粒子を補足し、前記DEPは、前記フォトトランジスタに光が照射されると、環状または非円形のフォトトランジスタで局所的にオフになり、捕捉された細胞または粒子を放出する、基板と、
第2の電極を含む表面であって、前記表面は、前記基板と前記表面との間でチャンバまたはチャネルを画定するように配置され、前記チャンバまたはチャネルは細胞または粒子を含有する流体を受容する及び/または保持するように構成される、表面と
を備え、
前記フォトトランジスタは、nドープされた及びpドープされた領域が前記基板上に環状及び/または非円形を形成するように配置されたnpn型またはpnp型フォトトランジスタのいずれかであり、
前記環状及び/または非円形が、環状、正多角形、楕円形及び豆の形状からなる群から選択される、
セルフロッキング光学ピンセットデバイス。
【請求項2】
前記基板が、環状または豆の形状のフォトトランジスタを含むドープされたp型の基板であり、前記環状または豆の形状のフォトトランジスタの中心と前記環状または豆の形状のフォトトランジスタの外側の領域とが、nドープされているか、または
前記基板が、環状または豆の形状のフォトトランジスタを含むドープされたn型の基板であり、前記環状または豆の形状のフォトトランジスタの中心と前記環状または豆の形状のフォトトランジスタの外側の領域とが、pドープされている、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記基板の上面が、前記環状または非円形形状の中心で導体膜への開口を備えた絶縁体でコーティングされており、
前記絶縁体は、場合によっては、SU−8またはその他のフォトレジスト、PDMS、二酸化ケイ素、Al及び窒化ケイ素からなる群から選択される材料を含み、及び/または
前記絶縁は、場合によっては、暗状態において約50%の部分的な電圧リークを提供するように構成されており、及び/または
前記絶縁体は、場合によっては、Al含み、前記絶縁体を含むAlの厚さは、場合によっては、約30nmである、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
細胞または粒子の捕捉方法であって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイスのチャンバ内に細胞または粒子を誘導し、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記基板を含む環状トランジスタで前記細胞または粒子を捕捉することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互対照
本願は、2014年8月15日出願の米国特許出願第62/038,150号及び2015年6月18日出願の米国特許出願第62/181,627号の利益及び優先権を主張し、これら双方は、その全体がすべての目的に関して本明細書に参照により組み込まれる。
【0002】
政府支援の表明
本発明は、国立科学財団により与えられた助成金番号第1232279号の下で、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において、特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
光電子ピンセット(OET)は、様々な生物学的用途における単一の細胞及び粒子の並行操作のために開発されてきた(Chiou et al.(2005)Nature436(7049):370−372.)。例えば、光電子ピンセット(OET)は、単一の細胞及び粒子の動的操作のために開発されてきた(Chiou et al.(2005)Nature,436(7049):370−372)。OETは、半導体性及び金属性のナノワイヤ(Jamshidi et al.(2008)Nature Photonics,2(2):86−89),マイクロ/ナノビーズ(Ota et al.92013)Nano Letts.,13(6):2766−2770;Glaesener et al.(2012)Optics Letts.,37(18):3744−3746;Zarowna−Dabrowska et al.(2011)Optics Express,19(3):2720−2728),DNA(Jamshidi et al.(2009)Nano Letts.,9(8):2921−2925)及び生体細胞(Jeorrett et al.(2014)Optics Express 22(2):1372−1380;Shah et al.(2009)Lab on a Chip,9(12):1732−1739)を捕捉し操作するために使用されることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chiou et al.(2005)Nature436(7049):370−372.
【非特許文献2】Jamshidi et al.(2008)Nature Photonics,2(2):86−89
【非特許文献3】Ota et al.92013)Nano Letts.,13(6):2766−2770
【非特許文献4】Glaesener et al.(2012)Optics Letts.,37(18):3744−3746
【非特許文献5】Zarowna−Dabrowska et al.(2011)Optics Express,19(3):2720−2728
【非特許文献6】Jamshidi et al.(2009)Nano Letts.,9(8):2921−2925
【非特許文献7】Jeorrett et al.(2014)Optics Express 22(2):1372−1380
【非特許文献8】Shah et al.(2009)Lab on a Chip,9(12):1732−1739
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
典型的なOETの設定においては、多数(例えば、15,000超)の個別に処理可能な光トラップが低導電性媒体(約0.01S/m)において1mmの領域全体に形成されることができる。しかしながら、OETの実用性は生理学的緩衝液との不適合及び操作処理量が低いことによって妨げられてきた。以前は、縦型のフォトトランジスタベースのOET(Hsu et al.(2010)Lab on a Chip,10(2):165−172)が緩衝液の不適合に関する問題を解決するために提案されてきた。しかしながら、OETを含むがこれに限定されないすべての光操作技術にとって、処理量が低いことは大きな問題となったままである。この根本的な制約は視界(FOV)と光学解像度との間のトレードオフから生じる。大きなFOVは、一般に、低開口数(N.A.)を有するレンズを使用することを意味する。しかしながら、このような低開口数のレンズは、必要な光画像鮮鋭度を提供して十分なトラップ力を生じる光強度勾配を作ることができない。これは、光ピンセットにおける直接的な光学力とOETにおける光誘導のDEP力の双方にあてはまる。したがって、単一の細胞または粒子を広範囲の領域で光学的に操作することは、強力な光ビームを用いてもほぼ不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書にて企図される様々な実施形態は、以下を1つ以上含み得るがこれらに限定される必要はない。
【0007】
実施形態1:以下を備えるセルフロッキング光電子ピンセットデバイス:第1の電極及びオンとオフを光学的に切り替え可能である複数の環状及び/または非円形のフォトトランジスタを含む第1の基板であって、前記フォトトランジスタと第1の基板は、前記デバイスへの電圧を印加すると、前記環状または非円形のフォトトランジスタで負の誘電泳動(DEP)力を発生させ、前記フォトトランジスタに光が照射されると、環状または豆の形状(例えば、インゲンマメの形状)のフォトトランジスタのDEPをオフにするように構成される、前記第1の基板と、第2の電極を含む表面であって、前記表面は、前記第1の基板と前記表面との間でチャンバまたはチャネルを画定するように配置され、前記チャンバまたはチャネルは細胞または粒子を含有する流体を受容するか保持するように構成される、前記表面。
【0008】
実施形態2:前記フォトトランジスタが環状である、実施形態1に記載のデバイス。
【0009】
実施形態3:前記非円形のフォトトランジスタは豆の形状(例えば、インゲンマメの形状)である、実施形態1に記載のデバイス。
【0010】
実施形態4:前記フォトトランジスタは前記装置の平面に直交する電界を作る、実施形態1〜3に記載のデバイス。
【0011】
実施形態5:前記フォトトランジスタの環状または非円形部がpドープされている、実施形態1〜4に記載のデバイス。
【0012】
実施形態6:前記基板が、環状または豆部を含むドープされたp型基板であり、前記環状または豆の形状部の中心と前記環状または非円形部の外側の領域がnドープされている、実施形態1〜5に記載のデバイス。
【0013】
実施形態7:前記ドープされたp型基板は、ドープされたp型III−V族またはp型IV族材料である、実施形態6に記載のデバイス。
【0014】
実施形態8:前記ドープされたp型基板は、ドープされたp型シリコンである、実施形態6に記載のデバイス。
【0015】
実施形態9:前記nドープ領域は薄膜導体でコーティングされている、実施形態6に記載のデバイス。
【0016】
実施形態10:前記薄膜導体が、金、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケル、タンタル、パラジウム及び白金からなる群から選択される材料を1つ以上含む、実施形態9に記載のデバイス。
【0017】
実施形態11:前記フォトトランジスタの前記環状または非円形部がnドープされている、実施形態1に記載のデバイス。
【0018】
実施形態12:前記基板が、環状または非円形部を含むドープされたn型基板であり、前記環状または非円形部の中心及び前記環状または非円形部の外側の領域がpドープされている、実施形態1及び6に記載のデバイス。
【0019】
実施形態13:前記ドープされたn型基板は、ドープされたn型III−V族またはn型IV族材料である、実施形態12に記載のデバイス。
【0020】
実施形態14:前記ドープされたn型基板は、ドープされたn型シリコンである、実施形態12に記載のデバイス。
【0021】
実施形態15:前記pドープ領域は薄膜導体でコーティングされている、実施形態12に記載のデバイス。
【0022】
実施形態16:前記薄膜導体が、金、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケル、タンタル、パラジウム及び白金からなる群から選択される材料を1つ以上含む、実施形態15に記載のデバイス。
【0023】
実施形態17:前記基板の上面は、前記環状または非円形形状の中心で前記導体膜への開口を備えた絶縁体でコーティングされている、実施形態1〜15に記載のデバイス。
【0024】
実施形態18:前記絶縁体は、SU−8またはその他のフォトレジスト、PDMS、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び窒化ケイ素からなる群から選択される材料を含む、実施形態17に記載のデバイス。
【0025】
実施形態19:前記絶縁層は暗状態において約50%の部分的な電圧リークを提供するように構成される、実施形態17〜18に記載のデバイス。
【0026】
実施形態20:前記絶縁体は、酸化アルミニウムを含む、実施形態17〜19に記載のデバイス。
【0027】
実施形態21:前記絶縁体を含む酸化アルミニウム層の厚さは約30nmである、実施形態20に記載のデバイス。
【0028】
実施形態22:前記基板は、約1mmからまたは約5mmから、約10mmから、約50mmから、または約1cmから最大約500cmまで、または最大約200cmまでまたは最大約100cmまでまたは最大約50cmまでの範囲の寸法である、実施形態1〜21に記載のデバイス。
【0029】
実施形態23:環の直径または非円形形状の長軸は、サブミクロンの寸法(例えば、分子を捕捉するため)から大きな物体(例えば、細胞の凝集)を捕捉するため何百マイクロメートルまでの範囲にわたる、実施形態1〜22に記載のデバイス。
【0030】
実施形態24:環の直径または非円形形状の長軸は、約10から、または約20nmから、または約50nmから、または約100nmから、または約200nmから、または約500nmから最大約500μmまで、または最大約250μmまで、または最大約200μmまで、または最大約100μmまで、または最大約150μmまで、または最大約100μmまで、または最大約80μmまで、または最大約60μmまで、または最大約50μmまで、または最大約30μmまで、または約20μmまでの範囲である、実施形態1〜23に記載のデバイス。
【0031】
実施形態25:環の直径または非円形形状の長軸は約10μmから約20μmである、実施形態24に記載のデバイス。
【0032】
実施形態26:環の直径または非円形形状の長軸は約15μmである、実施形態24に記載のデバイス。
【0033】
実施形態27:環または非円形形状を形成する前記リングの厚さは約0.5μmから最大約10μmまでの範囲である、実施形態1〜26に記載のデバイス。
【0034】
実施形態28:環または非円形形状を形成する前記リングの厚さは約2μmから最大約8μmまでの範囲である、実施形態1〜26に記載のデバイス。
【0035】
実施形態29:環または非円形形状を形成する前記リングの厚さは約5μmである、実施形態1〜26に記載のデバイス。
【0036】
実施形態30:前記チャンバまたはチャネルは生理学的緩衝液を含有する、実施形態1〜29に記載のデバイス。
【0037】
実施形態31:前記チャンバまたはチャネルは等張緩衝液を含有する、実施形態1〜29に記載のデバイス。
【0038】
実施形態32:前記チャンバまたはチャネルは粒子を含有する、実施形態1〜31に記載のデバイス。
【0039】
実施形態33:前記チャンバまたはチャネルは細胞を含有する、実施形態1〜31に記載のデバイス。
【0040】
実施形態34:前記チャンバまたはチャネルは原核細胞を含有する、実施形態1〜31に記載のデバイス。
【0041】
実施形態35:前記チャンバまたはチャネルは細菌細胞を含有する、実施形態34に記載のデバイス。
【0042】
実施形態36:前記チャンバまたはチャネルは真核細胞を含有する、実施形態1〜31に記載のデバイス。
【0043】
実施形態37:前記チャンバまたはチャネルは昆虫細胞、哺乳動物細胞または鳥類細胞を含有する、実施形態36に記載のデバイス。
【0044】
実施形態38:前記チャンバまたはチャネルは卵子または胚子を含有する、実施形態1〜31に記載のデバイス。
【0045】
実施形態39:細胞または粒子の捕捉方法であって、前記方法は、実施形態1〜28に記載のデバイスのチャンバ内に細胞または粒子を誘導し、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧を前記第1の電極に印加して、前記基板を含む環状トランジスタの前記細胞または粒子を捕捉することを含む、前記方法。
【0046】
実施形態40:1つ以上のフォトトランジスタを照射して捕捉された粒子または細胞を放出することをさらに含む、実施形態39に記載の方法。
【0047】
実施形態41:前記電圧は交流電圧である、実施形態39〜40に記載の方法。
【0048】
実施形態42:前記電圧は、約0.5Vから約100Vppの範囲である、実施形態41に記載の方法。
【0049】
実施形態43:前記電圧の周波数は、約1kHzから約50MHzの範囲である、実施形態41〜42に記載の方法。
【0050】
実施形態44:前記チャンバまたはチャネルは生理学的緩衝液を含有する、実施形態39〜43に記載の方法。
【0051】
実施形態45:前記チャンバまたはチャネルは等張緩衝液を含有する、実施形態39〜43に記載の方法。
【0052】
実施形態46:前記チャンバまたはチャネルは粒子または粒子クラスタを含有する、実施形態39〜45に記載の方法。
【0053】
実施形態47:前記チャンバまたはチャネルは細胞または細胞クラスタを含有する、実施形態39〜45に記載の方法。
【0054】
実施形態48:前記チャンバまたはチャネルは原核細胞を含有する、実施形態47に記載の方法。
【0055】
実施形態49:前記チャンバまたはチャネルは細菌細胞を含有する、実施形態48に記載の方法。
【0056】
実施形態50:前記チャンバまたはチャネルは真核細胞を含有する、実施形態47に記載の方法。
【0057】
実施形態51:前記チャンバまたはチャネルは昆虫細胞、哺乳動物細胞または鳥類細胞を含有する、実施形態50に記載のデバイス。
【0058】
実施形態52:前記チャンバまたはチャネルは卵子または胚子を含有する、実施形態39〜45に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】パネルA〜Dは、SLOTの動作を概略的に示す。(a)試料ローディング。微粒子は、デバイスの表面上に分散されている。(b)セルフロッキング。一旦交流電圧が印加されると、微粒子は、リング形状の電極の中心にロックされる。(c)選択的放出。光ビームは単一の粒子を放出するために使用される。(d)最終パターン。単一の標的粒子が放出される。
図2】光照射を伴う場合と伴わない場合に電界の2乗のアイソサーフェス及びリングの電極におけるDEP力の方向を図化することにより、SLOTの動作原理を表すシミュレーションを示す。
図3A】1つの例示的なSLOTのプラットフォームの上面図及び側面図を示す。
図3B】1つの例示的なSLOTのプラットフォームの上面図及び側面図を示す。
図4】パネル(a)電圧がオフで光がオフの場合。2つの粒子がマイクロ流体チャネルを通って流れる。図4、パネル(b)電圧がオンで光がオフの場合。2つの粒子はセルフロックされている。図4、パネル(c)電圧がオンで光がオンの場合。粒子2が捕捉箇所から追い出されている。図4、パネル(d)電圧がオンで光がオフの場合。粒子1が同じ位置に留まっている一方で、粒子2は除去される。
図5】SLOTの1つの例示的な実施形態の動作パラメータを示す。セルフロッキング及び放出効果のシミュレーションである。
図6】直流電力(488nmのレーザ、10V)下の一実施形態の光電子特性を示す。
図7】セルフロッキングプロセスの試験を示す。
図8】単一の細胞のロックと、PBS中の蛍光標識細胞の放出を示す。
図9】セルフロッキング光電子ピンセット(SLOT)プラットフォームの一実施形態を概略的に示す。プラットフォームは、DEP力を誘発するための光センサとしてのリング形状、横型のフォトトランジスタのアレイを利用する。高k誘電体層(例えば、30nmの酸化アルミニウム)はコーティングされ、暗状態で部分的な電圧リークを確保して単一の細胞のセルフロッキング機能を実現する。光照射は、ロッキング機能をオフにし、照射された細胞を放出する。
図10】SLOTのプラットフォーム上の光が照射された画素とダーク画素の電界分布及びDEP力の方向(矢)を表す数値シミュレーションの結果を示す。暗状態においては、負のDEP力は、細胞を電極の中心にロックするであろう。明状態では、ロックされた細胞は、電極の中心から押し出される。
図11】SLOTのプラットフォーム上のリング形状のトランジスタの暗電流及び光電流を示すI−V曲線測定の結果を示す。3桁の大きさの光電流の増加が観察され、通常の細胞培養培地(約1S/m)における動作を実現する。オレンジ色の基準線は細胞培養培地の伝導度を指す。それぞれ、明状態より10倍低く、暗状態より10倍高い。
図12】パネル(a)〜(d)は、SLOTのプラットフォーム上での10μmの微粒子の操作を示す。パネル(a):FOV全体の微粒子のセルフロッキング。約120,000個の粒子が1cmのチップ全体においてセルフロックされている。パネル(b)及び(d):粒子の個別操作。パネル(c):5×3の粒子アレイの形成。
図13】SLOTのプラットフォーム上の通常の細胞培養培地(DMEM)における単一の細胞の操作を示す。右:位置1から位置6への単一の標的細胞の移動。左:位置1から位置2への単一の標的細胞の移動の詳細。
図14】SLOT動作における異なる絶縁層の効果の比較を示す。部分的な電圧リークは、絶縁層と流体伝導率の異なる9つの組み合わせのために計算される。計算に基づいて、セルフロッキングと放出機能を同時に達成する点においては、30nmの酸化アルミニウムは1S/mの高伝導性媒体内のその他の2つの絶縁層より性能が優れているべきであるという結論に達した。
図15A】パネル(a)〜(c)は、SLOTの非円形のフォトトランジスタを示す。パネル(a):製造プロセスはSLOTと同一である。しかしながら、非円形のSLOTの一実施形態において、P領域(青色の領域)は、円形の代わりに「豆」の形状(例えば、インゲンマメの形状)で設計されている。緑色の領域は、電極液接触のための高k誘電体コーティング上の開口領域を表す。パネル(b):非円形SLOTのシミュレーション。
図15B】パネル(c):段階的に円形に沿った粒子の移動(2Mhz、0.1S/m、5Vpp)。
【発明を実施するための形態】
【0060】
様々な実施形態では、セルフロッキング光電子ピンセット(SLOT)が提供される。本明細書で記載されたセルフロッキング光電子ピンセット(SLOT)のプラットフォームは、広範囲の領域における単一の細胞及び微粒子の操作における光パターンのぼけの問題を克服する。本明細書で記載されたSLOTのプラットフォームは、広範囲の領域における生理学的緩衝液またはその他の緩衝液(例えば、DEP技術において一般に使用される等張緩衝液)中の単一の細胞あるいは微粒子を簡便かつ効果的な操作を提供する。SLOTは、とりわけ、体外受精のための希少細胞または粒子の分取、組織工学、及び単一の細胞または粒子の操作が望ましい様々なその他の状況において使用されることができる。
【0061】
これまでのあらゆるOETのプラットフォームは、正または負の何れかのDEPトラップを形成する光ビームの投影を必要とすると考えられている。これは、細胞及び粒子は光ビームの存在なしでは捕捉されないことを意味する。光ビームを用いて細胞を捕捉するには、2つの基準を満たす必要がある。第1には、光の強度は、仮想電極を作り細胞を捕捉するために十分な電界を誘発するために十分な強度を必要とする。第2には、通常無視されるが広範囲の領域での単一の細胞の操作に非常に重要である要因は、投影された光のパターンの鮮鋭度である。仮想電極をオンにするのに十分な強度であっても、ぼけた光のパターンは、DEP力は電界強度の勾配に直線的に比例するため、細胞の操作のために十分な大きさのDEP力を生成することができない。ゆっくりと変化する強度特性を有するぼけた光のパターンは、細胞を効果的に捕捉し操作するのに十分なDEP力を生じる、十分な大きさの電界勾配を生成しない。
【0062】
投影された光のパターンの鮮鋭度(または解像度)は、光学系の開口数(N.A.)によって決定される。効果的なOETの操作のために良好な鮮鋭度を維持するためには、10×の対物レンズが通常、たいていのOETのプラットフォームで使用される。しかしながら、10×の対物レンズのみが1〜2mmの視界(FOV)を有する。より低いN.A.の凸レンズを使用して操作領域を増加することは可能であるが、これはホログラフィックの約1cmのOETで示されているような操作力の犠牲が大きい(Hsu et al.(2010)Lab Chip,19(2):165−172)。その結果、OET上で単一の細胞の操作領域をさらに拡張することはほぼ不可能であると考えられている。高い光学解像度のパターンと広い視野操作との間のトレードオフは、基本的な物理的障壁である。
【0063】
本明細書で記載されたセルフロッキング光電子ピンセットは、非常に広範囲の領域、ウエハの寸法に応じて場合により何百cmにわたって光ビーム及び供給可能な電力を使用して、高解像度の単一の細胞の操作機能を提供するためのこのような基本的な障壁を回避することが可能な、新しい光操作手法及びプラットフォームを提供する。
【0064】
様々な実施形態では、SLOTシステムは、1つ以上の「上部」電極、下部フォトトランジスタ及び流体チャネルまたはチャンバ(例えば、マイクロ流体チャネル)をその間に備える。図1は、SLOTのプラットフォームの動作原理を概略的に示す。第1に、図1(a)に示されているように、粒子または細胞は、上部電極とフォトトランジスタ基板との間のチャネルまたはチャンバに導入される(マイクロ流体チャネルを通って流れる)。上部及び下部の電極は外部の電圧源(例えば、ファンクションジェネレータ)に接続される。一旦交流電圧が印加されると、図1(b)に示されているように、誘電泳動(DEP)トラップ(負のトラップと粒子は弱電界領域にロックされる)が形成され、個々の粒子または細胞(または粒子若しくは細胞のクラスタ)を隣接するリング(環状)のフォトトランジスタにロックするであろう。光学観察(例えば、蛍光、暗視野、位相差など)は、対象とする粒子または細胞を同定するために実行されることができる。次に、図1(c)に示されているように、光ビームは、標的のフォトトランジスタで制御された電極を照射して、負のDEPトラップを一時的に停止する局所的光電流を増加する。最後に、図1(d)に示すように、標的の粒子(複数可)または細胞(複数可)は、ロック箇所(複数可)から放出され、下流の収集及び分析のために流体の流れによって搬出される。あるいは、標的の粒子(複数可)または細胞(複数可)は、さらに検査及び/または操作をするために保持されることが可能である。
【0065】
コンピュータシミュレーションが設計プロセスで概念を検証するために使用された。COMSOLは、図2に示すようにSLOTの動作原理をシミュレーションするために使用された。負のDEPトラップは、交流電圧が印加されると環状のフォトトランジスタで形成された。交流周波数は、印加された電圧の一部が広範囲の電極領域でSU−8の絶縁体を通って漏れることが可能になるように選択された。このように粒子または細胞は暗状態でリングのフォトトランジスタにロックされることができる。光ビームが大きな電極を浮島電極に接続するフォトトランジスタを照射すると、浮電極をオンにして、絶縁体によって覆われた広範囲の電極領域よりも島電極領域においてより強い電界を作る。これは負のDEP力によってロックされた粒子をはじく。
【0066】
上記のように、SLOTにおけるセルフロッキング機能は、暗状態のバックグラウンドにおいて部分的な電圧リークによって実現され得る。このリーク電圧は、絶縁層の厚さ、その誘電率、動作交流周波数及び媒体伝導率を含む、いくつかのパラメータに依存する。これらの関係を理解するには、簡単な塊素子モデルは、9つの異なる条件下で液体層及び絶縁層の全面の電圧降下の割合を計算するために利用された。理想的なSLOTの動作状態では、絶縁層は、十分に強力なセルフロッキング力は暗状態で提供されることができるように、約50%の部分的な電圧リークを可能にすべきであるが、一方、十分な電界強度勾配を維持して明状態に捕捉された細胞をはじくように作成される。図14は、1μmのSU−8、30nmの二酸化ケイ素及び30nmの酸化アルミニウムの絶縁層についての暗状態におけるリーク電圧の降下の計算結果を示し、それぞれが0.01S/m、0.1S/m及び1S/mの電気伝導率を有する媒体中にある。高伝導性媒体(1μm SU−8+1S/m)において厚い誘電体層を使用する1つの極端な場合では、絶縁層の全面でたいていの電圧が降下するためセルフロッキング機能はない。低導電性媒体(30nmの酸化アルミニウム+0.01S/m)において高kかつ薄膜の誘電体を使用する別の極端な場合では、セルフロッキング機能は暗段階で強力であるが、媒体において約100%のリーク電圧が降下すると、捕捉された細胞をはじくのに必要な明状態での電界強度勾配を作る余地がないため、明状態においては放出機能が不可能である。したがって、絶縁層の厚さと材料の最適化及び動作媒体の適合がSLOT動作には重要であり、高k誘電体(例えば、30nmの酸化アルミニウム)は、特に導電性溶液(例えば、生理学的緩衝液溶液)中での動作に適している。
【0067】
絶縁体(誘電体層)の組成及び厚みは、製造の間に正確に制御されることができる。例えば、高k誘電体は、原子層蒸着(ALD)法を用いて正確に蒸着されることが容易であり得る。
【0068】
図3A及び図3Bは、SLOTプラットフォームの特定の実施形態の上面図及び側面図を示す。例示されたデバイスはp型のシリコン基板に製造される。リング形状パターンの電極はフォトリソグラフィによって形成された。大きな電極と島電極との間で、n型のイオン注入がnpnフォトトランジスタを製造するために行われた。10nmのチタン(Ti)の薄膜上に100nmの金(Au)が、電気接触のために基板上のp型の領域にパターン化された。p型のイオン注入をしたn型基板の製造によってもまた、pnp型のフォトトランジスタを製造して浮島電極を制御することが可能である。光検出器の構造はフォトトランジスタに限定されない。光導電体及び金属−半導体−金属(MSM)のような、その他の構造もまた原則的に機能する。最終のSU−8のパターニングは、流体接触のために浮島電極領域に開口を製造するために使用された。PDMS、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素等のような、その他の誘電体材料もまた、部分的に電気絶縁をするためのSU−8を置き換えるために使用されることができる。別のSLOTのプラットフォームの構造は図9に示されている。
【0069】
SLOTの試作品を成功裏に製造し、試験を行った。概念実証デバイスにおいて、0.1S/mの伝導率を有する通常の生理学的緩衝液または等張緩衝液に懸濁された微粒子(直径10μm)及び細胞で実験を行った。原理上は、SLOTは、適切に設計されたデバイスパラメータで脱イオン水から5S/mに変化する伝導性を有するその他の水性媒体においても機能する。
【0070】
図4は、SLOTのセルフロッキング及び選択的放出機能を示す。
【0071】
SLOTの独特的な特徴は、暗状態におけるセルフロッキング機能である。粒子または細胞の群がSLOTのプラットフォームに導入されると、光ビームの照射をせずに、負のDEP力によってリング形状(環状)のフォトトランジスタで制御された電極に個別にロックされる。光ビームが1つ以上の環状のフォトトランジスタを照射すると、これらのフォトトランジスタにおけるDEPトラップをオフして捕捉された微粒子または細胞を放出する。微粒子または細胞が暗状態でセルフロックされるため、多数のリング状のフォトトランジスタ及び関連する電極は、広範囲の領域(例えば、数十cmから数百cm)にわたって配置され、作動中の光ビームなしで何百万の粒子または細胞を捕捉する。
【0072】
限定された視界(FOV)であるが高い光学解像度を有する光照射システムは、ウエハ全体を走査して、順次に捕捉された細胞または粒子を選択的に放出することができ、現代のフォトリソグラフィに使用されるステッパーの概念と類似している。あるいは、特定の領域が照射され(例えば、マスクを用いて)、基板の選択された領域内のいくつかの細胞または粒子を放出することができる。その結果、SLOTの動作領域は、撮像及び光パターンの投影のための対物レンズのFOVに限定されない。比較のために、通常のOET動作においては、光照射なしで領域内の微粒子は、流体の流れによって洗い流されるであろう。
【0073】
さらに、照射システムを検出システムと連結させることによって、特定の細胞または粒子(例えば、特定の色やモルホロジーを有する細胞または粒子か、あるいは例えば特定の蛍光標識で標識を付けられた細胞または粒子)は、選択的に放出するか、または選択的に保持されることができる。このようにして、本明細書で記載されたSLOTシステムは、有効なソーター(例えば、細胞ソーター)として機能することができる。
【0074】
SLOTは環状(円形)のフォトトランジスタに関して上述したが、フォトトランジスタはこの形状に限定する必要はない。様々な実施形態では、非円形のフォトトランジスタが企図される。このようなフォトトランジスタは、とりわけその他の正多角形、楕円形トランジスタ及びインゲンの形状のフォトトランジスタを含むがこれらに限定されない不規則なフォトトランジスタを含むことができる。円形のフォトトランジスタの構成を使用して、細胞または粒子は対称のDEP力を受け、これは、放出の方向はバックグラウンドの流れの方向に排他的に依存することを意味する。非円形のフォトトランジスタの設計(例えば図15中のインゲン形状を参照)を使用して、非対称の電界を生成することができ、方向性のあるDEP力を生じる結果となる。非円形の設計の利点は、システムは外部の流体ポンプ装置すらなくても動作可能であることである。個々の非円形のフォトトランジスタをビルディングブロックとして使用して、多数の電極の組み合わせによって非常に強力になることが可能である。例えば、適切に制御されたレーザビームを用いて、単一の粒子は事前に設計された任意の経路(直線、ループ等)に沿って移動できる。
【0075】
非円形のフォトトランジスタの製造は、SLOTにおける環状のフォトトランジスタと同じである。異なっているのは、p領域の形状が非円形であり、一方、p領域の幅は同じままである設計プロセスにおいてである。
【実施例】
【0076】
実施例1
広範囲の領域における微粒子操作のためのセルフロッキング光電子ピンセット
本実施例は、広範囲の領域における単一の細胞及び微粒子の操作における光パターンのぼけの問題を克服する、新規のセルフロッキング光電子ピンセット(SLOT)のプラットフォームの設計及び製造を記載する。SLOTは、光学的にオンとオフが切替え可能なリング形状(環状)のフォトトランジスタのアレイを配置することによって実現される。単一の細胞及び微粒子は、光の照射なしで暗状態においてこれらの環状のフォトトランジスタにセルフロックされる。光ビームがリング形状の電極を照射すると、その電極におけるDEPトラップをオフにして捕捉された微粒子を放出する。細胞及び微粒子が暗状態でセルフロックされるため、多数の環状のフォトトランジスタは、数十cmまたは数百cmの広範囲の領域に配置され、何百万の単一の細胞を捕捉できる。限定された視界(FOV)を備える光照射システムは、ウエハ全体の捕捉された細胞を選択的に放出するために走査でき、現代のフォトリソグラフィに使用されるステッパーの概念と類似している。その結果、SLOTの動作領域は、撮像及び光パターンの投影のための対物レンズのFOVに限定されない。加えて、SLOTもまた、単結晶シリコンフォトトランジスタベースのプラットフォームである。通常の生理学的緩衝液における単一の細胞の操作に可能性を提供する。(Hsu et al.(2010)Lab Chip,10(2):165−172).
【0077】
デバイスの動作及び原理。
図1は、図3A及び図3Bに示されているSLOTのプラットフォームの例示的な構成の一実施形態の動作を概略的に示す。図示されているように、SLOTシステムは、電極を備える上面、下部フォトトランジスタ及び流体チャネルまたはチャンバ(例えば、マイクロ流体チャネル)をその間に備える。粒子または細胞は、例えばマイクロ流体チャネルを通って流れてプラットフォームに導入される。
【0078】
上部及び下部の電極(例えば図3Bを参照)は、電圧源(例えば、ファンクションジェネレータ)に電気的に接続される。一旦、電圧(例えば、交流電圧)が電極に印加されると、DEPトラップが形成され、個々の粒子(または細胞)を隣接するフォトトランジスタのリング電極にロックする。次に、光学観察(例えば、蛍光、暗視野、位相差など)またはその他の観察は、対象とする粒子または細胞を同定するために実行されることができる。次に、光ビームは標的のフォトトランジスタを照射して局所的光伝導率を増加し、一時的にそれぞれのDEPトラップを停止する。最後に、標的の単一の粒子または細胞(または粒子のクラスタか細胞のクラスタ)は、ロックされた箇所から放出され、下流の収集と分析のために例えば、連続的な流れによって搬送される。あるいは、標的の粒子または細胞(あるいは粒子のクラスタか細胞のクラスタ)は、分析またはさらに処理をするために保持され、好ましくない粒子または細胞(あるいは粒子のクラスタか細胞のクラスタ)が放出されることができる。
【0079】
ある実施形態においては、光ビームは個別のフォトトランジスタの箇所に向けられて、単一のDEPトラップに捕らえられた部分を放出することができる。ある実施形態においては、光ビームは、例えば多数のDEPトラップで捕らえられた部分を放出するためのマスクを使用して、複数のフォトトランジスタの箇所に向けられることができる。
【0080】
デバイスの製造及びシミュレーション
図3A及び図3Bは、例示的なSLOTのプラットフォームの上面図及び側面図を示す。例示されたデバイスはp型のシリコン基板(例えば、高度にドープされたp型基板上)に製造される。リング形状のパターンはフォトリソグラフィによって形成され、次にn型のイオン注入用のマスクとして使用される。10nmのチタン(Ti)薄膜上の100nmの金(Au)は、次に、基板上で蒸着され、次にSU−8のパターニングを行い、流体と電極接触するための開口を作る。図2に示すように、COMSOLがSLOTの動作原理をシミュレーションするために使用された。交流電圧のみが印加されると、負のDEPトラップがリング電極で形成される。交流周波数は、印加された電圧の一部が広範囲の電極領域でSU−8の絶縁体を通って漏れるように選択された。光ビームが大きな電極を浮島電極に接続するフォトトランジスタを照射すると、浮電極をオンにして負のDEP力によって捕捉された粒子をはじく強力な電界を島電極において作る。
【0081】
示されている構成は例示的なものであり限定的ではないことを理解すべきである。例えば、デバイスは環状のn−p−nフォトトランジスタを形成するために反転されたドープで構成されることができる。さらに、例えば本明細書で記載され特許請求されているように、寸法は変更することができる。
【0082】
1つの概念実証デバイスでは、0.1S/mの電気伝導率の等張緩衝液に懸濁された微粒子(直径10μm)で実験を行った。図4では、SLOTの単一の粒子をセルフロックし、選択的に放出することを実証した。SLOTは、広範囲の領域での動作を可能にするためにスケールアップすることができる。
【0083】
本明細書に示されているデータは、広範囲の領域上の単一の微粒子及び単一の細胞(または微粒子のクラスタと細胞のクラスタ)をセルフロックし、選択的に放出するための新規のSLOTのプラットフォームを実証する。1つの例示的な実施形態において、SLOTは、通常の生理学的緩衝液における単一の細胞操作の可能性のある単結晶のフォトトランジスタに基くOETシステムである。しかしながら、SLOTは単結晶シリコン上に必ずしも製造される必要はない。SLOTの粒子操作の概念は、非晶質またはポリシリコンに基づいた環状のフォトトランジスタ構造上で実現されることができる。III−V族材料のような、その他の半導体材料もまた使用されることができる。
例示的であるが限定的ではない実施形態の動作パラメータ
高感度SLOTの製造:
接合幅:2μm;
イオン注入:1e15cm−2200keV、4e15cm−215keV(表面);
アニーリング:1000°C、1時間
電極:チタン(10nm)上の金(100nm)
絶縁層:2μm。
セルフロッキング及び放出のシミュレーション(例えば図5を参照);
広範囲の領域にわたる自動的な単一の細胞の捕捉;
広範囲の領域にわたる選択的な単一の細胞の放出;
10Vpp(電圧)、10MHz(周波数)、20μm(デバイスのピッチ)、1S/m(媒体伝導率)。
光電子特性試験(例えば、図6を参照)。
直流電力下で1000倍の光伝導率の増加;
伝導率:オフ状態(0.005S/m)<<PBS媒体(1S/m)<オン状態(2S/m);
広範囲の領域のセルフロッキング効果の試験(例えば、図7参照)。
10Vpp(電圧)、10MHz(周波数)、20μm(デバイスのピッチ)、1S/m(媒体伝導率)。
通常のPBS緩衝液内の単一の細胞のセルフロッキング及び放出(例えば、図8を参照)
単一の細胞のセルフロッキング効果の観察;
蛍光標識された単一の細胞の選択的な放出の観察;
10Vpp(電圧)、10MHz(周波数)、20μm(デバイスのピッチ)、1S/m(媒体伝導率、PBS)。
【0084】
前述の実施形態は例示的であり、限定することを意図するものではない。変形は当業者によって認識されるであろう。例えば、デバイスに含まれる環状領域の寸法は、用途に依存し得る。約10μmの寸法の細胞(または粒子)を捕捉するために本明細書で示されている直径約15μmの環が好適である。より大きな細胞、細胞クラスタ、その他の細胞、卵子等の集まりを捕捉するためにより大きな寸法の環で十分であろう。より小さな粒子または細菌(例えば、約1〜2μm)を捕捉するためには、小さな寸法の環で十分であろう。したがって、ある実施形態においては、約1μmから、または約2μmから、または約5μmから、または約10μmから、または約15μmから約200μmまで、または約150μmまで、または約100μmまで、または約50μmまで、または約40μmまで、または約30μmまでの範囲の環の直径が企図される。ある実施形態においては、環は約5μmから約50μmまでの直径の範囲である。
【0085】
環状トランジスタを形成するドープされたリングの幅は、トランジスタの特性を制御するであろう。ある実施態様においては、環の厚さは、約0.5μmから最大約10μmの範囲である。より薄い環状リングは、電極をオンにするためにより低い光強度を使用することが可能なより高い光利得を提供できる。しかし、トレードオフは小さな電圧振幅であり、フォトトランジスタが光照射なしで高電圧下でオンにできるため動作できる。より大きな幅が使用される場合には、光利得がより低くなる可能性があるが、一方、より大きな細胞のトラップ力を得るために、高電圧でデバイスを動作させることができる。
【0086】
実施例2
広範囲の領域にわたるセルフロッキング光電子ピンセットを用いた細胞培養培地中の単一の細胞操作
本実施例は、広範囲の領域(例えば、図9を参照)にわたる細胞培養培地における、単一の細胞の操作のための新規のセルフロッキング光電子ピンセット(SLOT)を記載する。SLOTは、高スループットの単一の細胞の操作に対する、従来の光電子ピンセット(OET)の2つの大きな技術上の障壁を克服する。1つの例示的であるが限定的ではない実施形態においては、SLOTは、オンとオフを光学的に切り替えられることができる、横型のフォトトランジスタに基づいたリング形状の電極のアレイを配置することによって製造される。横型のリング形状のフォトトランジスタの設計により、高伝導性の媒体(1S/m)で操作することができ、広範囲の領域(>1cm)における単一の細胞の操作の基本的なぼけの光パターンの問題を克服する。
【0087】
動作の原理。
外部のファンクションジェネレータによって電力供給されたDEPトラップは、単一の細胞が光照射なしで暗状態にセルフロックされたリング形状の電極の周りに形成される。光ビームがリングの電極を照射すると、DEPトラップは照射された単一の細胞を放出するためにオフにされる。この動作機構は、並行して何百万もの単一の細胞を捕捉するためにウエハ全体にすらわたる超広範囲の領域にまで容易にスケールアップすることができる。SLOTの動作概念は、現代の微細加工において使用されるステッパーに類似している。光照射システムは、その他のFOV外の細胞がセルフロックされたままである一方、ウエハ全体を走査して、対象の細胞を放出することができる。
【0088】
シミュレーション及び製造
SLOTは、暗状態と明状態の2つの動作状態を有する。暗状態では、交流電圧のみが印加される。明状態では、交流電圧と照射光ビームの両方が印加される。SLOTが暗状態と明状態でどのように動作するかを理解するために、数値シミュレーションを行うことが有用である。図10は、数値シミュレーションされた電界強度分布及び光照射画素と周囲の暗画素のDEP力を示す。高周波数(10MHz)の交流バイアスが印加され、酸化アルミニウムの絶縁層(30nm)を通って部分的な電圧リークを作り、暗状態で負のDEPの単一の細胞トラップを形成する。DEP力は暗状態では電極の中心を指し、単一の細胞をロックする。逆に、明状態では、DEP力は電極の中心の外部を指し、それによって単一の細胞を放出する。これは、セルフロッキング及び選択的な放出が達成され得る基本的な理由である。セルフロッキングと光放出機能の分離は、SLOTを超広範囲の領域に拡張することを約束する。
【0089】
1つの例示的な実施形態において、デバイスはp型の高度にドープされた単結晶シリコン基板上に製造される。リング形状のパターンはフォトリソグラフィから生成され、n型のイオン注入マスクとしての役割をする。10nmの(チタン)金属薄膜上の100nm(金)は、基板に蒸着され、リフトオフプロセスが続く。最後に、電極と緩衝液を接触するために、5μmの円形の開口のアレイで30nmの酸化アルミニウムの薄膜をパターニングする。酸化アルミニウム薄膜を選択するのは、セルフロッキングと放出機能の両方を達成する上で重要な役割をするためであることは注目に値する。膜は、交流電圧からの電界が部分的に暗状態の薄膜を通って漏れ、セルフロッキング機能を可能にするように、薄く、高誘電率を有するべきである。生体適合性の両面テープは、商用の紙裁断機によりパターニングされ、そこを通って細胞の試料が導入可能なマイクロ流体チャネルとして機能する。チャネルの幅は約200μmである。従来の縦型フォトトランジスタの設計と異なり、1度のみのイオン注入を必要とし、トレンチ分離を必要としない横型のフォトトランジスタの設計を提案し、実現した。イオン注入のドーピング濃度及び厚さは最適化されている。横型の設計の最大の利点は、縦型の設計に比べ、DEPのトラップは、捕捉領域がウエハレベル全体に拡張されることが可能なように光照射にもはや依存しないことである。横型の設計の別の有用な点は、光子と電子の経路は分離されているため、光吸収とデバイスの構造を個別に調整する自由があることである。
【0090】
デバイスの特性
更に、レーザ走査システムと蛍光顕微鏡とを統合し、デバイス特性化及び動作条件の較正を行う。532nmで10mWの緑色のレーザが誘導され、labviewで制御された走査ミラーのセットを介してデバイスの表面上に集中させる。直線偏光子は、光の強度が0.5W/cmから5W/cmの間になるようにレーザ出力を調節するために使用される。
【0091】
実際のデバイスに沿って製造された円形の試験構造は、図11に示されているように電気特性化に使用された。I−V曲線は、1W/cmの照明強度で記録された。単結晶シリコンにおける高フォトトランジスタの利得及びキャリア移動度のため、10Vのピークツーピーク電圧下の暗状態におけるよりも、明状態で3桁高い光電流が確認された。細胞培養培地の伝導度を指す基準線(オレンジ色)もまた図化されており、暗状態でフォトトランジスタの抵抗値は、細胞培養培地のものに比べて少なくとも10倍大きいことを示す。一方、明状態のフォトトランジスタの抵抗値は10倍小さい。
【0092】
実験結果
図12に示されているように、1×1cmの領域に渡る細胞培養培地(DMEM)におけるSLOTの様々な操作機能を実証する。ここで、広範囲の領域のセルフロッキング、個別の移動及びアレイの形成を示す。図12のパネルaにおいては、超広範囲の領域でのセルフロッキングが実証される。全デバイスの動作領域は、1cm超である。しかしながら、単に顕微鏡のFOVの制限によって、一度に比較的小さな領域を観察することのみができる。
【0093】
上述の考察に基づき、セルフロッキング機能は、十分な電力が提供されている限り、効果的なセルフロッキング領域は全ウエハレベルにすら拡張されることが可能であるように、完全に観察から独立している。図12のパネルb及び図12のパネルdにおいては、単一の細胞の操作は投影されたレーザビームを通して達成される。多数の粒子は順次、放出される。図12のパネルcでは、微小粒子の5×3のアレイが形成される。
【0094】
1cmのSLOTプラットフォーム上で捕捉された約120,000個の粒子があり、そのそれぞれは順次検査され光学的に放出されることができる。注目すべきある実験の詳細は、超広範囲の領域のセルフロッキング及び放出を可能にするには、特に高導電性の細胞培養培地においては、デバイスが消費する電力は規格を容易に超えるため、汎用のファンクションジェネレータだけではもはや適切ではない可能性があることである。ここでは、12MHzの交流入力を増幅することが可能な高出力増幅器を使用する。
【0095】
通常の細胞培養培地での単一の細胞の操作は、多くの実際の生物医学用途には重要である。しかしながら、たいていのOETベースの技術は、低導電性媒体(通常約0.01S/m)においてのみ動作が可能である。増殖及び成長のような、正常な細胞の挙動は、通常の生理学的緩衝液(典型的には約1S/m)以外の媒体において期待されることができない。5μLの試料溶液(DMEMにおいて懸濁されたRamos)は、8MHz及び10Vppに設定された外部のファンクションジェネレータを備えるSLOTデバイスに導入される。対物レンズの視界内の光ビームは選択的に対象となる単一の細胞を放出することを示した。
【0096】
図13においては、非標的細胞がロックされたままであるのに対し、対象とする標的細胞がどのように位置1から位置6へと移動されたかを順を追って示す。最初は、2つの細胞はDEPトラップによってセルフロックされた。次に、レーザビームを標的細胞が配置されたところに移動した。これは照射されたフォトトランジスタで光電流が劇的に増加する結果となった。したがって、DEPトラップはオフになり、捕捉された細胞はバックグラウンドのマイクロ流体の流れによって放出された。トラップから細胞を放出するのに0.5秒未満かかる。一般的なバックグラウンドの流れの速度は50μm/秒であった。これらのパラメータは異なる実験条件によって変化する。
【0097】
SLOTの動作は、現代のフォトリソグラフィにおいて広く使用されている「ステッパー」の概念と類似する。SLOT基板に固定されたまたはプログラム可能な光パターンを投影する。対象とする細胞は、1つ1つまたはバッチ毎に放出されることができる。各電極の位置は事前に設計されているため、放出機能はリアルタイムの観察なく実行されることができ、これはSLOTが対物レンズの視界を超えてでも細胞を操作することができることを示している。
【0098】
結論
広範囲の領域にわたる細胞培養培地における、単一の細胞の操作のための新規のセルフロッキング光電子ピンセット(SLOT)を報告する。SLOTは、広範囲の領域での通常の生理学的緩衝液における単一の細胞の操作に対する、従来の光電子ピンセット(OET)の2つの主要な技術上の障壁に対処する。独特な横型でリング形状のフォトトランジスタの設計により、高伝導性媒体(>1S/m)の操作において高スループット(120,000個を超える粒子)操作が達成された。セルフロッキングの概念は、従来のOETの操作領域を1cmにまで、またはそれよりもさらに広範囲の領域にまで拡張するための鍵である。SLOTの潜在的な用途は、組織工学、創薬スクリーニング(Nilsson et al.(2009)Analytica Chimica Acta,649(2):141−157)、細胞間伝達、希少細胞分取及び体外受精(Valley et al.(2010)PloS One,5(4):e10160)を含む。
【0099】
本明細書に記載された実施例及び実施態様は説明のみを目的としており、それらに照らした種々の改良または変更は、当業者に対して示唆され、また、本出願の趣旨及び範囲内に、そして、添付された特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書で引用された全ての出版物、特許、特許出願は、その全体がすべての目的に関して参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15C