特許第6925984号(P6925984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925984
(24)【登録日】2021年8月6日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】無核細胞への物質の送達
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20210812BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 35/18 20150101ALI20210812BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20210812BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 31/70 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 31/74 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20210812BHJP
   A61K 31/718 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   C12M1/00 A
   A61K35/18 Z
   A61P33/06
   A61P7/06
   A61K45/00
   A61K38/02
   A61K31/70
   A61K31/7088
   A61K31/74
   A61K33/00
   A61K31/56
   A61K31/718
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-565959(P2017-565959)
(86)(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公表番号】特表2018-518961(P2018-518961A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】US2016041653
(87)【国際公開番号】WO2017008063
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2019年7月5日
(31)【優先権主張番号】62/190,677
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】シャレイ アーモン アール.
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン クラウス エフ.
(72)【発明者】
【氏名】アブシャー ジェームス ロビンズ
(72)【発明者】
【氏名】ナイルズ ジャカン クラレンス
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/119492(WO,A1)
【文献】 特表2014−533936(JP,A)
【文献】 特表2013−536848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12M
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無核細胞の細胞膜における摂動を引き起こすためのマイクロ流体システムであって、
内腔を画成し、バッファー中に懸濁された無核細胞がそれを介して通過できるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、前記マイクロ流体チャネルが、長さ、深さ、及び幅を含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、前記狭窄の幅が4μm未満である、前記マイクロ流体システムを用いて、無核細胞内にペイロードを送達するための方法であって、以下のステップを含む、前記方法。
圧力を無核細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの前記無核細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された前記無核細胞を、前記細胞変形狭窄を含む前記マイクロ流体チャネルを介して通過させるステップ;及び
前記無核細胞が前記狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で前記無核細胞をインキュベーションするステップ;
【請求項2】
無核細胞が
(i)健康な無核細胞である;または
ii)疾患無核細胞若しくは感染無核細胞である;
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
無核細胞が、赤血球、網状赤血球、または血小板のうちの1つまたは複数である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(i)幅が0.5μm〜4μmである;
(ii)長さが30μm以下である;
(iii)深さが1μm〜1mmである;
(iv)バッファーが無核細胞を膨潤させる低張バッファーである;及び/または
(v)チャネルの横断面が、円形、楕円形、細長いスリット、正方形、六角形、及び三角形からなる群から選択される;
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)幅が1μm〜3μmである;
(ii)長さが10μm〜30μmである;及び/または
(iii)深さが1μm〜20μmである;
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(i)幅が無核細胞の最大直径未満である;
(ii)長さが10μm〜20μmである;及び/または
(iii)深さが20μmである;
請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
幅が無核細胞の最大直径の20%〜99%である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
マイクロ流体システムが、複数のマイクロ流体チャネル及び/または複数の細胞変形狭窄を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(i)マイクロ流体システムが、並列または連続する複数のマイクロ流体チャネルを含む;
(ii)マイクロ流体システムが、複数の細胞変形狭窄を含み、
前記複数の細胞変形狭窄が同じマイクロ流体チャネル中で並列して配置される;及び/または
(iii)マイクロ流体システムが、複数の細胞変形狭窄を含み、
前記複数の細胞変形狭窄が同じマイクロ流体チャネル中で連続して配置される;
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
マイクロ流体システムが、細胞駆動装置をさらに含み、
(i)前記細胞駆動装置が、バッファーへ90psiを超える圧力を適用するように適合される;及び/または
(ii)前記細胞駆動装置が、圧力ポンプ、ガスボンベ、コンプレッサー、真空ポンプ、シリンジポンプ、蠕動ポンプ、ピペット、ピストン、キャピラリーアクター、ヒト心臓、ヒト筋肉、重力、マイクロ流体ポンプ、及びシリンジからなる群から選択される;
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ペイロード含有溶液が、タンパク質、ペプチド、小分子、核酸、脂質、炭水化物、マクロ分子、ビタミン、ポリマー、蛍光色素、フルオロフォア、カーボンナノチューブ、量子ドット、ナノ粒子、及び/またはステロイドのうちの1つまたは複数を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ペイロード含有溶液が、
(i)タンパク質またはポリマーを含む;
(ii)タンパク質及びポリマーを含む;
(iii)小分子またはタンパク質を含む;
(iv)小分子及びタンパク質を含む;あるいは
(v)クロロキン、アトバクオン−プログアニル、アルテメテル/リメファントリン(lymefantrine)、キニーネ硫酸塩、メフロキン、ヒドロキシクロロキン、プリマキン、キニジン、アルテスネート、アルテミシニン、スルファドキシン/プリメサミン(pryimethamine)、アモジアキン、スルホンアミド、ハロファントリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クリンダマイシン、ヒドロキシ尿素、ハイドレア、ビタミンE、L−グルタミン、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビル、トリ−ペプチド、またはテトラ−ペプチドのうちの1つまたは複数を含む;
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ペイロードが細胞内に含有されるように、無核細胞の摂動が停止するのを所定時間にわたって待機するステップをさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年7月9日に出願された米国仮特許番号第62/190,677号の優先権を主張し、その全体は参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府による資金援助を受けた研究の記載
本発明は少なくとも一部が、National Institute of Health(NIH)によって授与されたR01GM101420−01A1及びNIHによって授与されたRC1EB011187−02の下で政府助成により行われた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本明細書において記載される対象は、物質を無核細胞へ送達すること(例えばマクロ分子を赤血球細胞質へ送達すること)に関する。
【背景技術】
【0004】
成体ヒトはおよそ20〜30兆の赤血球(RBC)を所定の時間で有し、ヒト身体中の細胞の総数のおよそ4分の1になり、全血液量の40〜45%を構成する。RBCは無核であり(例えば核を欠損する)、血中循環においておよそ127日の半減期を有する。この長い半減期及び相対存在量のために、RBCは新規治療法プラットフォームのための魅力的な候補となる。臨床的に有益な機能を提供するようなRBCの修飾により、それらを使用して長期的な治療法上の利益を促進することができる。これらの治療法上の利益は、細胞内寄生生物(マラリアを引き起こすもの等)に対する治療の分野、及びRBC機能に影響する遺伝子欠損(例えば鎌型赤血球症)の治療において特に適用可能である。RBCの長い半減期は、合成担体よりも有意に長い薬物または治療の持続性を可能にすることができ、したがって薬物の持続放出の延長に加えて、最小の注入または投与を可能にする。赤血球はヒト身体中の大部分の部位にアクセスする能力を更に有し、特定の投与経路に制限され得る既存の治療レジメンの適用を拡張する可能性がある。更に、赤血球の寛容原性の性質に起因して、送達された物質は免疫応答を制御するために使用することができる。
【0005】
しかしながら、赤血球の特有な構造的な特性及び生理学的な特性がそれらの細胞質の中へ物質を送達することを困難にするので、赤血球の修飾はいくつかの難題を提示する。従来の技法(単独でエレクトロポレーション及びリポフェクション等)は、修復機構及びエンドサイトーシス経路の欠損に起因して、これらの細胞タイプには効果がない場合がある。浸透圧ショックを使用する代替の方法は、赤血球を死滅させるかまたは著しく不安定にさせて、赤血球の半減期を著しく低減させ得る。それゆえ、細胞の生存率または機能の損失なしに、化合物をRBC及び他の無核細胞のサイトゾルへ送達することを可能にするシステム及び方法が当技術分野で必要とされている。
【0006】
本明細書において記載される方法及びシステムは、他の方法に比較して、これらの細胞の生存率及び機能を維持しながらRBCの浸透の障害を克服した。急速変形ベースのマイクロ流体システムを使用して、異なるサイズのマクロ分子による赤血球のローディングが示されていた。この技法を使用するいくつかの哺乳類細胞(癌細胞株及び線維芽細胞等)への送達は以前に実証されていたが、特定のそれらのマイクロ流体システムのデザインはRBCと適合性がないが、これはプロセシングされる細胞タイプの劇的に異なる物理的特性に起因する。複数のパラメーターの最適化(より小さな狭窄サイズ、高圧、及び異なるバッファーのうちの1つまたは複数の使用が含まれる)を介して、物質をRBCへ送達することに成功した。更に、本発明の対象は、特定の物質だけではなく、様々な物質(核酸、タンパク質、小分子薬物等)を無核細胞のサイトゾルへ送達することを可能にできる。単純でスケールアップ可能な様式でRBCへロバストに送達することを可能にすることによって、本発明の対象を、物質を送達する様々な適用において実装して、赤血球疾患を研究し、治療法プラットフォームとしての赤血球の使用を促進することができる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の実施形態は、細胞膜における摂動を引き起こすためのマイクロ流体システムであって、内腔を画成し、バッファー中に懸濁された細胞がそれを介して通過できるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、該マイクロ流体チャネルが、長さ、深さ、及び幅を含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、該狭窄の幅が4μm未満である、該システムに関する。本開示のこの態様の一実施形態において、前記細胞は無核である。本開示のこの態様の一実施形態において、前記細胞は、赤血球(red blood cell)、赤血球(erythrocyte)、網状赤血球、または血小板のうちの1つまたは複数である。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、バッファー中に懸濁された前記細胞は、非修飾血液を含む。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、前記細胞は健康な細胞である。本開示のこの態様の一実施形態において、前記細胞は疾患細胞または感染細胞である。
【0008】
本開示のある特定の実施形態は、細胞膜における摂動を引き起こすための本明細書において記載されるマイクロ流体システムであって、内腔を画成し、バッファー中に懸濁された細胞がそれを介して通過できるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、該マイクロ流体チャネルが、長さ、深さ、及び幅を含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、該狭窄の幅が4μm未満である、該システムに関する。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の幅は0.5μm〜4μmである。本開示のこの態様の更なる実施形態において、狭窄の幅は3μm〜4μmである。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の幅は細胞の最大直径未満である。本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、幅は細胞の最大直径の約20%〜約99%である。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の長さは30μm以下である。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、長さは10μm〜30μmである。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の長さは10μm〜20μmである。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の深さは1μm〜1mmである。さらなる実施形態において、狭窄の深さは約20μmである。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の深さ及び狭窄の幅は等しい。
【0009】
本開示のある特定の実施形態は、細胞膜における摂動を引き起こすための本明細書において記載されるマイクロ流体システムであって、内腔を画成し、バッファー中に懸濁された細胞がそれを介して通過できるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、該マイクロ流体チャネルが、長さ、深さ、及び幅を含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、該狭窄の幅が4μm未満である、該システムに関する。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、マイクロ流体システムは複数のマイクロ流体チャネルを含む。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、マイクロ流体システムは、チャネルが並列して配置される複数のマイクロ流体を含む。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、マイクロ流体システムは複数の細胞変形狭窄を含む。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、マイクロ流体システムは、同じマイクロ流体チャネルにおいて連続して配置される、複数の細胞変形狭窄を含む。
【0010】
本開示のある特定の実施形態は、細胞膜における摂動を引き起こすためのマイクロ流体システムであって、内腔を画成し、バッファー中に懸濁された細胞がそれを介して通過できるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、該マイクロ流体チャネルが、長さ、深さ、及び幅を含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、該狭窄の幅が4μm未満である、該システムを包含する。本開示のこの態様のある特定の実施形態は、バッファー中に懸濁された細胞を細胞変形狭窄を介して通過させるために、バッファーへ圧力を適用するように適合させた、細胞駆動装置を更に含む、マイクロ流体システムを含む。本開示のこの態様の更なる実施形態において、細胞駆動装置は、バッファーへ90psiを超える圧力を適用するように適合される。本開示のこの態様の更なる実施形態において、細胞駆動装置は、120psiの圧力を適用するように適合される。本開示のこの態様のなお更なる実施形態において、細胞駆動装置は、圧力ポンプ、ガスボンベ、コンプレッサー、真空、シリンジ、シリンジポンプ、蠕動ポンプ、ピペット、ピストン、キャピラリーアクター、ヒト心臓、ヒト筋肉、重力、及びマイクロ流体ポンプを含む群から選択される。
【0011】
本開示のある特定の実施形態は、細胞膜における摂動を引き起こすためのマイクロ流体システムであって、内腔を画成し、バッファー中に懸濁された細胞がそれを介して通過できるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、該マイクロ流体チャネルが、長さ、深さ、及び幅を含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、該狭窄の幅が4μm未満である、該システムを包含する。本開示のこの態様の更なる実施形態は、チャネルの横断面が、円形、楕円形、細長いスリット、正方形、六角形、及び三角形からなる群から選択される、マイクロ流体システムを包含する。
【0012】
本開示のある特定の実施形態は、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、を含む方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、細胞は無核(a nucleate)である。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞は、赤血球、赤血球、網状赤血球、または血小板のうちの1つまたは複数である。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、バッファー中に懸濁された細胞は非修飾血液を包含する。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞は健康な細胞である。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞は感染細胞または疾患細胞である。
【0013】
本開示のある特定の実施形態は、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、を含む方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の幅は0.5μm〜4μmである。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の幅は3μm〜4μmである。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の幅は細胞の最大直径未満である。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の幅は細胞の最大直径の約20%〜約99%である。
【0014】
本開示のある特定の実施形態は、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、を含む方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、細胞へ適用される圧力は90psiより大きい。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、細胞へ適用される圧力は120psiである。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、バッファーは細胞を膨潤させる低張バッファーである。
【0015】
本開示のある特定の実施形態は、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、を含む方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、ペイロード含有溶液は、タンパク質、小分子、核酸、脂質、炭水化物、マクロ分子、ビタミン、ポリマー、蛍光色素、フルオロフォア、カーボンナノチューブ、量子ドット、ナノ粒子、またはステロイドのうちの1つまたは複数を含む。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、ペイロード含有溶液はタンパク質またはデキストランポリマーを含む。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、ペイロード含有溶液はタンパク質及びデキストランポリマーを含む。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、ペイロード含有溶液は小分子またはタンパク質を含む。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、ペイロード含有溶液は小分子及びタンパク質を含む。さらなる実施形態において、ペイロード含有溶液は、クロロキン、アトバクオン−プログアニル、アルテメテル/リメファントリン(lymefantrine)、キニーネ硫酸塩、メフロキン、ヒドロキシクロロキン、プリマキン、キニジン、アルテスネート、アルテミシニン、スルファドキシン/プリメサミン(pryimethamine)、アモジアキン、スルホンアミド、ハロファントリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クリンダマイシン、ヒドロキシ尿素、ハイドレア、ビタミンE、L−グルタミン、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、またはペンシクロビル、トリ−ペプチドもしくはテトラ−ペプチドのうちの1つまたは複数を含む。
【0016】
本開示のある特定の実施形態は、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、を含む方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、マイクロ流体チャネルの横断面は、円形、楕円形、細長いスリット、正方形、六角形、及び三角形からなる群から選択される。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、ペイロード含有溶液中での細胞のインキュベーションは、0.0001秒〜20分間にわたって細胞をインキュベーションすることを含む。
【0017】
本開示のある特定の実施形態は、感染または疾患を治療する方法であって、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、該ペイロードが細胞内に含有されるように、該細胞の該摂動が停止するのを所定時間にわたって待機することと、該細胞の投与を、それを必要とする患者に行うことと、を含む、該方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、細胞は無核である。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞は、赤血球(red blood cell)、赤血球(erythrocyte)、網状赤血球、または血小板のうちの1つまたは複数である。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、バッファー中に懸濁された細胞は非修飾血液を包含する。更なる実施形態において、細胞は健康な細胞である。ある特定の実施形態において、細胞は疾患細胞または感染細胞である。
【0018】
本開示のある特定の実施形態は、感染または疾患を治療する方法であって、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、該ペイロードが細胞内に含有されるように、該細胞の該摂動が停止するのを所定時間にわたって待機することと、該細胞の投与を、それを必要とする患者に行うことと、を含む、該方法に関する。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の幅は0.5μm〜4μmである。本開示のこの態様の更なる一実施形態において、狭窄の幅は3μm〜4μmである。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の幅は細胞の最大直径未満である。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、狭窄の幅は細胞の最大直径の約20%〜約99%である。
【0019】
本開示のある特定の実施形態は、感染または疾患を治療する方法であって、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、該ペイロードが細胞内に含有されるように、該細胞の該摂動が停止するのを所定時間にわたって待機することと、該細胞の投与を、それを必要とする患者に行うことと、を含む、該方法に関する。本開示のこの態様の更なる実施形態において、細胞へ適用される圧力は90psiより大きい。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞へ適用される圧力は120psiである。本開示のこの態様の更なる実施形態において、バッファーは細胞を膨潤させる低張バッファーである。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、マイクロ流体チャネルの横断面は、円形、楕円形、細長いスリット、正方形、六角形、及び三角形からなる群から選択される。更なる実施形態において、ペイロード含有溶液中での細胞のインキュベーションは、0.0001秒〜20分間にわたって細胞をインキュベーションすることを含む。
【0020】
本開示のある特定の実施形態は、感染または疾患を治療する方法であって、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、該ペイロードが細胞内に含有されるように、該細胞の該摂動が停止するのを所定時間にわたって待機することと、該細胞の投与を、それを必要とする患者に行うことと、を含む、該方法に関する。更なる実施形態において、ペイロード含有溶液は、タンパク質、小分子、核酸、脂質、炭水化物、マクロ分子、ビタミン、ポリマー、蛍光色素、フルオロフォア、カーボンナノチューブ、量子ドット、ナノ粒子、またはステロイドのうちの1つまたは複数を含む。ある特定の実施形態において、ペイロード含有溶液は小分子またはタンパク質を含む。ある特定の実施形態において、ペイロード含有溶液は小分子及びタンパク質を含む。ある特定の実施形態において、ペイロード含有溶液は、ヒドロキシ尿素、ハイドレア、ビタミンE、L−グルタミン、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビル、トリ−ペプチド、またはテトラ−ペプチドのうちの1つまたは複数を含む。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞は鎌型赤血球症に冒された細胞である。更なる実施形態において、ペイロード含有溶液は、クロロキン、アトバクオン−プログアニル、アルテメテル/リメファントリン(lymefantrine)、キニーネ硫酸塩、メフロキン、ヒドロキシクロロキン、プリマキン、キニジン、アルテスネート、アルテミシニン、スルファドキシン/プリメサミン(pryimethamine)、アモジアキン、スルホンアミド、ハロファントリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、またはクリンダマイシンのうちの1つまたは複数を含む。本開示のこの態様のある特定の実施形態において、細胞はマラリアを引き起こす寄生生物に感染している。更なる実施形態において、マラリアを引き起こす寄生生物はP.falciparumである。
【0021】
本開示のある特定の実施形態は、感染または疾患を治療する方法であって、圧力を細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体チャネルを介して通過させることであって、該狭窄の幅が4μm未満である、該通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過する前または後に所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、該ペイロードが細胞内に含有されるように、該細胞の該摂動が停止するのを所定時間にわたって待機することと、該細胞の投与を、それを必要とする患者に行うことと、を含む、該方法に関する。ある特定の実施形態において、該細胞の投与を必要とする患者は鎌型赤血球症を患っている。ある特定の実施形態において、該細胞の投与を必要とする患者はマラリアを引き起こす寄生生物に感染している。ある特定の実施形態において、該細胞の投与を必要とする患者はP.falciparumに感染している。
【0022】
本明細書において記載される対象の1つまたは複数の変形形態の詳細は、以下の添付の図面及び記載中で示される。本明細書において記載される対象の他の特徴及び利点は、説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1A及び図1Bは、物質(マクロ分子等)を無核細胞(RBC等)へ送達するために使用することができるマイクロ流体システム(5)の例を図示する。管状内腔を画成するチャネルを含む、マイクロ流体システム(5)が示される。マイクロ流体チャネルは、中心点(40)、入口部分(35)、及び出口部分(45)を備えた狭窄(15)を包含する。バッファー(25)中に懸濁された細胞(20)、狭窄(15)を介して通過する細胞(20として示される)、摂動された細胞(20)、及びプロセシング後の膜が破壊されたままの時間(τ)も示される。また、図1Bには、送達物質(30)及び送達された細胞(20)も示される。
図2図2A及び図2Bは、物質(マクロ分子等)を無核細胞(RBC等)へ送達するために使用することができるマイクロ流体システムの例を図示する。図2Aには、長さ(L)及び幅(W)を備えた狭窄、ならびに狭窄の角度(α)を含む入口部分を含む、マイクロ流体チャネルが示される。プロセシング後の膜が破壊されたままの時間(τ)及び送達物質(正方形)も示される。図2Bには、長さ、幅、及び深さを備えた狭窄を含む、マイクロ流体チャネルの別の概観図が示される。
図3図3A図3Cは、例示的なマイクロ流体システムを使用する、RBCへの物質の送達を図示する一連のプロット、及びRBCへの物質の送達の間の赤血球の一連の画像を示す。70kDaのデキストラン−フルオレセイン(図3A)及び10kDaのデキストラン−アロフィコシアニン(APC、図3B)が、2つのデバイスデザイン(1つは10μmの長さ−4μmの幅の単一の狭窄を備えたもの(10μm×4μm)、もう1つは30μmの長さ−5μmの幅の5つの狭窄を並列で備えたもの(30μm×5μm、×5))のうちの1つを使用して送達される。図3A及び図3B中のヒストグラムインサートは、送達されない集団と比較した、送達された集団(M1、図3A及びM7、図3B)を示す。図3Cは、寄生生物増殖の様々な期でのP.falciparum寄生生物の同調培養により感染させたRBCサンプルのギムザ染色のフィルム塗抹標本を示す。時点1(T1)はリング期寄生生物(侵入後<18時間)を反映し、時点2はトロホゾイト期寄生生物(<T1+8時間)を反映し、時点3はトロホゾイト期寄生生物(T1+22時間)、時点4はシゾント期寄生生物(T1+30時間)を反映する。
図4図4A図4Bは、10kDaのデキストラン−APC(図4A、左側パネル)、70kDaのデキストラン−フルオレセイン(図4A、中央パネル)、及び組換えシアン融合タンパク質(CFP)−黄色融合タンパク質(YFP)融合物(62kDaのCFP−YFP融合物)(図4A、右側パネル)の、トロホゾイト期のP.falciparum寄生生物に感染した(棒グラフの上部)または感染していない(棒グラフの下部)RBCへの、30μm×5μm、×5のデザインによるマイクロ流体デバイスを使用する送達を図示する。図4Bは、P.falciparumに感染し処理されていないRBCの写真を示す。
図5図5A図5Bは、図1A図1B及び図2A図2B中で記載及び示された例示的マイクロ流体システム(図5A)、脂質、ポリマー、ナノ粒子、RNA、DNA、抗体、タンパク質、不透過性小分子、及びフルオロフォアを含む例示的送達物質(図5B)を図示する。
【0024】
様々な図面中の同様の参照記号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において記載される対象は、多くの技術的な利点を提供し、治療法プラットフォームとしてのRBCの使用を可能にすることができる。赤血球は、血中循環中での長い半減期(最大127日)に起因して理想的な薬物担体であり得る。しかしながら、赤血球は、能動的膜回復プロセスの欠損(mRNAを転写することができない等)(Sharei et al.,Integr Biol(Camb).2014 Apr;6(4):470−475)、他の能動的プロセス(エンドサイトーシス等)の欠損に加えて、それらの柔軟な性質及び両凹面形に起因して操作することが特に困難であり得る。本発明の対象の例示的実装は、赤血球へ物質を送達するために、能動的エンドサイトーシスに依存せず、本明細書において記載されるシステムのための条件の特有の組み合わせを使用して、これらの難題を克服する。それゆえ、本発明は、能動的膜修復プロセスの欠損にもかかわらず、RBCがそれらの膜における摂動を回復させることができるという予想外の所見に、少なくとも部分的に基づく。
【0026】
本開示は、物質を無核細胞(RBC等)のサイトゾルへ送達できるマイクロ流体システム及び使用の方法に関する。特定の実施形態において、マイクロ流体システムは、内腔を画成し、バッファー中に懸濁された細胞がそれを介して通過することができるように構成される、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含み、該マイクロ流体チャネルは、幅、深さ、及び長さを含む少なくとも1つの細胞変形狭窄を含み、該幅は4μm未満である。
【0027】
本発明の実施形態は、化合物及び物質(例えばペイロードまたはカーゴ)を無核細胞(例えば赤血球)のサイトゾルへ送達する方法であって、圧力を無核細胞へ適用してペイロードの通過に十分な大きさの該無核細胞の摂動を引き起こすように、バッファー中に懸濁された該無核細胞を、細胞変形狭窄を含む本明細書において記載されるマイクロ流体チャネルを介して通過させることと、該細胞が該狭窄を介して通過した後に該ペイロードが該無核細胞のサイトゾルの中へ入ることを可能にする時間にわたってペイロード含有溶液中で該無核細胞をインキュベーションすることと、を含む、該方法にも関する。本発明の更なる実施形態は、感染または疾患を治療する方法であって、バッファー中に懸濁された無核細胞を細胞変形狭窄を含むマイクロ流体デバイスを介して通過させることと、所定時間にわたってペイロード含有溶液中で該細胞をインキュベーションすることと、該ペイロードが細胞内に含有されるように、該摂動が停止するのを待機することと、該細胞の投与を、それを必要とする患者に行うことと、を含む、該方法に関する。なお更なる実施形態において、前記ペイロード含有溶液は、マラリアまたは鎌型赤血球貧血症の治療において使用される薬物を含む。
【0028】
この明細書中の各々の実施形態は、特別に明記しない限り、必要な変更を加えて他の全ての実施形態へ適用されるべきである。
【0029】
本開示の詳細は、以下の添付の説明中で示される。本開示の実践または試験において、本明細書において記載されるものに類似するか等価である方法及び物質を使用することができるが、例示的な方法及び物質がここで記載される。本開示の他の特徴、対象物、及び利点は、説明及び特許請求の範囲から明らかになる。明細書及び添付された特許請求の範囲において、単数形は文脈が明確に指示しない限り複数も含む。特別に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって共通して理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中で引用されるすべての特許及び出版物は、それらの全体を参照によって本明細書に援用される。
【0030】
本明細書及び添付特許請求の範囲において使用される時、単数形「a」、「an」及び「the」には、特別に内容が明確に指示しない限り複数の参照が含まれる。
【0031】
本明細書において使用される時、「及び/または」という用語は、特別の指示のない限り、本開示において「及び」または「または」のいずれかであるように使用される。
【0032】
「約」という用語は、本明細書において使用される時、本技術分野における当業者に容易に公知となるそれぞれの値についての通常の誤差範囲を指す。本明細書における値またはパラメーターの「約」への参照は、その値またはパラメーターそれ自体に関する実施形態を含む(記述する)。
【0033】
本明細書を通して、文脈が特別に要求しない限り、「含む(comprise)」という単語、または変形(「含む(comprises)」または「含むこと(comprising)」等)は、明示された要素もしくは整数値、または要素もしくは整数値の群を包含するが、他の要素もしくは整数値、または要素もしくは整数値の群のいずれも除外しないことを示唆すると理解されることになる。
【0034】
上述の記載及び特許請求の範囲において、「〜のうちの少なくとも1つ」または「〜のうちの1つまたは複数」等の語句は、接続して列挙される要素または特徴の後に出現し得る。「及び/または」という用語は、列挙される2つ以上の要素または特徴においても出現し得る。かかる語句は、特別にそれが使用される文脈によって黙示的または明確に否定されない限り、列挙された要素もしくは特徴のうちのいずれかを個別に、または他の列挙された要素もしくは特徴のいずれかと組み合わせた列挙された要素もしくは特徴のうちのいずれかを意味するように意図される。例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つ」;「A及びBのうちの1つまたは複数」;及び「A及び/またはB」という語句は、各々「A単独、B単独、またはA及びBを一緒に」を意味するように意図される。3つ以上の項目を含む列挙項目についても同様に解釈されることが意図される。例えば、「A、B、及びCのうちの少なくとも1つ」;「A、B、及びCのうちの1つまたは複数」;及び「A、B、及び/またはC」という語句は、各々「A単独、B単独、C単独、A及びBを一緒に、A及びCを一緒に、B及びCを一緒に、またはA及びB及びCを一緒に」を意味することが意図される。加えて、「に基づく」という用語の上述及び特許請求の範囲での使用は、列挙されていない特徴または要素も許容可能であるように、「〜に少なくとも部分的に基づく」を意味するように意図される。
【0035】
マイクロ流体システム及びデバイス
本明細書において使用される時、「マイクロ流体システム」は、低体積(例えばμL、nL、pL、fL)の流体が、小体積の液体の離散的な処理を達成するようにプロセシングされるシステムを指す。本明細書において記載されるある特定の実装には、マルチプレックス化、自動化、及びハイスループットスクリーニングが含まれる。流体(例えばバッファー、溶液、ペイロード含有溶液、または細胞懸濁物)は、移動されるか、混合されるか、分離されるか、またはそうでなければプロセシングされ得る。本明細書において記載されるある特定の実施形態において、マイクロ流体システムを使用して、バッファー中に懸濁された細胞へ機械的狭窄を適用し、ペイロードまたは化合物が細胞のサイトゾルに入ることを可能にする細胞における摂動(例えば穴)を誘導する。
【0036】
本明細書において使用される時、「狭窄」は、入口部分、中心点、及び出口部分によって画成されるマイクロ流体チャネルの一部分を指し、この場合中心点は幅、長さ、及び深さによって画成される。本明細書において使用される時、「狭窄の幅」は、中心点でのマイクロ流体チャネルの幅を指す。いくつかの実施形態において、狭窄は約6μm未満の幅を有する。例えば、いくつかの実施形態において、狭窄は、約0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1μm、1.5μm未満、または2μm未満であり得る。いくつかの実施形態において、狭窄は約4μm未満の幅を有する。本発明のある特定の態様において、狭窄は約0.5μm〜約4μmの幅を有する。更なる実施形態において、狭窄は約3μm〜4μmの幅を有する。更なる実施形態において、狭窄は約2μm〜4μmの幅を有する。更なる態様において、狭窄は約3.9μm以下の幅を有する。更なる態様において、狭窄は約3μmの幅を有する。ある特定の実施形態において、単一細胞が一度で狭窄を介して通過するように、狭窄が構成される。
【0037】
本明細書において使用される時、「狭窄の長さ」は、中心点でのマイクロ流体チャネルの長さを指す。本発明のある特定の態様において、狭窄の長さは約30μm以下である。いくつかの実施形態において、狭窄の長さは約10μm〜約30μmである。ある特定の実施形態において、狭窄の長さは約10μm〜約20μmである。例えば、狭窄の長さは、約11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、20μm、または約25μm(10μm〜30μmのすべての整数、小数、及び分数が含まれる)であり得る。狭窄の長さは、細胞が狭窄下にある時間の長さを増加させるように変動させることができる(例えば、より長い長さは所定の流速でより長い狭窄時間をもたらす)。狭窄の長さは、細胞が狭窄下にある時間の長さを減少させるように変動させることができる(例えば、より短い長さは所定の流速でより短い狭窄時間をもたらす)。
【0038】
本明細書において使用される時、「狭窄の深さ」は、中心点でのマイクロ流体チャネルの深さを指す。狭窄の深さは、よりタイトな狭窄を提供し、それによって送達を促進するように調整することができる(狭窄の幅の調整に類似する)。いくつかの実施形態において、狭窄の深さは約1μm〜約1mm(1μm〜1mmのすべての整数、小数、及び分数が含まれる)である。いくつかの実施形態において、深さは約20μmである。いくつかの実施形態において、深さはチャネルの全体にわたって一定である。ある特定の実施形態において、深さは狭窄点で減少して、細胞のより大きな狭窄をもたらす。いくつかの実施形態において、深さは狭窄点で増加されて、細胞のより少ない狭窄をもたらす。いくつかの実施形態において、狭窄の深さは狭窄の幅より大きい。ある特定の実施形態において、狭窄の深さは狭窄の幅未満である。いくつかの実施形態において、狭窄の深さ及び狭窄の幅は等しい。
【0039】
本明細書において使用される時、マイクロ流体デバイスの寸法は、狭窄の長さ、幅、及び数によって表示される。例えば、狭窄の30μmの長さ、5μmの幅、及び5つの狭窄を備えたマイクロ流体デバイスは、本明細書において30×5×5(狭窄のL×W×#)として表わされる。
【0040】
いくつかの実施形態において、マイクロ流体システムは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含む少なくとも1つ狭窄を含む。いくつかの実施形態において、マイクロ流体システムは、各々少なくとも1つの狭窄を含む複数のマイクロ流体チャネルを含む。例えば、マイクロ流体システムは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、50、100、500、1000以上(10〜50、50〜100、100〜500、500〜1000等の整数がすべて含まれる)のマイクロ流体チャネルを含むことができる。ある特定の態様において、それぞれが1つの狭窄を含む複数のマイクロ流体チャネルは、並列して配置される。ある特定の態様において、それぞれが1つの狭窄を含む複数のマイクロ流体チャネルは、直線的に連続して配置される。本発明のある特定の態様において、マイクロ流体システムは、複数の狭窄を含む1つのマイクロ流体チャネルを含む。例えば、1つのマイクロ流体チャネルは、2、3、4、5、10、20以上の狭窄を含み得る。いくつかの実施形態において、マイクロ流体システムは、複数の狭窄を含む複数のマイクロ流体チャネルを含む。本発明のいくつかの態様において、複数の狭窄を含む複数のマイクロ流体チャネルは、並列して配置される。本発明のいくつかの態様において、複数の狭窄を含む複数のマイクロ流体チャネルは、直線的に連続して配置される。
【0041】
入口部分は、チャネルの直径が狭窄の中心点に向かって減少する速度を増加または減少するように変動し得る「狭窄の角度」を含むことができる。狭窄の角度は、細胞がそれを介して通過するが、マイクロ流体システムの閉塞を最小限にするように変動させることができる。例えば、狭窄の角度は1〜140度であり得る。ある特定の実施形態において、狭窄の角度は1〜90度であり得る。出口部分も、非一方向流をもたらし得る乱流/渦が生じる可能性を減少させる角度を含むことができる。例えば、出口部分の角度は1〜140度であり得る。ある特定の実施形態において、出口部分の角度は1〜90度であり得る。
【0042】
マイクロ流体チャネル、入口部分、中心点、及び出口部分の横断面は変動し得る。様々な横断面の非限定的例には、円形、楕円形、細長いスリット、正方形、六角形、または三角形の横断面が含まれる。
【0043】
無核細胞(例えばRBC)が本明細書において記載されるマイクロ流体チャネルを介して通過する速度を変動させて、細胞への送達物質の送達を制御することもできる。例えば、細胞がマイクロ流体チャネルを通過する速度を調整することは、圧力が細胞へ適用される時間を変動させることができ、圧力が細胞へ適用される速度を変動させることができる。いくつかの実施形態において、細胞は少なくとも0.1mm/秒の速度でマイクロ流体システムを介して通過することができる。更なる実施形態において、細胞は、0.1mm/秒〜5m/秒(すべてに整数及び小数が含まれる)の速度でマイクロ流体システムを介して通過することができる。なお更なる実施形態において、細胞は、10mm/秒〜500mm/秒(すべてに整数及び小数が含まれる)の速度でマイクロ流体システムを介して通過することができる。いくつかの実施形態において、細胞は、5メートル/秒を超える速度でシステムを介して通過することができる。
【0044】
細胞は、圧力の適用によってマイクロ流体チャネルを介して移動させる(例えば、押される)。いくつかの実施形態において、前記圧力は細胞駆動装置によって適用される。本明細書において使用される時、細胞駆動装置は、狭窄を介して細胞を駆動するために、バッファーまたは溶液へ圧力または力を適用するデバイスまたは構成要素である。いくつかの実施形態において、圧力は細胞駆動装置によって注入口で適用され得る。いくつかの実施形態において、真空圧力は細胞駆動装置によって排出口で適用され得る。ある特定の実施形態において、細胞駆動装置は90psiを超える圧力を供給するように適合される。例えば、細胞駆動装置によって供給された圧力は、91、92、93、94、95、100、110、120、130、または150psiを超え得る。更なる実施形態において、細胞駆動装置は、120psiの圧力を適用するように適合される。ある特定の実施形態において、細胞駆動装置は、圧力ポンプ、ガスボンベ、コンプレッサー、真空ポンプ、シリンジポンプ、蠕動ポンプ、ピペット、ピストン、キャピラリーアクター、ヒト心臓、ヒト筋肉、重力、マイクロ流体ポンプ、及びシリンジからなる群から選択される。細胞駆動装置によって適用された圧力の修正も、細胞がマイクロ流体チャネルを介して通過する速度に影響する(例えば圧力の量の増加は細胞速度の増加をもたらすことになる)。
【0045】
細胞(例えば無核細胞)が狭窄を介して通過する場合に、その膜は摂動され、膜の一時的破壊を引き起こし、周囲の媒質中に存在するペイロードの取り込みをもたらす。本明細書において使用される時、これらの一時的破壊は「摂動」と称される。本明細書において記載される方法によって生じる摂動は、細胞の外からの物質が細胞の中へ移動することを可能にする、細胞における割れ目である。摂動の非限定的例には、穴、裂け目、くぼみ、開口、孔、破れ目、隙間、または穿孔が含まれる。本明細書において記載される方法によって生じる摂動(例えば孔または穴)は、多量体孔構造(補体または細菌性溶血素によって形成されるもの等)を形成する、タンパク質サブユニットのアセンブリーの結果として形成されない。
【0046】
無核細胞及び生理学
本明細書において使用される時、「無核細胞」は、核を欠損する細胞を指す。かかる細胞には、血小板、赤血球(red blood cell)または赤血球(erythrocyte)(本明細書において互換的に使用される)、及び網状赤血球が含まれ得るが、これらに限定されない。網状赤血球は、典型的にはヒト身体中の赤血球の約1%を構成する未成熟(例えば、まだ両凹面でない)赤血球である。網状赤血球も無核である。ある特定の実施形態において、本明細書において記載されるシステム及び方法は、無核細胞(例えばRBC、網状赤血球、及び/または血小板)の、濃縮された(例えば天然で見出されるよりも高いパーセンテージの全細胞集団を含む)集団、精製された集団、または単離された(例えばそれらの天然環境から、実質的に純粋なまたは均一の形状で)集団の処理及び/またはプロセシングに使用される。ある特定の実施形態において、本明細書において記載されるシステム及び方法は、RBC、網状赤血球、血小板に加えて、他の血球を含有する全血の処理及び/またはプロセシングに使用される。これらの細胞タイプの精製または濃縮は、公知の方法(密度勾配システム(例えばFicoll−Hypaque)、蛍光活性化細胞選別(FACS)、磁気細胞選別、または赤芽細胞及び赤芽球前駆細胞のインビトロの分化等)を使用して達成される。
【0047】
赤血球は全血液量の40〜45%を構成し、構造的及び機能的に特有であり、核のある細胞よりも柔軟である。RBCはヒト身体の全体にわたる酸素送達のための主要手段であり、赤血球の細胞質は酸素担体生体分子(ヘモグロビン)に富んでいる。それゆえ、RBCは大部分の細胞内小器官(核を含む)を欠損し、それは除核細胞と比較して、それらの物理的特性を有意に改変する。RBCの両凹面形もそれらのユニークな物理的特性に寄与する。RBCは、2〜2.5μmの平均の円板の厚み及び中心で0.8〜1μmの最小の厚みを備えた両凹面の円板である。この幾何学的構造は余剰の表面領域を提供し、表面領域を増加させずに形を変化させることを可能にする。
【0048】
RBCの細胞膜は、生理的細胞機能(例えば表面変形能、安定性、柔軟性、接着、及び免疫認識)のために不可欠な特性の提供においても重要な役割を果たす。ほとんどすべての生物体及びウイルスの細胞膜中で見出される脂質二分子膜に加えて、RBCは、グリコアリックス(glycoalyx)と称される、それらの外部上で被覆する、炭水化物に富む糖タンパク質−ポリサッカライドも含有する。このグリコカリックスの被覆は、いくつかの細菌、上皮細胞及びRBCでのみ見出される。多孔層は、浸透への耐性があり、血管内血栓(例えばアテローム血栓症)及び他の疾患に対して保護する役割を果たす。RBCの脂質二分子膜内で、コレステロールは内葉と外葉との間で均一に分布し、5つの主要なリン脂質(ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスホイノシトール、ホスファチジルセリン)は二分子膜の中で非対称的に分布する。リン脂質のこの非対称分布は、細胞の完全性及び機能のために重要である(例えばリン脂質の曝露は血管内皮細胞へのRBCの接着を増強し、したがって微小血管系を介する正常な通過を阻止する)。
【0049】
したがって、(1)両凹面の幾何学的構造、(2)変形への耐性を低減させる核または他の細胞内小器官の欠損、(3)高いヘモグロビン濃度を反映する細胞質粘度、(4)能動的膜修復プロセスの欠損、及び(5)特有な膜構成に起因して、RBCは哺乳類生物体の任意の他の細胞に存在しない変形能現象を有する。この現象は、それらが弾性体のように挙動し、それらの形を広汎に変化させることを可能にし、これは年齢により変化する特徴である。
【0050】
RBCは老化するにつれて、剛性を変化させる。スペクトリンとのヘモグロビンの非還元性の複合体形成は、RBCについてのインビボの老化作用の顕著なマーカーであり、RBC剛性の増加、変形能、エキノサイトーシス、及び赤血球貪食の減少と密接に相関し得る(Aging and death signaling in mature red cells:from basic science to transfusion practice;Marianna H.Antonelou,Anastasios G.Kriebardis,and Issidora S.Papassiderr;Blood Transfus.2010 Jun;8(Suppl 3):s39−s47)。
【0051】
本明細書において記載されるマイクロ流体システムによるRBCのプロセシングの成功は、予想外の実験結果であった。このシステムは、細胞膜における摂動の機械的導入を介して細胞のサイトゾルへ物質を導入し、これにより、物質が通過し、細胞膜完全性の回復後に細胞内に残存することが可能になる。したがって、本明細書において記載されるシステムによるRBCのプロセシングの成功(それは細胞膜の修復の成功に依存する)は、能動的膜修復プロセスの欠損にもかかわらずRBCで起こった。
【0052】
カーゴの送達のための無核細胞のプロセシング
上述のように、RBCの形は他の哺乳類細胞とは異なる。それらの非対称性の両凹面の形の結果として、RBCは異なる方向で狭窄に入り通過する能力を有する。この特性は、他の細胞(懸濁中にある場合多かれ少なかれ球形を有する)で存在しない。これは送達の観点から予想外の要素である。例えば、RBCの最も幅広い寸法で、本明細書において記載されるマイクロ流体デバイスの狭窄を介して進むRBCは、細胞膜が破壊される可能性がより高く、一方で、RBCの最も狭い寸法で、狭窄を介して進むRBCは細胞膜が破壊される可能性はより低い。したがって、本明細書において記載されるマイクロ流体デバイス及びシステムの狭窄の寸法の範囲は、かかる特有な特徴及び寸法(例えばRBC等の無核の非対称の細胞)の細胞により作業する際の困難さを克服するために、初期の立体配置よりも少ない。いくつかの実施形態において、無核細胞は、マイクロ流体チャネルが少なくとも約6μm以下の幅を備えた狭窄を含む、本明細書において記載されるマイクロ流体システムによりプロセシングされる。例えば、RBCは、約1、2、3、4、5、または約6μmの狭窄の幅によりプロセシングされ得る。他の実施形態において、狭窄の幅は1μm〜4μmである。更なる実施形態において、狭窄の幅は2μm〜4μmである。
【0053】
本明細書において使用される時、「バッファー」は、細胞がプロセシングされるように懸濁するのに使用される標準的なバッファーまたは標準的な生理学的に適合性のあるバッファー溶液を指す。バッファーは当技術分野において共通して使用される任意のバッファーであり得、それらには、マレイン酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、蟻酸、乳酸、コハク酸、酢酸、ピバル酸、リン酸、L−ヒスチジン、MES、ビス−トリス、MOPSO、PIPES、イミダゾール、MOPS、BES、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、TEA、NaCl、KCl、NaHPO、KHPO、NaCO、またはNaHCOが含まれるが、これらに限定されない。バッファー溶液の非限定的例には、リン酸緩衝食塩水(PBS)、及び細胞培養において共通して使用される培地(RPMI、DMEMまたはIMDM等)が含まれる。いくつかの実施形態において、低張バッファー及び/または低浸透圧バッファーがRBCに膨潤を引き起こすことで、RBCがデバイスを介して進行する時に圧迫に対してより感受性になり、機械的変形を使用する膜の孔形成をより受けやすくなるので、低張バッファー及び/または低浸透圧バッファーは有利である。
【0054】
界面活性剤も、操作の間にマイクロ流体チャネルの閉塞を低減させるために、バッファーへ添加され得る。界面活性剤は、とりわけポロキサマー、動物起源血清、及びアルブミンタンパク質を含むことができる。
【0055】
本明細書において記載されるある特定の実施形態において、正常なRBC、及び改変されたRBC(例えば疾患があるかまたは感染した)の両方は、本明細書において記載されるマイクロ流体システムを使用して、効果的にプロセシングされる。「正常な」RBCは、健康で改変されていないRBC(遺伝的もしくは非遺伝的な異常に冒されていないか、またはウイルス、細菌、もしくは寄生生物等の病原体に感染していないもの等)を指す。正常なRBCは、健康な個体(病原体に感染せず疾患を患わない個体等)から得ることができる。正常なRBCはエクスビボ培養系から得ることができ、この場合、もたらされたRBC集団は任意の病原体に感染せず、疾患状態を模倣するように実験的に改変されない。「改変された」RBCは、感染したRBCまたは疾患のあるRBCを指す。「感染したRBC」は、細菌、ウイルス、または寄生生物(例えばP.falciparum)に感染したRBCまたはRBCの集団を指すことができる。「疾患のあるRBC」は、RBCの機能、数、または生存率の減少をもたらす遺伝的または非遺伝的な異常(例えば鎌型赤血球貧血症)に冒されたRBCまたはRBCの集団を指すことができる。改変されたRBC(例えば感染したRBCまたは疾患のあるRBC)は、感染または疾患を患う個体から得ることができる。改変されたRBCはエクスビボ培養系から得ることができ、そこで、RBCのもたらされた集団は病原体(例えばP.falciparum)へ曝露されるか、または疾患状態を模倣するように実験的に改変される。
【0056】
ある特定の実施形態において、正常な(例えば感染していないかまたは疾患のない)RBC、及び改変された(例えば感染したかまたは疾患がある)RBCの両方は、本明細書において記載されるマイクロ流体システムにより処理することに成功し、カーゴはRBCの両方の集団へ効果的に送達される。例えば、P.falciparumに感染したRBC及びP.falciparumに感染していないRBCは処理に成功し、カーゴ送達のレベルは2つの集団の間で同等であった。ある特定の実施形態において、改変されたRBCと比較して、正常なRBCにおけるカーゴ送達のレベルは増加される。ある特定の実施形態において、改変されたRBCと比較して、正常なRBCにおけるカーゴ送達のレベルは減少される。
【0057】
本明細書において使用される時、「ペイロード」は、無核細胞(例えばRBC)へ送達される物質を指す。「ペイロード」、「カーゴ」、「送達物質」、及び「化合物」は、本明細書において互換的に使用される。いくつかの実施形態において、ペイロードは、タンパク質、小分子、核酸(例えばRNA及び/またはDNA)、脂質、炭水化物、マクロ分子、ビタミン、ポリマー、蛍光色素及びフルオロフォア、カーボンナノチューブ、量子ドット、ナノ粒子、ならびにステロイドを指し得る。いくつかの実施形態において、ペイロードは、タンパク質または小分子薬物を指し得る。薬物と共に送達されるRBCは、身体中の長期的な薬物担体として作用することができる。いくつかの実施形態において、タンパク質または小分子薬物をマラリアを引き起こす寄生生物に感染した細胞(例えばP.falciparumに感染したRBC)の中へ送達して、マラリアを患う対象への臨床利益を付与する。ある特定の実施形態において、小分子薬物、例えばプリンベースの抗ウイルス剤(DeBellis et al.,2003,Blood Cells Mol.Dis.31:286−290;参照により本明細書に援用される)、またはペプチド、例えばトリ−ペプチドまたはテトラ−ペプチド(Votano et al.,1977,Science 196:1216−1219;参照により本明細書に援用される)は、鎌型赤血球貧血症を患う対象への臨床利益を付与するために、鎌型赤血球貧血症に冒されたRBCへ送達される。
【0058】
いくつかの実施形態において、感染した細胞は、マラリアを引き起こす寄生生物に感染した細胞を指す。かかる寄生生物はPlasmodium属中で見出され、それらには、P.falciparum、P.vivax、P.ovale、P.malariae、及びP.knowlesiが含まれ得る。更なる実施形態において、感染した細胞は、P.falciparumに感染した細胞を指す。いくつかの実施形態において、疾患のある細胞は、貧血(鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、サラセミア、及び鎌型赤血球貧血症が含まれる)、真性赤血球増加症、及び血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病が含まれる)に冒された細胞(例えば無核細胞)を指す。更なる実施形態において、疾患のある細胞は、鎌型赤血球貧血症に冒された細胞を指す。
【0059】
マラリアを引き起こす寄生生物に感染したRBC(例えばP.falciparumに感染したRBC)へ送達することができる、マラリアの治療において使用される薬物の非限定的例には、クロロキン(Aralen(商標)としても公知)、アトバクオン−プログアニル(Malaroneとしても公知)、アルテメテル/リメファントリン(lymefantrine)(Coartemとしても公知)、キニーネ硫酸塩(Qualaquin、QM−260、及びQuinammとしても公知)、メフロキン(Lariamとしても公知)、ヒドロキシクロロキン(Plaquineil Sulfate及びQunieproxとしても公知)、プリマキン、キニジン(Quin−G、Cardioquin、Quinora、Quinidex Extentabs、Quinaglute Dura−Tabs、Quin−Releaseとしても公知)、アルテスネート、アルテミシニン、スルファドキシン/プリメサミン(pryimethamine)(ファンシダールとしても公知)、アモジアキン、スルホンアミド、及びハロファントリン(Halfanとしても公知)が含まれる。マラリアを引き起こす寄生生物に感染したRBC(例えばP.falciparumに感染したRBC)へ、抗生物質(ドキシサイクリン、テトラサイクリン、及びクリンダマイシン等)も送達することができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、タンパク質及び/または酵素は鎌型赤血球症の治療のためにRBCへ送達される。鎌型赤血球貧血症に冒されたRBCへ送達することができる、鎌型赤血球症(例えば鎌型赤血球貧血症)の治療において使用される薬物の非限定的例には、ヒドロキシ尿素、ハイドレア、ビタミンE、ドロキサ(droxia)、Aqual Sol E、L−グルタミン、Aquavite E、GlutaSolve、Alpha E、E−400 clear、Nutr E Sol、E−600、E Gems、Aqua E、Aqua Gem E、SYMPT−XG、Nutrestore、プリンベースの抗ウイルス剤(アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビルが含まれる)、ならびにトリ−ペプチド及びテトラ−ペプチドが含まれる。
【0061】
いくつかの実施形態において、ペイロードは、必ずしもRBC自体の集団に影響するわけではない病態を治療するためにRBCの集団へ送達される。かかる実施形態において、RBCは、長期薬物担体または「薬物デポー」として作用することができる。本明細書において使用される時、「薬物デポー」は、本明細書において記載されるマイクロ流体システムによってプロセシングされ、生物体の全体にわたって徐々に放出されるペイロード、化合物、またはカーゴを含有する長期的な循環RBC集団を指す。薬物デポーを含むRBCの集団は、感染した及び/もしくは疾患のあるもの、感染していない及び/もしくは疾患のないもの、または感染した及び/もしくは疾患のあるものと感染していない及び/もしくは疾患のあるものの組合せであり得る。RBCの半減期はおよそ127日である。したがって、少なくとも薬物デポーRBCの集団の一部分は、約254日間存続することができる。いくつかの実施形態において、薬物デポーRBCの集団は治療の間に所定の時点で補充することができる。いくつかの実施形態において、薬物デポーRBCの集団は治療の間に所定の時点で2回以上補充することができる。例えば、薬物デポーRBCは、治療の間に2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上補充することができる。いくつかの実施形態において、薬物デポーとして使用されるRBCの数は、経時的に放出されるペイロードの濃度を増加させるように増加させることができる。いくつかの実施形態において、薬物デポーとして使用されるRBCへ送達されるペイロードの濃度は、経時的に放出されるペイロードの濃度を増加させるために増加させることができる。薬物デポーRBCは、多数の疾患または障害(癌が含まれるがこれらに限定されない)の治療のために使用することができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、RBC薬物デポーは単一治療として疾患または障害のために使用することができる。いくつかの実施形態において、RBC薬物デポーは、所定の疾患または障害のための従来療法と組み合わせて使用することができる。いくつかの実施形態において、RBC薬物デポーは、所定の疾患または障害のための従来療法の完了後に維持療法として利用することができる。更なる実施形態において、RBC薬物デポーは、従来療法の開始の前に利用することができる。いくつかの実施形態において、RBC薬物デポーは、所定の疾患または障害のための従来療法の開始の前及び完了の後の両方で、利用することができる。更なる実施形態において、RBC薬物デポーは、疾患または障害の発症を防止するために、疾患または障害の発症の前に利用することができる。
【0063】
本明細書において使用される時、「患者」には、サンプルを取得することができる任意の哺乳類対象が含まれる。ある特定の実施形態において、哺乳類はヒトである。本開示の方法は、非ヒト霊長類(例えばサル、ヒヒ、及びチンパンジー)、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ブタ、ウサギ、ヤギ、シカ、ヒツジ、フェレット、アレチネズミ、モルモット、ハムスター、コウモリ、鳥類(例えばニワトリ、シチメンチョウ、及びアヒル)、魚類及び爬虫類の治療のためにも用いることができる。本明細書において使用される時、「それを必要とする患者(patient in need thereof)」は、疾患または感染(癌が含まれるがこれらに限定されない)を患う患者である。
【0064】
いくつかの実施形態において、細胞は、本明細書において記載されるマイクロ流体システムによるプロセシングを受けた後に、ペイロード含有溶液またはバッファー中である時間にわたってインキュベーションされる。例えば、細胞は、1〜10分以上にわたってペイロード含有溶液またはバッファー中でインキュベーションされ得る。それゆえ、インキュベーション時間は、2、3、4、5、6、7、8、または9分以上(またはその任意の小数)であり得る。いくつかの実施形態において、インキュベーション時間は、15、20、30、60分間以上である。ある特定の実施形態において、細胞は、本明細書において記載されるマイクロ流体システムによるプロセシングを受ける前に、ペイロード含有溶液またはバッファー中である時間にわたってインキュベーションされる。ある特定の実施形態において、細胞は、ペイロード含有溶液またはバッファー中にある間に、本明細書において記載されるようにプロセシングされる。
【0065】
本明細書において記載されるデバイス、技術、及び方法は、例えば研究室、集中化製造施設、または細胞プロセシング施設においてエクスビボで実装される。更なる実施形態において、デバイス、技術、及び方法は臨床システムとして使用され、そこで、患者サンプル(例えば血液サンプル、または分画された血球集団)は、本明細書において記載されるマイクロ流体デバイス、または患者細胞(例えばRBC)へ分子を送達するのに適切なサイズの狭窄を含むように適合させたシリンジを使用してプロセシングされる。かかるシステムは臨床の透析システムに類似する。
【実施例】
【0066】
実施例1:無核細胞への物質の送達のためのマイクロ流体システムの最適化
無核細胞へ様々な化合物を送達することができるマイクロ流体システムが構築された。後述されるように、これらのマイクロ流体システムは、ペイロード(例えば化合物またはマクロ分子)が細胞膜を介し、サイトゾルの中へ通過し、細胞送達をもたらすのに十分な大きさの細胞の摂動を引き起こすように構成された狭窄を介して、バッファー中に懸濁された無核細胞が通過することを可能にするように構築された。図1A及び図1B中で示されるように、マイクロ流体システム(5)は管状内腔を画成するチャネルを含む。マイクロ流体チャネルは、単一の細胞(20)のみが一度で狭窄を介して通過することができるように構成できる狭窄(15)を含む。細胞は、送達物質(30)も含むバッファー(25)中に懸濁されているチャネルを介して通過することができるが、細胞が狭窄を介して通過する前または後に、送達物質をバッファーへ添加することができる。細胞が狭窄に接近し通過する時、狭窄は細胞へ圧力(例えば機械的圧縮)を適用し、それによって細胞(細胞20として示される)を圧迫する。狭窄によって細胞へ適用された圧力は、細胞膜中に摂動(例えば穴)を引き起こし、細胞(20)の摂動をもたらす。一旦細胞が狭窄を介して通過すると、摂動された細胞は、摂動を介してバッファー中の物質(送達物質が含まれる)を取り込み始め、細胞(20)の送達をもたらす。細胞膜は経時的に回復し、少なくとも送達物質の一部分は細胞の内部で捕捉されたままである。
【0067】
マイクロ流体システムが物質をサイトゾルへ送達するために無核細胞(例えばRBC)を変形させる能力は、狭窄の中心点を画成するパラメーター(例えば幅、長さ、及び深さ)、狭窄を介して細胞を押し進めるためにバッファーへ適用された圧力、及びバッファーの性質の修飾を介して最適化された。図2A〜2B中で図示されるように、狭窄は入口部分、中心点、及び出口部分を含む。狭窄の中心点は、3つの測定値、すなわち長さ(L)、幅(W)、及び深さによって画成される。物質をRBCへ最適に送達するには、4μm未満の幅が必要であった。更に、90ポンド/インチ(psi)を超える(例えば120psi)圧力は、ペイロードが細胞膜を介し、サイトゾルの中へ通過するのに十分な摂動をもたらした。機械的狭窄を利用して物質をRBCへ送達することの1つの難題は、RBCが非対称性の両凹面の形であることである。この形は狭い寸法及び幅広い寸法を有するRBCをもたらし、一方で、他の多くの細胞は懸濁されている間に比較的球状の形を有する。結果的に、ホメオスタシス状態のRBCは異なる方向で狭窄を介して通過することができ、マイクロ流体システムの有効性を低減させる可能性がある。この難題は、RBCを膨潤させより球形で存在させる低張バッファー(例えばPBS)の使用により克服することができる。低張バッファーの使用は、本明細書において記載されるマイクロ流体システムの有効性に対するRBCの非対称形の影響を緩和することができる。加えて、複数のマイクロ流体チャネル及び狭窄の連続したまたは並列した配置は、物質をRBCへ送達することができる本明細書において記載されるマイクロ流体システムの開発を可能にした。
【0068】
実施例2:RBCへの物質の送達
物質をヒトRBCへ送達する本明細書において記載されるマイクロ流体デバイスの能力を、蛍光標識されたデキストランポリマー及び蛍光融合タンパク質を使用して試験した。簡潔には、ヒトRBCを新鮮血から単離し、完全増殖培地中で培養した。RBCをP.falciparumにより感染させた。細胞を4つの異なる感染後の時点で採取した。図3Cは、ギムザにより染色された赤血球サンプルの薄フィルム塗抹標本を示し、様々な増殖期のマラリア原虫を強調する。時点1はリング期寄生生物(侵入後<18時間)を反映し、時点2はトロホゾイト期寄生生物(<T1+8時間)を反映し、時点3はトロホゾイト期寄生生物(T1+22時間)、時点4はシゾント期寄生生物(T1+30時間)を反映する。感染の異なる期のRBCを示された時点で採取し、1x10細胞/mLの密度でPBS中に懸濁した。P.falciparumへ曝露された所定のサンプルは、感染細胞及び非感染細胞の両方を有していた。70kDaのフルオレセインに標識されたデキストランまたは10kDaのAPCに標識されたデキストランを、2つのデザインのうちの1つによるマイクロ流体システムを使用して、感染RBC及び非感染RBCの懸濁液へ送達した。1つのマイクロ流体システムデザインは、10μmの長さ及び4μmの幅を備えた単一の狭窄を含んでいた(10×4)。他のマイクロ流体システムデザインは、各々30μmの長さ及び5μmの幅を備えた、並列して配置された5つの狭窄を含んでいた(30×5×5)。
【0069】
70kDaのFITC標識デキストラン(図3A)または10kDaのAPC標識デキストラン(図3B)を、増殖の時点1〜4の非感染除核赤血球及び感染除核赤血球の混合集団の中へロードする、各々のマイクロ流体デザインの能力を、フローサイトメトリーによって測定した。各々の実験において、注入口の細胞(狭窄を介して通過しなかったが、蛍光送達物質へ曝露された細胞)を、物質の受動的取り込みについての陰性対照として分析した。図3A及び図3B中に含まれるヒストグラムは、送達されない群と比べた送達された集団の出現を図示する。より高い蛍光強度を備えたより小さなピークが送達された集団を表わす一方で、より大きなヒストグラムピークは送達されない集団を表わす。
【0070】
70kDaデキストラン−フルオレセインコンジュゲート(図3A)及び10kDaのデキストラン−APCコンジュゲート(図3B)の両方のローディングは、トロホゾイト期(時点3)の寄生生物による30×5×5チャネルの幾何学的構造で最大であった。10kDaのデキストラン−APCの送達は、70kDaのデキストラン−フルオレセインの送達よりも、高いパーセンテージのRBCの送達をもたらされるが、これは送達物質のより小さなサイズに起因する可能性が高い。これらのマイクロ流体システムがRBCへの物質の送達を成功させる能力は、予想外の実験結果であった。RBCは、誘導された摂動の停止及び膜完全性の回復を支援する能動的膜修復プロセスを欠損することが公知である。しかしながら、RBCのサイトゾルへの物質の送達は、これらの能動的プロセスの非存在下において成功した。
【0071】
上で同定された条件(トロホゾイト期の寄生生物及び30×5×5の幾何学的構造)を使用して、APC及びフルオレセインデキストランコンジュゲート及び62kDaの組換えタンパク質(シアン融合タンパク質(CFP)−黄色融合タンパク質(YFP)融合物(CFP−YFP融合物))の、寄生RBC対非寄生RBCの中へのローディングを測定した。CFP−YFP融合タンパク質は荷電し球状であり、臨床利益を付与するために送達することができる多数のタンパク質に典型的な定義された三次元構造を有し、したがって生理的に意義のあるタンパク質の送達を模倣するために使用された。RBCをマラリアにより感染させ、分析のために増殖のトロホゾイト期で細胞を採取した。P.falciparumに感染させた実験群(+Pf)は、感染RBC及び非感染RBCを含んでいた。P.falciparumへ曝露されなかった別の群を陰性対照(−Pf)として使用した。図4Bは染色したP.falciparum感染細胞の写真である。これらのデータは、様々な物理的特性(例えばサイズ、3D構造、及び電荷)の物質の送達の成功を実証し、感染RBC及び非感染RBCの処理に成功することができ、カーゴを本明細書において記載されるマイクロ流体システムを使用して送達できたことを更に示す。この結果は、RBCの寄生生物感染(及び細胞中の寄生生物の複製)により、非感染細胞と比較して、感染細胞がより柔軟ではなくなる事実を鑑みると意外であった。これらのデータは、上述のマイクロ流体デバイス及びシステムを使用して、図5中で示されるように脂質、ポリマー、ナノ粒子、RNA、DNA、抗体、タンパク質、不透過性小分子、及びフルオロフォアを含む広範囲の物質を送達できることも示す。
【0072】
本明細書において記載される対象は、所望される立体配置に依存して、システム、装置、方法、及び/または物品で実施することができる。前述の記載中で示される実装が、本明細書において記載される対象と整合性のあるすべての実装を表わすとは限らない。その代りに、それらは、記載される対象に関連する態様と整合性のある単なる例である。いくつかの変動が詳細に上で記載されたが、他の修飾または追加も可能であり、それらには、狭窄デザイン、狭窄に入る細胞の進入角度、狭窄の深さ、RBCのステージ及び年齢の選択、バッファー、細胞方向性、スピード、温度、膜安定化/不安定試薬(コレステロール及びプルロニック等)の存在等の修飾が含まれる。本発明の対象は、研究室または集中化製造施設へ限定されないが、臨床システムとして実装することができ、それは透析機に類似して、患者サンプルをインラインでプロセシングすることができる。シリンジタイプの実装も実行可能である。本発明の対象は、RBC(赤血球及び網状赤血球が含まれる)、精製されたRBC、及び非修飾血液(例えば限定的なプロセシングを受けた血液)に対して使用することができる。
【0073】
他の実装を実行することができる。特に、更なる特徴及び/または変動は、本明細書において示されたものに加えて提供することができる。例えば、上記の実装は、開示された特徴の様々な組み合わせ及び小組み合わせ、ならびに/または上で開示された、いくつかの更なる特徴の組み合わせ及び小組み合わせを対象とすることができる。加えて、添付の図面及び/または本明細書において記載されるもの中で描写されるロジックフローは、所望される結果の達成に、示される特定の順序または連続的な順序を必ずしも要求しない。他の実装は、以下の特許請求の範囲の範囲内のものであり得る。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B