特許第6926410号(P6926410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6926410細胞培養容器、細胞培養方法、細胞培養容器の製造方法及び細胞培養容器の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6926410
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】細胞培養容器、細胞培養方法、細胞培養容器の製造方法及び細胞培養容器の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210812BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12M1/04
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-152493(P2016-152493)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-19630(P2018-19630A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】特許業務法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末永 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直己
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−048654(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0027301(US,A1)
【文献】 特表2003−500265(JP,A)
【文献】 特開2009−011260(JP,A)
【文献】 特開2005−295904(JP,A)
【文献】 特開2015−116150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過性を有するフィルムからなる第1容器壁と、前記第1容器壁に対向して配置される第2容器壁とを重ねた状態で載置台に前記第1容器壁を載置する工程と、
前記第2容器壁の中央部が開放された状態で、前記第1容器壁および前記第2容器壁の周縁部を拘束部材で押圧する工程と、
前記拘束部材で前記周縁部を押圧した状態で、前記第1容器壁と前記第2容器壁との間に流体を導入する工程と、
前記第2容器壁の中央部に対して押圧部材で押圧しながら少なくとも前記押圧部材を加熱する工程と、
を有することを特徴とする細胞培養容器の製造方法。
【請求項2】
平面状のフィルムからなる第1容器壁と前記第1容器壁の周縁部で接触するとともに前記第1容器壁に対して張り出した膨出形状を有する第2容器壁とを含む細胞培養容器の製造装置であって、
前記第1容器壁を載置する載置台と、
前記載置台に載置された前記前記第1容器壁及び前記第2容器壁の間の空間に流体を導入する流体導入装置と、
前記載置台に対して進退可能に配置されて、前記空間に前記流体が導入された前記第2容器壁を加圧する押圧部材と、
前記押圧部材を加熱する加熱装置と、
前記載置台に対向して配置されて、当該載置台に載置された前記第2容器壁の周辺を拘束する拘束部材と、を含み、
前記拘束部材で前記第2容器壁を拘束しながら前記加熱装置で前記押圧部材を加熱しつつ、前記流体導入装置で前記第1容器壁と前記第2容器壁の間の空間に前記流体を導入することを特徴とする細胞培養容器の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の細胞を培養する技術に関し、より具体的にはガス透過性を有して細胞を培養可能な細胞培養容器、この細胞培養容器を用いた細胞培養方法、およびこの細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療や細胞治療、再生医療に代表される近代医療分野では、目的とする細胞(組織、微生物、ウイルスなどを含む)を人工的な環境下で培養・分化誘導することが行われている。かような培養細胞としては、その培養における存在形態によって接着培養系細胞と浮遊培養系細胞に分類することができる。
【0003】
接着培養系細胞は、細胞を培養する培養容器の例えば底面などに付着して増殖する培養細胞である。この接着培養系細胞においては、既存の培養細胞を新たな培養容器へと移し替えて増殖させる継代培養が行われる以外に培地交換も適宜行われる。
【0004】
ここで、上記した細胞培養に関しては、従来から以下に示す培養容器が提案されている。
例えば実験室で好適に用いられる容器として、ゆがみのない平らな底面を有するペトリディッシュ(シャーレ)や培養フラスコが知られている。このうちペトリディッシュは、フタを用いて容器内を密閉することも可能であり、ベントタイプのフタにはリブが設けられてガス抜き/非ガス抜きポジションを選択可能なようになっている。また、ペトリディッシュと同様に底面が平らな培養フラスコも、培養面が均一性・平滑性に優れているので顕微鏡観察時に良好な視界が得られる利点もある。
【0005】
一方、ペトリディッシュや培養フラスコを用いた開放系細胞培養に対し、密栓した空間内で細胞培養を行う閉鎖系細胞培養も知られている。かような閉鎖系細胞培養では、透明性やガス透過性を確保しつつコンタミネーションリスクを抑制させたいニーズから、柔軟性のある樹脂で形成された細胞培養バッグが好適に使用されている。
しかしながら一般的な細胞培養バッグでは培養液を注入すると培養面となる底面が平坦でなくなるという問題から、例えば特許文献1のごとき細胞培養用トレイ状容器が提案されている。すなわち、特許文献1で開示された細胞培養用トレイ状容器は、第1の容器壁が透明で単一の平面状の底面を有する凹部と該凹部の周縁に形成されたフランジ状部を有し、第2の容器壁が気体透過性を有して変形可能な柔軟性を有する構成となっている。
【0006】
【特許文献1】特許第4780462号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
たしかに特許文献1によれば培養面の平坦性がある程度確保できるのであるが、以下に述べるとおり未だに改善すべき課題は多い。
すなわち、例えばiPS細胞などに代表される接着培養系細胞においては、細胞の増殖度合は面積の広狭に依存するため、単純に平坦な培養面を確保するだけでは不十分であって可能な限り培養面を平坦で広範囲とする必要がある。特に再生医療等に用いる事を目的とした細胞などは大変貴重なものであり、その培養には多大な時間と費用を要することから高い効率性も求められる。
【0008】
さらに細胞培養に必要な培地(培養液)は非常に高価であることから、可能な限り効率的に少量の培地を用いるニーズも潜在的に存在する。したがって、細胞の培養に必要な培養面は可能な限り広範囲で平面状体としつつ、比較的少量の培地を用いて上記培養面の隅々まで培養液を行き渡らせなければならない。
また、播種した後で底面に沈殿する細胞が密度的に均一に分布し、且つ培地の栄養分が全ての細胞に均一に行き渡るように、培地の液厚は広範囲で均一であることが望ましい。
しかしながら特許文献1を含めた従来タイプの細胞培養容器には上記した課題に関する認識や示唆は一切ない。
【0009】
本発明は上記した課題を一例として解決することを鑑み、広範囲で平坦な培養面を確保するとともに少量の培養液であったとしても培養面の隅々まで均一な厚みで行き渡らせることが可能な細胞培養容器、細胞培養方法、および細胞培養容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養容器は、ガス透過性を有して底面となる平面状のフィルムからなる第1容器壁と、前記第1容器壁の周縁部で接触するとともに、前記周縁部より内側で前記第1容器壁に対して張り出した膨出形状を有する第2容器壁と、前記第1容器壁と前記第2容器壁の膨出形状で囲まれる培養空間に通じるポートと、を含み、前記第1容器壁は、少なくとも前記ポートと接触する領域以外で平面状となっていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の細胞培養方法は、上記した本発明の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、前記第2容器壁に対して前記第1容器壁が下方となるように前記第1容器壁を載置しつつ、前記ポートを介して細胞と培養液を注入することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の細胞培養容器の製造方法は、ガス透過性を有するフィルムからなる第1容器壁と、前記第1容器壁に対向して配置される第2容器壁とを重ねた状態で載置台に前記第1容器壁を載置する工程と、前記第2容器壁の中央部が開放された状態で、前記第1容器壁および前記第2容器壁の周縁部を拘束部材で押圧する工程と、前記拘束部材で前記周縁部を押圧した状態で、前記第1容器壁と前記第2容器壁との間に流体を導入する工程と、前記第2容器壁の中央部に対して押圧部材で押圧しながら少なくとも前記押圧部材を加熱する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の細胞培養容器の製造装置は、平面状のフィルムからなる第1容器壁と前記第1容器壁の周縁部で接触するとともに前記第1容器壁に対して張り出した膨出形状を有する第2容器壁とを含む細胞培養容器の製造装置であって、前記第1容器壁を載置する載置台と、前記載置台に載置された前記第1容器壁及び前記第2容器壁の間の空間に流体を導入する流体導入装置と、前記載置台に対して進退可能に配置されて、前記空間に前記流体が導入された前記第2容器壁を加圧する押圧部材と、前記押圧部材を加熱する加熱装置と、前記載置台に対向して配置されて、当該載置台に載置された前記第2容器壁の周辺を拘束する拘束部材と、を含み、前記拘束部材で前記第2容器壁を拘束しながら前記加熱装置で前記押圧部材を加熱しつつ、前記流体導入装置で前記第1容器壁と前記第2容器壁の間の空間に前記流体を導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、底面となる平面状の第1容器壁によって広範囲で平坦な培養面が確保できるとともに、たとえ少量の培養液であったとしても膨出形状を有する第2容器壁によって培養面の隅々まで行き渡らせることが可能となる。さらには、培養時の細胞密度が適性に維持され、増殖に必要な培地成分の枯渇が生じることなくコンタミネーションリスクが抑制された状態で高品質な細胞の大量培養が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態における細胞培養容器10の外観斜視図である。
図2】実施形態における細胞培養容器10の側面図である。
図3】実施形態における細胞培養容器10の正面図である。
図4】実施形態における細胞培養容器10の製造装置と製造方法を示す図である。
図5】従来タイプの細胞培養容器と実施形態の細胞培養容器10との比較を示す図である。
図6】変形例1における細胞培養容器10を示す図である。
図7】変形例2における細胞培養容器10を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の細胞培養容器、細胞培養方法、および細胞培養容器の製造方法について具体的に説明する。なお、説明の便宜上、以下の記載においてX方向、Y方向、およびZ方向をそれぞれ規定したが、本発明の権利範囲を意図的に限定又は減縮するものでない。
【0017】
[細胞培養容器]
図1は本発明の実施形態にかかる細胞培養容器10の外観斜視図を示している。
細胞培養容器10は、フィルムベースの軟包材を材料として袋状に形成された可撓性を有する細胞培養用の容器である。この細胞培養容器10は、細胞の培養に好適なガス透過性を有し、かつ内容物を確認できるように、その一部又は全部が透明性を有していることが好ましい。
【0018】
かような細胞培養容器10は、第1容器壁1、第2容器壁2、およびポート3を少なくとも含んで構成されている。また、細胞培養容器10の外形は、例えばX方向で20〜1000mm、Y方向で20〜1000mmの長方形状とするのが好ましい。
【0019】
第1容器壁1は、ガス透過性を有して底面となる平面状のフィルムからなる。そして図2に示すとおり、本実施形態の第1容器壁1は、例えば30〜200μmの厚みt1を有するものであるのが好ましい。ここで、本実施形態における「底面」とは、細胞培養容器10が載置台などに載置される際に底となる面をいい、後述する第2容器壁2よりもZ方向に関して下側となる面をいう。また、本実施形態における「平面状」とは、X方向およびY方向において平面であることをいい、XY平面と平行な単一の面をいう。
【0020】
この第1容器壁1が具備するガス透過性については、JIS K 7126のガス透過度試験方法に準拠して、試験温度37℃で測定した酸素の透過度が、5000mL/(m・day・atm)以上であるのが好ましい。
【0021】
また、第1容器壁1を構成するフィルムは、細胞培養の進行状況や細胞の状態などを確認できるように一部又は全部が透明性を有しているのが好ましい。かようなフィルムに用いる材料としては、上記したガス透過性を有していれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単層で用いても、同種又は異種の材料を積層して用いてもよいが、周辺部をシールする際の熱融着性を考慮すると、シーラント層として機能する層を有しているのが好ましい。
【0022】
また、同図に示すとおり、第1容器壁1は、周縁部1aと中央部1bを有して構成されている。このうち周縁部1aは、後述する第2容器壁2の周縁部2aと対向する領域である。また、中央部1bは、上記した周縁部1aよりも内側の領域であり、後述する培養空間Sを形成する領域である。
【0023】
第2容器壁2は、第1容器壁1の周縁部1aで接触するとともに、この周縁部1aより内側で第1容器壁1に対して張り出した膨出形状2zを有する。かような第2容器壁2は、第1容器壁1と同様に、ガス透過性を有したフィルムから構成されている。
より具体的には、第2容器壁2が具備するガス透過性については、JIS K 7126のガス透過度試験方法に準拠して、試験温度37℃で測定した酸素の透過度が、5000mL/(m・day・atm)以上であるのが好ましい。すなわち、第2容器壁2のガス透過性は、第1容器壁1のガス透過性と等しく設定されていてもよい。また、第2容器壁2を構成するフィルムは、細胞培養の進行状況や細胞の状態などを確認できるように一部又は全部が透明性を有しているのが好ましく、さらには第1容器壁1と同じ材料で構成されていてもよい。
【0024】
また、図2に示すとおり、本実施形態の第2容器壁2は、例えば30〜200μmの厚みt2を有するものであるのが好ましい。すなわち、第2容器壁2の厚みt2は、第1容器壁1の厚みt1と等しく設定されていてもよい。換言すれば、第1容器壁1と第2容器壁2の厚み比が実質的に1となっていてもよい。
【0025】
この第2容器壁2は、周縁部2a、立ち上がり部2b、および中央部2cを有して構成されている。このうち周縁部2aは、第1容器壁1の周縁部1aと接触する領域である。また、中央部2cは、後述する立ち上がり部2bよりも内側の領域であり、培養空間Sを形成する所望の高さ分だけ中央部1bからZ方向に関して離間して配置される領域である。立ち上がり部2bは、中央部2cが第1容器壁1に対して離間するように第1容器壁1から立ち上がる領域である。
【0026】
なお、本実施形態では、第1容器壁1の周縁部1aと第2容器壁2の周縁部2aは互いに熱溶着によってシールされていてもよく、これにより培養空間Sの密閉性がより確実に担保される。しかしながらこの態様に限定されず、例えば公知の接着剤を介して第1容器壁1の周縁部1aと第2容器壁2の周縁部2aが固定される態様でもよい。
また、培養液の液厚が均一で平坦な培養面をできる限り広く確保するという思想の下では、立ち上がり部2bの幅は狭ければ狭いほどよく、周縁部のシール領域の幅も狭ければ狭いほどよい。
【0027】
本実施形態では、上述した立ち上がり部2bと中央部2cによって台地状に膨出した膨出形状2zが形成され、この膨出形状2zの内部に培養空間Sが形成されている。なお、培養空間SのZ方向における高さは特に制限はなく培養する細胞の状態に応じた適正な液厚となるよう適宜設定すればよく、培養容器の大きさにも依存するが、例えば数mm〜数十mmであってもよい。
【0028】
なお、図2または図3に示すとおり、中央部2cは平面であってもよい。換言すれば、第2容器壁2のうち培養空間を形成する天面(中央部2c)が平面状であることが好ましい。また、第2容器壁2の立ち上がり部2bは、後述のとおり加熱によってフィルムが台地状の一部に変形した領域であり、中央部2cよりも硬度が高くなっていてもよい。換言すれば、第2容器壁2のうち膨出形状2zを形成する立ち上がり部2bの硬度は、膨出形状2zのうち立ち上がり部2bと異なる領域(中央部2c)の硬度よりも高く設定されていてもよい。さらに、中央部2cの硬度は、中央部1bの硬度と等しく設定されていてもよい。換言すれば、第2容器壁2の中央部2cにおける硬度は、当該中央部2cと対向する第1容器壁1の中央部1bにおける硬度と実質的に等しく設定されていてもよい。
【0029】
ポート3は、図2および図3に示すとおり、第1容器壁1と第2容器壁2で囲まれる培養空間Sに通じる部材である。ポート3は、培地や細胞などが流通可能な管状の部材である。ポート3は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂を用いて、射出成形や押出成形などによって所定の形状に成形される。
【0030】
なお、ポート3には、第2容器壁2の中央部2cと第1容器壁1の中央部1bが貼り付くことによってポート3が閉塞してしまうのを避けるために、その基端から培養空間S内に突出するポート閉塞防止片を設けてもよい。かようなポート閉塞防止片を設ける場合には、第1容器壁1における中央部1bの表面に存在する細胞の妨げにならないように、培養空間S側の中央部2c側にポート閉塞防止片が位置するように設けるのが好ましい。
【0031】
また、本実施形態では、ポート3の断面を半円状とし、このポート3のうち第1容器壁1と接触する面が平面状となるようにしつつ、第2容器壁2と接触する面が曲面状となるように構成してもよい。
これにより、ポート3と第2容器壁2との間で隙間が生じることが抑制され、培養空間Sから培養液が漏れてしまうことが防止される。
【0032】
また、本実施形態では、少なくとも第1容器壁1の表面と第2容器壁2の天面とが互いに平行となっていることが好ましい。これにより培養空間Sを広く確保することが可能となり、比較的少量の培養液であったとしても培養空間Sの隅々まで効率的に培養液を行き渡らせることが可能となる。
そしてさらに好ましくは、図3に示すように、第1容器壁1の表面、第2容器壁2の天面(中央部2c)、及びポート3の底面は、互いに平行となっていてもよい。換言すれば、本実施形態のポート3の底面(第1容器壁1と接触する接触面)は、第1容器壁1の表面と同一平面となっていることが好ましい。これにより、更に効率的に比較的少量の培養液を培養空間Sの隅々まで行き渡らせることが可能となる。
【0033】
[細胞培養容器の製造方法及び細胞培養容器の製造装置]
次に、図4を用いて本実施形態における細胞培養容器10の製造方法及び製造装置について説明する。
すなわち細胞培養容器10は、以下でそれぞれ説明する押圧部材21、拘束部材22、載置台23、加熱装置24および流体導入装置25を含む細胞培養容器の製造装置を用いて、次に示す各工程を経て製造される。
【0034】
まず図4(a)に示すように、ガス透過性を有するフィルムからなる第1容器壁1と、この第1容器壁1に対向して配置される第2容器壁2とを重ねた状態で載置台23に第1容器壁1を載置する。このとき、第1容器壁1の周縁部1aと第2容器壁2の周縁部2aは、例えば熱溶着によってシールされていることが好ましい。
【0035】
また、第1容器壁1と第2容器壁2の端部には、上記したポート3が設置されていることが好ましい。この図4(a)に示す第1容器壁1、第2容器壁2およびポート3の集合体を、完成前の細胞培養容器としてベース体10´と記載する。
【0036】
第1容器壁1を載置台23に載置した後は、図4(b)に示すように、第2容器壁2の中央部2cが開放された状態(押圧されていない状態)で、第2容器壁2の周縁部2aを拘束部材22で押圧して拘束する。このように、拘束部材22は、載置台23に対向して配置されて、当該載置台23に載置された第2容器壁2の周辺を拘束する機能を有している。
なお、上記した周縁部2aを拘束可能な限りにおいて拘束部材22の形状に特に制限はないが、第2容器壁2の周縁を過不足なく拘束する形状が好ましく、さらにはRに相当する領域も含む周縁4辺すべてを拘束する形状が望ましい。また、本実施形態では拘束部材22を用いて拘束したが、第1容器壁1の平坦性が確保されるのであれば拘束部材22は適宜省略してもよい。
【0037】
拘束部材22で第2容器壁2の周縁部2aを拘束した後は、図4(c)に示すように、拘束部材22で上記した周縁部を押圧した状態で、流体導入装置25を用いて第1容器壁1と第2容器壁2との間に流体を導入する。なお本実施形態でポート3を介してベース体10´の内部(第1容器壁1と第2容器壁2との間の空間)に流体が導入される。このように本実施形態では、拘束部材22で第2容器壁2を拘束しながら、流体導入装置25で第1容器壁1と第2容器壁2の間の空間に流体が導入される。
【0038】
本実施形態で流体導入装置25によって導入される流体は、液体または気体である。流体としては純水などが例示され、気体としては清浄化された空気(クリーンエアー)や窒素などの不活性ガスが例示される。このうち、取り扱いや処理の容易性の観点から、本実施形態ではクリーンエアーが適用されている。
【0039】
ベース体10´の内部に流体が導入された後は、図4(d)に示すように、押圧部材21を載置台23から所定距離だけ離間した位置まで降下させて、第2容器壁2の中央部2cに対して押圧部材21で押圧しながら少なくとも当該押圧部材21を加熱装置24により加熱する。このとき、上記した所定距離が細胞培養容器10の膨出形状2zの大きさ(高さ)となる。このように、押圧部材21は、載置台23に対して進退可能に配置されて、第1容器壁1と第2容器壁2との間の空間に流体が導入された第2容器壁2を加圧する機能を有している。
なお、本実施形態の加熱装置24としては、例えばニクロム線などの公知の抵抗加熱手段などが挙げられ、典型的には押圧部材21の内部に該加熱装置24を設置することができる。また、載置台23の内部に加熱装置24を設置する態様としてもよく、加熱装置24は載置台23と押圧部材21の少なくとも一方を加熱する態様でもよい。
【0040】
また、加熱装置24が押圧部材21を加熱する温度については、第1容器壁などに用いるフィルムの耐熱温度を考慮して決定されるが、当該フィルムが軟化する程度の加熱(例えば80℃程度)が好ましい。この押圧部材21を用いた加熱によって、上記した膨出形状2zが形成される。なお、押圧部材21による加熱に際しては、当該押圧部材21のうち特定の領域(第2容器壁2の中央部2cに対向する領域を避けつつ第2容器壁2の周縁部2bに対向する領域)に加熱手段(例えばニクロム線などの抵抗加熱装置)を配置してもよい。これにより、第2容器壁2のうち膨出形状2zを形成するために必ずしも必要でない領域まで硬化してしまうことが抑制される。
【0041】
また、所望の温度に加熱された押圧部材21で第2容器壁2を押圧する際には、ベース体10´の内部(後に培養空間Sとなる)における内圧が一定となるように、ベース体10´の内部に導入される流体の供給圧が流体導入装置25によって調整されることが好ましい。これにより、ベース体10´の内部に過度な圧力が加わることが抑制され、フィルムの伸びやシールの破壊などが防止される。
なお、押圧部材21などに更に冷却装置を具備しておき、押圧部材21を加熱した後であって第2容器壁2を押圧している最中にこの冷却装置を用いて押圧部材21を冷却してもよい。
【0042】
所望の温度に加熱された押圧部材21で第2容器壁2を押圧して所定時間が経過した後は、図4(e)に示すとおり、載置台23に対して押圧部材21と拘束部材22を退避させるとともに、完成した細胞培養容器10を取り出すことで完了となる。なお、載置台23に対して押圧部材21と拘束部材22を退避させる前に、細胞培養容器10のポート3に対して封止することが好ましい。これにより異物などが培養空間Sに不用意に侵入してしまうことが抑制される。
【0043】
<平面状の底面及び膨出形状が有する意義>
従来の細胞培養容器は、細胞の培養面となる底面の一部分のみが平らとなる形状も散見されるが、細胞の培養面を最大限確保する思想は皆無であり、更に培養空間における培養液の均質拡散性を確保することに至ってはその課題の提示やその構成の示唆すらも一切存在しなかった。より具体的には、図5(b)に示すごとき従来手法により製造された細胞培養容器は、平面方向(XY平面)において培養液が一様に広がることができず、容器の隅部分は培養液が行き渡らないので、良好な培養空間とは成り得ない。また、高さ方向(Z方向)においても反りを有するため培養液の濃淡が全面的に生じてしまっている。
【0044】
これに対して図5(a)に示す本実施形態の細胞培養容器は、上記した平面方向においても、高さ方向においても、一様で均質に培養液が広がっていることは明らかである。このように本実施形態により製造された細胞培養容器10は、たとえ比較的少量の培養液しか用いることができない場合であっても、培養面となる第1容器壁10の中央部1bに対して均一に隅々まで培養液を行き渡らせることが可能となる。したがって、本実施形態によれば、高価な培養液を最大限効率良く使用することができ、さらにコンタミネーションリスクを抑制しつつ貴重な細胞をより確実に培養することが可能となる。
【0045】
そして、かような本実施形態の細胞培養容器を用いた細胞培養方法は、上記した細胞培養容器10を用いた細胞培養方法であって、第2容器壁2に対して第1容器壁1が下方となるように第1容器壁を載置しつつ、ポート3を介して細胞と培養液を注入することを特徴としている。このとき、細胞培養容器10は、適切な温度(例えば37℃)、炭酸ガス濃度(例えば5〜10%CO濃度)、及び湿度(例えば約95%)に調整された細胞培養装置(COインキュベータ―)内の載置面に載置されることが好ましい。
【0046】
これにより、底面となる第1容器壁によって広範囲で平坦な培養面が確保できるとともに、たとえ少量の培養液であったとしても膨出形状を有する第2容器壁によって培養面の隅々まで行き渡らせることが可能となる。
なお、上記した実施形態においては、iPS細胞などの接着細胞を例にして説明したが、本発明はこの例に限られるものではない。すなわち、本発明は、造血細胞や腹水細胞などの浮遊細胞向けの培養容器やその製造方法及び製造装置並びに細胞培養方法に適用してもよい。実際上、浮遊細胞の静置培養においても広範囲で均一に細胞を分布させたいニーズがあり、接着細胞も播種後に底面に沈殿して接着するまでは浮遊細胞とほぼ同じ態様をとるからである。
【0047】
上記した実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。以下、上記した実施形態に適宜適用が可能な変形例について説明する。
【0048】
<変形例1>
図6は、本実施形態で説明したポート3の変形例である。
上記で説明した実施形態のポート3は、第2容器壁2と接する面(上面)が曲面であったが、本発明はこの態様に限られず種々のポートの形状を採用することができる。
【0049】
例えば図6(a)に示すポート4のように、第2容器壁2と接する面(この例では上面4aと側面4a)が平面であってもよい。換言すれば、ポート4は、Y方向に延びる直方体状の本体4aに注入出口4bが付加された構造となっていてもよい。
【0050】
また、図6(b)に示すポート5のように、第2容器壁2と接する面(この例では斜面5aと斜面5a)が平面であってもよい。換言すれば、ポート5は、Y方向に延びる三角柱状の本体5aに注入出口5bが付加された構造となっていてもよい。
【0051】
<変形例2>
図7は、本実施形態で説明したポート3のその他の変形例である。
すなわち、上記実施形態および変形例1で説明したポート3の底面はいずれも平面状となっており、第1容器壁1のうちポート3と接触する領域(ポート3と接触する周縁部1a)の外表面は、このポート3と接触する領域以外の外表面と同一平面であった。
しかしながら本発明はこの態様に限られず、図7に示すように、第1容器壁1は、少なくともポート3と接触する領域以外で平面状となっていればよい。
【0052】
すなわち本変形例では、一般的な舟形の形状(断面がアーモンドのごとき形状)を有するポート3が用いられており、当該ポート3の底面は平面状でなく下に凸状の曲面となっている。かような形状のポート3を用いる場合、図7に示されるように、第1容器壁1のうちポート3と接触する領域は、ポート3の形状に沿って下に凸状の曲面となる。
このような場合にも、第1容器壁1はポート3と接触する領域以外で平面状となっているので、上記した本発明の効果を奏することが可能となっている。
なお、上記においては細胞培養の用途として説明をしたが、例えば液体などを出来るだけ平坦な面を底面として貯蔵したい場合など、本発明の容器は細胞培養用途以外の他の用途に用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば種々の細胞を効率良く培養する技術や液体を所望の状態で保存する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 第1容器壁
2 第2容器壁
3、4、5 ポート
10 細胞培養容器
21 押圧部材
22 拘束部材
23 載置台
24 加熱装置
25 流体導入装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7