特許第6927073号(P6927073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6927073-飛行式噴射装置および塗装方法 図000002
  • 特許6927073-飛行式噴射装置および塗装方法 図000003
  • 特許6927073-飛行式噴射装置および塗装方法 図000004
  • 特許6927073-飛行式噴射装置および塗装方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927073
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】飛行式噴射装置および塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 17/04 20060101AFI20210812BHJP
   B05B 12/32 20180101ALI20210812BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20210812BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20210812BHJP
   B64D 1/18 20060101ALI20210812BHJP
   B64C 25/32 20060101ALI20210812BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20210812BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   B05B17/04
   B05B12/32
   B64C27/08
   B64C39/02
   B64D1/18
   B64C25/32
   B05D1/02 Z
   B05D1/26 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-21960(P2018-21960)
(22)【出願日】2018年2月9日
(65)【公開番号】特開2019-136651(P2019-136651A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 亮平
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−522113(JP,A)
【文献】 特開2017−193327(JP,A)
【文献】 特開2017−193330(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/183219(WO,A1)
【文献】 特開2016−211878(JP,A)
【文献】 特開平6−190308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B17/00−17/08
B05D1/00−7/26
B64B1/00−1/70
B64C1/00−99/00
B64D1/00−47/08
B64F1/00−5/60
B64G1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行式噴射装置であって、
空気推力装置と、
塗装面に流体を吹き付けることが可能な噴射装置と、
前記噴射装置を覆い、前記塗装面に対応する形状の開口端を有するカバーと、
前記噴射装置および前記カバーを少なくとも1つの軸の回りに回転可能であるように前記空気推力装置に連結するフレームと、
前記カバーを前記塗装面に所定の間隔で対向させることが可能なスペーサーと
を備え、
前記少なくとも1つの軸は、前記空気推力装置が発生させる推力の方向に対して垂直な面内にあり、かつ前記飛行式噴射装置の推力中心を通過する飛行式噴射装置。
【請求項2】
前記空気推力装置は、前記フレームの第1の位置に連結され、
前記空気推力装置または前記噴射装置のための付属装置が前記フレームの第2の位置に連結され、
前記噴射装置および前記カバーは、前記フレームの第3の位置に連結され、
前記第2の位置と前記第3の位置とは、前記噴射装置および前記カバーが前記少なくとも1つの軸の回りに回転するときの回転軸が前記飛行式噴射装置の重心を通過するように前記第1の位置に対して互いに反対側に位置する、請求項1に記載の飛行式噴射装置。
【請求項3】
前記カバー内の空間を空気吸引装置に接続する接続管をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の飛行式噴射装置。
【請求項4】
前記スペーサーの先端に車輪が設けられる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の飛行式噴射装置。
【請求項5】
前記車輪には回転駆動装置が設けられる、請求項4に記載の飛行式噴射装置。
【請求項6】
請求項1に記載の飛行式噴射装置を用いた塗装方法であって、
前記飛行式噴射装置を前記塗装面の近傍まで移動させる工程と、
前記カバーを前記塗装面に対向させた状態で、前記空気推力装置が前記飛行式噴射装置を前記塗装面に接近させる方向の推力を発生させることによって前記スペーサーを前記塗装面に当接させる工程と、
前記スペーサーが前記塗装面に当接した後に、前記空気推力装置が前記飛行式噴射装置を前記塗装面に接近させる方向の推力を発生させながら、前記噴射装置が前記塗装面に流体を吹き付ける工程と
を含む塗装方法。
【請求項7】
前記スペーサーの先端に車輪が設けられ、前記車輪には回転駆動装置が設けられ、
前記空気推力装置が発生させる推力によって前記飛行式噴射装置に中性浮力を与えながら、前記回転駆動装置を用いて前記車輪を駆動することによって前記飛行式噴射装置を前記塗装面に沿って移動させる工程をさらに含む、請求項6に記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行式噴射装置および塗装方法に係る。
【背景技術】
【0002】
工場建屋などの大型構造物において壁や天井などを再塗装する場合、事前の下地処理の工程と塗膜生成の工程とが実施される。下地処理では、例えば高圧水を吹き付けることによって、塗装面の汚れや錆などを除去する。塗膜生成では、例えば塗料を吹き付けることによって、塗装面に塗膜を生成する。通常の場合、これらの工程は足場に乗った作業員の手で実施されるが、特に塗装面が高所にある場合には足場の組立および解体の作業量が膨大になり、塗装そのものの作業量を上回ることも多かった。
【0003】
この点に関し、特許文献1には、壁面に沿って昇降させられるゴンドラを静電ネットで覆い、ゴンドラに乗り込んだ作業員が塗装ガンを用いて壁面を塗装するか、またはゴンドラ内に設置された塗装ガンを遠隔操作で移動させて壁面を塗装する技術が記載されている。この場合、足場は必要ないが、ゴンドラを昇降させるための大がかりな装置が必要になる。また、ゴンドラに作業員を載せる、または塗装ガンを設置する方法では、壁面から突出する配管や構造材のような支障物を避けたり、窓や開口部で壁面が引っ込んだ部分に追従したりすることが困難である。
【0004】
一方、特許文献2には、高架橋などの構造物の検査に使用される飛行体であって、飛行体本体よりも大きな車輪を両側に取り付けて陸上走行を可能にするとともに、構造物などに取り付け可能なリンクを飛行体本体または車軸に取り付けて飛行体本体を吊り下げ可能にする技術が記載されている。このような飛行体は、画像撮影などのセンシング用途で広く用いられている。陸上走行可能な車輪を有する飛行体は、例えばトンネルの天井や壁、高架橋の橋脚や梁の表面を車輪によって走行することができるため、消費電力が小さく、移動時の操縦安定性が高いという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−76873号公報
【特許文献2】特開2017−71379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば特許文献2に記載された飛行体に特許文献1に記載された静電ネットおよび塗装ガンを設置しようとしても、必ずしもうまくいかない。特許文献2に記載されたような飛行体は、主にセンシング用途での使用を前提としており、流体の吹き付けのように大きな反力を受ける動作を想定して設計されていないため、塗装ガンによって塗料を吹き付けた時に反力によって塗装面から離れてしまう。これを防止するためには飛行体が塗装面に接近する向きの推力を発生させる必要があるが、その際には飛行体の姿勢が変化するため、塗装ガンを塗装面に向けた状態が維持されなくなってしまう。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、空気推力装置を用いることによって任意の塗装位置に容易に移動できるとともに、流体の吹き付けによる塗装を安定して実施することが可能な、新規かつ改良された飛行式噴射装置および塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある観点によれば、飛行式噴射装置が提供される。飛行式噴射装置は、空気推力装置と、塗装面に流体を吹き付けることが可能な噴射装置と、噴射装置を覆い、塗装面に対応する形状の開口端を有するカバーと、噴射装置およびカバーを少なくとも1つの軸の回りに回転可能であるように空気推力装置に連結するフレームと、カバーを塗装面に所定の間隔で対向させることが可能なスペーサーとを備え、上記少なくとも1つの軸は、空気推力装置が発生させる推力の方向に対して垂直な面内にあり、かつ飛行式噴射装置の推力中心を通過する。
上記の構成によれば、例えば、飛行式噴射装置が空気推力装置を備えることによって任意の塗装位置に容易に移動することが可能である。加えて、塗装のための噴射装置およびカバーは空気推力装置に対して回転可能に連結され、その回転軸が飛行式噴射装置の推力中心を通過するため、空気推力装置が飛行式噴射装置の位置および姿勢を制御するために向けられる向きにかかわらず、噴射装置およびカバーを塗装面に向けることができ、流体の吹き付けによる塗装を安定して実施することができる。
【0009】
上記の飛行式噴射装置において、空気推力装置は、フレームの第1の位置に連結され、空気推力装置または噴射装置のための付属装置がフレームの第2の位置に連結され、噴射装置およびカバーは、フレームの第3の位置に連結され、第2の位置と第3の位置とは、噴射装置およびカバーが少なくとも1つの軸の回りに回転するときの回転軸が飛行式噴射装置の重心を通過するように第1の位置に対して互いに反対側に位置してもよい。
この場合、空気推力装置の推力中心と、噴射装置およびカバーを連結したフレームの重心が一致することによって、飛行式噴射装置の飛行中、ホバリング中に噴射装置およびカバーのフレームを水平から上向き、下向きの鉛直方向まで変動させても安定して飛行し続けることができる。
【0010】
上記の飛行式噴射装置は、カバー内の空間を空気吸引装置に接続する接続管をさらに備えてもよい。
この場合、カバー内が負圧になることによって、噴射装置から噴射された流体の飛沫が外部に飛散することが効果的に防止される。
【0011】
上記の飛行式噴射装置において、スペーサーの先端に車輪が設けられてもよい。さらに、車輪には回転駆動装置が設けられてもよい。
この場合、車輪を設けることによって、カバーを塗装面に対向させた状態を維持したまま、飛行式噴射装置を塗装面に対して平行な方向に移動させることが容易になる。また、車輪に回転駆動装置を設けることによって、空気推力装置が飛行式噴射装置に中性浮力を与えた状態で、車輪の駆動によって飛行式噴射装置を塗装面に沿って移動させることができる。
【0012】
本発明の別の観点によれば、上記の飛行式噴射装置を用いた塗装方法が提供される。塗装方法は、飛行式噴射装置を塗装面の近傍まで移動させる工程と、カバーを塗装面に対向させた状態で、空気推力装置が飛行式噴射装置を塗装面に接近させる方向の推力を発生させることによってスペーサーを塗装面に当接させる工程と、スペーサーが塗装面に当接した後に、空気推力装置が飛行式噴射装置を塗装面に接近させる方向の推力を発生させながら、噴射装置が塗装面に流体を吹き付ける工程とを含む。
上記の構成によれば、例えば、空気推力装置の発生させる推力が噴射装置による塗装面への流体の吹き付けによって発生する反力に対抗することによって、飛行式噴射装置の位置を維持し、カバーが塗装面から離れるのを防止することができる。
【0013】
上記の塗装方法において、スペーサーの先端に車輪が設けられ、車輪には回転駆動装置が設けられ、塗装方法は、空気推力装置が発生させる推力によって飛行式噴射装置に中性浮力を与えながら、回転駆動装置を用いて車輪を駆動することによって飛行式噴射装置を塗装面に沿って移動させる工程をさらに含んでもよい。
この場合、空気推力装置が飛行式噴射装置に中性浮力を与えた状態で、車輪の駆動によって飛行式噴射装置を塗装面に沿って移動させることができるため、空気推力装置の制御が簡単になり、また塗装面に沿った方向での位置合わせの精度も向上する。
【発明の効果】
【0014】
以上で説明したように、本発明によれば、空気推力装置を用いることによって任意の塗装位置に容易に移動できるとともに、流体の吹き付けによる塗装を安定して実施することが可能な飛行式噴射装置および塗装方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る飛行式噴射装置を示す斜視図である。
図2図1に示す飛行式噴射装置が壁面を塗装している状態を示す図である。
図3図1に示す飛行式噴射装置が天井面を塗装している状態を示す図である。
図4図1に示す飛行式噴射装置が屋根面などの傾斜面を塗装している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る飛行式噴射装置を示す斜視図である。図1に示されるように、飛行式噴射装置1は、飛行装置2と、噴射装置3と、カバー4と、フレーム5と、スペーサー6と、ケーブル7とを備える。以下、各部についてさらに説明する。
【0018】
飛行装置2は、空気推力装置であるプロペラ21A〜21Dと、制御部22と、電源部23とを含む。プロペラ21A〜21Dは、フレーム5の第1の位置Pで、内フレーム51に連結される。制御部22は、補強フレーム54に連結される。電源部23は、フレーム5の第2の位置Pで、外フレーム53に連結される。プロペラ21A〜21Dは、制御部22の制御に従って駆動されるマルチローターを構成し、飛行式噴射装置1を上昇および下降、ならびに前進、後進、および旋回させるための推力を発生させる。制御部22は、ジャイロセンサや加速度センサなどのセンサと、センサに接続されたコンピュータとを含み、センサの検出結果およびオペレータからの指示に基づいて決定される飛行式噴射装置1の姿勢や移動方向、移動速度が実現されるように、プロペラ21A〜21Dの駆動を制御する。なお、オペレータからの指示は、例えばケーブル7に含まれる通信線を介した有線通信によって、または制御部22に含まれるアンテナを用いた無線通信によって受信される。電源部23は、プロペラ21A〜21Dの駆動部および制御部22に電力を供給する。
【0019】
噴射装置3は、塗装面Wに流体を吹き付けることが可能な装置である。本実施形態において、噴射装置3は、高圧水噴射装置31と、塗料噴射装置32とを含む。高圧水噴射装置31は、地上に設置された供給装置からケーブル7に含まれる接続管を介して供給された高圧水を塗装面Wに吹き付けることによって、塗装面Wの汚れや錆などを除去することができる。塗料噴射装置32は、同じく地上に設置された供給装置からケーブル7に含まれる接続管を介して供給された塗料を塗装面Wに吹き付けることによって、塗装面Wに塗膜を生成することができる。高圧水噴射装置31および塗料噴射装置32は、それぞれ通信回路および制御回路を含み、ケーブル7に含まれる通信線を介した有線通信によって受信されるオペレータの指示に従って噴射を実行してもよい。あるいは、高圧水噴射装置31および塗料噴射装置32は、流体の供給時に自動的に噴射を実行するように構成されていてもよい。噴射装置3は、カバー4とともにフレーム5の第3の位置Pに連結される。ここで、フレーム5において、噴射装置3およびカバー4が連結される第3の位置Pと、飛行装置2の電源部23が連結される第2の位置Pとは、第1の位置Pに対して互いに反対側に位置する。これによって、噴射装置3およびカバー4による荷重と電源部23による荷重とが空気推力装置であるプロペラ21A〜21Dの連結位置を挟んで分散するため、飛行式噴射装置1の飛行中のバランスが改善される。具体的には、噴射装置3およびカバー4が後述する回転軸Aの回りに回転するときの回転軸Aがフレーム5に連結された各部分を含む飛行式噴射装置1の重心を通過することによって、飛行式噴射装置1の飛行中のバランスが改善される。なお、第2の位置Pに連結されるのは必ずしも電源部23でなくてもよく、プロペラ21A〜21Dまたは噴射装置3のための他の付属装置であってもよい。
【0020】
カバー4は、噴射装置3を覆い、塗装面Wに対応する形状の開口端41を有する。図示された例では塗装面Wが平坦な面であるため、略矩形状の開口端41の各辺は直線状である。他の例において、塗装面Wが円筒面、または球面である場合、開口端41の各辺は塗装面に沿って凸状に、または凹状に湾曲した形状であってもよい。図示された例においてカバー4は底面のない四角錘台形であるが、同様に底面のない円錐台形、または他の角錘台形であってもよい。カバー4は、後述するスペーサー6の作用によって塗装面Wに所定の間隔で対向することによって、カバー4の内部に配置される噴射装置3から噴射された流体の飛沫が外部に飛散することを防止する。このような機能が実現される限りにおいて、カバー4は必ずしも底面のない錘台形でなくてよく、一方の底面がない円柱または角柱などの形状であってもよい。図示していないが、本実施形態では、カバー4内の空間を空気吸引装置に接続する接続管が設けられる。空気吸引装置が動作することによってカバー4内が負圧になり、噴射装置3から噴射された流体の飛沫が外部に飛散することがより効果的に防止される。空気吸引装置は、飛行式噴射装置1に搭載されてもよいし、地上に設置されてもよい。空気吸引装置が地上に設置される場合、ケーブル7は空気吸引装置に接続される接続管を含む。
【0021】
フレーム5は、内フレーム51と、回転ジョイント52と、外フレーム53と、補強フレーム54とを含む。フレーム5は、以下で説明するように、噴射装置3およびカバー4を回転軸Aの回りに回転可能であるように飛行装置2に連結する。回転軸Aは、飛行装置2が発生させる推力の方向(図中のz方向)に対して垂直な面内にあり、かつ飛行式噴射装置1の推力中心CoTを通過する。内フレーム51は、回転軸Aに沿って配置される棒状の部材であり、中央に飛行装置2のプロペラ21A〜21Dが連結される。内フレーム51の両端は、回転ジョイント52を介して外フレーム53に連結される。図示された例において外フレーム53は略正方形であり、1対の対辺の中点付近に回転ジョイント52が設けられる。回転ジョイント52の動作によって、外フレーム53は、内フレーム51に対して回転軸Aの回りに回転することが可能である。回転ジョイント52にはステッピングモータまたはサーボモータなどの回転駆動装置が設けられ、内フレーム51に対する外フレーム53の任意の回転角度を設定することが可能である。回転ジョイント52に含まれる回転駆動装置は、例えば飛行装置2に含まれる制御部22によって制御され、また電源部23から電力を供給されてもよい。あるいは、回転駆動装置のための制御装置および電源部が別に設けられてもよい。回転ジョイント52が設けられない外フレーム53の1対の対辺の中点付近には、それぞれ噴射装置3およびカバー4と飛行装置2の電源部23とが連結される。補強フレーム54は、内フレーム51に直交するように外フレーム53の対向する1対の辺の間に架設される。補強フレーム54は外フレーム53とともに回転軸Aの回りに回転するため、内フレーム51と補強フレーム54とは軸受を介して連結されている。本実施形態では、飛行装置2の制御部22が補強フレーム54に連結される。
【0022】
スペーサー6は、カバー4またはフレーム5に取り付けられ、カバー4を塗装面Wに所定の間隔で対向させる。具体的には、スペーサー6は、カバー4よりも塗装面Wに向けて突出しており、後述するようにプロペラ21A〜21Dが発生させる推力によって飛行式噴射装置1が塗装面Wに接近させられた時には、カバー4の開口端41よりも先に塗装面Wに当接する。このようなスペーサー6をカバー4に対して適切な位置(図示された例ではカバー4が四角錘台形のため、その底面の四隅の近傍)に配置することによって、カバー4を所定の間隔で安定して塗装面Wに対向させることができる。塗装面Wに当接されるスペーサー6の先端部分は、塗装面Wに損傷を与えないように丸みを帯びた形状であるか、または弾性材料で形成されることが望ましい。本実施形態では、スペーサー6の先端部分に車輪61が設けられる。車輪61が設けられることによって、上記のように塗装面Wに損傷を与えずにスペーサー6を塗装面Wに当接させることができるのに加えて、カバー4を塗装面Wに対向させた状態を維持したまま、飛行式噴射装置1を塗装面Wに対して平行な方向に移動させることが容易になる。さらに、車輪61にはモータなどの回転駆動装置が設けられ、任意の方向(例えば図中のx方向)に走行することが可能であってもよい。この場合、プロペラ21A〜21Dが飛行式噴射装置1に中性浮力を与えた状態で、車輪61の駆動によって飛行式噴射装置1を塗装面Wに沿って移動させることができる。
【0023】
ケーブル7は、飛行式噴射装置1を地上などに固定設置された装置に接続する1または複数の電線または管路を含む。例えば、ケーブル7は、飛行装置2に対するオペレータの指示を送信する通信線を含んでもよい。この場合、通信線はオペレータが操作するリモートコントローラに接続される。また、ケーブル7は、噴射装置3の高圧水噴射装置31を高圧水の供給装置に接続するための接続管、および塗料噴射装置32を塗料の供給装置に接続するための接続管を含んでもよい。さらに、ケーブル7は、噴射装置3に対するオペレータの指示を送信する通信線を含んでもよい。この場合、通信線およびリモートコントローラは、飛行装置2のためのものと共通であってもよいし、別個であってもよい。ケーブル7は、カバー4内の空間を空気吸引装置に接続するための接続管を含んでもよい。
【0024】
図2は、図1に示す飛行式噴射装置が壁面を塗装している状態を示す図である。図示された例において、塗装面Wは、鉛直面(図中のz−x平面)に一致する壁面である。この場合、まず、飛行式噴射装置1は、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力によって飛行し、塗装面Wの近傍まで移動する。次に、飛行式噴射装置1は、カバー4を塗装面Wに対向させた状態で、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力によって塗装面Wに接近する。このとき、塗装面Wに接近する方向(図中のy方向)の推力を発生させるためにプロペラ21A〜21Dは水平面(図中のx−y平面)に対して傾斜するが、上述のようなフレーム5の構成によって噴射装置3およびカバー4はプロペラ21A〜21Dに対して回転軸Aの回りに回転可能であるため、飛行式噴射装置1は、カバー4が塗装面Wに対して傾斜することなく対向した状態を維持したまま、塗装面Wに接近することができる。回転軸Aは飛行式噴射装置1の推力中心CoTを通過しているため、噴射装置3およびカバー4がプロペラ21A〜21Dに対して回転軸Aの回りに回転しても飛行式噴射装置1の安定的な飛行が維持される。
【0025】
上述のようなスペーサー6の構成によって、飛行式噴射装置1がカバー4を塗装面Wに対向させた状態で塗装面Wに接近すると、カバー4の開口端41よりも先にスペーサー6(図示された例ではスペーサー6に含まれる車輪61)が塗装面Wに当接する。すべてのスペーサー6が塗装面Wに当接するまで、プロペラ21A〜21Dは飛行式噴射装置1を塗装面Wに接近させる方向(図中のy方向)の推力を発生させ続ける。スペーサー6の先端部分を車輪61の様な丸みを帯びた形状にしたり、弾性材料で形成したりすることによって、塗装面Wに押し付けられたスペーサー6との接触による塗装面Wの損傷が防止される。また、スペーサー6がカバー4よりも先に塗装面Wに当接し、カバー4の開口端41は塗装面Wに直接的には接触しないことによって、開口端41が塗装面Wを損傷させたり、逆に開口端41が塗装面Wとの接触によって変形したりすることが防止される。
【0026】
すべてのスペーサー6が塗装面Wに当接すると、カバー4内に配置されている噴射装置3による塗装工程が実行される。具体的には、高圧水噴射装置31が塗装面Wに高圧水を吹き付け、塗料噴射装置32が塗装面Wに塗料を吹き付ける。上述のように、噴射装置3を覆うカバー4が塗装面Wに対向させられていることによって、噴射装置3から噴射された流体の飛沫の外部への飛散が防止される。この間も、プロペラ21A〜21Dは、飛行式噴射装置1を塗装面Wに接近させる方向(図中のy方向)の推力を発生させ続ける。この推力が噴射装置3による塗装面Wへの流体の吹き付けによって発生する反力に対抗することによって、飛行式噴射装置1の位置を維持し、カバー4が塗装面Wから離れるのを防止することができる。
【0027】
なお、プロペラ21A〜21Dは、高圧水の吹き付け時と塗料の吹き付け時との間で、発生させる推力の大きさを変えてもよい。具体的には、プロペラ21A〜21Dは、より大きな反力が発生する高圧水の吹き付け時にはより大きな推力を発生させ、塗料の吹き付け時にはより小さな推力を発生させるか、または推力を発生させなくてもよい。また、高圧水の吹き付け工程と塗料の吹き付け工程とは連続して実行されなくてもよい。例えば、飛行式噴射装置1は、塗装面Wの第1の領域で高圧水の吹き付け工程を実行した後に塗装面Wの第2の領域に移動し、その後に第1の領域に戻って塗料の吹き付け工程を実行してもよい。
【0028】
噴射装置3による塗装工程が終了すると、飛行式噴射装置1は塗装面Wを離れて帰還するか、塗装面Wの他の領域に移動する。塗装面Wの他の領域に移動する場合、飛行式噴射装置1は、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力によって一旦塗装面Wから離れた上で、飛行によって次の領域まで移動してもよい。スペーサー6の先端に車輪61が設けられる場合、飛行式噴射装置1は、塗装面Wから離れることなく、プロペラ21A〜21Dが発生させる塗装面Wに沿った方向の推力によって次の領域まで移動してもよい。あるいは、スペーサー6の先端に回転駆動装置を有する車輪61が設けられる場合、飛行式噴射装置1は、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力を変化させず、中性浮力を与えられた状態を維持したまま、車輪61の駆動によって塗装面Wに沿って次の領域まで移動してもよい。
【0029】
図3は、図1に示す飛行式噴射装置が天井面を塗装している状態を示す図である。図示された例において、塗装面Wは、水平面(図中のx−y平面)に一致する天井面である。この場合も、上記の図2の例と同様に、飛行式噴射装置1は、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力によって飛行して塗装面Wの近傍まで移動し、その後にカバー4を塗装面Wに対向させた状態で、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力によって塗装面Wに接近する。このとき、プロペラ21A〜21Dが水平面(図中のx−y平面)に沿って位置するのに対して、噴射装置3およびカバー4を鉛直方向(図中のz方向)に向ける必要がある。本実施形態では、上述のようなフレーム5の構成によって噴射装置3およびカバー4がプロペラ21A〜21Dに対して回転軸Aの回りに回転可能であることによって、上記のようなプロペラ21A〜21Dと噴射装置3およびカバー4の位置関係を実現することが可能である。既に述べたように、回転軸Aは飛行式噴射装置1の推力中心CoTを通過しているため、上記のようにプロペラ21A〜21Dと噴射装置3およびカバー4の位置関係を変化させても飛行式噴射装置1の安定的な飛行が維持される。
【0030】
図4は、図1に示す飛行式噴射装置が屋根面などの傾斜面を塗装している状態を示す図である。上記の図2および図3では飛行式噴射装置1が鉛直面に一致する壁面や水平面に一致する天井面を塗装する例について説明したが、飛行式噴射装置1は、図4に示すように必ずしも鉛直面や水平面に一致しない任意の塗装面Wについて塗装を実行することが可能である。
【0031】
上記で説明したような本発明の一実施形態では、噴射装置3およびカバー4をプロペラ21A〜21Dに対して回転軸Aの回りに回転可能にすることによって、プロペラ21A〜21Dを飛行式噴射装置1の位置および姿勢を制御するために適切な方向に向けながら、噴射装置3およびカバー4を塗装面Wに対向させることができる。なお、上記の例では、噴射装置3およびカバー4が、プロペラ21A〜21Dに対して、プロペラ21A〜21Dが発生させる推力の方向に対して垂直な面内にあり、かつ飛行式噴射装置1の推力中心CoTを通過する1つの回転軸Aの回りに回転可能であったが、同様の別の回転軸の回りにも回転可能であってもよい。具体的には、図1では、噴射装置3およびカバー4が、プロペラ21A〜21Dに対して、図中のx方向に延びる回転軸Aの回りにのみ回転可能であったが、推力中心CoTを通過して図中のy方向に延びる別の回転軸の回りにも回転可能であってもよい。この場合、フレーム5は、2軸のジンバル機構のような構造を有して、2つの回転軸の回りの回転を可能にする。噴射装置3およびカバー4がプロペラ21A〜21Dに対して2つの回転軸の回りに回転可能であることによって、例えば、飛行式噴射装置1を塗装面Wに沿って移動させるときにプロペラ21A〜21Dを傾けてより大きな推力を発生させたり、塗装面Wに沿った向きの気流(横風)に対して飛行式噴射装置1の位置および姿勢を安定させることが容易になったりする。
【0032】
また、上記で説明したような本発明の一実施形態では、スペーサー6を設けることによって、カバー4を塗装面Wに接触させることなく、カバー4を安定的に所定の間隔で塗装面Wに対向させることができる。また、噴射装置3による塗装工程が実行されるときに、プロペラ21A〜21Dが噴射装置3およびカバー4を塗装面Wに向かって押し付ける方向の推力を発生させることによって、噴射装置3による塗装面Wへの流体の吹き付けによって発生する反力に対抗して飛行式噴射装置1の位置を維持することができる。さらに、スペーサー6の先端に回転駆動装置を有する車輪61を設ける場合、プロペラ21A〜21Dが上記の反力に対抗し、かつ飛行式噴射装置1に中性浮力を与える推力を発生させていれば、塗装面Wに沿った方向での位置合わせは車輪61の駆動によって実行される。この場合、プロペラ21A〜21Dの制御が簡単になり、また位置合わせの精度も向上する。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0034】
1…飛行式噴射装置、2…飛行装置、21A〜21D…プロペラ、22…制御部、23…電源部、3…噴射装置、31…高圧水噴射装置、32…塗料噴射装置、4…カバー、41…開口端、5…フレーム、51…内フレーム、52…回転ジョイント、53…外フレーム、54…補強フレーム、6…スペーサー、61…車輪、7…ケーブル、A…回転軸、CoT…推力中心、P…第1の位置、P…第2の位置、P…第3の位置、W…塗装面。
図1
図2
図3
図4