(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927076
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】焼入れ用治具およびはすば歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/32 20060101AFI20210812BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
C21D9/32 B
C21D9/32 A
C21D1/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-29371(P2018-29371)
(22)【出願日】2018年2月22日
(65)【公開番号】特開2019-143210(P2019-143210A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】河原木 雄介
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−285386(JP,A)
【文献】
実開昭57−059868(JP,U)
【文献】
特開2013−091814(JP,A)
【文献】
特開2005−336509(JP,A)
【文献】
特開2016−133147(JP,A)
【文献】
特開平02−240217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/32
C21D 1/00
C21D 1/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼からなりかつ環形状を有する複数のはすば歯車素材を、加熱した後、長尺状の支持部材の長さ方向に並ぶように前記支持部材に吊るした状態で油中で冷却して焼入れ処理を施すことによってはすば歯車を製造するに際して、前記油中での冷却時に用いられる焼入れ用の治具であって、
前記油中での冷却時には、複数の前記治具と前記複数のはすば歯車素材とが前記支持部材の長さ方向に交互に並ぶように配置され、
前記治具は、互いに間隔をおいて設けられかつ前記交互に並ぶように配置された状態において前記はすば歯車素材の側面に接触できる複数の変形規制部と、前記複数の変形規制部を保持する保持部とを含み、
前記交互に並ぶように配置された状態において、前記複数の変形規制部は、少なくとも4箇所ではすば歯車素材の前記側面に接触でき、
前記4箇所は、前記はすば歯車素材の周方向において90°間隔で存在する、治具。
【請求項2】
前記交互に並ぶように配置された状態において、前記支持部材の長さ方向から見た場合に、
前記複数の変形規制部は同一の仮想円上に位置し、前記仮想円の周方向において、隣り合う前記変形規制部同士の間隔は、前記変形規制部の長さよりも長く、
前記支持部材の長さ方向において、前記保持部の長さは、前記変形規制部の長さよりも短い、請求項1に記載の治具。
【請求項3】
前記交互に並ぶように配置された状態において、前記保持部は、前記はすば歯車素材に接触しない、請求項1または2に記載の治具。
【請求項4】
鋼からなりかつ環形状を有する複数のはすば歯車素材を、加熱した後、長尺状の支持部材の長さ方向に並ぶように前記支持部材に吊るした状態で油中で冷却して焼入れ処理を施すことによってはすば歯車を製造する方法であって、
前記油中での冷却時に、請求項1から3のいずれかに記載の複数の治具と前記複数のはすば歯車素材とを前記支持部材の長さ方向に交互に並ぶように配置し、
前記冷却時の油中のはすば歯車素材において、前記はすば歯車素材の上端と前記はすば歯車素材の軸心とを結ぶ線分上の位置を0°位置とした場合、前記複数の変形規制部は、前記0°位置からはすば歯車素材の周方向に、45°、135°、225°および315°離れた4箇所において少なくとも前記はすば歯車素材の側面に接触する、はすば歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はすば歯車素材の焼入れ用治具およびそれを用いたはすば歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車および産業機械(以下、自動車等と記載する。)において構成部材として使用される歯車には、高い応力が繰り返し付与される。このため、自動車等に使用される歯車には、優れた耐疲労性および耐摩耗性を備えることが要求される。そこで、従来、自動車等においては、肌焼鋼からなる歯車素材に浸炭焼入れ処理を施すことによって製造された歯車が利用されている。
【0003】
図8は、歯車素材を浸炭焼入れする際の冷却方法の一例を説明するための図である。
図8において(a)は、冷却のために用いられる油(冷却剤)を貯留する油槽を上方から見た概略図(平面図)であり、(b)は、(a)のb−b線断面図である。なお、以下においては、環状のはすば歯車素材に焼入れ処理を施してはすば歯車を製造する場合について説明する。はすば歯車は、強度に優れかつ音および振動を抑制しやすいので、自動車等において好ましく用いられている。
【0004】
図8を参照して、焼入れ時にはすば歯車素材100を冷却する方法として、従来、油槽102に貯留された油104内に、複数のはすば歯車素材100を浸漬する方法が知られている。複数のはすば歯車素材100は、複数の棒状の支持部材106に吊るされた状態で、油104に浸漬される。なお、
図8に示した例では、一対の支持部材106に吊るされた5個のはすば歯車素材100を1つの歯車素材の組100aとして、複数の歯車素材の組100aが上下方向および水平方向に並ぶように配置されている。
【0005】
上記の冷却方法は、複数のはすば歯車素材100を同時に冷却することができるので、生産性に優れるという利点がある。しかしながら、はすば歯車素材100を
図8に示したように支持部材106に吊るした状態で油104に浸漬して冷却する場合、はすば歯車素材100に歪みが生じることが知られている。具体的には、浸漬の際に油104と先に接触するはすば歯車素材100の下部から先に温度が低下することで、はすば歯車素材100の上部と下部とで温度差が生じ、冷却後のはすば歯車素材100に歪みが生じる。そこで、従来、上記のような歪みの発生を抑制することができる焼入れ方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示された焼入れ方法では、プレス焼入れ装置を用いて歯車部材が冷却される。具体的には、特許文献1のプレス焼入れ装置では、押圧ユニット内において押圧ヘッドと支持板とによって歯車部材を挟んだ状態で歯車部材を回転させつつ、冷却剤によって歯車部材が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−268482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のプレス焼入れ装置によれば、押圧ヘッドと支持板とによって歯車部材の両側面を支持した状態で歯車部材を冷却することができるので、冷却時に歯車部材に歪みが生じることを抑制できると考えられる。しかしながら、特許文献1のプレス焼入れ装置を用いる場合、複数の歯車部材の冷却を同時に行うことができないので、生産性が低下する。
【0009】
そこで、本発明は、複数の環状のはすば歯車素材を、歪みの発生を抑制しつつ同時に冷却することができる、はすば歯車素材の焼入れ用治具およびはすば歯車の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の焼入れ用治具およびはすば歯車の製造方法を要旨とする。
【0011】
(1)鋼からなりかつ環形状を有する複数のはすば歯車素材を、加熱した後、長尺状の支持部材の長さ方向に並ぶように前記支持部材に吊るした状態で油中で冷却して焼入れ処理を施すことによってはすば歯車を製造するに際して、前記油中での冷却時に用いられる焼入れ用の治具であって、
前記油中での冷却時には、複数の前記治具と前記複数のはすば歯車素材とが前記支持部材の長さ方向に交互に並ぶように配置され、
前記治具は、互いに間隔をおいて設けられかつ前記交互に並ぶように配置された状態において前記はすば歯車素材の側面に接触できる複数の変形規制部と、前記複数の変形規制部を保持する保持部とを含み、
前記交互に並ぶように配置された状態において、前記複数の変形規制部は、少なくとも4箇所ではすば歯車素材の前記側面に接触でき、
前記4箇所は、前記はすば歯車素材の周方向において90°間隔で存在する、治具。
【0012】
(2)前記交互に並ぶように配置された状態において、前記支持部材の長さ方向から見た場合に、
前記複数の変形規制部は同一の仮想円上に位置し、前記仮想円の周方向において、隣り合う前記変形規制部同士の間隔は、前記変形規制部の長さよりも長く、
前記支持部材の長さ方向において、前記保持部の長さは、前記変形規制部の長さよりも短い、上記(1)に記載の治具。
【0013】
(3)前記交互に並ぶように配置された状態において、前記保持部は、前記はすば歯車素材に接触しない、上記(1)または(2)に記載の治具。
【0014】
(4)鋼からなりかつ環形状を有する複数のはすば歯車素材を、加熱した後、長尺状の支持部材の長さ方向に並ぶように前記支持部材に吊るした状態で油中で冷却して焼入れ処理を施すことによってはすば歯車を製造する方法であって、
前記油中での冷却時に、上記(1)から(3)のいずれかに記載の複数の治具と前記複数のはすば歯車素材とを前記支持部材の長さ方向に交互に並ぶように配置し、
前記冷却時の油中のはすば歯車素材において、前記はすば歯車素材の上端と前記はすば歯車素材の軸心とを結ぶ線分上の位置を0°位置とした場合、前記複数の変形規制部は、前記0°位置からはすば歯車素材の周方向に、45°、135°、225°および315°離れた4箇所において少なくとも前記はすば歯車素材の側面に接触する、はすば歯車の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の環状のはすば歯車素材を、歪みの発生を抑制しつつ同時に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、解析で設定したヒートパターンを示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る治具を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、治具の使用方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係る治具を示す図である。
【
図8】
図8は、焼入れ処理時の冷却方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明者による検討)
本発明者は、
図8に示したように、支持部材106に吊るされたはすば歯車素材100を油104によって冷却する場合に、はすば歯車素材100に生じる歪みについて詳細に検討した。具体的には、本発明者は、FEM解析を行うことによって、はすば歯車素材100に生じる歪みについて調査した。以下、本発明者が行ったFEM解析について説明する。
【0018】
図1は、解析対象のはすば歯車素材100を示す図であり、(a)は側面図、(b)は(a)のb−b線断面を示す概略図である。
図1に示すように、はすば歯車素材100は、円環状の板状部10と、板状部10の外周部から板状部10の径方向外側に向かって突出するように形成された複数の歯20とを有している。なお、
図1(b)では、歯20を簡略化して示し、歯底円の位置を一点鎖線で示している。また、
図1(b)では、はすば歯車素材100の軸心を二点鎖線で示している。
【0019】
図1を参照して、板状部10は、円環状の第1板状部12、および第1板状部12の径方向外側に設けられかつ第1板状部12よりも大きい厚みを有する円環状の第2板状部14を有している。
【0020】
第1板状部12の径方向における中央部には貫通孔12aが形成されている。また、第1板状部12において、貫通孔12aの周囲には、第1板状部12の周方向に互いに間隔をおいて複数の貫通孔12bが形成されている。
【0021】
複数の歯20は、第2板状部14の外周部から第2板状部14の径方向外側に突出するように形成されている。また、複数の歯20はそれぞれ、板状部10の径方向から見て、歯筋がはすば歯車素材100の軸心に対して傾斜するように形成されている。
【0022】
本発明者は、
図2に示すヒートパターンで、上記の構成を有するはすば歯車素材100の浸炭焼入れ解析を行い、第2板状部14においてはすば歯車素材100の軸方向に生じる熱処理歪みについて調査した。なお、
図2中の「Cp」はカーボンポテンシャルを表す。また、「70℃油焼入れ」は油温70℃の油中ではすば歯車素材100を冷却することを表す。また、冷却は、
図1に示すはすば歯車素材100の0°位置が上方で、180°位置が下方になるように、はすば歯車素材100を油中に浸漬して行うものとした。
【0023】
浸炭焼入れ解析において、はすば歯車素材100の材料は、JIS G 4053(2016)に規定されたSCM420とした。ヤング率および応力−歪線図等の機械的特性としては、SCM420の実測データを用いた。また、比熱および熱伝導率等の熱的特性としては、SCM420の化学成分に基づいて、予測式を用いて算出した値を用いた。はすば歯車素材100の直径は205mmとし、厚さは30mmとした。はすば歯車素材100の油中への浸漬速度は125mm/sに設定した。
【0024】
解析結果を
図3に示す。
図3において横軸は、第2板状部14の周方向における位置を示し、縦軸は、第2板状部14の側面の変位量(はすば歯車素材100の軸方向に生じる変位量)を示す。なお、横軸の0°〜360°の位置は、
図1に示したはすば歯車素材100の0°〜360°の位置に対応する。
【0025】
図3に示した結果から、焼入れ処理によってはすば歯車素材100の軸方向に生じる変位量は、冷却時の油中におけるはすば歯車素材100の上端を0°位置とした場合、0°位置からはすば歯車素材100の周方向に、約45°、約135°、約225°および約315°離れた4つの位置において大きくなることが分かった。すなわち、上記4つの位置において、歯車素材100の軸方向に生じる歪みが大きくなることが分かった。この結果から、本発明者は、はすば歯車素材100のうち少なくとも上記4つの位置を、はすば歯車素材100の軸方向における両側から押すことによって、焼入れ処理によってはすば歯車素材100に生じる歪みを抑制できると考えた。なお、上記のようにはすば歯車素材100が変形する要因としては、冷却油に浸漬することで発生するはすば歯車素材100の上部と下部との温度差によって該上部と該下部とで歪みに差が生じること、および歯筋がはすば歯車素材100の軸心に対して傾斜するように形成されているためにはすば歯車素材100が特定の方向に変形しやすいことが考えられる。
【0026】
(本発明の実施形態)
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の実施の形態に係る治具および製造方法について図面を参照しつつ説明する。以下においては、
図1で説明した形状を有するはすば歯車素材100に焼入れ処理(例えば、浸炭焼入れ処理)を施してはすば歯車を製造するに際して、
図8で示したように、支持部材106に吊るされた加熱後の複数のはすば歯車素材100を、油槽102に貯留された油104内に浸漬して冷却する場合について説明する。本実施形態では、複数のはすば歯車素材100は、はすば歯車素材100の軸方向が油104の表面(油面)に平行になるように、油104に浸漬される。
【0027】
なお、はすば歯車素材100は、例えば、素材鋼を通常の方法で溶製した後、熱間で圧延又は鍛造し、更に必要に応じて熱処理を行い、次いで切削および圧造等によって所望の歯車形状とすることによって製造することができる。素材鋼としては、公知の種々の肌焼鋼を用いることができる。焼入れ処理のヒートパターンとしては、公知の焼入れ処理のヒートパターンを採用できるので、ヒートパターンの詳細な説明は省略する。
【0028】
図4は、本発明の一実施形態に係る治具を示す斜視図であり、
図5は、治具の使用方法を説明するための図であり、
図6は、
図5のA−A線断面図である。
【0029】
図4を参照して、本実施形態に係る治具30は、円環形状を有している。
図5を参照して、本実施形態では、複数の治具30と複数のはすば歯車素材100とが、長尺状の支持部材106の長さ方向に交互に並ぶように配置される。
図5に示した例では、各はすば歯車素材100が、はすば歯車素材100の軸方向における両側から2つの治具30によって挟まれるように、複数の治具30と複数のはすば歯車素材100とが交互に配置されている。
【0030】
本実施形態では、荷重付与装置200によって、支持部材106の長さ方向における両側から、複数の治具30および複数のはすば歯車素材100に対して荷重が付与されている。これにより、複数の治具30および複数のはすば歯車素材100が互いに押し付けられている。なお、荷重付与装置200の構成としては、複数の治具30と複数のはすば歯車素材100とが互いに押し付けられるように複数の治具30および複数のはすば歯車素材100に荷重を付与できる種々の構成を採用することができる。したがって、荷重付与装置200の詳細な説明は省略する。
【0031】
本実施形態では、複数の治具30と複数のはすば歯車素材100とが上記のように互いに押し付けられた状態で、油槽102の油104によって冷却される。なお、
図6には、はすば歯車素材100の0°位置、45°位置、90°位置、135°位置、180°位置、225°位置、270°位置および315°位置が示されている。本実施形態においてはすば歯車素材100の0°位置とは、はすば歯車素材100の軸方向から見て、油104に浸漬されたときのはすば歯車素材100の上端とはすば歯車素材100の軸心とを結ぶ線分上の位置のことを意味する。また、はすば歯車素材100の45°、90°、135°、180°、225°、270°および315°位置とは、上記0°位置からはすば歯車素材100の周方向に、45°、90°、135°、180°、225°、270°および315°離れた位置のことを意味する。
【0032】
図4〜
図6を参照して、治具30は、複数の変形規制部32と、複数の変形規制部32を保持する保持部34とを含む。複数の変形規制部32は、はすば歯車素材100の側面に接触できかつ互いに間隔をおいて設けられる。保持部34は、複数の接続部34aを含む。各接続部34aは、治具30の周方向において隣り合う変形規制部32同士を接続する。本実施形態では、各接続部34aは、支持部材106の長さ方向における変形規制部32の中心に接続されている。
【0033】
本実施形態では、支持部材106の長さ方向から見て、複数の変形規制部32および複数の接続部34aは同一の仮想円(図示せず)上に位置し、それぞれ円弧形状を有している。本実施形態では、上記仮想円の周方向において、隣り合う変形規制部32同士の間隔は、変形規制部32の長さよりも長い。また、
図5を参照して、支持部材106の長さ方向において、保持部34(接続部34a(
図4参照))の長さは、変形規制部32の長さよりも短い。これにより、複数の変形規制部32がはすば歯車素材100の側面に接触した状態において、保持部34(複数の接続部34a)は、はすば歯車素材100の側面に接触しない。このような構成により、本実施形態では、複数のはすば歯車素材100の周辺を、油104が円滑に移動することができる。
【0034】
図6を参照して、油104における冷却時には、はすば歯車素材100の側面のうち、少なくとも45°位置、135°位置、225°位置および315°位置に複数の変形規制部32が接触するように、複数の治具30が配置される。なお、詳細な説明は省略するが、複数の変形規制部32を、はすば歯車素材100の上記の4箇所に容易に接触させることができるように、治具30に位置決め用の凹部または凸部等を設けてもよい。
【0035】
以上のように、本実施形態では、少なくとも45°位置、135°位置、225°位置および315°位置において、はすば歯車素材100の両側面を変形規制部32によって押さえることができる。これにより、はすば歯車素材100の45°位置、135°位置、225°位置および315°位置の周辺の部分が、焼入れ処理を施した際に、はすば歯車素材100の軸方向に歪むことを抑制できる。したがって、本実施形態によれば、複数のはすば歯車素材100を、歪みの発生を抑制しつつ同時に冷却することができる。これにより、熱処理歪みの発生が抑制されたはすば歯車を製造することができる。
【0036】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、変形規制部32が、第2板状部14の一部および歯20の一部に接触する場合について説明したが、変形規制部がはすば歯車素材100の側面のうち他の部分に接触してもよい。具体的には、変形規制部が第1板状部12において、上記の4箇所(45°位置、135°位置、225°位置および315°位置)に接触してもよい。
【0037】
また、上述の実施形態では、4つの変形規制部32を有する治具30について説明したが、治具は、少なくとも上記の4箇所ではすば歯車素材100の側面に接触できればよい。したがって、治具が5つ以上の変形規制部を有していてもよい。また、上述の実施形態では、治具30が全体として円形状を有する場合について説明したが、治具が全体として多角形状を有していてもよい。また、保持部34の構成も上述の例に限定されず、例えば、治具30が、上述の保持部34の代わりに、
図7(a)に示すような十字形状を有する保持部36を備えていてもよい。また、
図7(b)に示す治具30のように、変形規制部38aと変形規制部38bとが、同一の仮想円上に位置していなくてもよい。
【0038】
また、上述の実施形態では、2つの支持部材106にはすば歯車素材100を吊るす場合について説明したが、1つの支持部材106にはすば歯車素材100を吊るしてもよく、3つ以上の支持部材106にはすば歯車素材100を吊るしてもよい。
【0039】
なお、詳細な説明は省略するが、本発明が適用される対象は、上述のはすば歯車素材100に限定されず、本発明は、他の形状を有する種々の環状のはすば歯車素材の焼入れ処理において好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、複数の環状のはすば歯車素材を、歪みの発生を抑制しつつ同時に冷却することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 板状部
12 第1板状部
14 第2板状部
20 歯
30 治具
32 変形規制部
34 保持部
34a 接続部
100 はすば歯車素材
102 油槽
104 油
106 支持部材
200 荷重付与装置