特許第6927233号(P6927233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927233
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/50 20060101AFI20210812BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20210812BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20210812BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20210812BHJP
   C07C 67/03 20060101ALI20210812BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20210812BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210812BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210812BHJP
【FI】
   C08F2/50
   C08F290/06
   C08F2/44 A
   C07C69/54 Z
   C07C67/03
   C09D4/02
   C09D7/61
   !C07B61/00 300
【請求項の数】21
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2018-551651(P2018-551651)
(86)(22)【出願日】2017年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2017040993
(87)【国際公開番号】WO2018092785
(87)【国際公開日】20180524
【審査請求日】2020年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-223732(P2016-223732)
(32)【優先日】2016年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大房 一樹
(72)【発明者】
【氏名】稲田 和正
(72)【発明者】
【氏名】谷内 健太郎
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/33732(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/2964(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/159611(WO,A1)
【文献】 特開2013−231167(JP,A)
【文献】 特開平10−198032(JP,A)
【文献】 特公昭49−29632(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/50
C08F 290/06
C08F 2/44
C07C 69/54
C07C 67/03
C09D 4/02
C09D 7/61
C09D 175/14
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)成分を含む組成物であって、
(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に、(A)成分を40〜95重量%、(B)成分を5〜60重量%、及び(C)成分を0〜55重量%含む活性エネルギー線硬化型組成物。
(A)成分:グリセリントリ(メタ)アクリレートを主成分とする(メタ)アクリレート混合物であって、(A)成分中の高分子量体が、式(1)に基づくゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる面積%で30%未満である混合物
高分子量体の面積%=〔(R−I−L)/R〕×100 ・・・(1)
式(1)における記号及び用語は、以下を意味する。
・R:(A)成分中の検出ピークの総面積
・I:グリセリントリ(メタ)アクリレートを含む検出ピークの面積
・L:グリセリントリ(メタ)アクリレートを含む検出ピークよりも重量平均分子量が小さい検出ピークの総面積
(B)成分:フィラー
(C)成分:(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物
【請求項2】
前記(A)成分が、グリセリンと1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をエステル交換反応させて得られる、グリセリントリ(メタ)アクリレートを主成分とする(メタ)アクリレート混合物である請求項1記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、下記触媒X及びYの存在下に、グリセリンと1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をエステル交換反応させて得られる、グリセリントリ(メタ)アクリレートを主成分とする(メタ)アクリレート混合物である請求項2に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくは錯体、ピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体、及びホスフィン又はその塩若しくは錯体からなる群から選ばれる一種以上の化合物。
触媒Y:亜鉛を含む化合物。
【請求項4】
前記触媒Xとして、下記化合物を使用したものである請求項3に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくは錯体、及びピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体からなる群から選ばれる一種以上の化合物。
【請求項5】
前記1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物がアルコキシアルキル(メタ)アクリレートである請求項3又は請求項4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項6】
前記触媒Yが、有機酸亜鉛又は/及び亜鉛ジケトンエノラートである請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項7】
前記(A)成分の水酸基価が60mgKOH/g以下である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項8】
前記(C)成分として、ホモポリマーのガラス転移温度が70℃以上である、分子内に1個のエチレン性不飽和基を有する化合物(C−1)を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項9】
上記(C−1)成分が、分子内に窒素を含み、ホモポリマーのガラス転移温度が70℃以上である、分子内に1個のエチレン性不飽和基を有する化合物(C−1−N)である請求項8に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項10】
前記(C)成分として、ウレタン(メタ)アクリレート(C−2)を含む請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項11】
上記(B)成分が、平均粒子径が可視光の波長以下である無機酸化物微粒子である請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項12】
上記(B)成分が、平均粒子径が可視光の波長以下であるシリカである請求項11に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項13】
更に、(D)成分として光重合開始剤及び/又は増感剤を、(A)及び(C)成分の合計量100重量部に対して0.05〜10重量部含む請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項14】
更に、有機溶剤を(A)及び(C)成分の合計量100重量部に対して0.1〜1000重量部含む請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項15】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の組成物を含む、賦型材料用活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項16】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の組成物を含む、ハードコート用活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項17】
グリセリンと1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を、下記触媒X及びYの存在下にエステル交換反応させ、グリセリントリ(メタ)アクリレートを主成分とする(メタ)アクリレート混合物であって、混合物中の高分子量体が、前記式(1)に基づくゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる面積%で30%未満である混合物(A)を製造する工程、及び
得られた(A)成分と、下記(B)及び(C)成分を、(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に、(A)成分を40〜95重量%、(B)成分を5〜60重量%、及び(C)成分を0〜55重量%含むよう混合する工程
を含む活性エネルギー線硬化型組成物の製造方法。

触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくは錯体、ピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体、及びホスフィン又はその塩若しくは錯体からなる群から選ばれる一種以上の化合物。
触媒Y:亜鉛を含む化合物。

(B)成分:フィラー
(C)成分:(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物
【請求項18】
前記触媒Xが、下記化合物を使用したものである請求項17に記載の活性エネルギー線硬化型組成物の製造方法。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくは錯体、及びピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体からなる群から選ばれる一種以上の化合物。
【請求項19】
前記1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物がアルコキシアルキル(メタ)アクリレートである請求項17又は請求項18に記載の活性エネルギー線硬化型組成物の製造方法。
【請求項20】
前記触媒Yが、有機酸亜鉛又は/及び亜鉛ジケトンエノラートである請求項17〜請求項19のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物の製造方法。
【請求項21】
さらに、光重合開始剤(D)を混合する工程を含む請求項17〜請求項20のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型組成物、好ましくは無溶剤型活性エネルギー線硬化型組成物に関し、特に好ましくは賦型材料用活性エネルギー線硬化型組成物及びハードコート用活性エネルギー線硬化型組成物に関し、これら技術分野に属する。
尚、本明細書においては、「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」を「(メタ)アクリロイル基」と、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を「(メタ)アクリレート」と、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を「(メタ)アクリル酸」と表す。
【背景技術】
【0002】
プリズムシート等のレンズシート、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有した反射防止フィルム(いわゆる、モスアイフィルム)、防眩フィルム、有機EL・LED用光取出しフィルム、太陽電池用光閉じ込めフィルム及び熱線再帰性反射フィルム等の賦型フィルムは、通常以下の方法で製造されている。
即ち、微細凹凸構造の反転構造を表面に有するスタンパと透明基材との間に、活性エネルギー線硬化型組成物を充填し、活性エネルギー線の照射によって硬化させた後、スタンパを離型して硬化物に微細凹凸構造を転写する方法、又は、前記スタンパと透明基材との間に、活性エネルギー線硬化型組成物を充填した後、スタンパを離型して活性エネルギー線硬化型組成物に微細凹凸構造を転写し、その後、活性エネルギー線の照射によって活性エネルギー線硬化型組成物を硬化させる方法が用いられている。
【0003】
この様な賦型材料用硬化型組成物としては、従来、トリメチロールプロパントリアクリレート(以下、「TMPTA」という)を含む活性エネルギー線硬化型組成物が知られている(特許文献1)。
しかしながら、当該組成物は、粘度が低いため、微細凹凸構造の転写性に優れるものの、硬化物の耐擦傷性が悪いという問題があった。
【0004】
そこで、耐擦傷性を改善するために、無機微粒子を含む溶剤系活性エネルギー線硬化型組成物が知られている(特許文献2)。
しかしながら、当該組成物は、溶剤を含むため低粘度であり、微細凹凸構造の転写性に優れるものの、基材への塗布後に溶剤乾燥が必要となるため生産性が低下する問題があった。
【0005】
上述の通り、低粘度かつ高硬度で基材密着性に優れ、かつ溶剤乾燥が不要な無溶剤型活性エネルギー線硬化型組成物が熱望されている。又、無溶剤型の紫外線硬化性組成物は、乾燥炉・溶剤回収設備等の付帯設備が不要のため設備の簡略化が可能であり、賦形材料以外にもプラスチックのハードコート材料として好ましいとされる(特許文献3)。しかしながら、従来の無溶剤型ハードコート用活性エネルギー線硬化型組成物は、低粘度化と高硬度化がトレードオフの関係になりやすく、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−071290号公報
【特許文献2】特開2014−126761号公報
【特許文献3】特開2008−049623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、組成物に溶剤を用いなくても低粘度であり、かつ組成物の硬化物の硬度、耐擦傷性及び基材密着性に優れる無溶剤型活性エネルギー線硬化型組成物、好ましくは賦型材料用活性エネルギー線硬化型組成物及びハードコート用活性エネルギー線硬化型組成物を見出すため鋭意検討を行ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
無溶剤かつ低粘度であって、高硬度化を実現できる組成物として、(メタ)アクリロイル基濃度が高くかつ分子量の小さな2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(以下、「多官能(メタ)アクリレート」という)が有効であると考えられ、その候補の一つとして、グリセリントリ(メタ)アクリレート(以下、「GLY−TA」という)が有効であると考えられる。
GLY−TAを工業的に得るためには、グリセリンと(メタ)アクリル酸の脱水エステル化による製造方法が考えられる。しかしながら、エステル化反応では、特に、2級水酸基の反応性が低いため高分子量体が多く生成してしまい工業的に得ることが困難であった。このため、従来、GLY−TAを含む前記硬化型組成物は知られていない。
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するためには、特定のGLY−TAと無機微粒子を含む活性エネルギー線硬化型組成物が、無溶剤かつ低粘度であり、硬化物の硬度、耐擦傷性、基材密着性に優れることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物によれば、無溶剤かつ低粘度であり、硬化物の硬度、耐擦傷性、基材密着性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、下記(A)、(B)及び(C)成分を含む組成物であって、
(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に、(A)成分を40〜95重量%、(B)成分を5〜60重量%及び(C)成分を0〜55重量%含む活性エネルギー線硬化型組成物に関する。
(A)成分:GLY−TA〔グリセリントリ(メタ)アクリレート〕を主成分とする(メタ)アクリレート混合物であって、(A)成分中の高分子量体が、式(1)に基づくゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC」という)による面積%で30%未満である混合物
高分子量体の面積%=〔(R−I−L)/R〕×100 ・・・(1)
式(1)における記号及び用語は、以下を意味する。
・R:(A)成分中の検出ピークの総面積
・I:GLY−TAを含む検出ピークの面積
・L:GLY−TAを含む検出ピークよりも重量平均分子量が小さい検出ピークの総面積
(B)成分:フィラー
(C)成分:(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物
以下、(A)成分、(B)成分、(C)成分、その他の成分及び使用方法について説明する。
【0012】
1.(A)成分
本発明の必須成分である(A)成分は、GLY−TAを主成分とする(メタ)アクリレート混合物である。
本発明においては、(A)成分としてGLY−TAを主成分とするものを目的とするため、下記式(1)で定義される高分子量体の面積%として30%未満とし、好ましくは25%未満とし、より好ましくは20%未満とする。
【0013】
高分子量体の面積%=〔(R−I−L)/R〕×100 ・・・(1)
式(1)における記号及び用語は、以下を意味する。
・R:(A)成分中の検出ピークの総面積
・I:GLY−TAを含む検出ピークの面積
・L:GLY−TAを含む検出ピークよりも重量平均分子量(以下、「Mw」という)が小さい検出ピークの総面積
尚、本発明において、Mwとは、溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、「THF」という)を使用し、GPCにより測定した分子量をポリスチレンの分子量を基準にして換算した値を意味する。
【0014】
(A)成分中の高分子量体の面積%を30%未満とすることで、組成物を低粘度で、硬化物物性に優れるものとすることができる。高分子量体の面積%が30%以上となると、組成物の粘度が上昇してしまうため、賦形材料として用いた場合は形状再現性が悪化し、ハードコート剤として用いた場合は塗工性が悪化する。
尚、本発明におけるGPCにより測定した分子量は、以下の条件で測定した値を意味する。
・検出器:示差屈折計(RI検出器)
・カラムの種類:架橋ポリスチレン系カラム
・カラムの温度:25〜50℃の範囲内
・溶離液:THF
【0015】
(A)成分は、GLY−TAを主成分とするものであり、水酸基価が低いものが好ましい。具体的には水酸基価が、60mgKOH/g以下のものが好ましく、より好ましくは45mgKOH/g以下である。
(A)成分の水酸基価をこの範囲とすることで、組成物を低粘度にすることができ、硬化物の硬度に優れた組成物を得ることができる。
尚、本発明において水酸基価とは、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのmg数を意味する。
【0016】
(A)成分としては、グリセリンと1個の(メタ)アクリロイル基をする化合物〔以下、単官能(メタ)アクリレート」という〕をエステル交換反応させて得られるものが好ましい。
前記した通り、グリセリンと(メタ)アクリル酸を脱水エステル化反応させる製造方法では、2級水酸基の反応性が低いため高分子量体が多く生成してしまい、工業的にGLY−TAを製造することが困難である。これに対して、グリセリンと単官能(メタ)アクリレートのエステル交換反応によれば、GLY−TAを主成分とする(メタ)アクリレート混合物を製造することが可能となる。
【0017】
グリセリンと単官能(メタ)アクリレートのエステル交換反応の場合、(メタ)アクリレートの混合物が得られる。具体的には、GLY−TAの他、グリセリンジ(メタ)アクリレート及び高分子量体が得られ、製造条件によっては少量のグリセリンモノ(メタ)アクリレートが得られる。
高分子量体の例としては、例えば、GLY−TAの(メタ)アクリロイル基に、グリセリンジ(メタ)アクリレートの水酸基がマイケル付加した化合物等といったマイケル付加型の構造を有する多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
以下、(A)成分の好ましい製造方法であるエステル交換反応による製造方法に関して、多価アルコール、単官能(メタ)アクリレート、触媒及び(A)成分の製造方法について説明する。
【0019】
1−1.多価アルコール
(A)成分の原料として使用する多価アルコールは、グリセリンである。
原料のグリセリンは、少量の水、ジグリセリン等のグリセリン縮合物を含んでいてもよい。グリセリンの純度に特に制限はないが、好ましくは90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上である。グリセリンの純度が90重量%より小さいと、(A)成分の粘度が増加するため、取扱いが困難となることがある。
又、グリセリンには、製造工程に由来する微量の過酸化物を含むことがある。(A)成分の原料として使用するグリセリンに含まれる過酸化物の濃度としては、5wtppm以下であることが好ましく、より好ましくは2wtppm以下である。過酸化物の濃度が5wtppmを超えると、製造時に(メタ)アクリロイル基が重合したり、反応液の色調が悪化することがある。
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、グリセリンと、グリセリン以外の多価アルコール(以下、「その他多価アルコール」という)の一種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
その他多価アルコールを併用する場合の割合としては、グリセリン100重量部に対して、50重量部以下が好ましい。
【0020】
その他多価アルコールとしては、分子中に少なくとも2個以上のアルコール性水酸基を有する脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール、多価アルコールエーテル等であり、分子内にその他の官能基や結合、例えばフェノール性水酸基、ケトン基、アシル基、アルデヒド基、チオール基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、ニトロ基、ビニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド結合、イミド結合、ペプチド結合、ウレタン結合、アセタール結合、ヘミアセタール結合及びヘミケタール結合等を有してもよい。
【0021】
2個のアルコール性水酸基を有する2価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、及びジオキサングリコール等が挙げられる。
【0022】
3個のアルコール性水酸基を有する3価アルコールの具体例としては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス(2-ヒロドキシエチル)イソシアヌレート、ヘキサントリオール、オクタントリオール、及びデカントリオール等の3価アルコール、並びに3価のアルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0023】
4個のアルコール性水酸基を有する4価アルコールの具体例としては、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、ジグリセリン、及びペンタエリスリトール等の4価アルコール、並びに4価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0024】
5個のアルコール性水酸基を有する5価アルコールの具体例としては、トリトリメチロールエタン、トリトリメチロールプロパン、及びトリグリセリン等の5価アルコール、並びに5価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0025】
6個以上のアルコール性水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、ポリトリメチロールエタン、ポリトリメチロールプロパン、ポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、及びポリペンタエリスリトール等の6価以上のアルコール、並びに6価以上のアルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0026】
その他多価アルコールの具体例としては、前記以外にも特開2017−39916号公報、特開2017−39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた化合物等が挙げられる。
【0027】
1−2.単官能(メタ)アクリレート
(A)成分の原料として使用する単官能(メタ)アクリレートは、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、例えば、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0028】
【化1】
【0029】
式(1)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2は炭素数1〜50の有機基を表す。
【0030】
上記一般式(1)におけるR2の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜8のアルキル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基及び2−メトキシブチル基等のアルコキシアルキル基、並びにN,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基及びN,N−ジエチルアミノプロピル基等のジアルキルアミノ基等が挙げられる。
上記一般式(1)におけるR2の具体例としては、前記以外にも特開2017−39916号公報、特開2017−39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた官能基が挙げられる。
【0031】
本発明ではこれらの単官能(メタ)アクリレートを単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。
これらの単官能(メタ)アクリレートの中では、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、並びにN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましく、特に殆どの多価アルコールに対して良好な反応性を示し、入手が容易な炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、及び炭素数1〜2のアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
さらに、多価アルコールの溶解を促進し、極めて良好な反応性を示す炭素数1〜2のアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
さらに又、単官能(メタ)アクリレートとしては、アクリレートが反応性に優れるため特に好ましい。
【0032】
(A)成分の製造方法における多価アルコールと単官能(メタ)アクリレートの使用割合は特に制限はないが、多価アルコール中の水酸基合計1モルに対して単官能(メタ)アクリレートを0.4〜10.0モルが好ましく、より好ましくは0.6〜5.0モルである。単官能(メタ)アクリレートを0.4モル以上にすることにより副反応を抑制することができる。又、10.0モル以下とすることで、GLY−TAの生成量を多くすることができ、生産性を向上させることができる。
【0033】
1−3.触媒
(A)成分の製造方法におけるエステル交換反応触媒としては、例えば、スズ系触媒、チタン系触媒及び硫酸等の従来公知のものを使用することができる。
本発明では、GLY−TAを効率的に高収率で製造できる点で、触媒として下記触媒X及びYを併用することが好ましい。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体(以下、「アザビシクロ系化合物」という)、アミジン又はその塩若しくは錯体(以下、「アミジン系化合物」という)、ピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体(以下、「ピリジン系化合物」という)、及びホスフィン又はその塩若しくは錯体(以下、「ホスフィン系化合物」という)からなる群から選ばれる一種以上の化合物
触媒Y:亜鉛を含む化合物。
以下、触媒X及び触媒Yについて説明する。
【0034】
1−3−1.触媒X
触媒Xは、アザビシクロ系化合物、アミジン系化合物、ピリジン系化合物及びホスフィン系化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物である。
触媒Xとしては、前記した化合物群の中でも、アザビシクロ系化合物、アミジン系化合物及びピリジン系化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物が好ましい。これら化合物は、触媒活性に優れ(A)成分を好ましく製造できる他、反応終了後に後記する触媒Yと錯体を形成するため、ろ過及び吸着等による簡便な方法により反応終了後の反応液から容易に除去できる。特に、アザシクロ系化合物は、その触媒Yとの錯体が反応液に難溶解性となるため、ろ過及び吸着等によりさらに容易に除去することができる。
一方、ホスフィン系化合物は、触媒活性に優れるものの、触媒Yと錯体を形成し難く、反応終了後の反応液中に大部分が溶解したままとなるため、ろ過及び吸着等による簡便な方法により反応液から除去し難い。このため、最終製品中にもホスフィン系触媒が残存してしまい、これにより製品の保存中に、濁りや触媒の析出が発生したり、経時的に増粘又はゲル化してしまうという保存安定性の問題を生じることがあり、組成物の成分として使用する場合も同様の問題を有することがあった。
【0035】
アザビシクロ系化合物の具体例としては、アザビシクロ構造を有する環状3級アミン、当該アミンの塩、又は当該アミンの錯体を満足する化合物であれば種々の化合物が挙げられ、好ましい化合物としては、キヌクリジン、3−ヒドロキシキヌクリジン、3−キヌクリジノン、1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3−カルボン酸、及びトリエチレンジアミン(別名:1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン。以下、「DABCO」という)等が挙げられる。
アザビシクロ系化合物の具体例としては、前記以外にも特開2017−39916号公報、特開2017−39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた官能基が挙げられる。
【0036】
アミジン系化合物の具体例としては、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、1−アリルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(以下、「DBU」という)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(以下、「DBN」という)、N−メチルイミダゾール塩酸塩、DBU塩酸塩、DBN塩酸塩、N−メチルイミダゾール酢酸塩、DBU酢酸塩、DBN酢酸塩、N−メチルイミダゾールアクリル酸塩、DBUアクリル酸塩、DBNアクリル酸塩、及びフタルイミドDBU等が挙げられる。
【0037】
ピリジン系化合物の主な具体例としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2−エチルピリジン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(以下、「DMAP」という)等が挙げられる。
ピリジン系化合物の具体例としては、前記以外にも特開2017−39916号公報、特開2017−39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた官能基が挙げられる。
【0038】
ホスフィン又はその塩若しくは錯体は、下記一般式(2)で示される構造を含む化合物等が挙げられる。
【0039】
【化2】
【0040】
〔式(2)において、R3、R4及びR5は、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、若しくは、炭素数5〜20のシクロアルキル基を意味する。R3、R4及びR5としては、同一であっても異なっていても良い〕
表す。)
【0041】
ホスフィン系化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン、トリ(m−トリル)ホスフィン、
トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、及びトリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。
ホスフィン系化合物の具体例としては、前記以外にも前記以外にも特開2017−39916号公報、特開2017−39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた官能基が挙げられる。
【0042】
本発明ではこれらの触媒Xを単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。これらの触媒Xの中では、キヌクリジン、3−キヌクリジノン、3−ヒドロキシキヌクリジン、DABCO、N−メチルイミダゾール、DBU、DBN及びDMAPが好ましく、特に殆どの多価アルコールに対して良好な反応性を示し、入手が容易な3−ヒドロキシキヌクリジン、DABCO、N−メチルイミダゾール、DBU及びDMAPがより好ましい。
【0043】
(A)成分の製造方法における触媒Xの使用割合は特に制限はないが、多価アルコール中の水酸基合計1モルに対して、触媒Xを0.0001〜0.5モル使用することが好ましく、より好ましくは0.0005〜0.2モルである。触媒Xを0.0001モル以上使用することで、目的のGLY−TAの生成量を多くすることができ、0.5モル以下とすることで、副生成物の生成や反応液の着色を抑制し、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0044】
1−3−2.触媒Y
触媒Yは、亜鉛を含む化合物である。
触媒Yとしては、亜鉛を含む化合物であれば種々の化合物を使用することができるが、反応性に優れることから有機酸亜鉛及び亜鉛ジケトンエノラートが好ましい。
有機酸亜鉛としては、蓚酸亜鉛等の二塩基酸亜鉛及び下記一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0045】
【化3】
【0046】
〔式(3)において、R6及びR7は、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、若しくは、炭素数5〜20のシクロアルキル基を意味する。R6及びR7としては、同一であっても異なっていても良い〕
前記式(3)の化合物としては、R6及びR7が、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基である化合物が好ましい。R6及びR7において、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基は、フッ素及び塩素等のハロゲン原子を有しない官能基であり、当該官能基を有する触媒Yは、高収率でGLY−TAを製造できるため好ましい。
【0047】
亜鉛ジケトンエノラートとしては、下記一般式(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0048】
【化4】
【0049】
〔式(4)において、R8、R9、R10、R11、R12及びR13は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、若しくは炭素数5〜20のシクロアルキル基を意味する。R8、R9、R10、R11、R12及びR13としては、同一であっても異なっていても良い〕
【0050】
上記一般式(3)で表される亜鉛を含む化合物の具体例としては、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、シクロヘキサン酪酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、t−ブチル安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、及びメタクリル酸亜鉛等が挙げられる。
尚、これらの亜鉛を含む化合物について、その水和物又は溶媒和物又は触媒Xとの錯体が存在する場合には、該水和物及び溶媒和物及び触媒Xとの錯体も(A)成分の製造方法における触媒Yとして使用できる。
【0051】
上記一般式(4)で表される亜鉛を含む化合物の具体例としては、亜鉛アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート水和物、ビス(2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛、及びビス(5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオナト)亜鉛等が挙げられる。尚、これらの亜鉛を含む化合物について、その水和物又は溶媒和物又は触媒Xとの錯体が存在する場合には、該水和物及び溶媒和物及び触媒Xとの錯体も(A)成分の製造方法における触媒Yとして使用できる。
【0052】
触媒Yにおける、有機酸亜鉛及び亜鉛ジケトンエノラートとしては、前記した化合物を直接使用することができるが、反応系内でこれら化合物を発生させ使用することもできる。例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛及び硝酸亜鉛等の亜鉛化合物(以下、「原料亜鉛化合物」という)を原料として使用し、有機酸亜鉛の場合は、原料亜鉛化合物と有機酸を反応させる方法、亜鉛ジケトンエノラートの場合は、原料亜鉛化合物と1,3−ジケトンを反応させる方法等が挙げられる。
【0053】
本発明ではこれらの触媒Yを単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。これらの触媒Yの中では、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナートが好ましく、特に殆どの多価アルコールに対して良好な反応性を示し、入手が容易な酢酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナートが好ましい。
【0054】
(A)成分の製造方法における触媒Yの使用割合は特に制限はないが、多価アルコール中の水酸基合計1モルに対して、触媒Yを0.0001〜0.5モル使用することが好ましく、より好ましくは0.0005〜0.2モルである。触媒Yを0.0001モル以上使用することで、目的のGLY−TAの生成量を多くすることができ、0.5モル以下とすることで、副生成物の生成や反応液の着色を抑制し、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0055】
1−4.(A)成分の製造方法
(A)成分は、エステル交換触媒の存在下に、グリセリンと単官能(メタ)アクリレートをエステル交換反応させて製造される。
前記した通り、(A)成分の製造方法としては、触媒として前記触媒X及びYを併用する製造方法が好ましく、以下、当該製造方法について説明する。
【0056】
(A)成分の製造方法における触媒Xと触媒Yの使用割合は特に制限はないが、触媒Yの1モルに対して、触媒Xを0.005〜10.0モル使用することが好ましく、より好ましくは0.05〜5.0モルである。0.005モル以上使用することで、目的のGLY−TAの生成量を多くすることができ、10.0モル以下とすることで、副生成物の生成や反応液の着色を抑制し、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0057】
本発明で併用する触媒Xと触媒Yの組合せとしては、触媒Xがアザビシクロ系化合物で、触媒Yが前記一般式(3)で表される化合物の組み合わせが好ましく、さらに、アザビシクロ系化合物がDABCOであり、前記一般式(3)で表される化合物が酢酸亜鉛及び/又はアクリル酸亜鉛である組み合わせが最も好ましい。
この組合せが、GLY−TAを収率よく得られることに加え、反応終了後の色調に優れることから、色調が重要視される各種工業用途に好適に使用できる。さらには比較的安価に入手可能な触媒であることから、経済的に有利な製造方法となる。
【0058】
本発明で使用する触媒X及び触媒Yは、上記反応の最初から添加してもよいし、途中から添加してもよい。又、所望の使用量を一括で添加してもよいし、分割して添加してもよい。
【0059】
(A)成分の製造方法における反応温度は40〜180℃であることが好ましく、より好ましくは60〜160℃である。反応温度を40℃以上にすることで、反応速度を速くすることができ、180℃以下とすることで、原料や生成物中の(メタ)アクリロイル基の熱重合を抑制し、反応液の着色を抑制でき、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0060】
(A)成分の製造方法における反応圧力は、所定の反応温度を維持できれば特に制限はなく、減圧状態で実施してもよく、又加圧状態で実施してもよい。反応圧力としては、0.000001〜10MPa(絶対圧力)が好ましい。
【0061】
(A)成分の製造方法においては、エステル交換反応の進行に伴い単官能(メタ)アクリレートに由来する1価アルコールが副生する。該1価アルコールを反応系内に共存させたままでもよいが、該1価アルコールを反応系外に排出することにより、エステル交換反応の進行をより促進することができる。
【0062】
(A)成分の製造方法では溶媒を使用せずに反応させることもできるが、必要に応じて溶媒を使用してもよい。
溶媒の具体例としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、ジアミルベンゼン、トリアミルベンゼン、ドデシルベンゼン、ジドデシルベンゼン、アミルトルエン、イソプロピルトルエン、デカリン及びテトラリン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルアセタール、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、トリオキサン、ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテル、ジメチルセロソルブ、ジグライム、トリグライム及びテトラグライム等のエーテル類;18−クラウン−6等のクラウンエーテル類;安息香酸メチル及びγ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン及びベンゾフェノン等のケトン類;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート等のカーボネート化合物;スルホラン等のスルホン類;ジメチルスルホキサイド等のスルホキサイド類;尿素類又はその誘導体;トリブチルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類、イミダゾリウム塩、ピペリジニウム塩及びピリジニウム塩等のイオン液体;シリコンオイル並びに;水等が挙げられる。
これらの溶媒の中では、炭化水素類、エーテル類、カーボネート化合物及びイオン液体が好ましい。
これらの溶媒は単独で使用してもよく、二種以上を任意に組み合わせて混合溶媒として使用してもよい。
【0063】
(A)成分の製造方法においては、反応液の色調を良好に維持する目的で系内にアルゴン、ヘリウム、窒素及び炭酸ガス等の不活性ガスを導入してもよいが、(メタ)アクリロイル基の重合を防止する目的で系内に含酸素ガスを導入してもよい。含酸素ガスの具体例としては、空気、酸素と窒素の混合ガス、酸素とヘリウムの混合ガス等が挙げられる。含酸素ガスの導入方法としては、反応液中に溶存させたり、又は反応液中に吹込む(いわゆるバブリング)方法がある。
【0064】
(A)成分の製造方法においては、(メタ)アクリロイル基の重合を防止する目的で反応液中に重合禁止剤を添加することが好ましい。
重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルカテコール、ベンゾキノン、フェノチアジン、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の有機系重合禁止剤、塩化銅、硫酸銅及び硫酸鉄等の無機系重合禁止剤、並びにジブチルジチオカルバミン酸銅、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等の有機塩系重合禁止剤が挙げられる。
重合禁止剤は、一種を単独で添加しても又は二種以上を任意に組み合わせて添加してもよく、本発明の最初から添加してもよいし、途中から添加してもよい。又、所望の使用量を一括で添加してもよいし、分割して添加してもよい。又、精留塔を経由して連続的に添加してもよい。
重合禁止剤の添加割合としては、反応液中に5〜30,000wtppmが好ましく、より好ましくは25〜10,000wtppmである。この割合を5wtppm以上とすることで、重合禁止効果を発揮することができ、30,000wtppm以下にすることで、反応液の着色を抑制でき、反応終了後の精製工程を簡便にすることができ、又、得られる(A)成分の硬化速度の低下を防止することができる。
【0065】
(A)成分の製造方法における反応時間は、触媒の種類と使用量、反応温度、反応圧力等により異なるが、0.1〜150時間が好ましく、より好ましくは0.5〜80時間である。
【0066】
(A)成分の製造方法は、回分式、半回分式及び連続式のいずれの方法によっても実施できる。回分式の一例としては、反応器に多価アルコール、単官能(メタ)アクリレート、触媒及び重合禁止剤を仕込み、含酸素ガスを反応液中にバブリングさせながら所定の温度で撹拌する。その後、エステル交換反応の進行に伴い副生した1価アルコールを所定の圧力にて反応器から抜出すことで目的の(A)成分を生成させる等の方法で実施できる。
【0067】
(A)成分の製造方法で得られた反応生成物に対しては、分離・精製操作を実施することが目的のGLY−TAを純度よく得ることができるため好ましい。
分離・精製操作としては、晶析操作、ろ過操作、蒸留操作及び抽出操作等が挙げられ、これらを組合わせることが好ましい。晶析操作としては、冷却晶析及び濃縮晶析等が挙げられ、ろ過操作としては、加圧ろ過、吸引ろ過及び遠心ろ過等が挙げられ、蒸留操作としては、単式蒸留、分別蒸留、分子蒸留及び水蒸気蒸留等が挙げられ、抽出操作としては、固液抽出、液液抽出等が挙げられる。
該分離精製操作においては溶媒を使用してもよい。
又、本発明で使用した触媒及び/又は重合禁止剤を中和するための中和剤や、吸着除去するための吸着剤、副生成物を分解又は除去するための酸及び/又はアルカリ、色調を改善するための活性炭、ろ過効率及びろ過速度を向上するためのケイソウ土等を使用してもよい。
【0068】
(A)成分の含有割合は、(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に40〜95重量%であり、好ましくは30〜90重量%である。
(A)成分の含有割合が40重量%に満たないと、表面硬度が低くなってしまい、一方、95重量%を超えると、密着性が低下してしまう。
【0069】
2.(B)成分
本発明の組成物は、高硬度化のため(B)成分であるフィラーを必須成分とする。
(B)成分としては、無機系フィラー及び有機系フィラーを挙げることができる。
無機系フィラーの具体例としては、シリカ、中空シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、アンチモンスズ酸化物(ATO)、酸化セリウム、酸化カリウム、及びこれらの化合物の2種以上を複合化した複合酸化物等が挙げられる。
有機系フィラーの具体例としては、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリウレア、ナイロン、ポリスチレン、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリマー、カーボンナノチューブ、並びにセルロースナノファイバー等を挙げることができる。
【0070】
光学特性に優れ、硬化物の硬度を向上させるため、(B)成分は凝集物が極力ない状態であることが好ましい。
このため(B)成分としては、有機溶剤に分散させた有機溶剤分散ゾルを使用することが好ましく、無機系フィラーの有機溶剤分散ゾルが好ましく、無機酸化物微粒子の有機溶剤分散ゾルがより好ましい。
但し、本発明の組成物は、無溶剤型組成物として使用することが好ましいため、(A)成分又は(A)及び(C)成分に(B)成分を配合した後は、脱溶剤処理を行うことが好ましい。
【0071】
分散媒として用いる有機溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びオクタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル及びγ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル;エチレングリコールモノメチルエーテル及ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル;、ベンゼン、トルエン及キシレン等の芳香族炭化水素;並びにジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドを挙げることができる。
そして、これらの中でも、無機酸化物微粒子の分散安定性が良好で、かつ沸点が低く溶媒置換が容易であるため、メタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン及び酢酸エチルが好ましい。
【0072】
さらに、(B)成分の平均1次粒子径としては、ハンドリング、透明性の観点から、1nm以上200nm以下が好ましく、5nm以上100nm以下が特に好ましい。平均1次粒子径が1nm以上であれば、粒子表面が低活性であるため分散状態を保持することが容易であり、凝集、ゲル化が生じにくい。一方、平均1次粒子径が200nm以下であれば、レイリー散乱によるヘイズが観測されにくい。レイリー散乱は粒子体積の2乗、すなわち粒子径の6乗に比例するので、可視光の波長の1/4以下の平均1次粒子径を有する粒子においては散乱が小さく、透明材料に対して好適に用いることができる。
平均1次粒子径は、例えば高分解能透過型電子顕微鏡で無機酸化物微粒子を観察し、観察される微粒子像から任意に100個の無機酸化物粒子像を選び、公知の画像データ統計処理手法により数平均粒子径として求めることができる。
【0073】
シリカ微粒子の有機溶剤分散ゾルとして市販されている商品としては、例えばコロイダルシリカとしては、日揮触媒化成(株)製OSCAL−1132、OSCAL−1432M、OSCAL−1432、OSCAL−1632や、日産化学工業(株)製メタノールシリカゾル、MA−ST−L、IPA−ST、IPA−ST−L、IPA−ST−ZL、IPA−ST−UP、PGM−ST、MEK−ST、MEK−ST−L、MEK−ST−ZL、MIBK−ST、PMA−ST、EAC−STや、扶桑化学(株)製PL−1−IPA、PL−2L−PGME、PL−2L−MEK等を挙げることができる。
【0074】
本発明では、硬化物の硬度が高いものとなり、微粒子の分散性に優れる点で、表面が改質された微粒子を用いることが好ましい。表面改質の種類としてはオルガノシラン処理、シラザン処理、シリコーン処理等が挙げられるが、オルガノシラン処理が硬化物の硬度が高いものとなる点で好ましい。
表面改質微粒子の有機溶剤分散ゾルとして市販されている商品としては、日産化学工業(株)製MEK−EC−2130Y、MEK−AC−2140Z、MEK−AC−4130Y MEK−AC−5140Z、PGM−AC−2140Y、PGM−AC−4130Y、MIBK−AC−2140Z等を挙げることができる。
【0075】
又、ジルコニア微粒子の有機溶媒分散ゾルとして市販されている商品としては、例えば日産化学工業(株)製ナノユースOZ−30M、ナノユースOZS30Kを挙げることができる。さらに、チタニア微粒子の有機溶媒分散ゾルとして市販されている商品としては、例えば日揮触媒化成工業(株)製OPTOLAKE1130Z、OPTPLAKE6320Z等を挙げることができる。
【0076】
(B)成分の形状は球状、中空球状、数珠状、平板状、繊維状等が挙げられるが、ハンドリング性、分散性が良好である点で、球状、中空状、数珠状が好ましく、球状が特に好ましい。
数珠状シリカの例としては、日産化学工業(株)製のIPA−ST−UP(商品名)等が挙げられ、中空状シリカの例としては日揮触媒化成(株)製のスルーリア(商品名)等が挙げられる。
さらに、微粒子としては、光学特性に優れ、硬化物の硬度が高いものとなる点から、平均粒子径が可視光の波長以下である無機酸化物微粒子が好ましい。
【0077】
さらに、(B)成分としては、あらかじめ(A)成分に分散させた分散ゾル、(C)成分を使用する場合は、(A)成分及び/又は(C)成分に分散させた分散ゾルとして用いることが好ましい。
分散媒となる(A)成分又は/及び(C)成分は、粘度の低いものが好ましく、(C)成分としては、ホモポリマーのガラス転移温度が70℃以上である、分子内に1個のエチレン性不飽和基を有する化合物〔(C−1)成分〕が好ましい。
【0078】
(A)成分又は/及び(C)成分に分散させた(B)成分を分散したゾルの製造方法は、あらかじめ(B)成分を有機溶剤に分散させた有機溶剤分散ゾルを調製し、その後、有機溶剤を(A)成分又は/及び(C)成分に溶媒置換する方法が好ましい。
具体的には、(B)成分を有機溶剤に分散させた有機溶剤分散ゾルを、不活性ガス雰囲気下で(A)成分又は/及び(C)成分に添加・混合し、さらに加熱下に減圧して完全に有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。
このようにすることで、本発明の組成物を無溶剤化しつつ、(B)成分の凝集を防止することができる。
【0079】
(B)成分の含有割合は、(A)、(B)及び(C)成分の合計量100重量%中に5〜60重量%であり、好ましくは10〜40重量%である。
(B)成分の含有割合を5重量%に満たないと、硬化物の硬度が低下してしまい、60重量%超過とすると、組成物の粘度を高くなりすぎ、無溶剤での塗工性が低下してしまう。
【0080】
3.(C)成分
(C)成分は、(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物である。
(C)成分におけるエチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基及び(メタ)アリル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
尚、下記において、「単官能」とは、エチレン性不飽和基を1個有する化合物を意味し、「○官能」とはエチレン性不飽和基を○個有する化合物を意味し、「多官能」とはエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物を意味する。
【0081】
(C)成分の含有割合は、(A)、(B)及び(C)成分の合計量100重量%中に0〜55重量%含む必要があり、好ましくは5〜40重量%である。
(C)成分の含有割合を55重量%を超過すると、硬化物が脆くなってしまう。
【0082】
(C)成分の例として、1個のエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「単官能不飽和化合物」という)及び2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「多官能不飽和化合物」という)を挙げことができる。
【0083】
3−1.単官能不飽和化合物
単官能不飽和化合物の具体例としては、前記した単官能(メタ)アクリレートと同様の化合物が挙げられ、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、及び2−メトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
前記した単官能(メタ)アクリレート以外の化合物としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸のマイケル付加型のダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ブチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、パラクミルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノール(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)ヘキサヒドロフタルイミド、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、及びN−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0084】
単官能不飽和化合物の中でも、ホモポリマーのガラス転移温度(以下、「Tg」という)が70℃以上である、分子内に1個のエチレン性不飽和基を有する化合物〔以下、「(C−1)成分」という〕が、低粘度化と高硬度化の両立という点で好ましい。(C−1)成分としては、さらに基材密着性という点で、分子内に窒素を含み、ホモポリマーのTgが70℃以上である、分子内に1個のエチレン性不飽和基を有する化合物〔以下、「(C−1−N))成分」という〕が特に好ましい。
尚、本発明においてTgとは、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で測定した値を意味し、△T−温度曲線においてガラス転移温度中間点(Tmg)における値を意味する。
【0085】
(C−1)成分としては、アクリル酸(Tg=103℃)、メタクリル酸(Tg=130℃)、イソボルニルアクリレート(Tg=94℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg=180℃)、ジシクロペンテニルアクリレート(Tg=120℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(Tg=120℃)、ジシクロペンタニルメタクリレート(Tg=175℃)、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(Tg=98℃)、N,N−ジメチルアクリルアミド(Tg=119℃)、アクリロイルモルホリン(Tg=145℃)、N−ビニルピロリドン(Tg=80℃)、N−ビニルカプロラクタム(Tg=90℃)等が挙げられる。
又、(C−1−N)成分としては、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0086】
3−2.多官能不飽和化合物
多官能不飽和化合物としては、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
2官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、及びビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0087】
3官能以上(メタ)アクリレートとしては、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば種々の化合物が挙げられ、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのトリ、テトラ、ペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート;並びに
グリセリンアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のトリ、テトラ、ペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;並びにイソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
前記したアルキレンオキサイド付加物の例としては、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、並びに、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0088】
多官能(メタ)アクリレートとしては、前記した化合物以外にも、ウレタン(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレート等も用いることができる。
これら化合物の中でも、ウレタン(メタ)アクリレート〔以下、「(C−2)成分」という〕は、得られる組成物の硬化物が高硬度かつ基材密着性に優れるため好ましく、以下に詳述する。
【0089】
(C−2)成分としては、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物、並びに有機多価イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレート化合物との反応物(以下、「ウレタンアダクト」という)が挙げられる。
【0090】
(C−2)成分は、組成物の硬化性と硬化物の硬度及び耐擦傷性が優れるという点で、ウレタンアダクトが好ましい。
【0091】
多価アルコールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール、前記多価アルコールと前記多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、前記多価アルコールと前記多塩基酸とε−カプロラクトンとの反応によって得られるカプロラクトンポリオール、及びポリカーボネートポリオール(例えば、1,6−ヘキサンジオールとジフェニルカーボネートとの反応によって得られるポリカーボネートポリオール等)等が挙げられる。
【0092】
有機多価イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート及びジシクロペンタニルジイソシアネート等のジイソシアネート;
並びにヘキサメチレンジイソシアネート3量体及びイソホロンジイソシアネート3量体等の3個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートが挙げられる。
【0093】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート及びヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノ(メタ)アクリレート;
並びにトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート等の水酸基含有多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0094】
ウレタンアダクトにおいて、有機多価イソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、前記化合物を挙げることができる。
ウレタンアダクトにおいては、水酸基含有(メタ)アクリレートとして、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートを使用したものが好ましい。
これらの中でも、硬化物が硬度及び耐擦傷性により優れる点で、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基を1個有する化合物が好ましく、具体的には、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0095】
ウレタンアダクトの別の好ましい化合物としては、3個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートと水酸基含有モノ(メタ)アクリレートの反応物が挙げられる。
水酸基含有モノ(メタ)アクリレートとしては、前記した化合物と同様の化合物が挙げられる。
3個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートの例としては、前記したヘキサメチレンジイソシアネート3量体及びイソホロンジイソシアネート3量体等を挙げることができる。
【0096】
(C−2)成分は、常法により製造されたものを使用することができる。
例えば、ジブチルスズジラウレート等の付加触媒存在下、有機多価イソシアネートと多価オールを加熱撹拌し付加反応させてイソシアネート基含有化合物を製造し、当該化合物にさらに水酸基含有(メタ)アクリレートを添加し、加熱・撹拌して付加反応させる方法等が挙げられる。
ウレタンアダクトの場合は、付加触媒存在下、有機多価イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートを加熱・撹拌し、付加反応させる方法等が挙げられる。
【0097】
これら以外のウレタンポリ(メタ)アクリレートの例としては、文献「UV・EB硬化材料」[(株)シーエムシー、1992年発行]の70〜74頁に記載されているような化合物等が挙げられる。
【0098】
(C−2)成分の含有割合は、(A)、(B)及び(C)成分の合計量100重量%中に0〜40重量%含むことが好ましく、より好ましくは0〜20重量%である。
(C−2)成分の含有割合を40重量%以下とすることで、組成物の硬化物に靱性を付与することができると共に、組成物の粘度が高くなりすぎ、無溶剤での塗工性が低下してしまうことを防止することができる。
【0099】
4.活性エネルギー線硬化型組成物
本発明は、前記(A)、(B)及び(C)成分を含む組成物であって、(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に、(A)成分を40〜95重量%、(B)成分を5〜60重量%及び(C)成分を0〜55重量%含む活性エネルギー線硬化型組成物である。
本発明の組成物の製造方法としては、(A)〜(C)成分、必要に応じて後記するその他の成分を撹拌・混合する方法(以下、「製法1」という)、(A)成分又は/及び(C)と必要に応じて後記するその他の成分を混合した後、当該混合物に(B)成分を添加した後、撹拌・混合する方法(以下、「製法2」という)等が挙げられ、製法2が(B)成分を組成物全体に分散できるため好ましい。
さらに、製法2において、(B)成分の有機溶剤分散ゾルを使用し、本発明の組成物を無溶剤型の組成物とする場合には、(A)成分又は/及び(C)と、(B)成分の有機溶剤分散ゾルとを撹拌・混合し、その後、減圧下に加熱して有機溶剤を蒸発させる製造方法がより好ましい。
この場合の減圧度及び加熱温度としては、(B)成分の有機溶剤分散ゾルで使用される有機溶剤等の応じて適宜設定すれば良いが、減圧度としては500mmHg以下が好ましく、加熱温度としては30〜60℃が好ましい。
【0100】
さらに、組成物の製造方法としては、前記触媒X及びYの存在下に、グリセリンと単官能(メタ)アクリレートをエステル交換反応させて得られる、GLY−TAを主成分とする(メタ)アクリレート混合物(A)を製造する工程を含む組成物の製造方法が好ましい。
当該製造方法によれば、(A)成分を高収率で製造でき、しかも得られる(A)成分中の高分子量体が少ないために低粘度で不純物が少なく、このため得られる組成物を各種物性に優れるものとすることができる点で好ましい。
当該工程としては、前記した(A)成分の製造方法に従えば良い。
後記するその他の成分を配合する場合の組成物の製造方法は常法に従えば良く、(A)成分及び要に応じて後記するその他の成分を撹拌・混合して製造することができる。
【0101】
組成物の粘度としては目的に応じて適宜設定すれば良く、20〜3,000mPa・sが好ましく、より好ましくは20〜1,500mPa・sである。当該粘度範囲とすることで、賦形材料として用いた場合は形状再現性、ハードコート材料として用いた場合は塗工性に優れるものとすることができる。
尚、本発明における粘度とは、E型粘度計(コーンプレート型粘度計)を使用して25℃で測定した値を意味する。
【0102】
本発明の組成物は、前記(A)〜(C)成分を必須成分とするものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。
その他成分としては、具体的には光重合開始剤及び/又は増感剤〔以下、「(D)成分」という〕、熱重合開始剤、有機溶剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、シランカップリング剤、表面改質剤及び重合禁止剤等が挙げられる。
以下、これらの成分について説明する。
尚、後記するその他の成分は、例示した化合物の1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0103】
4−1.(D)成分
本発明の組成物を活性エネルギー線硬化型組成物として使用し、さらに電子線硬化型組成物として使用する場合は、(D)成分を含有させず、電子線により硬化させることも可能である。
本発明の組成物を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合において、特に、活性エネルギー線として紫外線及び可視光線を用いたときには、硬化の容易性やコストの観点から、(D)成分を更に含有することが好ましい。
活性エネルギー線として電子線を使用する場合には、必ずしも配合する必要はないが、硬化性を改善させるため必要に応じて少量配合することもできる。
【0104】
(C)成分の具体例としては、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−1−(メチルビニル)フェニル]プロパノン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチループロピオニル)ベンジル]フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)]フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)ブタン−1−オン及び3,6−ビス(2−メチル−2−モルフォリノプロピオニル)−9−n−オクチルカルバゾール等のアセトフェノン系化合物;
ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン化合物;
ベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、メチル−2−ベンゾフェノン、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフォニル)プロパン−1−オン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン及び4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;
ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、及びビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物;並びに
チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロピルチオキサントン、3−[3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサントン−2−イル−オキシ]−2−ヒドロキシプロピル−N,N,N―トリメチルアンモニウムクロライド及びフルオロチオキサントン等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。
前記以外の化合物としては、ベンジル、フェニルグリオキシ酸メチル、エチル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート、エチルアントラキノン及びフェナントレンキノン及びカンファーキノン等が挙げられる。
【0105】
これら化合物の中でも、α−ヒドロキシフェニルケトン類が、大気下において、薄膜のコーティングであっても表面硬化性が良好で好ましく、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンがより好ましい。
又、硬化物の膜厚を厚くする必要がある場合、例えば50μm以上とする必要がある場合は、硬化物内部の硬化性を向上させる目的や、紫外線吸収剤や顔料を併用する場合は、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、エチル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート及びビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物や、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)]フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタンー1−オン、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン等を併用することが好ましい。
【0106】
(D)成分の含有割合は、(A)及び(C)成分〔以下、これらをまとめて「硬化性成分」という〕合計量100重量部に対し0.1〜25重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20重量部である。(D)成分の割合を0.1重量部以上にすることで、組成物の光硬化性を良好にし、密着性に優れるものとすることができ、25重量部以下とすることで、硬化物の内部硬化性が良好にすることができ、基材との密着性を良好にすることができる。
【0107】
4−2.熱重合開始剤
本特許の組成物を熱硬化型組成物として使用する場合には、熱重合開始剤を配合することができる。
熱重合開始剤としては、種々の化合物を使用することができ、有機過酸化物及びアゾ系開始剤が好ましい。
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジーメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタン、アゾジ−t−ブタン等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。又、有機過酸化物は還元剤と組み合わせることによりレドックス反応とすることも可能である。
【0108】
これら熱重合開始剤の使用量としては、硬化性成分合計量100重量部に対して、10重量部以下が好ましい。
熱重合開始剤を単独で用いる場合は、通常のラジカル熱重合の常套手段にしたがって行えばよく、場合によっては(D)成分と併用し、光硬化させた後にさらに反応率を向上させる目的で熱硬化を行うこともできる。
【0109】
4−3.溶剤
本発明の組成物は、実質的に溶剤を必要としないが、粘度調整等の目的で必要に応じて有機溶剤を含んでいても良い。
有機溶剤としては、前記した(B)成分の分散媒として用いる有機溶剤と同じ化合物を挙げることができる。
有機溶剤としては、前記した(B)成分の分散媒をそのまま使用することも、さらに別途配合することもできる。
有機溶剤の含有割合としては、(A)及び(C)成分の合計量100重量部に対して0.1〜1000重量部が好ましく、より好ましくは5〜500重量部である。上記範囲であると、組成物を塗工に適当な粘度とすることができ、後記する公知の塗布方法で組成物を容易に塗布することができる
【0110】
4−4.酸化防止剤
酸化防止剤は、硬化物の耐熱性、耐候性等の耐久性を向上させる目的で配合する。
酸化防止剤としては、たとえばフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、たとえば、ジt−ブチルヒドロキシトルエン等のヒンダードフェノール類を挙げることができる。市販されているものとしては、(株)アデカ製のAO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−70、AO−80等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン等のホスフィン類や、亜リン酸トリアルキルや亜リン酸トリアリール等が挙げられる。これらの誘導体で市販品としては、たとえば(株)アデカ製、アデカスタブPEP−4C、PEP−8、PEP−24G、PEP−36、HP−10、260、522A、329K、1178、1500、135A、3010等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル系化合物が挙げられ、市販品としては(株)アデカ製AO−23、AO−412S、AO−503A等が挙げられる。
これらは1種を用いても2種類以上を用いてもよい。これら酸化防止剤の好ましい組合せとしては、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との併用、及びフェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の併用が挙げられる。
酸化防止剤の含有割合としては、目的に応じて適宜設定すれば良く、硬化性成分合計量100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜1重量部である。
含有割合を0.1重量部以上とすることで、組成物の耐久性を向上させることができ、一方、5重量部以下とすることで、硬化性や密着性を良好にすることができる。
【0111】
4−5.紫外線吸収剤
紫外線吸収剤は、硬化物の耐光性を向上させる目的で配合する。
紫外線吸収剤としては、BASF社製TINUVIN400、TINUVIN405、TINUVIN460、TINUVIN479等のトリアジン系紫外線吸収剤や、TINUVIN900、TINUVIN928、TINUVIN1130等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
紫外線吸収剤の含有割合としては、目的に応じて適宜設定すれば良く、硬化性成分合計量100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜1重量部である。含有割合を0.01重量%以上とすることで、硬化物の耐光性を良好なものとすることができ、一方、5重量%以下とすることで、組成物の硬化性に優れるものとすることができる。
【0112】
4−6.シランカップリング剤
シランカップリング剤は、硬化物と基材との界面接着強度を改善する目的で配合する。
シランカップリング剤としては、基材との接着性向上に寄与できるものであれば特に特に限定されるものではない。
【0113】
シランカップリング剤としては、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル-N-(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0114】
シランカップリング剤の配合割合は、目的に応じて適宜設定すれば良く、硬化性成分合計量100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは1〜5重量部である。
配合割合を0.1重量部以上にすることで、組成物の接着力を向上させることができ、一方、10重量部以下とすることで、接着力の経時変化を防止することができる。
【0115】
4−7.表面改質剤
本発明の組成物は、塗布時のレベリング性を高める目的や、硬化物の滑り性を高めて耐擦傷性を高める目的等のため、表面改質剤を添加してもよい。
表面改質剤としては、表面調整剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、スベリ性付与剤及び防汚性付与剤等が挙げられ、これら公知の表面改質剤を使用することができる。
それらのうち、シリコーン系表面改質剤及びフッ素系表面改質剤が好適に挙げられる。具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー、並びに、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー等が挙げられる。
又、滑り性の持続力を高める等の目的で、分子中にエチレン性不飽和基、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する表面改質剤を使用してもよい。
【0116】
表面改質剤の含有割合は、硬化性成分の合計量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部であることが好ましい。上記範囲であると、硬化物の表面平滑性に優れる。
【0117】
5.用途
本発明は、活性エネルギー線硬化型組成物、好ましくは無溶剤型活性エネルギー線硬化型組成物に関し、特に好ましくは賦型材料用活性エネルギー線硬化型組成物及びハードコート用活性エネルギー線硬化型組成物に関する。賦型材料としては、レンズシート、モスアイフィルム、防眩フィルム、有機EL・LED用光取出しフィルム、太陽電池用光閉じ込めフィルム及び熱線再帰性反射フィルム等の微細凹凸構造を表面に有する賦型フィルムの製造に使用可能であり、ハードコート用としては、各種プラスチックの表面硬度や耐擦傷性向上に使用可能である。
【0118】
6.使用方法
本発明の組成物を賦型材料やハードコートとして使用する方法としては、常法に従えば良い。
具体的には、賦形材料であれば目的の形状を有するモールド(スタンパ)に組成物を塗布又は注入し、フィルム又はシート基材(以下これらをまとめて「フィルム基材」という。)でラミネートする。
この後に、活性エネルギー線硬化型組成物の場合には、フィルム基材として透明性を有するものを使用して、フィルム基材側から活性エネルギー線を照射し硬化させ方法等が挙げられる。又、熱硬化型組成物の場合は、加熱して硬化させる方法等が挙げられる。
ハードコートであれば、フィルム基材に組成物を塗布し、活性エネルギー線硬化型組成物の場合には、活性エネルギー線を照射し硬化させ方法等が挙げられる。又、熱硬化型組成物の場合は、加熱して硬化させる方法等が挙げられる。
【0119】
フィルム基材としては、プラスチック及びガラス等が挙げられ、プラスチックが好ましい。
プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート−スチレン共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアクリルニトリル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリイミド、シクロオレフィンポリマー、塩化ビニール、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0120】
フィルム基材は透明又は半透明(例えば、乳白色)のものが好ましい。フィルム基材の厚さとしては20〜10mmが好ましい。
【0121】
本発明の組成物を硬化させるための活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線及び電子線等が挙げられるが、紫外線が好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線(UV)無電極ランプ、発光ダイオード(LED)等が挙げられる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すれば良く、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、照射エネルギーで50〜5,000mJ/cm2が好ましく、200〜1,000mJ/cm2がより好ましい。
【0122】
本発明の組成物を使用してレンズシートを製造する例について説明する。
比較的膜厚の薄いレンズシートを製造する場合は、本発明の組成物を透明基板に塗布した後、目的のレンズの形状を有するモールドを密着させる。
次いで、透明基板側から活性エネルギー線を照射して、組成物を硬化させ、この後、モールドから剥離させる。
【0123】
一方、比較的膜厚の厚いレンズシートを製造する場合は、目的のレンズの形状を有する金型と透明基板の間に、本発明の組成物を流し込む。
次いで、透明基板側から活性エネルギー線を照射して組成物を硬化させ、この後金型を脱型させる。
【0124】
モールドとしては、その材質は特に限定されないが、例えば真鍮及びニッケル等の金属、並びにエポキシ樹脂及びポリメチルメタクリレート等のプラスチックが挙げられる。
モールドとしては、レンズシート製造用途では、寿命が長い点で金属製であることが好ましく、後記するナノインプリント用途では、透明性を有するプラスチックが好ましい。
【0125】
本発明の組成物をナノインプリント用途で使用する場合は、常法に従えば良い。
例えば、基材に組成物を塗布した後、微細加工パターンを有し透明性を有するモールドをプレスする。
次いで、透明のモールド上から活性エネルギー線を照射して組成物を硬化させ、この後モールドを脱型させる方法等を使用することができる。
【実施例】
【0126】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。
尚、以下において「部」とは重量部を意味する。
【0127】
1.製造例
1)製造例1(エステル交換法によるGLY−TA1の製造)
撹拌機、温度計、ガス導入管、精留塔及び冷却管を取付けた1リットルのフラスコに、グリセリンを63.60部(0.69モル)、2−メトキシエチルアクリレートを700.99部(5.39モル)、触媒XとしてDABCOを5.47部(0.05モル)、触媒Yとして酢酸亜鉛を8.94部(0.05モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテルを1.56部(仕込んだ原料の総重量に対して2000wtppm)仕込み、含酸素ガス(酸素を5容量%、窒素を95容量%)を液中にバブリングさせた。
反応液温度105〜130℃の範囲で加熱撹拌させながら、反応系内の圧力を110〜760mmHgの範囲で調整し、エステル交換反応の進行に伴い副生した2−メトキシエタノールと2−メトキシエチルアクリレートの混合液を精留塔及び冷却管を介して反応系から抜出した。又、該抜出液と同重量部の2−メトキシエチルアクリレートを反応系に随時追加した。加熱撹拌開始から30時間後に反応系内の圧力を常圧に戻して抜出を終了した。
反応液を室温まで冷却して沈殿物をろ過分離した後、ろ液に珪酸アルミニウム〔協和化学工業(株)製キョーワード700(商品名)〕を1.0部、活性炭〔フタムラ化学(株)製太閤S(商品名)〕を1.0部投入し、乾燥空気をバブリングさせながら、温度70〜95℃、圧力0.001〜100mmHgの範囲で8時間の減圧蒸留を行い、未反応の2−メトキシエチルアクリレートを含む留出液を分離した。釜液に珪藻土〔昭和化学工業(株)製ラヂオライト(商品名)〕を2.0部添加して加圧ろ過を行い、得られたろ液を精製処理物とした。
UV検出器を備えた高速液体クロマトグラフを用いて該精製処理物の組成分析を行った結果、グリセリントリアクリレートを主要成分として含むことを確認した(以下、「GLY−TA1」という)。精製処理物の収率は90%であった。得られた精製処理物の水酸基価を下記方法に従い測定した結果、17mgKOH/gであった。その結果を表1に示す。
【0128】
2)製造例2〜同4(エステル交換法によるGLY−TA2〜4の製造)
触媒X及びYとして、下記表1に示す化合物を使用する以外は製造例1と同様の方法に従い、GLY−TA2〜4を製造した。それらの結果を表1に示す。
【0129】
3)精製処理物の評価方法
得られた精製処理物について、下記に示す方法に従い、高分子量体GPC面積、粘度及び水酸基価を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0130】
(1)高分子量体GPC面積%
前記製造例で得られた精製処理物について、下記条件のGPC測定により、高分子量体の面積%を算出した。
◆GPC測定条件
・装置:Waters(株)製 GPC システム名 1515 2414 717P RI
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・カラム:ガードカラム 昭和電工(株)製 Shodex KFG(8μm 4.6×10mm)、本カラム2種類 Waters(株)製 styragel HR 4E THF(7.8×300mm)+styragel HR 1THF(7.8×300mm)
・カラムの温度:40℃
・溶離液組成:THF(内部標準として硫黄を0.03%含むもの)、流量0.75mL/分
・高分子量体の面積(%)の算出方法
GPC測定結果より、下記式(1)に基づき算出した。
高分子量体の面積%=〔(R−I−L)/R〕×100 ・・・(1)
式(1)における記号及び用語は、前記した通りである。
【0131】
(2)粘度
得られた精製処理物の粘度をE型粘度計(25℃)で測定した。
【0132】
(3)水酸基価
得られた精製処理物にアセチル化試薬を加えて92℃の温浴槽中で1時間加熱処理する。放冷後、少量の水を添加して92℃の温浴槽中で10分間加熱処理する。放冷後、フェノールフタレイン溶液を指示薬として水酸化カリウムエタノール溶液で酸を滴定して、水酸基価を求めた。
【0133】
【表1】
【0134】
4)比較製造例1(脱水エステル法によるGLY−TA5の製造)
撹拌機、温度計、ガス導入管、精留塔、冷却管及び水分離器を取付けたフラスコに、グリセリンを61.17部(0.66モル)、アクリル酸を172.18部(2.39モル)、トルエンを129.50部、78重量%硫酸水溶液を6.40部、硫酸銅を0.37部(仕込んだ原料の総重量に対して1000wtppm)仕込み、含酸素ガス(酸素を5容量%、窒素を95容量%)を液中にバブリングさせた。反応系内の圧力370mmHgにて加熱還流させながら撹拌して、脱水エステル化反応の進行に伴い副生した水を精留塔及び冷却管を介して反応系から抜出した。この間、反応液の温度は80〜90℃の範囲で推移した。加熱撹拌開始から6時間後に反応液の加熱を終了するとともに、反応系内の圧力を常圧に戻して抜出を終了した。
反応液を室温まで冷却した後、トルエンを133部、水を55部加えて撹拌した後静置し、下層(水層)を分離した。その後、上層(有機層)に20%水酸化ナトリウム水溶液52部加えて撹拌した後静置し、下層(水層)を分離した。その後、上層(有機層)に水を38部加えて撹拌した後静置し、下層(水層)を分離した。上層(有機層)にハイドロキノンモノメチルエーテルを0.018部添加し、乾燥空気をバブリングさせながら、温度60〜90℃、圧力0.001〜100mmHgの範囲で8時間の減圧蒸留を行い、トルエンを含む留出液を分離した。釜液に珪藻土〔昭和化学工業(株)製ラヂオライト(商品名)〕を2.0部添加して加圧ろ過を行い、得られたろ液を精製処理物とした。
UV検出器を備えた高速液体クロマトグラフを用いて該精製処理物の組成分析を行った結果、グリセリントリアクリレートを含むことを確認した(以下、「GLYTA5」という)。精製処理物の収率は8%であった。得られた反応物について前記と同様に水酸基価を測定した結果、52mgKOH/gであった。
【0135】
【表2】
【0136】
5)製造例5(GLY−TA1に分散させた(B)成分の調製)
撹拌機、温度計、ガス導入管、冷却管及びナス型フラスコを取付けたフラスコに、GLY−TA1を200部、MEK−AC−2140Z〔表面処理シリカ微粒子のメチルエチルケトン(以下、「MEK」という)分散ゾル、粒子分=46重量%、粒径=10〜15nm、日産化学工業(株)製〕を500g仕込み、含酸素ガス(酸素を5容量%、窒素を95容量%)を液中にバブリングさせた。温調付オイルバスにフラスコを浸漬し、内温50℃まで昇温した後、系内の圧力5mmHgにてMEKを脱溶剤した。30分加熱後、一旦圧力を常圧に戻してナスフラスコに留出したMEKを取出し、再び内温50℃、系内圧力5mmHgにて脱溶剤を行い、1時間加熱して留出物がなくなったことを確認し、系内の圧力を常圧に戻してフラスコ内のシリカ調製液を抜出した。
得られたシリカ調製液に残留したMEKをガスクロマトグラフィーによって定量したところ、0.1重量%であった。又、(B)成分である微粒子分は53重量%(留出した揮発分の測定値から計算)、粘度は1,254mPa・sであった(以下、「Si−1)」という)。
【0137】
6)製造例6〜同8(GLY−TA2〜4に分散させた(B)成分の調製)
(A)成分として、GLY−TA1の代わりにGLY−TA2〜4を使用する以外は製造例1と同様の方法に従い、シリカ調製液を製造した(以下、「Si−2〜4」という)。
【0138】
7)比較製造例2(GLY−TA5に分散させた(B)成分の調製)
製造例5と同様の装置付きフラスコに、GLY−TA5を140部、MEK−AC−2140Z〔表面処理シリカ微粒子のMEK分散ゾル、粒子分=46重量%、粒径=10〜15nm、日産化学工業(株)製〕を150g仕込み、製造例5と同様にシリカ調製液を製造し、抜出した。
得られたシリカ調製液に残留したMEKをガスクロマトグラフィーによって定量したところ、0.2重量%であった。又、(B)成分である微粒子分は33重量%(留出した揮発分の測定値から計算)、粘度は4,650mPa・sであった(以下、「Si−5」という)。
【0139】
8)比較製造例3(TMPTAに分散させた(B)成分の調製)
製造例5と同様の装置付きフラスコに、TMPTA(東亞合成製「アロニックスM−309」)を200部、MEK−AC−2140Z〔表面処理シリカ微粒子のMEK分散ゾル、粒子分=46重量%、粒径=10〜15nm、日産化学工業(株)製〕を500g仕込み、製造例5と同様にシリカ調製液を製造し、抜出した。
得られたシリカ調製液に残留したMEKをガスクロマトグラフィーによって定量したところ、0.1重量%であった。又、(B)成分である微粒子分は53重量%(留出した揮発分の測定値から計算)、粘度は3,821mPa・sであった(以下、「Si−6)」という)。
【0140】
製造例5〜8、比較製造例2で得られたシリカ調製液について、粘度及び微粒子分、残MEK分の結果を表3に示す。
【表3】
【0141】
2.実施例及び比較例
1)活性エネルギー線硬化型組成物の製造
Si−1の100部と2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、BASFジャパン(株)製「IRGACURE907」の5部及び2,4−ジエチルチオキサントン、日本化薬(株)製「カヤキュアDETX−S」の0.2部を撹拌・混合して、活性エネルギー線硬化型組成物を製造した。
同様の方法で、下記表4に示す化合物を表4に示す割合で撹拌・混合し、活性エネルギー線硬化型組成物を製造した。
尚、表4において、シリカ調製液は、実施例1〜同9においては(A)及び(B)成分を含み、比較例2及び同3においては(B)成分及び(C)成分を含む。(A)、(B)及び(C)成分の括弧内の部数は、シリカ調製液から組成物への持ち込み分、即ち、組成物に含まれる(A)、(B)及び(C)成分の割合を意味する。
【0142】
尚、表4における数字は部数を意味し、略号は下記を意味する。
・ACMO:アクリロイルモルホリン、KJケミカルズ(株)製「ACMO」、25℃粘度12mPa・s
・NVP:N−ビニルピロリドン、(株)日本触媒製
・UA306H:多官能ウレタンアクリレート(ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの反応物であるウレタンアダクト)、共栄社化学(株)製「UA306H」
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート、東亞合成(株)製「アロニックスM−309」、25℃粘度90mPa・s
・IRG907:2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、BASFジャパン製「IRGACURE907」
・DETX:2,4−ジエチルチオキサントン、日本化薬(株)製「カヤキュアDETX−S」
・TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、BASFジャパン(株)製「ルシリンTPO」
【0143】
【表4】
【0144】
2)評価方法
得られた組成物を使用し、下記評価を行った。それらの結果を表5に示す。
(1)粘度
得られた組成物の粘度をE型粘度計(25℃)で測定した。
(2)転写性
80μm厚の富士フイルム(株)製トリアセチルセルロースフィルム「TD80UL」に、前記で得られた組成物をバーコータで10μm厚に塗布した後、高さ10μmの半球状の凹凸形状を有するニッケル金型にラミネートし、トリアセチルセルロースフィルム越しに紫外線照射して組成物を硬化させた。
紫外線照射装置は、アイグラフィックス(株)製メタルハライドランプを用い、405nmを中心とする紫外線領域(UV−V)の強度をPETフィルム越しで500mW/cm2、500mJ/cm2とした。紫外線照射後、トリアセチルセルロースフィルムを金型から離型し、光学フィルムを得た。
得られた転写された微細凹凸構造を電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察し、突起の先端に欠けがなく、スタンパ形状を転写できているか確認し、下記の基準で2段階評価した。
〇:欠けがない
×:欠けがある
【0145】
(3)耐擦傷性
100μm厚の易接着ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)フィルム〔東洋紡(株)製コスモシャインA4300〕に、前記で得られた組成物をバーコータで10μm厚に塗布した後、100μm厚の未処理ポリエチレンテレフタレートフィルム〔東レ(株)製ルミラーT50。以下、ルミラーという。〕をラミネートし、ルミラー越しに紫外線照射して組成物を硬化させた。
紫外線照射装置は、アイグラフィックス(株)製メタルハライドランプを用い、405nmを中心とする紫外線領域(UV−V)の強度をPETフィルム越しで500mW/cm2、500mJ/cm2とした。
紫外線照射後、ルミラーを剥離し、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの耐擦傷性を、スチールウール#0000を用いて荷重500gで100往復後、以下の5水準で評価を行った。
◎:傷なし
〇:傷1本以上10本未満
△:傷10本以上50本未満
×:傷50本以上100本未満
××:傷100本以上
【0146】
(4)塑性変形硬さ
(3)耐擦傷性試験で得られた硬化物を、超微小硬度計((株)フィッシャーインストルメンツ製、H−100C)を用い、室温においてビッカース圧子の最大荷重が10mNとなる条件で表面硬度を測定し、塑性変形硬さで評価した。
【0147】
(5)密着性
(3)耐擦傷性で得られた光学フィルムを、5×5の25マス様にカッターナイフで切り込みを入れた後、ニチバン製セロハンテープを貼り付け、剥離速度約1cm/secの速度にて勢い良くテープを剥がした。
同様の試験を、易接着PETに代えて以下フィルムでも実施した。表5における略号は、下記を意味する。
・アクリル:(株)クラレ製アクリル樹脂フィルム「クラリティHI50−75」(膜厚75μm)
・TAC:富士フイルム(株)製トリアセチルセルロースフィルム「TD80UL」(膜厚80μm)
基材密着性は、上記操作の後に硬化物の残ったマス目の数を確認し、下記の基準で3段階評価した。
〇:25〜21マス
△:20〜10マス
×:10マス以下
【0148】
【表5】
【0149】
3)考察
実施例1〜同9の結果から明らかなように、本発明の組成物は、転写性に優れ、硬化物の硬度、耐擦傷性及び基材密着性に優れるものであった。
これに対して、比較例1は(B)成分を含まない組成物であるため、塑性変形硬さと対アクリル密着性のいずれも劣った。又、比較例2〜3は、(A)成分の代わりに異なる多官能アクリレートを用いた組成物であるため、転写性に劣ったり、耐擦傷性及び対アクリル、TAC密着性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の組成物は種々の用途に使用可能であり、賦型材料及びハードコート剤に好ましく使用することができる。賦型材料としては、具体的には、レンズシート、モスアイフィルム、防眩フィルム、有機EL・LED用光取出しフィルム、太陽電池用光閉じ込めフィルム及び熱線再帰性反射フィルム等の微細凹凸構造を表面に有する賦型フィルムの製造に利用可能であり、ハードコート剤としては、各種プラスチックの表面硬度や耐擦傷性向上に使用可能である。