特許第6927367号(P6927367)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6927367リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、リチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927367
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、リチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20210812BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210812BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210812BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   C01G53/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-97836(P2020-97836)
(22)【出願日】2020年6月4日
(62)【分割の表示】特願2015-83310(P2015-83310)の分割
【原出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2020-161488(P2020-161488A)
(43)【公開日】2020年10月1日
【審査請求日】2020年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−517599(JP,A)
【文献】 特表2009−525578(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/049862(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0053890(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0082790(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00〜4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属(Me)がNi、Co及びMnを含み、六方晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子断面の中心をPoint 0、粒子の最表面をPoint 10として10等分し、粒子断面の中心から最表面に向かってPoint 0からPoint 9をコア、Point 9からPoint 10を表面層として、Ni、Co及びMnのそれぞれのモル濃度を平均したとき
前記表面層における遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが、前記コアにおける遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meより小さく、
前記コアにおける遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.4≦Ni/Me≦0.8であり、
前記表面層の最表面における遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.1≦Ni/Me≦0.4であり、
前記表面層における遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meが、前記コアにおける遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meよりも大きく、
電位4.45V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)を電位2.0V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)で除した値が0.9〜1.1の間であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
記コアにおけるMn/Meが0.1≦Mn/Me≦0.4であり、前記表面層の最表面におけるMn/Meが0.4≦Mn/Me≦0.8であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質を製造する方法であって、
溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて遷移金属複合酸化物の前駆体を作製する工程において、Ni、Co及びMnの化合物を含有する溶液とMnの化合物を含有する溶液とを別々に同時に滴下し、前記遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.4≦Ni/Me≦0.8である遷移金属複合酸化物のコアの前駆体を作製した後、
Ni、Co及びMnの化合物を含有する溶液を滴下し、前記遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが前記コアにおけるNiのモル比Ni/Meよりも小さく、最表面における遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.1≦Ni/Me≦0.4であり、前記表面層の前駆体における遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meが、前記コアの前駆体における遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meよりも大きい遷移金属複合酸化物の表面層の前駆体を作製することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
記コアの前駆体におけるMn/Meが0.1≦Mn/Me≦0.4であり、前記表面層の前駆体における最表面のMn/Meが0.4≦Mn/Me≦0.8であることを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質の製造方法、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、及びその電極を備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池用正極活物質として、α−NaFeO型結晶構造を有する「LiMeO型」活物質(Meは遷移金属)が検討され、LiCoOを用いたリチウム二次電池が広く実用化されていた。しかし、LiCoOの放電容量は120〜130mAh/g程度であった。前記Meとして、地球資源として豊富なMnを用いることが望ま
れてきた。しかし、MeとしてMnを含有させた「LiMeO型」活物質は、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5を超える場合には、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できないため、充放電サイクル性能が著しく劣るという問題があった。
【0003】
そこで、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5以下であり、充放電サイクル性能の点でも優れる「LiMeO型」活物質が種々提案され、一部実用化されている。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi1/2Mn1/2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3を含有する正極活物質は150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
上記のような層状構造を有する「LiMeO型」正極活物質において、高い充放電容量を得るには、共沈手法などを用いて一粒子中の元素分布(特にMn)を原子レベルで均一な活物質とすることが重要であることが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0005】
一方、上記のようないわゆる「LiMeO型」活物質に対し、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるいわゆる「リチウム過剰型」活物質も知られている。
【0006】
また、リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質について、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの半値幅を規定した発明が公知である(例えば、特許文献2〜6参照)。
【0007】
特許文献2には、「CuKα線を用いた粉末X線回折のミラ−指数hklにおける(003)面及び(104)面の回折ピ−ク角2θがそれぞれ18.65°以上及び44.50°以上で、かつそれら各面の回折ピ−ク半価幅が何れも0.18°以下であり、更に(108)面及び(110)面の回折ピ−ク角2θがそれぞれ64.40°及び65.15°以上で、かつそれら各面の回折ピ−ク半価幅が何れも0.18°以下であるところの、Li1.1 Ni0.333 Mn0.333 Co0.333
2 の層状構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物。」(請求項1、段落[0020]〜[0032])の発明が記載されている。
そして、この発明の目的として、「リチウムイオン二次電池に高い放電容量,高い電流負荷特性,高い信頼性(高寿命)を付与することができる正極活物質用材料を提供すること」(段落[0010])が記載されている。
【0008】
特許文献3には、「集電体と、前記集電体に保持された活物質粒子を含む活物質層とを備え、前記活物質粒子は、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.330.0052で表わされる層状結晶構造の化合物であるリチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子であって、該二次粒子の内側に形成された中空部と、該中空部を囲む殻部とを有する中空構造を構成しており、前記二次粒子には、外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されており、ここで前記活物質粒子の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たす、リチウム二次電池。」(請求項1、6、段落[0073]〜[0078]、[0089]表1)の発明が記載されている。
そして、この発明の課題として、低SOC域においても所要の出力を発揮でき、ハイブリッド車、電気自動車などの走行性能を向上させることができ、また、必要なエネルギー量を確保するための電池の数を減らすことができるリチウム二次電池を提供すること(段落[0004])が示されている。
【0009】
特許文献4には、「層状構造を有し、LiNiCoMn[元素MはAl,Si,Zr,Ti,Fe,Mg,Nb,Ba及びVからなる群から選ばれる少なくと
も1種の元素であり、1.9≦(a+b+c+d+y)≦2.1、1.0<y≦1.3、0<a≦0.3、0<b≦0.25、0.3≦c≦0.7、0≦d≦0.1、1.9≦x≦2.1である。]で表される組成を有し、 粉末X線回折図における(003)面の半値幅FWHM003と(104)面の半値幅FWHM104との比がFWHM003/FWHM104≦0.57で表され、かつ、平均一次粒子径が0.2μm〜0.5μmである活物質。」(請求項1)の発明が記載されている。
そして、この発明の目的として、「放電容量が高く、かつ、充放電サイクル特性に優れた活物質及びリチウムイオン二次電池を提供すること」(段落[0006])が示されている。
【0010】
特許文献5には、「組成式Li1+αMe1−α(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、1.2<(1+α)/(1−α)<1.6)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記Me中のCoのモル比Co/Meが0.24〜0.36であり、エックス線回折パターンを元に空間群R3−mを結晶構造モデルに用いたときに(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.204°〜0.303°の範囲であるか、又は、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.278°〜0.424°の範囲であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。」の発明が記載されている。
そして、この発明の課題として、「高率放電性能が優れたリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質の製造方法、及びその正極活物質を用いたリチウム二次電池を提供すること」(段落[0009])が記載されている。
【0011】
特許文献6には、「2つ以上の一次粒子の凝集体を含む少なくとも1つの二次粒子を含み、前記二次粒子は、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3であるニッケル系リチウム遷移金属酸化物を含み、前記一次粒子の平均粒径が3ないし5μmであり、前記二次粒子は、平均粒径5ないし8μmの小径二次粒子と、平均粒径10ないし20μmの大径二次粒子のうち選択された1つ以上を含み、X線回折分析スペクトル分析で、(003)ピークの半値幅が0.120ないし0.125゜であり、(104)ピークの半値幅が0.105ないし0.110゜である正極活物質。」(請求項1、2、段落[0050]、[0119]〜[0126]、[0131]〜[0133]、[0151]〜[0154]、[図3A]〜[図3C])の発明が記載されている。
そして、この発明の効果として、「高電圧特性が向上した正極活物質を提供し、そのような正極活物質を採用することで、極板製造工程での正極スラリー安定性及び極板合剤密度が向上したリチウム二次電池用正極極板を製作できる」(段落[0016])ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2002/086993
【特許文献2】特開2005−53764号公報
【特許文献3】特開2013−51172号公報
【特許文献4】特開2013−206552号公報
【特許文献5】特開2014−44928号公報
【特許文献6】特開2015−18803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のいわゆる「LiMeO型」活物質は、放電容量が低く(特許文献1〜3、6)、また、いわゆる「リチウム過剰型」活物質の放電容量は、概して、いわゆる「LiMeO型」活物質よりも大きい(特許文献4、5)が、放電末期の高率放電性能が劣るという問題がある。本発明は、上記のいわゆる「LiMeO型」活物質の性能をさらに向上することを検討したものである。
本発明者は、従来の「LiMeO型」正極活物質の検討において、Mnについて原子レベルでの均一性を敢えて乱す共沈手法を適用することで、正極活物質の充放電に伴う結晶性における異方性を調整することができ、高い放電容量が得られることを見出し、先願発明を出願した(特願2014−196484号)。
しかしながら、充放電サイクル性能のさらなる向上が求められていた。
本発明は、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質の製造方法、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、及びその電極を備えたリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)遷移金属(Me)がNi、Co及びMnを含み、六方晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子断面の中心をPoint 0、粒子の最表面をPoint 10として10等分し、粒子断面の中心から最表面に向かってPoint 0からPoint 9をコア、Point 9からPoint 10を表面層として、Ni、Co及びMnのそれぞれのモル濃度を平均したとき
前記表面層における遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが、前記コアにおける遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meより小さく
前記コアにおける遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.4≦Ni/Me≦0.8であり、
前記表面層の最表面における遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.1≦Ni/Me≦0.4であり、
前記表面層における遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meが、前記コアにおける遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meよりも大きく
電位4.45V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)を電位2.0V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)で除した値が0.9〜1.1の間であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
(2)前記コアにおけるMn/Meが0.1≦Mn/Me≦0.4であり、前記表面層の最表面におけるMn/Meが0.4≦Mn/Me≦0.8であることを特徴とする前記(1)のリチウム二次電池用正極活物質。
(3)前記(1)又は(2)のリチウム二次電池用正極活物質を製造する方法であって、溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて遷移金属複合酸化物の前駆体を作製する工程において、Ni、Co及びMnの化合物を含有する溶液とMnの化合物を含有する溶液とを別々に同時に滴下し、前記遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.4≦Ni/Me≦0.8である遷移金属複合酸化物のコアの前駆体を作製した後、
Ni、Co及びMnの化合物を含有する溶液を滴下し、前記遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが前記コアにおけるNiのモル比Ni/Meよりも小さく、最表面における遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.1≦Ni/Me≦0.4であり、前記表面層の前駆体における遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meが、前記コアの前駆体における遷移金属(Me)中のMnのモル比Mn/Meよりも大きい遷移金属複合酸化物の表面層の前駆体を作製することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(4)前記コアの前駆体におけるMn/Meが0.1≦Mn/Me≦0.4であり、前記表面層の前駆体における最表面のMn/Meが0.4≦Mn/Me≦0.8であることを特徴とする前記(3)のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(5)前記(1)又は(2)のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極。
(6)前記(5)のリチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質の製造方法、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、及びその電極を備えたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るリチウム二次電池の一実施形態を示す外観斜視図
図2】本発明に係るリチウム二次電池を複数個集合した蓄電装置を示す概略図
図3】本発明に係るリチウム二次電池用正極活物質についてコア及び表面層のNi濃度の測定方法を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0018】
本発明に係る正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、コア及び表面層を有する粒子である。
本発明は、Co、Ni及びMnを含む遷移金属元素Meが、リチウム遷移金属複合酸化物(活物質)の一粒子中においてCo/Ni/Mnの組成比率が一定であるものではなく、リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、コア及び表面層を有し、一粒子におけるNi濃度は、コアが高く(モル比Ni/Me=0.4〜0.8)、表面層が低く、最表面がモル比Ni/Me=0.1〜0.4であることを特徴としている。
粒子の断面を、後述するように、SEM−EDX装置を用いて測定することにより、粒子の中心をPoint 0、粒子の表面をPoint 10として測定点を10等分し、Point 0からPoint 10までの各測定点において、Co、Ni及びMnのモル濃度の合計に対するCo、Ni及びMnのそれぞれのモル濃度の比率を算出する。そして、Point 0からPoint 9をコア、Point 9からPoint 10を表面層として、モル濃度を平均し、コア及び表面層のNiモル濃度を求める。
なお、上記の例においては、平均組成が、上記コアのNi濃度を満たす領域を、90%までの範囲で算出しているが、本発明には、コア及び表面層における最表面のモル比Ni/Meが上記の範囲であれば、Co/Ni/Mnの組成比率が中心から表面に向かって次第に変化するようにしたものも含まれる。したがってコアのモル濃度は、活物質の特性を決定づけるから、90%を基準として、80〜97%までの範囲で算出することが好ましい。
また、ここでいう粒子の「表面層」の物質は、Ni、Co及びMnを含むリチウム遷移金属複合酸化物であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、この粒子の表面に、さらに、炭素被覆、アルミナ被覆、異種元素被覆等の別の物質を被覆することを排除するものではない。
【0019】
前記コアを構成するリチウム遷移金属複合酸化物は、従来の「LiMeO型」活物質(NCM系活物質)と同様に、組成式Li1+xMe1−x(Me:Ni、Co及びMnを含む遷移金属)で表される。
本発明においては、コア(バルク)の状態を、前記先願発明の活物質のように、Mnについて原子レベルでの均一性を敢えて乱す構成を適用しつつ、コア及び表面層に特定の比率のCo/Ni/Mn組成を適用することにより、容量特性を維持しつつ、寿命特性を向上させることができた。
【0020】
前記コアを構成するリチウム遷移金属複合酸化物は、一例として組成式Li1+x(NiCoMn1−x(a+b+c=1)で表される。xは、−0.1<x<0.1であることが好ましい。xは、後述するF(003)/F(104)の充電末/放電末比率に対応して定まり、この比率が0.9〜1.1の範囲で−0.1<x<0.1となる。−0.05≦x≦0.09であることが好ましい。
【0021】
本発明において、リチウム二次電池の放電容量、充放電サイクル性能を向上させるために、前記aの値、即ち遷移金属元素Meに対するNiのモル比Ni/Meは、0.4〜0.8とする。0.5〜0.8とすることが好ましい。
【0022】
また、また、前記bの値、即ち遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.05〜0.3とすることが好ましい。リチウム二次電池の放電容量、充放電サイクル性能を向上させるためには、0.1〜0.25とすることが好ましい。
【0023】
同様に、リチウム二次電池の放電容量、充放電サイクル性能を向上させるために、前記cの値、即ち遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.1〜0.4とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、Na、K等のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0025】
本発明において、充放電サイクル性能を向上させるために、前記表面層を構成するリチウム遷移金属複合酸化物の最表面のNi/Meは、0.1〜0.4とする。Ni/Meは、0.15〜0.3とすることが好ましい。表面層のNi/Meは、コアのNi/Meよりも小さいことが好ましい。
【0026】
同様に、充放電サイクル性能を向上させるために、前記表面層を構成するリチウム遷移金属複合酸化物の最表面のMn/Meは、0.4〜0.8とすることが好ましい。表面層のMn/Meは、コアのMn/Meよりも大きいことが好ましい。
【0027】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、六方晶構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、R3−mに帰属される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0028】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折(CuKα線源を使用)パターンを元に空間群R3−mを結晶構造モデルに用いたときに、(104)面に帰属される回折ピーク(2θ=44±1°の回折ピーク)の半値幅F(104)に対する(003)面に帰属される回折ピーク(2θ=18.6°±1°の回折ピーク)の半値幅F(003)の比率が、電位4.45V(vs.Li/Li)充電時と2.0V(vs.Li/Li)放電時とで大きく変わらないこと、すなわち、4.45V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)を電位2.0V(vs.Li/Li)における半値幅比率F(003)/F(104)で除した値(以下、「F(003)/F(104)の充電末/放電末比率」ともいう。)が0.9〜1.1の間であることに特徴を有する。この値が0.9〜1.1の間であるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として使用することにより、放電容量の高いリチウム二次電池が得られる。
リチウム遷移金属複合酸化物は、F(003)を0.15°〜0.35°の範囲とすることが好ましく、F(104)を0.15°〜0.40°の範囲とすることが好ましい。
【0029】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物の半値幅比率を上記のように特定の範囲とすることにより、リチウム二次電池の放電容量が向上する理由は、以下のように推測される。
結晶学的にはF(003)はc軸方向に沿った結晶性のパラメーターとなり、F(00
3)が大きいほどc軸方向の格子ひずみが大きいことを示すものである。一方、F(104)は立体的な結晶性をしめすパラメーターとなり、F(104)が大きいほど結晶全体の格子ひずみが大きいことを示すものである。よって、F(003)/F(104)は結晶全体における結晶性に対して、c軸方向に如何に格子がひずんでいるかという結晶の異方性ひずみを示す指標となる。したがって、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率は、充放電過程における結晶の異方性ひずみの変化の度合いを示している。
【0030】
後述する比較例1及び2は、Mnについて原子レベルでの均一性が高い製造条件であり、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率(ひずみの変化の度合い)は1からの乖離が大きい(0.9未満)。比較例3及び4は、Mnについて原子レベルでの均一性を相当程度に乱した製造条件であり、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率(ひずみの変化の度合い)はやはり1からの乖離が大きい(1.1より大きい)。
これに対して、後述する本発明の実施例においては、Mnについて原子レベルでの均一性が比較例1及び2と比較例3及び4との間にあるが、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率が1に近く(0.9〜1.1)、ひずみの変化の度合いが小さい。よって、実施例は、Mnについて原子レベルでの均一性の乱し方を制御したものといえる。つまりは、主相としてMnについて原子レベルでの均一性の乱れ方が適度に制御された化合物であり、原子レベルでの均一性が乱された結果副生したLiMnO等が粒子内に分散することにより、優れた放電容量向上効果を示したものと発明者らは推測している。
【0031】
上記のように、本発明は、主相としてMnについて原子レベルでの均一性の乱し方が適度に制御された化合物であり、コアは「LiMeO型」の化合物であるから、組成式Li1+xMe1−x(Me:Ni、Co及びMnを含む遷移金属)で表される。ここで、合成時のxが−0.1より大きくなるように製造することにより、F(003)/F(104)の充電末/放電末比率が小さくなりすぎる虞を低減できるため好ましく、合成時のxが0.1より小さくなるように製造することにより、上記の比率が大きくなりすぎる虞を低減できるため、好ましい。
【0032】
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電中に構造変化しないことが好ましい。これは、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上空間群R3−mに帰属される単一相として観察されることにより確認できる。これにより、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0033】
さらに、リチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折パターンを基にリートベルト法による結晶構造解析から求められる酸素位置パラメータが、放電末において0.262以下、充電末において0.267以上であることが好ましい。これにより、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。なお、酸素位置パラメータとは、空間群R3−mに帰属されるリチウム遷移金属複合酸化物のα−NaFeO型結晶構造について、Me(遷移金属)の空間座標を(0,0,0)、Li(リチウム)の空間座標を(0,0,1/2)、O(酸素)の空間座標を(0,0,z)と定義したときの、zの値をいう。即ち、酸素位置パラメータは、O(酸素)位置がMe(遷移金属)位置からどれだけ離れているかを示す相対的な指標となる。
【0034】
本発明に係る正極活物質のBET比表面積は、初期効率、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、0.2m/g以上が好ましく、0.3−1.5m/gがより好ましい。
また、タップ密度は、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、1.25g/cc以上が好ましく、1.7g/cc以上がより好ましい。
【0035】
次に、本発明のリチウム二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明のリチウム二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Ni,Co,Mn)を目的とする活物質(酸化物)の組成通りに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Ni,Co,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめNi,Co,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはNi,Coに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1−xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0036】
共沈前駆体を作製するにあたって、Ni,Co,MnのうちMnは酸化されやすく、Ni,Co,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Ni,Co,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。本発明においては、共沈前駆体の粒子内に微細に不均一に存在するMn化合物の生成量を制御するために、溶存酸素を除去することが好ましい。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。
【0037】
溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を作製する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10.5〜14とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを11.5以下とすることにより、タップ密度を1.00g/cm以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを11.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0038】
本発明においては、正極活物質内部を密にし、小粒子化を可能とし、活物質が電極プレス時にロールに付着するのを防止するために、共沈前駆体を水酸化物とすることが好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
本発明においては、共沈水酸化物前駆体から作製する場合、リチウム遷移金属複合酸化物の2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50は、18μm以下が好ましく、4〜12μmがより好ましい。
【0039】
本発明においては、コアの共沈前駆体の粒子内に微細に不均一に存在するMn化合物の生成量を制御するために、溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させてコアの前駆体を作製する工程において、Ni、Co及びMnの化合物を含有し、Niの化合物の含有量が多い溶液とMnの化合物を含有する溶液とを別々に同時に滴下することを特徴とする。Ni,Co(Ni,Co,Mn)含有液滴下用ノズルとMn含有液滴下用ノズルを2本設けて同時に滴下するという方法を採用することが好ましい。
このような方法によって、共沈前駆体の粒子内に微細に不均一に存在するMn化合物の生成量を制御することができ、本発明の特定の半値幅比率を有するリチウム遷移金属複合酸化物を製造することができる。また、「同時」は、本発明の特定の半値幅比率を有するリチウム遷移金属複合酸化物が製造することができる範囲で、若干の時間的な誤差は許容される。
リチウム遷移金属複合酸化物のF(003)/F(104)の充電末/放電末比率を、0.9〜1.1とするために、コアの前駆体のNi/Meモル比が0.4〜0.8となる範囲で、Ni及びCoの化合物を含有しMnの化合物を少し含有する溶液と、Mnの化合物を含有する溶液とを別々に同時に滴下する方法が好ましい。また、コアの前駆体のMn/Meモル比は0.1〜0.4となる範囲でMnの化合物を含有する溶液を滴下することが好ましい。
【0040】
i、Co及びMnの化合物を含有し、Niの化合物の含有量が多い溶液とMnの化合物を含有する溶液とを別々に同時に滴下し、Ni/Meモル比が0.4〜0.8であるコアの前駆体を作製した後、最表面のNi/Meモル比が0.1〜0.4である表面層の前駆体を作製するために、Ni、Co及びMnの化合物を含有し、Niの化合物の含有量が少ない溶液を滴下する。上記のように、Ni,Co含有液滴下用ノズルとMn含有液滴下用ノズルを2本設けて同時に滴下してコアの前駆体を作製する場合、Ni,Co含有液滴下用ノズルに供給するNi及びCoの化合物を含有し、Niの化合物の含有量が多い溶液、並びに、Mn含有液滴下用ノズルに供給するMnの化合物を含有する溶液が少し残っている時点で、それぞれの溶液に、Ni、Co及びMnの化合物を含有し、Niの化合物の含有量が少ない溶液を滴下する方法を採用することが好ましい。これにより、コアから表面層にかけて元素濃度勾配を有する粒子を構成することができる。
【0041】
前記共沈前駆体の原料は、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を一例として挙げることができる。
【0042】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0043】
また、粒度分布が2つ以上の極大値を有しないリチウム遷移金属複合酸化物を得るために、コアの共沈前駆体作製工程におけるNi及びCoの化合物を含有する溶液とMnの化合物を含有する溶液の滴下時間は、16h以上とすることが好ましく、20h〜48hとすることがより好ましい。粒度分布が2つ以上の極大値を有しないリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とすることにより、リチウム二次電池の初期効率を向上させることができる。
【0044】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0045】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30h以下が好ましく、25h以下がより好ましく、20h以下が最も好ましい。
【0046】
本発明のリチウム二次電池用活物質は、前記共沈前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0047】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明においては、焼成温度は少なくとも750℃以上とすることが好ましい。十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
また、発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することで750℃より低い温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。
【0048】
一方、焼成温度が高すぎると層状六方晶構造から岩塩型立方晶構造へと構造変化がおこり、充放電反応中における活物質中のLi移動に不利な状態となり、放電性能が低下する。
したがって、放電容量と共にサイクル寿命を向上させるために、本発明のリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を焼成する場合、焼成温度は750〜900℃とすることが好ましい。
以上のようにして、正極活物質を作製する。
【0049】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0050】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0051】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0052】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0053】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0054】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0055】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0056】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液をアルミニウム箔等の集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、
これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明に係るリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li210Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,(CH34NBF4,(CH34NBr,(C254NClO4,(C254NI,(C374NBr,(n−C494NClO4,(n−C494NI,(C254N−maleate,(C254N−benzoate,(C254N−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0059】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C25SO22のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0060】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0061】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0062】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン
共重合体等を挙げることができる。
【0063】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0064】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0065】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0066】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0067】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0068】
図1に、本発明に係るリチウム二次電池の一実施形態である矩形状のリチウム二次電池1の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示すリチウム二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0069】
本発明に係るリチウム二次電池の形状については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記のリチウム二次電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数のリチウム二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
硫酸ニッケル6水和物448.4g、硫酸コバルト7水和物79.9g、硫酸マンガン5水和物171.4gを秤量し、これらの全量をイオン交換水2.7Lに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:2.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。これを原液1とする。一方、硫酸マンガン5水和物34.3gを秤量し、これらの全量をイオン交換水2.7Lに溶解させた0.05Mの硫酸塩水溶液を作製した。これを原液2とする。
また、硫酸ニッケル6水和物14.2g、硫酸コバルト7水和物15.2g、硫酸マンガン5水和物39.1gを秤量し、これらの全量をイオン交換水0.27Lに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が2:2:6となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。これを原液3とする。
実施例活物質の作製にあたって、反応晶析法をもちいて水酸化物前駆体を作製した。
まず、5Lの反応槽に2Lのイオン交換水を注ぎ、Arガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応層内に対流が十分おこるように設定した。前記硫酸塩原液1および2をそれぞれ1.5ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、4.0Mの水酸化ナトリウム、0.5Mのアンモニア、及び0.5Mのヒドラジンからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に11.0(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2Lを超えないように制御した。原液1および2を滴下開始してから27h後、0.27Lずつ残った状態で、原液3を0.135Lずつ原液1および2にそれぞれ0.5ml/minの速度で滴下した。
滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3h継続した。攪拌の停止後、室温で12h以上静置した。
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した水酸化物前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、コアのNi:Co:Mnのモル比が6:1:3で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が2:2:6の水酸化物前駆体を作製した。
【0071】
前記水酸化物前駆体1.898gに、水酸化リチウム1水和物0.897gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が1:1である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から850℃まで10時間かけて昇温し、850℃で5h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0072】
(実施例2)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物463.1g、硫酸コバルト7水和物82.5g及び硫酸マンガン5水和物155.7gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:2.2となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物52.1gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.08Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0073】
(実施例3)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物484.1g、硫酸コバルト7水和物86.3g及び硫酸マンガン5水和物133.2gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:1.8となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物78.1gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.12Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0074】
(実施例4)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物501.2g、硫酸コバルト7水和物89.3g及び硫酸マンガン5水和物114.9gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:1.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物117.2gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.15Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0075】
(実施例5)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物519.5g、硫酸コバルト7水和物92.6g及び硫酸マンガン5水和物95.3gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:1.2となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物117.2gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.18Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0076】
(実施例6)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物532.5g、硫酸コバルト7水和物94.9g及び硫酸マンガン5水和物81.4gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:1.0となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物130.2gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.20Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0077】
(実施例7)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物568.0g、硫酸コバルト7水和物101.2g及び硫酸マンガン5水和物43.4gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:0.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物162.8gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.25Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0078】
(実施例8)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物597.9g、硫酸コバルト7水和物79.9g及び硫酸マンガン5水和物34.3gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が8:1:0.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、また、硫酸ニッケル6水和物28.4g、硫酸コバルト7水和物15.2g、硫酸マンガン5水和物26.1gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が4:2:4となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。実施例8において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が8:1:1で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が4:2:4であった。
【0079】
(実施例9)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物552.3g、硫酸コバルト7水和物84.4g及び硫酸マンガン5水和物72.4gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が7:1:1となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物65.1gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.10Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと、また、硫酸ニッケル6水和物21.3g、硫酸コバルト7水和物22.8g及び硫酸マンガン5水和物26.1gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が3:3:4となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。実施例9において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が7:1:2で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が3:3:4であった。
【0080】
(実施例10)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物417.7g、硫酸コバルト7水和物178.7g及び硫酸マンガン5水和物114.9gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が5:2:1.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物97.7gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.15Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと、また、硫酸ニッケル6水和物10.7g、硫酸コバルト7水和物11.4g及び硫酸マンガン5水和物45.6gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が1.5:1.5:7となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。実施例10において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が5:2:3で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が1.5:1.5:7であった。
【0081】
(実施例11)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物355.0g、硫酸コバルト7水和物189.8g及び硫酸マンガン5水和物162.8gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が4:2:2となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物130.2gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.20Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと、また、硫酸ニッケル6水和物7.1g、硫酸コバルト7水和物7.6g及び硫酸マンガン5水和物52.1gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が1:1:8となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。実施例11において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が4:2:4で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が1:1:8であった。
【0082】
(比較例1)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物434.7g、硫酸コバルト7水和物77.5g及び硫酸マンガン5水和物186.1gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:2.8となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物13.0gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.02Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0083】
(比較例2)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物448.4g、硫酸コバルト7水和物79.9g、硫酸マンガン5水和物195.4gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:3.0となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、原液2を用いないで、原液1のみを滴下し、続いて原液3を滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0084】
(比較例3)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物587.6g、硫酸コバルト7水和物104.7g及び硫酸マンガン5水和物22.5gを秤量し、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:0.25となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物179.1gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.275Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0085】
(比較例4)
水酸化物前駆体作製工程において、原液1に硫酸マンガン5水和物を添加しないで、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:0となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物195.4gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.3Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0086】
(比較例5)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物292.4g、硫酸コバルト7水和物268.0g及び硫酸マンガン5水和物153.2gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が3.5:3:2となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物97.7gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.15Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。比較例5において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が3.5:3:3.5で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が2:2:6であった。
【0087】
(比較例6)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物266.3g、硫酸コバルト7水和物284.8g及び硫酸マンガン5水和物162.8gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が3:3:2となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物130.2gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.20Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。比較例6において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が3:3:4で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が2:2:6であった。
【0088】
(比較例7)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物635.3g、硫酸コバルト7水和物40.0g及び硫酸マンガン5水和物34.3gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が8.5:0.5:0.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。比較例7において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が8.5:0.5:1で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が2:2:6であった。
【0089】
(比較例8)
水酸化物前駆体作製工程において、硫酸ニッケル6水和物655.4g、硫酸コバルト7水和物38.9g、硫酸マンガン5水和物16.7gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が9:0.5:0.25となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液1としたこと、硫酸マンガン5水和物16.3gを秤量し、これらの全量を溶解させた0.025Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液2としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。比較例8において、水酸化物前駆体は、コアのNi:Co:Mnのモル比が9:0.5:0.5で、表面層における最表面のNi:Co:Mnのモル比が2:2:6であった。
【0090】
(比較例9)
硫酸ニッケル6水和物319.5g、硫酸コバルト7水和物75.9g、硫酸マンガン5水和物293.1gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が4.5:1:4.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例9に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0091】
(比較例10)
硫酸ニッケル6水和物355.0g、硫酸コバルト7水和物75.9g、硫酸マンガン5水和物260.5gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が5:1:4となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0092】
(比較例11)
硫酸ニッケル6水和物426.0g、硫酸コバルト7水和物75.9g、硫酸マンガン5水和物195.4gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が6:1:3となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例11に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0093】
(比較例12)
硫酸ニッケル6水和物35.5g、硫酸コバルト7水和物75.9g、硫酸マンガン5水和物553.6gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が0.5:1:8.5となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例12に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0094】
(比較例13)
硫酸コバルト7水和物75.9g、硫酸マンガン5水和物586.1gを秤量し、これらの全量を溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が0:1:9となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製し、これを原液3としたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例13に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0095】
(コア及び表面層のNi濃度の測定)
実施例1〜11及び比較例1〜13に係るそれぞれのリチウム遷移金属複合酸化物に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製、型番JSM-6360)及びこれに付属するエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry)装置(以下「SEM−EDX装置」ともいう)を用いて、次の手順により、粒子の表面層からコアにかけての金属組成比率を測定した。
【0096】
アクリル樹脂製のリング(外径10mm、内径8mm)内に、測定対象とするリチウム遷移金属複合酸化物の粒子をスパテラにて適量採取して投入し、さらに硬化用二液性エポキシ樹脂を流し込んで硬化させた。次に、研磨機(Wingo Seiki 社製 GPM GRINDING & POLISHING)とエミリー研磨紙(#180)を用いて、前記粒子の断面が出るように研磨し、最終的にエミリー研磨紙(#1000)を用いて表面研磨を行った。研磨を行った表面に白金蒸着を行い、前記SEM−EDX装置にセットした。分析位置のワーキングディスタンスは10mmとし、電子銃の加速電圧は15kVとした。SEM観察により、断面観察に適した、粒子の中心を含む断面が観察表面に露出している粒子を選択した。分析対象元素はCo、Ni及びMnとした。図3に示すように、粒子の中心をPoint 0、粒子の表面をPoint 10として測定点を10等分し、Point 0からPoint 10までの各測定点において、Co、Ni及びMnのモル濃度の合計に対するCo、Ni及びMnのそれぞれのモル濃度の比率を算出した。そして、Point 0からPoint 9をコア、Point 9からPoint 10を表面層として、それぞれのモル濃度を平均し、コア及び表面層のCo、Ni及びMnのモル濃度を求めた。
【0097】
(粒子径の測定)
実施例1〜11及び比較例1〜13に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、次の条件及び手順に沿って粒度分布測定を行った。測定装置には日機装社製Microtrac(型番:MT3000)を用いた。前記測定装置は、光学台、試料供給部及び制御ソフトを搭載したコンピュータからなり、光学台にはレーザー光透過窓を備えた湿式セルが設置される。測定原理は、測定対象試料が分散溶媒中に分散している分散液が循環している湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料からの散乱光分布を粒度分布に変換する方式である。前記分散液は試料供給部に蓄えられ、ポンプによって湿式セルに循環供給される。前記試料供給部は、常に超音波振動が加えられている。分散溶媒として水を用いた。測定制御ソフトにはMicrotrac DHS for Win98(MT3000)を用いた。前記測定装置に設定入力する「物質情報」については、溶媒の「屈折率」として1.33を設定し、「透明度」として「透過(TRANSPARENT)」を選択し、「球形粒子」として「非球形」を選択した。試料の測定に先立ち、「Set Zero」操作を行う。「Set Zero」操作は、粒子からの散乱光以外の外乱要素(ガラス、ガラス壁面の汚れ、ガラス凸凹など)が後の測定に与える影響を差し引くための操作であり、試料供給部に分散溶媒である水のみを入れ、湿式セルに分散溶媒である水のみが循環している状態でバックグラウンド測定を行い、バックグラウンドデータをコンピュータに記憶させる。続いて「Sample LD(Sample Loading)」操作を行う。Sample LD操作は、測定時に湿式セルに循環供給される分散液中の試料濃度を最適化するための操作であり、測定制御ソフトの指示に従って試料供給部に測定対象試料を手動で最適量に達するまで投入する操作である。続いて、「測定」ボタンを押すことで測定操作が行われる。前記測定操作を2回繰り返し、その平均値として測定結果が制御コンピュータから出力される。測定結果は、粒度分布ヒストグラム、並びに、D10、D50及びD90の各値(D10、D50及びD90は、2次粒子の粒度分布における累積体積がそれぞれ10%、50%及び90%となる粒度)として取得される。測定されたD50は、10μmであった。
【0098】
(リチウム二次電池の作製及び評価)
実施例1〜11及び比較例1〜13に係るリチウム遷移金属複合酸化物をそれぞれリチウム二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順でリチウム二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0099】
N−メチルピロリドンを分散媒とし、活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、正極板を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係るリチウム二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている活物質の質量及び塗布厚みを統一した。
【0100】
正極の単独挙動を正確に観察する目的のため、対極、即ち負極には金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させて用いた。ここで、リチウム二次電池の容量が負極によって制限されないよう、負極には十分な量の金属リチウムを配置した。
【0101】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/lとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテ
レフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記電解液を注液後、注液孔を封止した。
【0102】
以上の手順にて作製されたリチウム二次電池は、25℃の下、初期充放電工程に供した。充電は、電流0.1CmA、電圧4.6Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この充放電を2サイクル行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ30分の休止過程を設けた。
【0103】
(半値幅の測定)
実施例1〜11及び比較例1〜13に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて半値幅の測定を行った。なお、本願明細書において、半値幅の測定は、次の条件及び手順に沿って行うものとする。
線源はCuKα、加速電圧及び電流はそれぞれ30kV及び15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、走査時間は14分(スキャンスピードは5.0)、発散スリット幅は0.625deg、受光スリット幅は開放、散乱スリットは8.0mmとする。得られたエックス線回折データについて、Kα2に由来するピークを除去せず、前記エックス線回折装置の付属ソフトである「PDXL」を用いて、空間群R3−mでは(003)面に指数付けされる、エックス線回折図上2θ=18.6°±1°に存在する回折ピークについての半値幅F(003)、及び、(104)面に指数付けされる、エックス線回折図上2θ=44±1°に存在する回折ピークについて半値幅F(104)を決定する。
F(003)/F(104)の充電末/放電末比率は、次のようにして求めた。上記の初期充放電工程を経た電池について、充電電圧を4.45Vとして電流0.1CmAでの定電流充電を行い、電流値が0.01CmAに減少するまで定電圧充電を行い、充電末状態とした。また、上記の初期充放電工程を経た別の電池について、充電電圧を4.45Vとして電流0.1CmAでの定電流充電を行った後、30分の休止をはさんで0.1CmAにて2.0Vに至るまで定電流放電を行い、放電末状態とした。これらの電池を解体し、取り出した正極板をジメチルカーボネートを用いて十分洗浄を行い、室温にて一昼夜の乾燥後、合剤を電極から取り出し、瑪瑙乳鉢を用いて凝集した粉体をほぐした。得られた合剤粉末を上記エックス線測定に供した。充電末状態とした電池から採取した合剤粉末について得られたエックス線回折図から求めた半値幅F(003)と半値幅F(104)の比率である半値幅比率F(003)/F(104)の値を、放電末状態とした電池から採取した合剤粉末について得られたエックス線回折図から求めた半値幅比率F(003)/F(104)の値で除した値をF(003)/F(104)の充電末/放電末比率とした。
また、全ての実施例及び比較例のリチウム遷移金属複合酸化物は、六方晶構造を有することを確認した。
本願明細書において、電極は、上記の手順に沿って、放電末状態及び充電末状態に調整するものとする。但し、上記実施例では、金属リチウム電極を負極に用いた電池を放電末状態又は充電末状態とした後に電池を解体して電極を取り出したが、電池を解体して電極を取り出した後に、金属リチウム電極を対極とした電池を組立ててから、上記の手順に沿って、放電末状態及び充電末状態に調整してもよい。
【0104】
(充放電サイクル試験)
続いて、30サイクルの充放電サイクル試験を行った。充電は、電流1CmA、電圧4.45Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした
。放電は、電流1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設けた。
【0105】
(初期放電容量及び容量維持率)
上記充放電サイクル試験における1サイクル目の放電容量を「初期放電容量(mAh)」として記録した。また、前記「初期放電容量(mAh)」に対する30サイクル目の放電容量の百分率を算出し、「容量維持率(%)」とした。
【0106】
実施例1〜11及び比較例1〜13に係るリチウム遷移金属複合酸化物のF(003)/F(104)の充電末/放電末比率、コア及び表面層における最表面の組成、作製方法、上記のリチウム遷移金属複合酸化物をそれぞれ正極活物質として用いたリチウム二次電池の試験結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1より、コア及び表面層を有し、前記コアにおける遷移金属(Me)中のNiのモル比Ni/Meが0.4≦Ni/Me≦0.8、前記表面層における最表面の遷移金属(Me)中のモル比Ni/Meが0.1≦Ni/Me≦0.4であり、F(003)/F(104)の充電末/放電末比率が0.9〜1.1の間であるリチウム遷移金属複合酸化物を、正極活物質とした実施例1〜11のリチウム二次電池は、放電容量が高く、容量維持率も大きいことが分かる。
【0109】
比較例1及び2は、原液1のMnの比率が大きく、原液2のMnの比率が小さいから、Mnについて原子レベルでの均一性が高い従来の製造条件であり、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率(結晶の異方性ひずみの変化の度合い)は1からの乖離が大きく(0.9未満)、放電容量は低い。
一方、比較例3及び4は、原液1のMnの比率が小さく、原液2のMnの比率が大きいから、Mnについて原子レベルでの均一性を相当程度に乱した製造条件であり、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率(結晶の異方性ひずみの変化の度合い)はやはり1からの乖離が大きくなり(1.1超)、放電容量が低くなる。
これに対して、実施例1〜11のように、コアの前駆体を作製する場合に、原液1と原液2のMnの比率を制御することにより、Mnについて原子レベルでの均一性の乱れ方が適切になり、充電末状態のF(003)/F(104)と放電末状態のF(003)/F(104)の比率(結晶の異方性ひずみの変化の度合い)が0.9〜1.1の間になり、放電容量が高くなると推定される。
【0110】
比較例5及び6は、コアのNi/Meモル比が0.4未満であり、放電容量が低く、比較例7及び8は、コアのNi/Meモル比が0.8を超え、放電容量は高いが、容量維持率が小さい。
また、比較例9〜11は、表面層における最表面のNi/Meモル比が0.4を超え、比較例12及び13は、0.1未満であり、いずれも、放電容量は高いが、容量維持率が小さい。
これに対して、実施例1〜11のように、コアのNi/Meモル比が0.4〜0.8、表面層における最表面のNi/Meモル比が0.1〜0.4のリチウム遷移金属複合酸化物を、正極活物質とすることにより、放電容量が高くなり、容量維持率も大きくなる。
【0111】
(符号の説明)
1 リチウム二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の新規なリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いることにより、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を提供することができるので、このリチウム二次電池は、ハイブリッド自動車用、電気自動車用のリチウム二次電池として有用である。
図1
図2
図3