(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合工程では、前記セメントクリンカーと前記スラリーと石膏とを含む前記配合物を粉砕して前記セメント組成物を得る、請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
前記スラリーは、固形分として、亜硫酸カルシウムの半水和物、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩及び重亜硫酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種と、硫酸カルシウムの二水和物、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市販されている亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩は高価であるため、市販品を用いるとセメント組成物の製造原価が上がってしまう。一方で、特許文献1のように、セメント系固化材に還元性せっこう組成物を用いることは、固化処理土からの六価クロムの溶出低減に有効ではあるものの、還元性せっこう組成物を生産することが必要である。そこで、本開示では、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物を簡便に製造することが可能なセメント組成物の製造方法及び製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るセメント組成物の製造方法は、セメントクリンカーと、亜硫酸塩を含むスラリーと、を配合して粉砕し、セメント組成物を得る混合工程を有する。この製造方法では、亜硫酸塩を含むスラリーをセメントクリンカーに配合して粉砕しセメント組成物を得るものであることから、簡便にセメント組成物を製造することができる。そして、このセメント組成物は亜硫酸塩を含むことから、固化材として用いた場合であっても六価クロムの溶出を低減することができる。
【0008】
混合工程では、石膏を配合してセメント組成物を得ることが好ましい。これによって、セメント組成物の組成を容易に調整することができる。
【0009】
スラリー中の固形分の割合は0.1〜90質量%であることが好ましい。これによって、スラリーの取り扱い性を良好に維持できるとともに、セメントクリンカーに適量の水分が混合されることとなり粉砕を円滑にすることができる。また、これによって、セメント組成物中に含まれる石膏が過度に半水石膏化することを抑制し、流動性及び強度発現性に優れ、長期間貯蔵しても固結し難いセメント組成物を製造できる。
【0010】
スラリーに含まれる亜硫酸塩は亜硫酸カルシウムを含むことが好ましい。また、スラリーは、固形分として、亜硫酸カルシウムの半水和物、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩及び重亜硫酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種と、硫酸カルシウムの二水和物、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含有することが好ましい。このような成分を含有することによって、六価クロムの溶出を一層低減することが可能なセメント組成物とすることができる。
【0011】
スラリーは、亜硫酸カルシウム及び重亜硫酸カルシウムの少なくとも一方の塩を含み、セメント組成物を100質量部としたときに、スラリーを、当該塩を無水物に換算して、0.1〜20質量部の割合で配合することが好ましい。これによって、六価クロムの溶出を十分に低い水準に維持しつつ粉砕を十分に円滑に行うことができる。
【0012】
スラリーは、以下の(i)、(ii)、(iii)及び(iv)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。これによって、セメント組成物の製造コストを十分に低減することができる。
(i)火力発電所の石灰・石膏法による排煙脱硫工程から排出されるスラリー
(ii)水酸化マグネシウム法による脱硫工程から排出される亜硫酸マグネシウムを含む水溶液をカルシウムで処理して得られる亜硫酸塩を含むスラリー
(iii)アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方を含有する水溶性亜硫酸塩を含む工業廃水をカルシウムで処理して得られる亜硫酸塩を含むスラリー
(iv)セメントクリンカーを製造する際に発生する亜硫酸ガスを含む排ガスと、カルシウム化合物を含む原料スラリーとを接触させて得た亜硫酸塩等を含むスラリー
【0013】
上記(iv)のスラリーを得るスラリー調製工程はセメント工場で行うことが好ましい。これによって、亜硫酸塩を含むスラリーの調製を簡便にすることができる。また、セメント組成物の製造コストを十分に低減しつつ、セメント製造システムの簡略化を図ることができる。
【0014】
上記(iv)のスラリーを得るスラリー調製工程を有するセメント組成物の製造方法は、セメントキルン部の窯尻とプレヒータ部のボトムサイクロンとの間のガスを抽気して排ガスを得る、抽気工程を有することが好ましい。これによって、既存のセメントクリンカー製造設備におけるバイパス部を活用して、亜硫酸塩を含むスラリーを調製することができる。ただし、本開示は、セメントクリンカーの製造設備を新設することを排除するものではない。
【0015】
上記(iv)のスラリーを得るスラリー調製工程を有するセメント組成物の製造方法は、排ガスを原料スラリーと接触させる前に、排ガスを冷却して、塩素化合物を含むダスト粒子を得る冷却工程と、集塵部で排ガスからダスト粒子の少なくとも一部を除去して、排ガスを得る集塵工程と、を有することが好ましい。これによって、不要な成分が低減されたスラリーを効率良く製造することができる。
【0016】
本開示の一側面に係るセメント組成物の製造システムは、セメントクリンカーと、亜硫酸塩を含むスラリーと、を配合して粉砕しセメント組成物を製造する混合部を備える。この製造システムでは、亜硫酸塩を含むスラリーをセメントクリンカーに配合して粉砕しセメント組成物を得る混合部を備えることから、簡便にセメント組成物を製造することができる。そして、このセメント組成物は亜硫酸塩を含むことから、固化材として用いた場合であっても六価クロムの溶出を低減することができる。
【0017】
上記製造システムは、硫黄分を含む原料を焼成してセメントクリンカーを得るセメントキルン部と、サイクロンを備え、原料とセメントキルン部からの排ガスとを接触させて原料を予熱するプレヒータ部と、セメントキルン部の窯尻とプレヒータ部のボトムサイクロンとの間から亜硫酸ガスを含む排ガスを抽気するバイパス部と、排ガスとカルシウム化合物を含む原料スラリーとを接触させて、亜硫酸カルシウムを含むスラリーを得るスラリー調製部と、を備えることが好ましい。これによって、既存のセメントクリンカーの製造設備を活用することが可能となり、セメント組成物の製造コストを十分に低減しつつ、設備構成の簡略化を図ることができる。ただし、本開示は、セメントクリンカーの製造設備を新設することを排除するものではない。
【0018】
上記製造システムは、セメントキルン部からの排ガスを冷却して凝集する塩素化合物を含むダスト粒子を生成する冷却部と、排ガスに含まれるダスト粒子の少なくとも一部を除去して、亜硫酸ガスを含む排ガスを得る集塵部と、を備えることが好ましい。これによって、不要な成分が低減されたスラリーを効率良く製造することができる。
【0019】
上記製造システムは、セメントクリンカーのクロム含有量に応じて、セメントクリンカーに対するスラリーの配合比を調整する制御部を有することが好ましい。これによって、六価クロムの溶出を十分に低減しつつ、亜硫酸塩を含むスラリーを有効活用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物を簡便に製造することが可能なセメント組成物の製造方法及び製造システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
本開示の一実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、セメントクリンカーと、亜硫酸塩を含むスラリーと、を配合して粉砕し、セメント組成物を得る混合工程を有する。一例として、混合工程では、セメントクリンカーと亜硫酸塩を含むスラリーを配合した後、得られた配合物を粉砕してセメント組成物を得てもよい。別の例として、混合工程では、セメントクリンカーと亜硫酸塩を含むスラリーの配合と粉砕を同時に行ってもよい。さらに別の例として、混合工程では、セメントクリンカーをある程度粉砕した後、亜硫酸塩を含むスラリーを配合し、得られた配合物をさらに粉砕してもよい。
【0024】
亜硫酸塩を含むスラリー(以下、「亜硫酸塩スラリー」と称することもある。)は、亜硫酸塩として例えば亜硫酸カルシウムを含む。このよう亜硫酸塩スラリーは、石炭、石油、石炭コークス、石油コークス等の硫黄含有燃料の燃焼排ガスに含まれる硫黄酸化物(SO
2、SO
3等)と、カルシウム化合物を含む原料スラリーとを、接触させて得ることができる。接触の方法は特に限定されず、例えば、原料スラリー中において、燃焼排ガスをバブリングさせることによって両者を接触させてもよい。本開示におけるスラリー(亜硫酸塩スラリー及び原料スラリー)は、粒状と固体と水を主成分とする液体とを含む。本開示のスラリーは懸濁液であってもよいし、流動性が汚泥の同程度の流体であってもよい。
【0025】
硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスは、硫黄含有燃料を燃焼する炉から得られる、そのような炉としては、石炭火力発電所及び石油火力発電所等の火力発電所に設置されるボイラ、並びにセメントキルン等が挙げられる。火力発電所において、石灰・石膏法による排煙脱硫工程によって亜硫酸塩スラリーを得てもよい。ただし、亜硫酸塩スラリーを得る手段は、上述のものに限定されない。
【0026】
例えば、セメントキルン部からの排ガスには硫黄を含む原料から発生する硫黄酸化物が含まれている。そのため、セメントキルン部からの排ガスを原料スラリーと接触させることで亜硫酸塩スラリーを効率良く製造することができる。特に、セメントキルン部の窯尻から仮焼炉の間のガスには硫黄酸化物が多く含まれるため、この間の排ガスを利用すれば、亜硫酸塩を多く含む亜硫酸スラリーを十分に高い効率で製造することができる。セメントキルン部の窯尻から仮焼炉にかけての排ガスを抽気する設備として塩素バイパスが設置されていることが多い。したがって、塩素バイパスからガスを抽気して排ガスを得る抽気工程を行って、排ガスと原料スラリーとを接触させれば好適な亜硫酸スラリーを得ることができる。
【0027】
また例えば、水酸化マグネシウム法による脱硫工程から排出される亜硫酸マグネシウムを含む水溶液をカルシウムで処理して亜硫酸塩スラリーを得てもよい。また、化学工場等で発生するアルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方を含有する水溶性亜硫酸塩を含む工業廃水を、カルシウムで処理して亜硫酸塩スラリーを得てもよい。このようにして得られる亜硫酸塩スラリーの一種を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
原料スラリーは、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウム等のカルシウム化合物を含んでよい。原料スラリーはカルシウム化合物以外の成分を含んでもよい。そのような成分としては、例えば、水酸化マグネシウムが挙げられる。原料スラリーにおけるカルシウム化合物の含有量は、硫黄含有燃料の燃焼排ガスの流量、燃焼排ガスにおける硫黄酸化物の濃度、吸収設備の大きさ等を考慮して調整することができる。原料スラリーの流動性を良好に維持する観点から、原料スラリーにおける固形分の濃度は、例えば1〜90質量%であってよい。
【0029】
亜硫酸塩スラリーに含まれる亜硫酸塩としては、亜硫酸カルシウム及び亜硫酸マグネシウムが挙げられる。亜硫酸カルシウムとしては、亜硫酸カルシウム半水和物、及び亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩が挙げられる。亜硫酸塩スラリーにおける亜硫酸塩(無水物換算)の含有量は、固形分全体に対して、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。亜硫酸塩スラリーは亜硫酸塩成分以外の成分を含んでもよい。そのような成分として、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム及び硫酸カルシウム等が挙げられる。硫酸カルシウムは、二水和物(二水石膏)、半水和物(半水石膏)、及び無水物(無水石膏)のいずれを含んでもよい。亜硫酸塩スラリーが硫酸カルシウムを適量含有する場合、混合工程における石膏の配合を低減又は省略することができる。亜硫酸塩スラリーにおける硫酸カルシウム・二水和物の含有量は、固形分全体に対して例えば30質量%以下である。上述の各成分を好適な範囲で含む亜硫酸塩スラリーとする観点から、そのpHは3.0〜11.0であることが好ましく、4.0〜9.0がより好ましく、5.0〜7.0がさらに好ましい。
【0030】
亜硫酸塩スラリー中の固形分の割合は、例えば0.1〜90質量%であり、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは3〜50質量%であり、さらに好ましくは5〜40質量%である。このような範囲であれば、亜硫酸塩スラリーの取り扱い性を高水準に維持しつつ、亜硫酸塩スラリーとセメント組成物との混合を十分に均一にすることができる。
【0031】
セメントクリンカーは、その種類に特に制限はなく、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントのいずれであってもよい。本実施形態のセメント組成物によれば、十分に六価クロムの溶出を抑制できる。セメントクリンカーの全クロム量は、例えば、20mg/kg〜250mg/kgであってもよく、80mg/kg〜200mg/kgであってもよく、100〜150mg/kgであってもよい。セメント協会標準試験方法I−51−1981記載の方法に準拠して測定されるセメントクリンカーの水溶性六価クロムの量は、例えば、3〜40mg/kgであってもよく、10〜40mg/kgであってもよく、20〜30mg/kgであってもよい。
【0032】
本実施形態の製造方法で製造されるセメント組成物は、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定のポルトランドセメントにすることができる。このようなポルトランドセメントとして、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。更に、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカ質から選ばれる少なくとも1種を加えて混合セメントにしてもよい。
【0033】
混合工程では、セメントクリンカー、亜硫酸塩スラリー及び石膏を配合して粉砕しセメント組成物を得てもよい。配合される石膏は、二水石膏、半水石膏及び無水石膏のいずれの形態であってよい。各形態の石膏は単独で配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。セメントクリンカー、亜硫酸塩スラリー及び石膏の配合の順序は特に制限されず、これらのうちの2種を先に配合した後に残りの1種を配合してもよいし、3種を同時に配合してもよい。石膏の配合量は、セメントクリンカーに対して、SO
3換算で3〜10質量%程度としてよい。
【0034】
混合工程における粉砕は、ボールミル、又は竪型ミル等の仕上げミルで行ってよい。仕上げミルには、セメントクリンカー、亜硫酸塩スラリー、石膏、及び粉砕助剤等を投入し、粉砕しながら混合することでセメント組成物を製造する。このようにして得られるセメント組成物には、亜硫酸塩が含まれる。したがって、セメント組成物における六価クロムの含有量を低減することができる。セメント組成物における亜硫酸塩の含有量は、例えば0.1〜15質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0035】
粉砕処理して得られるセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2500〜6000cm
2/gであり、より好ましくは3000〜5000cm
2/gである。ブレーン比表面積が2500cm
2/g以上であれば、優れた強度発現性を達成しやすくなる。他方、ブレーン比表面積が6000cm
2/g以下であれば、コンクリート又は固化材スラリーとして使用したときの粘性を好適な範囲に制御しやすい。
【0036】
セメント組成物に含まれる石膏の形態は、二水石膏又は無水石膏(II型)であることが好ましい。セメント組成物に含まれる石膏のうち、半水石膏の割合は二水石膏と無水石膏の合量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
本実施形態の製造方法は、各種設備から発生する排ガスに含まれる亜硫酸塩を含む亜硫酸塩スラリーを、そのままセメントクリンカーに配合できることから、大規模な新規設備の設置をしなくても六価クロムの溶出を低減できるセメント組成物を簡便に製造することができる。亜硫酸塩スラリーは排ガスの脱硫にも寄与し、また、亜硫酸塩を乾燥させることなくスラリーのまま用いることから、脱硫及びセメント組成物の製造の一連のプロセスを簡素化することができる。また、セメント組成物の粉砕時における注水の代わりに亜硫酸塩スラリーを使用できること、及び、既存設備を活用して亜硫酸塩成分とセメントクリンカーとを均一に混合できることから、製造工程の短縮及び設備の簡素化のみならず、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物の製造コストを大幅に削減できるという利点がある。
【0038】
本実施形態のセメント組成物の製造方法は、以下に説明するセメント組成物の製造システムを用いて行ってもよいし、それ以外のセメント組成物の製造システムを用いて行ってもよい。本実施形態のセメント組成物の製造方法には、以下に説明するセメント組成物の製造システムについての説明内容が適用可能である。
【0039】
本開示の一実施形態に係るセメント組成物の製造システムは、セメントクリンカーと、亜硫酸塩を含むスラリーと、を配合して粉砕しセメント組成物を製造する混合部を備える。この製造システムは、セメントクリンカーの製造装置を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。亜硫酸塩を含む亜硫酸塩スラリーは、硫黄含有原料を用いるセメントクリンカーの製造装置、又は火力発電所等から排出される排ガスとCa系スラリーとを接触して得られるものであってよい。
【0040】
図1は、セメント組成物の製造システムの一例を示す図である。セメント組成物の製造システム100は、硫黄分を含む原料を焼成してセメントクリンカーを生産するセメントキルン部10及び排ガスを抽気するバイパス部12を有するセメントクリンカー製造装置70と、バイパス部12から抽気された排ガスを冷却して凝集する塩素化合物を含むダスト粒子を生成する冷却部17と、排ガスに含まれるダスト粒子の少なくとも一部を除去して、亜硫酸ガスを含む排ガスを得る集塵部19と、排ガスとカルシウム化合物を含む原料スラリーとを接触させて、亜硫酸塩として亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸塩スラリーを得るスラリー調製部30と、を備える。
【0041】
セメントクリンカー製造装置70は、複数のサイクロンを備える、硫黄分を含む原料とセメントキルン部10からの排ガスとを接触させて原料を予熱するプレヒータ部(不図示)と、セメントキルン部10の窯尻とプレヒータ部のボトムサイクロン(最下部にあるサイクロン)又は仮焼炉との間から亜硫酸ガスを含む排ガスを抽気するバイパス部12と、を備える。 このバイパス部12は、セメントクリンカー製造装置70の塩素バイパス部であってよい。
【0042】
セメントキルン部10では、石炭、及び石油コークス等が燃焼し、二酸化硫黄を含む排ガスが発生する。セメントキルン部10の窯尻とボトムサイクロン又は仮焼炉(図示せず)の間に、バイパス部12を構成する抽気管から抽気したガスを排ガスとして用いる。このバイパス部12からの排ガス中の二酸化硫黄の濃度は、体積基準(標準状態)で、例えば100〜5000ppm程度であってよい。バイパス部12から排ガスが抽気される(抽気工程)。抽気された排ガスは、冷却部17によって例えば100〜200℃程度に冷却される(冷却工程)。冷却部17における冷却は、排ガスに外気(空気)等を混ぜることによって行ってもよいし、冷却水又は空気等との熱を用いたクーラーによって行ってもよい。
【0043】
排ガスを冷却することによって、排ガスに元々含まれるダスト粒子の表面に揮発性の塩素化合物等が凝集する。このようなダスト粒子の少なくとも一部は、集塵部19によって取り除かれる(集塵工程)。集塵部19は、例えばバグフィルタを有する。排ガスがダスト粒子を含んでいてもよい場合は、集塵部19をバイパスしてもよい。
【0044】
集塵部19においてダスト粒子の少なくとも一部が取り除かれた排ガスは、スラリー調製部30に導入される。スラリー調製部30は、例えば、カルシウム化合物を含む原料スラリーを貯留するバブリング槽を備える。原料スラリー中に排ガスを導入してバブリングさせることによって両者を接触させる(スラリー調製工程)。これによって、二酸化硫黄が原料スラリーに取り込まれて、亜硫酸塩スラリーを得ることができる。また、大気中への放出が規制される二酸化硫黄の有効利用を図ることができる。このようにスラリー調製部30は、排煙脱硫部としても機能する。なお、原料スラリーと排ガスの接触手段はバブリングに限定されるものではない。
【0045】
スラリー調製部30には、空気を導入してもよい。これによって、亜硫酸カルシウムの一部を酸化して硫酸カルシウムの二水和物を得てもよい。これによって、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムの二水和物とを含む亜硫酸塩スラリーを得ることができる。亜硫酸塩スラリーが硫酸カルシウムの二水和物を含有することによって、配合部51における石膏の配合量を低減又はなくすことができる。ただし、亜硫酸塩スラリーにおける固形分全体に対する亜硫酸塩の含有量(無水物換算)は、10質量%以上であることが好ましい。
【0046】
スラリー調製部30で得られた亜硫酸塩スラリーと、セメントクリンカーは、混合部50における配合部51に導入される。セメントクリンカーは、一旦サイロ18に貯留されたものであってもよいし、セメントキルン部10で得られたものをそのまま用いてもよい。亜硫酸塩スラリーは、送液部を経由して配合部51に導入される。
【0047】
配合部51では、必要に応じて石膏を配合してもよい。亜硫酸塩スラリーは、亜硫酸カルシウム及び重亜硫酸カルシウムの少なくとも一方の塩を含んでよい。この場合、セメントクリンカー100質量部に対する亜硫酸塩スラリーの配合比は、上記塩の無水物換算で、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.15〜15質量部であり、さらに好ましくは0.2〜10質量部であり、特に好ましくは0.25〜5質量部である。これによって、得られるセメント組成物における亜硫酸塩の含有量を維持しつつ、配合物の粉砕を円滑に行うことができる。セメントクリンカー100質量部に対する石膏の配合比は、SO
3換算で1.5〜20質量部程度であってよい。
【0048】
セメントクリンカー、亜硫酸塩及び石膏を含む配合物は、仕上げミル52に導入される。仕上げミル52は、ボールミルであってよいし竪型ミルであってもよい。仕上げミル52は、粉砕時の摩擦熱により温度が上昇する傾向にある。仕上げミル52内部の温度が過剰に上昇しないように仕上げミル52内に散水することが行われる。したがって亜硫酸塩スラリーが水分を含むことによって、仕上げミル52内の過剰な温度上昇を抑制することができる。このため、亜硫酸塩をスラリー状で配合することは、仕上げミル52内への散水量の低減にも寄与する。
【0049】
仕上げミル52の温度は、好ましくは20℃〜180℃であり、より好ましくは40℃〜130℃であり、さらに好ましくは70℃〜110℃である。仕上げミル52の温度が80℃よりも低くなると、亜硫酸塩スラリーの水分がセメント組成物と水和反応を起こす傾向がある。一方、180℃を超えると、亜硫酸カルシウムが酸化されて硫酸カルシウムに変化する傾向がある。すなわち、仕上げミル52を上述の温度範囲にすることによって、亜硫酸カルシウムの酸化を抑制しつつ、配合物の乾燥が十分な速度で進行する。また、セメントクリンカー、亜硫酸カルシウム及び石膏を十分均一に混合することができる(混合工程)。
【0050】
このようにして得られる、六価クロムの溶出量を低減することが可能なセメント組成物は、サイロ60に収容して保管してもよい。本例では、混合部50は、配合部51と仕上げミル52を備えるが、これに限定されない。例えば、本例の変形例では、セメントクリンカー、亜硫酸塩スラリー及び必要に応じて配合される石膏は、仕上げミル52に直接投入され、仕上げミル52で配合及び粉砕を行ってもよい。また、セメントクリンカーと石膏を配合部51で配合し、配合部51から仕上げミル52に得られた配合物を搬送するベルトコンベア上において、配合物に亜硫酸塩スラリーを散布し、仕上げミル52で粉砕を行ってもよい。
【0051】
別の変形例では、セメントキルン部10から導出されるセメントクリンカーのクロム含有量に応じて、セメントクリンカーに対する亜硫酸塩スラリーの配合比を調整する制御部を備えていてもよい。セメントクリンカーのクロム含有量は、所定の頻度でサイロ18からサンプリングして計測してもよいし、セメントクリンカー製造装置70に導入される原料に含まれるクロム含有量から計算で求めてもよい。
【0052】
制御部は、上述のようにして求められるセメントクリンカーのクロム含有量の入力値に基づいて、セメントクリンカーに配合される亜硫酸塩スラリーの量を算出する。制御部は、セメントクロム含有量と亜硫酸塩スラリーの配合量の関係を示すテーブルデータを有していてもよいし、両者の相関式データを有していてもよい。制御部は、このようなデータを用いて亜硫酸塩スラリーの配合量を算出する。制御部は算出結果に基づいて、例えば、亜硫酸塩スラリーの流量を調節する流量調節弁の制御を行う。このようにして、セメントクリンカーに対する亜硫酸塩スラリーの配合比を調整することができる。このような制御は、流動性を有するスラリーであるために容易に実現することができる。
【0053】
セメント組成物の製造システム100及びその変形例は、既存のセメントクリンカーの製造装置を用いれば、大がかりな新規設備の設置をせずに、六価クロムの溶出が低減できるセメント組成物を製造することができる。亜硫酸塩スラリーの製造と、排ガスの脱硫を併せて行うことが可能であるうえに、スラリーの脱水設備等を設けたり、脱水後の固形物用の専用タンク、計量機、輸送設備を設けたりすることが必要ではなくなる。このため、設備の導入コスト及び運転コストを十分に低減することができる。
【0054】
図2は、セメント組成物の製造システムの別の例を示す図である。
図2の製造システム110は、セメントクリンカー製造装置70からの排ガスに代えて、ボイラ40の排ガスを使用している点で、
図1の製造システムと異なっている。その他の点は、
図1の製造システム100と同じである。ここでは、製造システム100とは異なる点を中心に説明する。
【0055】
ボイラ40は、例えば火力発電所に備えられるボイラである。ボイラ40からの排ガスには二酸化硫黄が含まれる。排ガスは、スラリー調製部30Aに導入される。スラリー調製部30Aは、スラリー調製部30と同様の構成及び機能を有する。したがって、スラリー調製部30Aにおいて、二酸化硫黄が原料スラリーに取り込まれて、亜硫酸塩スラリーを得ることができる。また、大気中への放出が規制される二酸化硫黄の有効利用を図ることができる。
【0056】
ボイラ40が、セメントクリンカー製造装置70及び粉砕設備から離れて設置されている場合、ボイラ40からの排ガスと原料スラリーとを接触させて得られる亜硫酸塩スラリーを、パイプライン、タンクローリー車、又は船で搬送してもよい。
【0057】
セメント組成物の製造システム110であれば、排ガスに含まれる二酸化硫黄を活用して、六価クロムの溶出が低減できるセメント組成物を製造することができる。
【0058】
本実施形態のセメント組成物の製造システムは、上述したセメント組成物の製造方法を用いて行ってもよいし、それ以外のセメント組成物の製造方法を行ってもよい。本実施形態のセメント組成物の製造システムにも、上述したセメント組成物の製造方法についての説明内容が適用可能である。
【0059】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
実施例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
市販のCaCO
3粉末と水とを配合して、固形分の割合が3質量%である原料スラリー(0.4L)を調製した。セメントクリンカー製造装置の塩素バイパス部から抽気ガスを採取した。採取した抽気ガスは、約200℃まで冷却した後、バグフィルタでダスト粒子を除去した。ダスト粒子除去後の抽気ガスにおける二酸化硫黄の濃度は1500ppm(体積基準)であった。この抽気ガスを、原料スラリー中に吹き込んでバブリングさせ、抽気ガス中の硫黄酸化物を原料スラリーに吸収させた。これによって、亜硫酸カルシウムを含有する亜硫酸塩スラリーが得られた。得られたスラリーの固形分の割合は約10質量%であった。
【0062】
亜硫酸塩スラリーの濾過を行った固形分を回収した。回収した固形分を約40℃の空気雰囲気下で乾燥させた。X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、加速電圧:30kV、電流:10mA、管球:Cu)を用いて、得られた固形分のX線パターンを測定した。X線パターンは、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Topas(R))を用いてリートベルト解析を行い、CaCO
3、Ca(OH)
2、CaSO
3・0.5H
2O、及びCaSO
4・2H
2Oを定量した。分析結果は表1に示すとおりであった。
【0063】
(実施例2)
CaCO
3粉末に代えて、Ca(OH)
2粉末を用いて原料スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして亜硫酸塩スラリーを得た。実施例1と同様にして、得られた亜硫酸塩スラリーのX線回折を行った。分析結果は表1に示すとおりであった。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すとおり、実施例1、2において、亜硫酸カルシウム半水和物が、それぞれ9質量%、23質量%検出された。この結果から、亜硫酸を含む排ガスを接触させた後の亜硫酸塩スラリーには、亜硫酸カルシウムが含まれることが確認された。このようにして得られた亜硫酸塩スラリーを、混合工程に用いることで、六価クロムの溶出を低減することが可能なセメント組成物を製造することができる。