(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中間伝達部材は、円筒状の中間筒部を備え、前記中間伝達歯は、前記中間筒部の径方向内側に配置され、前記隔壁部は、前記中間筒部の径方向内側に配置されて、前記中間筒部の径方向内側に存在する空間を軸方向に2分割する、請求項1〜3のいずれかに記載のトルク伝達用継手。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウォーム歯とウォームホイールとの間のバックラッシュを抑える構造では、出力軸に対するウォームの揺動変位を許容する必要がある。このため、出力軸の先端部とウォームの基端部との結合部の構造は、出力軸とウォームとの間のミスアライメント(傾きや軸心ずれなど)を適正に許容できることが望ましい。
【0007】
このような結合部の構造として、ウォームのスプライン孔と出力軸のスプライン軸部とのスプライン係合に代替して、たとえば、トルク伝達用継手を介して、出力軸の先端部とウォームの基端部とをトルク伝達可能に接続する構造が考えられる。このトルク伝達用継手を用いた結合部の構造では、出力軸の先端部に固定される一方の端部伝達部材と、ウォームの基端部に固定される他方の端部伝達部材とが、中間伝達部材を介してトルク伝達を可能に接続される。この構造では、一方の端部伝達部材と中間伝達部材との間で許容されるミスアライメントと、他方の端部伝達部材と中間伝達部材との間で許容されるミスアライメントとの和が、出力軸とウォームとの間で許容されるミスアライメントになる。このため、出力軸とウォームとの間のミスアライメントを適正に許容することができる。ただし、この構造を実用化する際には、一方の端部伝達部材および他方の端部伝達部材に対する中間伝達部材の軸方向位置を規制する手段を設けることが望まれる。
【0008】
本発明の目的は、駆動軸と被駆動軸との間のミスアライメントを適正に許容することができ、しかもトルクの伝達方向に関して中間に位置する中間伝達部材の軸方向位置を規制することができるトルク伝達用継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトルク伝達用継手は、中間伝達部材と、1対の端部伝達部材とを備える。
【0010】
前記中間伝達部材は、周方向複数箇所に配置された複数の中間伝達歯を有する。
【0011】
前記1対の端部伝達部材は、前記中間伝達部材の軸方向両側に配置され、該1対の端部伝達部材のそれぞれは、周方向複数箇所に配置された複数の端部伝達歯を有する。
【0012】
前記1対の端部伝達部材が前記中間伝達部材の軸方向両側に配置された状態で、前記端部伝達歯と前記中間伝達歯とは、周方向に関して交互に配置される。
【0013】
前記中間伝達部材は、該中間伝達部材の径方向に伸長し、前記1対の端部伝達部材のそれぞれの軸方向内端部と軸方向に対向する、隔壁部を有する。
【0014】
前記隔壁部は、前記中間伝達部材の軸方向中間部に配置されることができる。
【0015】
前記隔壁部は、前記中間伝達部材の中心軸に対して直交し、かつ、厚さ寸法が一定である板状であることができる。
【0016】
一態様では、前記中間伝達部材は、円筒状の中間筒部を備え、前記中間伝達歯は、前記中間筒部の径方向内側に配置され、前記隔壁部は、前記中間筒部の径方向内側に配置されて、前記中間筒部の径方向内側に存在する空間を軸方向に2分割することができる。
【0017】
この態様では、追加的に、前記隔壁部は、前記中間伝達歯よりも径方向内側に位置する径方向中央部に、軸方向両側に向けて突出する1対の突出部を有することができる。代替的に、前記隔壁部は、径方向中央部に、円形の通孔を有することができる。
【0018】
本発明のトルク伝達用継手は、追加的に、前記中間伝達部材に組み付けられ、周方向複数箇所に配置された前記複数の端部伝達歯が軸方向に挿通する挿通孔を有する、弾性部材を備えることができる。
この場合、前記中間伝達部材は、その軸方向両側部の径方向中間部に、軸方向両側面に開口する周方向凹部を有し、前記弾性部材は、その径方向外端部または径方向内端部のいずれかに、軸方向内側に突出した周方向凸部を有し、前記周方向凹部に対して、前記周方向凸部が圧入されている。
【0019】
また、この場合、前記挿通孔を軸方向に挿通した前記端部伝達歯と前記中間伝達歯とは、周方向に関して交互にかつ周方向隙間を介して配置される。前記挿通孔の周方向両側縁同士の周方向間隔は、前記複数の中間伝達歯のうちの隣り合う中間伝達歯同士の周方向間隔よりも小さい。
【0020】
本発明の電動式パワーステアリング装置は、ハウジングと、ウォームホイールと、ウォームと、電動モータとを備える。
【0021】
前記ウォームホイールは、前記ハウジングに対し回転自在に支持されている。
【0022】
前記ウォームは、前記ウォームホイールに噛合した状態で、前記ハウジングに対し回転自在に支持されている。
【0023】
前記電動モータは、前記ウォームを回転駆動するための出力軸を有する。
【0024】
特に、本発明の電動式パワーステアリング装置は、前記電動モータの出力軸と前記ウォームとの間に、前記電動モータの出力軸と前記ウォームとをトルク伝達を可能に接続する、トルク伝達用継手を備える。
【0025】
該トルク伝達用継手は、本発明のトルク伝達用継手により構成される。前記1対の端部伝達部材のうちの一方の端部伝達部材は、前記電動モータの出力軸の先端部に固定または一体に形成されている。前記1対の端部伝達部材のうちの他方の端部伝達部材は、前記ウォームの基端部に固定または一体に形成されている。
【0026】
本発明の電動式パワーステアリング装置では、前記ウォームが前記電動モータの出力軸に対して揺動可能であり、かつ、前記ウォームの先端部と前記ハウジングとの間に、前記ウォームを前記ウォームホイールに向けて付勢する付勢機構を備えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトルク伝達用継手および電動式パワーステアリング装置によれば、駆動軸と被駆動軸との間のミスアライメントを適正に許容することができ、しかもトルクの伝達方向に関して中間に位置する中間伝達部材の軸方向位置を規制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1〜
図11を用いて説明する。本例の電動式パワーステアリング装置は、ハウジング3と、ハウジング3に対し回転自在に支持されているウォームホイール4と、ウォームホイール4と噛合した状態で、ハウジング3に対し回転自在に支持されているウォーム7aと、ウォーム7aを回転駆動するための出力軸12aを有する電動モータ6とを備える。ハウジング3は、後端部にステアリングホイール1が取り付けられたステアリングシャフト2の前端部(
図14および
図15参照)を、回転可能に支持する。ウォームホイール4は、ステアリングシャフト2により回転駆動される部分に固定される。より具体的には、ウォーム7aは、ウォームホイール4と噛合するウォーム歯5を軸方向中間部に有し、ウォーム7aの軸方向両端部は、深溝玉軸受などの1対の転がり軸受8、9により、ハウジング3内に回転可能に支持されている。
【0030】
ウォーム7aの先端部に外嵌された転がり軸受8と、ハウジング3との間には、コイルばね、板ばねなどの弾性体を含む付勢機構15が備えられている。付勢機構15の弾性体の弾力に基づいて、ウォーム7aのウォーム歯5は、ウォームホイール4に向けて、押圧あるいは付勢されている。このような構成により、ウォーム歯5とウォームホイール4との間のバックラッシュに起因する歯打ち音の発生が抑えられている。
【0031】
本発明の電動式パワーステアリング装置は、駆動軸となる電動モータ6の出力軸12aと被駆動軸となるウォーム7aとをトルク伝達を可能に接続するトルク伝達用継手16を備える。本例では、軸方向に関して互いに直列に配置された、電動モータ6の出力軸12aの先端部と、ウォーム7aの基端部とが、トルク伝達用継手16を介して結合されている。
【0032】
トルク伝達用継手16は、中間伝達部材17と、1対の端部伝達部材18と、弾性部材19とを備える。中間伝達部材17は、周方向複数箇所に配置された複数の中間伝達歯21を有する。1対の端部伝達部材18は、周方向複数箇所に配置された複数の端部伝達歯37を有する。1対の端部伝達部材18を構成する一方(
図2、
図4、
図5における右方)の端部伝達部材18は、出力軸12aに取り付けられる。他方(
図2、
図4、
図5における左方)の端部伝達部材18は、ウォーム7aの基端部に取り付けられる。1対の端部伝達部材18は、トルク伝達用継手16の軸方向外側から、中間伝達部材17の軸方向両側に、複数の端部伝達歯37と複数の中間伝達歯21とが、周方向に関して交互にかつ周方向隙間を介して配置される
、ように組み付けられる。中間伝達部材17は、一方の端部伝達部材18と他方の端部伝達部材18の間でトルクを伝達する機能を有する。弾性部材19は、ゴムおよびその他のエラストマーを含む弾性材料からなり、周方向複数箇所に配置され、複数の端部伝達歯37が軸方向に挿通する複数の挿通孔30を有する。弾性
部材19は、一方の端部伝達部材18と中間伝達部材
17の間、および、他方の端部伝達部材18と中間伝達部材17の間で、緩衝機能を発揮する。
【0033】
以下の説明において、トルク伝達用継手16を構成するそれぞれの部材に関する軸方向の内外は、トルク伝達用継手16を組み立てた状態での、トルク伝達用継手16の軸方向中央部を基準とする。すなわち、トルク伝達用継手16の軸方向中央側が軸方向内側に相当し、トルク伝達用継手16の軸方向両側が軸方向外側に相当する。たとえば、1対の端部伝達部材18は、互いに軸方向内端部同士を対向させた状態で、トルク伝達用継手16の軸方向両外側から、1対の端部伝達部材18の軸方向内端部同士が近づき合う方向に中間伝達部材17に組み付けられて、中間伝達部材17の軸方向両外側に配置される。
【0034】
中間伝達部材17は、弾性部材19を構成する弾性材料に比べて弾性変形しにくい(剛性が高い)材料により、全体として円環状に構成されている。中間伝達部材17を構成する材料としては、布でゴムを強化したベルト材料、必要に応じて強化繊維を混入したPPS、PEEK、ポリアミドなどの合成樹脂、炭素鋼などの鉄合金、アルミニウム合金などの金属が挙げられる。中間伝達部材17は、これらの材料に、射出成形、鋳造、鍛造、焼結、切削などの加工を施すことにより形成される。
【0035】
本例では、
図9(a)〜
図9(C)に示すように、中間伝達部材17は、円筒状の中間筒部20と、複数個の中間伝達歯21と、隔壁部27とを有する。中間筒部20は、軸方向両側部の径方向中間部に、軸方向両側面に開口する周方向凹部22を有する。周方向凹部22は、中間伝達部材17の周方向、かつ、中間伝達部材17の全周にわたって伸長する。周方向凹部22の内面を構成する内径側周面23と外径側周面24とは、中間伝達部材17の中心軸を中心とする円筒面である。中間筒部20は、軸方向両側部の径方向外端部に、軸方向両側に突出した円筒状の覆い部25を有する。覆い部25の内周面は、周方向凹部22の外径側周面24とともに単一円筒面を構成する。
【0036】
本例では、中間伝達歯21は、中間筒部20の径方向内側の周方向等間隔となる複数箇所に放射状に配置され、中間伝達歯21のそれぞれの径方向外端部は、中間筒部20の内周面に結合されている。図示の例では、周方向に隣り合う1対の中間伝達歯21の互いに対向する周方向側面は、互いに平行な平面からなる。周方向に隣り合う1対の中間伝達歯21の間部分には、端部伝達部材18の端部伝達歯37が軸方向両側から挿入されて、中間伝達歯21と端部伝達歯37とが、周方向に関して交互に配置される。
【0037】
中間伝達歯21のそれぞれの軸方向外側面の周方向中央部には、軸方向に突出する係合凸部26が備えられている。係合凸部26は、軸方向から見た形状が、中間伝達部材17の放射方向に伸長する略矩形状である。係合凸部26のうちの周方向に関して1つ置きに配置された係合凸部26の径方向内側面の軸方向外半部には、径方向内方に張り出した爪部28が備えられている。なお、図示の例では、爪部28を備えている係合凸部26の円周方向位置が、中間伝達部材17の軸方向両側で互いに異なっている。
【0038】
隔壁部27は、中間伝達部材17の径方向に伸長する。本例では、隔壁部27は、中間伝達部材17の径方向内側に伸長する。より具体的には、隔壁部27は、中間筒部20の径方向内側に存在する空間(周方向に隣り合う1対の中間伝達歯21同士の間に挟まれた空間を含む)の軸方向中央部に配置され、該空間を軸方向に2分割する。隔壁部27は、中間筒部20の中心軸に対して直交し、かつ、厚さ寸法が一定の板状の部位であり、その外周部が中間筒部20および中間伝達歯21に結合されている。本例では、隔壁部27は、円盤状であり、隔壁部27の外周縁が中間筒部20の内周面に対して周方向にわたって結合している。なお、本発明を実施する場合、中間伝達部材の隔壁部は、端部伝達部材の軸方向内端部の少なくとも一部が隔壁部に対して軸方向に対向することが可能であれば、任意の形状および大きさを採用することができ、また、その軸方向位置も任意である。隔壁部の厚さ寸法は、中間伝達部材の軸方向位置を規制することが可能であれば、任意であるが、中間筒部20の軸方向長さの約1/15〜1/5に設定することができる。
【0039】
本例の弾性部材19は、1対の弾性部材19により構成される。1対の弾性部材19のそれぞれは、弾性材料により全体として円輪状に構成されている。弾性部材19を構成する弾性材料として、具体的には、NBR、HNBRなどのゴム、ポリウレタン、シリコンなどのエラストマーが挙げられる。本例では、1対の弾性部材19のそれぞれは、互いに同形および同大である。1対の弾性部材19は、中間伝達部材17の軸方向両側部に、対称に組み付けられている。
【0040】
図10(a)〜
図10(c)に示すように、1対の弾性部材19のそれぞれは、中間伝達歯21と同位相となる周方向複数箇所に、貫通孔である係合凹部29を有する。また、弾性部材19は、隣り合う1対の中間伝達歯21の間部分(歯間部)と同位相となる周方向複数箇所に、スリット状の挿通孔30を有する。本例の弾性部材19では、係合凹部29と挿通孔30とが、周方向に交互に配置される。
【0041】
係合凹部29は、軸方向から見た形状が弾性部材19の放射方向に伸長する略矩形状である。係合凹部29は、中間伝達歯21の軸方向外側面に備えられた係合凸部26と係合して、弾性部材19が中間伝達部材17に対し相対回転することを阻止する。
【0042】
弾性部材19のうち、係合凹部29の径方向内側部のうちの軸方向外側部には、係合凹部29を径方向内側に延長したような形状を有する除肉部が備えられている。係合凹部29の径方向内側部のうちの軸方向内側部には、周方向に伸長した係合梁31が備えられている。
【0043】
挿通孔30は、弾性部材19の放射方向に伸長し、かつ、弾性部材19の内周縁に開口する。挿通孔30には、端部伝達部材18の端部伝達歯37が軸方向外側から挿通する。
図6および
図7に示すように、挿通孔30の周方向両側縁同士の周方向間隔t
30は、隣り合う中間伝達歯21同士の周方向間隔T
21よりも小さくなっている(t
30<T
21)。
【0044】
弾性部材19は、挿通孔30のそれぞれの周方向両側縁の少なくとも一方の側縁の径方向一部に、周方向中央側に向けて突出する弾性突起32を備えることができる。本例では、挿通孔30の周方向両側縁の径方向外寄り部には、周方向中央側に向けて突出する弾性突起32が備えられている。この場合、周方向に対向する弾性突起32の先端面同士の周方向間隔が、挿通孔30の周方向両側縁同士の周方向間隔t
30に相当する。本例では、弾性突起32から径方向に外れた部分同士の間の周方向間隔に関しても、隣り合う中間伝達歯21同士の周方向間隔T
21よりも小さくなっている。弾性突起32の軸方向から見た形状は、凸円弧形である。挿通孔30の周方向両側縁のうち、弾性突起32から径方向に外れた部分は、互いに平行な平坦部となっている。
【0045】
本発明を実施する場合、弾性突起32の形状や形成位置は、図示の構造に限られない。たとえば、弾性突起32の軸方向から見た形状として、三角形や台形などの他の形状を採用することもできる。弾性突起は、挿通孔の周方向両側縁の径方向外寄り部に配置されることが好ましいが、たとえば挿通孔の周方向両側縁の径方向中央部に配置することもできる。弾性突起の数も、1個に限られず、複数個とすることもできる。弾性突起32を省略して、挿通孔の周方向両側縁のうちの一方または両方の全体を平坦部により構成することもできる。
【0046】
弾性部材19は、係合凹部29および挿通孔30よりも径方向外側に位置する径方向外端部に、軸方向内側に突出した周方向凸部33を有する。周方向凸部33は、弾性部材19の周方向に、かつ、弾性部材19の全周にわたって伸長する。
【0047】
1対の弾性部材19は、中間伝達部材17の軸方向両側部に対称に組み付けられて、中間伝達部材17と1対の弾性部材19との結合体35が構成される。結合体35が構成された状態では、1対の弾性部材19により、中間伝達部材17の両側の軸方向外側面は覆われる。
【0048】
結合体35が構成された状態において、中間伝達部材17の周方向凹部22の内側に、弾性部材19の周方向凸部33が圧入され、周方向凹部22の内径側周面23と周方向凸部33の内周面、および、周方向凹部22の外径側周面24と周方向凸部33の外周面が、いずれも弾性的に接触して強く摩擦係合する。また、中間伝達部材17の覆い部25に弾性部材19が締り嵌めで内嵌され、覆い部25の内周面と弾性部材19の外周面とが、弾性的に接触して強く摩擦係合する。これらの摩擦係合によって、中間伝達部材17に対する弾性部材19の軸方向外側への変位、並びに、中間伝達部材17と弾性部材19との分離の防止が図られている。さらに、弾性部材19の外周面が覆い部25により覆われるため、搬送中に、弾性部材19の外周面に他の物品がぶつかったり、引っ掛かったりすることに起因する、中間伝達部材17と弾性部材19との分離の防止が図られている。
【0049】
本発明を実施する場合には、たとえば、内径側周面23と周方向凸部33の内周面との間の周方向少なくとも1箇所に隙間が備えられた構造、外径側周面24と周方向凸部33の外周面との間の周方向少なくとも1箇所に隙間が備えられた構造、内径側周面23と外径側周面24とのうちの一方の周面にのみ、周方向凸部33の周面を弾性的に接触させた構造、覆い部25の内周面と弾性部材19の外周面との間に隙間が備えられた構造、周方向凸部33の周方向少なくとも1箇所に不連続部が備えられた構造なども、採用することもできる。
【0050】
弾性部材19の係合凹部29の内側に、中間伝達部材17の係合凸部26が挿入され係合することで、中間伝達部材17と弾性部材19との相対回転が阻止される。また、係合凸部26の径方向内側に備えられた爪部28が係合梁31の軸方向外側面に係合する。これにより、中間伝達部材17に対して弾性部材19が軸方向外側に変位することの防止、および、中間伝達部材17と弾性部材19との分離の防止が図られている。弾性部材19を中間伝達部材17に取り付けた状態で、スリット状の挿通孔30が、隣り合う中間伝達歯21の間部分と同位相となる位置に配置される。
【0051】
弾性部材19の軸方向外側面は、中間伝達部材17の両側の軸方向外側面のうち最も軸方向外側に位置する係合凸部26の先端面よりも、軸方向外側に位置する。すなわち、弾性部材19は、中間伝達部材17の両側の軸方向外側面よりも軸方向外側に張り出している。また、弾性部材19の内周面は、中間伝達部材17の中間伝達歯21の径方向内側面および爪部28の径方向内端縁よりも、径方向内側に位置している。すなわち、弾性部材19は、中間伝達部材17よりも径方向内側に張り出している。
【0052】
1対の端部伝達部材18のそれぞれは、全体として円環状に構成される。端部伝達部材18を構成する材料としては、必要に応じて強化繊維を混入したPPS、PEEK、ポリアミドなどの合成樹脂や、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金などの金属が挙げられる。端部伝達部材18は、これらの材料に、射出成形、鋳造、鍛造、焼結、切削などの加工を施すことにより形成される。本例では、1対の端部伝達部材18は、互いに同形および同大である。1対の端部伝達部材18は、中間伝達部材17と1対の弾性部材19との結合体35の軸方向両側部に係合する。
【0053】
図11(a)および
図11(
b)に示すように、1対の端部伝達部材18のそれぞれは、端部連結部である円筒状の端部筒部36と、複数個の端部伝達歯37とを有する。複数個の端部伝達歯37のそれぞれは、略矩形板状であり、端部筒部36の径方向外側の周方向等間隔となる複数箇所に放射状に配置されている。端部伝達歯37のそれぞれの径方向内端部は、端部筒部36の外周面に結合されている。トルク伝達用継手16を組み立てた状態で、1対の端部伝達部材18のそれぞれおよびその構成部分の軸方向内端部は、それぞれの端部伝達部材18のうち、トルク伝達用継手
16の軸方向中央側に位置する端部を意味し、その軸方向外端部は、トルク伝達用継手
16の軸方向両側に位置する端部を意味する。
【0054】
1対の端部伝達部材18のそれぞれの軸方向内端部から中間部までが、結合体35の軸方向両側部の径方向内側に挿入された状態で、一方(
図2、
図4、
図6、
図7における右方)の端部伝達部材18に備えられた端部伝達歯37は、一方の弾性部材19の挿通孔30に周方向のがたつきなく、好ましくは、周方向の締め代を有する状態で、係合する。また、他方(
図2、
図4、
図6、
図7における左方)の端部伝達部材18に備えられた端部伝達歯37は、他方の弾性部材19の挿通孔30に周方向のがたつきなく、好ましくは、周方向の締め代を有する状態で、係合する。また、
端部伝達歯37は、隣り合う中間伝達歯21同士の間に周方向隙間を介して係合する。すなわち、
図7に示すように、端部伝達歯3
7と中間伝達歯21との周方向側面同士の間に、第1の周方向隙間αが存在する。なお、本発明を実施する場合には、端部伝達歯37を弾性部材19の挿通孔30に対し、周方向隙間を介在させた状態で係合させることもできる。ただし、この場合にも、この周方向隙間よりも、前記周方向隙間αを大きくする。
【0055】
本例では、
図7に示すように、端部伝達歯37の先端面である径方向外端面と、挿通孔30の底面(内面の径方向外端部)との間に、径方向隙間βが介在し、端部伝達歯37の径方向外端面と、隣り合う中間伝達歯21の間部分の底面(中間筒部20の内周面)との間に、径方向隙間γが介在する。径方向隙間βは、径方向隙間γよりも小さい(β<γ)。また、隣り合う端部伝達歯37の間部分の底面(端部筒部36の外周面)と、弾性部材19の内周面との間に、径方向隙間εが介在し、隣り合う端部伝達歯37の間部分の底面と、中間伝達歯21の先端面である径方向内端面との間に、径方向隙間ηが介在する。径方向隙間εは、径方向隙間ηよりも小さい(ε<η)。
【0056】
本例では、この状態で、
図4および
図5に示すように、中間伝達部材17を構成する隔壁部27の軸方向両側面と、1対の端部伝達部材18のそれぞれの軸方向内端面(端部筒部36および端部伝達歯37の軸方向内端面)34とが、軸方向に対向する。
【0057】
本例のトルク伝達用継手16を電動式パワーステアリング装置に組み付けた状態で、一方の端部伝達部材18の端部筒部36は、出力軸12a(
図2参照)の先端部に対し、締め代を有する円筒面嵌合、締め代を有するスプライン嵌合、かしめなどのトルク伝達可能な構造により、外嵌固定されている。また、他方の端部伝達部材18の端部筒部36は、一方の端部伝達部材18と同様に、ウォーム7a(
図2参照)の基端部に外嵌固定されている。ただし、端部伝達部材18は、出力軸12aの先端部やウォーム7aの基端部に一体に形成することもできる。
【0058】
一方の端部伝達部材18の軸方向内端面34と出力軸12aの先端面(軸方向端面)38とが同一仮想平面上に配置され、他方の端部伝達部材18の軸方向内端面34とウォーム7aの基端面(軸方向端面)39とが同一仮想平面上に配置される。出力軸12aの先端面38およびウォーム7aの基端面39も、中間伝達部材17を構成する隔壁部27の軸方向両側面に対して軸方向に対向する。さらに、1対の端部伝達部材18の軸方向内端面34同士の間の軸方向距離(間隔)L
34は、中間伝達部材17を構成する隔壁部27の軸方向幅寸法(厚さ寸法)W
27よりも大きい(L
34>W
27)。本例では、1対の端部伝達部材18の軸方向内端面34によって、結合体35の軸方向位置が規制される。すなわち、結合体35は、1対の端部伝達部材18の軸方向内端面34同士の間で隔壁部27が軸方向に変位できる範囲でのみ、軸方向に変位することが可能である。
【0059】
本例の電動式パワーステアリング装置では、電動モータ6の出力軸12aとウォーム7aとの間で伝達されるトルクが比較的小さい場合には、出力軸12aの回転トルクは、一方の端部伝達部材18、一方の弾性部材19、中間伝達部材17、他方の弾性部材19、他方の端部伝達部材18、およびウォーム7aの順に伝達される。具体的には、出力軸12aの回転トルクは、一方の端部伝達部材18から一方の弾性部材19に、端部伝達歯37と挿通孔30との係合部を通じて伝達される。一方の弾性部材19に伝達されたトルクは、中間伝達部材17に、一方の弾性部材19の係合凹部29と中間伝達部材17の係合凸部26との係合部を通じて伝達される。中間伝達部材17に伝達されたトルクは、他方の弾性部材19に、中間伝達部材17の係合凸部26と他方の弾性部材19の係合凹部29との係合部を通じて伝達される。他方の弾性部材19に伝達されたトルクは、他方の端部伝達部材18およびウォーム7aに、挿通孔30と端部伝達歯37との係合部を通じて伝達される。
【0060】
これに対して、出力軸12aとウォーム7aとの間で伝達されるトルクが大きくなると、一方の弾性部材19の一部が、一方の端部伝達部材18の端部伝達歯37によって、周方向に弾性的に押し潰され、かつ、他方の弾性部材19の一部が、他方の端部伝達部材18の端部伝達歯37によって、周方向に弾性的に押し潰される。そして、一方の端部伝達部材18の端部伝達歯37および他方の端部伝達部材18の端部伝達歯37と、中間伝達部材17の中間伝達歯21との、それぞれの周方向側面同士が直接当接する。これらの当接の勢いは、一方の弾性部材19および他方の弾性部材19の弾性変形により弱められているため、当接に伴う異音の発生は抑えられる。この状態では、出力軸12aの回転トルクの大部分は、一方の端部伝達部材18から中間伝達部材17に直接伝達され、中間伝達部材17に伝達されたトルクの大部分は、中間伝達歯21から他方の端部伝達部材18に直接伝達される。また、残りのトルクは、上述したトルクが小さい場合と同様にして、出力軸12aからウォーム7aに伝達される。
【0061】
本例では、電動モータ6の出力軸12aの回転方向を反転させる際にも、一方の端部伝達部材18の端部伝達歯37および他方の端部伝達部材18の端部伝達歯37と、中間伝達部材17の中間伝達歯21との、それぞれの周方向側面同士の当接の勢いを、一方の弾性部材19および他方の弾性部材19の弾性変形により弱められるため、当接に伴う異音の発生が抑えられる。
【0062】
本例では、隣り合う1対の中間伝達歯21の互いに対向する周方向側面は、互いに平行な平面になっており、かつ、端部伝達歯37の周方向両側面も、互いに平行な平面になっている。ただし、本発明を実施する場合には、トルク伝達時に中間伝達歯21と端部伝達歯37との周方向側面同士が面で当接(面接触)しやすくなるように、周方向に隣り合う1対の中間伝達歯21の互いに対向する周方向側面同士を互いに傾斜させる構成と、端部伝達歯37の周方向両側面同士を互いに傾斜させる構成とのうちの、少なくとも一方の構成を採用することもできる。
【0063】
以上のように、本例の電動式パワーステアリング装置は、トルク伝達用継手16の捩り剛性が、伝達するトルクが小さい場合には小さくなり、伝達するトルクが大きい場合には大きくなるといった、2段階特性を有する。ただし、本発明を実施する場合には、たとえば、1対の端部伝達部材18同士で周方向隙間αの大きさを互いに異ならせたりすることによって、トルク伝達用継手16の捩り剛性を2段階よりも多くすることもできる。
【0064】
1対の端部伝達部材18のそれぞれに関して、端部伝達歯37と弾性部材19との係合部、および、端部伝達歯37と中間伝達歯21との係合部に、それぞれ径方向隙間β、γ、ε、ηが介在する。また、1対の端部伝達部材18のそれぞれの
軸方向内端面34同士の間の軸方向距離L
34が、結合体35
を構成する隔壁部27の軸方向幅寸法W
27よりも大きくなっている(L
34>W
27)。このため、結合体35と1対の端部伝達部材18との中心軸同士の傾きを無理なく許容することができる。
【0065】
したがって、本例では、電動モータ6の出力軸12aの軸ずれや偏心、および、ウォーム7aの軸ずれや傾きや偏心などの、ミスアライメントが発生しても、1対の端部伝達部材18の中心軸に対して結合体35の中心軸が無理なく傾斜することにより、滑らかなトルク伝達を行うことが可能となる。また、一方の端部伝達部材18と結合体35との間で許容されるミスアライメントと、他方の端部伝達部材18と結合体35との間で許容されるミスアライメントとの和が、出力軸12aとウォーム7aとの間で許容されるミスアライメントになる。このため、出力軸12aとウォーム7aとの間のミスアライメントを適正に許容することができる。
【0066】
本例では、径方向隙間β、γ、ε、ηに関して、β<γ、および、ε<ηの関係が成立する。このため、1対の端部伝達部材18同士の間で、大きな偏心や傾きなどが生じた場合でも、弾性部材19の存在に基づいて、隣り合う1対の端部伝達歯37の間部分の底面が、中間伝達歯21の先端面に当接したり、端部伝達歯37の先端面が、隣り合う1対の中間伝達歯21の間部分の底面に当接したりすることが防止される。仮にこれらの面同士が当接した場合でも、当接の勢いは、弾性部材19の弾性変形により弱められるため、当接に伴う異音の発生は抑えられる。
【0067】
本例では、中間伝達歯が、中間伝達部材の径方向内側部に備えられており、端部伝達歯が、1対の端部伝達部材の径方向外側部に備えられている。ただし、本発明を実施する場合には、中間伝達歯が、中間伝達部材の径方向外側部に備えられ、端部伝達歯が、端部伝達部材の径方向内側部に備えられている構成を採用することもできる。この場合、隔壁部は、径方向外側に伸長する。
【0068】
本例では、弾性部材は、一方の端部伝達部材に係合する弾性部材と、他方の端部伝達部材に係合する弾性部材とからなる1対の弾性部材により構成されている。ただし、本発明を実施する場合には、弾性部材は、一方の端部伝達部材に係合する部分と他方の端部伝達部材に係合する部分とを含む1個の弾性部材により構成することもできる。この場合、弾性部材の有する弾性を利用して、弾性部材を中間伝達部材に組み付けることが可能である。
【0069】
本発明を実施する場合には、中間伝達部材と弾性部材との相対回転を阻止することができれば、中間伝達部材の係合凸部の数および円周方向位置、並びに、弾性部材の係合凹部の数および円周方向位置についても、特に問われない。
【0070】
本発明を実施する場合には、1対の端部伝達部材のそれぞれに、中間伝達部材と弾性部材との結合体の軸方向側面に対向する鍔部を備えた構造を採用することもできる。このような構造を採用する場合には、トルク伝達用継手を電動式パワーステアリング装置に組み付けた状態で、1対の端部伝達部材の鍔部同士の間の軸方向距離を、前記結合体の軸方向幅寸法よりも若干大きくする。
【0071】
さらに、本発明は、弾性部材を備えていないトルク伝達用継手にも適用可能である。
【0072】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図12を用いて説明する。本例では、中間伝達部材17の隔壁部27aは、1対の突出部40を有する。1対の突出部40は、中間伝達歯21よりも径方向内側に位置する、隔壁部27aの径方向中央部に配置され、軸方向両側に突出する。図示の例では、突出部40の形状は、部分球状である。トルク伝達用継手16を電動式パワーステアリング装置に組み付けた状態で、1対の突出部40は、出力軸12aの先端面38とウォーム7aの基端面39とに、軸方向に対向する。また、隔壁部27aが出力軸12aの先端面38とウォーム7aの基端面39との間の中央位置に存在する状態で、1対の突出部40と、出力軸12aの先端面38およびウォーム7aの基端面39との間には、それぞれ軸方向の隙間が介在する。
【0073】
本例では、1対の端部伝達部材18に対して、結合体35が軸方向に変位したり、傾斜したりした場合には、出力軸12aの先端面38やウォーム7aの基端面39に、突出部40が当接する。これにより、隔壁部27aのうちで突出部40から外れた部分が、出力軸12aの先端面38やウォーム7aの基端面39や端部伝達部材18の軸方向内端面34に面接触することが防止される。この結果、1対の端部伝達部材18に対して結合体
35を傾斜させやすくなるため、出力軸12aに対してウォーム7aを揺動させやすくなる。なお、本発明を実施する場合、突出部40
の形状は、本例と異ならせることもできる。また、突出部4
0のそれぞれが常に出力軸12aの先端面38およびウォーム7aの基端面39に当接した構成を採用することもできる。実施の形態の第2例のその他の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0074】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図13を用いて説明する。本例では、中間伝達部材17は、隔壁部27bの径方向中央部に、円形の通孔41を有する。図示の例では、通孔41の直径寸法(隔壁部27bの内径寸法)は、端部伝達部材18の端部筒部36の内径寸法と等しい。ただし、本発明を実施する場合、端部伝達部材18の軸方向内端面34の少なくとも一部が隔壁部27bに対して軸方向に対向していれば、通孔41の直径寸法は、本例と異ならせることもできる。本例では、通孔41を設けた分、中間伝達部材17の軽量化を図ることができる。実施の形態の第3例のその他の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。