(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリイミド樹脂(A)と、前記ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が30/70〜95/5の範囲である、請求項1に記載のポリイミド樹脂組成物。
前記ポリイミド樹脂(A)において、前記式(1)の繰り返し構成単位と前記式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する前記式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20モル%以上、40モル%未満である、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリイミド樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂組成物は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20〜70モル%のポリイミド樹脂(A)と、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)とを含有する。
【化2】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。R
2は炭素数5〜16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
本発明のポリイミド樹脂組成物は、上記構成とすることにより、耐熱性、曲げ特性等は高いレベルを保ちながら、引張弾性率、引張破壊ひずみ等の引張特性を、成分(A)単独又は成分(B)単独の場合よりも向上させることができる。
この理由については定かではないが、成分(A)は結晶性熱可塑性樹脂、成分(B)は非晶性熱可塑性樹脂であり、且つ相互分散性が高いため、成分(A)又は成分(B)がナノレベルで分散した樹脂組成物及び成形体が形成されていることによると考えられる。成分(A)又は成分(B)がナノレベルで分散した成形体は、応力をかけた際に応力分散するので、例えば引張応力を与えた際には成形体内部で亀裂が複雑に発生し、複数箇所でひずみが緩和されるため靭性が向上すると推察される。
【0012】
<ポリイミド樹脂(A)>
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20〜70モル%である。
【化3】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。R
2は炭素数5〜16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0013】
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は結晶性熱可塑性樹脂であり、その形態としては粉末又はペレットであることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えばポリアミド酸等のポリイミド前駆体の状態で成形した後にイミド環を閉環して形成される、ガラス転移温度(Tg)を持たないポリイミド樹脂、あるいはガラス転移温度よりも低い温度で分解してしまうポリイミド樹脂とは区別される。
【0014】
式(1)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6〜22の2価の基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4〜7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
R
1の炭素数は6〜22であり、好ましくは8〜17である。
R
1は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0015】
R
1は、好ましくは下記式(R1−1)又は(R1−2)で表される2価の基である。
【化4】
(m
11及びm
12は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
13〜m
15は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。)
【0016】
R
1は、特に好ましくは下記式(R1−3)で表される2価の基である。
【化5】
なお、上記の式(R1−3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0017】
X
1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
X
1の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18である。
X
1は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0018】
X
1は、好ましくは下記式(X−1)〜(X−4)のいずれかで表される4価の基である。
【化6】
(R
11〜R
18は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。p
11〜p
13は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0である。p
14、p
15、p
16及びp
18は、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、好ましくは0である。p
17は0〜4の整数であり、好ましくは0である。L
11〜L
13は、それぞれ独立に、単結合、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
なお、X
1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基であるので、式(X−2)におけるR
12、R
13、p
12及びp
13は、式(X−2)で表される4価の基の炭素数が10〜22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X−3)におけるL
11、R
14、R
15、p
14及びp
15は、式(X−3)で表される4価の基の炭素数が12〜22の範囲に入るように選択され、式(X−4)におけるL
12、L
13、R
16、R
17、R
18、p
16、p
17及びp
18は、式(X−4)で表される4価の基の炭素数が18〜22の範囲に入るように選択される。
【0019】
X
1は、特に好ましくは下記式(X−5)又は(X−6)で表される4価の基である。
【化7】
【0020】
次に、式(2)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R
2は炭素数5〜16の2価の鎖状脂肪族基であり、好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数7〜12、更に好ましくは炭素数8〜10である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
R
2は、好ましくは炭素数5〜16のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6〜14、更に好ましくは炭素数7〜12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数8〜10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
R
2は、好ましくはオクタメチレン基及びデカメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0021】
X
2は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0022】
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20〜70モル%である。式(1)の繰り返し構成単位の含有比が上記範囲である場合、一般的な射出成型サイクルにおいても、ポリイミド樹脂を十分に結晶化させ得ることが可能となる。該含有量比が20モル%未満であると成形加工性が低下し、70モル%を超えると結晶性が低下するため、耐熱性が低下する。
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
中でも、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20モル%以上、40モル%未満であることが好ましい。この範囲であるとポリイミド樹脂(A)の結晶性が高くなり、より耐熱性に優れる樹脂成形体を得ることができる。
上記含有比は、成形加工性の観点からは、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、より更に好ましくは35モル%以下である。
【0023】
ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは75〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、より更に好ましくは85〜100モル%である。
【0024】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
式(3)の繰り返し構成単位を含有する場合、前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【化8】
(R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。X
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の4価の基である。)
【0025】
R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
R
3の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18である。
R
3は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1〜3個含む。
【0026】
R
3は、好ましくは下記式(R3−1)又は(R3−2)で表される2価の基である。
【化9】
(m
31及びm
32は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
33及びm
34は、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。R
21、R
22、及びR
23は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、又は炭素数2〜4のアルキニル基である。p
21、p
22及びp
23は0〜4の整数であり、好ましくは0である。L
21は、単結合、カルボニル基又は炭素数1〜4のアルキレン基である。)
なお、R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基であるので、式(R3−1)におけるm
31、m
32、R
21及びp
21は、式(R3−1)で表される2価の基の炭素数が6〜22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3−2)におけるL
21、m
33、m
34、R
22、R
23、p
22及びp
23は、式(R3−2)で表される2価の基の炭素数が12〜22の範囲に入るように選択される。
【0027】
X
3は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0028】
ポリイミド樹脂(A)の末端構造には特に制限はないが、炭素数5〜14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。
該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。ポリイミド樹脂(A)が上記特定の基を末端に有すると、耐熱老化性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
炭素数5〜14の飽和鎖状脂肪族基としては、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、ラウリル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルペンチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、イソノニル基、2−エチルオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられる。
炭素数5〜14の不飽和鎖状脂肪族基としては、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−へキセニル基、2−へキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
中でも、上記鎖状脂肪族基は飽和鎖状脂肪族基であることが好ましく、飽和直鎖状脂肪族基であることがより好ましい。また耐熱老化性を得る観点から、上記鎖状脂肪族基は好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。上記鎖状脂肪族基は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
上記鎖状脂肪族基は、特に好ましくはn−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、及びイソデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、及びイソノニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn−オクチル基、イソオクチル基、及び2−エチルヘキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
またポリイミド樹脂(A)は、耐熱老化性の観点から、末端アミノ基及び末端カルボキシ基以外に、炭素数5〜14の鎖状脂肪族基のみを末端に有することが好ましい。上記以外の基を末端に有する場合、その含有量は、好ましくは炭素数5〜14の鎖状脂肪族基に対し10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0029】
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量は、優れた耐熱老化性を発現する観点から、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上である。また、十分な分子量を確保し良好な機械的物性を得るためには、ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは10モル%以下、より好ましくは6モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下、より更に好ましくは2.0モル%以下、より更に好ましくは1.2モル%以下である。
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5〜14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を解重合することにより求めることができる。
【0030】
ポリイミド樹脂(A)は、360℃以下の融点を有し、かつ150℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。ポリイミド樹脂(A)の融点は、耐熱性の観点から、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは290℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは345℃以下、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは335℃以下である。また、ポリイミド樹脂(A)のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、より好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
またポリイミド樹脂(A)は、結晶性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性を向上させる観点から、示差走査型熱量計測定により、該ポリイミド樹脂を溶融後、降温速度20℃/分で冷却した際に観測される結晶化発熱ピークの熱量(以下、単に「結晶化発熱量」ともいう)が、5.0mJ/mg以上であることが好ましく、10.0mJ/mg以上であることがより好ましく、17.0mJ/mg以上であることが更に好ましい。結晶化発熱量の上限値は特に限定されないが、通常、45.0mJ/mg以下である。
ポリイミド樹脂(A)の融点、ガラス転移温度、結晶化発熱量は、いずれも示差走査型熱量計により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0031】
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、40,000〜150,000であり、好ましくは40,000〜100,000、より好ましくは42,000〜80,000、更に好ましくは45,000〜70,000、より更に好ましくは45,000〜65,000の範囲である。ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが40,000以上であれば樹脂成形体においてミクロ相分離構造が形成されやすくなり、低荷重環境下でのHDTが向上し、機械的強度も良好になる。またMwが150,000以下であれば、成形加工性が良好である。
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準試料としてゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0032】
ポリイミド樹脂(A)の5質量%濃硫酸溶液の30℃における対数粘度は、好ましくは0.8〜2.0dL/g、より好ましくは0.9〜1.8dL/gの範囲である。対数粘度が0.8dL/g以上であれば、得られる成形体においてミクロ相分離構造を形成しやすくなり、また十分な機械的強度が得られる。対数粘度が2.0dL/g以下であると、成形加工性及び取り扱い性が良好になる。対数粘度μは、キャノンフェンスケ粘度計を使用して、30℃において濃硫酸及び上記ポリイミド樹脂溶液の流れる時間をそれぞれ測定し、下記式から求められる。
μ=ln(ts/t
0)/C
t
0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5(g/dL)
【0033】
(ポリイミド樹脂(A)の製造方法)
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。該テトラカルボン酸成分は少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0034】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸は4つのカルボキシ基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記テトラカルボン酸は、炭素数6〜26であるものが好ましい。前記テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0035】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の誘導体としては、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の無水物又はアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6〜38であるものが好ましい。テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6−トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1〜3が好ましい。
【0036】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの炭素数は6〜22が好ましく、例えば、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含むジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0038】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5〜16が好ましく、6〜14がより好ましく、7〜12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5〜16であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5−ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタン−1,5−ジアミン、3−メチルペンタン−1,5−ジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が8〜10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,8−オクタメチレンジアミン及び1,10−デカメチレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用できる。
【0039】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの仕込み量のモル比は20〜70モル%であることが好ましい。該モル量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%未満、更に好ましくは35モル%以下である。
【0040】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6〜22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2−ジエチニルベンゼンジアミン、1,3−ジエチニルベンゼンジアミン、1,4−ジエチニルベンゼンジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0041】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0042】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9〜1.1モルであることが好ましい。
【0043】
またポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類及びジカルボン酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。末端封止剤の使用量は、ポリイミド樹脂(A)中に所望量の末端基を導入できる量であればよく、前記テトラカルボン酸及び/又はその誘導体1モルに対して0.0001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.06モルがより好ましく、0.002〜0.035モルが更に好ましく、0.002〜0.020モルがより更に好ましく、0.002〜0.012モルがより更に好ましい。
中でも、末端封止剤としてはモノアミン類末端封止剤が好ましく、ポリイミド樹脂(A)の末端に前述した炭素数5〜14の鎖状脂肪族基を導入して耐熱老化性を向上させる観点から、炭素数5〜14の鎖状脂肪族基を有するモノアミンがより好ましく、炭素数5〜14の飽和直鎖状脂肪族基を有するモノアミンが更に好ましい。
末端封止剤は、特に好ましくはn−オクチルアミン、イソオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ノニルアミン、イソノニルアミン、n−デシルアミン、及びイソデシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn−オクチルアミン、イソオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ノニルアミン、及びイソノニルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn−オクチルアミン、イソオクチルアミン、及び2−エチルヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0044】
ポリイミド樹脂(A)を製造するための重合方法としては、公知の重合方法が適用でき、国際公開第2016/147996号に記載の方法を用いることができる。
【0045】
<ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、前記ポリイミド樹脂(A)と、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)とを含有する。ポリイミド樹脂(A)と、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)とをコンパウンドすることにより、耐熱性、曲げ特性等は高いレベルを保ちながら、引張特性をより向上させたポリイミド樹脂組成物及び成形体とすることができる。
【0046】
成分(B)として用いるポリエーテルイミドスルホン樹脂は、イミド構造、エーテル結合及び−SO
2−を有する繰り返し構成単位を含む非晶性熱可塑性樹脂である。
ポリイミド樹脂(A)とコンパウンドすることにより良好な耐熱性及び引張特性を得る観点から、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)のガラス転移温度は好ましくは230℃以上、より好ましくは235℃以上、更に好ましくは240℃以上である。また、成形加工性の観点からは、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下である。
ガラス転移温度は、前記と同様の方法で測定することができる。
【0047】
ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)としては、例えば下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含むものが挙げられる。
【化10】
(R
4は、−SO
2−を含む炭素数6〜22の2価の基である。X
4は、少なくとも1つの芳香環及びエーテル結合を含む炭素数12〜40の4価の基である。)
R
4は−SO
2−を含む炭素数6〜22の2価の基であり、良好な耐熱性及び引張特性を得る観点から、少なくとも1つの芳香環又は脂環式炭化水素構造を含むことが好ましい。芳香環及び脂環式炭化水素構造の定義は、前記と同じである。
R
4は、より好ましくは、−SO
2−及び少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基であり、更に好ましくは、−SO
2−及び1〜3個の芳香環を含む炭素数6〜22の2価の基である。
R
4の炭素数は6〜22であり、好ましくは6〜18、より好ましくは12〜18である。
【0048】
R
4は、好ましくは下記式(R4−1)で表される2価の基である。
【化11】
(R
41及びR
42は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、又は炭素数2〜4のアルキニル基である。m
41及びm
42は、それぞれ独立に、0〜2の整数である。p
41及びp
42は、それぞれ独立に、0〜4の整数である。)
R
41及びR
42は、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
m
41及びm
42は、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
p
41及びp
42は、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0である。
【0049】
X
4は、少なくとも1つの芳香環及びエーテル結合を含む炭素数12〜40の4価の基である。
X
4の炭素数は好ましくは18〜40、より好ましくは24〜30である。
X
4は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは2〜4個含む。またエーテル結合は少なくとも1つ含み、好ましくは2〜4含む。
【0050】
X
4は、好ましくは下記式(X−7)で表される4価の基である。
【化12】
(L
41は、炭素数4〜28の2価の基である。)
L
41における2価の基は鎖状脂肪族基でもよく、芳香環又は脂環式炭化水素構造を含む基でもよい。良好な耐熱性及び引張特性を得る観点からは、L
41は少なくとも1つの芳香環を含むことが好ましく、1〜2個の芳香環を含むことがより好ましい。
L
41の炭素数は4〜28であり、好ましくは6〜24、より好ましくは12〜18である。
【0051】
L
41は、更に好ましくは下記式(X−7a)〜(X−7e)のいずれかで表される2価の基であり、より更に好ましくは下記式(X−7a)で表される2価の基である。
【化13】
(R
43は、炭素数1〜4のアルキル基である。p
43は0〜4の整数である。)
R
43は好ましくはメチル基であり、p
43は好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0である。
【0052】
ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)は、良好な耐熱性及び引張特性を得る観点から、下記式(4−1)で示される繰り返し構成単位を含むものがより更に好ましい。
【化14】
式(4−1)で示される繰り返し構成単位を含むポリエーテルイミドスルホン樹脂は、例えば、テトラカルボン酸成分である2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物と、ジアミン成分であるジアミノジフェニルスルホンとを反応させることにより得られる。
【0053】
ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)として、市販品を用いることもできる。市販のポリエーテルイミドスルホン樹脂としては、例えばSabicイノベーティブプラスチック社製のEXTEM VHシリーズ等が挙げられる。
【0054】
本発明のポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂(A)とポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]は、好ましくは1/99〜99/1、より好ましくは5/95〜95/5の範囲である。
中でも、得られる成形体の靭性が特に優れる範囲は、質量比[(A)/(B)]が25/75〜95/5、好ましくは30/70〜95/5、より好ましくは45/55〜95/5、更に好ましくは50/50〜90/10、より更に好ましくは55/45〜85/15、より更に好ましくは60/40〜80/20の範囲である。
一方で、成形加工性を重視する場合は、質量比[(A)/(B)]は、好ましくは65/35〜99/1であり、成形加工性及び得られる成形体の靭性の観点からは、より好ましくは65/35〜95/5、更に好ましくは70/30〜95/5の範囲である。
【0055】
また、ポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0056】
<強化繊維>
本発明のポリイミド樹脂組成物には、引張特性の中でも引張弾性率を向上させる目的で、更に強化繊維を含有させてもよい。強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、金属繊維等が挙げられる。強化繊維は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
強化繊維の形態には特に制限はなく、得られるポリイミド樹脂組成物及び成形体の形態に応じて、短繊維、連続繊維のいずれも用いることができ、両者を併用してもよい。
ポリイミド樹脂組成物の形態については後述するが、例えばポリイミド樹脂組成物がペレットである場合は、押出成形性等の観点から、強化繊維は短繊維であることが好ましい。またポリイミド樹脂組成物は、成分(A)及び成分(B)を含む混合物を強化繊維に含浸させたプリプレグの形態であってもよく、この場合の強化繊維は連続繊維であることが好ましい。
【0058】
強化繊維が短繊維である場合、その平均繊維長は、強度及び取り扱い性の観点から、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは2mm以上であり、押出成形性等の観点から、好ましくは25mm以下、より好ましくは15mm以下、更に好ましくは10mm未満である。
強化繊維が連続繊維である場合、例えば単にモノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向又は交互に交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布あるいはマット等の種々の形態が挙げられる。これらのうち、モノフィラメント、布帛、不織布あるいはマットの形態が好ましく、布帛の形態がより好ましい。
強化繊維が連続繊維である場合、その繊度は、20〜4,500texが好ましく、50〜4,000texがより好ましい。繊度がこの範囲であると、樹脂成分の含浸が容易であり、得られる成形体の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、繊度は任意の長さの連続繊維の重量を求めて、1,000m当たりの重量に換算して求めることができる。
【0059】
強化繊維の平均繊維径は、1〜100μmであることが好ましく、3〜50μmがより好ましく、4〜20μmであることが更に好ましい。平均繊維径がこの範囲であると、加工が容易であり、得られる成形体の弾性率及び強度が優れたものとなる。
なお、強化繊維(短繊維)の平均繊維長、及び強化繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により50本以上の繊維を無作為に選んで観察、計測し、個数平均を算出することにより求められる。
【0060】
強化繊維の中でも、引張弾性率向上の観点、及び軽量性の観点からは炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が挙げられる。
炭素繊維のフィラメント数は通常、500〜100,000の範囲であり、好ましくは5,000〜80,000、より好ましくは10,000〜70,000である。
【0061】
ポリイミド樹脂(A)との濡れ性、界面密着性を向上させるために、炭素繊維は表面処理剤で表面処理されたものであることが好ましい。当該表面処理剤は、収束剤、サイジング剤も含む概念である。
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系材料、ウレタン系材料、アクリル系材料、ポリアミド系材料、ポリイミド系材料、ポリエステル系材料、ビニルエステル系材料、ポリオレフィン系材料、及びポリエーテル系材料が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より高い機械的特性を得る観点からは、表面処理剤としてはエポキシ系材料又はポリイミド系材料が好ましい。
【0062】
炭素繊維として、市販品を用いることもできる。市販の炭素繊維(短繊維)としては、例えば日本ポリマー産業(株)製のチョップドファイバー「CFUW」、「CFEPP」、「CFEPU」、「CFA4」、「FX1」、「EX1」、「BF−WS」、「CF−N」、「VX−1」シリーズ、三菱ケミカル(株)製の「パイロフィル チョップドファイバー」シリーズ、帝人(株)製の「Tenax−J」シリーズ(HT C702、IM C702等)、「Tenax−A」シリーズ(IM P303、HT P722等)が挙げられる。
【0063】
本発明のポリイミド樹脂組成物が強化繊維を含有する場合、その含有量は、ポリイミド樹脂組成物中、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは5〜35質量%である。ポリイミド樹脂組成物中の強化繊維の含有量が1質量%以上であれば引張弾性率の向上効果を得ることができ、70質量%以下であれば成形加工性、得られる成形体の熱変形温度(HDT)等を維持しやすい。
一般に、非晶性樹脂は強化繊維の含有による物性改善効果が低いことが知られているが、本発明のポリイミド樹脂組成物においては、非晶性樹脂である成分(B)を含有していても、強化繊維による引張弾性率及び熱変形温度の向上効果が高い。
【0064】
<添加剤>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、強化繊維以外の充填材、艶消剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、難燃剤、着色剤、摺動性改良剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、導電剤、樹脂改質剤等の添加剤を、必要に応じて含有してもよい。
上記添加剤の含有量には特に制限はないが、ポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)由来の物性を維持しつつ添加剤の効果を発現させる観点からは、ポリイミド樹脂組成物中、通常、50質量%以下であり、好ましくは0.0001〜30質量%、より好ましくは0.0001〜15質量%、更に好ましくは0.001〜10質量%である。
【0065】
本発明のポリイミド樹脂組成物は任意の形態をとることができるが、ペレットであることが好ましい。
ポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)は熱可塑性を有するため、例えばポリイミド樹脂(A)、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)、及び必要に応じて各種任意成分を押出機内で溶融混練してストランドを押出し、ストランドをカットすることによりペレット化することができる。また、得られたペレットを各種成形機に導入して後述の方法で熱成形することにより、所望の形状を有する成形体を容易に製造することができる。
【0066】
本発明のポリイミド樹脂組成物のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下であり、より更に好ましくは200℃以下である。ガラス転移温度は、前記と同様の方法で測定できる。
【0067】
<引張特性>
本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、ポリイミド樹脂(A)単独、あるいはポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)の場合と比較して、引張特性をより向上させた成形体を提供することができる。
例えば引張破壊ひずみに関しては、ポリイミド樹脂組成物を成形して得られる、JIS K7161−2:2014で規定される1A型試験片について、JIS K7161−1:2014及びK7161−2:2014に準拠して、温度23℃、つかみ具間距離50mm、試験速度5mm/分で引張試験を行った際に測定される引張破壊ひずみを、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、より更に好ましくは70%以上とすることができる。引張破壊ひずみは、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0068】
<曲げ特性>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、曲げ特性について高いレベルを保ちながら、前記の通り引張特性を向上させることができる。曲げ特性に関しては、ポリイミド樹脂組成物を成形して得られる、ISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体について、ISO178:2010に準拠して、温度23℃、試験速度2mm/分で曲げ試験を行った際に測定される曲げ強度を100MPa以上、且つ曲げ弾性率を2.2GPa以上とすることができる。曲げ強度及び曲げ弾性率は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0069】
<その他の特性>
本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)単独の場合と比較して白色度が高い、パール状の光沢を有する成形体を作製することができる。そのため本発明のポリイミド樹脂組成物及びその成形体は、リフレクター等への適用も期待される。また本発明のポリイミド樹脂組成物は結晶性熱可塑性樹脂であるポリイミド樹脂(A)に由来する性能を有しているため、耐薬品性も良好である。
【0070】
[成形体]
本発明は、前記ポリイミド樹脂組成物を含む成形体を提供する。
本発明のポリイミド樹脂組成物は熱可塑性を有するため、熱成形することにより容易に本発明の成形体を製造できる。熱成形方法としては射出成形、押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、溶接、溶着等が挙げられ、熱溶融工程を経る成形方法であればいずれの方法でも成形が可能である。
成形温度はポリイミド樹脂組成物の熱特性(融点及びガラス転移温度)によっても異なるが、例えば射出成形においては、成形温度400℃未満、金型温度220℃以下での成形が可能である。
【0071】
成形体を製造する方法としては、ポリイミド樹脂組成物を400℃未満の温度で熱成形する工程を有することが好ましい。具体的な手順としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、ポリイミド樹脂(A)に、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、これを押出機内に導入して、好ましくは400℃未満で溶融して押出機内で溶融混練及び押出し、ペレットを作製する。あるいは、ポリイミド樹脂(A)を押出機内に導入して、好ましくは400℃未満で溶融し、ここにポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)及び各種任意成分を導入して押出機内でポリイミド樹脂(A)と溶融混練し、押出すことで前述のペレットを作製してもよい。
上記ペレットを乾燥させた後、各種成形機に導入して好ましくは400℃未満で熱成形し、所望の形状を有する成形体を製造することができる。
【0072】
本発明の成形体は、耐熱性及び曲げ特性に優れるとともに引張特性が良好であることから、耐衝撃性、制振性等が重要視される用途への展開が期待される。例えば、ギア、軸受等の摺動部材、切削部材、ロボットアーム等の構造部材、電線等の巻線被覆材料、ネジ、ナット、パッキン、スピーカー用振動板、リフレクター、第5世代移動通信システム(5G)関連部材、各種フィルム等の用途に適用できる。
【実施例】
【0073】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各製造例及び実施例における各種測定及び評価は以下のように行った。
【0074】
<赤外線分光分析(IR測定)>
ポリイミド樹脂のIR測定は日本電子(株)製「JIR−WINSPEC50」を用いて行った。
【0075】
<対数粘度μ>
ポリイミド樹脂を190〜200℃で2時間乾燥した後、該ポリイミド樹脂0.100gを濃硫酸(96%、関東化学(株)製)20mLに溶解したポリイミド樹脂溶液を測定試料とし、キャノンフェンスケ粘度計を使用して30℃において測定を行った。対数粘度μは下記式により求めた。
μ=ln(ts/t
0)/C
t
0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5g/dL
【0076】
<融点、ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化発熱量>
ポリイミド樹脂又は各例で製造したポリイミド樹脂組成物の融点Tm、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tc、及び結晶化発熱量ΔHmは、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC−6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、ポリイミド樹脂又はポリイミド樹脂組成物に下記条件の熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/分)、その後冷却(降温速度20℃/分)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/分)である。
融点Tmは昇温2度目で観測された吸熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。ガラス転移温度Tgは昇温2度目で観測された値を読み取り決定した。結晶化温度Tcは冷却時に観測された発熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。なおTm、Tg及びTcに関して、ピークが複数観測されたものについては各ピークのピークトップ値を読み取った。
また結晶化発熱量ΔHm(mJ/mg)は冷却時に観測された発熱ピークの面積から算出した。
【0077】
<半結晶化時間>
ポリイミド樹脂の半結晶化時間は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC−6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、420℃で10分保持し、ポリイミド樹脂を完全に溶融させたのち、冷却速度70℃/分の急冷操作を行った際に、観測される結晶化ピークの出現時からピークトップに達するまでにかかった時間を計算した。なお表1中、半結晶化時間が20秒以下である場合は「<20」と表記した。
【0078】
<重量平均分子量>
ポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、昭和電工(株)製のゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定装置「Shodex GPC−101」を用いて下記条件にて測定した。
カラム:Shodex HFIP−806M
移動相溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウム2mM含有HFIP
カラム温度:40℃
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度:約0.1質量%
検出器:IR検出器
注入量:100μm
検量線:標準PMMA
【0079】
<曲げ強度及び曲げ弾性率>
ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、又は各例で製造したポリイミド樹脂組成物を用いて、後述する方法によりISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。ベンドグラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、ISO178:2010に準拠して、温度23℃、試験速度2mm/分で曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0080】
<引張強度、引張弾性率及び引張破壊ひずみ>
ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、又は各例で製造したポリイミド樹脂組成物を用いて、後述する方法によりJIS K7161−2:2014で規定される1A型試験片を作製し、測定に使用した。引張試験機(東洋精機株式会社製「ストログラフVG−1E」)を用いて、JIS K7161−1:2014及びK7161−2:2014に準拠して、温度23℃、つかみ具間距離50mm、試験速度5mm/分で引張試験を行い、引張強度、引張弾性率及び引張破壊ひずみを測定した。
【0081】
<色相>
ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、又は各例で製造したポリイミド樹脂組成物の各ペレットを測定に使用した。
色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)を用い、反射法によりLab値、YI値を測定した。また、Lab値及びYI値を基に白色度を算出した。
なお、Lab値はJIS Z8781−4:2013、YI値はJIS K7373:2006にそれぞれ準拠した方法で測定を行い、白色度はJIS Z8715:1999に準拠した方法で算出を行った。
【0082】
<貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接(tanδ)>
前記引張試験において使用したものと同様の1A型試験片(厚さ1mm)を作製し、40mm×10mmに切削して測定に用いた。粘弾性測定装置((株)日立ハイテクサイエンス製「EXSTAR DMS6100」を用いて、JIS K7244−4:1999に準拠して、窒素気流中(300mL/分)で、引張モード、測定周波数1Hz、昇温速度3℃/分、歪0.1%(20μm)の条件で、−50℃〜300℃の温度範囲にて粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E’’)を測定した。また(E’’)/(E’)の値を損失正接(tanδ)として算出した。
【0083】
<熱変形温度(HDT)>
各例で製造したポリイミド樹脂組成物を用いて、後述する方法により80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を製造し、測定に使用した。
測定はJIS K7191−1,2:2015に準拠して、フラットワイズでの試験を実施した。具体的には、HDT試験装置「Auto−HDT3D−2」((株)東洋精機製作所製)を用いて、支点間距離64mm、荷重1.80MPa、昇温速度120℃/時間の条件にて熱変形温度を測定した。
【0084】
製造例1(結晶性熱可塑性ポリイミド樹脂1の製造)
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2−(2−メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)500gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.12g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製、シス/トランス比=7/3)49.79g(0.35mol)、1,8−オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.77g(0.65mol)を2−(2−メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。滴下により発熱が起こるが、内温は40〜80℃に収まるよう調整した。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn−オクチルアミン(関東化学(株)製)1.284g(0.010mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120〜140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2−(2−メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、317gの結晶性熱可塑性ポリイミド樹脂1(以下、単に「ポリイミド樹脂1」ともいう)の粉末を得た。
ポリイミド樹脂1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1768、1697(cm
−1)にイミド環の特性吸収が認められた。対数粘度は1.30dL/g、Tmは323℃、Tgは184℃、Tcは266℃、結晶化発熱量は21.0mJ/mg、半結晶化時間は20秒以下、Mwは55,000であった。
【0085】
製造例1におけるポリイミド樹脂1の組成及び評価結果を表1に示す。なお、表1中のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分のモル%は、ポリイミド樹脂製造時の各成分の仕込み量から算出した値である。
【0086】
【表1】
【0087】
表1中の略号は下記の通りである。
・PMDA;ピロメリット酸二無水物
・1,3−BAC;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
・OMDA;1,8−オクタメチレンジアミン
【0088】
実施例1〜9、比較例2(ポリイミド樹脂組成物、成形体の作製及び評価)
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(Sabicイノベーティブプラスチック社製「EXTEM VH1003P」)とを、表2に示す割合でドライブレンドした後、同方向回転二軸混錬押出機((株)パーカーコーポレーション製「HK−25D」、スクリュー径25mmΦ、L/D=41)を用いて、バレル温度370℃、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練し押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは150℃、12時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。
射出成形機(ファナック(株)製「ロボショットα−S30iA」)を使用して、バレル温度385℃、金型温度165℃、成形サイクル60秒にて射出成形を行い、各種評価に用いる所定の形状の成形体を作製した。
得られたペレット及び成形体を用いて、前述した方法で各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0089】
比較例1
製造例1で得られたポリイミド樹脂1をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで溶融混錬し押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは150℃、12時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。
射出成形機(ファナック(株)製「ROBOSHOT α−S30iA」)を使用して、バレル温度350℃、金型温度200℃、成形サイクル50秒として射出成形を行い、各種評価に用いる所定の形状の成形体を作製した。
得られたペレット及び成形体を用いて、前述した方法で各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2に示した各成分の詳細は下記の通りである。
<ポリイミド樹脂(A)>
(A1)ポリイミド樹脂1:製造例1で得られた結晶性熱可塑性ポリイミド樹脂
<ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)>
(B1)ポリエーテルイミドスルホン樹脂(Extem):2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物及びジアミノジフェニルスルホンに由来する繰り返し構成単位(式(4−1)で示される繰り返し構成単位)を含むポリエーテルイミドスルホン樹脂、Sabicイノベーティブプラスチック社製「EXTEM VH1003P」、Tg243℃
【0092】
表2に示すように、ポリイミド樹脂(A1)及びポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)を共に含有する実施例1〜9のポリイミド樹脂組成物からなる成形体は、ポリイミド樹脂(A1)のみからなる比較例1、又はポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)のみからなる比較例2の成形体よりも引張弾性率又は引張破壊ひずみのいずれかが向上する。実施例1〜7で得られた成形体は、比較例1,2の成形体よりも引張破断ひずみの値が向上しており、靭性が高いことがわかる。特に、成分(A1)と成分(B1)との質量比[(A1)/(B1)]が50/50〜90/10(実施例1〜5)、さらには60/40〜80/20(実施例2〜4)の範囲において、引張破断ひずみの値が特異的に向上していることがわかる。一方、実施例8〜9で得られた成形体は、比較例1,2の成形体よりも引張弾性率が向上する。
【0093】
また実施例1〜9のポリイミド樹脂組成物は、比較例2のポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)単独の場合と比較して白色度が高いことがわかる。
実施例3のポリイミド樹脂組成物からなる成形体は、比較例1のポリイミド樹脂(A1)単独の場合と比較して貯蔵弾性率は同じであるが、損失弾性率及びtanδの値が向上した。
【0094】
なお、実施例3、5、7で得られたポリイミド樹脂組成物のペレットを用いて、各ペレット中のポリイミド樹脂(A1)及びポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)の分散状態を以下の方法で確認した。
実施例3、5、7で得られたペレットを、ミクロトーム(REICHERT−JUNG LIMITED製「ULTRACUT E」)を用いて、ペレットの流れ方向(MD)に対し垂直に切断し、超薄切片を作成した。この切断面を四酸化ルテニウムにより染色した後、フィールドエミッション型走査型透過電子顕微鏡(FE−STEM、ZEISS製「GeminiSEM500」)を用いて、加速電圧30kV、観察倍率3万倍で観察した(
図1〜3)。各観察画像において、色が濃い部分は、四酸化ルテニウムにより染色されやすいポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)で構成されていると判断した。
図1は実施例3(質量比[(A1)/(B1)]=70/30)、
図2は実施例5(質量比[(A1)/(B1)]=50/50)、
図3は実施例7(質量比[(A1)/(B1)]=30/70)のペレットの顕微鏡写真である。
図1〜3より、実施例3、5、7で得られたペレット中では、ポリイミド樹脂(A1)とポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)とが均一に分散され、ナノレベルの海島構造を形成していることがわかる。また実施例3のペレットではポリイミド樹脂(A1)が海島構造の「海」、実施例5,7のペレットではポリイミド樹脂(A1)が海島構造の「島」を構成していることがわかる。
【0095】
比較例3〜5
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、成分(B)以外の熱可塑性樹脂であるポリエーテルイミド−シロキサン共重合体(b1)(Sabicイノベーティブプラスチック社製「SILTEM resin STM1700」)とを、表3に示す割合でドライブレンドした後、同方向回転二軸混錬押出機((株)パーカーコーポレーション製「HK−25D」、スクリュー径25mmΦ、L/D=41)を用いて、バレル温度335℃、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練し押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは105℃、6時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。
射出成形機(ファナック(株)製「ロボショットα−S30iA」)を使用して、バレル温度370℃、金型温度165℃、成形サイクル60秒にて射出成形を行い、各種評価に用いる所定の形状の成形体を作製した。
得られた成形体を用いて、前述した方法で表3に記載の各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示した各成分の詳細は下記の通りである。
<ポリイミド樹脂(A)>
(A1)ポリイミド樹脂1:製造例1で得られた結晶性熱可塑性ポリイミド樹脂
<ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)>
(B1)ポリエーテルイミドスルホン樹脂(Extem):2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物及びジアミノジフェニルスルホンに由来する繰り返し構成単位(式(4−1)で示される繰り返し構成単位)を含むポリエーテルイミドスルホン樹脂、Sabicイノベーティブプラスチック社製「EXTEM VH1003P」、Tg243℃
<(B)以外の熱可塑性樹脂>
(b1)ポリエーテルイミド−シロキサン共重合体〈STM1700〉:Sabicイノベーティブプラスチック社製「SILTEM resin STM1700」
【0098】
表3に示すように、実施例3と比較例3とを対比すると、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B1)に替えてポリエーテルイミド−シロキサン共重合体(b1)を用いた比較例3のポリイミド樹脂組成物からなる成形体は、実施例3よりも引張弾性率及び引張破壊ひずみの値が低下する。また、HDT及び曲げ特性も低くなることがわかる。
実施例5と比較例4、実施例7と比較例5とをそれぞれ対比すると、引張破壊ひずみの値は同じであるが、それ以外の特性についてはポリエーテルイミド−シロキサン共重合体(b1)を用いた場合の方が劣る結果となった。
【0099】
実施例10〜11、比較例6〜7(ポリイミド樹脂組成物、成形体の作製及び評価)
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、表4に示す各成分のうち炭素繊維以外の成分をドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末を同方向回転二軸混錬押出機((株)パーカーコーポレーション製「HK−25D」、スクリュー径25mmΦ、L/D=41)に導入し、表4に示す量の炭素繊維(帝人(株)製「Tenax−A HT P722」、サイジング剤:ポリイミド系、平均繊維長:3mm)をサイドフィードして、バレル温度335℃、スクリュー回転数150rpmで押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC−Mini−4/N」)によってペレット化した。
得られたペレットは190℃、10時間乾燥を行った後、射出成形に使用した。
射出成形は射出成形機(ファナック(株)製「ROBOSHOT α−S30iA」)を使用して、バレル温度350℃、金型温度200℃、成形サイクル50秒として行い、各種評価に用いる所定の形状の成形体を作製した。
得られたペレット又は成形体を用いて、前述した方法で表4に記載の各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4より、炭素繊維を含有させたポリイミド樹脂組成物からなる実施例10の成形体は、炭素繊維を含有しない実施例3の成形体よりも引張強度、引張弾性率及びHDTが向上した。また実施例10、11の成形体は、ポリエーテルイミドスルホン樹脂に替えて、比較物質であるポリエーテルイミド−シロキサン共重合体(b1)を用いた比較例6、7の成形体よりも曲げ強度及びHDTが向上していることがわかる。
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20〜70モル%のポリイミド樹脂(A)と、ポリエーテルイミドスルホン樹脂(B)とを含有するポリイミド樹脂組成物、及びこれを含む成形体である。