【実施例】
【0071】
概要
酸化グラフェン(GO)は、改良Hummer’s法を用いて合成した。合成のために、SP−1グレードの325メッシュ黒鉛粉末(Bay Carbon Inc)、硫酸、過硫酸カリウム、五酸化二リン、及び過マンガン酸カリウム(Sigma−Aldrich)を使用した。合成したGOは、RO水中で1時間、超音波(UP−100超音波処理装置)によって剥離し、次いで遠心分離によって未剥離のGOを取り除いた。GOシートの平均横方向サイズは走査型電子顕微鏡(FEI Nova NanoSEM 450
FEGSEM(2012))を用いて決定し、約0.9±0.4μmであると見積もった(平均シートサイズを計算するために90枚のシートを測定した)。Ocean Optics USB4000 UV−vis分光計を用いて230nmでの吸光度を測定することにより(石英セルを使用、Starna Cells Pty.Ltd.Aust
ralia)、GO濃度を決定した。超吸収性ポリマーを用いて様々な濃度のGO分散液を調製した後、更に特性評価を行った。
【0072】
濃縮したGO分散液を、その後、濃縮されたGO分散液中の液晶相のせん断配向による膜の形成を可能にするドクターブレードによって、連続膜へと成形した。適切なGO分散液(約40mg/ml)を用いて、準工業スケールのプリント装置によって、様々な厚さの膜を多孔質ナイロン基材(Nylon66、細孔径0.2μm、MDI,India)の上にキャストした。せん断配向膜(SAM)は、偏光撮像、X線回折(XRD)分析、走査型電子顕微鏡法(SEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)、及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって更に特性評価した。SAMは、濾過試験に必要なサイズ(直径47mm)に切断した。SAMの水に対する安定性を向上させるために、GO膜が入った密閉容器を60℃のホットプレート上に置くことによって、これらを0.02mlのヒドラジン水和物蒸気(88%、Merck)に5分間曝露して部分的に還元した。膜の水透過性及び保持能力(様々なプローブ分子及び塩について)は、全量濾過装置(Sterlitech HP4750高圧撹拌セル)を用いて調べた。SAMの化学洗浄による流束の回復は、一般的な実験室モデルの汚染物質としてのウシ血清アルブミン(Bovine
Serum Albumin,Sigma−Aldrich)を濾過することによって調べた。せん断配向膜の特異性は、構造及び分離性能の観点から、真空濾過によって製造されたGO膜と比較した。
酸化グラフェン(GO)の濃縮
加熱又は真空装置の使用などの、濃縮GO分散液を製造するための従来の手段は、時間と労力を要する。本発明は、その代わりに、濃縮GO分散液の作製のために、非常に親水性である超吸収性ポリマーのヒドロゲルビーズを使用した。GO分散液の濃縮は、ヒドロゲルビーズが水に溶解したりGOシートを吸収したりすることなしに水を吸収して保持する、ポリマーヒドロゲルビーズの能力のために生じる。典型的には、架橋ポリアセテートコポリマーを主体とするヒドロゲルビーズ(Demi Co,Ltd,China)を使用した。これらのヒドロゲルビーズは、それらの重量の最大90倍まで水を吸収することができる。GO分散液を濃縮するために要する時間は、初期濃度、目標濃度、及び使用するビーズの質量次第である。例えば、10gのヒドロゲルビーズを用いることで、0.25mg/mlのGO懸濁液1lから、20mg/mlの濃度のGO分散液10mlが約1時間以内に得られた。生じ得るビーズ周りの濃度の偏りを避けるために、そして吸収工程を速めるために、容器を磁気撹拌子で穏やかに撹拌した。ヒドロゲルビーズが水で飽和した後、これらを濃縮溶液から取り出した。飽和ビーズの表面に付いた付着GOは、RO水で洗って取り除いた。飽和ヒドロゲルビーズは、50℃で終夜乾燥した後に再利用することができた。
GOの特性評価
ラマン特性解析
GOが水と共にヒドロゲルビーズの中に吸収されたか否かを調べるために、ラマン分光法を使用した。GOは、それぞれ欠陥の量及びsp2炭素原子の面内結合伸縮に対応する、約1330cm−1(Dバンド)と約1580cm−1(Gバンド)の、2つの特徴的なラマンピークを有する。濃縮工程時にヒドロゲルビーズがGOを吸収したとすると、膨潤ビーズのラマンスペクトルはこれらの特徴的なピークを示すであろう。このために、GO溶液に浸した後の膨潤したヒドロゲルビーズのラマンスペクトルを、2つの対照スペクトル、すなわちGOフィルムのスペクトル及びRO水に浸した後の膨潤したヒドロゲルビーズのスペクトルと比較した。
【0073】
GO試料は、スライドガラス上へGO(5mg/ml)をドロップキャストし、次いで実験室環境条件で終夜乾燥することによって作製した。飽和したヒドロゲルビーズ(5mg/mlのGO又は純粋なRO水のいずれかの中で膨潤)は、ステンレス鋼製のメス刃で切断し、スライドガラス上にのせた。GOと膨潤ヒドロゲルビーズのラマンスペクトルは
、HeNe(632.8nm)レーザーを備えた10%の出力で稼働するRenishaw Confocal顕微ラマン分光装置を使用して得た。拡張スキャン(10秒)は、レーザースポット径1μmで、100〜3200の波数で行った。バックグラウンドを取り除いた後、データを最大強度で割ることでスペクトルの強度を正規化した。ピークの位置は、スペクトルデータの分析で一般的に行われているように、半値全幅を用いて検出した。
図3に示されているように、GOの特徴的なピークは、GO懸濁液中で膨潤したヒドロゲルビーズの中では観察されなかった。したがって、GOは濃縮工程時にヒドロゲルビーズの中には吸収されず、ビーズはGO懸濁液から水のみを吸収する。
レオロジー
GO分散液の粘度を測定するために、HAAKE MARS IIレオメーター(Thermo Electron Corporation,Germany)を使用した。チタンでコーティングされた直径60mmのコーンプレートと、1°のコーン角を使用した。コーンプレート内部の温度は、Peltierシステム及びサーモスタットHAAKE Phoenix II(Thermo Electron Corporation,Germany)を用いて22.00±0.01℃に固定した。実験は、0.041mmの一定ギャップで、2mlの分散液を用いて行った。
【0074】
ゼロせん断粘度は、0.001s
−1のせん断速度でGO分散液の粘度を測定することによって評価した。
図4は、GO濃度が増加するにつれてゼロせん断粘度が増加することを示している。酸素で修飾されたGOシートでは、それら自体の中での及び水分子との、水素結合の形成によりゼロせん断粘度が増加した。GOが低濃度では、水素結合により水がGOシートと結合したが、GOシートの数が増加すると、水−粘土分散液と同様に、グラフェンシートと水分子とが会合して水素結合による三次元ネットワークを形成し、これが懸濁液の流動性を減少させ、GO分散液の粘度を増加させる。更に、5mg/mlの濃度を過ぎてからの粘度の大きな変化は、液晶性ネマチック相の始まりと一致する。
【0075】
図5は、せん断速度(γ)の関数としての、GO分散液の見かけ粘度(η)を示している。異なるGO分散液濃度で、非ニュートンずり流動化(疑塑性)挙動が観察された。GO分散液のネマチック相は、低いせん断速度ではランダムに分布していて配向せず、これにより高い粘度になっていると推測される。大きいせん断速度では、ランダムに分布していたネマチック相がせん断応力の方向に配向して互いの物理的相互作用が小さくなり、その結果として粘度が低下する。
図5は、GO分散液の粘度がべき乗則粘度モデルとよく一致したことを示している。べき乗則モデルでは、理想的な塑性材料の指数は−1であり、この理論値からの逸脱は塑性挙動の損失を示す。GO濃度が10mg/mlから40mg/mlへと増加すると指数は−0.580から−0.087へと減少し、これはネマチックGO相に起因する塑性の増加を肯定するものである。
表面張力及び接触角
GO分散液の表面張力を濃度の関数として測定するために、カスタム設計のペンダントドロップ装置を使用した。直径0.7mmのキャピラリーの先端にドロップを形成し、液滴の形状をデジタルCMOSカメラで観察した。Young−Laplaceの関係によって見積もられる液滴の理論的に予測される曲率と、実際の曲率とを比較することによって、カスタマイズしたソフトウェアでこれらの分散液の表面張力を決定した。
【0076】
GO分散液とナイロン基材との間の静的接触角は、直径0.7mmのキャピラリーを用いてナイロン基材上にGO分散液の液滴(約3μlの体積)を載せることによって測定した。液滴を載せた後すぐに、デジタルカメラを用いて液滴の形状を観察した。接触角の平均値は、ナイロン基材上の5か所の異なる地点での接触角の測定から測定した。
【0077】
表面張力及び接触角を正確に測定するために、複数の基準、すなわち、液滴は中央の垂直軸に対称でなければならないことと、液滴は重力と表面張力によってのみ形作られ、粘
度などの他の力が液滴の動き又は慣性に働いてはならないこと、が満たされた。40及び60mg/mlのGO分散液によって形成された液滴は、これらの分散液の高い粘度のためにこれらの基準を満たさなかった。そのため、これらの2つの事例に関しては、表面張力と接触角は直線外挿法で見積もった(下の表3及び4参照)。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
これらの分散液のために直線外挿を使用した根拠は、GOが界面活性剤のような特性を有すると考えられてきたことを踏まえれば、GO濃度の増加に伴ってGO分散液の表面張力が減少することである。GO分散液とナイロン基材との間の接触角は表面張力の低下に伴って減少し、これはYoungの式における接触角と表面張力との間の逆相関と一致する:
cosθ∝1/γ
LA
式中、θはGO分散液とナイロン基材との間の接触角であり、γ
LAはGO分散液の界面張力である。
膜の製造
ドクターブレード法による薄膜製造の基本概念
迅速な単一の工程でネマチックディスコチック相のグラフェンシートを配向させ、これを多孔質支持体上の緻密で連続的な均一な膜の中に充填することに対するせん断応力の影響を調べるために、クエット流れの下で流体を薄い矩形の溝を通して広げるラボスケールのドクターブレードを使用した。
【0081】
ドクターブレード法における本質的な物理的パラメーターを明らかにするために、一般的なNavier−Stokes方程式を使用し、流体の流れがニュートン流であると仮定して、ドクターブレードの矩形溝中のキャスト液の流動力学を分析した。ドクターブレードのギャップ中の流体の流れは、圧力駆動流(ブレードの前のGO分散液の静水圧により生じる)とクエット流れ(ブレードの外部せん断により生じる−
図6参照)の組み合わせに影響される。速度分布は次式によって計算される:
【0082】
【数1】
【0083】
式中、uはy方向への流れの速度であり、Uはキャスト処理速度であり、μ及びρはそれぞれ見かけ粘度及びGO分散液の密度である。Hはドクターブレードの前のGO分散液の高さであり、h
0及びLはブレードギャップの寸法である(
図2参照)。実験条件(U=1cm/s、h
0=10
−6m)に基づくと、ブレードの外部せん断がブレードギャップ中の流体の挙動を支配し、そのためブレードギャップ中の分散液の全速度分布は、
【0084】
【数2】
【0085】
とみなすことができる。ここで、せん断速度は、
【0086】
【数3】
【0087】
で計算され、せん断応力は
【0088】
【数4】
【0089】
で定義され、そのため、加えられるせん断応力(その流体の粘度が支配的な材料パラメーターである)は、
【0090】
【数5】
【0091】
で示される。ここで、τはせん断応力であり、ηはGO分散液の粘度であり、Uは処理速度であり、h
0はドクターブレードのギャップの大きさである。0.1mg/ml〜60mg/mlのGO流体を、粘度を系統的に変化させて調査した。GO流体を濃縮するために用いられる方法(上述)によって、この濃度範囲の迅速な検査をすることができる。膜の均一性及び連続性は、2つの要因、すなわち均一な液体フィルムのキャスティングとその後の乾燥時の液体フィルムの安定性の維持の競合により生じる。
【0092】
この式によって、ドクターブレードがGOの分散液に与える全せん断応力が見積もられる。キャスティング速度とドクターブレードのギャップは実験中一定に保たれたことから、せん断応力はGO分散液の粘度に依存する。したがって、加えられる大きいせん断応力(表2参照)が、ネマチック相のGOシートを配向させる。
【0093】
図7は、濃縮酸化グラフェン溶液の膜を形成するために使用された実験構成を示している。
図7(a)は、この濃縮溶液700の多孔質ナイロン基材702への塗布を示す。
図7(b)は、望ましいせん断速度を酸化グラフェン溶液全体に与えるためのドクターブレード組立体706を含むように改造されたシリンジポンプ704を示す。非対称の被支持酸化グラフェン膜708が形成された。非対称膜は、膜の機械的な支持と安定性を付与する真下にあるより薄い支持体と一体になった、分離の役割を果たす薄い機能層を有する。
図7(c)は、得られた被支持酸化グラフェン膜708が優れた柔軟性を示すことを示している。
図7(d)は、製造後のヒドラジン蒸気中での脱酸素工程の後の膜708を示す。
【0094】
図8(写真)及び
図9(SEM画像)は、GO濃度が増加するにつれてキャストフィルムの均一性が増加したことを示している。特に
図9は、異なる濃度、具体的には(a)0.1mg/ml、(b)2.5mg/ml、(c)5mg/ml、(d)10mg/ml、(e)15mg/ml、(f)20mg/ml、(g)40mg/ml、(h)60mg/ml、の初期溶液から形成された酸化グラフェン膜についての表面形状のSEM画像を示している。スケールバーは50μmである。SEM画像から分かるように、濃度が増加するにつれピンホール及び乾燥による欠陥がなくなり、連続的で均一なフィルムは、少なくとも20mg/mlの酸化グラフェン濃度を有する溶液を使用する場合に得られる。
【0095】
コーティング流体の粘弾特性を踏まえると、膜の厚さ、緻密性、及び分子の秩序は、上述のコーティング工程時のせん断速度及び圧力を変えることによって調節することができる。非対称膜(多孔質ナイロン支持体の上の10〜40nmの薄膜)の走査型電子顕微鏡画像は
図10に示されている。
図10中のSEM画像は、60mg/mlの濃度を有する酸化グラフェン溶液から形成されたグラフェンを主体とする膜のものである。
図10(a)は、連続的な酸化グラフェン膜の上面を示している。図から分かるように、酸化グラフェンシートを折り畳むと皺が生じる。
図10(b)、(c)、及び(d)は、異なる倍率での、多孔質ナイロン基材上の酸化グラフェン膜の連続性、均一性、及び厚さを示している。
【0096】
GO分散液は、特に高い体積分率において、ずり流動性の擬塑性流体であり、これはゼロせん断で非常に粘性であり、高せん断速度で非常に流動性である(粘弾性GOの写真を示す
図11及び
図4を参照)−これはせん断配向によって均一な膜を得ることの助けとなる。例えば、40mg/mlのGO分散液は、66Pa sのゼロせん断粘度を有するであろう。しかし、本開示の方法に関連する104s
−1のせん断速度では、これは0.0164Pa sまで減少するであろう。これは、ネマチック相がブレードのミクロンスケールの出口の下で力を受けた場合には流体になることを意味し、膜の形成は、下にある多孔質膜を濡らすためのネマチック流体のより小さい表面張力及びより小さい接触角(
図1参照)によっても促進される。
【0097】
均一な膜を得るためには、GO分散液から加工された液体フィルムが、これが乾燥するまで均一で連続的なままでいることが重要である。もし何等かの理由で液体フィルムが基材上でずれたり動いたりすると、ディウェッティングが後に生じる場合があり、フィルムの均一性と連続性が低下する(
図12及び
図8参照)。したがって、乾燥時に液体フィルムの安定性を維持するために、フィルムはディウェッティングに耐性がある必要がある。
【0098】
通常、ディウェッティングは、非濡れ性の基材上で生じ、様々なフィルム減粘化メカニズムによっても開始される場合があり、これは穴が生成し、膜が破れるまで続く。溶媒の蒸発(特に低濃度分散液の場合)、分散液と基材との間の静電反発力(又は引力)、重力又はキャピラリーによって引き起こされる流れによる分散液の移動、フィルムの厚さ及び粘度、並びに表面張力勾配などの、多数の要因がディウェッティングに影響を与える。全
てのフィルム減粘化メカニズムの中で、ディウェッティングの支配的な要因は分散液の低い粘度と大きい表面張力である。
ディウェッティング時間は、
【0099】
【数6】
【0100】
によって見積もることができる。ここで、t
dewetはディウェッティング時間(s)であり、σ(N/m)及びμ(Pa.s)は、それぞれ表面張力及び分散液の粘度であり、θ(rad)は分散液と基材との間の接触角である。kは、流体特性に関係する定数であり、水を主体とする系については10
−3とみなされる。Lは長さの尺度であり、これは基材の幅の10%と見積もられる。乾燥時間は、
【0101】
【数7】
【0102】
(Δhは液体フィルムの厚さの80%と見積もられるパラメーターであり、J
0は溶媒蒸発の流れ(cm.s
−1)である)で定義される、液体フィルムのキャスティングとその固化時間との間の時間である。破れを防いで連続的で均一なフィルムを得るためには、乾燥時間はディウェッティング時間よりも短くなければならない。
【0103】
フィルムの安定性及びディウェッティング現象を見積もり、連続的なGOフィルムの製造に必要とされる最適条件を得るために、単純なラボスケールのドクターブレード(MTI Corporation,USA)を様々なGO濃度のために使用した。ドクターブレードは、ブレードと基材との間に形成される矩形の出口を有しており、ここを通して可動ブレードがGO分散液を基材上に広げる(
図2参照)。ドクターブレードのギャップの大きさは約1μmであり、キャスティング速度は約1cm/sであった。典型的には、GOフィルムを作製するために、1mlのGO分散液をドクターブレードを用いて多孔質ナイロン基材(Nylon66膜、細孔径0.2μm、5×5cm
2、MDI,India)上に広げた。ドクターブレードの動きを正確に制御するために、シリンジポンプを用いた。その後、得られた液体フィルムを周囲条件で終夜乾燥した。
【0104】
J
0は乾燥後の液体フィルムの質量損失を記録することによって計算した。液体フィルムの体積は、GO分散液の質量と濃度を使用して、GOの密度(約1.8g/ml 22)を考慮することによって計算した。体積を液体フィルムの面積で割ることによって、乾燥時の液体フィルムの厚さを得、引き続きJ
0を計算した(2×10
−6cm s
−1)。
【0105】
GO濃度を増加させることで、ゼロせん断粘度の増加及び表面張力の低下により、ネマチック流体のディウェッティング時間スケールを6桁よりも多く容易に増加させることができる(表1参照)。40mg/mlを超える濃度に関しては、ディウェッティング時間は乾燥時間よりも大幅に長く、液体フィルムの安定性が確保される。光学画像及びSEM及び(
図8及び9参照)は、そのような高濃度から形成されたフィルム中でのディウェッティングが妨げられることを裏付けている。
図13は、多孔質ナイロン(0.2μmの細孔サイズ)基材上のGO膜の、薄く、高度に均一であり、連続的であり、緻密な多層構造を示すSEM画像である。膜製造における我々の手法の能力を示すために、多孔質ナイロン基材上に、約65nm〜約360nmの範囲の厚さを有する大面積のGO膜をグラビア印刷機によって製造した(
図14参照)。膜を化学的に還元するために、溶液化学又はエ
ネルギー照射を利用する複数の方法が使用可能であるが、水性環境で膜を安定化する概念実証として、我々はヒドラジン蒸気への曝露(約5分)によってGO膜を部分的に還元した。
【0106】
40mg/ml及び60mg/mlのGO懸濁液によって製造したフィルムが、最も良好な均一性及び連続性を有する。これは、結果としてディウェッティング時間を増加させる、ゼロせん断粘度の増加、増加した接触角、及びGOの高い濃度での表面張力の減少に起因し得る。実際、GO濃度が0.1mg/mlから40mg/mlへと増加すると、ディウェッティング時間は0.012秒から4313秒へと増加した(表1参照)。40mg/mlのGO分散液の場合、乾燥時間(40秒)はディウェッティング時間(4313秒)よりも大幅に短いことから、これらの条件下で均一なフィルムを製造することができた。
グラフェンを主体とする膜のせん断配向による準工業スケールでの製造
大面積の、連続的な、被支持GO膜は、従来のグラビア印刷機(Labratester,Norbert Schlaefli Machinery Company,Switzerland)を用いて作製した(
図14参照)。Labratesterは、典型的には、様々なグレードの紙、銅箔、アルミニウム箔、及びポリマーシートの上に粘性のインクを印刷するための製造手段として使用される。GO膜を製造するために、少量のGO分散液を印刷プレートの上に載せて、これをドクターブレードによって広げた。次いでゴムで被覆されたローラーによって、印刷プレートの上で基材を加圧し、液体フィルムを印刷プレートから基材へと移動させた。GO膜は、GO分散液(40mg/ml)と、13×14cm
2の多孔質ナイロン基材(Nylon 66、細孔径0.2μm、MDI,India)とを使用して作製した。異なる厚さのGO膜は、同じ基材上で印刷工程を複数回繰り返すことによって作製した。GO膜の平均厚さはAFM測定によって評価した。
膜の特性評価
偏光画像化
偏光顕微鏡法は、CRI IncのLC−PolScope(LPS) Abrioイメージングシステムを備えたLeica DM IRB顕微鏡を用いて行った。LPSは、ドクターブレードキャスティングによって生じるせん断配向の影響を理解する目的で、GOシートの配向の秩序の特性を明らかにするために使用した。この手法は、液体又は固体状態のフィルム中の酸化グラフェンシートだけでなく、分子及び粒子の秩序パラメーターの評価のためにも広く用いられてきた。SAMの光学異方性は、真空濾過によって合成されたものと比較される。
図15(a)及び(d)は、SAM及び真空濾過膜についてのGO集合体の方位の疑似カラー化した画像であり、色相は方位角を示す。同様に、
図15(b)及び(e)は、方位角のベクトル表示を表す。真空濾過膜と比較して、SAMでは明らかに均一な色相(配向した方位ベクトルとしても表されている)が観察され、これらがより高い配向秩序を示すことが示唆された。
【0107】
GOシートの配向を定量化するために、x−y平面における方位角の分布についてのスカラーパラメーターSが使用された。スカラーパラメーターは、
【0108】
【数8】
【0109】
によって定義され、θは平均方位(配向ベクトル軸)と各ピクセルでの方向(各グラフェンシートの長軸)との間の角度である。S=1は、配向ベクトルに対して平行な配列で完全に配向した系を表し、S=0は、完全にランダムな配向の系を表す。LPS画像化のた
めには、GO膜をスライドガラス上に移動させることが必要とされる。GO膜を支持しているナイロン基材を、濃塩酸(Sigma Aldrich)を用いてエッチングし、得られた自立GO膜を顕微鏡のスライドガラスに移した。Sは方位データから計算した(1000ピクセル)。
X線回折法
GO膜のXRDパターンは、スキャン速度1°/分、ステップサイズ0.02°で、40kV及び25mAで生じさせたCu Kα線を用いたPhillips 1140回折計を使用して得た。XRD試料は、ナイロン基材を濃塩酸(Sigma Aldrich)を用いてエッチングし、自立GO膜をスライドガラス上に移すことによって準備した。XRDパターンから、せん断配向した膜の狭い範囲と比較して、真空濾過膜中のGOシートの幅広い領域の層内空間が明らかになった(
図16参照)。このXRDデータは、LPS画像化によって得られた結果とよく一致し、またSAMの層状構造が真空濾過によって得られたものよりも組織化及び秩序化されているというLPSで得られた結論を支持する。
【0110】
我々は、我々の濾過実験に関係する細孔径を評価するために、部分的に還元したSAM中のGOシート間の平均層間空間も測定した。部分的に還元した膜のXRDは、2θ=9.3°に強度ピークを示した。これは、9.5Åの層間空間に相当する(
図17参照)。2θ=15.4°及び2θ=28.6°の間の弱くて幅広いピークの存在は、GO膜が部分的に還元されたことを示唆する。
走査型電子顕微鏡法(SEM)
ラボスケールのドクターブレード(MTI Corporation,USA)を使用し、異なる濃度のGO分散液を用いて準備したフィルムをキャストした。その後、これらのGOフィルムの均一性及び連続性を、典型的には5keVで稼働する高解像度走査型電子顕微鏡(FEI Nova NanoSEM 450 FEGSEM(2012))によって分析した。全ての試料は、Cressington 208 HRスパッタ装置によってイリジウムで被覆した。断面の撮像のために、ナイロンに支持されたGOフィルムを長方形の小片に切断し、これを30秒間液体窒素に漬けた後にフラットピンセットで注意深く折った。断面は、金属スタブの上に垂直に載せ、15keVで撮像した。
膜厚の原子間力顕微鏡法(AFM)による調査
膜を、Labratesterによって異なる厚さにキャストした。濃塩酸(Sigma Aldrich)の中でナイロン基材をエッチングすることによって、自立GO膜を作製した。次に、これらの自立GOフィルムを顕微鏡のスライドガラスに移した。原子間力顕微鏡測定は、GO膜の厚さを計算するためにJPK Nanowizard 3を使用して行った。この装置は、高さ、z、及びx−y横方向距離の正確な報告のための容量センサーを備えている。撮像は、標準共振周波数340Hz、ばね定数20〜80N/mで、直径10nmのBruker NCHV型カンチレバーを用いて、タッピングモードで行った。撮像は、設定値1nNの力で得た。カンチレバー駆動周波数は、共振周波数よりも5%小さくなるように選択した。GOフィルムの厚さは、150±15nmの厚さの膜について、
図18及び19に示されているようなラインスキャンを使用して、3つの異なる地点のガラスとGOフィルムとの間の高さの差から見積もった。
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
GO膜及び部分的に還元された膜の中の官能基の存在を見積もるために、分解能4cm
−1、平均32回スキャンで、500〜4000cm
−1の範囲で全反射フーリエ変換赤外(ATR−FTIR)(PerkinElmer,USA)を使用して、膜のFTIRスペクトルを記録した(
図20参照)。GOフィルム及び部分的に還元されたGOフィルムの全体のATR−FTIRスペクトルは、共に、C=O(約630cm
−1〜約1150cm
−1及び約1650cm
−1)、C−OH(約1380cm
−1)及びC−O(約2390cm
−1)などの典型的なGO酸素官能基で構成されていた。部分的に還元されたGOフィルムの場合では、1570cm
−1(C=Cに対応)のピークが大幅に増加す
る一方で、1650cm
−1(C=Oに対応)及び約3400cm
−1(C−OHに対応)のピーク強度が大幅に減少した。これは、GO膜の部分的な還元を裏付けており、これら2つの試験片について観測されたXRDスペクトル(
図17参照)と一致する。
せん断配向膜のナノ濾過特性評価
SAMの保持特性についての包括的な情報を得るために、市販のベンチスケールのステンレス鋼製の全量撹拌セル濾過ユニット(Sterlitech HP4750)(
図21参照、この装置には、可変窒素圧2100、供給タンク2102、磁気撹拌子2104、及び濾過水出口2106が含まれる)を使用して、SAMをナノ濾過膜として試験した。有効膜面積は約13.6cm
2であり、全ての実験は0.5barの窒素圧を用いて周囲条件(約21℃)で行った。
【0111】
膜厚の関数としての膜の性能は、最初に純水の透過率(RO水)とメチルレッド(pH約5.5 37の電気的に中性なプローブ分子)の保持率を測定することによって評価した(
図22及び23参照)。
【0112】
純水又は水/プローブ分子溶液についての膜の透過率(lh
−1m
−2bar
−1の単位)は、一定の流束が得られた後、典型的には1時間の透過の後に決定した。これは、
【0113】
【数9】
【0114】
によって計算される。ここで、V
pは透過容積であり、tは透過時間であり、Aは膜の活性面積であり、ΔPは加えられた窒素圧である。
約150nmの厚さの膜が、最も有望な流束と保持時間との間のトレードオフ関係を示すことが見出された。そのため、この膜を更なる特性評価のために選択した。この膜の保持率は、全量濾過装置を用いて大きさ及び電荷が異なる様々なプローブ分子に関して評価した。注:必要な場合には、プローブ分子の水和半径は、水和半径とコノリー接触面(CAA)から見積もった半径との相関によって見積もった。異なる電荷と水和半径を有するプローブ分子には次のものが含まれる:メチルビオロゲン(pH6で正電荷)、メチルオレンジ(pH6で負電荷)、メチレンブルー(pH6.5で正電荷)、オレンジG(pH6で負電荷)、ローダミンB(pH6で電気的に中性(pH6で電気的に中性)、トリス(ビピリジン)ルテニウム(II)クロリド(ルテニウムII)(pH6で正電荷)、メチルブルー(pH6で負電荷)、ブリリアントブルー(pH6.5で負電荷)、及びローズベンガル(pH6で負電荷)。
【0115】
膜の保持性能を評価するために、撹拌セルを10mg/lの試験溶液で満たした。吸着の影響を減らすために約20mlの試験溶液を濾過することで予め浸透させ、次いで膜表面に付着しているあらゆる溶質を取り除くために、膜をエタノール、アセトン、そして最後にRO水で十分に洗浄した(典型的には50mlの溶媒を濾過セルに添加し、800rpmで5分間撹拌したままにした)。膜の保持性能は、100mlの溶液でセルを満たした後、膜に圧力をかけて20mlがこれを透過するようにすることで評価した。膜を透過した20ml及び80mlの保持液の両方を集め、分析した。全ての試験を5回繰り返した。保持流れ中のプローブ分子の濃度を正確に見積もるために、撹拌装置、セルの内壁、及び膜の上面などの、濾過セル中の保持溶液と接触した全ての構成要素は100mlのRO水で洗い流し、保持液濃度の計算時に考慮した。
【0116】
図24は、膜の排除試験の結果を示している。
図24(a)は、2barの圧力下での、40nmの厚さの還元された酸化グラフェン(R−GO)膜についての、分子量の関数
としての膜の阻止特性を示している。分子量のカットオフ(90%阻止)は、28L/m
2hr.barの流束で319g/molである。これらの結果は膜が吸着を終えた後の篩分けに基づいている。
図24(b)は、2barの圧力下での500mlの透過後の、供給液、保持液(残留液)、及び透過液における変化を示すUV−visスペクトルである。
図24(c)は、供給液、保持液、及び濾液の写真であり、透過液でプローブ分子が取り除かれたことと、保持液中のこれらの濃度を示している。2400は金粒子溶液であり、2402はダイレクトイエローであり、2404はサーバブルー(Serva Blue)であり、2406はメチルブルーであり、2408はK
3[Fe(CN)
6]であり、2410はメチルビオロゲンであり、2412はメチレンブルーであり、2414はローダミンBである。溶液(a)、(b)、及び(c)は、それぞれ供給液、残留液、及び濾液を示す。
【0117】
全ての実験の前に、膜をエタノール、アセトン、及びRO水で洗浄した(上述の手順のとおり)後、安定した透過性が観察されるまでRO水を透過させた。洗浄した膜は、未使用の膜と同じ純水流束(約1時間後、約70lm
−2hr
−1bar
−1)を示し、これは実際にきれいになり再び使用可能であったことを示唆している。注目すべきは、膜表面に吸着しているほとんどのプローブ分子が洗浄工程によって取り除かれ、ほぼ100%の流束の回復(
図25及び26参照)が認められることである。
【0118】
観測保持率R(
図27参照)及び吸着率(
図28参照)を計算するために、供給液(C
f)、透過液(C
p)、及び保持液(C
r)中の各プローブ分子の濃度を、UV−vis分光計(Ocean Optics USB4000、石英セルを使用、1/Q/10,Starna Cells Pty.Ltd.Australia)を用いて関連するピークの吸光度を測定することにより見積もった。
【0119】
【数10】
【0120】
膜を通過する流束は、加えられる圧力が増加するにつれて直線的に増加する(
図29)。スリット状の細孔についての修正Hagen−Poiseuille式(
【0121】
【数11】
【0122】
)によって、これら多層構造を通る流体の流れの近似式が与えられる。この式を使用することで、単位面積当たりの多孔質材料を通るニュートン流体の質量流量(m
3s
−1m
−2)を見積もることができる。ここで、h(m)約0.95nmは隣接するグラフェンシート間の距離であり(XRDから推定、
図17参照)、ΔP=0.5×10
5Paは圧力勾配であり、L=0.9×10
−6mはグラフェンシートの平均の横方向の長さであり、η=0.001Pa sは20℃での水の粘度であり、Δx=150×10
−9mは膜の厚さである。修正Hagen−Poiseuille式から見積もった流束と実験結果との比較は、理論上の流束が実験結果よりも4桁小さいことを示している。この実験での増加は、グラフェンのナノチューブ及びスリット型細孔における水輸送の報告と一致する。
【0123】
膜は、5Åを超える水和半径の電荷を有している及び有していない溶質で、高い保持率(>90%)を示した(
図27参照)。膜の中での保持作用は、サイズ篩分け、静電反発、及び吸着に依存し、これらは通常並行して分離にも影響を与える。吸着は、グラフェンを主体とする材料に基づく分離で最も重要になり得ることから、これらのメカニズムのうちのどれがこの膜に決定的なものであるか特定する必要がある。
図28には、全ての実験における保持率及び吸着率と共に、供給液、保持液、及び透過液の濃度の分析が報告されている。この結果は、検討するプローブ分子種に関わらず吸着率は10%未満である一方で、保持液の濃度は常に供給液の濃度よりも高いことを示している(
図28参照)。プローブ分子の濾過時の透過率は、通常これらのクリーンな水の透過率の90〜95%であり(
図25参照)、最低限の吸着を更に支持する。これらの測定に基づくと、グラフェンシートの平均層間空間が水和半径としてここで報告されているプローブ分子の物理的サイズにほぼ等しい場合には、SAMは主に分子を篩分けすると主張することができる。負の電荷を帯びたプローブ分子が正の電荷を帯びたプローブ分子よりも高い保持率を有しており、静電効果も重要であることが示唆されることも注目に値する。
【0124】
AFMによって本明細書で測定される膜厚を変化させて、高秩序のSAMについての透水性及びメチルレッド(実験のpH(約5.5)で電気的に中性のプローブ分子)の保持率も、市販されているか真空濾過法を用いて形成された比較的無秩序な膜と比較した(
図22及び23参照)。示されているように、保持率は共に向上し、透水性はSAMの重なり秩序によって向上する。3つの異なる種類の膜:SAM、真空濾過膜、及び市販の膜(NF270膜、Dow Chemical Company,USA)についての水の流束対圧力の測定は、
図29に示されている。SAMは、電気的に中性なプローブ−メチルレッドについて同等又はより良い保持率を示しつつも、71±5lm
−2hr
−1bar
−1の透水性を有していた。これは真空濾過膜(10±2lm
−2hr
−1bar
−1)よりも約7倍優れており、NF270膜よりも約9倍優れている(
図29参照)。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、SAM膜のこの向上した性能は、膜平面中の高秩序なグラフェンの溝によってもたらされる結果であると考えている(
図15及び16参照)。これらの高秩序なグラフェンシートは、膜の平面によく組織化された精密な溝を形成し、これは水の輸送を促進する。無秩序な膜では、グラフェンシートはランダムな配向を有しており、そのため幅広いサイズの不規則な溝となる(
図16参照)。グラフェンシートのランダムな配向は、ねじれの増加、機械的な粗さ、及びGOシート間の無秩序な相互接続などの複数の影響をもたらす場合があり、これは結果として膜の流れ抵抗を増加させる。
溶媒試験
図30は、膜に対して行われた溶媒透過試験の結果を示している。
図30(a)は、約40nmの厚さの酸化グラフェン膜についての、水の流束対加えられた圧力を示すグラフであり、流束及び加えられた圧力は直線相関を示している。
図30(b)は還元時間及び増加した疎水性に伴って膜の水の流束が増加することを示している。
図30(c)は、膜を通過する様々な溶媒の流束の比較を示している。
図30(d)は、膜を通るヘキサンと水の流束との比較を示している。
脱塩性能
静電効果も重要であることを更に示すために、濃度2g/lのNa
2SO
4、MgSO
4、MgCl
2、及びNaClなどの選択した一価及び二価の塩の保持率を評価することによって、GO膜の脱塩性能を調べた。
【0125】
濾過試験は、窒素圧0.5barで、同じ全量濾過セルを用いて行った。保持性能に対する濃度分極の影響を最小限にするために、濾過中に供給溶液を800rpmで撹拌した。試験は、安定な条件が得られるまで(典型的には1時間後)RO水についての膜の透過率を記録することから始めた。その後、RO水を50mlの塩溶液に置き換えた。膜の塩
保持性能は、10mlの最初の供給液を濾過することによって評価した。全ての実験の前に、透過率が安定し塩の痕跡が観察されなくなるまで(典型的には1時間後)、膜にRO水を通して濾過することによって膜を洗浄した。塩についての膜の保持性能は、上述のとおりに計算した。塩の濃度は、イオン伝導率計(TPS Aqua C,Thermo Fisher Scientific)によって測定した。
【0126】
膜は、全ての塩について30〜40%の保持率を示した(
図31参照)。層間空間が小さく(約9.5Å)、また膜には様々な負の電荷を帯びたカルボキシル、ヒドロキシル、及びエポキシなどの酸素官能基が豊富にあることから、この膜の塩保持能力は意外なことではない。この酸素官能基は、膜の安定化で使用される穏やかな還元の後でさえも残っている(上で論じたFTIRの結果及び
図20で示されている)。これらの負の電荷を帯びた基、特にはカルボン酸基は、Donnan排除理論に基づき、膜の両側で溶液の電気的中性を維持するためにカウンターイオンを保持するであろう。
長期利用可能性及び膜の再使用
このSAM膜の鍵となる特性は、水性環境での安定性と、保持率が膜の上面での篩分けに影響を受けることである(
図26参照)。この結果、複数回の再利用のために極性溶媒又は非極性溶媒中で膜を洗浄することができる。膜汚染試験では、一般的な実験室モデルの汚染物質であるウシ血清アルブミン(BSA)を用いて、長時間の濾過試験(0.5barの圧力で24時間)を行った。
【0127】
これらの膜の長期利用可能性及び再利用可能性を評価するために、防汚試験のための一般的なモデルタンパク質として100ppmのウシ血清アルブミン(BSA)を濾過した。汚染試験は、800rpmで一定に撹拌しながら(濃度分極を最小限にするため)、0.5barの窒素圧で、4.5リットルの分注容器が装着された全量撹拌濾過セル(Sterlitech HP4750)の中で行った。試験は、一定の流束が得られるまで、典型的には1時間後(j
w,1)まで、RO水についての膜の透過率を記録することから始めた。最初のRO供給液を取り除き、BSA溶液に置き換えた。0.5barの圧力を開始した後、LabviewインターフェースでカスタマイズしたSartoriusスケールで透過液を秤量し、集めた。これにより1回目のサイクルが完了する。BSA試験が完了した後、上述の洗浄手順にしたがって、膜をエタノール、アセトン、及びRO水で洗浄した。BSA溶液の濾過は5時間(5サイクル)継続した。前述の手順を、j
w,2で表される2回目のRO水の透過率で再び繰り返す。合計で5回のサイクルを完了した(
図32参照)。工業関連の膜のための洗浄手順はアルカリ及び酸の使用を必要とするが、これらの試験での洗浄溶液の選択は、アセトンやエタノールなどの溶媒に対する耐薬品性を有するGO膜の能力に基づいた。
【0128】
化学洗浄によるせん断配向膜の防汚挙動は流速の回復(FR)によって評価した。これは、次式によって計算される。
【0129】
【数12】
【0130】
ここで、j
w,1は1回目のサイクル前のRO水についての膜の初期流束であり、j
w,iはi回目のサイクルの後のRO水についての膜の流束(エタノール及びアセトン及びRO水による膜の洗浄後)である。
【0131】
SAMは汚染耐性を示し、流束は単純な溶媒洗浄で回復した(
図32参照)。膜の汚染
挙動は、細孔径、空隙率、細孔形態、そして最も重要なことには疎水性などの、膜表面の物理的特性及び化学的特性に強く依存する。幸いにもSAMは、有機プローブ及びタンパク質との疎水的相互作用を減少させる親水性基(
図20参照)を保持していた。その結果、エタノール、アセトン、及びRO水を使用することによる単純な洗浄手順によって、各洗浄サイクル後に90%を超える流束が効果的に回復した−これはプローブ分子に対して当てはまり、またBSAなどのより強い汚染物質に対しても当てはまった(
図25、26、及び32参照)。
真空濾過膜
せん断配向によって与えられた積層秩序の役割を明らかにするために、SAMと真空濾過技術を用いて作製したものとの様々な特性の比較も行った。この比較のために、GOのバッチ及び化学的還元など、全ての他の可変因子をほぼ同じに保ったままで真空濾過によってGO膜を作製した。この合成手順の概要を以下説明する。
【0132】
10μg/lのGO溶液(GOの同じストックより)を、真空濾過ポンプ(KNFポンプ、モデル:N810(3)FT.18)を用いて、同じ多孔質ナイロン支持体(Nylon66、細孔径0.2μm、MDI,India)を通して濾過した。真空濾過工程のGO溶液の量を変化させることにより様々な厚さのGO膜を作製した。これらのGO膜は、SAMに対して使用したのと同じ方法に従って、ヒドラジン蒸気により更に還元した。その後、膜を偏光顕微鏡法(
図15参照)、X線回折分析(
図16参照)、及びAFM(
図22及び23参照並びに一連のナノ濾過試験(
図22及び23参照)によって特性評価した。
【0133】
偏光撮像は膜平面にあるグラフェンシートの配列の遅相軸を画像化することによって局所的な配向秩序を測定する一方で、XRDは、層間空間の結晶秩序を測定する。
これらの手法は共に、SAMの高秩序構造の仮説を裏付けている(
図15及び16参照)。興味深いことに、フィルムを構成するグラフェンシートは、膜自体は非常に薄い一方で(
図18及び19参照)、約900nmの横方向寸法を有している。これは、せん断応力が基材の平面にシートを配向させることを強く示唆している。グラフェンシートの面内配向は、せん断流動場でのディスコチックネマチック液晶の流動配向と一致する。この極めて高い秩序はSAMの加工手法に特有のものであり、他の加工手法を用いたせん断配向との決定的な違いである(
図15及び16参照)。
【0134】
本明細書に開示及び定義されている本発明は、文章又は図面に述べられているかこれらから明白な、個々の特徴のうちの2つ以上の全ての他に取り得る組み合わせにまで及ぶことが理解されるであろう。全てのこれらの異なる組み合わせは、本発明の様々な代替の態様を構成する。