特許第6927609号(P6927609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927609
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】フィルムの形成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/198 20170101AFI20210823BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20210823BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20210823BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20210823BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20210823BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20210823BHJP
【FI】
   C01B32/198
   C01B32/194
   C01B32/19
   B01J13/00 E
   B01D69/12
   B01D71/02
【請求項の数】9
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2020-31769(P2020-31769)
(22)【出願日】2020年2月27日
(62)【分割の表示】特願2017-527651(P2017-527651)の分割
【原出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2020-111501(P2020-111501A)
(43)【公開日】2020年7月27日
【審査請求日】2020年3月3日
(31)【優先権主張番号】2014904644
(32)【優先日】2014年11月19日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】594202523
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マジュンダー マイナック
(72)【発明者】
【氏名】アクバリヴァキラバディ アボザー
【審査官】 印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0180912(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103625085(CN,A)
【文献】 国際公開第2013/040636(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0331920(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0209168(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
B01D 53/22;
61/00 − 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面上へのディスコチックネマティック酸化グラフェン安定化懸濁液のフィルムの形成方法であって、
前記基材表面にある量の前記ディスコチックネマティック酸化グラフェン安定化懸濁液を塗布することであって、前記懸濁液は、16mg/ml以上の酸化グラフェン濃度を有し;
間に隙間を有する2つの対向する表面によって輪郭が定められる溝に、毎秒1,000〜10,000のせん断速度で前記ディスコチックネマティック酸化グラフェン安定化懸濁液を引き込むことであって、前記溝の第1の対向表面は前記基材表面であること;及び
前記隙間の長さに対応する厚さを有する前記懸濁液のフィルムを形成することを含む、方法。
【請求項2】
前記酸化グラフェン濃度が20mg/mL以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の対向表面が、ロッドコーター、ロールコーター、ナイフコーター、フレキシブル塗布器、カーテンコーター、及びグラビアコーターからなる群から選択される塗布装置の塗布器表面である、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記溝への前記懸濁液の前記引き込み工程が、前記2つの対向する表面を互いに対して移動させることを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材が、ポリマー、金属、及びセラミックからなる群から選択される多孔質基材である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材が、20nm〜1000nmの範囲の細孔径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記フィルム上に存在する官能基の少なくともいくつかを取り除くために前記フィルムを処理することを更に含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルムの前記処理工程が、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸塩、NaOH、KOH、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物で化学処理して、還元された酸化グラフェンフィルムを形成することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フィルムの前記処理工程が、プラズマ、イオンビーム、熱、UV光、又はこれらの組み合わせを用いた物理的処理を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン膜、並びに酸化グラフェン膜及びその前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
向上した保持力、流束、及びコスト効率を有するナノ濾過(NF)膜の設計及び合成における進歩は、水処理、選択的化学分離、及び薬物送達などの複数の分野に多大な影響を与えると見込まれる。従来の高分子NF膜は通常は限られた耐薬品性しか有していない一方で、セラミック膜はコスト効率が低い。
【0003】
グラフェンを主体とするフィルムは優れた濾過特性を有することが見出されており、この特性のため、グラフェンを主体とするフィルムは水の精製、化学合成、医薬品精製、及び他の多くの分離工程などの様々な産業及び用途での使用に非常に適している。
【0004】
グラフェンは、1原子の厚さの2Dハニカムsp2炭素格子であり、これは強い機械特性と化学的不活性を併せ持ち、非常に大きな表面積を有する、非常に面白い多機能性材料である。
【0005】
グラフェンから作製される膜は、セラミック膜のように化学的に不活性であり、これは、グラフェン/酸化グラフェン(GO)流体相分散液を使用してポリマーのようにフィルムに加工することができる。グラフェンを主体とする膜は、液体と気体の両方に対する高い透過性及び高い選択性も有している。
【0006】
グラフェンを主体とする膜は多数の有力な用途を有しているものの、グラフェンを主体とするフィルムの使用に関する1つの問題は、これらが高価であり、製造に時間がかかることである。グラフェンを主体とするフィルムは、これまで真空濾過及び化学蒸着などの様々な方法によって製造されてきた。
【0007】
以上のことから、グラフェンを主体とする膜技術の使用が妨げられ得ることがないような高効率の製造ルートを用いて、大きいサイズの膜を製造するための改良された方法が必要とされている。
【0008】
理想的な濾過膜は、多孔質かつより透過性の支持体によって与えられる機械的強度を有し、機能的な篩として作用する、欠陥のない薄くて緻密な分離フィルムである。
この非対照構造を実現するために、研究者らは化学蒸着によってグラフェンの連続フィルムを成長させてこれを基材に移動させた後、フィルムにエッチング処理して細孔を設けた。しかし、移動工程が膜製造の拡張性を制限してしまう。例えば、米国特許出願第2013/0270188号明細書には、Cu及びNiなどの触媒的基材の上への化学蒸着によるグラフェンの成長と、それに続く多孔質基材への移動とによって形成された、透過性グラフェン膜が開示されている。細孔は、その後、透過性の細孔を開けるための集束イオンビームを照射することによって設けられる。この方法は、グラフェンの形成に高い温度を必要とし、また移動工程がこの手法の拡張性を制限する場合がある。
【0009】
この構造を製造するためのもう1つの方法は、裏地となるフィルター支持体上でのGO分散液の濾過によってGO薄片を再積層することである。しかし、この方法を用いて膜を製造するためには、大量の液体及び多大な処理時間を要する。更に、この方法を用いて形成される膜は一般的に配向(GOシートの)と拡張性の両方の問題を有している。例えば
、Rohitらの米国特許出願第2010/0323177A1号明細書及びDikinらの国際公開第2008143829A2号パンフレットには、非常に希薄な(約1〜10μg/ml)液相で安定化された酸化グラフェン又は還元された酸化グラフェンからの濾過フィルムの形成が開示されており、この中で酸化グラフェン膜又は還元された酸化グラフェン膜は多孔質基材上での濾過によって形成され、堆積物が透過性膜を形成する。しかし、この方法は時間がかり、非常に大量の液体を必要とし、また均質性、緻密性、及び分子の秩序に関してプロセスの制御が不足しており、これは膜の性能に悪影響を及ぼす。
【0010】
ディップコーティングや一層ごとの積層などの他の液相プロセスも、同様に高速生産性に関する潜在的な問題を抱えている。
以上から、この分野における主要な課題は、大きな表面積のグラフェンを主体とする膜を製造するための、しっかりとした、拡張性のある、液体フィルム加工手法を提供することである。
【0011】
先行技術の上述した欠点の少なくとも1つに対処することが、本発明の目的である。
本明細書におけるいかなる先行技術の参照も、この先行技術がいずれかの管轄における共通の一般知識の一部を形成すること、又は、この先行技術が理解され、関連性があるとみなされ、及び/若しくは当業者によって先行技術の他の部分と結びつけられることが合理的に見込まれ得ること、の承認又は示唆ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様においては、連続相を含み、初期酸化グラフェン濃度を有する、酸化グラフェンの安定化溶液の濃縮方法であって、溶液に吸収性材料を添加することと、溶液から連続相の少なくとも一部を吸収性材料に吸収させて初期酸化グラフェン濃度よりも高い酸化グラフェン濃度を有する濃縮液を形成することと、を含む方法が提供される。
【0013】
好ましくは、方法は吸収工程の後に吸収性材料と溶液とを分離する工程を更に含む。
有利には、この方法は、加熱したり減圧にしたりすることなしに酸化グラフェンの溶液を濃縮するために使用することができる。様々な実施形態においては、方法は、酸化グラフェンの希薄懸濁液を、ディスコチックネマチック相の酸化グラフェンの濃縮溶液などの、粘弾性を有する液晶性流体にも変換させる。
【0014】
酸化グラフェン液晶は、様々な液晶相で製造及び/又は貯蔵され得る。当業者であれば、様々な溶媒又は液体を使用できることと、適切な吸収材の選択は使用される具体的な連続相に依存するであろうことを理解するであろう。好適な溶媒としては、アルコール、DMF、及びアセトンが挙げられる。当業者であれば、選択された具体的な溶媒を吸収するための適切な吸収性材料の選択を理解するであろう。しかし、連続相が水であり、吸収性材料が水吸収性材料であることが好ましい。より好ましくは、吸収性材料はヒドロゲル材料である。更に好ましくは、ヒドロゲル材料はヒドロゲルビーズの形態であり、吸収性材料の添加工程は複数のヒドロゲルビーズを添加することを含む。
【0015】
ヒドロゲルビーズは、それらの体積と比較して多量の水を吸収し、保持することができることから好ましい。典型的には、ヒドロゲルビーズは、水を吸収する際その重量の約500倍(それ自身の体積の10〜60倍)まで膨潤することができる。これにより、比較的小さい体積のヒドロゲルビーズを添加することで多量の水を除去することが可能になる。更に、ヒドロゲルビーズは非常に親水性であり、そのため本来一般的に疎水性であるグラフェン及び/又は酸化グラフェンを排除しつつ容易に水を吸収する。
【0016】
ヒドロゲルビーズは様々な方法で添加することができる。ヒドロゲルビーズは一気に添
加してもよいし、一定時間かけて添加してもよいし、あるいは、二回目のバッチの添加の前に最初のバッチが取り除かれる方式のバッチ式で添加してもよい。グラフェン及び/又は酸化グラフェン溶液からの水の吸収をより制御できることから、ヒドロゲルビーズは、バッチ式か否かに関わらず、一定時間かけて添加することが好ましい。好都合なことには、除去後、ヒドロゲルビーズを乾燥させて吸収された水を除去してから再利用することができる。
【0017】
典型的には、ヒドロゲルビーズは超吸収性のポリマーから形成される。そのような超吸収性のポリマーは、一般的には、水酸化ナトリウムとブレンドしたアクリル酸を開始剤の存在下で重合することで作られ、ポリアクリル酸のナトリウム塩(ポリアクリル酸ナトリウムと呼ばれる場合もある)が形成される。このポリマーは、世界的に製造されている最も一般的な種類の超吸収性ポリマーである。当業者であれば、望まれる吸収特性を有することに基づいて他の超吸収性ポリマーも選択できることを理解するであろう。超吸収性ポリマーを製造するために使用し得る他の材料は、いくつか例を挙げると、ポリアクリルアミドコポリマー、エチレンマレイン酸無水物コポリマー、架橋カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールコポリマー、架橋ポリエチレンオキシド、及びポリアクリロニトリルのデンプングラフトコポリマーである。
【0018】
酸化グラフェンの典型的な初期濃度は、約1μg/Lである。酸化グラフェン溶液は、15mg/mL超、より好ましくは少なくとも20mg/mL、更に好ましくは少なくとも30mg/mL、最も好ましくは少なくとも40〜60mg/mL、まで濃縮されることが好ましい。
【0019】
吸収工程は、溶液中のグラフェン及び/又は酸化グラフェンの初期濃度、及び最終目標濃度、並びに選択される吸収方法に依存する。しかし、典型的には吸収工程は最大1時間行われる。より好ましくは、吸収工程は1時間未満の時間で行われる。更に好ましくは、吸収工程は30分未満の時間で行われる。しかし、上で論じたように、当業者であれば、これはある程度は選択される吸収材の種類及び望まれる溶液の濃度に依存することを理解するであろう。
【0020】
本発明の別の態様においては、基材表面にある量の酸化グラフェンの溶液を塗布することと、間に隙間を有する2つの対向する表面によって輪郭が定められる溝にあるせん断速度で溶液を引き込むことであって溝の第1の対向表面は基材表面であることと、隙間の長さに対応する厚さを有する溶液のフィルムを形成することと、を含む、基材表面への酸化グラフェン安定化溶液のフィルムの形成方法が提供される。
【0021】
好ましくは、溶液はディスコチックネマチック相の酸化グラフェンの溶液である。すなわち、酸化グラフェンは実質的に全てがディスコチックネマチック酸化グラフェンであることが好ましい。より好ましくは、溝への溶液の引き込み工程ではせん断応力が加えられ、せん断は酸化グラフェンを配向させる。
【0022】
1つ以上の実施形態においては、せん断速度は約0.0005〜約0.05Pa・sのせん断応力を生じさせ、好ましくは、せん断応力は約0.001〜約0.04Pa・sであり、より好ましくは約0.0016〜約0.03Pa・sである。
【0023】
1つ以上の実施形態においては、加えられる応力は2つの対向する表面の間の溶液に加えられ、好ましくはこの応力は少なくとも50Pa、より好ましくは少なくとも65Pa、最も好ましくは少なくとも80Paである。
【0024】
1つ以上の実施形態においては、高い粘性力のため、方法は酸化グラフェン粒子の多孔
質基材へのウィッキングを排除し、それによって下の多孔質基材から電気的に分離された酸化グラフェンの薄膜が形成される。
【0025】
1つ以上の実施形態においては、方法は、大きい面積の膜を製造するために利用することができる。これは、必要とされる流体の量が少なく、そのためロールトゥロール製造方式を採用できるためである。
【0026】
好ましくは、溝への溶液の引き込み工程は、2つの対向する表面を互いに対して移動させることを含む。
ある実施形態においては、酸化グラフェン溶液の濃度は15mg/mLより大きく、好ましくは少なくとも20mg/mL、より好ましくは少なくとも30mg/mL、更に好ましくは少なくとも40mg/mL、最も好ましくは少なくとも60mg/mLである。
【0027】
好ましくは、加えられる応力は酸化グラフェン溶液の濃度に相関する。例えば、少なくとも15mg/mLの濃度については、加えられる応力は少なくとも50Pa、より好ましくは少なくとも60Paであることが好ましく、少なくとも20mg/mLの濃度については、加えられる応力は少なくとも70Pa、より好ましくは少なくとも80Paであることが好ましく、少なくとも40mg/mLの濃度については、加えられる応力は少なくとも140Pa、より好ましくは少なくとも160Paであることが好ましく、少なくとも60mg/mLの濃度については、加えられる応力は少なくとも250Pa、より好ましくは少なくとも300Paであることが好ましい。
【0028】
ある実施形態においては、溝への溶液の引き込み工程では、約10〜約200,000毎秒のせん断速度が与えられる。好ましくは、せん断速度は約1000〜約10,000毎秒である。
【0029】
ある実施形態においては、溝への溶液の引き込み工程では、少なくとも約10毎秒、より好ましくは少なくとも100毎秒、更に好ましくは少なくとも1000毎秒、最も好ましくは少なくとも5000毎秒のせん断速度が与えられる。
【0030】
ある実施形態においては、第2の対向する表面は、ロッドコーター、ロールコーター、ナイフコーター、フレキシブルコーター、カーテンコーター、及びグラビアコーターからなる群から選択される塗布装置の塗布器表面である。
【0031】
多種多様の基材を選択することができる。しかし、酸化グラフェンフィルムの意図される用途が濾過での使用の場合、基材は多孔質基材であることが好ましい。好ましくは、多孔質基材はポリマー、金属、及びセラミックからなる群から選択される。
【0032】
好ましくは、基材は約20nm〜約1000nmの範囲の細孔径を有する。
ある実施形態においては、方法は、フィルム上に存在するカルボキシル基、ヒドロキシル基、又はエポキシ基などの官能基のうちの少なくともいくつかを取り除くためにフィルムを処理して、還元された酸化グラフェンフィルムを形成することを更に含む。
【0033】
好ましくは、フィルムの処理工程には還元剤を用いた化学処理が含まれる。より好ましくは、還元剤は、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸塩、NaOH、KOH、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物である。加えて、又は代わりに、フィルムの処理工程にはプラズマ、イオンビーム、熱、UV光、又はこれらの組み合わせを用いた物理的処理が含まれる。
【0034】
本発明の別の態様においては、前述した方法に従って形成される酸化グラフェンフィル
ム又は還元された酸化グラフェンフィルムが提供される。好ましくは、酸化グラフェンフィルム又は還元された酸化グラフェンフィルムは膜である。
【0035】
好ましくは、酸化グラフェンフィルムは、ピンホールなどの欠陥を実質的に有さない。
本発明のまた別の態様においては、実質的に上述したようなグラフェン膜、又は実質的に上述したような方法によって形成されたグラフェン膜を処理して、酸化グラフェン膜から化学的部位を取り除くことで還元された酸化グラフェン膜を形成する、還元された酸化グラフェンフィルムの形成方法が提供される。
【0036】
好ましくは、フィルムの処理工程は、フィルムを還元剤に触れさせることを含む。より好ましくは、還元剤は、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸塩、NaOH、KOH、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物である。加えて、又は代わりに、フィルムの処理工程にはプラズマ、イオンビーム、熱、UV光、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される処理工程を用いた物理的処理をフィルムに受けさせることが含まれる。
【0037】
処理工程は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及び/又はエポキシ基からなる群から選択される化学的部位を取り除くことが好ましい。
本発明のまた別の態様においては、上述したような還元された酸化グラフェンフィルムの、膜分離プロセスにおける膜としての使用が提供される。
【0038】
1つ以上の実施形態においては、本発明の方法に従って形成される膜は、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、FeやAuやCuのシアニド錯体類、HgやPbやAsやCdやCu等などの重金属の塩(ただしこれらに限定されない)などのイオンの選択的な輸送のために使用することができる。
【0039】
1つ以上の実施形態においては、膜は非対称膜である。非対照膜は、水、エタノール、メタノール、ブタノール、ヘキサン、及びトルエン(ただしこれらに限定されない)などの液体を使用して、最大10〜15barの圧力まで加圧されたフローセル中で利用することができる。
【0040】
1つ以上の実施形態においては、非対照膜は200〜800Daの範囲の分子量を有する小分子の分離のために利用することができる。
1つ以上の実施形態においては、イオン、小分子の透過性に影響を与えるために、又は汚染後の膜の再生のために、グラフェン膜に電場を印加することができる。電場は、2電極/3電極構成の作用電極としての膜を使用することによって印加され、一方で膜は濾過膜としても機能する。
【0041】
本発明のまた別の態様においては、支持層の上の酸化グラフェン層を含む酸化グラフェン膜であって、酸化グラフェン層が配向したディスコチック酸化グラフェン粒子を含む、酸化グラフェン膜が提供される。
【0042】
前述の段落に記載されている本発明の更なる態様及び態様の更なる実施形態は、例示目的で示されており添付の図面を参照する以降の記載から、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】ヒドロゲルビーズの添加によって濃縮された酸化グラフェン安定分散液の写真である。
図2】(a)は本発明のコーティング方法のある実施形態の説明図であり、(b)はディスコチックネマチックコロイド相の画像である。
図3】ヒドロゲルビーズのラマン分光法によるキャラクタリゼーションである。GOのラマンスペクトル、GO溶液中で膨潤したヒドロゲルビーズ、及びRO水中で膨潤したヒドロゲルビーズである。
図4】分散液のゼロせん断粘度がGO濃度の増加に伴って増加することを示すグラフであり、はめ込み図はアイソトロピックからネマチックへの相転移の始まりと一致する5mg/mlからの粘度の大きな変化を示す。
図5】ずり流動化挙動を示す3つの異なる濃度についてのレオロジーデータを示すグラフである。実線の曲線はべき乗則モデルを用いた実験データの当てはめである。
図6】ドクターブレードの溝における速度分布の流れ分布概略図である:(A)溝流れ、(B)クエット流れ、(C)全流れ。
図7図7(a)、(b)、(c)、及び(d)は、濃縮された酸化グラフェン溶液の膜を形成するために使用される本発明の実施形態に従う実験構成、及び得られたグラフェン膜を示す。
図8】フィルムの均質性及び連続性に対するGO濃度の影響。作用させるせん断速度が同じ条件で、異なる濃度のGOからキャストしたせん断配向膜の上面を示す写真である。GOの濃度を増加させることによって(これにより粘度が上昇し、表面張力が下がる)、キャスト膜の均質性及び連続性が改善されていることが分かる。全てのスケールバーは1cmである。
図9】走査型電子顕微鏡による特性評価。濃度を徐々に増加させることによりキャストされた我々のGO膜の上面のSEM画像:(a)0.1mg/ml、(b)2.5mg/ml、(c)5mg/ml、(d)10mg/ml、(e)15mg/ml、(f)20mg/ml、(g)40mg/ml、(h)60mg/ml。濃度が増加するにつれて、ピンホール及び乾燥による欠陥はなくなった。連続的で均一なフィルムは20mg/mlを超えてから形成され始める。全てのスケールバーは50μmである。
図10】60mg/mLの酸化グラフェン濃度で作られた、多孔質ナイロン支持体上の、厚さ10〜40nmの薄膜を有する非対照膜のSEM画像である。
図11】粘弾性GO(約40mg/ml)を示す写真である;スケールバーは1cmである。
図12】SAMを示す写真である。写真の中の赤い円はSAMの中のディウェッティングスポットを示しており、これは液晶GOから加工される場合にはなくなる;スケールバーは1cmである。
図13】多孔質ナイロン基材上のSAMの連続性及び整合性を示すSEM画像である;スケールバーは1μmである。
図14】グラビア印刷機の写真及び様々な厚さの13×14cmのGO膜の画像(挿入画像)である。
図15】(a〜c)SAM及び(d〜f)真空濾過膜の偏光画像である。SAM及び真空濾過膜は、それぞれ約40mg/mlのネマチック相GO及び約10μg/mlのアイソトロピック相から作られた。(a)及び(d)は疑似カラー化した偏光画像であり、色相は凡例に描かれている方位を表す(スケールバーは50μmである)。同じ色相を有する領域は同じ方位角を有しており、そのため、真空濾過膜の方がより少ない重なり秩序を有する一方で、SAMの方がより多い面内重なり秩序を有する。これは、囲まれた領域の拡大図(スケールバーは10μm)であるこれらの遅相軸のベクトル表示(b、e)、方位角及び面内秩序パラメーターの極座標ヒストグラム(c及びf)によって裏付けられる。概略図(c)及び(f)は、膜中のグラフェンシートの予測される組織化である。
図16】SAMについての高秩序な層状構造が示されている、SAM及び真空濾過膜のXRDパターンである。
図17】GOのSAM及びヒドラジン蒸気で部分的に還元した後のSAMのXRDパターンである。
図18】SAMの高さ分布である;スケールバーは1μmである。
図19】SAMの高さ分布を示すグラフである。
図20】GOのSAM及びヒドラジン蒸気で部分的に還元した後のSAMのFTIRスペクトルである。
図21】膜試験装置である。膜の性能を調べるために、窒素ガスで加圧した全量濾過セル(高圧撹拌セルを有するSterlitech HP4750)を使用した。
図22】SAMと真空濾過膜を用いた水の透過性の比較を示すグラフである。エラーバーは最大値と最小値を示す5回の測定由来である。
図23】SAMと真空濾過膜を用いた、電気的に中性なプローブ分子であるメチルレッドの保持率の比較を示すグラフである。はめ込み画像は電気的に中性なプローブ分子の構造である。エラーバーは最大値と最小値を示す5回の測定由来である。
図24】本発明のある実施形態に従って形成された膜の排除試験の結果である。
図25】純水の透過率及びプローブ分子存在下での水の透過率のグラフである。透過率は、プローブ分子を用いた排除試験時に減少した。結果は、最大10%の減少が観察されることを示しており、これは小さい分子ほど多く(メチルビオロゲンで約10%の減少)、大きい分子ほど少なく(メチルブルー及びブリリアントブルーで約4.2%)、最少の吸着作用と一致する。エラーバーは最大値と最小値を示す5回の測定由来である。
図26】メチルレッド濾過の前(1)及び後(2)、並びに洗浄工程後(3)の膜の写真であり、これは元の膜表面の再生を示す;スケールバーは1cmである。
図27】様々な電荷及び大きさのプローブ分子についての、水和半径の関数としての、150±15nmの厚さのせん断配向膜の0.5barの窒素圧下での保持性能を示すグラフである。(MVはメチルビオロゲンであり、MRはメチルレッドであり、MnBはメチレンブルーであり、MOはメチルオレンジであり、OGはオレンジGであり、Ruはトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)クロリドであり、RBはローダミンBであり、RosBはローズベンガルであり、MBはメチレンブルーであり、BBはブリリアントブルーである。緑、赤、及び青の記号はそれぞれ電気的中性、負、及び正に帯電したプローブ分子を表す。膜は、5Åより大きい半径を有する全ての分子の少なくとも90%を保持した。水和半径は、プローブ分子のコノリー接触面から見積もられる。
図28】プローブ分子についての膜の保持力の詳細を示すグラフである。エラーバーは最大値と最小値を示す5回の測定由来である。
図29】3つの異なる膜、すなわち厚さ150±15nmのSAM(赤)、厚さ170±20nmの真空濾過(青)、及び市販のナノ濾過膜NF270(緑)についての、水の流束対加えられる圧力を示すグラフである。エラーバーは最大値と最小値を示す5回の測定由来である。
図30】本発明のある実施形態に従って作製された膜に対して行われた透過試験の結果である。
図31】4つの異なる塩溶液についての、0.5barの窒素圧下での厚さ150±15nmのSAMによる塩保持を示すグラフである。エラーバーは最大値と最小値を示す5回の測定由来である。
図32】長期間の実行可能性、BSAの濾過時の膜の低汚染挙動、及び化学洗浄後の流束の回復を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明者らは、酸化グラフェン分散液の濃縮、酸化グラフェン溶液の層での基材の被覆、及び制御された脱酸素化により安定化された被支持グラフェン膜の製造、のための改良された方法を開発した。
【0045】
本発明者らは、超高速の水の輸送並びに気体及び溶媒和分子の正確な分子の篩分けを示し、新規な分離の場として有望である、グラフェンを主体とする膜も開発した。
本発明者らは、大面積の膜を製造するための、工業的に適用可能な、高速かつ拡張性のある方法によって、酸化グラフェン(GO)のディスコチックネマチック相をせん断配向させて、支持膜上に、多層GOの高秩序で連続的な薄膜を形成できることを見出した。多
孔質基材に支持された、薄くて均一な連続的なグラフェンを主体とする膜などである。例えば、本発明の方法は、13×14cmの面積を有する膜を5秒未満で形成するために使用された。
【0046】
せん断配向プロセスは、グラフェンを主体とする膜の中に、大きい面内秩序及び積層周期性をもたらす。この構造的な秩序は、分子の篩分け及び静電反発力によって有機分子及びイオンの保持を促進しつつも、水の流束を劇的に増大させることが分かった。そのため、本明細書に開示されている方法を使用することで、本発明者らは、せん断により誘起される工業的に適用可能な液体薄膜プロセスによるGOのディスコチックネマチック相を利用して、実質的に欠陥のない、大面積の非対称GO膜(本明細書においてせん断配向膜(SAM)と呼ぶ)を形成することができた。
【0047】
圧力による輸送のデータは、水和半径が5Åを超える電荷を帯びた及び帯びていない有機プローブ分子についての高い保持率(>90%)だけでなく、一価及び二価の塩の中程度(30〜40%)の保持率も示す。膜平面内の高秩序なグラフェンシートは組織化された溝を形成し、例えば150±15nmの厚さの膜については、最大71±5lm−2hr−1bar−1まで透過性を高める。
【0048】
せん断配向によって製造される大面積のグラフェンを主体とする膜は、市販のDow Filmtec NF270膜よりも大きい流束を有しており、単純な溶媒による洗浄によって優れた流束の回復を示す。これらの大面積のグラフェンを主体とする膜は、非常に望ましい低圧で低汚染の膜主体のナノ濾過分離プロセスの理想的な候補である。
【0049】
ある実施形態においては、安定化された酸化グラフェンの水溶液の濃縮方法が提供される。酸化グラフェンの最初の溶液は、Hummers法などの当該技術分野で既知の方法に従って調製することができる。Hummers法及びその変形法による黒鉛の酸化及び剥離によって、酸化グラフェン(GO)としても知られる、酸化官能基で修飾されたグラフェンのナノシートが生成する。異方性のGOナノシートは、大きい体積分率を有する安定なコロイド懸濁液として、水を含む液体の中に分散させることができる。
【0050】
本発明の方法は、酸化グラフェン溶液を濃縮するために複数のヒドロゲルビーズを溶液に添加することを含む。ヒドロゲルビーズは、安定化された酸化グラフェンを吸収することなしに、溶液から水を吸収する。これによって、安定化された酸化グラフェンの濃縮溶液が得られる。この方法によって、懸濁液が粘弾性のある液晶性流体へと変換される。得られる流体は、せん断力、電気的な力、及び磁気的な力が加えられると容易に流動することができる。
【0051】
この方法は、典型的には、加熱又は真空装置の使用などによって安定化された酸化グラフェンを濃縮する従来の手法よりも迅速でエネルギー消費量が少ない。試料の濃縮に要する時間は、初期濃度及び目標最終濃度に依存する。しかし、本発明の方法を使用すると、約0.25mg/mLの初期濃度から約20mg/mLの目標濃度までの溶液の濃縮に約1時間かかる。
【0052】
全てのヒドロゲルビーズは一気に添加してもよいし、あるいはヒドロゲルビーズの添加は一定時間かけて行ってもよい。各ヒドロゲルビーズは、逐次的に添加してもよい。ヒドロゲルビーズは、酸化グラフェン溶液にバッチ式又は半バッチ式で添加してもよい。あるいは、酸化グラフェン溶液を、連続撹拌槽型反応器又は押出し流れ反応器のCSTR型又はPFR型プロセスでヒドロゲルビーズと接触させてもよい。中でヒドロゲルビーズが懸濁されている若しくは保持されている反応器に酸化グラフェンを流通させて、濃縮された酸化グラフェン溶液を反応器の出口から出してもよい。ある実施形態においては、20m
g/mlの酸化グラフェン懸濁液10mlを製造するために、0.25mg/mlの酸化グラフェン濃度を有する800mlの初期溶液が準備された。ヒドロゲルビーズは溶液に添加された。これらのビーズは、溶液から水を吸収するにつれて膨潤する。このビーズは、典型的には、2mmの乾燥直径から約20mmの最終膨潤直径までなど、それらの元の直径の約10〜60倍まで膨潤する。
【0053】
図1は、ヒドロゲルビーズの添加により濃縮された酸化グラフェンの安定分散液の写真を示している。酸化グラフェンの溶液200は、0.25mg/mLの酸化グラフェン濃度で調製された。初期乾燥直径2mmのヒドロゲルビーズ202を溶液に添加することで、溶液とヒドロゲルビーズとの混合物204を形成した。ビーズ202は溶液から水を吸収し、それらの元の直径の約10倍までその場所で膨潤して206、水を取り除く。その後、ビーズは一般的な分離方法を使用して溶液から取り出される。示されているように、取り出されたビーズ208は透明であり、これはビーズによって水のみが吸収されたことを示唆している。酸化グラフェンシートはビーズに吸収されておらず、溶液中に残っていた。取り除かれた水の量は、元の溶液200と中間の得られた溶液210との間の高さの差によって決定することができる。取り除かれた後、取り出されたビーズ208は、乾燥してその乾燥状態に戻すことができる。その後、ビーズは、溶液212を最終目的濃度(この場合は約20mg/mL)まで更に濃縮するために、再利用することができる(あるいは別の新しいビーズが準備されてもよい)。この吸収工程は約1時間かかり、ヒドロゲルの逐次的な添加が含まれた。この事例では、20mg/mLの酸化グラフェン濃縮物10mLを作製するために、約9gのポリアクリル酸ナトリウム系ヒドロゲルビーズを使用した。ヒドロゲルビーズ1グラム当たり約90mLの水を吸収する。
【0054】
ヒドロゲルビーズが吸収できる水の量は、使用するヒドロゲルの種類に応じて変動し得る。ヒドロゲルビーズが水を吸収し、これらがその完全な膨潤状態に近づくか達した後、ビーズを溶液から分離してもよい。溶液からビーズを集めるために、篩分け又は他の粗濾過プロセスの使用などの、様々な分離手法を適切に用いることができる。当業者であれば、ビーズの最終的な大きさ及び濃縮されたグラフェン若しくは酸化グラフェン溶液の特性に応じて、様々な異なる分離手法を使用し得ることを理解するであろう。その後、残った濃縮された溶液をより小さな容器へと移し(水の吸収の結果溶液の量が減るため)、そこに新たなヒドロゲルビーズを添加してもよい。これらは未使用のヒドロゲルビーズであってもよい。あるいは、集められた膨潤ビーズを必要に応じて洗浄し、吸収された水を除去するために処理してもよい。このような処理には、室温又は高温のいずれかでビーズを乾燥させることが含まれていてもよく、それによりビーズは脱水された未膨潤状態へと戻される。ヒドロゲルビーズは、その後、便利にリサイクル及び再利用することができる。この水の除去工程は、最終目標濃度に到達するまで繰り返すことができる。
【0055】
懸濁液からの水の除去によって、酸化グラフェン粒子の濃度が増加する。これらの粒子の濃度が増加するにつれて、転移エントロピーの増加のみによって補填されるように懸濁液の配向エントロピーが減少し始め、アイソトロピック相からネマチックの液晶相へのコロイド相転移が生じる。この始まりは、GOの円板状のメソゲン基の厚さ対直径の比率に依存する。
【0056】
液晶性は結晶と流体との間の状態を規定し、GOのコロイド分散液においては、その中の構成要素のシートはアイソトロピックになるが、流動性のままでいることができ、せん断などの巨視的な力場に応答できることが実証された。ディスコチックネマチックコロイド相は、連続的なフィルムを製造するために必要な高い固形分含量の要件を上回る膜の形成を可能にする重要な役割を有する。本明細書に開示のGOコロイド分散液は、約5mg/mlでアイソトロピックからネマチックへの相転移を行い、約15mg/mlまで2相系を保ち、そして16mg/ml以上の濃度で完全なネマチック相を形成することが見出
された。アイソトロピック相、二相系、及び完全なネマチック相を示すGOコロイド懸濁液の典型的な物理学的特性が、下の表1に示されている。
【0057】
【表1】
【0058】
安定化されたグラフェン及び/又は酸化グラフェンの濃縮水溶液は、酸化グラフェンフィルムを作成するために使用することができる。本発明者らは、GOのネマチックに配向した流体相が非ニュートン流動特性を有しており、これは、ドクターブレードコーティングやディップコーティングなどのせん断力を使用した大面積のフィルムの製造に利用可能であることを見出した。
【0059】
したがって、本発明の別の態様においては、基材表面上への、酸化グラフェンの安定化溶液のフィルムの形成方法が提供される。この態様においては、上述の方法に従って調製された濃縮溶液などの、濃縮酸化グラフェン溶液が使用される。
【0060】
方法には、コーティング装置又はせん断装置を使用して基材表面に酸化グラフェン溶液を塗布することが含まれる。製造できる膜の大きさは、コーティング装置又はせん断装置の大きさによって制限される。したがって、大面積の膜は、コーティング装置又はせん断装置の大きさを大きくすることによって比較的容易に製造することができる。好ましいコーティング装置又はせん断装置としては、ロッドコーター、ロールコーター、ナイフコーター、フレキシブルコーター、カーテンコーター、及びグラビアコーターが挙げられる。より好ましくは、硬いブレードのせん断装置(典型的には工業用語でドクターブレードとして知られている)が使用される。これにより、大スケールの、連続的で高速な液体薄膜製法が提供される。
【0061】
各事例において、酸化グラフェン溶液は、基材表面とコーティング装置の塗布表面との間に形成される隙間に引き込まれる。例えば、ロッドコーター又はロールコーターの場合、ロッド又はローラーの外表面と基材表面との間に隙間が存在し、ナイフコーターに関してはナイフのエッジと基材との間に隙間が存在する。溶液は、コーティング装置の表面に対する基材表面の相対移動による望ましいせん断速度で、この隙間に引き込まれる。これによって、隙間の高さに対応する厚さを有する、酸化グラフェン溶液のフィルムが基材表面上に形成される。
【0062】
隙間を横切る溶液に加えられるせん断速度は、必要とされる膜の厚さ、溶液の粘度、及び溶液と基材との間の相互作用に応じて、最大200,000毎秒とすることができる。
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、大きいせん断応力が、迅速な単一の工程でネマチックディスコチック相のグラフェンシートを整列又は配向させ、
これを多孔質支持体上の緻密で連続的な均一な膜の中に充填すると仮説を立てている。したがって、大きいせん断速度は、せん断速度を加える相対移動の方向の基材表面に対して実質的に平行な配向での酸化グラフェン結晶の長軸など、酸化グラフェン結晶が中で実質的に配向した均一なコーティングの形成に役立つ。フィルムの最終的な特性に実質的に影響を与えることなしに、ある程度の酸化グラフェン結晶のずれが存在する場合がある。そのため、実質的に平行な配向という用語は、平行から±20°、好ましくは±10°、更に好ましくは±5°以内である酸化グラフェン結晶の配列も包含することが意図されている。
【0063】
図2は、ドクターブレードを用いたコーティング方法の好ましい実施形態の説明図を示しており、またディスコチックネマチックコロイド相も示している。具体的には、図2(a)は酸化グラフェンの液晶性懸濁液のせん断配向を示す。図中、「L」はブレードの幅であり、「h」はブレード表面と基材との間の流路の隙間の高さであり、「H」はブレードの後ろの懸濁液の高さであり、「U」はキャスティング速度である。この事例では、高さhが小さいため、基材表面及び酸化グラフェン溶液の上をドクターブレードが引かれるにつれて、高いせん断応力が発生する。この高いせん断応力は、1つには、大きいせん断速度と酸化グラフェンの高い粘度の組み合わせによって生じる。図2(b)は、ディスコチックネマチックコロイド相を示している。
【0064】
この方法では、溶液は2つのせん断速度、すなわち約10,000s−1でのキャスティング時のものと、乾燥時のもの(ほぼゼロ)を示した。これは、酸化グラフェン溶液が非ニュートン流体であることによる。高せん断速度での粘度は、キャスティング時の溶液に加えられるせん断応力の量に影響を与える。このせん断応力は、酸化グラフェンシートの配向を生じさせるのに非常に有効であり、液体フィルムの滑らかで均一なキャスティングを可能にする(下の表2参照)。大きい粘度は、乾燥時の液体フィルムの安定性を向上させて均一で連続的な膜を生成することから、ゼロせん断粘度はキャスティングした液体フィルムの乾燥時に有効である(下の表2参照)。
【0065】
【表2】
【0066】
高いせん断速度は、懸濁液中の酸化グラフェン液晶ドメインを基材表面の上の非常に薄い膜に充填、配列、及び拘束する懸濁液の秩序化を生じさせる。コーティング流体の粘弾特性を踏まえると、膜の厚さ、緻密性、及び分子秩序は、このコーティング工程時のせん断速度及び圧力を変えることによって調節することができる。
【0067】
膜は、下層となる基材表面の上に直接形成される。様々な基材を使用することができる。ほとんどの用途のためには、特には意図される用途が濾過の場合、基材は20〜1000nmの細孔径を有する細孔を有する多孔質であることが好ましい。基材は、多孔質ポリマー、金属、又はセラミックであってもよい。好ましいポリマーとしては、ナイロン、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリジメチルシロキサン、PTFEが挙げられる。好ましい金属としては、銅、アルミニウム、ステンレス鋼が挙げられる。好ましいセラミックとしては、アルミナ、シリカ、マグネシアが挙げられる。
【0068】
均一なフィルムを形成するためには、コーティング工程の前の溶液の濃度が重要であることも見出された。水の蒸発及び乾燥後に連続フィルムを形成するためには、溶液に十分な量の酸化グラフェンが含まれている必要がある。溶液中の酸化グラフェンの濃度が低すぎると、得られるフィルムが破れたり、乾燥工程時にフィルムにピンホールが生じたりする場合がある。理論に拘束されることを望むものではないが、発明者らは、フィルムの形成時のディウェッティング及び破損を防ぐために、粘性力が毛細管力に打ち勝てるように濃度を十分に高くする必要があると考えている。本発明者らは、15mg/mLより高い、好ましくは少なくとも20mg/mLのグラフェン及び/又は酸化グラフェン濃度で、連続的で均一なフィルムを形成できることを見出した。これが、多くの場合にグラフェン及び/又は酸化グラフェンの溶液(Hummer’s法を使用して形成されたもの等)を、最初に適切な水準まで濃縮しなければならない理由である。
【0069】
方法は、グラフェンフィルムの表面化学的性質を変えることを追加的に含んでいてもよい。これは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びエポキシ基などの官能基を、様々な処理方法によって酸化グラフェンの膜から選択的に除去又は追加して非常に安定な還元された酸化グラフェン膜を形成することによって達成することができる。好適な処理には、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸、KOHやNaOHなどのアルカリ、を用いた化学的処理;又はプラズマ、イオンビーム、熱、UV光への曝露などの物理的処理;が含まれ得る。この処理によって、水、エタノール、メタノール、ブタノール、ヘキサン、及びトルエンなど(ただしこれらに限定されない)の幅広い溶媒の中で化学的及び構造的に安定な膜が得られる。
【0070】
ある実施形態においては、この処理工程は、得られるグラフェン膜を導電性にするために使用することができる。本発明者らは、グラフェン膜に電場をかけると、これらを通過するイオン及び小分子の透過性に影響が生じ得ることを見出した。更に、1つ以上の実施形態においては、電場の印加は有利なことには汚染後の膜の再生に使用することができる。
【実施例】
【0071】
概要
酸化グラフェン(GO)は、改良Hummer’s法を用いて合成した。合成のために、SP−1グレードの325メッシュ黒鉛粉末(Bay Carbon Inc)、硫酸、過硫酸カリウム、五酸化二リン、及び過マンガン酸カリウム(Sigma−Aldrich)を使用した。合成したGOは、RO水中で1時間、超音波(UP−100超音波処理装置)によって剥離し、次いで遠心分離によって未剥離のGOを取り除いた。GOシートの平均横方向サイズは走査型電子顕微鏡(FEI Nova NanoSEM 450
FEGSEM(2012))を用いて決定し、約0.9±0.4μmであると見積もった(平均シートサイズを計算するために90枚のシートを測定した)。Ocean Optics USB4000 UV−vis分光計を用いて230nmでの吸光度を測定することにより(石英セルを使用、Starna Cells Pty.Ltd.Aust
ralia)、GO濃度を決定した。超吸収性ポリマーを用いて様々な濃度のGO分散液を調製した後、更に特性評価を行った。
【0072】
濃縮したGO分散液を、その後、濃縮されたGO分散液中の液晶相のせん断配向による膜の形成を可能にするドクターブレードによって、連続膜へと成形した。適切なGO分散液(約40mg/ml)を用いて、準工業スケールのプリント装置によって、様々な厚さの膜を多孔質ナイロン基材(Nylon66、細孔径0.2μm、MDI,India)の上にキャストした。せん断配向膜(SAM)は、偏光撮像、X線回折(XRD)分析、走査型電子顕微鏡法(SEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)、及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって更に特性評価した。SAMは、濾過試験に必要なサイズ(直径47mm)に切断した。SAMの水に対する安定性を向上させるために、GO膜が入った密閉容器を60℃のホットプレート上に置くことによって、これらを0.02mlのヒドラジン水和物蒸気(88%、Merck)に5分間曝露して部分的に還元した。膜の水透過性及び保持能力(様々なプローブ分子及び塩について)は、全量濾過装置(Sterlitech HP4750高圧撹拌セル)を用いて調べた。SAMの化学洗浄による流束の回復は、一般的な実験室モデルの汚染物質としてのウシ血清アルブミン(Bovine
Serum Albumin,Sigma−Aldrich)を濾過することによって調べた。せん断配向膜の特異性は、構造及び分離性能の観点から、真空濾過によって製造されたGO膜と比較した。
酸化グラフェン(GO)の濃縮
加熱又は真空装置の使用などの、濃縮GO分散液を製造するための従来の手段は、時間と労力を要する。本発明は、その代わりに、濃縮GO分散液の作製のために、非常に親水性である超吸収性ポリマーのヒドロゲルビーズを使用した。GO分散液の濃縮は、ヒドロゲルビーズが水に溶解したりGOシートを吸収したりすることなしに水を吸収して保持する、ポリマーヒドロゲルビーズの能力のために生じる。典型的には、架橋ポリアセテートコポリマーを主体とするヒドロゲルビーズ(Demi Co,Ltd,China)を使用した。これらのヒドロゲルビーズは、それらの重量の最大90倍まで水を吸収することができる。GO分散液を濃縮するために要する時間は、初期濃度、目標濃度、及び使用するビーズの質量次第である。例えば、10gのヒドロゲルビーズを用いることで、0.25mg/mlのGO懸濁液1lから、20mg/mlの濃度のGO分散液10mlが約1時間以内に得られた。生じ得るビーズ周りの濃度の偏りを避けるために、そして吸収工程を速めるために、容器を磁気撹拌子で穏やかに撹拌した。ヒドロゲルビーズが水で飽和した後、これらを濃縮溶液から取り出した。飽和ビーズの表面に付いた付着GOは、RO水で洗って取り除いた。飽和ヒドロゲルビーズは、50℃で終夜乾燥した後に再利用することができた。
GOの特性評価
ラマン特性解析
GOが水と共にヒドロゲルビーズの中に吸収されたか否かを調べるために、ラマン分光法を使用した。GOは、それぞれ欠陥の量及びsp2炭素原子の面内結合伸縮に対応する、約1330cm−1(Dバンド)と約1580cm−1(Gバンド)の、2つの特徴的なラマンピークを有する。濃縮工程時にヒドロゲルビーズがGOを吸収したとすると、膨潤ビーズのラマンスペクトルはこれらの特徴的なピークを示すであろう。このために、GO溶液に浸した後の膨潤したヒドロゲルビーズのラマンスペクトルを、2つの対照スペクトル、すなわちGOフィルムのスペクトル及びRO水に浸した後の膨潤したヒドロゲルビーズのスペクトルと比較した。
【0073】
GO試料は、スライドガラス上へGO(5mg/ml)をドロップキャストし、次いで実験室環境条件で終夜乾燥することによって作製した。飽和したヒドロゲルビーズ(5mg/mlのGO又は純粋なRO水のいずれかの中で膨潤)は、ステンレス鋼製のメス刃で切断し、スライドガラス上にのせた。GOと膨潤ヒドロゲルビーズのラマンスペクトルは
、HeNe(632.8nm)レーザーを備えた10%の出力で稼働するRenishaw Confocal顕微ラマン分光装置を使用して得た。拡張スキャン(10秒)は、レーザースポット径1μmで、100〜3200の波数で行った。バックグラウンドを取り除いた後、データを最大強度で割ることでスペクトルの強度を正規化した。ピークの位置は、スペクトルデータの分析で一般的に行われているように、半値全幅を用いて検出した。図3に示されているように、GOの特徴的なピークは、GO懸濁液中で膨潤したヒドロゲルビーズの中では観察されなかった。したがって、GOは濃縮工程時にヒドロゲルビーズの中には吸収されず、ビーズはGO懸濁液から水のみを吸収する。
レオロジー
GO分散液の粘度を測定するために、HAAKE MARS IIレオメーター(Thermo Electron Corporation,Germany)を使用した。チタンでコーティングされた直径60mmのコーンプレートと、1°のコーン角を使用した。コーンプレート内部の温度は、Peltierシステム及びサーモスタットHAAKE Phoenix II(Thermo Electron Corporation,Germany)を用いて22.00±0.01℃に固定した。実験は、0.041mmの一定ギャップで、2mlの分散液を用いて行った。
【0074】
ゼロせん断粘度は、0.001s−1のせん断速度でGO分散液の粘度を測定することによって評価した。図4は、GO濃度が増加するにつれてゼロせん断粘度が増加することを示している。酸素で修飾されたGOシートでは、それら自体の中での及び水分子との、水素結合の形成によりゼロせん断粘度が増加した。GOが低濃度では、水素結合により水がGOシートと結合したが、GOシートの数が増加すると、水−粘土分散液と同様に、グラフェンシートと水分子とが会合して水素結合による三次元ネットワークを形成し、これが懸濁液の流動性を減少させ、GO分散液の粘度を増加させる。更に、5mg/mlの濃度を過ぎてからの粘度の大きな変化は、液晶性ネマチック相の始まりと一致する。
【0075】
図5は、せん断速度(γ)の関数としての、GO分散液の見かけ粘度(η)を示している。異なるGO分散液濃度で、非ニュートンずり流動化(疑塑性)挙動が観察された。GO分散液のネマチック相は、低いせん断速度ではランダムに分布していて配向せず、これにより高い粘度になっていると推測される。大きいせん断速度では、ランダムに分布していたネマチック相がせん断応力の方向に配向して互いの物理的相互作用が小さくなり、その結果として粘度が低下する。図5は、GO分散液の粘度がべき乗則粘度モデルとよく一致したことを示している。べき乗則モデルでは、理想的な塑性材料の指数は−1であり、この理論値からの逸脱は塑性挙動の損失を示す。GO濃度が10mg/mlから40mg/mlへと増加すると指数は−0.580から−0.087へと減少し、これはネマチックGO相に起因する塑性の増加を肯定するものである。
表面張力及び接触角
GO分散液の表面張力を濃度の関数として測定するために、カスタム設計のペンダントドロップ装置を使用した。直径0.7mmのキャピラリーの先端にドロップを形成し、液滴の形状をデジタルCMOSカメラで観察した。Young−Laplaceの関係によって見積もられる液滴の理論的に予測される曲率と、実際の曲率とを比較することによって、カスタマイズしたソフトウェアでこれらの分散液の表面張力を決定した。
【0076】
GO分散液とナイロン基材との間の静的接触角は、直径0.7mmのキャピラリーを用いてナイロン基材上にGO分散液の液滴(約3μlの体積)を載せることによって測定した。液滴を載せた後すぐに、デジタルカメラを用いて液滴の形状を観察した。接触角の平均値は、ナイロン基材上の5か所の異なる地点での接触角の測定から測定した。
【0077】
表面張力及び接触角を正確に測定するために、複数の基準、すなわち、液滴は中央の垂直軸に対称でなければならないことと、液滴は重力と表面張力によってのみ形作られ、粘
度などの他の力が液滴の動き又は慣性に働いてはならないこと、が満たされた。40及び60mg/mlのGO分散液によって形成された液滴は、これらの分散液の高い粘度のためにこれらの基準を満たさなかった。そのため、これらの2つの事例に関しては、表面張力と接触角は直線外挿法で見積もった(下の表3及び4参照)。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
これらの分散液のために直線外挿を使用した根拠は、GOが界面活性剤のような特性を有すると考えられてきたことを踏まえれば、GO濃度の増加に伴ってGO分散液の表面張力が減少することである。GO分散液とナイロン基材との間の接触角は表面張力の低下に伴って減少し、これはYoungの式における接触角と表面張力との間の逆相関と一致する:
cosθ∝1/γLA
式中、θはGO分散液とナイロン基材との間の接触角であり、γLAはGO分散液の界面張力である。
膜の製造
ドクターブレード法による薄膜製造の基本概念
迅速な単一の工程でネマチックディスコチック相のグラフェンシートを配向させ、これを多孔質支持体上の緻密で連続的な均一な膜の中に充填することに対するせん断応力の影響を調べるために、クエット流れの下で流体を薄い矩形の溝を通して広げるラボスケールのドクターブレードを使用した。
【0081】
ドクターブレード法における本質的な物理的パラメーターを明らかにするために、一般的なNavier−Stokes方程式を使用し、流体の流れがニュートン流であると仮定して、ドクターブレードの矩形溝中のキャスト液の流動力学を分析した。ドクターブレードのギャップ中の流体の流れは、圧力駆動流(ブレードの前のGO分散液の静水圧により生じる)とクエット流れ(ブレードの外部せん断により生じる−図6参照)の組み合わせに影響される。速度分布は次式によって計算される:
【0082】
【数1】
【0083】
式中、uはy方向への流れの速度であり、Uはキャスト処理速度であり、μ及びρはそれぞれ見かけ粘度及びGO分散液の密度である。Hはドクターブレードの前のGO分散液の高さであり、h及びLはブレードギャップの寸法である(図2参照)。実験条件(U=1cm/s、h=10−6m)に基づくと、ブレードの外部せん断がブレードギャップ中の流体の挙動を支配し、そのためブレードギャップ中の分散液の全速度分布は、
【0084】
【数2】
【0085】
とみなすことができる。ここで、せん断速度は、
【0086】
【数3】
【0087】
で計算され、せん断応力は
【0088】
【数4】
【0089】
で定義され、そのため、加えられるせん断応力(その流体の粘度が支配的な材料パラメーターである)は、
【0090】
【数5】
【0091】
で示される。ここで、τはせん断応力であり、ηはGO分散液の粘度であり、Uは処理速度であり、hはドクターブレードのギャップの大きさである。0.1mg/ml〜60mg/mlのGO流体を、粘度を系統的に変化させて調査した。GO流体を濃縮するために用いられる方法(上述)によって、この濃度範囲の迅速な検査をすることができる。膜の均一性及び連続性は、2つの要因、すなわち均一な液体フィルムのキャスティングとその後の乾燥時の液体フィルムの安定性の維持の競合により生じる。
【0092】
この式によって、ドクターブレードがGOの分散液に与える全せん断応力が見積もられる。キャスティング速度とドクターブレードのギャップは実験中一定に保たれたことから、せん断応力はGO分散液の粘度に依存する。したがって、加えられる大きいせん断応力(表2参照)が、ネマチック相のGOシートを配向させる。
【0093】
図7は、濃縮酸化グラフェン溶液の膜を形成するために使用された実験構成を示している。図7(a)は、この濃縮溶液700の多孔質ナイロン基材702への塗布を示す。図7(b)は、望ましいせん断速度を酸化グラフェン溶液全体に与えるためのドクターブレード組立体706を含むように改造されたシリンジポンプ704を示す。非対称の被支持酸化グラフェン膜708が形成された。非対称膜は、膜の機械的な支持と安定性を付与する真下にあるより薄い支持体と一体になった、分離の役割を果たす薄い機能層を有する。図7(c)は、得られた被支持酸化グラフェン膜708が優れた柔軟性を示すことを示している。図7(d)は、製造後のヒドラジン蒸気中での脱酸素工程の後の膜708を示す。
【0094】
図8(写真)及び図9(SEM画像)は、GO濃度が増加するにつれてキャストフィルムの均一性が増加したことを示している。特に図9は、異なる濃度、具体的には(a)0.1mg/ml、(b)2.5mg/ml、(c)5mg/ml、(d)10mg/ml、(e)15mg/ml、(f)20mg/ml、(g)40mg/ml、(h)60mg/ml、の初期溶液から形成された酸化グラフェン膜についての表面形状のSEM画像を示している。スケールバーは50μmである。SEM画像から分かるように、濃度が増加するにつれピンホール及び乾燥による欠陥がなくなり、連続的で均一なフィルムは、少なくとも20mg/mlの酸化グラフェン濃度を有する溶液を使用する場合に得られる。
【0095】
コーティング流体の粘弾特性を踏まえると、膜の厚さ、緻密性、及び分子の秩序は、上述のコーティング工程時のせん断速度及び圧力を変えることによって調節することができる。非対称膜(多孔質ナイロン支持体の上の10〜40nmの薄膜)の走査型電子顕微鏡画像は図10に示されている。図10中のSEM画像は、60mg/mlの濃度を有する酸化グラフェン溶液から形成されたグラフェンを主体とする膜のものである。図10(a)は、連続的な酸化グラフェン膜の上面を示している。図から分かるように、酸化グラフェンシートを折り畳むと皺が生じる。図10(b)、(c)、及び(d)は、異なる倍率での、多孔質ナイロン基材上の酸化グラフェン膜の連続性、均一性、及び厚さを示している。
【0096】
GO分散液は、特に高い体積分率において、ずり流動性の擬塑性流体であり、これはゼロせん断で非常に粘性であり、高せん断速度で非常に流動性である(粘弾性GOの写真を示す図11及び図4を参照)−これはせん断配向によって均一な膜を得ることの助けとなる。例えば、40mg/mlのGO分散液は、66Pa sのゼロせん断粘度を有するであろう。しかし、本開示の方法に関連する104s−1のせん断速度では、これは0.0164Pa sまで減少するであろう。これは、ネマチック相がブレードのミクロンスケールの出口の下で力を受けた場合には流体になることを意味し、膜の形成は、下にある多孔質膜を濡らすためのネマチック流体のより小さい表面張力及びより小さい接触角(図1参照)によっても促進される。
【0097】
均一な膜を得るためには、GO分散液から加工された液体フィルムが、これが乾燥するまで均一で連続的なままでいることが重要である。もし何等かの理由で液体フィルムが基材上でずれたり動いたりすると、ディウェッティングが後に生じる場合があり、フィルムの均一性と連続性が低下する(図12及び図8参照)。したがって、乾燥時に液体フィルムの安定性を維持するために、フィルムはディウェッティングに耐性がある必要がある。
【0098】
通常、ディウェッティングは、非濡れ性の基材上で生じ、様々なフィルム減粘化メカニズムによっても開始される場合があり、これは穴が生成し、膜が破れるまで続く。溶媒の蒸発(特に低濃度分散液の場合)、分散液と基材との間の静電反発力(又は引力)、重力又はキャピラリーによって引き起こされる流れによる分散液の移動、フィルムの厚さ及び粘度、並びに表面張力勾配などの、多数の要因がディウェッティングに影響を与える。全
てのフィルム減粘化メカニズムの中で、ディウェッティングの支配的な要因は分散液の低い粘度と大きい表面張力である。
ディウェッティング時間は、
【0099】
【数6】
【0100】
によって見積もることができる。ここで、tdewetはディウェッティング時間(s)であり、σ(N/m)及びμ(Pa.s)は、それぞれ表面張力及び分散液の粘度であり、θ(rad)は分散液と基材との間の接触角である。kは、流体特性に関係する定数であり、水を主体とする系については10−3とみなされる。Lは長さの尺度であり、これは基材の幅の10%と見積もられる。乾燥時間は、
【0101】
【数7】
【0102】
(Δhは液体フィルムの厚さの80%と見積もられるパラメーターであり、Jは溶媒蒸発の流れ(cm.s−1)である)で定義される、液体フィルムのキャスティングとその固化時間との間の時間である。破れを防いで連続的で均一なフィルムを得るためには、乾燥時間はディウェッティング時間よりも短くなければならない。
【0103】
フィルムの安定性及びディウェッティング現象を見積もり、連続的なGOフィルムの製造に必要とされる最適条件を得るために、単純なラボスケールのドクターブレード(MTI Corporation,USA)を様々なGO濃度のために使用した。ドクターブレードは、ブレードと基材との間に形成される矩形の出口を有しており、ここを通して可動ブレードがGO分散液を基材上に広げる(図2参照)。ドクターブレードのギャップの大きさは約1μmであり、キャスティング速度は約1cm/sであった。典型的には、GOフィルムを作製するために、1mlのGO分散液をドクターブレードを用いて多孔質ナイロン基材(Nylon66膜、細孔径0.2μm、5×5cm、MDI,India)上に広げた。ドクターブレードの動きを正確に制御するために、シリンジポンプを用いた。その後、得られた液体フィルムを周囲条件で終夜乾燥した。
【0104】
は乾燥後の液体フィルムの質量損失を記録することによって計算した。液体フィルムの体積は、GO分散液の質量と濃度を使用して、GOの密度(約1.8g/ml 22)を考慮することによって計算した。体積を液体フィルムの面積で割ることによって、乾燥時の液体フィルムの厚さを得、引き続きJを計算した(2×10−6cm s−1)。
【0105】
GO濃度を増加させることで、ゼロせん断粘度の増加及び表面張力の低下により、ネマチック流体のディウェッティング時間スケールを6桁よりも多く容易に増加させることができる(表1参照)。40mg/mlを超える濃度に関しては、ディウェッティング時間は乾燥時間よりも大幅に長く、液体フィルムの安定性が確保される。光学画像及びSEM及び(図8及び9参照)は、そのような高濃度から形成されたフィルム中でのディウェッティングが妨げられることを裏付けている。図13は、多孔質ナイロン(0.2μmの細孔サイズ)基材上のGO膜の、薄く、高度に均一であり、連続的であり、緻密な多層構造を示すSEM画像である。膜製造における我々の手法の能力を示すために、多孔質ナイロン基材上に、約65nm〜約360nmの範囲の厚さを有する大面積のGO膜をグラビア印刷機によって製造した(図14参照)。膜を化学的に還元するために、溶液化学又はエ
ネルギー照射を利用する複数の方法が使用可能であるが、水性環境で膜を安定化する概念実証として、我々はヒドラジン蒸気への曝露(約5分)によってGO膜を部分的に還元した。
【0106】
40mg/ml及び60mg/mlのGO懸濁液によって製造したフィルムが、最も良好な均一性及び連続性を有する。これは、結果としてディウェッティング時間を増加させる、ゼロせん断粘度の増加、増加した接触角、及びGOの高い濃度での表面張力の減少に起因し得る。実際、GO濃度が0.1mg/mlから40mg/mlへと増加すると、ディウェッティング時間は0.012秒から4313秒へと増加した(表1参照)。40mg/mlのGO分散液の場合、乾燥時間(40秒)はディウェッティング時間(4313秒)よりも大幅に短いことから、これらの条件下で均一なフィルムを製造することができた。
グラフェンを主体とする膜のせん断配向による準工業スケールでの製造
大面積の、連続的な、被支持GO膜は、従来のグラビア印刷機(Labratester,Norbert Schlaefli Machinery Company,Switzerland)を用いて作製した(図14参照)。Labratesterは、典型的には、様々なグレードの紙、銅箔、アルミニウム箔、及びポリマーシートの上に粘性のインクを印刷するための製造手段として使用される。GO膜を製造するために、少量のGO分散液を印刷プレートの上に載せて、これをドクターブレードによって広げた。次いでゴムで被覆されたローラーによって、印刷プレートの上で基材を加圧し、液体フィルムを印刷プレートから基材へと移動させた。GO膜は、GO分散液(40mg/ml)と、13×14cmの多孔質ナイロン基材(Nylon 66、細孔径0.2μm、MDI,India)とを使用して作製した。異なる厚さのGO膜は、同じ基材上で印刷工程を複数回繰り返すことによって作製した。GO膜の平均厚さはAFM測定によって評価した。
膜の特性評価
偏光画像化
偏光顕微鏡法は、CRI IncのLC−PolScope(LPS) Abrioイメージングシステムを備えたLeica DM IRB顕微鏡を用いて行った。LPSは、ドクターブレードキャスティングによって生じるせん断配向の影響を理解する目的で、GOシートの配向の秩序の特性を明らかにするために使用した。この手法は、液体又は固体状態のフィルム中の酸化グラフェンシートだけでなく、分子及び粒子の秩序パラメーターの評価のためにも広く用いられてきた。SAMの光学異方性は、真空濾過によって合成されたものと比較される。図15(a)及び(d)は、SAM及び真空濾過膜についてのGO集合体の方位の疑似カラー化した画像であり、色相は方位角を示す。同様に、図15(b)及び(e)は、方位角のベクトル表示を表す。真空濾過膜と比較して、SAMでは明らかに均一な色相(配向した方位ベクトルとしても表されている)が観察され、これらがより高い配向秩序を示すことが示唆された。
【0107】
GOシートの配向を定量化するために、x−y平面における方位角の分布についてのスカラーパラメーターSが使用された。スカラーパラメーターは、
【0108】
【数8】
【0109】
によって定義され、θは平均方位(配向ベクトル軸)と各ピクセルでの方向(各グラフェンシートの長軸)との間の角度である。S=1は、配向ベクトルに対して平行な配列で完全に配向した系を表し、S=0は、完全にランダムな配向の系を表す。LPS画像化のた
めには、GO膜をスライドガラス上に移動させることが必要とされる。GO膜を支持しているナイロン基材を、濃塩酸(Sigma Aldrich)を用いてエッチングし、得られた自立GO膜を顕微鏡のスライドガラスに移した。Sは方位データから計算した(1000ピクセル)。
X線回折法
GO膜のXRDパターンは、スキャン速度1°/分、ステップサイズ0.02°で、40kV及び25mAで生じさせたCu Kα線を用いたPhillips 1140回折計を使用して得た。XRD試料は、ナイロン基材を濃塩酸(Sigma Aldrich)を用いてエッチングし、自立GO膜をスライドガラス上に移すことによって準備した。XRDパターンから、せん断配向した膜の狭い範囲と比較して、真空濾過膜中のGOシートの幅広い領域の層内空間が明らかになった(図16参照)。このXRDデータは、LPS画像化によって得られた結果とよく一致し、またSAMの層状構造が真空濾過によって得られたものよりも組織化及び秩序化されているというLPSで得られた結論を支持する。
【0110】
我々は、我々の濾過実験に関係する細孔径を評価するために、部分的に還元したSAM中のGOシート間の平均層間空間も測定した。部分的に還元した膜のXRDは、2θ=9.3°に強度ピークを示した。これは、9.5Åの層間空間に相当する(図17参照)。2θ=15.4°及び2θ=28.6°の間の弱くて幅広いピークの存在は、GO膜が部分的に還元されたことを示唆する。
走査型電子顕微鏡法(SEM)
ラボスケールのドクターブレード(MTI Corporation,USA)を使用し、異なる濃度のGO分散液を用いて準備したフィルムをキャストした。その後、これらのGOフィルムの均一性及び連続性を、典型的には5keVで稼働する高解像度走査型電子顕微鏡(FEI Nova NanoSEM 450 FEGSEM(2012))によって分析した。全ての試料は、Cressington 208 HRスパッタ装置によってイリジウムで被覆した。断面の撮像のために、ナイロンに支持されたGOフィルムを長方形の小片に切断し、これを30秒間液体窒素に漬けた後にフラットピンセットで注意深く折った。断面は、金属スタブの上に垂直に載せ、15keVで撮像した。
膜厚の原子間力顕微鏡法(AFM)による調査
膜を、Labratesterによって異なる厚さにキャストした。濃塩酸(Sigma Aldrich)の中でナイロン基材をエッチングすることによって、自立GO膜を作製した。次に、これらの自立GOフィルムを顕微鏡のスライドガラスに移した。原子間力顕微鏡測定は、GO膜の厚さを計算するためにJPK Nanowizard 3を使用して行った。この装置は、高さ、z、及びx−y横方向距離の正確な報告のための容量センサーを備えている。撮像は、標準共振周波数340Hz、ばね定数20〜80N/mで、直径10nmのBruker NCHV型カンチレバーを用いて、タッピングモードで行った。撮像は、設定値1nNの力で得た。カンチレバー駆動周波数は、共振周波数よりも5%小さくなるように選択した。GOフィルムの厚さは、150±15nmの厚さの膜について、図18及び19に示されているようなラインスキャンを使用して、3つの異なる地点のガラスとGOフィルムとの間の高さの差から見積もった。
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
GO膜及び部分的に還元された膜の中の官能基の存在を見積もるために、分解能4cm−1、平均32回スキャンで、500〜4000cm−1の範囲で全反射フーリエ変換赤外(ATR−FTIR)(PerkinElmer,USA)を使用して、膜のFTIRスペクトルを記録した(図20参照)。GOフィルム及び部分的に還元されたGOフィルムの全体のATR−FTIRスペクトルは、共に、C=O(約630cm−1〜約1150cm−1及び約1650cm−1)、C−OH(約1380cm−1)及びC−O(約2390cm−1)などの典型的なGO酸素官能基で構成されていた。部分的に還元されたGOフィルムの場合では、1570cm−1(C=Cに対応)のピークが大幅に増加す
る一方で、1650cm−1(C=Oに対応)及び約3400cm−1(C−OHに対応)のピーク強度が大幅に減少した。これは、GO膜の部分的な還元を裏付けており、これら2つの試験片について観測されたXRDスペクトル(図17参照)と一致する。
せん断配向膜のナノ濾過特性評価
SAMの保持特性についての包括的な情報を得るために、市販のベンチスケールのステンレス鋼製の全量撹拌セル濾過ユニット(Sterlitech HP4750)(図21参照、この装置には、可変窒素圧2100、供給タンク2102、磁気撹拌子2104、及び濾過水出口2106が含まれる)を使用して、SAMをナノ濾過膜として試験した。有効膜面積は約13.6cmであり、全ての実験は0.5barの窒素圧を用いて周囲条件(約21℃)で行った。
【0111】
膜厚の関数としての膜の性能は、最初に純水の透過率(RO水)とメチルレッド(pH約5.5 37の電気的に中性なプローブ分子)の保持率を測定することによって評価した(図22及び23参照)。
【0112】
純水又は水/プローブ分子溶液についての膜の透過率(lh−1−2bar−1の単位)は、一定の流束が得られた後、典型的には1時間の透過の後に決定した。これは、
【0113】
【数9】
【0114】
によって計算される。ここで、Vは透過容積であり、tは透過時間であり、Aは膜の活性面積であり、ΔPは加えられた窒素圧である。
約150nmの厚さの膜が、最も有望な流束と保持時間との間のトレードオフ関係を示すことが見出された。そのため、この膜を更なる特性評価のために選択した。この膜の保持率は、全量濾過装置を用いて大きさ及び電荷が異なる様々なプローブ分子に関して評価した。注:必要な場合には、プローブ分子の水和半径は、水和半径とコノリー接触面(CAA)から見積もった半径との相関によって見積もった。異なる電荷と水和半径を有するプローブ分子には次のものが含まれる:メチルビオロゲン(pH6で正電荷)、メチルオレンジ(pH6で負電荷)、メチレンブルー(pH6.5で正電荷)、オレンジG(pH6で負電荷)、ローダミンB(pH6で電気的に中性(pH6で電気的に中性)、トリス(ビピリジン)ルテニウム(II)クロリド(ルテニウムII)(pH6で正電荷)、メチルブルー(pH6で負電荷)、ブリリアントブルー(pH6.5で負電荷)、及びローズベンガル(pH6で負電荷)。
【0115】
膜の保持性能を評価するために、撹拌セルを10mg/lの試験溶液で満たした。吸着の影響を減らすために約20mlの試験溶液を濾過することで予め浸透させ、次いで膜表面に付着しているあらゆる溶質を取り除くために、膜をエタノール、アセトン、そして最後にRO水で十分に洗浄した(典型的には50mlの溶媒を濾過セルに添加し、800rpmで5分間撹拌したままにした)。膜の保持性能は、100mlの溶液でセルを満たした後、膜に圧力をかけて20mlがこれを透過するようにすることで評価した。膜を透過した20ml及び80mlの保持液の両方を集め、分析した。全ての試験を5回繰り返した。保持流れ中のプローブ分子の濃度を正確に見積もるために、撹拌装置、セルの内壁、及び膜の上面などの、濾過セル中の保持溶液と接触した全ての構成要素は100mlのRO水で洗い流し、保持液濃度の計算時に考慮した。
【0116】
図24は、膜の排除試験の結果を示している。図24(a)は、2barの圧力下での、40nmの厚さの還元された酸化グラフェン(R−GO)膜についての、分子量の関数
としての膜の阻止特性を示している。分子量のカットオフ(90%阻止)は、28L/mhr.barの流束で319g/molである。これらの結果は膜が吸着を終えた後の篩分けに基づいている。図24(b)は、2barの圧力下での500mlの透過後の、供給液、保持液(残留液)、及び透過液における変化を示すUV−visスペクトルである。図24(c)は、供給液、保持液、及び濾液の写真であり、透過液でプローブ分子が取り除かれたことと、保持液中のこれらの濃度を示している。2400は金粒子溶液であり、2402はダイレクトイエローであり、2404はサーバブルー(Serva Blue)であり、2406はメチルブルーであり、2408はK[Fe(CN)]であり、2410はメチルビオロゲンであり、2412はメチレンブルーであり、2414はローダミンBである。溶液(a)、(b)、及び(c)は、それぞれ供給液、残留液、及び濾液を示す。
【0117】
全ての実験の前に、膜をエタノール、アセトン、及びRO水で洗浄した(上述の手順のとおり)後、安定した透過性が観察されるまでRO水を透過させた。洗浄した膜は、未使用の膜と同じ純水流束(約1時間後、約70lm−2hr−1bar−1)を示し、これは実際にきれいになり再び使用可能であったことを示唆している。注目すべきは、膜表面に吸着しているほとんどのプローブ分子が洗浄工程によって取り除かれ、ほぼ100%の流束の回復(図25及び26参照)が認められることである。
【0118】
観測保持率R(図27参照)及び吸着率(図28参照)を計算するために、供給液(C)、透過液(C)、及び保持液(C)中の各プローブ分子の濃度を、UV−vis分光計(Ocean Optics USB4000、石英セルを使用、1/Q/10,Starna Cells Pty.Ltd.Australia)を用いて関連するピークの吸光度を測定することにより見積もった。
【0119】
【数10】
【0120】
膜を通過する流束は、加えられる圧力が増加するにつれて直線的に増加する(図29)。スリット状の細孔についての修正Hagen−Poiseuille式(
【0121】
【数11】
【0122】
)によって、これら多層構造を通る流体の流れの近似式が与えられる。この式を使用することで、単位面積当たりの多孔質材料を通るニュートン流体の質量流量(m−1−2)を見積もることができる。ここで、h(m)約0.95nmは隣接するグラフェンシート間の距離であり(XRDから推定、図17参照)、ΔP=0.5×10Paは圧力勾配であり、L=0.9×10−6mはグラフェンシートの平均の横方向の長さであり、η=0.001Pa sは20℃での水の粘度であり、Δx=150×10−9mは膜の厚さである。修正Hagen−Poiseuille式から見積もった流束と実験結果との比較は、理論上の流束が実験結果よりも4桁小さいことを示している。この実験での増加は、グラフェンのナノチューブ及びスリット型細孔における水輸送の報告と一致する。
【0123】
膜は、5Åを超える水和半径の電荷を有している及び有していない溶質で、高い保持率(>90%)を示した(図27参照)。膜の中での保持作用は、サイズ篩分け、静電反発、及び吸着に依存し、これらは通常並行して分離にも影響を与える。吸着は、グラフェンを主体とする材料に基づく分離で最も重要になり得ることから、これらのメカニズムのうちのどれがこの膜に決定的なものであるか特定する必要がある。図28には、全ての実験における保持率及び吸着率と共に、供給液、保持液、及び透過液の濃度の分析が報告されている。この結果は、検討するプローブ分子種に関わらず吸着率は10%未満である一方で、保持液の濃度は常に供給液の濃度よりも高いことを示している(図28参照)。プローブ分子の濾過時の透過率は、通常これらのクリーンな水の透過率の90〜95%であり(図25参照)、最低限の吸着を更に支持する。これらの測定に基づくと、グラフェンシートの平均層間空間が水和半径としてここで報告されているプローブ分子の物理的サイズにほぼ等しい場合には、SAMは主に分子を篩分けすると主張することができる。負の電荷を帯びたプローブ分子が正の電荷を帯びたプローブ分子よりも高い保持率を有しており、静電効果も重要であることが示唆されることも注目に値する。
【0124】
AFMによって本明細書で測定される膜厚を変化させて、高秩序のSAMについての透水性及びメチルレッド(実験のpH(約5.5)で電気的に中性のプローブ分子)の保持率も、市販されているか真空濾過法を用いて形成された比較的無秩序な膜と比較した(図22及び23参照)。示されているように、保持率は共に向上し、透水性はSAMの重なり秩序によって向上する。3つの異なる種類の膜:SAM、真空濾過膜、及び市販の膜(NF270膜、Dow Chemical Company,USA)についての水の流束対圧力の測定は、図29に示されている。SAMは、電気的に中性なプローブ−メチルレッドについて同等又はより良い保持率を示しつつも、71±5lm−2hr−1bar−1の透水性を有していた。これは真空濾過膜(10±2lm−2hr−1bar−1)よりも約7倍優れており、NF270膜よりも約9倍優れている(図29参照)。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、SAM膜のこの向上した性能は、膜平面中の高秩序なグラフェンの溝によってもたらされる結果であると考えている(図15及び16参照)。これらの高秩序なグラフェンシートは、膜の平面によく組織化された精密な溝を形成し、これは水の輸送を促進する。無秩序な膜では、グラフェンシートはランダムな配向を有しており、そのため幅広いサイズの不規則な溝となる(図16参照)。グラフェンシートのランダムな配向は、ねじれの増加、機械的な粗さ、及びGOシート間の無秩序な相互接続などの複数の影響をもたらす場合があり、これは結果として膜の流れ抵抗を増加させる。
溶媒試験
図30は、膜に対して行われた溶媒透過試験の結果を示している。図30(a)は、約40nmの厚さの酸化グラフェン膜についての、水の流束対加えられた圧力を示すグラフであり、流束及び加えられた圧力は直線相関を示している。図30(b)は還元時間及び増加した疎水性に伴って膜の水の流束が増加することを示している。図30(c)は、膜を通過する様々な溶媒の流束の比較を示している。図30(d)は、膜を通るヘキサンと水の流束との比較を示している。
脱塩性能
静電効果も重要であることを更に示すために、濃度2g/lのNaSO、MgSO、MgCl、及びNaClなどの選択した一価及び二価の塩の保持率を評価することによって、GO膜の脱塩性能を調べた。
【0125】
濾過試験は、窒素圧0.5barで、同じ全量濾過セルを用いて行った。保持性能に対する濃度分極の影響を最小限にするために、濾過中に供給溶液を800rpmで撹拌した。試験は、安定な条件が得られるまで(典型的には1時間後)RO水についての膜の透過率を記録することから始めた。その後、RO水を50mlの塩溶液に置き換えた。膜の塩
保持性能は、10mlの最初の供給液を濾過することによって評価した。全ての実験の前に、透過率が安定し塩の痕跡が観察されなくなるまで(典型的には1時間後)、膜にRO水を通して濾過することによって膜を洗浄した。塩についての膜の保持性能は、上述のとおりに計算した。塩の濃度は、イオン伝導率計(TPS Aqua C,Thermo Fisher Scientific)によって測定した。
【0126】
膜は、全ての塩について30〜40%の保持率を示した(図31参照)。層間空間が小さく(約9.5Å)、また膜には様々な負の電荷を帯びたカルボキシル、ヒドロキシル、及びエポキシなどの酸素官能基が豊富にあることから、この膜の塩保持能力は意外なことではない。この酸素官能基は、膜の安定化で使用される穏やかな還元の後でさえも残っている(上で論じたFTIRの結果及び図20で示されている)。これらの負の電荷を帯びた基、特にはカルボン酸基は、Donnan排除理論に基づき、膜の両側で溶液の電気的中性を維持するためにカウンターイオンを保持するであろう。
長期利用可能性及び膜の再使用
このSAM膜の鍵となる特性は、水性環境での安定性と、保持率が膜の上面での篩分けに影響を受けることである(図26参照)。この結果、複数回の再利用のために極性溶媒又は非極性溶媒中で膜を洗浄することができる。膜汚染試験では、一般的な実験室モデルの汚染物質であるウシ血清アルブミン(BSA)を用いて、長時間の濾過試験(0.5barの圧力で24時間)を行った。
【0127】
これらの膜の長期利用可能性及び再利用可能性を評価するために、防汚試験のための一般的なモデルタンパク質として100ppmのウシ血清アルブミン(BSA)を濾過した。汚染試験は、800rpmで一定に撹拌しながら(濃度分極を最小限にするため)、0.5barの窒素圧で、4.5リットルの分注容器が装着された全量撹拌濾過セル(Sterlitech HP4750)の中で行った。試験は、一定の流束が得られるまで、典型的には1時間後(jw,1)まで、RO水についての膜の透過率を記録することから始めた。最初のRO供給液を取り除き、BSA溶液に置き換えた。0.5barの圧力を開始した後、LabviewインターフェースでカスタマイズしたSartoriusスケールで透過液を秤量し、集めた。これにより1回目のサイクルが完了する。BSA試験が完了した後、上述の洗浄手順にしたがって、膜をエタノール、アセトン、及びRO水で洗浄した。BSA溶液の濾過は5時間(5サイクル)継続した。前述の手順を、jw,2で表される2回目のRO水の透過率で再び繰り返す。合計で5回のサイクルを完了した(図32参照)。工業関連の膜のための洗浄手順はアルカリ及び酸の使用を必要とするが、これらの試験での洗浄溶液の選択は、アセトンやエタノールなどの溶媒に対する耐薬品性を有するGO膜の能力に基づいた。
【0128】
化学洗浄によるせん断配向膜の防汚挙動は流速の回復(FR)によって評価した。これは、次式によって計算される。
【0129】
【数12】
【0130】
ここで、jw,1は1回目のサイクル前のRO水についての膜の初期流束であり、jw,iはi回目のサイクルの後のRO水についての膜の流束(エタノール及びアセトン及びRO水による膜の洗浄後)である。
【0131】
SAMは汚染耐性を示し、流束は単純な溶媒洗浄で回復した(図32参照)。膜の汚染
挙動は、細孔径、空隙率、細孔形態、そして最も重要なことには疎水性などの、膜表面の物理的特性及び化学的特性に強く依存する。幸いにもSAMは、有機プローブ及びタンパク質との疎水的相互作用を減少させる親水性基(図20参照)を保持していた。その結果、エタノール、アセトン、及びRO水を使用することによる単純な洗浄手順によって、各洗浄サイクル後に90%を超える流束が効果的に回復した−これはプローブ分子に対して当てはまり、またBSAなどのより強い汚染物質に対しても当てはまった(図25、26、及び32参照)。
真空濾過膜
せん断配向によって与えられた積層秩序の役割を明らかにするために、SAMと真空濾過技術を用いて作製したものとの様々な特性の比較も行った。この比較のために、GOのバッチ及び化学的還元など、全ての他の可変因子をほぼ同じに保ったままで真空濾過によってGO膜を作製した。この合成手順の概要を以下説明する。
【0132】
10μg/lのGO溶液(GOの同じストックより)を、真空濾過ポンプ(KNFポンプ、モデル:N810(3)FT.18)を用いて、同じ多孔質ナイロン支持体(Nylon66、細孔径0.2μm、MDI,India)を通して濾過した。真空濾過工程のGO溶液の量を変化させることにより様々な厚さのGO膜を作製した。これらのGO膜は、SAMに対して使用したのと同じ方法に従って、ヒドラジン蒸気により更に還元した。その後、膜を偏光顕微鏡法(図15参照)、X線回折分析(図16参照)、及びAFM(図22及び23参照並びに一連のナノ濾過試験(図22及び23参照)によって特性評価した。
【0133】
偏光撮像は膜平面にあるグラフェンシートの配列の遅相軸を画像化することによって局所的な配向秩序を測定する一方で、XRDは、層間空間の結晶秩序を測定する。
これらの手法は共に、SAMの高秩序構造の仮説を裏付けている(図15及び16参照)。興味深いことに、フィルムを構成するグラフェンシートは、膜自体は非常に薄い一方で(図18及び19参照)、約900nmの横方向寸法を有している。これは、せん断応力が基材の平面にシートを配向させることを強く示唆している。グラフェンシートの面内配向は、せん断流動場でのディスコチックネマチック液晶の流動配向と一致する。この極めて高い秩序はSAMの加工手法に特有のものであり、他の加工手法を用いたせん断配向との決定的な違いである(図15及び16参照)。
【0134】
本明細書に開示及び定義されている本発明は、文章又は図面に述べられているかこれらから明白な、個々の特徴のうちの2つ以上の全ての他に取り得る組み合わせにまで及ぶことが理解されるであろう。全てのこれらの異なる組み合わせは、本発明の様々な代替の態様を構成する。
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