【実施例】
【0025】
「実験1」
カーボンブラックと、ポリイミド樹脂を含む水性の発熱塗料に、以下に示す無機粒子と脱イオン水を配合し、遊星式攪拌・脱泡装置(倉敷紡績株式会社製、マゼルスター KK−1000W)を用い、高粘度材料の標準的な攪拌脱泡のプログラムで6分間撹拌して、水性発熱塗料を調製した。
得られた水性発熱塗料を、絶縁性基体(ユニチカ株式会社製 綾織ガラスクロス)に、ドクターブレードで幅150mm、長さ220mm、塗工量(乾燥重量)55g/m
2となるように塗布し、200℃1時間、続いて300℃1時間焼成を行い、抵抗発熱層を有する面状発熱体を得た。
【0026】
水膨潤性合成マイカ 平均粒子径5μm
非膨潤性合成マイカ 平均粒子径5μm
コロイダルシリカ 平均粒子径12μm
ベントナイト 平均粒子径2μm
【0027】
得られた面状発熱体について、下記に示す評価を行った。結果を表1に示す。
(チキソトロピー性)
絶縁性基体裏面を目視で観察し、水性発熱塗料の裏抜けの有無を確認した。チキソトロピー性が低い塗料は、絶縁性基体を裏抜けする。
○:裏抜けなし
×:裏抜けあり
【0028】
(塗膜形成性)
抵抗発熱層表面を目視で観察し、塗膜の均一性を評価した。
◎:均一な塗膜が形成されている。
○:細かなひび割れが確認できる。
△:大きなひび割れが確認できる。
×:無機粒子が凝集し、均一な塗膜が形成できない
(柔軟性)
面状発熱体を手で折り曲げ、柔軟性と、折り曲げ後の抵抗発熱層の破壊の有無を評価した。
○:柔軟性を有し、折り曲げ後に抵抗発熱層は破壊されない。
×:柔軟性に劣る、または、折り曲げ後に抵抗発熱層にひび割れ等の破壊が見られる。
【0029】
【表1】
【0030】
・結果
本発明である実施例1〜5の水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有していた。また、これらの水性発熱塗料からは、均一で柔軟性を有し、折り曲げ後にも破壊されない塗膜が形成できた。
非膨潤性合成マイカを用いた比較例1、2の水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有していた。比較例1、2の水性発熱塗料からは、塗膜を形成することはできたが、得られた塗膜は柔軟性に劣り、折り曲げ後にひび割れが増加した。
比較例3、4のコロイダルシリカを用いた水性発熱塗料、及び比較例5の無機粒子を含まない水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有さず、絶縁性基体(綾織ガラスクロス)の隙間から裏抜けした。そのため、平坦な塗膜が形成できず、また、部分的に塗膜が形成された領域には、大きなひび割れを有し、折り曲げ後にさらにひび割れが増加した。
比較例6〜7のベントナイトを用いた水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有していたが、得られた塗膜はベントナイトの凝集が目視で確認できた。また、大きなひび割れも観察され、柔軟性にも劣っていた。
【0031】
「実験2」
実験1の実施例3、比較例2、4、5の水性発熱塗料について、上記実験1と同様の方法で抵抗発熱層を形成した。
この抵抗発熱層の幅方向中央部から、50×50mm
2のサンプルを4枚切り出した。それぞれのサンプルをフッ素樹脂シート(ダイキン工業株式会社、ネオフロンシリーズ、PFA、12μm)で挟み込み、熱プレス機を用いて、20〜50kNの10kN毎の圧力で、300℃20分間熱プレスを行った。なお、抵抗発熱層側のフッ素樹脂シートには、40mmの間隔で設け、φ5mmの穴を抵抗値測定のために設けた。
【0032】
熱プレス後の抵抗発熱層表面を、フッ素樹脂シートを介して光学顕微鏡で観察した。また、ミリオームハイテスタ(日置電気株式会社、3540)を用いて、二端子法で抵抗値の測定を行った。
さらに、20〜50kNの10kN毎に加圧したサンプルについて、それぞれ60、80、100、130kNの圧力で、300℃20分間熱プレスを行い、抵抗発熱層の観察と抵抗値の測定を行った。
光学顕微鏡画像を
図1に、プレス圧と抵抗値との関係を
図2、3に示す。
【0033】
本発明である実施例3の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、他の抵抗発熱層と比較して、フッ素樹脂シートが密着しており、フッ素樹脂シート等の絶縁性保護層と、強固に密着可能であることが示唆された。また、この抵抗発熱層は、プレス圧が大きくなるほど抵抗値が減少する傾向を有していた。
比較例2の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、プレス圧に対して抵抗値はほとんど変化せず、比較例4の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、プレス圧が大きくなると抵抗値が増加した。これは、塗膜がひび割れたためである。比較例4の水性発熱塗料は、他の塗料と比較して抵抗値が大きかった。これは、無機顔料がコロイダルシリカであるため、マイカのように層間に導電性粒子が入り込めず、導電性粒子間の距離が遠かったためであると推測される。
比較例5の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、低圧では抵抗値が減少したが、80kN以上では塗膜がひび割れ、抵抗値が増加した。
【0034】
「実験3」
実施例3、比較例2、4、5の水性発熱塗料について、上記実験1と同様の方法で抵抗発熱層を形成した。
この抵抗発熱層を、幅150mm、長さ100mmの大きさに切り出し、抵抗発熱層上に、長さ130mmの銅コートアラミド繊維(ウラセ株式会社、F11)を幅方向に100mm間隔で設置して、この銅コートアラミド繊維を、フッ素樹脂粘着テープ(中興化成工業株式会社製、AFA−113A、PFA、厚み200μm、幅5mm、長さ110mm)で固定した。さらに、フッ素樹脂シート(ダイキン工業株式会社、ネオフロンシリーズ、PFA、12μm)で挟み込み、熱プレス機を用いて50kNの圧力で、300℃、20分間熱プレスを行い、面状発熱体を得た。なお、以下の本明細書では、得られた面状発熱体について、使用した水性発熱塗料が理解しやすいように、塗料と同一の実施例、比較例番号を使用する。
得られた面状発熱体の0.3W/cm
2通電時の発熱特性をサーモ画像で撮影した。結果を
図4に示す。
【0035】
実施例3の面状発熱体は、フッ素樹脂粘着テープが貼られた部分を境に発熱し、その他のサンプルは、リード線を境に発熱していた。すなわち、本発明の抵抗発熱層は、リード線をテープで固定してプレスを行うだけで、低抵抗領域と高抵抗領域を形成することができ、この低抵抗領域にリード線を接続することができた。
【0036】
さらに、実施例3の水性発熱塗料を使用した面状発熱体について、発熱範囲内の最高温度が200℃となるように電圧を印加し、この一定の電圧を印加し続けたところ、340日以上に亘って発熱を維持することができた。なお、発熱範囲の平均温度は、夏季には約180℃、冬季には約160℃であった。
この面状発熱体は、リード線が低抵抗領域に接続されており、リード線と抵抗発熱層との接続部で、異常発熱、短絡等が起こりにくいため、長期間に亘って、異常なく発熱を維持することができた。
【0037】
「実験4」
実施例3の水性発熱塗料を用い、実験3と同様の方法で、面状発熱体を得た。
この面状発熱体について、20mm
2の正方形にカットしたサンプルをエポキシ樹脂で封止し、自動研磨装置(ビューラー社、オートメット2000)で研磨して、観察用試料とした。
この観察用試料の断面を、光学顕微鏡で観察した。銅コートアラミド糸を設置した箇所の断面写真を
図5に示す。
【0038】
銅コートアラミド糸の下に抵抗発熱層が黒色帯状に確認でき、さらにその下に絶縁性基体(綾織ガラスクロス)、銅コートアラミド糸の上に透明なフッ素樹脂のテープ、更にその上に半透明帯状のフッ素樹脂シートが確認できた。銅コートアラミド繊維が潰れることで、抵抗発熱層と密着していることが確認できた。また、抵抗発熱層は、上面のフッ素樹脂シートと密着していることが確認できた。
【0039】
さらに、フッ素樹脂粘着テープを設けた領域と設けていない領域について、それぞれ任意の3箇所で断面画像を撮影した。これらの断面画像について、フッ素樹脂シートからガラスクロス基材間での抵抗発熱層の厚さを測定し、これらの平均値を求めた。
フッ素樹脂粘着テープを設けた領域の平均厚さは88.5μm、フッ素樹脂粘着テープを設けていない領域の平均厚さは312.4μmであった。フッ素樹脂粘着テープを設けた領域はフッ素樹脂粘着テープとフッ素樹脂フィルム(厚さの合計212μm)を介して、フッ素樹脂粘着テープを設けない領域はフッ素樹脂フィルムのみ(厚さ12μm)を介して熱プレスされる。フッ素樹脂粘着テープを設けた領域の抵抗発熱層は、フッ素樹脂粘着テープを設けない領域と比較して、より強力に圧縮されて厚さが薄くなったことが確かめられた。
【0040】
「実験5」
リード線としてニッケル撚り糸を用い、このリード線をフッ素樹脂粘着テープで固定しなかった以外は、上記実験3と同様の方法で、実施例3の水性発熱塗料を用いて面状発熱体を形成した。
上記実験4と同様に、断面を光学顕微鏡で観察した。ニッケル撚り糸を設置した箇所の断面写真を
図6に示す。
【0041】
丸が三つ固まった箇所がニッケル撚り糸であり、その下に抵抗発熱層、絶縁性基体(綾織ガラスクロス、楕円状は縦糸、横に波打った線が横糸)、ニッケル撚り糸の上にフッ素樹脂シートが確認できた。ニッケル撚り糸が部分的に抵抗発熱層に埋設されており、リード線が抵抗発熱層に密着していることが確認できた。
【0042】
「実験6」
リード線をフッ素樹脂粘着テープで固定せず、抵抗発熱層側のフッ素樹脂シートの上にハート型に切り抜いたSUS箔(100μm)を載せて熱プレスを行った以外は、上記実験3と同様の方法で面状発熱体を形成した。
作成した面状発熱体の写真と、断面概略図を
図7に示す。
【0043】
SUS箔を設置した部分が、より強くプレスされてフッ素樹脂シートとの間の空隙が少なくなったため、SUS箔の形状に対応して反射率の異なる部分が形成された。
上記サンプルのSUS箔を設けた境界部分について、それぞれ任意の3箇所で断面画像を撮影し、これらの断面画像について、フッ素樹脂シートからガラスクロス基材間での抵抗発熱層の厚さを測定し、これらの平均値を求めた。
図8にそのうちの一枚を示す。
【0044】
SUS箔を設けた領域の抵抗発熱層の平均厚さは88.54μm、SUS箔を設けていない領域の抵抗発熱層の平均厚さは312.4μmであった。SUS箔を設けた領域はSUS箔とフッ素樹脂フィルム(厚さの合計112μm)を介して、SUS箔を設けない領域はフッ素樹脂フィルムのみ(厚さ12μm)を介して熱プレスされている。SUS箔を設けた領域の抵抗発熱層は、SUS箔を設けない領域と比較して、より強力に圧縮されて厚さが薄くなったことが確かめられた。