特許第6927612号(P6927612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6927612
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】水性発熱塗料及び面状発熱体
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20210823BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20210823BHJP
【FI】
   H05B3/20 375
   H05B3/12ZNM
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-71308(P2020-71308)
(22)【出願日】2020年4月10日
【審査請求日】2021年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591023734
【氏名又は名称】坂口電熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山森 詠未
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−2841(JP,A)
【文献】 特開2000−91060(JP,A)
【文献】 特開2000−123957(JP,A)
【文献】 特開平11−345681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00− 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材、バインダー樹脂、水膨潤性合成マイカを含有し、
固形分100重量部に対して、前記水膨潤性合成マイカを3重量部以上40重量部以下含有することを特徴とする水性発熱塗料。
【請求項2】
固形分100重量部に対して、前記導電材を30重量部以上70重量部以下、前記バインダー樹脂を15重量部以上50重量部以下含有することを特徴とする請求項1に記載の水性発熱塗料。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性発熱塗料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水性発熱塗料からなる抵抗発熱層を有する面状発熱体。
【請求項5】
前記抵抗発熱層が、少なくとも2箇所の低抵抗領域と、高抵抗領域とを備え、
該低抵抗領域にリード線が接続されていることを特徴とする請求項4に記載の面状発熱体。
【請求項6】
前記低抵抗領域の膜厚が、前記高抵抗領域の膜厚よりも薄いことを特徴とする請求項5に記載の面状発熱体。
【請求項7】
前記抵抗発熱層が、単層の塗工層であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の面状発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性発熱塗料と、この水性発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック等の導電性粒子とバインダー樹脂とを含む発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体が、床暖房、除霜、階段融雪、配管ヒーター等の様々な分野で利用されている(特許文献1〜3参照)。
このような抵抗発熱層は、温度上昇によって抵抗値が上昇するPTC(Positive Temperature Coefficient)特性を備えることが知られている。これは、温度上昇に伴いバインダー樹脂が膨張することにより、導電性粒子間距離が長くなるためである。抵抗発熱層は、このPTC特性により、高温になるほど抵抗値が上昇して電流が流れにくくなるため、一定温度以上に昇温せず安全性、省エネ性に優れている。しかし、逆に言うと、抵抗発熱層は、一定温度以上に昇温することができず、高温(例えば100℃以上)の発熱が要求される分野には適用できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−2841号公報
【特許文献2】特開昭63−69183号公報
【特許文献3】特開平8−31552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高温の発熱が可能な水性発熱塗料と、この水性発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題を解消するためのものであり、具体的には以下の通りである。
1.導電材、バインダー樹脂、水膨潤性合成マイカを含有し、
固形分100重量部に対して、前記水膨潤性合成マイカを3重量部以上40重量部以下含有することを特徴とする水性発熱塗料。
2.固形分100重量部に対して、前記導電材を30重量部以上70重量部以下、前記バインダー樹脂を15重量部以上50重量部以下含有することを特徴とする1.に記載の水性発熱塗料。
3.前記バインダー樹脂が、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれか1種以上であることを特徴とする1.または2.に記載の水性発熱塗料。
4.1.〜3.のいずれかに記載の水性発熱塗料からなる抵抗発熱層を有する面状発熱体。
5.前記抵抗発熱層が、少なくとも2箇所の低抵抗領域と、高抵抗領域とを備え、
該低抵抗領域にリード線が接続されていることを特徴とする4.に記載の面状発熱体。
6.前記低抵抗領域の膜厚が、前記高抵抗領域の膜厚よりも薄いことを特徴とする5.に記載の面状発熱体。
7.前記抵抗発熱層が、単層の塗工層であることを特徴とする4.〜6.のいずれかに記載の面状発熱体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水性発熱塗料は、PTC特性が抑えられており、また、耐熱性に優れているため、長期間に亘って100℃以上、さらには200℃以上の発熱が可能な抵抗発熱層を形成することができる。抵抗発熱層は、リード線との接続箇所が高温となりやすく、この接続箇所で故障が生じやすいが、リード線を低抵抗領域と接続することにより、接続箇所での欠陥が起こりにくく信頼性の高い面状発熱体を提供することができる。本発明の抵抗発熱層は、プレスする圧力により抵抗値(発熱量)を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実験2で得られた抵抗発熱層表面の画像。
図2】実験2で得られた抵抗発熱層のプレス圧と抵抗値の関係を示す図。
図3】実験2で得られた抵抗発熱層のプレス圧と抵抗値の関係を示す図。
図4】実験3で得られた面状発熱体の通電時のサーモ画像。
図5】実験3の本発明の水性発熱塗料を用いて得られた面状発熱体の抵抗発熱層におけるリード線設置箇所の断面画像。
図6】実験5で得られた面状発熱体の抵抗発熱層におけるリード線設置箇所の断面画像。
図7】実験6で作成した面状発熱体表面の画像と、断面概略図。
図8】実験6で得られた面状発熱体のSUS箔設置箇所の断面画像。
【発明を実施するための形態】
【0008】
・水性発熱塗料
本発明の水性発熱塗料は、導電材、バインダー樹脂、水膨潤性合成マイカを含有し、固形分100重量部に対して、水膨潤性合成マイカを3重量部以上40重量部以下含有することを特徴とする。
以下、本発明の水性発熱塗料について具体的に説明する。
【0009】
(導電材)
導電材としては、面状発熱体の抵抗発熱層に適用できるものを特に制限することなく使用することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、炭素繊維等の炭素系導電材、金、銀、銅、ニッケル等の金属系導電材、炭化タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、炭化チタン等のセラミック系導電材等を利用することができる。これらの中で、粒径が小さいものを安価で入手可能なため、炭素系導電材が好ましい。導電材は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
本発明の水性発熱塗料は、固形分100重量部に対して30重量部以上70重量部以下の割合で導電材を含有することが好ましい。
【0010】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、水性塗料に溶解、または分散が可能なものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂等の1種または2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、耐熱性に優れるため、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれか1種以上が好ましい。
本発明の水性発熱塗料は、固形分100重量部に対して15重量部以上50重量部以下の割合でバインダー樹脂を含有することが好ましい。
【0011】
(水膨潤性合成マイカ)
本発明の水性発熱塗料は、水膨潤性合成マイカを含有する。合成マイカは、金属イオン等の不純物含有量が少なく、品質が安定しているため、抵抗発熱層に高い信頼性を付与することができる。それに対し、天然マイカは、品質が安定しておらず、不純物を多く含む場合があり、不純物を多く含む天然マイカを使用すると、抵抗発熱層の抵抗値にバラツキが生じ、異常発熱、短絡等の原因となる場合がある。また、水膨潤性合成マイカは、親水性であり、余計な表面処理等がされていないため、600℃程度の耐熱性をそのまま備えている。それに対し、親油性合成マイカは、その親油性を付与している表面処理剤等が180℃程度で分解してしまう場合がある。
【0012】
水膨潤性合成マイカは、その層間に水を取り込み膨潤する。そして、膨潤したマイカを含む塗料は、せん断応力が加わると粘度が低下し、応力が加わらなくなると粘度が高くなるチキソトロピー性を示す。本発明の水性発熱塗料は、この水膨潤性合成マイカを含む水性塗料であるためチキソトロピー性を示し、塗布しやすく、塗布後に液垂れしにくい。本発明の水性発熱塗料は、固形分100重量部に対して3重量部以上40重量部以下の割合で水膨潤性合成マイカを含有する。水膨潤性合成マイカの含有量が3重量部より少ないと、チキソトロピー性が低下して塗工性が低下する場合がある。水膨潤性合成マイカの含有量が40重量部より多いと、得られる膜が脆くなる場合があり、また、マイカの層間に多くの水が取り込まれ、塗料の流動性を確保するには大量の水が必要となり塗料の固形分濃度が低くなるため、乾燥に必要なエネルギー量が増加する。
【0013】
水膨潤性合成マイカは、レーザー回折散乱法により測定される体積分布から導かれる平均粒子径(メディアン径)が、2μm以上20μm以下であることが好ましい。この平均粒子径が、上記範囲内であると、発熱塗料への分散性、塗工性に優れ、また、均一な塗膜が形成されやすい。この平均粒子径は、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明の水性発熱塗料は、その塗工方法等に適した粘度となるように、固形分濃度を調整する。固形分濃度としては、その求める粘度等に応じ、例えば、5重量%以上50重量%以下程度とすることができる。
また、本発明の水性発熱塗料には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、分散剤、レベリング剤、消泡剤、硬化剤等の添加剤を配合することができる。
【0015】
・面状発熱体
本発明の面状発熱体は、上記した水性発熱塗料からなる抵抗発熱層を有する。抵抗発熱層は、水性発熱塗料を、塗布、含浸等し、乾燥させることにより、形成することができる。抵抗発熱層は、単一の水性発熱塗料から形成してもよく、組成の異なる複数種類の水性発熱塗料から形成してもよい。また、単層または重ね塗りされた複数層であってもよい。本発明で用いる発熱塗料は水性であるため、作業者及び環境への負荷が小さく、また火災や爆発の危険性がなく安全性に優れている。
【0016】
本発明の面状発熱体の層構成及びその製造方法は特に制限されず、従来公知の層構成のものを、常法に従って製造することができる。例えば、絶縁性基体/抵抗発熱層/絶縁性保護層がこの順で積層された面状発熱体とすることができ、この場合、抵抗発熱層は、絶縁性基体に直接形成することもでき、剥離性フィルム等の上に形成した後に絶縁性基体に転写することもできる。絶縁性基体は、その用途に応じて特に制限することなく選択することができ、フィルム、織物等のシート状物のみならず、パイプ等の立体物であってもよい。水性発熱塗料の塗布により形成される抵抗発熱層の密着性が向上するため、絶縁性基体は、塗工側表面にエンボス、粗面化等の加工による微細凹凸を有することが好ましい。これらの中で、様々な形状の対象物に巻き付けて使用することができるため、シート状物が好ましく、水性発熱塗料の一部が染み込んで絶縁性基体と一体化するため、織物がより好ましく、安価で耐熱性に優れるため、グラスファイバーシートが最も好ましい。また、絶縁性保護層としては、フィルム、織物、多孔質シート、塗工層等のいずれか、または複数を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の面状発熱体は、抵抗発熱層が無機物である水膨潤性合成マイカを含有する。本発明者らは、この水膨潤性合成マイカを含有する抵抗発熱層が、PTC特性の発現が弱いことを発見した。すなわち、水膨潤性合成マイカは、抵抗発熱層のPTC特性を抑える作用を奏する。これは、水膨潤性合成マイカは、バインダー樹脂と比較して温度上昇に伴う体積膨張が小さいため、水膨潤性合成マイカを含有する抵抗発熱層は温度上昇に伴う導電材間距離の変動が小さく、抵抗値の上昇が抑えられるためであると推測される。
【0018】
本発明の面状発熱体は、抵抗発熱層のPTC特性の発現が抑制(温度上昇に伴う抵抗値の増大を抑制)されており、高温となっても電流量の減少幅が小さい。さらに、本発明の面状発熱体は、抵抗発熱層が無機物である水膨潤性合成マイカを含有するため耐熱性に優れている。そのため、本発明の抵抗発熱層を有する面状発熱体は、従来の面状発熱体と比較して高温の発熱が可能であり、例えば、150℃以上の温度が要求される用途に用いることができる。
【0019】
抵抗発熱層には、電気を通すためのリード線が接続される。抵抗発熱層とリード線との接続方法は特に制限されず、常法により接続することができ、例えば、絶縁性基体として織物を用いて、織物の経糸または緯糸としてリード線を織り込む、または、リード線を織物に縫い付ける等の公知の方法が挙げられる。本発明では、リード線の接続方法として、抵抗発熱層の上にリード線を載置し、これに絶縁性保護層となる高分子フィルムを被せ、熱プレスにより高分子フィルムを熱融着する方法が好ましい。この方法により、リード線の一部を抵抗発熱層に埋設することができるため、リード線の脱落を抑え、さらにリード線と抵抗発熱層との接続部における通電量のバラツキを小さくすることができる。この高分子フィルムとしては、熱プレス時や面状発熱体の使用時の高温に耐えることができるものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、フッ素系フィルム、ポリイミド系フィルム等を使用することができる。また、リード線としては、銅線、ニッケル線、銅めっきニッケル撚り線等の金属線、銅メッキアラミド繊維等を利用することができるが、熱プレス時に抵抗発熱層に一部が埋設して一体化しやすいため、複数本の繊維の集合体であることが好ましい。
【0020】
本発明の面状発熱体は、抵抗発熱層が無機物である水膨潤性合成マイカを含有する。本発明者らは、この水膨潤性合成マイカを含有する抵抗発熱層に熱プレスにより高分子フィルムを熱融着させる実験を繰り返し行っていたところ、プレス時の圧力により抵抗発熱層の抵抗値が変化すること(高圧でプレスするほど抵抗値が低くなること)を発見した。
【0021】
水膨潤性合成マイカを含有する抵抗発熱層は、プレス時の圧力により抵抗発熱層の抵抗値が変化し、具体的には、プレスする圧力が高いほど抵抗値が低くなる。これは、水膨潤性合成マイカを配合した抵抗発熱層にのみ見られる特性であり、非膨潤性合成マイカ、コロイダルシリカを配合した抵抗発熱層では見られない特性であった。また、水膨潤性合成マイカを含有する抵抗発熱層において、より強力にプレスした領域の抵抗発熱層は、他の領域の抵抗発熱層よりも薄くなっていた。このことから、水膨潤性合成マイカを含有する抵抗発熱層のプレス時の圧力による抵抗発熱層の抵抗値の変化は、プレスにより水膨潤性合成マイカの層間距離が狭くなることにより、導電材間距離が短くなったためであると推測される。
【0022】
本発明の面状発熱体は、抵抗発熱層の形成後にプレスすることにより、抵抗値が小さくなり、発熱量が小さくなる。すなわち、本発明の面状発熱体は、プレスする圧力や回数等により、発熱温度の上限値を調整することができる。このプレスは、抵抗発熱層の形成後であればよく、例えば、絶縁性保護層としての高分子フィルムを熱プレスで融着するのと同時、またはその前後に行うことができ、また、複数回に分けて行うこともできる。そして、任意のパターンでプレスを行うことにより、より強力にプレスされた発熱量の小さい低抵抗領域と、発熱量の大きい高抵抗領域とを形成することができる。
【0023】
ここで、面状発熱体は、リード線と抵抗発熱層との接続箇所は、密着性が悪いと面全体へ均一に導通しないため、密着不良箇所において、異常発熱、短絡等の故障が起こる場合がある。そのため、抵抗発熱層として少なくとも2箇所の低抵抗領域と、高抵抗領域とを備えるものを用い、この低抵抗領域にリード線が接続することが好ましい。低抵抗領域と接続することにより、密着不良箇所が生じたとしても抵抗値のバラツキが小さく、比較的均一に導通することができる。低抵抗領域と高抵抗領域の形成方法は特に制限されず、従来公知の抵抗値の異なる水性発熱塗料を用いる方法、低抵抗領域を高抵抗領域よりも厚くする等の方法が挙げられるが、本発明の水性発熱塗料からなる抵抗発熱層は、プレスという簡便な方法で低抵抗領域と高抵抗領域を形成することができるため、単層の塗工層である抵抗発熱層を形成した後に、低抵抗領域となる部分を高抵抗領域となる部分よりも強力にプレスする方法を用いることが好ましい。部分的に強力にプレスする方法としては、例えば、パターン化された金型を用いてプレスする、高圧でプレスしたい部分(低抵抗領域となる部分)に金属箔、高分子フィルム等を設置した状態で平板状の金型でプレスする等の方法が挙げられる。
【0024】
ここで、パイプ等が屈曲した箇所や折れ曲がった部分は、面状の発熱体を曲げて沿わせる必要があり、この部分に設置した発熱体は、力学的負荷が加わりやすい。面状発熱体は、力学的負荷が加わると断線しやすくなるが、柔軟性を向上させることにより断線を防止することができる。本発明の面状発熱体において、高圧でプレスした箇所は薄膜となり折り曲げやすくなるため、高圧でプレスすることにより柔軟で折り曲げやすく、断線しにくい面状発熱体を得ることができる。
【実施例】
【0025】
「実験1」
カーボンブラックと、ポリイミド樹脂を含む水性の発熱塗料に、以下に示す無機粒子と脱イオン水を配合し、遊星式攪拌・脱泡装置(倉敷紡績株式会社製、マゼルスター KK−1000W)を用い、高粘度材料の標準的な攪拌脱泡のプログラムで6分間撹拌して、水性発熱塗料を調製した。
得られた水性発熱塗料を、絶縁性基体(ユニチカ株式会社製 綾織ガラスクロス)に、ドクターブレードで幅150mm、長さ220mm、塗工量(乾燥重量)55g/mとなるように塗布し、200℃1時間、続いて300℃1時間焼成を行い、抵抗発熱層を有する面状発熱体を得た。
【0026】
水膨潤性合成マイカ 平均粒子径5μm
非膨潤性合成マイカ 平均粒子径5μm
コロイダルシリカ 平均粒子径12μm
ベントナイト 平均粒子径2μm
【0027】
得られた面状発熱体について、下記に示す評価を行った。結果を表1に示す。
(チキソトロピー性)
絶縁性基体裏面を目視で観察し、水性発熱塗料の裏抜けの有無を確認した。チキソトロピー性が低い塗料は、絶縁性基体を裏抜けする。
○:裏抜けなし
×:裏抜けあり
【0028】
(塗膜形成性)
抵抗発熱層表面を目視で観察し、塗膜の均一性を評価した。
◎:均一な塗膜が形成されている。
○:細かなひび割れが確認できる。
△:大きなひび割れが確認できる。
×:無機粒子が凝集し、均一な塗膜が形成できない
(柔軟性)
面状発熱体を手で折り曲げ、柔軟性と、折り曲げ後の抵抗発熱層の破壊の有無を評価した。
○:柔軟性を有し、折り曲げ後に抵抗発熱層は破壊されない。
×:柔軟性に劣る、または、折り曲げ後に抵抗発熱層にひび割れ等の破壊が見られる。
【0029】
【表1】
【0030】
・結果
本発明である実施例1〜5の水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有していた。また、これらの水性発熱塗料からは、均一で柔軟性を有し、折り曲げ後にも破壊されない塗膜が形成できた。
非膨潤性合成マイカを用いた比較例1、2の水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有していた。比較例1、2の水性発熱塗料からは、塗膜を形成することはできたが、得られた塗膜は柔軟性に劣り、折り曲げ後にひび割れが増加した。
比較例3、4のコロイダルシリカを用いた水性発熱塗料、及び比較例5の無機粒子を含まない水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有さず、絶縁性基体(綾織ガラスクロス)の隙間から裏抜けした。そのため、平坦な塗膜が形成できず、また、部分的に塗膜が形成された領域には、大きなひび割れを有し、折り曲げ後にさらにひび割れが増加した。
比較例6〜7のベントナイトを用いた水性発熱塗料は、チキソトロピー性を有していたが、得られた塗膜はベントナイトの凝集が目視で確認できた。また、大きなひび割れも観察され、柔軟性にも劣っていた。
【0031】
「実験2」
実験1の実施例3、比較例2、4、5の水性発熱塗料について、上記実験1と同様の方法で抵抗発熱層を形成した。
この抵抗発熱層の幅方向中央部から、50×50mmのサンプルを4枚切り出した。それぞれのサンプルをフッ素樹脂シート(ダイキン工業株式会社、ネオフロンシリーズ、PFA、12μm)で挟み込み、熱プレス機を用いて、20〜50kNの10kN毎の圧力で、300℃20分間熱プレスを行った。なお、抵抗発熱層側のフッ素樹脂シートには、40mmの間隔で設け、φ5mmの穴を抵抗値測定のために設けた。
【0032】
熱プレス後の抵抗発熱層表面を、フッ素樹脂シートを介して光学顕微鏡で観察した。また、ミリオームハイテスタ(日置電気株式会社、3540)を用いて、二端子法で抵抗値の測定を行った。
さらに、20〜50kNの10kN毎に加圧したサンプルについて、それぞれ60、80、100、130kNの圧力で、300℃20分間熱プレスを行い、抵抗発熱層の観察と抵抗値の測定を行った。
光学顕微鏡画像を図1に、プレス圧と抵抗値との関係を図2、3に示す。
【0033】
本発明である実施例3の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、他の抵抗発熱層と比較して、フッ素樹脂シートが密着しており、フッ素樹脂シート等の絶縁性保護層と、強固に密着可能であることが示唆された。また、この抵抗発熱層は、プレス圧が大きくなるほど抵抗値が減少する傾向を有していた。
比較例2の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、プレス圧に対して抵抗値はほとんど変化せず、比較例4の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、プレス圧が大きくなると抵抗値が増加した。これは、塗膜がひび割れたためである。比較例4の水性発熱塗料は、他の塗料と比較して抵抗値が大きかった。これは、無機顔料がコロイダルシリカであるため、マイカのように層間に導電性粒子が入り込めず、導電性粒子間の距離が遠かったためであると推測される。
比較例5の水性発熱塗料から形成された抵抗発熱層は、低圧では抵抗値が減少したが、80kN以上では塗膜がひび割れ、抵抗値が増加した。
【0034】
「実験3」
実施例3、比較例2、4、5の水性発熱塗料について、上記実験1と同様の方法で抵抗発熱層を形成した。
この抵抗発熱層を、幅150mm、長さ100mmの大きさに切り出し、抵抗発熱層上に、長さ130mmの銅コートアラミド繊維(ウラセ株式会社、F11)を幅方向に100mm間隔で設置して、この銅コートアラミド繊維を、フッ素樹脂粘着テープ(中興化成工業株式会社製、AFA−113A、PFA、厚み200μm、幅5mm、長さ110mm)で固定した。さらに、フッ素樹脂シート(ダイキン工業株式会社、ネオフロンシリーズ、PFA、12μm)で挟み込み、熱プレス機を用いて50kNの圧力で、300℃、20分間熱プレスを行い、面状発熱体を得た。なお、以下の本明細書では、得られた面状発熱体について、使用した水性発熱塗料が理解しやすいように、塗料と同一の実施例、比較例番号を使用する。
得られた面状発熱体の0.3W/cm通電時の発熱特性をサーモ画像で撮影した。結果を図4に示す。
【0035】
実施例3の面状発熱体は、フッ素樹脂粘着テープが貼られた部分を境に発熱し、その他のサンプルは、リード線を境に発熱していた。すなわち、本発明の抵抗発熱層は、リード線をテープで固定してプレスを行うだけで、低抵抗領域と高抵抗領域を形成することができ、この低抵抗領域にリード線を接続することができた。
【0036】
さらに、実施例3の水性発熱塗料を使用した面状発熱体について、発熱範囲内の最高温度が200℃となるように電圧を印加し、この一定の電圧を印加し続けたところ、340日以上に亘って発熱を維持することができた。なお、発熱範囲の平均温度は、夏季には約180℃、冬季には約160℃であった。
この面状発熱体は、リード線が低抵抗領域に接続されており、リード線と抵抗発熱層との接続部で、異常発熱、短絡等が起こりにくいため、長期間に亘って、異常なく発熱を維持することができた。
【0037】
「実験4」
実施例3の水性発熱塗料を用い、実験3と同様の方法で、面状発熱体を得た。
この面状発熱体について、20mmの正方形にカットしたサンプルをエポキシ樹脂で封止し、自動研磨装置(ビューラー社、オートメット2000)で研磨して、観察用試料とした。
この観察用試料の断面を、光学顕微鏡で観察した。銅コートアラミド糸を設置した箇所の断面写真を図5に示す。
【0038】
銅コートアラミド糸の下に抵抗発熱層が黒色帯状に確認でき、さらにその下に絶縁性基体(綾織ガラスクロス)、銅コートアラミド糸の上に透明なフッ素樹脂のテープ、更にその上に半透明帯状のフッ素樹脂シートが確認できた。銅コートアラミド繊維が潰れることで、抵抗発熱層と密着していることが確認できた。また、抵抗発熱層は、上面のフッ素樹脂シートと密着していることが確認できた。
【0039】
さらに、フッ素樹脂粘着テープを設けた領域と設けていない領域について、それぞれ任意の3箇所で断面画像を撮影した。これらの断面画像について、フッ素樹脂シートからガラスクロス基材間での抵抗発熱層の厚さを測定し、これらの平均値を求めた。
フッ素樹脂粘着テープを設けた領域の平均厚さは88.5μm、フッ素樹脂粘着テープを設けていない領域の平均厚さは312.4μmであった。フッ素樹脂粘着テープを設けた領域はフッ素樹脂粘着テープとフッ素樹脂フィルム(厚さの合計212μm)を介して、フッ素樹脂粘着テープを設けない領域はフッ素樹脂フィルムのみ(厚さ12μm)を介して熱プレスされる。フッ素樹脂粘着テープを設けた領域の抵抗発熱層は、フッ素樹脂粘着テープを設けない領域と比較して、より強力に圧縮されて厚さが薄くなったことが確かめられた。
【0040】
「実験5」
リード線としてニッケル撚り糸を用い、このリード線をフッ素樹脂粘着テープで固定しなかった以外は、上記実験3と同様の方法で、実施例3の水性発熱塗料を用いて面状発熱体を形成した。
上記実験4と同様に、断面を光学顕微鏡で観察した。ニッケル撚り糸を設置した箇所の断面写真を図6に示す。
【0041】
丸が三つ固まった箇所がニッケル撚り糸であり、その下に抵抗発熱層、絶縁性基体(綾織ガラスクロス、楕円状は縦糸、横に波打った線が横糸)、ニッケル撚り糸の上にフッ素樹脂シートが確認できた。ニッケル撚り糸が部分的に抵抗発熱層に埋設されており、リード線が抵抗発熱層に密着していることが確認できた。
【0042】
「実験6」
リード線をフッ素樹脂粘着テープで固定せず、抵抗発熱層側のフッ素樹脂シートの上にハート型に切り抜いたSUS箔(100μm)を載せて熱プレスを行った以外は、上記実験3と同様の方法で面状発熱体を形成した。
作成した面状発熱体の写真と、断面概略図を図7に示す。
【0043】
SUS箔を設置した部分が、より強くプレスされてフッ素樹脂シートとの間の空隙が少なくなったため、SUS箔の形状に対応して反射率の異なる部分が形成された。
上記サンプルのSUS箔を設けた境界部分について、それぞれ任意の3箇所で断面画像を撮影し、これらの断面画像について、フッ素樹脂シートからガラスクロス基材間での抵抗発熱層の厚さを測定し、これらの平均値を求めた。図8にそのうちの一枚を示す。
【0044】
SUS箔を設けた領域の抵抗発熱層の平均厚さは88.54μm、SUS箔を設けていない領域の抵抗発熱層の平均厚さは312.4μmであった。SUS箔を設けた領域はSUS箔とフッ素樹脂フィルム(厚さの合計112μm)を介して、SUS箔を設けない領域はフッ素樹脂フィルムのみ(厚さ12μm)を介して熱プレスされている。SUS箔を設けた領域の抵抗発熱層は、SUS箔を設けない領域と比較して、より強力に圧縮されて厚さが薄くなったことが確かめられた。
【要約】      (修正有)
【課題】高温(例えば100℃以上)の発熱が可能な水性発熱塗料と、この水性発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体を提供すること。
【解決手段】炭素系や金属系等の導電材、バインダー樹脂、水膨潤性合成マイカを含有し、固形分100重量部に対して、前記水膨潤性合成マイカを3重量部以上40重量部以下含有することを特徴とする水性発熱塗料と、この水性発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8