(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1)2つ以上のエポキシ樹脂を有するエポキシ成分であって、前記エポキシ樹脂のうちの少なくとも1つが、最大250のエポキシ当量を有するポリフェノールのポリグリシジルエーテルであり、少なくとももう1つのエポキシ樹脂が、エポキシノボラック樹脂である、エポキシ成分と、
2)エポキシ樹脂との反応のための少なくとも2つのアミン基を含む脂環式化合物を含む硬化剤成分と、
3)フェニル置換イミダゾリン化合物を含む触媒成分と、を含み、
ポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルは、前記エポキシノボラック樹脂と異なる、硬化性樹脂系。
ポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルが、ポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルの総重量を基準として3重量%以下のモノ加水分解樹脂含量を含み、前記脂環式化合物が、イソホロンジアミン、2−及び4−メチル−シクロヘキサン−1,3−ジアミンの配合物、シクロヘキサン−1,2−ジアミンのシス−及びトランス−異性体の配合物、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−シクロヘキサンジメタンアミン、またはこれらの混合物のうちの1つである、請求項1に記載の硬化性樹脂系。
前記エポキシ成分が、前記エポキシ成分の総重量を基準として、少なくとも10重量%のポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルを含む、請求項1に記載の硬化性樹脂系。
【背景技術】
【0002】
多くの理由から、場合によっては、金属構造部品を強化有機ポリマーで置き換えることは有用である。強化有機ポリマーが提供する利点としては、腐食に対するより良好な耐性、複雑な形状を有する部品を製造する能力、及び場合によっては優れた強度対重量比が挙げられる。金属構造要素、例えば車台部材及び他の構造的支持体の代替として運輸産業において強化ポリマーが採用されてきた、そして採用され続けている理由は、まさにその最後の属性にある。
【0003】
エポキシ樹脂系は、そのような複合材におけるポリマー相として時に使用される。硬化エポキシ樹脂は、しばしば、極めて強くかつ硬く、補強材に十分に接着する。ほとんどの熱可塑性系と比較してエポキシ樹脂系の利点は、低分子量で低粘度の前駆体が出発材料として使用される点にある。低粘度は、重要な属性である、なぜならば補強材を通常形成する繊維間に樹脂系を容易に浸透させ、繊維を湿潤させることができるからである。これは、流線のような表面的な傷(cosmetic blemishes)を回避し、高強度複合材を製造するために必要である。
【0004】
これらのポリマー複合材の潜在的利点にもかかわらず、これらは自動車市場へほんの少ししか浸透していない。主たる理由はそのコストである。金属部品は、高い稼働率で部品を製造するというさらなる利点を有する非常に安価な打抜き方法を使用して製造することができる。一方、ポリマー複合材は、ポリマーが硬化するまでポリマー及び強化用繊維が保持されるある種の金型で製造されなければならない。この硬化ステップに要する時間が、生産速度及び設備利用率に直接影響するので、コストがかかる。これらの複合材を作製するために使用されるエポキシ系は、金型内での長い滞留時間を必要としているので、製造コストは、ほとんどの場合、金属部品には対抗できない。この理由から、打抜きされた金属部品を代替するためのエポキシ樹脂複合材の使用は、低製造稼動の車両に主に限られている。
【0005】
これらの繊維強化複合材を作製するための製造方法の選択肢には、樹脂トランスファー方法、またはその変形のうちの1つ、例えば真空補助樹脂トランスファー成形(VARTM)、ゼーマン複合(Seeman Composites)樹脂注入成形法(SCRIMP)、隙間樹脂トランスファー成形(圧縮RTMとしても知られる)、及び湿式圧縮成形がある。これらの方法において、強化用繊維はプリフォームへと形成され、プリフォームは金型内へ配置され、エポキシ樹脂成分と繊維の周りや間を流れる硬化剤との混合物を含浸させ、金型内で硬化し、複合材を形成する。
【0006】
重要な検討事項は、硬化樹脂のガラス転移温度(Tg)である。エポキシ樹脂系を硬化させる場合、ガラス転移温度は重合反応が進行するにつれて上昇する。一般に、部品が損傷なく離型され得るように、樹脂が金型温度を超えるガラス転移温度を生じることが望ましい。場合によっては、ポリマーは、部品がその意図される用途において適切に機能するために十分に高いガラス転移温度も達成しなければならない。したがって、既に説明した硬化属性に加えて、エポキシ系は、完全硬化時に、必要なガラス転移温度を達成できるものでなければならない。
【0007】
製造中に高い熱的性能を要求される用途、すなわち、塗装、電着、KTLプロセスで、または、高い熱的性能が要求され得る最終用途において、低いガラス転移温度の材料は、変形または損傷のため適切ではないだろう。高ガラス転移温度(Tg>180℃)を提供する代替物が利用可能であっても、こうした系及び/または方法のほとんどは、高価、樹脂の暗色、長い硬化時間、ならびに健康及び安全上の制約(無水物または芳香族アミンの存在に起因する)についての欠点を有する。また、RTM方法について、樹脂系は、適度に低粘度であることが、効率的な処理を可能にし、高Tgとなる能力を示す一方で、その後に高速な硬化が行われる、複雑な金型充填のための待ち時間とのバランスを維持しなければならない。脂環式アミンは、脂肪族と芳香族アミンとの間に位置する特性をもつ材料の部類である。しかし、これら化合物のほとんどは、ビスフェノールA系樹脂と組み合わせて使用する場合、Tgが140℃〜160℃の範囲内となる。2〜12時間の長い硬化プロセスを経て、及び4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4−DDS)の使用にて得られた高Tg値と比較した場合、これは不十分であり、さらには、固体で長い硬化プロファイルを有するため、RTM方法と適合しない。
【0008】
したがって、高速なサイクル時間でありながら、>180℃の高Tgで、費用対効果が大きく、無害で、無色/透明であることができる樹脂系を有することが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
出願人らは、触媒とともに、エポキシ成分及び硬化剤成分との組み合わせを有する他に類を見ない樹脂系を発見した。当該材料は、金型から混合物を取り出した後に続く熱後硬化ステップの後、速硬化及び高(>195℃)ガラス転移温度の他に類を見ない予想外の組み合わせの硬化樹脂系を提供する。
【0016】
1.エポキシ成分
本発明において、エポキシ成分は、1分子当たり平均2つ以上のエポキシド基を有する2つ以上のエポキシ樹脂を含有し、このような基は、例えば、一級または二級アミンとの反応によって硬化可能である。エポキシ成分は、最大約250g/当量のエポキシ当量を有するポリフェノールの1つ以上のポリグリシジルエーテルである1つのエポキシ樹脂を、少なくとも10重量%含有する。本発明の樹脂系において、エポキシ成分は、エポキシ成分の総重量を基準として、約10重量%を超える、好ましくは約20重量%を超える、より好ましくは約40重量%を超えるそのようなポリフェノール樹脂のポリグリシジルエーテルを含有する。
【0017】
本発明において有用なポリフェノール樹脂のポリグリシジルエーテルは、より低いモノ加水分解樹脂含量を有する。樹脂は、例えば、ポリフェノール樹脂のポリグリシジルエーテルの総重量を基準として、3重量%以下、好ましくは2重量%以下、さらにより好ましくは1重量%以下のモノ加水分解樹脂含量を含有してよい。モノ加水分解樹脂は、エポキシド基への水分子の付加によって形成されるα‐グリコール化合物である。相当量のモノ加水分解含量の存在は、エポキシ成分の粘度を増加させる傾向があり、さらにはエポキシ樹脂/硬化剤混合物の粘度も増加させる傾向がある。
【0018】
好ましい実施形態において、エポキシ成分中の他のエポキシ樹脂は、エポキシノボラック樹脂を含有する。米国特許第2,829,124号は、類似のエポキシノボラック樹脂の合成を教示しており、それ以来、高ガラス転移温度化合物などのエポキシノボラック樹脂が、多くの様々な用途での使用のため広く普及している。本発明において有用なエポキシノボラック樹脂は、一般に、フェノール基のうちの一部または全てが、典型的には、フェノール基とエピクロロヒドリンの反応によってエポキシ含有基でキャップされて、対応するグリシジルエーテルを生成する、メチレン架橋ポリフェノール化合物と称され得る。フェノール環は、非置換か、または1つ以上の置換基を含有してよく、置換基が存在する場合は、好ましくは最大6個の炭素原子を有するアルキル、より好ましくはメチルである。エポキシノボラック樹脂は、約156〜300、好ましくは約170〜225、特に、170〜190のエポキシ当量(g/当量)を有してよい。エポキシノボラック樹脂は、例えば、1分子あたり、2〜10個、好ましくは3〜6個、より好ましくは3〜5個のエポキシド基を含有してよい。好適なエポキシノボラック樹脂には、以下の一般構造を有するものがあり、
【0020】
式中、lは、0〜8、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3の整数であり、各R’は独立して、アルキルまたは不活性置換アルキルであり、各xは、0〜4、
x’は0〜3、xおよびx’は好ましくは0〜2、より好ましくは0〜1の整数である。R’は、存在する場合、好ましくはメチルである。本発明の樹脂系において、エポキシ成分は、エポキシ成分の総重量を基準として、約90重量%未満、好ましくは約80重量%未満、より好ましくは約70重量%未満のそのようなエポキシノボラック型樹脂を含有する。
【0021】
さらに、エポキシ樹脂成分はまた、任意の成分を含有してよい。これらの中には、WO2008/140906に記載されているような溶媒または反応性希釈剤;顔料、抗酸化剤、防腐剤、耐衝撃性改良剤、短い(最大約6インチ(15.24cm)長さ、好ましくは最大2インチ(5.08cm)の長さ、より好ましくは最大約1/2インチ(1.27cm)の長さ)の強化用繊維、非繊維粒子充填剤、例えばミクロ及びナノ粒子、湿潤剤などを含む、一般に使用される他の任意の成分がある。導電充填剤は、WO2008/140906に記載されているようなエポキシ成分中に存在してよい。
【0022】
他の実施形態においては、樹脂組成物はまた強化剤を含んでよい。強化剤は、ポリマーマトリックス内に第2相を形成することによって機能する。この第2相は、ゴム状及び/または強化剤の存在なしで形成したポリマーマトリックスより柔らかく、したがって、ひび割れの成長を阻止でき、衝撃靱性が向上する。強化剤は、ポリスルホン、シリコン含有エラストマー系ポリマー、ポリシロキサン、エラストマーポリウレタン、及びその他を含んでよい。
【0023】
2.硬化剤成分
本発明の樹脂系の硬化剤成分は、エポキシ樹脂との反応のため少なくとも2つのアミン基を含有する脂環式化合物である。脂環式アミンの典型例は、イソホロンジアミン(CAS 2855−13−2)、2−及び4−メチルシクロヘキサン−1,3−ジアミン(CAS 13897−55−7)の配合物、シクロヘキサン−1,2−ジアミン(多くの場合、DACHと称される、CAS 694−83−7)のシス−及びトランス−異性体の配合物、4,4’−ジ−アミノジシクロヘキシルメタン(CAS 1761−71−3)、1,4−シクロヘキサンジメタンアミン(CAS 2549−93−1)、及びその他を含む。一つの好ましい実施形態では、本発明の硬化剤成分は、硬化剤成分の総重量を基準として、80重量%超の、及びより好ましい実施形態では90重量%超のDACHを含む。
【0024】
3.触媒
本発明はまた、硬化剤だけに頼るのとは対照的に、別個の触媒の使用を提供し、硬化剤とエポキシ樹脂間の重合反応を促進する。好ましい実施形態では、触媒は、樹脂成分と混合する前に、硬化剤成分に最初に添加する。
【0025】
触媒は、1つ以上の他の触媒とともに使用可能である。そのような添加触媒を使用する場合、好適なそのような触媒としては、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,306,872号、第3,341,580号、第3,379,684号、第3,477,990号、第3,547,881号、第3,637,590号、第3,843,605号、第3,948,855号、第3,956,237号、第4,048,141号、第4,093,650号、第4,131,633号、第4,132,706号、第4,171,420号、第4,177,216号、第4,302,574号、第4,320,222号、第4,358,578号、第4,366,295号、及び第4,389,520号、ならびにWO2008/140906に記載されている触媒が挙げられる。好適な触媒の例は、イミダゾールまたはイミダゾリン環構造を含有する分子、例えば1−メチル−イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−メチル−2−イミダゾリン、2−フェニル−2−イミダゾリン;第3級アミン、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミン、N,N−ジメチル−1−フェニルメタンアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノ−メチル)フェノール及びトリブチルアミン;有機ホスホニウム塩、例えばエチルトリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド及びエチルトリフェニル−ホスホニウムアセテート;アンモニウム塩、例えばベンジルトリメチルアンモニウムクロリド及びベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド;種々のカルボン酸化合物、ならびにそれらの任意の2つ以上の混合物がある。好ましい実施形態では、触媒は、フェニル置換基を有するイミダゾールまたはイミダゾリン化合物の部類、例えば、2−フェニルイミダゾールまたは2−フェニル−2−イミダゾリンである。
【0026】
本発明の樹脂系は通常、硬化剤の総重量を基準として、1重量%、好ましくは2.5重量%、及びより好ましくは5重量%の触媒成分を含む。
【0027】
4.樹脂系中の他の成分
硬化性反応混合物はまた、他の任意の成分、例えば、強化剤、内部離型剤(IMR)、顔料、抗酸化剤、防腐剤、短い強化用繊維(最大約6インチ(15.24cm)の長さ、好ましくは最大2インチ(5.08cm)の長さ、より好ましくは最大約1/2インチ(1.27cm)の長さ)、非繊維粒子充填剤、例えばミクロ及びナノ粒子、湿潤剤、抗UVエージング化合物などを含有してよい。導電充填剤もまた、所望により硬化剤混合物中に存在してよい。
【0028】
好適な強化剤としては、−20℃よりも低いTgを有する天然または合成ポリマーが挙げられる。そのような合成ポリマーには、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、ポリエーテル、例えばポリプロピレンオキシド、ポリテトラヒドロフラン及びブチレンオキシド−エチレンオキシドブロックコポリマー、コア−シェルゴム、エラストマーポリウレタン粒子、前記のものの任意の2つ以上の混合物などが含まれる。ゴムは、好ましくは、樹脂系のポリマー相中に分散される小粒子の形態で存在する。ゴム粒子は、エポキシ樹脂及び/または硬化剤中に分散させることができる。一般に、内部離型剤の存在下で、エポキシ樹脂及び硬化剤混合物を硬化させることが好ましい。そのような内部離型剤は、樹脂組成物の総重量の最大5%、より好ましくは最大約1%を構成することができる。好適な内部離型剤は、よく知られていて、市販されており、例えば、Rexco−USAよりMarbalease(商標)、Axel Plastics Research Laboratories,Inc.よりMold−Wiz(商標)、Chem−TrendよりChemlease(商標)、Wurtz GmbHよりPAT(商標)、ZyvaxよりWaterworks Aerospace Release、Specialty Products Co.よりKantstik(商標)として販売されているものが挙げられる。混合中に内部離型剤を添加することに加えて(またはその代わりに)、エポキシ成分及び硬化剤成分を一緒にする前に、そのような内部離型剤を、エポキシ成分及び/または硬化剤成分中へと組み合わせることも可能である。
【0029】
好適な粒子充填剤は、5未満、好ましくは2未満のアスペクト比を有し、硬化反応の条件下で融解または熱的に劣化しない。好適な充填剤には、例えば、ガラスフレーク、アラミド粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、種々の粘土、例えば、モンモリロナイト、ハロイサイト、フィリップサイト及び他のミネラル充填剤、例えば、ウォラストナイト、滑石、雲母、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、フリント粉末、カーボランダム、モリブデンシリケート、砂などが含まれる。いくつかの充填剤は、いくらか導電性であり、複合材中のそれらの存在は、複合材自体の電気伝導度を増加させ得る。いくつかの用途、とりわけ、自動車用途において、複合材は、複合材に電荷が印加され、塗装が複合材に静電吸着される電着方法を用いて、複合材に塗装をすることができるほど十分に導電性であることが好ましい。この種類の伝導性充填剤には、金属粒子(アルミニウム及び銅など)、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛などが含まれる。
【0030】
審美的に美しく、透明かつ透過的な複合材を得るために、抗酸化剤及び/または還元剤を、いい具合に硬化剤成分に添加することができる。少量のアルカリ金属ホウ化水素、例えば水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化ホウ素カリウムはまた、液体アミンの黄変の阻害物質としても使用することができる。DACHまたはイソホロンジアミンなどのアミン類中に分散したアルカリ金属ホウ化水素を、黄変防止剤として使用することは、アミンがエポキシ樹脂の硬化剤として使用されている場合にも、有利である。これにより、直射日光下に置いた場合であっても、時間の経過とともに黄変しないエポキシ化合物になる。
【0031】
5.樹脂系
硬化剤成分及びエポキシ成分は、エポキシ成分によって提供される1アミン水素当量あたり少なくとも0.80エポキシ当量が、2つの成分の反応混合物に提供されるような量で組み合わされる。好ましい量は1アミン水素当量あたり少なくとも0.90エポキシ当量であり、さらにより好ましい量は1アミン水素当量あたり少なくとも1.00エポキシ当量である。エポキシ成分は、大過剰量で、例えば反応混合物に提供される1アミン水素当量あたり最大10エポキシ当量を提供することができるが、1アミン水素当量あたり提供されるエポキシ当量は、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.25以下、さらにより好ましくは1.10以下である。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明の樹脂系は、60〜180℃の間からなる少なくとも1つの温度において硬化するとき、少なくとも15秒、少なくとも20秒、または好ましくは少なくとも30秒のゲル化時間、そして360秒以下、好ましくは300秒以下、さらにより好ましくは240秒以下の離型時間を有する。
【0033】
エポキシ成分、硬化剤成分、及び触媒を上記の割合で混合し、その得られた混合物を硬化させることにより、本発明の樹脂系から熱硬化性樹脂が形成される。成分の一方または全ては、所望される場合、それらが互いに混合される前に、予熱され得る。一般に、混合物を高温まで加熱することが、急速な硬化を得るために必要である。成形複合材を作製するための方法などの成形方法では、硬化性反応混合物は、金型中に導入され、そこで、金型に含有され得るような任意の強化用繊維及び/または挿入物と一緒に予熱され得る。硬化温度は例えば60〜180℃であり得る。長い(少なくとも20秒、好ましくは少なくとも30秒)ゲル化時間が望ましいとき、硬化温度は好ましくは160℃以下である。長いゲル化時間及び短い離型時間の両方が望まれるとき、好適な硬化温度は、80〜160℃、好ましくは100〜150℃、特に110〜140℃である。
【0034】
得られる樹脂系が硬化温度を超えるガラス転移温度に達するまで、硬化を継続させることが好ましい。離型時のガラス転移温度は、好ましくは少なくとも120℃、より好ましくは少なくとも130℃、さらにより好ましくは少なくとも140℃、なおさらにより好ましくは少なくとも150℃である。本発明の利点は、そのようなガラス転移温度が比較的短い硬化時間で得られる点にあり、それによりサイクル時間が短縮される。100〜150℃、特に110〜140℃の硬化温度における離型時間は、典型的には360秒以下、好ましくは300秒以下、より好ましくは240秒である。
【0035】
6.熱後硬化
後硬化熱処理により、複合材作製に使用される金型の外にある高分子の架橋が行われる。類似の硬化を金型外でも実施する利点は、生産性に関連しており、起こりうる室温でのエージングについては、ガラス転移温度が、離型直後の化合物で測定した初期Tgよりもかなり高い値へ上昇することが、利点として挙げられる。
【0036】
生産性の観点から、及び(例えば、オーブン内における)外部後硬化プロトコルを含む、金型内で起こりうる架橋については、金型は、非常に短い時間使用される。したがって、多くの離型されたピースは、金型による製造が進む中、共通のオーブン内で、引き続いて一緒に硬化してよい。高温後硬化を行うための前提条件は、ピースが、顕著に変形することなく、すなわち所定の好適な離型時間後に、金型から取り出されることである。
【0037】
一方、架橋は、特定の温度にて行わなければならず、その温度は、原則として、離型時のポリマーのガラス転移温度よりも高くなるべきである。実際、架橋の反応速度は、高分子鎖の一定の移動度によって支えられている。ポリマーをそのTgよりも高い温度で加熱すると、類似の状態の可動性高分子鎖が得られる。その代わりに、硬化が、Tg未満の温度で行われると、何もない場合、最終Tgの上昇が少ししか観察されない。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、離型時の初期Tgを150〜175℃の範囲で示すことができ、160〜230℃に調温されたオーブンにサンプルを入れることからなる後硬化作業により、典型的には、Tgが最大195℃まで上昇する。この後硬化プロトコルの作業時間は、ポリマーが架橋し、高分子ネットワークを作れるように十分長くなければならない。一方、ポリマー内の少量の未反応種が、時間の経過とともに、化合物自体の黄変の増加を引き起こし得る。したがって、7.5分〜60分の間、より好ましくは、15〜45分の間、なおさらにより好ましくは20〜30分の間に含まれる時間、後硬化プロトコルを実行することが、多くの場合より好ましい。
【0039】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものではない。より具体的には、炭素繊維複合材部品が記載されている一方で、本発明はまた、アラミドまたはガラスの繊維強化複合材の調製に適合されてもよい。全ての部及びパーセンテージは、他に指示がない限り重量基準である。
【実施例】
【0040】
試験方法
サンプリング:引用された試験用の試験片は全て、RTM成形で入手した500×270×2mmの板を用いて行った。当該板は、繊維補強がないケース(表1のサンプル)及び繊維補強があるケース(表2のサンプル)のどちらも、試験に適した形状に、及び試験標準に従って、ウォータージェットカッターを用いて切断された。
【0041】
窒素フラックス中にて動作する示差走査熱量測定(DSC):
サンプルは、直径約2mmで、重量10.0〜15.0mgの小さなディスクに切断された。硬化1:動的DSCを用いて、後硬化処理をしていないポリマーのエンタイトルメントTg(entitlement Tg)値を測定した。20℃/分の加熱勾配で、当該サンプルを、初期硬化のため25℃〜200℃に加熱し、20℃/分の勾配で25℃に冷却し、1分間25℃の等温にて維持した。25℃〜200℃の第2勾配を実施し、Tg値を得た。
【0042】
硬化2:動的DSCを用いて、後硬化処理(7分〜1時間、160〜230℃の間から選ばれた固定温度にて保持した、空気で満たされたオーブン)後のポリマーのエンタイトルメントTg(entitlement Tg)値を測定した。20℃/分の加熱勾配で、当該サンプルは25℃〜250℃に加熱され、Tgを直接評価する。
【0043】
ガラス転移温度の評価は、ソフトウェア(Mettler−Toledo STARe(商標))を用いて、温度に対する熱流束の変曲点、すなわち曲線の導関数の最大値として演算される。
【0044】
化学レオロジー実験:
全てのレオロジー測定は、迅速な温度制御が可能な、ペルチェ加熱システムを装備した、Anton PaarのMCR302レオメーターを用いて実施する。この機器は、各測定に先だって、試験温度に予熱される。測定中は、プレートをフードが覆い、周囲への熱損失を制限する。ゲル化時間(GT)及び離型時間(DMT)は以下の通りレオロジー実験によって決定される。
【0045】
混合物のサンプルを、各ケースにおいて、ペルチェ加熱システムを装備した予熱済みMCR301または302レオメーター(Anton Paar)(25mm平行板)に注ぐ。測定温度は、下表中で示す通りである。せん断貯蔵弾性率及びせん断損失弾性率(G’及びG’’)を継続的に測定する。G’及びG’’のプロットが交わる時間(すなわち、G’がG’’と等しくなるとき)をゲル化時間とする。G’’がそのピーク値を示す時間をガラス化点とする。ガラス化点は、離型時間によく対応する。結果は下に示す通りである。
【0046】
引張り強度(EN ISO 527−1):
表2に記載されているサンプルの試験片を、標準試験に従ってドッグボーン形状に切断し、鉄製のクランプを装備したInstron(登録商標)引張試験機によって試験した。ドッグボーン形状(長さ)の主要寸法を、炭素繊維織物タイプ1のケースでは、一方向繊維配向と垂直になるように設定した。サンプル当たり5つの試験片で試験した。
【0047】
ガードナー試験(ASTM D1544−04):
表示ガードナー試験が、表1の切断されていないサンプルで、色の簡単な目視観測及び、ガードナー標準スケールとの比較によって実施された。
【0048】
原材料
エポキシA:約180g/当量のエポキシ当量、及び1重量%未満のモノ加水分解された樹脂を有する、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル。エポキシB:1分子当たりの−OH基の平均数が3.4、多分散指数が1.6である、エポキシノボラック樹脂。
DACH:1,2−ジアミノシクロヘキサン、INVISTA(商標)からDytek(登録商標)DCH−99として市販されているシス及びトランス異性体の混合物。
触媒1:1−メチルイミダゾール(CAS 616−47−7)
触媒2:2−メチルイミダゾール(CAS 693−98−1)
触媒3:2−メチル−2−イミダゾリン(CAS 534−26−9)
触媒4:2−フェニルイミダゾール(CAS 670−96−2)
触媒5:2−フェニル−2−イミダゾリン(CAS 936−49−2)
【0049】
全ての触媒は、スイスのブフス(SG)にあるSigma−Aldrich Chemie GmbHから高純度グレード(99+重量%)で市販されている。
炭素繊維織物1:DowAksa A42 12k、一方向織物(6層、角度0°)
炭素繊維織物2:DowAksa A42 12k、擬似等方性織物(6層、角度配向及び配列[0/90/0/0/90/0]°)
【0050】
サンプル調製
表1に記載されている実施例(比較例及び発明例)は、他に言及がない限り、500×270×2mmの寸法を有する長方形板を作成可能な、自動調温鉄製金型を装備した120トンのプレスが動作する、KraussMaffeiの高圧2成分エポキシRTM装置を使用して調製した。エポキシ装置内の成分の温度は、エポキシ樹脂用に80℃、及び硬化剤成分用に50℃に設定され、触媒が存在する場合は、常に硬化剤と前もってブレンドした。金型温度は、140℃に設定され、液体反応混合物の注入は、金型が閉じられ、続いて0.02バールに排気した後、金型の上端部に位置する注入口から実施された。離型時間は、数回の試験を実施し、金型から取り出されたピースが、硬そうに見え、かつ、その重量や少しの応力により変形しないかどうかを毎回確認することにより決定した。
【0051】
表2に記載されている実施例(比較例及び発明例)は、同様に調製されたが、代わりに金型を閉じる前に炭素繊維織物層を金型内に導入し、続いて0.02バールに排気した。この手順は、RTM技術では一般的であり、その目的は、織物への反応混合物の含浸を促進するため、及び、ポリマーマトリックス中に孔/泡の形成を防ぐためである。炭素繊維織物は、金型の長方形形状に合うように前もって切断された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
結果
表1に示される結果としては、比較例1と比較例2を比較した場合、樹脂成分中に一定量のエポキシノボラック樹脂を含むことにより、20℃超のTg上昇が得られる。200℃にて30分間行われる後硬化プロトコルにより、硬化済み組成物のTgを、190℃に近接した比較的大きな値まで上昇させることができる(比較例2)。しかし、比較例2に示される系は、ピースの変形を含むことなく金型からピースを取り出すのに適した(反応完了としての目的の)重合度を達成するために、長い離型時間を必要とする。
【0055】
比較例3、4、5ならびに発明例6及び7は、メチル−またはフェニル−置換イミダゾールまたはイミダゾリンをベースにした、様々な触媒を含む。これらのサンプル全てにおいて、離型時間は、比較例2の離型時間より短くなるため、製造時間の観点から利益をもたらす。
【0056】
比較例3及び4は、後硬化手順後であっても、比較的低いガラス転移温度を示す。比較例5は、イミダゾリン化合物を含み、比較例3及び4のように後硬化後に低いガラス転移温度を示す一方、透明であった。理論に縛られることは望まないが、最終化合物の濃い着色は、イミダゾール環上に位置するπ軌道系の存在により形成される錯体種の形成による可能性がある。その代わりに、イミダゾール環が部分的に水素化された場合(イミダゾリン)、当該π分子軌道はもはや存在できないため、化合物の色が無色透明である。
【0057】
発明例6及び7は、2−フェニル−イミダゾール及び2−フェニル−2−イミダゾリンが組み合わされた化合物は、後硬化プロトコル後に上昇したTgを示すだけでなく、無色透明になることを明らかにする。ガードナー黄変スケールは、2−フェニル−2−イミダゾリンが、2−フェニルイミダゾールの代わりに使用された場合、さらに向上し、これは、本発明のさらなる好ましい実施形態を表す。
【0058】
発明例8及び9は、炭素複合材部品の作製への本発明の組成物の活用可能性を表し、これらの複合材(一方向炭素繊維を用いて作製された複合材、及び擬似等方性層を用いて作製された複合材)は、初期の化合物、すなわち、強化繊維を組み込んでおらず、表1に記載された化合物のガラス転移温度に、非常に近接したガラス転移温度を示す
(態様)
(態様1)
1)2つ以上のエポキシ樹脂を有するエポキシ成分であって、前記エポキシ樹脂のうちの少なくとも1つが、最大約250のエポキシ当量を有するポリフェノールのポリグリシジルエーテルであり、少なくとももう1つのエポキシ樹脂が、エポキシノボラック樹脂である、エポキシ成分と、
2)脂環式化合物を含む硬化剤成分と、
3)イミダゾールまたはイミダゾリン環構造を有する化合物のうちの少なくとも1つを含む触媒成分と、を含む、硬化性樹脂系。
(態様2)
ポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルが、ポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルの総重量を基準として3重量%以下のモノ加水分解樹脂含量を含み、前記脂環式化合物が、イソホロンジアミン、2−及び4−メチル−シクロヘキサン−1,3−ジアミンの配合物、シクロヘキサン−1,2−ジアミンのシス−及びトランス−異性体の配合物、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−シクロヘキサンジメタンアミン、またはこれらの混合物のうちの1つである、態様1に記載の硬化性樹脂系。
(態様3)
前記エポキシ成分が、前記エポキシ成分の総重量を基準として、少なくとも10重量%のポリフェノールの前記ポリグリシジルエーテルを含む、態様1に記載の硬化性樹脂系。
(態様4)
前記エポキシノボラック樹脂が、約156〜300のエポキシ当量を有する、態様1に記載の硬化性樹脂系。
(態様5)
前記エポキシノボラック樹脂が、以下の化学構造を有し、
【化1】
式中、lが、0〜8の整数であり、各R’が独立して、アルキルまたは不活性置換アルキルであり、各xが独立して、0〜4の整数であり、R’が、メチル基である、態様4に記載の硬化性樹脂系。
(態様6)
前記触媒が、1−メチル−イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−メチル−2−イミダゾリン、2−フェニル−2−イミダゾリン;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N,N−ジメチル−1−フェニルメタンアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、及びトリブチルアミン;エチルトリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、及びエチルトリフェニル−ホスホニウムアセテート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、及びベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド;種々のカルボン酸化合物、ならびにこれらの混合物のうちの1つである、態様1に記
載の硬化性樹脂系。
(態様7)
前記触媒が、2−フェニルイミダゾールまたは2−フェニル−2−イミダゾリンである、態様1に記載の硬化性樹脂系。
(態様8)
態様1〜7に記載の樹脂系から作製される、硬化繊維強化複合材。
(態様9)
180℃を超えるガラス転移温度を有する、態様9に記載の複合材。