(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内視鏡を用いた手技の一つとして、膵臓に対する壊死組織除去術(ネクロセクトミー)が知られている。
胃から膵臓にアクセスしてネクロセクトミーを行う場合は、胃壁に形成した穴から内視鏡を突出させて膵臓に生じた嚢胞等の内腔に導入する。次に内視鏡の処置具チャンネルから突出させた把持鉗子やスネア、ネット等の各種処置具により壊死した組織を捕捉する。捕捉した組織は、胃内に運ばれて胃内に捨てられ、消化管を通って体外に排出される。
【0003】
補足した組織を胃内に捨てるには、内視鏡の先端部を胃内に移動させる必要があるため、すべての壊死組織を除去するためには、内視鏡を胃と膵臓の間で何度も移動させる必要がある。さらに、処置具は、処置具チャンネルに挿通可能な寸法であるため、処置具により1回の動作で捕捉できる壊死組織の量は少ない。したがって、手技が完了するまでに極めて多数回の胃−膵臓間の往復動作が必要になることが少なくない。
【0004】
内視鏡的ネクロセクトミーは、開腹によるネクロセクトミーよりも侵襲が低いという利点があるものの、上述の理由により手技は煩雑であり、すべての壊死組織を除去するために1〜2時間もの長時間を要することも多い。
【0005】
特許文献1には、生体組織を採取する採取部を有する先端部と、採取部で採取された組織を吸引する吸引機構を有する基端部とを有する中空の管路を具備する生体組織採取器具が開示されている。採取部で採取された組織は管路を通って回収されるため、特許文献1に記載の採取器具を内視鏡と組み合わせてネクロセクトミーを行うと、内視鏡を胃と膵臓の間で移動させなくても壊死組織の除去作業を継続することができる可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一実施形態について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1は、本実施形態の医療システム1の一例を示す図である。医療用システム1は、オーバーチューブ10と、オーバーチューブ10に挿通される内視鏡50および把持デバイス60と、オーバーチューブ10に接続される吸引機構80および送水源90とを備えている。
【0015】
内視鏡50は、可撓性の挿入部を備えた、いわゆる軟性内視鏡である。内視鏡50で撮像された視野内の映像は、モニタ51に表示される。
内視鏡50については、公知の軟性内視鏡から外径寸法等を考慮しつつ、適宜選択して使用することができる。
【0016】
オーバーチューブ10は、可撓性を有する管状の本体部20と、本体部20に取り付けられた操作部40とを備えている。
本体部20は、食道から体内に導入可能な外径寸法を有する。本体部20の外形寸法は、例えば15mm〜20mm程度である。
【0017】
本体部20は、例えば樹脂等の可撓性を有する材料で形成されており、先端側に設けられた能動湾曲部21と、基端側に設けられた可撓管部22とを有する。
能動湾曲部21は、複数の節輪等を含む公知の構成を有し、ワイヤ等の伝達部材(不図示)を介して操作部40と接続されている。操作部40を操作して伝達部材を長手方向に進退させることにより、能動湾曲部21を所望の方向に湾曲させることができる。能動湾曲部21において、湾曲可能な方向(1方向、2方向、4方向)等は適宜決定されてよく、伝達部材の数や操作部40の具体的構成も、これに合わせて公知の構成から適宜選択されてよい。
可撓管部22は、管腔臓器の走行や形状変化等に追従できる程度の柔軟性を有する。
【0018】
図2は、本体部20の正面図であり、
図3は、
図2のI−I線における断面図である。
図2および
図3に示すように、本体部20には、内視鏡50が挿通される第一ルーメン25と、除去した組織等を回収するための第二ルーメン(回収ルーメン)30とが全長にわたり設けられている。
第一ルーメン25の断面形状は円形であり、全長にわたり内径寸法が同一である。内径寸法は、内視鏡50が所定のクリアランスを有して挿通可能な値である。
【0019】
図2および
図3に示すように、第二ルーメン30内には、把持デバイス60が挿通される送水ルーメン31が配置されている。送水ルーメン31の先端開口31aは、第二ルーメン30内において、本体部20の先端から所定距離、例えば数センチメートル程度離れた位置に設けられている。送水ルーメン31を構成するチューブ32の外周面には、径方向外側に突出して全長にわたり延びる仕切り33aおよび33bが、周方向の2か所に設けられている。
【0020】
第二ルーメン30は、仕切り33a、33bを有するチューブ32により、第一管路30aと第二管路30bに分けられている。第一管路30aと第二管路30bとは、本体部20の基端から非連通状態で延びて送水ルーメン31の前方で連通している。
【0021】
把持デバイス60は、可撓性を有する管状の挿入部61と、挿入部61の先端部に設けられた処置部70と、挿入部の基端部に設けられた操作部65とを備えている。
【0022】
図4は、把持デバイス60の先端部を示す拡大断面図である。処置部70は、第一ジョー(第一部材)71および第二ジョー72(第二部材)の一対のジョーと、一対のジョー71、72が回動可能に支持された支持部材73とを有する。支持部材73は、挿入部61の先端部に固定されている。第一ジョー71および第二ジョー72は、それぞれリンク部71aおよび72aを有し、リンク部71aおよび72aに通された回動軸部材74が支持部材73に支持されている。リンク部71aおよび72aの基端部には、それぞれ操作ワイヤ75が接続されている。各操作ワイヤ75は、挿入部61内を通って操作部65まで延びている。
【0023】
操作部65は、挿入部61が接続される操作本体66と、操作本体66に摺動できるように取り付けられたスライダ67とを有する。操作部65まで延びた各操作ワイヤ75は、スライダ67に接続されている。したがって、スライダ67を操作本体66に対して摺動させると、操作ワイヤ75を挿入部61内で進退させることができる。操作ワイヤ75が進退すると、一対のジョー71、72が回動軸部材74を中心に回動して、一対のジョー71、72の相対移動により処置部70が開閉する。
操作部本体66と挿入部61、およびスライダ67と操作ワイヤ75は、いずれも取り外し可能である。すなわち、把持デバイス60は、操作部65を着脱可能に構成されている。
【0024】
図4に示すように、一対のジョー71、72は、先端側が閉じた状態において、基端側に開口71b、72bが生じる形状に形成されている。一対のジョー71、72は、一般的な把持鉗子のジョーよりもかなり大きい寸法を有し、例えば幅方向の最大寸法(後述するW1)が15mm以上20mm以下程度である。
【0025】
図5は、
図4のII−II線における断面図である。一対のジョー71、72が閉じた状態において、内部にはリンク部71a、72aのみが存在しており、広い内部空間が形成されている。したがって、一対のジョー71、72内には、一般的な把持鉗子に比べてはるかに多量の組織等を収容することができる。さらに、一対のジョー71、72が閉じた状態において、収容された組織等は、内部空間に連通する開口71b、72bから処置部70の外に移動することができる。
【0026】
図6は、オーバーチューブ10に通された把持デバイス60を示す図である。一対のジョー71、72の幅方向最大寸法W1は、第二ルーメン30の内径D1よりも大きいため、処置部70全体が第二ルーメン30内に進入することはできない。ただし、開口71b、72bが形成された一対のジョーの基端部の幅寸法W2は、内径D1よりも小さいため、一対のジョー71、72の基端部は、第二ルーメン30内に進入することができる。
上記幅方向最大寸法W1は、
図6に示すように一対のジョーの基端部が第二ルーメン内に収容された状態において、オーバーチューブ10の径方向外側に突出しない程度に設定されるのが好ましい。
【0027】
吸引機構80は、第一管路30aおよび第二管路30bの基端開口にそれぞれ水密に接続されている。吸引機構80は、吸引および送気可能に構成されたポンプ81と、吸引により回収された固体や液体を貯留するボトル82とを有する。
【0028】
送水源90は、送水ルーメン31の基端開口に接続されている。送水源90と送水ルーメン31との間の管路には、把持デバイス60が通過するためのポート91が設けられている。
【0029】
上記のように構成された本実施形態の医療システム1の使用時の動作について、膵臓のネクロセクトミーをする場合を例に説明する。
まず術者は、光学観察および超音波観察の両方が可能な内視鏡で膵臓における処置対象部位の位置を確認し、胃壁及び膵臓を切開して処置対象部位へのアクセス経路を確立する。アクセス経路確立後、内視鏡は抜去される。
【0030】
術者は、オーバーチューブ10の第一ルーメン25の基端開口から内視鏡50を挿入する。さらに、操作部65を取り外した把持デバイス60を、挿入部61の先端側から第二ルーメン30の先端開口に挿入する。そして、ポート91から突出させた挿入部61の基端部に操作部65を取り付けて処置部70の開閉動作が可能な状態にする。以上で医療システム1の導入準備が完了する。
【0031】
次に、術者は、内視鏡50および把持デバイス60が挿通されたオーバーチューブ10を患者の体内に挿入する。術者は、内視鏡50で体内を観察しながら、必要に応じて操作部40を操作してアクセス経路を通過させる。術者は最終的に、
図7に示すように、オーバーチューブ10の先端を処置対象部位の付近まで導入する。この例において、処置対象部位は膵臓Pc内にあり、除去すべき壊死組織Ntが存在している。
導入過程において、第二ルーメン30および送水ルーメン31を用いた送気や送水が適宜行われてもよい。
【0032】
術者は、
図8に示すように、内視鏡50で処置対象部位を観察しつつ、把持デバイス60を操作して壊死組織Ntをつかんで除去する。術者は壊死組織Ntを把持した把持デバイス60を後退させて、
図9に示すように一対のジョー71、72の基端部を第二ルーメン30内に移動させる。
【0033】
図9に示す状態では、第二ルーメン30と一対のジョー71、72の内部空間とにより、医療システム1に閉空間が形成されている。
この状態で術者が送水を行うと、水は送水ルーメン31内で挿入部61の周囲を通り、
図9に矢印で示すように、送水ルーメン31の先端開口31aから水が噴出する。吹き出した水は、開口71b、72bから一対のジョー71、72の内部空間に進入し、収容されている壊死組織Ntを押し流す。さらに、術者が吸引機構80を作動させると、第一管路30aおよび第二管路30b内が陰圧となり、
図10に示すように水および壊死組織Ntが第一管路30aおよび第二管路30b内に流れ込む。すなわち、送水ルーメン31からの送水および第一管路30aおよび第二管路30bの吸引を行うことにより、第二ルーメン30内に、処置部70で捕捉した壊死組織等を医療システム1の基端側に回収するための循環経路が確立される。
第一管路30aおよび第二管路30b内を流れた水および壊死組織Ntは、ボトル82内に落ちて回収される。
【0034】
その後術者は、再び把持デバイス60を前進させて、壊死組織Ntを掴み取る。以降、壊死組織Ntをすべて除去するまで、同様の操作を繰り返す。上記操作において、送水と吸引は、同時に行われてもよいし、交互に行われてもよい。
【0035】
本実施形態の医療システム1によれば、把持デバイス60でつかんだ壊死組織Ntを、第二ルーメン30内に移動させて吸引することにより回収できる。したがって、オーバーチューブ10および内視鏡50を固定したままで壊死組織Ntの除去作業を継続することができる。すなわち、従来の手順のように、壊死組織を把持するごとにオーバーチューブや内視鏡を膵臓内から胃内に移動させる必要がない。その結果、ネクロセクトミー等の作業効率を著しく向上させることができる。
【0036】
また、把持デバイス60の一対のジョー71、72は、最大幅寸法W2が第二ルーメン30よりも大きいため、一般的な把持鉗子等に比べて、1回の動作ではるかにに好適に回収することができる。その一方、基端側に開口71b、72bを有し、かつ基端部の幅寸法W2が第二ルーメンよりも小さいため、一対のジョー71、72の基端部を第二ルーメン30内に移動させるだけで、捕捉した壊死組織等を第二ルーメン30経由で効率よく回収することができる。
【0037】
さらに、第二ルーメン30内に送水ルーメン31が設けられているため、壊死組織等の粘性が高いような場合も、送水された水で壊死組織等を押し流せる。したがって、壊死組織等が第一管路30aおよび第二管路30b等の内壁に貼りついて回収されない等の事態を好適に防止することができる。
【0038】
加えて、把持デバイス60の挿入部61が送水ルーメン31内に挿通されているため、壊死組織等が送水ルーメン31内に進入しない。その結果、壊死組織等が送水ルーメン31内に進入して把持デバイス60の進退操作に悪影響を及ぼすことがない。
【0039】
本発明の第二実施形態について、
図11から
図13を参照して説明する。本実施形態は、把持デバイスの構造において第一実施形態と異なっている。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
図11は、本実施形態の医療システムにおける把持デバイス160の先端部を示す拡大図である。把持デバイス160においては、処置部170の基端側にスカート状の封止部材180が取り付けられている。
【0041】
図12は、把持デバイス160先端部の断面図である。処置部170は、第一実施形態と同様の形状の一対のジョー171、172を備える。ジョー171、172の寸法は、第一実施形態のジョー71、72よりも小さく、処置部170全体が第二ルーメン30内に進入できるように構成されている。
【0042】
一対のジョー171、172の基端部には、それぞれリンク173および174が連結され、リンク173および174が一本の操作ワイヤ175に連結されている。一対のジョー171、172の基端部に開口171bおよび172bが設けられている点、および操作ワイヤ175を挿入部61内で進退させると一対のジョー171、172を開閉できる点は、第一実施形態と同様である。
【0043】
封止部材180は、ゴムやエラストマー等の弾性変形可能な材料で形成されており、基端側に向かって徐々に拡径する筒状の形状を有する。封止部材180は、後述するように、把持デバイス160を後退させた際の閉空間形成に寄与するため、水を透過しない構成とすることが好ましい。封止部材180の基端部の外径寸法D2は、第二ルーメン30の内径より大きい。
【0044】
本実施形態の医療システムにおいては、把持デバイス160で壊死組織等を捕捉した後、把持デバイス160を後退させると、封止部材180の基端部がオーバーチューブ10の先端面に当たって先端側にめくれ返る。さらに把持デバイス160を後退させると、
図13に示すように、処置部170全体が第2ルーメン30内に移動する。処置部170と第二ルーメン30の内壁との間には隙間があるが、この隙間は、めくれ返った封止部材180により全周にわたって塞がれる。これにより、閉空間が形成されるとともに壊死組織等を回収するための循環経路がオーバーチューブ10内に確立される。
それ以外の点については第一実施形態と概ね同様である。
【0045】
把持デバイス160を備えた本実施形態の医療システムにおいても、第一実施形態と同様に、ネクロセクトミー等の作業効率を著しく向上させることができる。
【0046】
上述した封止部材180は、第一実施形態の把持デバイス60に取り付けられてもよい。封止部材180があると、一対のジョー71、72をオーバーチューブ10に強く押し当てなくても閉空間を形成することができ、操作が簡便になる。
【0047】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各実施形態および変形例で示された構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0048】
例えば、
図14に示す変形例の把持デバイス60Aのように、一対のジョーの基端側の開口に、蓋部77が設けられてもよい。このようにすると、処置部内に捕捉した壊死組織等が回収する前に漏れ出すことを防止することができる。蓋部77の作動方法は、蓋部に接続した開閉ワイヤを挿入部61内に通して操作部まで延ばす、閉空間に発生させた陰圧により開く、等適宜設定されてよい。
【0049】
また、蓋部に代えて、
図15に示すように、挿入部61に外シース265を設け、外シース265を挿入部61に対して前進させることにより、一対のジョーの基端側の開口を塞ぐことができるように把持デバイスを構成してもよい。なお、
図15では、図を見やすくするために、外シース265のみを断面で示している。
【0050】
また、把持デバイス60は、一対のジョーの両方が回動して開閉するものには限られない。例えば、
図16に示す把持デバイス260のように、先端部のジョー261(第一部材)、262(第二部材)のうち、一方のジョー262のみが開口262bを有して可動する、片開きのものが用いられてもよい。この場合は、
図16に示すように、第二ルーメン230内が1枚の仕切り235で送水ルーメン231と回収用の管路232とに分割される構成を採用してもよい。
【0051】
加えて、本発明の医療システムにおいて、オーバーチューブが可撓性を有することは必須ではない。例えば、トロッカ等を経由して腹腔や胸腔等の体腔内に挿入する場合は、本体部を硬質の材料で形成して、能動湾曲部のみが湾曲可能な硬性のオーバーチューブとすることも可能である。
体腔内における手技の例としては、例えば腹腔鏡下子宮筋腫核出術において、モルセレータ使用後に腹腔内に飛散した組織片の回収除去などが挙げられる。