(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記直胴部の前記他端の近傍における気孔の重心間距離の平均値と前記直胴部における気孔の平均径との差は、前記直胴部の中央部における気孔の重心間距離の平均値と前記直胴部における気孔の平均径との差よりも大きい請求項1に記載のインダクタ用コア。
前記磁性体本体は、Fe、Zn、NiおよびCuの酸化物からなるフェライトを主成分とするセラミックスからなり、下記式(1)で示される前記セラミックスの平均結晶粒径の変動係数CVは、0.08以上0.3以下である、請求項1〜4のいずれか1つに記載のインダクタ用コア。(好適な範囲:変動係数σ/xが0.2以下)
CV=σ/x ……(1)
但し、
xは前記セラミックスの平均結晶粒径の平均値、
σは前記セラミックスの平均結晶粒径の標準偏差
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示のインダクタ用コアについて詳細に説明する。
図1は、第1実施形態のインダクタ用コアの一例を示す平面図である。また、
図2は、第1実施形態のインダクタ用コアの一例を示す部分断面図である。インダクタ用コア1は、フェライト焼結体などの磁性体からなる磁性体本体10で構成されている。
【0012】
インダクタ用コア1は、磁性体からなる、筒状の磁性体本体10で構成されており、一端10aから他端10bへ貫通する円柱状の筒孔10cを有している。磁性体本体10を構成する磁性体としては、たとえば、粉状または粒状のフェライトなどを焼結したものが用いられるので、磁性体本体10内部には多数の気孔が存在している。磁性体本体10は、一端10aから他端10bへ向かって外径が大きくなる円錐台の周面をなす傾斜面11aを有する傾斜部11と、傾斜部11と同軸上で、他端10bから一端10aに向かって延びる円筒体の外周面12aを有し、傾斜部11と接続する直胴部12とを有している。
【0013】
磁性体本体10の一端10aから他端10bまでの長さは、たとえば、5mm〜15mm程度であり、筒孔10cの直径は、0.5mm〜2.0mm程度である。直胴部12の長さは、3mm〜12mm程度であり、直胴部12の外径は、2.0mm〜3.0mm程度である。傾斜部11の長さは、0.5mm〜2.0mm程度であり、傾斜部11の一端10a側の外径は1mm〜2mm程度であり、傾斜部11の一端10aと反対側の外径は、直胴部12の外径とほぼ同じである。このように傾斜部11は、一端10aに向かって先細の形状となっている。
【0014】
磁性体本体10の中心軸に沿った断面において、傾斜部11の外径は、一端10aから他端10bに向かって大きくなっている。すなわち、傾斜部11は、一端10aに向かって先細の形状となっている。傾斜面11aは、断面図において直線状の部分である傾斜面11a1と丸みを帯びた傾斜面11a2とを含んでいてもよい。このとき、傾斜面11a1は、円錐台の周面をなしていてもよい。また、一端10a近傍の傾斜面11aは、凸状の曲面である。つまり、傾斜部11の傾斜面11a1と傾斜部11の端面11bとは、傾斜面11aの一部であって、凸状の曲面である傾斜面11a2で接続されていてもよい。
【0015】
このように、傾斜面11a1と端面11bとは凸状の曲面である傾斜面11a2で接続されているので、たとえば、傾斜部11の端面11bが電子ペンの筐体に接触した場合などに、破損する可能性を低減することができる。また、電子ペンを倒してタブレットなどの表面に接触させたときには、芯体のほかに、磁性体本体10の一端10aを含む先端がタブレットなどに接触する可能性があるが、傾斜面11a1と傾斜部11の端面11bとは凸状の曲面である傾斜面11a2で接続されているため角部がないので、インダクタ用コア1によってタブレットなどの表面が損傷する可能性を軽減することができる。
【0016】
磁性体本体10の筒孔10cの内周面10eにおいて、傾斜部11側の開口10d付近の内周面10eは丸みを帯びていてもよい。内周面10eは、内周面10e1と、内周面10e1と傾斜部11の端面11bとを接続する、凸状の曲面である内周面10e2とを含んでいてもよい。筒孔10cの内周面10e1と、傾斜部11の端面11bとが、凸状の曲面である内周面10e2で接続されている場合には、芯体がタブレットなどの表面に押し付けられたときなどに、応力の集中を抑制して、磁性体本体10が損傷する可能性を軽減できるので、信頼性の高いインダクタ用コア1を実現することができる。
【0017】
また、磁性体本体10の中心軸に沿った断面において、傾斜部11の傾斜面11a1と傾斜部11の端面11bとを接続する傾斜面11a2の曲率半径をR1とし、筒孔10cの内周面10e1と傾斜部11の端面11bとを接続する、内周面10e2の曲率半径をR2としたとき、傾斜面11a2の曲率半径R1は、内周面10e2の曲率半径R2よりも大きくなっていてもよい。傾斜面11a2の曲率半径R1は、たとえば0.1mm〜0.2mmであり、内周面10e2の曲率半径R2は、たとえば0.02mm〜0.08mmである。
【0018】
図3は、第2実施形態のインダクタ用コアの一例を示す平面図である。第1実施形態のインダクタ用コア1に比べて、直胴部12と傾斜部11とが鍔部13を介して接続されている点が異なっている。磁性体本体10は、一端10aから他端10bへ向かって外径が大きくなる円錐台の周面をなす傾斜面11aを有する傾斜部11と、傾斜部11と同軸上で、他端10bから一端10aに向かって延びる円筒体の外周面12aをなす直胴部12と、傾斜部11と直胴部12との間にあって、傾斜部11と直胴部12とを接続している鍔部13とから構成されている。傾斜部11、鍔部13および直胴部12は、この順に一端10aから、他端10bに向かって配置されており、鍔部13の外周面13aは、傾斜部11の傾斜面11aおよび直胴部12の外周面12aの各外径よりも大きな外径を有している。
【0019】
たとえば、鍔部13以外の直胴部12の外径が2.1mm〜2.5mmの場合に、鍔部13の外周面13aの外径の最大値は、2.12mm〜2.72mmであり、直胴部12の外周面12aから、最大0.02mm〜0.22mm突出している。鍔部13によって直胴部12が変形しにくくなるので、傾斜部11に力が加わって、傾斜部11が変形しても、直胴部12の変形を軽減することができる。
【0020】
このような第1実施形態および第2実施形態に示されるインダクタ用コア1は、筒孔10cに後述する芯体を挿通して使用される。芯体は、芯体の先端部が磁性体本体10の一端10a側になるように挿通される。傾斜部11が先細の形状となっているので、磁性体本体10の一端10aを電磁誘導方式などによって位置を検出するタブレットなどの位置検出装置により近づけることができる。このように、磁性体本体10の傾斜部11を先細の形状とすることによって、位置検出装置の位置検出精度が向上する。また、磁性体本体10の先端部が先細になっているので、芯体の先端部に加わる力によって芯体が変位しようとしたときに、傾斜部11が変位しやすく構成されている。
【0021】
また、上述の第1実施形態および第2実施形態のインダクタ用コア1を形成している磁性体本体10は、焼結体であるため、内部には気孔が多数含まれている。これらの気孔の分布を重心間距離によって評価したとき、傾斜部11における気孔の重心間距離の平均値と傾斜部11における気孔の平均径との差が、直胴部12における気孔の重心間距離の平均値と直胴部12における気孔の平均径との差よりも小さい構成とすることによって磁性体本体10の傾斜部11は、芯体の変形に応じて変形し易く、磁性体本体10の直胴部12は、変形しにくくなる。
【0022】
インダクタ用コア1は、磁性体本体10に芯体を挿通して使用されるが、使用時に芯体がタブレットなどに押し付けられて力か先端部に力が加わる。このような場合において、傾斜部11の方が外力に対して直胴部12よりも変形しやすいため、インダクタ用コアの傾斜部11が、インダクタ用コアに挿通される芯体の変形に応じて変形しやすくなり、インダクタ用コアが損傷しにくいので、信頼性の高いインダクタ用コアを実現することができる。
【0023】
さらに、直胴部12の他端の近傍12cにおける気孔の重心間距離の平均値と直胴部12における気孔の平均径との差が、直胴部12の中央部12bにおける気孔の重心間距離の平均値と直胴部12における気孔の平均径との差よりも大きい構成としてもよい。このような構成にすると、直胴部12の他端10bの近傍12cにおける密度が高くなるので、透磁率が高くなり、感度が向上する。また、直胴部12の他端10bの近傍12cの外周上にコイルが巻回される場合、気孔の単位面積あたりの個数が少ないので、脱粒を低減することができる。
【0024】
気孔の重心間距離の測定は、たとえば
図4〜
図6に示される顕微鏡写真のように、直胴部12および傾斜部11の軸方向に沿った切断面をダイヤモンド砥粒で研磨することによって得られる鏡面を測定の対象とする。
図4は、傾斜部の断面の顕微鏡写真であり、
図5は、直胴部の中央部付近の断面の顕微鏡写真であり、
図6は、直胴部の他端の近傍の断面の顕微鏡写真である。
図4〜
図6において、曲線で囲まれた領域および点状の部分が気孔である。このように、傾斜部11から直胴部12の他端10bに向かうにつれて気孔の割合が小さくなっている。
【0025】
この切断面から気孔の大きさや分布が平均的に観察される部分を傾斜部11、直胴部12の中央部12bおよび直胴部12の他端の近傍12cからそれぞれ選択し、面積が3.4×10
5μm
2(例えば、横方向の長さが680μm、縦方向の長さが500μm)となる範囲の画像を観察の対象として、画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、以下単に画像解析ソフトと記載する。)によって重心間距離を測定する。また、気孔の円相当径の測定は、上記画像を観察の対象として、画像解析ソフトの粒子解析によって測定する。気孔の重心間距離および円相当径は、画像の気孔部分を粒子とみなして測定することができる。画像解析ソフトの設定条件の明度を暗、2値化の方法を手動、しきい値を60〜80、小図形除去面積を0.1μm
2および雑音除去フィルタを有とし、このような解析条件で画像解析ソフトを用いて解析を行う。この解析によって、気孔の重心間距離および円相当径が求められ、それぞれ平均値を算出して、重心間距離の平均値、円相当径の平均径を求めている。
【0026】
なお、上述の測定に際し、しきい値は60〜80としたが、観察範囲である画像の明るさに応じて、しきい値を調整すればよく、粒子の明度を暗、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を0.1μm
2および雑音除去フィルタを有とした上で、画像に現れるマーカーが気孔の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0027】
図7は、インダクタ用コアの傾斜部の断面の気孔の重心間距離を解析した写真であり、
図8は、インダクタ用コアの直胴部の中央部付近の断面の気孔の重心間距離を解析した写真であり、
図9は、インダクタ用コアの直胴部の他端の近傍の断面の気孔の重心間距離を解析した写真である。
図7〜
図9において、気孔は図中の黒色部の領域で示されている。これらの写真に示される直線は、隣り合っている気孔の重心点を結ぶ直線である。気孔の重心点とは、解析される断面における各気孔の領域の重心の位置である。傾斜部11(
図7)に比べて直胴部12(
図8、
図9)の方が気孔間を結ぶ直線が長くなっていることがわかる。また、直胴部12において、中央部12bよりも他端の近傍12cの方が気孔間を結ぶ直線が長くなっており、磁性体本体10の一端10a側よりも磁性体本体10の他端10b側の方が重心間距離が長くなっていることがわかる。
【0029】
表1を参照すると、傾斜部11における気孔の重心間距離の平均値と傾斜部11における気孔の平均径との差は、36.91μmであり、直胴部12の中央部12bにおける気孔の重心間距離の平均値と直胴部12の中央部における気孔の平均径との差は、48.28μmであり、直胴部12の他端の近傍12cにおける気孔の重心間距離の平均値と直胴部12の他端の近傍における気孔の平均径との差は、71.47μmである。このことから、傾斜部11における気孔の重心間距離の平均値と傾斜部11における気孔の平均径との差は、直胴部12における気孔の重心間距離の平均値と直胴部12における気孔の平均径との差よりも小さくなっているといえる。したがって、傾斜部11は、直胴部12に比べて柔軟性が高く、直胴部12は、傾斜部11に比べて剛性が高いといえる。
【0030】
また、磁性体本体10の気孔の平均径は、5μm以下であってもよい。気孔の平均径がこの範囲であると、気孔が小さくなり、その周囲が破壊の起点となりにくくなるため、機械的強度および破壊靭性の高いインダクタ用コア1を提供することができる。
【0031】
また、磁性体本体10の見掛け気孔率をアルキメデス法によって測定したところ、0.25%であった。見掛け気孔率は1.5%以下であってもよく、見掛け気孔率をこの範囲にすることによって、磁性体本体10がより緻密質になるので、機械的強度および破壊靭性の高いインダクタ用コア1を得ることができる。上記見掛け気孔率は、JIS C 2141:1992で定義される値である。
【0032】
また、磁性体本体10は、Fe、Zn、NiおよびCuの酸化物からなるフェライトを主成分とするセラミックスからなり、下記式(1)で示される前記セラミックスの平均結晶粒径の変動係数CVは、0.08以上0.3以下であってもよい。
CV=σ/x ……(1)
但し、
xは前記セラミックスの平均結晶粒径の平均値、
σは前記セラミックスの平均結晶粒径の標準偏差
【0033】
変動係数CVが0.08以上であると、結晶粒子の粒径が適度にばらついて、大きな結晶粒子同士の間に小さな結晶粒子が配置されるので、破壊靭性を高くすることができる。変動係数CVが0.3以下であると、標準偏差に対して粒径の大きい結晶粒子の割合が増えるので透磁率が高くなる。変動係数CVが0.08以上0.3以下であれば、高い破壊靭性および高い透磁率を兼ね備えることができる。
【0034】
特に、変動係数CVは0.1以上0.2以下であるとよい。
【0035】
ここで、平均結晶粒径は、以下のようにして求めることができる。
【0036】
まず、インダクタ用コア1の破断面を、平均粒径D
50が3μmのダイヤモンド砥粒を用いて銅盤にて研磨した後、平均粒径D
50が0.5μmのダイヤモンド砥粒を用いて錫盤にて研磨する。これらの研磨によって得られる研磨面を、温度を950℃として結晶粒子と粒界層とが識別可能になるまでエッチングして観察面を得る。
【0037】
走査型電子顕微鏡によって、観察面を5000倍に拡大した155μm×115μmの範囲で、任意の点を中心にして放射状に同じ長さ、例えば、100μmの直線を6本引き、この6本の直線の長さをそれぞれの直線上に存在する結晶の個数で除すことによって平均結晶粒径を求めることができる。
【0038】
図13は、インダクタ用コアの観察面の一例と直線の引き方を示す写真である。
図13に示す直線A〜直線Fは、それぞれ長さが100μmの直線であり、これらの直線を用いて平均結晶粒径を求めればよい。平均結晶粒径の平均値、標準偏差および変動係数CVは、このような観察面を7画面選択し、42個の平均結晶粒径を対象としてそれぞれ算出すればよい。
【0039】
また、平均結晶粒径の尖度Kuが0以上であってもよい。
【0040】
平均結晶粒径の尖度がKuとこの範囲であると、結晶粒子の粒径のばらつきが抑制されているので、気孔の凝集が減少して、気孔の輪郭や内部から生じる脱粒を減らすことができる。特に、平均結晶粒径の尖度は、1以上であるとよい。
【0041】
ここで、尖度Kuとは、分布のピークと裾が正規分布からどれだけ異なっているかを示す指標(統計量)であり、尖度Ku>0である場合、鋭いピークを有する分布となり、尖度Ku=0である場合、正規分布となり、尖度Ku<0である場合、分布は丸みがかったピークを有する分布となる。
【0042】
平均結晶粒径の尖度Kuは、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられている関数Kurtを用いて求めればよい。
【0043】
また、平均結晶粒径の歪度Skが0以上であってもよい。
【0044】
平均結晶粒径の歪度Skがこの範囲であると、結晶粒子の粒径の分布が粒径の小さな方向に移動しているので、気孔の凝集が減少して、気孔の輪郭や内部から生じる脱粒をさらに減らすことができる。
【0045】
ここで、歪度Skとは、分布が正規分布からどれだけ歪んでいるか、即ち、分布の左右対称性を示す指標(統計量)であり、歪度Sk>0である場合、分布の裾は右側に向かい、歪度Sk=0である場合、分布は左右対称となり、歪度Sk<0である場合、分布の裾は左側に向かう。
【0046】
平均結晶粒径の歪度Skは、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられている関数SKEWを用いて求めればよい。
【0047】
少なくとも傾斜部11は、Moを含み、Moは、結晶粒内よりも粒界層に多く含まれていてもよい。
【0048】
Moが結晶粒内よりも粒界層に多く含まれていると、フェライトを主成分とする結晶粒子同士の結合力が抑制されるので、容易に曲率半径R1の大きな傾斜面11a2を得ることができる。
【0049】
結晶粒内および粒界層におけるMoの含有量は、透過型電子顕微鏡とこの透過型電子顕微鏡に付随するエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて元素分析を行えばよい。
【0050】
インダクタ用コア1に使用される磁性体本体10は、次のようにして製造することが可能である。まず、出発原料として、Fe、Zn、NiおよびCuの酸化物あるいは焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用意する。このとき平均粒径としては、たとえば、Feが酸化鉄(Fe
2O
3)、Znが酸化亜鉛(ZnO)、Niが酸化ニッケル(NiO)およびCuが酸化銅(CuO)であるとき、それぞれ0.5μm以上5μm以下である。
【0051】
続いて、Fe
2O
3−ZnO−NiOから構成される仮焼粉体からなる第1の原料と、Fe
2O
3−CuOから構成される仮焼粉体からなる第2の原料とを作製するにあたり、第1の原料用に、酸化鉄、酸化亜鉛および酸化ニッケルを所望の量に秤量する。また、第2の原料用に、酸化鉄および酸化銅を所望の量に秤量する。ここで、第1の原料および第2の原料の作製における酸化鉄の添加量は、第2の原料の作製における酸化鉄の添加量を、例えば、酸化銅と等モル%とし、残量を第1の原料の作製に用いる。
【0052】
そして、第1の原料および第2の原料用に秤量した粉末を、それぞれ別のボールミルや振動ミル等で粉砕混合した後、第1の原料の作製にあたっては還元雰囲気において750℃で2時間以上、第2の原料の作製にあたっては還元雰囲気において650℃で2時間以上それぞれ仮焼することにより、それぞれ仮焼体を得る。
【0053】
次に、第1の原料および第2の原料となる仮焼体を、それぞれ別のボールミルや振動ミルなどに入れて粉砕することにより、仮焼粉体からなる第1の原料および第2の原料を得る。このとき、特に第2の原料となる仮焼体は、平均粒径D50が0.7μm以下となるように粉砕する。そして、この第1の原料および第2の原料を所望の量に秤量して混合した後、大気中において600℃以上700℃以下、昇温速度100℃/h以下の条件で再
仮焼することにより、Fe、Zn、NiおよびCuの酸化物からなるフェライトに合成された仮焼体を得る。
【0054】
次に、再仮焼によって得られた仮焼体を、ボールミルや振動ミルなどに入れて粉砕し、所定量のバインダ等を加えてスラリーとし、スプレードライヤを用いてこのスラリーを噴霧して造粒することにより球状の顆粒を得る。
【0055】
ここで、少なくとも傾斜部11が、Moを含み、Moは、結晶粒内よりも粒界層に多く含まれるインダクタ用コア1を得る場合、再仮焼によって得られた仮焼体100質量部に対して、酸化モリブデン(MoO
3)の粉末を、例えば、0.01質量部以上0.03質量部以下添加してスラリーとして、このスラリーを噴霧して造粒することにより球状の顆粒を得ればよい。
【0056】
そして、得られた球状の顆粒を用いてプレス成形して所定形状の成形体を得る。このプレス成形の際に、傾斜部11側よりも直胴部12側の圧力が加わるように調整することで、磁性体本体10の一端10aから他端10bに向かって気孔の分布密度が減っていくような構成を実現できる。その後、成形体を脱脂炉にて400〜800℃の範囲で脱脂処理を施して脱脂体とした後、これを焼成炉にて1000〜1200℃の最高温度で2〜5時間保持して焼成することにより、磁性体本体10を形成し、本実施形態のインダクタ用コア1を得ることができる。
【0057】
図10は、本実施形態の電子ペン用芯体部の一例を示す平面図である。電子ペン用芯体部2は、インダクタ用コア1と、インダクタ用コア1の磁性体本体10に巻回されているコイル21と、磁性体本体10の筒孔10cに挿通されている芯体22とを含んでいる。このような、電子ペン用芯体部2は、電磁誘導方式のタブレットなどの入力装置の電子ペンに内蔵することができる。
【0058】
芯体22は、磁化されにくいSUS304あるいはSUS316などの金属棒、SUS以外の金属材料やセラミックおよび樹脂などを使用することができる。また、芯体22はたとえば、ボールペンの芯などの実際に筆記できるものであってもよい。芯体22は、磁性体本体10の筒孔10cに挿通されて固定されている。芯体22は、先端部22aが、磁性体本体10の一端10a側の開口10dから1〜2mm程度突出するような位置で磁性体本体10に固定されている。磁性体本体10は、芯体22の先端部22aに向かって先細の形状である。また、芯体22の後端部22bは、磁性体本体10の他端の開口10fから突出している。
【0059】
磁性体本体10の直胴部12の他端10bに近い領域の外周面12a上に、エナメル線などを巻回して形成したコイル21が配設されている。コイル21は磁性体本体10の直胴部12のうち、他端10b側に近い箇所に8mm〜12mm程度の幅で巻回して固定されている。コイル21の端子21a,21bは、回路基板(図示せず)に接続されている。
【0060】
電子ペン用芯体部2をタブレットなどの位置検出装置表面に接触させたとき、芯体22から磁性体本体10に力が加わる。このとき、傾斜部11が変形しやすく、また、直胴部12の剛性が大きくなるように形成されており、使用時の芯体22の変形および変位することによって、磁性体本体10が破損しにくくなるので、信頼性の高い電子ペン用芯体部2を実現することができる。
【0061】
図11は、本実施形態の電子ペンを示す平面図である。電子ペン3の筐体31の一部は取り除いて示している。上述の電子ペン用芯体部2を筐体31に収納して、電子ペン3が構成されている。電子ペン3は、筒状の筐体31の空洞部31a内に、電子ペン用芯体部2および回路基板(図示せず)を収納して構成されている。このような電子ペン3は、たとえば、電磁誘導方式のタブレットなどの入力装置おいて、位置を入力する手段として用いることができる。筐体31の先端部31bには芯体22の先端部22aが突出可能な開口31cが設けられており、ノック機構によって、開口31cから先端部22aが突出または筐体31内に収納可能に構成されている。
【0062】
たとえば、筐体31の後端部31dには開口31eが設けられており、開口31eからノック棒32が突出している。使用者は、ノック棒32を押下することで、芯体22の先端部22aを筐体31から出し入れすることができる。本実施形態においては、芯体22の先端部22aが開口31cから出入りする構成であるが、芯体22の先端部22aが開口31cから突出した状態で固定されていてもよく、このような場合は、ノック機構は不要である。
【0063】
筐体31の先端部31bは先細になっているので、磁性体本体10の外周と筐体31の内面とが接触する場合があるが、そのような場合において、傾斜部11が変形しやすく、また、直胴部12の剛性が大きくなるように、形成されており、使用時の芯体22の変形および変位によって磁性体本体10が損傷する可能性を小さくできるので、信頼性の高い電子ペン3を実現することができる。
【0064】
図12は、本実施形態の入力装置を示す斜視図である。入力装置4は、電子ペン3と、位置を検出するセンサとを備えた位置検出装置である、タブレット41からなっている。入力装置4は、芯体22の先端部22aがタブレット41に接触した位置を検出することができる。位置検出装置としては、タブレット41の他、タッチパネルディスプレイを備えた携帯端末などであってもよい。入力装置4における位置検出方法としては電磁誘導方式を用いることができる。電子ペン3において磁性体本体10の一端10aがタブレット41に近接するような構成であっても、傾斜部11が変形しやすく、また、直胴部12の剛性が大きくなるように、形成されているので、信頼性の高い入力装置4を実現することができる。
【0065】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。たとえば、本開示の実施形態の組み合わせから生じた発明も本発明の範囲内のものである。