(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6928475
(24)【登録日】2021年8月11日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】捨型枠、束柱の形成方法、及び建物の解体方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20210823BHJP
【FI】
E04G23/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-83099(P2017-83099)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-178634(P2018-178634A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】517140435
【氏名又は名称】株式会社TOM
(74)【代理人】
【識別番号】100154210
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 宏
(72)【発明者】
【氏名】田山 隆
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴道
(72)【発明者】
【氏名】高橋 修
【審査官】
前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−196042(JP,A)
【文献】
特開2006−225949(JP,A)
【文献】
特開2009−228272(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0211093(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102852344(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
束柱を形成するための捨型枠であって、
筒状の型枠本体と、
前記型枠本体の側面から分岐して前記型枠本体の軸方向に延びる 束柱を形成するための捨型枠であって、
筒状の型枠本体と、
前記型枠本体の側面から分岐して前記型枠本体の軸方向に延びる補助筒と、
前記補助筒、エルボ及び延長筒を有する補助型枠と
を備え、
前記補助型枠は、前記型枠本体より高い上端を有することを特徴とする、捨型枠。
【請求項2】
前記補助型枠は、前記型枠本体から前記型枠本体の径方向に延長する延長筒を有することを特徴とする、請求項1に記載の捨型枠。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の捨型枠を用い、
前記型枠本体を上階の梁と下階の床面との間に固定することと、
前記補助型枠の上端を前記上階の床スラブの下面に固定することと、
前記上階の床スラブに貫通孔を設けることと、
前記貫通孔及び前記補助型枠を介して前記型枠本体にセメント系固結性流動物を注入することとを含むことを特徴とする、束柱の形成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の束柱の形成方法により下階に上階の床面を支持する束柱を形成することと、
前記上階に解体重機を投入して前記上階を解体することと、
を含むことを特徴とする、建物の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、束柱を形成するための捨型枠、該捨型枠を用いた束柱の形成方法、及び該束柱の形成方法を利用する建物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数階層の建物の未解体部の最上階に解体重機を投入し、上階から下階に向けて順次解体する建物の解体方法が広く行われている。ここで、解体重機が投入される階層の床面を解体重機の重量に耐えるように補強することが必要である。
【0003】
特許文献1には、捨型枠を上階の床スラブの下面と下階の床面との間に固定し、上階の床スラブに貫通孔を設けてこれを介して上階から捨型枠内にセメント系固結性流動物を注入することで、下階の床面上に上階の床スラブを補強する束柱を形成する方法が開示されている。
【0004】
ここで、上階を下階から補強するには、上階の床スラブを補強するよりも、床スラブを支持する梁を束柱で補強するのが望ましい。しかし、梁には貫通孔を設けることができないため、特許文献1に開示された方法では梁を束柱で補強することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−196042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上階の梁を下階の床面上で支持する束柱を形成するための捨型枠、該捨型枠を用いた束柱の形成方法、及び該形成方法を利用する建物の解体方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の捨型枠は、
束柱を形成するための捨型枠であって、
筒状の型枠本体と、
前記型枠本体の側面から分岐して前記型枠本体の軸方向に延びる筒状の補助型枠と、
を備え、
前記補助型枠は、前記型枠本体より高い上端を有することを特徴とする。
【0008】
これによれば、型枠本体を上階の梁と下階の床面との間に固定し、補助型枠の上端を上階の梁の下面より高い位置にある上階の床スラブの下面に固定して、上階から補助型枠を介して型枠本体にセメント系固結性流動物を注入することで、上階の梁を支持する束柱を形成することができる。
【0009】
本発明の捨型枠は、
前記補助型枠は、前記型枠本体から前記型枠本体の径方向に延長する延長筒を有することを特徴とする。
【0010】
これによれば、延長筒により、上階の梁の幅に応じて、型枠本体から型枠本体の径方向に補助型枠を離間することができる。
【0011】
本発明の束柱の形成方法は、
本発明の捨型枠を用い、
前記型枠本体を上階の梁と下階の床面との間に固定することと、
前記補助型枠の上端を前記上階の床スラブの下面に固定することと、
前記上階の床スラブに貫通孔を設けることと、
前記貫通孔及び前記補助型枠を介して前記型枠本体にセメント系固結性流動物を注入することとを含むことを特徴とする。
【0012】
これによれば、上階の床スラブに設けた貫通孔からセメント系固結性流動物を注入することで、貫通孔及び補助型枠を介して型枠本体内にセメント系固結性流動物が流れ込んで、上階の梁を下階の床面上で支持する束柱を形成することができる。
【0013】
本発明の建物の解体方法は、
本発明の束柱の形成方法により下階に上階の床面を支持する束柱を形成することと、
前記上階に解体重機を投入して前記上階を解体することと、
を含むことを特徴とする。
【0014】
これによれば、上階の梁を支持する束柱を下階の床面上に形成して上階を支持し、上階に解体重機を投入して上階を解体することで、建物を上階から下階に向けて順次に解体することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の捨型枠及び束柱の形成方法によれば、上階の梁を下階の床面上で支持する束柱を形成することが可能となる。また、本発明の建物の解体方法によれば、解体重機を投入して建物を上階から下階に向けて順次解体することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、捨型枠の補助部材の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、捨型枠を用いて束柱を形成する方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、捨型枠を用いて束柱を形成する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0018】
(捨型枠)
図1に、捨型枠10の構成を、下階2の床面2a上に設置した状態で示す。捨型枠10は、下階2の床面2a上で上階1の床スラブ1aを支持する梁1cを補強する束柱を形成するための型枠であり、型枠本体11及び補助型枠12を備える。
【0019】
型枠本体11は、下階2の床面2a上で上階1の梁1cを補強する束柱を形成するための筒状部材である。型枠本体11は、鋼板を筒状に曲げ、端部を接合することで例えば直径350mm(他の直径でもよい)の筒体を構成し、その筒体の内側から押圧して外向きに突出する輪体を軸方向に複数設けることで成形される。型枠本体11の下端には、下階2の床面2aに固定するための取り付け片(不図示)が外向きに張出形成されている。
【0020】
型枠本体11は、その上端に継手部11aを有する。継手部11aの側面には、例えば直径200mm(他の直径でもよい)の円筒状の接続部11bが設けられている。継手部11aの上端には、梁1cの下面に固定するための取り付け片(不図示)が外向きに張出形成されている。
【0021】
補助型枠12は、上階1から型枠本体11に束柱を形成するセメント系固結性流動物を注入するための筒体である。補助型枠12は、補助筒12a、エルボ12b、及び延長筒12cを有する。
【0022】
補助筒12aは、型枠本体11の軸方向に延びる例えば直径200mm(他の直径でもよい)の筒体である。補助筒12aの上端には、上階1の床スラブ1aの下面に固定するための取り付け片(不図示)が外向きに張出形成されている。
【0023】
エルボ12bは、補助筒12aを型枠本体11の径方向に曲げて型枠本体11に接続する補助筒12aと同径の曲筒体である。エルボ12bの上端及び下端は、それぞれ、補助筒12aの下端及び継手部11aの接続部11b又は延長筒12cの一端に接続される。
【0024】
延長筒12cは、補助筒12aを型枠本体11の径方向に延長するエルボ12bと同径の筒体である。延長筒12cの一端及び他端は、それぞれエルボ12bの下端及び継手部11aの接続部11bに接続される。延長筒12cは、上階1の梁1cの幅に応じて任意の長さを有してよく、それにより上階1の梁1cの幅に応じて型枠本体11からその径方向に補助型枠12を離間することができる。なお、延長筒12cは、上階1の梁1cの幅小さい場合には必ずしも設けなくともよい。
【0025】
上述の構成の補助型枠12は、型枠本体11より高い上端を有する。それにより、型枠本体11を上階1の梁1cと下階2の床面2aの間に固定するとともに、補助型枠12を型枠本体11の側面から分岐して型枠本体11の軸方向に延ばして、上階1の梁1cの下面より高い位置にある上階1の床スラブ1aの下面に固定することができる。
【0026】
なお、
図2に捨型枠の補助部材を示すように、補助型枠12の補助筒12aを梁1cの側面に固定する1又は複数の固定部材21をさらに設けてもよい。また、延長筒12cを、下階2の床面2a上で支持する支持部材22を設けてもよい。
【0027】
捨型枠10によれば、型枠本体11を上階1の梁1cと下階2の床面2aとの間に固定し、補助型枠12の上端を上階1の床スラブ1aの下面に固定して、上階1から補助型枠12を介して型枠本体11にセメント系固結性流動物を注入することで、上階1の梁1cを支持する束柱を形成することができる。
【0028】
(束柱の形成方法)
捨型枠10を用いた束柱の形成方法を説明する。
【0029】
まず、
図3に示すように、捨型枠10の型枠本体11を上階1の梁1cと下階2の床面2aとの間に固定する。ここで、型枠本体11の下端に設けられた取り付け片(不図示)を下階2の床面2aに固定し、継手部11aの上端に設けられた取り付け片(不図示)を梁1cの下面に固定する。
【0030】
次に、
図4に示すように、補助筒12a、エルボ12b、及び延長筒12cを接続して補助型枠12を構成し、その下端(すなわち、延長筒12cの一端)を継手部11aの接続部11bに嵌入して型枠本体11に接続し、その上端を上階1の床スラブ1aの下面に固定する。ここで、補助筒12aの上端に設けられた取り付け片(不図示)を、上階1の床スラブ1aの下面に固定する。
【0031】
次に、
図1に示すように、上階1の床スラブ1aに貫通孔1bを設けてこれを補助型枠12に連通する。
【0032】
最後に、貫通孔1bを介して補助型枠12にセメント系固結性流動物を注入する。それにより、補助型枠12から型枠本体11内にセメント系固結性流動物が流れ込み、これが型枠本体11内で固化することで、上階1の梁1cを下階2の床面2a上で支持する束柱が形成される。
【0033】
(建物の解体方法)
捨型枠10を用いた束柱の形成方法を利用する建物の解体方法を説明する。
【0034】
まず、上述の束柱の形成方法により、最上階の直下の階層に、複数の束柱を下階2の床面2a上に形成して、最上階1の梁1cを支持する。形成する束柱の数は、解体重機の重量に耐えるものとする。
【0035】
ここで、梁1cに限らず床スラブ1aを支持する束柱(特許文献1に記載のものと同様)を合わせて設けてもよいが、梁1cを支持することで十分な強度となり不要であることが多い。
【0036】
次に、最上階に解体重機を投入して、解体する。
【0037】
次に、最上階の直下の階層の1つ下の階層に、上述と同様に複数の束柱を形成して、最上階の直下の階層の梁1cを支持する。
【0038】
次に、解体重機を最上階の直下の階層に移動して、解体する。この際、形成された複数の束柱をも解体するものとする。
【0039】
以下、階層を1つずつ下に移動しつつ、複数の束柱を形成して梁1cを支持することと、支持された梁1cの上の階層に解体重機を投入して解体することを繰り返し、建物を上階から下階に向けて順次解体する。
【0040】
なお、複数の束柱を形成して梁1cを支持することは、必ずしも支持された梁1cの上の階層に解体重機を投入して解体する直前に行わなくともよい。例えば、最上階を除く全ての階層に複数の束柱を形成することを、最初に行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の捨型枠及び束柱の形成方法によれば、上階の梁を下階の床面上で支持する束柱を形成することが可能となる。また、本発明の建物の解体方法によれば、解体重機を投入して建物を上階から下階に向けて順次解体することが可能となる。多くの建設業者による利用が考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 上階
1a 床スラブ
1b 貫通孔
1c 梁
2 下階
2a 床面
10 捨型枠
11 型枠本体
11a 継手部
11b 接続部
12 補助型枠
12a 補助筒
12b エルボ
12c 延長筒
21 固定部材
22 支持部材