(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
哺乳動物の無傷皮膚の下側に存在する標的神経を刺激して筋肉収縮を引き起こすために、前記哺乳動物の無傷皮膚を介して電気神経刺激を送達するためのシステムであって、
保持デバイスと、
前記保持デバイスに取り付けられた陰極と陽極とを含む電極の組であって、前記陰極は、約1.5mm2〜約40mm2の面積を有する略一様な陰極皮膚接触面を画定し、前記陽極は、前記陰極皮膚接触面と同一またはそれより大きい面積を有する陽極皮膚接触面を有し、前記陰極及び前記陽極はシャフトを含み、前記陰極及び前記陽極の少なくとも一方の前記シャフトが屈曲性を有することにより前記陰極と前記陽極との間の電極間距離が調節可能である、該電極の組と、
前記電極の組に電気的に接続された電子制御システムとを含み、
前記電子制御システムは、前記電極の組を介して、前記陰極の下側に存在する前記標的神経に電気刺激を送達して前記筋肉収縮を引き起こし、
前記電気神経刺激が、約0.1mA〜約20mAの定電流を有し、
前記電気神経刺激が、約1Hz〜約45Hzの範囲の周波数で印加されることを特徴とするシステム。
【背景技術】
【0003】
一例として、ある人が病気、及び様々な種類の怪我の結果として呼吸補助を必要とすることがある。呼吸補助は、自発呼吸の促進から通常の呼吸ペーシングまでのすべてを網羅することが可能である。一般的に、必要とされる呼吸補助レベルを提供するために人工呼吸器が使用される。
【0004】
研究によると、長期間にわたる呼吸補助は横隔膜筋の衰弱を引き起こすことが明らかになっている。横隔膜筋は人の吸気能力に大きく関与しており、人工呼吸器の補助を18時間継続的に受けたのち、萎縮し始める。萎縮の重篤度は経時的に悪化する。多数の例において萎縮は非常に重篤であり、人は人工呼吸器を外した際、自発的に呼吸する能力を失っている。
【0005】
人は自力での確実な呼吸が不可能になると、人工呼吸器を外すよう計画された離脱処置を受けなければならない。離脱処置は毎日、毎週、または毎月続くこともあり、萎縮の重篤度によって決まる。長期間にわたる離脱は、人の不快レベル、及び、二次疾患(例えば肺炎)の発症リスクを高める。
【0006】
時間経過と離脱の様々な課題は、介護者及び医療提供者にとって重要である。120万〜180万人が1年間に少なくとも1度の離脱の試行に失敗している。長期間の離脱は死亡の一因となる可能性がある。更に、毎年約600万人が人工呼吸器を装着し、患者1人当たり、1日に約1,500ドルの費用がかかる。人が人工呼吸をしている時間の42%を離脱期間が占めている。これにより医療費全体が増大している。
【0007】
横隔膜の萎縮は脊髄損傷のある人に認識された問題であり、この問題は可逆的である。埋め込まれた電極による横隔神経の電気刺激は、通常呼吸ペーシングを装備している脊髄損傷者の衰弱した横隔膜筋を強化するために使われる。調整期間は様々であり、3ヶ月〜16ヶ月の範囲で、萎縮の重篤度によって決まる。
【0008】
横隔膜筋の収縮を引き起こす侵襲的方法は、感染リスク、外科手術及び入院の必要性、体内に埋め込まれた電極を有することによる不快感、並びに患者の負担費用の増大をともなう。したがって、離脱またはコンディショニング処理を受けている患者にとっては、横隔膜筋の収縮を引き起こす非侵襲的方法が好ましい。萎縮した横隔膜筋を調整するために埋め込まれたデバイスを使用することの成功に基づいて、非侵襲的な電気的方法が研究されてきた。
【0009】
人の頸部の経皮的、電気的刺激は、横隔膜神経を活性化し、横隔膜筋の収縮を促進することが明らかにされてきた。研究では、呼吸筋の萎縮を調べるために、表面電気刺激による横隔膜筋収縮を誘起した。具体的には、電気刺激の単一のパルス(例えば、1ミリ秒より長いパルス持続時間)を横隔神経が位置する頚部に印加すると、人の最大横隔膜圧を生じさせることが可能になる。大きな刺激振幅(300Vに近い)を有する単相または二相の定電圧矩形波パルスの、より短いパルス持続時間(100μ秒)を適用することでも、最大横隔膜筋収縮を達成することが可能である。
【0010】
これらの成果にも関わらず、いくつかの問題によって、これらの方法の成功は妨げられる。1つの問題は、電極(すなわち、頚部)の近傍にある痛覚受容体の活性化である。この痛みの感覚は非常に重要であると報告されており、電極の下にある皮膚内に位置する侵害受容器の活性化によって引き起こされる。別の問題は、頚部の適切な領域に電極を配置することの難しさである。もし最初に電極が正しく配置されなければ、横隔膜は収縮せず、表面の筋肉組織からの望ましくない筋肉収縮が生じることになる。これは、理想的な刺激部位を、痛みをともなって探すことが必要となる。
【0011】
このように、信頼性のある非侵襲的な方法で横隔膜神経を刺激することによって、人の横隔膜筋を活性化するシステム及び方法が依然として必要とされている。身体の痛覚受容体を活性化することなく、及び外来筋収縮を誘起することなく、横隔膜神経を刺激することが更に必要である。費用対効果の高い方法で横隔膜神経に対し刺激を与える別の必要性もある。更に、広く臨床医に利用しやすい横隔膜神経刺激のシステム及び方法が必要とされている。
【0012】
別の例では、閉塞性睡眠時無呼吸症の人は、睡眠中に呼吸補助を必要とする。睡眠時無呼吸症を治療する最も一般的な方法は、持続的気道陽圧法を適用したデバイスを使用することである。しかし、このデバイスは人がフェイスマスクなどを着用することを必要とし、これは一部の人々にとっては受け入れられない。したがって、信頼できる非侵襲的な方法で舌下神経を刺激することにより人の呼吸を引き起こす刺激システム及び方法が必要とされている。
【0013】
別の例では、気管支収縮(すなわち、喘息;COPD)または頭痛状態(すなわち、片頭痛;群発性片頭痛)を患う人々は、十分な、急性の及び/または予防の治療のオプションを必要としている。初期の研究は、迷走神経刺激によって喘息すなわちCOPD、及び様々な頭痛のタイプを軽減または消失させることができるということを示唆している。したがって、周囲の感受性構造を同時活性化することなく、非侵襲的に迷走神経を活性化させる刺激システム及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、哺乳動物の無傷皮膚を介して電気神経刺激を送達し、筋肉収縮を引き起こすために下側の標的神経を刺激するシステムが存在する。そのシステムは、保持デバイスと、保持デバイスに取り付けられた陰極及び陽極を含む電極の組を有する。陰極は、略一様な皮膚接触面を有し、陰極の皮膚接触面は約1.5
mm2〜約40
mm2の面積を有する。更に、陽極の皮膚接触面は、陰極の皮膚接触面の面積と同じ、またはそれより大きい面積を有する。電子制御システムは、各電極に電気的に取り付けられている。電子制御システムは、電極を介して電気刺激を送達し、痛みの感覚を誘起することなく1つ、または複数の電極の下側にある標的刺激を刺激する。陰極及び陽極の少なくとも一方のシャフトが屈曲性を有することにより陰極と陽極との間の電極間距離が調節可能である。
【0015】
一態様では、システムは哺乳動物の生理学的機能をモニタリングするための構成要素を含み、電気神経刺激の送達が生理学的機能を調節する。例えば、生理学的機能は呼吸周期であり得る。
【0016】
さらなる態様では、電気神経刺激は約0.1mA〜約20mAの定電流を有する。
【0017】
別の態様では、電気神経刺激は単一パルスまたはマルチパルス式で送達され得る。マルチパルス刺激は、約1Hz〜約45Hzの範囲の周波数で印加され得る。電気神経刺激もまた、約1kHz〜約1MHzの範囲の搬送周波数を含み得る。矩形波パルスは、約250μ秒未満のパルス持続時間を有し得る。矩形波パルスは、約66.5μ秒未満のインターパルス間隔を有することができ、単相、及び/またはランプ入力として与えられることができる。
【0018】
さらなる態様では、標的神経は横隔膜神経、迷走神経または舌下神経であり得る。更に、標的神経が横隔膜神経である場合、横隔膜神経の電気神経刺激は哺乳動物の横隔膜筋を強化し、人工呼吸器を取り外すことを容易にすることができる。
【0019】
更に他の態様では、陰極は、
半球形状、略半球形状、または楕円体形状等であり得る、略一様な皮膚接触面を有し得る。特定の一実施形態では、陰極の皮膚接触面は、約3.5mm
2〜約20mm
2の面積を有し得る。
【0020】
更に別の態様では、電極の組は単極または双極のいずれかであり得る。
【0021】
もう1つの態様では、陰極はヘッド及びシャフトを有し、シュラウドデバイスのフードがヘッドを部分的に覆うことができ、シュラウドデバイスのネックがシャフトを部分的に覆うことができる。更に、フードはヘッドの周囲を回転可能に構成することができ、電気神経刺激が標的神経へ向かうことを容易にする。
【0022】
一態様では、陰極及び陽極を互いに離間させ、カラーまたはラップに取り付けることができる。
【0023】
本発明の更に別の態様では、哺乳動物の無傷皮膚を介して電気神経刺激を送達し、標的神経の下側に神経シグナル送達を引き起こす方法が想定される。この方法は、標的神経の位置を見つけるステップ、つまり約3.5mm
2〜約40mm
2の面積を有した略一様な皮膚表面を有する陰極を標的神経上の皮膚上に配置し、陰極に隣接した皮膚上に対応する陽極を配置するステップと、痛みの感覚を誘起せずに陰極の下側に存在する標的神経に神経シグナル送達を引き起こすため陰極を介して電気神経刺激を送達するステップとを含む。
【0024】
一態様では、本方法は更に、哺乳動物の生理学的機能をモニタリングするステップを含むことができ、このステップにおいて電気神経刺激の送達は、電気神経刺激による生理学的機能の調節を含む。一例では、生理学的機能は呼吸周期であり得る。
【0025】
この方法によれば、電気神経刺激は約0.1mA〜約20mAの定電流を有することができ、約1Hz〜約45Hzの範囲の周波数を有し得る。更に、電気神経刺激は約3mA未満の始動振幅からより大きな振幅に、ランプ入力として与えられるパルス列で送達される定電流の矩形波パルスであり得る。
【0026】
この方法の別の態様では、標的神経は横隔膜神経、迷走神経、または舌下神経であり得る。標的神経が横隔膜神経である場合、横隔膜神経の電気神経刺激は哺乳動物の横隔膜筋を強化し、人工呼吸器を取り外すことを容易にすることができる。
【0027】
この方法の更に別の態様では、陽極は、陰極の皮膚接触面の面積と同じ、またはそれより大きい面積の皮膚接触面を有し得る。
【0028】
この方法のもう1つの態様では、陰極はヘッド及びシャフトを有し、シュラウドデバイスのフードがヘッドを部分的に覆うことができ、シュラウドデバイスのネックがシャフトを部分的に覆うことができる。特定の一実施形態では、フードはヘッドの周囲を回転可能に構成することができ、電気神経刺激が標的神経へ向かうことを容易にする。
【0029】
この方法の更に別の態様では、陰極及び陽極をカラーまたはラップから離間した配置で取り付けることができる。
【0030】
この方法の別の態様では、陰極及び陽極を介し、電気神経刺激を送達するステップに先行して、電気刺激の単一のパルスを標的神経に送達することができる。
【0031】
さらなる態様では、電気神経刺激処置のためのキットが提供され、このキットは1つ、または複数の陰極を含む。各陰極は、略一様な皮膚接触面を有し、各陰極の皮膚接触面は約3.5mm
2〜約40mm
2の面積を有する。このキットはまた、1つ、または複数の陽極を含み、各陽極は皮膚接触面を有する。各陽極の皮膚接触面は、陰極の皮膚接触面の面積と同じ、またはそれより大きい面積を有する。及び、1つ、または複数の陰極と1つ、または複数の陽極とを電子制御システムへ接続するための電気リードを有し、この電気リードによって、1つ、または複数の陰極を介して電気刺激を送達し、痛みの感覚を誘起せずに1つ、または複数の陰極の下側にある標的神経を刺激する。
【0032】
キットの一態様では、陰極はヘッド及びシャフトを含み、シュラウドデバイスのフードがヘッドを部分的に覆うことができ、シュラウドデバイスのネックがシャフトを部分的に覆うことができる。特定の一実施形態では、フードはヘッドの周囲を回転可能に構成することができ、電気神経刺激が標的神経へ向かうことを容易にする。
【0033】
本発明のシステム、方法、及びキットには多くの利点があり、その技術は横隔膜筋肉の状態を戻すためだけでなく、人工呼吸器をつけた患者の萎縮を防ぐ目的でも使用することができる。
【0034】
本発明の他の特徴及び態様を、以下に詳細に説明する。
【0035】
さらなる特徴及び利点は、添付の図面に示されたような、本発明の望ましい実施形態の、以下のより詳細な説明から明らかになる。参照符号は一般に全体を通して同じ部分または要素を参照する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(定義)
本明細書で使用される場合、「搬送周波数」、「搬送シグナル」または「搬送波」という用語は、振幅、周波数、位相または他の特性が変わるように変調された(すなわち変えられた)、固定中心周波数を有する波形を指す。周波数はヘルツ(1秒あたりのサイクル数)で測定される。本発明の目的のために、搬送周波数は低い皮膚インピーダンスを提供し、変調周波数を伝えるよう選択される。望ましくは、搬送周波数は高周波波形である。
【0038】
本明細書で使用される場合、「使い捨て」という用語は、とても安価であってただ一度の使用の後に経済的に廃棄可能な製品をさす。「使い捨て」の製品は、通常、一度の使用を意図されている。これらの製品は、汚染または感染の可能性を減少させることで、臨床環境において利点をもたらす。更に、これらの製品は再加工及び再使用のために収集されず、組み立てられないため、作業の流れを向上させることができる。必要に応じて、本発明の陰極及び陽極は使い捨てであっても良い。
【0039】
本明細書で使用される場合、「無傷皮膚」という用語は、健康な、壊れていない、及び無損傷の、または新たな外科的切開、針トロカール等の器具による新たな穿孔などの任意の意味のある方法で変化していない皮膚を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「痛みの感覚」または「痛みをともなう感覚」という用語は、感覚的な侵害受容器の活性化によって生じる、非常に不愉快な感覚を指す。
【0041】
(本開示の詳細な説明)
ここで、本発明の様々な実施形態を詳細に参照し、1つ、または複数の実施例を以下に示す。各々の実施例は本発明の説明を目的としており、本発明を限定するものではない。事実、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、本発明に様々な改良及び変更を行うことが可能であることは、当業者には明らかである。例えば、一実施形態の一部として図示または開示されている特徴を他の実施形態で使用し、更に別の実施形態を生み出すことが可能である。したがって、本発明はこのような改良及び変更を含むものとして対象としている。
【0042】
無傷皮膚を介して電気神経刺激を送達し、下側の標的神経を刺激するためのシステムが開示される。一般的に、無傷皮膚は、無傷の哺乳類の皮膚である。本発明によれば、電気刺激は、標的神経に物理的に隣接する切開、穿孔等によって物理的に皮膚を貫く器具または電極を使用することなく、経皮的に送達される。言い換えれば、電気刺激は無傷皮膚に直接送達され、非侵襲的な方法で下側の標的神経を刺激する。
【0043】
本発明の一態様では、電気刺激システム及び対応する方法を使用することで、横隔膜神経である標的神経の経皮的な電気刺激によって横隔膜の筋肉収縮が誘起される。例えば、小さなヘッド(直径7mm未満)を有する陰極電極は、横隔膜神経の近傍に配置される。陰極は、1Hz〜45Hzの範囲の周波数で、50μ秒〜150μ秒の短い電気パルス持続時間で神経を電気的に刺激するために使われる電極の組(すなわち、陰極及び陽極)の一部である。この電気刺激は、あらゆる痛みの感覚、または余分な筋肉の動き無しに横隔膜筋の収縮を誘起する。
【0044】
定電圧の神経刺激は、調節可能な量の電流を誘起する。皮膚インピーダンスまたは電極インピーダンスが増加すると、電流量は減少する。定電流デバイスでインピーダンスが増加すると、電圧は自動的に増加して望ましい電流出力を維持する。定電圧または定電流のいずれも使用できるが、定電流デバイスは、神経刺激のより望ましい方法である。
【0045】
刺激法は、覚醒している人の横隔膜神経を確実に誘起することができ、横隔膜筋の収縮を引き起こす。上記のように、繰り返し行われる横隔膜筋の収縮により、筋肉は強化され、より機能的になる(すなわち、重量挙げと似ている)。この方法により、定期的な治療を通して、人は人工呼吸器の補助からより容易に離れることができる。つまり、刺激は人の横隔膜筋を強化し、入院期間をより短縮し、より健康的に退院することを可能にする。本発明を通して明らかとなるいくつかの利点のうちただ1つは、開示された方法によって、従来の方法と比較し、患者が呼吸補助を取り外すのに必要な時間を大幅に短くすることができる。
【0046】
本発明の方法は、横隔膜筋の萎縮を防ぐために使用もされ得る。より具体的には、萎縮防止は、刺激システムを呼吸補助デバイスと結合させ、神経の電気刺激が人工呼吸器と位相固定されるようにした結果であり得る。
【0047】
本発明の別の態様では、本発明のシステム及び方法を使用することで、横隔膜神経を刺激することによって中枢性睡眠時無呼吸を治療し得る。または、舌下神経を刺激することによって閉塞性睡眠時無呼吸を治療し得る。この態様では、一定期間の無呼吸がセンサによって検出された後、横隔膜筋の収縮を誘起するために、対象神経の刺激が使用される。
【0048】
上記の呼吸治療は、実際に、中枢神経系を抑制する必要があり(例えば、外傷及び麻酔または麻薬の適用によって)、患者が実質的に一定の姿勢を保っている、外科的処置または他の医療処理中に使用される。治療の他の実際的な用途は、以下を含む。(1)突発的な慢性の吃逆を止めること、(2)筋萎縮性側索硬化症(ALS)または脊髄損傷の人の横隔膜の健康を維持すること、及び、(3)極度の呼吸困難(すなわち、スポーツイベント、歌唱における呼吸困難)に備える人の、既に健康な横隔膜を強化すること。
【0049】
刺激システム
本発明の一態様では、電気刺激システムは予め定められた電気パルスを感知し、制御し、標的神経に送達する複数のデバイスを含む。一般に、
図1で概略システム10として参照されたシステムは、電極の組(陰極20及び陽極28)、パルス発生器30、ユーザーインターフェース40、患者モニタリングシステム50、コントローラ60、及び絶縁パワーシステム70を含み得る。実験規模のシステムが図示及び説明されているが、より小型のユニットを使用し、望ましい電気刺激を送達することができると想定されている。
【0050】
刺激電極
図2Aを参照すると、陰極20と呼ばれる刺激電極の全体的な形状は、オペレータが標的神経の近傍に陰極ヘッド22を正確に配置できるようなものである。本発明の一態様では、陰極20は、一方の端にヘッド22を有する細長いシャフト21と、反対側の端にハンドル23などの支持体とを含む。説明したように、陰極ヘッド22は、とがっていない形状を有する。ヘッド22から少なくとも約2.54cm(約1インチ)の距離にわたるシャフトの直径24は、ヘッドの直径25未満、またはヘッドの直径25に等しい。電気リードLは、陰極20と一体化されても、または従来の電気コネクタを使用して取り付けられても良い。このような基準を満たす可能性のある陰極の1つは、ニューヨーク州所在のAxon Systems, Inc.社から販売されている、ペディクルスクリュープローブ(pedicle screw probe)であるPSP−1000モデル(商標)である。
【0051】
一般に、陰極ヘッド22は、略一様な皮膚接触面を有する。すなわち、皮膚接触面は、電極から流れる電流を不必要に集中させ、皮膚を貫通さえし得る突起、鋭い縁、先端または特徴を避けるべきである。
【0052】
望ましくは、各陰極ヘッド22の皮膚接触面は、約1.5mm
2〜約40mm
2の面積を有する。望ましくは、皮膚接触面27は約3.5mm
2〜約20mm
2の面積を有する。
【0053】
陰極ヘッド22は、卵円形状、楕円形状または円形状の断面を有し得る。望ましくは、陰極20のヘッド22は円形状であり、直径が約2.5mm〜約7mm、または約2.5mm〜約5mmであり得る。または、最も望ましくは直径2.5mmである。
【0054】
本発明の一態様では、陰極20のヘッド22は球形を有し、直径が約7mm未満、または5mm未満である。最も望ましくは、直径2.5mm未満である。これらの大きさは、ヘッド22が標的神経に隣接する、望ましい筋肉の間に適合することができるような大きさである。
【0055】
大きすぎるヘッド22は、標的神経に隣接した筋肉の間に適合しないだけでなく、比較的小さいヘッド22(上記のように「小さい」)と比べて低い電流密度を有する。電流密度が望ましい横隔膜応答を得るためには低すぎる場合、より多くの電力が電極に送達されなければならず、それにより不快になる可能性が増大する。更に、小さなヘッド22は、皮膚の痛覚受容体を活性化する可能性が低く、より制御可能であるので、近くの興奮性組織を共活性化することなく標的神経上にプローブを配置することが容易である。
【0056】
図2Aは、シャフト21から延在する例示的な陰極ヘッド22の図である。ヘッド22は、略球形の形状を有し、略一様な皮膚接触面27を提供する。
図2Bは、シャフト21から延在する別の例示的なヘッド22の図である。ここで、ヘッド22は、略回転楕円形状(例えば、偏球形状)を有し、略一様な皮膚接触面27を提供する。
図2Cは、シャフト21から延在する更に別の例示的なヘッド22の図である。ヘッド22は、略半球形の形状を有し、略一様な皮膚接触面27を提供する。
図2Dは、シャフト21から延在する更に別の例示的なヘッド22の図である。ここで、ヘッド22は、略半回転楕円体の形状(例えば、偏球の約半分)を有し、略一様な皮膚接触面27を提供する。当然のことながら、電極から流れる電流を不必要に集中させ、皮膚を貫通し得る突起、鋭い縁、先端または特徴を皮膚接触面が避けるならば、様々な他の形状及び構成を利用し得ることは想定されている。
【0057】
本発明の一態様では、シャフト21は、TEFLON(登録商標)フッ素重合体または他の絶縁材料でコーティングされ、電流の送達及び電極のインピーダンスをより制御しやすくする。比較的小さい陰極ヘッド22は、約12.5mA/cm
2〜約9.5mA/cm
2の比較的大きい電流密度に対応する。最も望ましくは、3.5mA/cm
2である。陰極ヘッド22の露出面積が減少するにつれて、より小さい電力が陰極に送達されない限り、電流密度は増加する。
【0058】
本発明の一態様では、ヘッド22は、ステンレススチールなどの生体適合性のある金属を含む。ハンドル23は、十分な大きさで臨床医が快適に握ることができ、偶発的な衝撃のリスクを最小限に抑える材料(例えば、プラスチック)で作られている。
【0059】
本発明の一様態では、シュラウドデバイス120を使用してヘッド22を部分的に覆い、ユーザーが標的神経に向かってより効果的に電流を導くことを可能にする。
図13及び
図14を参照すると、シュラウドデバイス120は、ヘッド22を部分的に覆うフード122と、ヘッド22から延在するシャフト21を完全に覆うネック124とを含む。フード122は、陰極を電気的に絶縁し、電流がフード122を越えてヘッド22から伝わることを防ぐ。
【0060】
フード122は、ヘッド22の約3分の1〜約2分の1を包み込み、ヘッド22の導電性の表面27に密接に嵌合するよう、カップ形状である。望ましくは、上面125(
図14参照)が部分的に露出し、ユーザーがシャフト21を患者の身体に当て、ヘッド22を標的神経に向ける必要がないことである。
【0061】
フード122は、TEFLON(登録商標)コーティング金属または他の非導電性材料などの絶縁材料から作ることができる。フード122は、固定されている(場合によってはコーティング材として取り付けられる)、または回転可能である。回転可能なフード122及びネック124は、更に回転中にヘッド22の周囲に緊密に嵌合し、ヘッド22及びフード122の間、並びにシャフト21及びネック124の間に無視してよい量の摩擦を受ける。望ましくは、フード122の縁部127は平滑であって、ヘッド22を皮膚に押し付けたときに患者に不快感を引き起こさない。
【0062】
本発明の別の態様では、ショルダー126を使用して、ヘッド22の周囲でフード122を回転させる都合の良い方法をユーザーに提供することができる。
図13を参照すると、1つの例示的なショルダー126は、フード122から離れた方向に延在するトランク128を含む円錐台形状を有し得る。ショルダー126とトランク128との間の接続部は、滑らかであり、図示のように鋭い縁であってはいけない。トランク128の反対側の表面121上に、ショルダー126の中心に対してネック124が取り付けられている。
【0063】
トランク128は、フード122がヘッド22の周囲を回るためのダイヤルとして使用され得る。トランク128は、数字表示器で身体に対するヘッド22の位置を表すことができる。電流は陰極から対応する陽極に流れ、標的神経はその中間に位置することが留意されたい。絶縁されたフードによって、電流はよりよい方向へ向けられる(すなわち、前方と対比して後方に)。例えば、標的神経が横隔膜神経である場合、フードを回転させ、電流を横隔膜神経へ向けることができる。フード122を約180度回転させると、エルプ点で横隔膜神経の後外側方に位置する腕神経叢が、代わりに刺激される。
【0064】
ショルダー126は、グラウンド129によって接地され、皮膚の表面上に電流が広がることを遮断または防止する材料から作られる。
【0065】
横隔膜神経刺激の例において、任意のショルダー126を使用することで見込まれる別の利点は、皮膚に押し付けられたときに、胸鎖乳突筋102が前斜角筋104から分離するのを助け、斜角筋の前方表面で下降する横隔膜筋へアクセスしやすくすることである(
図3参照)。この概念は、他の標的神経に隣接する他の筋肉にも適用され得る。
【0066】
シュラウド120は、非対称なヘッド22と連結して使用され得ることに留意されたい。例えば、
図15には、略卵形であり、凹部130を有する、ある形状にされたヘッド22が示されている。この形は、標的神経、例えば横隔膜神経に電流を集中させるために望ましいことがある。
【0067】
本発明の別の態様では(
図11を参照)、シャフト21は、ヘッド22への途中で切断され(シャフト21の小さな部分のみが残る)、保持デバイスに取り付けられ、神経刺激の処置の間、標的神経上に電極を安全に配置することができると想定されている。例えば、
図11は、陰極20及び陽極28が取り付けられている(どの陰極20に対しても陽極28が1つ存在する)、保持デバイスのカラー80の一実施形態を示す。横隔膜神経刺激のために設計されたカラー80は、一対のアーム83を含むC字型の本体を有する。陽極28及び陰極20は、アーム83の端部に取り付けられている。望ましくは、各陰極20のシャフト21は、各々の長手軸に沿って略整列され、ヘッド22が相互に向かい合う。望ましくは、陰極20のヘッド22と対応する陽極28のヘッド22との間の電極間距離29は、0.5cmより大きい距離で調節可能であり維持可能であるため、各陽極28のシャフト21は、屈曲性を有する、または調節可能である。更に、陽極28は、陰極20の後端から約3cmのクラビクルの上側面に配置し得る。
【0068】
アーム83の間には、各アーム83の基部を反対の電極へ接続する役割を果たす、トランク部材87が存在する。ブリッジ85は、アーム83の間にわたり、2つの電極セット間の張力を調整するために使用され、使用中にカラー80が配置場所から滑り落ちることはない。ブリッジ85は、各々の長手軸に沿って整列された、及び張力デバイス86によって相互に接続された、一対の張力ブラケット84を有する。張力デバイスは、張力ブラケット84を共に、選択的に引き出す任意の装置であってよい。
【0069】
図12は、横隔膜神経の両側刺激が得られる、カラー80の配置方法を示す。一般に、陰極ヘッド22は、頚部の各々の側の横隔神経に対して配置される。
図3を参照すると、横隔膜神経108がクラビクル106の上部、及び胸鎖乳突筋102と前斜角筋104との間でアクセスされ得る対象の頚部100を示している。
【0070】
本発明の別の態様では、保持デバイスは、少なくとも1つの陰極20、及び少なくとも1つの陽極28を有するストラップ86である。
図10を参照されたい。前記ストラップは、例えば粘着性材料または機械的ファスナ(例えば、フック及びループシステム、クリップ、スナップ、ピンなど)などの締結部品88を有し得る。
【0071】
陽極28の1つのタイプは、陰極と同様に構成される。本発明の一態様では、実施形態に関わらず、陽極の皮膚接触面27は、陰極の皮膚接触面と同じ表面積を有する。本発明の他の態様では、陽極28は、陰極20より大きい皮膚接触面を有する。
【0072】
電極の組は単極の方式、または態様で刺激を送達し得る。この単極態様では、1つ、または複数の陰極が標的神経上の皮膚上に配置され、比較的大きな表面積を有する第2の不関電極(陽極)は患者の身体の表面上に配置され、回路が完成する。あるいは、刺激は双極の方式、または態様で送達することができ、上記のシステムは更に、1つ、または複数の陽極を含み得る。刺激が双極方式または双極態様で送達されるとき、陰極は標的神経上の皮膚上に配置され、対応する陽極は標的神経上の皮膚上に配置され、各々の陰極及び陽極の間の電気エネルギーの送達を優先的に集中させる。双極態様では、陽極は陰極から十分離間して配置され、分路を避ける必要がある。各陽極の皮膚接触面は、望ましくは、対応する陰極の皮膚接触面と少なくとも同じかそれより大きい表面積を有する。
【0073】
パルス発生器
図1を再び参照すると、一態様では、電極の組(陰極20及び陽極28)は、リード線によって、パルス発生器30に電気的に接続され得る。パルス発生器30は、定電流の刺激装置である。1つの例示的な刺激装置は、英国所在のDigitimer Ltd.社から販売されている、定電流のDIGITIMER DS5(商標)周辺電気刺激装置である。DIGITIMER DS5(商標)装置は双極刺激を送達する。本発明の別の態様では、パルス発生器30は、定電圧のパルス発生器であってもよい。例えば、3つのこうした発生器は、米国ロードアイランド州所在のAstro−Med, Inc.社の子会社であるGrass Technologies社から入手できる、S88X(商標)、S48(商標)、SD9(商標)などである。単極刺激も、標的神経を活性化し筋肉収縮を引き起こすが、有効性は低い。
【0074】
ユーザーインターフェース
ユーザーインターフェース40は、ソフトウェアを動作させるコンピュータであり、コントローラから伝わったシグナルを記録し、コントローラの出力を操作するよう設計されている。考えられるソフトウェアには、英国所在のCambridge Electronic Design社の、「SPIKE(商標)」プログラムを含む。このソフトウェアは、プログラム可能であり、電気生理学的シグナルを記録及び分析することができ、刺激を可能にするようコントローラに指示することができる。
【0075】
横隔膜神経刺激のために使用される患者モニタリングシステム
患者モニタリングシステム50は、生理学的シグナルを集め、増幅し、フィルタリングし、コントローラ60へ出力する。取得された測定結果は、(1)心拍51、(2)筋活動52、及び(3)呼吸53、を含む。心臓及び横隔膜筋からの心電図及び筋電図シグナルはそれぞれ、表面電極によって記録される。呼吸は、患者の胸部の周囲に巻かれたひずみゲージ呼吸ベルト変換機によって機械的に測定され得る。患者モニタリングシステムで得られたあらゆる生理学的シグナルは、交流シグナル増幅器/調節器(54A、54B、54C)を通過する。増幅器/調節器の一例は、米国ロードアイランド州ウェストワーウィック所在の、Astro−Med, Inc.社の子会社であるGrass Technologies社から販売されているModel LP511(商標)交流増幅器である。横隔膜筋などから記録された筋電活動がコントローラと組み合わせられることで、デバイスが較正及び刺激パラダイムを最適化でき、並びに、有効性及び特異性を医療提供者に示すことができるようになる。
【0076】
コントローラ
コントローラ60は、シグナル増幅器/調節器50から電気生理学的波形データを取得することでデータ取得機能を実行し、パルス発生器30のリアルタイム制御のための電気シグナルを出力する。コントローラ60は、オンボードメモリを有し、高速データキャプチャ、独立波形サンプルレート、及びオンライン分析を容易にし得る。一態様では、コントローラ60は、英国所在の、Cambridge Electronic Design社から販売されている、POWER 1401(商標)データ取得インターフェースユニットであってもよい。
【0077】
絶縁パワーシステム
あらゆる機器は、絶縁されたパワーサプライまたはシステム70によって給電され、接地不良、及び主電源によって伝えられたパワースパイクから保護される。例示的な絶縁パワーシステムは、米国ロードアイランド州ウェストワーウィック所在の、Astro−Med, Inc.社の子会社であるGrass Technologies社製の、Model IPS115 Isolated Medical−grade Power System(商標)である。
【0078】
特定の操作理論に制限されないが、一般的な皮膚接触刺激電極より実質的に小さい皮膚表面上に刺激電極を使用することによって、特に搬送周波数が使用される場合には、神経または神経線維を刺激するために必要な電流量が減少し得るということが、一般的に信じられている。少なくとも、電流密度が集中し、痛みの感覚が発生することを避けるため、電流量は最小限に抑えることができる。十分な電流密度を有し、比較的低い電流密度で神経刺激を提供することにより、痛みの感覚は防がれる。
【0079】
搬送周波数によって、皮膚を介するより、よいエネルギー送達が可能になるため、変調刺激は下側にある神経により容易に影響を与えることができる。米国食品医薬品局は、経皮的刺激のためのパワー計算が、500Ωの皮膚インピーダンスを使用することを奨励している。研究によると、搬送周波数を1MHzまで使用すると、皮膚インピーダンスが100Ωまで下がることが明らかになっている。したがって、本発明が約2.5mm(面積0.05cm
2またはA)の直径を有する電極を使用し、25kHz(DC;矩形波)及び10mA(電流ピーク値(Ipeak))で電流刺激を送達する場合、同じ電流(140mA/cm
2)を神経に送達するために使用される出力密度(PD;式1)は、5分の1に減少する。同じ電流密度が神経に印加された場合、搬送周波数の印加は減少し、結果として500mW/cm
2〜100mW/cm
2の出力密度まで減少し得る。
【0080】
式1:PD=((電流実行値)
1/2×(抵抗値Ω))/(電流A)
式2:電流実行値=Ipeak(DC)
1/2
【0081】
本発明は、電気刺激処置のためのキットも包含する。
図8は、任意の様式の適当な入れ物202を含むキット200を示し、
図1〜
図2E、及び、場合により
図10〜
図15に示された構成要素の、任意の組合せが提供される。キット200は、
図1に示される物品のすべてを含む必要はないことを理解されたい。すなわち、コントローラ、パルス発生器、ユーザーインターフェース、患者モニタリングシステム増幅器などの構成要素を含める必要はない。
【0082】
入れ物202は、例えば、物品が入った、取り外し可能で密封されたカバーを有する適切なトレイであってもよい。例えば、キット200の実施形態は、1つ、または複数の陰極20、及び上記のような電気リード「L」を含む入れ物202を含み得る。前記キットは更に、1つ、または複数の陽極28(図示されていない)を含み得る。
【0083】
キット200の他の実施形態は、心電図電極55、筋電図電極56、及び圧電ベルト変換機57、並びにドレープ、ドレッシング材、テープ、スキンマーカーなどの任意の組合せなどの、図示されていない追加のアイテムを含み得る。キット200は、導電性の液体またはゲル、消毒剤、または皮膚前処理剤の、1つ、または複数の容器204を含み得る。キット200は、導電性の液体またはゲル状のワイプ、並びに殺菌用ワイプまたは皮膚前処理用ワイプ等の、前もってパッケージ化されたワイプ206を含み得る。
【0084】
横隔膜神経刺激のための電気神経パラメータ
・(1)刺激タイプ:定電流、または定電圧の矩形波パルス。
・(2)波形:単相または二相。
・(3)パルス持続時間:約100μ秒〜約250μ秒未満、もしくは約100μ秒〜約150μ秒未満であり得る。また、最も望ましくは、100μ秒である。
・(4)位相持続時間:(二相性パルスの場合のみ)パルスの各部分について、約50μ秒〜約125μ秒、または約50μ秒〜約75μ秒未満であり得る。また、最も望ましくは、50μ秒である。
・(5)電流:約0.1mA〜20mAであり得る。最も望ましいのは、3mA〜4mA(人が非常に肥満体の場合は最大5mA)の範囲である。
・(6)電流密度:(半球状で、直径2.5mmの電極ヘッドの単位面積(cm
2)あたりの電流量(mA))は、約12.5mA/cm
2〜約9.5mA/cm
2であり得る。最も望ましくは、3.5mA/cm
2である。
・(7)パルス間隔:(パルス間の時間)は、約66.5μ秒未満、または21.95μ未満であり得る。インターパルス間隔によって、筋肉収縮を誘起するときなどの筋組織の物理的変化が可能になる。
・(8)パルス周期:(1つのパルスの開始から次のパルスの開始までの時間の長さ、すなわち、位相持続時間、イントラパルス間隔、及びインターパルス間隔を含む)は、約66ミリ秒未満、または約44ミリ秒未満であり得る。また最も望ましくは約22ミリ秒である。パルス周期は、周波数に反比例する。
・(9)パルス周波数:約1Hz〜45Hz、または約20Hz〜35Hz、また最も望ましくは、約25Hzであり得る。少なくとも20Hzの周波数は、融合横隔膜応答をもたらす。
・(10)搬送シグナル:電気的刺激は、任意の搬送シグナルに重ね合わせることができる。搬送シグナルは、刺激中に皮膚のインピーダンスを低下させるために使用されることができ、神経を活性化するために上記の変調周波数によって必要とされる電流量を減少させ得る。搬送シグナルは、振幅変調方式で送達され得る。搬送シグナルは、正弦波または矩形波の形であって良く、1,000Hz〜1,000,000Hz(すなわち1MHz)の間で送達され得る。刺激システムは、システムの始動または較正中に最適な搬送シグナルを決定することもできる。
・(11)パルス列:単一パルス及びマルチパルスが送達され得る。単一パルスは始動時または較正時に使用され、刺激の有効性及び安全性を決定する。マルチパルスの列は、約1秒間、または必要に応じて送達され得る。各パルス列は、インターバースト間隔であるオフタイムによって分離されている。パルス列の持続時間は、吸気の持続時間を決定し、対象者間及び対象者内で調節可能である。パルス列は、穏やかな吸気及び呼気への移行を可能にする。呼気は受動性である。
・(12)インターバースト間隔:(各パルス列間のオフタイム)は調節可能であり、患者によって決まる。
・(13)パルスランプ:各パルスの強度が段階的に増加、または減少するときに発生する。望ましくは、ランプは、横隔膜筋の収縮を誘起するために必要とされるより少ないパルス強度ペデスタルで始まる。最終的に、強度が増加するにつれ、横隔膜神経の運動閾値が交差し、横隔膜筋は生理学的方式で収縮し始める。意図された収縮が生じた後、呼吸サイクルが完了するまで、各後続パルスの強度は段階的に減少する。パルスランプは、機能性と快適性を配慮して設計される。
【0085】
舌下神経刺激及び迷走神経刺激のための電気刺激パラメータ
舌下神経刺激及び迷走神経刺激のためのパラメータは、横隔膜神経刺激のパラメータと同じである。
【0086】
電気刺激の方法
本発明はまた、無傷皮膚を介して電気刺激を送達し、下側に存在する標的神経を刺激する方法を含む。この方法は、以下のステップを含む。(1)標的神経の位置を見つけるステップ。(2)各陰極が、約3.5mm
2〜約40mm
2の面積を有する略一様な皮膚表面を有し、標的神経の上側の皮膚上に各々が対応する陽極を有する、1つ、または複数の陰極を配置するステップ。(3)これらの電極を利用し、痛みの感覚を引き起こすことなく、また補助構造(すなわち、筋肉、非標的神経)を活性化することなく、陰極の下側に存在する標的神経を刺激して電気刺激を送達するステップ。
【0087】
皮膚の表面と標的神経との間隔は、約数mmである。軽度の圧力を刺激電極へ印加することで、電極―皮膚間の距離を減少させ、効果的な刺激強度を低下させ、対象の快適性を改善することができる。
【0088】
この方法は更に、陽極を皮膚上に、対応する陰極ごとに1つ配置することを含む。望ましくは、陽極は対応する陰極から、分路を避けるのに十分な距離を離間して、標的神経上の皮膚上に配置される。
【0089】
一般に、電流制御刺激の使用は、刺激電流密度がよりよく制御されるため、電圧制御刺激より有利である。
【0090】
本発明の実施方法は、更に、導電性のゲル、液体、またはペーストなどの結合媒体の使用を含み、これを皮膚に適用し、皮膚の導電性を高め、及び/または、より低いインピーダンスにすることができる。導電性ペーストの例は、コロラド州オーロラ所在の、Weaver and Company社製の、Ten20(商標)導電性ペースト、及び、カリフォルニア州フットヒルランチに事務所を有する、日本光電工業株式会社製の、ELEFIX Conductive Paste(登録商標)を含む。導電性ゲルの例は、ニュージャージー州フェアフィールド所在の、Parker Laboratories, Inc.社製の、Spectra 360 Electrode Gel(商標)、または、オハイオ州イートン所在の、Electro−Cap International, Inc.社製の、Electro−Gel(商標)を含む。
【0091】
横隔膜神経
ほとんどの場合、有効性を最大化するために、両側神経刺激を提供することが望ましい。しかし、対応する横隔膜神経を介して、1つの片側横隔膜を刺激することは可能である。1つの肺、または神経が外科的除去、虚脱、または損傷などによって機能しない場合、片側神経刺激が望ましい。
【0092】
両側横隔膜神経刺激の手順
・(1)安定した患者用ベッドの近くに刺激システムを設置する。
・(2)患者を快適な背臥位に置く。
・(3)患者に心電図、筋電図、及び圧電ベルト変換機を配置する。
・(4)呼吸、心拍、及び横隔膜筋電図シグナルのモニタリングを開始する。
・(5)患者の頚部の両側にある、胸鎖乳突筋の後部境界の位置を見つける。
・(6)皮膚に印をつけ、刺激電極の配置の望ましい場所を示すことが、最も望ましい。
・(7)各々の望ましい位置について、その上に陰極のヘッドを配置し、軽度の圧力を印加して陰極と横隔膜神経との間の距離を減少させる。この位置に、刺激電極を維持する。
・(8)各電極について、陽極を鎖骨の上面に、尾側に陰極を配置する。電気刺激の単一パルスを左右の刺激部位に送達し、視覚的結果、及び筋電図の結果を用いて、刺激誘発性の横隔膜筋収縮を検証する。
・(9)電気刺激パラメータを使用し、長方形のマルチパルス電気刺激を印加することで、両側の横隔膜神経が融合横隔膜収縮を達成する。電気刺激は、横隔膜神経に同時に印加されても良く、また、各片側横隔膜を交互に刺激し、各々に対してより大きな休止期間を与えても良い。
・(10)心拍変動、及び収縮期血圧を分析することにより、心血管系が安定しているかどうかを判断する。これらの尺度がベースラインから明らかに変化する場合、刺激を終了する。
【0093】
迷走神経刺激の手順
迷走神経刺激は、原発性頭痛、片頭痛、喘息、運動誘発性気管支痙攣、及びCOPDの急性緩和を引き起こし得る。更に、片頭痛及び群発頭痛に対する予防処置に使用することができる。上記の横隔膜神経刺激パラダイムの若干の変更のみが、迷走神経の刺激に必要である。迷走神経200を刺激するために、電極の組は首の皮膚領域202上、及び下顎の下部に配置される(
図16)。具体的には、陰極20は、胸鎖乳突筋と気管との間に配置される。自律活動(すなわち、心拍、つまり皮膚の血流変化)のマーカーは、迷走神経の活性化を示すために使用される。
【0094】
舌下神経刺激の手順
閉塞性睡眠時無呼吸は、舌下神経、または舌下神経枝を刺激することによって治療される。本明細書に記載されているような横隔膜神経刺激パラダイムの、若干の変更のみが必要である。更に、刺激が呼吸パターンと連動するよう、センサを使用することができる。電極の組は、頚上部または下顎の部位から舌下神経(または舌下神経枝)への刺激を送達し、横隔膜筋または自律神経系によって生じる呼吸運動を感知する。刺激は、軟組織(すなわち、舌)が気道を妨害しないよう設計されている。
【0095】
実験
21歳〜40歳の健康なボランティア15名が、電気生理学的検査を受け、表面電気刺激が、痛み、望ましくない筋肉収縮、及び生理学的方式をともなわずに、人の横隔膜筋収縮を行うことができるかどうか判定した。
【0096】
本明細書に記載の方法にしたがって、本発明の陰極を、胸鎖乳突筋の後縁に配置し、皮膚に軽く押し付けた。対応する陽極を、正中線で頚部の後面に適用した。
【0097】
定電流パルスを、単一パルス及びマルチパルス(1秒パルス列)方式で各対象に送達した。パルス持続時間は、10mA未満の強度、50μ秒〜150μ秒の範囲で、様々な周波数(10、15、20、及び25Hz)及びランプ率であった。ランプ入力として与えられるパルス列を1秒間、及びパルス持続時間を100μ秒で送達した。上記のように、各パルスの強度を、先行するパルスの強度から僅かに(0〜0.4mA)増加させた。最初の数パルスの強度は非常に弱く、横隔膜筋収縮を誘起できなかった(運動閾値下)。
【0098】
結果測定は以下を含んだ。1)横隔膜筋から記録された筋電図シグナル、2)心拍変動を測定するための心電図、3)呼吸、及び4)視覚的アナログスケール(VAS)。VAS(
図9)は、知覚された痛みのレベルを測定する、一般に認められた方法である。
【0099】
結果は、痛み、または望ましくない筋肉収縮を引き起こすことなく、人の横隔膜筋を活性化させる、横隔膜神経への電気刺激の単一パルス70を示した(
図4)。単一パルス70は、呼吸の突然の増加(呼吸スパイク72を参照)、及び、横隔膜の突然の変化(心電図スパイク74を参照)に対応する。重要なことに、全ての被験者は、VASスコアが「0」であることを示し、同様に、刺激が自発的に生じた吃逆のように感じられたと報告した。刺激は、心拍の変化を誘起しなかった。
【0100】
20Hzより大きい周波数でのマルチパルス電気刺激は、融合横隔膜収縮を可能にした。
図6を参照すると、融合呼吸スパイク72に対応するマルチパルス70、及び、複数であるが圧縮された横隔膜スパイク74を示している。
【0101】
ランプ入力として与えられるマルチパルス刺激は、徐々に増加する横隔膜筋収縮、及び、穏やかな吸気を引き起こす。
図7を参照すると、電流が経時的に増加するマルチパルス70(20Hzにおいて)を示している。融合スパイク74はまた、ランプ入力として与えられた形状を有する。更に、被験者は、VASの痛みレベル0を報告し、本発明の方法が、痛覚受容体を動員することなく生理学的な横隔膜筋収縮を誘起したことを示した。
【0102】
本発明は特定の実施形態に関して詳細に開示してきたが、当業者が上述の内容を理解すれば、これらの実施形態の代替形態、改変、及び均等物を容易に想到し得ることは理解されよう。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲及び、特許請求の範囲に対するあらゆる均等物として評価されるべきである。