(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6928618
(24)【登録日】2021年8月11日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】生物学的環境において改善された性能を有するパラジウム触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 31/24 20060101AFI20210823BHJP
B01J 37/32 20060101ALI20210823BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20210823BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20210823BHJP
C07F 9/50 20060101ALI20210823BHJP
【FI】
B01J31/24 Z
B01J37/32
B01J33/00 A
B01J37/04 102
C07F9/50
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-559820(P2018-559820)
(86)(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公表番号】特表2019-516547(P2019-516547A)
(43)【公表日】2019年6月20日
(86)【国際出願番号】US2017031965
(87)【国際公開番号】WO2017196985
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2020年5月8日
(31)【優先権主張番号】62/334,043
(32)【優先日】2016年5月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593089149
【氏名又は名称】プロメガ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン セルジー
(72)【発明者】
【氏名】オハナ レイチェル フリードマン
(72)【発明者】
【氏名】カークランド トマス
(72)【発明者】
【氏名】ウッド キース
【審査官】
山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−232535(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/157402(WO,A1)
【文献】
特開平08−053482(JP,A)
【文献】
特開2000−319254(JP,A)
【文献】
特開2009−233659(JP,A)
【文献】
J. M. BALBINO et al.,The Multiple Roles of Imidazolium Ionic Liquids in Transition-Metal Catalysis: The Palladium-Catalyzed Telomerization of 1,3-Butadiene with Acetic Acid,ChemCatChem,2015年,7,972-977.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07F9/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスフィン配位パラジウムイオンを含むPd触媒組成物であって、前記組成物中において、ホスフィン配位子が、パラジウムより6〜12倍
モル過剰に存在
し、前記ホスフィン配位子が、以下の化合物、
からなる群から選択されるDANPHOSファミリーの化合物であり、前記ホスフィン配位パラジウムイオンが、水溶液中にあるか、該ホスフィン配位パラジウムイオンが、凍結乾燥されていることを特徴とする、Pd触媒組成物。
【請求項2】
Pd触媒の調製方法であって、
非緩衝水中で、パラジウム(II)塩をホスフィン配位子と結合させる工程を含むか、又は緩衝水中で、パラジウム(II)塩をホスフィン配位子と結合させる工程を含み、
前記ホスフィン配位子が、
以下の化合物、
からなる群から選択されるDANPHOSファミリーの化合物であり、かつパラジウムより6〜12倍モル過剰に存在し、任意に、その結合工程が、不活性雰囲気下で実施されることを特徴とする、Pd触媒の調製方法。
【請求項3】
前記ホスフィン配位子が、o−DANPHOSである、請求項1に記載のPd触媒組成物。
【請求項4】
前記ホスフィン配位子が、o−DANPHOSである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記パラジウムが、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(TFA)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(Na2PdCl4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2PdCl4)、テトラクロロパラジウム酸リチウム(Li2PdCl4)、テトラブロモパラジウム酸ナトリウム(Na2PdBr4)、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2PdBr4)、Pd2(ジベンジリデンアセトン)3、Pd(ジベンジリデンアセトン)2、及びBuchwaldプレ触媒からなる群から選択されるパラジウム(II)塩として提供される、請求項1に記載のPd触媒組成物。
【請求項6】
前記パラジウムが、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(TFA)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(Na2PdCl4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2PdCl4)、テトラクロロパラジウム酸リチウム(Li2PdCl4)、テトラブロモパラジウム酸ナトリウム(Na2PdBr4)、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2PdBr4)、Pd2(ジベンジリデンアセトン)3、Pd(ジベンジリデンアセトン)2、及びBuchwaldプレ触媒からなる群から選択されるパラジウム(II)塩として提供される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質リッチな環境又はタンパク性環境で使用される、請求項1に記載のPd触媒組成物。
【請求項8】
前記水が、酸素を除去されたものであり、任意に前記結合工程の前に、前記水の脱気工程を更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記パラジウム(II)塩及び前記ホスフィン配位子が、撹拌又はかき混ぜによって結合される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記結合工程の前に、前記パラジウム(II)塩を水に溶解させる工程及び前記ホスフィン配位子を水に溶解させる工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記結合工程の後に、前記Pd触媒を緩衝する工程を更に含み、任意に前記Pd触媒が、pH6.5〜8.0の間で緩衝される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記Pd触媒を凍結乾燥させる工程を更に含み、任意に前記Pd触媒を緩衝液で再構築させる工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記緩衝液が、HEPES、MOPS、TRIS、PBS+ベンゼンスルフィン酸Na、PBS、p−トルエンスルフィン酸Na、ジメチルバルビツル酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11又は12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
ホスフィン配位パラジウムイオンを含むPd触媒の保存方法であって、
前記ホスフィン配位子が、以下の化合物、
からなる群から選択されるDANPHOSファミリーの化合物であり、かつパラジウムより6〜12倍モル過剰に存在し、該方法が、
(i)前記Pd触媒の水溶液を乾燥状態まで凍結乾燥する工程、
(ii)前記Pd触媒を非緩衝状態で保存する工程、
(iii)前記Pd触媒から分子酸素を除去する工程、
(iv)低温で保存する工程、及び
(v)密封容器中で保存する工程、
の1つ以上の工程を含み、任意に前記方法が、2つの工程又は4つの工程を含むことを特徴とする、Pd触媒の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年5月10日に出願された米国仮出願第62/334,043号の優先権を主張するものであり、その全体が参考として組み込まれる。
【0002】
本明細書では、生物学的環境において改善された性能を有するパラジウム(Pd)触媒を提供する。特に、タンパク質リッチ条件下で、Pd触媒の改善された性能をもたらす配合物、調製方法及び保存条件を提供する。
【背景技術】
【0003】
パラジウム化合物は、様々な異なる反応において有用な触媒である。例としては、有機ハライドと有機亜鉛化合物間の根岸カップリング、アルケンとアリールハライド間のHeck反応、アリールハライドとボロン酸間の鈴木反応、有機ハライドと有機スズ化合物間のStille反応、有機ハライドと有機ケイ素化合物間の檜山カップリング、アリールハライドとアルキン間の薗頭カップリング(助触媒としてヨウ化銅(I)を用いる)、アリールハライドとアミンのBuchwald−Hartwigアミノ化、グリニャール試薬と、アリール又はビニルハライドの熊田カップリング、アリル化合物と種々の求核剤間の辻−トロスト反応(トロストアリル化)及びアレーンジアゾニウム塩とアルケンのHeck・マツダ反応が含まれる。これらの反応はすべて、0酸化状態のパラジウム(Pd(0))に依存する。
【0004】
有機化学における様々な用途のために多数のPd触媒及びプレ触媒が存在するが、それらの大部分は有機溶媒中で反応を実施するために使用され、通常、in situで調製される。具体的に言えば、生物学的又はタンパク性環境において機能的であるパラジウム触媒を事前に調製する方法及び保管する方法について、これまで記載したものはなかった。
【発明の概要】
【0005】
本明細書では、生物学的環境において改善された性能を有するパラジウム(Pd)触媒を提供する。特に、生物学的環境において存在するようなタンパク質リッチ条件下で、Pd触媒の改善された性能をもたらす配合物、調製方法及び保存条件を提供する。
【0006】
ある実施形態では、ホスフィン配位パラジウムイオンを含むPd触媒組成物について提供し、ホスフィン配位子は、前記組成物中のパラジウムより6〜12倍過剰に存在する。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、強いπ受容体アリールホスフィンである。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、DANPHOSファミリー化合物である。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、DANPHOS、o−DANPHOS、p−DANPHOS、DAN2PHOS、o−DAN2PHOS、p−DAN2PHOS及びDANPHOS/DAN2PHOS誘導体と代替可溶化基(例えば、1つ以上のSO
3-置換基の代わりにCOOH及び/又はSO
2NH
2)からなる群から選択される。
【0007】
ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、o−DANPHOSである。ある実施形態では、前記パラジウムは、酢酸パラジウム(Pd(OAc)
2)、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(TFA)
2)、硝酸パラジウム(Pd(NO
3)
2)、塩化パラジウム(PdCl
2)、臭化パラジウム(PdBr
2)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(Na
2PdCl
4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K
2PdCl
4)、テトラクロロパラジウム酸リチウム(Li
2PdCl
4)、テトラブロモパラジウム酸ナトリウム(Na
2PdBr
4)、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K
2PdBr
4)、Pd
2(ジベンジリデンアセトン)
3、Pd(ジベンジリデンアセトン)
2及びBuchwaldプレ触媒からなる群から選択されるパラジウム(II)塩として提供される。ある実施形態では、前記ホスフィン配位パラジウムイオンは、水溶液中にある。ある実施形態では、前記ホスフィン配位パラジウム種(Pd(0))は、凍結乾燥状態(例えば、フリーズドライした、粉末など)にある。
【0008】
ある実施形態では、非緩衝水中でパラジウム(II)塩をホスフィン配位子と結合することを含むPd触媒の調製方法が提供される。ある実施形態では、パラジウム(II)塩を、緩衝水(例えば、非配位性緩衝液中で緩衝された)中でホスフィン配位子と結合することを含むPd触媒の調製方法が提供される。ある実施形態では、前記ホスフィンは水溶性である。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、強いπ受容体アリールホスフィンである。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、DANPHOSファミリー化合物である。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、DANPHOS、o−DANPHOS、p−DANPHOS、DAN2PHOS、o−DAN2PHOS p−DAN2PHOSからなる群から選択される。ある実施形態では、前記ホスフィン配位子は、o−DANPHOSである。ある実施形態では、前記パラジウムは、酢酸パラジウム(Pd(OAc)
2)、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(TFA)
2)、硝酸パラジウム(Pd(NO
3)
2)、塩化パラジウム(PdCl
2)、臭化パラジウム(PdBr
2)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(Na
2PdCl
4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K
2PdCl
4)、テトラクロロパラジウム酸リチウム(Li
2PdCl
4)、テトラブロモパラジウム酸ナトリウム(Na
2PdBr
4)及びテトラブロモパラジウム酸カリウム(K
2PdBr
4)からなる群から選択されるパラジウム(II)塩として提供される。ある実施形態では、前記非緩衝水は、酸素が除去された水である。ある実施形態では、方法は、前記結合ステップの前に、前記水の脱気ステップを更に含む。ある実施形態では、前記パラジウム(II)塩及び前記ホスフィン配位子が、撹拌又はかき混ぜによって結合する。ある実施形態では、方法は、前記結合ステップの前に、前記パラジウム(II)塩を水中に溶解させること及び前記ホスフィン配位子を水中に溶解させることを更に含む。ある実施形態では、方法は、前記結合ステップの後に、前記Pd触媒を緩衝するステップを更に含む。ある実施形態では、前記Pd触媒は、pH 6.5〜8.0の間(例えば、pH 6.5、pH 6.6、pH 6.7、pH 6.8、pH 6.9、pH 7.0、pH 7.1、pH 7.2、pH 7.3、pH 7.4、pH 7.5、pH 7.6、pH 7.7、pH 7.8、pH 7.9、pH 8.0又はこれらの間の任意の範囲)で緩衝される。ある実施形態では、方法は、前記Pd触媒を凍結乾燥させるステップを更に含む。ある実施形態では、方法は、前記Pd触媒を緩衝液中で再溶解させるステップを更に含む。ある実施形態では、前記緩衝液は、HEPES又はMOPSである。ある実施形態では、前記結合ステップは、不活性雰囲気下(例えば、アルゴン又は窒素ガス)にて実施される。
【0009】
ある実施形態では、本明細書記載の方法(例えば、前項に記載の方法)により作製されたPd触媒を含む組成物が提供される。
【0010】
ある実施形態では、1つ以上の以下のステップを含むPd触媒の保存方法が提供される:(i)前記Pd触媒の水溶液を乾燥状態まで凍結乾燥すること、(ii)前記Pd触媒を非緩衝状態(又は非配位性緩衝液中で緩衝された)で保存すること、(iii)前記Pd触媒から分子酸素を除去すること、(iv)低温で保存すること、(v)密封容器中で保存すること。ある実施形態では、前記容器の材料は、分子酸素に対して低透過性を示す。ある実施形態では、前記容器は、分子酸素に対して不透過性である(例えば、ガラス)。ある実施形態では、方法は、2,3,4,5又はそれ以上のステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】タンパク性環境での切断効率におけるホスフィン及び求核剤の影響を示す。
【
図2】タンパク性環境での切断効率における触媒組成物の影響を示す。
【
図3】タンパク性環境での切断効率におけるPd/o−DANPHOSモル比の影響を示す。
【
図4】タンパク性環境での切断効率における触媒調製の影響を示す。
【
図5】タンパク性環境での切断効率における保存及び調製条件の影響を示す。
【
図6】タンパク性環境での切断効率におけるパラジウム供給源の影響を示す。
【
図8】
図8A〜
図8Dは、(A)H
2O中のo−DANPHOS、(B)H
2O中の新たに調製したo−DANPHOS−Pd錯体、(C)H
2O中の4ヶ月目のo−DANPHOS−Pd錯体(−80℃で無空気条件下で保存)、(D)H
2O中の9ヶ月目のo−DANPHOS−Pd錯体(−80℃で無空気条件下で保存)、の121MHz
31P NMRスペクトルを示す(D
2Oにロックをかけた、22℃でのピロホスファートを基準とする)。
【
図9】H
2O中の1ヶ月目のo−DANPHOS−Pd錯体(空気を完全に取り除くことなく、周囲温度で水溶液中に保存される)の121MHz
31P NMRスペクトルを示す(D
2Oにロックをかけた、22℃でのピロホスファートを基準とする)。
【0012】
定義
本明細書に記載された実施形態の実施又は試験において、本明細書に記載のものと類似又は同等の任意の方法及び材料を使用することができるが、いくつかの好ましい方法、組成物、デバイス及び材料が本明細書に記載される。しかしながら、本発明の材料及び方法を記載する前に、本発明は、本明細書に記載される特定の分子、組成物、方法論又はプロトコルに限定されず、これらは、日常的な実験及び最適化に従って変化し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用する用語は、特定のバージョン又は実施形態のみを説明するためのものであり、本明細書に記載された実施形態の範囲を限定するものではないことも理解されたい。
【0013】
別途定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。しかしながら、矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先する。したがって、本明細書に記載の実施形態の文脈において、以下の定義が適用される。
【0014】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈で別段明確に指示されない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば「Pd触媒」とは、当業者などに知られている1つ以上のPd触媒及びその等価物への言及である。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprise)」及びその言語的変形は、列挙した特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などの存在を示し、追加の特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などの存在を除外しない。逆に、用語「からなる(consisting of)」及びその言語的変形は、列挙した特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などの存在を示し、列挙していないあらゆる特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などは、一般的に付随する不純物を除いて除外する。「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という語句は、列挙した特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)など、及び、組成物、システム又は方法の基本的な性質に実質的に影響を与えない任意の追加の特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などを意味する。本明細書の多くの実施形態は、オープンな「含む(comprising)」という用語を用いて説明される。かかる実施形態は、複数のクローズドな「からなる(consisting of)」及び/又は「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」を包含し、このような用語を使用して代替的に請求又は記載され得る。
【0016】
本明細書で使用する場合、「タンパク性環境」又は「タンパク質リッチ環境」という用語は、0.1mg/mlを超えるタンパク質濃度を有する局所的条件(local conditions)を指す。「高タンパク性環境」は、10mg/mlを超えるタンパク質濃度を有する局所的条件を指す。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「配位」は、電子供与性リガンド(例えば、ホスフィン)と電子吸引性金属(例えば、パラジウム)との間の相互作用及びそれらの間の配位共有結合(双極子結合)の形成を指す。
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「非緩衝」は、pHの変化の影響を受けにくい緩衝液を添加しない溶液(又は水)を指す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、生物学的環境において改善された性能を有するパラジウム(Pd)触媒を提供する。特に、タンパク質リッチ条件下で、Pd触媒の改善された性能をもたらす配合物、調製方法及び保存条件を提供する。
1.触媒配合物
【0020】
ある実施形態では、Pd触媒が提供される。ある実施形態では、前記Pd触媒は、水溶性Pd錯体を含む。ある実施形態では、前記Pdは、1つ以上の水溶性有機ホスフィン配位子によって錯体化する。ある実施形態では、前記Pdは、Pd(0)状態で配位子によって配位される。ある実施形態では、前記Pd触媒は、Pd塩と好適な配位子(例えば、DANPHOS配位子)の相互作用によって生成される。ある実施形態では、パラジウム(II)塩は、パラジウムの供給源として使用される。ある実施形態では、好適なパラジウム(II)塩は、以下を含む群から選択されるが、これらに限定されるわけではない:酢酸パラジウム(Pd(OAc)
2)、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(TFA)
2)、硝酸パラジウム(Pd(NO
3)
2)、塩化パラジウム(PdCl
2)、臭化パラジウム(PdBr
2)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(Na
2PdCl
4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K
2PdCl
4)、テトラクロロパラジウム酸リチウム(Li
2PdCl
4)、テトラブロモパラジウム酸ナトリウム(Na
2PdBr
4)及びテトラブロモパラジウム酸カリウム(K
2PdBr
4)。
【0021】
ある実施形態では、パラジウムは、ホスフィン配位子(例えば、水溶性配位子)によって配位される。本明細書中の触媒の形成のためにPd配位に使用されるホスフィンの例としては以下が含まれるが、これらに限定されるわけではない:m−TPPTS、m−TPPDS、m−TPPMS、TXPTS、TXPDS、TMAPTS、m−TPPTC、m−TPPDC、p−TPPTC、p−TPPDC、o−TPPDC、o−TPPTC、m−TPPTG、m−TPPDG、m−TPPMG、Cy−Amphos、t−Bu−Amphos、BDSPPB、Xantphos−S、DANPHOS、o−DANPHOS、p−DANPHOS、DAN2PHOS o−DAN2PHOS p−DAN2PHOSなど(例えば、
図2参照)。特定の実施形態では、本明細書のPd触媒は、DANPHOSファミリー化合物(例えば、
図6B;DANPHOS、o−DANPHOS、p−DANPHOS、DAN2PHOS o−DAN2PHOS p−DAN2PHOSなど)によって配位されたPdを含む。特定の実施形態では、本明細書のPd触媒は、o−DANPHOSによって配位されたPd(例えば、Pd(0))を含む。
【0022】
本明細書の実施形態の展開中に実施された実験では、他の水溶性ホスフィンと比較した場合、DANPHOS化合物(例えば、o−DANPHOS)のホスフィンから誘導されたPd触媒が、優れた触媒活性(例えば、アリル―カルバマート結合の切断)を提供し、生物学的環境(例えばタンパク性環境)において特に優れた性能をもたらすことを示した。具体的には、DANPHOS化合物(例えば、o−DANPHOS)は、一般に使用されるホスフィンTPPTSより性能が優れている。
2.Pd:ホスフィン比
【0023】
本明細書の実施形態の展開中に実施された実験では、Pdに対して過剰のホスフィンが存在する場合、ホスフィン(例えば、DANPHOSファミリー(例えば、o−DANPHOS))配位Pd触媒による触媒性能が改善されることを示した。例えば、本明細書の実施形態の展開中に実施された実験では、Pd対ホスフィン(例えば、DANPHOS化合物(例えば、o−DANPHOSなど)など)との最適比は、1:6と1:12の間(例えば、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12及びそれらの間の範囲(例えば、1:8〜1:10)であることを示した。多くの触媒金属錯体では、活性触媒種は、1つ又は2つの配位する配位子(例えば、ホスフィン)によって配位された金属中心であることが知られているため、このような知見は予想外であった。ホスフィンの量が多すぎると金属配位圏が完全に飽和し、結果として活性触媒が存在するとしてもごくわずかとなり、反応性が低下し、反応速度が遅くなることが予想された。したがって、過剰なホスフィンが、特に生物学的環境、例えばタンパク質リッチ環境において、触媒性能を改善することは予想外であった。
3.調製
【0024】
一般的に、触媒活性Pd(0)触媒は、不安定である。有機化学用途では、それらは通常、in situで調製される。注目すべき例外の1つは、Pd(PPh
3)
4−テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)である。活性Pd(PPh
3)
4触媒の形成は、典型的には、Pd(II)塩を過剰な配位子(例えば、ホスフィン)と反応させることによって達成される。ホスフィンは、配位子と還元剤の両方として作用する。還元速度は、配位子(例えば、ホスフィン)の性質及び他の反応パラメーターに依存する(例えば、米国特許第8,981,086号を参照;その全体が参照により組み込まれる)。
【0025】
本明細書の実施形態の展開中に実施された実験では、in situ還元によって生成される触媒は、生物学的環境、特に、タンパク質リッチ環境において、効率的な触媒作用(例えば、アリル―カルバマート結合の切断)をもたらさないことを示した。この結果は、タンパク質官能基によるPd(II)のキレート化によるものであり得、2+酸化状態でPdの安定化がもたらされる可能性があり、非効率的な還元プロセス、活性Pd(0)触媒の量の減少及び切断の減少につながる可能性がある。本明細書に記載の実施形態は、いかなる特定の作用のメカニズムにも限定されず、そのような実施形態を実施するためには、作用のメカニズムの理解は必要ではない。しかしながら、ある実施形態では、タンパク質環境の阻害効果は、Pd(II)塩を過剰のホスフィン(例えば、6倍〜12倍、8倍〜10倍など)と水溶液中で十分な時間反応させ、確実に十分な還元をすることによって克服される。例えば、水中のTPPTSによるPd(II)の還元速度は、パラジウムでは1次、配位子では0次であり、1.0×10
-3s
-1の速度で起こる;約8分の還元の半減期に相当(Amatore et al.J.Org.Chem.1995, 60, 6829−6839;その全体が参照により組み込まれる。)。強塩基(例えば、NaOH)が添加される場合、還元は定量的かつ瞬間的である(例えば、Kuntz&Vittori.Mol.cat.A:Chem.1998,129,159−171;その全体が参照により組み込まれる)。
4.保存
【0026】
本明細書の実験では、予め活性化されたPd触媒が、特に生物学的環境、例えばタンパク質リッチ環境において、in situ生成触媒と比較して優れた性能をもたらすが、ある実施形態では、分子酸素(例えば、周囲環境(例えば、空気、水溶液内の溶存酸素、緩衝液などから)からの)を含む種々の酸化剤によるPd(0)からPd(II)への活性触媒の酸化の可能性が存在することを示す。特定の実施形態では、酸化剤(例えば、大気中の酸素、溶存酸素など)への感受性は、Pd触媒の長期保存(例えば、次の保存:1日、2日、3日、4日、5日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年、もしくはそれ以上又はそれらの間の範囲(例えば、1〜2日、1〜3日、1〜5日、1〜2週間、1〜2ヶ月、1〜6ヶ月、1〜2年、1〜5年など))にとって大きな課題となる。
【0027】
ある実施形態では、調製され、密封容器(例えば、密封ガラスアンプル)に保存された触媒は、その活性を長期間(1日、2日、3日、4日、5日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年、もしくはそれ以上又はそれらの間の範囲(例えば、1〜2日、1〜3日、1〜5日、1〜2週間、1〜2ヶ月、1〜6ヶ月、1〜2年、1〜5年など))保持する。
【0028】
ある実施形態では、Pd触媒の調製及び/又は保存に使用される液体は、溶存酸素を除去するために脱気される(例えば、減圧下で、凍結脱気(freeze−pump−thaw)技術などを用いて)。ある実施形態では、液体試薬(例えば、水、緩衝液など)の脱気により、酸化剤への暴露が低減し、活性保存寿命が延長され、並びに/又は触媒活性が維持及び/もしくは増加する(例えば、経時的に)。
【0029】
ある実施形態では、Pd触媒は、酸化剤種への触媒の暴露を防ぐために、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)及び/又は減圧下で、調製及び/又は保存される。
【0030】
ある実施形態では、Pd触媒は低温で調製及び保存される(例えば、16℃、12℃、8℃、4℃、0℃、−4℃、−8℃、−12℃、−16℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃、−80℃以下又はそれらの間の範囲(例えば、16〜12℃、16〜8℃、8〜4℃、4〜0℃、0〜−4℃、0〜−8℃、−4〜−12℃、0〜−80℃))。ある実施形態では、調製され、低温で保存された触媒は、その活性を長期間(1日、2日、3日、4日、5日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年、もしくはそれ以上又はそれらの間の範囲(例えば(例えば、1〜2日、1〜3日、1〜5日、1〜2週間、1〜2ヶ月、1〜6ヶ月、1〜2年、1〜5年など))保持する。
【0031】
ある実施形態では、Pd触媒は保存のために凍結乾燥される。ある実施形態では、凍結乾燥されたPd触媒は、低温で保存される。ある実施形態では、触媒は調製され、凍結乾燥され、保存される(例えば、16℃、12℃、8℃、4℃、0℃、−4℃、−8℃、−12℃、−16℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃、−80℃以下又はそれらの間の範囲(例えば、16〜12℃、16〜8℃、8〜4℃、4〜0℃、0〜−4℃、0〜−8℃、−4〜−12℃、0〜−80℃)の低温で)。かかる実施形態において、水溶性生物学的緩衝液中に再溶解した触媒は、有意な活性損失なく使用される(例えば、<0.1%活性損失、<0.2%活性損失、<0.5%活性損失、<1%活性損失、<5%活性損失、<10%活性損失)。本明細書の実施形態の展開中に実施された実験では、凍結乾燥された触媒の安定性が数ヶ月にわたって示された。
5.他の実施形態
【0032】
ホスフィン自体によるPd(II)のPd(0)への還元により、1当量のホスフィンの損失及び1当量のホスフィンオキシドの生成がもたらされる。ある実施形態では、1当量のホスフィンオキシドを生成することなく、活性触媒を生成する方法が提供される。
【0033】
ある実施形態では、Pd(0)としてPd
2(ジベンジリデンアセトン)
3及び/又はPd(ジベンジリデンアセトン)
2を用いる。かかる方法は、有機溶媒中で活性Pd(0)種を生成するのに用いられてきたが、この方法は、有機溶媒中で、ジベンジリデンアセトン(dba)配位子自体がPdに結合する傾向があるという欠点がある。これは、効率性の低下につながる(米国特許第8,981,086号を参照;その全体が参照により組み込まれる。)。しかしながら、dbaは水に溶解せず、前記触媒は1当量のホスフィンオキシドを生成することなく、且つpHを低下させることなく生成されるので(本明細書の実施例では、2当量のHCl又は酢酸のいずれかが生成される)、有機溶媒において存在する問題は、本明細書に記載される実施形態で克服される。
【0034】
ある実施形態では、Buchwald型のプレ触媒がPd供給源として使用される(例えば、米国特許第8,981,086号を参照;その全体が参照により組み込まれる)。
【0035】
ある実施形態では、Buchwald型のプレ触媒が、Pd(0)の生成のために使用される。
【0036】
ある実施形態では、Pd(0)の他の供給源又は還元方法は、本明細書の実施形態の範囲内である。
【0037】
ある実施形態では、非キレート緩衝液を使用して、pHが低下(例えば、生理的pH未満、中性pH未満など)するのを防ぐ。緩衝(例えば、塩基性の)反応により、Pd(II)のPd(0)へのより速い還元が生じる。次いで、pHをより生理的レベルに調整する(例えば、生物学的環境における使用のために)。ある実施形態では、緩衝液を使用し、pH7.0からpH10.0(例えば、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0又はそれらの間の範囲(例えば、7.6〜8.6など))でのPdの還元の間、pHレベルを維持する。
実験
【0038】
実施例1
以下の実施例(例えば、
図1参照)では、ホスフィン及び求核剤の性質が、タンパク性環境におけるアリル―カルバマート結合のパラジウム触媒切断に影響し得ることを示す。これらの実験(
図1B)において、HALOTAG被覆磁気ビーズ(固定化HALOTAGタンパク質を400μg含有)は、60μMのSL_0288と共に30分間インキュベートした。対照色素SL_0288は、いかなる固定化されたHALOTAGタンパク質も含有しないビーズとともにインキュベートした。固定化されたHALOTAGタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、ビーズをHEPES緩衝液中で30分間、1:8のモル比で2mM、0.66mM又は0.22mMのいずれかのPd(ホスフィン)錯体で処理した。アリル―カルバマート基の切断によって、前記ビーズからの前記色素の放出がもたらされる。放出された色素のサンプルは、対照色素とともに、SDS−PAGEで分離され、Typhoon 9400蛍光イメージャーでスキャンされ、ImageQuantを用いてバンドが定量された。切断効率は、対照色素に対する放出された色素のパーセントとして測定された。
図1Bの結果は、ホスフィン及び求核剤の性質が、パラジウム触媒切断効率に重要な役割を果たすことを示す。DANPHOSファミリー、特にDANPHOS及びo−DANPHOSの電子不足のホスフィンは、一般的に使用されるホスフィンであるTPPTSより優れていた。
図1Cに示す実験では、固定化されたHaloTagタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、ビーズを、異なる求核剤を含有する複数のアミン緩衝液又は非アミン緩衝液中、Pd対ホスフィン1:8のモル比で2mM、0.66mM又は0.22mMのPd(DANPHOS)x又はPd(o−DANPHOS)x錯体で30分間処理した。結果は、求核剤の性質が、パラジウム触媒切断効率に重要な役割を果たすことを示す。加えて、ホスフィンと求核剤の組み合わせは非常に重要である。Pd−DANPHOS錯体の場合、最も高い切断効率は、5mMのジメチルバルビツル酸を補充したPBS緩衝液を用いて達成された。o−DANPHOSの場合、最も高い切断効率は、MOPS緩衝液を用いて達成された。更に、o−DANPHOSは、特に0.22mMの濃度でDANPHOSより優れていた。
【0039】
実施例2
以下の実施例(例えば、
図2参照)では、ホスフィン及び求核剤の性質が、タンパク性環境におけるアリル―カルバマート結合のパラジウム触媒切断に影響し得ることを示す。これらの実験において、HALOTAG被覆磁気ビーズ(固定化HALOTAGタンパク質を400μg含有)は、60μMのSL_0288と共に30分間インキュベートした。対照色素SL_0288は、いかなる固定化されたHALOTAGタンパク質も含有しないビーズとともにインキュベートした。固定化されたHALOTAGタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、ビーズをHEPES又はMOPS緩衝液中で30分間、1:8のモル比で2mM、0.66mM又は0.22mMのいずれかの予め作られたPd(ホスフィン)錯体で処理した。アリル―カルバマート基の切断によって、前記ビーズからの前記色素の放出がもたらされる。放出された色素のサンプルは、対照色素とともに、SDS−PAGEで分離され、Typhoon 9400蛍光イメージャーでスキャンされ、ImageQuantを用いてバンドが定量された。切断効率は、対照色素に対する放出された色素のパーセントとして測定された。結果は、ホスフィン及び求核剤の性質が、パラジウム触媒切断効率に重要な役割を果たすことを示す。DANPHOSファミリー、特にDANPHOS及びo−DANPHOSの電子不足のホスフィンは、一般的に使用されるホスフィンであるTPPTSより優れていた。
【0040】
実施例3
本明細書に記載の実施形態の展開中に実施された実験では、パラジウム触媒切断の効率は、Pd−ホスフィン溶液のモル比に依存することを示した(例えば、
図3参照)。これらの実験において、HALOTAG被覆ビーズ(固定化HALOTAGタンパク質を400μg含有)は、60μMのSL_0288と共に30分間インキュベートした一方、対照色素SL_0288は、固定化されたHALOTAGタンパク質を含有しないビーズとともにインキュベートした。固定化されたHALOTAGタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、ビーズを、Pd対o−DANPHOS1:4、1:6、1:8、1:10、1:12及び1:15のモル比で、2mM、0.6mM又は0.22mMのいずれかのPd−o−DANPHOS錯体で30分間処理した。アリル―カルバマート結合の切断によって、前記ビーズからの前記色素の放出がもたらされる。放出された色素は、対照色素とともに、SDS−PAGEで分離され、Typhoon 9400蛍光イメージャーでスキャンされ、ImageQuantを用いてバンドが定量された。切断効率は、対照色素に対する放出された色素のパーセントとして測定された。Pd対o−DANPHOS1:8〜1:10のモル比でのPd−o−DANPHOSの溶液について、より高い切断効率が観察された。
【0041】
実施例4
以下の実施例では、パラジウム:ホスフィン錯体の調製方法が、タンパク性環境における切断効率に影響を与え得ることについて説明する(例えば、
図4参照)。水中で予め作られ、酸素が除去された状態で保存された触媒錯体は、in situで調製されて直ちに使用される錯体よりも活性がある。これらの実験において、HALOTAG被覆ビーズ(固定化HALOTAGタンパク質を400μg含有)は、60μMのSL_0288と共に30分間インキュベートした一方、対照色素SL_0288は、固定化されたHALOTAGタンパク質を含有しないビーズとともにインキュベートした。固定化されたHALOTAGタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、前記ビーズを2mMのPd/DANPHOS錯体で30分間処理した。前記Pd/DANPHOS錯体は、HEPESもしくはMOPS緩衝液のいずれかで調製されて直ちに使用されるか、又は4mM溶液として水中で予め作られて酸素が除去された条件下で保存された。前記予め作られた溶液は、同じ緩衝液へと希釈され、2mM溶液を作製し、次いですぐに使用した。アリル―カルバマート基の切断によって、前記ビーズからの前記色素の放出がもたらされる。放出された色素は、対照色素とともに、SDS−PAGEで分離され、Typhoon 9400蛍光イメージャーでスキャンされ、ImageQuantを用いてバンドが定量された。切断効率は、対照色素に対する放出された色素のパーセントとして測定された。両方の緩衝液中の予め作られたPd/DANPHOS錯体で、アリル―カルバマート基のより高い切断効率が観察された。これらの結果は、予め作られたPd−ホスフィン錯体が、より高い切断効率をもたらす高濃度の活性触媒を含有していたことを示す。
【0042】
実施例5
本実施例では、前記活性触媒が、密封ガラスアンプル中の溶液として、又は凍結乾燥形態のいずれかで保存できることを示す(例えば、
図5参照)。凍結乾燥する場合には、凍結乾燥前にパラジウムを十分に還元することが重要である。これらの実験において、HALOTAG被覆磁気ビーズ(固定化HALOTAGタンパク質を400μg含有)は、60μMのSL_0288と共に30分間インキュベートした一方、コントロール色素SL_0288は、固定化されたHALOTAGタンパク質を含有しないビーズとともにインキュベートした。固定化されたHALOTAGタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、前記ビーズを、溶液として又は凍結乾燥形態(調製直後又は1、3、6、22及び52時間後に凍結乾燥した)のいずれかで保存された触媒から調製される0.66mMのPd/o−DANPHOSで30分間処理した。アリル―カルバマート結合の切断によって、前記ビーズからの前記色素の放出がもたらされる。放出された色素のサンプルは、コントロール色素とともに、SDS−PAGEで分離され、Typhoon 9400蛍光イメージャーでスキャンされ、ImageQuantを用いてバンドが定量された。切断効率は、コントロール色素に対する放出された色素のパーセントとして測定された。結果は、溶液中に保存された、又は調製後6時間以上凍結乾燥された触媒が、それらの活性を保持したことを示す。
【0043】
実施例6
スキーム1:活性触媒の調製:
【0044】
操作は、アルゴン雰囲気下で実施された(シュレンク法)。水は、3回の凍結脱気サイクルによって脱気された。
【0045】
o−DANPHOS(188mg、0.32mmol、純度97%)を密封バイアルに入れ、撹拌棒を取り付けた。空気を除去し、該バイアルをアルゴンで充填した(3回繰り返し)。脱気した水(9ml)をカニューレによって加え、透明溶液が形成された。異なる密封バイアルに、Na
2PdCl
4(11.8mg、0.04mmol)を入れ、空気を除去し、該バイアルをアルゴンで充填した(3回繰り返し)。脱気した水(1ml)を固体Na
2PdCl
4に加え、褐色溶液が形成された。該Na
2PdCl
4の褐色水溶液(1mL、11.8mg/mL)の溶液を、前記攪拌したホスフィン溶液に加え、透明な黄色溶液が形成された。Pd−o−DANPHOS錯体の透明な黄色溶液をアルゴン下で適当な時間混合した。十分な時間が経過した時点で、該黄色の溶液を
a)アルゴン下又は減圧下のいずれかにて熱密封されたガラスアンプル中の1mLアリコート(溶液は4℃で保存され、光から保護した);
b)ガラスアンプル中の1mLアリコート(アンプルはセプタムで密封し、溶液は液体窒素で慎重に凍結し、凍結乾燥後、ガラスアンプルを熱密封し、光から保護して−80℃で保存した);及び
c)セプタム密封されたガラスバイアル中の1mLアリコート(溶液は液体窒素又はドライアイスで凍結し、凍結乾燥した。凍結乾燥した残留物を密封ガラスバイアルに−80℃で保存した)
に移した。
スキーム2:Pd(OAc)
2からの活性触媒の調製:
【0046】
4mMのPd−DANPHOS1:8溶液の例
【0047】
DANPHOS(96mg、0.16mmol、純度97%)及びPd(OAc)
2(4.5mg、0.02mmol)を、撹拌棒を取り付けた密封バイアルに入れた。空気を除去し、該バイアルをアルゴンで充填した(3回繰り返し)。脱気した水(5ml)をカニューレによって加え、撹拌後、透明溶液が形成された。(Pd(OAc)
2はゆっくり反応し溶解する)。前記Pd−DANPHOS錯体の透明な黄色溶液を、バイアル包装する前にアルゴン下で20時間混合した。
【0048】
前記触媒の効率は、Pd供給源に依存しない。Na
2PdCl
4及びPd(OAc)
2の両方は、同じ条件下では、実験的に、両方とも非常に類似の効率を示すことが示された。
【0049】
実施例7
以下の実施例では、2つの異なるパラジウム塩の供給源から調製された触媒が同様の反応性を有することを示す(例えば、
図6参照)。HALOTAG被覆ビーズ(固定化HALOTAGタンパク質を400μg含有)は、60μMのSL_0288と共に30分間インキュベートした一方、対照色素SL_0288は、固定化されたHALOTAGタンパク質を含有しないビーズとともにインキュベートした。固定化されたHALOTAGタンパク質へのSL_0288の共有結合の後、前記ビーズを、Pd対ホスフィン1:8のモル比で2つのパラジウム塩の供給源Pd(OAC)
2又はNa
2PdCl
4から調製された2mMのPd/DANPHOS触媒で30分間処理した。該Pd/DANPHOS錯体を、HEPES緩衝液又はMOPS緩衝液のいずれかに再溶解させた。アリル―カルバマート基の切断によって、前記ビーズからの前記色素の放出がもたらされる。放出された色素は、対照色素とともに、SDS−PAGEで分離され、Typhoon 9400蛍光イメージャーでスキャンされ、ImageQuantを用いてバンドが定量された。切断効率は、対照色素に対する放出された色素のパーセントとして測定された。パラジウム塩の両方の供給源から調製された触媒について、アリル―カルバマート基の類似の切断効率が観察された。
【0050】
実施例8
以下は、Pd触媒溶液の調製のための例示的な手順である:
【0051】
ある実施形態では、ステップは、不活性雰囲気下(例えば、アルゴン)にて実施される。水は、液体窒素で3回の凍結脱気サイクルによって脱気される。ある実施形態では、本明細書に記載の調製/配合/保存ステップもしくは技術、又は本明細書に記載の他の任意の試薬/成分のいずれかを、この手順に組み込んでもよい。同様に、本明細書の範囲内又は当分野の技術の範囲内のいずれかであるこの手順の変形形態が考えられる。
【0052】
実施例9
凍結乾燥形態のPd触媒の安定性
【0053】
以下の実施例では、−80℃で9ヶ月間凍結乾燥形態で保存された実施例6(c)で調製されたPd触媒の安定性に関する
31P NMR分析について示す。機能上、9ヶ月目の触媒は、新しく調製されたものと区別ができない、タンパク性環境での切断効率を示した。適切に保存された場合、
31P NMR及び切断効率の両方によって、Pd触媒がその効率を保持することが証明された(
図8A〜8D参照)。
【0054】
触媒の不適切な保存(例えば、周囲温度付近の溶液中及び空気が完全に取り除かれない場合)により、o−DANPHOSはo−DANPHOS−オキシドへ完全に酸化され、活性Pd触媒は失活した。
図9は、1ヶ月間の不適切な保存後、実施例6(c)で調製した前記触媒が完全に分解され、
31P NMRによりo−DANPHOSオキシドのみが検出されたことを示す。
【0055】
当業者には、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本発明に記載された方法及び組成物の様々な改変及び変形が明らかであろう。実際、関連分野の当業者に明らかである本発明を実施するために記載された態様の様々な改変は、添付の特許請求の範囲内にあることが意図される。