(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動部材は、前記固定部材および前記移動部材の単位時間当たりの回転数が所定回転数に達した時に前記従動側回転部材へ接触することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の荷重発生装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年このような動力伝達装置において、小型化の要求、特に軸方向寸法の短縮化が要求されるとともに、駆動側回転部材の単位時間当たりの回転数、すなわち回転速度に応じて、従動側回転部材への動力の伝達と遮断とを切り替えることができる制御が要求されている。
また、従来このような動力伝達装置においては、動力の伝達と遮断とを切り替えるために、相手部材に荷重を加えるピストンを移動させるための油圧ポンプや外部アクチュエータなどの外部動力源装置が必要であり、外部動力源装置を動力伝達装置とは別に設ける必要があった。このため、外部動力源装置の設置スペース、および外部動力源装置が発生した動力をピストンに伝達するための動力伝達機構を配置するためのスペースを確保する必要があった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、軸方向寸法の短縮化を実現するとともに、駆動側回転部材の単位時間当たりの回転数に応じて従動側回転部材への動力の伝達と遮断とを切り替えることができる動力伝達装置として用いたり、アクチュエータとして用いたりすることができ、さらに外部動力源装置を必要としない荷重発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る荷重発生装置は、同軸上に配置された駆動側回転部材から従動側回転部材へ加える荷重を発生するための荷重発生装置であって、
前記駆動側回転部材に固定され、前記駆動側回転部材と一体回転する環状の固定部材と、
前記固定部材
の軸方向一方側に配置され、前記固定部材と軸方向に対向
する環状部と、
前記環状部から軸方向他方に延在し、前記固定部材の径方向外方に配置される円筒部とを備え、前記駆動側回転部材と一体回転するとともに軸方向に移動可能に前記駆動側回転部材に設けられた環状の移動部材と、
前記固定部材と前記移動部材との間に周方向所定間隔に介装され、前記固定部材と前記移動部材とに接触している複数のボール
と、
前記円筒部の内径側に配置され、外径側縁部が前記円筒部の内周部に固定され且つ内径側縁部が前記固定部材の軸方向他方側の面に接触して弾性変形し、前記移動部材を軸方向他方へ付勢する皿ばねとを有し、
前記複数のボールは、前記固定部材と前記移動部材とともに回転することによる遠心力によって前記固定部材と前記移動部材との間を移動することにより、前記移動部材を軸方向一方へ移動させ、前記従動側回転部材へ接触させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の好ましい態様は、前記固定部材は、径方向外方に向かうに従い前記移動部材に近づく方向に傾斜する傾斜部を有し、前記複数のボールは、前記傾斜部に沿って径方向外方へ移動することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の好ましい態様は、前記複数のボールは、前記固定部材および前記移動部材の単位時間当たりの回転数の増加に応じて前記傾斜部に沿って径方向外方へ移動し、前記移動部材は、前記複数のボールが径方向外方へ移動するに従い、軸方向一方側へ移動することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の好ましい態様は、前記移動部材は、前記固定部材および前記移動部材の単位時間当たりの回転数が所定回転数に達した時に前記従動側回転部材へ接触することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の好ましい態様は、前記複数のボールは、前記移動部材が前記従動側回転部材へ係合している時、最も径方向外方に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸方向寸法の短縮化を実現するとともに、駆動側回転部材の単位時間当たりの回転数に応じて従動側回転部材への動力の伝達と遮断とを切り替えることができる動力伝達装置として用いたり、アクチュエータとして用いたりすることができ、さらに外部動力源装置を必要としない荷重発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る荷重発生装置の構成を、動力伝達装置として用いた形態を例として説明する。
図1は、実施形態に係る荷重発生装置1を径方向から見た状態を示す径方向断面図であり、回転していない状態を示している。この状態において、荷重発生装置1は荷重を発生していない状態であり、動力伝達装置としては非係合状態、すなわち動力非伝達状態である。
【0016】
本実施形態に係る荷重発生装置1は、図示しない動力発生装置で発生された動力を、動力発生装置の出力軸に接続された駆動側回転部材である軸部材3から、図示しない被駆動装置の入力軸に接続された従動側回転部材5へ伝達し、または当該動力の伝達を遮断するための動力伝達装置として用いられているものである。駆動側回転部材である軸部材3と従動側回転部材5とは同軸上に配置されている。
【0017】
本実施形態に係る荷重発生装置1は、
図1に示すように、動力発生装置(図示省略)に接続された軸部材3に設けられている。荷重発生装置1は、軸部材3の外周面に固定された支持部7と、支持部7の外周面に設けられた環状のピストン9と、支持部7の外周面に固定された環状のカムスライド11と、ピストン9とカムスライド11との間に周方向に所定間隔で介装された複数のボール13とを備えている。支持部7、ピストン9、およびカムスライド11は、軸部材3と同軸上に配置されている。ピストン9は支持部7を介して軸部材3に回転可能および軸方向移動可能に設けられ、カムスライド11は支持部7を介して軸部材3に固定されている。この構成により、荷重発生装置1は軸部材3と一体に回転する。
【0018】
ここで、本明細書中における荷重発生装置1に係る方向について定義する。本明細書中において軸方向、径方向、および周方向は、特に明記しない限り、荷重発生装置1のピストン9またはカムスライド11の回転軸線に関する軸方向、径方向および周方向のことをいう。また、説明の便宜上、
図1において紙面に向かって左方側を軸方向一方側とし、右方側を軸方向他方側とする。
【0019】
支持部7は軸部材3の外周面に外嵌固定される円筒部15を有し、円筒部15の軸方向一方端には、径方向外方に延在するフランジ17が形成されている。円筒部15およびフランジ17は軸部材3と同軸上に配置されている。フランジ17は円筒部15と一体に形成され、周方向に亘って延在している。支持部7は軸部材3と一体に回転する。
【0020】
図2、
図3、および
図4はピストン9の外観図であり、それぞれ軸方向一方側から見た状態、軸方向他方側から見た状態、および径方向断面を示している。
環状部材であるピストン9は、径方向に延在する板状の環状部19を有している。環状部19は支持部7の径方向外方に支持部7と同軸に配置され、支持部7の円筒部15の外周面と環状部19の内周面とは、径方向に対向している。
【0021】
環状部19には、軸方向他方側の面21の外径側縁部に、軸方向他方側に突出する外径側突出部23が形成されている。外径側突出部23は、環状部19の軸方向他方側の面21の外径側縁部に沿って周方向に亘って形成され、円筒形状に形成されている。環状部19にはさらに、軸方向他方側の面21の内径側縁部に、軸方向他方側に突出する内径側突出部25が形成されている。内径側突出部25は、環状部19の軸方向他方側の面21の内径側縁部に沿って周方向に亘って環状に形成されている。外径側突出部23の内周面と内径側突出部25の外周面とは径方向に対向している。外径側突出部23は内径側突出部25よりも大きな軸方向寸法を有している。すなわち外径側突出部23の軸方向他方端は、内径側突出部25の軸方向他方端よりも軸方向他方側に位置している。
【0022】
内径側突出部25の内周面と環状部19の内周面とは、同一の内径寸法を有し、連続している。したがって内径側突出部25の内周面と環状部19の内周面とによって一つの円筒内周面が形成されている。内径側突出部25の内周面および環状部19の内周面は、支持部7の円筒部15の外周面と径方向に対向している。環状部19と外径側突出部23と内径側突出部25とは、一体に形成されている。
【0023】
支持部7の円筒部15の外周面にはスプライン(図示省略)が設けられており、ピストン9の環状部19の内周面および内径側突出部25の内周面には支持部7のスプラインに係合するスプライン(図示省略)が形成されている。ピストン9は、環状部19の内周面および内径側突出部25の内周面のスプラインが支持部7の外周面のスプラインに外嵌係合することにより、支持部7と一体回転可能に、且つ軸方向へ移動可能に支持部7に配置されている。すなわちピストン9は、支持部7を介して、軸部材3と一体回転可能に、且つ軸方向に移動可能に軸部材3に設けられている。
【0024】
環状部19の軸方向一方側の面41の内径側の縁には、段部27が形成されている。段部27は、環状部19の軸方向一方側の面41の内径側の縁に沿って周方向に亘って形成されている。段部27の底面と、支持部7のフランジ17の軸方向他方側の面とは、軸方向に対向している。
【0025】
ピストン9の内径側突出部25の外周面は、軸方向一方側の縁から、軸方向他方側の縁、すなわち内径側突出部25の軸方向他方側端面の外径側の縁に向かうに従い、ピストン9の回転軸線に近づく方向に傾斜する傾斜面33となっている。本実施形態においては、ピストン9の回転軸線に対して傾斜面33を形成している。ピストン9の内径側突出部25の外周面は、全周が傾斜面33になっている。したがって、内径側突出部25の外形形状は、傾斜面33を側面とする円錐台状となっている。
【0026】
ピストン9の内径側突出部25の傾斜面33には、複数の溝35が周方向に等間隔で形成されている。本実施形態においては10個の溝35が形成されている。溝35は、傾斜面33の軸方向一方側の縁から径方向内方に向かって延在する軸方向一方側の底面37と、内径側突出部25の軸方向他方側端面の外径側の縁と内径側の縁との中間部から、軸方向一方側に向かって延在する径方向内方側の底面39とを有している。軸方向一方側の底面37は、内径側突出部25の軸方向他方側端面の外径側の縁と内径側の縁との中間部に対応する径方向位置まで延在し、径方向内方側の底面39は、傾斜面33の軸方向一方側の縁に対応する軸方向位置まで延在している。したがって溝35の軸方向一方側の底面37と径方向内方側の底面39とは直角をなして連続している。
【0027】
溝35の軸方向一方側の底面37は、径方向内方側の底面39よりも長く形成されている。したがって溝35は、径方向に延在している(以後、溝35を「径方向溝35」という。)。径方向溝35は、軸方向一方側の底面37に対応する範囲で軸方向一方側に開放し、径方向内方側の底面39に対応する範囲で径方向外方に開放している。したがって、径方向溝35は、軸方向に関して、傾斜面33の軸方向一方側の縁から傾斜面33の軸方向他方側の縁に亘って開放すると共に、径方向に関して、傾斜面33の軸方向一方側の縁から、内径側突出部25の軸方向他方側端面の外径側の縁と内径側の縁との中間部に亘って開放している。したがって内径側突出部25の軸方向他方側端面の外径側の縁は、径方向溝35が開放している部分が径方向内方に凹んでいる。
【0028】
径方向溝35の径方向断面形状は、直角をなす軸方向一方側の底面37の断面および径方向内方側の底面39の断面と、傾斜面33の断面と、内径側突出部25の軸方向他方側端面への径方向溝35の開放部の断面とで、台形状となっている。
【0029】
ピストン9の環状部19は、軸方向一方側の面41が平面に形成されている。ピストン9は従動側回転部材5と係合する係合部材であり、ピストン9の環状部19は、従動側回転部材5と接触する係合部である。詳細には、環状部19の軸方向一方側の面41が従動側回転部材5と接触することにより、ピストン9が従動側回転部材5と係合し、駆動側回転部材である軸部材3の回転が従動側回転部材5に伝達される。ピストン9と従動側回転部材5との係合動作については後述する。
【0030】
支持部7の円筒部15は、軸方向他方側端部近傍の外周面の部分に、段部43が形成されている。支持部7の円筒部15は、段部43よりも軸方向他方側の部分が、段部43よりも軸方向一方側の部分よりも外径寸法の小さい小径部45となっている。段部43には環状のカムスライド11が外嵌されている。カムスライド11はピストン9よりも軸方向他方側に配置され、ピストン9と軸方向に対向している。言い換えると、ピストン9はカムスライド11よりも軸方向一方側に配置され、カムスライド11と軸方向に対向している。
【0031】
環状部材であるカムスライド11は、径方向に延在する板状の環状部49と、環状部49の外径側縁部から、軸方向一方側に所定角度傾いた板状の傾斜部51とを有している。傾斜部51は、環状部49の外径側縁部に沿って周方向に亘って環状に形成され、環状部49の外径側縁部から径方向外方に向かうに従い、軸方向に対向するピストン9に近づく方向に傾斜している。環状部49と傾斜部51とは滑らかに連続している。カムスライド11は、環状部49の内周側縁部が支持部7の小径部45に外嵌されることにより、支持部7に固定されている。したがってカムスライド11は、支持部7を介して軸部材3に固定されている。
【0032】
カムスライド11の環状部49の軸方向一方側の面は、ピストン9の内径側突出部25の軸方向他方側端面と軸方向に対向している。カムスライド11の傾斜部51の軸方向一方側の面すなわち傾斜部51の内周面53は、ピストン9の内径側突出部25の傾斜面33と軸方向に対向している。カムスライド11の傾斜部51は、ピストン9の内径側突出部25の傾斜面33に対応する角度に傾斜している。したがってカムスライド11の傾斜部51の内周面53は、ピストン9の内径側突出部25の傾斜面33に対応する角度に傾斜した傾斜面であり、ピストン9の内径側突出部25の傾斜面33と平行に配置されている。さらに、カムスライド11の傾斜部51の傾斜した内周面53とピストン9の内径側突出部25の傾斜面33とは、ほぼ同じ軸方向範囲および径方向範囲に亘って延在している。すなわち、カムスライド11の傾斜部51の内周面53とピストン9の内径側突出部25の傾斜面33とは、対応する形状となっている。
【0033】
カムスライド11の傾斜部51の外径側縁部には、径方向外方に突出するフランジ55が形成されている。傾斜部51の外径側縁部とフランジ55とは滑らかに連続している。フランジ55の軸方向一方側の面は、ピストン9の環状部19の軸方向他方側の面21と軸方向に対向している。フランジ55の外径側縁部は、ピストン9の外径側突出部23の内周面よりも内径側に位置し、該内周面と径方向に対向している。
【0034】
カムスライド11の軸方向他方側に隣接する支持部7の小径部45の外周面の部分には周方向溝57が形成され、周方向溝57には止め輪59が嵌め込まれている。止め輪59の軸方向一方側の面はカムスライド11の環状部49の軸方向他方側の面に接触している。すなわち、カムスライド11は、支持部7の円筒部15の段部43と止め輪59とによって軸方向に挟持されている。この構成により、カムスライド11は支持部7に対する軸方向の移動を規制されている。したがって、カムスライド11は、支持部7を介して、軸方向移動が規制された状態で軸部材3に固定され、軸部材3と一体に回転する。
【0035】
ピストン9の外径側突出部23は、軸方向他方側端部近傍の内周面に段部61が形成され、段部61よりも軸方向他方側の部分が、段部61よりも軸方向一方側の部分よりも内径寸法が大きく肉厚の薄い薄肉部63となっている。段部61には皿ばね65が内嵌されている。皿ばね65の軸方向他方側に隣接する薄肉部63の内周面の部分には周方向溝67が形成され、周方向溝67には止め輪69が嵌め込まれている。止め輪69の軸方向一方側の面は皿ばね65の軸方向他方側の面に接触している。すなわち、皿ばね65は、段部61と止め輪69とによって軸方向に挟持されている。この構成により、皿ばね65は軸方向の移動を規制された状態で、ピストン9の外径側突出部23の内周面に固定されている。
【0036】
皿ばね65は、内径側縁部が軸方向一方側に配置され、外径側縁部が軸方向他方側に配置される向きで段部61に内嵌されている。皿ばね65は、軸方向の力が加わると、弾性変形し、弾性復帰による弾性力を軸方向に発生する。
【0037】
荷重発生装置1が回転していない状態において、皿ばね65は、カムスライド11と略同じ軸方向位置に配置されている。また、荷重発生装置1が回転していない状態において、皿ばね65は、軸方向一方側の面71の内径側縁部がカムスライド11のフランジ55の軸方向他方側の面と接触し、少し弾性変形した状態で配置されている。したがって、荷重発生装置1が回転していない状態において、皿ばね65は弾性復帰による弾性力を発生している。皿ばね65は、軸方向一方側の面71の内径側縁部がカムスライド11のフランジ55に接触しているため、弾性復帰による弾性力は皿ばね65の外径側縁部を介してピストン9の外径側突出部23に作用し、ピストン9を軸方向他方側に付勢している。この構成により、
図1に示すように、荷重発生装置1が回転していない状態において、ピストン9は、支持部7の円筒部15の軸方向他方側端部近傍に、がたつきのない状態で外嵌されている。
【0038】
ピストン9の内径側突出部25に形成された複数の径方向溝35には、それぞれ鋼製のボール13が1つ、径方向に転動または摺動可能に配置されている。ボール13は、径方向溝35の幅よりも少し小さい直径を有している。このため、ボール13は径方向溝35の幅方向両側の溝面に対するがたつきがなく、径方向溝35を径方向に滑らかに移動可能となっている。このように径方向溝35は、ボール13の移動を案内する案内溝である。また、ボール13の直径は、径方向溝35の径方向内方側の底面39の軸方向長さよりも少し小さく形成されている。
【0039】
ボール13は、径方向溝35の最も内径側に位置している状態、すなわち径方向溝35の径方向内方側の底面39に接触している状態において、径方向溝35の内部に全体が収容されている。言い換えると、この状態においてボール35は傾斜面33側の開放部よりも外方に突出している部分がない。
【0040】
一方、後述するように、ボール13が径方向溝35の最も内径側から径方向外方に移動すると、ボール13が移動するに従い、ボール13は径方向溝35の傾斜面33側の開放部から徐々に径方向外方に移動してくる。そして径方向溝35の最も外径側に位置している状態において、ボール13は大部分が傾斜面33側の開放部よりも外方に突出する。
【0041】
次に、実施形態に係る荷重発生装置1の係合動作について説明する。
図5(a)、
図5(b)、および
図5(c)は実施形態に係る荷重発生装置1を径方向から見た状態を示す径方向断面図であり、それぞれ回転していない状態、回転数が増加している状態、および回転数が所定回転数に達した状態を示している。なお、
図5(a)は
図1と同様の状態を示している。
【0042】
図5(a)に示す状態、すなわち荷重発生装置1が回転していない状態において、ピストン9は、皿ばね65の弾性力によって軸方向他方に付勢されている。ピストン9は、内径側突出部25の軸方向他方側の端面がカムスライド11の環状部49の軸方向一方側の面に接触し、環状部49を軸方向他方に押圧している。またピストン9は、内径側突出部25の傾斜面33がカムスライド11の傾斜部51の内周面53に接触し、傾斜部51を軸方向他方に押圧している。またピストン9は、環状部19の軸方向他方側の面21がカムスライド11のフランジ55の軸方向一方側の面に接触し、フランジ55を軸方向他方に押圧している。言い換えると、ピストン9は皿ばね65の弾性力によって、カムスライド11に押し付けられている。また、皿ばね65の軸方向一方側の面71とカムスライド11のフランジ55の軸方向他方側の面とは接触している。
【0043】
径方向溝35に介装されたボール13は、荷重発生装置1が回転していない状態において、径方向溝35の最も内径側に位置している。この状態においてボール13は、径方向溝35の軸方向一方側の底面37、径方向内方側の底面39、およびカムスライド11の傾斜部51の内周面53に接触している。ピストン9は軸方向他方に付勢されているので、ボール13は径方向溝35の軸方向一方側の底面37とカムスライド11の傾斜部51の内周面53とに挟持されている。
【0044】
軸部材3に図示しない動力発生装置からの回転が入力されると、支持部7を介して軸部材3に固定されたカムスライド11は軸部材3と一体に回転する。また、支持部7の外周面に配置されたピストン9も軸部材3と一体に回転する。すなわち荷重発生装置1は軸部材3と一体に回転する。軸部材3と一体にカムスライド11およびピストン9が回転すると、この回転によって、複数の径方向溝35にそれぞれ介装された複数のボール13もカムスライド11およびピストン9とともに回転し、各ボール13には遠心力が作用する。軸部材3の回転速度が上昇し、カムスライド11およびピストン9の回転速度が上昇すると、すなわちカムスライド11およびピストン9の単位時間当たりの回転数が増加すると、カムスライド11およびピストン9の回転数が増加するに従って、各ボール13に作用する遠心力も大きくなってゆく。
【0045】
なお、以後の説明において、カムスライド11およびピストン9の単位時間当たりの回転数のことを、単に「カムスライド11およびピストン9の回転数」という。また、「荷重発生装置1の回転」と「カムスライド11およびピストン9の回転数」とは同様の意味内容である。
【0046】
全てのボール13に作用する遠心力が、ピストン9を軸方向他方に付勢している皿ばね65の付勢力を上回ると、ボール13は径方向溝35内を径方向外方に移動し始める。ボール13が径方向外方に移動し始めると、ボール13は径方向溝35の傾斜面33側の開放部から徐々に径方向外方に移動してくる。ボール13は径方向溝35の軸方向一方側の底面37とカムスライド11の傾斜部51の内周面53とによって挟持されているので、ボール13は軸方向一方側の底面37を摺動するとともに、径方向溝35の傾斜面33側の開放部から外方に突出した部分がカムスライド11の傾斜部51の内周面53を摺動して、径方向外方へ移動する。
【0047】
カムスライド11は軸方向の移動が規制されているので、ボール13はカムスライド11の傾斜部51の内周面53に沿って径方向外方へ移動する。傾斜部53は径方向外方に向かうに従ってピストン9に近づく方向に傾斜しているので、ボール13は傾斜部51の傾斜した内周面53に沿って径方向外方へ移動するに従い、軸方向一方へも移動して行く。このようにカムスライド11の傾斜部51は、ボール13の径方向外方への運動を軸方向一方への運動に変換するカム機構を構成している。
【0048】
ボール13が軸方向一方へ移動すると、ボール13は径方向溝35の軸方向一方側の底面37を軸方向一方に押圧する。これによりピストン9はボール13によって軸方向一方へ押圧され、皿ばね65を弾性変形させつつ支持部7の外周面を軸方向一方へ移動する。すなわちピストン9は、支持部7を介して、軸部材3に沿って軸方向一方へ移動する。このように、ボール13は、軸部材3と一体に回転するカムスライド11およびピストン9の回転数の増加に応じて大きくなる遠心力によって、径方向外方および軸方向一方へ移動する。そしてボール13の移動に伴い、ピストン9は支持部7を介して軸部材3に沿って軸方向一方へ移動する。
【0049】
軸部材3に入力される回転数がさらに増加し、軸部材3と一体に回転するカムスライド11およびピストン9の回転数がさらに増加すると、ボール13に作用する遠心力はさらに大きくなる。遠心力が大きくなり、ボール13が径方向外方および軸方向一方へさらに移動し、ピストン9がさらに軸方向一方へ移動すると、
図5(b)に示すように、皿ばね65はさらに弾性変形し、フランジ55を軸方向一方へ押圧する。
【0050】
ピストン9がさらに軸方向一方へ移動すると、皿ばね65によるカムスライド11のフランジ55に対する軸方向一方への押圧力は大きくなる。皿ばね65によるフランジ55に対する押圧力が大きくなると、これに対応して、カムスライド11のフランジ55による皿ばね65の内径側縁部に対する軸方向他方への反力が大きくなる。その結果、皿ばね65は軸方向他方へさらに弾性変形し、軸方向一方へ弾性復帰しようとする弾性力が大きくなってゆく。
【0051】
図5(b)に示す状態において、ピストン9の軸方向一方側の面41は、従動側回転部材5に接触していない。すなわち、動力伝達装置としての荷重発生装置1は非係合状態であり、軸部材3から従動側回転部材5への動力の伝達は行われない。
【0052】
図5(c)は、
図5(b)に示す状態からカムスライド11およびピストン9の回転数がさらに増加し、カムスライド11およびピストン9の回転数が所定の回転数に達した状態を示している。
【0053】
図5(b)に示す状態から、軸部材3と一体に回転するカムスライド11およびピストン9の回転数が所定の回転数に達するまで、ボール13に作用する遠心力はさらに大きくなり、ボール13はさら径方向外方および軸方向一方へ移動し、これに伴いピストン9はさらに軸方向一方へ移動する。そしてカムスライド11およびピストン9の回転数すなわち軸部材3の回転数が所定の回転数に達すると、ピストン9の軸方向一方側の面41が従動側回転部材5の軸方向他方側の面に接触し、ピストン9が軸方向一方に押し付けられる。
【0054】
軸方向一方に移動するピストン9が従動側回転部材5の軸方向他方側の面に接触すると、ピストン9は従動側回転部材5を軸方向一方へ押圧する。すなわち、カムスライド11の傾斜部51の傾斜に沿って移動するボール13によって軸方向一方に移動するピストン9が従動側回転部材5に接触すると、ピストン9が従動側回転部材5を軸方向一方へ押圧する荷重が発生する。ピストン9は、従動側回転部材5にこの荷重を加え、従動側回転部材5を軸方向一方へ押圧する。このように、ピストン9が相手部材である従動側回転部材5に軸方向一方への荷重を加え、軸方向一方へ押圧することにより、ピストン9と従動側回転部材5とが係合し、荷重発生装置1は係合状態となり、軸部材3から従動側回転部材5へ動力が伝達される。なお、ピストン9と従動側回転部材5との係合はドグ歯形状等の機械的係合や、摩擦材を用いる摩擦力係合が挙げられる。
【0055】
また、この状態において、ピストン9の軸方向一方側の面41に形成された段部27は、支持部7のフランジ17に接触する。このように、支持部7のフランジ17は、ピストン9の軸方向一方側への移動範囲を規制するストッパとなっている。
【0056】
この時ボール13は、大部分が径方向溝35の傾斜面33側の開放部よりも外方に突出している。またボール13は、径方向溝35の軸方向一方側の底面37の径方向外方端に位置し、カムスライド11の傾斜部51の内周面53の外径側縁部に接触している。
【0057】
この状態において、カムスライド11の傾斜部51の内周面53の外径側縁部と径方向溝35の軸方向一方側の底面37との軸方向間隔は、ボール13の直径よりも小さい。また、皿ばね65の軸方向一方への弾性力は、遠心力によってボール13が径方向外方へ移動することによるカムスライド11の傾斜部51の軸方向他方側への撓みを抑制することができる大きさとなっている。したがって、カムスライド11およびピストン9の回転数が所定の回転数に達すると、ボール13は、皿ばね65の軸方向一方への弾性力によって軸方向一方へ付勢されているカムスライド11の傾斜部51と、径方向溝35の軸方向一方側の底面37とによって挟持され、固定される。すなわちボール13は径方向外方および軸方向一方へさらに移動することが規制される。これにより、ピストン9がボール13によって軸方向に押圧された状態で固定され、安定して従動側回転部材5に係合することとなる。
【0058】
なお、ボール13はこの状態において、荷重発生装置1内における移動可能範囲の最も径方向外方側に位置している。すなわち、ピストン9が従動側回転部材5に係合している状態において、ピストン9は、移動可能範囲の最も径方向外方側に固定されているボール13によって、軸方向に押圧された状態で固定されている。
【0059】
本実施形態に係る荷重発生装置1は、カムスライド11およびピストン9の回転数すなわち荷重発生装置1の回転数が所定の回転数に達した後、さらにカムスライド11およびピストン9の回転数が増加しても、上述したようにボール13は径方向外方および軸方向一方へのさらなる移動が規制されているので、ボール13が径方向溝35から外方へ抜けてしまうことがない。したがって、安定した係合状態を維持することができる。
【0060】
次に、荷重発生装置1の係合解除動作について説明する。
カムスライド11およびピストン9の回転数が所定の回転数に達し、その後軸部材3の回転数が所定の回転数を下回り、カムスライド11およびピストン9の回転数が所定の回転数を下回ると、ボール13に作用する遠心力は小さくなる。するとボール13は径方向内方に移動し、ピストン9を軸方向一方に押圧する力が小さくなり、これに対応して皿ばね65が弾性復帰し、ピストン9を軸方向他方へ移動させる。
【0061】
ピストン9が軸方向他方に移動すると、ピストン9と従動側回転部材5との係合は解かれ、軸部材3から従動側回転部材5への動力の伝達は遮断される。こうして荷重発生装置1は非係合状態となる。ボール13は、ピストン9が軸方向他方へ移動するに従い、径方向溝35の軸方向一方側の底面37およびカムスライド11の傾斜部51の内周面53を摺動して径方向内方および軸方向他方側に移動する。そして軸部材3、カムスライド11、およびピストン9の回転が停止すると、ボール13は径方向溝35の最も内径側に位置することとなる。
【0062】
このように、本実施形態に係る荷重発生装置1は、荷重発生装置1の回転による遠心力によってボール13を径方向外方へ移動させ、固定部材であるカムスライド11によってボール13の径方向外方への移動を軸方向一方への移動に変換し、ボール13の軸方向一方への移動によって移動部材であるピストン9を軸方向一方へ移動させている。そして軸方向に移動するピストン9は、従動側回転部材5に接触して軸方向一方への荷重を加え、従動側回転部材5を軸方向一方へ押圧することにより従動側回転部材5と係合する駆動側の係合部材を構成している。
【0063】
また、本実施形態に係る荷重発生装置1は、軸部材3と一体回転するカムスライド11およびピストン9の回転数すなわち荷重発生装置1の回転数が所定の回転数に達すると、駆動側の係合部材であるピストン9が従動側回転部材5に係合する構成である。また、荷重発生装置1は、カムスライド11およびピストン9の回転数が所定の回転数を下回ると、ピストン9と従動側回転部材5との係合が解放される構成である。このように、本実施形態に係る荷重発生装置1によれば、駆動側回転部材である軸部材3の単位時間当たりの回転数に応じて従動側回転部材5への動力の伝達と遮断とを切り替えることができる制御を実現することができる。
【0064】
なお、本実施形態に係る荷重発生装置1は、ボール13の直径や重さ、カムスライド11の傾斜部51の内周面53の傾斜角度、あるいはスプリング31の付勢力等を総合的に設計することにより、ピストン11と従動側回転部材5とを係合させ、あるいは係合を解放するカムスライド11およびピストン9の回転数を自由に設定することができる。
【0065】
また、従来の動力伝達装置、例えば背景技術の項で説明したような多板クラッチ装置においては、ピストンは油圧を介して移動させていたが、本実施形態に係る荷重発生装置1は油圧を用いることなく、荷重発生装置1の回転による遠心力を用いてピストン9を移動させている。従って、油圧を発生させるための装置および機構や外部動力源装置を設ける必要がないので、荷重発生装置1単体で用いることができ、荷重発生装置1を含む動力伝達機構全体の構成の簡素化および小型軽量化を図ることができる。このように、本実施形態に係る荷重発生装置1によれば、荷重発生装置1の小型化だけでなく、荷重発生装置1を含む動力伝達機構全体の小型化を実現することができるという効果を発揮することができる。
【0066】
なお、本発明の効果を、従来の車両用の多板クラッチ装置と比較した場合について述べたが、本発明に係る荷重発生装置1は車両用の多板クラッチ装置への適用に限定されず、動力の伝達/遮断や、遠心力作動のアクチュエータとして、様々な用途の装置において適用することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る荷重発生装置1は、上記実施形態に限定されず、変形が可能である。例えば、本実施形態においては、径方向溝35および径方向溝35に介装されるボール13はそれぞれ10個であるが、これよりも数を増やしても良い。ボール13の数が多ければ、小さな遠心力でボール13の移動を開始させる事ができ、より滑らかにピストン9を移動させることができる。