(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記供試体作成工程では、前記コンクリートを練り上げた後、当該コンクリートを前記目標温度に調整することで、当該目標温度の前記供試体を作成する、請求項1又は2に記載のコンクリート構造体強度の評価のための供試体養生方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造体強度の評価装置を示す図である。
図1(a)は、評価装置の側面図である。
図1(b)は、
図1のIb−Ib線に沿った評価装置の断面図である。評価装置1は、槽2と、真空断熱養生容器3と、ヒーター4と、冷凍機6と、を備える。
【0016】
槽2は、真空断熱養生容器3を収容し、且つ熱媒体19を貯留する。本実施形態では、槽2は、六面体の箱状の形状を有している。また、槽2の上壁は、蓋として開閉可能に構成されている。槽2内には、真空断熱養生容器3を収容するためのスペースが確保されている。
図1では、槽2内には、真空断熱養生容器3を二つ分収容するためのスペースが確保されているが、真空断熱養生容器3の一つ分のスペースが確保されていてもよく、三つ分以上のスペースが確保されていてもよい。また、槽2内のスペースのうち、真空断熱養生容器3が配置されている以外の箇所には、熱媒体19が貯留されている。熱媒体19は、真空断熱養生容器3を介した供試体10の温度を調整・維持することができるものであれば特に限定されないが、例えば水が採用されてよい。
【0017】
真空断熱養生容器3は、コンクリートの供試体10を収容する。
図1に示すように、真空断熱養生容器3は、上部を開口とした函状の本体部15と、蓋部16により構成される。本体部15の各面と蓋部13にはそれぞれ断熱材が用いられる。断熱材には、例えば発泡スチロール、発泡ウレタン、真空断熱材などの高い断熱性能を有するものを用いる。
【0018】
ここで、供試体10は、コンクリートを所定の大きさ(例えば長さ
200mm、直径
100mm)に構成した円柱状の部材である。
図1に示すように、本体部15の内部空間には、供試体10が複数配置される。図の例では縦2列、横3列で計9個配置される。ただし、真空断熱養生容器3内に配置される供試体10の個数及び配列は特に限定されない。
【0019】
図2は、供試体の鉛直方向の断面を詳細に示す図である。
図2(a)に示すように、供試体10は、軽量型枠12の内部に混練後のセメント硬化体11を打設して詰めたものである。軽量型枠12は、例えばブリキ製やプラスチック製などの、上部を開放した円筒状の型枠である。
【0020】
セメント硬化体11は、コンクリート、モルタル、セメントペーストなどであり、結合材にポルトランドセメント、またはこれに加えて高炉スラグやフライアッシュなど混和材を添加したものなどを用いた、水和熱による温度上昇が期待できるもの全般を指す。
【0021】
供試体10のうち少なくとも1つでは、
図2(b)に示すように、セメント硬化体11の内部に温度計13が埋設される。温度計13としては例えば熱電対が用いられる。例えば、容器内の中央にある供試体10で、セメント硬化体11の内部に温度計13が埋設される。本実施形態では、温度計13は、横の列の中央の供試体10のうち、少なくとも一方に設けられる。
【0022】
図1に示すように、ヒーター4及び冷凍機6は、槽2の外面の一部に設けられる。ヒーター4は、槽2内の熱媒体19をポンプで循環させながら、槽2内の熱媒体19を加熱する。冷凍機6は、槽2内の熱媒体19をポンプで循環させながら、熱媒体19を冷却する。ヒーター4及び冷凍機6は、槽2内の熱媒体19の温度を調整する温度調整部として機能する。ヒーター4及び冷凍機6は、槽2内の熱媒体19を目標温度で一定とするように調整する。すなわち、槽2内の熱媒体19が目標温度より高いときは、冷凍機6が熱媒体19を冷却する。槽2内の熱媒体19が目標温度より低いときは、ヒーター4が熱媒体19を加熱する。なお、槽2内には図示されない温度検知部が設けられてよく、ヒーター4及び冷凍機6は、温度検知部と目標温度の差に基づいて、加熱又は冷却を行ってよい。
【0023】
次に、本実施形態に係るコンクリート構造体強度の評価方法について、
図3を参照して説明する。
図3は、コンクリート構造体強度の評価方法を示すフロー図である。当該方法では、上述の評価装置1が用いられる。
【0024】
ここで、本実施形態の評価方法における評価対象について説明する。「構造体強度」とは、材齢91日における各種コンクリートの温度可変養生の強度のことである。また、ここでは、「構造体強度補正値」を評価する。「構造体強度補正値」として、構造体強度補正値
28S
91を評価する。この値は、材齢29日の標準養生強度からの材齢91日における構造体強度の差を示したものである。
【0025】
本評価方法が実行される前に、評価の目標温度が決定される。ここで、目標温度とは、1年のうち評価対象となるシーズンを再現するための温度である。冬期でのコンクリート構造体強度を評価する場合、例えば目標温度は10℃に設定されてよい。標準期(春期・秋期)でのコンクリート構造体強度を評価する場合、例えば目標温度は20℃に設定されてよい。夏期でのコンクリート構造体強度を評価する場合、例えば目標温度は30℃に設定されてよい。目標温度は、評価時における環境温度と異なっていてもよく、同じであってもよい。環境温度とは、評価方法を実施する際における周囲の温度であり、評価を行う室内温度である。
【0026】
具体的には、標準期に夏期でのコンクリート構造体強度を先取りして評価する場合、目標温度(30℃)は環境温度(20℃)よりも高くなる。標準期に冬期でのコンクリート構造体強度を先取りして評価する場合、目標温度(10℃)は環境温度(20℃)よりも低くなる。夏期に標準期でのコンクリート構造体強度を先取りして評価する場合、目標温度(20℃)は環境温度(30℃)よりも低くなる。冬期に標準期でのコンクリート構造体強度を先取りして評価する場合、目標温度(20℃)は環境温度(10℃)よりも高くなる。
【0027】
図3に示すように、目標温度にてコンクリートの供試体10を作成する供試体作成工程(ステップS10)が実行される。供試体作成工程S10では、コンクリートを練り上げた後、当該コンクリートを目標温度に調整することで、当該目標温度の供試体10を作成する。供試体作成工程S10では、所定の計画調合で調合されたコンクリートの練混ぜが行われる。コンクリートの材料温度は環境温度と等しくなり、コンクリートの練り上がり温度も環境温度と等しくなる。コンクリートが練り上がった後、コンクリート温度は、目標温度に調整される。なお、目標温度が環境温度と異なる場合であっても、材料温度と練り上がり温度は環境温度のままでよい。
【0028】
目標温度が環境温度よりも高い場合は、練り上がり後のコンクリートを加熱することで、コンクリート温度を目標温度まで高める。例えば、専用パットの中で環境温度下にてコンクリートを練り上げる。一方、専用パッドよりも大きな容器である舟に湯を準備しておく。コンクリートが練り上がった後、専用パッドごと舟に漬ける。これにより、コンクリート温度を目標温度となるまで加熱することができる。なお、練り上がり後のコンクリートを加熱する方法は特に限定されず、湯以外の加熱手段によって加熱が行われてもよい。
【0029】
目標温度が環境温度よりも低い場合は、練り上がり後のコンクリートを冷却することで、コンクリート温度を目標温度まで下げる。例えば、専用パットの中で環境温度下にてコンクリートを練り上げる。一方、専用パッドよりも大きな容器である舟に氷及び水を準備しておく。コンクリートが練り上がった後、専用パッドごと舟に漬ける。これにより、コンクリート温度を目標温度となるまで冷却することができる。なお、練り上がり後のコンクリートを冷却する方法は特に限定されず、氷以外の冷却部材によって冷却が行われてもよい。また、舟の中の水が冷却されやすいように塩水などを用いてもよい。
【0030】
温度調整によってコンクリート温度が目標温度となった後、当該コンクリートについてスランプ試験、空気量試験、コンクリート温度試験を実施する。また、当該コンクリートを軽量型枠12に打ち込むことで供試体10を作成する。なお、目標温度が環境温度に等しい場合は、温度調整を行うことなく、コンクリート温度が環境温度となったままのコンクリートについて、各種試験を行い、当該コンクリートを軽量型枠12に打ち込む。
【0031】
次に、S10で作成した供試体10を評価装置1に収容する収容工程(ステップS20)が実行される。収容工程S20では、複数の供試体10が真空断熱養生容器3内に配置され、真空状態にて収容される。供試体10が収容された真空断熱養生容器3は、槽2の内の熱媒体19中に浸漬される。
【0032】
次に、供試体10の温度を目標温度にて、所定期間保持する温度保持工程(ステップS30)が実行される。温度保持工程S30では、真空断熱養生容器3を熱媒体19中に配置し、当該熱媒体19の冷却または加熱をすることによって、真空断熱養生容器3を介して供試体10の温度を保持している。熱媒体の温度よりも目標温度が高い場合は、ヒーター4が熱媒体を加熱して、当該熱媒体を目標温度に保つ。熱媒体の温度よりも目標温度が低い場合は、冷凍機6が熱媒体を冷却して、当該熱媒体を目標温度に保つ。熱媒体の温度が目標温度と等しい場合は、ヒーター4による加熱及び冷凍機6による冷却を停止する。温度保持工程S30では、熱媒体19を目標温度に保ち、真空断熱養生容器3内で供試体10を2週間保管してよい。なお、当該保管期間は特に2週間に限定されるものではない。すなわち、打ち込んだコンクリートの温度は、水和により自己発熱し最高温度に達し、その後、徐々に自然冷却によって低下し、外気と同じ温度へと戻る(例えば、
図7を参照)。保管期間は、このように供試体10の温度が外気に戻るために必要な期間に設定されていればよく、2週間から適宜変更してよい。また、温度保持工程S30では、目標温度に供試体10が保持されるが、当該工程内で供試体10自体の温度が常に一定であるわけではなく、上述の様に自己発熱により一時的に温度が高くなる。すなわち、供試体10の温度に関わらず、供試体10が配置されている環境温度に相当する温度を目標温度に保つことが、温度保持工程S30での温度保持に該当する。
【0033】
なお、温度保持工程S30では、例えば、
図2に示す温度計13を用いて、供試体10の温度を目標温度に保つための測定が行われてよい。なお、当該測定は、供試体10の温度を直接測定する方法であれば他の方法を採用してもよく、更に、供試体10の温度を把握できる限り、供試体10の温度を間接的に測定する方法が採用されてもよい。例えば、真空断熱養生容器3内の断熱材の供試体収容用の穴の内壁と供試体10との間に隙間が存在する場合、当該隙間に熱電対を挿入してよい。当該熱電対の温度に基づいて、供試体10の温度を把握してもよい。
【0034】
温度保持工程S30が終了した後、真空断熱養生容器3から供試体10を取り出し、後養生を行う後養生工程を実行する(ステップS40)。後養生では、目標温度に設定された恒温室にて、供試体10を封滅養生した状態にて保管する。後養生は、材齢91日まで行われる。
【0035】
上述の後養生工程S40が終了した後、供試体10の圧縮強度試験が行われる。一方、供試体作成工程S10で作成された供試体10の一部は、標準養生供試体として用いられる。標準養生供試体は、材齢28日まで20℃で水中養生がなされる。その後、標準養生供試体の圧縮強度試験が行われる。材齢91日の供試体10の圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度の差から、構造体強度補正値
28S
91が求められる。
【0036】
なお、
図3に示す工程は、三つの目標温度に対して、同時に実行されてよい。すなわち目標温度10℃の供試体10と、目標温度20℃の供試体10と、目標温度30℃の供試体が同時に作成され、各目標温度にて温度可変養生及び後養生が同時進行で行われてよい。
【0037】
次に、本実施形態に係るコンクリート構造体強度の評価方法、及びコンクリート構造体強度の評価装置1の作用・効果について説明する。
【0038】
コンクリート構造体強度の評価方法は、コンクリートの供試体10を作成する供試体作成工程S10と、供試体10を真空断熱養生容器3に収容する収容工程S20と、供試体10の温度を所定時間保持する温度保持工程S30と、を備える。これにより、温度保持工程S30にて所定時間養生した供試体10についての強度試験を行うことで、コンクリート構造体の強度を評価することができる。ここで供試体作成工程S10では、目標温度にてコンクリートの供試体10を作成する。また、温度保持工程S30では、供試体10の温度を目標温度にて保持する。従って、評価を行う時期の環境温度とは異なる目標温度にて、評価を行うことができる。例えば、冬期、標準期及び夏期の各シーズンについての評価を行う場合、従来は、評価時のシーズンに対応する環境温度に基づいて評価を行う必要がある。すなわち、冬期に対応する評価を行うには、実際に冬期になるのを待つ必要があり、夏期に対応する評価を行うには、実際に夏期になるのを待つ必要がある。従って、3シーズン分の評価を行うためには、実際に冬期、標準期、及び夏期のタイミングに合わせて評価する必要があり、評価に要する時間が長期化する。それに対して、本実施形態に係るコンクリート構造体強度の評価方法では、環境温度と異なる目標温度にて評価を行うことができる。従って、実際のシーズンと異なるシーズンについても評価を行うことで、3シーズン分の評価を同時に行うことができる。以上により、評価に要する期間を短くすることができる。
【0039】
コンクリート構造体強度の評価方法において、温度保持工程S30では、真空断熱養生容器3を熱媒体19中に配置し、当該熱媒体19を冷却または加熱をすることによって、供試体10の温度を保持してよい。このように、熱媒体19を冷却または加熱することで、容易に供試体10の温度を保持することができる。
【0040】
コンクリート構造体強度の評価方法において、供試体作成工程S10では、コンクリートを練り上げた後、当該コンクリートを目標温度に調整することで、当該目標温度の供試体10を作成してよい。準備段階のコンクリート材料の温度、及びコンクリートを練っているときの温度を目標温度に調整しなくとも、コンクリートを練り上げた後で供試体10を目標温度に調整することで、十分に再現性のある評価を行うことができる。これにより、準備段階のコンクリート材料の温度調整、及びコンクリートを練っているとき温度調整の手間を省略することができる。
【0041】
コンクリート構造体強度の評価装置1は、コンクリート構造体の強度を評価するコンクリート構造体強度の評価装置であって、コンクリートの供試体10を収容する真空断熱養生容器3と、真空断熱養生容器3を収容し、且つ熱媒体19を貯留する槽2と、槽2内の熱媒体19の温度を調整するヒーター(温度調整部)4及び冷凍機(温度調整部)6と、を備える。
【0042】
このコンクリート構造体強度の評価装置1によれば、上述のコンクリート構造体強度の評価方法と同様の作用・効果を得ることができる。
【0043】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、評価装置として
図1に示すものを例示したが、供試体の養生温度を目標温度に保つことができるものであれば、どのような構成や形状を採用してもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0044】
また、評価方法の手順も上述の方法に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜工程を追加、変更してもよい。
【0045】
[実験例1]
実験例1では、本発明に係る温度可変養生を用いてコンクリート構造体強度の評価を行った場合の評価結果と、従来の簡易断熱養生を用いた場合の評価結果とを比較した。実験例1の温度可変養生では、目標温度を環境温度と等しくした場合について、評価を行った。実験例1の温度可変養生では、
図1に示すような、真空断熱養生容器と、冷凍機とヒーターを備え付けた水温制御式の水循環ポンプ(1000×600×900mm)と水槽(970×730×920mm)から構成される評価装置を用いた。真空断熱養生容器(430×335×420mm)は、φ10×20cmの供試体を6本収容可能である。なお、この評価装置は、後述の実験例2,3においても用いられる。
【0046】
環境温度を10℃とし、目標温度を10℃とする条件で温度可変養生を行った供試体について説明する。まず、コンクリート作成の際には、環境温度を10℃とした恒温室にて作業を行った。使用材料は、予め前日から10℃の恒温室に保管された。
図5に示す計画調合で容量100Lの二軸ミキサを用いてコンクリートの練混ぜを行った。その後、フレッシュコンクリート試験で目標値を満足していることを確認した試料について、標準養生用供試体と温度可変養生用供試体を採取した。
【0047】
標準養生供試体は、翌日脱型され、材齢28日まで20℃の水中養生がなされた後、圧縮強度試験が行われた。一方、温度可変養生用供試体は、
図1に示す真空断熱養生容器内に所定の方法でセットされた後、養生水温度10℃の水槽に2週間保管された。その後、これらの供試体が取り出され、後養生として材齢91日まで10℃の恒温室にて、封緘養生で保管された。このようにして得られた温度可変養生用供試体を実施例1,2とした。なお、
図5のうち、「N50」のコンクリートを用いた供試体を実施例1とし、「FC50」のコンクリートを用いた供試体を実施例2とした。その後、実施例1,2に係る温度可変養生用供試体の圧縮強度試験が行われた。目標温度及び環境温度が20℃であること以外、実施例1,2と同様な条件で養生された供試体を実施例3,4とし、当該実施例3,4に係る供試体についても圧縮強度試験を行った。目標温度及び環境温度が30℃であること以外、実施例1,2と同様な条件で養生された供試体を実施例5,6とし、当該実施例5,6に係る供試体についても圧縮強度試験を行った。
【0048】
実施例1,2と同様な条件で作成された後、簡易断熱養生及び後養生が行われた供試体を比較例1,2とした。簡易断熱養生の容器として、
図6に示す発泡スチロール型枠が用いられた。
図6に示す簡易断熱養生容器20は、円筒状の本体23及び円板上の蓋体24を備える。本体23及び蓋体24は、発泡スチロールの断熱材によって構成される。本体23の内部空間の中央には発熱用コンクリート22が配置され、当該発熱用コンクリート22の周囲に供試体21が複数配置される。また、供試体21の一つには、熱電対26が設けられる。比較例1,2に係る供試体は、この簡易断熱養生容器に収容されて、10℃の恒温室内に2週間保管された。その後の比較例1,2の後養生は、実施例1,2と同様とした。同様に、実施例3,4に対応する供試体を比較例3,4とし、実施例5,6に対応する供試体を比較例5,6とした。実施例1〜6及び比較例1〜6の条件を
図4に示す。
【0049】
(温度履歴結果)
W/C50%の普通コンクリート(N50)に対する温度可変養生(実施例1,3,5)と簡易断熱養生(比較例1,3,5)の温度履歴の例を
図7に示す。この温度履歴は、供試体に取り付けられた熱電対によって取得されたデータである。
図7から理解されるように、各実施例に係る温度可変養生の供試体の最高温度は、各比較例に係る簡易断熱養生の供試体よりも若干低い傾向を示しているが、両者の温度履歴は概ね近似した傾向にあることが理解された。
【0050】
(圧縮強度と構造体強度補正値
28S
91の結果)
各種コンクリートの強度結果の一覧を
図8に示す。ここで、同一練上がり温度における同一コンクリートの温度可変養生の構造体強度補正値と簡易断熱養生の構造体強度補正値が近似していれば、両者の評価方法における精度は良好であると評価できる。すなわち、実施例1と比較例1の構造体強度補正値(
28S
91)とを比較し、実施例2と比較例2の構造体強度補正値とを比較することで、両者の構造体強度補強値の近似性を評価することができる。従って、
図8の結果に基づいて、対応する温度可変養生と簡易断熱養生との構造体強度補正値を
図9にプロットした。
図9に示すように、温度可変養生と簡易断熱養生との構造体強度補正値の間には十分な近似性が確認された。
【0051】
[実験例2]
実験例1では、本発明の温度可変養生を用いた評価方法による構造体強度補正値と従来の簡易断熱養生を用いた評価方法による構造体強度補正値とは、遜色がないことが理解された。そこで、実験例2では、温度可変養生による構造体強度補正値の評価の迅速性について検討した。例えば、標準期のコンクリート試料を用いて、夏期や冬期の構造体強度補正値を先取りして評価できるかを検証した。
【0052】
実験例2の実験概要を
図10及び
図11に示す。ここで、便宜上、標準期相当のコンクリートの練上り温度を20±2℃、冬期相当のコンクリートの練上り温度を10±2℃、夏期相当のコンクリートの練上り温度を30±2℃と定義する。
図10では、標準期に冬期の構造体強度補正値を温度可変養生を用いて先取りする場合(実施例7,8)と、標準期に夏期の構造体強度補正値を温度可変養生装置を用いて先取りする場合(実施例9,10)の実施条件を示している。
図11では、夏期に標準期の構造体強度補正値を先取りする場合(実施例11,12)と、冬期に標準期の構造体強度補正値を先取りする場合(実施例13,14)の実施条件を示している。なお、それぞれの実施例に対する比較用のために、従来の簡易断熱養生による構造体強度補正値の実施条件も比較例7〜14として併せて示している。なお、実施例7,9,11,13及び比較例7,9,11,13ではコンクリートとして「N50」が用いられ、実施例8,10,12,14及び比較例8,10,12,14ではコンクリートとして「FC50」が用いられた。
【0053】
ここで、標準期に冬期の構造体強度補正値を温度可変養生を用いて先取りして評価する場合(すなわち実施例7)の手順について説明する。標準期のため環境温度は20℃、材料温度も20℃にてコンクリートを練り混ぜると、練り上がり温度が20℃のコンクリートが製造される(これを温度20℃の試料と称する)。この温度20℃の試料を冬期の構造体強度補正値を先取りするために、冷温することによって目標温度である温度10℃の試料に変化させる。
【0054】
このように、練り上げた後にコンクリートの温度を目標温度に変化させる場合の手順について説明する。まず舟に氷を投入後、水をはり、0℃程度の氷水とした。専用のバット(ステンレス製)に練りあがった温度20℃の試料を投入した。投入した専用のバットを舟の上に静かに漬けた。この時、専用バットに氷水が入らないように細心の注意を払って作業を行った。専用バット中の試料温度を温度計で測定し、目標温度である10±3℃以内になるかを確認した。目標温度にならない場合は、舟に氷を加えたり、あるいはコンクリート温度が一様になるように、ゴムヘラなどを用いて練り返した。前述と同様に試料温度を測定し、目標温度である10±3℃以内になることを確認した。温度10℃の試料を用い、スランプ試験、空気量試験、及びコンクリート温度試験を実施した。温度10℃の試料を用い、φ10×20cmのサミットモールド缶に打ち込み、封緘供試体を12本作製した。その供試体12本のうち、6本は温度可変養生容器(真空断熱養生容器)にセットし、その後、温度可変養生容器(真空断熱養生容器)を水槽に収容し、当該水槽の水温を10℃に設定し、2週間養生を行った。その後、その供試体を水槽から取り出し、材齢91日まで10℃室内で封緘養生した。材齢91日となった供試体について、圧縮強度試験を行った。残りの6本の供試体のうち3本は、材齢28日まで標準水中養生し、残りの3本は予備とした。材齢28日となった供試体について、圧縮強度試験を行った。材齢28日の標準養生強度と材齢91日封緘養生強度との差から、構造体強度補正値を得た。これにより、試料温度20℃を10℃に変化させた試料を用いて得た構造体強度補正値を、標準期に冬期の構造体強度補正値を温度可変養生を用いて先取りした構造体強度補正値としている。
【0055】
その他、
図10において、標準期に夏期の構造体強度補正値を温度可変養生を用いて先取りする場合(実施例9)について例をあげて説明する。標準期のため環境温度は20℃、材料温度も20℃にてコンクリートを練り混ぜると、練り上がり温度が20℃のコンクリートが製造される(これを温度20℃の試料と称する)この温度20℃の試料を夏期の構造体強度補正値を先取りするために、加温することで目標温度である温度30℃の試料に変化させた。この場合、舟に60℃程度の湯をはり、専用のバット(ステンレス製)に練りあがった温度20℃の試料を投入した。これにより、専用バット中の試料温度を温度計で測定し、目標温度である30±3℃以内になるように調整した。その他の手順は、上述の実施例7の手順と同様であった。
【0056】
(圧縮強度と構造体強度補正値
28S
91の結果)
実験例2の実験結果を
図12に示す。
図12には、実施例7〜14の先取りによる評価方法によって得られた温度可変養生の構造体強度補正値の結果が示されている。また、比較用の簡易断熱養生の構造体強度補正値(比較例7〜14の結果)も併せて示されている。また、
図12の最も左側の欄には、各実施例と各比較例との構造体強度補正値の差が示されている。これより両者の構造体強度補正値の差の平均値は2N/mm
2で、標準偏差は1.19N/mm
2であり、両者の構造体強度補正値の差は小さいことが理解された。従って、標準期の試料を用いて冬期や夏期の構造体強度補正値を先取りすることや夏期や冬期の試料を用いて標準期の構造体強度補正値を先取りすることが、温度可変養生による評価方法によって可能であることが理解された。
【0057】
[実験例3]
実際の生コンプラントにおいて、標準期における実機練りコンクリート試料を用いて夏期の構造体強度補正値の先取りが可能であるかを検証実験を行った。実験概要を
図13に示す。標準期である10月中旬に、生コンプラントで実機練ミキサを用いてフライアッシュB種コンクリート及びフライアッシュC種コンクリートを各々4m
3だけ製造した。例えばフライアッシュB種コンクリートの場合は、製造した後、アジテータ車にそのコンクリートを積載し、そこから約30Lをネコに排出し、これを試料とした。試料は、生コンプラントの20℃の室内試験室に運搬した。この試料の温度を確認した後に、専用バットに試料を移しかえた。予め舟に湯がはってあり、その中に試料が入った専用バットを漬けた。湯が試料の中に入らないように細心の注意を払いながら、試料の温度を温度計で確認しながら、試料の温度が一様になるように、ゴムヘラなどを用いて練り返した。試料の温度が目標温度である30℃となったことを確認した時点で、フレッシュ試験を行うとともに、φ10×20cmのサミットモールド缶を用いて封緘供試体を12本作製した。その後、生コンプラント試験室内に移設した水槽内に、6本の供試体をセットした簡易断熱養生容器(真空断熱容器)を設置した。水槽内の水の温度は目標温度である30℃とし、2週間養生した後に、簡易断熱養生容器内の供試体を取り出し、材齢91日まで30℃室内にて封緘養生し、材齢91日となった供試体について、圧縮強度試験を行った。このような供試体を実施例15とした。残りの供試体6本のうち3本については、材齢28日水中養生用供試体とし、残りの3本は予備用とした。材齢28日となった供試体について、圧縮強度試験を行った。フライアッシュC種コンクリートについても、B種コンクリートと同様な方法で実施し、実施例16とした。
【0058】
比較例としては、
図6に示す簡易断熱養生容器20を用いた評価方法と、
図15に示すような、1×1×1mの柱模擬部材(いわゆる構造体)30を用いた評価方法を採用した。比較例の簡易断熱養生及び柱模擬部材のためのコンクリートの製造は、夏期である7月末に生コンプラントで実機練ミキサを用いてフライアッシュB種コンクリートおよびフライアッシュC種コンクリートを各々4m
3製造した。例えばフライアッシュB種コンクリートの場合は、製造した後、アジテータ車にそのコンクリートを積載し、その後、ネコに排出しフレッシュ試験を行ないコンクリートの練り上がり温度32℃を確認した。さらに、
図6示すように簡易断熱養生用の供試体を作製し、材齢91日まで供試体を封緘養生し、材齢91日となった供試体について、圧縮強度試験を行った。これらの供試体を比較例15,16とした。一方、柱模擬部材の場合は、
図15に示すように、型枠内にコンクリート32を打設した。上下2面は断熱材37で覆い、4側面は硬化後、材齢5日後に型枠を取り外し材齢91日まで曝した。材齢91日の2日前に模擬部材から垂直方向にφ10cmのコアボーリングを行い、1mのコアを抜いた。その後、所定のサイズ(20cm)にカット・整形して供試体31を作成した後、材齢91日の供試体について、圧縮強度試験を行った。これらの供試体を比較例17,18とした。また、材齢28日の水中養生供試体について、圧縮強度試験を行った。なお、使用したコンクリートの調合を
図14に示す。
【0059】
(圧縮強度と構造体強度補正値
28S
91の結果)
実験例3の結果を
図16に示す。標準期の実機練りコンクリートの試料を目標温度として、夏期相当の30℃の試料に変化させた実施例15,16について得られた構造体強度補正値は、-7.7N/mm
2、-10.4N/mm
2であった。一方、簡易断熱養生による比較例15,16について得られた構造体強度補正値は、-7.6N/mm
2と-9.3N/mm
2であった。これより、両者の養生の構造体強度補正値の差はフライアッシュB種コンクリートでは0.1N/mm
2であり、フライアッシュC種コンクリートでは1.1N/mm
2であり、良好な値を示した。また、柱模擬部材による比較例17,18について得られた構造体強度補正値は、-9.6N/mm
2と-12.0N/mm
2であった。これより、温度可変養生と柱模擬部材による供試体の構造体強度補正値の差はフライアッシュB種コンクリートでは1.9N/mm
2であり、フライアッシュC種コンクリートでは1.6N/mm
2であり、良好な値を示した。以上のことから、標準期の実機練りコンクリートの試料について、湯を用いてその試料を暖めて、目標温度である温度30℃に変化させ夏期相当のコンクリートとし、その構造体強度補正値を先取りした結果、比較例として夏期の実機練りコンクリートの試料を用いて作製した簡易断熱養生による構造体強度補正値、及び柱模擬試験体のコアによる構造体強度補正値との差は何れも2N/mm
2以内であり、本発明に係る評価方法が、従来の評価方法に対して遜色ないことが理解された。すなわち、標準期の実機練りコンクリート試料を夏期相当のコンクリート試料温度に変化させ、温度可変養生を行うことで、標準期に夏期の構造体強度補正値の先取りが可能となり、また構造体強度補正値が3ヶ月と短期間で得られることが実証された。