特許第6929228号(P6929228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6929228カーボンブラック、それを用いた電極触媒及び燃料電池、並びにカーボンブラックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6929228
(24)【登録日】2021年8月12日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】カーボンブラック、それを用いた電極触媒及び燃料電池、並びにカーボンブラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20210823BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20210823BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20210823BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20210823BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20210823BHJP
【FI】
   C09C1/48
   B01J23/42 M
   H01M4/96 B
   H01M8/10 101
   H01M4/88 C
   H01M4/88 K
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-553833(P2017-553833)
(86)(22)【出願日】2016年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2016085131
(87)【国際公開番号】WO2017094648
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-233050(P2015-233050)
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 克良
(72)【発明者】
【氏名】池田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】原田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健志
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−209504(JP,A)
【文献】 特開2007−220384(JP,A)
【文献】 内田誠,他,自動車用燃料電池向け電極触媒の高性能化とナノテクノロジー,自動車技術,2015年11月 1日,Vol.69, No.11,p.63-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C
B01J
H01M
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が0.25cm/g未満であり、BET法による比表面積が500〜900m/gであり、揮発分が1.0〜10.0%であるカーボンブラック。
【請求項2】
請求項1に記載されたカーボンブラックからなる担体を含む燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
担体表面上の触媒個数存在率が、担体に担持されている全触媒粒子個数に対して60%以上である、請求項2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された電極触媒を有する固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
一次粒子径が10nm以上20nm以下である原料カーボンブラックと、酸素濃度が1.0体積%以上5.0体積%以下であるガスとを接触させる賦活処理工程を有する、請求項1に記載のカーボンブラックの製造方法。
【請求項6】
賦活処理工程が500℃以上700℃以下で行われる、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック、それを用いた電極触媒及び燃料電池、並びにカーボンブラックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素や酸素といったガスの流路を施したセパレーターの間に電極触媒層及び電解質膜を挟んだ構成となっている。電極触媒層は、触媒担体(以下、「担体」とも称する。)、アイオノマー等のイオン伝導体、及び触媒を含む。こうした構成の電極触媒層としては、例えば、触媒担体として、ガス拡散性や電気伝導性に優れたカーボンブラックを使用し、イオン伝導体として、フッ素系高分子を使用し、触媒として、電極反応を促進する白金又は白金とその他金属との合金等の白金系触媒を使用したものを挙げることができる。
【0003】
燃料電池の出力を向上させるためには、電極反応を促進する必要がある。電極反応を促進するためには、まず、担体上に高分散な状態で触媒を担持することが有効である。その要求を満たす触媒担体として、高比表面積カーボンブラックが用いられている。
【0004】
カーボンブラックは、通常、炭化水素ガス等から生成した時点では、10〜300m/gの比表面積を有する。この比表面積は、カーボンブラックの一次粒子径のみにほとんど依存するものであり、一次粒子径が小さいほど、比表面積は増大する。また、生成後のカーボンブラックを、500℃以上の温度で、空気、酸素及び水蒸気等を使用して加熱処理してカーボンブラック粒子の一部を浸食させることによって、300m/g以上に高比表面積化することが可能である(特許文献1)。このような処理は、酸化処理又は賦活処理と称される。賦活処理によって作製されたカーボンブラックは、粒子表面が粗化することによって300〜1400m/gへと高比表面積化するため、触媒を高分散で担持することができる。
【0005】
しかしながら、賦活処理によって作製された高比表面積カーボンブラックは、一次粒子内の細孔が著しく増加又は増大するため、担持される触媒粒子が細孔内部へと埋没し、電極反応に有効に機能しない触媒が増加してしまい、触媒重量あたりの出力が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、担体の細孔容積分布を制御することにより、担持される触媒が担体の細孔内部に埋没するのを抑制し、触媒重量あたりの出力を向上させるといった技術が提案されている(特許文献2)。特許文献2によれば、10nm以下の細孔径を有する細孔の累積細孔容積が担体容積に対して2%以下である担体を用いることにより、触媒粒子の担体細孔への埋没を防ぐことができるとされている。ところが、このような場合、担体の比表面積が著しく低下してしまい、触媒の高分散担持が困難になるという問題がある。
【0007】
さらに、電極反応は、触媒、イオン伝導体、及び水素や空気等の反応ガスの共存下、三相界面で進行するため、電極反応を促進させるためには、触媒と担体間の構造のみではなく、イオン伝導体の担体上への被覆状態を含めた電極触媒の構造設計が必要である。すなわち、担体上に触媒が高分散担持されていても、イオン伝導体が全く存在しなければ、電極反応物質である水素イオンや水酸化物イオンが反応場に供給されない。また、逆にイオン伝導体が極端に厚く担体を被覆していれば、電極反応物質である水素ガスや酸素ガスが反応場に供給されない。こうした場合は、三相界面が形成されず、電極反応を促進することができないため、高出力の燃料電池を得ることができない。
【特許文献1】特開2007―112660号公報
【特許文献2】特開2007−220384号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明は、燃料電池の出力を向上させることが可能な電極触媒担体用のカーボンブラック、並びに、それを用いた電極触媒及び固体高分子形燃料電池を提供する。
【0009】
細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が0.25cm/g未満であり、BET法による比表面積が500〜900m/gであり、揮発分が1.0〜10.0%であるカーボンブラック、または上記カーボンブラックからなる担体を含む燃料電池用電極触媒、及びその電極触媒を有する固体高分子形燃料電池とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】触媒担体の累積細孔容積を示した説明図である。
図2】触媒担体のlog微分細孔容積分布を示した説明図である。
図3】触媒担体の窒素吸脱着等温線を示した説明図である。
図4】従来の電極触媒を示した概略図である。
図5】本発明の電極触媒を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本発明者は、燃料電池の電極反応を促進して燃料電池性能の向上が可能な電極触媒の構造について鋭意検討を行う中、高比表面積かつ、一次粒子における細孔が少ないカーボンブラックを担体として用いることにより、担持される触媒が担体の細孔内部に埋没することがないことを見出した。さらに研究を進め、カーボンブラック上の表面官能基が一定量以上存在すると、担体表面に均一にアイオノマーが被覆するため、反応場形成において最もバランスがとれ、電極反応を促進可能な電極触媒を作製できることを知見した。
【0013】
[カーボンブラック]
カーボンブラックは、細孔を有している。細孔のうち、細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が、0.25cm/g未満である。担体として用いられるカーボンブラックの細孔径の直径を6nm以下としたのは、窒素吸着法による細孔分布測定結果に基づくものである。すなわち、本発明者は、電極触媒構造の最適化を検討する中、賦活処理により高比表面積化されたカーボンブラックにおいては、図1に示すように、細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が大きいほど、カーボンブラック担体に担持される触媒粒子が埋没する頻度が高くなることを見出した。よって、細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積を0.25cm/g未満とすることで、触媒粒子の担体への埋没を防いで、燃料電池作動条件下における触媒の有効利用率が高い電極触媒を得ることができるとともに、高出力の燃料電池を得ることができる。また、その結果、高価な白金系触媒の使用量を低減することができるので、低コストでの固体高分子形燃料電池の生産が可能となる。反対に、細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が0.25cm/g以上と大きくなれば、担持される触媒粒子が埋没する頻度が著しく高くなり、電極反応に有効に機能する触媒が減少し、触媒重量あたりの出力が低下する。
【0014】
なお、ここでいう「直径」及び「累積細孔容積」とは、ガス吸着量測定装置(Quantachrome Instruments社製「Autosorb−iQ−MPXR」)により、吸着質として窒素ガスを使用し、測定温度77.4KにてBJH法により測定した値である。
【0015】
上記したカーボンブラックは、図2のlog微分細孔容積分布に示すように、直径2〜6nmの細孔径におけるlog微分細孔容積のピークが減少しており、直径6nm以下の細孔径の細孔の容積が小さいといえる。log微分細孔容積分布は、連続する2点間の細孔径における細孔の容積の変化量が少ないほど、log微分細孔容積は減少する。本発明者は、賦活処理により高比表面積化されたカーボンブラックにおいては、直径2〜6nmの細孔径におけるlog微分細孔容積のピークが大きいほど、カーボンブラック担体に担持される触媒粒子が埋没する頻度が高くなることを見出した。よって、直径2〜6nmの細孔径におけるlog微分細孔容積のピークを減少させることで、触媒粒子の担体への埋没を防ぐことができる。
【0016】
また、上記したカーボンブラックは、図3に示すように、窒素吸脱着等温線におけるヒステリシスの変化幅が小さく、等しい圧力での吸着側の平衡吸着量に対する脱着側の平衡吸着量の増加率が6%未満である。国際純正・応用化学連合(以下、「IUPAC」と称する。)によれば、窒素吸脱着等温線は、多孔質物質の細孔構造に依存したヒステリシスを示す。その理由は、細孔へのガスの吸脱着において、凝縮と蒸発の不可逆なプロセスが生じるためである。細孔構造モデルとヒステリシス形状の関係は、IUPACにより分類されており、例えば、ヒステリシスの変化幅が大きいカーボンブラック一次粒子内には、インクボトル型又は円筒型の細孔(以下、「キャビテーション」とも称する。)が多く存在する。そのため、図4に示すように、触媒粒子の埋没を引き起こしている可能性がある。本実施形態のカーボンブラックの場合は、500〜900m/gと高比表面積でありながらも、窒素吸脱着等温線のヒステリシスの変化幅が小さく、キャビテーションが顕著に少ない。そのため、図5に示すように、担体の外部表面に多くの触媒粒子が担持されているといえる。
【0017】
カーボンブラックは、比表面積が500〜900m/g、より好ましくは750〜900m/gである。比表面積はJIS K6217−2に従ってBET法により測定することができる。カーボンブラックの比表面積が500m/g未満では、触媒が担持される箇所が著しく減少し、触媒を高分散な状態で担持できなくなる。一方、比表面積が900m/gを超える場合、賦活処理による粒子の浸食のために粒子内の細孔が著しく増加又は増大し、担持される触媒粒子が細孔内に埋没する頻度が増加する。細孔内に埋没する触媒粒子の割合が増加すると、燃料電池反応条件下で有効に機能する触媒量が減少し、出力が低下する。カーボンブラックの比表面積は、原料カーボンブラックを賦活処理することにより高比表面積化することができる。賦活処理の方法については、後述する。比表面積の下限値は、600m/g以上、又は700m/g以上とすることもでき、上限値は、850m/g以下とすることもできる。
【0018】
カーボンブラックは、揮発分が1.0〜10.0%、より好ましくは3.0〜7.0%である。揮発分とは、カーボンブラック上に存在する表面官能基の量を評価する指標である。揮発分は、予め105℃で1時間乾燥して水分を除去した試料を、真空中950℃で5分間加熱処理した際の重量変化分から測定できる。本発明者は、電極触媒構造の最適化に向け鋭意検討を行った結果、カーボンブラック上の表面官能基の量が、カーボンブラック粒子表面におけるアイオノマーの被覆状態を左右することを見出した。すなわち、揮発分が1.0%未満となるとアイオノマーがカーボンブラック粒子全体に均一に被覆されず、触媒が存在する箇所でも水素イオンや水酸化物イオンが供給されず、三相界面が減少する。一方、揮発分が10%を超えると、アイオノマーが極端に厚くカーボンブラック表面を被覆してしまうため、酸素や水素といった反応ガスが触媒上に供給されず、三相界面が減少する。三相界面が減少すれば、電極反応が促進されず、触媒重量あたりの出力が低下する。揮発分の下限値は、1.5%以上、2.0%以上、又は4.0%以上とすることもできる。上限値は、9.5%以下、9.0%以下、又は8.0%以下とすることもできる。
【0019】
カーボンブラック上に存在する表面官能基としては、フェノール性水酸基、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基、ラクトン基などの含酸素官能基等を挙げることができる。カーボンブラック上に存在する表面官能基種を評価する手段の一つとして、昇温脱離(TPD)法がある。TPD法は、予め乾燥した試料を不活性雰囲気中で一定の昇温速度で加熱した際に脱離するCO、CO及びHOの量を測定する方法であり、得られる脱離温度と脱離ガス量のプロファイルから表面官能基種を推定することができる。TPD測定の結果より、本実施形態のカーボンブラック上にはフェノール性水酸基、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基、ラクトン基などの含酸素官能基が存在することがわかっている。
【0020】
上記したカーボンブラックは、細孔特性に優れた高比表面積のカーボンブラックである。すなわち、触媒担体の細孔容積分布、比表面積及び、イオン伝導体の担体上への被覆性のバランスに優れ、電極反応を促進することができる。そのため、このカーボンブラックを燃料電池に用いられる電極触媒の担体として用いることで、燃料電池における出力を従来以上に向上させることができる。
【0021】
[カーボンブラックの製造方法]
カーボンブラックの製造方法は、原料カーボンブラックを賦活処理する工程を有する。原料カーボンブラックの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、炭化水素などの原料ガスを反応炉の炉頂に設置されたノズルから供給し、熱分解反応及び又は部分燃焼反応によりカーボンブラックを製造し、反応炉下部に直結されたバッグフィルターから捕集することができる。使用する原料ガスは、特に限定されるものではなく、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのガス状炭化水素や、トルエン、ベンゼン、キシレン、ガソリン、灯油、軽油、重油などのオイル状炭化水素をガス化したものを使用することができる。又これらの複数を混合して使用することもできる。
【0022】
原料カーボンブラックは、特に、アセチレンガスを主原料としたアセチレンブラックであることが好ましい。アセチレンブラックはアセチレンガスの自己発熱分解反応により生成するカーボンブラックであり、この発熱分解による火炎温度は2000℃を超える。そのため、アセチレンブラックは、極めて結晶性が高く、疑似グラファイト構造と呼ばれる結晶子が粒子内部まで及ぶ。一方、アセチレンブラック以外のカーボンブラックとしては、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ケッチェンブラック等の種類があり、これらは石油や天然ガスを原料としているため、カーボンブラック合成時の火炎温度が低く、結晶性を向上させるのが困難な品種となる。そのため、これらのカーボンブラック粒子中には非結晶部分が多く存在する。カーボンブラックを高比表面積化する賦活処理では、カーボンブラック粒子中の結晶性の低い部分が優先的に浸食され、多孔質化される場合がある。そのため、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ケッチェンブラック等の低結晶性のカーボンブラックを賦活処理により高比表面積化した場合、粒子表面だけでなくその内部まで浸食されて粒子の細孔が増加又は増大し、担持される触媒が細孔に埋没する頻度が高くなる場合があるため、電極反応に有効に機能する触媒量が減少し、触媒重量あたりの出力が著しく低下する場合がある。
【0023】
原料カーボンブラックの一次粒子径は、10〜20nmであり、より好ましくは15〜19nmである。一次粒子径を20nm以下とすることで、緩やかな条件で500m/g以上の高比表面積を達成することができる。その結果、一次粒子における細孔の増加又は増大を抑制しながら高比表面積を達成することができる。一次粒子径が20nmを超えると、高比表面積を得るのにより激しい条件でカーボンを浸食させる必要があり、その場合、高比表面積化に伴い細孔が著しく増加又は増大する。一方、一次粒子径が10nm未満と小さくなれば、粒子同士が凝集しやすくなり分散できず、液相法により触媒担持することが困難となる。
【0024】
なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像から100個のカーボンブラックの一次粒子径を測り、平均値を算出して求めることができる。カーボンブラックの一次粒子はアスペクト比が小さく真球に近い形状をしているが、完全な真球ではない。そこで、TEM像における一次粒子の外周2点を結ぶ線分のうちで最大のものをカーボンブラックの一次粒子径とした。
【0025】
(賦活処理)
カーボンブラックの賦活処理は、酸素濃度が1.0〜5.0体積%のガスを加熱炉内に供給することを特徴とする。酸素濃度が5体積%を超えると、カーボンの浸食反応が促進されるため、カーボンブラック粒子内における2〜6nmの細孔径の細孔が増加又は増大する。一方、酸素濃度が1体積%未満となれば、カーボンの浸食反応がほとんど起こらず、比表面積を増加させるのが困難になる。供給するガスには、窒素、アルゴンガスといった不活性ガスによって希釈された、空気又は水蒸気を使用することができる。これらのガスの混合比はとくに限定されず、例えば、体積比で窒素:空気=4:1となるように混合する。賦活処理は、一般的に500〜1000℃で行われるが、本実施形態の場合は、生産性を高く保つために、500〜700℃の温度で処理することが好ましい。
【0026】
[燃料電池用電極触媒]
燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」という。)は、上記したカーボンブラックからなる担体を含む。この電極触媒中の触媒粒子は、担体に担持された全体の触媒粒子個数のうち60%以上が担体の外部表面に存在する。上記触媒粒子の担体外部表面における個数存在率は、回転式の試料ホルダーを備えた走査透過型電子顕微鏡(STEM)によって評価することができる。すなわち、触媒粒子の担体外部表面における個数存在率は、試料ホルダーを360°回転させて観察した電極触媒のSEM像及びTEM像から算出することができ、SEM像より担体外部表面に担持された触媒粒子の個数を、TEM像より担体外部及び内部に担持された触媒粒子の個数を測定し、全体のうち担体外部表面に担持された触媒粒子の個数割合を算出する。触媒粒子の担体外部表面における個数存在率は60%以上であり、従来の電極触媒における該個数存在率は50%未満である。そのため、本実施形態の電極触媒は電極反応に機能する触媒量が多く、触媒の有効利用率が高い。その結果、燃料電池における触媒重量あたりの出力が高い。なお、電極反応に有効に機能する触媒量を増加させるには、触媒粒子の担体外部表面における個数存在率が100%であることが最も好ましい。
【0027】
(電極触媒の製造方法)
電極触媒の製造方法は、特に制限されないが、触媒を白金とする場合の一例として以下の方法が挙げられる。まず、カーボンブラック担体を水に懸濁させた溶液に、担体に対して白金触媒が50質量部となるようにヘキサクロロ白金酸(IV)水溶液を加えて混合液Aとし、さらにヘキサクロロ白金酸に対し10倍当量の水素化ホウ素ナトリウムを添加(還元処理)し、カーボンブラックの表面に白金粒子を析出させた後、濾過、洗浄、乾燥することによって白金担持カーボンブラックを作製することができる。次に、担体に対して70質量部となるようにアイオノマーとしてナフィオン(デュポン社製)を添加し、ボールミルにより白金担持カーボンブラック、ナフィオン、エタノール及び純水を30分間攪拌、混合して、触媒インクを得る。さらに、触媒インクを電解質膜に直接吹き付けて、60℃で乾燥することにより、電極触媒層を作製することができる。
【0028】
[固体高分子形燃料電池]
固体高分子形燃料電池は、上記した燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」ともいう。)を有する。上記した電極触媒は、触媒の有効利用率が高いので、その電極触媒を有する固体高分子形燃料電池は、高出力特性を有する。電極触媒を用いた固体高分子型燃料電池単セルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下のようにして作製することができる。ナフィオン膜を電解質膜とし、電解質膜の片方の面には上記の方法により本実施形態の電極触媒層(カソード)を、もう片方の面には市販の白金担持カーボンブラック(田中貴金属社製 「TEC10E50E」)を用いて上記の方法と同様にして電極触媒層(アノード)を作製し、140℃、1.0MPaのホットプレスで熱圧着させ、膜電極接合体(MEA)を得る。さらにMEAの両面をカーボンペーパー、セパレーター、続いて集電板で挟み込めば固体高分子形燃料電池単セルが完成し、電子負荷装置、ガス供給装置を接続すれば燃料電池の評価を行うことができる。
例えば、燃料電池単セルの電流−電圧特性の測定結果より、白金系触媒重量あたりの最大出力(W/mg−Pt)を算出し、セル最大出力として評価することができる。従来の燃料電池のセル最大出力は、12.5W/mg−Pt未満であったが、14.5W/mg−Pt以上であることが好ましく、15.0W/mg−Pt以上であることがさらに好ましい。
又、カソードに供給するガスを純酸素から空気へと変更し、それ以外は上記と同様にして電流−電圧特性を測定して得られた測定結果より、カソードに純酸素を供給した場合と、空気を供給した場合の、一定電流値における電圧値の差をOゲインとして評価することができる。Oゲインとは、すなわち、カソード反応(酸素還元反応)の効率を表す指標であり、電極触媒の構造がカソード反応に有効に機能しているほど、Oゲインの数値は小さくなる。従来の燃料電池のOゲインの数値は0.12以上であったが、0.1以下であることが好ましく、0.095以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態によれば、燃料電池の出力を向上させることが可能な電極触媒担体用のカーボンブラック、並びに、それを用いた電極触媒及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
アセチレンガスを主原料とする熱分解法により細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が0.12cm/gであり、比表面積が291m/gであり、平均一次粒子径が18nmであり、揮発分が0.95%であるカーボンブラックを作製し、それに対し、加熱温度700℃、酸素濃度2.0%の条件で賦活処理を施し、細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が0.23cm/gであり、比表面積が837m/gであり、揮発分が4.3%であるカーボンブラックを得た。得られたカーボンブラックについて、以下の物性を測定した。評価結果を表1に示す。
【0032】
(細孔容積分布)
ガス吸着量測定装置(Quantachrome Instruments社製「Autosorb−iQ−MPXR」)により、吸着質として窒素ガスを使用し、測定温度77.4KにてBJH法により測定した。
(比表面積)
JIS K 6217−2に従い測定した。
(平均一次粒子径)
透過型電子顕微鏡(日立製作所製 HD−2700)の5万倍画像より、100個のカーボンブラック一次粒子径を測り、平均値を算出した。
(揮発分)
予め105℃で1時間乾燥して水分を除去したカーボンブラック試料を、真空中950℃で5分間加熱処理した際の重量変化分から測定した。
【0033】
得られたカーボンブラックをヘキサクロロ白金酸水溶液に混合した。混合割合は、質量比で、カーボンブラック/白金=50/50とした。混合液を80℃で30分間撹拌した後、室温まで冷却した。水素化ホウ素ナトリウム溶液を、ヘキサクロロ白金酸に対して5〜6当量添加し白金を析出させ、濾過、洗浄後、乾燥して白金担持カーボンブラック(電極触媒)を得た。得られた電極触媒について、以下の物性を測定した。評価結果を表1に示す。
【0034】
(触媒粒子の担体外部表面における個数存在率)
走査透過型電子顕微鏡(日立製作所製 HD−2700)を使用し、加速電圧80kVにて電子顕微鏡画像を得た。試料ホルダーを回転させ、SEM像から担体外部表面に担持された触媒粒子の個数を測定し、TEM像から担体外部及び内部に担持された触媒粒子の個数を測定し、全体のうち担体外部表面に担持された触媒粒子の個数割合を算出した。なお、100個のカーボンブラック一次粒子について測定し、平均値を算出した。
【0035】
得られた電極触媒に対し、カーボンブラック/ナフィオン(イオン伝導体)=100/70の質量比となるようにナフィオンを混合してペーストとし、電解質膜にスプレー塗布した後、60℃で乾燥してカソードとした。又、市販の白金担持カーボンブラック(田中貴金属社製「TEC10E50E」)に対し、カーボンブラック/ナフィオン=100/70の質量比となるようにナフィオンを混合してペーストとし、電解質膜にスプレー塗布した後、60℃で乾燥してアノードとした。さらに、これを140℃、1.0MPaで3分間ホットプレスし、MEAを得た。得られたMEAをカーボンペーパー、セパレーター、集電板で挟み込み一体化して、燃料電池単セルを構成した。
【0036】
(セル最大出力)
つぎに、80℃、1atmの条件下でこの燃料電池単セルの電流−電圧特性を測定した。この時、アノードには純水素ガス、カソードには純酸素ガスを供給し、各ガスの湿度は80%とした。得られた測定結果より、白金系触媒重量あたりの最大出力(W/mg−Pt)を算出した。評価結果を表1に示す。
【0037】
(Oゲイン)
又、カソードに供給するガスを純酸素から空気へと変更し、それ以外は上記と同様にして電流−電圧特性を測定した。得られた測定結果より、カソードに純酸素を供給した場合と、空気を供給した場合の、一定電流値(1.0A/cm)における電圧値の差を評価した。この電圧値の差はOゲインと称される。Oゲインとは、すなわち、カソード反応(酸素還元反応)の効率を表す指標であり、電極触媒の構造がカソード反応に有効に機能しているほど、Oゲインの数値は小さくなる。評価結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
市販のカーボンブラック(ライオン社製「ケッチェンブラック EC300J」)を用いて、実施例1と同様の方法で電極触媒及び燃料電池単セルを作製し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0039】
[比較例2]
市販のカーボンブラック(キャボット社製「Vulcan XC−72」)を用いて、実施例1と同様の方法で電極触媒及び燃料電池単セルを作製し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0040】
[比較例3]
窒素ガス雰囲気、2000℃の条件下で黒鉛化処理することにより得られた黒鉛化カーボンブラックを用いて、実施例1と同様の方法で電極触媒及び燃料電池単セルを作製し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0041】
[実施例2〜6、比較例4〜8]
原料カーボンブラックの物性及びカーボンブラックを得るための賦活処理条件を表1、2に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして電極触媒及び燃料電池単セルを作製し、評価した。評価結果を表1、2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1より、本発明に係るカーボンブラックは、細孔径が直径6nm以下である細孔の累積細孔容積が小さいので一次粒子の細孔が少なく、高比表面積で、表面官能基が一定量存在するため、反応場形成において最もバランスのとれた電極触媒を作製でき、燃料電池性能の評価で従来よりも高い出力を示した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のカーボンブラックは、固体高分子形燃料電池用の触媒担体として使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 触媒
2 担体
3 細孔
図1
図2
図3
図4
図5