(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6929314
(24)【登録日】2021年8月12日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】水素置換ガーネット型酸化物、焼結体の製造方法及び水素置換ガーネット型酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20210823BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20210823BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20210823BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20210823BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20210823BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20210823BHJP
【FI】
C01G33/00 A
C04B35/50
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
C04B35/488
!H01M10/0562
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-29579(P2019-29579)
(22)【出願日】2019年2月21日
(65)【公開番号】特開2020-132486(P2020-132486A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2020年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真祈
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−216222(JP,A)
【文献】
特開2012−096940(JP,A)
【文献】
特表2018−502809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
C04B 35/50
H01B 1/06
H01B 13/00
C04B 35/488
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiとHとLaとZrとを少なくとも含有し、
基本組成(Li7-a-3b+c-d,Ha,Mb)(La3-cAc)(Zr2-dTd)O12(式中、元素MはAl,Ga,Feのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、元素TはNb,Taのうち1以上であり、ガーネット型酸化物の1ユニットに対する水素量a(mol/unit)が0.7≦a≦1.202の範囲内であり、0≦b≦0.22、0.05≦c≦1.0、0≦d≦0.6)で表される、水素置換ガーネット型酸化物。
【請求項2】
前記元素MはAlであり、前記元素AはCaであり、前記元素TはNbである、請求項1に記載の水素置換ガーネット型酸化物。
【請求項3】
ガーネット型酸化物を含む焼結体の製造方法であって、
LiとHとLaとZrとを少なくとも含有し、ガーネット型酸化物の1ユニットに対する水素量a(mol/unit)が0<a≦1.85の範囲である水素置換ガーネット型酸化物と、該水素置換ガーネット型酸化物の水素と当量のLi化合物と、を混合、成形し成形体を形成する成形工程と、
前記成形体を800℃以上1200℃以下の温度範囲で焼結し、X線回折測定における2θが30.5°以上31.0°以下の範囲にピークを有する421回折の半価幅が0.17°以下であるガーネット型酸化物を含む焼結体を得る焼結工程と、
を含む焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、請求項1又は2に記載の前記水素置換ガーネット型酸化物を用いる、請求項3に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結体は、前記421回折の半価幅が0.08°以上0.16°以下の範囲である前記ガーネット型酸化物を含む、請求項3又は4に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記焼結体は、相対密度が90%以上である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記焼結体は、25℃での伝導度が1.0×10-4(S/cm)以上である、請求項3〜6のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
水素置換ガーネット型酸化物の製造方法であって、
Li化合物とLa化合物とZr化合物とを少なくとも含む原料を用い、該原料を混合したのち650℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し焼成粉体を得る第1工程と、必要に応じて前記焼成粉体にLi化合物を加えて混合したのち650℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し焼成粉体を得る第2工程と、を少なくとも含む焼成工程と、
前記焼成工程で得られた焼成粉体を水素含有液体へ浸漬させLiとHとを置換し、LiとHとLaとZrとを少なくとも含有しガーネット型酸化物の1ユニットに対する水素量a(mol/unit)が0<a≦1.85の範囲である水素置換ガーネット型酸化物を得る水素置換工程と、
を含む水素置換ガーネット型酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記水素置換工程では、請求項1又は2に記載の前記水素置換ガーネット型酸化物を得る、請求項8に記載の水素置換ガーネット型酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、水素置換ガーネット型酸化物、焼結体の製造方法及び水素置換ガーネット型酸化物の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解質としては、Li、La及びZrを含むガーネット型イオン伝導性酸化物がイオン伝導性を示すものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この非特許文献では、700℃で焼結したLi
7La
3Zr
2O
12は正方晶であり伝導度が6.2×10
-7S/cmを示し、1100℃で焼結したLi
7La
3Zr
2O
12では立方晶であり伝導度が1.4×10
-4S/cmを示すとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Materials Research Bulletin, 83 (2016), 309-315
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1では、例えば、1000℃以下など、より低温で焼結しようとすると、伝導度が低下してしまう問題があった。このように、より低温で焼結するなど、焼結性をより高めると共に伝導度をより高めることが望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、焼結性をより高めると共に伝導度をより高めることができる水素置換ガーネット型酸化物、焼結体の製造方法及び水素置換ガーネット型酸化物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、ガーネット型酸化物のLiを水素に置換することにより焼結性を高め、更により結晶性を高めると、伝導度をより高めることができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の水素置換ガーネット型酸化物は、
LiとHとLaとZrとを少なくとも含有し、
ガーネット型酸化物の1ユニットに対する水素量a(mol/unit)が0<a≦1.85の範囲であるものである。
【0008】
本開示の焼結体の製造方法は、
ガーネット型酸化物を含む焼結体の製造方法であって、
上述した水素置換ガーネット型酸化物と、該水素置換ガーネット型酸化物の水素と当量のLi化合物とを混合、成形し成形体を形成する成形工程と、
前記成形体を800℃以上1200℃以下の温度範囲で焼結し、X線回折測定における2θが30.5°以上31.0°以下の範囲にピークを有する421回折の半価幅が0.17°以下であるガーネット型酸化物を含む焼結体を得る焼結工程と、
を含むものである。
【0009】
本開示の水素置換ガーネット型酸化物の製造方法は、
水素置換ガーネット型酸化物の製造方法であって、
Li化合物とLa化合物とZr化合物とを少なくとも含む原料を用い、該原料を混合したのち650℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し焼成粉体を得る第1工程と、必要に応じて前記焼成粉体にLi化合物を加えて混合したのち650℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し焼成粉体を得る第2工程と、を少なくとも含む焼成工程と、
前記焼成工程で得られた焼成粉体を水素含有液体へ浸漬させLiとHとを置換し、上述した水素置換ガーネット型酸化物を得る水素置換工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の水素置換ガーネット型酸化物、焼結体の製造方法及び水素置換ガーネット型酸化物の製造方法では、焼結性をより高めると共に伝導度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、Li、La及びZrを含むガーネット型酸化物の合成には、一般的に、出発原料にLi化合物、La化合物、Zr化合物用いる。この焼結のメカニズムは、まずLaとZrが600℃程度で反応し、パイロクロア型酸化物であるLa
2Zr
2O
7が生成する。この酸化物に残存元素群が700℃程度から固容し、ガーネット型酸化物へと変容し始め、900℃程度でLiが拡散することで焼結が促進すると考えられている。即ち、Li、La、Zrの各化合物を出発原料として、例えば1000℃以下の焼成温度で焼結、緻密化を行うことは困難である。そこで、従来とは異なるアプローチとして、Liの一部を水素置換し、水素の挿入脱離による元素拡散を利用することで緻密化を促進することを見出した。一方、ガーネット型酸化物は、水素置換により焼結性を向上することができるが、置換した水素量を増加させると、結晶性の低下が生じ、それに付随してイオン伝導性の低下が生じることがあった。本開示では、イオン伝導性と、結晶性と、置換した水素量との間に相関があることを見出し、置換する水素量の上限や結晶性などをより好適化することによって、焼結性をより高めると共に伝導度をより高めることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】リチウム電池10の構造の一例を示す説明図。
【
図4】原料の水素量aに対する焼結体の421回折線の半価幅の関係図。
【
図5】原料の水素量aに対する焼結体の伝導度の関係図。
【
図6】焼結体の421回折線の半価幅に対する焼結体の伝導度の関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(水素置換ガーネット型酸化物)
本開示の水素置換ガーネット型酸化物は、LiとHとLaとZrとを少なくとも含有し、ガーネット型酸化物の1ユニットに対する水素量a(mol/unit)が0<a≦1.85の範囲であるものである。なお、1ユニットとは、Li
7La
3Zr
2O
12の構成単位1つ(1mol)をいうものとする。この水素置換ガーネット型酸化物は、ガーネット型酸化物からなる緻密体である焼結体の原料として用いられるものである。この水素置換ガーネット型酸化物は、基本組成(Li
7-a-3b+c-d,H
a,M
b)(La
3-cA
c)(Zr
2-dT
d)O
12(式中、元素MはAl,Ga,Feのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、元素TはNb,Taのうち1以上であり、ガーネット型酸化物の1ユニットに対する水素量a(mol/unit)が0<a≦1.85の範囲内であり、0≦b≦0.22、0≦c≦1.0、0≦d≦0.6)で表されるものとしてもよい。また、この水素量aは、0.5(mol/unit)以上であることが好ましく、0.7(mol/unit)以上であることが更に好ましい。また、この水素量aは、1.6(mol/unit)以下であることが好ましく、1.5(mol/unit)以下であることがより好ましい。水素量aがこのような範囲では、焼結性を高めて相対密度をより向上することができる。また、水素置換ガーネット型酸化物において元素MはAlであることが好ましく、元素AはCaであることが好ましく、元素TはNbであることが好ましい。
【0013】
(水素置換ガーネット型酸化物の製造方法)
本開示の水素置換ガーネット型酸化物の製造方法は、例えば、原料を混合して焼成する焼成工程と、得られた焼成粉体を水素置換する水素置換工程とを含むものとしてもよい。
【0014】
焼成工程では、Li化合物とLa化合物とZr化合物とを少なくとも含む原料を用い、この原料を混合したのち650℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し焼成粉体を得る第1工程と、必要に応じて焼成粉体にLi化合物を加えて混合したのち650℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し焼成粉体を得る第2工程と、を少なくとも含むものとしてもよい。この焼成工程では、更に必要に応じて焼成粉体にLi化合物を加えて混合したのち焼成する第3工程や第4工程など、複数の工程を含むものとしてもよい。この原料は、例えば、Li化合物としては水酸化リチウムや炭酸リチウム、酸化リチウムなどが挙げられる。同様に、La化合物とZr化合物も水酸化物、炭酸塩、酸化物などが挙げられる。また、原料としては、Al,Ga,Feのうち1以上を含む添加化合物、Ca,Srのうち1以上を含む添加化合物及びNb,Taのうち1以上を含む添加化合物などを含むものとしてもよい。これらの添加化合物も、水酸化物、炭酸塩、酸化物などとしてもよい。原料である各化合物は、例えば、基本組成(Li
7-3b+c-d,M
b)(La
3-cA
c)(Zr
2-dT
d)O
12(式中、元素MはAl,Ga,Feのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、元素TはNb,Taのうち1以上であり、0≦b≦0.22、0≦c≦1.0、0≦d≦0.6)となるように配合するものとしてもよい。原料の混合は、例えば、ボールミルや遊星ミルなどの粉砕混合を行うことが好ましい。この混合では、アルコールなどの溶媒中で湿式混合することがより好ましい。焼成処理は、大気中で行うものとしてもよい。また、焼成温度は、650℃以上であれば、未反応の原料が残存することをより抑制でき、900℃以下であれば、液相焼結の開始による粒子の粗大化をより抑制でき好ましい。この焼成温度は、700℃以上800℃以下の範囲がより好ましい。焼成時間は、12時間以上72時間以下の範囲が好ましく、16時間以上48時間以下であることがより好ましい。焼成時間が12時間以上では未反応の原料が残存することをより抑制でき、72時間以下ではエネルギー消費量をより低減することができる。
【0015】
水素置換工程では、焼成工程で得られた焼成粉体を水素含有液体へ浸漬させ、LiとHとを置換し、上述した水素置換ガーネット型酸化物を得る。水素含有液体としては、例えば、酸溶液などとしてもよいし、水としてもよく、水であることがより好ましい。水素置換工程で用いる容器は、アルカリに耐性のあるもの、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製の容器を用いることが好ましい。水素置換によりLiOHが生成するからである。この工程では、焼成粉体の浸漬処理における浸漬時間は3分以上30分以下の範囲としてもよい。この浸漬時間の調整によって、置換する水素量aを調整することができる。また、超音波振動機などを使用するものとしてもよい。超音波振動機を用いると、水素置換を促進して時間を短縮することができる。したがって、超音波振動機を用いずに短時間、超音波振動機を用いて短時間、超音波振動機を用いずに長時間、超音波振動機を用いて長時間のいずれかの水素置換処理を行うことにより、置換する水素量aを調整することができる。また、この浸漬処理後、乾燥して更に浸漬処理を行うものとすると、更に大きな水素量aとすることができる。浸漬処理後の粉体の回収は、例えば、メンブレンフィルターを用いて吸引濾過することが好ましい。乾燥時間をより短縮できるからである。また、粉体の回収後、乾燥機で乾燥するものとしてもよい。このようにして、水素置換ガーネット型酸化物の粉体を得ることができる。
【0016】
(焼結体の製造方法)
本開示の焼結体の製造方法は、ガーネット型酸化物を含む焼結体の製造方法であり、成形工程と、焼結工程とを含む。成形工程では、上述した水素置換ガーネット型酸化物と、この水素置換ガーネット型酸化物の水素と当量のLi化合物と、を混合、成形し成形体を形成する。ここで、「当量」とは、同じモル数のLiを加える趣旨であるが、多少の所定量の違いは許容される。原料としては、例えば、上述した水素置換ガーネット型酸化物と同様に、基本組成(Li
7-3b+c-d,M
b)(La
3-cA
c)(Zr
2-dT
d)O
12(式中、元素MはAl,Ga,Feのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、元素TはNb,Taのうち1以上であり、0≦b≦0.22、0≦c≦1.0、0≦d≦0.6)となるように配合するものとしてもよい。また、原料としては、水素置換ガーネット型酸化物のほか、Al,Ga,Feのうち1以上を含む添加化合物、Ca,Srのうち1以上を含む添加化合物及びNb,Taのうち1以上を含む添加化合物などを含むものとしてもよい。この工程の成形処理において、金型を用いるものとしてもよい。また、成形時の加圧量は、成形体の形状や大きさに合わせて適宜設定すればよく、例えば、1MPa以上100MPa以下の範囲としてもよく、5MPa以上20MPa以下の範囲としてもよい。成形体の形状は特に限定されず、任意の形状とすることができる。
【0017】
焼結工程では、成形工程で成形した成形体を800℃以上1200℃以下の温度範囲で焼結し、X線回折測定における2θが30.5°以上31.0°以下の範囲にピークを有する421回折の半価幅が0.17°以下であるガーネット型酸化物を含む焼結体を得る。焼結は、大気中で行うものとしてもよい。なお、焼結方法として、加圧する焼結方法(例えば、HIP)を採用してもよいが、大気中の方が簡便で好ましい。焼成温度は、800℃以上であれば焼結を進めることができる。また、焼成温度が1200℃以下では、Liの蒸散などをより抑制することができ好ましい。ガーネット型酸化物の融点が1300℃であるので、これ以上の温度は好ましくない。
【0018】
(焼結体)
上述した製造方法で得られた焼結体は、基本組成(Li
7-3b+c-d,M
b)(La
3-cA
c)(Zr
2-dT
d)O
12(式中、元素MはAl,Ga,Feのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、元素TはNb,Taのうち1以上であり、0≦b≦0.22、0≦c≦1.0、0≦d≦0.6)であるものとしてもよい。なお、焼結体に水素が含まれてもよいが、水素を含まない方がより好ましい。この焼結体は、X線回折測定における421回折の半価幅が0.08°以上0.16°以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、焼結性をより高めると共に伝導度をより高めることができる。また、この焼結体は、相対密度が90%以上であることが好ましい。相対密度は、より高い方が好ましい。更に、この焼結体は、室温(25℃)での伝導度が1.0×10
-4(S/cm)以上であることが好ましい。伝導度は、より高い方が好ましい。なお、Li、La及びZrを含むガーネット型酸化物では、電気伝導度はイオン伝導度を表す。この焼結体は、例えば、イオン伝導性を有するため、例えば、固体電解質やセパレータなどに用いることができる。
【0019】
図1は、リチウム電池10の構造の一例を示す説明図である。このリチウム電池10は、正極12と、負極15と、固体電解質層20とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。固体電解質層20は、上述した焼結体であり、Li、La及びZrを少なくとも含むガーネット型酸化物からなるものである。
【0020】
以上詳述した水素置換ガーネット型酸化物、焼結体の製造方法及び水素置換ガーネット型酸化物の製造方法では、焼結性をより高めると共に伝導度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、Liの一部を水素置換した水素置換ガーネット型酸化物を原料として用いると、水素の挿入脱離による元素拡散を利用することで焼結体の緻密化を促進することができる。一方、ガーネット型酸化物は、水素置換によって焼結性を向上し相対密度を高めることができるが、置換する水素量を増加させると、結晶性の低下が生じ、それに付随してイオン伝導性の低下が生じる。本開示では、イオン伝導性、結晶性と置換する水素量の間に相関があることを見出し、置換する水素量の上限や結晶性などをより好適化することによって、焼結温度を低下させても高い伝導度を示すものとすることができるものと推察される。
【0021】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0022】
以下には、本開示のガーネット型酸化物を具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1、13、16、18、19、21〜26が比較例に相当し、実験例2〜12、14、15、17、20が本開示の実施例に相当する。
【0023】
[水素置換ガーネット型酸化物の作製]
まず、固体電解質粒子として水素を含有しないLi
6.8(La
2.95Ca
0.05)(Zr
1.75Nb
0.25)O
12(LLZ−CN)を合成した。出発原料には、LiOH(H
2O)(アルドリッチ製)、La(OH)
3(高純度化学製)、Ca(OH)
2(高純度化学製)、ZrO
2(高純度化学製)、Nb
2O
5(高純度化学製)を用いた。出発原料を化学量論比となるように秤量し、混合、粉砕した。混合、粉砕は、ジルコニア製容器、ジルコニアボールを用い、エタノール中にて遊星ボールミル(フリッチュ製P−6)を用い、180rpmで1時間、300rpmで1時間行ったのち、フリッチュ製プレミアムラインP−7を用い、700rpmで1時間行った。粉砕後、乾燥機で80℃にて乾燥した。得られた粉体をAuるつぼに入れ、700℃、48hで大気中での仮焼成を行った。仮焼成を行った後、粉末に、焼結でのLi欠損を補う目的で、組成中のLiに対して10at%になるようにLiOH(H
2O)を過剰添加した。その後、再び同一条件で混合、粉砕を行った。その後、再び仮焼成(700℃、10h)を行った。上記の仮焼成を二回経た粉末はXRDで結晶相の同定を行い、未反応の原材料の残存が無いことを確認した。得られたLLZ−CN の粉末を水に浸潰させることで、LiとH の交換を実施した。浸漬の条件はLLZ−CNの3gに対して水50mLの割合で、室温(25℃近傍)にて3〜30分静置することでLiとHとの交換を行った。この静置時間により、Hの置換量を制御することができる。例えば、3分程度の静置では、H置換量aが0.9(mol/unit)程度であり、30分程度の静置では、H置換量aが1.6(mol/unit)程度であった。また、H置換量aを1.6(mol/unit)以上にしたい場合は、置換したLLZの回収後、再度置換を行うことでH置換量aを促進することが可能であった。H置換後の試料は、回収粒径が300nmであるメンブレンフィルターを使用して吸引ろ過によって回収した。回収後、乾燥機で80℃にて乾燥し、水素置換したガーネット型酸化物(LLZ−HCN)を得た。水素置換しなかったものを実験例1とし、置換した水素量を適宜増量したものを実験例2〜26の焼結体の原料(水素置換ガーネット型酸化物)とした。
【0024】
(H量の同定)
上記作製した水素置換したガーネット型酸化物の水素量aの同定は以下のように行った。まず、H置換後の粉末をTG・DTA−MASS測定器(リガク製)にかけ、MASS測定にて試料からH
2O(分子量18)が蒸散する温度域を決定し、その温度域での質量減少量をTgで定量した。上記温度域は、おおよそ350〜450℃の範囲であった。LLZ−CNの質量と分子量、蒸散した水の質量と分子量から、LLZ−HCNの1ユニット中に含まれている水素の原子量(水素量a)を算出した。
【0025】
(焼結体の作製)
上記作製したLLZ−HCN中のHのモル量と等モル量のLiOH(H
2O)を秤量し、乾式で混合した。次に、この粉末を金型を使用して10MPaで2分程度加圧することでペレット形状に成形した。ペレット状の成形体を800℃以上1300℃未満の温度範囲で焼結した。
【0026】
(X線回折測定:XRD)
得られた焼結体に対してX線回折測定を行った。この測定は、リガク社製のXRD装置smart−Labを使用した。測定は、Cu管球を用い、2θが10〜80°、0.01stepで行った。リガク社の解析ソフトを使用して回折ピークの半価幅を算出した。算出に使用した関数は、Pearson−VIIとした。ここでは、ガーネット型酸化物の最大の回折ピークである、421回折ピークに着目し、その半価幅を求めた。
【0027】
(伝導度測定)
上記作製した焼結体ペレットの両面にAu電極を焼き付けた。ここでは、田中貴金属製のAuペーストを使用した。焼き付け温度は750℃とし、焼き付け時間を30分とした。伝導度の測定は、Agilent社製の交流インピーダンスアナライザ42941Aを使用した。
【0028】
(結果と考察)
表1に焼結体の原料である水素置換ガーネット型酸化物の水素量a(mol/unit)と、それを用いた焼結体の421回折線の半価幅(°)と、25℃の伝導度(s/cm)と、焼結体の相対密度(体積%)とをまとめて示した。
図2は、水素量a(mol/unit)に対する相対密度(体積%)の関係図である。
図3は、XRD測定結果の421回折ピークとその半価幅の説明図である。
図4は、原料である水素置換ガーネット型酸化物の水素量a(mol/unit)に対する焼結体の421回折線の半価幅(°)の関係図である。
図5は、原料である水素置換ガーネット型酸化物の水素量a(mol/unit)に対する焼結体の伝導度(S/cm)の関係図である。
図6は、焼結体の421回折線の半価幅(°)に対する焼結体の伝導度(S/cm)の関係図である。
図2〜6は、表1に示した実験例1〜26のデータをそれぞれまとめたものである。
【0029】
図2に示すように、水素置換したガーネット型酸化物を原料として用いた焼結体は、相対密度が90体積%以上を示し、水素置換しないものに比して焼結性が高まっていることがわかった。実験例1のように水素を含まないものでは、焼結時に拡散する拡散元素がない一方、水素置換したものでは、拡散元素である水素が含まれるので、水素の拡散に応じて焼結性を高めることができることがわかった。一方、水素量aが増加すると、
図3に示すように、それを原料として作製した焼結体の421回折ピークの半価幅が大きくなる傾向を示した。即ち、水素量aが増加すると、焼結体のガーネット型酸化物の結晶性が低下することがわかった。結晶性の低下は、イオン伝導性の低下に繋がると予想される。また、
図4に示すように、水素量aと421回折ピークの半価幅とは、一方が増加すると他方も増加する傾向は示すが、その対応関係は1対1の比例関係ではなく、ある程度の幅が存在した。また、水素量aと伝導度との関係については、
図5に示すように、明確な相関関係は得られなかった。一方、焼結体の421回折ピークの半価幅と焼結体の伝導度との関係は、
図6に示すように、明確な相関を有し、特に、半価幅が0.17°以下の範囲でより高い伝導度が得られ、より好ましくは0.08°以上0.16°以下の範囲において、1×10
-4(S/cm)以上の伝導度が得られることがわかった。特に、
図5に示すように、水素量aが0<a≦1.85の範囲、より好ましくは0.5≦a≦1.85の範囲であるときに、焼結体の相対密度が90体積%以上を示し、伝導度が1×10
-4(S/cm)以上を示すことがわかった。
【0030】
なお、本開示の水素置換ガーネット型酸化物、焼結体の製造方法及び水素置換ガーネット型酸化物の製造方法は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示は、Liイオンを伝導する物質を用いる技術分野、例えば、電池産業の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 リチウム電池、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、20 固体電解質層。