【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
実施例1:無細胞ブタ軟骨抽出物(PCP)の軟骨分化能の評価
実施例1−1:ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞の軟骨分化誘導
ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(UCB-MSC; Umbilical cord blood derived mesenchymal stem cell)を10%(v/v)FBS及び1%(w/v)ゲンタマイシンを含むKSB−3培地(カンステムバイオテック,韓国)に接種し、37℃及び5%(v/v)二酸化炭素条件で培養した。
【0091】
前記培養したUCB−MSCを5μl当たり5×10
5個含む液滴を得て、それを48ウェルプレートの各ウェルに接種し、次いで37℃及び5%(v/v)二酸化炭素条件で2時間放置して前記ウェルの底に付着させた。
【0092】
前記付着させた液滴に軟骨分化誘導剤である無細胞ブタ軟骨抽出物(Porcine Catilage Powder, PCP;0.5、1又は2%(w/v))又はヒアルロン酸(HA;0.25、0.5又は1%(w/v))を含む軟骨分化誘導培地(StemPro Chondrogenesis Differentiation Kit, ThermoFisher)を加えて7日間培養し、前記UCB−MSCを軟骨細胞に分化させた(
図1a)。ここで、対照群としては、軟骨分化誘導剤で処理していないUCB−MSCを用い、前記無細胞ブタ軟骨抽出物は、ブタの軟骨から細胞を除去し、その後細胞を除去したブタ軟骨に凍結乾燥、破砕、濾過などの加工工程を行って得た。
【0093】
図1aは、軟骨分化誘導剤の種類及び処理濃度によるヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(UCB−MSC)の軟骨分化レベルを評価した結果を示す顕微鏡写真である。
【0094】
図1aから分かるように、公知の軟骨分化誘導剤であるHAだけでなく、様々な濃度のPCPで処理した場合に、全てUCB−MSCからペレット状の軟骨が形成されることが確認された。
【0095】
実施例1−2:アルシアンブルー染色分析
実施例1−1の試料のうち、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞において、4%パラホルムアルデヒド(PFA)を加えて1日間反応させ、細胞を固定した。前記固定した細胞に1%アルシアンブルー(Alcian Blue)を加えて20分間染色し、前記固定した細胞から軟骨マーカーであるプロテオグリカンの一種であるグリコサミノグリカン(GAG; Glycosaminoglycan)が検出されるか否かを確認した(
図1b)。
【0096】
図1bは、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞をアルシアンブルーで染色した結果を示す顕微鏡写真である。
【0097】
図1bから分かるように、対照群においてはアルシアンブルーで染色されたGAGが検出されなかったが、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞においてはアルシアンブルーで染色されたGAGが検出された。
【0098】
実施例1−3:リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
実施例1−1で分化した各細胞にTRIzol(Invitrogen)溶液を加えてそれぞれの全RNAを抽出し、抽出した全RNAとAccuPower RT PreMix(Bioneer)を用いてそれぞれのcDNAを合成した。前記合成したcDNAと下記プライマーを用いてRT−PCRを行い、様々なタンパク質(アグリカン(agg)、2型コラーゲン(Col2a)、SOX9及び1型コラーゲン(Col1))の発現レベルを比較した(
図1c)。ここで、内部対照群としてはRPL13aを用いた。
Aggrecan_F:5’−ctgcattccacgaagctaacct−3’(配列番号1)
Aggrecan_R:5’−gacgcctcgccttcttgaa−3’(配列番号2)
collagen type 2 alpha 1_F:5’−ctactggattgaccccaaccaa−3’(配列番号3)
collagen type 2 alpha 1_R:5’−tccatgttgcagaaaaccttca−3’(配列番号4)
SOX9_F:5’−gacttctgaacgagagcgaga−3’(配列番号5)
SOX9_R:5’−ccgttcttcaccgacttcctc−3’(配列番号6)
collagen type 1_F:5’−caggaagggccacgacaaa−3’(配列番号7)
collagen type 1_R:5’−ctgcggcacaagggattg−3’(配列番号8)
RPL 13a_F:5’−ctatgaccaataggaagagcaacc−3’(配列番号9)
RPL 13a_R:5’−gcagagtatatgaccaggtggaa−3’(配列番号10)
【0099】
図1cは、UCB−MSCから分化した軟骨細胞において、軟骨分化誘導剤の種類及び処理濃度によるタンパク質発現レベルの変化を比較した結果を示すグラフである。
【0100】
図1cから分かるように、軟骨マーカータンパク質として知られるアグリカン(agg)、2型コラーゲン(Col2a)及びSOX9の発現レベルは、2%(w/v)PCPで処理して分化させた軟骨細胞において相対的に最も高いレベルであるのに対して、軟骨マーカータンパク質でない1型コラーゲン(Col1)の発現レベルは、全ての実験群において低いレベルであることが確認された。
【0101】
実施例1−4:免疫蛍光分析
実施例1−1の試料のうち、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞と0.5%(w/v)HAで処理して分化させた細胞において、アグリカン(agg)及び2型コラーゲン(Col2a)に対する免疫蛍光染色を行った。
【0102】
概略的には、前記分化させた各細胞を固定し、1%(w/v)BSAを加えてブロッキングし、次いでアグリカン又は2型コラーゲンに対する抗体(1:100,abcam)を加えて4℃で一晩反応させた。次に、細胞をPBSで洗浄し、塩素−Alexa 488−コンジュゲート抗マウスIgG/IgMポリクローナル抗体(Invitrogen)を加えて反応させ、その後蛍光顕微鏡で観察した(
図1d及び
図1e)。ここで、対照染色は、Hoechst 33342 trihydrochloride,trihydrate(Invitrogen)を用いて行った。
【0103】
図1dは、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞と0.5%(w/v)HAで処理して分化させた細胞において、アグリカン(agg)に対する免疫蛍光染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真であり、
図1eは、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞と0.5%(w/v)HAで処理して分化させた細胞において、2型コラーゲン(Col2a)に対する免疫蛍光染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【0104】
図1d及び
図1eから分かるように、0.5%(w/v)HAで処理して分化させた細胞よりも、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞において、軟骨マーカーであるアグリカンと2型コラーゲンが相対的に高いレベルで発現することが確認された。
【0105】
実施例1−5:BMP6の発現に及ぼす影響
実施例1−1の試料のうち、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞において、下記プライマーを用いた実施例1−3の方法を用いて、発現するBMP6(Bone morphogenetic protein 6)の発現レベルを測定した(
図1f)。ここで、対照群としては、PCPで処理せずに分化させた細胞において測定されたBMP6の発現レベルを用いた。
BMP6_F:5’−gctatgctgccaattactgtgatg−3’(配列番号11)
BMP6_R:5’−tgcattcatgtgtgcgttga−3’(配列番号12)
【0106】
図1fは、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞において、BMP6の発現レベルを測定した結果を示すグラフである。
【0107】
図1fから分かるように、2%(w/v)PCPで処理して分化させた細胞においてはBMP6の発現レベルが急激に増加することが確認された。
【0108】
また、軟骨分化誘導剤として500ng/mlのBMP6で処理することを除いて、実施例1−1と同様の方法を行ってUCB−MSCを分化させ、こうして得られた分化させた細胞において、実施例1−3の方法を用いて、発現する様々なタンパク質(アグリカン(agg)、2型コラーゲン(Col2a)、SOX9及び1型コラーゲン(Col1))の発現レベルを比較した(
図1g)。
【0109】
図1gは、BMP6で処理してUCB−MSCから分化した軟骨細胞において、タンパク質発現レベルの変化を比較した結果を示すグラフである。
【0110】
図1gから分かるように、軟骨マーカータンパク質として知られるアグリカン(agg)、2型コラーゲン(Col2a)及びSOX9の発現レベルは、BMP6で処理して分化させた軟骨細胞において急激に増加したのに対して、軟骨マーカータンパク質でない1型コラーゲン(Col1)の発現レベルは変化しないことが確認された。
【0111】
実施例1−6:PCPの細胞毒性評価
24ウェルプレートの各ウェルに3×10
4個のUCB−MSCを接種し、様々な濃度(0.5、1又は2%(w/v))のPCPを添加して3日間培養した。培養終了後に、培養培地100μl当たり10μlのCell Counting Kit−8(Dojindo)を加えて1時間反応させ、次いで450nmで吸光度を測定してPCPの細胞毒性の有無を確認した(
図1h)。
【0112】
図1hは、PCPの処理濃度による細胞生存率の変化を比較した結果を示すグラフである。
【0113】
図1hから分かるように、PCPを高い濃度で処理しても、細胞生存率に特に影響を及ぼさないことが確認された。
【0114】
実施例1−1〜1−6の結果をまとめると、PCPを安全な軟骨分化誘導剤として使用できることが分かった。
【0115】
実施例2:PCPで分化した軟骨細胞のUCB−MSC分化能の評価
実施例2−1:一次分化した軟骨細胞を用いたUCB−MSCの二次分化
実施例1−1の方法により、UCB−MSCをPCP又はHAで処理して分化させた軟骨細胞を0.4μm孔のポリカーボネート膜インサートが備えられたTranswell(Corning)の上側インサートに加え、軟骨細胞分化誘導培地(StemPro Chondrogenesis Differentiation Kit, ThermoFisher)下で、前記培養したUCB−MSCを5μl当たり5×10
5個含む液滴と共培養(co-culture)した(
図2a)。ここで、陰性対照群としては、軟骨分化誘導剤で処理せず、共培養していない状態で、軟骨細胞分化誘導培地で分化させたUCB−MSCを用い、陽性対照群としては、軟骨分化誘導剤で処理せずに分化した細胞と共培養したUCB−MSCを用い、実験群1は、PCPで処理して分化した細胞と共培養したUCB−MSCを用い、実験群2は、HAで処理して分化した細胞と共培養したUCB−MSCを用いた。
【0116】
図2aは、一次分化した軟骨細胞を用いたUCB−MSCの二次分化実験過程を示す概略図である。すなわち、前記Transwellはインサートが備えられた上側とインサートのない下側に分けられるが、前記上側には分化した細胞を配置し、前記下側にはまだ分化していないUCB−MSCを配置し、これら各細胞を共培養した。
【0117】
実施例2−2:分化能の評価
実施例2−1の方法で7日又は10日間共培養したUCB−MSCの分化結果を顕微鏡で観察した(
図2b)。
【0118】
図2bは、PCP又はHAで処理して分化した軟骨細胞とUCB−MSCを共培養した結果を示す顕微鏡写真である。
【0119】
図2bから分かるように、共培養していないUCB−MSC(陽性対照群)や、PCPで処理せずに分化した細胞と共培養したUCB−MSC(陰性対照群又は実験群2)においては、UCB−MSCを軟骨細胞に分化させられないのに対して、PCPで処理して分化した細胞と共培養したUCB−MSC(実験群1)においては、UCB−MSCを軟骨細胞に分化させられることが確認された。
【0120】
実施例2−3:RT−PCR分析
実施例2−1の方法で7日又は10日間共培養した各UCB−MSCにおいて、発現した軟骨マーカーであるアグリカン(agg)及び2型コラーゲン(Col2a)と、軟骨マーカーでない1型コラーゲン(Col1)の発現レベルを実施例1−3の方法で分析した(
図2c)。
【0121】
図2cは、PCP又はHAで処理して分化した軟骨細胞と共培養したUCB−MSCにおいて、発現したタンパク質(アグリカン、2型コラーゲン及び1型コラーゲン)の発現レベルの変化を比較した結果を示すグラフである。
【0122】
図2cから分かるように、7日間共培養したUCB−MSCのうち、軟骨マーカーであるアグリカン(agg)及び2型コラーゲン(Col2a)の発現レベルは、PCPで処理して分化した細胞と共培養したUCB−MSC(実験群1)においてどちらも高いレベルであることが確認された。
【0123】
これに対して、共培養していないUCB−MSC(陽性対照群)や、PCPで処理せずに分化した細胞と共培養したUCB−MSC(陰性対照群又は実験群2)においては、概して低いレベルであることが確認された。
【0124】
また、軟骨マーカーでない1型コラーゲン(Col1)は、全てにおいて概して低いレベルであることが確認された。
【0125】
実施例2−1〜2−3の結果から分かるように、分化した軟骨細胞のパラクリン作用(paracrine effect)によるUCB−MSCの分化誘導は、PCPで処理して分化した軟骨細胞においてのみ示されたので、分化した軟骨細胞は分化誘導促進剤の種類により全く異なる特性を示し、分化した軟骨細胞が同じではないことが分かった。
【0126】
実施例3:生体内におけるPCP及び幹細胞を用いた軟骨損傷治療効果の分析
実施例3−1:軟骨欠損モデル動物を用いた分析
実施例3−1−1:軟骨欠損モデル動物の作製
雄ニュージーランドホワイト(NZW; New Zealand White)ウサギにゾレチル(Zoletil 50, Virbac, 15mg/kg)とロムプン(Rompun, Bayer, 5mg/kg)を筋肉注射して全身麻酔を施した。右膝周辺の毛を除去し、膝関節の内側皮膚を切開し、筋膜と関節包を切開し、その後膝骨を外側に反らせて関節包を露出させた。大腿骨の内果部(膝関節腔の中央)に、直径1mmのドリルビット(drill bit)を用いて、直径5mm、深さ2mmの軟骨欠損部位を作製し、キューレットで欠損部位内の軟骨を全て除去し、その後関節包を縫合した。手術後3日間抗生剤であるフォクソリン(Foxolin, 三進製薬, 10mg/kg)と鎮痛剤であるマリトロール(Maritrol, 第一製薬, 3mg/kg)を毎日2回筋肉注射し、その後3日間フォクソリンで毎日1回さらに処置することにより、軟骨欠損モデル(ACD; Articular Cartilage Defect)動物を作製した。
【0127】
実施例3−1−2:軟骨欠損モデル動物に対するPCP及び幹細胞の治療効果
実施例3−1−1で作製した軟骨欠損モデル動物において、軟骨を除去した時点から30分経過後に、PBSに希釈したUCB−MSC(実験群11)、UCB−MSC/PCP(実験群12)又はUCB−MSC/HA(実験群13)をウサギ1匹当たり0.2mLの用量で関節腔内に投与し、4週間飼育した。
【0128】
飼育したモデル動物の関節の外側大腿顆(femoral condyle)の損傷部位が含まれるように関節面を切断し、軟骨欠損部位の変化、軟骨欠損部位の表面状態、欠損境界部位と新生した組織との境界部の連続性についての肉眼観察、及び写真撮影による軟骨再生の程度を国際軟骨修復学会のスコアリングシステム(International Cartilage Repair Society(ICRS) scoring system)に基づいて点数化して分析した。
【0129】
概略的には、関節組織は10%中性ホルマリン溶液に3日間固定し、その後10%EDTA(pH8.0)溶液で十分に脱灰してパラフィン切片を作製した。組織切片は、ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E; Hematoxylin & eosin staining)を施し、顕微鏡画像解析プログラムであるImage J 4.8v(Wayne Rasband, National Institute of Health, UAS)により[軟骨再生部位/切断面面積]の比率分析を行い、軟骨再生面積をICRSスコアで数値化した(
図3a及び3b)。ここで、対照群としては、軟骨欠損モデル動物にいかなる処理もしていないものを用いた。
【0130】
図3aは、軟骨欠損モデル動物において、UCB−MSCと軟骨分化誘導剤の組み合わせ処理による軟骨回復レベルを比較した結果を示す写真である。
【0131】
図3aから分かるように、対照群の軟骨回復レベルは欠損部位の90.48±0.9%、実験群11の軟骨回復レベルは欠損部位の91.82±0.8%、実験群12の軟骨回復レベルは欠損部位の94.41±5.58%、実験群13の軟骨回復レベルは欠損部位の90.51±3.36%であった。
【0132】
また、
図3bは、軟骨欠損モデル動物において、UCB−MSCと軟骨分化誘導剤の組み合わせ処理による軟骨再生面積をICRSスコアで数値化した結果を示すグラフである。
【0133】
図3bから分かるように、対照群のICRSスコアは4.3±0.9点、実験群11のICRSスコアは7.0±0.87点、実験群12のICRSスコアは8.0±0.83点、実験群13のICRSスコアは4.3±0.78点であることが確認された。
【0134】
図3a及び
図3bの結果から、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したものにおいて、軟骨回復が最も高いレベルを示し、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとHAで組み合わせ処理したものより、UCB−MSCで単独処理したものにおいて、相対的に高い軟骨回復レベルを示すことが分かった。
【0135】
実施例3−1−3:サフラニンO(Safranin-O)染色分析
実施例3−1−2で4週間飼育した軟骨欠損モデル動物から軟骨欠損部位を摘出した。前記摘出した軟骨欠損部位におけるプロテオグリカン(proteoglycan)の含有量を確認するために、サフラニンO(Safranin-O)染色を行った(
図3c)。
【0136】
図3cは、軟骨欠損モデル動物において、UCB−MSCと軟骨分化誘導剤の組み合わせ処理による軟骨欠損部位内のプロテオグリカン含有量を分析するためのサフラニンO染色を行った結果を示す顕微鏡写真である。
【0137】
図3cから分かるように、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群12)において、軟骨欠損部位内のプロテオグリカン含有量が最も高いレベルを示した。また、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとHAで組み合わせ処理したもの(実験群13)より、UCB−MSCで単独処理したもの(実験群11)において、軟骨欠損部位内のプロテオグリカン含有量が相対的に高い軟骨回復レベルを示すことが確認された。
【0138】
実施例3−1−4:免疫蛍光染色分析
実施例3−1−3で摘出した軟骨欠損部位を対象に、実施例1−4の方法により、2型コラーゲンに対する免疫染色を行った(
図3d)。
【0139】
図3dは、軟骨欠損モデル動物において、UCB−MSCと軟骨分化誘導剤の組み合わせ処理による軟骨欠損部位内の2型コラーゲンの発現レベルを分析するための免疫蛍光染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【0140】
図3dから分かるように、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群12)において、軟骨欠損部位内の2型コラーゲンの発現レベルが最も高いレベルを示した。また、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとHAで組み合わせ処理したもの(実験群13)より、UCB−MSCで単独処理したもの(実験群11)において、軟骨欠損部位内の2型コラーゲンの発現レベルが相対的に高いレベルを示すことが確認された。
【0141】
実施例3−1−5:アルシアンブルー染色分析
実施例3−1−3で摘出した軟骨欠損部位を対象に、実施例1−2の方法により、グリコサミノグリカンのレベルを確認するためのアルシアンブルー染色を行った(
図3e)。
【0142】
図3eは、軟骨欠損モデル動物において、UCB−MSCと軟骨分化誘導剤の組み合わせ処理による軟骨欠損部位内のグリコサミノグリカンのレベルを分析するためのアルシアンブルー染色を行った結果を示すグラフである。
【0143】
図3eから分かるように、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群12)において、軟骨欠損部位内のグリコサミノグリカンのレベルが最も高いレベルを示し、UCB−MSCで単独処理したもの(実験群11)においても、実験群12と同等のグリコサミノグリカンのレベルを示すことが確認された。
【0144】
これに対して、軟骨欠損モデル動物をUCB−MSCとHAで組み合わせ処理したもの(実験群13)においては、対照群と同等の軟骨欠損部位内のグリコサミノグリカンのレベルを示すことが確認された。
【0145】
実施例3−1−1〜3−1−5の結果をまとめると、軟骨欠損モデル動物において、UCB−MSCとPCPの組み合わせ処理は軟骨損傷を有効に治療する効果を発揮したのに対して、UCB−MSCとHAの組み合わせ処理は軟骨損傷治療に特に影響を及ぼさないことが分かった。
【0146】
実施例3−2:骨関節炎モデル動物を用いた分析
実施例3−2−1:骨関節炎モデル動物の作製
雄ニュージーランドホワイトウサギに全身麻酔を施し、膝関節の内側皮膚を切開し、筋膜と関節包を切開し、その後膝骨を外側に反らせて前十字靱帯を露出させた。外科用メス(Surgical blade)で前十字靱帯の中間実質部位と半月板靱帯を完全に切断し、その後関節包を縫合した。手術後に、従来の方法で抗生剤及び鎮痛剤を処方することにより、骨関節炎モデル(ACLT−OA)動物を作製した。
【0147】
実施例3−2−2:骨関節炎モデル動物に対するPCP及び幹細胞の治療効果
実施例3−2−1で作製した骨関節炎モデル動物を8週間飼育し、次いでX線検査により骨関節炎の発生の有無を確認した。概略的には、全身麻酔を施し、右膝関節をCC(cranio-caudal)viewで補正してX線(Genoray)放射線画像を撮影した。こうすることにより、関節の間隔の狭まり(narrowed joint space)や脛骨中央(medial tibia)における骨変形などを点数化(KLグレード;KL grade; Kellgren-Lawrence score system)し、骨関節炎の進行の程度を評価した。
【0148】
前記骨関節炎のグレードが決定された動物の関節腔に、治療候補物質としてPBS(陽性対照群,PC)、PBSに希釈したPCP(実験群21)、UCB−MSC(実験群22)又はUCB−MSC/PCP(実験群23)をウサギ1匹当たり0.2mLの用量で投与し、3週目、5週目及び7週目にX線撮影して点数化(KLグレード)することにより、骨関節炎の進行の程度を評価した(
図4a)。ここで、陰性対照群(NC)としては、骨関節炎が誘発されていない動物を用いた。
【0149】
図4aは、骨関節炎モデル動物において、UCB−MSCとPCPの単独処理又は組み合わせ処理による関節炎改善効果を経時的に撮影したX線写真である。
【0150】
図4aから分かるように、陽性対照群(PC)においては、時間が経過してもKL点数が一定レベルを維持(3週:4.00,5週:3.67,7週:4.00)するのに対して、PCP単独投与群(実験群21;3週:3.25,5週:3.50,7週:3.63)、UCB−MSC単独投与群(実験群22;3週:5.71,5週:3.50,7週:3.38)及びUCB−MSCとPCPの併用投与群(実験群23;3週:2.75,5週:2.88,7週:3.13)においては、骨関節炎が改善される傾向を示した。
【0151】
特に、UCB−MSC単独投与群より、UCB−MSCとPCPの併用投与群において、骨関節炎改善効果が増加することが確認された。
【0152】
実施例3−2−3:行動学的評価
実施例3−2−2で準備した骨関節炎誘発直後と、治療候補物質で処理して3週間、5週間又は7週間経過した時点で、各モデル動物を広い空間で自由歩行させて関節炎誘発による行動検査を行い、歩き方及び足取り(gait)、姿勢及び重心(weight bearing)並びに活動性(activity)を点数化し、KLグレードと共に関節炎の進行の程度を総合的に評価した(
図4b)。
【0153】
図4bは、骨関節炎モデル動物において、UCB−MSCとPCPの単独処理又は組み合わせ処理による行動検査結果を示すグラフである。
【0154】
図4bから分かるように、いかなる処理もしていないもの(陽性対照群)においては、経時的に骨関節炎症状が悪化し続けたのに対して(3週−10.22;5週−10.22;7週−11.22)、PCPで単独処理したもの(実験群21;3週−8.87;5週−9.29;7週−10.26)、UCB−MSCで単独処理したもの(実験群22;3週−8.71;5週−9.21;7週−9.55)及びUCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群23;3週−7.96;5週−8.17;7週−8.92)においては、骨関節炎症状が改善されることが確認された。
【0155】
特に、UCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群23)においては、PCP(実験群21)又はUCB−MSC(実験群22)で単独処理したものより、骨関節炎改善効果が向上することが分かった。
【0156】
実施例3−2−4:サイトカインレベルの評価
実施例3−2−2と同様に、各治療候補物質を投与して8週間経過した時点でウサギに麻酔を施し、右側関節炎誘発部位の関節腔に生理食塩水(0.1mL)を注射し、その後さらに2回繰り返し、関節腔液を採取した。関節腔液は、コラゲナーゼ(collagenase, 400μg/ml)とヒアルロニダーゼ(hyaluronidase, 40U/ml)で37℃にて10分間処理し、その後TNF−α(R&D system)酵素結合免疫吸着法(ELISA)により炎症性サイトカインの1つであるTNF−αのレベルを定量分析した(
図4c)。
【0157】
図4cは、骨関節炎モデル動物において、UCB−MSCとPCPの単独処理又は組み合わせ処理による関節腔液内のTNF−αのレベルを比較した結果を示すグラフである。
【0158】
図4cから分かるように、骨関節炎が誘発されていないもの(NC)に比べて、骨関節炎が誘発されたモデル動物(PC)においては、関節腔液内のTNF−αのレベルが急激に増加したが、PCP(実験群21)、UCB−MSC(実験群22)又はUCB−MSC/PCP(実験群23)を投与することにより、関節腔液内のTNF−αのレベルが減少することが確認された。
【0159】
特に、UCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群23)においては、PCP(実験群21)又はUCB−MSC(実験群22)で単独処理したものより、関節腔液内のTNF−αのレベルが低下し、よくなることが分かった。
【0160】
実施例3−2−5:組織学的評価
実施例3−2−2と同様に、各治療候補物質を投与して8週間経過した時点でモデル動物を屠殺し、内側関節到達法で膝関節を露出させ、その後軟骨損傷に注意しながら膝関節周囲の縁部組織を除去し、次いで関節炎誘発部位を含む大腿骨顆上部を採取した。次に、膝関節の大腿骨顆(femoral condyle)と脛骨プラトー(tibial plateau)部を撮影し(
図4d)、関節面のエロージョン(erosion)、表面変化、骨棘及び大腿骨顆の肥大レベルを総合的に定量分析した(
図4e)。
【0161】
図4dは、骨関節炎モデル動物において、UCB−MSCとPCPの単独処理又は組み合わせ処理を行った膝関節の大腿骨顆(femoral condyle)と脛骨プラトー(tibial plateau)部を撮影した写真であり、
図4eは、骨関節炎モデル動物において、UCB−MSCとPCPの単独処理又は組み合わせ処理による関節面のエロージョン(erosion)、表面変化、骨棘及び大腿骨顆の肥大レベルを総合的に定量分析した結果を示すグラフである。
【0162】
図4dから分かるように、陽性対照群とPCPで単独処理したもの(実験群21)においては、大腿骨顆の激しい損傷、エロージョン及び骨棘が現れることが確認されたのに対して、UCB−MSCで単独処理したもの(実験群22)や、UCB−MSCとPCPで組み合わせ処理したもの(実験群23)においては、中度の大腿骨顆の損傷及び骨棘が現れることが確認された。
【0163】
図4eから分かるように、前記大腿骨顆の損傷レベルと骨棘レベルを定量分析した結果、対照群は14.00±1.67、実験群21は13.00±1.26、実験群22は12.00±0.72、実験群23は10.00±0.92の損傷度を示すことがを確認された。
【0164】
実施例3−2−1〜3−2−5の結果をまとめると、骨関節炎モデル動物において、PCP又はUCB−MSCで単独処理しても骨関節炎を改善することができ、PCPで単独処理したものより、UCB−MSCで単独処理したもののほうが向上した骨関節炎改善効果を示すことが確認されたが、このようにPCP又はUCB−MSCで単独処理したものより、PCPとUCB−MSCで組み合わせ処理したものにおいて、相対的に高いレベルの骨関節炎治療効果を示すことが分かった。
【0165】
つまり、軟骨が損傷した動物において、損傷した軟骨を治療するためには、軟骨分化誘導剤の一種であるHAは特に効果を示さなかったが、PCP単独でも治療効果を示し、前記PCPを単独で用いるより、前記PCPと幹細胞を組み合わせて用いるほうが好ましいことが分かった。
【0166】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、前記詳細な説明ではなく後述する請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。