特許第6929368号(P6929368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6929368ADCC活性の改良された定量のためのシステム及び製品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6929368
(24)【登録日】2021年8月12日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】ADCC活性の改良された定量のためのシステム及び製品
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20210823BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20210823BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210823BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20210823BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20210823BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20210823BHJP
【FI】
   C12N15/63 ZZNA
   C12N15/86 Z
   C12N5/10
   C12Q1/02
   C12Q1/6897 Z
   !C12N5/0783
【請求項の数】15
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2019-538726(P2019-538726)
(86)(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公表番号】特表2019-534713(P2019-534713A)
(43)【公表日】2019年12月5日
(86)【国際出願番号】EP2017075053
(87)【国際公開番号】WO2018065401
(87)【国際公開日】20180412
【審査請求日】2019年5月23日
(31)【優先権主張番号】16192246.3
(32)【優先日】2016年10月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519113192
【氏名又は名称】スワール ライフ サイエンス エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トービー、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ラルマン、クリストフ
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/121911(WO,A1)
【文献】 Plos One,2013年,Vol.8, Issue 3,e59389
【文献】 The AAPS Journal,2015年,Vol.17, No.6,p.1417-1426
【文献】 Journal of Immunological Methods,2011年,Vol.373, No.1,p.229-239
【文献】 Journal of Immunological Methods,2014年,Vol.414,p.69-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流プロモーターに作動可能に連結したシス作用調節配列を含むポリヌクレオチドであって、NF−AT、AP1、NFkB、STAT1、STAT3及びSTAT5の全てが、前記シス作用調節配列に結合することができ、該ポリヌクレオチドが配列番号1に記載のDNA配列を含む、上記ポリヌクレオチド。
【請求項2】
プロモーターが、第1のレポータータンパク質をコードするオープンリーディングフレーム配列に作動可能に連結している、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
レポーターが、例えば、ルシフェラーゼなどの酵素又は蛍光タンパク質である、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター構築物。
【請求項5】
プラスミド又はウイルスベクターである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のベクターを含む細胞。
【請求項7】
前記ベクターが、エピソーム性であるか又は前記細胞のゲノムに組み込まれている、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
第1のレポータータンパク質と異なる第2のレポータータンパク質をさらに発現する、請求項6又は7に記載の細胞。
【請求項9】
i)エフェクター細胞上に発現するFcガンマ受容体によって抗体のFc領域に結合することができる、請求項6から8までのいずれか一項に記載の細胞であるエフェクター細胞(E);
ii)抗原が細胞によって発現されないように、前記抗体が特異的である内因性抗原が無効化された(突然変異した)標的陰性細胞(T);及び
iii)前記抗体が特異的である抗原の発現が増強されたか又は過剰発現された標的細胞(T
を含むキット。
【請求項10】
ii)の細胞及びiii)の細胞は、ii)の細胞が、抗体によって認識される抗原を発現しないことを除いてすべての点において同一の全く同じ細胞である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
抗原が、CD20、mTNFα、erbB2、EGFRのうちの1つ又は複数である、請求項9又は10に記載のキット。
【請求項12】
2つのバイアルを含み、i)及びiii)の細胞が、最適なE:T比で、1つの同じバイアルに存在する、請求項9から11までのいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
i)のエフェクター細胞とiii)の標的細胞との間の比(E:T比)が、約24:1から約2:1、又は約6:1、又は約3:1、又は約1.5:1の範囲内である、請求項9から12までのいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
治療用抗体で処置した患者由来の臨床試料のex vivoでの抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)活性を定量するための方法であって、
a)治療用抗体の投与を含む処置を受けている患者から得た試料を、請求項9 iii)に記載の標的細胞(T)と接触させるステップ、
b)内因性抗原が無効化されている、請求項9 ii)に記載の標的陰性細胞(T-)の存在下で得たシグナルを、請求項6から8までのいずれか一項に記載の細胞であるエフェクター細胞(E)及び請求項9 iii)に記載の標的細胞(T)の存在下で得たシグナルから減算するステップ、及び
c)a)及びb)で測定したシグナルの関係に基づいて、ADCC活性を決定するステップであって、式[(E+T+抗体+NHS)−(E+T+NHS)+(E+T)]/E+T、又は[(E+T+NHS)−(E+T+NHS)+(E+T)]/E+T[式中、(E)は請求項6から8までのいずれか一項に記載の細胞であるエフェクター細胞であり、(T)細胞は請求項9 iii)に記載の標的細胞であり、(T)は請求項9 ii)に記載の標的陰性細胞であり、NHS=正常なヒト血清試料である]を使用して、血清試料に対する陽性の結果(すなわち、検出可能なADCC活性)は、エフェクター細胞(E)及び標的++細胞(T)/エフェクター細胞(E)及び標的−/−細胞(T-)に対するシグナルの関係が≧1である場合に存在し、血清試料に対する陰性の結果(すなわち、検出不可能なADCC活性)は、エフェクター細胞(E)及び標的++細胞(T)に関する値/エフェクター細胞(E)及び標的−/−細胞(T)に関する値が≦1である場合に存在する上記ステップ
を含む、上記方法。
【請求項15】
ヒト血清の存在下でレポーター遺伝子シグナルの非特異的増加を補うための方法であって、
式[(E+T+抗体+NHS)−(E+T+NHS)+(E+T)]/E+T、又は[(E+T+NHS)−(E+T+NHS)+(E+T)]/E+T[式中、(E)は請求項6から8までのいずれか一項に記載の細胞であるエフェクター細胞であり、(T)細胞は請求項9 iii)に記載の標的細胞であり、(T)は請求項9 ii)に記載の標的陰性細胞であり、NHS=正常なヒト血清試料である]を使用して、
エフェクター細胞(E)及び標的細胞(T)/エフェクター細胞(E)及び標的陰性細胞(T-)が>1である場合に、
請求項6から8までのいずれか一項に記載の細胞であるエフェクター細胞(E)及び抗原が細胞によって発現されないように、前記抗体が特異的である内因性抗原が無効化された(突然変異した)請求項9 ii)に記載の標的陰性細胞の存在下で得たシグナルを、
エフェクター細胞(E)、抗原を発現する請求項9 iii)に記載の標的細胞(T、及び調査下の抗体に特異的なADCC活性に関連しない活性を示す血清試料の存在下で得たシグナル
から減算するステップを含む、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity)(ADCC)を決定するための方法における新規細胞及びそれらの使用に関する。本発明による細胞は、診断状況で使用することのできるキット又はキットオブパーツにおいて使用することができる。重要なことには、本発明による細胞を使用して、例えば、抗体をベースとする処置の有効性を決定することができる。
【背景技術】
【0002】
いくつかのモノクローナル抗体の活性が、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)によって部分的に媒介されることが周知である。抗体は、腫瘍細胞又は炎症の原因となるリンパ球などの標的細胞の特異的抗原を対象とする。標的細胞に結合すると、エフェクター細胞のFc受容体部分がモノクローナル抗体のFc部分に結合し、それにより、エフェクター細胞によって標的細胞が死滅する。
【0003】
このようなADCCプロセスにおいて抗体の有効性を定量するために、抗体の有効性を決定するためにエフェクター細胞、標的細胞、及び対照標的細胞を使用することが必要である。先行技術では、ヒト対象から内因性エフェクター細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞及び標的細胞を回収し、このような試験においてそれらを使用する。古典的アッセイでは、標的細胞にクロムを負荷することにより、クロムの放出によって細胞の死滅を決定することができる。この方法には多くの不利点があり、例えば、使用される標的細胞をヒト対象から回収しなければならず、したがって、定量に使用される細胞に大きなばらつきが存在する。さらに、この方式では、細胞を得ることが困難であり且つ費用がかかる。例えば、ドナー間にかなりの変動が存在する。さらに、この古典的アッセイにおける陰性対照として、リツキシマブ(rituximab)に対するCD20及びトラスツズマブに対するerbB2などの標的受容体を発現しない細胞系が使用されることになる。したがって、例えば、CD20を発現しないT細胞系が使用されることになる。このような陰性対照標的細胞を使用する不利点は、当然のことながら、細胞が、標的細胞と全く類似しておらず、優れた対照とならないことである。
【0004】
別の不利点は、これらが長期の長引くアッセイであり、終夜インキュベートしなければならないことが多いことである。ダイナミックレンジは制限されており、感度が良くない。ダイナミックレンジは、最大濃度の薬物と対照及びゼロ(薬物試料なし)での達成可能な最大シグナル間の差である。感度は、少量の抗体によって生じる活性であり、すなわち、検出可能な活性を生じるのに必要な抗体の量が少ないほど、アッセイの感度は高い。別の不利点は、アッセイが不正確である場合が多く、モノクローナル抗体の異なるバリアント間の僅かな差の検出が困難となることである。別の不利点は、アッセイが、血清、特に、成人でおよそ70mg/mlのIgGを含有するヒト血清の存在に対して低いトレランスを示すことである。実際に、先行技術のアッセイに関する明細書では、通常、ウシIgGがヒトFcγIIIa受容体に最小限にしか結合しないとしても、ADCCアッセイは、IgGを枯渇させたウシ胎仔血清(FBS)の存在下で実施されることが推奨される(1)。
【0005】
この標準的定量アッセイに関する1つの改良について、Parekhら(2)に記載されており、修正されて市販されてきた(3)。このアッセイでは、ホタルルシフェラーゼ(FL)レポーター遺伝子の活性化及びルミノメーターにおいて定量することができる発光によって、免疫グロブリンのFc部分のFcγIIIa受容体(CD16)への結合に対して応答するNFAT応答性レポーター遺伝子構築物を含有する組換えエフェクター細胞系が生じる。これらのエフェクター細胞は、凍結、解凍及び使用形式で販売される(3)。これが、標準的な溶解アッセイに対して改良されているのは、エフェクター細胞を回収する必要がないが、凍結及び解凍細胞を使用するような、はるかに便利な形式で、いくぶん大きなダイナミックレンジを有するはるかに感度の高い方式で定量することができるADCC機序のサロゲートマーカーを使用するためである。
【0006】
それにもかかわらず、定量的ADCCアッセイをさらに改良するという要望は常に存在する。ヒト血清の存在下でのADCC活性の定量を可能とする、より改良されたダイナミックレンジ、改良された感度、改良された血清トレランス、及び改良された使用し易さを有するアッセイを有することが望ましいであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】FLレポーター遺伝子の発現を調節するために使用される合成キメラプロモーター配列を示す図である。
図2】ADCC遺伝子レポーターアッセイ:CD16調節配列を示す図である。
図3】組換えADCCエフェクター細胞系を確立するために使用される分子構築物を示す図である。
図4】CD20ガイドRNA配列を示す図である。
図5A】野生型Raji細胞、Raji−/−及びRaji++/++細胞の細胞表面のCD20の発現を示す図であり、CD20の細胞表面での発現は、倒立蛍光顕微鏡(Evos、Life Technologies Inc.)及びFITC標識抗CD20モノクローナル抗体(FAB4225F、R&D Systems)を使用して可視化した。
図5B】フローサイトメトリーを使用して野生型Raji及びCD20++Raji細胞におけるCD20発現の定量を示す図であり、CD20の細胞表面での発現は、フローサイトメトリー及びFITC標識抗CD20モノクローナル抗体(FAB4225F、R&D Systems)を使用して定量した。
図5C】iLite(登録商標)エフェクター細胞及び野生型(WT)、CD20++又はCD20−/−標的細胞を使用して決定したリツキシマブのADCC活性の比較を示す図である。
図5D】iLite(登録商標)CD16V又はFバリアントエフェクター細胞及びCD20++標的細胞を使用して決定したリツキシマブのADCC活性の比較を示す図である。
図6A】iLite(登録商標)エフェクター及びCD20++標的細胞を使用するリツキシマブのADCC活性の定量:最適なE:T比(RLU値)の決定を示す図である。
図6B】iLite(登録商標)エフェクター及びCD20++標的細胞を使用するリツキシマブのADCC活性の定量:最適なE:T比(誘導倍率)の決定を示す図である。
図7A】リツキシマブのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みの細胞の最適なE:T比(RLU値、4時間)の決定を示す図である。
図7B】リツキシマブのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みの細胞の最適なE:T比(誘導倍率、4時間)の決定を示す図である。
図8】リツキシマブのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みの細胞の最適なE:T比(ウミシイタケ属(Renilla)の発現、4時間)の決定を示す図である。
図9】異なるバイアルの凍結した使用準備済みの細胞を使用するリツキシマブのADCC活性の定量(誘導倍率、4時間)を示す図である。
図10】正常なヒト血清の存在下又は非存在下で、iLite(登録商標)エフェクター及びCD20++標的細胞:対NFATエフェクター細胞及び野生型Raji細胞を使用するリツキシマブのADCC活性の定量を示す図である。
図11A】正常なヒト血清の存在下又は非存在下で、iLite(登録商標)エフェクター細胞並びにCD20++及びCD20−/−標的細胞を使用するリツキシマブのADCC活性の定量を示す図である。
図11B】式:[(E+T++薬物+NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+又は[(E+T++NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+[式中、(E)=エフェクター細胞、(T+)=抗原陽性標的細胞、(T−)=抗原陰性標的細胞、NHS=正常なヒト血清試料]によって算出した、正常なヒト血清の存在下での、iLite(登録商標)エフェクター細胞並びにCD20++及びCD20−/−標的細胞を使用するリツキシマブの正規化したADCC活性を示す図である。正規化したADCC活性を算出する際に使用した測定値は、上記式において、各実体に対して測定したRLU(相対ルシフェラーゼ単位)である。
図12】erbB2ガイドRNA配列を示す図である。
図13】iLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞:対NFATエフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞を使用するハーセプチン(Herceptin)のADCC活性の定量を示す図である。
図14】iLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++HEK293細胞又はSKBR3標的細胞:対NFATエフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞又はSKBR3標的細胞を使用するハーセプチンのADCC活性の定量を示す図である。
図15A】ハーセプチンのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞(RLU値、6時間)に対する最適なE:T比の決定を示す図である。
図15B】ハーセプチンのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞(誘導倍率、6時間)に対する最適なE:T比の決定を示す図である。
図15C】ハーセプチンのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2 HEK293標的細胞に対する最適なE:T比(ウミシイタケルシフェラーゼの発現、6時間)の決定を示す図である。
図16A】ハーセプチンのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++SKBR3標的細胞に対する最適なE:T比(RLU値、6時間)の決定を示す図である。
図16B】ハーセプチンのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2 SKBR3標的細胞に対する最適なE:T比(誘導倍率、6時間)の決定を示す図である。
図17】ヒトTNFαのプロテアーゼ切断部位の部位特異的突然変異誘発を示す図である。
図18】ヌクレアーゼベクターGeneArt CRISPRにクローニングされたガイドRNA配列を示す図である。
図19】iLite(登録商標)エフェクター細胞及びmTNFα++標的細胞を使用するレミケード(Remicade)のADCC活性の定量を示す図である。
図20A】凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びmTNFα++標的細胞を使用するレミケードのADCC活性の定量を示す図である。
図20B】凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びmTNFα++標的細胞を使用するレミケードのADCC活性の定量を示す図である。
図21】iLite(登録商標)エフェクター細胞及びEGFR++標的細胞:対NFATエフェクター細胞及びEGFR++標的細胞を使用するセツキシマブ(Cetuximab)のADCC活性の定量を示す図である。
図22A】セツキシマブのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びEGFR標的細胞に対する最適なE:T比(RLU値、6時間)の決定を示す図である。
図22B】セツキシマブのADCC活性の定量:凍結した使用準備済みのiLite(登録商標)エフェクター細胞及びEGFR標的細胞に対する最適なE:T比(誘導倍率、6時間)の決定を示す図である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決し、すなわち、改良された感度、改良されたダイナミックレンジ、ヒト血清の存在に対する改良されたトレランス、及び低減されたインキュベーション時間をもたらすために、先行技術のアッセイのエフェクター細胞の凍結、解凍及び使用の実質的な改良をもたらす。改良された感度は、実質的に改良されたEC50及びLLOQ(定量下限)において示される。詳細には、本発明は、感度(EC50として測定)又はLLOQの増加が当技術分野で公知の技術と比較して少なくとも約10倍である、細胞系及び最終的にはキットにおけるその使用を提供する。結果的に、感度又はLLOQは、当技術分野で公知の技術と比較して少なくとも約20倍、少なくとも約50倍又は少なくとも約100倍増加する。同様に、本発明は、ダイナミックレンジの増加が当技術分野で公知の技術と比較して少なくとも約10倍である、細胞系及び最終的にはキットにおけるその使用を提供する。結果的に、ダイナミックレンジは、当技術分野で公知の技術と比較して少なくとも約20倍、少なくとも約50倍又は少なくとも約100倍である。
【0009】
結果的に、本発明は、下流プロモーターに作動可能に連結したシス作用調節配列を含むポリヌクレオチドであって、NF−AT、AP1、NFkB、STAT1、STAT3及びSTAT5のうちの1つ又は複数が、前記シス作用調節配列に結合することができる上記ポリヌクレオチドに関する。本発明は、NF−AT、AP1、NFkB、STAT1、STAT3及びSTAT5のすべてが、前記シス作用調節配列に結合することができる、前記ポリヌクレオチドを含んでもよい。
【0010】
プロモーターは、酵素であり得る第1のレポータータンパク質をコードするオープンリーディングフレーム配列に作動可能に連結していてもよい。本発明の目的として、例えば、ルシフェラーゼ又は蛍光タンパク質などの任意のレポータータンパク質を使用してもよい。
【0011】
本発明は、ベクター、例えば、本発明によるポリヌクレオチドを含むベクター構築物にも関する。ベクターは、例えば、プラスミド又はウイルスベクターなど、当技術分野で公知の任意のタイプのベクターであってもよい。
【0012】
本発明は、細胞にも関する。特に、本発明は、本発明によるベクターを含む細胞に関する。ベクターは、エピソーム性であっても、又は前記細胞のゲノムに組み込まれていてもよい。細胞は、任意の起源のもの、特に、哺乳動物細胞であってもよい。重要なことには、細胞は、第1のレポータータンパク質と異なる第2のレポータータンパク質をさらに発現してもよい。本発明による細胞は、当技術分野で公知の任意の細胞系のもの、例えば、Jurkat、SKBR3、又はHEK293細胞のものであってもよい。
【0013】
本発明は、キット又はキットオブパーツにも関する。キットは、
i)本発明による細胞と;
ii)抗体が特異的である内因性標的が無効化された(突然変異した)細胞標的細胞と;
iii)抗体が特異的である標的の発現が増強された標的細胞と
を含んでもよい。
【0014】
本発明による細胞は、ADCC機序においてエフェクター細胞として作用し得る。
【0015】
一態様では、本発明は、
i)抗体のFc領域に結合することができる、本発明によるエフェクター細胞(E)と;
ii)標的/抗原が細胞によって発現されないように、前記抗体が特異的である内因性標的/抗原が無効化され(突然変異し)た細胞(T−)と;
iii)前記抗体が特異的である標的の発現が増強されたか又は過剰発現された標的細胞(T+)と
を含むキットに関する。
【0016】
本発明のさらなる態様では、ii)の細胞及び細胞iii)は、ii)の細胞が、アッセイされる抗体又は薬物によって認識される特異的抗原を発現しないことを除いてすべての点において同一である、全く同じ細胞である。
【0017】
標的細胞は、任意のタイプの細胞であってもよい。標的細胞は、組換えのものであってもよい。したがって、キットは、抗体が特異的である内因性標的が無効化された(突然変異した)、すなわち、標的/受容体が欠失しているか若しくはそうでなければ非機能的であるか又は問題の抗体に結合する能力を何らかの手段で喪失した、標的細胞を含む。
【0018】
キットは、同一の標的が増強される標的細胞も含み、すなわち、その結果、標的は過剰発現される。
【0019】
標的は、原則として、関連する抗体が結合することができる任意の標的であってもよい。一態様では、標的は、CD20、mTNFα、erbB2、EGFRのうちの1つ又は複数であってもよい。
【0020】
キットは、1つ又は複数のバイアル、例えば、2つ又はそれより多いバイアルなどを含んでもよい。一態様では、キットは、細胞i)の混合物を細胞iii)の混合物と共に含む1つのバイアルを含んでもよい。このような例では、キットは、2つのバイアルを含み、第2のバイアルは、上述のii)の細胞を含む。したがって、1つの例では、キットは、2つのバイアルを含み、1つのバイアルは、エフェクター細胞i)と、問題の抗体が特異的に増強/過剰発現された標的を有する標的細胞ii)とを含む。第2のバイアルは、結果的に、標的細胞ii)を含み、標的は、無効化されたか或いは標的/受容体が欠失されたか若しくはそうでなければ非機能性であってもよく又は問題の抗体に結合する能力を何らかの手段で喪失している。
【0021】
本発明の一態様では、キットの1つのバイアルは、細胞i)の混合物を細胞iii)の混合物と共に、E:T比として本明細書で言及される最適の比で含み、ここで、Eは、上記段落の細胞i)(エフェクター細胞)を示す。Tは、上記iii)の細胞(標的細胞)を示す。最適なE:T比については、本明細書及び実験部分でさらに記載されている。
【0022】
本発明によるキット及び方法では、エフェクター細胞i)と標的細胞iii)の間の関係について見出されたのと同じE:T比が、エフェクター細胞i)と標的細胞ii)に使用される。
【0023】
本発明は、治療用抗体で処置した患者由来の臨床試料のex vivoでのADCC活性を定量するための方法にも関する。
【0024】
方法は、
a)抗体の投与を含む処置を受けている患者から得た試料を、キット及び本発明による標的細胞ii)と接触させるステップと、
b)細胞i)の存在下で得たシグナルを、細胞i)及び標的細胞iii)の存在下で得たシグナルから減算するステップと、
c)a)及びb)で測定したシグナルの関係に基づいて、ADCC活性を決定するステップと
を含むことができる。
【0025】
上述の方法では、血清試料に対する陽性の結果(すなわち、検出可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に対するシグナルの関係が≧1である場合に存在する。
【0026】
血清試料に対する陰性の結果(すなわち、検出不可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)に関する値/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に関する値が≦1である場合に存在する。
【0027】
一態様では、本発明は、治療用抗体で処置した患者由来の臨床試料のex vivoでの抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)活性を定量するための方法であって、
a)抗体の投与を含む処置を受けている患者から得た試料を、本発明による標的細胞iii)と接触させるステップと、
b)薬物標的が無効化されている本発明による細胞ii)の存在下で得たシグナルを、本発明によるエフェクター細胞i)及び本発明による標的細胞iii)の存在下で得たシグナルから減算するステップと、
c)a)及びb)で測定したシグナルの関係に基づいて、ADCC活性を決定するステップであり、式[(E+T++薬物+NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+、又は[(E+T++NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+[式中、(E)は本発明によるエフェクター細胞であり、(T+)細胞は本発明による細胞であり、(T−)は本発明による細胞であり、NHS=正常なヒト血清試料である]を使用して、血清試料に対する陽性の結果(すなわち、検出可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に対するシグナルの関係が≧1である場合に存在し、血清試料に対する陰性の結果(すなわち、検出不可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)に関する値/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に関する値が≦1である場合に存在するステップと
を含む上記方法に関する。
【0028】
別の態様では、本発明は、ヒト血清の存在下でレポーター遺伝子シグナルの非特異的増加を補うための方法であって、式[(E+T++薬物+NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+、又は[(E+T++NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+[式中、(E)は本発明によるエフェクター細胞であり、(T+)細胞は本発明による細胞であり、(T−)は本発明による細胞であり、NHS=正常なヒト血清試料である]を使用して、エフェクター細胞i)及び薬物標的を発現する標的細胞iii)/エフェクター細胞i)及び標的陰性細胞ii)が>1である場合に、細胞i)、すなわち、本発明によるエフェクター細胞の存在下で得たシグナルを、本発明によるエフェクター細胞i)、薬物標的を発現する標的細胞iii)、及び調査下の抗体に特異的なADCC活性に関連しない活性を示す血清試料の存在下で得たシグナルから減算するステップを含む上記方法に関する。
【0029】
前述のシグナルは、任意の適切なリードアウトであってもよく、ルシフェラーゼの場合には、シグナルは、相対ルシフェラーゼ単位(RLU)として表現されてもよく、結果的に、血清試料に対する陽性の結果(すなわち、検出可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)に関するRLU値/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に関するRLU値が≧1である場合に存在する。血清試料に対する陰性の結果(すなわち、検出不可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)に関するRLU値/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に関するRLU値が≦1である場合に存在する。
【0030】
したがって、上記方法は、エフェクター細胞i)及び標的陰性細胞ii)が>1である場合に、調査下の抗体に特異的なADCC活性に関連しない活性を示す血清試料を排除するための方法も可能とする。
【0031】
上記値を算出するために使用される式は、
[(E+T++薬物+NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+ (I)
又は
[(E+T++NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+ (II)
である
[式中、(E)=エフェクター細胞、(T+)=抗原陽性標的細胞、(T−)=抗原陰性標的細胞、及び「NHS」=正常なヒト血清試料]。「薬物」は、薬物と標的細胞の存在下で必要とされるNHSの存在下でのADCC活性の測定値を示す。計算を実施する際に使用される測定値は、上記式の各実体に対して測定されたRLU(相対ルシフェラーゼ単位又はより一般的には使用した酵素に応じた相対発光単位)である。第1の方程式/式(I)は、例えば、ヒト血清の試料中の中和抗体の定量に関するものであり、第2の方程式/式(II)は、ヒト血清における薬物の効能(活性)の定量に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
これらの特徴は、組換えエフェクター細胞に、NF−ATだけではなく、例えば、AP1、NFkB、及びSTAT5などの他の転写因子(3〜5)にも応答するレポーター遺伝子構築物がトランスフェクトされる、本発明によって得られる。組換えエフェクター細胞を、NFAT、AP1、NFkB、及びSTAT5を認識するレポーター遺伝子構築物と共に使用することによって、上述の利点が得られる。
【0033】
好ましい実施形態では、アッセイの正規化をもたらすために、組換えエフェクター細胞は、レポーター遺伝子構築物において使用されるものと異なる、ルシフェラーゼの構成的生成に関する構築物をさらに有する。例えば、レポーター遺伝子構築物がホタルルシフェラーゼを生成する場合、構成的生成は、例えば、ウミシイタケルシフェラーゼなど、第2のルシフェラーゼのものであってもよい。第2のルシフェラーゼの活性に対して正規化した第1のルシフェラーゼの活性は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2011/0189658号に記載されている。アッセイを行う場合、レポーター遺伝子のルシフェラーゼが測定された後、次いで、試薬を添加して、その特定のルシフェラーゼをクエンチし、その結果、任意の以下の読み出しは、構成的構築物由来のルシフェラーゼをまさに読み出すこととなり、次いで、実施例でより詳細に説明されるように、正規化のために使用されてもよい。
【0034】
任意のルシフェラーゼの構成的発現を使用する利点は、結果が、エフェクター細胞の損失によって若しくはエフェクター細胞の標的細胞による死滅によって影響を受けず、又は血清マトリックスの作用によって影響を受けた結果でもないことである。これらのすべては、他の(第2の)ルシフェラーゼの構成的発現の測定値の使用によって得られる正規化によって補うことができる。これらの利点はいずれも、このような正規化を使用しない先行技術のアッセイの手順では得ることができない。
【0035】
先行技術のアッセイに対する本発明のさらなる改良は、対照実験において使用するための組換え標的細胞の使用である。先行技術のアッセイには、野生型の標的細胞のみが使用され、陽性対照としての組換え、及び陰性対照としての、抗体が特異的である抗原を構成的に発現しない天然の細胞は使用されない。例えば、CD20アッセイでは、陰性対照として、CD20を構成的に発現しないT細胞が使用される。陽性対照では、野生型B細胞が、標的として使用される。本発明の好ましい実施形態では、標的細胞は、in vivoで測定されるのと同じタイプであるが、一方で、無効化された、抗体が特異的である抗原(陰性対照)又は他方で、その発現が増強された抗原(陽性対照)を有する標的細胞から生成される。
【0036】
抗体が特異的である抗原が無効化されている組換え標的細胞を使用することによって、T細胞が天然の標的細胞と非常に異なるため、非常に改良された陰性対照を有し、これらの差は、結果に何らかの影響を及ぼす。例えば、標的細胞の数が増加すると、異種のエフェクター細胞(E)と標的細胞(T)の比(E:T比)が変化するため、E:T比曲線が完全にゼロとなることを妨げることができる。この問題は、モノクローナル抗体によって認識される特異的抗原をコードする遺伝子が無効化されている組換え標的細胞を使用することによって解決される。
【0037】
本発明のさらに好ましい実施形態では、抗体が特異的である抗原の発現が増強された組換え標的細胞も提供される。標的抗原の非常に強い発現を有する陽性対照を有することによって、対照アッセイにおいて非常に大きなダイナミックレンジを得ることができる。さらに、特異的抗原は、一定の高レベルで発現され、細胞が増殖するにしたがって、又は野生型細胞の場合のように、培養条件の関数として変化せず、したがって、アッセイ精度の改良をもたらす。このことにより、決定される候補抗体のADCC活性の微妙な差の検出が可能となる。組換え標的細胞の別の利点は、それらを、ヒト対象由来の標的細胞の回収若しくは培養又は実験室での標的細胞系の培養のいずれかよりも非常に使用が容易な凍結、解凍及び使用形式で提供することができることである。このような野生型細胞は、成熟段階、細胞周期の相又は培養条件に応じて目的の抗原の可変性発現を有することになるため、このような組換え細胞を使用することにより、in vitroで培養した正常な個体又は細胞から得た標的細胞に本来存在するであろう変異性が回避される。組換え陽性対照の使用により、この変異性が排除される。
【0038】
特異的薬物標的を過剰発現する標的細胞、及び薬物標的がゲノム編集を使用して特異的に無効化されている相同な対照細胞のアベイラビリティによって、ADCCアッセイがヒト血清の存在下で行われる際に観察されるFL(ホタルルシフェラーゼ)シグナルの非特異的増加を補うための手段が提供される。したがって、所与の薬物濃度においてエフェクター細胞及び陰性−/−標的細胞の存在下で得たシグナルは、例2のCD20++及びCD20−/−標的細胞並びにリツキシマブ、さらには例4のインフリキシマブ、アダリムマブ、並びにエタネルセプトに関して示されるのと同じ薬物濃度においてエフェクター細胞及び陽性++標的細胞の存在下で実測されるシグナルから減算することができる。
【0039】
本発明のさらに好ましい特徴は、顧客がしなければならないことのすべてが、所望の濃度の薬物を添加し、インキュベートし、読み出しを行うことであるように、リツキシマブなどの特定のモノクローナル抗体に対して最適なE:T比で、エフェクター細胞と標的細胞の両方を含有する単一の凍結バイアルを含む、解凍及び使用形式である。特定のモノクローナル抗体に対して最適なE:T比で、エフェクター細胞と陰性対照標的細胞の両方を含有す単一の凍結バイアルも供給される。結果的に、本発明によれば、E:T比は、約24:1から約1:1の範囲内である。好ましくは、比は、例えば、約24:1から約2:1、又は約6:1、又は約3:1、又は約1.5:1、又は約1:1である。このような形式により、最適なE:T比及び特定のモノクローナル抗体に対する他のアッセイパラメータを決定するためのユーザー又はキット若しくは方法に対する必要性を取り除く。
【0040】
本発明のさらに好ましい特徴は、インフリキシマブ又は任意の他の抗TNFアルファ抗体若しくはFc融合タンパク質、例えば、EnbrelなどのADCC活性の評価のためのアッセイに特異的である。
【0041】
TNFαアンタゴニストのADCC活性の定量には、膜結合型TNFαを発現する標的細胞を必要とする。TNFαは、最初に膜結合するが、次に、ADAM17(TACE)プロテアーゼによって切断される。したがって、膜結合型の、非切断性TNFαを発現する細胞系を確立するために、部位特異的突然変異誘発を使用して、プロテアーゼ切断部位を突然変異させた。しかし、細胞表面に発現した非切断性TNFαは、隣接細胞の表面に存在するTNFαRII受容体に結合し、細胞死をもたらし、永続的な細胞系の確立を困難にすることになる。したがって、又はこのような困難を取り除くために、TNFαRII受容体を、ゲノム編集を使用して無効化した。
【0042】
陰性対照では、相同な標的細胞におけるTNFα発現が、TNFαRII受容体を除いて、CRISPR/Cas9ゲノム編集を使用して無効化された。
【0043】
HER2受容体を対象とする抗体では、陽性対照が、標的細胞にERBB2を発現する構築物をトランスフェクトすることによって作成される。
【0044】
本発明の別の特徴は、ホタルのレポーター遺伝子の発現を調節するキメラプロモーターにおいて使用される調節配列である。この目的のために、特異性の喪失を導く関連のない転写因子に対する結合部位を含有する可能性のあるネイティブプロモーターを使用せず、NF−AT、AP1、NFkB、及びSTAT5に対する結合部位を保有する調節配列を設計することが好ましく、その結果、関連のない転写因子に対する結合部位をリンカー配列に作成することなく、これらの転写因子がレポーター遺伝子構築物に結合し、レポーター遺伝子構築物を活性化することになる。
【0045】
これらの特異的転写因子がプロモーターを活性化するのを可能とする配列は、重要である。したがって、本発明において使用する配列は、本発明の新規実施形態である。結果的に、本発明は、配列番号1:
GGAAGCGAAA ATGAAATTGA CTGGGACTTT CCGGAGGAAA AACTGTTTCA TACAGAAGGC GTGGATGTCC ATATTAGGAT GAGTCAGTGA CGTCAGAGCC TGATTTCCCC GAAATGATGA GCTAG
と少なくとも約70%の配列同一性を有するDNA配列に関する。
【0046】
さらに、本発明は、配列番号1と少なくとも約75%の配列同一性、例えば、80%の配列同一性など、例えば、約85%など、例えば、約90%など、例えば、約95%など、例えば、約98%など、例えば、約99%の配列同一性を有するDNA配列又は配列番号1と同一のDNA配列に関する。
【0047】
定義
本明細書で互換的に使用される用語「無効化された」又は「突然変異した」は、特定の遺伝子をノックアウトして、最終的に、細胞の表現型を変化させることを意味する。事実上、この用語は、遺伝子を非機能性にすることを包含することを意味する。例は、表面細胞受容体の発現を除去するある特定の遺伝子の無効化であり得る。
【0048】
「++細胞」に関する用語「++」は、抗原/受容体が過剰発現している標的細胞を意味することを意図する。この用語は、本明細書において、「T+」と互換的に使用される。さらに、この表現が、受容体又は抗原と一緒に使用される場合、例えば、CD20++などは、CD20が、問題の細胞で過剰発現していることを意味することを意図する。本発明の範囲を制限することを意図しない例として、CD20の場合には、発現レベルが、野生型CD20+Raji細胞に対して、CD20++標的細胞で16倍程増加する。
【0049】
「−/−細胞」に関する用語「−/−」は、抗原/受容体が発現していない、すなわち、関連する遺伝子がノックアウトされ(無効化され)ており、問題の抗原/受容体の発現を弱める標的細胞を意味することを意図する。この用語は、本明細書において、「T−」と互換的に使用される。結果的に、特異的抗原をコードする遺伝子が非機能性となっているため、細胞は、抗体によって認識される、検出可能なレベルの特異的抗原をもはや発現しない。本発明と関連して、これは、対照標的細胞と考えられる場合もある。
【0050】
用語「E」は、「エフェクター細胞」、特に、本発明による「エフェクター細胞」を意味することを意図する。用語「エフェクター細胞」は、刺激に対して能動的に応答し、いくらかの変化に作用する(いくらかの変化をもたらす)任意のタイプの任意の細胞を意味することを意図する。このような例の1つは、サイトカイン誘導キラー細胞、腫瘍細胞を溶解することが可能な増殖性の強い細胞傷害性エフェクター細胞である。さらなる例では及び本発明と関連して、エフェクター細胞は、抗体のFc領域に結合する前記細胞の表面に、Fcガンマ受容体(FcγR又はFCGR)を有する任意の細胞であって、抗体自体が標的細胞に特異的に結合することが可能な細胞を意味することを意図する。
【0051】
用語「T」は、「標的細胞」、すなわち、特異的ホルモン、抗原、抗体、抗生物質、感作T細胞、又は他の物質と反応する特異的受容体/抗原を有する任意の細胞を意味することを意図する。これと関連して、用語「(T+)」は、抗原陽性標的細胞、及び結果的に、その表面に抗原を発現し、抗体の結合を可能とする細胞を意味することを意図する。対照的に、用語「(T−)」は、抗原陰性標的細胞(対照標的細胞)、及び結果的に、その表面に抗原を発現せず、したがって、抗体と反応することができない細胞を意味することを意図する。言い換えるなら、抗原−/−細胞(又はT−細胞)は、特定の抗原をコードする遺伝子が非機能性となっているため、ADCC活性について試験される、抗体によって認識される検出可能なレベルの特異的抗原を発現しない。具体的には、本発明により使用される標的細胞は、通常、T+細胞として1つの細胞型を用い、T−細胞として別の細胞型を用いる公知の方法と対照的である、同じタイプの細胞である。言い換えれば、アッセイされる抗体によって認識される特異的抗原を発現しないことを除いて、抗原陽性標的(T+)細胞とすべての点で同一な、まさに同じ細胞である相同な対照標的細胞である。上述のように、これは、例えば、CD20発現B細胞標的細胞を使用する、リツキシマブ活性の定量のための対照標的細胞として使用されることが多い、T細胞(Tリンパ球)の使用と対照的である。
【0052】
用語「NHS」は、例えば、生体試料における正常なヒト血清を意味することを意図する。
【実施例】
【0053】
(例1)
操作されたエフェクター細胞系の確立
FcγRIIIa受容体(CD16)のライゲーションに対して最適に応答するレポーター−遺伝子構築物を確立するために、異なるスペーシング配列と共に、NFAT、NFkB、AP1、CREB、及びSTAT認識配列(4〜6)のバリアントからなる一連の構築物をin silicoで開発した。これらの構築物に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、ヒトT細胞系Jurkatを使用して、インターフェロンアルファ及びガンマ(100IU/ml)、TNFα(100ng/ml)、ジブチリルcAMP(100μM)、ロノマイシン(500mM)、及びPMA(10ng/ml)の単独又は組合せによる誘導の後、最小SV40プロモーターからホタルルシフェラーゼ(FL)レポーター遺伝子の転写を駆動するそれらの能力について、一過性トランスフェクション実験において試験した。次いで、これらの機能的レポーター遺伝子構築物を、1:1の比のJurkat及びRaji細胞並びにリツキシマブ(500ng/ml)の存在下で、ADCC反応において試験した。これらの実験の結果を使用して、FLレポーター遺伝子構築物(図2)の発現を調節するために使用される合成キメラプロモーター配列(図1)を設計した。次いで、薬物に誘導されるFL活性がRLの構成的発現に関して正規化されるのを可能とする構成的プロモーターの制御下で、FLレポーター遺伝子構築物、FcRγIIIa(vバリアント)に対する発現ベクター、及びウミシイタケルシフェラーゼ(RL)レポーター遺伝子を、FuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega カタログ番号E2311)を使用して、Jurkat細胞に順次トランスフェクトした(図3)。安定なクローンを単離し、所与の治療用抗体及び適当な標的細胞の存在下で、ADCC活性について特徴付けた。適切なクローンを単離し、特徴付け、次いで、サブクローニングし、特徴付け、増殖させて、クローンのiLite(登録商標)エフェクター細胞系をもたらした。
【0054】
(例2.1)
細胞表面で高い一定レベルのCD20を発現する操作された標的細胞系の確立
CD20をコードする遺伝子を、CRISPR−Cas9ゲノム編集(7)を使用して、B細胞系Raji(ATCC(登録商標)CCL−86)において無効化した。簡潔には、ガイドRNA配列(図4)を設計し、合成し、Cas9二重鎖DNAエンドヌクレアーゼをCD20遺伝子のエクソン1内の特異的部位にガイドして、CD20−/−Raji細胞を単離するために、ヌクレアーゼベクターGeneArt CRISPR(Invivogen、カタログ番号:A21174)にクローニングした(図5)。
【0055】
次いで、CD20−/−Raji細胞に、FuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega カタログ番号E2311)を使用して、CD20発現ベクター(pUNO1−CD20)をトランスフェクトした。蛍光活性化細胞選別及びFITC標識抗CD20モノクローナル抗体(FAB4225F、R&D Systems)を使用して陽性クローンを濃縮した。安定なクローンを単離し、エフェクター細胞及びリツキシマブの存在下でADCC活性について特徴付け、次いで、サブクローニングした。適切なサブクローンを単離し、特徴付け、増殖させて、CD20++標的細胞系をもたらした(図5)。
【0056】
(例2.2)
最適なE:T比の確立
様々な濃度のiLite(登録商標)エフェクター細胞(E)を、様々な濃度のCD20++標的細胞(T)とインキュベートして、リツキシマブのADCC活性の定量のために最適なエフェクター標的細胞比(E:T)を決定した(図6A及び6B)。培養物中のエフェクター細胞及びRAV2.1S8標的細胞に対する最適なE:T比は、容易に測定可能なレベルのFL活性を与える(図6A)一方、同時に、濃度の増加するリツキシマブの存在下で、エフェクター細胞及び標的細胞の4時間のインキュベーション後に、最適なダイナミックレンジをもたらす(図6B)、3:1であることが判明した。
【0057】
iLite(登録商標)エフェクター細胞のバイアルとCD20++標的細胞のバイアルを、標準的技法を使用して別々に凍結させた。解凍する際に、エフェクター細胞と標的細胞を、24:1から2:1の範囲のE:T比で混合し、RPMI 1640培養培地及び10%ウシ胎仔血清(FBS)中で、濃度の増加するリツキシマブの存在下で、96ウェルの白色面を有するマイクロタイタープレート(Perkin Elmer 6005181)中で4時間インキュベートした。次いで、FL活性を、Dual Glo(Promega 22920)というデュアルルシフェラーゼ基質を使用して決定し、発光をルミノメーター(GloMax、Promega)で定量し、相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)として表現した。結果を、図6及び7に示すように、4つのパラメトリックロジスティック(4PL)プロットの形態で表す。図6及び7に関連付けた表は、異なるE:T比のiLite(登録商標)エフェクター細胞及びCD20++標的細胞に対する主要な4PLパラメータを概説する(図6及び7)。E:T比3:1が、エフェクター及び標的細胞の4時間のインキュベーション後に最適であることが判明した(図6及び7)。発現レベルは、E:T比の関数として増加しなかったため(図8)、正規化遺伝子として使用することができる。さらに、治療用抗体のADCC活性を定量する便利で費用効果的な手段を提供することに対して、凍結した使用準備済みのエフェクター及び標的細胞はまた、4PLプロットの主要なパラメータを示す図9及び関連付けた表で例証するように、バイアル間及びロット間での変動度合いが低い、精度が高く、再現性の高いアッセイの確立の基礎を提供する。
【0058】
(例2.3)
ヒト血清の存在下でのリツキシマブのADCC活性の定量
ADCCアッセイにおいてヒト血清が存在することは、ヒト血清中に存在するIgGの標的細胞表面への非特異的結合による、治療用抗体の非存在下でのエフェクター細胞のレポーター遺伝子活性の濃度依存的増加をもたらす。特異的薬物標的がゲノム編集によって無効化されている相同な標的細胞のアベイラビリティによって、同じ濃度のヒト血清の存在下で特異的薬物標的を発現する相同な細胞に関して実測したものから減算することができる、標的陰性細胞及び所与の濃度のヒト血清の存在下での非特異的活性のレベルを推定する手段が提供される。ヒト血清の標的細胞との非特異的相互作用は、治療用抗体と特異的標的細胞との相互作用に関して観測した4PL曲線の傾きを有意に変化させない低い親和性のものである(図10及び関連付けた表)。
【0059】
iLite(登録商標)エフェクター細胞のバイアルとCD20++標的細胞のバイアルを解凍し、エフェクター細胞と標的細胞をE:T比3:1で混合し、正常なヒト血清(NHS)のプールの最終的に1/20の希釈の有無のいずれかで、RPMI 1640培養培地及び10%のウシ胎仔血清(FBS)中で、濃度の増加するリツキシマブの存在下で、96ウェルの白色面を有するマイクロタイタープレート(Perkin Elmer 6005181)中で4時間インキュベートした。次いで、FL活性を、Dual Glo(Promega 22920)というデュアルルシフェラーゼ基質を使用して決定し、発光をルミノメーター(GloMax、Promega)で定量し、相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)として表現した。結果を、図10に示すように、4つのパラメトリックロジスティック(4PL)プロットの形態で表す。図10に関連付けた表は、正常なヒト血清の存在下及び非存在下で、iLite(登録商標)/CD20++及びNFAT/WT Rajiアッセイの両方に対する主要な4PLパラメータを概説する。エフェクター細胞及びCD20++標的細胞の応答(リツキシマブを含まない対照試料に対する誘導倍率として表される)は、図10に示すように、NFATエフェクター細胞と野生型CD20+Raji細胞のものより有意に大きいことが判明した。したがって、ヒト血清の非存在下で、NFATエフェクター細胞及びWT Raji細胞に関するおよそ10倍に対して、iLite(登録商標)エフェクター細胞及びCD20++標的細胞に関しておよそ150倍のダイナミックレンジが得られた。アッセイのEC50は、ヒト血清の非存在下で、NFAT/WT Raji細胞アッセイに対する1.2μg/mlと比較して、およそ2.0ng/mlであった。iLite(登録商標)/CD20++アッセイの応答はまた、NFAT/WT Rajiアッセイと比較して、ヒト血清の存在によって著しく及ぼされる影響が少なかった(図10)。濃度の増加するリツキシマブの存在に対して、E:T比3:1におけるiLite(登録商標)エフェクター細胞とRaji−/−標的細胞の応答は、図10に示すように、リツキシマブを含まない対照試料の応答と有意に異ならなかった。
【0060】
所与の濃度のヒト血清の存在下でレポーター遺伝子の非特異的活性を補うために、式[(E+T++薬物+NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+、又は[(E+T++NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+[式中、(E)=エフェクター細胞、(T+)=抗原陽性標的細胞、(T−)=抗原陰性標的細胞、NHS=正常なヒト血清試料]に従って、所与のリツキシマブ濃度においてCD20−/−陰性標的細胞の存在下で実測したエフェクター細胞シグナルを、同じリツキシマブ濃度においてエフェクター細胞及びCD20++標的細胞の存在下で実測したシグナルから減算して、リツキシマブのADCC活性に対する正規化した薬物応答曲線を得た(図11A及び11B)。
【0061】
別々に凍結したエフェクター及び標的細胞と同じ条件下で、解凍及びリツキシマブと共にインキュベートした場合、最適なE:T比が3:1の単一のバイアル中で、一緒に凍結したエフェクター細胞及び標的細胞は、別々に凍結した細胞に関して得られたものと同様の結果を与え、したがって、かなりの時間の節約を付与するより便利な形式を提供する。
【0062】
(例3)
細胞表面で高い一定レベルのerbB2を発現する操作された標的細胞系の確立
erbB2をコードする遺伝子を、CRISPR−Cas9ゲノム編集(7)を使用して、HEK293細胞(ATCC(登録商標)CRL−1573)及びSKBR3細胞(ATCC(登録商標)HTB−30)中で無効化した。簡潔には、ガイドRNA配列(図12)を設計し、合成し、Cas9二重鎖DNAエンドヌクレアーゼをERBB2遺伝子のエクソン6内の特異的部位にガイドして、erbB2−/−HEK293細胞及びerbB2−/−SKBR3細胞を単離するために、ヌクレアーゼベクターGeneArt CRISPR(Invivogen、:A21174)にクローニングした。
【0063】
次いで、HEK293−/−細胞及びSKBR3−/−細胞に、FuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega カタログ番号E2311)を使用して、ERBB2発現ベクター(pUNO1−ERBB2)をトランスフェクトした。陽性のクローンを、蛍光活性化細胞選別及びFITC標識抗erbB2モノクローナル抗体(Abcam、ab31891)を使用して濃縮した。安定なクローンを単離し、
iLite(登録商標)エフェクター細胞及びハーセプチンの存在下でADCC活性について特徴付け、次いで、サブクローニングした。適切なサブクローンを単離し、特徴付け、増殖させて、erbB2++KEK293及びerbB2++SKBR3標的細胞系をもたらした。
【0064】
iLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞の応答(ハーセプチンを含まない対照試料に対する誘導倍率として表される)は、NFATエフェクター細胞及び野生型SKBR3標的細胞のものより有意に大きいことが判明した(図13)。iLite(登録商標)エフェクター細胞及び野生型SKBR3標的細胞の応答は、erbB2 HEK293++標的細胞に関して実測したものよりも少ないが、それにもかかわらず、NFATエフェクター細胞と野生型SKBR3標的細胞に関して実測したものよりは有意に大きかった(図14)。iLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2−/−標的細胞の応答は、erbB2++標的細胞に対して使用したものと同じE:T比で、濃度の増加するハーセプチンの存在に対して、Herceptinを含まない対照試料の応答と有意に異ならなかった。
【0065】
iLite(登録商標)エフェクター細胞のバイアル並びにerbB2++HEK293及びerbB2++SKBR3標的細胞のバイアルを、標準的技法を使用して別々に凍結させた。解凍する際に、エフェクター細胞及び標的細胞を、24:1から2:1の範囲のE:T比で混合し、RPMI 1640培養培地及び10%ウシ胎仔血清(FBS)中で、濃度の増加するハーセプチンの存在下で、96ウェルの白色面を有するマイクロタイタープレート(Perkin Elmer 6005181)中で6時間インキュベートした。次いで、FL活性を、デュアルルシフェラーゼ基質を使用して決定し、発光をルミノメーター(GloMax、Promega)で定量し、相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)として表現した。結果を、図15A及び15Bに示すように、4つのパラメトリックロジスティック(4PL)プロットの形態で表す。図15Aに関連付けた表は、異なるE:T比のiLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++HEK293標的細胞に対する主要な4PLパラメータを概説し、図16A及び16B並びに関連付けた表は、iLite(登録商標)エフェクター細胞及びerbB2++SKBR3標的細胞に関して実測したデータを示す。E:T比1.5:1が、iLite(登録商標)エフェクター並びにHEK293 erbB2++標的細胞(図15A及び15B)及びSKBR3 erbB2++標的細胞(図16A及び16B)の両方の6時間のインキュベーション後に最適であることが判明した。iLite(登録商標)エフェクター細胞におけるウミシイタケルシフェラーゼの発現レベルは、erbB2++HEK293標的細胞(図15C)又はerbB2SKBR3標的細胞のいずれかを使用するE:T比の関数として増加しなかったため、正規化遺伝子として使用することができる。
【0066】
(例4)
細胞表面で高い一定レベルのmTNFαを発現する操作された標的細胞系の確立
TNFαアンタゴニストのADCC活性の定量には、膜結合型TNFαを発現する標的細胞を必要とする。TNFαは、最初に膜結合するが、次に、ADAM17(TACE)プロテアーゼによって切断される。したがって、膜結合型の、非切断性TNFαを発現する細胞系を確立するために、部位特異的突然変異誘発を使用して、プロテアーゼ切断部位を突然変異させ、ヒトTNFαをコードする遺伝子の76〜77位におけるアミノ酸AVをLLに変化させた(図17)。
【0067】
しかし、細胞表面に発現した非切断性TNFαは、隣接細胞の表面に存在するTNFαRII受容体に結合し、細胞死をもたらし、永続的な細胞系の確立を困難にすることになる。したがって、又はこのような困難を取り除くために、TNFαRII受容体を、ゲノム編集を使用して無効化した。
【0068】
TNFαRII受容体をコードする遺伝子を、CRISPR−Cas9ゲノム編集(7)を使用して、HEK293細胞(ATCC(登録商標)CRL−1573)において無効化した。簡潔には、2つのガイドRNA配列(図18)を設計し、合成し、Cas9二重鎖DNAエンドヌクレアーゼを、第12染色体上に位置するTNFαRII遺伝子のエクソン2及び第1染色体上に位置するTNFαRII遺伝子のエクソン2内の特異的部位にガイドして、TNFαRII−/−HEK293細胞を単離するために、ヌクレアーゼベクターGeneArt CRISPR(Invivogen、:A21174)にクローニングした。
【0069】
安定なクローンを単離し、iLite(登録商標)エフェクター細胞及びレミケード(インフリキシマブ)の存在下で、ADCC活性について特徴付け、次いで、サブクローニングした。適切なサブクローンを単離し、特徴付け、増殖させて、mTNFα標的細胞系mTNF6.10をもたらした(図19)。次いで、iLite(登録商標)エフェクター細胞及びmTNF++標的細胞を使用し、図19の培養物中の細胞について示すように、レミケード(インフリキシマブ)のADCC活性を定量した。iLite(登録商標)エフェクター細胞及びmTNF−/−標的細胞は、6時間のインキュベーション後に、1.0μg/mlまでのインフリキシマブの濃度で、検出可能なADCC活性を示さなかった(図19)。
【0070】
iLite(登録商標)エフェクター細胞のバイアルとmTNF++標的細胞のバイアルを、標準的技法を使用して別々に凍結させた。解凍する際に、エフェクター細胞と標的細胞を、24:1から2:1の範囲のE:T比で混合し、RPMI 1640培養培地及び10%ウシ胎仔血清(FBS)中で、濃度の増加するレミケードの存在下で、96ウェルの白色面を有するマイクロタイタープレート(Perkin Elmer 6005181)中で6時間インキュベートした。次いで、FL活性を、デュアルルシフェラーゼ基質を使用して決定し、発光をルミノメーター(GloMax、Promega)で定量し、相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)として表現した。結果を、図20A及び20Bに示すように、4つのパラメトリックロジスティック(4PL)プロットの形態で表す。図20A及び20Bに関連付けた表は、異なるE:T比のiLite(登録商標)エフェクター細胞及びmTNF++標的細胞に対する主要な4PLパラメータを概説する(図20A及び20B)。E:T比3:1が、エフェクター及び標的細胞の6時間のインキュベーション後に最適であることが判明した(図20A及び20B)。RL発現レベルは、E:T比の関数として増加しなかったため(図21)、正規化遺伝子として使用することができる。
【0071】
治療用抗体で処置した患者は、治療に対して異なる方式で応答することが多く、一部の患者では、治療に応答するその能力に負の影響を及ぼし得る抗薬物抗体(ADA)も生じる。したがって、治療用抗体の循環レベルと抗薬物抗体の両方について、経時的に、個々の患者を監視する必要がある。さらに、いくつかの治療用抗体の活性は、部分的に、抗体依存性細胞傷害によって媒介されるため、治療用抗体のADCC活性について、患者を監視する必要がある。しかし、得られる結果を混乱させ得るエフェクター細胞の活性の非特異的増加をもたらす標的細胞の表面に結合することができるヒト血清中に存在するIgGの濃度が高いことにより、これは困難となる。
【0072】
特異的薬物標的がゲノム編集によって無効化されている、相同な標的陰性細胞の使用によって、以下の式:[(E+T++薬物+NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+、又は[(E+T++NHS)−(E+T−+NHS)+(E+T+)]/E+T+[式中、(E)=エフェクター細胞、(T+)=抗原陽性標的細胞、(T−)=抗原陰性標的細胞、NHS=正常なヒト血清試料]を使用して、同じ濃度のヒト血清の存在下で、特異的薬物標的を発現する相同な細胞に関して実測したものから減算することができる、標的陰性細胞及び所与の濃度のヒト血清の存在下での非特異的活性のレベルを推定する手段が提供される。この技術は、クローン病を有する患者由来の血清試料におけるTNFαアンタゴニストであるインフリキシマブのADCC活性を定量するために使用されている(表1)。5.0以上の標的++/標的−/−細胞に対する読み出しは、正常なヒト血清の1/20の最終希釈の有り及び無しにおいて、対照試料から得た結果から陽性であると考えられた(表1)。したがって、試料1、3、及び9は、この技法を使用してADCC活性を示すことが判明した(表1)。試料1、3、及び9は、ELISA(Matriks Bioteck、TR−QS−INF)又は以前に記載したバイオアッセイ(8)のいずれかを使用して、検出可能なレベルのインフリキシマブを含有することも判明した(表1)。
【表1】
【0073】
市販のELISA(Matriks Bioteck 参照TR−ATIv4)を使用して決定した抗インフリキシマブ抗体を含有することが判明した試料7、8、14及び20では、ADCC活性は検出されなかった。さらに、ELISAによって検出された抗インフリキシマブ抗体は、バイオアッセイ(8)を使用して中和していることが示された。
【0074】
アダリムマブ及びエタネルセプトのADCC活性も、関節リウマチを有する患者由来の血清試料において定量した(表2)。したがって、エタネルセプトで処置した患者由来の試料7から11及び試料17は、容易に検出可能なADCC活性を含有することが判明した(表2)。同様に、アダリムマブで処置した患者由来の試料4、5、8、12、13、14、17、及び19は、容易に検出可能なADCC活性を含有することが判明した(表2)。
【表2】
【0075】
(例5)
細胞表面で高い一定レベルのEGFRを発現する操作された標的細胞系の確立
EGFR陰性HEK293細胞(ATCC(登録商標)CRL−1573)の細胞に、FuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega カタログ番号E2311)を使用して、ヒトEGFRa発現ベクター(pUNO1−hefgr、Invivogen)をトランスフェクトした。陽性のクローンを、蛍光活性化細胞選別及びFITC標識抗EGFRモノクローナル抗体(R&D Systems、FAB10951P)を使用して濃縮した。安定なクローンを単離し、iLite(登録商標)エフェクター細胞及びセツキシマブを使用して、ADCC活性について特徴付け、次いで、サブクローニングした。適切なサブクローンを単離し、特徴付け、増殖させて、EGFR++標的細胞系をもたらした(図21)。
【0076】
iLite(登録商標)エフェクター細胞及びEGFR++HEK293標的細胞の応答(セツキシマブを含まない対照試料に対する誘導倍率として表される)は、図21に示すように、セツキシマブの存在下での6時間のインキュベーション後に決定したNFATエフェクター細胞とEGFR++HEK293標的細胞のものより有意に大きいことが判明した。したがって、NFATエフェクター細胞及びEGFR++HEK293標的細胞に関するおよそ2倍に対して、iLite(登録商標)エフェクター細胞及びEGFR++HEK293標的細胞に関しておよそ60倍のダイナミックレンジが得られた(図21及び関連付けた表)。
【0077】
iLite(登録商標)エフェクター細胞のバイアルとEGFR++標的細胞のバイアルを、標準的技法を使用して別々に凍結させた。解凍する際に、エフェクター細胞と標的細胞を、24:1から2:1の範囲のE:T比で混合し、RPMI 1640培養培地及び10%ウシ胎仔血清(FBS)中で、濃度の増加するレミケードの存在下で、96ウェルの白色面を有するマイクロタイタープレート(Perkin Elmer 6005181)中で6時間インキュベートした。次いで、FL活性を、デュアルルシフェラーゼ基質を使用して決定し、発光をルミノメーター(GloMax、Promega)で定量し、相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)として表現した。結果を、図22A及び22Bに示すように、4つのパラメトリックロジスティック(4PL)プロットの形態で表す。図22A及び22Bに関連付けた表は、異なるE:T比のiLite(登録商標)エフェクター細胞及びEGFR++標的細胞に対する主要な4PLパラメータを概説する(図22A及び22B)。E:T比6:1が、エフェクター及び標的細胞の6時間のインキュベーション後に最適であることが判明した(図22A及び22B)。RL発現レベルは、E:T比の関数として増加しなかったため、正規化遺伝子として使用することができる。
【0078】
特定の実施形態では、本発明は、以下の項目にも関する:
項目:
1.NF−AT、AP1、NFkB、及びSTAT5によって活性化される組換えレポーター遺伝子又は構築物を有するエフェクター細胞。
2.抗体が特異的である内因性標的が無効化された組換え標的細胞。
3.抗体が特異的である標的の発現が増強された組換え標的細胞。
4.配列番号1のヌクレオチド配列を含む、NF−AT、AP1、NFkB、及びSTAT5に結合する調節配列。
5.
NF−AT、AP1、NFkB、CREB、及びSTAT5によって活性化される組換えレポーター遺伝子アッセイ又は構築物を有するエフェクター細胞と;
抗体が特異的である内因性標的が無効化された組換え標的細胞(従属請求項、CD20、mTNFα、erbB2(SKBR3及びHEK293)、EGFR)と;
抗体が特異的である標的の発現が増強された組換え標的細胞と
を含むキット。(従属請求項、CD20、mTNFα、erbB2(SKBR3及びHEK293)、EGFR)
6.エフェクター細胞及び薬物標的が無効化されている標的細胞の存在下で得たシグナルを、エフェクター細胞及び薬物標的を発現する標的細胞の存在下で得たシグナルから減算することによって、ヒト血清の存在下でレポーター遺伝子シグナルの非特異的増加を補うための方法。
7.治療用抗体で処置した患者由来の臨床試料のex vivoでのADCC活性を定量するための方法。
【0079】
さらに、さらに具体的な実施形態では、本発明は、以下の項にも関する:
1.下流プロモーターに作動可能に連結したシス作用調節配列を含むポリヌクレオチドであって、NF−AT、AP1、NFkB、STAT1、STAT3及びSTAT5のうちの1つ又は複数が、前記シス作用調節配列に結合することができる上記ポリヌクレオチド。
2.NF−AT、AP1、NFkB、及びSTAT5がすべて、前記シス作用調節配列に結合することができることを特徴とする、項1に記載のポリヌクレオチド。
3.プロモーターが、第1のレポータータンパク質をコードするオープンリーディングフレーム配列に作動可能に連結している、項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
4.レポーターが酵素である、項1から3までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
5.酵素が、例えば、ルシフェラーゼである、項1から4までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
6.酵素が、蛍光タンパク質である、項1から5までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
7.配列番号1と少なくとも約70%の配列同一性、例えば、少なくとも約75%の配列同一性など、例えば、少なくとも約80%の配列同一性など、例えば、少なくとも約85%の配列同一性など、例えば、少なくとも約90%の配列同一性など、例えば、少なくとも約95%の配列同一性など、例えば、少なくとも約98%の配列同一性など、例えば、少なくとも約99%の配列同一性などを有するヌクレオチド配列又は配列番号1と同一のDNA配列を含む、項1から6までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
8.項1から7までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター構築物。
9.前記ベクターが、プラスミド又はウイルスベクターである、項8に記載のベクター。
10.項8又は9に記載のベクターを含む細胞。
11.哺乳動物細胞である、項10に記載の細胞。
12.前記ベクターが、エピソーム性であるか又は前記細胞のゲノムに組み込まれている、項10又は11に記載の細胞。
13.細胞が、第1のレポータータンパク質と異なる第2のレポータータンパク質をさらに発現する、項10から12までのいずれか一項に記載の細胞。
14.細胞が、Jurkat、SKBR3、又はHEK293細胞である、項10から13までのいずれか一項に記載の細胞。
15.
i)請求項10から14までのいずれか一項に記載の細胞と;
ii)抗体が特異的である内因性標的が無効化された(突然変異した)細胞と;
iii)抗体が特異的である標的の発現が増強された細胞と
を含むキット。
16.ii)で標的細胞において無効化された標的が、CD20、mTNFα、erbB2、EGFRのうちの1つ又は複数を含む、項15に記載のキット。
17.iii)で標的細胞において増強された標的が、CD20、mTNFα、erbB2、EGFRのうちの1つ又は複数を含む、項15に記載のキット。
18.2つのバイアルを含む、項15から17までのいずれか一項に記載のキット。
19.i)及びiii)の細胞が、最適なE:T比で、1つの同じバイアルに存在する、項15から18までのいずれか一項に記載のキット。
20.i)の細胞とiii)の標的細胞との間の比が、約24:1から約2:1、又は例えば約6:1、又は例えば約3:1、又は例えば約1.5:1の範囲内である、項15から19までのいずれか一項に記載のキット。
21.治療用抗体で処置した患者由来の臨床試料のex vivoでのADCC活性を定量するための方法であって、
a)抗体の投与を含む処置を受けている患者から得た試料を、項15の標的細胞ii)と接触させるステップと、
b)薬物標的が無効化されている細胞i)の存在下で得たシグナルを、エフェクター細胞i)及び標的細胞iii)の存在下で得たシグナルから減算するステップと、
c)a)及びb)で測定したシグナルの関係に基づいて、ADCC活性を決定するステップと
を含む上記方法。
22.血清試料に対する陽性の結果(すなわち、検出可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に対するシグナルの関係が≧1である場合に存在し、血清試料に対する陰性の結果(すなわち、検出不可能なADCC活性)は、エフェクター細胞i)及び標的++細胞iii)に関する値/エフェクター細胞i)及び標的−/−細胞ii)に関する値が≦1である場合に存在する、項21に記載の方法。
23.ヒト血清の存在下で、レポーター遺伝子シグナルの非特異的増加を補うための方法であって、細胞i)の存在下で得たシグナルを、項15のエフェクター細胞i)及び薬物標的を発現する標的細胞iii)の存在下で得たシグナルから減算するステップを含む上記方法。
24.エフェクター細胞及び標的陰性細胞が>1である場合に、調査下の抗体に特異的なADCC活性に関連しない活性を示す血清試料を排除するための、項23に記載の方法。
【0080】
(参考文献)
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号1〜11:<223>人工
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22A
図22B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]