【実施例】
【0016】
図1〜
図2は、本発明の実施例を示す。
【0017】
最初に、電極本体について説明する。
【0018】
クロム銅のような銅合金製導電性金属材料で作られた電極本体1は、円筒状の形状であり、断面円形とされ、静止部材11に差し込まれる固定部2と、鋼板部品3が載置されるキャップ部4がねじ部5において結合されて、断面円形の電極本体1が形成されている。電極本体1には断面円形のガイド孔6が形成され、このガイド孔6には、固定部2に形成された大径孔7と、この大径孔7よりも小径でキャップ部4に形成された中径孔8と、この中径孔8よりも小径の小径孔9が形成され、大径孔7、中径孔8、小径孔9は、電極本体1の中心軸線O−O上に整列した同軸状態で配置されている。
【0019】
つぎに、進退部材について説明する。
【0020】
一方、進退部材50がガイド孔6に挿入されている。進退部材50は、断面円形の部材であり、大径部13と、この大径部13よりも小径の中径部14と、この中径部14よりも小径のガイドピン15によって構成されている。
【0021】
大径部13は、大径孔7に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれている。中径部14は、中径孔8に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれている。ガイドピン15は、小径孔9を貫通し、鋼板部品3が載置される電極本体1の端面から突出している。そして、鋼板部品3の下孔10を貫通し、小径孔9との間に、ガイドピン15が押し下げられたとき、冷却空気が通過する通気隙間16が形成されている。
【0022】
上記の「・・実質的に隙間がなくて摺動できる状態・・」というのは、進退部材50に電極本体1の直径方向の力を作用させても、隙間感覚のあるカタカタといったがたつき感触がなく、しかも中心軸線O−O方向の摺動が可能な状態を意味している。
【0023】
上記大径部13、中径部14およびガイドピン15は、
図1(C)に最も分かりやすく示すように、一体的なワンピース状態で構成されている。このような構成は、単一の金属材料部材を加工する場合や、鋳造と仕上げ加工によって成型する場合などがあり、ここでは、前者の場合が採用されている。
【0024】
すなわち、1本の断面円形のステンレス鋼製素材に切削などの機械加工を施して、大径部13、中径部14およびガイドピン15を成型する。
【0025】
つぎに、部品と絶縁構造を説明する。
【0026】
ナット17はプロジェクション溶接用(プロジェクションナット)であり、四角い本体の中央にねじ孔18が形成され、四隅に溶着用突起19が設けてある。ねじ孔18の開口端がガイドピン15のテーパ部20に係合している。このようにナット17が鋼板部品3から浮上した状態になっているので、可動電極21が進出する溶接時に、ガイドピン15が後退する長さL1が存置してある。
【0027】
プロジェクションナット17の各部の寸法は、電極の大きさ規模によって様々である。ここでは、縦・横各12mm、厚さ7.2mmの四角いプロジェクションナット17を、厚さ0.7mmの鋼板部品3に電気抵抗溶接をするものである。
【0028】
中径部14が中径孔8に嵌まり込んでいる電極本体の中心軸線O−O方向の長さは、溶接時にガイドピン15が後退する長さL1よりも短く設定してある。この実施例では、中径部14の上部にテーパ部22が形成され、中径部14が中径孔8に嵌まり込んでいる中心軸線O−O方向の長さは、テーパ部22を含まない長さL2である。したがって、中径部14が中径孔8に嵌まり込んでいる電極本体の中心軸線O−O方向の長さL2は、溶接時にガイドピン15が後退する長さL1よりも短く設定してある。ガイドピン15が押し下げられると、最初に、テーパ部22と中径孔8の間に通気隙間が形成される。
【0029】
図1(D)に示すように、ガイドピン15の先端部にナット17のねじ孔18に進入する小径の進入部24が形成され、前記テーパ部20と進入部24の外表面全体に絶縁層25が、絶縁構造として形成してある。
【0030】
絶縁層25は、セラミック材料をコーティングする方法、進退部材50全体を特殊ステンレス合金で製作し、必要箇所に熱処理を施して高硬度の絶縁性被膜を形成する方法、セラミック製キャップ部材を嵌め合わせる方法などによって形成することができる。上記特殊ステンレス合金は種々なものが市販されているが、東芝マテリアル社の材料もそのひとつであり、一般的に「KCF」と称されている。この実施例での絶縁層25は、窒化珪素を主成分としたセラミック材料のコーティング方式である。
【0031】
上記のような絶縁構造の採用により、可動電極21が進出して、ナット17と鋼板部品3が電極本体1との間で挟み付けられ、溶接電流が通電される。このときには、絶縁層25からの通電が阻止されているので、電流は溶着用突起19から鋼板部品3へ流れて、良好な溶着がなされる。
図1(A)や(D)に示すように、進入部24がねじ孔18から突き出ていない場合には、進入部24の頂部の絶縁構造を止めることができるが、進入部24がねじ孔18から突き出ていて、可動電極21が進入部24の頂部に接触するときには、
図1(D)に示すように、頂部も絶縁構造とされている。
【0032】
つぎに、冷却空気の断続構造を説明する。
【0033】
冷却空気をガイド孔6に導く通気口26が形成してある。大径部13と大径孔7の摺動箇所に空気通路を確保するために、大径部13の外周面に中心軸線O−O方向の凹溝を形成することもできるが、ここでは大径部13の外周面に中心軸線O−O方向の平面部27を形成して、平面部27と大径孔7の円弧型内面で構成された空気通路28が形成されている。このような平面部27を90度間隔で形成して、4箇所に空気通路を設けている。
【0034】
圧縮コイルスプリング31は、進退部材50とガイド孔6の内底面の間に嵌め込まれており、その張力が進退部材50に作用している。圧縮コイルスプリング31の張力が、後述の静止内端面に対する可動端面の加圧密着を成立させている。圧縮コイルスプリング31は、加圧手段であり、これに換えて圧縮空気の圧力を利用することも可能である。
【0035】
ガイド孔6の中径孔8と大径孔7の境界部に環状の静止内端面29が形成されている。また、進退部材50の中径部14と大径部13の境界部に環状の可動端面30が形成されている。静止内端面29と可動端面30は電極本体1の中心軸線O−Oが垂直に交わる仮想平面上に配置してあり、圧縮コイルスプリング31の張力によって、可動端面30が静止内端面29に対して環状状態で密着し、この密着によって冷却空気の封止がなされている。
【0036】
つぎに、他の事例を説明する。
【0037】
上記事例はプロジェクションナットの場合であるが、
図2に示した事例はプロジェクションボルトの場合である。プロジェクションボルト33は、雄ねじが形成された軸部34、軸部34と一体になっている円形のフランジ35、フランジ35の下面に設けた溶着用突起36によって構成されている。ガイドピン15は管状の中空形状であり、軸部34が挿入される受入孔37が設けてある。
【0038】
この事例における部品が進退部材50に接触する箇所は、
図2(B)に示すように、受入孔37の内周面と底面であるから、これらの面に絶縁構造25を形成する。ここでは、セラミック溶液を上記内周面と底面に塗布して、硬化させたものである。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の事例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0039】
つぎに、上記電極の動作について説明する。
【0040】
図1(A)は、圧縮コイルスプリング31の張力で可動端面30が静止内端面29に密着し、冷却空気の流通を封じている状態である。
【0041】
可動電極21が進出して間隔L1が消滅すると、中径孔8に入り込んでいる中径部14が中径孔8から抜け出して、冷却空気の通路が形成される。冷却空気は通気口26、空気通路28、中径孔8、通気空隙16を経て、ナット17の下面と鋼板部品3との間の空隙を通って外部へ発散する。この空気流によって、スパッタなどの不純物が電極から離隔する方向へ排除される。ガイドピン15が押し下げられると、最初にテーパ部22によって空気通路が形成される。テーパ部22の傾斜によって流路面積の大きな空気通路が初期の段階で形成され、確実な冷却空気の流通にとって好適である。また、ガイドピン15が戻るときには、テーパ部22のガイド機能によって中径部14が円滑に中径孔8に進入する。
図2に示したプロジェクションボルト33の場合も同じ動作である。
【0042】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0043】
ガイド孔6に挿入される断面円形の進退部材50が、大径孔7に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれる大径部13と、中径孔8に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれる中径部14と、鋼板部品3が載置される電極本体1の端面から突出し、鋼板部品3の下孔10を貫通するガイドピン15によって構成されているとともに、進退部材50は、単一の金属材料部材から構成され、プロジェクションナット17やプロジェクションボルト33などの部品が進退部材50に接触する箇所に、絶縁構造25が採用されている。
【0044】
作業者が差し入れる鋼板部品3には、ガイドピン15が貫通する下孔10が設けられており、下孔10の内周部がガイドピン15に突き当たったり、鋼板部品3の外端部がガイドピン15に突き当たったりすると、ガイドピン15には傾斜方向あるいは直径方向の力が作用し、これによって進退部材50が弾性変形をする。このような弾性変形が発生すると、ガイドピン15が電極本体1の中心軸線O−Oに対して偏心し、この偏心したガイドピン15に鋼板部品3の下孔10が接触したままプロジェクションナット17などの部品が鋼板部品3に溶接されてしまう。このようなことになると、ナット17のねじ孔18と下孔10が同心状態にならず、場合によってはボルトがねじ込めないことが発生する。
【0045】
本実施例においては、進退部材50の大径部13と中径部14の2箇所が7大径孔や中径孔8に摺動しているので、進退部材50は2点支持の状態になっている。また、進退部材50は、単一の金属材料部材から構成され、プロジェクションナット17やプロジェクションボルト33などの部品が進退部材50に接触する箇所に、絶縁構造25が採用されている。
【0046】
上記の2点支持状態と、単一の金属材料部材からの構成によって、進退部材50に対して、直径方向や傾斜方向の外力が作用しても、進退部材50の傾斜方向の変位が実質的に問題にならない程度に少量化される。つまり、進退部材50全体が金属材料製とされているので、大径部13や中径部14の弾性変形が微量なものとなり、ガイドピン15の偏心量が実質的に問題にならないレベルとなる。したがって、上記のような偏心に伴う溶接位置の不良問題が解消される。とくに、単一の金属材料部材からの構成によって、進退部材50全体の弾性変形が最少化されるので、上記の偏心量を実質的に問題にならないレベルにすることが可能となる。
【0047】
さらに、進退部材50の位置ずれが最少化されるので、静止内端面29と可動端面30との密着状態が確実に維持され、溶接待機時には冷却空気の流通が確実に遮断され、空気漏れによる経済性の問題や、騒音問題が解消される。
【0048】
進退部材50は、単一の金属材料部材から、いわゆるワンピース部品の状態で製作されるとともに、絶縁の必要な局部に絶縁構造25が採用されている。したがって、複数部品を組み立てる必要のないワンピース型の進退部材50の製作と、必要な箇所の絶縁処理だけでよいので、進退部材50の製作が簡素化され、各部の寸法精度向上にとって有利である。とりわけ、進退部材50に施される絶縁処理構造を、部品が接触する箇所だけの範囲にすることができるので、絶縁処理の範囲を最小限にとどめることができて、製作容易で原価的にも有効である。
【0049】
上述の特許文献に記載されている構造は、進退部材50の大径部13や中径部14に相当する箇所が絶縁性合成樹脂材料で構成されているので、合成樹脂部分と金属製ガイドピンの一体化構造が複雑になる。しかしながら、本発明では上述のように、一体化構造の進退部材50の局部にだけ絶縁構造が採用できるので、複雑化の問題が解消される。また、いわゆる局部絶縁の構造であるから、絶縁構造の簡素化が図れる。