【実施例】
【0018】
図1〜
図2は、本発明の実施例を示す。
【0019】
最初に、電極本体について説明する。
【0020】
クロム銅のような銅合金製導電性金属材料で作られた電極本体1は、円筒状の形状であり、断面円形とされ、静止部材11に差し込まれる固定部2と、鋼板部品3が載置されるキャップ部4がねじ部5において結合されて、断面円形の電極本体1が形成されている。電極本体1には断面円形のガイド孔6が形成され、このガイド孔6には、固定部2に形成された大径孔7と、この大径孔7よりも小径でキャップ部4に形成された中径孔8と、この中径孔8よりも小径の小径孔9が形成され、大径孔7、中径孔8、小径孔9は、電極本体1の中心軸線O−O上に整列した同軸状態で配置されている。
【0021】
つぎに、進退部材について説明する。
【0022】
進退部材50がガイド孔6に挿入されている。進退部材50は、断面円形の部材であり、大径部13と、この大径部13よりも小径の中径部14と、この中径部14よりも小径のガイドピン15で構成されている。
【0023】
大径部13は、大径孔7に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれている。中径部14は、中径孔8に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれている。ガイドピン15は、小径孔9を貫通し、鋼板部品3が載置される電極本体1の端面から突出している。そして、鋼板部品3の下孔10を貫通し、小径孔9との間に、ガイドピン15が押し下げられたとき、冷却空気が通過する通気隙間16が形成されている。
【0024】
上記の「・・実質的に隙間がなくて摺動できる状態・・」というのは、進退部材50に電極本体1の直径方向の力を作用させても、隙間感覚のあるカタカタといったがたつき感触がなく、しかも中心軸線O−O方向の摺動が可能な状態を意味している。
【0025】
図1(C)に最も分かりやすく示すように、大径部13と中径部14は、一体的なワンピース状態で構成されている。このような構成は、単一の金属材料部材を加工する場合や、鋳造と仕上げ加工によって成型する場合などがあり、ここでは、前者の場合が採用されている。なお、上記「単一の」は、大径部13と中径部14の全域が一種類の材料で構成されていることを意味している。
【0026】
すなわち、1本の断面円形のステンレス鋼製素材に切削などの機械加工を施して、大径部13、中径部14を形成し、さらに、後述の空気通路を形成する。
【0027】
ガイドピン15は、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性および絶縁性のある材料で構成され、セラミック材料などの耐熱硬質絶縁材料で構成されており、大径部13や中径部14とは別部材として形成されている。形状としては、断面円形の丸棒材となっている。
【0028】
中径部14から大径部13にわたって中心軸線O−Oに沿って挿入孔17が形成され、ここにガイドピン15を差し込んで、大径部13と中径部14とガイドピン15が一体化されている。一体化させる方法としては、接着など種々なものがある。
【0029】
図1(C)および(D)は、接着剤を用いた一体化の方法である。挿入孔17の内径よりもガイドピン15の直径をやや小さく設定してあり、これによって形成される空隙に接着剤18が充填してある。接着剤としては、一般的に使用されている高耐熱用エポキシ系接着剤や耐熱性無機接着剤が使用される。
【0030】
また、
図1(E)と(F)は、金属製Cリングを用いた方法である。Cリング35は、断面円形の銅合金製の線材で構成され、リング径を拡大するために、わずかな隙間が設けられてC型となっている。ガイドピン15に円周方向の凹溝34を形成し、そこにCリング35を嵌め込み、その状態で挿入孔17に圧入してある。Cリング35を凹溝34に嵌め込むときに、Cリング35の内径が拡大する。
図1(F)に示すように、ガイドピン15を挿入孔17に圧入するときに、Cリング35が塑性変形をするので、線材には圧入方向に応じた変形部36が形成される。このようなCリング35の塑性変形によって、ガイドピン15と大径部13、中径部14の強固な一体化がなされる。
【0031】
つぎに、部品について説明する。
【0032】
ナット20はプロジェクション溶接用(プロジェクションナット)であり、四角い本体の中央にねじ孔21が形成され、四隅に溶着用突起22が設けてある。ねじ孔21の開口端がガイドピン15のテーパ部23に係合している。このようにナット20が鋼板部品3から浮上した状態になっているので、可動電極24が進出する溶接時に、ガイドピン15が後退する長さL1が存置してある。
【0033】
プロジェクションナット20の各部の寸法は、電極の大きさ規模によって様々である。ここでは、縦・横各12mm、厚さ7.2mmの四角いプロジェクションナット20を、厚さ0.7mmの鋼板部品3に電気抵抗溶接をするものである。
【0034】
中径部14が中径孔8に嵌まり込んでいる電極本体の中心軸線O−O方向の長さは、溶接時にガイドピン15が後退する長さL1よりも短く設定してある。この実施例では、中径部14の上部にテーパ部25が形成され、中径部14が中径孔8に嵌まり込んでいる中心軸線O−O方向の長さは、テーパ部25を含まない長さL2である。したがって、中径部14が中径孔8に嵌まり込んでいる電極本体の中心軸線O−O方向の長さL2は、溶接時にガイドピン15が後退する長さL1よりも短く設定してある。ガイドピン15が押し下げられると、最初に、テーパ部25と中径孔8の間に通気隙間が形成される。
【0035】
図1(A)や(C)に示すように、ガイドピン15の先端部にナット20のねじ孔21に相対的に進入する小径の進入部26が形成されている。
【0036】
上記のように、ガイドピン15が耐熱硬質絶縁材料で構成されているので、可動電極24が進出して、ナット20と鋼板部品3が電極本体1との間で挟み付けられ、溶接電流が通電される。このときには、ガイドピン15への通電が阻止されているので、電流は溶着用突起22から鋼板部品3へ流れて、良好な溶着がなされる。
【0037】
つぎに、冷却空気の断続構造を説明する。
【0038】
冷却空気をガイド孔6に導く通気口27が形成してある。大径部13と大径孔7の摺動箇所に空気通路を確保するために、大径部13の外周面に中心軸線O−O方向の凹溝を形成することもできるが、ここでは大径部13の外周面に中心軸線O−O方向の平面部28を形成して、平面部28と大径孔7の円弧型内面で構成された空気通路29が形成されている。このような平面部28を90度間隔で形成して、4箇所に空気通路29を設けている。
【0039】
圧縮コイルスプリング31は、進退部材50とガイド孔6の内底面の間に嵌め込まれており、その張力が進退部材50に作用している。圧縮コイルスプリング31の張力が、後述の静止内端面に対する可動端面の加圧密着を成立させている。圧縮コイルスプリング31は、加圧手段の1つであり、これに換えて圧縮空気の圧力を利用することも可能である。
【0040】
ガイド孔6の中径孔8と大径孔7の境界部に環状の静止内端面32が形成されている。また、進退部材50の中径部14と大径部13の境界部に環状の可動端面33が形成されている。静止内端面32と可動端面33は電極本体1の中心軸線O−Oが垂直に交わる仮想平面上に配置してあり、圧縮コイルスプリング31の張力によって、可動端面33が静止内端面32に対して環状状態で密着し、この密着によって冷却空気の封止がなされている。
【0041】
つぎに、他の事例を説明する。
【0042】
上記事例はプロジェクションナットの場合であるが、
図2に示した事例はプロジェクションボルトの場合である。プロジェクションボルト37は、雄ねじが形成された軸部38、軸部38と一体になっている円形のフランジ39、フランジ39の下面に設けた溶着用突起40によって構成されている。ガイドピン15は管状の中空形状であり、軸部38が挿入される受入孔41が設けてある。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の事例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0043】
つぎに、上記電極の動作について説明する。
【0044】
図1(A)は、圧縮コイルスプリング31の張力で可動端面33が静止内端面32に密着し、冷却空気の流通を封じているとともに、ガイドピン15がキャップ部4の端面から突き出ている状態である。そして、鋼板部品3がキャップ部4上に載せられ、ナット20がテーパ部23に係止されている。
【0045】
可動電極24が進出して間隔L1が消滅すると、中径孔8に入り込んでいる中径部14が中径孔8から抜け出して、冷却空気の通路が形成される。冷却空気は、通気口27、空気通路29、中径孔8、通気空隙16を経て、ナット20の下面と鋼板部品3との間の空隙を通って外部へ発散する。この空気流によって、スパッタなどの不純物が電極から離隔する方向へ排除される。ガイドピン15が押し下げられると、最初にテーパ部25によって空気通路が形成される。テーパ部25の傾斜によって流路面積の大きな空気通路が初期の段階で形成され、確実な冷却空気の流通にとって好適である。また、ガイドピン15が戻るときには、テーパ部25のガイド機能によって中径部14が円滑に中径孔8に進入する。
図2に示したプロジェクションボルト37の場合も同じ動作である。
【0046】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0047】
ガイド孔6に挿入される断面円形の進退部材50が、大径孔7に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれる大径部13と、中径孔8に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込まれる中径部14と、鋼板部品3が載置される電極本体1の端面から突出し、鋼板部品3の下孔10を貫通するガイドピン15によって構成されている。そして、進退部材50は、中径部14と大径部13が単一の金属材料部材から一体的に構成され、また、ガイドピン15が、セラミック材料などの耐熱硬質絶縁材料を用いて、中径部14や大径部13とは別部材として形成され、上記挿入孔17に差し込まれて、大径部13と中径部14とガイドピン15が一体化されている。
【0048】
作業者が差し入れる鋼板部品3には、ガイドピン15が貫通する下孔10が設けられており、下孔10の内周部がガイドピン15に突き当たったり、鋼板部品3の外端部がガイドピン15に突き当たったりすると、ガイドピン15には傾斜方向あるいは直径方向の力が作用し、これによって進退部材50が直径方向の弾性変形をする。このような弾性変形が発生すると、ガイドピン15が電極本体1の中心軸線O−Oに対して偏心し、この偏心したガイドピン15に鋼板部品3の下孔10が接触したままプロジェクションナット20やプロジェクションボルト37などの部品が鋼板部品3に溶接されてしまう。このようになると、ナット20のねじ孔21やボルト37の軸部38と下孔10が同心状態にならず、場合によってはボルトがねじ込めないことが発生する。
【0049】
本実施例においては、進退部材50の大径部13と中径部14の2箇所が大径孔7や中径孔8に摺動しているので、進退部材50は2点支持の状態になっている。また、進退部材50の中径部14と大径部13は、単一の金属材料部材から構成されている。
【0050】
上記の2点支持状態と、単一の金属材料部材からの構成によって、進退部材50に対して、直径方向や傾斜方向の外力が作用しても、進退部材50の傾斜方向の変位が実質的に問題にならない程度に少量化される。つまり、中径部14と大径部13全体が金属材料製とされているので、大径部13や中径部14の弾性変形が微量なものとなり、ガイドピン15の偏心量が実質的に問題にならないレベルとなる。したがって、上記のような偏心に伴う溶接位置の不良問題が解消される。とくに、単一の金属材料部材からの構成によって、進退部材50全体の弾性変形が最少化されるので、上記の偏心量を実質的に問題にならないレベルにすることが可能となる。つまり、ガイド孔6に挿入される進退部材50が電極本体1に対して、異常変位をしないようにして、上記利点が確保される。
【0051】
さらに、進退部材50の位置ずれが最少化されるので、静止内端面32と可動端面33との密着状態が確実に維持され、溶接待機時には冷却空気の流通が確実に遮断され、空気漏れによる経済性の問題や、騒音問題が解消される。
【0052】
進退部材50は、単一の金属材料部材から形成された中径部14と大径部13に対して、セラミック材料などの耐熱硬質絶縁材料製のガイドピン15が一体化された構成である。したがって、鋼板部品3の下孔10や外端部がガイドピン15に衝突しても、ガイドピン15の表面が損傷したりすることがなく、耐久性の優れた電極がえられる。そして、ガイドピン15が絶縁機能を確実に果たすので、溶接電流は溶着用突起22、40などの部品の所定箇所を流れて、溶着位置が正確に求められる。
【0053】
複数部品を組み立てる必要のないワンピース型の中径部14と大径部13の製作と、ガイドピン15の絶縁構造だけでよいので、進退部材50の製作が簡素化され、各部の寸法精度向上にとって有利である。とりわけ、ガイドピン15が耐熱硬質絶縁材料製であるから、ナット20やボルト37が接触する箇所だけの範囲を絶縁構造にすることができるので、絶縁処理の範囲を最小限にとどめることができて、製作容易で原価的にも有効である。
【0054】
上述の特許文献に記載されている構造は、進退部材50の大径部13や中径部14に相当する箇所が絶縁性合成樹脂で構成されているので、合成樹脂部分と金属製ガイドピンの一体化構造が複雑になる。しかしながら、本実施例では上述のようにして、挿入孔17へのガイドピン挿入方式であるから、複雑化の問題が解消される。また、ガイドピン15だけのいわゆる局部絶縁の構造であるから、絶縁構造の簡素化が図れる。