特許第6929892号(P6929892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6929892引張り可能な薄膜構造体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6929892
(24)【登録日】2021年8月13日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】引張り可能な薄膜構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20210823BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210823BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210823BHJP
【FI】
   C01B32/168
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-68320(P2019-68320)
(22)【出願日】2019年3月29日
(65)【公開番号】特開2020-2002(P2020-2002A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2019年3月29日
(31)【優先権主張番号】201810712021.4
(32)【優先日】2018年6月29日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】于 洋
(72)【発明者】
【氏名】王 佳平
(72)【発明者】
【氏名】姜 開利
(72)【発明者】
【氏名】▲ハン▼ 守善
【審査官】 須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0175087(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第107747957(CN,A)
【文献】 特開2011−088813(JP,A)
【文献】 特開2011−103293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性基板を提供し、第一方向及び第二方向に沿って、前記弾性基板に予引張を付与し、前記弾性基板を引張状態にさせるステップであって、前記第一方向及び前記第二方向が交差しているステップS1と、
カーボンナノチューブフィルム構造体を引張状態の前記弾性基板の表面に敷設するステップであって、前記カーボンナノチューブフィルム構造体が積層して設置された複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなり、各々の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムが基本的に同一方向に沿って配列されている複数のカーボンナノチューブを含むステップS2と、
前記弾性基板に対する予引張を除去し、引張状態にある前記弾性基板を元の形態に回復させ、前記カーボンナノチューブフィルム構造体の表面に複数のしわを形成して、更に引張り可能な薄膜構造体を形成するステップS3と、
を含むことを特徴とする引張り可能な薄膜構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第一方向及び前記第二方向は、垂直に交差していることを特徴とする、請求項1に記載の引張り可能な薄膜構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ステップS3の後、更に前記弾性基板を除去するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の引張り可能な薄膜構造体の製造方法。
【請求項4】
引張り可能な薄膜構造体は、カーボンナノチューブフィルム構造体を含み、該カーボンナノチューブフィルム構造体が複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなり、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムが積層して設置され、各積層におけるドローン構造カーボンナノチューブフィルムが複数のカーボンナノチューブからなり、複数のカーボンナノチューブが基本的に同じ方向に沿って配列され、積層方向に隣接する前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの延在方向は90°の角度で交差して設置され、前記カーボンナノチューブフィルム構造体の表面が複数のしわを有することを特徴とする引張り可能な薄膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張り可能な薄膜構造体及びその製造方法に関し、特に、異なる方向に沿って、大きな応力変形の引張りを行うことができる引張り可能な薄膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
引張り可能な薄膜構造体は、例えば、引張り可能なエネルギー蓄積部品、フレキシブルタッチパネルなどの多くの領域に応用される。カーボンナノチューブフィルム構造体は、一定の柔軟性を有し、常用の引張り可能な薄膜構造体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第1483667号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のカーボンナノチューブフィルム構造体は、単一方向に小さな応力変形の引張りだけであれば耐えられるものの、異なる方向に同時に大きな応力変形のもとで繰り返し引張られると断裂し易い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、異なる方向に大きな応力変形のもとで、繰り返して引張られることに耐えることができる引張り可能な薄膜構造体及びその製造方法を提供する必要がある。
【0006】
引張り可能な薄膜構造体の製造方法は、弾性基板を提供して、第一方向及び第二方向に沿って、前記弾性基板に予引張を付与し、前記弾性基板を引張状態にさせるステップであって、前記第一方向及び前記第二方向が交差する方向であるステップS1と、カーボンナノチューブフィルム構造体を引張状態の前記弾性基板の表面に敷設するステップであって、前記カーボンナノチューブフィルム構造体が、積層して設置された複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含み、各々の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムが、基本的に同一方向に沿って配列されている複数のカーボンナノチューブを含むステップS2と、前記弾性基板に対する予引張を除去し、引張状態にある前記弾性基板を元の形態に回復させ、前記カーボンナノチューブフィルム構造体の表面に複数のしわを形成して、更に引張り可能な薄膜構造体を形成するステップS3と、を含む。
【0007】
前記第一方向及び前記第二方向は、垂直に交差する方向である。
【0008】
前記ステップS3の後、更に前記弾性基板を除去するステップを含む。
【0009】
引張り可能な薄膜構造体は、カーボンナノチューブフィルム構造体を含み、該カーボンナノチューブフィルム構造体が、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含み、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムが積層して設置され、各ドローン構造カーボンナノチューブフィルムが複数のカーボンナノチューブを含み、複数のカーボンナノチューブが基本的に同じ方向に沿って配列され、前記カーボンナノチューブフィルム構造体の表面が複数のしわを有する。
【発明の効果】
【0010】
従来技術と比べて、本発明の引張り可能な薄膜構造体の製造方法は、二つの交差する方向に沿って弾性基板に予引張を付与した後、弾性基板の表面にカーボンナノチューブフィルム構造体を敷設し、その後に、弾性基板に対する予引張を除去することにより、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面に複数のしわを形成する。引張り可能な薄膜構造体を任意の方向に沿って引張る場合には、複数のしわが異なる応力変形の方向に同時に広げられ、応力変形が吸収される。従って、引張り可能な薄膜構造体は、異なる方向に沿って、同時に大きな応力変形のもとで繰り返して引張られる時に、カーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体の製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体の製造方法の図を示すである。
図3】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体におけるドローン構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の実施例における予引張後のカーボンナノチューブフィルム構造体の表面形貌を示す図である。
図5】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体の側面図である。
図6】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体の応力変形に対する電気抵抗の変化勾配を示す図である。
図7】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体に異なる応力変形を印加した時のカーボンナノチューブフィルム構造体の表面形貌を示す図である。
図8】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体に異なる方向の0〜150%の繰り返し応力変形を付与した時における、繰り返し回数に対する軸方向の電気抵抗の変化勾配を示す図である。
図9】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体におけるX軸方向に沿った2000回の繰り返し引張をする前とした後の表面形貌を示す図である。
図10】本発明の実施例の引張り可能な薄膜構造体を異なる方向に沿って引張った時における、応力変形に対する電気抵抗の変化勾配を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0013】
図1及び図2を参照すると、本発明の実施例は、引張り可能な薄膜構造体の製造方法を提供する。引張り可能な薄膜構造体の製造方法は、以下のステップS1〜S3を含む。
【0014】
S1:弾性基板を提供して、第一方向及び第二方向に沿って、弾性基板に予引張を付与し、弾性基板を引張状態にさせる。第一方向及び第二方向は、交差する方向である。
【0015】
S2:カーボンナノチューブフィルム構造体を引張状態の弾性基板の表面に敷設する。カーボンナノチューブフィルム構造体は、積層して設置された複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含み、各々のドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、基本的に同一方向に沿って配列されている複数のカーボンナノチューブを含む。
【0016】
S3:弾性基板に対する予引張を除去し、引張状態にある弾性基板を元の形態に回復させ、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面にしわを形成して、更に引張り可能な薄膜構造体を形成する。
【0017】
ステップS1において、第一方向及び第二方向が交差する角度は、限定されない。好ましくは、第一方向及び第二方向が垂直に交差する。これは、垂直に交差する第一方向及び第二方向に沿って、弾性基板に予引張を付与する時に、弾性基板の荷重を均一にするためである。弾性基板に対する予引張を除去する時に、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面に形成されたしわは、分布、大きさ及び形状などが更に均一になる。更に引張り可能な薄膜構造体が任意の方向に引張られる時に、多くのしわは、応力方向により良好な引張りを獲得でき、引張り可能な薄膜構造体の異なる方向の引張り能力を高める。本実施例では、第一方向及び第二方向が垂直に交差する。
【0018】
他の実施例において、三つ又は三つ以上の方向に沿って、弾性基板に予引張を付与して、弾性基板を引張状態にさせ、三つ又は三つ以上の方向を対称的で且つ交差する方向にしてもよい。
【0019】
弾性基板の材料は、任意の弾性材料である。例えば、弾性基板は、シリコンゴム、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリ四フッ化エチレン、ポリウレタン(PU)又はジメチルポリシロキサン(PDMS)などである。本実施例では、弾性基板は、長方形のPDMS基板である。
【0020】
弾性基板に対して、第一方向及び第二方向に沿って、二つの方向へ向かう予引張をそれぞれ付与することができる。二つの方向へ向かう予引張とは、第一方向の両側へ向かって弾性基板をそれぞれ予引張を付与すること、又は第二方向の両側へ向かってそれぞれ予引張を付与することを指す。理解できることは、第一方向及び第二方向に沿って、弾性基板に対して、一つの方向へ向かう予引張をそれぞれ付与することもできる、ということである。即ち、第一方向に弾性基板の一つの端部を固定し、他の端部に予引張を付与する。或いは、第二方向に弾性基板の一つの端部を固定し、他の端部に予引張を付与する。本実施例では、第一方向及び第二方向に沿って、弾性基板に対して、二つの方向へ向かう予引張をそれぞれ付与する。第一方向は長方形の長辺に平行であり、第二方向は長方形の短辺に平行である。
【0021】
弾性基板は、第一方向及び第二方向に沿う予引張量を等しくてもよいし、等しくなくともよい。本実施例では、弾性基板は、第一方向及び第二方向に沿う予引張量が等しい。弾性基板が第一方向に沿う予引張量は、予め引張られた弾性基板の第一方向に沿う長さと元の形態の弾性基板の第一方向に沿う長さとの比を百分率で示したものを指す。弾性基板が第二方向に沿う予引張量は、予め引張られた弾性基板の第二方向に沿う長さと元の形態の弾性基板の第二方向に沿う長さとの比を百分率で示したものを指す。
【0022】
弾性基板の予引張量を弾性基板の弾性範囲に制御する必要がある。弾性基板の予引張量は、弾性基板の材料及び実際のニーズに応じて設定する。本実施例では、弾性基板の第一方向及び第二方向に沿う予引張量は、それぞれ150%である。第一方向及び第二方向に沿って、同時に弾性基板に外力を印加することによって、弾性基板に予引張を付与する。外力の大きさは、弾性基板が破壊されないという状況の下で、少なくとも弾性変形を発生する大きさである。本実施例では、ホルダーによりPDMS基板に予引張を付与する。
【0023】
ステップS2において、好ましくは、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおいて、隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが、交差して設置される。隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが交差する角度は、制限されない。本実施例では、隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが交差する角度は、90°である。
【0024】
ドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、超配列カーボンナノチューブアレイから引き出して獲得される。具体的な方法は下記のステップを含む。
【0025】
まず、生長基板に生長されたカーボンナノチューブアレイを提供する。カーボンナノチューブアレイは、超配列カーボンナノチューブアレイである。
【0026】
超配列カーボンナノチューブアレイは、化学気相堆積法を採用して製造される。超配列カーボンナノチューブアレイは、互いに平行で、生長基板に垂直に生長された複数のカーボンナノチューブからなる。隣接するカーボンナノチューブは、互いに接触して、分子間力で接続される。生長の条件を制御することによって、超配列カーボンナノチューブアレイは、例えば、アモルファスカーボンや、残存する触媒である金属粒子などの不純物を含まなくなる。超配列カーボンナノチューブアレイの製造方法については、特許文献1を参照されたい。
【0027】
次に、ピンセットなどの工具を利用して、超配列カーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブを引き出して、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを獲得する。具体的な方法は下記の通りである。まず、一定の幅を有するテープ又は接着性を有する棒を利用して超配列カーボンナノチューブアレイと接触し、一定の幅を有する超配列カーボンナノチューブアレイにおける複数のカーボンナノチューブを選定する。次に、所定の速度で複数のカーボンナノチューブを引き出し、端と端とが接続された複数のカーボンナノチューブからなる連続なドローン構造カーボンナノチューブフィルムを形成する。引き出す方向は、超配列カーボンナノチューブアレイの生長方向と基本的に垂直である。ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブは同じ方向に沿って配列され、分子間力で端と端とが接続されている。ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブの配列方向はドローン構造カーボンナノチューブフィルムの引き出す方向と平行である。
【0028】
図3を参照すると、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、複数のカーボンナノチューブからなる。複数のカーボンナノチューブは同じ方向に沿って配列される。同じ方向に沿って配列されるとは、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける大多数のカーボンナノチューブの延長方向が基本的に同じ方向に沿うことである。且つ、大多数のカーボンナノチューブの延長方向が基本的にドローン構造カーボンナノチューブフィルムの表面と平行である。もちろん、微視的には、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおいて、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブ以外に、同じ方向に沿っておらずランダムな方向を向いたカーボンナノチューブも存在している。ここで、ランダムな方向を向いたカーボンナノチューブは、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブと比べて、割合は小さい。従って、ランダムな方向を向いたカーボンナノチューブは、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける大多数のカーボンナノチューブの配列方向に顕著な影響をもたらさない。具体的には、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける、基本的に同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブは、絶対的な直線状ではなく、適度に湾曲して配列できる。或いは、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける、基本的に同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブは、完全に同じ方向に沿って配列されず、適度に配列方向から離れることができる。従って、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける、同じ方向に沿って配列される大多数のカーボンナノチューブの中の並列するカーボンナノチューブは、部分的に接触する可能性がある。
【0029】
超配列カーボンナノチューブアレイから、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを引き出した後、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを引張状態の弾性基板の表面に敷設する。即ち、引張られた弾性基板の表面にカーボンナノチューブフィルム構造体を直接に形成する。具体的には、超配列カーボンナノチューブアレイから第一カーボンナノチューブフィルムを引き出した後、第一カーボンナノチューブフィルムを引張状態の弾性基板の表面に敷設する。その後、超配列カーボンナノチューブアレイから第二カーボンナノチューブフィルムを引き出し、第二カーボンナノチューブフィルムを第一カーボンナノチューブフィルムの表面に敷設する。且つ、第二カーボンナノチューブフィルムを第一カーボンナノチューブフィルムと積層して設置させる。これによって類推して、カーボンナノチューブフィルム構造体を形成する。理解できることは、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを積層して設置して、カーボンナノチューブフィルム構造体を形成した後、カーボンナノチューブフィルム構造体を引張状態の弾性基板の表面に敷設する、ということである。本実施例において、75mm×75mmのアルミニウム合金のフレームに6層に積層して設置されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムを敷設して、隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブを交差させ、カーボンナノチューブフィルム構造体を形成する。その後、カーボンナノチューブフィルム構造体を取り外して、引張状態のPDMS基板を覆う。
【0030】
カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向が第一方向及び第二方向と成す角度は限定されない。本実施形態では、カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向は、第一方向又は第二方向と平行である。
【0031】
カーボンナノチューブフィルム構造体におけるドローン構造カーボンナノチューブフィルムの数量は限定されない。本実施形態では、カーボンナノチューブフィルム構造体は、6層のドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなる。
【0032】
カーボンナノチューブフィルム構造体は比較的純粋であり、基本的に不純物を含まない。このため、カーボンナノチューブフィルム構造体は、それ自身の粘性によって、弾性基板の表面に固定することができる。
【0033】
ステップS2の後及びステップS3の前に、更に、有機溶媒でカーボンナノチューブフィルム構造体を処理してもよい。具体的には、カーボンナノチューブフィルム構造体の弾性基板から離れる表面に、有機溶媒を滴下する。有機溶媒が揮発する際に生じる表面張力の作用下で、カーボンナノチューブフィルム構造体における隣接するカーボンナノチューブが分子間力によって緊密に結合して、カーボンナノチューブフィルム構造体における隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムを緊密に結合させ、更にカーボンナノチューブフィルム構造体を収縮させる。有機溶剤は、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの揮発性有機溶剤である。本実施例では、有機溶媒は、エタノールである。有機溶剤でカーボンナノチューブフィルム構造体を処理する時、有機溶剤を顕著な液滴がなくなるまで蒸発させた後、ステップS3に進む。
【0034】
ステップS3では、カーボンナノチューブフィルム構造体が弾性基板の表面に接着されるので、弾性基板の予引張を除去した後、弾性基板は、第一方向及び第二方向に沿う長さが短くなり、元の形態に戻る。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブフィルム構造体の法線方向に上向きに曲げられ、複数の突起を形成する。即ち、カーボンナノチューブフィルム構造体のある部分が他の部分より高い。
【0035】
図4を参照すると、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面に、波状的な起伏する構造が形成される。カーボンナノチューブフィルム構造体の表面は、しわを含み、しわの状態になる。引張り可能な薄膜構造体を任意の方向に沿って引張る場合には、複数のしわが応力変形の方向に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。応力変形が弾性基板の予引張量より小さければ、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面のしわの変形は可逆的となる。
【0036】
ステップS3の後、更に弾性基板を除去するステップを含んでもよい。
【0037】
図5を参照すると、本発明の実施例は、更に上記製造方法によって得られた引張り可能な薄膜構造体10を提供する。引張り可能な薄膜構造体10は、弾性基板120及びカーボンナノチューブフィルム構造体140を含む。カーボンナノチューブフィルム構造体140は、弾性基板120の表面に敷設される。カーボンナノチューブフィルム構造体140は、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含む。複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、積層して設置される。各ドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、複数のカーボンナノチューブを含み、複数のカーボンナノチューブが基本的に同じ方向に沿って配列される。カーボンナノチューブフィルム構造体140の表面は複数のしわを有する。引張り可能な薄膜構造体10を任意の方向に沿って引張る場合には、複数のしわが応力変形の方向に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。特に、引張り可能な薄膜構造体10が複数の異なる方向に沿って、同時に引張られる時に、複数のしわが異なる応力変形方向に同時に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。
【0038】
好ましくは、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムの中の隣接する二つのドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが交差して配置される。隣接する二つのドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの交差角度は限定されない。本実施例では、隣接する二つのドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの交差角度は、90度である。
【0039】
図6は、本実施例の引張り可能な薄膜構造体の製造方法によって製造された引張り可能な薄膜構造体の応力変形に対する電気抵抗の変化勾配を示す図である。引張り可能な薄膜構造体の製造過程における、弾性基板の第一方向及び第二方向に沿う予引張量は、それぞれ150%である。図から、応力変形が20%及び80%である時は、引張り可能な薄膜構造体の電気抵抗の変化が極めて小さく、応力変形の除去後の電気抵抗の不可逆的な増加はそれぞれ0.7%及び1.2%にすぎないこと、応力変形が150%である時は、引張り可能な薄膜構造体の電気抵抗が5%増加し、応力変形の除去後の引張り可能な薄膜構造体の電気抵抗の増加量が2%に回復していること、応力変形が160%である時は、応力変形の除去後の引張り可能な薄膜構造体の不可逆的な電気抵抗が6%に増加していること、応力変形が190%である時は、応力変形の除去後の引張り可能な薄膜構造体の不可逆的な電気抵抗が32.2%に増加することが分かる。
【0040】
図6から、引張り可能な薄膜構造体に印加する応力変形が予引張量より小さい時は、引張り可能な薄膜構造体の応力変形の増加に基づく電気抵抗の変化が小さく、且つ応力変形が引張り可能な薄膜構造体における導電ネットワークに不可逆的な破壊を形成しないので、電気抵抗が完全に可逆であることを説明できる。更に、図6から、引張り可能な薄膜構造体に印加する応力変形が予引張量より小さい時は、引張り可能な薄膜構造体の変形が可逆的であり、引張り可能な薄膜構造体に印加する応力変形が予引張量より大きい時は、引張り可能な薄膜構造体の応力変形の増加に伴う電気抵抗の不可逆的な増加が生み出される、ということを説明できる。また、図6から、本実施例の引張り可能な薄膜構造体が予め引張られない薄膜構造体より、電気抵抗の安定性が著しく優れることが分かる。更に、本実施例の引張り可能な薄膜構造体の耐引張能力が、予め引張られない薄膜構造体の耐引張能力より、著しく優れることを説明できる。
【0041】
図7を参照すると、引張り可能な薄膜構造体の製造過程において、弾性基板の第一方向及び第二方向に沿う予引張量はそれぞれ150%である。引張り可能な薄膜構造体に50%、100%、150%の応力変形をそれぞれに印加する場合には、複数のしわが応力変形の方向に広げられ、応力変形が吸収され、カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。図7から、応力変形の除去後のカーボンナノチューブフィルム構造体の表面形貌が元の形貌と基本的に一致し、印加する応力変形が予引張量より小さい時、引張り可能な薄膜構造体のしわは、応力変形のもとで可逆的である、ということを説明できる。
【0042】
第一方向をX軸と定義し、第二方向をY軸と定義する。図8は、本実施例における、引張り可能な薄膜構造体に異なる方向の0〜150%の繰り返し応力変形を付与した場合の、応力変形の繰り返し回数に対する軸方向の電気抵抗の変化勾配を示す図である。図から、0〜150%の繰り返し応力変形の回数が2000回を過ぎた時点における、異なる方向に沿って引張られた引張り可能な薄膜構造体の軸方向の電気抵抗の増加量は、6%より小さいことが分かる。これによって、引張り可能な薄膜構造体が、異なる方向に繰り返して引張られることに対して、極めて優れた耐性を有することが示される。図9は、X軸方向に沿った2000回の繰り返し引張をする前とした後の引張り可能な薄膜構造体の表面形貌を示す図である。図から、2000回の繰り返し引張をする前とした後の引張り可能な薄膜構造体の表面形貌は、非常に類似して、表面のしわがほとんど変化しないことが分かる。これによって、引張り可能な薄膜構造体は、繰り返し応力変形をした後も、依然して電気抵抗の安定を保持する理由を説明できる。
【0043】
図10を参照すると、本実施例において、カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向は、X軸又はY軸と平行である。図から、予引張が付与されない薄膜構造体と比べると、予引張が付与された引張り可能な薄膜構造体の電気抵抗の応力変形の変化に対する安定性が大幅に改善されることが分かる。図から、X軸と45度又は30度を成す方向に沿って引張られた引張り可能な薄膜構造体は、X軸又はY軸に沿って引張られた引張り可能な薄膜構造体よりも優れた電気抵抗の安定性を示すことが分かる。これによって、引張り方向がカーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向と成す角度が0度でない場合には、カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが、引張られる時に断裂しやすくなく、カーボンナノチューブフィルム構造体の形態がより安定することを説明できる。
【0044】
好ましくは、応用される時、引張り方向は、引張り可能な薄膜構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向に対して、一定の角度を保持する。より好ましくは、引張り方向がカーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向と成す角度は、30度以上60度以下である。ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブのそれ自体の断裂伸長量はそれほど長くない。よって、応力変形を印加する時、カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブは容易に断裂し、カーボンナノチューブフィルム構造体の電気抵抗が急激に増大し、導電性が下がる。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブの延在方向が引張り方向と一定の角度を成す時、カーボンナノチューブフィルム構造体は、それ自体の変形によって、一定の応力変形を吸収できるので、引き切られにくく、且つ電気抵抗の増加を遅らせることができる。
【0045】
弾性基板120はあってもよいし、なくてもよい。例えば、他の実施例において、引張り可能な薄膜構造体は、弾性基板120はなく、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムだけを含み、複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、積層して設置される。各々のドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で端と端とが接続された複数のカーボンナノチューブを含む。複数のカーボンナノチューブは、基本的に同一方向に沿って配列され、隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが交差して設置される。引張り可能な薄膜構造体の表面は、複数のしわを含む。引張り可能な薄膜構造体を任意の方向に沿って引張る場合には、複数のしわが応力変形の方向に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。特に、引張り可能な薄膜構造体が複数の異なる方向に沿って、同時に引張られる時に、複数のしわが異なる応力変形方向に同時に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。
【0046】
本発明により提供される引張り可能な薄膜構造体の製造方法は、二つの方向に沿って弾性基板に予引張を付与した後、弾性基板の表面にカーボンナノチューブフィルム構造体を敷設し、その後、弾性基板に対する予引張を除去することにより、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面に複数のしわを形成する。引張り可能な薄膜構造体を任意の方向に沿って引張る場合には、複数のしわが応力変形の方向に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。特に、引張り可能な薄膜構造体が複数の異なる方向に沿って、同時に引張られる時に、複数のしわが異なる応力変形方向に同時に広げられ、応力変形が吸収される。カーボンナノチューブフィルム構造体におけるカーボンナノチューブが断裂せず、カーボンナノチューブフィルム構造体の完全性を保持できる。更に、引張り可能な薄膜構造体が引張られる時に、電気抵抗の安定を保持できる。また、応力変形が弾性基板の予引張量より小さければ、カーボンナノチューブフィルム構造体の表面のしわは、変形が可逆的であるので、この方法で製造された引張り可能な薄膜構造体は、繰り返して使用できる。
【符号の説明】
【0047】
10 引張り可能な薄膜構造体
120 弾性基板
140 カーボンナノチューブフィルム構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10