【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明によれば、冒頭に述べた種類の患者支持装置について、患者ベッドがX線透過性の第1の材料を含んでいて、該第1の材料は、X線透過性の第2の材料からなる少なくとも部分的に可撓性のカバー内に存在し、該第1の材料は、固体状の形状的に安定した安定状態と、変形可能状態、例えば少なくとも部分的に液体か気体の少なくともいずれかである状態とをもち、これら安定状態と変形可能状態は、可逆的な相転移によって連係していて、エネルギー投入とエネルギー放出のどちらかあるいは両方によって第1の材料の安定状態と変形可能状態との間の相転移の少なくとも一方を誘起する少なくとも1つの誘起装置を更に備えることを提案する。
【0007】
本発明の範囲において、「X線透過性」は広義に解釈されるべきであり、本質的には、X線のうち撮像測定に十分な量が、第1の材料及び第2の材料を通過することを意味する。例えば、第1の材料と第2の材料のいずれか又は両方は、脂肪か水又はその両方と同等のX線減衰性をもち、具体的に言うと数センチメートルの程度、例えば2cm〜7cmの範囲にある患者ベッドの対象となる厚さに対し、十分なX線透過性を提供する。また、患者ベッドの厚さは少なくとも実質的にいずれの場所でも同じであり、したがって、各箇所における材料による減衰は、少なくともおおよそ(実質的に)同じ大きさである。
【0008】
第1の材料は、固体状の形状的に安定した安定状態と、変形可能状態とをもち、これら2つの状態は、可逆的な相転移によって連係する。すなわち、2つの状態のうちの一方の状態にある第1の材料は、相転移によって、他方の状態に遷移することができる。これは可逆的なものであるため、その逆も同様である。
【0009】
本発明によれば、支持体、具体的には少なくとも1つの支柱に、例えば取り外し可能に取り付けられる患者ベッド(患者ボードとも称することができる)は、これまでのように、患者の荷重を受ける部分ボードと、該個々の部分ボードを互いに接続するジョイント部とから構成されるのではなくて、第1の材料を内包する第2の材料からなる一体的なカバーを用いて構成され、その第1の材料が、例えば、好適な温度範囲において、外部から誘起することができる液体から固体への相転移を起こすことが提案される。第2の材料は、誘起装置により第1の材料に対し適用される状態において相安定であることが好ましい。この点に関して、上述した相転移のうちの少なくとも一方は、誘起なしでも起こり得ることに留意が必要である。これについては以下でより詳細に説明する。基本的思想は、第1の材料の変形可能状態において、カバーが可撓性であることから患者ベッドを所望の形状に整えることができ、その後、例えば誘起されることで相転移によって固体状の形状的に安定した安定状態に遷移し、結果、整えられた形状が維持されるということである。そして、場合により支持体に固定することの可能な患者ベッドの上で、患者は、検査、例えば外科処置(手術)と一緒に又は並行して行われる検査、を受ける。この後に、次の患者(又は別の検査)のために、更なる相転移によって第1の材料を再び固体状の安定状態から変形可能状態に遷移させ、これにより新たな形状調節を行う。
【0010】
このように、例えば外科処置と一緒に又は並行してX線監視下で患者に対する検査を行うために、患者台と言うこともできる患者支持装置が提供され、当該患者支持装置は、患者の検査や処置に対する様々な理想的な形状へと柔軟に調節可能であり、その上に、患者ベッドを通してでも良好なX線撮像が可能であるX線透過性を有する。
【0011】
既に説明したように、患者ベッドは、支持体に好ましくは取り外し可能に取り付けられる。すなわち、患者支持装置は、患者ベッドを支持体に固定する解除可能固定装置を備える。解除可能固定装置は、好ましくは、同じく少なくとも部分的にX線透過性とし、これに加えて又はこれに代えて、可能な限り僅かな固定面積、具体的には患者を支持するのに利用可能な患者ベッドの表面積の10%以下、好ましくは、患者を支持するのに利用可能な患者ベッドの表面積の5%以下、を利用する。支持体は、好ましくは1つ以上の支柱を含み、これに加えて又はこれに代えて、患者ベッドを自由度をもって支持する。1つの支柱の場合、該支柱は、好ましくは患者ベッドの中央下又は重心に置かれる。この支柱により、患者ベッド側にある解除可能固定装置の固定手段を、好ましくは中央に、又は、患者を支持するために利用可能な臥床面の反対側の表面にある重心に、配置することができる。支柱が複数ある場合は、例えば、患者ベッドの長手方向端部のそれぞれに、少なくとも1つずつ支柱を提供することが可能である。
【0012】
患者ベッドは、例えば、一体的なカバーに、すなわち第2の材料に、解除可能固定装置をなす一部品の固定手段を有する。該固定手段は、例えば埋め込んだプレートで、例えば支持材料中に型成形されるか、又は支持材料に固定され、例えば接着される、あるいは、型成形されて固定される。このプレートは、解除可能固定装置にある固定のためのネジと螺合する雌ねじを提供する。固定手段の別の例として、対応する形状の溝に挿入可能な突出部/輪郭部を利用することもできる。当然ながら、これらに相当する他の形態も考えられる。
【0013】
本発明の好ましい態様において、第1の材料は、変形可能状態において粘性である。例えば、第1の材料は、100mPa・s以上の粘度を有する。このような粘性又は高粘度は、ちなみに、第1の材料が過度に分布を変えないことに寄与し、したがって、第1の材料は、変形の間も、患者ベッドの全域で少なくとも実質的に均一の大きさに保持される。この有利な態様に寄与する患者ベッドの更なる特徴は、以下でより詳細に説明する。
【0014】
第1の態様において、第1の材料は、水とすることができる。通常の室温において、水は液体であり、冷却すると氷へと凝固する。この冷却は、例えば、誘起装置によって引き起こすことができる。この場合、カバーを断熱性に形成することが意図されるが、軽度の低体温は、多種の手術において非常に有利である場合もある。
【0015】
水の使用と比較して好ましい態様において、第1の材料は、潜熱蓄熱材料、例えば、酢酸ナトリウム三水和物、その他のパラフィン、PCMワックスのいずれか1つ以上を含むか又はそのものである。潜熱蓄熱材料は、相変化材料(PCM)としても知られている。この材料は、現在、例えば、いわゆるカイロに使用されており、好ましくは粘性状態と結晶化した固体状態との間で相転移を示す。例えばパラフィン、特に酢酸ナトリウム三水和物やPCMワックス等の潜熱蓄熱材料は、特に相転移の誘起が、少なくとも一方向において、簡単に達成可能である相変化材料である。酢酸ナトリウム三水和物の例では、融解温度が58℃であり、したがって、患者ベッドをこの温度に温めることで粘性状態をもたらすことができ、この状態は、融点を大幅に下回る温度でも、いくつかの例では−20℃までの環境下で、塩がその結晶水に溶解するので、過冷却融解物として準安定状態を維持したままである。このときの誘起装置として、結晶化誘発装置、例えばスナッププレートと圧電素子のいずれか又は両方、を使用して結晶化を誘発することができるが、この場合、患者ベッドが再び温められるので、患者支持装置は、凝固時に生じる熱を奪うために、放熱装置/冷却装置を備えることが有益である。またそれに加えて、本態様の場合、例えばパラフィンは、固体から液体への相転移時に10%〜30%程度の体積変化を示すので、カバーの第2の材料が弾性的に伸縮可能であることが有益であり、このことは、カバーの第2の材料の選択の際に考慮したほうがよい。
【0016】
本発明の範囲において好適である上述の酢酸ナトリウム三水和物と並んで、別の有益な潜熱蓄熱材料は、いわゆるPCMワックス、例えば、ドイツ国ベルリンのRubitherm Technologies GmbHからRT25という商品名で販売されている材料である。この材料は、約22℃〜26℃という好適な融点をもつ。
【0017】
好ましい一態様において、第1の材料として発泡材が用いられるか、又は発泡材を含む第1の材料が用いられる。発泡材は、潜熱蓄熱材料を埋め込むことができる基盤として特に好適で、これは、目下の研究対象でもある。発泡材は、蓄熱特性及び発熱特性を調節して作用させることができ、したがって、蓄熱特性がそれほど重要でない本発明の範囲では有用である。
【0018】
一態様において、第1の材料は、電界か磁界又はその両方の影響下で粘度が変化する液体であるか又はそうした液体を含む。このような液体は、電気粘性流体又は磁気粘性流体とも称される。この態様において誘起装置は、例えば、対応場発生器を備える。
【0019】
本発明に係る第2の材料として少なくとも1種のプラスチックを使用することができるし、該第2の材料に少なくとも1種のプラスチックを含むことができる。必要な可撓性と場合によっては弾性を有すると共に、関連する使用範囲において相安定である好適なプラスチックは、従来技術において既に多数知られているため、ここで詳細に説明する必要はない。
【0020】
本発明の有益な一態様において、第1の材料及び第2の材料は、X線に対して実質的に同じ減衰性を有する。この態様によると、屈折や他の作用をもたらし得る異なる減衰性の遷移が最大限回避され、X線透過性によってもともと僅かしかない患者ベッドの影響が更に低減される。撮像におけるアーティファクトが最小限に抑えられる。
【0021】
本発明の好ましい態様において、第2の材料は、相転移時に生じる体積変化を補償するためか、又は第1の材料の材料厚さの均一分布を促進するために、あるいはその両方のために、少なくとも、弾性をもつか、形状安定化のために形成されて第1の材料のための貫通孔を有する少なくとも1つのブリッジ材を有するか、又は、所定のヒンジ部位のみが可撓性である。「ブリッジ材」は、本明細書において広義に解釈されるべきである。ブリッジ材により画定されるハニカムが広がり、このハニカムが、20mm〜40mmの範囲、例えば30mmの大きさを有する。ハニカムは、開口を提供する六角形状に形成することができる。
【0022】
使用可能で有用な第1の材料の中には相転移時に体積変化を示すものがあるので、第2の材料の特定の弾性を提供してその体積変化を補償することが有益である。一方、そのような弾性は、患者ベッドが所定の厚さに戻るために、したがって全体の厚さが表面全体で可能な限り一定に保たれるためにも有益である。
【0023】
一方、付加的又は代替的に、カバー内に、形状安定化のために形成されて第1の材料のための貫通孔を有する少なくとも1つのブリッジ材を設けることが特に有益である。この、安定化に加えて第1の材料の行き来も可能にするブリッジ材は、例えば、エアマットレスの分野から既知である。一例として、患者ベッドの形状変化が主として患者ベッドの長手方向に沿って起きる場合において、ブリッジ材は、短区間の可撓性の喪失があまり重要ではない患者ベッドの領域で横方向に設けられる。当然ながら、横方向における形状変化が望まれる場合、横方向において患者ベッドの一部のみにあるブリッジ材も考えられる。
【0024】
基本的には想定されるけれどもそれほど好ましくはない一態様において、第2の材料は、所定のヒンジ箇所においてのみ可撓性である、すなわち、変形が生じ得る箇所が最初から決まっている。この所定のヒンジ箇所以外では、第1の材料は可撓性でないように選択され、したがって、ここでは患者ベッドの一定の厚さも保証される。しかしながら、この態様には、患者ベッドの範囲を区切って第2の材料の異なる構成が必要であり、このことは、製造技法的にあまり好ましくなく、また、患者ベッドの調節に関して提供されるべき可撓性の低下をもたらし得る。
【0025】
誘起装置は、好ましくは、相転移の種類に応じて、熱、冷却、又は電流、あるいはこれら1つ以上の組み合わせによってエネルギー投入又はエネルギー放出をもたらすように構成することができる。例えば、誘起装置は、加熱装置、冷却装置、結晶化誘発装置−例えばスナッププレートと圧電素子のいずれか又は両方、又は例えば少なくとも2つの電極を備えた通電装置、あるいはこれら1つ以上の組み合わせとして構成することができる。例えば、第1の材料を融解させる場合、十分な熱を供給するために、加熱装置を誘起装置として使用することができる。これに対応して、逆方向の相転移に関し、場合によっては更なる誘起装置として冷却装置を設けることもできる。また、結晶化誘発装置は、既に説明したように、誘起されると例えば発熱しながら結晶化して凝固する第1の材料、例えばパラフィンが使用される場合に有用である。ここでは特に、例えば、カイロから既知のスナッププレートと圧電素子のいずれか又は両方の態様を使用可能である。第1の材料が凝固のために熱を発する場合、結晶化誘発装置に加えて、放熱装置としての冷却装置も設けることができる。
【0026】
本発明の好ましい一態様において、患者支持装置は、患者ベッドに対する準備装置を備え、該準備装置は、
患者ベッドに対する少なくとも1つの支承面部と、
支承面部に作用する少なくとも1つの調節機構とを備える。
【0027】
この態様の支承面部は、その大きさを患者ベッドの大きさに対して適合させることが好ましい。患者ベッドが第1の材料の変形可能状態で支承面部上に置かれる場合、患者ベッドに目標とする規定の変形をもたらすために、準備装置の調節機構を使用することができる。この場合、調節機構は、例えば、X線画像監視を受けるべき患者に対する手術のために有用な全ての姿勢へ調節が可能であるように設けることができる。
【0028】
一態様において、調節機構のうちの少なくとも1つは、支承面部の一部分を、これに隣接する支承面部の部分に対して曲げるためのヒンジとすることができる。しかし、当然ながら、調節機構の別の形態も基本的には可能である。
【0029】
準備装置は、手術台又は架台とすることができる。(少なくとも部分的にX線透過性ではない)手術台は、ほぼいずれの場合にも対応する調節可動性が既に与えられているという利点をもつ。また特に、手術台は実際の患者と共に準備することができ、その後、最終的に、手術台の設定の言わば「複製」を、患者ベッドを用いて得ることができる。したがって、手術台の調節可動性は、X線装置の患者支持に、言うなれば、引き継ぐことができ、加えて、X線透過性も確立される。
【0030】
以上の他、特により費用対効果の高い方法によると、準備装置として架台を設けることができ、この架台は、機械的な頑強性及び安定性に対する要求が非常に低く、患者ベッドに対し要求される様々な変形可動性をやはり備え得る。例えば、架台において、手術台の標準的な調節可動性、例えば、患者の関節の位置に対応する調節機構を転用することができる。
【0031】
変形可能状態において、患者の脚のそれぞれに対して臥床面を独立して調節するために、患者脚部の支持に提供される脚部領域において患者ベッドに、長手方向に延在する切り込みをもたせるのが有益であることがわかっている。すなわち、患者の股関節の位置よりも下半身側で患者ベッドを、横方向において二分割して、長手方向に切り込みを設けることにより、変形可能状態での形状付与時に患者の脚のそれぞれに対し別々の調節を行うこと、例えば、片脚だけを下方に曲げて支持すること、を可能にする。これは、腹腔鏡手術の場合に有利である。別の例では、脚を広げて支持する、すなわち、少なくとも片脚を横方向に傾けて支持する。このために、長手方向の切り込みに加えて、具体的にはその端部に続けて、横方向にも少なくとも1つの切り込みを設けることができる。切り込みを設ける場合、準備装置は、患者ベッドの各脚部分に対応する調節機構を備えるとよい。
【0032】
支持体にも位置の可動性、すなわち具体的には調節装置を同様に設けることができる。特に、少なくとも1つの支柱として形成された支持体の場合、少なくとも高さが調節可能になっているのが有益であることがわかっている。これにより、具体的な手術環境に更に適合させることができる。考えられる他の調節装置は、患者ベッドを傾斜させることも可能にするものである。
【0033】
特に手術と治療のいずれか又は両方の範囲に含まれる検査に関して、患者支持装置、特に患者ベッドは、患者を固定する通常の固定手段も備えることができるのは当然である。
【0034】
上記患者支持装置の他に、本発明は、当該患者支持装置の患者ベッドを調節する方法も対象とし、この方法は、
第1の材料の変形可能状態を、特に相転移の誘起によって引き起こすステップと、
該患者ベッドを、特に支持体から取り外した状態で変形させるステップと、
第1の材料の安定状態を、特に相転移の誘起によって確立するステップとを含む。
【0035】
本発明に係る患者支持装置に関する全ての説明は、本発明に係る方法にも同様にあてはまり、したがって、既に述べた利点も同様に保持する。
【0036】
例えば、本発明に係る方法においても、準備装置を使用することができ、この場合、まず、解除可能固定装置によって患者ベッドを支持体から取り外し、該患者ベッドを準備装置の支承面部に配置して、調節機構を用いて形状調節する。第1の材料の安定状態を、特に誘起装置の使用によって再び確立した後、解除可能固定装置により当該患者ベッドを支持体に再び取り付ける。その後、患者を位置決めし、患者に対する手術を開始することが可能である。手術では、患者ベッドがX線透過性であるから、X線装置により高品位の監視を行うことができる。
【0037】
このときに注目すべきは、相転移を必ず一方向にのみ誘起する態様が可能であるということである。例えば、水が第1の材料である場合の患者ベッドは、使用後は最終的に再び「自動的に」解凍し、第1の材料が変形可能状態に戻る。
【0038】
本発明の更なる利点及び詳細は、図面を参照して以下に説明する実施形態から明らかとなる。