(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6930275
(24)【登録日】2021年8月16日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20210823BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-153758(P2017-153758)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-33603(P2019-33603A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2020年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【審査官】
東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−220768(JP,A)
【文献】
特開2008−178159(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/126205(WO,A1)
【文献】
特開2000−232800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42− 7/98
H02P 21/00−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路により駆動されるモータと、
前記インバータ回路と前記モータとの間に設けられたフィルタ回路と、
前記インバータ回路の出力電流を検出する電流検出手段と、
周波数設定値に比例した電圧指令値を生成するf/V変換部と、
前記電圧指令値に基づいて、PWM制御を行い、前記インバータ回路を制御するPWM制御部と、
前記フィルタ回路による電圧降下分を補償するための電圧補正量を算出する電圧補正量算出部と、
前記電圧指令値に前記電圧補正量を加算して前記電圧指令値を補正する加算器と、を備え、
前記電圧補正量算出部は、
前記インバータ回路の出力電流の振幅を演算する電流演算部と、
前記出力電流の振幅からキャリアリプルと検出ノイズを除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの出力と、前記フィルタ回路による電圧降下を補償するための前記周波数設定値に応じて可変となるゲインと、を乗算する乗算器と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記電圧補正量算出部は、
前記周波数設定値に応じたゲインを予めテーブルに記憶させておくことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置に係り、特に、モータを駆動するV/f制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、一般的な電力変換装置のV/f制御方式における最もシンプルな構成を示す。V/f制御方式は出力電圧Vと出力周波数fの比率を一定に制御するものである。通常は、モータ6の定格周波数時に定格電圧を出力するようにV/fを設定する。
【0003】
V/f制御方式に関する技術については、特許文献1〜3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−253163号公報
【特許文献2】特開2001−145398号公報
【特許文献3】特開平11−289792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4に示すように、インバータ回路5のスイッチングによるモータ6のサージ電圧低減やモータ6に印加される電流の高調波成分除去のために、インバータ回路5とモータ6との間にLCフィルタ等のフィルタ回路7を設ける場合がある。
【0006】
この時、この フィルタ回路7により電圧降下が生じるため、モータ6に印加 される電圧は、 この電圧降下分低下してしまう。そのため、モータ6の出力できるトルクが減少し、同期電動機を用いた際、最悪の場合には脱調してしまう可能性がある。
【0007】
また、フィルタ 回路7の電圧降下分をあらかじめV/fパターンに上乗せしておくことで、モータ6に必要な電圧を印加することは可能である。しかしながら、フィルタ回路7の電圧降下は出力周波数と流れる電流に応じて変わる。そのため、周波数に応じて負荷が一意的に決まるような場合は、上乗せする電圧降下分を設定することは容易である。
【0008】
しかし、周波数に応じて負荷が一意的に決まらない場合は、想定される最大の負荷がかかっても電圧が不足しないように電圧を設定することになる。その場合、軽負荷時には必要な電圧より高い電圧がモータ6に印加されることとなり、無効電流が多く流れ、インバータ回路5やモータ6の損失を増加させてしまう。
【0009】
以上示したようなことから、電力変換装置において、フィルタ回路による電圧降下分を適切に補償することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されるモータと、前記インバータ回路と前記モータとの間に設けられたフィルタ回路と、前記インバータ回路の出力電流を検出する電流検出手段と、周波数設定値に比例した電圧指令値を生成するf/V変換部と、前記電圧指令値に基づいて、PWM制御を行い、前記インバータ回路を制御するPWM制御部と、前記フィルタ回路による電圧降下分を補償するための電圧補正量を算出する電圧補正量算出部と、を備え、前記電圧指令値に前記電圧補正量を加算して前記電圧指令値を補正することを特徴とする。
【0011】
また、その一態様として、前記電圧補正量算出部は、前記インバータ回路の出力電流と、前記フィルタ回路による電圧降下を補償するための前記周波数設定値に応じて可変となるゲインと、に基づいて、前記電圧補正量を算出することを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記電圧補正量算出部は、前記周波数設定値に応じたゲインを予めテーブルに記憶させておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力変換装置において、フィルタ回路による電圧降下分を適切に補償することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における電力変換装置を示すブロック図。
【
図2】実施形態におけるゲインテーブルの設定例を示すグラフ。
【
図3】従来の電力変換装置のV/f制御方式の一例を示す図。
【
図4】従来のLCフィルタを有する電力変換装置のV/f制御方式の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明における電力変換装置の実施形態を
図1,
図2に基づいて詳述する。
【0016】
[実施形態]
図1は、本実施形態における電力変換装置を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態における電力変換装置は、周波数設定部1と、加減速変化率制限部2と、f/V変換部3と、PWM制御部4と、インバータ回路5と、モータ6と、フィルタ回路(例えば、LCフィルタ)7と、電流検出部8と、電圧補償量算出部15と、加算器14と、を備える。
【0017】
電圧補償量算出部15は、3相2相変換部9と、電流演算部10と、ローパスフィルタ(LPF)11と、ゲインテーブル12と、乗算器13と、を有する。
【0018】
周波数設定部1は、駆動するモータ6の周波数を設定する。加減速変化率制限部2は、周波数を設定・変更した際に、周波数の変化率に制限をかけて、周波数設定値を出力する。f/V変換部3は、周波数設定値に比例した電圧に変換して、電圧指令値を生成する。PWM制御部4は、電圧指令値をPWM変換し、インバータ回路5のゲート指令を生成する。インバータ回路5は、 ゲート指令にしたがって、直流電力を交流電力に変換し、モータ6に電圧を出力する。
【0019】
電流検出部8は、インバータ回路5から出力される三相の出力電流を検出する。本実施形態では、
図1に示すように、三相のうち二相の出力電流を検出し、その二相の出力電流から残り一相の電流を導出するが、三相の出力電流を検出しても良い。
【0020】
3相2相(α−β)変換部9は、インバータ回路5の出力電流を3相から2相に座標変換する。電流演算部10は、3相2相変換した出力電流の二乗和平方根を演算し、出力電流の振幅を演算する。なお、電流演算部10の演算は、実効値演算でも良い。
【0021】
ローパスフィルタ11は、電流演算部10で演算した出力電流の振幅値から、キャリアリプルや検出ノイズを除去する。また、モータ6の負荷急変等により急峻に出力電流が変化した場合、出力電流の変化が電圧の補正に直結するので、電圧の急変も抑制する。
【0022】
ゲインテーブル12は、周波数設定値に応じた電圧を補正するためのゲインKfがテーブル化されている。加減速変化率制限部2から出力された周波数設定値に基づいて電圧を補正するためのゲインKfを出力する。
【0023】
乗算器13は、ゲインテーブル12から出力されたゲインKfとローパスフィルタ11の出力値を乗算して、V/fパターンの電圧を補正する電圧補正量を出力する。加算器14は、f/V変換部3の出力する周波数に比例した電圧指令値に乗算器13の出力する電圧補正量を加算する。
【0024】
フィルタ回路7で生じる電圧降下分は電流と周波数により変わるが、この電圧降下分を補正するため、インバータ回路5の出力電流と周波数に応じて可変となるゲインKfを用いて、(1)式に従って、電圧補正量を演算する。
【0026】
この時、周波数に応じて可変となるゲインKfのゲインテーブルの設定例を
図2に示す。加減速変化率制限部2から出力された周波数設定値に応じて、可変となるゲインKfを設定する。
図2では例として周波数設定値25%刻みでゲインKfを設定し、設定値の間は線形補間するような構成としているが、周波数に応じてゲインKfを変えられるように設定されていればよい。このゲインKfとインバータ回路5の出力電流を乗じたものが電圧補正量となる。
【0027】
ここで、フィルタ回路7の電圧降下分はリアクトルLによる電圧降下分が主となる。このリアクトルLの電圧降下はωLIで計算できるので、このゲインテーブル12ではωLに相当するゲインを設定すれば良いが、厳密にはインバータ回路5の電圧と電流の位相が異なるため電圧補正量は電流に対し線形の形に はならない。そのため、実測に合わせてゲインテーブル12により補正可能な構成としている。
【0028】
上記電圧補正量をf/V変換部3で周波数設定値に比例した電圧を出力するようにするが、この時、このf/V変換部3で出力する電圧指令値はモータ6の無負荷電圧相当(モータ定数(設計値)から設定または実測により設定)になるように設定する。
【0029】
以上示したように、本実施形態によれば、周波数や負荷に応じて電圧指令値を補正することが可能となり、フィルタ回路7による電圧降下分による脱調や電圧過多による効率低下を回避することが可能となる。また、モータ6やフィルタ定数が同じであれば、ゲインテーブル12の設定は変更する必要がない。すなわち、ゲインテーブル12の設定は、負荷特性が変わっても影響がない。
【0030】
特許文献1は、V/f制御の高効率運転に関するものであるが、制御方式が無効電流や電流位相を制御するものであり、本実施形態とは異なる。また、インバータ回路5の出力にフィルタ回路7が接続された場合のことは考慮されていない。
【0031】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0032】
1…周波数設定部
2…加減速変化率制限部
3…f/V変換部
4…PWM制御部
5…インバータ回路
6…モータ
7…フィルタ回路(LCフィルタ)
8…電流検出部
9…3相2相変換部
10…電流演算部
11…ローパスフィルタ
12…ゲインテーブル
13…乗算部
14…加算部
15…電圧補償量算出部