(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6930315
(24)【登録日】2021年8月16日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両のフロントフェンダ構造
(51)【国際特許分類】
B62J 15/00 20060101AFI20210823BHJP
【FI】
B62J15/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-173735(P2017-173735)
(22)【出願日】2017年9月11日
(65)【公開番号】特開2019-48556(P2019-48556A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 裕次郎
【審査官】
田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−338428(JP,A)
【文献】
特開2008−213619(JP,A)
【文献】
特開2016−049902(JP,A)
【文献】
特開2015−033902(JP,A)
【文献】
特開2011−016500(JP,A)
【文献】
特開2010−228719(JP,A)
【文献】
特開2010−070111(JP,A)
【文献】
特開2007−186114(JP,A)
【文献】
特開2007−030590(JP,A)
【文献】
特開2002−187588(JP,A)
【文献】
特開平06−298145(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第106553721(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第103847854(CN,A)
【文献】
中国実用新案第206141693(CN,U)
【文献】
中国実用新案第206031608(CN,U)
【文献】
中国実用新案第203958439(CN,U)
【文献】
中国実用新案第202295102(CN,U)
【文献】
中国実用新案第201890307(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフォークに支持される前輪と、この前輪の上方及び側方を覆うフロントフェンダと、前記前輪に回転一体に設けられたブレーキディスクが、前記フロントフォークに取り付けられたブレーキキャリパに挟み込まれることで前記前輪を制動するディスクブレーキと、を有する鞍乗型車両において、
前記フロントフェンダは、前記前輪の側面且つ前記フロントフォークの前方の位置で下方へ延びる前脚部と、前記前輪の側面且つ前記フロントフォークの後方の位置で下方へ延びる後脚部と、前記前輪と前記フロントフォークの間で、前記前脚部と前記後脚部を連結する繋ぎ部と、を備え、
前記繋ぎ部は、車両側面視で下縁部が前記後脚部から前記前脚部に至るまで前下方へ直線状に傾斜して設けられ、前記下縁部における前記前脚部側の端部が傾斜下端となり、更に、前記下縁部にリブが突出して形成され、
前記下縁部の前記傾斜下端が、車両平面視で前記ブレーキディスクよりも外方に位置づけられて構成されたことを特徴とする鞍乗型車両のフロントフェンダ構造。
【請求項2】
前記前脚部には、繋ぎ部の下縁部の傾斜下端に連続して下方及び外側方へ延びるガイド部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両のフロントフェンダ構造。
【請求項3】
前記リブは、繋ぎ部の外面及び内面に、それぞれ車幅方向に突出して形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗型車両のフロントフェンダ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキにより制動される前輪の上方及び側方をフロントフェンダが覆い、このフロントフェンダがフロントフォークのサスペンションメンバ間に配置される鞍乗型車両のフロントフェンダ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動二輪車におけるフロントフェンダの内側を可撓性シート部材で被覆し、泥等を上記シート部材に付着させ、泥等の重量で上記シート部材を垂れ下げさせて、泥等を自動的に除去する車両の泥除け装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭61−307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述の特許文献1に記載の車両の泥除け装置では、フロントフェンダが覆う前輪がディスクブレーキにより制動される場合、フロントフェンダよりも下方に位置するディスクブレーキのブレーキディスクやブレーキキャリパへの泥等の付着を抑制することができない。フロントフェンダからの泥や泥水がブレーキディスクやブレーキキャリパに付着すると、ブレーキキャリパのブレーキパッド及びブレーキディスクが泥や泥水によって摩耗する恐れがある。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、フロントフェンダからディスクブレーキへの泥水の流下及び付着を防止できる鞍乗型車両のフロントフェンダ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鞍乗型車両のフロントフェンダ構造は、フロントフォークに支持される前輪と、この前輪の上方及び側方を覆うフロントフェンダと、前記前輪に回転一体に設けられたブレーキディスクが、前記フロントフォークに取り付けられたブレーキキャリパに挟み込まれることで前記前輪を制動するディスクブレーキと、を有する鞍乗型車両において、前記フロントフェンダは、前記前輪の側面且つ前記フロントフォークの前方の位置で下方へ延びる前脚部と、前記前輪の側面且つ前記フロントフォークの後方の位置で下方へ延びる後脚部と、前記前輪と前記フロントフォークの間で、前記前脚部と前記後脚部を連結する繋ぎ部と、を備え、前記繋ぎ部は、車両側面視で下縁部が
前記後脚部から前記前脚部に至るまで前下方へ
直線状に傾斜して設けられ、
前記下縁部における前記前脚部側の端部が傾斜下端となり、更に、前記下縁部にリブが突出して形成され、前記下縁部の
前記傾斜下端が、車両平面視で前記ブレーキディスクよりも外方に位置づけられて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フロントフェンダの繋ぎ部に付着した泥水を、この繋ぎ部の下縁部のリブにより塞き止め、このリブに沿って下縁部の傾斜下端まで導き、この傾斜下端からブレーキディスクの外方を通って地面に流下させ、ブレーキディスクに流下させない。この結果、フロントフェンダからの泥水がディスクブレーキに付着することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る鞍乗型車両のフロントフェンダ構造の一実施形態が適用された自動二輪車の前輪、フロントフォーク及びフロントフェンダ等を示す右側面図。
【
図2】
図1のフロントフォークを取り外して示す右側面図。
【
図3】
図2のフロントフェンダを斜め後上方から目視して示す斜視図。
【
図4】
図3のフロントフェンダを裏面側から目視して示す斜視図。
【
図6】
図2のフロントフェンダの右繋ぎ部を拡大して示す右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。この実施形態において、上下、左右、前後の表現は、車両に乗車した乗員(特に運転者)を基準にしたものである。
【0010】
図1に示すように、鞍乗型車両としての自動二輪車のフレーム前端にヘッドパイプ11が設けられ、このヘッドパイプ11に、左右一対のサスペンションメンバ12から構成されるフロントフォーク13が、左右方向に回転自在に支持される。フロントフォーク13の左右のサスペンションメンバ12の下端部に、前輪14が回転自在に支持される。また、フロントフォーク13の左右のサスペンションメンバ12は、上部がアッパブリッジ15A及びロアブリッジ15Bにより一体に結合され、アッパブリッジ15Aに図示しないハンドルバーが締結されている。
【0011】
フロントフォーク13の左右のサスペンションメンバ12間に、前輪14の上方及び側方を覆うフロントフェンダ16が配置される。このフロントフェンダ16は、フロントフォーク13の左右のサスペンションメンバ12の下端に設けられたブラケット17A及び17Bに、取り付けボルト18を用いて取り付けられる。また、フロントフェンダ16は合成樹脂や鋼板などで構成される。
【0012】
前輪14の片側(例えば右側)には、リング形状のブレーキディスク21が回転一体に取り付けられる。また、フロントフォーク13の片側(例えば右側)のサスペンションメンバ12の下端部に設けられたブラケット23に、ブレーキキャリパ22が、フロントフォーク13に対して後方位置に固定して取り付けられる。ブレーキキャリパ22が図示しないブレーキパッドを介してブレーキディスク21を両側から挟み込むことで、前輪14が制動される。従って、これらのブレーキディスク21及びブレーキキャリパ22がディスクブレーキ20を構成する。
【0013】
ところで、前述のフロントフェンダ16は、
図2〜
図4に示すように、フェンダ本体25と、このフェンダ本体25の左右のそれぞれに一体化された左前脚部26A及び右前脚部26Bと、フェンダ本体25の左右のそれぞれに一体化された左後脚部27A及び右後脚部27Bと、左前脚部26Aと左後脚部27Bを連結する左繋ぎ部28Aと、右前脚部26Bと右後脚部27Bを連結する右繋ぎ部28Bと、を有して構成される。
【0014】
フェンダ本体25は、前輪14の上方及び側方を覆う。左前脚部26A及び右前脚部26Bは、前輪14の側面及びフロントフォーク13のサスペンションメンバ12における前方に位置し、フェンダ本体25から下方へ延びて形成される。左後脚部27A及び右後脚部27Bは、前輪14の側面及びフロントフォーク13のサスペンションメンバ12における後方に位置し、フェンダ本体25から下方へ延びて形成される。これらの左前脚部26A、右前脚部26B、左後脚部27A及び右後脚部27Bに、取付ボルト18の挿通用のボルト挿通孔29が形成されている。
【0015】
右繋ぎ部28Bが右前脚部26Bと右後脚部27Bを連結し、左繋ぎ部28Aが左前脚部26Aと左後脚部27Bを連結することで、これらの右繋ぎ部28B及び左繋ぎ部28Aによりフロントフェンダ16の強度が高められる。フロントフェンダ16には、右繋ぎ部28Bとフェンダ本体25に囲まれて右開口30Bが、左繋ぎ部28Aとフェンダ本体25に囲まれて左開口30Aがそれぞれに形成される。これらの左開口30A及び右開口30Bは、フロントフェンダ16と、前輪14及びフロントフォーク13のサスペンションメンバ12との干渉を防止する機能を果たす。
【0016】
また、特に
図5に示すように、右繋ぎ部28Bは、前輪14とフロントフォーク13の右側のサスペンションメンバ12との間で、このサスペンションメンバ12の外周に沿って湾曲形状に形成される。この右繋ぎ部28Bと同様に、左繋ぎ部28Aも、前輪14とフロントフォーク13の左側のサスペンションメンバ12との間で、このサスペンションメンバ12の外周に沿って湾曲形状に形成される。このうち右繋ぎ部28Bは、その一部がブレーキディスク21の直上に位置する。
【0017】
また、右繋ぎ部28Bは、
図2及び
図6に示す車両側面視において、上縁部31が、フロントフォーク13のサスペンションメンバ12の軸線Oに対して直交して設けられ、下縁部32が、上縁部31に対して前下方へ傾斜して設けられる。更に、右繋ぎ部28Bの下縁部32には、
図6及び
図7に示すように、右繋ぎ部28Bの外面及び内面に、それぞれ1本または複数本(本実施形態では1本)のリブ33が、略車幅方向に突出して形成されている。このリブ33が形成された下縁部32の傾斜下端34は、
図5に示すように、車両平面視でブレーキディスク21よりも車両外方に位置づけられる。
【0018】
図2及び
図6に示す右繋ぎ部28Bの下縁部32にリブ33が形成されることにより、右繋ぎ部28Bの外面及び内面に付着した泥水のブレーキディスク21への流下が塞き止められる。また、右繋ぎ部28Bの下縁部32が上縁部31に対して前下方へ傾斜して形成されたのは、右後脚部27Bよりも長い右前脚部26Bの長さを有効に利用して、リブ33により塞き止められた泥水を、ブレーキキャリパ22から離れた位置(即ちフロントフォーク13に対する車両前方側)へ誘導するためである。
【0019】
更に、右繋ぎ部28Bの下縁部32の傾斜下端34が、
図5に示す車両平面視でブレーキディスク21よりも車両外方に位置づけられることで、リブ33により塞き止められ且つ下縁部32の傾斜により傾斜下端34に誘導された泥水は、ブレーキディスク21に流下することなく地面に流れ落ちる。
【0020】
図2〜
図5に示すように、右前脚部26Bには、右繋ぎ部28Bの下縁部32の傾斜下端34に連続して下方及び外側方へ順次延びるガイド部35が形成されている。このガイド部35は、
図2に示す車両側面視で、ブレーキディスク21の外径部21Aから内径部21Bまでの範囲において、凸形状(例えばリブ)または凹形状(例えば溝)に形成される。従って、右繋ぎ部28Bの下縁部32の傾斜下端34に導かれた泥水がガイド部35に沿って流れることで、この泥水がブレーキディスク21に飛散して付着することなく、このブレーキディスク21から更に離れた位置に導かれる。
【0021】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
【0022】
(1)
図2、
図3、
図5及び
図6に示すように、フロントフェンダ16の右繋ぎ部28Bは、車両側面視で下縁部32が上縁部31に対して前下方に傾斜して設けられ、この下縁部32にリブ33が突出して形成され、下縁部32の傾斜下端34が、車両平面視でブレーキディスク21よりも外方に位置づけられて構成されている。このため、フロントフェンダ16の右繋ぎ部28Bに付着した泥水を、この右繋ぎ部28Bの下縁部32のリブ33により塞き止め、このリブ33に沿って下縁部32の傾斜下端34まで重力により導き、この傾斜下端34からブレーキディスク21の外方を通って地面に流下させ、ブレーキディスクに流下させない。この結果、フロントフェンダ16からの泥水がディスクブレーキ20に付着することを防止でき、ブレーキキャリ22のブレーキパッドとブレーキディスク21の泥水による摩耗を防止できる。
【0023】
(2)
図6及び
図7に示すように、フロントフェンダ16における右繋ぎ部28Bの下縁部32にリブ33が形成されたことで、この右繋ぎ部28Bの縦断面係数が増大し、フロントフェンダ16の全体の剛性を向上させることができる。
【0024】
(3)
図1、
図2及び
図6に示すように、フロントフェンダ16における右繋ぎ部28Bの下縁部32に形成されたリブ33は、フロントフォーク13の右側のサスペンションメンバ12によって隠される位置に形成されているので、このリブ33が車両外観に与える影響を最小限に抑制できる。
【0025】
(4)
図2、
図3及び
図5に示すように、フロントフェンダ16における右前脚部26Bには、右繋ぎ部28Bの下縁部32の傾斜下端34に連続して下方及び外側方へ順次延びるガイド部35が形成されている。このため、右繋ぎ部28Bの下縁部32からの泥水をガイド部35に導くことで、この泥水をブレーキディスク21の下方及び外側方へ更に案内して、ブレーキディスク21への流下及び付着を確実に防止できる。
【0026】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、本実施形態では、鞍乗型車両が自動二輪車の場合を述べたが、自動三輪車であってもよい。
【符号の説明】
【0027】
13…フロントフォーク、14…前輪、16…フロントフェンダ、20…ディスクブレーキ、21…ブレーキディスク、22…ブレーキキャリパ、26B…右前脚部、27B…右後脚部、28B…右繋ぎ部、32…下縁部、33…リブ、34…傾斜下端、35…ガイド部。