(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエチレン系ワックス、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン系ワックス乳化物、酸化ポリエチレン系ワックスおよびパラフィンワックスから選ばれるワックスを含有するブロッキング防止剤を、0.0001g/m2以上含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の全熱交換器エレメント用原紙。
【背景技術】
【0002】
従来、冷房や暖房の効果を損なわずに換気できる装置として、換気の際に給気と排気との間で熱交換をさせる熱交換換気装置(熱交換器)が提案されている。この熱交換器としては、全熱交換器エレメント(以下エレメントともいう)を有するものが広く採用されている。当該エレメントは、スペーサーを介して複数の仕切り板(ライナー)を積層させ、室外の空気を室内に導入する給気経路と、室内の空気を室外に排出する排気経路とを区画するものである。
【0003】
顕熱(温度)と同時に潜熱(湿度)の熱交換を行う全熱交換器エレメントのライナー部分は、伝熱性と透湿度の両方を有する必要があるため、多くの場合、天然パルプを主成分とする紙が用いられている。
【0004】
さらに、全熱交換器エレメントに使用する原紙、特にライナー部に使用する原紙としては、伝熱性と透湿度以外にも、高い耐熱性(防炎性)、及び、該ライナーを介して給気と排気が交じり合わないように、ガスバリア性(主としてCO
2バリア性)が求められている。
【0005】
従って、全熱交換器エレメント用原紙には、塩化カルシウム等の各種吸湿剤や難燃剤等の配合が検討されており、下記のような従来技術が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、吸放湿性向上として吸放湿性粉体(例えば、シリカゲルやアルミナなど)を配合することが記載されている。
特許文献2には、高叩解度の原料を使用することで、気体遮蔽性の優れた原紙を得ることが記載されている。
特許文献3には、紙基材に対して塩化カルシウムを所定量含有させることにより、高い防炎性、高ガスバリア性、高CO
2バリア性を有した全熱交換器エレメント用原紙が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、全熱交換器エレメント用原紙としては、防炎性と高い熱交換効率を兼ね備えた構成が求められており、熱交換効率を高めるために、種々の吸湿剤や吸放湿粉体の配合が検討されてきた。しかし、防炎性と熱交換効率とのバランスに優れ、生産性、コスト等をバランス良く兼ね備え、かつ、高い透湿度を有する配合処方が確立できずにいた。
【0009】
即ち、吸湿剤及び防炎剤として一般的に用いられる塩化カルシウムを使用すると、設備(抄紙機、カレンダー、ワインダーなどの全熱交換器エレメント用原紙製造工程やエレメント加工工程での設備)にサビが発生しやすくなることがある。また、防炎性を向上させるため等の理由で紙基材へ塩化カルシウムを多量に添加すると、特に高温高湿雰囲気下で吸湿量が過剰になり、結露が生じて液ダレを起こすという問題がある。
【0010】
塩化カルシウム以外の吸湿剤として、有機酸塩や無機粒子等を使用する技術も多数存在する。しかし、これらの技術によれば、防炎性を付与するために、別途防炎剤を加える必要があり、生産性やコスト面で問題があった。また、特許文献2のように、原紙の叩解を進めることにより、ガスバリア性の優れたエレメント用原紙を得る技術が開示されている。しかし、原紙を高叩解度とすることは、抄紙時の生産効率が低下するばかりか、得られた原紙が脆くなり、エレメント生産時に問題が発生するおそれがある。また、特許文献3のように、塩化カルシウムの塗工で防炎性と高ガスバリア性を得る技術が記載されているが、透湿度2500g/m
2・24hrを超える原紙は得られていなかった。
【0011】
また、全熱交換器エレメント用原紙の低坪量化や薄葉化は、エレメントの軽量化や、同サイズでのエレメントの積層段数の増加を可能にするため、熱交換効率の向上にも有効である。そのため、性能を維持しつつ、全熱交換器エレメント用原紙を低坪量化や薄葉化することに対する要望は高い。
【0012】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、低坪量でありながら、透湿度が高く、適度の吸湿率を有し、防炎性およびガスバリア性にも優れた全熱交換器エレメント用原紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、低坪量でありながら、紙基材のフリーネスを特定の範囲とし、塩化カルシウムの含有量を所定の範囲に管理することにより、上記課題を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のような構成を有している。
【0014】
(1)紙基材に塩化カルシウムを含有させた全熱交換器エレメント用原紙であって、前記紙基材は、パルプ採取量を0.3g/Lとした以外はJIS P 8121に準じて測定したフリーネスが200〜600mlのパルプを含有し、前記紙基材の絶乾坪量が、17g/m
2以上、23g/m
2未満であり、前記塩化カルシウムの含有量が6g/m
2以上、9g/m
2未満であることを特徴とする全熱交換器エレメント用原紙。
【0015】
(2)厚さが40μm以下である前記(1)に記載の全熱交換器エレメント用原紙。
【0016】
(3)密度が0.9〜1.2g/cm
3である前記(1)または前記(2)に記載の全熱交換器エレメント用原紙。
【0017】
(4)温度20℃、相対湿度65%における透湿度が、2600g/m
2・24hr以上である前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の全熱交換器エレメント用原紙。
【0018】
(5)前記パルプに占める針葉樹晒クラフトパルプの割合が80質量%以上である前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の全熱交換器エレメント用原紙。
【0019】
(6)ポリエチレン系ワックス、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン系ワックス乳化物、酸化ポリエチレン系ワックスおよびパラフィンワックスから選ばれるワックスを含有するブロッキング防止剤を、0.0001g/m
2以上含有する前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の全熱交換器エレメント用原紙。
【発明の効果】
【0020】
本発明の全熱交換器エレメント用原紙は、低坪量でありながら、透湿度が高く、適度の吸湿率を有し、防炎性およびガスバリア性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の全熱交換器エレメント用原紙(以下「エレメント用原紙」とも言う)は、所定の紙基材に塩化カルシウムを所定量含有させたものである。以下、エレメント用原紙を構成する各部材について説明する。
【0022】
(紙基材)
本発明の紙基材は、主としてパルプから構成されている。紙基材の原料として使用されるパルプの種類としては、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、脱墨パルプ(DIP)等の木材パルプが挙げられる。これらのパルプは、1種単独、または2種以上を組み合わせて使用することができる。パルプの蒸解方法や漂白方法は特に限定されない。これらのパルプの中でも、原紙の強度を向上させ、CO
2バリア性等の発現効果を向上させるため、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を含有することが好ましい。パルプに占める針葉樹晒クラフトパルプの割合は、80質量%以上が好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0023】
また、木材パルプ以外にも、麻パルプやケナフ、竹などの非木材パルプが使用できる。さらに、レーヨン繊維やナイロン繊維、その他熱融着繊維など、パルプ繊維以外の材料も副資材として配合することが可能である。
【0024】
本発明では、エレメント用原紙を薄葉化し、かつガスバリア性を発現させるために、紙基材を構成するパルプの変則フリーネスを200〜600mlの範囲とする。ここで、変則フリーネスとは、パルプ採取量を通常の3g/Lから0.3g/Lに変更した以外はJIS P 8121−2:2012に準じて測定したフリーネスを意味する。紙基材を構成するパルプの変則フリーネスは、350〜500mlの範囲にあることがより好ましい。
【0025】
変則フリーネスが上記数値範囲内にあると、低坪量でありながら、実用的な機械的強度を有し、ガスバリア性やCO
2バリア性を高いレベルでエレメント用原紙に保持させることができる。変則フリーネスが200ml未満の場合は、実機操業での叩解に時間を要するとともに、抄紙時の脱水性が悪化するため、操業効率が低下するおそれがある。また、紙自体も脆くなるおそれがある。一方、変則フリーネスが600mlを超えると、薄葉化を維持しつつCO
2バリア性を発現することが困難になるおそれがある。
【0026】
使用するパルプの実機での叩解方法、叩解装置は特に限定されるものではないが、叩解効率が高いダブルディスクリファイナー(DDR)等が好適に使用される。
【0027】
叩解して得られたパルプスラリーには、各種製紙用内添薬品を添加することができる。内添薬品としては、例えば、紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、硫酸バンド、カチオン化デンプン等、各種定着剤等を挙げることができる。また、填料や着色剤などを任意に配合することも可能である。特に、エレメント用原紙は、吸湿性が高くなるので、強度保持の面から、湿潤紙力剤を配合することが好ましい。
【0028】
このようにして調製されたパルプスラリーは、定法に従って抄紙され、本発明のエレメント用原紙の紙基材を得ることができる。
【0029】
紙基材の絶乾坪量は、17g/m
2以上、23g/m
2未満であり、19〜22g/m
2であることが好ましい。ここで、紙基材の絶乾坪量とは、JIS P 8127:2010に準拠して105℃のオーブンで2時間加熱乾燥後の坪量である。低坪量とすることによって、熱交換効率の向上を図ることができ、透湿度をより一層高めることができる。
【0030】
(塩化カルシウム)
エレメント用原紙は、紙基材に塩化カルシウムを含有させることにより得ることができる。塩化カルシウムは、吸湿剤としてだけでなく、防炎剤(難燃剤)としても機能する。吸湿剤としては他にも、塩化リチウム、尿素、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸塩等が挙げられ、必要に応じて、塩化カルシウムと併用することもできる。
【0031】
従来は、防炎性の発現のために、塩化カルシウムとは別に難燃剤を添加していた。しかし、本発明では、塩化カルシウムの含有量を適切にコントロールすることによって、他に難燃剤を配合せずとも、防炎性と高い透湿度とを両立させることに成功している。
【0032】
エレメント用原紙における塩化カルシウムの含有量は、6g/m
2以上、9g/m
2未満であり、7〜8g/m
2であることが好ましい。塩化カルシウムの含有量が前記数値範囲にあると、上記のように紙基材が低坪量でありながら、適度の吸湿率を有し、防炎性にも優れたエレメント用原紙とすることが可能となる。塩化カルシウムの含有量が6g/m
2未満では、吸湿性が不十分であるだけでなく、防炎効果も十分に発現できない。また塩化カルシウムの含有量が9g/m
2を超えて多くなると、エレメント用原紙の吸湿率が必要以上に高くなって保水量が多くなり、高温高湿環境下では結露の発生が懸念される。また、塩化カルシウムの含有量が必要以上に多くなると、操業工程において錆が発生し易くなるおそれがある。
【0033】
ここで、エレメント用原紙中の塩化カルシウムの含有量は、エレメント用原紙の乾燥後の質量X、およびエレメント用原紙を流水で水洗して塩化カルシウムを除去した後のエレメント用原紙の乾燥後の質量Yから下記式により算出される。
塩化カルシウムの含有量(g/m
2)=X−Y
ここで、
X=エレメント用原紙の坪量(g/m
2)(120℃のオーブンで10分間加熱乾燥後の質量)
Y=塩化カルシウムを水洗除去した後のエレメント用原紙の坪量(g/m
2)(120℃のオーブンで10分間加熱乾燥後の質量)
【0034】
(ブロッキング防止剤)
紙基材に塩化カルシウムを添加することにより、紙基材の保水性が高くなる。そうすると、ブロッキングが発生し易くなり、製造時の各工程においてロールからの剥離が問題となることがある。そのため、ブロッキングの発生を防止して、製造時の各工程におけるロールの剥離性を改善するために、エレメント用原紙には、ブロッキング防止剤を含有させることが好ましい。
【0035】
ブロッキング防止剤としては、ポリエチレン系ワックス、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン系ワックス乳化物、酸化ポリエチレン系ワックスおよびパラフィンワックスから選ばれるワックスを含有するブロッキング防止剤が好ましい。ブロッキング防止剤としては、他にも、シリコーン系樹脂、高級脂肪酸カルシウム塩などの金属石鹸類等がある。これらのブロッキング防止剤は、塩化カルシウムとの相溶性やブロッキング防止効果を考慮して、単独で、または適宜組み合わせて使用することができる。
【0036】
エレメント用原紙にブロッキング防止効果を発現させるためには、エレメント用原紙に対してブロッキング防止剤を0.0001g/m
2以上含有させることが好ましい。一方、エレメント用原紙にブロッキング防止剤を過剰に含有させると、乾燥工程で汚れが発生するため、ブロッキング防止剤の含有量は、0.01g/m
2以下であることが好ましい。
【0037】
エレメント用原紙にブロッキング防止剤を含有させる方法については、塗工法、含浸法、噴霧法等の公知の方法があり、適宜選択して用いることができる。これらの中では、後記する塩化カルシウムを添加する方法と同様に、抄紙機のオンマシンによるサイズプレスにより行う方法が生産性の点等から好ましい。すなわち、後記する塩化カルシウム水溶液にさらにブロッキング防止剤を加えて同時に添加する方法が好ましい。
【0038】
(高分子樹脂)
エレメント用原紙に、高分子樹脂を含有させることによって、更にガスバリア性の向上を図ることができる。ガスバリア性を向上させるために使用される高分子樹脂としては、PVA、デンプン等の水溶性樹脂、SBRなどのラテックス類、アクリル系樹脂等を挙げることができる。
【0039】
エレメント用原紙に高分子樹脂を含有させる方法については、塗工法、含浸法、噴霧法等の公知の方法があり、適宜選択して用いることができる。これらの中では、後記する塩化カルシウムを添加する方法と同様に、抄紙機のオンマシンによるサイズプレスにより行う方法が生産性の点等から好ましい。すなわち、後記する塩化カルシウム水溶液にさらに高分子樹脂を加えて同時に添加する方法が好ましい。
【0040】
[エレメント用原紙]
(厚さ)
エレメント用原紙は、熱交換効率や熱伝導率の観点から、厚さが薄いものほど好ましい。具体的には、エレメント用原紙は、厚さを40μm以下とすることがより好ましい。
【0041】
(密度)
エレメント用原紙は、密度が高い方が、概して熱交換効率が高くなり好ましい。具体的には、エレメント用原紙の密度は、熱交換効率やガスバリア性の観点からは、0.9〜1.2g/cm
3の範囲であることが好ましく、1.05〜1.15g/cm
3の範囲であることがより好ましい。
【0042】
(坪量)
エレメント用原紙は、所定のガスバリア性を有する前提であれば、低坪量であるほど好ましい。具体的には坪量40g/m
2以下であることが好ましく、37g/m
2以下であることがより好ましい。エレメント用原紙が低坪量であると、エレメントの軽量化を図ることができ、さらに全熱交換器内においてエレメントの積層段数を増加させることが可能となる。エレメントの積層段数を増加させることは、熱交換効率の向上に有効である。
【0043】
(透湿度)
エレメント用原紙の吸放湿性、熱交換効率の指標としては、透湿度が有効である。透湿度は、JIS Z 0208:1976に準じて測定される。透湿度の具体的な測定条件は、後記する実施例の測定方法に記載されている。エレメント用原紙は、透湿度の数値が大きい方が熱交換効率に優れていることを意味しており、好ましい。透湿度の目安として、温度20℃、相対湿度65%における透湿度が2600g/m
2・24hr以上であることが好ましく、3000g/m
2・24hr以上であることがより好ましい。
本実施形態のエレメント用原紙は、温度20℃、相対湿度65%における透湿度2600g/m
2・24hr以上、さらには3000g/m
2・24hr以上を達成することが可能である。
【0044】
(吸湿率)
エレメント用原紙の吸湿率は、31%以上、40%以下の範囲内でコントロールすることが好ましい。エレメント用原紙の吸湿率が31%未満では、透湿度が低下して、熱交換効率が不十分となるおそれがある。一方、エレメント用原紙の吸湿率が40%を超えると、結露や液ダレのおそれがある。
吸湿率は、下記式で算出される。
吸湿率(%)={(A−B)/B}×100
ここで、A=試料質量(20℃、65%RH条件下の質量)、
B=試料絶乾質量(105℃のオーブンで2時間加熱乾燥後の質量)
【0045】
(ガスバリア性)
エレメント用原紙においては、吸気と排気を混合させないため、十分なガスバリア性を有する必要がある。ガスバリア性の中でも特にCO
2バリア性が重要である。
ガスバリア性は、透気度(J.TAPPI―5の王研式透気度法)と相関性がある。透気度が50sec以上であるエレメント用原紙であれば、十分なガスバリア性、及びCO
2バリア性を有し、別途塗工処理等の加工を行わなくても、エレメント用原紙として好適に使用可能である。
【0046】
[製造方法]
紙基材へ塩化カルシウムを含有させる方法は特に限定されない。例えば、抄紙機のオンマシンサイズプレス装置やスプレー装置等において、水の代わりに、塩化カルシウム水溶液を使用することにより、紙基材へ塩化カルシウムを含有させることができる。また、オフマシンの含浸機によって紙基材に塩化カルシウム水溶液を浸漬させ、乾燥する方法も可能である。操業性、生産性を考慮すれば、オンマシンのサイズプレス装置において塩化カルシウム水溶液を含浸させる方法が好ましい。
【0047】
なお、抄紙機の形式については、長網抄紙機、短網抄紙機等、特に限定されるものではないが、オンマシンでサイズプレス機、もしくは含浸機が装備されているものを用いることが好ましい。
【0048】
なお、抄紙設備によっては、塩化カルシウムにより錆が発生するおそれがあるため、塩化カルシウムの水溶液には、水溶性の防錆剤を配合しておくことが好ましい。防錆剤としては、環境安全性を考慮し、非亜硝酸系のものを選定するのが好ましい。また、塩化カルシウム水溶液に対する防錆剤の添加量は、特に限定はないが、水溶液濃度として、0.5〜5質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0049】
エレメント用原紙の製造工程において、紙基材に塩化カルシウムを添加した後、さらにカレンダー処理を施すことが好ましい。カレンダー処理を施すことによって、エレメント用原紙が高密度となると同時に厚さが減少する。高密度となることによって、ガスバリア性が向上する。また厚さが減少することによって熱伝導率が上昇し、熱交換効率が上昇するという効果も得られる。
【0050】
エレメント用原紙に高いガスバリア性を付与するため、前述のカレンダー処理後に、後加工としてさらに、PVA等の高分子樹脂を塗工することも可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、実施例及び比較例における%、部は、特に断りのない限り質量%、質量部を表す。
【0052】
<実施例1>
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)100%を実機DDRにて、変則フリーネス(パルプ採取量0.3g/L)が450mlになるように叩解した。
内添薬品としては、パルプ質量に対し、絶乾でポリアクリルアミド系紙力剤(ポリストロン117、荒川化学工業社製)0.5%、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系湿潤紙力剤(アラフィックス255、荒川化学工業社製)0.5%、硫酸バンド0.5%を添加した。
【0053】
上記で得た原料を長網抄紙機で抄紙し、オンマシンサイズプレスにより塩化カルシウムを含む後述のサイズプレス液1を含浸付着させて乾燥させたものを紙基材とし、該紙基材をスーパーカレンダー処理してエレメント用原紙を得た。
得られた紙基材の坪量は絶乾で20g/m
2、塩化カルシウムの付着量は6.5g/m
2であった。
【0054】
[サイズプレス液1]
塩化カルシウム:30%
防錆剤:2%(固形分濃度)
ブロッキング防止剤:0.02%(固形分濃度)
【0055】
<実施例2>
下記のように調製したサイズプレス液2を使用して、塩化カルシウムの付着量を8g/m
2とした以外、実施例1と同様にしてエレメント用原紙を得た。
【0056】
[サイズプレス液2]
塩化カルシウム:35%
防錆剤:2%(固形分濃度)
ブロッキング防止剤:0.02%(固形分濃度)
【0057】
<実施例3>
基材紙の坪量を絶乾で22g/m
2とした以外は、実施例1と同様にして、エレメント用原紙を得た。
【0058】
<実施例4>
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)100%を針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)30%、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)70%とした以外は実施例1と同様にしてエレメント用原紙を得た。
【0059】
<比較例1>
基材紙の坪量を絶乾で35g/m
2とした以外は、実施例1と同様にして、エレメント用原紙を得た。
【0060】
<比較例2>
下記のように調製したサイズプレス液3を使用して、塩化カルシウムの塗工量を2g/m
2とした以外は、実施例1と同様にしてエレメント用原紙を得た。
[サイズプレス液3]
塩化カルシウム:10%
防錆剤:2%(固形分濃度)
ブロッキング防止剤:0.02%(固形分濃度)
【0061】
<比較例3>
下記のように調製したサイズプレス液4を使用して、塩化カルシウムの塗工量を11g/m
2とした以外は、実施例1と同様にしてエレメント用原紙を得た。
[サイズプレス液4]
塩化カルシウム:39%
防錆剤:2%(固形分濃度)
ブロッキング防止剤:0.02%(固形分濃度)
【0062】
<比較例4>
基材紙の坪量を絶乾で16g/m
2とした以外は、実施例1と同様にして、エレメント用原紙を得た。
【0063】
なお、上記実施例及び比較例で使用した防錆剤は、非亜硝酸系防錆剤であるメタレックスANK(油化産業社製)、使用したブロッキング防止剤は、ポリエチレンワックスエマルジョン系のPEM−18(サンノプコ社製)である。
【0064】
実施例、比較例で得た各エレメント用原紙を試料として下記の方法で評価した。
その結果を表1に示す。
【0065】
[評価方法]
1.エレメント用原紙の厚さ:JIS P8118:2014に準拠して測定した。
【0066】
2.密度:JIS P8124:2011に準拠してエレメント用原紙の坪量を測定(23℃×50%条件下)し、かつJIS P8118:2014準拠によるエレメント用原紙の厚さから密度を算出した。
【0067】
3.透湿度:20℃×65%RHの条件下で、JIS Z0208に準拠して測定した。但し、下記式により算出した。
透湿度=(a+b)/2
ここで、a=測定開始1時間後の質量増分
b=測定開始1時間後から測定開始2時間後の1時間の質量増分
【0068】
4.吸湿率:下記式で算出した。
吸湿率(%)={(A−B)/B}*100
ここで、A=試料質量(20℃×65%RH条件下の質量)
B=試料絶乾質量(105℃のオーブンで2時間加熱乾燥後の質量)
【0069】
5.防炎性:JIS Z 2150に準拠して測定した(防炎1〜3級)。
防炎性が1級または2級のとき防炎性に優れていると判定した。
【0070】
6.透気度:J.TAPPI−5の王研式透気度法に準拠して測定した。
【0071】
7.CO
2バリア性:12cm角のエレメント用原紙を仕切り板として、高濃度のCO
2を供試する容器AとCO
2濃度を測定する容器Bとを具備する測定装置を用いた。常温・常圧条件下で、容器AにCO
2を2000ppm封入した後、15分間放置し、その後容器B内のCO
2濃度をCO
2分析計を用いて測定した。エレメント用原紙を介して15分間に通過したCO
2の透過量は、容器B内のCO
2濃度として求められる。容器B内のCO
2濃度が26ppm以下のとき、エレメント用原紙のCO
2バリア性は良好であると判定した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1から明らかなように、実施例1〜4のエレメント用原紙は、所定のパルプからなる紙基材を使用し、紙基材の絶乾坪量を所定の数値とし、塩化カルシウムの含有量を所定の範囲としたものである。いずれも、透湿度が2600g/m
2・24hr以上であり、適度の吸湿率を有し、防炎性が2級であり、優れたガスバリア性とCO
2バリア性を達成することができた。
【0074】
比較例1のエレメント用原紙は、紙基材の絶乾坪量が大きく、厚さもやや大きいため、吸湿率が好ましい範囲よりも小さく、透湿度も小さいものであった。比較例2のエレメント用原紙は、塩化カルシウムの含有量が少ないため、防炎性が等外と劣っており、吸湿率も好ましい範囲より小さく、透湿度も小さいものであった。比較例3のエレメント用原紙は、塩化カルシウムの含有量が多いため、吸湿率が高く、結露や錆が発生する懸念を有するものであった。比較例4のエレメント用原紙は、紙基材の絶乾坪量が小さく、防炎性が劣っていた。