(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続鋳造用の四角筒状の鋳型内に回転磁界を発生させることによって、前記鋳型内の溶融金属に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせる電磁力を付与する電磁撹拌装置であって、
前記鋳型の側方において前記鋳型を囲み、前記鋳型の外側面の各々について前記外側面と対向して前記鋳型の周方向に沿って2つ並設されるティース部を有する鉄芯コアと、
前記鉄芯コアの前記ティース部の各々に巻回されるコイルと、
前記回転磁界を発生させるように、前記コイルの配列順に位相を90°ずつずらして前記コイルの各々に対して交流電流を印加する電源装置と、
を備えることを特徴とする電磁撹拌装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、複数の構成要素の各々に同一符号のみを付する。
【0018】
なお、本明細書において参照する各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
【0019】
また、以下では、溶融金属が溶鋼である例について説明するが、本発明は、このような例に限定されず、他の金属に対する連続鋳造に対して適用されてもよい。
【0020】
<1.連続鋳造機の概略構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る電磁攪拌装置100を含む連続鋳造機1の概略構成について説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る電磁攪拌装置100を含む連続鋳造機1の概略構成の一例を模式的に示す側面断面図である。
【0022】
連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型を用いて溶鋼を連続鋳造し、ブルームの鋳片を製造するための装置である。連続鋳造機1は、例えば、
図1に示すように、鋳型30と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8とを備える。
【0023】
取鍋4は、溶鋼2(溶融金属)を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型30の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型30に向けて下方に延び、その先端は鋳型30内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型30内に連続供給する。
【0024】
鋳型30は、鋳片3の長辺及び短辺の寸法に応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板(後述する
図2等に示す長辺鋳型板31,33に対応する)で一対の短辺鋳型板(後述する
図2等に示す短辺鋳型板32,34に対応する)を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板(以下、鋳型板と総称することがある)は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。鋳型30は、鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型30下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。凝固シェル3aと未凝固部3bとを含む鋳片3は、鋳型30の下端から引き抜かれる。
【0025】
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、鋳型30から鋳片3が引き抜かれる方向)を、Z軸方向とも呼称する。Z軸方向のことを鉛直方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれX軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を水平面内において鋳型30の長辺と平行な方向(すなわち、鋳型長辺方向)として定義し、Y軸方向を水平面内において鋳型30の短辺と平行な方向(すなわち、鋳型短辺方向)として定義する。X−Y平面と平行な方向のことを水平方向とも呼称する。また、以下の説明では、各部材の大きさを表現する際に、当該部材のZ軸方向の長さのことを高さともいい、当該部材のX軸方向又はY軸方向の長さのことを幅ともいうことがある。
【0026】
ここで、鋳型30の側方には、電磁撹拌装置100が設置される。電磁撹拌装置100は、鋳型30内に回転磁界を発生させることによって、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせる電磁力を付与する。具体的には、電磁撹拌装置100は、電源装置150を含んで構成され、電源装置150から供給される電力を用いて駆動される。本実施形態では、電磁撹拌装置100を駆動させながら連続鋳造を行うことによって、鋳型30内の溶鋼2が撹拌され、鋳片の品質を向上させることが可能になる。このような電磁撹拌装置100については、後述にて詳細に説明する。
【0027】
二次冷却装置7は、鋳型30の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型30下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。二次冷却装置7は、鋳片3の短辺方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
【0028】
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の短辺方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を短辺方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
【0029】
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、
図1に示すように、鋳型30の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機1と呼称される。なお、本発明は、
図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
【0030】
サポートロール11は、鋳型30の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型30から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型30から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。
図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
【0031】
ピンチロール12は、モータ等の駆動装置により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型30から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型30から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は
図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
【0032】
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、
図1では左下側の面)とL面(Loose面、
図1では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
【0033】
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
【0034】
以上、
図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の概略構成について説明した。なお、本実施形態では、鋳型30に対して後述する構成を有する電磁撹拌装置100が設置され、電磁撹拌装置100を用いて連続鋳造が行われればよく、連続鋳造機1における電磁撹拌装置100以外の構成は、一般的な従来の連続鋳造機と同様であってよい。従って、連続鋳造機1の構成は図示したものに限定されず、連続鋳造機1としては、あらゆる構成のものが用いられてよい。
【0035】
<2.電磁撹拌装置の構成>
続いて、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係る電磁撹拌装置100の構成について説明する。
【0036】
図2は、本実施形態に係る電磁撹拌装置100の一例を示す上面断面図である。具体的には、
図2は、鋳型30を通りX−Y平面と平行な
図1に示すA1−A1断面についての断面図である。
図3は、本実施形態に係る電磁撹拌装置100の一例を示す側面断面図である。具体的には、
図3は、浸漬ノズル6を通りX−Z平面と平行な
図2に示すA2−A2断面についての断面図である。
【0037】
本実施形態では、鋳型30の側方において鋳型30を囲むように電磁撹拌装置100が設けられる。
【0038】
鋳型30は、上述したように、四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板31,33で一対の短辺鋳型板32,34を両側から挟むように組み立てられる。具体的には、各鋳型板は、長辺鋳型板31、短辺鋳型板32、長辺鋳型板33、短辺鋳型板34の順に環状に配置される。各鋳型板は、例えば、上述したように水冷銅板であってもよいが、このような例に限定されず、一般的に連続鋳造機の鋳型として用いられる各種の材料によって形成されてもよい。
【0039】
ここで、本実施形態では、ブルームの連続鋳造を対象としており、その鋳片サイズは、一辺(すなわち、X軸方向及びY軸方向の長さ)300〜500mm程度である。例えば、鋳片3の長辺方向の幅X11は456mmであり、鋳片3の短辺方向の幅Y11は339mmである。
【0040】
各鋳型板は、当該鋳片サイズに対応した大きさを有する。例えば、長辺鋳型板31,33は、少なくとも鋳片3の長辺方向の幅X11よりも長い長辺方向の幅を有し、短辺鋳型板32,34は、鋳片3の短辺方向の幅Y11と略同一の短辺方向の幅を有する。各鋳型板の厚みT11は、例えば、25mmである。
【0041】
電磁撹拌装置100による鋳片3の品質向上の効果をより効果的に得るために、Z軸方向の長さが可能な限り長くなるように鋳型30を構成することが望ましい。一般的に、鋳型30内で溶鋼2の凝固が進行すると、凝固収縮のために鋳片3が鋳型30の内壁から離れてしまい、当該鋳片3の冷却が不十分になる場合があることが知られている。そのため、鋳型30の長さは、溶鋼湯面から、長くても1000mm程度が限界とされている。本実施形態では、かかる事情を考慮して、例えば、溶鋼湯面から各鋳型板の下端までの長さが1000mm程度となるように、各鋳型板を形成する。
【0042】
電磁撹拌装置100は、例えば、
図2及び
図3に示すように、鉄芯コア110と、複数のコイル130(130a,130b,130c,130d,130e,130f,130g,130h)と、上述した電源装置150と、ケース170とを備える。なお、
図2及び
図3では、理解を容易にするために、電源装置150の図示が省略されており、ケース170の内部に収容される鉄芯コア110及び複数のコイル130がケース170を透過して示されている。
【0043】
鉄芯コア110は、一対の長辺本体部111,113及び一対の短辺本体部112,114(以下、本体部と総称することがある)と、複数のティース部119(119a,119b,119c,119d,119e,119f,119g,119h)とを有する中実の部材である。鉄芯コア110は、例えば、電磁鋼板を積層することにより形成される。鉄芯コア110の各ティース部119にコイル130が巻回され、コイル130の各々に交流電流が印加されることによって磁界が発生する。このように、ティース部119及び当該ティース部119に巻回されるコイル130は、交流電流の印加時において磁極として機能する磁極部120(120a,120b,120c,120d,120e,120f,120g,120h)を形成する。
【0044】
長辺本体部111,113は、鋳型30の外側において長辺鋳型板31、33とそれぞれ対向して設けられる。短辺本体部112,114は、鋳型30の外側において短辺鋳型板32,34とそれぞれ対向して設けられる。隣り合う長辺本体部及び短辺本体部は、例えば、互いに端部が重ね合された状態で締結されることによって接続される。それにより、一対の長辺本体部111,113と一対の短辺本体部112,114とによって、鋳型30の側方において鋳型30を囲む閉ループが形成される。具体的には、各本体部は、長辺本体部111、短辺本体部112、長辺本体部113、短辺本体部114の順に鋳型30の周方向に沿って環状に配置される。
【0045】
各本体部における鋳型30側の部分には、鋳型30の周方向に沿ってティース部119が2つ並設される。例えば、長辺本体部111における長辺鋳型板31と対向する部分には、鋳型30の周方向に沿ってティース部119a,119bが設けられる。また、短辺本体部112における短辺鋳型板32と対向する部分には、鋳型30の周方向に沿ってティース部119c,119dが設けられる。また、長辺本体部113における長辺鋳型板33と対向する部分には、鋳型30の周方向に沿ってティース部119e,119fが設けられる。また、短辺本体部114における短辺鋳型板34と対向する部分には、鋳型30の周方向に沿ってティース部119g,119hが設けられる。具体的には、各ティース部119は、ティース部119a,119b,119c,119d,119e,119f,119g,119hの順に鋳型30の周方向に沿って環状に配置される。
【0046】
このように、鉄芯コア110は、鋳型30の外側面の各々について外側面と対向して鋳型30の周方向に沿って2つ並設されるティース部119を有する。ゆえに、本実施形態に係る電磁撹拌装置100では、鉄芯コア110のティース部119及び当該ティース部119に巻回されるコイル130により形成される磁極部120が鋳型30の外側面の各々について鋳型30の周方向に沿って2つ配置される。本発明者は、鋳型30に対してこのように磁極部120を配置することによって、鋳型30内の溶鋼2に対して、鉛直方向の流動を抑制しつつ、鉛直軸回りの旋回流を適切に生じさせることが可能となることを見出した。本実施形態に係る電磁撹拌装置100により鋳型30内の溶鋼2に生じる流動については、後述にて詳細に説明する。
【0047】
ティース部119は、本体部から鋳型30側へ向かって水平方向に直方体状に突出し、鋳型30の周方向に沿って互いに間隔を空けて設けられる。ティース部119のZ軸方向の高さは、例えば、本体部と同程度である。上述したように、ティース部119及び当該ティース部119に巻回されるコイル130は交流電流の印加時において磁極として機能するので、各ティース部119の大きさ及び各ティース部119間の位置関係は電磁撹拌装置100によって発生する磁界に影響を与える。ゆえに、各ティース部119の大きさ及び各ティース部119間の位置関係は、電磁撹拌装置100によって溶鋼2に対して所望の電磁力を付与し得るように、適宜決定され得る。
【0048】
長辺本体部に設けられるティース部119a,119b,119e,119f(以下、長辺側ティース部とも呼称する)の長辺方向の幅X1は、例えば、240mmである。また、短辺本体部に設けられるティース部119c,119d,119g,119h(以下、短辺側ティース部とも呼称する)の短辺方向の幅Y1は、例えば、190mmである。なお、長辺側ティース部の長辺方向の幅X1と短辺側ティース部の短辺方向の幅Y1とは、必ずしも一致しなくともよいが、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流をより安定して生じさせるために、同程度とすることが望ましい。
【0049】
長辺側ティース部間(例えば、ティース部119aとティース部119bとの間)の間隔X2は、例えば、140mmである。また、短辺側ティース部間(例えば、ティース部119gとティース部119hとの間)の間隔Y2は、例えば、140mmである。
【0050】
鋳型長辺方向に対向する磁極部120間(例えば、磁極部120dと磁極部120gとの間)の間隔X3は、例えば、775mmである。また、鋳型短辺方向に対向する磁極部120間(例えば、磁極部120bと磁極部120eとの間)の間隔Y3は、例えば、670mmである。
【0051】
ティース部119の鉛直方向の位置及び大きさ(すなわち、鉄芯コア110の鉛直方向の位置及び大きさ)は、浸漬ノズル6の位置及び大きさや溶鋼2の湯面の位置に応じて適宜設定される。
【0052】
ティース部119の上面と溶鋼2の湯面との鉛直方向の距離Z1は、例えば、280mmである。また、ティース部119の下面と溶鋼2の湯面との鉛直方向の距離Z2は、例えば、580mmである。
【0053】
なお、浸漬ノズル6の底面と溶鋼2の湯面との鉛直方向の距離Z11は、例えば、250mmである。また、浸漬ノズル6の内径D11は、例えば、90mmである。また、浸漬ノズル6の外径D12は、例えば、145mmである。また、浸漬ノズル6の吐出孔61の底部からの高さZ12は、例えば、85mmである。また、浸漬ノズル6の吐出孔61の幅D13は、例えば、80mmである。また、浸漬ノズル6の吐出孔61は、例えば、ノズル内側からノズル外側へ向かうにつれて上向きに15°傾いている。浸漬ノズル6には、このような吐出孔61が短辺鋳型板32,34に対向する位置に一対設けられる。
【0054】
コイル130は、各ティース部119に対して各ティース部119の突出方向を巻回軸方向として巻回される(すなわち、各ティース部119を各ティース部119の突出方向に磁化するようにコイル130が巻回される)。例えば、ティース部119a,119b,119c,119d,119e,119f,119g,119hに対してコイル130a,130b,130c,130d,130e,130f,130g,130hがそれぞれ巻回される。それにより、磁極部120a,120b,120c,120d,120e,120f,120g,120hが形成される。長辺側ティース部に対してはY軸方向を巻回軸方向としてコイル130が巻回され、短辺側ティース部に対してはX軸方向を巻回軸方向としてコイル130が巻回される。
【0055】
コイル130を形成する導線としては、例えば断面が10mm×10mmで、内部に直径5mm程度の冷却水路を有する銅製のものが用いられる。電流印加時には、当該冷却水路を用いて当該導線が冷却される。当該導線は、絶縁紙等によりその表層が絶縁処理されており、層状に巻回することが可能である。例えば、各コイル130は、当該導線を2〜4層程度巻回することにより形成される。
【0056】
図1に示した電源装置150は、このような複数のコイル130の各々と接続される。電源装置150は、鋳型30内に回転磁界を発生させるように、コイル130の配列順に位相を90°ずつずらして各コイル130に対して交流電流を印加する。それにより、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせる電磁力が付与され得る。電源装置150は、具体的には、1.0Hz〜6.0Hzの交流電流を各コイル130に対して印加するのが好ましく、1.0Hz〜4.0Hzの交流電流を印加するのがさらに好ましい。
【0057】
電源装置150の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。具体的には、当該制御装置により、各コイル130に印加される電流値(実効値)及び周波数が制御されることによって、溶鋼2に対して付与される電磁力の強さが制御され得る。なお、各コイル130に対する交流電流の印加方法については、後述にて詳細に説明する。
【0058】
ケース170は、鉄芯コア110及びコイル130を覆う環状の中空の部材である。ケース170の大きさは、電磁撹拌装置100によって溶鋼2に対して所望の電磁力を付与し得るように、適宜決定され得る。また、電磁撹拌装置100により発生する磁界では、コイル130からケース170の側壁を通過して鋳型30内へ磁束が入射されるため、ケース170の材料としては、例えば非磁性体ステンレス又はFRP(Fiber Reinforced
Plastics)等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な部材が用いられる。
【0059】
<3.電磁撹拌装置の動作>
続いて、
図4及び
図5を参照して、本実施形態に係る電磁撹拌装置100の動作について説明する。
【0060】
図4は、電磁撹拌装置100の各コイル130に交流電流が印加されている様子の一例を示す上面断面図である。具体的には、
図4は、鋳型30を通りX−Y平面と平行な
図1に示すA1−A1断面についての断面図である。
図5は、電磁撹拌装置100の各コイル130に印加される交流電流の位相について説明するための図である。
【0061】
電磁撹拌装置100では、電源装置150は、上述したように、コイル130の配列順に位相が90°ずつずれるように、各コイル130に対して交流電流を印加する。例えば、電源装置150は、
図4に示されるように、互いに位相が90°ずつずれた2相交流電流(+U、+V)をコイル130に対して印加する。電流の向きまで考慮すると、電源装置150は、+U、+V、−U、−Vの、90°ずつ位相がずれた4種類の交流電流をコイル130に対して印加することができる。
図5では、これら4種類の交流電流の位相を概略的に図示している。
図5において、円周上の位置が各交流電流間の位相を表しており、例えば、+Vは、+Uよりも90°だけ位相が遅れていることを示している。
【0062】
ある1つのコイル130に対して+Uの交流電流が印加されると、その隣のコイル130には+Vの交流電流が印加され、更にその隣のコイル130には−Uの交流電流が印加され、更にその隣のコイル130には−Vの交流電流が印加される。その隣のコイル130から先に並ぶコイル130には、同様に、順次+U、+V、−U、−Vの交流電流がそれぞれ印加される。例えば、コイル130a,130b,130c,130d,130e,130f,130g,130hに対して、+U、+V、−U、−V、+U、+V、−U、−Vの交流電流がそれぞれ印加される。
【0063】
各コイル130に対してこのような位相差で交流電流が印加されることにより、鋳型30内に鋳型30の周方向に回転する回転磁界が生じることとなる。それにより、鋳型30内の溶鋼2に対して鋳型30の周方向に沿った電磁力が付与されるので、溶鋼2において鉛直軸回りの旋回流が発生することとなる。
【0064】
また、2相交流電流を用いて電磁撹拌装置100によって回転磁界を発生させることによって、3相交流電源を用いる場合と比較して、より安価に溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を発生させることができる。2相交流電流を用いる場合には、コイル130の配列順に位相が90°ずつずれるように、各コイル130に対して交流電流を印加する必要があるため、コイル130の数が4の倍数となるようにすることが望ましい。
【実施例1】
【0065】
本実施形態において鋳型30内の溶鋼2に生じる流動を確認するために行った電磁場解析シミュレーションの結果について説明する。
【0066】
(シミュレーション1)
各種シミュレーション条件を後述するように設定し、本実施形態に係る電磁撹拌装置100及び比較例に係る電磁撹拌装置900の各々について電磁場解析シミュレーションを行った。
【0067】
ここで、
図6を参照して、比較例に係る電磁撹拌装置900について説明する。
図6は、比較例に係る電磁撹拌装置900を示す上面断面図である。具体的には、
図6は、連続鋳造機1に対して電磁撹拌装置100に替えて電磁撹拌装置900を適用した場合における
図1に示すA1−A1断面についての断面図である。
【0068】
比較例に係る電磁撹拌装置900では、上述した電磁撹拌装置100と比較して、鉄芯コア910において各本体部における鋳型30側の部分にティース部919(919a,919b,919c,919d)が一辺について1つのみ設けられる点が異なる。ゆえに、比較例に係る電磁撹拌装置900では、鉄芯コア910のティース部919及び当該ティース部919に巻回されるコイル930(930a,930b,930c,930d)により形成される磁極部920(920a,920b,920c,920d)が鋳型30の外側面の各々について1つ配置される。
【0069】
具体的には、長辺本体部111、短辺本体部112、長辺本体部113及び短辺本体部114における対応する鋳型板と対向する部分には、ティース部919a,919b,919c,919dがそれぞれ設けられる。また、ティース部919a,919b,919c,919dに対してコイル930a,930b,930c,930dがそれぞれ巻回される。それにより、磁極部920a,920b,920c,920dが形成される。長辺側ティース部919a,919cの長辺方向の幅X91は、625mmである。また、短辺側ティース部919b,919dの短辺方向の幅Y91は、520mmである。
【0070】
なお、比較例に係る電磁撹拌装置900において、上述した電磁撹拌装置100と同様に、鋳型30内に回転磁界を発生させるように、コイル930の配列順に位相を90°ずつずらして各コイル930に対して交流電流が印加される。それにより、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせる電磁力が付与され得る。
【0071】
本実施形態についての電磁場解析シミュレーションの条件は以下の通りである。なお、鉄芯コア110の材質をケイ素鋼板とし、鉄芯コア110内に渦電流が発生しないものとして電磁場解析シミュレーションを行った。
【0072】
鋳片の長辺方向の幅X11:456mm
鋳片の短辺方向の幅Y11:339mm
鋳型板の厚みT11:25mm
長辺側ティース部の長辺方向の幅X1:240mm
短辺側ティース部の短辺方向の幅Y1:190mm
長辺側ティース部間の間隔X2:140mm
短辺側ティース部間の間隔Y2:140mm
鋳型長辺方向に対向する磁極部間の間隔X3:775mm
鋳型短辺方向に対向する磁極部間の間隔Y3:670mm
ティース部の上面と溶鋼の湯面との鉛直方向の距離Z1:280mm
ティース部の下面と溶鋼の湯面との鉛直方向の距離Z2:580mm
鋳型板の導電率:7.14×10
5S/m
溶鋼の導電率:2.27×10
5S/m
コイルにおける巻き線:36ターン
コイルに印加される交流電流の電流値(実効値):640A
コイルに印加される交流電流の電流周波数:1.8Hz
【0073】
また、比較例についての電磁場解析シミュレーションの条件は、本実施形態についての条件からX1、Y1、X2及びY2の条件を削除し、以下のX91及びY91の条件を追加した条件とした。
【0074】
長辺側ティース部の長辺方向の幅X91:625mm
短辺側ティース部の短辺方向の幅Y91:520mm
【0075】
上記の電磁場解析シミュレーションの結果を、
図7〜
図10に示す。
図7は、本実施形態についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、鉄芯コア110の鉛直方向中心位置の水平面内における鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の分布の一例を示す図である。
図8は、本実施形態についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、長辺鋳型板33の内側面近傍における鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の分布の一例を示す図である。
図9は、比較例についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、鉄芯コア910の鉛直方向中心位置の水平面内における鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の分布の一例を示す図である。
図10は、比較例についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、長辺鋳型板33の内側面近傍における鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の分布の一例を示す図である。
図7〜
図10では、溶鋼2の単位体積当たりに作用する電磁力(N/m
3)をベクトル量として表したローレンツ力密度ベクトルが矢印によって示されている。
【0076】
比較例について、
図9を参照すると、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせるように電磁力が分布していることが確認される。しかしながら、
図10を参照すると、比較例では、比較的大きな鉛直方向成分を有する電磁力が確認される。例えば、鋳型30内の上方側の領域R1では、
図10に示すように、上方向を向く電磁力が比較的多く確認される。また、鋳型30内の下方側の領域R2では、
図10に示すように、下方向を向く電磁力が比較的多く確認される。具体的には、比較例についての電磁場解析シミュレーションの結果によれば、正方向及び負方向をそれぞれ上方向及び下方向と定義した場合、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分の最大値は479N/m
3であり、最小値は−378N/m
3であり、平均値は57N/m
3であった。
【0077】
ここで、
図11を参照して、コイルにより発生する磁界における漏れ磁束について説明する。
図11では、鋳型30の側方に位置する磁極部203が模式的に示されている。磁極部203は、鉄芯コアのティース部201及び当該ティース部201に巻回されたコイル202により形成される。
【0078】
コイル202に交流電流が印加されると、まず、磁束221が磁極部203から鋳型板230へ水平方向に入射する。それにより、鋳型板230を水平方向に通過する磁束が時間変化することに起因して、鋳型板230内に渦電流211が生じる。ここで、鋳型板230内に生じる渦電流211は、磁極部203から鋳型板230へ水平方向に入射する磁束221を弱める磁界を発生させる向きに流れる。ゆえに、鋳型板230から磁極部203へ水平方向に入射する磁束222が磁束221に作用することによって、磁極部203から鋳型板230へ水平方向に入射する磁束221が弱められる。それにより、磁極部203により発生する磁界において、磁極部203から鋳型板230へ水平方向に入射する磁束が弱められ、鉛直方向成分を有する漏れ磁束223が発生する。
【0079】
比較例では、このような漏れ磁束が比較的多く発生することに起因して、比較的大きな鉛直方向成分を有する電磁力が鋳型30内の溶鋼2に付与されるものと考えられる。
【0080】
本実施形態について、
図7を参照すると、比較例と同様に、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせるように電磁力が分布していることが確認される。ここで、
図8を参照すると、ローレンツ力密度ベクトルの各々が基本的に水平方向成分を主として有することが確認される。このように、本実施形態では、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分が比較例と比較して低減されていることが確認される。具体的には、本実施形態についての電磁場解析シミュレーションの結果によれば、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分の最大値は323N/m
3であり、最小値は−212N/m
3であり、平均値は7.5N/m
3であった。このことからも、本実施形態では、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分が比較例と比較して低減されていることがわかる。
【0081】
電磁撹拌装置の磁極部により発生する磁界において、上述したように、鋳型板において生じる渦電流に起因して漏れ磁束が発生する。ここで、磁極部から鋳型板へ水平方向に入射する磁束が強くなるほど、鋳型板において生じる渦電流が大きくなる。それにより、磁極部から鋳型板へ水平方向に入射する磁束が渦電流によって弱められる効果が大きくなる。ゆえに、磁極部から鋳型板へ水平方向に入射する磁束が強くなるほど、漏れ磁束が多く発生する。
【0082】
本実施形態に係る電磁撹拌装置100では、比較例と異なり、磁極部120が鋳型30の外側面の各々について鋳型30の周方向に沿って2つ配置される。ゆえに、1つあたりの磁極部120により発生させる磁界を弱めることができる。それにより、磁極部120から鋳型板へ水平方向に入射する磁束を弱めることができるので、漏れ磁束の発生を抑制することができる。このような理由から、本実施形態では、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分が比較例と比較して低減されると考えられる。
【0083】
ここで、
図12を参照して、隣り合う磁界の相互作用について説明する。
図12では、互いに逆向きの電流が流れる電線301及び電線302が模式的に示されている。電線301には、紙面表側から紙面裏側へ向けて電流が流れる。ゆえに、電線301の周囲には、紙面時計回りの磁界311が生じる。一方、電線302には、紙面裏側から紙面表側へ向けて電流が流れる。ゆえに、電線302の周囲には、紙面反時計回りの磁界312が生じる。
【0084】
電線301と電線302との間の距離が比較的長い距離L1である場合、電線301と電線302との間において磁界311及び磁界312は互いに強めあうので、電線301と電線302との間における磁束321は比較的強くなる。一方、電線301と電線302との間の距離が比較的短い距離L2である場合、電線301と電線302との間において磁界311及び磁界312は互いに打消しあうので、電線301と電線302との間における磁束322は比較的弱くなる。
【0085】
このように、互いに逆方向に流れる電流によって生じる隣り合う磁界が比較的近い場合、双方の磁界が互いに打ち消し合う効果を奏し得る。本実施形態に係る電磁撹拌装置100では、比較例と比較して、各磁極部120の鋳型30の周方向における幅が小さく、各コイル130において互いに逆方向に流れる電流の間の距離が短いので、隣り合う磁界が互いに打ち消し合う。そのため、各磁極部120から鋳型板へ入射する磁束は弱くなる。そのため、鋳型板に生じる渦電流は小さくなる。さらに、鋳型板に生じる渦電流の範囲についても鋳型30の周方向における幅が小さく、各渦電流において互いに逆方向に流れる電流の間の距離が短いので、隣り合う磁界が互いに打ち消し合う効果を奏し得る。その結果として、渦電流により発生する磁束を非常に弱くする効果を奏し得る。それにより、漏れ磁束の発生を抑制することができる。このような理由からも、本実施形態では、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分が比較例と比較して低減されると考えられる。
【0086】
なお、各磁極部120の鋳型30の周方向における幅を小さくするほど、鋳型板に生じる渦電流により発生する磁束を弱くする効果をより向上させることが期待される。しかしながら、各磁極部120の寸法が小さくなることにより1つあたりの磁極部120が発生可能な磁界が過剰に弱くなることによって、溶鋼2へ付与される電磁力を確保することが困難となる場合がある。例えば、磁極部120を鋳型30の外側面の各々について鋳型30の周方向に沿って3つ以上配置する場合、溶鋼2へ付与される電磁力を確保することが困難となるおそれがある。一方、磁極部120が鋳型30の外側面の各々について鋳型30の周方向に沿って2つ配置される本実施形態では、
図7を参照して説明したように、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせるように電磁力が分布していることが確認された。
【0087】
上記のように、本実施形態に係る電磁撹拌装置100によれば、鋳型30内の溶鋼2に対して、鉛直軸回りの旋回流を生じさせるように電磁力を付与することができる。さらに、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分を低減することができる。ゆえに、製作するに際して閉ループを形成する鉄芯コアの延在方向と同軸回りに当該鉄芯コアにコイルを巻回する工程を不要とし、鋳型30内の溶鋼2に対して、鉛直方向の流動を抑制しつつ、鉛直軸回りの旋回流を適切に生じさせることが可能となる。
【0088】
(シミュレーション2)
次に、本実施形態及び比較例の各々について、上述したシミュレーション条件からコイルに印加される交流電流の電流周波数を様々に変更しながら電磁場解析シミュレーションを行った。
【0089】
電磁場解析シミュレーションの結果を、
図13、
図14及び表1に示す。
図13は、本実施形態及び比較例の各々についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、電流周波数と鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分の平均値との関係性の一例を示す図である。
図14は、本実施形態についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、電流周波数と鋳型30内の溶鋼2に付与される平均電磁力との関係性の一例を示す図である。表1は本実施形態についての電磁場解析シミュレーションによって得られた、各電流周波数についての電磁力の鉛直方向成分の平均値及び平均電磁力の値を示す。なお、平均電磁力は、溶鋼2に付与される電磁力の絶対値(大きさ)の平均値に相当する。
【0090】
【表1】
【0091】
図13を参照すると、本実施形態では、各電流周波数について、比較例と比較して、電磁力の鉛直方向成分の平均値が低くなっていることが確認された。このことから、本実施形態では、電流周波数によらず、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分が比較例と比較して低減されていることがわかる。
【0092】
図13及び表1を参照すると、電磁力の鉛直方向成分の平均値は、基本的に電流周波数が低くなるにつれて小さくなることがわかる。ここで、電流周波数が低いほど、磁極部120により発生する磁界は弱くなるので、磁極部120から鋳型板へ水平方向に入射する磁束が弱くなる。ゆえに、磁極部120により発生する磁界において漏れ磁束が発生することが抑制される。それにより、電流周波数が低くなるにつれて電磁力の鉛直方向成分の平均値が小さくなるものと考えられる。
【0093】
なお、本実施形態について、電磁力の鉛直方向成分の平均値は、電流周波数が4.3Hz近傍の場合に最大値をとり、電流周波数が4.3Hz近傍を超える領域において、電流周波数が高くなるにつれて緩やかに小さくなることがわかる。ここで、電流周波数が比較的高い場合、磁極部120から鋳型板へ水平方向に入射する磁束が鋳型板に生じる渦電流によって弱められる効果が大きくなることに起因して、磁極部120から鋳型板を通過して鋳型内へ到達する磁束が減少する。それにより、電流周波数が4.3Hz近傍を超える程度に高い領域において、電流周波数が高くなるにつれて電磁力の鉛直方向成分の平均値が緩やかに小さくなるものと考えられる。
【0094】
図14及び表1を参照すると、平均電磁力は、基本的に電流周波数が低くなるにつれて小さくなることがわかる。このことは、上述したように、電流周波数が低いほど磁極部120により発生する磁界が弱くなることに起因するものと考えられる。
【0095】
なお、本実施形態について、平均電磁力は、電流周波数が3.9Hz近傍の場合に最大値をとり、電流周波数が3.9Hz近傍を超える領域において、電流周波数が高くなるにつれて緩やかに小さくなることがわかる。このことは、上述したように、電流周波数が3.9Hz近傍を超える程度に高い領域において、磁極部120から鋳型板を通過して鋳型内へ到達する磁束が減少することに起因するものと考えられる。
【0096】
上記のように、電流周波数が低くなるにつれて、電磁力の鉛直方向成分の平均値が小さくなるので、鋳型30内の溶鋼2に生じる鉛直方向の流動を抑制する効果が大きくなる。一方、電流周波数が低くなるにつれて、平均電磁力が小さくなるので、鋳型30内の溶鋼2に対して旋回流を生じさせて溶鋼2を撹拌する効果が小さくなる。このように、溶鋼2に生じる鉛直方向の流動を抑制する効果と溶鋼2に対して旋回流を生じさせて溶鋼2を撹拌する効果との間には、トレードオフの関係がある。
【実施例2】
【0097】
本実施形態において製造される鋳片の品質を確認するために行った実機試験の結果について説明する。具体的には、上述した本実施形態に係る電磁撹拌装置100と同様の構成を有する電磁撹拌装置を、実際に操業に用いている連続鋳造機(
図1に示す連続鋳造機1と同様の構成を有するもの)に設置し、コイル130に印加する交流電流の電流周波数の値を様々に変更しながら連続鋳造を行った。そして、鋳造後に得られた鋳片について、表面品質及び内質を目視及び超音波探傷検査によってそれぞれ調査した。連続鋳造の条件は、以下の通りである。
【0098】
鋳片の長辺方向の幅X11:456mm
鋳片の短辺方向の幅Y11:339mm
鋳型板の厚みT11:25mm
長辺側ティース部の長辺方向の幅X1:240mm
短辺側ティース部の短辺方向の幅Y1:190mm
長辺側ティース部間の間隔X2:140mm
短辺側ティース部間の間隔Y2:140mm
鋳型長辺方向に対向する磁極部間の間隔X3:775mm
鋳型短辺方向に対向する磁極部間の間隔Y3:670mm
ティース部の上面と溶鋼の湯面との鉛直方向の距離Z1:280mm
ティース部の下面と溶鋼の湯面との鉛直方向の距離Z2:580mm
コイルにおける巻き線:36ターン
コイルに印加される交流電流の電流値(実効値):640A
浸漬ノズル6の底面と溶鋼2の湯面との鉛直方向の距離Z11:250mm
浸漬ノズル6の内径D11:90mm
浸漬ノズル6の外径D12:145mm
浸漬ノズル6の吐出孔61の底部からの高さZ12:85mm
浸漬ノズル6の吐出孔61の幅D13:80mm
浸漬ノズル6の吐出孔61の傾き:ノズル内側からノズル外側へ向かうにつれて上向きに15°
【0099】
実機試験の結果を表2に示す。表2においては、鋳片の品質について、欠陥がほぼ発見されず手入れが不要なレベルであった場合には「○」を、欠陥が発見され手入れが必要であった場合には「△」を、欠陥が多く発見され手入れを行った場合であっても品質厳格材としては使用不可であった場合には「×」を付すことにより表現している。
【0100】
【表2】
【0101】
表2を参照すると、電流周波数が1.0Hz〜6.0Hzである場合、鋳片の品質は表面品質及び内部品質の双方について良好であることが確認された。ゆえに、コイル130に対して1.0Hz〜6.0Hzの交流電流を印加することによって、鋳片の品質を効果的に向上させることができることがわかる。これは、電流周波数が1.0Hz〜6.0Hzである場合、溶鋼2に生じる鉛直方向の流動を抑制する効果及び溶鋼2に対して旋回流を生じさせて溶鋼2を撹拌する効果の双方が効果的に得られることによるものと考えられる。
【0102】
ところで、鋳型30内の溶鋼2に付与される平均電磁力は、上述したように、電流周波数が3.9Hz近傍を超える領域において、電流周波数が高くなるにつれて緩やかに小さくなる。また、電磁撹拌装置100における消費電力は、電流周波数が高いほど大きくなるため、電流周波数を4.0Hzよりも高くする利点は認められない。ゆえに、コイル130に対して1.0Hz〜4.0Hzの交流電流を印加することによって、鋳片の品質を効果的に向上させつつ、消費電力を抑制することができる。
【実施例3】
【0103】
本実施形態において鋳型30内の溶鋼2に生じる流動をさらに詳細に確認するために行った熱流動解析シミュレーションの結果について説明する。
【0104】
(シミュレーション1)
電流周波数を1.2Hzに設定して行った本実施形態に係る電磁撹拌装置100についての上述した電磁場解析シミュレーションによって得られた溶鋼2に付与される電磁力の分布の結果を用いて、熱流動解析シミュレーションを行った。
【0105】
本実施形態についての熱流動解析シミュレーションの条件は以下の通りである。
【0106】
鋳片の長辺方向の幅X11:456mm
鋳片の短辺方向の幅Y11:339mm
浸漬ノズル6の底面と溶鋼2の湯面との鉛直方向の距離Z11:250mm
浸漬ノズル6の内径D11:90mm
浸漬ノズル6の外径D12:145mm
浸漬ノズル6の吐出孔61の底部からの高さZ12:85mm
浸漬ノズル6の吐出孔61の幅D13:80mm
浸漬ノズル6の吐出孔61の傾き:ノズル内側からノズル外側へ向かうにつれて上向きに15°
鋳造速度(鋳片が引き抜かれる速度):0.6m/min
【0107】
上記の熱流動解析シミュレーションの結果を、
図15〜
図17に示す。
図15は、本実施形態についての熱流動解析シミュレーションによって得られた、浸漬ノズル6の中心線を通り鋳型の長辺方向に平行な断面内における鋳型30内の溶鋼2の温度及び撹拌流速の分布の一例を示す図である。
図16は、本実施形態についての熱流動解析シミュレーションによって得られた、湯面から下方に50mm離れた水平面(鉄芯コア110より上方の水平面)内における鋳型30内の溶鋼2の温度及び撹拌流速の分布の一例を示す図である。
図17は、本実施形態についての熱流動解析シミュレーションによって得られた、湯面から下方に430mm離れた水平面(鉄芯コア110の鉛直方向中心位置の水平面)内における鋳型30内の溶鋼2の温度及び撹拌流速の分布の一例を示す図である。
図15〜
図17では、溶鋼2の各位置についての流速(m/s)をベクトル量として表した流束ベクトルが矢印によって示されている。また、
図15〜
図17では、グレースケールの濃淡によって温度分布が示されており、濃い部分ほど温度が高い領域であることを示している。
【0108】
図15を参照すると、浸漬ノズル6内を通って鋳型30内へ送られた溶鋼2が吐出孔61から水平方向に吐出されている様子が確認される。また、
図16及び
図17を参照すると、溶鋼2が吐出孔61から吐出され後において鉛直軸回りに撹拌されている様子が確認される。具体的には、
図17を参照すると、鉄芯コア110の鉛直方向中心位置の水平面内において、鋳型30内の溶鋼2に鉛直軸回りの旋回流が生じている様子が確認される。さらに、
図16を参照すると、鉄芯コア110より上方の水平面内においても、鋳型30内の溶鋼2に鉛直軸回りの旋回流が生じている様子が同様に確認される。
【0109】
上記のように、本実施形態に係る電磁撹拌装置100によれば、鋳型30内の溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を適切に生じさせることが可能であることがより詳細に確認された。
【0110】
(シミュレーション2)
次に、電流周波数を様々に変更しながら行った本実施形態についての電磁場解析シミュレーションの結果の各々を用いた熱流動解析シミュレーションを行った。具体的には、電流周波数を1.0Hz、1.8Hz、2.5Hz、4.0Hzにそれぞれ設定した場合の本実施形態についての電磁場解析シミュレーションの結果の各々を用いた熱流動解析シミュレーションを行った。なお、比較対象として、電流周波数を1.8Hzに設定して行った比較例についての電磁場解析シミュレーションの結果を用いた熱流動解析シミュレーションも行った。
【0111】
熱流動解析シミュレーションの結果を、
図18に示す。
図18は、本実施形態及び比較例の各々についての熱流動解析シミュレーションによって得られた、湯面からの距離と鋳型30内の溶鋼2の撹拌流速との関係性の一例を示す図である。具体的には、
図18では、電流周波数を1.0Hz、1.8Hz、2.5Hz、4.0Hzにそれぞれ設定した場合の本実施形態についての結果と、比較例についての結果とがそれぞれ示されている。
図18において、撹拌流速が負の値をとる場合は、電磁撹拌装置により発生した回転磁界の回転方向と反対方向に溶鋼2が流動している場合に相当する。
【0112】
本実施形態について、
図18を参照すると、鉄芯コアの上面から下面の間の領域では、0.15m/s〜0.4m/sの撹拌流速が生じていることが各電流周波数において確認される。さらに、鉄芯コアより上方の領域では、0.1m/s〜0.35m/sの撹拌流速が生じていることが各電流周波数において確認される。
【0113】
一方、比較例について、
図18を参照すると、鉄芯コアの上面から下面の間の領域では、0.15m/s〜0.4m/sの撹拌流速が生じていることが確認される。しかしながら、鉄芯コアより上方の領域では、本実施形態と比較して、撹拌流速が顕著に低下していることが確認される。特に、湯面近傍の領域では、撹拌流速が負の値に転じていることが確認される。このことは、比較例では、溶鋼2において鉛直方向の流動が比較的生じやすいので、溶鋼2の鉛直方向の流動によって鉛直軸回りの旋回流が抑制されたことによるものと考えられる。
【0114】
上記のように、本実施形態では、鋳型30内の鉄芯コア110より上方の領域においても溶鋼2に撹拌流速を十分に生じさせることができることが確認された。このように、本実施形態では、鋳型30内の溶鋼2に鉛直軸回りの旋回流を適切に生じさせることができることが確認された。特に、コイル130に対して1.0Hz〜4.0Hzの交流電流を印加した場合において、鋳型30内の溶鋼2に鉛直軸回りの旋回流を適切に生じさせることができることが確認された。
【0115】
<4.まとめ>
以上説明したように、本実施形態に係る電磁撹拌装置100では、鉄芯コア110は、鋳型30の外側面の各々について外側面と対向して鋳型30の周方向に沿って2つ並設されるティース部119を有する。ゆえに、本実施形態に係る電磁撹拌装置100では、鉄芯コア110のティース部119及び当該ティース部119に巻回されるコイル130により形成される磁極部120が鋳型30の外側面の各々について鋳型30の周方向に沿って2つ配置される。それにより、磁極部120から鋳型板へ入射する磁束によって鋳型板に生じる渦電流により発生する磁束を非常に弱くする効果を奏することができる。ゆえに、漏れ磁束の発生を抑制することができる。よって、鋳型30内の溶鋼2に付与される電磁力の鉛直方向成分を低減しつつ、溶鋼2に対して鉛直軸回りの旋回流を生じさせるように電磁力を付与することができる。したがって、製作するに際して閉ループを形成する鉄芯コアの延在方向と同軸回りに当該鉄芯コアにコイルを巻回する工程を不要とし、鋳型30内の溶鋼2に対して、鉛直方向の流動を抑制しつつ、鉛直軸回りの旋回流を適切に生じさせることが可能となる。
【0116】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲
に属するものと了解される。