特許第6930875号(P6930875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6930875タイヤ加硫用金型の製造方法およびタイヤ加硫用金型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6930875
(24)【登録日】2021年8月16日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫用金型の製造方法およびタイヤ加硫用金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20210823BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20210823BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20210823BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C33/38
   B29L30:00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-159595(P2017-159595)
(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公開番号】特開2019-38119(P2019-38119A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080540
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 泰之
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−083389(JP,A)
【文献】 特開2005−161575(JP,A)
【文献】 特開2010−201632(JP,A)
【文献】 特開2006−315065(JP,A)
【文献】 特開2005−231259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 − 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向中央部内面にタイヤの広幅溝と補完関係にある成形突起が形成され、同一形状である円筒状の金型素材を複数個準備する工程と、
各金型素材の軸方向中央部に軸方向に延びるとともに、周方向に離れた複数の貫通スリットを切削加工により形成し、隣接する貫通スリット間に前記成形突起の一部が内面に形成された金型ピースを形成する工程と、
前記金型ピースの軸方向一端および軸方向他端に連続し周方向に延びる残リングから前記金型ピースを切り出す工程と、
前記複数個の金型素材から金型ピースを1個ずつ順次取り出し、複数のホルダーの内面に次々と設置する作業を繰り返し行い、ホルダーと金型ピースとからなる複数の金型セグメントを成形する工程と、
を備えたことを特徴とするタイヤ加硫用金型の製造方法。
【請求項2】
前記切削加工による貫通スリットの形成作業は、各金型素材に貫通スリットと同一形状の深溝を形成した後、該深溝の底壁を次々と除去するようにした請求項1記載のタイヤ加硫用金型の製造方法。
【請求項3】
前記切削加工による貫通スリットの形成作業は、貫通スリットの位置に仕上げ代が残るよう貫通スリットの正規寸法より幅狭である粗スリットを形成した後、金型素材の残リングに所定の外力を付与して金型素材を正規形状に補正し、次に、補正された金型素材に対し切削加工を施して貫通スリットを形成するようにした請求項1または2記載のタイヤ加硫用金型の製造方法。
【請求項4】
前記金型素材を、周方向に複数分割された金型素材片から構成した請求項1〜3のいずれか一項に記載のタイヤ加硫用金型の製造方法。
【請求項5】
前記金型素材の軸方向中央部内面に細溝形成体の基端部が埋設されるとともに、該細溝形成体が前記貫通スリットの側面と交差するよう配置されているとき、前記細溝形成体と貫通スリットの側面とが交差する位置の細溝形成体に、前記貫通スリットの側面に平行に延びる細溝を形成するようにした請求項2〜4のいずれか一項に記載のタイヤ加硫用金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のホルダーの内面に金型ピースを設置することで、複数の金型セグメントを成形するようにしたタイヤ加硫用金型の製造方法およびタイヤ加硫用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタイヤ加硫用金型の製造方法としては、例えば以下の特許文献1に記載されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−220753号公報
【0004】
このものは、内面にタイヤの広幅溝と補完関係にある成形突起が形成された円筒状を呈する単一の金型素材を、ワイヤー放電加工機により径方向に切断分割して、前記成形突起の一部が内面に形成された多数のセグメントピースを形成し、その後、複数の鉄製ホルダーの内面に複数のセグメントピースを所定の順序で組み付け保持して、ホルダーとセグメントピースからなる複数の金型セグメントを成形するとともに、これらセグメントピース間に空気等のガスを通すがゴムは通さない程度の微小な排気用隙間を形成し、これにより、ベントホールに基づくスピュー(小径のゴム柱)の発生を阻止するようにしたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のタイヤ加硫用金型の製造方法にあっては、セグメントピースの側面(切断面)の表面粗さを適切な値に修正する場合や、前記側面にガスを誘導する排気溝を新たに形成するような場合には、セグメントピースを1個ずつ治具で把持した後、エンドミル等の切削工具で加工を行い、その後、治具から取り外すという作業を繰り返し行う必要があり、この結果、製造作業が面倒となり作業効率も低下するという課題があった。しかも、セグメントピースに対し個別に加工を施すようにしているため、金型セグメントとなったときにパターンずれや隙間量にバラツキが生じることがあるという課題もあった。
【0006】
この発明は、製造作業が簡単となり作業能率を容易に向上させることができるとともに、高精度の金型ピースを形成することができるタイヤ加硫用金型の製造方法およびタイヤ加硫用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、軸方向中央部内面にタイヤの広幅溝と補完関係にある成形突起が形成され、同一形状である円筒状の金型素材を複数個準備する工程と、各金型素材の軸方向中央部に軸方向に延びるとともに、周方向に離れた複数の貫通スリットを切削加工により形成し、隣接する貫通スリット間に前記成形突起の一部が内面に形成された金型ピースを形成する工程と、前記金型ピースの軸方向一端および軸方向他端に連続し周方向に延びる残リングから前記金型ピースを切り出す工程と、前記複数個の金型素材から金型ピースを1個ずつ順次取り出し、複数のホルダーの内面に次々と設置する作業を繰り返し行い、ホルダーと金型ピースとからなる複数の金型セグメントを成形する工程とを備えたタイヤ加硫用金型の製造方法により、達成することができる。また、このようなタイヤ加硫用金型の製造方法を用いて製造されたタイヤ加硫用金型により、達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明においては、同一形状である複数の円筒状を呈する金型素材に複数の貫通スリットを成形して隣接する貫通スリット間に金型ピースを形成した後、前記貫通スリットより軸方向一側、他側にそれぞれ位置する残リングから金型ピースを切り出し、その後、複数個の金型素材から金型ピースを1個ずつ順次取り出して複数のホルダーの内面に次々と設置し複数の金型セグメントを成形するようにしたので、金型ピースの側面の表面粗さを修正したり、該側面にガスを誘導する排気溝を成形する場合には、いずれの金型ピースもその軸方向一端、他端が残リングにそれぞれ連続している、即ち残リングに強固に保持されているため、この状態でそのまま作業を行うことができ、この結果、金型ピースを1個ずつ治具で保持して加工する必要がなくなって製造作業が簡単となり、作業能率を容易に向上させることができる。しかも、貫通スリットを切削加工により形成して金型ピースを形成する際、金型ピースの軸方向一端、他端は周方向に延びる残リングに連続し強固に保持されているので、金型ピースを高精度で形成することができ、パターンずれや隙間量のバラツキを容易に抑制することができる。
【0009】
また、請求項2に記載のように構成すれば、深溝の形成時には底壁が切削抵抗による撓み変形を抑制する一方、薄肉である深溝の底壁除去時は切削抵抗が小さな値となるため、底壁除去時の撓み変形が抑制されて貫通スリット(金型ピース)を高精度で形成することができる。さらに、請求項3に記載のように構成すれば、金型素材に寸法誤差が存在して正規形状から狂っていても、金型素材に粗スリットを形成してその変形を容易とした後、外力により金型素材を正規形状に補正するようにしたので、貫通スリット(金型ピース)を高精度で形成することができる。また、請求項4に記載のように構成すれば、貫通スリット(金型ピース)に軸方向に対して傾斜した部位が存在するような場合にも、貫通スリットを安定して形成することができる。さらに、請求項5に記載のように構成すれば、貫通スリットを形成する際、金型ピースに残留する部位の細溝形成体が切削抵抗により変形する事態を容易に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)(b)は、この発明の実施形態1を示す金型素材の斜視図である。
図2】(a)(b)は金型素材に貫通スリットを形成した状態を示す斜視図である。
図3】深溝が形成された金型素材の周方向に沿った部分断面図である。
図4】1個の金型ピースを示すその斜視図である。
図5】(a)(b)は金型素材の軸方向両端部外面に切削加工を施した状態を示す斜視図である。
図6】(a)(b)は切り出された複数の金型ピースを示す斜視図である。
図7】金型ピースをホルダーに装着した状態を示す斜視図である。
図8】(a)(b)は、この発明の実施形態2を示す、金型素材に粗スリットを形成した状態の斜視図である。
図9】(a)(b)は、図8の金型素材に外力を付与した状態を示す斜視図である。
図10】(a)(b)は、図8の金型素材に貫通スリットを形成した状態を示す斜視図である。
図11】(a)(b)は、図10の金型素材の軸方向両端部外面に切削加工を施した状態を示す斜視図である。
図12】(a)(b)は、この発明の実施形態3を示す金型素材に貫通スリットを形成した状態の斜視図である。
図13】(a)(b)は金型ピースにサブスリットを形成した状態を示す斜視図である。
図14】サブピースを組み立てて金型ピースとした状態を示す斜視図である。
図15】この発明の実施形態4を示す金型素材の斜視図である。
図16】この発明の実施形態5を示す細溝形成体近傍の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1(a)(b)において、11a、11bはアルミニウム合金等からなり鋳造によって製造された円筒状の金型素材であり、これら金型素材11a、11bは同一形状で複数個、この実施形態では2個準備されている。そして、前記金型素材11a、11bの軸方向中央部内面には、加硫により成型されたタイヤの広幅溝(接地時にも閉じることのない主溝、横溝等)と補完関係にある成形突起12a、12bがそれぞれ形成されているが、これら成形突起12a、12bとしては、例えば周方向に延びる主骨、軸方向に延びる横骨等を挙げることができる。また、前記金型素材11a、11bの軸方向両端部にはそれぞれ半径方向内側に突出した内方フランジ13a、13bが形成されている。図2(a)、(b)において、16a、16bはミリングマシンにそれぞれ装着された切削工具としてのエンドミルであり、これらのエンドミル16a、16bは、前記金型素材11a、11bが図示していない作業台に装着されているとき、該金型素材11a、11bの軸方向中央部を周方向の異なる位置において切削加工し、各金型素材11a、11bの軸方向中央部に軸方向に延び半径方向に貫通した種類の異なる貫通スリット17a、17bを形成する。ここで、前述の貫通スリット17a、17bは階段状に緩やかに屈曲しながら軸方向に延びているが、この発明においては、軸方向に直線状に延びていてもよい。
【0012】
そして、このような切削加工を、作業台、金型素材11a、11bを軸線回りに所定角度、例えば12度だけ回転させながら前述と同様に繰り返し行い、各金型素材11a、11bの軸方向中央部に軸方向に延びるとともに、周方向に等角度(12度だけ)離れ互いに平行な同一形状である複数(30個)の貫通スリット17a、17bを形成する。このように金型素材11a、11bの軸方向中央部に周方向に離れた複数の貫通スリット17a、17bを形成すると、隣接する貫通スリット17a間、貫通スリット17b間にはそれぞれ前記成形突起12a、12bの一部が内面に形成された種類の異なる金型ピース20a、20bが形成され、また、これら貫通スリット17a、17bの軸方向一端、他端より軸方向一側、他側には該金型ピース20a、20bの軸方向一端、他端に連続するとともに、周方向に連続して延びる一対の残リング21a、22aおよび残リング21b、22bがそれぞれ形成される。そして、前記金型ピース20aは貫通スリット17b内に金型ピース20bと面接触した状態で挿入可能(金型ピース20aと貫通スリット17bとは同一幅)であり、また、金型ピース20bは貫通スリット17a内に金型ピース20aと面接触した状態で挿入可能(金型ピース20bと貫通スリット17aとは同一幅)である。
【0013】
なお、この実施形態では作業台、金型素材11a、11bを等角度だけ軸線回りに繰り返し回転させながらエンドミル16a、16bにより切削加工を行うようにしたが、この発明においては、作業台、金型素材11a、11bを静止させる一方、エンドミル16a、16bを前記軸線を中心に旋回させながら繰り返し切削加工を施すようにしてもよい。また、この実施形態では、エンドミル16a、16bを半径方向内側から半径方向外側に向かって移動させることで、金型素材11a、11bに貫通スリット17a、17bをそれぞれ形成しているが、この発明においては、前記エンドミル16a、16bを半径方向外側から半径方向内側に向かって移動させることで貫通スリット17a、17bを形成するようにしてもよい。ここで、切削加工による各貫通スリット17a、17bの形成作業は、エンドミル16a、16bによる切削加工によって一括して形成することもできるが、図3に示すように、各金型素材11a、11bにエンドミル16a、16bによって貫通スリット17a、17bと深さ以外は同一形状で周方向の形成位置も同一である深溝24を貫通スリット17a、17bと同数だけ形成した後、該深溝24の残留している底壁25をエンドミル16a、16bによる切削加工により全周に亘って次々と除去することで行うようにすることが好ましい。
【0014】
その理由は、貫通スリット17a、17bが貫通することで完成した後、次の貫通スリット17a、17bを形成するようにすると、形成加工時の切削抵抗を受けて細幅である曲げ剛性の低い金型ピース20a、20bが撓み変形することがあるが、このように撓み変形した状態で切削加工を進行させると、貫通スリット17a、17b、金型ピース20a、20bの形状が正規形状から狂ってしまうことがある。しかしながら、前述のように各金型素材11a、11bに深溝24を全周に亘って形成した後、該深溝24の底壁25を除去するようにすれば、深溝24の形成時には底壁25が切削抵抗による撓み変形を低減させる一方、薄肉である深溝24の底壁25を除去する際にはその切削抵抗が小さな値となり、しかも、貫通スリット17a、17bの形成加工時における切削抵抗が2回の加工に分散される。この結果、貫通スリット17a、17bの形成時における撓み変形が抑制されて、貫通スリット17a、17b(金型ピース20a、20b)を高精度で形成することができるからである。ここで、前記底壁25の半径方向の肉厚tは金型素材11a、11bの軸方向中央部における半径方向の肉厚Tの10〜20%の範囲内とすることが好ましい。その理由は、前述した範囲内であると、前記深溝24の加工時における撓み変形を十分に低減しながら、底壁25の除去を容易とすることができるからである。また、前述した底壁25の除去は細溝24を金型素材11a、11bに全周に亘って形成した後に行うようにしてもよく、あるいは、細溝24を形成する度に行うようにしてもよい。
【0015】
また、このような貫通スリット17a、17bの形成中または形成直後で後述する切り出し作業前に、図4に示すように金型ピース20a、20bの少なくともいずれか一方の周方向側面に、金型ピース20a、20bの長手方向に沿って延びる少なくとも1個の誘導溝28と、各誘導溝28の長手方向中央部から金型ピース20a、20bの外面まで半径方向に延びる集合溝29と、からなる排気溝30を形成するようにしている。このような排気溝30を各金型ピース20a、20bに形成してやれば、隣接配置された金型ピース20a、20b間に侵入した空気等のガスを効果的に加硫金型外に排出することができる。そして、このような排気溝30を金型ピース20a、20bの軸方向両端が残リング21a、21bに連続しているときに形成するようにすれば、形成作業時における金型ピース20a、20bの変形を効果的に抑制することができ、排気溝30の寸法精度を容易に向上させることができる。また、金型ピース20a、20bの側面の表面粗さが規定値からずれている場合には、修正工具を用いて前記排気溝30の形成と同時あるいは形成の前後に修正するが、このときも前述と同様の理由により金型ピース20a、20bの変形を効果的に抑制することができる。
【0016】
次に、図5(a)(b)に示すように、エンドミル16a、16b等により残リング21a、22a、残リング21b、22bを所定形状に切削加工するが、このとき、必要に応じて金型ピース20a、20bの外面を切削加工して正規形状とする。なお、前述のような切削加工を行う際、金型素材11a、11bには貫通スリット17a、17bが形成されているものの、軸方向両端部では残リング21a、22a、21b、22bが残留することで周方向に連続しているため、各金型ピース20a、20bを保持する治具は不要であり、作業も容易となる。次に、金型素材11a、11bを作業台から取り外した後、各金型ピース20a、20bを図示していない把持手段により周方向両側から把持した後、前記エンドミル16a、16b、旋盤等により金型ピース20a、20bと残リング21a、21bとの境界に対し切削加工を施す。この結果、金型ピース20a、20bは、図6(a)(b)に示すように、これら金型ピース20a、20bの軸方向一端および軸方向他端に連続し周方向に延びる残リング21a、21bから切り出される。次に、金型ピース20a、20bだけとなった複数個(2個)の金型素材11a、11bから該金型ピース20a、20bを1個ずつ順次取り出した後、図7に示すような、スチール等からなり弧状を呈するホルダー33の内面に前記取り出した順序で次々と取付けて設置する。そして、前述のような作業をさらに2回繰り返して前記ホルダー33の内面に合計6個の金型ピース20a、20bを周方向に交互に設置すると、ホルダー33と金型ピース20a、20bとからなる金型セグメント34が成形される。
【0017】
ここで、前記ホルダー33は、図7に示すように、周方向に複数個、ここでは10個だけ並べられて配置されているが、残りのホルダー33の内面に金型ピース20a、20bを次々と設置する作業を繰り返し行い、全てのホルダー33の内面にそれぞれ複数個の金型ピース20a、20bを交互に設置する。なお、この実施形態では金型ピース20a、20bの双方を同一幅としたが、この発明においては、これら金型ピース20aと金型ピース20bとの幅は異なっていてもよい。この場合には、前記金型ピース20a、20bの幅の合計値の整数倍と、前記ホルダー33の幅(周方向長さ)とが同一であればよい。このようにしてホルダー33と、該ホルダー33の内面に設置された複数の金型ピース20a、20bとからなる金型セグメント34を複数成形(全体として1個のセクターモールド37を成形)する。ここで、少なくとも1個、ここでは全てのホルダー33の周方向一側側面に、該一側側面から半分程度が突出する円柱状のピンプロテクター35を設けるとともに、前記ピンプロテクター35に対向するホルダー33の周方向他側側面に前記ピンプロテクター35の突出部が嵌合する円弧状の凹溝36を形成している。このようにすれば、仕上げ加工を施すことなく、隣接する金型セグメント34同士を周方向、軸方向のいずれの方向においても高精度で位置決めすることができるとともに、周方向一側、他側面間の隙間寸法を容易に制御することができる。
【0018】
この実施形態では、前述のように2個の金型素材11a、11bから必要数(60個)の半分(30個)の金型ピース20a、20bをそれぞれ切り出した後、これら種類の異なる金型ピース20a、20bを交互に1個ずつ順次取り出して複数のホルダー33の内面に次々と設置して組み立てることで1個のセクターモールド37を成形するようにしたが、この発明においては、3個以上の金型素材からそれぞれ複数の金型ピースを切り出した後、これら種類の異なる金型ピースを1個ずつ順次取り出してホルダーの内面に次々と配置して組み立てることで、1個のセクターモールドを成形するようにしてもよい。このようにして製造されたセクターモールド37は、静止している下モールドおよび昇降可能な上モールドを有するタイヤ加硫装置に装着される。その後、未加硫タイヤが下モールド上に載置されると、上モールドが下降して下モールドに接近するとともに、各金型セグメントが半径方向内側に同期移動し、加硫金型が閉止される。その後、加硫金型に高温、高圧の加硫媒体が供給され、前記未加硫タイヤが加硫される。
【0019】
このように同一形状である複数の円筒状を呈する金型素材11a、11bに複数の貫通スリット17a、17bを成形して隣接する貫通スリット17a、17b間に金型ピース20a、20bをそれぞれ形成した後、前記貫通スリット17a、17bより軸方向一側、他側にそれぞれ位置する残リング21a、21bから金型ピース20a、20bを切り出し、その後、前記複数の金型素材11a、11bから金型ピース20a、20bを1個ずつ順次取り出して複数のホルダー33の内面に次々と設置し複数の金型セグメント34を成形するようにしたので、前述のように金型ピース20a、20bの側面の表面粗さを修正したり、前記側面にガスを誘導する排気溝30を成形する場合には、いずれの金型ピース20a、20bもその軸方向一端、他端が残リング21a、21bにそれぞれ連続している、即ち残リング21a、21bに強固に保持されているため、この状態でそのまま作業を行うことができ、この結果、金型ピース20a、20bを1個ずつ治具で保持して加工する必要がなくなって製造作業が簡単となり、作業能率を容易に向上させることができる。しかも、同様に残リング21a、21bに強固に保持されているため、金型ピース20a、20bを高精度で形成することができるとともに、パターンずれや隙間量のバラツキを容易に抑制することができる。
【0020】
また、近年、周方向の繰り返し再現性が低いトレッドパターンのタイヤや、タイヤ周方向あるいはタイヤ軸方向に対して大きな角度で傾斜した広幅の湾曲溝が形成されているタイヤが使用されるようになったが、このようなタイヤであっても、この実施形態の製造方法を用いて加硫金型を製造するようにすれば、隣接する金型ピース20a、20b間でのパターンずれ、隙間のバラツキ等を効果的に抑制することができる。さらに、金型ピース20a、20bを成形する際、該金型ピース20aおよび金型ピース20bの軸方向一端、他端は残リング21a、22aおよび残リング21b、22bにそれぞれ連続しているので、貫通スリット17a、17b(金型ピース20a、20b)の形状を変更する場合であっても、エンドミル16a、16bの移動経路を制御するデータを変更するだけで問題なく容易に対処することができる。
【0021】
図8(a)(b)〜図11(a)(b)は、この発明の実施形態2を示す図である。前述のように金型素材11a、11bを鋳造で製造した場合には、寸法誤差が生じて正規形状からずれていることが多いが、このような事態に対処するため、鋳造された状態のままである金型素材11a、11bの両方の内方フランジ13a、13b内に、拡径手段を挿入して両方の内方フランジ13a、13bを拡径し、この状態で前述のように貫通スリットを形成することが考えられる。しかしながら、前述のように鋳造された状態のままで両方の内方フランジ13a、13bを押し広げると、両方の内方フランジ13a、13b近傍のみが拡径され、拡径させたい部位である金型素材11a、11bの軸方向中央部は剛性が高いために殆ど拡径せず、寸法の補正を行うことができない。このため、この実施形態では、図8(a)(b)に示すように、貫通スリットの位置に、図示していないエンドミル等の切削工具によって該貫通スリットの正規寸法より幅狭である粗スリット40a、40bを形成し、貫通スリットを形成する際に除去される仕上げ代を該粗スリット40a、40bの両側に残すようにしている。
【0022】
次に、図9(a)(b)に示すように、両方の内方フランジ13a、13b内に拡径手段43を挿入した後、該拡径手段43から内方フランジ13a、13bに半径方向外側に向かう外力(拡径力)を付与し、これら内方フランジ13a、13bを正規寸法に補正(拡径)する。このとき、金型素材11a、11bの軸方向中央部は前記粗スリット40a、40bにより剛性が低下しているため、該金型素材11a、11bの軸方向中央部は内方フランジ13a、13bと一体となって円筒状を保持したまま半径方向外側に平行移動し、該軸方向中央部を含む金型素材11a、11b全体が正規形状(正規寸法)に補正される。次に、図10(a)(b)に示すように、両方の内方フランジ13a、13bを把持具50a、50bにより把持することで、金型素材11a、11b全体を正規形状に保持しながら、前述と同様にエンドミル16a、16bによって形状補正された金型素材11a、11bに対し切削加工を施して貫通スリット46a、46bを形成する。
【0023】
このように金型素材11a、11bに寸法誤差が生じて正規形状から狂っていても、該金型素材11a、11bに粗スリット40a、40bを形成してその変形を容易とした後、外力により金型ピース47a、47bを含む金型素材11a、11b全体を正規形状に補正するようにしたので、貫通スリット46a、46bを高精度で形成することができる。なお、このような補正は金型素材11a、11bにおける真円度の誤差に対しても同様に行うことができる。そして、このような作業を追加すれば、前記実施形態1の方法で製造された加硫用金型に比較し、パターンのずれを33%程度、真円度を40%程度改善することができる。また、前述した深溝24を粗スリット40a、40bと同様に幅狭で形成した後、補正外力を付与し、その後、底壁25を除去しながら貫通スリットを形成するようにしてもよい。次に、図11(a)(b)に示すように、残リング21a、22a、21b、22bを所定形状に切削加工するが、このとき、必要に応じて金型ピース47a、47bの外面を切削加工して整える。その後、前述と同様に把持手段により金型ピース47a、47bを把持しながら該金型ピース47a、47bを残リング21a、22a、21b、22bから切り離す。その後の作業は前記実施形態1と同様である。
【0024】
図12(a)(b)は、この発明の実施形態3を示す図である。この実施形態においては、円筒状の金型素材11a、11bの軸方向中央部にホルダー33と同数の貫通スリット48a、48bを周方向に等角度離して形成する。その後の作業は前記実施形態1と同様であるが、貫通スリット48a、48b間に位置する広幅で円弧状を呈する金型ピース49a、49bはホルダー33と同数であるので、金型素材11a、11bから金型ピース49a、49bを1個おきに1個ずつ順次取り出して各ホルダー33の内面に次々と設置するようにしている。この場合には、ガスの排気通路は金型ピース49a、49b間のみとなって排気効率が低下するが、金型ピース49a、49bの周方向側面およびホルダー33の側面の形状が複雑なものであっても容易に対応することができる。
【0025】
ここで、前述のように金型素材11a、11bから切り出した金型ピース49a、49bに対し、図13(a)(b)〜図14に示すような加工を施すことで排気効率を向上させるようにしてもよい。図13(a)(b)において、50a、50bは各金型ピース49a、49bを軸方向両側から把持する把持具であり、このような把持具50a、50bによって把持された金型ピース49a、49bに対し、図示していないエンドミル等の切削工具を用いて軸方向に離れた複数のサブスリット51a、51bを形成するとともに、これら金型ピース49a、49bの内面の仕上げ加工を行う。ここで、前記サブスリット51a、51bは周方向に延びているが、その両端は金型ピース49a、49bの周方向両端部で終了しているため、該金型ピース49a、49bの周方向両端部は軸方向に連続して延びる補強用の連結部52a、52bが残留しており、これにより、サブスリット51a、51b、結果としてサブスリット51a、51b間のサブピース53a、53bを高精度で形成することができる。なお、サブスリット51a、51bの幅等は成形突起12a、12bとの干渉を避けるため互いに異なっているが、サブスリット51aとサブピース53bと、および、サブスリット51bとサブピース53aとは互いに同一幅である。次に、金型ピース49a、49bから連結部52a、52bを除去してサブピース53a、53bを切り出した後、金型ピース49a、49bからサブピース53a、53bを1個ずつ順次取り出して組み合わせ、図14に示すような金型ピース54を成形する。なお、このような金型ピース54は、図12における金型ピース49a、49bに適用する以外に、通常の加硫金型にも適用することもできる。
【0026】
図15(a)(b)は、この発明の実施形態4を示す図である。この実施形態においては、金型素材56a、56bを実施形態1のような円筒状の一体物ではなく、周方向に複数分割された金型素材片57から構成している。そして、この実施形態では、前記金型素材片57を、鋳造、あるいは、円筒状の金型素材をワイヤー放電加工機を用いて切断することで形成した後、周方向端面を接触させながら周方向に並べて配置することで、全体として円筒状を呈する金型素材56a、56bを形成している。その後の作業は実施形態1と同様である。そして、この実施形態のようにすれば、貫通スリット(金型ピース)に軸方向に対して傾斜した部位が存在するような場合にも、貫通スリットを安定して形成することができる。
【0027】
図16は、この発明の実施形態5を示す図である。同図において、60は金型素材11a、11bの軸方向中央部内面に基端部が鋳ぐるみ等により埋設された薄板金属からなる細溝形成体としての複数のサイプブレードであり、これらサイプブレード60の前記内面から突出した突出部61は加硫時にタイヤのトレッドに押し込まれ該トレッドに細溝のサイプを形成する。ここで、このようなサイプブレード60がエンドミル等の切削工具による切削予定面62(切削加工後は貫通スリットの側面となる)と交差するよう配置される場合があるが、このような場合にサイプブレード60に何らの工夫も施すことなく金型素材11a、11bに貫通スリットを形成すると、切削工具の移動経路上に位置する部位のサイプブレード60(突出部61)は問題なく除去されるものの、切削後も残留する部位のサイプブレード60には切削工具から切削抵抗による外力が付与されるため、該残留部位のサイプブレード60(突出部61)が変形し、これにより、加硫後のサイプに例えば、 1mm程度のずれが生じてしまうのである。このような事態に対処するため、この実施形態では、前記サイプブレード60と切削予定面62(貫通スリットの側面)とが交差する位置のサイプブレード60(突出部61)に前記切削予定面62と平行に延びる細溝としてのスリット63を、例えばレーザー加工機、放電加工機等を用いて形成するようにしている。このようにすれば、切削工具を用いて貫通スリットを形成する際、切削工具の刃先がスリット63を通過するため、金型ピースに残留する側のサイプブレード60(突出部61)には前記切削工具から外力が付与されることは殆どない。これにより、前記残留する側のサイプブレード60(突出部61)が切削抵抗により変形する事態を容易に回避することができ、前述のような残留したサイプ同士のずれを、例えば0.15mm程度に低減させることができる。なお、この発明においては、細溝成型体によって、例えば偏摩耗抑制用の細幅溝を形成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、複数のホルダーの内面に金型ピースを設置することで、複数の金型セグメントを成形する産業分野に適用できる。
【符号の説明】
【0029】
11a、11b…金型素材 12a、12b…成形突起
17a、17b…貫通スリット 20a、20b…金型ピース
21a、21b、22a、22b…残リング
24…深溝 25…底壁
33…ホルダー 34…金型セグメント
40a、40b…粗スリット 57…金型素材片
60…細溝形成体
図1
図2
図3
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図5
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図16