【文献】
Poster No:1251, The Analysis of the Effect of JQ1 and Flavopiridol on Chondrocytes under Inflammatory Stimuli, [online], (2014), ORS 2014 Annual Meeting, [Retrieved on 2019.07.29], Retrieved from the internet:<URL:http://www.ors.org/Transactions/60/1251.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有効量のサイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤及びブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤を含む、その必要がある対象において軟骨変性及び/または軟骨細胞死を低減、防止、阻害、緩和及び/または改善するとともに、ならびに軟骨の機械的特性を保持または増強するための医薬組成物であって、
前記サイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤がフラボピリドールであり、
前記ブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤がJQ1であり、
前記対象が関節、靱帯、または軟骨組織に外傷を受傷したことがあり、
前記CDK9阻害剤及び前記BRD4阻害剤の両方が、前記傷害を受けた関節、靱帯、または軟骨組織部位に直接、同時投与され、
有効量の前記サイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤及び前記ブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤を前記対象に同時投与することにより、前記対象の軟骨変性及び/または軟骨細胞死を低減、防止、阻害、緩和及び/または改善し、ならびに軟骨の機械的特性を保持または増強する、前記医薬組成物。
有効量のサイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤及びブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤を含む、その必要がある対象において外傷後変形性関節症の発症及び/または進行を低減、防止、阻害、緩和及び/または改善するとともに、ならびに軟骨の機械的特性を保持または増強するための医薬組成物であって、
前記サイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤がフラボピリドールであり、
前記ブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤がJQ1であり、
前記対象が関節、靱帯、または軟骨組織に外傷を受傷したことがあり、
前記CDK9阻害剤及び前記BRD4阻害剤の両方が、前記傷害を受けた関節、靱帯、または軟骨組織部位に直接、同時投与され、
有効量の前記サイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤及び前記ブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤を前記対象に同時投与することにより、前記対象の外傷後変形性関節症を軽減、防止、阻害、緩和及び/または改善し、ならびに軟骨の機械的特性を保持または増強する、前記医薬組成物。
前記CDK9阻害剤及び前記BRD4阻害剤の両方が、急性反応段階で最初に同時投与され、外傷受傷後の1つ以上の初期応答遺伝子の転写活性化を抑制及び/または阻害する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
前記1つ以上の初期応答遺伝子が、IL−1β、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、IL−6、TNF−α、MMP−1、MMP−3、MMP−9、MMP−13及びADAMTS4(アグリカナーゼ)からなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
前記CDK9阻害剤及び前記BRD4阻害剤の一方または両方が、損傷または傷害後、約10日以内に前記対象に投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
1.緒言
CDK9及びBRD4活性の複合阻害が、多発外傷またはSIRSを防止、軽減及び/または緩和すること、傷害(例えば、外傷及び/または外科的傷害)後の軟骨及び保存中の軟骨(例えば、同種異系移植片)を保持することに使用できるという発見に部分的に基づく方法を提供する。阻害性核酸及び阻害性化合物(例えば、フラボピリドール、JQ1、GSK525762A、ならびにその類似体及び塩)を含む、当技術分野で既知であるCDK9及びBRD4阻害剤のいかなる併用も本方法に使用することができる。
【0035】
多様な刺激が炎症を誘導する可能性があり、そのうちのいくつかは関節炎薬(例えば、IL−1アンタゴニスト、TNFアンタゴニスト、抗酸化剤)として個別に研究されている。その主眼は、応答遺伝子の転写が発生しないように経路を阻害することであった。これらの既存の研究はいずれも転写過程に対処するものではない。本発明は部分的に、これらの経路すべてが、初期応答遺伝子の転写伸長のためのCDK9及びBRD4の複合活性化に集約されるという発見に基づいている。CDK9及びBRD4の複合阻害による転写伸長の阻害は、初期応答炎症性遺伝子に限定され、またCDK9及びBRD4の複合阻害はハウスキーピング遺伝子の転写に影響を及ぼさないため、短期的に細胞または組織を損傷することがない。CDK9及びBRD4阻害の複合的な利点は、すべての炎症性刺激を原因とする炎症性遺伝子の転写伸長を減少させることである。様々な実施形態において、CDK9及びBRD4は、例えば、小分子薬(例えば、フラボピリドール及び他の既知のCDK9阻害剤;JQ1、GSK525762A及び他の既知のBRD4阻害剤、ならびにその類似体及び塩)及び/または阻害性核酸(例えば、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA)により、特異的かつ可逆的に阻害することができる。
【0036】
症候性変形性関節症(OA)は、臓器レベルで荷重を支える関節の末期不全と定義することができる(1)。OAの病因は依然として完全には解明されていないが、関節傷害が多くの場合、経時的にOAへと進行することは十分に立証されている(2)。関節内骨折を引き起こす高エネルギーの関節外傷は、多くの場合、関節変性及び外傷後変形性関節症(PTOA)の急激な発症をもたらす(3)。はるかに頻度の高い、関節への低エネルギー外傷でさえ、軟骨及び関節変性の緩慢な進行を起こし、長年を経て症候性PTOAに至ることになる(2)。例として、米国での年間膝傷害総数900,000のうち(4)、American Academy of Orthopaedic Surgeonsによると、一般集団での前十字靱帯(ACL)の傷害は200,000と推定されており(5)、これには軍人患者のACL再建2500〜3000を含む(6)。際立ったことに、これらのACL傷害患者のうち約50%は、10〜20年の無症候性誘導期の後に膝のPTOAを発症する(7)。50歳未満のNFL引退者では、一般集団の相当する男性よりも5倍、関節炎を患う可能性が高く、引退者の約80%はほぼ1日中、持続的な関節の痛みがあると報告しており、50歳以上のNFL引退者の23%超は関節置換術を経験していた。
【0037】
無症候性誘導期間には関節の痛みがないにもかかわらず、骨及び軟骨の進行性悪化は、外傷性関節損傷の直後から発現し始める。膝関節または股関節のOAの場合、無症候性の軟骨変性期は、数年または数十年も持続する可能性がある(8)。関節症にかかった関節に痛みが生じる頃には、多くの場合、軟骨損傷の広がりとともに完全に軟骨が損失した領域が生じる。通常のOA患者がクリニックで診察を受ける頃には、無痛性の「早期OA」病状が伸展した結果、すでに広範な関節損傷が発生している。この後期段階では、関節変性の根本原因の治療はもはや不可能であり、損傷は不可逆的である。現在のOA治療は、付随する関節の痛みには対処するが、関節機能を改善したり、基礎病理を改めたりすることはない。このような対症的治療が最終的に役立たなくなると、痛みなく歩行するには侵襲性外科関節置換術しか残された治療法はない。前十字靱帯(ACL)裂傷のような関節外傷が最終的にOAに至るという根拠は豊富にあるが(9〜11)、現在の臨床治療ではこのような傷害時点でOAの将来的な発症を防止する手段がない。現在では、臨床治療は、直接的痛み及び関節の膨張の低減、ならびに通常の関節運動の回復を目的としている。最も一般的な推奨事項は、氷を当てる、弾性包帯を用いて関節を静かに圧迫する、及び鎮痛剤(例えばアスピリン、アセトアミノフェンまたはイブプロフェン)を服用することである。重要なことに、これらの治療はOAの発症に対処していない。OAの発生率は、患者がACLの外科再建術を受けたことがあるかどうかには無関係である(7、12)。これは、慢性的な関節不安に加えて、傷害事象がOAの病因を引き起こす役割を有することを示唆している。
【0038】
関節が衝撃時に受ける機械的な損傷は組織に即座に影響し、細胞死及び関節組織への物理的損傷は衝撃からミリ秒以内に発生する。その後、直後の機械的損傷が急性の細胞応答を誘発するが、これは数分から数時間の時間単位内で発生する(13)。急性応答期は、負傷した関節組織からの、IL−1、IL−6、iNOS及びTNF−αを含む、炎症性メディエーターの放出を特徴とする(13、14)。これによって、初期応答遺伝子(すなわち炎症性遺伝子)の転写活性化が生じて、マトリックス分解酵素、例えばMMP、コラゲナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンの産生増加に至る。マトリックスの酵素分解は、以下を含む段階的な破壊事象を介して、OAに寄与する。
(1)軟骨の剛性及び弾力の減少により、軟骨細胞の機械的ストレスが増加する、
(2)軟骨の透水率が増加し、間質液の喪失及び溶質(すなわち分解酵素、プロテオグリカン)の拡散増加をもたらす、
(3)残存する軟骨マトリックス構造が酵素消化の影響を受けやすくなる、
(4)軟骨下骨板が肥厚化する、
(5)骨梁への構造変化、ならびに
(6)骨棘及び異所骨の形成(8)。
【0039】
治療介入域が傷害直後に存在し、その期間に急性細胞応答を減衰させると、マトリックス分解酵素の産生を減少させ、それによって外傷後変形性関節症(PTOA)を発症する可能性が減少すると我々は考えている。
【0040】
全身炎症反応を減衰させる方法の一つは、これらの複数の炎症性因子を制御する共通機構を標的とすることである。そこで我々は初期応答遺伝子すべての転写伸長を制御する、単一の保存的機構を細胞核内において特定した。この共通機構の阻害は、すでに臨床試験段階にある小分子薬を用いることで可能である。この全く新しい治療方法を重度の外傷患者に適用することで、SIRSの影響が低減され、外傷医療班による迅速な患者の安定化と傷害の治療が可能になり、救命及び医療費削減に多大な可能性をもたらす。
【0041】
初期応答遺伝子の転写活性化は、傷害に対する急性細胞応答の重要な段階である。初期応答遺伝子の転写活性化は、傷害事象後、数分から数時間の時間単位で発生する。大部分の初期応答遺伝子は、プロモーター上のすでにアセンブリされた転写複合体と、転写伸長段階に入る直前で待機しているRNAポリメラーゼ複合体によって、即刻「活性化」されて転写される。最近のCell誌で、Hargreavesらは、初期応答遺伝子の転写伸長の律速段階がサイクリン依存性キナーゼ−9(CDK9)の動員であることを簡潔に実証した(15)。炎症性遺伝子転写の場合、CDK9は、NFκBによって転写複合体に動員される(16、17)。重要なことに、CDK9キナーゼ活性は、初期応答炎症性遺伝子の転写進行に必要とされ、またこの調節機構は初期応答遺伝子間で保存されている(18)。したがって、CDK9キナーゼ活性及びBRD4活性の複合阻害は、関節傷害後の急性炎症反応を阻害する新しい分子標的である。
【0042】
重度の外傷後の多数の病状及び病源により、全身性炎症反応症候群(SIRS)を引き起こす可能性がある。従来の抗炎症薬は、上流の炎症性シグナル伝達網の特定の分岐点のみ、または何百もの炎症性メディエーター遺伝子の1つのみを標的としているため、SIRSに対して効果がない(
図1を参照)。例えば、コルチコステロイド、TLR4アンタゴニスト、TNF及びIL−1受容体アンタゴニスト、抗ブラジキニン、血小板活性化因子受容体アンタゴニスト及び抗凝固薬(抗トロンビンIII)がすべて研究されたが、臨床試験で有意な利点を示さなかった。本方法は、全身性炎症を抑制するためにCdk9及びBrd4を同時に阻害する。本発明では、Cdk9及びBrd4を同時に阻害することにより、すべての初期炎症反応遺伝子を活性化するための律速段階及びボトルネックを遮断する。この方法の利点は2つある。まず、刺激が起こすシグナル伝達経路に関係なく、上流の炎症性刺激すべてに対して有効である。次に、大部分の下流の炎症反応遺伝子の発現を効率的に抑制する。したがって、Cdk9の阻害は、炎症反応全般を遮断し、重度外傷後の全身性炎症を調節するはるかに優れた方法となる。
【0043】
2.利益を受け得る対象
1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の併用療法から利益を受け得る対象は一般に急性全身性炎症をもたらす外傷及び/または軟骨組織への傷害を受傷しているか、または差し迫って受ける可能性がある。いくつかの実施形態では、対象は、例えば軟骨組織に損傷を与える傷害(例えば、外傷)を受傷している場合がある。いくつかの実施形態では、対象は、例えば急性全身性炎症、及び場合により多臓器系不全に至る外傷を受傷している場合がある。対象はまた、例えば、損傷した軟骨組織を修復する及び/または骨軟骨外植片を移植するための手術を受けるかまたは受けたことがある場合がある。
【0044】
様々な実施形態において、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の併用療法は、軟骨組織への損傷または傷害の約10日後以内に、例えば、軟骨組織への損傷または傷害後の約9、8、7、6、5、4、3、2または1日後以内に対象に投与される。様々な実施形態において、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の併用療法は、軟骨組織への損傷もしくは傷害後または外傷を受傷後、約72時間、約48時間または約24時間以内に、例えば、軟骨組織への損傷もしくは傷害後または外傷を受傷後、約22、20、18、16、14、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1時間、またはそれ未満以内に最初に対象に投与される。
【0045】
3.CDK9及びBRD4の阻害剤
一般に、CDK9、例えば、NP_001252.1のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性、例えば、少なくとも約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するポリペプチドの活性を阻害または低減することによって、軟骨の変性及び/または外傷後変形性関節症の発症または進行を防止、低減、遅延または阻害する。
【0046】
a.低分子有機化合物
i.CDK9阻害剤
CDK9はサイクリン依存性キナーゼファミリーのメンバーであり、このファミリーの大部分のタンパク質は細胞周期進行を調節する。過去20年にわたり、癌の細胞周期進行を停止する抗増殖剤としてCDK阻害剤が精力的に研究されてきた。また多数のCDK阻害剤が第II相及び第III相臨床試験段階である(19、20)。細胞周期進行を調節する大部分のCDKタンパク質とは異なり、CDK9は主に、RNA合成及び転写伸長を調節すると考えられている(21)。CDK9に対して比較的良好な特異性を有する小分子阻害剤があり、これにはフラボピリドールならびにその類似体及び塩が含まれる。フラボピリドールの市販製剤は、Alvocidibと呼ばれている。フラボピリドールのIUPAC名は、2−(2−クロロフェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−[(3S,4R)−3−ヒドロキシ−1−メチル−4−ピペリジニル]−4−クロメノン)である。フラボピリドールの構造を以下に示す。
【0047】
フラボピリドールは、CDK9のATP結合ポケットとの高親和性(Kd=3nM〜6nM)の相互作用によって、CDK9キナーゼ活性を阻害する(22、23)。CDK9キナーゼ活性の阻害は、転写伸長を妨げることにより初期応答遺伝子の転写活性化を防止する(15)。フラボピリドールの全身投与は十分に忍容性があり、フラボピリドールを用いた臨床試験で難治性慢性リンパ球性白血病の治療に成功している(24〜26)。近年では、Sekineらが、関節リウマチ(RA)のマウスモデルにフラボピリドールの抗増殖効果を利用している。その結果、フラボピリドールが滑膜過形成を減少させ、関節リウマチを効果的に防止することを実証した(27)。抗関節炎効果は可逆的であり、フラボピリドール治療を中止すると、滑膜過形成は再開し、RAは急速に進行した。
【0048】
使用できる他のCDK阻害剤としては、例えば、限定されないが、4−(3,5−ジアミノ−1H−ピラゾール−4−イルアゾ)−フェノール(Calbiochem、カタログ番号238811)、2−(ピリジン−4−イル)−1,5,6,7−テトラヒドロ−4H−ピロロ[3,2−c]ピリジノン、PHA−767491(Calbiochem、カタログ番号217707)、ならびに以下に記載のもの、例えば、国際公開WO2012/101066(ピリジンビアリールアミン化合物);WO2012/101065(ピリミジンビアリールアミン化合物);WO2012/101064(N−アシルピリミジンビアリール化合物);WO2012/101063(N−アシルピリジンビアリール化合物);WO2012/066070(3−(アミノアリール)−ピリジン化合物);WO2012/066065(フェニル−ヘテロアリールアミン化合物);WO2011/012661(ピリジン及びピラジン誘導体);WO2011/077171(4−フェニルアミノ−ピリミジン誘導体);WO2010/020675(ピロロピリミジン化合物);WO2008/079933(ヘテロアリール−ヘテロアリール化合物);WO2007/117653(CDK9−PI3K−AKT阻害剤);WO2006/024858(4−アリールアゾ−3,5−ジアミノ−ピラゾール化合物);WO2006/021803(プリン及びピリミジンCDK阻害剤)、及び米国特許公開2012/0225899;2012/0196855;2012/0142680;2010/0160350;2010/0249149;2010/0076000;2010/0035870;2010/0003246;2009/0325983;2009/0318446;2009/0318441;2009/0270427;2009/0258886;2009/0215805;2009/0215805;2009/0137572;2008/0125404;2007/0275963;2007/0225270;2007/0072882;2007/0021452;2007/0021419;及び2006/0264628が挙げられ、そのすべてが、全ての目的のために全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
ii.BRD4阻害剤
Cdk9のキナーゼ活性を直接の標的として炎症を抑制することに加え、ブロモドメインタンパク質Brd4による活性遺伝子プロモーターへの動員を遮断する新しいクラスの小分子阻害剤が、有効なCdk9阻害剤として近年発見された(Filippakopoulos,et al.,(2010)Nature 468,1067−1073)。化合物JQ1(
図2及び以下)は、Brd4が活性化初期応答遺伝子のプロモーター近傍の染色体でアセチル化ヒストンを結合することを防止するブロモドメイン阻害剤である。これによって、JQ1は、Brd4によるCdk9の動員を間接的に妨害するとともに、動物モデルで広域抗炎症薬として有望な可能性を示している(Belkina,et al.,(2013)J.Immunol 190,3670−3678)。本明細書の我々のデータでは、炎症性メディエーターの低減及び防止に関して、Cdk9阻害剤とBrd4阻害剤間の強力な相乗効果を実証している。
【0050】
使用できる他のBRD4及びブロモドメイン阻害剤としては、これに限定されないが、例えば、米国特許公開2014/0296246、2014/0296243、2014/0243322、2014/0243321、2014/0243286、2014/0044770、2012/0208800及び2012/0157428;ならびに国際公開WO2014/143768、WO2014/160873、WO2014/128067、WO2014/026997、WO2014/095775、WO2014/095774、WO2014/048945、WO2014/128070;及びWO2014/128111に記載されているものが挙げられる。好適なブロモドメイン阻害剤は、BRD4活性を選択的にまたは特異的に阻害する。使用するさらなるBRD4阻害剤は、例えば、Schulze,et al.,J Biomol Screen.2014 Sep 29.PMID:2526656;Philpott,et al.,Epigenetics Chromatin.2014 Jul 13;7:14;Wang,et al.,Zhonghua Xue Ye Xue Za Zhi.2014 Jun;35(6):528−32;及びMuvva,et al,Mol Biosyst.2014 Jul 29;10(9):2384−97に記載されている。
JQ1 − Brd4を標的とする。
【0051】
b.阻害性核酸
CDK9遺伝子発現及びBRD4遺伝子発現を並行して、または同時に減少させることまたは阻害することは、阻害性核酸(例えば、小分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスRNA、リボザイムなど)の使用によるものを含む、当技術分野のいずれかの方法を使用して達成することができる。阻害性核酸は、相補的な核酸配列と特異的に結合できる一本鎖の核酸であり得る。適切な標的配列と結合することにより、RNA−RNA、DNA−DNAまたはRNA−DNAの二重鎖または三重鎖が形成される。このような阻害性核酸は、「センス」方向または「アンチセンス」方向のいずれでもあり得る。例えば、Tafech,et al.,Curr Med Chem(2006)13:863−81;Mahato,et al.,Expert Opin Drug Deliv(2005)2:3−28;Scanlon,Curr Pharm Biotechnol(2004)5:415−20;及びScherer and Rossi,Nat Biotechnol(2003)21:1457−65を参照のこと。
【0052】
一実施形態では、阻害性核酸は、CDK9、BRD4またはCDK9及びBRD4の両方をコードする標的核酸配列または部分配列に特異的に結合することができる。このような阻害性核酸の投与は、CDK9及びBRD4の活性を、また結果的には軟骨変性を減少させる、または阻害することができる。CDK9をコードするヌクレオチド配列は、ヒトを含むいくつかの哺乳動物種で既知である(例えば、NM_001261.3)。BRD4をコードするヌクレオチド配列は、ヒトを含むいくつかの哺乳動物種で既知である(例えば、NM_014299.2→NP_055114.1短鎖アイソフォーム;及びNM_058243.2→NP_490597.1長鎖アイソフォーム)。既知のCDK9及びBRD4ヌクレオチド配列から、適した阻害性核酸を誘導することができる。
【0053】
1.アンチセンスオリゴヌクレオチド
いくつかの実施形態では、阻害性核酸はアンチセンス分子である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、CDK9及び/またはBRD4をコードするmRNAのコーディング鎖(センス鎖)に対して相補的(すなわちアンチセンス)である比較的短い核酸である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは通常、RNAをベースとするが、これはDNAをベースとすることもできる。加えて、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、多くの場合、その安定性を増加させるために修飾される。
【0054】
理論に束縛されないが、これらの比較的短いオリゴヌクレオチドのmRNAとの結合は、内因性RNAseによるメッセージの分解を引き起こす二本鎖RNAの伸長を誘導すると考えられている。加えて、オリゴヌクレオチドは、メッセージのプロモーター近傍で結合するように特異的に設計されることがあり、この状況下では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは更にメッセージの翻訳を妨害することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドが機能する特定の機構に関係なく、細胞または組織への投与により、CDK9及び/またはBRD4をコードするmRNAの分解が可能である。その結果、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、CDK9及び/またはBRD4の発現及び/または活性を減少させる。
【0055】
オリゴヌクレオチドはDNAまたはRNAまたはキメラ混合物、またはその誘導体もしくは修飾型であり得、一本鎖でも二本鎖でもよい。オリゴヌクレオチドは、例えば、分子、ハイブリダイゼーションなどの安定性を向上させるために塩基部分、糖部分またはリン酸主鎖の位置で修飾することができる。オリゴヌクレオチドは、他の補足群、例えばペプチド(例えば、宿主細胞受容体を標的とするもの)、または細胞膜(例えば、Letsinger et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.86:6553−6556;Lemaitre et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.84:648−652;PCT公開番号WO 88/09810を参照)、または血液脳関門(例えば、PCT公開番号WO89/10134を参照)の横断を促進する作用物質、ハイブリダイゼーションを誘導する切断剤(例えば、Krol et al.,1988,BioTechniques 6:958−976を参照)、またはインターカレート剤(例えば、Zon,1988,Pharm.Res.5:539−549を参照)を含み得る。この目的で、オリゴヌクレオチドを他の分子とコンジュゲートすることができる。
【0056】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシトリエチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチル−ウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ−D−ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、シュードウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、及び2,6−ジアミノプリンを含むが、これに限定されない群から選択される少なくとも1つの修飾された塩基部分を含み得る。
【0057】
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース及びヘキソースを含むが、これに限定されない群から選択される少なくとも1つの修飾された糖部分を含み得る。
【0058】
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、中性のペプチド様の主鎖を含むこともできる。このような分子は、ペプチド核酸(PNA)−オリゴマーと称されており、例えば、Perry−O’Keefe et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:14670及びEglom et al.(1993)Nature 365:566に記載されている。PNAオリゴマーの1つの利点は、DNA主鎖が中性であるため、培地のイオン強度とは本質的に関係なく、相補的なDNAと結合できることである。さらに別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミドジチオエート、ホスホロアミダート、ホスホロジアミダート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、及びホルムアセタールまたはそれらの類似体からなる群から選択される少なくとも1つの修飾されたリン酸主鎖を含む。
【0059】
更に別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アノマーオリゴヌクレオチドである。アノマーオリゴヌクレオチドは、相補的RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、この鎖は、通常のユニットとは異なり互いに平行に伸びている(Gautier et al.,1987,Nucl.Acids Res.15:6625−6641)。このオリゴヌクレオチドは、2’−O−メチルリボヌクレオチド(Inoue et al.,1987,Nucl.Acids Res.15:6131−6148)またはキメラRNA−DNA類似体(Inoue et al.,1987,FEBS Lett.215:327−330)である。
【0060】
オリゴヌクレオチドは、当技術分野で既知の標準的方法により、例えば、自動化DNA合成器(例えば、Biosearch、Applied Biosystems等から市販されているもの)の使用により合成することができる。例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドを、Steinら(1988,Nucl.Acids Res.16:3209)の方法によって合成することができ、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドを、制御された多孔質ガラスポリマー支持体等の使用によって作製することができる(Sarin et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:7448−7451)。
【0061】
適切なオリゴヌクレオチドの選択は、当業者によって容易に行うことができる。CDK9及び/またはBRD4をコードする核酸配列を考慮して、当業者は標的とする核酸配列と結合するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計することができ、またこのオリゴヌクレオチドをin vitroまたはin vivo系で試験して、それらがCDK9をコードするmRNAと結合するとともに、mRNAの分解を媒介することを確認することができる。CDK9及び/またはBRD4をコードする核酸と特異的に結合し、分解を媒介するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するためには、オリゴヌクレオチドによって認識される配列が、阻害するCDK9及び/またはBRD4に対して固有であるか、または実質的に固有であることが好ましい。例えば、コード配列全体で頻繁に繰り返される配列は、特定のメッセージを特異的に認識して分解するオリゴヌクレオチドの設計には、理想的な選択でない場合がある。当業者は、オリゴヌクレオチドを設計して、そのオリゴヌクレオチドの配列を、一般公開データベースに寄託されている核酸配列と比較し、CDK9及び/またはBRD4に対して特異的であるか、または実質的に特異的であることを確認することができる。
【0062】
アンチセンスDNAまたはRNAを細胞に送達するため、いくつかの方法が開発されている。例えば、アンチセンス分子を組織部位に直接注入することができ、または目的の細胞を標的とするように設計された修飾済みアンチセンス分子(例えば、標的細胞表面に発現した受容体または抗原と特異的に結合するペプチドまたは抗体と結合されたアンチセンス)を全身に投与することができる。
【0063】
しかしながら、ある特定の場合に内因性mRNA上の翻訳を抑制するのに十分なアンチセンスの細胞内濃度を達成することは困難な場合がある。したがって、別の方法では、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強力なpol IIIまたはpol IIプロモーターの制御下で配置される組み換えDNA構築物を利用している。例えば、ベクターが細胞によって取り込まれ、アンチセンスRNAの転写を開始するように、in vivo導入することができる。そのようなベクターは、転写されて目的のアンチセンスRNAを産生できる限り、エピソーム型のままであっても、または染色体に組み込まれていてもよい。このようなベクターは、当技術分野で標準的な組み換えDNA技術方法によって構築することができる。ベクターは、哺乳動物細胞の複製及び発現に使用される、プラスミド、ウイルスまたはその他の当技術分野で既知のものであってよい。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳動物、好ましくはヒト細胞で作用する、当技術分野で既知のいずれかのプロモーターによるものであり得る。そのようなプロモーターは、誘導性であっても構成的であってもよい。そのようなプロモーターとしては、これに限定されないが、SV40初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon,1981,Nature 290:304−310)、ラウス肉腫ウイルスの3’ロングターミナルリピート内に含まれるプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787−797)、ヘルペスのチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1441−1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al,1982,Nature 296:39−42)等が挙げられる。任意の種類のプラスミド、コスミド、YACまたはウイルスベクターを使用して、組織部位に直接導入できる組み換えDNA構築物を調製することができる。あるいは、目的の組織に選択的に感染するウイルスベクターを使用することができ、その場合、投与は別の経路(例えば、全身)によって達成することができる。
【0064】
2.低分子干渉RNA(siRNAまたはRNAi)
いくつかの実施形態では、阻害性核酸は、低分子干渉RNA(siRNAまたはRNAi)分子である。RNAi構築物は、標的遺伝子の発現を特異的に遮断できる二本鎖RNAを含む。「RNA干渉」または「RNAi」は本来、二本鎖RNA(dsRNA)が特異的かつ転写後に遺伝子発現を遮断する現象に適用される用語である。RNAiは、in vitroまたはin vivoでの遺伝子発現の阻害に有用な方法を提供する。RNAi構築物には、低分子干渉RNA(siRNA)、ヘアピンRNA、及びin vivoで切断されてsiRNAを形成できる他のRNA種を含むことができる。また、本明細書でのRNAi構築物には、細胞内でdsRNAまたはヘアピンRNAを形成する転写物、及び/またはin vivoでsiRNAを産生できる転写物を誘発できる発現ベクター(「RNAi発現ベクター」)が含まれる。
【0065】
RNAi発現ベクターは、構築物が発現される細胞内でsiRNA部分を産生するRNAを発現(転写)する。そのようなベクターは、(1)遺伝子発現の調節役割を有する遺伝子要素(複数可)、例えば、プロモーター、オペレーター、またはエンハンサー、これらと操作可能に連結された、(2)転写されて二本鎖RNAを産生する「コード」配列(細胞内でアニーリングされてsiRNAを形成する2つのRNA部分、またはプロセッシングによりsiRNA化できる単一のヘアピンRNA)、及び(3)適切な転写開始及び停止配列のアセンブリを含んでいる転写ユニットを含む。プロモーター及び他の調節要素の選択は一般に、目的とする宿主細胞に応じて異なる。
【0066】
RNAi構築物は、細胞の生理的条件下で、遺伝子を阻害するmRNA転写物の少なくとも一部分のヌクレオチド配列(すなわち、CDK9及び/またはBRD4をコードする核酸配列)とハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む。二本鎖RNAは、RNAiを媒介する能力を有する程度に天然RNAと類似していればよい。したがって、本発明は、遺伝子突然変異、株多型または進化による多様化により予想され得る配列の変化を許容できるという利点がある。標的配列とRNAi構築物配列の間で許容されるヌクレオチドミスマッチの数は、5塩基対中に1つ、または10塩基対中に1つ、または20塩基対中に1つ、または50塩基対中に1つを超えない数である。siRNA二本鎖の中央でのミスマッチは最も致命的であり、標的RNAの切断が事実上、消滅する場合がある。対照的に、標的RNAに相補的であるsiRNA鎖の3’末端のヌクレオチドは、標的認識の特異性にさほど寄与しない。
【0067】
配列同一性は、当技術分野で既知の配列比較及びアラインメントアルゴリズム(Gribskov and Devereux,Sequence Analysis Primer,Stockton Press,1991及びその引用文献を参照)によって、及び例えばBESTFITソフトウェアプログラム(例えば、University of Wisconsin Genetic Computing Group)でデフォルトパラメーターを使用して実行されるSmith−Watermanアルゴリズムによるヌクレオチド配列間の相違パーセントの計算によって最適化することができる。阻害性RNAと標的遺伝子部分との間の配列同一性は90%超、例えば、95%、96%、97%、98%、99%、または更には100%の配列同一性であることが好ましい。あるいは、RNAの二本鎖領域を、標的遺伝子転写物の一部分とハイブリダイズできるヌクレオチド配列として機能的に決定することができる(例えば、400mMのNaCl、40mMのPIPES(pH6.4)、1mMのEDTA、50℃または70℃で12〜16時間ハイブリダイゼーション後に洗浄)。
【0068】
RNAi構築物の製造は、化学合成法によって、または組み換え核酸技術によって実施することができる。処理した細胞の内因性RNAポリメラーゼはin vivo転写を媒介でき、またはクローン化RNAポリメラーゼはin vitro転写に使用することができる。RNAi構築物は、例えば、細胞内ヌクレアーゼに対する感受性を低減するため、バイオアベラビリティを向上させるため、製剤特性を改善するため、及び/またはその他の薬物動態学的特性を変化させるために、リン酸−糖主鎖またはヌクレオシドに修飾を含んでもよい。例えば、窒素または硫黄ヘテロ原子の少なくとも1つを含むように、天然RNAのホスホジエステル結合を修飾することができる。RNA構造の修飾を調整して、dsRNAに対する全体的な応答を回避しながら、特異的な遺伝子阻害を可能にすることができる。同様に、塩基を修飾して、アデノシンデアミナーゼの活性を遮断することができる。RNAi構築物は酵素的に、または部分的な/完全な有機合成によって産生でき、修飾されたリボヌクレオチドは、in vitro酵素または有機合成によって導入することができる。
【0069】
RNA分子の化学的修飾方法をRNAi構築物の修飾に適用することができる(例えば、Heidenreich et al(1997)Nucleic Acids Res,25:776−780;Wilson et al.(1994)J Mol Recog 7:89−98;Chen et al.(1995)Nucleic Acids Res 23:2661−2668;Hirschbein et al.(1997)Antisense Nucleic Acid Drug Dev 7:55−61を参照)。単に例示として、RNAi構築物の主鎖は、ホスホロチオエート、ホスホロアミダート、ホスホジチオエート、キメラメチルホスホネート−ホスホジエステル、ペプチド核酸、5−プロピニル−ピリミジンを含有するオリゴマーまたは糖修飾(例えば、2’−置換リボヌクレオシド、a−配置)によって修飾することができる。
【0070】
二本鎖構造は、1本の自己相補的RNA鎖または2本の相補的RNA鎖によって形成することができる。RNA二本鎖の形成は、細胞内部でも外部でも開始することができる。RNAは、細胞当たり少なくとも1コピーの送達が可能である量で導入することができる。高用量(例えば、細胞当たり少なくとも5、10、100、500または1000コピー)の二本鎖物質はより有効な阻害を生じ得る一方で、特定の用途には低用量も有用であり得る。阻害は、RNAの二本鎖領域と対応するヌクレオチド配列が遺伝子阻害の標的であるという点で配列特異的である。
【0071】
ある特定の実施形態では、対象のRNAi構築物は「低分子干渉RNA」すなわち「siRNA」である。この核酸は約19〜30ヌクレオチド長であり、更により好ましくは21〜23ヌクレオチド長、例えば、長い二本鎖RNAのヌクレアーゼ「ダイシング」により生成される断片に対応する長さである。siRNAは、ヌクレアーゼ複合体を動員して、その複合体を特異的配列との対合により標的mRNAに誘導すると理解されている。その結果、標的mRNAは、タンパク質複合体のヌクレアーゼによって分解される。特定の実施形態では、21〜23ヌクレオチドのsiRNA分子は、3’ヒドロキシル基を含む。
【0072】
本発明のsiRNA分子は、当業者に既知である数多くの技術を使用して得ることができる。例えば、siRNAは、当技術分野で既知の方法を使用して、化学合成または組み換え産生することができる。例えば、短いセンス及びアンチセンスRNAオリゴマーを合成してアニーリング処理し、各末端に2−ヌクレオチドオーバーハングをもつ二本鎖RNA構造を形成することができる(Caplen,et al.(2001)Proc Natl Acad Sci USA,98:9742−9747;Elbashir,et al.(2001)EMBO J,20:6877−88)次いでこの二本鎖siRNA構造を、以下に記載するような、最適な受動的取り込みまたは送達系いずれかによって細胞に直接導入することができる。
【0073】
ある特定の実施形態では、siRNA構築物は、例えば酵素ダイサーの存在下で、長い二本鎖RNAがプロセッシングされることによって生成することができる。一実施形態では、ショウジョウバエのin vitro系が使用される。本実施形態では、dsRNAをショウジョウバエ胚に由来する可溶性抽出物と混合することにより、組み合わせを得る。この組み合わせは、dsRNAがプロセッシングされて、約21〜約23ヌクレオチドのRNA分子になる条件下で維持される。
【0074】
このsiRNA分子は、当業者に既知の数多くの技術を使用して精製することができる。例えば、ゲル電気泳動を使用して、siRNAを精製することができる。あるいは、非変性的方法、例えば非変性カラムクロマトグラフィーを使用してsiRNAを精製することができる。加えて、クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)、グリセロール勾配遠心分離法、抗体を用いたアフィニティー精製を使用して、siRNAを精製することができる。
【0075】
ある特定の好適な実施形態では、siRNA分子の少なくとも一本の鎖は、約1〜約6ヌクレオチド長の3’オーバーハングを有する。ただし、これは2〜4ヌクレオチド長であってもよい。より好ましくは、3’オーバーハングは、1〜3ヌクレオチド長である。ある特定の実施形態では、一方の鎖は3’オーバーハングを有し、他方の鎖は平滑末端であるか、またはオーバーハングも有する。オーバーハングの長さは、鎖ごとに同一であっても異なっていてもよい。siRNAの安定性を更に強化するために、3’オーバーハングを分解に対して安定化させることができる。一実施形態では、プリンヌクレオチド、例えばアデノシンまたはグアノシンヌクレオチドを含めることによってRNAを安定化させる。あるいは、修飾された類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば、2’−デオキシチミジンによるウリジンヌクレオチド3’オーバーハングの置換が許容され、これはRNAiの効率に影響を及ぼさない。2’ヒドロキシルがないことは、組織培地中でのオーバーハングのヌクレアーゼ耐性を大幅に増強し、in vivoで有益であり得る。
【0076】
他の実施形態では、RNAi構築物は、長い二本鎖RNAの形態である。ある特定の実施形態では、RNAi構築物は、少なくとも25、50、100、200、300または400塩基である。ある特定の実施形態では、RNAi構築物は400〜800塩基長である。二本鎖RNAは細胞内で消化され、例えば、細胞中にsiRNA配列が産生される。しかしながら、in vivoでの長い二本鎖RNAの使用は、おそらく、配列非依存性dsRNA反応によって引き起こされ得る有害作用のため必ずしも実用的ではない。そのような実施形態では、局所送達系及び/またはインターフェロンの効果を低減する薬剤の使用が好ましい。
【0077】
ある特定の実施形態では、RNAi構築物は、ヘアピン構造(ヘアピンRNAと称する)の形態である。ヘアピンRNAは、外因的に合成することも、in vivoでRNAポリメラーゼIIIプロモーターから転写することによって形成することもできる。哺乳動物細胞での遺伝子サイレンシングのために、そのようなヘアピンRNAを作成して使用する例は、例えば、Paddison et al.,Genes Dev,2002,16:948−58;McCaffrey et al.,Nature,2002,418:38−9;McManus et al.,RNA,2002,8:842−50;Yu et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2002,99:6047−52)に記載されている。好ましくは、そのようなヘアピンRNAは、目的遺伝子の持続的で安定した抑制を確実にするため、細胞内または動物内で遺伝子操作される。細胞内でヘアピンRNAがプロセッシングされることにより、siRNAを産生できることは当技術分野で既知である。
【0078】
更に他の実施形態では、プラスミドを使用して、二本鎖RNAを例えば、転写産物として送達する。このような実施形態では、プラスミドは、RNAi構築物のセンス鎖及びアンチセンス鎖それぞれに対する「コード配列」を含むように設計される。コード配列は、例えば、逆方向のプロモーターと隣接する同じ配列であっても、またはそれぞれが別々のプロモーターの転写制御下にある2つの独立した配列であってもよい。コード配列の転写後、相補的RNA転写物が塩基対合し、二本鎖RNAを形成する。
【0079】
PCT出願WO01/77350に、導入遺伝子の双方向転写により、真核細胞において同じ導入遺伝子のセンス及びアンチセンスRNA転写物両方を産生するための例示的なベクターが記載されている。それに従い、ある特定の実施形態では、本発明は以下の固有の特徴を有する組み換えベクターを提供する。このベクターは、目的のRNAi構築物の導入遺伝子を挟んで反対方向に配置された、2つの重複転写単位を有するウイルス性レプリコンを含み、この2つの重複転写単位は、宿主細胞の同じ導入遺伝子断片から、センス及びアンチセンスRNA転写物の両方を産生する。
【0080】
RNAi構築物は、標的核酸配列と同一であるか、または実質的に同一である長鎖の二本鎖RNA、または標的核酸配列の一領域のみ同一であるか、または実質的に同一である短鎖の二本鎖RNAのいずれをも含み得る。長鎖または短鎖RNAi構築物を作製して送達する例示的な方法は、例えば、WO01/68836及びWO01/75164で参照することができる。
【0081】
特定の遺伝子または特定の遺伝子ファミリーを特異的に認識する例示的なRNAi構築物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの選択に関して上記で詳細に概説した方法を使用して選択することができる。同様に、RNAi構築物の送達方法としては、上記で詳細に概説したアンチセンスオリゴヌクレオチドの送達方法が挙げられる。
【0082】
3.リボザイム
いくつかの実施形態では、阻害性核酸はリボザイムである。mRNA転写物を触媒により切断するように設計されたリボザイム分子も、mRNAの翻訳防止に使用することができる(例えば、PCT国際公開WO90/11364;Sarver et al.,1990,Science 247:1222−1225及び米国特許第5,093,246号を参照)。部位特異的認識配列の位置でmRNAを切断するリボザイムを特定のmRNAを破壊するために使用できるが、ハンマーヘッド型リボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型リボザイムは、標的mRNAと相補塩基対を形成する領域をフランキングすることにより決定される位置でmRNAを切断する。唯一の必要条件は以下の2塩基配列、すなわち5’−UG−3’を標的mRNAが有することである。ハンマーヘッド型リボザイムの構築及び産生は当技術分野で周知であり、Haseloff and Gerlach,1988、Nature,334:585−591に詳細に記載されている。
【0083】
本発明のリボザイムはまた、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以後「Cech型リボザイム」と称する)、例えばテトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)に天然に存在し(IVSまたはL−19 IVS RNAとして知られている)、Thomas Cech及び共同研究者により広範に記載されているもの(Zaug,et al.,1984,Science,224:574−578;Zaug and Cech,1986,Science,231:470−475;Zaug,et al.,1986,Nature,324:429−433;WO88/04300;Been and Cech,1986,Cell,47:207−216)を含む。Cech型リボザイムは、標的RNA配列とハイブリダイズした後、標的RNAの切断を行う8つの塩基対活性部位を有している。本発明は、8つの塩基対活性部位配列を標的とするCech型リボザイムを包含する。
【0084】
アンチセンスの方法と同様に、リボザイムは、(例えば、安定性、標的性等を改善するため)修飾されたオリゴヌクレオチドから構成することができ、in vitroまたはin vivoの細胞に送達することができる。好ましい送達方法は、トランスフェクトされた細胞が十分量のリボザイムを生成し、標的メッセージを破壊して翻訳を阻害するように、強力な構成的pol IIIまたはpol IIプロモーターの制御下で、リボザイムを「コード」するDNA構築物を使用することを含む。アンチセンス分子とは異なり、リボザイムは触媒性であるため、効率を得るには低い細胞内濃度が必要である。
【0085】
DNA酵素には、アンチセンス技術及びリボザイム技術両方の機構的特徴の一部が組み込まれている。DNA酵素は、アンチセンスオリゴヌクレオチドとほぼ同様に、特定の標的核酸配列を認識するが、リボザイムとほぼ同様に、触媒性であり、標的核酸を特異的に切断するように設計される。
【0086】
現在、DNA酵素には2つの基本タイプがあり、そのいずれもSantoro及びJoyceにより同定された(例えば、米国特許第6,110,462号を参照)。10〜23のDNA酵素は、2本のアームを接続するループ構造を含む。2本のアームが、特定の標的核酸配列を認識することによって特異性を提供する一方、ループ構造は生理学的条件下で触媒機能を提供する。
【0087】
簡潔には、標的核酸を特異的に認識して切断する理想的なDNA酵素を設計するために、当業者は固有の標的配列を最初に特定しなければならない。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドに関して概説したものと同じ方法を使用して行うことができる。好ましくは、固有のまたは実質的に固有の配列は、約18〜22ヌクレオチドのG/Cリッチ領域である。G/C含量が多いと、DNA酵素と標的配列との間でより強力な相互作用が確保される。
【0088】
DNA酵素を合成する場合、酵素をメッセージに標的化する特異的なアンチセンス認識配列は、DNA酵素の2本のアームを含み、DNA酵素ループが2本の特異的アーム間に配置されるように分割される。
【0089】
DNA酵素の製造方法及び投与方法は、例えば、米国特許第6,110,462号に見出すことができる。同様に、DNAリボザイムのin vitroまたはin vivo送達方法には、上で詳細に概説したRNAリボザイムの送達方法を含む。加えて、アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に、安定性の改善及び耐分解性の改善のため、DNA酵素を場合により修飾できることを当業者は理解されよう。
【0090】
4.製剤及び投与
治療用途において、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤を組み合わせて、軟骨組織に外傷を受けた個体、軟骨組織の修復手術を受けた個体、及び/または軟骨同種異系移植片の移植を受けた個体に投与することができる。1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の組み合わせを含む組成物は、望ましくない炎症を抑制して、症状及び/または合併症を解消する、または少なくとも部分的に阻止する十分量で患者に投与される。これを達成する十分量を「治療的有効量」と定義する。この用途のための有効量は、例えば、阻害剤組成物、投与様式、治療される疾患のステージ及び重症度、患者の全身健康状態、ならびに処方する医師の判断に依存することになる。CDK9及びBRD4活性の阻害剤を組み合わせて慢性投与または急性投与し、軟骨変性及び外傷後変形性関節症を軽減、阻害、または防止することができる。ある特定の場合には、1種以上のCDK9活性の阻害剤及び1種以上のBRD4活性の阻害剤を、例えば、軟骨変性及び/または外傷後変形性関節症の発症のリスクがある、または発症の疑いがある対象に予防的に投与するのに適している。
【0091】
あるいは、CDK9タンパク質をコードする1つ以上の配列の発現を阻害するDNAまたはRNA、例えばアンチセンス核酸、低分子干渉核酸(すなわち、siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、またはCDK9の発現または活性を遮断するペプチドをコードする核酸を患者に導入して、阻害を達成することができる。米国特許第5,580,859号には、核酸がコードする遺伝子の発現を得るため、細胞への裸の核酸の注入を利用することについて記載されている。
【0092】
本発明のCDK9阻害剤またはエンハンサー組成物の治療的有効量は一般に、初期投与の場合(すなわち治療的投与または予防的投与の場合)、70kgの患者に対して約0.1μg〜約10mg以下の範囲のCDK9阻害剤及び/またはBRD4阻害剤であり、通常は約1.0μg〜約1mg以下、例えば、特にCDK9阻害剤及びBRD4阻害剤を同時投与するときは約10μg〜約0.1mg(100μg)の範囲である。CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は、一緒にすれば有効である場合と、個々のCDK9阻害剤及び/またはBRD4阻害剤の量は有効ではない場合とがある。通常は低用量を最初に投与して、望ましい有効な用量に達するまで徐々に増加する。軟骨変性及び/または外傷後変形性関節症に伴う症状を評価することにより、その用量を患者の反応及び病状に応じて数週間から数か月にわたり引き続き反復投与することができる。
【0093】
予防的使用の場合、投与は、軟骨変性及び/または外傷後変形性関節症を発症するリスクのある対象または発症の疑いがある対象に与えられるものである。治療的投与は、外科手術及び/もしくは同種異系移植処置と並行して、ならびに/または外傷もしくは手術後早急に開始することができる。多くの場合、少なくとも症状が実質的に緩和されるまで、更にそれ以降の期間、引き続き反復投与する。いくつかの実施形態では、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は、外傷を受けた後の10日以内、例えば、9、8、7、6、5、4、3、2、1日以内、例えば、24、20、18、16、14、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1時間以内に同時投与される。いくつかの実施形態では、対象は損傷した軟骨組織を修復する手術を受けたことがある。いくつかの実施形態では、対象は、骨軟骨外植片、例えば軟骨同種異系移植片の移植を受けたことがある。いくつかの実施形態では、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は、手術と同時に、または手術前に同時投与される。いくつかの実施形態では、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は、手術後の10日以内、例えば、9、8、7、6、5、4、3、2、1日以内、例えば、24、20、18、16、14、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1時間以内に同時投与される。いくつかの実施形態では、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は、10日間にわたって、例えば、9、8、7、6、5、4、3、2、1日間にわたって同時投与される。様々な実施形態において、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は、必要に応じて、2日ごと、毎日、または毎日2回、同時投与される。
【0094】
1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の治療的または予防的処置での併用は、全身(例えば、非経口的、外用、経口、経皮的)または局所(例えば、病巣内)投与を目的とする。好ましくは、組成物は経口投与用に製剤化される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、非経口的に、例えば、静脈内に、鼻腔内に、吸入で、皮下に、皮内に、または筋肉内に投与される。組成物はまた、経口投与にも適している。したがって、本発明は、許容される担体、好ましくは水性担体に溶解または懸濁されたCDK9阻害剤及びBRD4阻害剤の溶液を含む、非経口的投与用組成物を提供する。様々な水性担体、例えば、水、緩衝水、0.9%の生理食塩水、0.3%のグリシンまたは他の適切なアミノ酸、ヒアルロン酸等を使用することができる。これらの組成物は、従来的な周知の滅菌技術によって殺菌することも、または濾過滅菌することもできる。得られた水溶液は、そのまま使用するため包装しても、または凍結乾燥して、凍結乾燥製剤を投与前に無菌液と混合してもよい。組成物は、生理的条件に近づけるために必要に応じて薬学的に許容される補助物質、例えばpH調整剤及び緩衝剤、等張化剤、湿潤剤等、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエート等を含むことができる。
【0095】
CDK9阻害剤及びBRD4の阻害剤の一方または両方が低分子有機化合物である実施形態では、化合物(例えば、フラボピリドール、JQ1、GSK525762A)及び/またはその類似体は、経口、非経口(静脈内(IV)、筋肉内(IM)、デポーIM、皮下(SQ)及びデポーSQ)、舌下、経鼻(吸入)、髄腔内、経皮的(例えば、経皮パッチによる)、外用、イオン泳動、または直腸投与することができる。通常、脳への送達(例えば、血液脳関門の通過)を容易にするように剤形を選択する。注目される点として、この状況において本明細書に記載する化合物は脳に容易に送達される。化合物の送達に適した剤形は、当業者に既知である。
【0096】
様々な実施形態において、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤は静脈内に同時投与される。CDK9阻害剤がフラボピリドールである実施形態では、当技術分野で報告されている濃度及び計画に従って投薬することができる。例えば、様々な実施形態で、フラボピリドールは、適宜、約10〜約105mg/m
2の濃度範囲で、1〜4時間にわたる注入送達で静脈内投与される。例えば、Ramaswamy,et al,.Invest New Drugs.(2012)30(2):629−38;Phelps,et al.,Blood.(2009)113(12):2637−45;及びByrd,et al.,Blood.(2007)109(2):399−404を参照のこと。様々な実施形態において、JQ1は、ナノモル濃度、例えば10〜5000nM、例えば50〜1000nM、例えば50〜500nMで投与することができる。様々な実施形態において、JQ1は、約50mg/kgの用量で投与される。例えば、Trabucco,et al.,Clin Cancer Res.2014 Jul 9,PMID 25009295;及びSpiltoir,et al.,J Mol Cell Cardiol.2013 Oct;63:175−9を参照のこと。
【0097】
治療的有効量の化合物を含有する組成物が提供される。化合物は、好ましくは好適な医薬製剤、例えば経口投与用の錠剤、カプセルもしくはエリキシルに、または非経口投与用の無菌液もしくは懸濁液に製剤化される。通常、上記の化合物は、当技術分野で周知の技術及び手順を使用して、医薬組成物に製剤化される。
【0098】
これらの活性剤(例えば、フラボピリドール及び/またはその類似体)は、「本来の」形態で、または必要に応じて、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、誘導体等の形態で投与することができる。ただし、塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体が、好適に薬学的に有効である、例えば本方法(複数可)で有効な場合に限る。活性剤の塩、エステル、アミド、プロドラッグ及び他の誘導体は、有機合成化学分野の当業者に既知であり、例えば、March(1992)Advanced Organic Chemistry;Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.N.Y.Wiley−Interscienceに記載された標準手順を用いて調製することができる。
【0099】
このような誘導体の製剤化方法は、当業者に既知である。例えば、いくつかの送達剤のジスルフィド塩が、PCT公開WO2000/059863に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。同様に、治療的ペプチド、ペプトイドまたは他の模倣体の酸性塩は、通常は好適な酸との反応を伴う従来の方法を使用して遊離塩基から調製することができる。一般に、塩基形態の薬物をメタノールまたはエタノールなどの極性有機溶媒に溶解して、それに酸を添加する。生じる塩は沈殿するか、またはより低極性の溶媒を添加して溶液から抽出することができる。酸付加塩の調製に適した酸には、限定されないが、有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、オロチン酸等、ならびに無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の両方が含まれる。酸付加塩を好適な塩基で処理して遊離塩基に再変換することができる。本明細書の活性剤の、ある特定の特に好ましい酸付加塩には、塩酸または臭化水素酸を用いて調製できるようなハロゲン塩が含まれる。対して、本発明の活性剤の塩基性塩の調製は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン等の薬学的に許容される塩基を用いて同様に調製される。ある特定の実施形態では、塩基性塩には、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩及び銅塩が含まれる。
【0100】
塩形態の塩基性薬物を調製する場合、対イオンのpKaが、薬物のpKaより少なくとも約2pH低いことが好ましい。同様に、塩形態の酸性薬物を調製する場合、対イオンのpKaが、薬物のpKaより少なくとも約2pH高いことが好ましい。この場合、対イオンにより、溶液のpHが最大pHより低いレベルで塩平衡に到達することが可能になり、その時点の塩の溶解性が遊離酸または遊離塩基の溶解性を上回る。活性医薬成分(API)と酸または塩基でのイオン化基のpKa単位の差に関する一般法則は、プロトン移動をエネルギー的に有利にすることを意図している。APIと対イオンのpKaに有意差がない場合、固体複合体が形成され得るが、水性環境では速やかに不均化を起こす(例えば、薬物及び対イオン個々の要素に分解する)ことができる。
【0101】
好ましくは、対イオンは薬学的に許容される対イオンである。好適な陰イオン塩形態には、限定されないが、酢酸塩、安息香酸塩、ベンジル酸塩、酒石酸水素塩、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩)、リン酸塩及び二リン酸塩、サリチル酸塩及び二サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリエトヨウ化物、吉草酸塩等が含まれ、対して、好適な陽イオン塩形態には、これに限定されないがアルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン、亜鉛等が含まれる。
【0102】
様々な実施形態において、エステルの調製には通常、活性剤の分子構造中に存在するヒドロキシル基及び/またはカルボキシル基の官能基化を伴う。ある特定の実施形態では、エステルは通常、遊離アルコール基のアシル置換誘導体、例えば式RCOOHのカルボン酸に由来する部分であり、式中、Rはアルキル、好ましくは低級アルキルである。エステルは、必要に応じて従来の水素化分解法または加水分解法を用いて遊離酸に再変換することができる。
【0103】
当業者に既知であるか、または関連文献に記載された技術を用いて、アミドを調製することもできる。例えば、アミドは好適なアミン反応物を使用してエステルから調製しても、またはアンモニアもしくは低級アルキルアミンとの反応により無水物もしくは酸塩化物から調製してもよい。
【0104】
CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤の医薬製剤中の濃度は、広範に、すなわち約0.1重量%未満、通常は約2重量%または少なくとも約2重量%から、20重量%〜50重量%以上にまで変更することができ、選択される特定の投与様式に従って、主に液量、粘度等によって選択される。
【0105】
CDK9阻害剤及び/またはBRD4阻害剤はまた、特定の組織、例えば軟骨組織との抱合体を標的として設計できる、リポソームを介して投与することもできる。リポソームは、エマルジョン、フォーム、ミセル、不溶性単層、液晶、リン脂質分散液、薄板状層等を含む。これらの調製物において、送達されるペプチド、核酸または有機化合物は、リポソームの一部として、単独で、または例えば目的の細胞で優勢な受容体と結合する分子、もしくは他の治療用組成物とともに組み込まれる。したがって、目的のペプチド、核酸、小分子または複合体を充填したリポソームを、損傷または傷害のある病変、例えば、軟骨組織、関節、傷害病変に誘導した後に、その場所で選択されたCDK9阻害剤及び/またはBRD4阻害剤組成物を送達することができる。本発明に使用するリポソームは、標準的な小胞形成脂質から形成され、一般に中性及び負電荷のリン脂質類及びステロール、例えばコレステロールを含む。脂質の選択は一般に、リポソームのサイズ、血流中でのリポソームの酸不安定性(liability)及び酸安定性を考慮して決定する。リポソームの調製には、例えば、Szoka et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980)、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号及び第4,837,028号に記載されているような、様々な方法を利用できる。
【0106】
様々な標的薬剤を使用したリポソームの標的化は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第4,957,773号及び第4,603,044号を参照)。目的の細胞に対する標的化のために、リポソームに組み込まれるリガンドには、例えば、標的細胞の細胞表面決定基に特異的な抗体またはその断片を含むことができる。CDK9阻害剤及び/またはBRD4阻害剤を含有するリポソーム懸濁液は、とりわけ、投与様式、送達される複合体、及び治療する疾患のステージに応じて異なる用量で、静脈内に、局所(例えば、病巣内)に、外用等で投与することができる。
【0107】
固体組成物には従来の非中毒性固体担体を使用でき、これには、例えば、薬剤等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、滑石、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等が含まれる。経口投与の場合、薬学的に許容される非中毒性組成物は、通常用いられる賦形剤、例えば、前に列挙した担体などのいずれか、及び一般的に10〜95%の活性成分、すなわち1種以上の複合体を、より好ましくは濃度25%〜75%で組み込むことによって形成する。
【0108】
エアロゾル投与の場合、阻害剤は界面活性剤及び噴射剤と一緒に好適な形態で供給されることが好ましい。CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤の典型的な比率は、0.01重量%〜20重量%、好ましくは1%〜10%である。界面活性剤は、言うまでもなく、非中毒性でなければならず、好ましくは噴射剤に溶解性でなければならない。そのような薬剤の代表例は、6〜22個の炭素原子を含んでいる脂肪酸、例えばカプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン(olesteric)酸及びオレイン酸と、脂肪族多価アルコールまたはその環式無水物とのエステルまたは部分エステルである。混合エステル、例えば混合グリセリドまたは天然グリセリドを使用してもよい。界面活性剤は、組成物重量の0.1〜20%、好ましくは0.25〜5%を構成する。組成物の残部は通常、噴霧剤である。必要に応じて、例えば経鼻送達用レシチンと同様の担体を含むこともできる。
【0109】
有効な治療は、臨床医により測定された、または患者が報告した、観察される症状の減少(例えば、痛み、腫脹、関節可動性)によって示される。あるいは、特定のCDK9活性及び/またはBRD4活性のレベルを検出する方法を使用することができる。CDK9活性及び/またはBRD4活性を検出する標準的アッセイを本明細書に記載する。ここでも、有効な治療は、CDK9及び/またはBRD4の活性の実質的な低減によって示される。本明細書で使用される場合、CDK9活性及び/またはBRD4活性の「実質的な低減」とは、試験用試料を無処置対照群と比較した場合の、少なくとも約30%の低減を指す。好ましくは、低減は少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%であり、及び最も好ましくはCDK9及び/またはBRD4活性レベルが、処置された哺乳動物からの試料において、無処置対照群と比較して少なくとも約90%低減される。いくつかの実施形態では、CDK9活性及び/またはBRD4活性は完全に阻害される。
【0110】
5.CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤を含むマトリックス
様々な実施形態において、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の組み合わせを、マトリックスまたはデポー内に含有することができる。マトリックスは、軟骨病変または骨病変の部位に組成物を送達するための送達ビヒクルとして、1容積で供給することができる。マトリックスはまた、軟骨修復及び再生が生じ得る好適な足場を提供する。一実施形態では、マトリックスは生体吸収性または生分解性である。
【0111】
様々な実施形態において、マトリックスは、in vivo使用に適しており、かつCDK9阻害剤及びBRD4阻害剤の存在下で、軟骨修復または骨修復を容易にする特徴を備えるいずれかの材料から形成することができる。マトリックスは、合成ポリマー及び/または基質を含むが、これらに限定されない材料から形成することができる。好ましい基質は、天然ポリマー及びプロテオグリカンを含む。天然ポリマーとしては、限定されないが、コラーゲン、エラスチン、レチクリン、及びその類似物が挙げられ、プロテオグリカンとしては、限定されないが、いずれかのグリコサミノグリカン含有分子が挙げられる。特に好ましいグリコサミノグリカンとしては、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸及びヒアルロナンが挙げられる。他の好ましい基質としては、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン及びヒアルロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい合成ポリマーとしては、ポリ(乳酸)及びポリ(グリコール酸)が挙げられる。
【0112】
本発明の一実施形態では、マトリックスはコラーゲンを含む。例えば、マトリックスは乾重量でマトリックスの約20%〜約100%のコラーゲン、例えば乾重量でマトリックスの約50%〜約100%のコラーゲン、例えば乾重量でマトリックスの約75%〜約100%のコラーゲンを含有し得る。
【0113】
1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤との使用に適したマトリックスは、軟骨病変または骨病変の修復での使用に適した、スポンジ、膜、フィルムまたはゲルを含めた、いかなる形態の材料も含むことができる。一実施形態では、好適な修復マトリックスとしては、脱灰骨マトリックス、合成骨移植片代用物、自家移植片組織、同種異系移植片組織及び/または異種移植片組織が挙げられる。いくつかの実施形態では、マトリックスは、骨移植片として、例えば脊髄移植片として使用するために処方される。
【0114】
CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤とマトリックスを会合させるのに適した方法には、軟骨修復物または骨修復物が、その部位の軟骨または骨の修復及び/または再生に有効であるように、阻害剤をマトリックスとともに軟骨修復部位または骨修復部位に送達できる、いずれかの方法が含まれる。そのような会合方法としては、マトリックス内への組成物の懸濁、マトリックス表面上の組成物の凍結乾燥、及び担体/送達製剤を含有する組成物のマトリックス内への懸濁が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤を、軟骨病変に産物を配置する前にマトリックスと会合させることも(すなわち、ex vivoでの組成物とマトリックスの会合)、あるいは最初にマトリックスを病変に移植し、続いて1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤をマトリックス内部へ、もしくはマトリックス表面へ注入してマトリックスと会合させることもできる(すなわち、in vivoでの組成物とマトリックスの会合)。
【0115】
1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の組み合わせには、組成物のマトリックスとの会合を増強する、病変部位の適切な細胞及び組織への組成物の送達を増強する、及び病変部位での組成物中の因子の放出の制御を助ける、追加の送達製剤または担体を含有することができる。本明細書で使用される場合、好適な送達製剤には、被治療動物での軟骨誘導組成物の半減期を増加させる化合物を含む担体が含まれる。好適な担体としては、ポリマー徐放性ビヒクル、生分解性移植片、リポソーム、細菌、ウイルス、油、細胞、エステル及びグリコールが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、マトリックスは生体吸収性または生分解性である。
【0116】
1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤の組み合わせは、軟骨病変部位または骨病変部位で、II型コラーゲン産生軟骨細胞に対する細胞浸潤、細胞増殖、血管新生及び細胞分化のうちの1つ以上を誘導するのに有効である濃度でマトリックス中に存在する。1種以上のCDK9阻害剤及び/または1種以上のBRD4阻害剤は個々に、非有効濃度で存在し得る。様々な実施形態において、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤は、その併用が、軟骨病変部位または骨病変部位で軟骨修復及び/または再生を誘導するのに有効である濃度でマトリックス中に存在する。当業者は、組成物により提供されるタンパク質の種類及び数、ならびに使用する送達ビヒクルに応じて、組成物中のタンパク質及び/または核酸分子の濃度を調節することができる。
【0117】
マトリックスはまた、組成物中の1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤に非共有的に結合され、それによって成長因子の放出速度を変更する1つ以上の物質を含有することができる。そのような物質には、限定されないが、いずれかの基質または他のポリマー物質を含む。本明細書で使用される場合、基質は、天然ポリマー及びプロテオグリカンを含む、非生体マトリックスの結合組織と定義する。天然ポリマーとしては、コラーゲン、エラスチン、レチクリン及びその類似体が挙げられるが、これらに限定されない。プロテオグリカンには、限定されないがグリコサミノグリカン含有分子のいずれかを含み、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸及びヒアルロナンが挙げられる。好ましい基質としては、タイプIコラーゲン、タイプIIコラーゲン、タイプIIIコラーゲン、タイプIVコラーゲン及びヒアルロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい他のポリマー物質としては、ポリ(乳酸)及びポリ(グリコール酸)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
更なる実施形態では、マトリックスは、軟骨病変部位の軟骨形成を更に増強するために提供される、1種類以上の細胞を含むことができる。そのような細胞としては、繊維軟骨細胞、軟骨細胞、間葉前駆体、及び軟骨細胞前駆体として機能できる他のいずれかの細胞が挙げられるが、これらに限定されない。そのような細胞を、上記方法のいずれかによって、組成物及びマトリックスと会合させることができる。
【0119】
本発明のいくつかの態様において、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤を含むマトリックスは、少なくとも1つの骨マトリックスタンパク質を更に含む。本明細書で使用される場合、「骨マトリックスタンパク質」は、骨マトリックスを形成する微小コラーゲン繊維及び基質からなる成分またはそれと会合する成分である、当技術分野で既知のいずれかのタンパク質群である。様々な実施形態において、マトリックスは、TGF−βスーパーファミリー、成長因子タンパク質及び/または軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)のメンバーである骨マトリックスタンパク質を含む。骨マトリックスタンパク質にはまた、限定されないが、オステオカルシン、オステオネクチン、骨シアロタンパク質(BSP)、リシルオキシダーゼ、カテプシンL前駆体、オステオポンチン、マトリックスGLAタンパク質(MGP)、バイグリカン、デコリン、プロテオグリカン−コンドロイチン硫酸III(PG−CS III)、骨酸性糖タンパク質(BAG−75)、トロンボスポンジン(TSP)及び/またはフィブロネクチンを含むことができる。好ましくは、本発明の産物との使用に適した骨マトリックスタンパク質には、オステオカルシン、オステオネクチン、MGP、TSP、BSP、リシルオキシダーゼ及びカテプシンL前駆体のうち1つ以上を含む。一実施形態では、少なくとも1つの骨マトリックスタンパク質には、少なくともオステオカルシン、オステオネクチン、BSP、リシルオキシダーゼ及びカテプシンL前駆体を含む。特に好適な骨マトリックスタンパク質はMGPであり、より好ましくはオステオネクチンであり、最も好ましくはTSPである。
【0120】
1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤を含むマトリックスは、血管及び無血管軟骨組織両方の断裂及び区域性欠損の両方を含む、軟骨の様々な欠損を修復するために有用である。産物は、硝子質(例えば、関節性)及び/または繊維軟骨(例えば、半月板)の欠損を修復するのに特に有用である。例えば、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のCDK9阻害剤を含むマトリックスは、半月板の放射状断裂、半月板の三重バケツ柄状(triple bucket handle)断裂、半月板の無血管領域の縦断裂、または半月板の区域性病変の修復促進に使用される。
【0121】
軟骨欠損及び骨欠損(すなわち、病変)は、様々な形状、サイズ及び位置で生じる可能性があるため、1種以上のCDK9阻害剤及び1種以上のBRD4阻害剤を含むマトリックスは、治療する患者の軟骨または骨の特定の欠損に十分に適合する形状及びサイズである。好ましくは、軟骨欠損または骨欠損の修復に使用される場合、マトリックスは、患者に治療的利点を与えるのに適している幾何学的形状を欠損部位に実現する。そのような治療的利点は、軟骨欠損または骨欠損の修正と関連する患者の健康及び幸福度の何らかの改善であってよく、好ましくは、治療的利点には、軟骨または骨の自然な構造が少なくとも部分的に回復するような欠損の修復を含む。マトリックスは、軟骨病変または骨病変に直接留置または移植することができる。
【0122】
6.組成物及びキット
関連する態様において、本発明は、サイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤及びブロモドメイン含有4(BRD4)阻害剤を含んでいる溶液中の骨軟骨外植片(例えば、ex vivo軟骨組織)及び/または軟骨細胞を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、骨軟骨外植片は同種異系移植軟骨である。いくつかの実施形態では、CDK9阻害剤は、低分子有機化合物、例えば、フラボピリドールまたはその類似体及び塩である。いくつかの実施形態では、BRD4阻害剤は、低分子有機化合物、例えばJQ1、GSK525762Aまたはその類似体及び塩である。いくつかの実施形態では、骨軟骨外植片は、CDK9阻害剤及びBRD4阻害剤を含んでいる溶液中に浸漬される。様々な実施形態において、溶液は水溶液、例えば生理学的に等張な溶液である。いくつかの実施形態では、溶液は、約100nM〜約1000nM、例えば約300nM、または以下の範囲の濃度でフラボピリドールを含む。いくつかの実施形態では、溶液は、約100nM〜約1000nM、例えば約300nM、または以下の範囲の濃度でJQ1及び/またはGSK525762Aを含む。溶液がCDK9阻害剤(例えば、フラボピリドール)及びBRD4阻害剤(例えば、JQ1及び/またはGSK525762A)の組み合わせを含むとき、一方または両方の化合物は非有効濃度、例えば、約100nM〜約1000nM、例えば約300nMの範囲の75%、50%または25%の濃度であり得る。溶液は、本明細書に記載する付加的な薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、組成物はパッケージ化されたキットとして提供される。
【実施例】
【0123】
以下の実施例は、例示のために記載し、特許請求する発明を限定するためではない。
【0124】
実施例1
炎症性刺激下の軟骨細胞におけるCDK9及びBRD4の阻害
材料及び方法
軟骨細胞の処理。初代軟骨細胞を、IRB承認を得た健康なヒトドナーの軟骨から単離し、10%のFBSを加えたDMEM中で培養した。統計実験計画はJMP 10.0ソフトウェアを使用して実施し、各薬物単独のまたは併用での、IL−1β誘導型iNOS転写の完全阻害に要する最小濃度を特定した。炎症性刺激として10ng/mlのIL−1βまたは10ng/mlのTNF−αのいずれかで5時間、軟骨細胞を処理し、以下のような5群の組み合わせで薬物を加えた。
1)薬物なし、サイトカイン刺激なし(対照群)
2)薬物なし、刺激あり(刺激群)
3)JQ1、刺激あり(J群)
4)フラボピリドール、刺激あり(F群)
5)JQ1及びフラボピリドール、刺激あり(JF群)。
各細胞を採取してRNAを抽出した。
【0125】
定量的リアルタイムRT−PCR。miRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して、全RNAを軟骨細胞(n=3ドナー)から抽出した。Quantitect Reverse Transcription Kit(Qiagen)を使用して最初のcDNA鎖を合成した後、変換したcDNA試料を遺伝子に特異的なプローブを備える7900HTリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)によって3つ組で増幅し、18sのrRNAに対して正規化を行った。
【0126】
マイクロアレイ分析。上記の5群の軟骨細胞(n=2ドナー)から抽出した全RNAで、Affymetrix GeneChip Human Gene 2.0 ST Array解析を実施した。最初に、刺激群で発現レベルが対照群のものより5倍高い遺伝子を選抜し、発現を薬物(JQ1、フラボピリドールまたは両方)により抑制した。GeneSpringソフトウェアで、一元配置ANOVAにより5群間で有意差を示した遺伝子を特定した。差次的に調節された遺伝子をIngenuity Pathway Analysis Softwareに入力し、古典的経路での変化を評価した。
【0127】
結果を
図3、4及び7に示す。フラボピリドール及びJQ1によるCDK9及びBRD4の阻害は、炎症誘発性遺伝子及び異化遺伝子のパネルを効果的に抑制した。JQ1及びフラボピリドールの併用は、薬物用量の低減時(例えば、個々の薬剤では治療量以下または非有効)でも、同等のまたはより良好な炎症反応抑制を達成し、相乗的相互作用を示した。Brd4及びCdk9は、共通する機構経由だけでなく、個々の機構も経由した初期応答炎症性遺伝子の転写を調節する。
【0128】
実施例2
外傷誘導性全身炎症反応の転写制御
膝外傷後のCdk9の阻害は、局所炎症反応の防止に極めて効果的であり、更に外傷後変形性関節症の防止に効果的である(Yik,et al.,Arthritis&Rheumatology(2014)66,1537−1546)。SIRS及び外傷性全身性炎症の治療方法は、我々の外傷性膝傷害の研究を、例えば複数の長骨骨折などの、全身性炎症の主要な危険因子である他の整形関連外傷に発展させたものである。全身性炎症は、骨折治癒を大幅に遅延させ、医療費を増加させる(Bastian,et al.,Journal of Leukocyte Biology(2011)89,669−673)。したがって、SIRSに対する効果的な治療は、整形外傷を有する患者に利益をもたらし得る。後述のように、我々のデータは、CDK9単独の阻害、及びCdk9とBrd4の同時阻害が、多数の免疫学的攻撃から生じる初期炎症反応遺伝子の活性化を効果的に抑制し、かつ炎症が誘導する二次的な健康への影響を防止することを明示している。
【0129】
Cdk9の阻害は、複数の上流の炎症性シグナルを遮断する。Cdk9が炎症性遺伝子活性化の共通のボトルネックを調節することを実証するため、ヒト初代軟骨細胞を、異なる細胞表面受容体及びシグナル伝達経路を活性化するIL−1β、リポ多糖体(LPS)、TNF(
図5A)またはIL−6(
図5C)という4種類の炎症誘発性刺激によって個別に処理した(
図1を参照)。次に、初期炎症性遺伝子誘導型の一酸化窒素合成酵素(iNOS)のmRNA誘導を判定した。結果は、フラボピリドールによるCdk9の阻害が、4種の炎症性刺激すべてによるiNOS誘導を著しく抑制することを示した(
図5A及びC)。更に、Cdk9のsiRNA媒介性ノックダウンでもIL−1βの処理によるiNOS誘導が防止されたことから、観察された効果はCdk9によって特異的に媒介されるものであった(
図5B)。iNOSに加えて、4種の刺激が他の炎症性サイトカイン及び異化遺伝子、例えば複数のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のmRNAも誘導したが、その誘導はすべてフラボピリドールによって抑制されることを示した(Yik,et al.,Arthritis&Rheumatology(2014)66,1537−1546)。最後に、Cdk9の阻害は、機械的傷害(
図6A)及び付随するアポトーシス(
図6B)の影響下に置かれる軟骨外植片からのIL−6のmRNA誘導を防止した。これは、Cdk9の阻害が、炎症及び傷害の有害作用から軟骨を保護することを示している。
【0130】
要約すると、Cdk9の単独阻害及びCdk9とBrd4の同時阻害により、IL−1β、LPS、TNF、IL−6及び機械的傷害を含む、多様なシグナルに応答した炎症性遺伝子の転写を防止する。これらのデータは、ストレス応答における転写活性化の中心的役割を立証するとともに、この方法が重度外傷後のSIRS阻害にも功を奏し得ることを強く示している。Cdk9の阻害は、大部分の下流の炎症反応遺伝子の活性化を効果的に抑制する。次に我々は、炎症反応遺伝子の広域活性化に対するCdk9阻害の効果を実証するためにマイクロアレイスクリーニングを実施した。培養液中の初代ヒト軟骨細胞を、フラボピリドール及び/またはJQ1の存在下または非存在下で、炎症性刺激であるIL−1βとともに5時間処理した。マイクロアレイは、全トランスクリプトーム内に、IL−1βにより1.5倍超誘導された遺伝子を873個検出した。相対的な遺伝子発現レベルのヒートマップ表示は、JQ1及びフラボピリドールがこの873個の遺伝子の異なった集団を選択的に抑制することを示した(
図7A、レーン2及び3の比較)。本来の用量の約20〜25%のJQ1及びフラボピリドールの同時処理では、相乗効果が観察され、無処理試料に最もよく類似した遺伝子発現プロファイルを示した(
図7A、レーン4及び5の比較)。これらのデータは、抗炎症治療に対するフラボピリドールとJQ1両方の使用による相乗的かつ相補的効果の利点を明示している。
【0131】
本結果はまた、初期応答遺伝子の誘導抑制におけるCdk9阻害剤の有効性及び程度も実証している。例えば、IL−1β誘導性遺伝子873個のうち半数近くの誘導は、フラボピリドールによって、その最大誘導値の少なくとも75%未満のレベルまで抑制された(
図7B、黄色)。873個の遺伝子のうち、フラボピリドールによりまったく抑制されなかったのは、わずか約5%であった(
図7B、灰色)。更に、フラボピリドールとJQ1との間に強い相乗性が見られた。2つの薬物による同時処置は、60nMのフラボピリドール及び250nMのJQ1に投与量を低減した場合でも(
図3及び7B)、250nMのフラボピリドールまたは1200nMのJQ1の投与量で単独処理した場合と比較して良好な抑制を達成した。投与量の低減は、潜在的なオフターゲット効果を最小化する。更に、我々のマイクロアレイデータでは、誘導性遺伝子のみがCdk9阻害による影響を受ける一方で、非誘導性遺伝子及びハウスキーピング遺伝子は影響を受けないことが実証された。これは、Cdk9の阻害は、単独で及びBrd4阻害との併用で、本実験の短期間内にオフターゲット効果が最小限であったことを示している。総合すると、本明細書及び公開データ(Yik,et al.,Arthritis&Rheumatology(2014)66,1537−1546)に記載の結果は、Cdk9阻害剤が単独で及びBrd4阻害剤との併用で、大部分の炎症性遺伝子転写を遮断する抗炎症剤として有効であることを示している。
【0132】
我々のデータは、Cdk9の阻害が、単独で及びBrd4阻害との併用で、SIRS治療用の従来の抗炎症剤とは差別化された、実現可能な抗炎症方法であるという強力な根拠を示している。in vitroのCdk9阻害は、複数の上流の炎症性シグナルを遮断するだけでなく、大部分の下流の炎症反応遺伝子の誘導も抑制する。第2に、in vivoのCdk9阻害は、単独で及びBrd4阻害との併用で、我々のマウス膝傷害モデルの組織炎症及び異化反応を低減している。最も重要なことに、LPS誘導性の全身性炎症マウスモデルを使用して、Cdk9の阻害が、全身性炎症マーカーIL−6の血漿レベルを著しく抑制することを立証している。総合すると、これらのデータは、Cdk9の阻害が、単独で及びBrd4の阻害との併用で、重度の外傷から生じるSIRSを防止して治療するための実現可能な方法であることを強固に裏付けるものである。
【0133】
引用文献
【0134】
実施例3
CDK9の阻害は、軟骨外植片での機械的傷害で誘導される炎症、アポトーシス及びマトリックスの分解を防止する
本実施例では、ウシ軟骨外植片を用いて、単一衝撃傷害モデルでのCDK9阻害剤フラボピリドールの治療的可能性を検討した。傷害誘導性の炎症反応及び異化反応、軟骨細胞アポトーシスならびに軟骨マトリックス変性の活性化を防止するフラボピリドールの能力を判定した。
【0135】
要約
関節傷害は、外傷後変形性関節症(PTOA)に至る場合が多い。外傷に対する急性傷害反応は、炎症誘発性サイトカイン及び異化酵素の産生を誘導し、それは軟骨細胞アポトーシスを促進し、軟骨を変性させ、POTAの発症可能性を高める。最近の研究では、傷害反応遺伝子の転写活性化のための律速段階がサイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)によって制御されることがわかっており、ゆえにCDK9は傷害反応を制限する興味深い標的となっている。そこで我々は、機械的傷害を受けた軟骨外植片において、CDK9の阻害が、傷害反応を抑制する効果を判定した。ウシ軟骨外植片を、100%/秒で歪み30%の単一の圧縮荷重により損傷させた後、CDK9阻害剤フラボピリドールにより処理した。急性傷害反応を評価するために、炎症誘発性サイトカイン、異化酵素及びアポトーシス遺伝子のmRNA発現をRT−PCRにより測定し、TUNEL染色により軟骨細胞の生存性及びアポトーシスを測定した。長期的転帰に関しては、溶解性グリコサミノグリカンの放出によって、ならびに瞬間弾性率及び緩和弾性率を用いて機械的特性を決定することによって軟骨マトリックスの分解を評価した。本データは、傷害誘導性の炎症性サイトカイン及び異化遺伝子の発現をCDK9阻害剤が著しく低減することを示した。CDK9阻害剤はまた、軟骨細胞アポトーシスを減衰させて、軟骨マトリックスの分解を低減させた。最後に、傷害を受けた外植片の機械的特性が、CDK9阻害剤によって保持された。この結果から、機械的衝撃、すなわち急性傷害反応から、それに続く軟骨細胞アポトーシス及び軟骨マトリックスの分解の誘導に至る連鎖的事象を結びつける時間的プロファイルが得られる。したがって、CDK9は、PTOAの発症を防止または遅延させる、膝外傷後の傷害反応の潜在的な疾患修飾薬である。
【0136】
材料及び方法
軟骨外植片−仔ウシ(約2か月齢、n=40関節、性別不明)の後膝関節を、屠殺後1日以内に現地屠殺場(Petaluma,CA)から入手した。6mmの生検パンチを関節面の荷重領域に対して垂直に挿入し、各大腿骨顆から、6〜8の円筒状軟骨外植片を採取した。次に、個別仕様のジグを使用して、外植片を約3mm厚に切り揃えた(関節面は無傷なまま、深層を平坦に切る)。外植片をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、10%のウシ胎児血清(Invitrogen)、ペニシリン(1X10
4ユニット/ml)及びストレプトマイシン(1X10
4μg/ml)を補充した高グルコースのダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、37℃、5%CO
2及び相対湿度95%にて24時間培養した。
【0137】
単一衝撃によるex vivo傷害モデル−24時間の回復及び平衡化期間後、軟骨外植片に単一衝撃による機械的傷害を与えた。各外植片の正確な厚みをカリパスにより測定した後、関節面を上向きにして、個別仕様の一軸荷重チャンバーに配置した。油圧材料試験機(Instron 8511.20)で、20mm径のステンレス鋼プラテンを外植片表面に降ろして、0.5N(約17.7kPa)の予荷重をかけた。この0.5Nの予荷重ステップを、無傷の対照を含む全外植片に施した。骨顆で外植片が採取された場所の位置的差異に起因する潜在的ばらつきを回避するために、後で比較する際、2つの隣接する外植片を対照と傷害の対として意図的に対応させた。予荷重後に、100%/秒で歪み30%の単一圧縮を与えた後、即座に解放するようにInstronをプログラムした。単一の衝撃荷重後、外植片を半分に薄く切り、秤量した。外植片の片半分を3mlの培地に置き、残りの半分を300nMのフラボピリドール(Sigma)を含有した培地に置き、種々の時間、培養した(
図9Aを参照)。培地は1日おきに変え、新たにフラボピリドールを添加した。その後、外植片及び培地に、後述する更なる処理及び分析を施した。
【0138】
定量的リアルタイムPCR−傷害後2時間、6時間、及び24時間で、外植片を液体窒素中で凍結し、凍っている間に乳棒と乳鉢で粉砕した。十分に軟骨マトリックス成分を除去するためにQiazol試薬を用いてRNAを2回抽出した以外は、製造業者の指示に従って、miRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して全RNAを単離した。全RNAの量及び質をNanodrop−2000分光光度計(spectrophometer)で測定した。各試料からの全RNAのうち2.5ugを、SuperScript First−Strand RTキット(Invitrogen)を用いた逆転写に使用した。定量的リアルタイムPCRを7900HTシステム(Applied Biosystem)にて3つ組で実施し、個々のmRNA発現を測定した。結果を18sのrRNA(カタログ番号4319413E、Applied Biosystem)に対して正規化し、2
−ΔΔCT法を使用して、対照に対するmRNA発現の倍率変化として算出した。個々のウシ遺伝子に使用したプローブは、Integrated DNA Technologiesにより作製された個別仕様であった。
【0139】
軟骨細胞生存性−機械的傷害の5日後に外植片の生存細胞及び死細胞を、製造業者のプロトコルに従って、Live/Dead Viability/Cytotoxicityキット(カタログ番号L3224、Invitrogen)を使用して染色した。生存細胞と死細胞の割合(%)は、Nikon TE2000倒立型蛍光顕微鏡及び20x対物レンズを使用して、取得した外植片(試料群ごとにn=6)の断面画像のランダムな3領域で細胞数を計数することによって決定した。
【0140】
アポトーシス細胞の染色−傷害後1日、3日及び5日で、外植片を4%のパラホルムアルデヒドで24時間固定して、75%のエタノールに移した後、組織学的分析のため切片化した。アポトーシスのインサイチュー検出は、DeadEnd Fluorometric TUNELシステムキット(Promega)を使用して5um厚の外植片断面全体に対して実施した。このキットは、Terminal Deoxynucleotidyl Transferase組み換え酵素(rTdT)を使用して、3’−OH DNA末端にフルオレセイン−12−dUTPを触媒的に組み込むことにより、アポトーシス細胞の断片化したDNAを測定する。核はDAPIで対比染色した。切片を蛍光顕微鏡に載せて調べた。アポトーシス細胞(n=3の異なるドナー)の割合(%)を、TUNEL陽性細胞(緑)の数を計数することにより測定し、対総細胞(DAPI)比で算出した。DNaseIとともにインキュベートした切片を陽性対照として使用する一方、緩衝液のみとともにインキュベートしたものを陰性対照として使用した。
【0141】
GAGの放出−傷害後5日で培地を収集して、グリコシルアミノグリカン(glycosylaminoglycan)(GAG)の量を、標準物質としてコンドロイチン硫酸を用いたジメチル−メチレンブルー(DMMB)比色分析法によって測定した。培地へ放出されたGAG総量を算出して、外植片の湿潤重量(傷害日に測定)に対して正規化した。
【0142】
軟骨の機械的特性−CDK9の阻害が、傷害後の軟骨外植片の機械的特性を保持するかどうかを試験するため、傷害を受けた外植片及び対照の外植片を、フラボピリドールを含む培地または含まない培地で4週間、培養した。機械的検査システム(Instron 5565、Norwood,MA)を使用して、一軸圧縮での応力緩和試験により、軟骨試料の圧縮特性を評価した。試験前に、皮膚生検パンチを使用して直径3mm、厚さ2mmの圧縮試料を作製した後、リン酸緩衝生理食塩水に入れ、16mmのステンレス鋼プラテン下の中央に置いた。プラテンと軟骨試料との接触を示す、0.2Nの予荷重が観察されるまで、プラテンを徐々に下げた。次に、15サイクルの5%歪みによって試料を予備調整した。予備調整を含む、歪みはすべて1秒当たり10%の歪み速度で負荷した。予備調整の直後に試料に10%の圧縮歪みを与えた。歪みを10%のまま一定に保ち、荷重を380秒間記録した。歪み10%の負荷を終えたら、圧縮歪みを20%に増加して一定に保ち、更に530秒間、荷重を記録した。圧縮特性:前述の粘弾性の標準線形ソリッドモデルに従って(Allen and Athanasiou,2006)、データ解析ソフトウェア(MATLAB R2013a、Natick,MA)を使用して、個々の応力緩和曲線から、瞬間弾性率、緩和弾性率及び粘性係数を算出した。この機械的試験及びモデルは、軟骨の粘弾性挙動を概算する上での単純性及び精度を理由に選択した。6ドナーから新たに単離された(0日目)ウシ軟骨外植片の圧縮特性を測定し、傷害後4週の試料と比較するためのベースライン値とした。
【0143】
統計解析−すべての測定値は平均+/−標準偏差で表した。遺伝子発現の変化は、SPSS 16.0ソフトウェアによる一元配置ANOVAにより分析した。mRNAの倍率変化を、異なる処置群間の試料を比較する変数として使用した。最少有意差の事後分析を、有意水準P<0.05で実施した。
【0144】
有意水準をP<0.05とし、JMP Proソフトウェア(バージョン11.2.0)を使用して、一元配置ANOVAとテューキーの事後検定の併用により圧縮特性の変化を分析した。
【0145】
結果
CDK9の阻害は傷害誘導性の炎症誘発性遺伝子及び異化遺伝子を抑制する−CDK9は炎症性遺伝子活性化の律速段階を制御しており(Hargreaves et al.,2009;Zippo et al.,2009)、我々は、in vitroでのCDK9阻害は、外因的に付加される炎症誘発性サイトカインの異化作用の影響から軟骨細胞及び軟骨を保護することを以前に示している(Yik et al.,2014)。しかしながら、膝傷害で起こり得るものと類似した、直接的な衝撃による傷害を受ける軟骨でのCDK9阻害の効果は検討されていなかった。我々は、機械的傷害を受けた軟骨でのCDK9の阻害が炎症反応を防止し、それにより軟骨細胞及び軟骨マトリックスに対するその後の有害作用を軽減するという仮説を立てた。我々の仮説を検証するために、ウシ軟骨外植片に歪み率30%で衝撃荷重を加えることにより、機械的な傷害を与えた(
図9A)。この規模の荷重は、軟骨細胞アポトーシス及び軟骨マトリックスの分解を誘導する(Borrelli et al.,2003;D’Lima et al.,2001;Hembree et al.,2007;Loening et al.,2000;Morel and Quinn,2004;Rosenzweig et al.,2012;Waters et al.,2014)。傷害を受けた外植片をCDK9阻害剤フラボピリドールの存在下または非存在下で種々の時間培養した。傷害を受けた外植片で誘導された炎症性サイトカイン及び異化遺伝子のmRNA発現を測定して、無傷の対照と比較した。フラボピリドールの添加は、傷害によるサイトカインmRNAの誘導を低減した(
図9B及びC、灰色バー)。この効果は、IL−6のmRNAの発現で最も顕著であった。IL−6のmRNAは試験された全時点で傷害により有意に誘導され(
図9B、白抜きバー)、かつIL−6の誘導はフラボピリドールによって顕著に抑制された(
図9B、灰色バー)。類似の傾向がIL−1βで観察された(
図9C)が、これは統計的有意性に達しなかった。これらのデータは、予測通りに、軟骨外植片でのCDK9の阻害が、機械的傷害に応答した炎症性サイトカインの誘導を抑制することを示している。
【0146】
次に、炎症性サイトカインによって誘導され、軟骨マトリックスを分解する異化遺伝子MMP−1及びMMP−13、ならびにADAMTS4のmRNA発現の傷害誘導性変化を検討した。結果は、傷害が全時点でMMP−1及びADAMTS4の発現を有意に誘導し、また2時間の時点でMMP−13の発現を有意に誘導した(
図9D〜F、白抜きバー)ことを示した。CDK9の阻害は、試験された全時点で、傷害を受けた試料での上記遺伝子の誘導を効果的に防止した(
図9D〜F、灰色バー)。対照的に、同化遺伝子アグリカン及びCol2a1のmRNA発現は、フラボピリドールの有無を問わず、傷害に影響されなかった(
図9G〜H)。総合すると、これらの結果は、CDK9の阻害が、軟骨マトリックスを分解する傷害誘導性異化メディエーターを抑制した一方で、同化遺伝子の基礎値は試験された全時点で傷害またはCDK9阻害の影響を受けないことを示している。
【0147】
CDK9の阻害は傷害誘導性の軟骨細胞アポトーシスを低減する−機械的傷害はまた、炎症反応の誘導以外に、軟骨外植片の軟骨細胞アポトーシスも引き起こす(Borrelli et al.,2003;D’Lima et al.,2001;Hembree et al.,2007;Rosenzweig et al.,2012)ことから、我々は、外植片傷害モデルを使用して、アポトーシスに対するCDK9阻害の効果を調べた。アポトーシス過程で中心となる3つの選択された遺伝子(P53、Bcl−2及びPTEN)のmRNA発現を、傷害後24時間の軟骨外植片で検討した。P53は、DNA損傷が回復不能である場合にアポトーシスを開始し(Amaral et al.,2010)、Bcl−2は抗アポトーシス因子の基礎メンバーであり(Czabotar et al.,2014)、PTENはアポトーシスの重要な調節因子である(Zheng et al.,2010)。機械的傷害自体は、P53、Bcl−2及びPTENのmRNA発現に有意な変化を与えなかったが(
図10、白抜きバー)、フラボピリドールは傷害群及び無傷群の両方でこれらのアポトーシスメディエーターの発現を有意に減少させた(
図10、灰色バー)。
【0148】
このアポトーシスメディエーターの基礎値の減少がきっかけとなり、我々は傷害を受けた軟骨外植片のアポトーシス軟骨細胞数を自ら測定するに至った。傷害後1日、3日、及び5日に採取した異なる3ドナーからの軟骨外植片をTUNEL染色法により検討し、各試料の核の総数に対するアポトーシス細胞比を測定した。結果は、傷害がアポトーシス軟骨細胞の割合(%)を傷害後1日で約20%、傷害後3日で約60%増加させることを示した(
図11A)。対照的に、CDK9の阻害は、試験された全時点で、傷害を受けた外植片のアポトーシス細胞の割合(%)を有意に低減させた(
図11A)。これらの結果は、傷害後5日に採取した軟骨外植片の生死染色データにより更に実証された(
図11B)。生死染色は、傷害が生存軟骨細胞の数を約80%から約55%へと有意に減少させたことを示した(
図11B、白抜きバー)。フラボピリドールによる処理は、傷害を受けた外植片の細胞生存性を増強し、無傷の外植片の細胞生存性には有意な影響を与えなかった(
図11B、灰色バー)。総合すると、上記の結果は、CDK9の阻害が、軟骨外植片の傷害誘導性アポトーシスを減少させるとともに、衝撃傷害後の軟骨細胞生存性を増強することを示している。
【0149】
CDK9の阻害は傷害誘導性の軟骨マトリックスの分解を防止する−傷害誘導性の異化反応はマトリックス分解酵素の上方調節をもたらすことから、我々は次にCDK9の阻害が、傷害後の軟骨マトリックスの分解を防止し得るかどうかを調べた。軟骨外植片を傷害後に、300nMのフラボピリドールの存在下または非存在下で5日間連続して培養した。培地を採取し、培地に放出されたGAG含量をマトリックス分解の指標として測定した。GAG放出は傷害時に有意に増加した(
図12、白抜きバー)が、フラボピリドールで処理した試料では、傷害を受けた軟骨によるGAG放出は、無傷の対照のベースラインよりも増加することはなかった。この結果は、CDK9の阻害が、機械的傷害誘導性の軟骨マトリックスの分解及びプロテオグリカン放出を減衰させることを示している。
【0150】
CDK9の阻害は傷害後の軟骨外植片の機械的特性を保持する−個々の6ドナーから新たに単離された軟骨の圧縮特性を測定し、その平均値を
図13の点線によって示した。4週間の培養後、軟骨外植片の圧縮特性は、傷害を受けた無処置試料と比較した場合、フラボピリドールで処理した試料では、10%の緩和弾性率、10%の瞬間弾性率及び10%の粘性係数の増加を示す(
図13)。類似の結果は、20%歪みの応力緩和曲線から算出された弾性率及び粘性係数でも観察された(図示せず)。傷害を受けた軟骨試料と無傷の軟骨試料の両方で、圧縮特性に対するフラボピリドールの正の効果が観察されたが、フラボピリドールで処理した場合、傷害を受けた軟骨試料と無傷の軟骨試料との間で、いずれの圧縮特性にも有意差は観察されなかった。傷害を受けた無処理の軟骨試料は、全群中で最低の圧縮特性を呈したが、フラボピリドールの非存在下で傷害を受けた軟骨試料と無傷の軟骨試料との間に有意差はなかった。興味深いことに、フラボピリドールで処理した軟骨試料は、無処理の無傷の対照よりも大きい緩和弾性率を呈した。更に、フラボピリドールで処理された傷害を受けた軟骨試料はまた、無処置の無傷の対照よりも大きい瞬間弾性率及び粘性係数を有する。これらの結果は、フラボピリドールがin vitro培養された軟骨試料の圧縮特性に有益な影響を及ぼすことを示している。
【0151】
考察
この研究は、傷害後の軟骨外植片の生物学的及び機械的特性に対するCDK9阻害の効果を圧縮荷重によって検討した。この傷害モデルは、最初の24時間以内に炎症誘発性サイトカイン及び異化酵素の有意な誘導を引き起こした(
図9)。アポトーシス遺伝子がこの期間内に変化することはなかった(
図10)が、アポトーシス軟骨細胞は傷害後1日で外植片に検出でき、5日後にピークに達した(
図11)。傷害はまた、GAGの放出により測定される軟骨マトリックスの分解を加速した(
図12)。しかしながら、フラボピリドールによるCDK9阻害はこのような変化すべてを抑制し、天然軟骨のものと類似した機械的特性を維持し(
図13)、その結果、物理的傷害及びそれに続く炎症反応の有害作用から軟骨細胞及び軟骨を効果的に保護した。
【0152】
OAの高発生率は、外傷性膝傷害及びそれによる外傷期間後OA(PTOA)と関係する。傷害からPTOAが発症する病理は不明なままであるが、いくつかの一連の証拠は、この過程での炎症反応の関与を示唆している。ACL傷害後24時間以内のヒト関節に、高レベルの炎症性サイトカインIL−1β及びIL−6が検出されている(Irie et al.,2003)。Koらは、炎症及び付随するサイトカイン活性の調節不全が、OAにおける同化と異化間のバランスの乱れに寄与している可能性が高いことを実証している(Goldring and Berenbaum,2004)。in vitro及びin vivo研究で、炎症誘発性サイトカイン、特にIL−1βはOAにおける関節軟骨の破壊に関与していた(Goldring and Berenbaum,2004;Kobayashi et al.,2005)。軟骨において、軟骨細胞は、異化遺伝子及び同化遺伝子の発現を調節不全にする炎症誘発性サイトカインの主標的である。サイトカイン刺激性の軟骨細胞は、MMP−1、MMP−3、MMP−13及びアグリカナーゼADAMTS−4、ADAMTS−5などの様々なマトリックス分解酵素を産生する(Lee et al.,2005;Nishimuta and Levenston,2012)。これらのデータはすべて、炎症反応の軟骨マトリックスの分解への関与を意味する。この研究での我々の結果は、CDK9の阻害が、炎症性反応及び異化反応遺伝子の誘導を防止することから、傷害誘導性損傷の新規標的であることを明確に示している。
【0153】
軟骨細胞の同化遺伝子発現に対する機械的傷害の影響は、依然として議論の余地がある。Il−1βは、in vitroで軟骨細胞のCol2a1の発現を抑制することが報告されている(Okazaki et al.,2002)。しかしながら、他のOAに関する研究は、変形性関節症の軟骨では、通常の軟骨と比較して、アグリカン及びCol2a1遺伝子の発現及び生合成が増強されることを示している(Bau et al.,2002;Hermansson et al.,2004)。我々の結果から、最初の24時間で、傷害を受けた軟骨において同化遺伝子発現の有意な変化はないことが示された。これは、Col2a1を含む多くの同化遺伝子は後期OAでのみ増強されることを示した、全層軟骨を用いた大規模な発現プロファイリング研究によって裏付けられている(Aigner et al.,2006;Ijiri et al.,2008)。更に重要なことに、我々の結果は、フラボピリドールには機械的傷害後、最初の24時間で同化遺伝子発現に対する有害な副作用がないことを実証している。
【0154】
軟骨への機械的傷害は、軟骨細胞アポトーシスをもたらす。D’Limaらは、30%の歪みを負荷して軟骨外植片に傷害を与え、対照群でのアポトーシスが4%のみであったのと比較して、96時間で34%のアポトーシス軟骨細胞を確認した(D’Lima et al.,2001)。同様に、我々の外植片傷害モデルも軟骨細胞アポトーシスに至り、24時間で約20%のアポトーシス軟骨細胞を、72時間後に60%超のアポトーシス細胞を検出している(
図11A)。軟骨の傷害及び軟骨細胞アポトーシスが軟骨変性に至ることを考慮すると、これを遮断するように設計された薬物の開発はPTOAの発症防止に有益であり得る(Borrelli et al.,2003;D’Lima et al.,2001)。例えば、機械的傷害を受けた軟骨外植片をカスパーゼ阻害剤で処理すると、アポトーシスの50%減少が見られた(D’Lima et al.,2001)。しかしながら、数時間内の急性傷害反応、例えば炎症性サイトカイン及び異化遺伝子の誘導と、通常は傷害後数日で引き続いて起こる、その後のアポトーシスとの間の相関性に焦点を当てた研究はほとんどなかった。IL−1β及びIL−6などの炎症誘発性サイトカインは、多様な一連の細胞内シグナル伝達経路、例えばJNK、p38 MAPK及びNF−kB(Goldring et al.,2011)を活性化し、更にp53(Amaral et al.,2010)、BCL−2(Czabotar et al.,2014)及びPTEN(Zheng et al.,2010)のような種々のアポトーシス促進性遺伝子の発現を誘導する能力を有する。軟骨細胞において、JNK及びp38シグナル伝達経路は、傷害反応にアポトーシス促進性であると考えられている(Rosenzweig et al.,2012)。本研究で得た結果から、炎症性サイトカイン及び異化遺伝子の誘導から、それに続く軟骨細胞アポトーシスの誘導に至る、軟骨への機械的傷害後に生じる連鎖的事象を結びつける時間的プロファイルが得られる。重要なことに、フラボピリドールによる治療は、傷害反応の初期段階を効果的に遮断し、それによって軟骨へのその後の損傷を防止する。
【0155】
この研究での抗アポトーシス特性とは対照的に、フラボピリドールは、多くの癌細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている。特に、フラボピリドールは本来、急速に分裂する細胞(例えば癌)での細胞周期進行を抑制することによる抗増殖特性で知られていた(Wang and Ren,2010)。これは、細胞周期を直接調節する他のCDKに対するフラボピリドールのオフターゲット抑制効果による。したがって我々は、通常は分裂しない成熟した軟骨細胞(Kobayashi et al.,2005)はフラボピリドールの抗増殖効果に対して感受性が低いと考えている。
【0156】
フラボピリドールは、培養4週後の傷害を受けた軟骨外植片の圧縮粘弾性特性に対して有益な効果を及ぼす。具体的には、フラボピリドールで処理された傷害を受けた軟骨試料と無傷の軟骨試料はいずれも、傷害を受けた無処置試料と比較して、初期圧縮時(瞬間弾性率)、及び長期的な静的圧縮中に平衡に達したとき(緩和弾性率)の剛性が増加した。瞬間弾性率及び緩和弾性率の増加はそれぞれ、軟骨細胞外マトリックス(ECM)のグリコサミノグリカン(GAG)の維持、及びECMの弾性剛性の維持と関連している可能性が高い。更に、フラボピリドールで処理された傷害を受けた試料は、処置試料での粘性係数の増加により証明されたように、傷害を受けた無処置試料と比較して、圧縮後に平衡に向かう緩和の低速化を呈する。粘性係数の増加はECMでのGAGの保持と関連する可能性が高く、これが圧縮時の軟骨からの水の移動を阻止する。全体として、フラボピリドールによる治療は、培養した軟骨試料の粘弾性、圧縮特性を、無培養の天然軟骨試料で観察される値と近似する値に維持するのに役立つ(
図13)。フラボピリドールは、傷害後のin vivoの、ならびに培養中のin vitroの軟骨の機械的特性を保持することができる。
【0157】
傷害を受けた軟骨外植片と無傷の対照外植片との間に機械的特性の差がないことは、この研究の予想外の発見であった。フラボピリドールなしで培養された傷害を受けた外植片は、全処置群のうち最低の瞬間弾性率及び粘性係数を有したものの、傷害のある試料と無傷の試料との差に統計的有意性はなかった(P>0.05)。未成熟軟骨の長期培養中に生じることで知られる軟骨変性及びGAGの損失(Bian et al.,2010)が、無処理の無傷の軟骨外植片で観察される軟骨の圧縮特性の損失を引き起こした可能性がある。より短期の培養期間後の試験用試料は、傷害を受けた軟骨と無傷の軟骨との間に大きな差を示し得ると推測される。
【0158】
要約すると、我々のデータは、軟骨外植片での、機械的傷害により誘導される炎症誘発性サイトカインの抑制及び軟骨細胞アポトーシスの防止におけるCDK9阻害の有効性を初めて実証した。加えて、我々のデータは、フラボピリドールが軟骨マトリックスの分解を防止し、傷害後にその機械的特性を保持するために有効な薬剤であることを明確に示している。このように、フラボピリドールによるCDK9の阻害は、膝関節外傷後のPTOAを防止または遅延させるために効果的な方法を提供する。
【0159】
実施例3の引用文献
【0160】
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