特許第6931341号(P6931341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6931341-セルロース配合樹脂組成物の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6931341
(24)【登録日】2021年8月17日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】セルロース配合樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20210823BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20210823BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20210823BHJP
【FI】
   C08J3/20 ZCEP
   C08J3/20CFG
   C08L77/00
   C08L1/02
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-155615(P2018-155615)
(22)【出願日】2018年8月22日
(62)【分割の表示】特願2017-164493(P2017-164493)の分割
【原出願日】2017年8月29日
(65)【公開番号】特開2019-44163(P2019-44163A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴章
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−122177(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/124652(WO,A3)
【文献】 特開2011−006554(JP,A)
【文献】 特開2010−106055(JP,A)
【文献】 特許第5211571(JP,B2)
【文献】 特開2017−145406(JP,A)
【文献】 特開2014−162880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08L 77/00
C08L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂を含む熱可塑性樹脂と、
径が450nm以下であるセルロースウィスカー若しくは径が450nm以下であるセルロースファイバー又はこれらの混合物であるセルロース(但し、カチオン性セルロースのカチオン基が中和されてなる変性セルロースを除く)と
を含む樹脂組成物の製造方法であって、
水を主成分とする分散媒と、前記分散媒中に分散させた熱可塑性樹脂及びセルロースと、界面活性剤とを含む樹脂セルロース分散液を調製する第一の工程、
前記樹脂セルロース分散液を撹拌しながら加熱し、分散媒を除去して樹脂セルロース混合物を得る第二の工程、
第二の工程で得られた樹脂セルロース混合物を溶融混練して樹脂組成物を得る第三の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の比率が、樹脂組成物100質量%に対して50〜99質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド6,6、又はこれらの混合物である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
第一の工程において、セルロースを分散媒中に分散させてセルロース分散液を得た後、前記セルロース分散液を熱可塑性樹脂に添加して前記樹脂セルロース分散液を得る、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
第一の工程においてセルロースと組合される熱可塑性樹脂の50質量%超がペレット形状である、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
第一の工程において得られる樹脂セルロース分散液100質量%中のセルロースの割合が、1〜30質量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
第二の工程の温度が、100℃以上、200℃未満である、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
第三の工程の少なくとも一部を大気圧未満の減圧状態で行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
第一〜第三工程を押出機で連続して実施する、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースが配合された樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種強化材料をコンポジットしたものが一般的に用いられている。
【0003】
近年、樹脂の新たな強化材料として、セルロースが用いられるようになってきている。
セルロースは、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率を示すが、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な強化材であるガラス(密度2.4〜2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比し圧倒的に軽い材料であり、ガラス繊維等に変わる樹脂用の補強材として注目されている。
【0004】
そのため、これまでセルロースを熱可塑性樹脂中に分散させる技術として、例えば特許文献1には、粉末状セルロースに親油性処理を施して可塑剤に均一分散させた混合物を得たのち、ポリオレフィンと溶融混練する技術が記載されている。また、特許文献2には、樹脂と、特殊な液体中で膨潤させた植物繊維と、有機液体とを混合する技術が記載されている。さらには特許文献3には、セルロース分散液を、特定粒子径の樹脂粉末と予め混合して得た該混合分散液から水を分離し、セルロース/樹脂混合物を得たのち、該混合物を溶融混練する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−104874号公報
【特許文献2】国際公開第2013/133093号
【特許文献3】特開2008−297364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、樹脂中にセルロースを配合するためには、セルロースを予め乾燥し粉末化する必要があるが、セルロースは水と分離する過程で微分散状態から強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある。この凝集力はセルロースが持つ水酸基による水素結合により発現されており、非常に強固であるといわれている。
【0007】
そのため、充分な性能を発現させるためには、セルロースに強いせん断等を与えて、1μm以下のサイズの繊維径まで解繊する必要がある。また、仮に解繊自体を充分に実現できたとしても、解繊された状態を樹脂中で維持することは困難であり、組成物中でもセルロースの均一分散性は充分とはいえないのが実情である。
【0008】
セルロースの樹脂組成物中での分散均一性が充分ではない場合、成形体の機械的強度の部位による違いを招くこととなり、得られる機械的特性は、非常にバラツキが大きなものとなる。この場合、成形体が、部分的に強度欠陥を有するものとなり、実製品としての信頼性を大幅に毀損してしまうこととなる。そのため、セルロースはその優れた特性を持ちつつも、実際には、実用に供されていないのが実情である。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決し、実用に耐えうる充分な物性安定性を有する樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、セルロース含有樹脂組成物を製造するにあたり、セルロースと熱可塑性樹脂とを、水を主成分とする分散媒中に予め分散させた混合物を形成し、これを加熱しながら撹拌して分散媒を除去した後、樹脂を溶融させ混練することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] 熱可塑性樹脂と、セルロースとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
水を主成分とする分散媒と、前記分散媒中に分散させた熱可塑性樹脂及びセルロースとを含む樹脂セルロース分散液を調製する第一の工程、
前記樹脂セルロース分散液を撹拌しながら加熱し、分散媒を除去して樹脂セルロース混合物を得る第二の工程、
第二の工程で得られた樹脂セルロース混合物を溶融混練して樹脂組成物を得る第三の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。
[2] 樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の比率が、樹脂組成物100質量%に対して50〜99質量%である、上記態様1に記載の樹脂組成物の製造方法。
[3] 熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらのいずれか2種以上の混合物からなる群より選択される、上記態様1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
[4] 熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂である、上記態様3に記載の樹脂組成物の製造方法。
[5] 前記ポリアミド系樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド6,6、又はこれらの混合物である、上記態様4に記載の樹脂組成物の製造方法。
[6] セルロースが、セルロースファイバー、セルロースウィスカー又はこれらの混合物である、上記態様1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[7] 第一の工程において、セルロースを分散媒中に分散させてセルロース分散液を得た後、前記セルロース分散液を熱可塑性樹脂に添加して前記樹脂セルロース分散液を得る、上記態様1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[8] 第一の工程においてセルロースと組合される熱可塑性樹脂の50質量%超がペレット形状である、上記態様1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[9] 第一の工程において得られる樹脂セルロース分散液100質量%中のセルロースの割合が、1〜30質量%である、上記態様1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[10] 第二の工程の温度が、100℃以上、200℃未満である、上記態様1〜9のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[11] 第三の工程の少なくとも一部を大気圧未満の減圧状態で行う、上記態様1〜10のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[12] 第一〜第三工程を押出機で連続して実施する、上記態様1〜11のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、樹脂成形体に充分な機械的特性と実用に耐えうる充分な物性安定性とを与える熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例及び比較例においてフェンダーの欠陥率の評価のために作製したフェンダーの形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0015】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂とセルロースとを含む樹脂組成物の製造方法である。本製造方法は、第一の工程、第二の工程及び第三の工程を含む。以下、順に説明する。
【0016】
≪第一の工程≫
本製造方法においては、熱可塑性樹脂及びセルロースを、水を主成分とする分散媒中に分散させた樹脂セルロース分散液を調製する第一の工程が必要である。
【0017】
(熱可塑性樹脂)
本発明において使用される熱可塑性樹脂としては、100℃〜350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100〜250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂が挙げられる。
【0018】
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0019】
ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
【0020】
本発明で好適に使用可能な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
これらの中でもポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい樹脂であり、特に、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)やアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるエチレンなどα−オレフィンの共重合体等が挙げられる。
【0023】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、更により好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、更により好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を下回らないことが望ましい。
【0024】
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。この際の酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等のポリカルボン酸、から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。セルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0025】
酸変性されたポリプロピレンの、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定したときの好ましいメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から好ましい上限は500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に酸変性されたポリプロピレンが存在しやすくなるという利点を享受できる。
【0026】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂の例示としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等のジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C、及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体、一例としてポリアミド6,T/6,I等の共重合体が挙げられる。
【0027】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましく、ポリアミド6及びポリアミド6,6は特に好ましい。
【0028】
本発明における熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETと称することもある)、ポリブチレンサクシネート(脂肪族多価カルボン酸と脂肪族ポリオールとからなるポリエステル樹脂(以下、単位PBSと称することもある)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、単にPBSAと称することもある)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、単にPBATと称することもある)、ポリヒドロキシアルカン酸(3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂。以下、単にPHAと称することもある)、ポリ乳酸(以下、単にPLAと称することもある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、単にPBTと称することもある)、ポリエチレンナフタレート(以下、単にPENと称することもある)、ポリアリレート(以下、単にPARと称することもある)、ポリカーボネート(以下、単にPCと称することもある)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、PENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、PBTが挙げられる。
【0030】
本発明における熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)量としては0.01〜4モル%の範囲内がより好ましい。コモノマー成分量の好ましい下限量は、0.05モル%であり、より好ましくは0.1モル%であり、更により好ましくは0.2モル%である。また好ましい上限量は、3.5モル%であり、更に好ましくは3.0モル%であり、更により好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。
【0031】
押出加工や成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点から、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0032】
本発明においては、第一の工程においてセルロースと組合される熱可塑性樹脂100質量%中、ペレット形状にある熱可塑性樹脂の比率(ペレット比率)が50質量%超であることが望ましい。ペレット比率の下限は、より好ましくは70質量%、更により好ましくは80質量%、特に好ましくは、90質量%、最も好ましくは100質量%(すなわち実質的にすべてがペレット形状である事)である。第二の工程において樹脂セルロース分散液を撹拌しながら加熱して分散媒を除去する際のセルロースの凝集を抑制するためには、上述の範囲内にペレット比率を高めることが望ましい。
【0033】
(セルロース)
次に、本発明において使用されるセルロースは、いずれのものでも構わないが、樹脂組成物中に微分散させるためには、微細なセルロースであることが望ましい。より具体的には、セルロースが、セルロースファイバー、セルロースウィスカー又はこれらの混合物であることがより好ましい。
【0034】
本開示で、セルロースの「長さ」(L)及び「径」(D)は、例えばセルロースウィスカーにおいては長径及び短径に、またセルロースファイバーにおいては繊維長及び繊維径に、それぞれ相当する。セルロースウィスカー及びセルロースファイバーとしては、それぞれ、径がナノメートルサイズ(すなわち1μm未満)であるものが、伸張粘度を効果的に向上させる観点から好ましい。本発明で好適に使用可能なセルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々は、その径が500nm以下のものである。好ましいセルロースの径の上限は、450nmであり、より好ましくは400nmであり、更により好ましくは350nmであり、最も好ましくは300nmである。
【0035】
特に好ましい態様において、セルロースウィスカーの径は、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下、更に好ましくは400nm以下、更により好ましくは350nm以下であり、最も好ましくは300nm以下である。
【0036】
また、特に好ましい態様において、セルロースファイバーの径は、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは5nm以上であり、更により好ましくは10nm以上であり、特に好ましくは15nm以上であり、最も好ましくは20nm以上であり、好ましくは450nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下であり、更により好ましくは300nm以下であり、最も好ましくは250nm以下である。
【0037】
樹脂組成物の伸張粘度を効果的に向上させるためには、セルロースの径を上述の範囲内にすることが望ましい。
【0038】
本発明におけるセルロースウィスカーとは、パルプ等を原料とし、これを裁断後、塩酸や硫酸といった酸中でセルロースの非晶部分を溶解した後に残留する結晶質のセルロースを指す。
【0039】
また、セルロースファイバーは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊したセルロース、及び、粉砕等の強力な機械的解繊ではなくTEMPO酸化法や有機溶剤中でのセルロースファイバー水酸基の化変性により解繊されたセルロースファイバーを包含する。
【0040】
セルロースウィスカーの好ましい長さ/径比率(L/D比)は30未満である。セルロースウィスカーのL/D上限は、好ましくは25であり、より好ましくは20であり、更により好ましくは15であり、更により好ましくは10であり、最も好ましくは5である。下限は特に限定されないが、1を超えていればよい。樹脂組成物に適度な流動性を付与するためには、セルロースウィスカーのL/D比は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0041】
セルロースファイバーのL/D下限は、好ましくは30であり、より好ましくは50であり、より好ましくは80であり、更により好ましくは100であり、特に好ましくは120であり、最も好ましくは150である。上限は特に限定されないが、樹脂組成物の溶融粘度を高くし過ぎない観点から好ましくは1000以下である。
【0042】
本開示で、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)及び径(D)、並びに比(L/D)を算出することで確認が可能である。本開示のセルロースの長さ及び径とは、計100本のセルロースの数平均値である。セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出して、本開示の、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比とする。また、本開示において、セルロースウィスカーとセルロースファイバーとを、比(L/D)が30未満のものをセルロースウィスカー、30以上のものをセルロースファイバーと分類することで互いに区別することもできる。
【0043】
又は、組成物中のセルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、固体である組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
【0044】
又は、組成物中のセルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を調製し、セルロース濃度が0.1〜0.5質量%となるように純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだL/Dが30以上のセルロースファイバー100本以上と、L/Dが30未満のセルロースウィスカー100本以上の、合計200本以上での測定を行う。
【0045】
本発明で好適に使用可能なセルロースウィスカーは、結晶化度が55%以上のセルロースウィスカーである。結晶化度がこの範囲にあると、セルロースウィスカー自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高まるため、樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高くなる傾向にある。
【0046】
セルロースウィスカーの結晶化度は、好ましくは60%以上であり、より好ましい結晶化度の下限は65%であり、更により好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースウィスカーの結晶化度は高いほど好ましい傾向にあるので、上限は特に限定されないが、生産上の観点から99%が好ましい上限である。
【0047】
また、セルロースファイバーは、結晶化度が55%以上のセルロースファイバーが好適に使用可能である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロースファイバー自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高まるため、樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高くなる傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、更により好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースファイバーの結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0048】
セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの結晶化度は、これらセルロースの製造時の非晶部分の除去度合に左右されるが、非晶部分の除去度合が高くなるような製造条件においてはリグニン等の不純物の除去度合も高くなる。リグニン等の不純物の残存量が多いと、樹脂組成物の加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂組成物の変色を抑制する観点から、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0049】
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10〜30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]−[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%)=h1/h0×100
【0050】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、I型及びII型のセルロースは汎用されている一方、III型及びIV型のセルロースは実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本発明で用いるセルロースとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースを樹脂に分散させることによって線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂コンポジットが得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースがより好ましい。
【0051】
セルロースウィスカーの重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、好ましくは300以下、より好ましくは250以下である。また、セルロースファイバーの重合度は、好ましくは400以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは2500以下、より好ましくは2000以下である。押出成形における加工性と、成形体の機械的特性発現の観点から、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0052】
セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0053】
セルロースの重合度(すなわち平均重合度)を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、後記の押出工程等、機械的せん断を与える工程において、セルロース成分が機械処理を受けやすくなり、セルロース成分が微細化されやすくなる。
【0054】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα−セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液には、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0055】
(分散媒)
本発明におけるセルロース分散液中の分散媒は、水を主成分とする分散媒である。ここでいう、水を主成分とするとは、分散媒中に占める水の割合が50質量%以上である状態である。水以外の分散媒としては、例えば、水と相溶の有機溶剤、水と非相溶の有機溶剤、界面活性剤等が例示可能である。
【0056】
水と相溶の有機溶剤は、水とあらゆる組成範囲で混和する有機溶剤だけではなく、ある特定の組成範囲で混和する有機溶剤も包含する。具体例を挙げると、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルスルフォオキシド、酢酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
また、水に非相溶な有機溶剤とは、水に対する溶解度が1質量%以下で、ほとんど溶解しない有機溶剤を指す。具体例を挙げると、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
更に、界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0059】
陰イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(陰イオン)として、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム,アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等が挙げられ、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、高級アルコール系(陰イオン)として、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0060】
非イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(非イオン)として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂質、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられ、高級アルコール系(非イオン)としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0061】
両性イオン系界面活性剤としては、アミノ酸系として、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられ、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシド等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0062】
陽イオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩系として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0063】
界面活性剤は、油脂の誘導体であってよい。油脂としては、脂肪酸とグリセリンとのエステルが挙げられ、通常は、トリグリセリド(トリ−O−アシルグリセリン)の形態を取るものをいう。脂肪油で酸化を受けて固まりやすい順に乾性油、半乾性油、不乾性油と分類され、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができ、例えば以下のものを、1種又は2種以上併用して用いることができる。
【0064】
油脂としては、動植物油として、例えば、テルピン油、トール油、ロジン、白絞油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、硬化油(マーガリン、ショートニングなど)、ひまし油(植物油)等が挙げられる。
【0065】
特に好ましい態様において、界面活性剤は、ロジン誘導体、アルキルフェニル誘導体、ビスフェノールA誘導体、βナフチル誘導体、スチレン化フェニル誘導体、及び硬化ひまし油誘導体からなる群より選択される1種以上である。
【0066】
(樹脂セルロース分散液の調製)
第一の工程において、樹脂セルロース分散液は、水を主成分とする分散媒中にセルロースを分散させたセルロース分散液を予め調製し、該セルロース分散液を熱可塑性樹脂に添加する方法で調製することが好ましい。分散媒中のセルロースの分散性は、最終製品である成形体の物性安定性に影響を与える。上記方法は、分散媒中のセルロースの分散性を把握・管理しやすく、結果的に樹脂セルロース分散液中のセルロース径を安定化させることを可能にするという利点を有する。
【0067】
水を主成分とする分散媒中にセルロースを分散させたセルロース分散液は、種々の方法で得ることが可能である。具体例を挙げると、原料となるパルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊する方法、原料となるパルプ等を裁断し、塩酸や硫酸といった酸中で、セルロースの非晶部分を溶解したのち、中和する方法、原料パルプ等を粉砕、100℃以上の熱水等で処理し、脱水して得られたパルプを撹拌機で攪拌した後有機溶剤等の雰囲気下、ビーズミル等で解繊修飾した後、溶剤を水置換する方法等が挙げられる。
【0068】
また、上述のように調製されたセルロース分散液を、せん断条件下で乾燥処理し、粉末状セルロースとして取得した後、所望のセルロース濃度となるようブレンドし、分散媒とともに高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといったせん断を与える装置条件下でせん断を与え、再分散させる方法も好適に使用可能である。
【0069】
次いで、熱可塑性樹脂にセルロース分散液を添加することで、樹脂セルロース分散液を得ることができる。添加方法としては、押出機に熱可塑性樹脂をペレット、粉体等の形状(好ましくはペレット比率50質量%超)で供給した後、剪断条件下にある当該熱可塑性樹脂にセルロース分散液を添加して混練して樹脂セルロース分散液を得る方法を例示できる。
【0070】
第一の工程で得られる樹脂セルロース分散液の好ましい組成は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、セルロースが1〜70質量部、分散媒が1〜150質量部である。熱可塑性樹脂100質量部に対するセルロース量の下限は、より好ましくは2質量部、更により好ましくは3質量部、特に好ましくは4質量部である。またセルロース量の上限は、より好ましくは60質量部、更により好ましくは50質量部、特に好ましくは45質量部、最も好ましくは30質量部である。得られる樹脂組成物中のセルロースの分散性を高め、成形体の物性安定性を高めるためには、上述の範囲内が望まれる。また分散媒の下限量は、より好ましくは5質量部、更により好ましくは10質量部、更により好ましくは15質量部、最も好ましくは20質量部である。分散媒の上限量は、より好ましくは130質量部、更に好ましくは120質量部、更により好ましくは110質量部、最も好ましくは100質量部である。
【0071】
≪第二の工程≫
本製造方法においては、第一の工程に引き続いて実施される、樹脂セルロース分散液を撹拌しながら加熱して分散媒を除去して樹脂セルロース混合物を得る第二の工程が必要である。
【0072】
セルロースは、分散液中においては、安定的に微分散することが知られている。第二の工程においては、樹脂セルロース分散液を撹拌しながら加熱して分散媒を除去することで、セルロースを樹脂と摩擦させながら加熱し、分散媒を除去することができ、これにより、分散媒除去によるセルロースの凝集を大幅に抑制し、得られる樹脂組成物中でのセルロースの分散性を高めることが可能となる。したがって第二の工程は非常に重要である。
【0073】
上述のように、第二の工程には、樹脂セルロース分散液にせん断を与えながら、水を主成分とする分散媒を除去する役割がある。分散媒が水を主成分とすることから、第二の工程における加熱温度は、100℃以上、200℃未満であることが望ましい。上限は、より好ましくは180℃、更に好ましくは170℃、更により好ましくは160℃、最も好ましくは150℃である。下限は、より好ましくは105℃、更により好ましくは110℃、最も好ましくは115℃である。また上限温度は、用いる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、その融点以下であることが望ましい。また、第二の工程における加熱温度は、例えば、100℃−120℃−150℃−180℃のように、上述の温度範囲内で徐々に上昇させる(すなわち経時的な温度勾配を持たせる)ことが、セルロースの凝集抑制の観点から好ましい。
【0074】
≪第三の工程≫
本発明においては、第二の工程に引き続き、第二の工程で得られたセルロース樹脂混合物を溶融混練する第三の工程を設ける必要がある。
【0075】
第三の工程の温度は、熱可塑性樹脂及びセルロースの種類によって設定されるが、熱可塑性樹脂の溶融混練が可能な温度以上で、かつ熱可塑性樹脂及びセルロースの熱分解開始温度未満であることが望ましい。
【0076】
また、第三の工程においては、その工程の一部を大気圧未満の減圧状態とし、樹脂混練物から揮発成分や水蒸気を除去することがより好ましい。
【0077】
本発明の特に好ましい実施態様においては、第一〜第三工程を押出機で連続して実施する。使用可能な押出機としては、単軸押出機、二軸押出機、及び多軸押出機が挙げられる。これらの中でも特に二軸押出機が好ましく使用できる。さらには二軸押出機の中でも、シリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dが40以上の行程の長い二軸押出機がより好ましく使用できる。さらには押出機の上部に分散媒を除去可能なベントポートを複数設置可能な構造の押出機が最も好ましく使用可能である。
【0078】
押出機中で第一の工程を実施することで、セルロースに樹脂(好ましくはペレット)との摩擦という強いせん断を与えつつ、ほぼ瞬間的に分散媒中の水を除去することが可能となるため、得られる成形体の物性安定性を高めるほどの高いセルロース分散性を発現させることが可能となり、更には、全工程を1つのプロセスで実施できるため、経済的に優位とすることが可能である。
【0079】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物における、熱可塑性樹脂の好ましい比率は、40〜99質量%である。下限量は、より好ましくは50質量%であり、更により好ましくは60質量%、更により好ましくは70質量%、特に好ましくは80質量%、最も好ましくは90質量%である。上限量は、より好ましくは98質量%であり、最も好ましくは97質量%である。
【0080】
また、本発明では、上記した成分のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて付加的成分を添加しても構わない。これら付加的成分の添加量は、樹脂組成物合計量を100質量部としたとき15質量部を超えない範囲であることが望ましい。
【0081】
付加的成分の例としては、追加の熱可塑性樹脂、無機フィラー(タルク、カオリン、ゾノトライト、ワラストナイト、チタン酸カリウム、ガラス繊維など)、無機フィラーと樹脂との親和性を高める為の公知のシランカップリング剤、難燃剤(ハロゲン化された樹脂、シリコーン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、有機燐酸エステル化合物、ポリ燐酸アンモニウム、赤燐など)、滴下防止効果を示すフッ素系ポリマー、可塑剤(オイル、低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、着色用カーボンブラック等の着色剤、帯電防止剤、各種過酸化物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0082】
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂中にセルロースを高度に分散させることが可能となるため、得られる樹脂組成物の伸張粘度を向上させ、溶融状態で延伸がかかる材料等に使用可能である。具体的には、大型のシート成形、ブロー成形、真空成形及びインフレーション成形等で成形される、種々の大型部品用途に好適に使用可能である。もちろん、通常の射出成型品においても、セルロースの高い分散性によって安定した物性が得られるため、信頼性が要求される自動車外装材、シャーシ等の構造部材、内装部材、ギア等の駆動部材等に好適に使用可能である。
【実施例】
【0083】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0084】
[原料及び評価方法]
以下に、使用した原料及び評価方法について説明する。
≪熱可塑性樹脂≫
ポリアミド
ポリアミド6(以下、単にPAと称す。)
宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン 1013B」
【0085】
≪評価方法≫
<セルロースの重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
【0086】
<セルロースの結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
【0087】
<セルロースのL/D>
セルロースを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものの粒子像を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。粒子像の長径(L)及び短径(D)を計測し、更にこれらの値から比(L/D)を求め、100個〜150個の粒子の平均値として算出した。
【0088】
<セルロースの平均径>
セルロースを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、商品名「5DM−03−R」、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。次いで、固形分0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、更に、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)した。遠心後の上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、この値を平均径とした。
【0089】
<セルロース分散性>
樹脂組成物ペレットを、ISOの多目的試験片の形状に射出成形した後、該成形片の中央部を、高分解能3DX線顕微鏡(nano3DX:リガク社製)を用いて、X線管電圧40kV、管電流30mA条件、成形片中央部の600立方μmを対象に、CT測定を実施した。投影数は1000枚とし、露光時間は1枚当たり24秒とした。この時の空間分解能は0.54μm/ピクセルであった。得られたデータはOtsu法にて二値化し、組成物中に物体として検出された体積を、全体体積で除して、異物量として算出した。この場合、仮にセルロースを10体積%配合して、その半分が空間分解能以上の凝集体として組成物内に存在していた場合、5体積%が異物として計算されることとなる。
【0090】
<引張破断強度の変動係数>
ISO294−3に準拠した多目的試験片を用いて、ISO527に準拠して引張破断強度をn数15でそれぞれ測定し、得られた各データをもとに下式に基づき変動係数(CV)を計算した。
CV=(σ/μ)×100
ここで、σは標準偏差、μは引張破断強度の算術平均を表す。
【0091】
<フェンダーの欠陥率>
樹脂組成物ペレットを用いて、最大型締圧力4000トンの射出成形機のシリンダー温度を250℃に設定し、図1の概略図に示す形状を有するフェンダーを成形可能な所定の金型(キャビティー容積:約1400cm3、平均厚み:2mm、投影面積:約7000cm2、ゲート数:5点ゲート、ホットランナー:なお、図1中で、成形体のランナー位置を明確にするためにランナー(ホットランナー)の相対的な位置1を図示した。)を用い、金型温度を60℃に設定し、20枚のフェンダーを成形した。
得られたフェンダーを床に置き、5kgの砂を入れた袋を、約50cmの高さより、フェンダー中心部に落下させ、フェンダーの破壊状況を確認した。20枚中破壊された枚数を数えた。
【0092】
≪押出機の構成≫
シリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)のシリンダー3に液体注入ノズルを設置し、シリンダー1を水冷、シリンダー2〜4を80℃、シリンダー5を100℃、シリンダー6を130℃、シリンダー7を230℃、シリンダー8〜13及びダイスを250℃に設定した。
【0093】
スクリュー構成としては、シリンダー1〜4を搬送スクリューのみで構成される搬送ゾーンとし、シリンダー5及び6に、それぞれ上流側より3個の時計回りニーディングディスク(送りタイプニーディングディスク:以下、単にRKDと呼ぶことがある。)を配し、更に押出機上部にベントポートを設置し、分散媒を除去できるようにした。引き続いて、シリンダー7から8にかけて、3個のRKD、2個のニュートラルニーディングディスク(無搬送タイプニーディングディスク:以下、単にNKDと呼ぶことがある。)、1個の反時計回りニーディングディスク(逆送りタイプニーディングディスク:以下、単にLKDと呼ぶことがある。)を連続して配し溶融ゾーンとした。シリンダー9は搬送ゾーンとし、シリンダー10に1個のRKD、2個のNKD及び1個のLKDをこの順で連続して配し、溶融ゾーンとした後、シリンダー11〜13を搬送ゾーンとした。ここでシリンダー12で減圧吸引が可能とした。
【0094】
この押出機構成における本発明のそれぞれの工程を、理解を助けるために、以下に説明する。
例えば、シリンダー1より熱可塑性樹脂を供給し、シリンダー3よりセルロース分散液を添加した場合は、分散液添加後のシリンダー3及び4が本発明での第一の工程となる。また、シリンダー5及び6が、撹拌しながらの分散媒の除去となり、本発明での第二の工程となる。さらにはシリンダー8以降が樹脂セルロース混合物を溶融混練するゾーンであり、本発明での第三の工程となる。
【0095】
[調製例1]セルロースファイバー分散液の調製
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾し、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いて更に1.5時間叩解を実施し、セルロースファイバーを得た。得られたセルロースファイバーの特性を上述の方法で評価した。結果を下記に示す。
L/D=300
平均繊維径=90nm
結晶化度=80%
重合度=600
得られたセルロースファイバー分散液を遠心濾過して、固形分(セルロース)率が5重量%の分散液を得た。
【0096】
[調製例2]セルロースウィスカー分散液の調製
市販DPパルプ(平均重合度1600)を裁断し、10%塩酸水溶液中で、105℃で30分間加水分解した。得られた酸不溶解残さを濾過、洗浄、pH調整し、固形分濃度14重量%、pH6.5のセルロースウィスカー分散液を調製した。得られたセルロースウィスカーの特性を上述の方法で評価した。結果を下記に示す。
L/D=1.6
平均径=200nm
結晶化度=78%
重合度=200
【0097】
[調製例3]セルロースウィスカー界面活性剤分散液の調製
調製例2で調製したセルロースウィスカー分散液100質量部に対し、水以外の分散媒として界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル(青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW−20)を、4質量部添加し、撹拌して、セルロースウィスカー界面活性剤分散液を調製した。セルロースウィスカーの特性は調製例2と同じである。
【0098】
[調製例4]PA粉体の調製
PAペレットを、液体窒素で冷却しながら、リンレックスミルを用いて凍結粉砕し、平均粒子径が約200μmのPA粉体を得た。
【0099】
[実施例1]
<工程1>樹脂セルロース分散液を調製する工程
調製例4で得られたPA粉体100質量部に対し、調製例1で得られたセルロースファイバー分散液110質量部を添加し、攪拌機で混合して、樹脂セルロース分散液を調製した。
<工程2>分散液を撹拌しながら加熱して、分散媒を除去し、樹脂セルロース混合物を得る工程
工程1の樹脂セルロース分散液を、密閉式プラネタリーミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT」、撹拌羽根はフック型)中、70rpmで80分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、−0.1MPaの減圧条件で、60℃の温浴をセットし、307rpmで5時間、減圧乾燥処理を行い、樹脂セルロース混合物を得た。
<工程3>樹脂セルロース混合物を溶融混練する工程
樹脂セルロース混合物を、押出機のシリンダー1より15kg/hの量で供給し、溶融混練を実施し、セルロースファイバー含有量5質量%の樹脂組成物ペレットを得た。なお、この際は、シリンダー3からセルロース分散液は添加しなかった。この場合において、押出機は第三の工程となる。
【0100】
[実施例2]
<工程1>樹脂セルロース分散液を調製する工程
調製例4で得られたPA粉体100質量部に対し、調製例1で得られたセルロースファイバー分散液21質量部、及び調製例2で得られたセルロースウィスカー30質量部を添加し、攪拌機で混合して、樹脂セルロース分散液を調製した。
<工程2>分散液を撹拌しながら加熱して、分散媒を除去し、セルロース樹脂混合物を得る工程
実施例1の工程2と同様に実施した。
<工程3>樹脂セルロース混合物を溶融混練する工程
実施例1の工程3と同様に実施し、セルロースファイバー含有量1質量%、セルロースウィスカー含有量4質量%の樹脂組成物ペレットを得た。
【0101】
[実施例3]
<工程1>樹脂セルロース分散液を調製する工程
押出機のシリンダー1より、調製例4で得られたPA粉体を、14.3kg/hで供給し、シリンダー3より、調製例1で得られたセルロースファイバー分散液を15kg/hの量で添加し、押出機内のシリンダー3及び4の部分で混合して、樹脂セルロース分散液を調製した。この時、押出機の回転数は撹拌効率を高めるため、500rpmとした。
<工程2>分散液を撹拌しながら加熱して、分散媒を除去し、樹脂セルロース混合物を得る工程
工程1に相当するシリンダー3及び4において調製した樹脂セルロース分散液から、第二工程に相当するシリンダー5及び6において、分散媒である水を除去し、樹脂セルロース混合物を得た。この時、押出機上部のベントポートより、多量の水蒸気が発生していた。
<工程3>樹脂セルロース混合物を溶融混練する工程
工程2で得られた樹脂セルロース混合物を、工程3に相当するシリンダー7以降にて、溶融混練し、セルロースファイバー含有量5質量%の樹脂組成物ペレットを得た。なお、この際、本工程において減圧状態とはしなかった。
【0102】
[実施例4]
工程1において、シリンダー3より添加するセルロース分散液を、調製例2で得られたセルロースウィスカーファイバー分散液5.3kg/hに変更した以外は、すべて実施例3と同様に実施し、溶融混練を実施し、セルロースウィスカー含有量5質量%の樹脂組成物ペレットを得た。
【0103】
[実施例5]
工程1において、シリンダー3より添加するセルロース分散液を、調製例1で得られたセルロースファイバー分散液と、調製例2で得られたセルロースウィスカーを、分散液中のセルロースファイバーとセルロースウィスカーの比率が2:8となるよう攪拌機で混合したセルロース混合分散液7.3kg/hに変更した以外は、すべて実施例3と同様に実施し、溶融混練を実施し、セルロースウィスカー含有量1質量%、セルロースウィスカー含有量4質量%の樹脂組成物ペレットを得た。
【0104】
[実施例6]
工程1において、シリンダー1より添加するPAを、PA粉体50質量%とPAペレット50質量%の混合物に変更した以外は、すべて実施例5と同様に実施した。なお、この時PAの供給性を均一にするため、2台のロスインウェイト式フィーダーを用いて、定量的に供給した。
【0105】
[実施例7]
工程1において、シリンダー1より添加するPAを、PA粉体20質量%とPAペレット80質量%の混合物に変更した以外は、すべて実施例5と同様に実施した。
【0106】
[実施例8]
工程1において、シリンダー1より添加するPAを、PAペレットのみに変更した以外は、すべて実施例5と同様に実施した。
【0107】
[実施例9]
工程3において、その一部のシリンダー12を減圧状態とした以外は、すべて実施例8と同様に実施した。
【0108】
[実施例10]
工程1において、シリンダー1より添加するPAの量を14.1kg/hとし、シリンダー3より添加するセルロース分散液を、調製例3で得られたセルロースウィスカー界面活性剤分散液4.9kg/hとした以外はすべて実施例9と同様に実施した。
【0109】
[比較例1]
<工程A>樹脂セルロース分散液を調製する工程
調製例4で得られたPA粉体100質量部に対して、調製例1で調製したセルロースファイバー分散液105質量部を混合し、これを遠心濾過し、樹脂とセルロースファイバーの合計量が60質量%の樹脂セルロース分散液を調製した。
<工程B>分散液を撹拌することなく加熱して、分散媒を除去し、樹脂セルロース混合物を得る工程
上記工程Aで得られた樹脂セルロース分散液を、80℃に設定した真空乾燥機を用いて乾燥し、樹脂セルロースファイバー乾燥物を得た。乾燥物は、塊の状態を呈していたため、これを、容積10リットルのヘンシェルミキサー中を用いて、5分間粉砕処理を実施し、パウダー状の樹脂セルロースファイバー混合物を得た。
<工程C>樹脂セルロース混合物を溶融混練する工程
上記工程Bで得られた樹脂セルロース混合物を、押出機のシリンダー1より15kg/hの量で供給し、溶融混練を実施し、セルロースファイバー含有量5質量%の樹脂組成物ペレットを得た。なお、この際は、シリンダー3からセルロース分散液は添加しなかった。
【0110】
[比較例2]
<工程A>分散液を撹拌しながら加熱して、分散媒を除去し、セルロースファイバー粉体を得る工程
調製例1で得られたセルロースファイバー分散液を、実施例1の工程2と同様に、密閉式プラネタリーミキサー中、70rpmで80分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、−0.1MPaの減圧条件で、60℃の温浴をセットし、307rpmで5時間、減圧乾燥処理し、セルロースファイバー粉体を得た。
<工程B>セルロースファイバー粉体とPA粉体とを溶融混練する工程
PAペレット100質量部に対し、上記工程Aで得られたセルロースファイバー粉体5.25質量部をドライブレンドし、押出機のシリンダー1より15kg/hの量で供給し、溶融混練を実施し、セルロースファイバー含有量5質量%の樹脂組成物ペレットを得た。なお、この際は、シリンダー3からセルロース分散液は添加しなかった。
【0111】
[比較例3]
<工程A>分散液を撹拌しながら加熱して、分散媒を除去し、セルロース混合物粉体を得る工程
調製例1で得られたセルロースファイバー分散液100質量部に対し、調製例2で得られたセルロースウィスカー分散液143質量部を混合し、攪拌機で撹拌し、セルロース混合物分散液を調製した。この分散液を比較例2と同様に、減圧乾燥処理し、セルロース混合物粉体を得た。
<工程B>セルロース混合物粉体とPAペレットとを溶融混練する工程
PAペレット100質量部に対し、上記工程Aで得られたセルロース混合物粉体5.25質量部をドライブレンドし、押出機のシリンダー1より15kg/hの量で供給し、溶融混練を実施し、セルロース含有量5質量%の樹脂組成物ペレットを得た。なお、この際は、シリンダー3からセルロース分散液は添加しなかった。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
プラネタリーミキサーによる撹拌よりも、押出機中での撹拌を実施した方が、より高い分散性を呈し、成形品の欠陥率を大幅に抑制可能であることが判った。更に、熱可塑性樹脂としてのポリアミドの形状としては、粉体形状よりもペレット形状の方が微分散性や成形体での欠陥率の抑制に効果的であることが判る。一方、撹拌のない状態、若しくは、ポリアミドが共存しない環境下での乾燥を行った比較例においてはいずれも、良好な結果がは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物は、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の種々の用途の成形体に好適に適用され得る。
図1