(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
可動式ホーム柵は、鉄道駅のプラットホームに設置される安全設備であって、乗降客の線路への転落や走行列車との接触などの危険事象のリスクを低減する設備である。
可動式ホーム柵の1つに、可動扉を引戸とした引戸型の可動式ホーム柵がある。引戸型の可動式ホーム柵の設置構成としては、例えば、戸袋部に対して左側で可動扉が進退する左ドアタイプと、戸袋部に対して右側で可動扉が進退する右ドアタイプと、を乗降口の左右に配置して、可動扉を両開きにする構成がよく知られている。
【0003】
引戸型の可動式ホーム柵を設置する際には、可動扉の取り付け位置の調整が行われる。具体的には、乗降口を閉じた時に、左右の可動扉の先端の突き合わせにずれが生じないように、可動扉をスライド可能に支持する支持案内機構部に対する可動扉の取り付け位置および姿勢を調整する。こうした位置調整は、設置初期時のみならず、必要に応じて定期点検においても実施される。そのため、戸袋部に可動扉を取り付ける位置を調整するための構造を有した可動式ホーム柵が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、開口幅が大きい引戸型の可動式ホーム柵への需要が増大する傾向にある。開口幅が大きくなると、必然的に可動扉も長尺化し重量も増す。その結果、可動扉の位置調整、特に上下方向の傾きに係る位置調整は、可動扉を調整中に作業員が支えなければならないため、開口幅の増大にともなう作業負担の増加が著しい。もっとも、開口幅の大きさに関わらず、可動扉の位置調整は作業負担になっている。
【0006】
本発明は、戸袋部に対する可動扉の位置調整の作業性を向上させることを課題として考案された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、スライダーを扉開閉方向に案内するスライドガイドが固定された戸袋部と、前記スライダーに対して所定の位置調整範囲内で固定位置を変位自在に取り付けられた可動扉と、を備え、前記スライダーおよび前記可動扉のうちの一方が丸孔部を、他方がカム係合部を有し、前記丸孔部および前記カム係合部は、前記丸孔部に嵌合する円柱部と当該円柱部の先に前記カム係合部に係合するカム部とが一体となった治具が取り付け可能に構成された、可動式ホーム柵、である。
【0008】
第1の発明によれば、可動式ホーム柵に治具を取り付けると、スライダーと可動扉の何れか一方の丸孔部で治具が枢支され、他方のカム係合部と治具のカム部とが係合し、回転カム機構が構成される。作業員が、治具を丸孔部内で回転させるように調整操作すると、カム部とカム係合部との作用により可動扉がスライダーに対してカムリフト方向へ変位する。従って、作業員は、可動扉とスライダーとの締め付けを緩めた後に、治具を回転させて、所望する位置に可動扉を変位させ、再び締め付けをするだけでよい。従来に比べて、戸袋部に対する可動扉の位置調整の作業性が向上する。
【0009】
第2の発明は、前記治具が、着脱可能であり、前記カム係合部は、前記位置調整範囲内において、前記丸孔部を介して視認可能な位置に設けられている、第1の発明の可動式ホーム柵、である。
【0010】
第2の発明によれば、治具を差し込み/引き抜きで着脱することが可能となる。
【0011】
第3の発明は、前記丸孔部および前記カム係合部が、扉開閉方向に沿って2対設けられている、第1又は第2の発明の可動式ホーム柵である。
【0012】
また、第4の発明は、前記可動扉が、前記スライダーに対して戸先側および戸尻側の高さを前記位置調整範囲内で変位自在に取り付けられており、前記カム係合部に対する前記カム部のカム接触位置に応じて、前記スライダーに対する前記可動扉の戸先側および戸尻側の高さが変化する、第3の発明の可動式ホーム柵である。
【0013】
第3または第4の発明によれば、戸袋部に対する可動扉の相対的な傾斜を調整できるのみならず、傾斜を維持したまま可動扉を上下方向に移動させるような位置調整も可能になる。つまり、位置調整の自由度が高くなる。
【0014】
第5の発明は、前記戸袋部が、トラックガイドを有し、前記可動扉は、トラックランナー部を有し、前記トラックガイドは、前記位置調整範囲に係る上下の位置変化に対応する遊びを有して前記トラックランナー部を前記扉開閉方向にスライド可能に遊嵌する、第1〜第4の何れかの発明の可動式ホーム柵である。
【0015】
第5の発明によれば、治具を用いた可動扉の位置調整の影響を受けずに、スライドガイドとスライダーによる可動扉の支持案内に加えて、トラックガイドとトラックランナー部による扉開閉方向への第2の案内を実現し、扉開閉における可動扉の案内を強化できる。
【0016】
第6の発明は、第1〜第5の何れかの発明の可動式ホーム柵の前記丸孔部および前記カム係合部に対して、前記丸孔部に嵌合する円柱部と当該円柱部の先に前記カム係合部に係合するカム部とを備えた治具、である。
【0017】
第6の発明によれば、第1〜第5の何れかの発明と同様の効果を得るための治具を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られないことは勿論である。
【0020】
図1は、プラットホーム側から見た可動式ホーム柵の内部構造の例を示す内部構造図である。なお、理解を容易にするために、可動扉の外装や、可動扉を扉開閉方向へ駆動する駆動部などの図示は省略している。
【0021】
可動式ホーム柵2は、引戸型の1枚の可動扉4を、プラットホームから線路側を見て戸袋部6の右方へ進退させて開閉する右ドアタイプである。可動扉4の戸尻側(
図1の左側)は、戸袋部6の支持案内機構で支持・案内される。戸袋部6は、支持案内機構として、可動扉4の上部を扉開閉方向へ案内する第1直動機構部10と、可動扉4の下部を案内する第2直動機構部20と、を有する。
【0022】
図2は、可動扉4の構成例を示す図であって、プラットホーム側から見た図である。なお、理解を容易にするために、可動扉の外装や可動扉を扉開閉方向へ駆動する駆動部との連結に係わる構造などは図示を省略している。
【0023】
可動扉4は、戸先側の扉部41と、戸尻側の上部連結腕部42および下部連結腕部43と、を有する。上部連結腕部42は、扉部41の戸尻側上部より扉開閉方向に沿って戸尻方向へ延出された構造部であって、第1直動機構部10に連結される。下部連結腕部43は、扉部41の戸尻側下部より扉開閉方向に沿って戸尻方向へ延出された構造部であって、第2直動機構部20に連結される。
【0024】
下部連結腕部43は、第2直動機構部20に連結するための固定ボルト用のネジ孔44を、扉開閉方向の戸先側と戸尻側それぞれに2つずつ合計4つ有する。また、下部連結腕部43は、戸先側のネジ孔44と、戸尻側のネジ孔44との間に、戸先側の戸先カム係合部45fと、戸尻側の戸尻カム係合部45rとが扉開閉方向に沿って設けられている。
【0025】
戸先カム係合部45fと戸尻カム係合部45rは、扉開閉方向に長い長孔であって、孔幅は後述する治具50のカム部53(
図5参照)が挿通可能に設定されている。
【0026】
図3は、戸袋部6の構成例を示す図であって、プラットホーム側から見た内部構造図である。なお、理解を容易にするために、プラットホーム側の外装部品や、可動扉4を駆動させるための駆動機構などの図示は省略している。
【0027】
第1直動機構部10は、扉開閉方向に沿って戸袋部6の内部に固定されたトラックガイド11と、当該トラックガイド内をスライド可能に遊嵌するトラックランナー部12と、を有する。
【0028】
図4は、第1直動機構部10を扉開閉方向に直交する縦断面で見た拡大断面図である。
トラックガイド11は、例えば、下面に扉開閉方向に沿った開口溝を有し、例えば、扉開閉方向に直交する縦断面で見ると下方に開口する矩形の内部空間を画成する金属製の引き抜き材で実現できる。
【0029】
トラックランナー部12は、トラックガイド11内に遊嵌して、トラックガイド11の長手方向に移動可能な部品である。具体的には、トラックランナー部12は、可動扉4の上部連結腕部42(
図2参照)に螺合・固定される軸ボルト121と、軸ボルト121を上下方向の回転軸としてその上端で枢支された転動ローラ122と、を有する。
【0030】
軸ボルト121の径は、トラックガイド11の開口溝の横幅(
図4における左右方向の幅)よりも小さく設定されている。転動ローラ122の径は、トラックガイド11の内部空間の横幅(
図4の左右方向の幅)よりも僅かに小さく設定されている。また、転動ローラ122の肉厚(
図4における上下方向の厚み)は、後述する治具50(
図5、
図6参照)による可動扉4の位置調整に伴う上下変位を許容できるだけの余地をトラックガイド11の内部空間に残すように、トラックガイド11の矩形内部空間の上下幅よりも小さく設定されている。
【0031】
よって、軸ボルト121をトラックガイド11の下面の開口溝に挿通させ、転動ローラ122をトラックガイド11の内部空間の内側面に接触・転動させことで、トラックランナー部12はトラックガイド11に案内されて扉開閉方向へ移動可能である。
【0032】
図3に戻って、第2直動機構部20は、戸袋部6の下部にて扉開閉方向に沿って固定された直線状のスライドガイド21と、当該ガイドに滑り軸受を介してスライド自在に係合するスライダー22と、を有する。第2直動機構部20は、可動扉4の荷重を支え、扉開閉方向へ可動扉4を平行移動させる直動の精度を維持する。
【0033】
スライダー22は、可動扉4の下部連結腕部43(
図2参照)を取り付けるための連結プレート221を有する。
【0034】
連結プレート221は、金属板であって、上部がスライダー22に固定されている。連結プレート221は、扉開閉方向の戸先側と戸尻側それぞれに2つずつ、合計4つの連結ボルト30(
図1参照)が挿通可能な連結用長孔223を有する。連結用長孔223は上下方向に長い長孔であり、連結用長孔223の長さが、スライダー22に対して可動扉4の固定位置を変位自在に取り付けられる位置調整範囲となる。
【0035】
また、連結プレート221は、戸先側の連結用長孔223と戸尻側の連結用長孔223との間に、扉開閉方向に沿って、戸先側の戸先丸孔部224fおよび戸尻側の戸尻丸孔部224rの2つの丸孔部を有する。
【0036】
戸先丸孔部224fと戸尻側の戸尻丸孔部224rは、同径の丸孔であって、扉開閉方向に対して直交する横穴である。そして、戸先丸孔部224fと戸尻丸孔部224rは、治具50(
図1参照)を枢支する軸受部として機能する。
【0037】
図5は、治具50の例を示す側面図である。
図6は、治具50の背面図である。
治具50は、工具係合部51と、円柱部52と、カム部53と、を有する。
【0038】
工具係合部51は、作業員が位置調整するための工具(例えば、スパナ、レンチなど)を係合させて当該治具を操作するための部位である。
【0039】
円柱部52は、当該治具を連結プレート221に枢支させるための軸となる部位である。円柱部52の長さは、連結プレート221の板厚を貫通できるように設定する。円柱部52の径は、戸先丸孔部224fと戸尻丸孔部224rの孔径と対応する。
【0040】
カム部53は、戸先カム係合部45fまたは戸尻カム係合部45rに挿入可能な突起部である。カム部53は、円柱部52よりも小径の円柱体であって、円柱部52の工具係合部51とは反対側に突設されている。カム部53は、円柱部52の中心軸からオフセットして突設されている。そのため、カム部53は、戸先カム係合部45fまたは戸尻カム係合部45rと係合することで回転カム機構を構成することとなる。
【0041】
図7は、戸袋部6に対する可動扉4の位置調整の作業の手順を説明するための透視図であって、
図1の状態からスライダー22に対する可動扉4の戸先側の高さを上げるように位置調整する例を示している。
図8は、
図7のスライダー22の周りの拡大透視図である。
【0042】
作業員は、可動扉4を戸袋部6から進出させた全閉状態にする。次に、作業員は、2つの治具50を、それぞれ戸先丸孔部224fと戸尻丸孔部224rへ差し込む。このとき、戸先丸孔部224fからは、位置調整範囲内において、丸孔越しに可動扉4の戸先カム係合部45fが視認可能な位置関係にある。同じく、戸尻丸孔部224rからは、位置調整範囲内において、丸孔越しに戸尻カム係合部45rが視認可能な位置関係にある。
【0043】
よって、作業員は、差し込む治具50のカム部53が、差し込む丸孔部の奥に露出している戸先カム係合部45fまたは戸尻カム係合部45rに係合できるように、治具50の向きを調整しつつ差し込みを行う。そして、作業員は、4本の連結ボルト30を緩めて、可動扉4とスライダー22との固定を解く。このとき、可動扉4の荷重は、治具50の円柱部52と、戸先丸孔部224fおよび戸尻丸孔部224rと、を介して第2直動機構部20によって支持されている。
【0044】
次に、作業員は、戸先カム係合部45fに挿入されている治具50の工具係合部51に工具を係合させ、円柱部52を軸にして、カム部53が現状よりも上方或いは下方へ移動するように回転操作する調整操作を行う(
図7の例では、反時計回りに回転操作)。
【0045】
カム部53は、その外側面を戸先カム係合部45fの内周面に摺接しつつ、戸先カム係合部45fとともに回転カム機構として機能する。この結果、可動扉4は、戸尻カム係合部45rに挿入された治具50の円柱部52を回転軸にしつつ、戸先カム係合部45fがリフトアップする。治具50の回転操作は、可動扉4が所望する傾斜角度になるまで実行される。
【0046】
このとき、可動扉4の位置調整に伴って、トラックランナー部12のトラックガイド11に対する相対位置と相対姿勢も変化する。しかし、前述のように、トラックガイド11とトラックランナー部12は、上下の位置変化に対応する遊びを有して遊嵌しているので、可動扉4の位置が調整されても第1直動機構部10としての機能を維持する。逆説的に言えば、トラックガイド11とトラックランナー部12との遊び量は、可動扉4の位置調整にともなう上下の位置変化を許容できる大きさにすると好適である。
【0047】
可動扉4が所望する位置に達すると、作業員は、連結ボルト30を締めて戸袋部6に可動扉4を固定する。そして、治具50を抜いて作業を終了する。治具50は、別の同型の可動式ホーム柵2での可動扉4の位置調整に流用できる。勿論、治具50を可動式ホーム柵2それぞれに個別備品として設けても良い。
【0048】
可動扉4の戸袋部6に対する位置調整は、
図7に示したように、戸先側の高さを変えることで戸袋部6に対する相対的な角度(上下傾斜角度)を変更するケースだけではない。戸先カム係合部45fに挿入された治具50はそのままに、戸尻カム係合部45rに挿入された治具50を回転操作して戸尻側の高さを変えることでスライダー22に対する戸尻側の取り付け角度を変更して、戸袋部6に対する相対的な角度(上下傾斜角度)を変更できる。また更に、両方の治具50を回転操作すれば、取り付け角度のみならず、可動扉4を上下に平行または略平行に移動させるような位置調整もできる。
【0049】
以上、本実施形態によれば、作業員は、従来の可動扉4の位置調整のように、作業員が可動扉4を支えたり、支持具を用意する必要が無い。可動扉4とスライダー22との締め付けを緩めた後に、治具50を回転させて、所望する位置に可動扉4を変位させ、再び締め付けをするだけでよい。従来に比べて、戸袋部に6対する可動扉4の位置調整の作業性が向上する。
【0050】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な形態は、上記実施形態に限らず、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0051】
例えば、上記実施形態では、可動扉4の固定構造と調整機構とを、可動扉4の戸尻側下部に設けた例を示したが、可動扉4の戸尻側上部に設けた構成でもよい。例えば、
図1の構成を上下に反転し、第1直動機構部10を戸袋部6の下部、第2直動機構部20を戸袋部6の上部に設けた構成も可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、戸先丸孔部224fと戸尻丸孔部224rとをスライダー22(連結プレート221)に設け、戸先カム係合部45fと戸尻カム係合部45rとを可動扉4に設ける構成としたが、これを逆にしてもよい。戸先丸孔部224fと戸尻丸孔部224rとを可動扉4に設け、戸先カム係合部45fと戸尻カム係合部45rとをスライダー22(連結プレート221)に設ける構成としてもよい。その場合、治具50の差し込み方向が上記実施形態とは反対となる。
【0053】
また、上記実施形態では、2つの治具50を同じ形状として説明したが、形状やカムリフトの設定を別々にしてもよい。例えば、戸先側を上下する調整が主であるならば、戸先カム係合部45fに挿入する治具50のカムリフトの設定を、戸尻カム係合部45rに挿入する治具50のそれよりもリフト量が大きくなるように設定してもよい。場合によっては、戸尻カム係合部45rに挿入する治具50のリフト量を「0」とし、単なる回転軸となるピンとする構成も可能である。
【0054】
また、カム機構の構成は、長孔(戸先カム係合部45fと戸尻カム係合部45r)と、回転軸からオフセットした円柱(カム部53)の構成に限らず、適宜設定可能である。例えば、長孔は、可動扉4の下部連結腕部43に対してカム部53の上面が下方より当接する面であれば、カムフォロワーとして機能するので適宜代替可能である。例えば、
図9に示すように、治具50Bが、工具係合部51と、円柱部52と、カム部53Bとを有する構成とする。カム部53Bは、円柱部52の外径よりも外側まで伸びる腕部531の外端部にカムローラ532を有する。そして、カムローラ532は、下部連結腕部43の下面に当接する。
【0055】
また、上記実施形態では、戸袋部6に対する可動扉4の上下の取り付け角度の調整に用いる例を示したが、戸袋部6に対する可動扉4の他の方向への位置調整に用いることもできる。